(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-07
(45)【発行日】2022-01-12
(54)【発明の名称】金型プレス装置及び金型プレス方法
(51)【国際特許分類】
B30B 15/28 20060101AFI20220104BHJP
B30B 15/00 20060101ALI20220104BHJP
B30B 1/26 20060101ALI20220104BHJP
【FI】
B30B15/28 K
B30B15/28 A
B30B15/00 B
B30B1/26 A
(21)【出願番号】P 2017131967
(22)【出願日】2017-07-05
【審査請求日】2020-05-19
(73)【特許権者】
【識別番号】390014672
【氏名又は名称】株式会社アマダ
(74)【代理人】
【識別番号】100123559
【氏名又は名称】梶 俊和
(74)【代理人】
【識別番号】100177437
【氏名又は名称】中村 英子
(73)【特許権者】
【識別番号】000128876
【氏名又は名称】株式会社アマダプレスシステム
(74)【代理人】
【識別番号】100123559
【氏名又は名称】梶 俊和
(74)【代理人】
【識別番号】100177437
【氏名又は名称】中村 英子
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(72)【発明者】
【氏名】中澤 一貴
【審査官】永井 友子
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-113399(JP,A)
【文献】特開2015-051454(JP,A)
【文献】特開2007-136555(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B30B 15/28
B30B 15/00
B30B 1/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動手段と、
ワークを加工する金型を上下に動作させるスライドと、
前記スライドを上下に移動させるコンロッドと、
前記駆動手段により回転され、前記駆動手段の動力を前記コンロッドを介して前記スライドに伝達するクランク軸と、
を備え、前記ワークに加工を行う金型プレス装置であって、
前記クランク軸の角度を検知する角度検知手段と、
前記ワークへの加工中に加わる荷重を検知する荷重検知手段と、
前記荷重検知手段により検知した荷重値を一の加工中に所定の時間間隔で収集し、収集した荷重値と前記荷重値を収集した時刻とを対応付けて記憶部に記憶する収集手段と、
前記荷重検知手段により検知した荷重値と前記記憶部に記憶された荷重値とに基づいて、加工の異常の検出処理を行う異常検出手段と、
を備え、
前記収集手段は、前記角度検知手段により検知された前記クランク軸の角度が所定の角度となった場合に、前記荷重値の収集を開始し、
前記異常検出手段は、前記収集手段が荷重値の収集を開始した後であって、前記荷重検知手段により検知された荷重値が所定の閾値以上となってから、前記異常の検出処理を開始することを特徴とする金型プレス装置。
【請求項2】
前記異常検出手段は、複数の加工において前記収集手段により収集され前記記憶部に記憶された略同じ時刻に対応付けられた複数の荷重値の平均値を求め、前記荷重検知手段により検知された荷重値が、前記荷重値が検知された時刻と略同じ時刻に対応付けられた前記平均値を含む所定の範囲内に入っている場合には前記荷重値を正常と判断し、前記荷重検知手段により検知された荷重値が、前記所定の範囲内に入っていない場合には前記荷重値を異常と判断することを特徴とする請求項1に記載の金型プレス装置。
【請求項3】
前記金型プレス装置を制御する制御手段を備え、
前記異常検出手段は、前記荷重値を異常と判断した回数が所定の回数を超えた場合、加工に異常が発生したと判断し、前記加工に異常が発生したことを前記制御手段に通知し、
前記制御手段は、前記異常検出手段から前記加工に異常が発生したことが通知されると、前記金型プレス装置を停止させることを特徴とする請求項1
又は請求項
2に記載の金型プレス装置。
【請求項4】
駆動手段と、ワークを加工する金型を上下に動作させるスライドと、前記スライドを上下に移動させるコンロッドと、前記駆動手段により回転され、前記駆動手段の動力を前記コンロッドを介して前記スライドに伝達するクランク軸と、を備え、前記ワークに加工を行う金型プレス装置による金型プレス方法であって、
角度検知手段によって前記クランク軸の角度を検知する角度検知工程と、
荷重検知手段によって前記ワークへの加工中に加わる荷重を検知する荷重検知工程と、
収集手段によって前記荷重検知手段により検知した荷重値を一の加工中に所定の時間間隔で収集し、収集した荷重値と前記荷重値を収集した時刻とを対応付けて記憶部に記憶する収集工程と、
前記荷重検知手段により検知した荷重値と前記記憶部に記憶された荷重値とに基づいて、異常検出手段によって加工の異常の検出処理を行う異常検出工程と、
を備え、
前記収集工程において、前記収集手段は、前記角度検知手段により検知された前記クランク軸の角度が所定の角度となった場合に、前記荷重値の収集を開始し、
前記異常検出工程において、前記異常検出手段は、前記収集手段が荷重値の収集を開始した後であって、前記荷重検知手段により検知された荷重値が所定の閾値以上となってから、前記異常の検出処理を開始することを特徴とする金型プレス方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金型プレス装置及び金型プレス方法に関し、特に加工動作中の荷重を監視する金型プレス装置及び金型プレス方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金型プレス装置(以下、プレス装置という)では、加工時の荷重を監視することにより異常を検出するものがある。加工時に検知される荷重に基づいて加工時の異常を検出しようとする場合、例えば、設定された上限値と下限値の範囲内に荷重のピーク値(以下、ピーク荷重ともいう)が入っているか否かによって異常を検出する方法がある。また、例えば、直前に行われた加工のピーク荷重と現在行われている加工のピーク荷重とを比較して、ピーク荷重が許容範囲内に入っているか否かによって異常を検出する方法もある。このように異常の検出に荷重のピーク値を用いるものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
更に、荷重値の差異を監視しようとする場合、次のような方法もある。一つの加工において、所定の時間間隔で荷重値を収集し、荷重値の収集を開始してから終了するまでの荷重値の波形(以下、荷重波形ともいう)を求めておく。過去に行われた加工時の荷重波形を複数回収集しておき、複数の荷重波形の平均の波形(以下、平均波形という)を比較対象とする。この比較対象となる波形をマスター波形という。マスター波形と現在の加工中に収集される荷重値とをリアルタイムで連続的に比較し、比較結果に基づいて、随時、現在の荷重値が設定された許容範囲内であるか否かを判断することにより、荷重の異常を検出する方法もある。このような方法は、トラッキングエラー監視とも呼ばれる。
【0004】
加工時の荷重値の収集を開始するタイミングは、プレス装置のクランク角度等に基づき、電気的又は機械的にタイミングをとって開始され、また、荷重値の収集開始とともに過去の荷重波形との比較が時間軸を基準として開始される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、過去の加工時の荷重波形と随時比較を行い加工の監視を行うトラッキングエラー監視では、荷重値の収集開始のタイミングとともにトラッキングエラーの監視も開始される。このため、荷重波形の収集開始のタイミングがずれてしまうと、正常な加工が行われているにもかかわらず、荷重値が許容範囲から外れてしまい、荷重値の異常と判断され、加工の異常として判断されてしまうおそれがある。
【0007】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、加工時の荷重の監視を精度よく行い、より正確な加工の異常検出を行うことができる金型プレス装置及び金型プレス方法を提供することを例示的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明は以下の趣旨を有する。
【0009】
[趣旨1]
ワークに加工を行う金型プレス装置であって、
前記ワークへの加工中に加わる荷重を検知する荷重検知手段と、
前記荷重検知手段により検知した荷重値を一の加工中に所定の時間間隔で収集し、収集した荷重値と前記荷重値を収集した時刻とを対応付けて記憶部に記憶する収集手段と、
前記荷重検知手段により検知した荷重値と前記記憶部に記憶された荷重値とに基づいて、加工の異常の検出処理を行う異常検出手段と、
を備え、
前記異常検出手段は、前記収集手段が荷重値の収集を開始した後であって、前記荷重検知手段により検知された荷重値が所定の閾値以上となってから、前記異常の検出処理を開始する。
【0010】
[趣旨2]
前記異常検出手段は、複数の加工において前記収集手段により収集され前記記憶部に記憶された略同じ時刻に対応付けられた複数の荷重値の平均値を求め、前記荷重検知手段により検知された荷重値が、前記荷重値が検知された時刻と略同じ時刻に対応付けられた前記平均値を含む所定の範囲内に入っている場合には前記荷重値を正常と判断し、前記荷重検知手段により検知された荷重値が、前記所定の範囲内に入っていない場合には前記荷重値を異常と判断するものであってもよい。
【0011】
[趣旨3]
駆動手段と、
前記ワークを加工する金型を上下に動作させるスライドと、
前記スライドを上下に移動させるコンロッドと、
前記駆動手段により回転され、前記駆動手段の動力を前記コンロッドを介して前記スライドに伝達するクランク軸と、
前記クランク軸の角度を検知する角度検知手段と、
を備え、
前記収集手段は、前記角度検知手段により検知された前記クランク軸の角度が所定の角度となった場合に、前記荷重値の収集を開始するものであってもよい。
【0012】
[趣旨4]
前記金型プレス装置を制御する制御手段を備え、
前記異常検出手段は、前記荷重値を異常と判断した回数が所定の回数を超えた場合、加工に異常が発生したと判断し、前記加工に異常が発生したことを前記制御手段に通知し、
前記制御手段は、前記異常検出手段から前記加工に異常が発生したことが通知されると、前記金型プレス装置を停止させるものであってもよい。
【0013】
[趣旨5]
ワークに加工を行う金型プレス装置による金型プレス方法であって、
荷重検知手段によって前記ワークへの加工中に加わる荷重を検知する荷重検知工程と、
収集手段によって前記荷重検知手段により検知した荷重値を一の加工中に所定の時間間隔で収集し、収集した荷重値と前記荷重値を収集した時刻とを対応付けて記憶部に記憶する収集工程と、
前記荷重検知手段により検知した荷重値と前記記憶部に記憶された荷重値とに基づいて、異常検出手段によって加工の異常の検出処理を行う異常検出工程と、
を備え、
前記異常検出工程において、前記異常検出手段は、前記収集手段が荷重値の収集を開始した後であって、前記荷重検知手段により検知された荷重値が所定の閾値以上となってから、前記異常の検出処理を開始する。
【0014】
本発明の更なる目的又はその他の特徴は、以下添付図面を参照して説明される好ましい実施の形態によって明らかにされるであろう。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、加工時の荷重の監視を精度よく行い、より正確な加工の異常検出を行うことができる金型プレス装置及び金型プレス方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図3】実施形態の(a)正常時の荷重監視を示すグラフ、(b)異常時の荷重監視を示すグラフ、(c)タイミングがずれたことで荷重値の異常と判断された場合のグラフ
【
図4】実施形態の荷重値の異常を検出する処理を示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0017】
[実施形態]
(プレス装置の説明)
図1は、プレス装置Sの概略図である。プレス装置Sは、筐体2の内外に、駆動モータ4、伝達機構6、クランク軸8、コンロッド10、スライド12を有して構成される。また、プレス装置Sは、装置側コントローラ14(制御手段)、表示部16、入力部18、を有している。
【0018】
駆動モータ4は、例えばサーボ制御されるサーボモータであり、回転量及び回転方向を制御しつつ伝達機構6、クランク軸8、コンロッド10を介して後述する金型3を上下移動させるものである。伝達機構6は、例えばギアやベルト等の伝達部材を有して構成され、駆動モータ4のモータ軸の回転をクランク軸8へと伝達するものである。駆動モータ4への制御信号は装置側コントローラ14から送られるようになっている。
【0019】
クランク軸8及びコンロッド10は、伝達機構6により伝達されたモータ軸の回転移動を往復移動(本実施形態では、上下移動。)に変換するためのものである。モータ軸の回転によりクランク軸8が回転し、クランク軸8に一端近傍が連結されたコンロッド10にその回転が伝達されてコンロッド10が上下移動(昇降移動)するようになっている。
【0020】
コンロッド10の他端近傍にはスライド12が連結されている。コンロッド10の上下移動に伴いスライド12がガイド(不図示)に沿って上下移動するようになっている。
図1にその概略図を示すように、スライド12は、ボルスタ22と対面している。プレス装置Sにおいては、スライド12と対向するようにボルスタ22が配置されている。スライド12のボルスタ22と対向する側の面(本実施形態では下面。)に金型3の一部としての上型3aが装着される。ボルスタ22のスライド12と対向する側の面(本実施形態では上面。)に金型3の一部としての下型3bが装着される。
【0021】
上型3aと下型3bとの間に加工対象としてのワークWを配置し、上型3aと下型3bとで押圧することにより、プレス装置SによるワークWに対するプレス加工が行われる。詳しくは、装置側コントローラ14により制御されて駆動モータ4が回転する。駆動モータ4の回転が伝達機構6、クランク軸8を介してコンロッド10へと伝達され、スライド12が上下移動する。スライド12の下方移動によって上型3aと下型3bとが押圧され、ワークWのプレス加工が行われる。すなわち、プレス装置Sにおいて、駆動モータ4、伝達機構6、クランク軸8、コンロッド10、スライド12がプレス部を構成する。伝達機構6には、クランク軸8の回転速度を検知するためのロータリーエンコーダ25が設けられている。
【0022】
荷重検知手段であるセンサ51は、プレス装置SがワークWにプレス加工を行う際の金型3とワークWとの間で生じる機械的特性(本実施形態では荷重)を検知するためのものである。センサ51は、例えば、筐体2に設置された歪ゲージであってもよい。センサ51は、コンロッド10のいずれかの位置(例えば、中央近傍位置)に設置されていてもよい。
【0023】
(プレス装置のブロック図)
図2はプレス装置S及びプレス装置S周辺の構成を示すブロック図である。プレス装置Sは、上述した装置側コントローラ14及びロータリーエンコーダ25を備えている。プレス装置Sは、表示部16及び入力部18を含む表示設定器53も備えている。なお、本実施形態では、プレス装置Sが表示設定器53を備える構成としたが、プレス装置Sとは別に表示設定器を設けてもよい。
【0024】
荷重計LSはプレス装置Sに取り付けられており、
図1で説明したセンサ51と荷重収集用のコントローラ52とを有する。荷重収集用のコントローラ52は、記憶部52aを有している。荷重収集用のコントローラ52は、センサ51によって検知された値を荷重値に変換し、収集が開始されたタイミングを基準として、例えば、時刻t1の荷重値Lt1、時刻t2の荷重値Lt2、・・・、時刻tnの荷重値Ltn、・・・のように、時刻と荷重値とを対応付けて、記憶部52aに記憶する。すなわち、荷重収集用のコントローラ52は、センサ51により検知した荷重値Ltnを一の加工中に所定の時間間隔で収集し、収集した荷重値Ltnと、荷重値Ltnを収集した時刻tnとを対応付けて記憶部52aに記憶する収集手段として機能する。なお、記憶部52aには、荷重値を収集した時刻と荷重値とが対応するように記憶されていればよく、上述した方法に限定されない。
【0025】
荷重収集用のコントローラ52は、予め設定された所定の時間間隔(以下、サンプリング間隔という)で荷重値を収集している。荷重収集用のコントローラ52は、1回の加工中(一の加工中)に収集した複数の荷重値から、荷重値の収集が開始されてから終了するまでの荷重値の特性を示す、後述する
図3のような波形を得る。以降、
図3のような波形を荷重波形という。例えば、荷重収集用のコントローラ52は、表示設定器53によって予め設定された収集数分の荷重波形を収集し、記憶部52aに収集数分の荷重波形を記憶しておき、後述する異常検出の際に、記憶部52aから収集数分の荷重波形を読み出してこれらの平均の荷重波形(以下、平均波形ともいう)を求める。また、荷重収集用のコントローラ52は、収集数分の荷重波形の平均波形を予め求め、求めた平均波形を記憶部52aに記憶しておいてもよい。求められた平均波形は、次の加工時に収集される荷重値との比較に用いられるマスター波形となる。
【0026】
本実施形態では、荷重収集用のコントローラ52は、複数の加工において収集され記憶部52aに記憶されている略同じ時刻tnに対応付けられた複数の荷重値Ltnの平均値を求め、略同じ時刻tnにセンサ51により検知された荷重値Ltnが、平均値を含む所定の範囲内に入っている場合には荷重値Ltnを正常と判断し、略同じ時刻tnにセンサ51により検知された荷重値Ltnが、所定の範囲内に入っていない場合には荷重値Ltnを異常と判断する。荷重収集用のコントローラ52は、加工時の異常の検出処理を行う異常検出手段として機能する。
【0027】
荷重収集用のコントローラ52は、加工中に荷重値を収集し、収集した荷重値とマスター波形とを比較し、現在の荷重値と現在の荷重値の時刻に対応するマスター波形の荷重値との差分が、予め設定された許容値を超えた場合、許容値を超えたことをカウントする変数をインクリメントしたり、現在の荷重値が許容値を超えたことを装置側コントローラ14に通知したりする。なお、本実施形態では、荷重値が許容値を1回超えただけでは装置側コントローラ14への通知は行わず、所定の回数を超えた場合に装置側コントローラ14に通知するものとして説明する。
【0028】
装置側コントローラ14は、プレス装置Sの運転が開始され、ロータリーエンコーダ25の検知結果に基づき、クランク軸8の角度が予め設定された荷重波形の収集を開始する角度になったと判断したときに、荷重波形の収集を開始するよう指示する信号(以下、荷重波形の収集開始信号という)を荷重収集用のコントローラ52に出力する。また、装置側コントローラ14は、プレス装置Sの加工が終了し、ロータリーエンコーダ25の検知結果に基づき、クランク軸8の角度が予め設定された荷重波形の収集を終了する角度なったと判断したときに、荷重波形の収集を終了するよう指示する信号(以下、荷重波形の収集終了信号という)を荷重収集用のコントローラ52に出力する。装置側コントローラ14は、クランク軸8の角度を検知する角度検知手段として機能する。
【0029】
表示設定器53は、荷重の異常を検出するために必要な設定値を入力するためのものである。表示設定器53では、サンプリング間隔、荷重波形の収集数、荷重波形の変差許容値、波形比較開始荷重等が入力される。ここで、荷重波形の収集数とは、荷重波形の平均波形を求めるための収集数である。例えば、過去1回の加工のみの荷重波形をマスター波形とすると、その荷重波形にノイズが含まれていた場合、次の加工でノイズが含まれない正常な荷重波形が得られたとしても、マスター波形からずれてしまうため、異常として検出されてしまう。このため、マスター波形を求める際には、過去の複数回の加工において収集された複数の荷重波形の平均をとることで、ノイズによる誤検出を減らすようにしている。
【0030】
また、荷重波形の変差許容値とは、現在の荷重値について平均波形から許容されるずれ量である。平均波形の所定の時刻の荷重値にこのずれ量を加算すると上限許容値L1となり、荷重値からこのずれ量を減算すると下限許容値L2となる。本実施形態では、上限許容値L1と下限許容値L2を用いて、現在の荷重値が平均波形からずれているか否かを判断する。すなわち、荷重収集用のコントローラ52は、現在の荷重値が平均波形を含む所定の範囲内に入っているか否かによって異常の検出処理を行う。更に、波形比較開始荷重とは、平均波形と現在の荷重値との比較、言い換えれば異常の検出処理を開始するトリガとなる荷重値の所定の閾値Lsである。
【0031】
(従来の荷重の監視)
図3は、本実施形態との比較のために、従来の荷重の監視方法を説明するグラフである。
図3のグラフは、横軸は時間[ミリ秒(msec)]、縦軸は荷重[キロニュートン(kN)]をそれぞれ示す。加工が開始されてから加工が終了するまでの所定の時間内に、荷重収集用のコントローラ52は、センサ51によって検知した値を荷重値Ltに変換し、荷重値Ltの収集を所定のサンプリング間隔で行っている。荷重収集用のコントローラ52は、複数の加工において荷重値Ltを収集し、平均波形を求める。
【0032】
図3(a)は従来の荷重波形を示すグラフである。複数の加工において実線で示す平均波形が求められる。平均波形は比較に用いられるマスター波形である。破線で示す2つのグラフは設定許容値を示し、上が上限許容値L1を示し、下が下限許容値L2を示している。すなわち、収集された荷重値Ltが上限許容値L1と下限許容値L2との間に入っていれば、その荷重値Ltは正常と判断される。
【0033】
図3(b)は従来の荷重波形を示すグラフで、荷重値の異常が検出される場合の荷重波形を示す。実線は、現在の加工において収集された荷重波形(収集荷重波形)を示す。
図3(b)では、現在の荷重値Ltがマスター波形から大きくずれており(図中、太線部分)、荷重収集用のコントローラ52は、荷重値Ltとマスター波形との差分が許容値を超えたことをカウントする変数をインクリメントする。荷重収集用のコントローラ52は、荷重値Ltとマスター波形との差分が許容値を超えた回数が所定の回数を超えた場合には、装置側コントローラ14に加工の異常を通知する。装置側コントローラ14は、荷重収集用のコントローラ52から加工の異常を通知されると、プレス装置Sを停止させる。
【0034】
ここで、従来の荷重の監視は、荷重波形の収集開始のタイミングと荷重波形の監視開始のタイミングとが略同時となっている(
図3(a)参照)。ここで、荷重波形の監視とは、収集した荷重値Ltが上限許容値L1と下限許容値L2との間に入っているか否か、すなわち、荷重値Ltが正常か否かを監視することであり、荷重値Ltの異常の検出処理を行うことである。
【0035】
上述したように、荷重収集用のコントローラ52は、装置側コントローラ14から荷重波形の収集開始信号が入力されると荷重値Ltの収集を開始する。装置側コントローラ14は、ロータリーエンコーダ25の検知結果に基づき、クランク軸8の角度が所定の角度になったことに応じて、荷重波形の収集開始信号を出力する。このように、荷重波形の収集開始のタイミングは、プレス装置S側の角度検知に基づいて決定されるものであるため、ばらつくことがある。例えばロータリーエンコーダ25の検知結果に基づく角度の検出精度が1度程度である場合、1度のずれが時間にして3ミリ秒ずれるといったことも起こりうる。プレス装置Sの加工において3ミリ秒の時間のずれは大きく、荷重波形の収集開始のタイミングが大きくずれてしまうおそれがある。
【0036】
図3(c)は従来の荷重波形を示すグラフで、荷重値Ltに異常はないものの、上述した荷重波形の収集開始のタイミングが、Δtミリ秒ずれてしまった場合を示すグラフである。
図3(c)では、マスター波形を一点鎖線で示し、現在の加工において収集された荷重波形を実線で示す。収集された荷重値Lt自体には異常はないが、荷重の監視タイミングがずれてしまったために、マスター波形からずれてしまい、荷重収集用のコントローラ52は、荷重値Ltが所定の回数を超えて許容値を超えたため、加工の異常を装置側コントローラ14に通知する(矢印α部分)。装置側コントローラ14は、加工の異常が通知されたため、プレス装置Sの動作を停止させてしまう。本実施形態では、この課題を解決するため、比較開始のタイミングとして荷重値Ltの立上りを使用し、そこから監視を開始することによって、荷重波形の収集開始のタイミングがずれた場合でも、精度よく荷重波形による監視を行う。
【0037】
(本実施形態の荷重の監視)
図4は、本実施形態における荷重の監視処理を説明するフローチャートである。プレス装置Sにおいて加工が開始されると、ステップ(以下、Sとする)401以降の処理が開始される。なお、Lsは荷重値とマスター波形との比較を開始するトリガとなる荷重値、Ltは現在行われている加工中で収集している荷重値である。また、L1は上限の荷重値であり、
図3(a)等の上側の破線で示すグラフに相当し、L2は下限の荷重値であり、
図3(a)等の下側の破線で示すグラフに相当する。更に、Nerrは荷重収集用のコントローラ52が、荷重値Ltが異常であると判断した回数を格納する変数であり、以下、異常検出回数Nerr(所定の回数)とする。Nthはプレス装置Sを停止させるか否かを判断する際の閾値である。なお、
図4のフローチャートが開始される際には、過去に求められた平均波形と、平均波形から求められた上限許容値L1及び下限許容値L2が記憶部52aに記憶されているものとする。
【0038】
S401で荷重収集用のコントローラ52は、装置側コントローラ14から荷重波形の収集開始信号を受信したか否かを判断する。S401で荷重収集用のコントローラ52は、収集開始信号を受信していないと判断した場合、処理をS401に戻し、収集開始信号を受信したと判断した場合、処理をS402に進める。荷重収集用のコントローラ52は、荷重値Ltの収集を開始する。S402で荷重収集用のコントローラ52は、現在の荷重値Ltが監視を開始するための閾値Ls以上であるか否かを判断する。S402で荷重収集用のコントローラ52は、荷重値Ltが閾値Ls未満であると判断した場合、処理をS402に戻す。このように、本実施形態では、収集した荷重値Ltが閾値Ls未満である場合には、荷重値Ltとマスター波形との比較は行わず、荷重値Ltの異常判断は行わない。
【0039】
S402で荷重収集用のコントローラ52は、荷重値Ltが閾値Ls以上であると判断した場合、処理をS403に進める。S403で荷重収集用のコントローラ52は、荷重波形の監視、すなわち、現在の荷重値Ltとマスター波形とを比較し、比較結果に基づく荷重値Ltの異常検出を開始する。また、異常検出回数Nerrを0に初期化する。S404で荷重収集用のコントローラ52は、現在の荷重値Ltが上限許容値L1以下であるか否かを判断し、現在の荷重値Ltが上限許容値L1以下であると判断した場合、処理をS405に進め、荷重値Ltが上限許容値L1よりも大きいと判断した場合、処理をS409に進める。なお、ここで用いられるマスター波形に基づく上限許容値L1及び下限許容値L2は、現在の荷重値Ltが検知された時刻に対応する値が用いられている。
【0040】
S405で荷重収集用のコントローラ52は、荷重値Ltが下限許容値L2以上であるか否かを判断し、荷重値Ltが下限許容値L2以上であると判断した場合、処理をS406に進め、荷重値Ltが下限許容値L2よりも小さいと判断した場合、処理をS409に進める。現在の荷重値Ltが下限許容値L2以上で上限許容値L1以下である場合、荷重収集用のコントローラ52は、荷重値Ltは正常であると判断する。
【0041】
S406で荷重収集用のコントローラ52は、装置側コントローラ14から荷重波形の収集終了信号を受信したか否かを判断し、収集終了信号を受信していないと判断した場合、処理をS407に進め、収集終了信号を受信したと判断した場合、処理をS408に進める。S407で荷重収集用のコントローラ52は、次に収集する荷重値Ltとの比較を行うため、マスター波形における次の時刻の上限許容値L1及び下限許容値L2を記憶部52aから読み出しておき、処理をS404に戻す。
【0042】
S408で荷重収集用のコントローラ52は、1つの加工における荷重値Ltの収集を完了する。また、荷重収集用のコントローラ52は、1つの加工における荷重値Ltとマスター波形との比較による荷重値の異常検出(荷重波形の監視)を終了する。荷重収集用のコントローラ52は、次の加工において検知される荷重値Ltと比較するため、現在完了した加工において収集した荷重値Ltを用いて、次の荷重波形の監視で用いられる上限許容値L1、下限許容値L2を再計算する。言い換えれば、現在完了した加工において収集した荷重波形も考慮して新たなマスター波形が求められる。
【0043】
S409で荷重収集用のコントローラ52は、荷重値Ltが下限許容値L2と上限許容値L1の範囲内に入っておらず、異常な値となっているため、異常検出回数Nerrに1を加算する(Nerr=Nerr+1)。S410で荷重収集用のコントローラ52は、異常検出回数Nerrが予め設定された閾値Nthより大きいか否かを判断し、異常検出回数Nerrが閾値Nth以下であると判断した場合、処理をS406に進める。この場合、異常を検出した回数の許容値である閾値Nthより検出回数が同じ又は少ないため、荷重値Ltの収集を続行することとなる。
【0044】
S410で荷重収集用のコントローラ52は、異常検出回数Nerrが閾値Nthより大きいと判断した場合、処理をS411に進める。この場合、異常を検出した回数の許容値である閾値Nthより異常検出回数が多いため、S411で荷重収集用のコントローラ52は、加工に異常が発生していると判断し、加工異常であることを装置側コントローラ14に通知する。装置側コントローラ14は、加工に異常が発生しているため、プレス装置Sを停止させて、処理を終了する。
【0045】
図5は、本実施形態の荷重値Ltの監視処理を行った場合のグラフであり、横軸は時間(msec)、縦軸は荷重(kN)である。
図5において、実線は収集した荷重値Ltから求めた荷重波形を示し、破線はマスター波形を示す。従来は、
図3(a)に示すように、荷重波形の収集開始のタイミングと荷重波形の監視開始のタイミングとは同じタイミングであった。一方、
図5に示すように、本実施形態では、荷重波形の収集が開始された後も、収集された荷重値Ltが閾値Ls以上となるまでは荷重波形の監視(荷重値Ltとマスター波形との比較)は開始されない。このように、本実施形態では、荷重値Ltとマスター波形との比較開始を荷重波形の収集開始に合わせるのではなく、荷重値Ltが設定された荷重値Lsと等しいか、又はそれ以上になったタイミングで、荷重波形の比較を開始する。これにより、荷重収集の開始のタイミングが装置側コントローラ14の遅延やプレス装置Sの回転数の変動等で変動した場合でも、荷重値Ltとマスター波形との正確な比較が可能となる。
【0046】
以上、本発明の好ましい実施の形態を説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、その要旨の範囲内で様々な変形や変更が可能である。例えば、センサ51による荷重値Ltの検知精度が高い場合には、
図4のS404の判断又はS405の判断で荷重値Ltが下限許容値L2と上限許容値L1との間に入っていなかった場合、S409、S410の判断を行わずにS411でプレス装置Sを停止させてもよい。また、本実施形態では、荷重収集用のコントローラ52が加工の異常を装置側コントローラ14に通知する構成とした。しかし、装置側コントローラ14が上述した荷重収集用のコントローラ52の全て又は一部の機能を発揮してもよい。更に、マスター波形を求める際に、表示設定器53により設定された収集数は、設定された回数分の過去の荷重波形でなくてもよく、任意に選択された荷重波形を比較対象として用いてもよい。
【0047】
以上、本実施形態によれば、加工時の荷重の監視を精度よく行い、より正確な加工の異常検出を行うことができる金型プレス装置及び金型プレス方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0048】
2 筐体
3 金型
3a 上型
3b 下型
4 駆動モータ
6 伝達機構
8 クランク軸
10 コンロッド
12 スライド
14 装置側コントローラ(制御手段)(角度検知手段)
16 表示部
18 入力部
22 ボルスタ
25 ロータリーエンコーダ
51 センサ(荷重検知手段)
52 荷重収集用のコントローラ(収集手段)(異常検出手段)
52a 記憶部
53 表示設定器
S プレス装置(金型プレス装置)
W ワーク