(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-07
(45)【発行日】2022-02-03
(54)【発明の名称】オレフィン重合体の製造方法および遷移金属錯体の保存方法
(51)【国際特許分類】
C08F 4/6592 20060101AFI20220127BHJP
C08F 10/00 20060101ALI20220127BHJP
C07F 7/00 20060101ALN20220127BHJP
C07F 17/00 20060101ALN20220127BHJP
【FI】
C08F4/6592
C08F10/00 510
C07F7/00 A
C07F7/00 Z
C07F17/00
(21)【出願番号】P 2017063078
(22)【出願日】2017-03-28
【審査請求日】2019-12-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】特許業務法人SSINPAT
(72)【発明者】
【氏名】溝渕 悠介
(72)【発明者】
【氏名】寺尾 浩志
(72)【発明者】
【氏名】松浦 貞彦
(72)【発明者】
【氏名】原田 勝好
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 浩司
【審査官】佐藤 貴浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-008719(JP,A)
【文献】特開平05-331218(JP,A)
【文献】特開2013-231096(JP,A)
【文献】特開平08-176220(JP,A)
【文献】特表2003-513115(JP,A)
【文献】特表2002-502894(JP,A)
【文献】特表2004-504419(JP,A)
【文献】特開2005-290098(JP,A)
【文献】特開平07-002918(JP,A)
【文献】特開2001-335591(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 4/00- 4/82
C08F 6/00-246/00
C07F17/00
C07F 7/00
C07F 5/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶媒に活性アルミナを接触させて溶媒中の不純物の一部または全部を除去する不純物除去工程、
遷移金属錯体と、アルミニウム原子の量に換算して前記遷移金属錯体中の遷移金属原子1モルに対し
20モル以下の割合の有機アルミニウムと、前記不純物除去工程を経た溶媒とを接触させる接触工程、および
前記接触工程を経た遷移金属錯体を含み、有機アルミニウムをアルミニウム原子換算で0.005mmol/L以上の濃度で含む溶液の存在下でオレフィンを重合する重合工程
を含
み、
前記遷移金属錯体は、遷移金属錯体(2)、遷移金属錯体(3)および遷移金属錯体(4)から選択され、
前記遷移金属錯体(2)は、下記一般式[A2]で表される化合物であり、
【化1】
〔式[A2]中、R
1
、R
2
、R
3
、R
4
、R
5
、R
6
、R
11
、R
12
、R
13
、R
14
、R
15
およびR
16
は、それぞれ独立に、水素原子、炭化水素基、ハロゲン含有基、酸素含有基、窒素含有基、ホウ素含有基、硫黄含有基、リン含有基、ケイ素含有基、ゲルマニウム含有基およびスズ含有基から選ばれ、同一でも互いに異なっていてもよく、また隣接する2個の基が互いに連結して環を形成してもよい。
Yは、二価の基であって、炭素数1~20の炭化水素基、およびケイ素含有基から選ばれる基である。
Mは、ZrまたはHfである。
Xは、それぞれ独立に、ハロゲン原子または炭化水素基である。〕
前記遷移金属錯体(3)は、下記一般式[A3]で表される化合物であり、
【化2】
〔式[A3]中、R
1
、R
2
、R
3
、R
4
、R
5
、R
6
、R
7
、R
8
、R
9
、R
10
、R
11
、R
12
、R
13
およびR
14
はそれぞれ独立に水素原子、炭化水素基、ヘテロ原子含有炭化水素基またはケイ素含有基であり、R
1
からR
4
までの置換基のうち、任意の2つの置換基は互いに結合して環を形成していてもよく、R
5
からR
12
までの置換基のうち、任意の2つの置換基は互いに結合して環を形成していてもよく、R
13
とR
14
とは互いに結合して環を形成していてもよい。
Yは炭素原子またはケイ素原子である。
MはZrまたはHfである。
jは1~4の整数である。
Qはハロゲン原子または炭化水素基である。jが2以上の整数であるとき、Qは同一または異なる組合せで選んでもよい。〕
前記遷移金属錯体(4)は、下記一般式[A4]で表される化合物である
【化3】
〔式[A4]中、R
1
、R
2
、R
3
、R
4
、R
5
、R
6
、R
7
、R
8
、R
9
、R
10
、R
11
、R
12
、R
13
、R
14
、R
15
およびR
16
はそれぞれ独立に水素原子、炭化水素基、ヘテロ原子含有炭化水素基またはケイ素含有基であり、R
1
からR
16
までの置換基のうち、任意の2つの置換基は互いに結合して環を形成していてもよい。
MはZrまたはHfである。
jは1~4の整数である。
Qはハロゲン原子または炭化水素基である。jが2以上の整数であるとき、Qは同一または異なる組合せで選んでもよい。〕
オレフィン重合体の製造方法。
【請求項2】
前記接触工程において、前記遷移金属錯体と前記有機アルミニウムと前記溶媒とを接触させた後、得られた溶液を1時間以上保存する請求項1に記載のオレフィン重合体の製造方法。
【請求項3】
前記重合工程において、重合器内に、前記接触工程を経た遷移金属錯体および有機アルミニウムを含む溶液と、さらなる有機アルミニウムとを添加して前記溶液を調製する請求項1または2に記載のオレフィン重合体の製造方法。
【請求項4】
溶媒に活性アルミナを接触させて溶媒中の不純物の一部または全部を除去する不純物除去工程、および
遷移金属錯体を、アルミニウム原子の量に換算して前記遷移金属錯体中の遷移金属原子1モルに対し
20モル以下の割合の有機アルミニウムと、前記不純物除去工程を経た溶媒とを含む溶液の中で保存する保存工程
を含
み、
前記遷移金属錯体は、遷移金属錯体(2)、遷移金属錯体(3)および遷移金属錯体(4)から選択され、
前記遷移金属錯体(2)は、下記一般式[A2]で表される化合物であり、
【化4】
〔式[A2]中、R
1
、R
2
、R
3
、R
4
、R
5
、R
6
、R
11
、R
12
、R
13
、R
14
、R
15
およびR
16
は、それぞれ独立に、水素原子、炭化水素基、ハロゲン含有基、酸素含有基、窒素含有基、ホウ素含有基、硫黄含有基、リン含有基、ケイ素含有基、ゲルマニウム含有基およびスズ含有基から選ばれ、同一でも互いに異なっていてもよく、また隣接する2個の基が互いに連結して環を形成してもよい。
Yは、二価の基であって、炭素数1~20の炭化水素基、およびケイ素含有基から選ばれる基である。
Mは、ZrまたはHfである。
Xは、それぞれ独立に、ハロゲン原子または炭化水素基である。〕
前記遷移金属錯体(3)は、下記一般式[A3]で表される化合物であり、
【化5】
〔式[A3]中、R
1
、R
2
、R
3
、R
4
、R
5
、R
6
、R
7
、R
8
、R
9
、R
10
、R
11
、R
12
、R
13
およびR
14
はそれぞれ独立に水素原子、炭化水素基、ヘテロ原子含有炭化水素基またはケイ素含有基であり、R
1
からR
4
までの置換基のうち、任意の2つの置換基は互いに結合して環を形成していてもよく、R
5
からR
12
までの置換基のうち、任意の2つの置換基は互いに結合して環を形成していてもよく、R
13
とR
14
とは互いに結合して環を形成していてもよい。
Yは炭素原子またはケイ素原子である。
MはZrまたはHfである。
jは1~4の整数である。
Qはハロゲン原子または炭化水素基である。jが2以上の整数であるとき、Qは同一または異なる組合せで選んでもよい。〕
前記遷移金属錯体(4)は、下記一般式[A4]で表される化合物である
【化6】
〔式[A4]中、R
1
、R
2
、R
3
、R
4
、R
5
、R
6
、R
7
、R
8
、R
9
、R
10
、R
11
、R
12
、R
13
、R
14
、R
15
およびR
16
はそれぞれ独立に水素原子、炭化水素基、ヘテロ原子含有炭化水素基またはケイ素含有基であり、R
1
からR
16
までの置換基のうち、任意の2つの置換基は互いに結合して環を形成していてもよい。
MはZrまたはHfである。
jは1~4の整数である。
Qはハロゲン原子または炭化水素基である。jが2以上の整数であるとき、Qは同一または異なる組合せで選んでもよい。〕
遷移金属錯体の保存方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はオレフィン重合体の製造方法等に関し、より詳細には遷移金属錯体を触媒として利用したオレフィン重合体の製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
オレフィン重合体の製造方法としては、メタロセン化合物等の遷移金属錯体を触媒として使用した製造方法が知られており、このような製造方法がこれまで数多く報告されている(特許文献1~3など)。
【0003】
メタロセン化合物は、水分等と接触すると、次第に変質して触媒活性を発現できなくなってしまう。したがって、メタロセン化合物を溶媒(n-ヘキサン、トルエン等)に溶解させた状態で長時間放置すると、外部からの水分の混入などにより、触媒活性を発現できなくなってしまう。このため、溶媒に溶解させたメタロセン化合物を用いたオレフィンの重合においては、メタロセン化合物は、溶液状態に調整後あまり時間をおくことなくオレフィンの重合に供されている。
【0004】
一方、メタロセン化合物を用いてオレフィンを重合する際に、重合系内に極性物質等の不純物が存在すると、メタロセン化合物の触媒活性が妨げられてしまう。AlR3(トリイソブチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム等)は、このような不純物に対する捕捉剤(スカベンジャー)として知られ、しばしば重合系内に添加される(非特許文献1など)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2004/029062号
【文献】国際公開第2015/122414号
【文献】国際公開第2015/122415号
【非特許文献】
【0006】
【文献】ポリプロピレンハンドブック、(株)工業調査会、1998年発行、61頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
メタロセン化合物は従来、溶媒に溶解させた溶液状態において長期間、安定に保存することが難しかったが、長期間、安定に保存する技術が開発されたならば、メタロセン化合物をオレフィン重合の直前に溶液状態に調整する必要がなくなるため、オレフィン重合における自由度(調達計画等)が増し、その技術の利用価値は高い。
【0008】
したがって本発明は、オレフィン重合用触媒に利用されるメタロセン化合物等の遷移金属錯体をオレフィン重合の直前に溶液状態に調整することなく、高い触媒活性でオレフィン重合体を製造する方法を提供することを目的としている。
また本発明は、溶媒に溶解させたメタロセン化合物等の遷移金属錯体を、長期間、安定に保存することのできる保存方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために本発明者らは、まず、活性アルミナにより不純物を除去したn-ヘキサン中でメタロセン化合物等の遷移金属錯体を保存することを試みた。しかしながら、本明細書の比較例に示すように、この方法で保存した遷移金属錯体を用いてオレフィン重合を行ったところ、保存期間が長くなるにつれ遷移金属錯体の触媒活性が低下してしまった。つまり、遷移金属錯体を長期間、安定に保存できなかった。
【0010】
そこで本発明者らは、さらに鋭意研究した結果、有機アルミニウムを含む溶液の中で遷移金属錯体を長期間、安定に保存することができ、さらに、保存された溶液を用いてオレフィンを重合することにより、遷移金属錯体をオレフィン重合の直前に溶液状態に調整することなく、高い触媒活性でオレフィン重合体を製造できることを見い出し、本発明を完成させた。
【0011】
本発明の要旨は以下のとおりである。
[1]
遷移金属錯体と、アルミニウム原子の量に換算して前記遷移金属錯体中の遷移金属原子1モルに対し10,000モル以下の割合の有機アルミニウムと、溶媒とを接触させる接触工程、および
前記接触工程を経た遷移金属錯体を含み、有機アルミニウムをアルミニウム原子換算で0.005mmol/L以上の濃度で含む溶液の存在下でオレフィンを重合する重合工程
を含むオレフィン重合体の製造方法。
【0012】
[2]
前記接触工程において、前記遷移金属錯体と前記有機アルミニウムと前記溶媒とを接触させた後、得られた溶液を1時間以上保存する前記[1]のオレフィン重合体の製造方法。
【0013】
[3]
前記重合工程において、重合器内に、前記接触工程を経た遷移金属錯体および有機アルミニウムを含む溶液と、さらなる有機アルミニウムとを添加して前記溶液を調製する前記[1]または[2]のオレフィン重合体の製造方法。
【0014】
[4]
遷移金属錯体を、アルミニウム原子の量に換算して前記遷移金属錯体中の遷移金属原子1モルに対し10,000モル以下の割合の有機アルミニウムを含む溶液の中で保存する保存工程を含む、遷移金属錯体の保存方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明の製造方法によれば、オレフィン重合用触媒に利用されるメタロセン化合物等の遷移金属錯体をオレフィン重合の直前に溶液状態に調整することなく、高い触媒活性でオレフィン重合体を製造することができる。
また、本発明の保存方法によれば、遷移金属錯体を溶液状態において長期間、安定に保存することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
[オレフィン重合体の製造方法]
本発明のオレフィン重合体の製造方法は、接触工程および重合工程を含んでいる。
以下、各工程を説明する。
【0017】
〔接触工程〕
接触工程では、遷移金属錯体と、アルミニウム原子の量に換算して前記遷移金属錯体中の遷移金属原子1モルに対し10,000モル以下の割合の有機アルミニウムと、溶媒とを接触させる。
【0018】
<遷移金属錯体>
遷移金属錯体としては、特に制限はなく、たとえば従来公知のオレフィン重合用触媒に用いられる遷移金属錯体が挙げられる。
オレフィン重合用触媒に用いられる遷移金属錯体としては、たとえば以下の遷移金属錯体(1)~(9)が挙げられる。
【0019】
(遷移金属錯体(1))
遷移金属錯体(1)は、下記一般式[A1]で表される化合物である。
【0020】
【0021】
〈R
1
~R
8
〉
式[A1]中、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7およびR8は、それぞれ独立に水素原子、炭化水素基、ハロゲン含有基、酸素含有基、窒素含有基、ホウ素含有基、硫黄含有基、リン含有基、ケイ素含有基、ゲルマニウム含有基、およびスズ含有基から選ばれ、同一でも互いに異なっていてもよく、隣接する基が互いに結合して環を形成していてもよい。
【0022】
炭化水素基としては、たとえば、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アリール基およびアリールアルキル基が挙げられる。アルキル基としては、たとえばメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、ネオペンチル基、n-ヘキシル基、n-オクチル基、ノニル基、ドデシル基およびエイコシル基が挙げられる。シクロアルキル基としては、たとえばシクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、ノルボルニル基およびアダマンチル基が挙げられる。アルケニル基としては、たとえばビニル基、プロペニル基およびシクロヘキセニル基などが挙げられる。アリール基としては、たとえばフェニル基、トリル基、ジメチルフェニル基、トリメチルフェニル基、エチルフェニル基、プロピルフェニル基、ビフェニル基、α-またはβ-ナフチル基、メチルナフチル基、アントラセニル基、フェナントリル基、ベンジルフェニル基、ピレニル基、アセナフチル基、フェナレニル基、アセアントリレニル基、テトラヒドロナフチル基、インダニル基およびビフェニリル基が挙げられる。アリールアルキル基としては、たとえばベンジル基、フェニルエチル基およびフェニルプロピル基が挙げられる。
【0023】
〈Y〉
式[A1]において、Yは、二つの配位子を結合する二価の基であり、具体的には、二価の基であって、炭素数1~20の炭化水素基、ならびにハロゲン含有基、ケイ素含有基、ゲルマニウム含有基およびスズ含有基から選ばれる基であり、好ましくは、炭素数1~20の二価の炭化水素基、または二価のケイ素含有基である。
【0024】
二価の炭化水素基としては、アルキレン基、置換アルキレン基およびアルキリデン基が挙げられ、その具体例としては、
メチレン、エチレン、プロピレンおよびブチレンなどのアルキレン基;
イソプロピリデン、ジエチルメチレン、ジプロピルメチレン、ジイソプロピルメチレン、ジブチルメチレン、メチルエチルメチレン、メチルブチルメチレン、メチル-t-ブチルメチレン、ジヘキシルメチレン、ジシクロヘキシルメチレン、メチルシクロヘキシルメチレン、メチルフェニルメチレン、ジフェニルメチレン、ジトリルメチレン、メチルナフチルメチレン、ジナフチルメチレン、1-メチルエチレン、1,2-ジメチルエチレンおよび1-エチル-2-メチルエチレンなどの置換アルキレン基;ならびに
シクロプロピリデン、シクロブチリデン、シクロペンチリデン、シクロヘキシリデン、シクロヘプチリデン、ビシクロ[3.3.1]ノニリデン、ノルボルニリデン、アダマンチリデン、テトラヒドロナフチリデンおよびジヒドロインダニリデンなどのシクロアルキリデン基ならびにエチリデン、プロピリデンおよびブチリデンなどのアルキリデン基
が挙げられる。
【0025】
二価のケイ素含有基としては、
シリレン;ならびに
メチルシリレン、ジメチルシリレン、ジイソプロピルシリレン、ジブチルシリレン、メチルブチルシリレン、メチル-t-ブチルシリレン、ジシクロヘキシルシリレン、メチルシクロヘキシルシリレン、メチルフェニルシリレン、ジフェニルシリレン、ジトリルシリレン、メチルナフチルシリレン、ジナフチルシリレン、シクロジメチレンシリレン、シクロトリメチレンシリレン、シクロテトラメチレンシリレン、シクロペンタメチレンシリレン、シクロヘキサメチレンシリレンおよびシクロヘプタメチレンシリレンなどのアルキルシリレン基
が挙げられ、特に好ましくは、ジメチルシリレン基およびジブチルシリレン基などのジアルキルシリレン基が挙げられる。
【0026】
〈M〉
式[A1]において、Mは、第4族遷移金属であり、好ましくはTi、ZrまたはHfであり、より好ましくはZrまたはHfであり、特に好ましくはZrである。
【0027】
〈X〉
式[A1]において、Xは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基、ハロゲン含有炭化水素基、ケイ素含有基、酸素含有基、硫黄含有基、窒素含有基およびリン含有基から選ばれる原子または基であり、好ましくはハロゲン原子または炭化水素基である。ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素およびヨウ素が挙げられ、特に好ましくは塩素が挙げられる。
前記遷移金属錯体(1)の具体例としては、特開2013-224408号公報の[0077]に列挙された化合物が挙げられる。
【0028】
(遷移金属錯体(2))
遷移金属錯体(2)は、下記一般式[A2]で表される化合物である。
【0029】
【0030】
〈R
1
~R
6
、およびR
11
~R
16
〉
式[A2]中、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R11、R12、R13、R14、R15およびR16は、それぞれ独立に、水素原子、炭化水素基、ハロゲン含有基、酸素含有基、窒素含有基、ホウ素含有基、硫黄含有基、リン含有基、ケイ素含有基、ゲルマニウム含有基およびスズ含有基から選ばれ、同一でも互いに異なっていてもよく、また隣接する2個の基が互いに連結して環を形成してもよい。
【0031】
炭化水素基としては、上述した式[A1]においてR1~R8として挙げた炭化水素基が挙げられる。
R1~R6、およびR11~R16は、それぞれ独立に、好ましくは水素原子または炭化水素基であり、より好ましくは水素原子または炭素数1~20のアルキル基である。
【0032】
〈Y〉
式[A2]において、Yは、二つの配位子を結合する二価の基であり、具体的には、二価の基であって、炭素数1~20の炭化水素基、ならびにハロゲン含有基、ケイ素含有基、ゲルマニウム含有基およびスズ含有基から選ばれる基であり、好ましくは、炭素数1~20の二価の炭化水素基、または二価のケイ素含有基である。
これらの基としては、上述した式[A1]においてYとして挙げた二価の基が挙げられる。
【0033】
〈M〉
式[A2]において、Mは、第4族遷移金属であり、好ましくはTi、ZrまたはHfであり、より好ましくはZrまたはHfであり、特に好ましくはZrである。
【0034】
〈X〉
式[A2]において、Xは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基、ハロゲン含有炭化水素基、ケイ素含有基、酸素含有基、硫黄含有基、窒素含有基およびリン含有基から選ばれる原子または基であり、好ましくはハロゲン原子または炭化水素基である。ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素およびヨウ素が挙げられ、特に好ましくは塩素が挙げられる。
前記遷移金属錯体(2)の具体例としては、特開2013-224408号公報の[0071]に列挙された化合物が挙げられる。
【0035】
(遷移金属錯体(3))
遷移金属錯体(3)は、下記一般式[A3]で表される化合物である。
【0036】
【0037】
〈R
1
からR
14
〉
式[A3]中、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10、R11、R12、R13およびR14はそれぞれ独立に水素原子、炭化水素基、ヘテロ原子含有炭化水素基またはケイ素含有基であり、R1からR4までの置換基のうち、任意の2つの置換基は互いに結合して環を形成していてもよく、R5からR12までの置換基のうち、任意の2つの置換基は互いに結合して環を形成していてもよく、R13とR14とは互いに結合して環を形成していてもよい。
【0038】
R1からR14における炭化水素基としては、例えば、直鎖状炭化水素基、分岐状炭化水素基、環状飽和炭化水素基、環状不飽和炭化水素基、飽和炭化水素基が有する1または2以上の水素原子を環状不飽和炭化水素基に置換してなる基が挙げられる。炭化水素基の炭素数は、通常1~20、好ましくは1~15、より好ましくは1~10である。
【0039】
直鎖状炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デカニル基等の直鎖状アルキル基;アリル基等の直鎖状アルケニル基が挙げられる。
【0040】
分岐状炭化水素基としては、例えば、イソプロピル基、tert-ブチル基、tert-アミル基、3-メチルペンチル基、1,1-ジエチルプロピル基、1,1-ジメチルブチル基、1-メチル-1-プロピルブチル基、1,1-プロピルブチル基、1,1-ジメチル-2-メチルプロピル基、1-メチル-1-イソプロピル-2-メチルプロピル基等の分岐状アルキル基が挙げられる。
【0041】
環状飽和炭化水素基としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、メチルシクロヘキシル基等のシクロアルキル基;ノルボルニル基、アダマンチル基、メチルアダマンチル基等の多環式基が挙げられる。
【0042】
環状不飽和炭化水素基としては、例えば、フェニル基、トリル基、ナフチル基、ビフェニル基、フェナントリル基、アントラセニル基等のアリール基;シクロヘキセニル基等のシクロアルケニル基;5-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エニル基等の多環の不飽和脂環式基が挙げられる。
【0043】
飽和炭化水素基が有する1または2以上の水素原子を環状不飽和炭化水素基に置換してなる基としては、例えば、ベンジル基、クミル基、1,1-ジフェニルエチル基、トリフェニルメチル基等のアルキル基が有する1または2以上の水素原子をアリール基に置換してなる基が挙げられる。
【0044】
R1からR14におけるヘテロ原子含有炭化水素基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基、フェノキシ基等のアリールオキシ基、フリル基などの酸素原子含有炭化水素基;N-メチルアミノ基、N,N-ジメチルアミノ基、N-フェニルアミノ基等のアミノ基、ピリル基などの窒素原子含有炭化水素基;チエニル基などの硫黄原子含有炭化水素基が挙げられる。ヘテロ原子含有炭化水素基の炭素数は、通常1~20、好ましくは2~18、より好ましくは2~15である。ただし、ヘテロ原子含有炭化水素基からはケイ素含有基を除く。
【0045】
R1からR14におけるケイ素含有基としては、例えば、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、ジメチルフェニルシリル基、ジフェニルメチルシリル基、トリフェニルシリル基等の式-SiR3(式中、複数あるRはそれぞれ独立に炭素数1~15のアルキル基またはフェニル基である。)で表される基が挙げられる。
【0046】
R1からR14までの置換基のうち、任意の2つの置換基、例えば隣接した2つの置換基(例:R1とR2、R2とR3、R3とR4、R5とR6、R6とR7、R7とR8、R9とR10、R10とR11、R11とR12、R13とR14)は互いに結合して環を形成していてもよい。前記環形成は、分子中に2箇所以上存在してもよい。
【0047】
本明細書において、2つの置換基が互いに結合して形成された環(付加的な環)としては、例えば、脂環、芳香環、ヘテロ環が挙げられる。具体的には、シクロヘキサン環;ベンゼン環;水素化ベンゼン環;シクロペンテン環;フラン環、チオフェン環等のヘテロ環およびこれに対応する水素化ヘテロ環が挙げられ、好ましくはシクロヘキサン環;ベンゼン環および水素化ベンゼン環である。また、このような環構造は、環上にアルキル基等の置換基をさらに有していてもよい。
【0048】
R5、R8、R9およびR12は、好ましくは水素原子である。
R6、R7、R10およびR11は、好ましくは水素原子、炭化水素基、酸素原子含有炭化水素基または窒素原子含有炭化水素基であり、より好ましくは炭化水素基である。R6とR7が互いに結合して環を形成し、かつR10とR11が互いに結合して環を形成していてもよい。以上のようなフルオレニル基部分の構造としては、例えば、下式で表されるものが挙げられる。
【0049】
【化4】
R
13およびR
14は、好ましくは炭化水素基、ヘテロ原子含有炭化水素基またはケイ素含有基であり、さらに好ましくはアリール基または置換アリール基(ヘテロ原子含有炭化水素基またはケイ素含有基を有するアリール基)である。
【0050】
〈Y〉
式[A3]において、Yは炭素原子、ケイ素原子、ゲルマニウム原子またはスズ原子であり、好ましくは炭素原子である。
【0051】
〈M、Q、j〉
式[A3]において、Mは、第4族遷移金属であり、好ましくはTi、ZrまたはHfであり、より好ましくはZrまたはHfである。
【0052】
Qはハロゲン原子、炭化水素基、アニオン配位子または孤立電子対で配位可能な中性配位子であり、jが2以上の整数であるとき、Qは同一または異なる組み合わせで選ばれる。
【0053】
Qにおけるハロゲン原子としては、例えば、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素が挙げられる。
Qにおける炭化水素基としては、R1からR14における炭化水素基と同様の基が挙げられ、好ましくは直鎖状アルキル基、分岐状アルキル基等のアルキル基である。
【0054】
Qにおけるアニオン配位子としては、例えば、メトキシ、tert-ブトキシ等のアルコキシ基;フェノキシ等のアリールオキシ基;アセテート、ベンゾエート等のカルボキシレート基;メシレート、トシレート等のスルホネート基;ジメチルアミド、ジイソプロピルアミド、メチルアニリド、ジフェニルアミド等のアミド基が挙げられる。
【0055】
Qにおける孤立電子対で配位可能な中性配位子としては、例えば、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、ジフェニルメチルホスフィン等の有機リン化合物;テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジオキサン、1,2-ジメトキシエタン等のエーテルが挙げられる。
【0056】
Qは、少なくとも1つがハロゲン原子またはアルキル基であることが好ましい。
jは1~4の整数であり、好ましくは2である。jが2以上の整数であるとき、Qは同一または異なる組合せで選んでもよい。
【0057】
前記遷移金属錯体(3)の具体例としては、国際公開第2004/87775号の第29~43頁に列挙された化合物、国際公開第2006/25540号の第9~37頁に列挙された化合物、国際公開第2015/122414号の[0117]に列挙された化合物、国際公開第2015/122415号の[0143]に列挙された化合物が挙げられる。
【0058】
(遷移金属錯体(4))
遷移金属錯体(4)は、下記一般式[A4]で表される化合物である。
【0059】
【0060】
〈R
1
からR
16
〉
式[A4]中、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10、R11、R12、R13、R14、R15およびR16はそれぞれ独立に水素原子、炭化水素基、ヘテロ原子含有炭化水素基またはケイ素含有基であり、R1からR16までの置換基のうち、任意の2つの置換基は互いに結合して環を形成していてもよい。
【0061】
R1からR16における炭化水素基、ヘテロ原子含有炭化水素基およびケイ素含有基としては、上述した式[A3]におけるR1~R14として例示した炭化水素基、ヘテロ原子含有炭化水素基およびケイ素含有基が挙げられる。
【0062】
R1からR16までの置換基のうち、隣接した2つの置換基(例:R1とR2、R2とR3、R4とR6、R4とR7、R5とR6、R5とR7、R6とR8、R7とR8、R9とR10、R10とR11、R11とR12、R13とR14、R14とR15、R15とR16)が互いに結合して環を形成していてもよく、R4およびR5が互いに結合して環を形成していてもよく、R6およびR7が互いに結合して環を形成していてもよく、R1およびR8が互いに結合して環を形成していてもよく、R3およびR4が互いに結合して環を形成していてもよく、R3およびR5が互いに結合して環を形成していてもよい。前記環形成は、分子中に2箇所以上存在してもよい。
【0063】
本明細書において、2つの置換基が互いに結合して形成された環(付加的な環)としては、例えば、脂環、芳香環、ヘテロ環が挙げられる。具体的には、シクロヘキサン環;ベンゼン環;水素化ベンゼン環;シクロペンテン環;フラン環、チオフェン環等のヘテロ環およびこれに対応する水素化ヘテロ環が挙げられ、好ましくはシクロヘキサン環;ベンゼン環および水素化ベンゼン環である。また、このような環構造は、環上にアルキル基等の置換基をさらに有していてもよい。
【0064】
R1およびR3は、水素原子であることが好ましい。
R2は、炭化水素基、ヘテロ原子含有炭化水素基またはケイ素含有基であることが好ましく、炭化水素基であることがさらに好ましく、炭素数1~20の炭化水素基であることがより好ましく、アリール基ではないことがさらに好ましく、直鎖状炭化水素基、分岐状炭化水素基または環状飽和炭化水素基であることがとりわけ好ましく、遊離原子価を有する炭素(シクロペンタジエニル環に結合する炭素)が3級炭素である置換基であることが特に好ましい。
【0065】
R2としては、具体的には、メチル基、エチル基、イソプロピル基、tert-ブチル基、tert-ペンチル基、tert-アミル基、1-メチルシクロヘキシル基、1-アダマンチル基が例示でき、より好ましくはtert-ブチル基、tert-ペンチル基、1-メチルシクロヘキシル基、1-アダマンチル基等の遊離原子価を有する炭素が3級炭素である置換基であり、特に好ましくは1-アダマンチル基、tert-ブチル基である。
【0066】
R4は、前記遷移金属錯体(4)を下記一般式[A4']で表した場合に、水素原子であることが好ましい形態の一つである。
【0067】
【化6】
この場合、前記遷移金属錯体(4)は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、一般式[A4']で表される遷移金属錯体の全ての鏡像異性体、例えば一般式[A4'']で表される遷移金属錯体を包含する。
【0068】
【化7】
式[A4']および[A4'']の表記において、MQ
j部分が紙面手前に、架橋部が紙面奥側に存在するものとする。すなわち、これらの遷移金属錯体では、シクロペンタジエン環のα位(架橋部位が置換した炭素原子を基準とする)に、中心金属側に向いた水素原子(R
4)が存在する。
【0069】
一方、上述した一般式[A4]においては、MQj部分および架橋部が紙面手前に存在するのか、紙面奥側に存在するかは特定されていない。すなわち一般式[A4]で表される遷移金属化合物(A4)は、特定の構造の遷移金属化合物とその鏡像異性体とを包含している。
【0070】
R4、R5、R6およびR7から選ばれる少なくとも1つは、炭化水素基、ヘテロ原子含有炭化水素基またはケイ素含有基であることが好ましく、R4、R5が水素原子または炭化水素基であることがより好ましく、R5が直鎖状アルキル基、分岐状アルキル基等のアルキル基、シクロアルキル基またはシクロアルケニル基であることがさらに好ましく、炭素数1~10のアルキル基であることがとりわけ好ましい。また、また、合成上の観点からはR4、R5が共にアルキル基であることも好ましい形態の一つであり、炭素数1~10のアルキル基が特に好ましい。また同様に合成上の観点からは、R6およびR7は水素原子であることも好ましい。R5およびR7が互いに結合して環を形成していることがより好ましく、当該環がシクロヘキサン環等の6員環であることが特に好ましい。
【0071】
R8は、炭化水素基であることが好ましく、メチル基等のアルキル基であることが特に好ましい。
一般式[A4]において、フルオレン環部分は公知のフルオレン誘導体から得られる構造であれば特に制限されない。R9、R12、R13およびR16は、好ましくは水素原子である。
【0072】
R10、R11、R14およびR15は、好ましくは水素原子、炭化水素基、酸素原子含有炭化水素基または窒素原子含有炭化水素基であり、より好ましくは炭化水素基であり、さらに好ましくは炭素数1~20の炭化水素基であり、たとえば、2,7-ジ-tert-ブチルフルオレニル基、3,6-ジ-tert-ブチルフルオレニル基, 2,7-ジフェニル-3,6-ジ-tert-ブチルフルオレニル基が挙げられ、特に好ましくは2,7-ジ-tert-ブチルフルオレニル基である。
【0073】
R10とR11が互いに結合して環を形成し、かつR14とR15が互いに結合して環を形成していてもよい。このような置換フルオレニル基としては、例えば、ベンゾフルオレニル基、ジベンゾフルオレニル基、オクタヒドロジベンゾフルオレニル基、1,1,4,4,7,7,10,10-オクタメチル-2,3,4,7,8,9,10,12-オクタヒドロ-1H-ジベンゾ[b,h]フルオレニル基、1,1,3,3,6,6,8,8-オクタメチル-2,3,6,7,8,10-ヘキサヒドロ-1H-ジシクロペンタ[b,h]フルオレニル基、1',1',3',6',8',8'-ヘキサメチル-1'H,8'H-ジシクロペンタ[b,h]フルオレニル基が挙げられ、特に好ましくは1,1,4,4,7,7,10,10-オクタメチル-2,3,4,7,8,9,10,12-オクタヒドロ-1H-ジベンゾ[b,h]フルオレニル基が挙げられる。
【0074】
〈M、Q、j〉
式[A4]において、Mは、第4族遷移金属であり、好ましくはTi、ZrまたはHfであり、より好ましくはZrまたはHfであり、特に好ましくはZrである。
【0075】
Qはハロゲン原子、炭化水素基、アニオン配位子または孤立電子対で配位可能な中性配位子である。
Qにおけるハロゲン原子、炭化水素基、アニオン配位子および孤立電子対で配位可能な中性配位子としては、上述した式[A3]におけるハロゲン原子、炭化水素基、アニオン配位子および孤立電子対で配位可能な中性配位子として例示したものが挙げられる。
【0076】
jは1~4の整数であり、好ましくは2である。jが2以上の整数であるとき、Qは同一または異なる組合せで選んでもよい。
前記遷移金属錯体(4)の具体例としては、国際公開第2006/68308号の第11~15頁に列挙された化合物、国際公開第2014/50816号の[0075]-[0086]に列挙された化合物、特開2008/045008号の[0072]-[0084]に列挙された化合物が挙げられる。
【0077】
(遷移金属錯体(5))
遷移金属錯体(5)は、特表2000-516228号公報に記載された、下記一般式[A5]に相当する金属錯体である。
【0078】
【化8】
(式中、Mは、元素の周期律表の3-13族の1、ランタニド又はアクチニドからの金属であり、それは+2、+3又は+4形式酸化状態にあり、そして5個の置換基、即ちR
A、(R
B)
j-T(但し、jは0、1又は2である)、R
C、R
D及びZ(但し、R
A、R
B、R
C及びR
DはR基である)を有する環状の非局在化π-結合リガンド基である1個のシクロペンタジエニル(Cp)基にπ結合しており、さらに
Tは、jが1又は2であるとき、Cp環そしてR
Bに共有結合しているヘテロ原子であり、さらにjが0のとき、TはF、Cl、Br又はIであり;jが1のとき、TはO又はS、又はN又はPであり、そしてR
BはTへの二重結合を有し;jが2のとき、TはN又はPであり、さらに
R
Bは、それぞれの場合独立して、水素であるか、又はヒドロカルビル、ヒドロカルビルシリル、ハロゲン置換ヒドロカルビル、ヒドロカルビルオキシ置換ヒドロカルビル、ヒドロカルビルアミノ置換ヒドロカルビル、ヒドロカルビルシリルヒドロカルビル、ヒドロカルビルアミノ、ジ(ヒドロカルビル)アミノ、ヒドロカルビルオキシである1-80個の非水素原子を有する基であり、各R
Bは任意にそれぞれの場合独立して1-20個の非水素原子を有するヒドロカルビルオキシ、ヒドロカルビルシロキシ、ヒドロカルビルシリルアミノ、ジ(ヒドロカルビルシリル)アミノ、ヒドロカルビルアミノ、ジ(ヒドロカルビル)アミノ、ジ(ヒドロカルビル)ホスフィノ、ヒドロカルビルスルフィド、ヒドロカルビル、ハロゲン置換ヒドロカルビル、ヒドロカルビルオキシ置換ヒドロカルビル、ヒドロカルビルアミノ置換ヒドロカルビル、ヒドロカルビルシリル又はヒドロカルビルシリルヒドロカルビル又は1-20個の非水素原子を有する非干渉基である1個以上の基により置換されていてもよく;そして
R
A、R
C及びR
Dのそれぞれは、水素であるか、又はヒドロカルビル、ハロゲン置換ヒドロカルビル、ヒドロカルビルオキシ置換ヒドロカルビル、ヒドロカルビルアミノ置換ヒドロカルビル、ヒドロカルビルシリル、ヒドロカルビルシリルヒドロカルビルである1-80個の非水素原子を有する基であり、R
A、R
C及びR
Dのそれぞれは、任意にそれぞれの場合独立して1-20個の非水素原子を有するヒドロカルビルオキシ、ヒドロカルビルシロキシ、ヒドロカルビルシリルアミノ、ジ(ヒドロカルビルシリル)アミノ、ヒドロカルビルアミノ、ジ(ヒドロカルビル)アミノ、ジ(ヒドロカルビル)ホスフィノ、ヒドロカルビルスルフィド、ヒドロカルビル、ハロゲン置換ヒドロカルビル、ヒドロカルビルオキシ置換ヒドロカルビル、ヒドロカルビルアミノ置換ヒドロカルビル、ヒドロカルビルシリル又はヒドロカルビルシリルヒドロカルビルであるか、又は1-20個の非水素原子を有する非干渉基である1個以上の基により置換されていてもよく;又は任意に、R
A、R
B、R
C及びR
Dの2個以上は、互いに共有結合してそれぞれのR基について1-80個の非水素原子を有する1個以上の縮合環又は環系を形成し、1個以上の縮合環又は環系は、置換されていないか、又はそれぞれの場合独立して1-20個の非水素原子を有するヒドロカルビルオキシ、ヒドロカルビルシロキシ、ヒドロカルビルシリルアミノ、ジ(ヒドロカルビルシリル)アミノ、ヒドロカルビルアミノ、ジ(ヒドロカルビル)アミノ、ジ(ヒドロカルビル)ホスフィノ、ヒドロカルビルスルフィド、ヒドロカルビル、ハロゲン置換ヒドロカルビル、ヒドロカルビルオキシ置換ヒドロカルビル、ヒドロカルビルアミノ置換ヒドロカルビル、ヒドロカルビルシリル又はヒドロカルビルシリルヒドロカルビル、又は1-20個の非水素原子を有する非干渉基である1個以上の基により置換されており;
Zはσ結合を介してCp及びMの両者に結合している2価の基であり、Zは硼素であるか又は元素の周期律表の14族の一員であり、さらに窒素、燐、硫黄又は酸素からなり;
Xは、環状の非局在化π結合リガンド基であるリガンドの群を除く、60個以内の原子を有するアニオン性又はジアニオン性リガンド基であり;
X'は、それぞれの場合独立して20個以内の原子を有する中性のルイス塩基配位結合性化合物であり;
pは0、1又は2であり、そしてXがアニオン性リガンドであるときMの形式酸化状態より2少なく;Xがジアニオン性リガンドであるとき、pは1であり;そして
qは0、1又は2である。)
前記遷移金属錯体(5)の具体例としては、特表2000-516228号公報の35~99頁に列挙された化合物が挙げられる。
【0079】
(遷移金属錯体(6))
遷移金属錯体(6)は、特表2002-522551号公報に記載された、下記一般式[A6]に相当するアンサビス(μ-置換)周期律表4族金属及びアルミニウム化合物である。
【0080】
【化9】
(式中、L´はπ-結合した基であり、
Mは周期律表4族金属であり、
Jは窒素又は燐であり、
Zは2価の橋かけ結合基であり、
R´は不活性の1価のリガンドであり、
rは1又は2であり、
Xはそれぞれの場合独立してμ-橋かけ結合リガンド基を形成できるルイス塩基性リガンド基であり、所望により2個のX基は一緒に結合してもよく、そして
A´はそれぞれの場合独立して水素を除いて50個以内の原子のアルミニウム含有ルイス酸化合物であり、該化合物はμ-橋かけ結合基により金属錯体との付加物を形成し、所望により2個のA´基は一緒に結合しそれにより単一の2官能性ルイス酸含有化合物を形成してもよい。)
前記遷移金属錯体(6)の具体例としては、特表2002-522551号公報の[0025]~[0027]に列挙された化合物が挙げられる。
【0081】
(遷移金属錯体(7))
遷移金属錯体(7)は、特表2003-501433号公報に記載された、下記一般式[A7-1]、[A7-2]または[A7-3]に相当する金属錯体である。
【0082】
【化10】
(式中、Mは元素周期律表の3~13族ランタニド又はアクチニドの1つから選ばれる金属である;
Zはホウ素、又は元素周期律表の14族の1員をもち、且つ窒素、リン、硫黄又は酸素をもつ2価の基である;
Xは水素を算入せずに60以下の原子をもつアニオン性リガンド基であり、所望により2個のX基はいっしょになって2価のアニオン性リガンド基を形成している;
X'はそれぞれの場合独立に20以下の原子をもつ中性ルイス塩基リガンドである;
pは0~5の数であって、Mの形式酸化状態より2少ない;
qは0、1又は2である;
Eはケイ素又は炭素である;
R
A はそれぞれの場合独立に水素又はR
B である;
R
B はBR
C
2 であるか、又はヒドロカルビル、ヒドロカルビルシリル、ハロゲン置換ヒドロカルビル、ヒドロカルビルオキシ置換ヒドロカルビル、ジ(ヒドロカルビル)アミノ置換ヒドロカルビル、BR
C
2 -置換ヒドロカルビル、ヒドロカルビルシリルヒドロカルビル、ジ(ヒドロカルビル)アミノ、ヒドロカルバジイルアミノ、又はヒドロカルビルオキシ基であり、各R
B は水素を算入せずに1~18の原子をもち、そして所望により2個のR
B 基は共有結合して1以上の縮合環を形成していてもよい;
R
C はそれぞれの場合独立にヒドロカルビル、ハロゲン置換ヒドロカルビル、ヒドロカルビルオキシ置換ヒドロカルビル、ジヒドロカルビルアミノ置換ヒドロカルビル、ヒドロカルバジイルアミノ置換ヒドロカルビル、ヒドロカルビルシリル、ヒドロカルビルシリルヒドロカルビル、又はR
D である;
R
D はそれぞれの場合独立にジヒドロカルビルアミノ又はヒドロカルビルオキシ基で水素を算入せずに1~20の原子をもち、そして所望により単一のホウ素上の2個のR
D 基はいっしょになってホウ素に結合した両原子価をもつヒドロカルバジイルアミノ-、ヒドロカルバジイルオキシ-、ヒドロカルバジイルジアミノ-、又はヒドロカルバジイルオキシ-基を形成している;
但し少なくとも1の場合においてR
A はBR
C
2 、BR
C
2 -置換ヒドロカルビル基、及びそれらが合体した誘導体から選ばれると共に、少なくとも1のR
CはR
D である;
R
F はそれぞれの場合独立に水素、又はシリル、ヒドロカルビル、ヒドロカルビルオキシ及びそれらの組合せから選ばれる基であって、該R
F は30以下の炭素又はケイ素原子をもっている;そして xは1~8であるか、又は所望により(R
F
2 E)
x が-T'Z'-又は-(T'Z')
2 -であり、ここでT'はそれぞれの場合独立にホウ素又はアルミニウムであり、そしてZ'はそれぞれの場合独立に
【0083】
【化11】
であり;
R
1 はそれぞれの場合独立に水素、ヒドロカルビル基、トリヒドロカルビルシリル基、又はトリヒドロカルビルシリルヒドロカルビル基であり、該R
1 基は炭素を算入せずに20以下の原子をもち、そして2個のこれらR
1 基は所望によりいっしょになって環構造を形成していてもよい;そして
R
5 はR
1 又はN(R
1 )
2 である。)
前記遷移金属錯体(7)の具体例としては、特表2003-501433号公報の[0030]に列挙された化合物が挙げられる。
【0084】
(遷移金属錯体(8))
遷移金属錯体(8)は、下記一般式[A8]で表される化合物である。
【0085】
【0086】
〈M〉
式[A8]中、Mは周期表第4、5族の遷移金属原子を示し、好ましくは4族の遷移金属原子である。具体的には、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタルなどであり、より好ましくはチタン、ジルコニウム、ハフニウムであり、特に好ましくはチタンまたはジルコニウムである。
式[A8]においてNとMとを繋ぐ点線は、一般的にはNがMに配位していることを示すが、本発明においては配位していてもしていなくてもよい。
【0087】
〈m〉
式[A8]において、mは1~4の整数、好ましくは2~4の整数、さらに好ましくは2を示す。
【0088】
〈R
1
~R
5
〉
式[A8]において、R1~R5は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基、ヘテロ環式化合物残基、酸素含有基、窒素含有基、ホウ素含有基、イオウ含有基、リン含有基、ケイ素含有基、ゲルマニウム含有基、またはスズ含有基を示し、これらのうちの2個以上が互いに連結して環を形成していてもよい。
【0089】
ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素が挙げられる。
炭化水素基としては、上述した式[A3]におけるR1~R14として例示した炭化水素基が挙げられ、特に、
メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、t-ブチル基、ネオペンチル基、n-ヘキシル基などの炭素原子数1~30、好ましくは1~20の直鎖状または分岐状のアルキル基;
フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基、ターフェニル基、フェナントリル基、アントラセニル基などの炭素原子数6~30、好ましくは6~20のアリール基;
これらのアリール基にハロゲン原子、炭素原子数1~30、好ましくは1~20のアルキル基もしくはアルコキシ基、炭素原子数6~30、好ましくは6~20のアリール基もしくはアリーロキシ基などの置換基が1~5個置換した置換アリール基
が好ましい。
【0090】
R1としては、オレフィン重合触媒活性の観点および高分子量のオレフィン系重合体を与えるという観点から、炭素原子数1~20の直鎖状または分岐状の炭化水素基、炭素原子数3~20の脂環族炭化水素基、または炭素原子数6~20の芳香族炭化水素基から選ばれる基が好ましい。
【0091】
ヘテロ環式化合物残基としては、ピロール、ピリジン、ピリミジン、キノリン、トリアジンなどの含窒素化合物、フラン、ピランなどの含酸素化合物、チオフェンなどの含硫黄化合物などの残基、およびこれらのヘテロ環式化合物残基に炭素原子数が1~30、好ましくは1~20のアルキル基、アルコキシ基などの置換基がさらに置換した基などが挙げられる。
【0092】
酸素含有基としては、アルコシキ基、アリーロキシ基、エステル基、エーテル基、アシル基、カルボキシル基、カルボナート基、ヒドロキシ基、ペルオキシ基、カルボン酸無水物基などが挙げられる。
【0093】
窒素含有基としては、アミノ基、イミノ基、アミド基、イミド基、ヒドラジノ基、ヒドラゾノ基、ニトロ基、ニトロソ基、シアノ基、イソシアノ基、シアン酸エステル基、アミジノ基、ジアゾ基、アミノ基がアンモニウム塩となったものなどが挙げられる。
【0094】
ホウ素含有基としては、ボランジイル基、ボラントリイル基、ジボラニル基などが挙げられる。
イオウ含有基としては、メルカプト基、チオエステル基、ジチオエステル基、アルキルチオ基、アリールチオ基、チオアシル基、チオエーテル基、チオシアン酸エステル基、イソチアン酸エステル基、スルホンエステル基、スルホンアミド基、チオカルボキシル基、ジチオカルボキシル基、スルホ基、スルホニル基、スルフィニル基、スルフェニル基などが挙げられる。
【0095】
リン含有基としては、ホスフィド基、ホスホリル基、チオホスホリル基、ホスファト基などが挙げられる。
ケイ素含有基としては、シリル基、シロキシ基、炭化水素置換シリル基、炭化水素置換シロキシ基などが挙げられ、より具体的には、メチルシリル基、ジメチルシリル基、トリメチルシリル基、エチルシリル基、ジエチルシリル基、トリエチルシリル基、ジフェニルメチルシリル基、トリフェニルシリル基、ジメチルフェニルシリル基、ジメチル-t-ブチルシリル基、ジメチル(ペンタフルオロフェニル)シリル基などが挙げられる。炭化水素置換シロキシ基としては、トリメチルシロキシ基などが挙げられる。
ゲルマニウム含有基およびスズ含有基としては、前記ケイ素含有基のケイ素をゲルマニウムまたはスズに置換した基が挙げられる。
【0096】
〈R
6
〉
式[A8]において、R6は、水素原子、1級または2級炭素のみからなる炭素数1~4の炭化水素基、炭素数4以上の脂肪族炭化水素基、アリール基置換アルキル基、単環性または二環性の脂環族炭化水素基、芳香族炭化水素基およびハロゲン原子から選ばれる。これらのうち、オレフィン重合触媒活性の観点、高分子量のオレフィン系重合体を与えるという観点および重合時の水素耐性の観点から、炭素原子数4以上の脂肪族炭化水素基、アリール基置換アルキル基、単環性または二環性の脂環族炭化水素基および芳香族炭化水素基から選ばれる基であることが好ましく、より好ましくはt-ブチル基などの分岐型炭化水素基;ベンジル基、1-メチル-1-フェニルエチル基(クミル基)、1-メチル-1,1-ジフェニルエチル基、1,1,1-トリフェニルメチル基(トリチル基)などのアリール置換アルキル基;1位に炭化水素基を有するシクロヘキシル基、アダマンチル基、ノルボルニル基、テトラシクロドデシル基などの炭素数6~15の脂環族または複式環構造を有する脂環族炭化水素基が挙げられる。
【0097】
〈n〉
式[A8]において、nは、Mの価数を満たす数である。
【0098】
〈X〉
式[A8]において、Xは、水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基、酸素含有基、イオウ含有基、窒素含有基、ホウ素含有基、アルミニウム含有基、リン含有基、ハロゲン含有基、ヘテロ環式化合物残基、ケイ素含有基、ゲルマニウム含有基、またはスズ含有基を示し、nが2以上の場合は、Xで示される複数の基は互いに同一でも異なっていてもよく、またXで示される複数の基は互いに結合して環を形成してもよい。
ハロゲン原子および炭化水素基等の各基としては、上記R1~R5の説明で例示したものと同様のものが挙げられる。これらのうち、好ましくはハロゲン原子や炭化水素基である。
【0099】
(遷移金属錯体(9))
遷移金属錯体(9)は、下記一般式[A9]で表される化合物である。
【0100】
【0101】
〈M〉
式[A9]中、Mは周期表第4~11族の遷移金属原子を示し、具体的にはチタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、パラジウムなどであり、好ましくは4~7、10族の金属原子であり、具体的にはチタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、クロム、マンガン、ニッケルであり、より好ましくはチタン、ニッケルである。
式[A9]においてNとMとを繋ぐ点線は、一般的にはNがMに配位していることを示すが、本発明においては配位していてもしていなくてもよい。
【0102】
〈m〉
式[A9]において、mは、1~4の整数を示し、好ましくは2である。
【0103】
〈R
1
~R
5
〉
式[A9]において、R1~R5は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基、ヘテロ環式化合物残基、酸素含有基、窒素含有基、ホウ素含有基、イオウ含有基、リン含有基、ケイ素含有基、ゲルマニウム含有基、またはスズ含有基を示し、これらのうちの2個以上が互いに連結して環を形成していてもよい。
【0104】
ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素が挙げられる。
炭化水素基、ヘテロ環式化合物残基、酸素含有基、窒素含有基、ホウ素含有基、イオウ含有基、リン含有基、ケイ素含有基、ゲルマニウム含有基、およびスズ含有基としては、上述した式[A8]におけるR1~R5として例示したものが挙げられる。
【0105】
R1の好ましい態様は、芳香性を示す基であり、さらに好ましくは下記一般式[A9-1]で表わされるアリール基または置換基を有していてもよいピロールである。
【0106】
【化14】
一般式[A9-1]において、R
1A~R
1Eは互いに同一でも異なっていても、また互いに結合して環を形成していてもよく、水素原子、炭化水素基、ヘテロ環式化合物残基、酸素含有基、窒素含有基、ホウ素含有基、イオウ含有基、リン含有基、ケイ素含有基、ゲルマニウム含有基またはスズ含有基である。炭化水素基、ヘテロ環式化合物残基、酸素含有基、窒素含有基、ホウ素含有基、イオウ含有基、リン含有基、ケイ素含有基、ゲルマニウム含有基、およびスズ含有基としては、上述した式[A9]におけるR
1~R
5として例示したものが挙げられる。
【0107】
〈R
6
〉
式[A9]において、R6は、水素原子、1級または2級炭素のみからなる炭素数1~4の炭化水素基、炭素
数5以上の脂肪族炭化水素基、アリール基置換アルキル基、単環性または二環性の脂環族炭化水素基、芳香族炭化水素基およびハロゲン原子から選ばれる。
【0108】
R6としては、フェニル、ベンジル、ナフチル、アントラニルなどの炭素原子数6~30、好ましくは6~20のアリール基;
メチル、エチル、イソプロピル、イソブチル、sec-ブチル、ネオペンチルなどの炭素原子数が1~30、好ましくは1~20の直鎖状または分岐状(2級)のアルキル基;
シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、2-メチルシクロヘキシル、2,6-ジメチルシクロヘキシル、3,5-ジメチルシクロヘキシル、4-tert-ブチルシクロヘキシル、シクロへプチル、シクロオクチル、シクロドデシルなどの炭素原子数が3~30、好ましくは3~20の環状飽和炭化水素基
が好ましく、R6としては、フェニル、ベンジル、ナフチルなどの芳香族基、およびこれらの水素原子が置換された3,5-ジフルオロフェニル、3,5-ビストリフルオロメチルフェニルなどが特に好ましい。
【0109】
〈n〉
式[A9]において、nは、Mの価数を満たす数であり、具体的には0~5、好ましくは1~4、より好ましくは2である。
【0110】
〈X〉
式[A9]において、Xは、水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基、酸素含有基、イオウ含有基、窒素含有基、ホウ素含有基、アルミニウム含有基、リン含有基、ハロゲン含有基、ヘテロ環式化合物残基、ケイ素含有基、ゲルマニウム含有基、またはスズ含有基を示し、nが2以上の場合は、Xで示される複数の基は互いに同一でも異なっていてもよく、またXで示される複数の基は互いに結合して環を形成してもよい。
【0111】
ハロゲン原子および炭化水素基等の各基としては、上記R1~R5の説明で例示したものと同様のものが挙げられる。
前記遷移金属錯体(9)の具体例としては、特開2011-231291号公報の[0079]~[0088]に列挙された化合物が挙げられる。
【0112】
前記遷移金属錯体は、上述した遷移金属錯体(1)~(9)に限られるものではなく、これら以外にも、たとえば特開2008-163140号の[0007]、国際公開第2010/50256号の[0030]~[0051]、特開2010-150246号の[0016]、国際公開第2013/184579号の[0133]、特表2013-534934号公報の[0006]、特表2009-534517号公報の[0001]、特表2001-516776号公報の[0009]~[0017]に記載された遷移金属錯体を例示することができる。
【0113】
<有機アルミニウム>
前記有機アルミニウムの例としては、一般式:
Ra
mAl(ORb)nHpXq
(式中、RaおよびRbは、互いに同一でも異なっていてもよく、炭素数1から15、好ましくは1から4の炭化水素基を示し、
Xはハロゲン原子を示し、
mは0<m≦3、nは0≦n<3、pは0≦p<3、qは0≦q<3の数であり、かつm+n+p+q=3である)
で表される有機アルミニウム化合物が挙げられる。
【0114】
このような化合物として、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリ-n-ブチルアルミニウム、トリ-n-ヘキシルアルミニウム、トリ-n-オクチルアルミニウムなどのトリ-n-アルキルアルミニウム、
トリイソプロピルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリsec-ブチルアルミニウム、トリ-t-ブチルアルミニウム、トリ-2-メチルブチルアルミニウム、トリ-3-メチルヘキシルアルミニウム、トリ-2-エチルヘキシルアルミニウムなどのトリ分岐状アルキルアルミニウム、
トリシクロヘキシルアルミニウム、トリシクロオクチルアルミニウムなどのトリシクロアルキルアルミニウム、
トリフェニルアルミニウム、トリ(4-メチルフェニル)アルミニウムなどのトリアリールアルミニウム、
ジエチルアルミニウムハイドライド、ジイソプロピルアルミニウムハイドライド、ジイソブチルアルミニウムハイドライドなどのジアルキルアルミニウムハイドライド、
一般式(i-C4H9)xAly(C5H10)z(式中、x、y、zは正の数であり、z≦2xである。)で表されるイソプレニルアルミニウムなどのアルケニルアルミニウム、
イソブチルアルミニウムメトキシド、イソブチルアルミニウムエトキシドなどのアルキルアルミニウムアルコキシド、
ジメチルアルミニウムメトキシド、ジエチルアルミニウムエトキシド、ジブチルアルミニウムブトキシドなどのジアルキルアルミニウムアルコキシド、
エチルアルミニウムセスキエトキシド、ブチルアルミニウムセスキブトキシドなどのアルキルアルミニウムセスキアルコキシド、
一般式Ra
2.5Al(ORb)0.5などで表される平均組成を有する部分的にアルコキシ化されたアルキルアルミニウム、
ジエチルアルミニウムフェノキシド、ジエチルアルミニウム(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノキシド)などのアルキルアルミニウムアリーロキシド、
ジメチルアルミニウムクロリド、ジエチルアルミニウムクロリド、ジブチルアルミニウムクロリド、ジエチルアルミニウムブロミド、ジイソブチルアルミニウムクロリドなどのジアルキルアルミニウムハライド、
エチルアルミニウムセスキクロリド、ブチルアルミニウムセスキクロリド、エチルアルミニウムセスキブロミドなどのアルキルアルミニウムセスキハライド、
エチルアルミニウムジクロリドなどのアルキルアルミニウムジハライドなどの部分的にハロゲン化されたアルキルアルミニウム、
エチルアルミニウムジヒドリド、プロピルアルミニウムジヒドリドなどのアルキルアルミニウムジヒドリドおよびその他の部分的に水素化されたアルキルアルミニウム、
エチルアルミニウムエトキシクロリド、ブチルアルミニウムブトキシクロリド、エチルアルミニウムエトキシブロミドなどの部分的にアルコキシ化およびハロゲン化されたアルキルアルミニウム
などを例示することができる。また、上記一般式Ra
mAl(ORb)nHpXqで表される化合物に類似する化合物も使用することができ、例えば窒素原子を介して2以上のアルミニウム化合物が結合した有機アルミニウム化合物を挙げることができる。このような化合物として具体的には、(C2H5)2AlN(C2H5)Al(C2H5)2などを挙げることができる。
【0115】
これらの中でも、調達の容易さ、安価という観点からは、トリ-n-アルキルアルミニウム、トリ分岐状アルキルアルミニウム、トリシクロアルキルアルミニウム、トリアリールアルミニウム、ジアルキルアルミニウムハイドライド、ジアルキルアルミニウムハライド、アルキルアルミニウムジハイドライド、アルキルアルミニウムジハライドが好ましく、トリ-n-アルキルアルミニウム、トリ分岐状アルキルアルミニウムがより好ましく、トリ分岐状アルキルアルミニウムがさらに好ましい。
【0116】
また、トリ分岐状アルキルアルミニウムの中でも、アルミニウム化合物の安定性、メタロセン化合物への低変質性という観点からは、トリイソブチルアルミニウムが特に好ましい。
【0117】
<溶媒>
前記溶媒としては、前記遷移金属錯体および前記有機アルミニウムが可溶な溶媒が好ましい。また、前記溶媒としては、重合工程で使用される予定の溶媒が好ましい。
【0118】
溶媒の具体例としては、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、ドデカン、灯油などの脂肪族炭化水素、シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロペンタン、メチルシクロヘキサンなどの脂環族炭化水素、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素が挙げられ、特に好ましくは、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、シクロヘキサン、トルエンが挙げられる。
【0119】
遷移金属錯体を溶液状態で長期間、安定に保存し、以って高い触媒活性でオレフィン重合体を製造する観点からは、遷移金属錯体を保存する前に、予め溶媒に活性アルミナ等を接触させて溶媒中の不純物の一部または全部を除去しておくことが好ましい。
【0120】
<各成分の接触>
前記接触工程においては、前記遷移金属錯体と、前記有機アルミニウムと、前記溶媒とを接触させる。
【0121】
前記接触工程においては、通常、溶媒中で遷移金属錯体と有機アルミニウムとを接触させる操作(接触操作)が行われ、次いで得られた溶液が、次の重合工程に供されるまでの間、保存される。
【0122】
各成分を接触させる操作は、各成分を容器に任意の順序で添加することにより実施でき、たとえば容器に、遷移金属錯体および溶媒を添加し、次いで有機アルミニウムを添加し、必要に応じてさらに溶媒を添加することにより、実施することができる。各成分は、複数回に分けて添加してもよい。
【0123】
容器内の雰囲気は、各成分を添加する前に、窒素等の不活性ガスで置換しておくことが好ましい。
前記遷移金属錯体は、前記遷移金属錯体、前記有機アルミニウムおよび前記溶媒を接触させて得られる溶液中での濃度が、該遷移金属錯体中の遷移金属原子の濃度に換算して、通常1×10-10~1×10-1mol/L、好ましくは1×10-8~1×10-2mol/Lとなる量で使用される。
【0124】
また、前記有機アルミニウムは、有機アルミニウム中のアルミニウム原子の量に換算して前記遷移金属錯体中の遷移金属原子1モルに対し10,000モル以下、好ましくは1,000モル以下、より好ましくは200モル以下、さらに好ましくは199モル以下、特に好ましくは20モル以下となる量で使用される。
【0125】
前記有機アルミニウムの量が上記範囲よりも多すぎると、遷移金属錯体が有機アルミニウムと反応して変質してしまう可能性が高まったり、有機アルミニウムの発火の危険性が高まったりするという問題がある。遷移金属錯体および有機アルミニウムの存在下でオレフィンの重合が行われることがあるが、接触工程では、重合工程と比べ、遷移金属錯体と有機アルミニウムとを接触させた状態で長期間維持することがあるため、これらの問題が顕著となる。なお、本発明では、遷移金属錯体と有機アルミニウムとを接触させる操作を行った後、遷移金属錯体を有機アルミニウムと接触させた状態で維持することを「(遷移金属錯体を)保存する」ともいう。
【0126】
有機アルミニウムの量の下限は、遷移金属錯体を安定に保存する効果を発揮させる観点から、上記の基準で好ましくは1.0モル以上である。
接触操作によって得られた前記溶液は、長期間、安定に保存することができる。換言すると、接触工程により、遷移金属錯体を、溶液状態で長期間、安定に保存することができる。この効果は、接触工程で遷移金属錯体を、溶液状態で長期間保存した後にオレフィン重合の触媒として使用しても、オレフィン重合における触媒活性が低下しないか、あるいは低下が抑制されることから確認することができる。
【0127】
接触操作によって得られた前記溶液を保存する期間は、特に制限はないが、遷移金属錯体をオレフィン重合の直前に溶液状態に調整する必要がないという利点を享受できるという観点からは好ましくは1時間以上、より好ましくは12時間以上、さらに好ましくは1日以上である。また、その上限は、たとえば5年である。
【0128】
〔重合工程〕
重合工程では、前記接触工程を経た遷移金属錯体を含み、有機アルミニウムをアルミニウム原子換算で0.005mmol/L以上の濃度で含む溶液の存在下でオレフィンを重合する。
【0129】
前記溶液の有機アルミニウム濃度は、アルミニウム原子換算で0.005mmol/L以上、好ましくは0.01mmol/L以上(上限は、たとえば1,000mmol/L)である。
【0130】
重合工程では、好ましくは、重合器内に、前記接触工程を経た遷移金属錯体および有機アルミニウムを含む溶液と、さらなる有機アルミニウム(以下「追加の有機アルミニウム」ともいう。)とを添加して前記溶液が調製される。この際、さらに溶媒を添加してもよい。重合工程で追加の有機アルミニウムを添加することにより、換言すると、有機アルミニウムの添加を接触工程および重合工程の2段階で行うことにより、遷移金属錯体をオレフィン重合の直前に溶液状態に調整する必要がないという利点を享受しつつ、高い触媒活性でオレフィン重合体を製造することができる。
【0131】
前記追加の有機アルミニウムとしては、上述した接触工程で用いられる有機アルミニウムの具体例として挙げたものを使用することができる。有機アルミニウムとしては、市販品のために入手が容易なトリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウムおよびトリイソブチルアルミニウムが好ましい。このうち、取り扱いが容易なトリイソブチルアルミニウムが特に好ましい。
【0132】
追加の有機アルミニウムは、上述した接触工程で用いられる有機アルミニウムと同種であっても異種であってもよい。
前記溶液には、必要に応じて、さらに
前記接触工程を経た遷移金属錯体以外の遷移金属錯体(以下「追加の遷移金属錯体」ともいう。接触工程を経た遷移金属錯体と追加の遷移金属錯体とをまとめて「遷移金属錯体(A)」ともいう。)、
錯アルキル化物(B-1b)、ジアルキル化合物(B-1c)、有機アルミニウムオキシ化合物(B-2)、および遷移金属錯体(A)と反応してイオン対を形成する化合物(B-3)から選ばれる少なくとも1種の化合物(以下の説明においては、これらの成分と、前記有機アルミニウムとをまとめて「化合物(B)」ともいう。)、
担体(C)、または
有機化合物成分(D)
が添加されていてもよい。
以下、各任意成分について説明する。
【0133】
(追加の遷移金属錯体)
追加の遷移金属錯体は、使用される場合であれば、遷移金属錯体(A)の全量を100質量%とすると、たとえば50質量%以下、10質量%以下、あるいは1質量%以下の量で使用される。
【0134】
(化合物(B))
《錯アルキル化物(B-1b)》
錯アルキル化物(B-1b)は、一般式 M2AlRa
4
(式中、M2はLi、NaまたはKを示し、Raは炭素数1から15、好ましくは1から4の炭化水素基を示す。)
で表される周期律表第1族金属とアルミニウムとの錯アルキル化物である。
このような化合物として、LiAl(C2H5)4、LiAl(C7H15)4などを例示することができる。
【0135】
《ジアルキル化合物(B-1c)》
ジアルキル化合物(B-1c)は、一般式 RaRbM3
(式中、RaおよびRbは、互いに同一でも異なっていてもよく、炭素数1から15、好ましくは1から4の炭化水素基を示し、M3はMg、ZnまたはCdである。)
で表される周期律表第2族または第12族金属のジアルキル化合物である。
【0136】
なお、以下の説明においては、前記有機アルミニウム、前記錯アルキル化物(B-1b)、および前記ジアルキル化合物(B-1c)をまとめて「有機金属化合物(B-1)」または「成分(B-1)」ともいう。
【0137】
《有機アルミニウムオキシ化合物(B-2)》
有機アルミニウムオキシ化合物(B-2)としては、従来公知のアルミノキサンをそのまま使用することができる。具体的には、下記一般式[B2-1]
【0138】
【0139】
【化16】
(式中、Rは炭素数1から10の炭化水素基、nは2以上の整数を示す)
で表わされる化合物を挙げることができ、特にRがメチル基であるメチルアルミノキサンであってnが3以上、好ましくは10以上のものが利用される。これらアルミノキサン類に若干の有機アルミニウム化合物が混入していても差し支えない。本発明においてエチレンと炭素数が3以上のα-オレフィンとの共重合を高温で行う場合には、特開平2-78687号公報に例示されているようなベンゼン不溶性の有機アルミニウムオキシ化合物も適用することができる。また、特開平2-167305号公報に記載されている有機アルミニウムオキシ化合物、特開平2-24701号公報、特開平3-103407号公報に記載されている二種類以上のアルキル基を有するアルミノキサンなども好適に利用できる。なお、本発明で用いられることのある「ベンゼン不溶性の有機アルミニウムオキシ化合物」とは、60℃のベンゼンに溶解するAl成分がAl原子換算で通常10%以下、好ましくは5%以下、特に好ましくは2%以下であり、ベンゼンに対して不溶性または難溶性である化合物である。
【0140】
また、有機アルミニウムオキシ化合物(B-2)として、下記一般式[B2-3]で表されるような修飾メチルアルミノキサン等も挙げることができる。
【0141】
【化17】
(式中、Rは炭素数1から10の炭化水素基、mおよびnはそれぞれ独立に2以上の整数を示す。)
【0142】
この修飾メチルアルミノキサンはトリメチルアルミニウムとトリメチルアルミニウム以外のアルキルアルミニウムを用いて調製されるものである。このような化合物は一般にMMAOと呼ばれている。このようなMMAOは、米国特許第4960878号明細書および米国特許第5041584号明細書で挙げられている方法で調製することが出来る。また、東ソー・ファインケム社等からもトリメチルアルミニウムとトリイソブチルアルミニウムを用いて調製した、Rがイソブチル基であるものがMMAOやTMAOといった名称で市販されている。このようなMMAOは各種溶媒への溶解性および保存安定性を改良したアルミノキサンであり、具体的には上記式[B2-1]、[B2-2]で表わされる化合物のうちのベンゼンに対して不溶性または難溶性の化合物とは違い、脂肪族炭化水素や脂環族炭化水素に溶解する。
【0143】
さらに、有機アルミニウムオキシ化合物(B-2)として、下記一般式[B2-4]で表されるボロンを含んだ有機アルミニウムオキシ化合物も挙げることができる。
【0144】
【化18】
(式中、R
cは炭素数1から10の炭化水素基を示す。R
dは、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子または炭素数1から10の炭化水素基を示す。)
【0145】
有機アルミニウムオキシ化合物(B-2)としては、市販品のために入手が容易なメチルアルミノキサン、およびトリメチルアルミニウムとトリイソブチルアルミニウムを用いて調製したMMAOが好ましい。このうち、各種溶媒への溶解性および保存安定性が改良されたMMAOが特に好ましい。
【0146】
《遷移金属錯体(A)と反応してイオン対を形成する化合物(B-3)》
遷移金属錯体(A)と反応してイオン対を形成する化合物(B-3)(以下「イオン性化合物(B-3)」ともいう。)としては、特開平1-501950号公報、特開平1-502036号公報、特開平3-179005号公報、特開平3-179006号公報、特開平3-207703号公報、特開平3-207704号公報、USP5321106号などに記載されたルイス酸、イオン性化合物、ボラン化合物およびカルボラン化合物などを挙げることができる。さらに、ヘテロポリ化合物およびイソポリ化合物も挙げることができる。ただし、前述の(B-2)有機アルミニウムオキシ化合物は含まない。
【0147】
イオン性化合物(B-3)としては、好ましくは下記一般式[B3-1]で表されるホウ素化合物が挙げられる。
【0148】
【化19】
式中、R
e+としては、H
+、カルベニウムカチオン、オキソニウムカチオン、アンモニウムカチオン、ホスホニウムカチオン、シクロヘプチルトリエニルカチオン、遷移金属を有するフェロセニウムカチオンなどが挙げられる。R
fからR
iは、互いに同一でも異なっていてもよく、炭素数1から20の炭化水素基、ケイ素含有基、窒素含有基、酸素含有基、ハロゲン原子およびハロゲン含有基から選ばれる置換基であり、好ましくは置換アリール基である。
【0149】
イオン性化合物(B-3)の具体例としては国際公開第2015/122414号の[0133]~[0144]に記載されたものも挙げることができる。
その他、特開2004-51676号公報に開示されたイオン性化合物も制限無く使用が可能である。
【0150】
イオン性化合物(B-3)は、1種単独で用いてもよく2種以上を混合して用いでもよい。
遷移金属錯体(A)と反応してイオン対を形成する化合物(B-3)としては、市販品として入手が容易であり、かつ重合活性向上への寄与が大きいことから、トリフェニルカルベニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートおよびN,N-ジメチルアニリニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートが好ましい。
【0151】
(担体(C))
前記オレフィン重合用触媒の構成成分として、必要に応じて担体(C)を用いてもよい。前記担体(C)は、無機または有機の化合物であって、顆粒状ないしは微粒子状の固体であり、具体的には、たとえば国際公開2006/123759号の[0205]~[0218]に記載されたものを挙げることができる。
【0152】
(有機化合物成分(D))
前記オレフィン重合用触媒の構成成分として、必要に応じて有機化合物成分(D)を用いてもよい。有機化合物成分(D)は、重合性能および生成ポリマーの物性を向上させる目的で使用される。有機化合物成分(D)としては、例えば、アルコール類、フェノール性化合物、カルボン酸、リン化合物、アミド、ポリエーテルおよびスルホン酸塩等が挙げられる。
【0153】
〔各成分の使用法および添加順序〕
オレフィン重合の際には、各触媒成分の使用法、添加順序は、任意に選ばれるが、以下のような方法が例示される。
(1)接触工程を経た遷移金属錯体および有機アルミニウムと、追加の有機アルミニウムとを、任意の順序で重合器に添加する方法。
(2)接触工程を経た遷移金属錯体および有機アルミニウムと、追加の有機アルミニウムと、化合物(B)(有機アルミニウム以外のもの)とを、任意の順序で重合器に添加する方法。
(3)接触工程を経た遷移金属錯体および有機アルミニウムを担体(C)に担持した触媒成分と、追加の有機アルミニウムとを任意の順序で重合器に添加する方法。
(4)追加の有機アルミニウムを担体(C)に担持した触媒成分と、接触工程を経た遷移金属錯体および有機アルミニウムとを、任意の順序で重合器に添加する方法。
なお、接触工程を経た遷移金属錯体および有機アルミニウムは、通常、溶液の状態で添加される。
【0154】
上記の各方法においては、任意の順序で有機化合物成分(D)が添加されてもよい。
上記(3)、(4)の各方法においては、必要に応じて、担持されていない化合物(B)を任意の順序で添加してもよい。
また、担体(C)に遷移金属錯体および有機アルミニウム(1)が担持された固体触媒成分においてはオレフィンが予備重合されていてもよく、予備重合された固体触媒成分上に、さらに触媒成分が担持されていてもよい。
【0155】
重合に供される前記オレフィンの例としては、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、3-メチル-1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、3-メチル-1-ペンテン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、1-エイコセン、ビニルシクロヘキサンなどの炭素数3から20の直鎖状または分岐状のα-オレフィンが挙げられる。
【0156】
これらのα-オレフィンは1種単独で、または2種以上組み合わせて用いることができる。したがって、たとえばエチレンを単独で用いてもよく、エチレンおよびプロピレンを用いてもよい。
【0157】
また、極性基含有モノマー、芳香族ビニル化合物、および環状オレフィンから選択される少なくとも1種のモノマーを反応系に共存させて重合を進めてもよい。したがって、たとえばエチレンおよびプロピレンと共に環状オレフィンである5-エチリデン-2-ノルボルネンを用いてもよい。これらのモノマーの量は、α-オレフィン100質量部に対して、たとえば20質量部以下、好ましくは10質量部以下である。
【0158】
極性基含有モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、無水マレイン酸などのα,β-不飽和カルボン酸類、およびこれらのナトリウム塩等の金属塩類、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチルなどのα,β-不飽和カルボン酸エステル類、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどのビニルエステル類、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジルなどの不飽和グリシジル類などを例示することができる。
【0159】
芳香族ビニル化合物としては、スチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、o,p-ジメチルスチレン、メトキシスチレン、ビニル安息香酸、ビニル安息香酸メチル、ビニルベンジルアセテート、ヒドロキシスチレン、p-クロロスチレン、ジビニルベンゼン、α-メチルスチレン、アリルベンゼンなどを例示することができる。
【0160】
環状オレフィンとしては、シクロペンテン、シクロヘプテン、ノルボルネン、5-メチル-2-ノルボルネン、5-エチリデン-2-ノルボルネン、テトラシクロドデセンなどの炭素数3から30、好ましくは3から20の環状オレフィン類を例示することができる。
【0161】
重合は、溶液重合、懸濁重合等の液相重合法または気相重合法のいずれにおいても実施できる。液相重合法において用いられる不活性炭化水素媒体の例としては、上述した接触工程で通常使用される溶媒の具体例として挙げたものが挙げられる。
【0162】
この不活性炭化水素媒体としては、接触工程で使用された溶媒をそのまま使用してもよく、接触工程で使用された溶媒に新たな不活性炭化水素媒体を加えてもよい。新たに加える不活性炭化水素媒体は、接触工程で使用された溶媒と同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0163】
重合工程においてオレフィン重合用触媒を構成しうる各成分の使用量は以下のとおりである。また、前記オレフィン重合用触媒において、各成分の含有量を以下のとおりに設定することができる。
【0164】
成分(A)は、反応容積1リットル当り、通常10-10~10-2モル、好ましくは10-8~10-3モルとなるような量で用いられる。
成分(B-1)は、成分(B-1)と成分(A)中の全遷移金属原子(M)とのモル比〔(B-1)/M〕が通常1~50,000、好ましくは10~20,000、特に好ましくは50~10,000となるような量で用いることができる。
【0165】
成分(B-2)は、成分(B-2)中のアルミニウム原子と成分(A)中の全遷移金属原子(M)とのモル比〔Al/M〕が通常10~5,000、好ましくは20~2,000となるような量で用いることができる。
【0166】
成分(B-3)は、成分(B-3)と成分(A)中の全遷移金属原子(M)とのモル比〔(B-3)/M〕が通常1~1000、好ましくは1~200となるような量で用いることができる。
【0167】
成分(C)を用いる場合は、成分(A)と成分(C)との重量比〔(A)/(C)〕が好ましくは0.0001~1、より好ましくは0.0005~0.5、さらに好ましくは0.001~0.1となるような量で用いることができる。
【0168】
重合工程におけるオレフィンの重合温度は、通常-50~+200℃、好ましくは0~180℃であり;重合圧力は、通常常圧~10MPaゲージ圧、好ましくは常圧~5MPaゲージ圧である。重合反応は、回分式、半連続式、連続式のいずれの方法においても行うことができる。さらに重合を反応条件の異なる二段以上に分けて行うこともできる。得られるオレフィン重合体の分子量は、重合系に水素等を存在させるか、重合温度を変化させるか、または成分(B)の使用量により調節することができる。
【0169】
[遷移金属錯体の保存方法]
本発明の遷移金属錯体の保存方法は、遷移金属錯体を、有機アルミニウムを含む溶液の中で保存する保存工程を含み、前記溶液は、有機アルミニウムを、該有機アルミニウム中のアルミニウム原子の量に換算して前記遷移金属錯体中の遷移金属原子1モルに対し10,000モル以下、好ましくは1,000モル以下、より好ましくは200モル以下、さらに好ましくは199モル以下、特に好ましくは20モル以下の量で含んでいる。有機アルミニウムの量の下限は、遷移金属錯体を安定に保存する効果を発揮させる観点から、上記の基準で好ましくは1.0モル以上である。
【0170】
保存工程においては、溶媒中で遷移金属錯体と有機アルミニウムとを接触させる操作(接触操作)が行われ、次いで得られた溶液が保存される。
遷移金属錯体としては、特に制限はなく、たとえば従来公知の遷移金属錯体が挙げられる。本発明の保存方法は、遷移金属錯体の中でも、オレフィン重合用触媒に用いられる遷移金属錯体の保存に特に好ましく適用することができる。オレフィン重合用触媒に用いられる遷移金属錯体の具体的態様(種類、割合、好ましい態様等)は、上述した本発明のオレフィン重合体の製造方法における接触工程の説明の中で記載したとおりである。
【0171】
有機アルミニウム、および溶媒の具体的態様(種類、割合、好ましい態様等)は、上述した本発明のオレフィン重合体の製造方法における接触工程の説明の中で記載したとおりである。
【0172】
遷移金属錯体の保存効果を高める観点からは、遷移金属錯体を保存する前に、予め溶媒に活性アルミナ等を接触させて溶媒中の不純物の一部または全部を除去しておくことが好ましい。
【0173】
接触操作によって得られた前記溶液を保存する期間は、特に制限はないが、好ましくは1時間以上、より好ましくは12時間以上、さらに好ましくは1日以上である。また、その上限は、たとえば5年である。
【実施例】
【0174】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
[合成例1]
[ビス(4-メトキシフェニル)メチレン(η5-シクロペンタジエニル)(η5-テトラメチルドデカヒドロジベンゾフルオレニル)]ハフニウムジメチル(以下「遷移金属錯体a」ともいう。)は、WO2015/122414に記載の方法に従って[ビス(4-メトキシフェニル)メチレン(η5-シクロペンタジエニル)(η5-テトラメチルドデカヒドロジベンゾフルオレニル)]ハフニウムジクロリドを合成した後、これに特開平7-53618号公報の実施例86に記載の方法に従ってメチルリチウムを反応させ、[ビス(4-メトキシフェニル)メチレン(η5-シクロペンタジエニル)(η5-テトラメチルドデカヒドロジベンゾフルオレニル)]ハフニウムジメチルを合成した。
【0175】
[合成例2]
[ビス(4-メトキシフェニル)メチレン(η5-シクロペンタジエニル)(η5-2,3,6,7-テトラメチルフルオレニル)]ハフニウムジメチル(以下「遷移金属錯体b」ともいう。)は、WO2015/122415に記載の方法に従って[ビス(4-メトキシフェニル)メチレン(η5-シクロペンタジエニル)(η5-2,3,6,7-テトラメチルフルオレニル)]ハフニウムジクロリドを合成した後、これに特開平7-53618号公報の実施例86に記載の方法に従ってメチルリチウムを反応させ、[ビス(4-メトキシフェニル)メチレン(η5-シクロペンタジエニル)(η5-2,3,6,7-テトラメチルフルオレニル)]ハフニウムジメチルを合成した。
【0176】
[合成例3]
[メチル(4-メチルフェニル)メチレン(η5-シクロペンタジエニル)(η5-オクタメチルオクタヒドロジベンゾフルオレニル)]ジルコニウムジメチル(以下「遷移金属錯体c」ともいう。)は、WO2004/029062に記載の方法に従って[メチル(4-メチルフェニル)メチレン(η5-シクロペンタジエニル)(η5-オクタメチルオクタヒドロジベンゾフルオレニル)]ジルコニウムジクロリドを合成した後、これに特開平7-53618号公報の実施例86に記載の方法に従ってメチルリチウムを反応させ、[メチル(4-メチルフェニル)メチレン(η5-シクロペンタジエニル)(η5-オクタメチルオクタヒドロジベンゾフルオレニル)]ジルコニウムジメチルを合成した。
【0177】
[実施例1-1~1-5]
〔接触工程ないし保存工程(20当量のトリイソブチルアルミニウムを含む[ビス(4-メトキシフェニル)メチレン(η5-シクロペンタジエニル)(η5-テトラメチルドデカヒドロジベンゾフルオレニル)]ハフニウムジメチルのヘキサン溶液の調製)〕
(接触操作1)
充分に窒素置換した内容積100mlのガラス製2口フラスコに、合成例1で合成した直後の[ビス(4-メトキシフェニル)メチレン(η5-シクロペンタジエニル)(η5-テトラメチルドデカヒドロジベンゾフルオレニル)]ハフニウムジメチル(遷移金属錯体a)8.27mgと、活性アルミナにより不純物を除去したn-ヘキサンとを25℃で装入し、次いでトリイソブチルアルミニウムを1モルの遷移金属錯体aに対し20モルの割合で加え、さらにn-ヘキサンを加え全量を100mlとし、遷移金属錯体aの濃度が0.1mmol/lの溶液(A)を調製した。
次いで、直ちにこの溶液(A)を充分に窒素置換した内容積25mlのガラス製2口フラスコ5個に小分けして溶液(A-1)~(A-5)を得た。
【0178】
(溶液の保存)
実施例1-1では、接触操作1で得られた遷移金属錯体aを含む溶液(A-1)を、窒素雰囲気下、温度2℃の冷暗所で1時間保存した。
同様に、実施例1-2~1-5では、接触操作1で得られた遷移金属錯体aを含む溶液(A-2)~(A-5)を、窒素雰囲気下、温度2℃の冷暗所で保存した。各溶液の保存期間を表1に示す。
【0179】
〔重合工程(エチレン/プロピレン共重合体の製造)〕
(実施例1-1)
充分に窒素置換した内容積2Lのステンレス製オートクレーブにヘプタン680mlおよびプロピレン160gを装入し、系内の温度を111℃に昇温した後、エチレンを供給することにより全圧を3MPa-Gとした。次に、ここへトリイソブチルアルミニウム0.3mmol、保存を終えた直後の溶液(A-1)1.5ml(この溶液は、遷移金属錯体aを0.00015mmol含む。)およびトリフェニルカルベニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート0.00075mmolを窒素で圧入し、攪拌回転数を250rpmにすることにより重合を開始した。その後、エチレンのみを連続的に供給することにより全圧を3MPa-Gに保ち、115℃で10分間重合を行った。少量のエタノールを系内に添加することにより重合を停止した後、未反応のエチレンをパージした。得られたポリマー溶液を、大過剰のメタノール中に投入することにより、ポリマーを析出させた。ポリマーをろ過により回収し、120℃の減圧下で一晩乾燥した。
【0180】
その結果、エチレン/プロピレン共重合体が45.3g得られた。遷移金属錯体a中のハフニウム原子1mmol当たりのマイレージは302kgであった。結果を表1に示す。
【0181】
(実施例1-2~1-5)
実施例1-2~1-5では、溶液(A-1)を、保存を終えた直後の1.5mlの溶液(A-2)、保存を終えた直後の1.5mlの溶液(A-3)、保存を終えた直後の1.5mlの溶液(A-4)、または保存を終えた直後の1.5mlの溶液(A-5)(これらの溶液は、それぞれ遷移金属錯体aを0.00015mmol含む。)にそれぞれ変更した以外は実施例1-1と同じ手順および条件で、エチレン/プロピレン共重合体を製造した。
得られたエチレン/プロピレン共重合体の収量、および遷移金属錯体a中のハフニウム原子1mmol当たりのマイレージを表1に示す。
【0182】
【0183】
[比較例1-1~1-5]
〔トリイソブチルアルミニウムを含まない[ビス(4-メトキシフェニル)メチレン(η5-シクロペンタジエニル)(η5-テトラメチルドデカヒドロジベンゾフルオレニル)]ハフニウムジメチルのヘキサン溶液の調製〕
(比較接触操作1)
トリイソブチルアルミニウムを用いなかったこと以外は接触操作1と同様の操作を行い、遷移金属錯体aの濃度が0.1mmol/lの溶液(A’)を調製し、直ちにこの溶液(A’)を充分に窒素置換した内容積25mlのガラス製2口フラスコ5個に小分けして溶液(A’-1)~(A’-5)を得た。
【0184】
(溶液の保存)
比較接触操作1で得られた遷移金属錯体aを含む溶液(A’-1)~(A’-5)を、窒素雰囲気下、温度2℃の冷暗所で保存した。各溶液の保存期間を表2に示す。
【0185】
〔重合工程(エチレン/プロピレン共重合体の製造)〕
比較例1-1~1-5では、溶液(A-1)を、保存を終えた直後の1.5mlの溶液(A’-1)、保存を終えた直後の1.5mlの溶液(A’-2)、保存を終えた直後の1.5mlの溶液(A’-3)、保存を終えた直後の1.5mlの溶液(A’-4)、または保存を終えた直後の1.5mlの溶液(A’-5)(これらの溶液は、それぞれ遷移金属錯体aを0.00015mmol含む。)にそれぞれ変更した以外は実施例1-1と同じ手順および条件で、エチレン/プロピレン共重合体を製造した。
得られたエチレン/プロピレン共重合体の収量、および遷移金属錯体a中のハフニウム原子1mmol当たりのマイレージを表2に示す。
【0186】
【0187】
[実施例2-1~2-5]
〔接触工程ないし保存工程(50当量のトリイソブチルアルミニウムを含む5.0mmol/lの[ビス(4-メトキシフェニル)メチレン(η5-シクロペンタジエニル)(η5-2,3,6,7-テトラメチルフルオレニル)]ハフニウムジメチルのヘキサン溶液の調製)〕
(接触操作2)
充分に窒素置換した内容積100mlのガラス製2口フラスコに、合成例2で合成した直後の[ビス(4-メトキシフェニル)メチレン(η5-シクロペンタジエニル)(η5-2,3,6,7-テトラメチルフルオレニル)]ハフニウムジメチル(遷移金属錯体b)360mgと、活性アルミナにより不純物を除去したn-ヘキサンとを25℃で装入し、次いでトリイソブチルアルミニウムを1モルの遷移金属錯体bに対し50モルの割合で加え、さらにn-ヘキサンを加え全量を100mlとし、遷移金属錯体bの濃度が5.0mmol/lの溶液(B)を調製した。
次いで、直ちにこの溶液(B)を充分に窒素置換した内容積25mlのガラス製2口フラスコ5個に小分けして溶液(B-1)~(B-5)を得た。
【0188】
(溶液の保存)
実施例2-1では、接触操作2で得られた遷移金属錯体bを含む溶液(B-1)を、窒素雰囲気下、温度2℃の冷暗所で1時間保存した。
同様に、実施例2-2~2-5では、接触操作2で得られた遷移金属錯体bを含む溶液(B-2)~(B-5)を、窒素雰囲気下、温度2℃の冷暗所で保存した。各溶液の保存期間を表3に示す。
【0189】
〔重合工程(エチレン/プロピレン/ENB共重合体の製造)〕
(実施例2-1)
充分に窒素置換した内容積2Lのステンレス製オートクレーブにヘキサン1030ml、エチリデンノルボルネン(ENB)12mlを装入し、系内の温度を92℃に昇温した後、プロピレンを分圧で0.45MPa分装入し、エチレンを供給することにより全圧を1.6MPa-Gとした。次に、ここへトリイソブチルアルミニウム0.3mmol、保存を終えた直後の溶液(B-1)0.03ml(この溶液は、遷移金属錯体bを0.00015mmol含む。)およびトリフェニルカルベニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート0.0015mmolを窒素で圧入し、攪拌回転数を250rpmにすることにより重合を開始した。その後、エチレンのみを連続的に供給することにより全圧を1.6MPa-Gに保ち、95℃で15分間重合を行った。少量のエタノールを系内に添加することにより重合を停止した後、未反応のエチレンをパージした。得られたポリマー溶液を、大過剰のメタノール/アセトン混合溶液中に投入することにより、ポリマーを析出させた。ポリマーをろ過により回収し、120℃の減圧下で一晩乾燥した。
【0190】
その結果、エチレン/プロピレン/ENB共重合体10.69gが得られた。遷移金属錯体b中のハフニウム原子1mmol当たりのマイレージは71.3kgであった。結果を表3に示す。
【0191】
(実施例2-2~2-5)
実施例2-2~2-5では、溶液(B-1)を、保存を終えた直後の0.03mlの溶液(B-2)、保存を終えた直後の0.03mlの溶液(B-3)、保存を終えた直後の0.03mlの溶液(B-4)、または保存を終えた直後の0.03mlの溶液(B-5)(これらの溶液は、それぞれ遷移金属錯体bを0.00015mmol含む。)にそれぞれ変更した以外は実施例2-1と同じ手順および条件で、エチレン/プロピレン/ENB共重合体を製造した。
【0192】
得られたエチレン/プロピレン/ENB共重合体の収量、および遷移金属錯体b中のハフニウム原子1mmol当たりのマイレージを表3に示す。
【0193】
【0194】
[比較例2-1~2-5]
〔トリイソブチルアルミニウムを含まない5.0mmol/lの[ビス(4-メトキシフェニル)メチレン(η5-シクロペンタジエニル)(η5-2,3,6,7-テトラメチルフルオレニル)]ハフニウムジメチルのヘキサン溶液の調製〕
(比較接触操作2)
トリイソブチルアルミニウムを用いなかったこと以外は接触操作2と同様の操作を行い、遷移金属錯体bの濃度が5.0mmol/lの溶液(B’)を調製し、直ちにこの溶液(B’)を充分に窒素置換した内容積25mlのガラス製2口フラスコ5個に小分けして溶液(B’-1)~(B’-5)を得た。
【0195】
(溶液の保存)
比較接触操作2で得られた遷移金属錯体bを含む溶液(B’-1)~(B’-5)を、窒素雰囲気下、温度2℃の冷暗所で保存した。各溶液の保存期間を表4に示す。
【0196】
〔重合工程(エチレン/プロピレン/ENB共重合体の製造)〕
比較例2-1~2-5では、溶液(B-1)を、保存を終えた直後の0.03mlの溶液(B’-1)、保存を終えた直後の0.03mlの溶液(B’-2)、保存を終えた直後の0.03mlの溶液(B’-3)、保存を終えた直後の0.03mlの溶液(B’-4)、または保存を終えた直後の0.03mlの溶液(B’-5)(これらの溶液は、それぞれ遷移金属錯体bを0.00015mmol含む。)にそれぞれ変更した以外は実施例2-1と同じ手順および条件で、エチレン/プロピレン/ENB共重合体を製造した。
【0197】
得られたエチレン/プロピレン/ENB共重合体の収量、および遷移金属錯体b中のハフニウム原子1mmol当たりのマイレージを表4に示す。
【0198】
【0199】
[実施例3-1~3-4]
〔接触工程ないし溶液の保存(20当量のトリイソブチルアルミニウムを含む1.0mmol/lの[ビス(4-メトキシフェニル)メチレン(η5-シクロペンタジエニル)(η5-2,3,6,7-テトラメチルフルオレニル)]ハフニウムジメチルのヘキサン溶液の調製)〕
(接触操作3)
充分に窒素置換した内容積100mlのガラス製2口フラスコに、合成例2で合成した直後の[ビス(4-メトキシフェニル)メチレン(η5-シクロペンタジエニル)(η5-2,3,6,7-テトラメチルフルオレニル)]ハフニウムジメチル(遷移金属錯体b)72mgと、活性アルミナにより不純物を除去したn-ヘキサンとを25℃で装入し、次いでトリイソブチルアルミニウムを1モルの遷移金属錯体bに対し20モルの割合で加え、さらにn-ヘキサンを加え全量を100mlとし、遷移金属錯体bの濃度が1.0mmol/lの溶液(C)を調製した。
次いで、直ちにこの溶液(C)を充分に窒素置換した内容積25mlのガラス製2口フラスコ4個に小分けして溶液(C-1)~(C-4)を得た。
【0200】
(溶液の保存)
実施例3-1では、接触操作3で得られた遷移金属錯体bを含む溶液(C-1)を、窒素雰囲気下、温度2℃の冷暗所で1時間保存した。
同様に、実施例3-2~3-4では、接触操作3で得られた遷移金属錯体bを含む溶液(C-2)~(C-4)を、窒素雰囲気下、温度2℃の冷暗所で保存した。各溶液の保存期間を表5に示す。
【0201】
〔重合工程(エチレン/プロピレン/ENB共重合体の製造)〕
(実施例3-1)
充分に窒素置換した内容積2Lのステンレス製オートクレーブにヘキサン1030ml、エチリデンノルボルネン(ENB)12mlを装入し、系内の温度を92℃に昇温した後、プロピレンを分圧で0.45MPa分装入し、エチレンを供給することにより全圧を1.6MPa-Gとした。次に、ここへトリイソブチルアルミニウム0.30mmol、保存を終えた直後の溶液(C-1)0.15ml(この溶液は、遷移金属錯体bを0.00015mmol含む。)およびトリフェニルカルベニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート0.0015mmolを窒素で圧入し、攪拌回転数を250rpmにすることにより重合を開始した。その後、エチレンのみを連続的に供給することにより全圧を1.6MPa-Gに保ち、95℃で15分間重合を行った。少量のエタノールを系内に添加することにより重合を停止した後、未反応のエチレンをパージした。得られたポリマー溶液を、大過剰のメタノール/アセトン混合溶液中に投入することにより、ポリマーを析出させた。ポリマーをろ過により回収し、120℃の減圧下で一晩乾燥した。
【0202】
その結果、エチレン/プロピレン/ENB共重合体9.09gが得られた。遷移金属錯体b中のハフニウム原子1mmol当たりのマイレージは60.6kgであった。結果を表5に示す。
【0203】
(実施例3-2~3-4)
実施例3-2~3-4では、溶液(C-1)を、保存を終えた直後の0.15mlの溶液(C-2)、保存を終えた直後の0.15mlの溶液(C-3)、または保存を終えた直後の0.15mlの溶液(C-4)(これらの溶液は、それぞれ遷移金属錯体bを0.00015mmol含む。)にそれぞれ変更した以外は実施例3-1と同じ手順および条件で、エチレン/プロピレン/ENB共重合体を製造した。
【0204】
得られたエチレン/プロピレン/ENB共重合体の収量、および遷移金属錯体b中のハフニウム原子1mmol当たりのマイレージを表5に示す。
【0205】
【0206】
[比較例3-1~3-4]
〔トリイソブチルアルミニウムを含まない1.0mmol/lの[ビス(4-メトキシフェニル)メチレン(η5-シクロペンタジエニル)(η5-2,3,6,7-テトラメチルフルオレニル)]ハフニウムジメチルのヘキサン溶液の調製〕
(比較接触操作3)
トリイソブチルアルミニウムを用いなかったこと以外は接触操作3と同様の操作を行い、遷移金属錯体bの濃度が1.0mmol/lの溶液(C’)を調製し、直ちにこの溶液(C’)を充分に窒素置換した内容積25mlのガラス製2口フラスコ4個に小分けして溶液(C’-1)~(C’-4)を得た。
【0207】
(溶液の保存)
比較接触操作3で得られた遷移金属錯体bを含む溶液(C’-1)~(C’-4)を、窒素雰囲気下、温度2℃の冷暗所で保存した。各溶液の保存期間を表6に示す。
【0208】
〔重合工程(エチレン/プロピレン/ENB共重合体の製造)〕
比較例3-1~3-4では、溶液(C-1)を、保存を終えた直後の0.15mlの溶液(C’-1)、保存を終えた直後の0.15mlの溶液(C’-2)、保存を終えた直後の0.15mlの溶液(C’-3)、または保存を終えた直後の0.15mlの溶液(C’-4)(これらの溶液は、それぞれ遷移金属錯体bを0.00015mmol含む。)にそれぞれ変更した以外は実施例3-1と同じ手順および条件で、エチレン/プロピレン/ENB共重合体を製造した。
得られたエチレン/プロピレン/ENB共重合体の収量、および遷移金属錯体b中のハフニウム原子1mmol当たりのマイレージを表6に示す。
【0209】
【0210】
[実施例4-1~4-6]
〔接触工程ないし溶液の保存(200当量のトリイソブチルアルミニウムを含む0.06mmol/lの[メチル(4-メチルフェニル)メチレン(η5-シクロペンタジエニル)(η5-オクタメチルオクタヒドロジベンゾフルオレニル)]ジルコニウムジメチルのヘキサン溶液の調製)〕
(接触操作4)
充分に窒素置換した内容積100mlのガラス製2口フラスコに、合成例3で合成した直後の[メチル(4-メチルフェニル)メチレン(η5-シクロペンタジエニル)(η5-オクタメチルオクタヒドロジベンゾフルオレニル)]ジルコニウムジメチル(遷移金属錯体c)4.13mgと、活性アルミナにより不純物を除去したn-ヘキサンとを25℃で装入し、次いでトリイソブチルアルミニウムを1モルの遷移金属錯体cに対し200モルの割合で加え、さらにn-ヘキサンを加え全量を100mlとし、遷移金属錯体cの濃度が0.06mmol/lの溶液(D)を調製した。
次いで、直ちにこの溶液(D)を充分に窒素置換した内容積25mlのガラス製2口フラスコ6個に小分けして溶液(D-1)~(D-6)を得た。
【0211】
(溶液の保存)
実施例4-1では、接触操作4で得られた遷移金属錯体cを含む溶液(D-1)を、窒素雰囲気下、温度5℃の冷暗所で1時間保存した。
同様に、実施例4-2~4-6では、接触操作4で得られた遷移金属錯体cを含む前記溶液(D-2)~(D-6)を、窒素雰囲気下、温度5℃の冷暗所で保存した。各溶液の保存期間を表7に示す。
【0212】
〔重合工程(ポリエチレンの製造)〕
(実施例4-1)
充分に窒素置換した内容積1Lのガラス製重合器にデカン250mLを装入し、系内の温度を130℃に昇温した後、エチレンを100L/hrの流量で連続的に重合器内に供給し、撹拌回転数600rpmで撹拌した。次にトリイソブチルアルミニウム0.2mmolを重合器に装入し、次いで保存を終えた直後の溶液(D-1)2.5ml(この溶液は、遷移金属錯体cを0.00015mmol含む。)を加え、さらに重合器にN,N-ジメチルアニリニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートを1モルの遷移金属錯体cに対して5モルの割合で装入することにより重合を開始した。その後、エチレンの連続的供給を継続し、130℃で10分間重合を行った。少量のイソブチルアルコールを系内に添加することにより重合を停止した後、未反応のモノマーをパージした。得られたポリマー溶液を、2mLの塩酸を含む1Lのメタノールにあけ、ポリマーを析出させた。析出したポリマーをろ過により回収し、80℃の減圧下で一晩乾燥した。
その結果、ポリエチレン 2.76gが得られた。遷移金属錯体c中のジルコニウム原子1mmol当たりのマイレージは18.4kgであった。結果を表7に示す。
【0213】
(実施例4-2~4-6)
実施例4-2~4-6では、溶液(D-1)を、保存を終えた直後の2.5mlの溶液(D-2)、保存を終えた直後の2.5mlの溶液(D-3)、保存を終えた直後の2.5mlの溶液(D-4)、保存を終えた直後の2.5mlの溶液(D-5)、または保存を終えた直後の2.5mlの溶液(D-6)(これらの溶液は、それぞれ遷移金属錯体cを0.00015mmol含む。)にそれぞれ変更した以外は実施例4-1と同じ手順および条件で、ポリエチレンを製造した。
得られたポリエチレンの収量、および遷移金属錯体c中のジルコニウム原子1mmol当たりのマイレージを表7に示す。
【0214】
【0215】
[比較例4-1~4-4]
〔トリイソブチルアルミニウムを含まない0.06mmol/lの[メチル(4-メチルフェニル)メチレン(η5-シクロペンタジエニル)(η5-オクタメチルオクタヒドロジベンゾフルオレニル)]ジルコニウムジメチルのヘキサン溶液の調製〕
(比較接触操作4)
トリイソブチルアルミニウムを用いなかったこと以外は接触操作4と同様の操作を行い、遷移金属錯体cの濃度が0.06mmol/lの溶液(D’)を調製し、直ちにこの溶液(D’)を充分に窒素置換した内容積25mlのガラス製2口フラスコ4個に小分けして溶液(D’-1)~(D’-4)を得た。
【0216】
(溶液の保存)
比較接触操作4で得られた遷移金属錯体bを含む溶液(D’-1)~(D’-4)を、窒素雰囲気下、温度5℃の冷暗所で保存した。各溶液の保存期間を表8に示す。
【0217】
〔重合工程(ポリエチレンの製造)〕
比較例4-1~4-4では、溶液(D-1)を、保存を終えた直後の2.5mlの溶液(D’-1)、保存を終えた直後の2.5mlの溶液(D’-2)、保存を終えた直後の2.5mlの溶液(D’-3)、または保存を終えた直後の2.5mlの溶液(D’-4)(これらの溶液は、それぞれ遷移金属錯体cを0.00015mmol含む。)にそれぞれ変更した以外は実施例4-1と同じ手順および条件で、ポリエチレンを製造した。
得られたポリエチレンの収量、および遷移金属錯体c中のジルコニウム原子1mmol当たりのマイレージを表8に示す。
【0218】