IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本特殊陶業株式会社の特許一覧

特許6990065波長変換部材、その製造方法および発光装置
<>
  • 特許-波長変換部材、その製造方法および発光装置 図1
  • 特許-波長変換部材、その製造方法および発光装置 図2
  • 特許-波長変換部材、その製造方法および発光装置 図3
  • 特許-波長変換部材、その製造方法および発光装置 図4
  • 特許-波長変換部材、その製造方法および発光装置 図5
  • 特許-波長変換部材、その製造方法および発光装置 図6
  • 特許-波長変換部材、その製造方法および発光装置 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-07
(45)【発行日】2022-01-12
(54)【発明の名称】波長変換部材、その製造方法および発光装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/20 20060101AFI20220104BHJP
   H01L 33/50 20100101ALI20220104BHJP
   H01S 5/02 20060101ALI20220104BHJP
【FI】
G02B5/20
H01L33/50
H01S5/02
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2017156646
(22)【出願日】2017-08-14
(65)【公開番号】P2019035843
(43)【公開日】2019-03-07
【審査請求日】2020-05-13
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114258
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 武雄
(72)【発明者】
【氏名】阿部 誉史
(72)【発明者】
【氏名】傳井 美史
(72)【発明者】
【氏名】早坂 愛
(72)【発明者】
【氏名】菊地 俊光
【審査官】辻本 寛司
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-225148(JP,A)
【文献】特開2015-097256(JP,A)
【文献】特開2017-027685(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/20
H01L 33/50
H01S 5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
特定範囲の波長の光を他の波長の光に変換する波長変換部材であって、
第1の基材と、
前記第1の基材と対向する第2の基材と、
前記第1の基材における前記第2の基材と対向する表面上に設けられ、吸収光に対し変換光を発する蛍光体粒子と前記蛍光体粒子同士を結合し可視光を透過する無機材料とからなる蛍光体層と、
前記第1の基材と前記第2の基材とで挟まれる領域を封止する封止部と、を備え、
前記蛍光体層と前記第2の基材との間には、可視光を透過する流動体が充填されており、
前記第1および第2の基材のうち、前記第1の基材は、可視光を透過する透過材であり、
前記第2の基材は、前記吸収光および前記変換光を反射する反射材であり、
前記流動体の混和ちょう度は、25℃以下の温度範囲で200以上400以下であることを特徴とする波長変換部材。
【請求項2】
前記流動体は、前記蛍光体層と前記第2の基材との間に加え、前記第1の基材と前記第2の基材との間において、前記第1の基材と前記第2の基材とに接触して配置されていることを特徴とする請求項1に記載の波長変換部材。
【請求項3】
前記流動体の熱伝導率は、25℃のとき0.5W/(m・K)以上であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の波長変換部材。
【請求項4】
励起波長と蛍光波長における前記流動体の光の吸収率は、15%以下であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の波長変換部材。
【請求項5】
前記流動体は、前記蛍光体層の表面に密着し、前記表面から内部につながる連通孔内に入り込んでいることを特徴とする請求項1から請求項のいずれかに記載の波長変換部材。
【請求項6】
前記流動体は、25℃で流動性を有する樹脂と前記樹脂中に分散した無機材料で形成されたフィラーとを含有し、
前記フィラーは、前記流動体内に体積比(外割)で30Vol%以上70Vol%以下存在することを特徴とする請求項1から請求項のいずれかに記載の波長変換部材。
【請求項7】
前記第1の基材の材料はサファイアであり、第2の基材の材料はアルミニウムであることを特徴とする請求項に記載の波長変換部材。
【請求項8】
特定範囲の波長の光源光を発生させる光源を備える発光装置であって、
前記光源光を吸収し、他の波長の光に変換し発光する請求項1から請求項のいずれかに記載の波長変換部材と、を備えることを特徴とする発光装置。
【請求項9】
特定範囲の波長の光を他の波長の光に変換する波長変換部材の製造方法であって、
無機材料からなる第1の基材に対し、無機バインダ、分散媒および蛍光体粒子を混合したペーストを塗布する工程と、
前記第1の基材上に塗布されたペーストを乾燥させて熱処理することで蛍光体層を形成する工程と、
前記蛍光体層上に流動体を注入する工程と、
第2の基材と前記第1の基材との間を封止する工程と、を含み、
前記第1および第2の基材のうち、前記第1の基材は、可視光を透過する透過材であり、
前記第2の基材は、前記吸収光および前記変換光を反射する反射材であり、
前記流動体の混和ちょう度は、25℃以下の温度範囲で200以上400以下であることを特徴とする製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定範囲の波長の光を他の波長の光に変換する波長変換部材、その製造方法および発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光体を用いた発光装置として、高出力のレーザダイオード(LD)を励起源として用いたアプリケーションが増えてきている。このようなアプリケーションは、エネルギー効率が高く、装置の小型化やレーザの高エネルギー密度(10~200W/mm)化に対応しやすい。しかし、従来用いられていたエポキシやシリコーンなどに代表される樹脂に蛍光体粒子を分散させた構造の蛍光体層では、レーザ照射箇所の樹脂が焼け焦げてしまい、高出力のレーザダイオード(LD)を励起源として用いたアプリケーションに用いることができなかった。
【0003】
これに対しては、蛍光体層に無機バインダを用いて耐熱性を向上させる方法がある。無機バインダを用いた蛍光体層は、例えば以下のようにして生成できる。まず、蛍光体粉末を分散溶媒と混合させ、無機バインダを添加しペーストを作製する。そして、スクリーン印刷法にてペーストを塗布し基材に膜を形成させたものを焼成して無機バインダを用いた蛍光体層を生成できる。
【0004】
このような無機バインダを用いた蛍光体層の応用例として、回路基板上に取り付けられるLED素子内に設けられ青色の光を白色に変換する蛍光体プレートが知られている(特許文献1)。また、無機微粒子を含有するポリシラザンを原料として蛍光体粒子を混合させて無機バインダを用いた蛍光体層を備えた蛍光体プレートを作製する方法が知られている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2004-200531号公報
【文献】国際公開第2011/077548号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように無機バインダを用いた蛍光体層を備えた波長変換部材は、その構造自体に耐熱性を有している。しかしながら、このような波長変換部材に高出力かつ高エネルギー密度のレーザを照射した際には、局所的に高温となり、温度消光により蛍光体粒子の発光性能が低下する。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、高エネルギー密度のレーザを照射した際の温度消光による発光性能の低下を抑止できる波長変換部材、その製造方法および発光装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)上記の目的を達成するため、本発明の波長変換部材は、特定範囲の波長の光を他の波長の光に変換する波長変換部材であって、第1の基材と、前記第1の基材と対向する第2の基材と、前記第1の基材における前記第2の基材と対向する表面上に設けられ、吸収光に対し変換光を発する蛍光体粒子と前記蛍光体粒子同士を結合し可視光を透過する無機材料とからなる蛍光体層と、前記第1の基材と前記第2の基材とで挟まれる領域を封止する封止部と、を備え、前記蛍光体層と前記第2の基材との間には、可視光を透過する流動体が充填されており、前記第1および第2の基材の少なくとも一方は、可視光を透過することを特徴としている。
【0009】
これにより、流動体を介して、蛍光体粒子の発光時に生じる熱を第2の基材に効率的に逃がすとともに、流動体内で光を透過させることができる。その結果、高エネルギー密度のレーザを照射した際の温度消光による発光性能の低下を抑止できる。
【0010】
(2)また、本発明の波長変換部材は、前記流動体が、前記蛍光体層と前記第2の基材との間に加え、前記第1の基材と前記第2の基材との間において、前記第1の基材と前記第2の基材とに接触して配置されていることを特徴としている。これにより、蛍光体粒子の発光時に生じる熱を蛍光体層の外側にも広く拡散して第2の基材に伝達し、性能低下を抑制できる。
【0011】
(3)また、本発明の波長変換部材は、前記流動体の熱伝導率が、25℃のとき0.5W/(m・K)以上であることを特徴としている。これにより、流動体を介して蛍光体層に生じた熱を第2の基材に逃がすことができる。
【0012】
(4)また、本発明の波長変換部材は、励起波長と蛍光波長における前記流動体の光の吸収率は、15%以下であることを特徴としている。このように流動体は、熱伝導性を維持し、吸光度が低いため高い効率で光を取り出せる。
【0013】
(5)また、本発明の波長変換部材は、前記流動体の混和ちょう度が、25℃以下の温度範囲で200以上400以下であることを特徴としている。このように流動体は、流動性を有し蛍光体層と第2の基材および蛍光体層を構成する蛍光体粒子同士の一部の隙間に充填されるため、蛍光体層から第2の基材に効率よく熱を逃がすことができる。また、一定以上の粘度を有することで隙間に流動体が保持されるため、製造時にも取扱いが容易である。
【0014】
(6)また、本発明の波長変換部材は、前記流動体が、前記蛍光体層の表面に密着し、前記表面から内部につながる連通孔内に入り込んでいることを特徴としている。このように流動体が蛍光体層の表面にある連通孔に入り込んでいるため、蛍光体層と流動体との接触面積が多くなり、熱伝導性を向上できる。
【0015】
(7)また、本発明の波長変換部材は、前記流動体が、25℃で流動性を有する樹脂と前記樹脂中に分散した無機材料で形成されたフィラーとを含有し、前記フィラーは、前記流動体内に体積比(外割)で30Vol%以上70Vol%以下存在することを特徴としている。このように流動体に一定含有率のフィラーが存在することで熱伝導性を高めつつ可視光の透過を維持している。
【0016】
(8)また、本発明の波長変換部材は、前記第1の基材の材料がサファイアであり、第2の基材の材料がアルミニウムであることを特徴としている。これにより、サファイアの基材と蛍光体層との境界で生じた熱を、流動体を介してアルミニウムの基材へと逃がすことができる。
【0017】
(9)また、本発明の波長変換部材は、前記第1の基材および第2の基材の材料がサファイアであることを特徴としている。これにより、サファイアの基材と蛍光体層との境界で生じた熱を、流動体を介してもう一方のサファイアの基材へと逃がすことができる。
【0018】
(10)また、本発明の発光装置は、特定範囲の波長の光源光を発生させる光源を備える発光装置であって、前記光源光を吸収し、他の波長の光に変換し発光する上記(1)~(9)のいずれかに記載の波長変換部材と、を備えることを特徴としている。これにより、強度の大きい光源光を照射しても蛍光性能を維持できる発光装置を実現できる。
【0019】
(11)また、本発明の波長変換部材の製造方法は、特定範囲の波長の光を他の波長の光に変換する波長変換部材の製造方法であって、無機材料からなる第1の基材に対し、無機バインダ、分散媒および蛍光体粒子を混合したペーストを塗布する工程と、前記第1の基材上に塗布されたペーストを乾燥させて熱処理することで蛍光体層を形成する工程と、前記蛍光体層上に流動体を注入する工程と、第2の基材と前記第1の基材との間を封止する工程と、を含むことを特徴としている。これにより、高エネルギー密度の光の照射に対して、効率よく放熱でき、蛍光体層の温度消光を抑制できる波長変換部材を製造できる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、流動体を介して、蛍光体粒子の発光時に生じる熱を第2の基材に効率的に逃がすとともに、流動体内で光を透過させることができる。その結果、高エネルギー密度のレーザを照射した際の温度消光による発光性能の低下を抑止できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】第1の実施形態の波長変換部材を示す断面図である。
図2】第1の実施形態の反射型の発光装置を示す模式図である。
図3】(a)、(b)、(c)、(d)それぞれ第1の実施形態の波長変換部材の作製工程を示す模式図である。
図4】第2の実施形態の波長変換部材を示す断面図である。
図5】第3の実施形態の透過型の発光装置を示す模式図である。
図6】波長変換部材に対する反射型の評価システムを示す模式図である。
図7】各試料のレーザパワー密度に対する発光強度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては同一の参照番号を付し、重複する説明は省略する。なお、構成図において、各構成要素の大きさは概念的に表したものであり、必ずしも実際の寸法比率を表すものではない。
【0023】
(第1の実施形態)
[波長変換部材の構成]
図1は、波長変換部材100を示す断面図である。波長変換部材100は、透過材110(第1の基材)、蛍光体層120、反射材130(第2の基材)、流動体140および封止部150を備え、板状に形成されている。なお、第1の基材は蛍光体層が直接接する基材を指し、第2の基材は流動体を介して蛍光体層に接する基材を指すが、便宜上、以下では光を透過するか反射するかに応じて基材を透過材または反射材と呼ぶ。波長変換部材100は、光源光を反射材130で反射させつつ、光源光により特定範囲の波長の光を他の波長の光に変換する。
【0024】
(透過材)
透過材110は、無機材料からなり、光を透過する。透過材110は、蛍光体層120よりも熱伝導率の高いことが好ましい。高い熱伝導性を有する透過材110を採用することで、蛍光体層120内の熱を放出し、蛍光体粒子の温度上昇を抑制でき、温度消光を防止できる。透過材110は、サファイア、ガラス等の透光性を有する材料を用いることができ、特にサファイアからなることが好ましい。これにより、光を透過させながら高い熱伝導性を維持できる。
【0025】
(反射材)
反射材130は、アルミニウム、鉄、銅等の金属等の光を反射させる板状の無機材料で形成でき、特にアルミニウム板であることが好ましい。反射材130(第2の基材)は、透過材110(第1の基材)に対向して設けられている。反射材130には、反射率を上げるために鏡面加工を施したり、高反射膜(例えばAgコート)を付与したりしてもよい。また、ガラスやサファイアの上にミラーコートを施したものを反射材130として用いてもよいし、メッキなどで設けてもよい。反射材130は、透過材110の反対側に配置され、表面(透過材110の対向面)を変換光の反射面とする。反射材130は、例えば、青色光の光源光を反射させつつ、蛍光体層120で変換された緑と赤や黄色の蛍光も反射させて放射できる。
【0026】
図1に示す例では、反射材130と蛍光体層120を備える透過材110とは接着剤である封止部150により拘束されている。また、後述のように外部の力で、外周を留めるホルダにより拘束されていてもよい。蛍光体層120と反射材130とは、直接に固着されているわけではないため、熱膨張差による破壊等を防止できる。接着剤は全面ではなく部分的に塗られているため熱膨張差で剥がれることを十分に抑制できる。
【0027】
(蛍光体層)
蛍光体層120は、透過材110に接合された膜として透過材110(第1の基材)における反射材130(第2の基材)と対向する表面上に設けられている。蛍光体層120は、蛍光体粒子122と透光性の無機材料121とで形成されている。無機材料121は、蛍光体粒子122同士を結合するとともに透過材110と蛍光体粒子122とを結合している。これにより、高エネルギー密度の光の照射に対して、照射側の熱が発生しやすい部分が、放熱材として機能する透過材110に直接接合されているため効率よく放熱でき、蛍光体の温度消光を抑制できる。蛍光体層120は、蛍光体粒子122および無機材料121からなる。蛍光体粒子122は、吸収光に対し変換光を発し、無機材料121は可視光を透過する。
【0028】
蛍光体層120は、透過材110に化学結合で接合されているため、蛍光体層120から透過材110への熱伝導が高くなる。また、反射材130と蛍光体層120とは、流動体140を介して接触しており流動体140の流動性により蛍光体層120と反射材130との間の熱膨張差は緩和される。また、流動体140により蛍光体層120の熱を効果的に反射材へ放熱することができる。
【0029】
無機材料121は、蛍光体粒子122を保持するための無機バインダであり、例えばシリカ(SiO)、リン酸アルミニウムで構成される。蛍光体粒子122には、例えばイットリウム・アルミニウム・ガーネット系蛍光体(YAG系蛍光体)およびルテチウム・アルミニウム・ガーネット系蛍光体(LAG系蛍光体)を用いることができる。
【0030】
その他、蛍光体粒子は、発光させる色の設計に応じて以下のような材料から選択できる。例えば、BaMgAl1017:Eu、ZnS:Ag,Cl、BaAl:EuあるいはCaMgSi:Euなどの青色系蛍光体、ZnSiO:Mn、(Y,Gd)BO:Tb、ZnS:Cu,Al、(M1)SiO:Eu、(M1)(M2)S:Eu、(M3)Al12:Ce、SiAlON:Eu、CaSiAlON:Eu、(M1)SiN:Euあるいは(Ba,Sr,Mg)SiO:Eu,Mnなどの黄色または緑色系蛍光体、(M1)SiO:Euあるいは(M1)S:Euなどの黄色、橙色または赤色系蛍光体、(Y,Gd)BO:Eu,YS:Eu、(M1)Si:Eu、(M1)AlSiN:EuあるいはYPVO:Euなどの赤色系蛍光体が挙げられる。なお、上記化学式において、M1は、Ba、Ca、SrおよびMgからなる群のうちの少なくとも1つが含まれ、M2は、GaおよびAlのうちの少なくとも1つが含まれ、M3は、Y、Gd、LuおよびTeからなる群のうち少なくとも1つが含まれる。なお、上記の蛍光体粒子は一例であり、波長変換部材に用いられる蛍光体粒子が必ずしも上記に限られるわけではない。このような構成により蛍光体層120はレーザダイオード(LD)を励起源とした青い光を照射させ複数の蛍光体粒子を用いることで指定の色へ自由に変換できる。
【0031】
流動体140は、蛍光体層120と反射材130(第2の基材)との間に充填され、可視光を透過する。これにより、流動体140を介して、蛍光体粒子の発光時に透過材110と蛍光体層120との境界に生じる熱を反射材130(第2の基材)に効率的に逃がすとともに、流動体140内で光を透過させることができる。その結果、高エネルギー密度のレーザを照射しても温度消光による波長変換部材の発光性能の低下を抑止できる。流動体140は、放熱グリス(例えば、放熱性を高めるためにセラミックや金属の粒子(フィラー)を含有するグリス)のような流動性を有する樹脂が好ましい。蛍光体層120と反射材130は、互いの表面の凹凸が接した隙間に流動体140が充填されていてもよい。
【0032】
流動体140は、蛍光体層120の表面に密着し、表面から内部につながる連通孔内に入り込んでいる。このように流動体140が蛍光体層120の表面にある連通孔に入り込んでいるため、蛍光体層120と流動体140との接触面積が多くなり、熱伝導性を向上できる。
【0033】
流動体140は、蛍光体層120と反射材130(第2の基材)との間に加え、透過材110(第1の基材)と反射材130(第2の基材)との間で両基材に接触して配置されていることが好ましい。これにより、蛍光体粒子の発光時に生じる熱を蛍光体層120の外側にも広く拡散して反射材130に伝達し、温度消光による性能低下を抑制できる。
【0034】
流動体140の熱伝導率は、25℃のとき0.5W/(m・K)以上であることが好ましく、また0.8W/(m・K)以上がより好ましい。これにより、流動体140を介して蛍光体層120に生じた熱を効率的に反射材130(第2の基材)に逃がすことができる。例えば流動体140を備えず、当該部分が乾燥空気で充填されている場合、乾燥空気の熱伝導率は0.0241W/(m・K)であり、熱伝導率が低いため、熱を効率的に反射材130(第2の基材)に逃がすことは困難となる。
【0035】
励起波長と蛍光波長における流動体140の光の吸収率は、15%以下であることが好ましい。このように流動体140は、熱伝導性を維持し、吸光度が低いため高い効率で光を取り出せる。なお、ここでいう励起波長とは、励起源(レーザ等)から照射された光の波長であり、蛍光波長とは、励起源の光を受けて蛍光体層から発した光の波長である。吸光度の測定は、サファイア基材に流動体140を塗布して分光光度計にて測定することができる(JIS K 0115:2004 吸光光度分析通則)。
【0036】
流動体140の混和ちょう度は、25℃以下の温度範囲で200以上400以下であり、好ましくは300以上である。混和ちょう度とは、放熱グリスを規定の混和器で60往復だけ混和した直後のちょう度(JISK 2220)であり、放熱グリスの硬さと流動性を示す指標として用いられる。このように流動体140は、流動性を有し隙間に充填されるため、蛍光体層120から反射材130(第2の基材)に効率よく熱を逃がすことができる。また、一定以上の粘度を有することで隙間に流動体140が保持されるため、製造時にも取扱いが容易である。
【0037】
流動体140は、25℃で流動性を有する樹脂と樹脂中に分散した無機材料で形成されたフィラーを含有していることが好ましい。フィラーは、アルミナ、チタニア、酸化亜鉛等、可視光を透過するセラミックで構成されていることが好ましい。また、フィラーは、流動体140内に体積比(外割)で30Vol%以上70Vol%以下存在することが好ましい。このように流動体140に一定含有率のフィラーが存在することで熱伝導性を高めつつ可視光の透過を維持している。
【0038】
封止部150は、透過材110(第1の基材)と反射材130(第2の基材)とで挟まれる領域を封止する。封止部150は、例えば接着剤で構成される。接着剤には、エポキシ樹脂のような熱硬化性樹脂を用いることができる。
【0039】
[発光装置の構成]
図2は、反射型の発光装置10を示す模式図である。図2に示すように、発光装置10は、光源50および波長変換部材100を備え、例えば波長変換部材100で反射した光源光および波長変換部材100内で光源光による励起で発生した光を合わせて照射光を放射している。照射光は例えば白色光とすることができる。
【0040】
光源50には、LED(Light Emitting Diode)またはLD(Laser Diode)のチップを用いることができる。LEDは、発光装置10の設計に応じて特定範囲の波長を有する光源光を発生させる。例えば、LEDは、紫外光、紫色光または青色光を発生させる。また、LDを用いた場合には波長や位相のばらつきの少ないコヒーレント光を発生できる。なお、光源50は、これらに限られず、可視光以外を発生させるものであってもよいが、紫外光、紫色光、青色光または緑色光を発生させるものが好ましい。このような発光装置10は、例えば工場、球場や美術館等の高所から広範囲を照らす公共施設の照明、または自動車のヘッドランプ等の長距離を照らす照明に応用すると高い効果が見込める。
【0041】
[波長変換部材の作製方法]
図3(a)、(b)、(c)、(d)は、それぞれ波長変換部材の作製工程を示す模式図である。まず無機バインダ、分散媒、蛍光体粒子を準備する。好ましい無機バインダとして、例えばエタノールにシリコンの前駆体を溶かして得られたエチルシリケートを用いることができる。
【0042】
その他、無機バインダは、加水分解あるいは酸化により酸化ケイ素となる酸化ケイ素前駆体、ケイ酸化合物、シリカ、およびアモルファスシリカからなる群のうちの少なくとも1種を含む原料を、常温で反応させるか、または、500℃以下の温度で熱処理することにより得られたものであってもよい。酸化ケイ素前駆体としては、例えば、ペルヒドロポリシラザン、エチルシリケート、メチルシリケートを主成分としたものが挙げられる。
【0043】
また、分散媒としては、ブタノール、イソホロン、テルピネオール、グリセリン等の高沸点溶剤を用いることができる。蛍光体粒子には、例えばYAG、LAG等の粒子を用いることができる。光源光に対して得ようとする照射光に応じて蛍光体粒子の種類や量を調整する。例えば、青色光に対して白色光を得ようとする場合には、青色光による励起で緑色光および赤色光または黄色光を放射する蛍光体粒子をそれぞれ適量選択する。
【0044】
図3(a)に示すように、これらの無機バインダ、分散媒、蛍光体粒子を混合してペースト(インク)410を作製する。混合にはボールミル等を用いることができる。一方で、無機材料の透過材110を準備する。透過材110には、ガラス、サファイアを用いることができる。透過材110は板状であることが好ましい。
【0045】
次に、図3(b)に示すように、スクリーン印刷法を用いて、得られたペースト410を透過材110に塗布する。スクリーン印刷は、ペースト410をインキスキージ510で、枠に張られたシルクスクリーン520に押しつけて行なうことができる。スクリーン印刷法以外に、スプレー法、ディスペンサーによる描画法、インクジェット法が挙げられるが、薄い厚みの蛍光体層を安定的に形成するためにはスクリーン印刷法が好ましい。なお、印刷に限らずその他の塗布の方法を行なってもよい。
【0046】
そして、印刷されたペースト410を乾燥させて、炉600内で熱処理することで溶剤を飛ばすとともに無機バインダの有機分を飛ばして無機バインダ中の主金属を酸化(主金属がSiの場合はSiO化)させ、その際に蛍光体層120と透過材110とを接着する。このようにして透過材110上に印刷されたペーストを乾燥させて熱処理することで蛍光体層を形成する。そして、蛍光体層の表面上に流動体140を注入する。例えば流動体140として放熱グリスを蛍光体層の表面上に塗布する。
【0047】
蛍光体層120上に光を反射する無機材料からなる反射材130を配置し、接着する。このようにして透過材110(第1の基材)と反射材130(第2の基材)との間を封止する。これにより、高エネルギー密度の光の照射に対して、効率よく放熱でき、蛍光体の温度消光を抑制できる波長変換部材100を製造できる。なお、発光装置は、波長変換部材をLED等の光源に対して受光できるように配置して作製することができる。
【0048】
(第2の実施形態)
上記の実施形態では、透過材110(第1の基材)と反射材130(第2の基材)とを接着剤からなる封止部150で結合、封止しているが、例えばOリングのような環状の弾性体をシール材として封止部に用い、外周を留めるホルダにより両方の基材を拘束してもよい。
【0049】
図4は、Oリング250およびホルダ260を用いた波長変換部材を示す断面図である。図4に示すように、透過材110と反射材130とで蛍光体層120を挟む構造体を外側からホルダ260で拘束している。ホルダ260と透過材110との間およびホルダ260と反射材130との間にはそれぞれOリング250(封止部)が噛まされており、流動体140を封止している。
【0050】
(第3の実施形態)
上記の実施形態では、第2の基材が反射材で形成されているが、第1の基材および第2の基材がいずれも透過材であってもよい。その場合には、透過材の材料としてサファイアが好ましい。透過材と蛍光体層との境界で生じた熱を、流動体140を介してもう一方の透過材へと逃がすことができる。
【0051】
図5は、透過型の発光装置20を示す模式図である。図5に示すように、発光装置30は、光源50および波長変換部材300を備え、波長変換部材300で透過した光源光および波長変換部材100内で光源光による励起で発生した蛍光を合わせて照射光を放射している。
【0052】
波長変換部材300は、透過材110(第1の基材)、蛍光体層120、透過材330(第2の基材)、流動体140および封止部150を備え、板状に形成されている。蛍光体層120は、透過材110に接合された膜として透過材110(第1の基材)における透過材330(第2の基材)と対向する表面上に設けられている。透過材330(第2の基材)は、透過材110(第1の基材)に対向して設けられており、透過材110(第1の基材)と同様にサファイア等で形成されることが好ましい。光源光が蛍光体層へ入射する位置が発熱しやすいことから、光源光側に透過材110(第1の基材)と蛍光体層の結合面があり、照射光を放射する側に流動体140が充填されていることが好ましい。ただし、逆の配置であってもよい。
【0053】
[実施例]
(1)試料の作製方法
実施例および比較例の波長変換部材を作製した。まず、エチルシリケートとテルピネオールをYAG蛍光体粒子(平均粒子径6μm)と混合してペーストを作製した。
【0054】
作製されたペーストを、スクリーン印刷法を用いて20μmの厚みになるよう透過材となるサファイア板に塗布し、熱処理して中間部材を得た。このとき同じ条件で2つのサファイア板に対して行ない、2つの中間部材を得た。
【0055】
一つの中間部材上に流動体を注入しアルミニウム板の反射材を載せて透過材に接着することで実施例としての波長変換部材を作製した。中間部材の蛍光体層の表面に放熱グリス(シリコン系)を均一に塗布した。その際に厚みは20μm程度になるように調整した。実施例における流動体としては、サンハヤト(株)の放熱用シリコン(SCH-30)を使用した。300℃以上の熱で剥離しない接着剤を、中間部材の蛍光体層が設けられていない側のサファイア基材外周部分に蛍光体層の層厚以上で蛍光体層に触れないように塗布した。そして、アルミニウム基板を放熱グリスと接着剤を塗布した面に張り合わせ、大気中で300℃にて熱処理して固定させた。このようにして実施例としての波長変換部材を作製した。
【0056】
また、もう一つの中間部材には流動体を注入せずに、同様に接着剤を介してアルミニウム板の反射材を透過材に接着し、比較例としての波長変換部材を作製した。本比較例では、蛍光体層と反射材とを接触させて配置したが、蛍光体層の表面の凹凸により、蛍光体層と反射材は部分的にしか接触していなかった。
【0057】
(2)評価方法
上記のようにして得られた実施例、比較例に対して発光強度を評価した。具体的には試料にレーザを照射し、レーザ入力値に対する蛍光の発光強度を調べた。波長445nmのレーザを2Wの入力で照射し、発光強度測定を実施した。集光レンズにより照射径は0.03mmに調整した。なお、蛍光の発光強度とは、上記の評価システムを用いた場合に輝度計に示される数字を無次元化した相対強度である。
【0058】
図6は波長変換部材に対する反射型の評価システム700を示す模式図である。図6に示すように、反射型の評価システム700は、光源710、平面凸レンズ720、両凸レンズ730、バンドパスフィルタ735、パワーメータ740で構成されている。波長変換部材100からの反射光を集光して測定できるように各要素が配置されている。
【0059】
バンドパスフィルタ735は、波長480nm以下の光をカットするフィルタであり、蛍光の発光強度を測定する際に、透過した光源光(励起光)を蛍光と切り分けるために、両凸レンズとパワーメータの間に設置される。
【0060】
平面凸レンズ720に入った光源光は、波長変換部材の試料S上の焦点へ集光される。そして、試料Sから生じた放射光を両凸レンズ730で集光し、その集光された光について波長480nm以下をカットした光の強度をパワーメータ740で測定する。この測定値を蛍光の発光強度とする。レーザ光をレンズで集光し、照射面積を絞ることで、低出力のレーザでも単位面積あたりのエネルギー密度が上げられる。このエネルギー密度をレーザパワー密度とする。
【0061】
図7は、各試料のレーザパワー密度に対する発光強度を示すグラフである。放熱グリスを充填していない比較例は40W/mmで蛍光が消光してしまうのに対し、アルミニウム板と蛍光体層との間に放熱グリスを充填した実施例では、63W/mmで蛍光の消光が確認された。このように実施例および比較例を評価したところ、消光を示すピークを迎えるまでに投入するエネルギーは比較例より実施例の方が高くなった。
【符号の説明】
【0062】
10、30 発光装置
50 光源
100 波長変換部材
110 透過材(第1の基材)
120 蛍光体層
121 無機材料
122 蛍光体粒子
130 反射材(第2の基材)
140 流動体
150 封止部
250 Oリング(封止部)
260 ホルダ
300 波長変換部材
330 透過材(第2の基材)
410 ペースト
510 インキスキージ
520 シルクスクリーン
600 炉
700 評価システム
710 光源
720 平面凸レンズ
730 両凸レンズ
735 バンドパスフィルタ
740 パワーメータ
S 試料
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7