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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-07
(45)【発行日】2022-01-12
(54)【発明の名称】回転速度算出装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 6/17 20160101AFI20220104BHJP
   G01P 3/46 20060101ALI20220104BHJP
【FI】
H02P6/17
G01P3/46 X
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2017193599
(22)【出願日】2017-10-03
(65)【公開番号】P2019068665
(43)【公開日】2019-04-25
【審査請求日】2020-09-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000113791
【氏名又は名称】マブチモーター株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100114937
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 裕幸
(72)【発明者】
【氏名】藤井 俊兵
【審査官】大島 等志
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-230531(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 6/17
G01P 3/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブラシレスモータの回転速度算出装置であって、
前記ブラシレスモータのコイルを流れる電流の大きさを取得する電流取得部と、
前記ブラシレスモータに供給される供給電圧を取得する供給電圧取得部と、
前記電流取得部が取得する前記電流の大きさと、前記供給電圧取得部が取得する前記供給電圧と、前記電流の大きさと、前記供給電圧とに基づいて前記ブラシレスモータの回転速度を求める電圧方程式とに基づいて前記回転速度を算出する算出部と
を備え、
前記電圧方程式は、前記ブラシレスモータのコイルの巻線のインダクタンスによる電圧降下を表す項が、前記電流に比例する因子と前記ブラシレスモータの回転速度に比例する因子との積によって表される方程式である
回転速度算出装置。
【請求項2】
前記算出部は、前記ブラシレスモータのコイルを流れる前記電流の平均値と、前記供給電圧取得部が取得する前記供給電圧と、前記電圧方程式とに基づいて前記回転速度を算出する
請求項1に記載の回転速度算出装置。
【請求項3】
前記電圧方程式とは、前記電流に比例する因子をA、前記ブラシレスモータの回転速度に比例する因子をB、前記ブラシレスモータの回転速度をw、前記電流の大きさをi、相間抵抗をR、前記供給電圧をv、誘起電圧定数であるモータ定数をKとしたときに、
【数1】
によって表される方程式である
請求項1または請求項2に記載の回転速度算出装置。
【請求項4】
前記算出部は、前記ブラシレスモータの回転位相を検出するホールセンサの出力信号の更新が所定の時間内に生じない場合において、前記回転速度を算出する
請求項1から請求項3のいずれ一項に記載の回転速度算出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転速度算出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ブラシレスモータの駆動において、ブラシレスモータの回転位相を検出するためにブラシレスモータにホールセンサが取り付けられる。ブラシレスモータにホールセンサが取り付けられる場合、電気角1周に対して1つのパルスを出力するホールセンサが、120度ずつ位相がずれた位置に3個取り付けられるのが一般的である。
ホールセンサを用いてブラシレスモータの速度制御を行う場合、ホールセンサのパルス幅を計測して速度に換算し、換算された値をブラシレスモータの速度として制御回路にフィードバックする。
【0003】
ホールセンサの場合、電気角1周に対して、3個のホールセンサの各々から、1つのパルスのパルス幅の情報しか得られない。そのため、ブラシレスモータが低速において駆動する場合、速度の分解能が足りずブラシレスモータが安定した速度で駆動することが困難となる。速度の分解能の不足を補うために、光学式エンコーダなどの高分解能パルスが出力されるセンサを、ホールセンサとは別に取り付けることが考えられる。しかし、光学式エンコーダの取りつけにはコストがかかる。
駆動するブラシレスモータが既知である場合に、電圧方程式を用いてブラシレスモータの回転速度を算出する技術が知られている(例えば、特許文献1)。この電圧方程式を用いてブラシレスモータの回転速度を算出する場合、ブラシレスモータのコイルに流れる電流の値及び電流の微分値が必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2006-262590号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載されるような従来技術によると、モータ電流の値を読み込む際、ノイズや電流の乱れによりモータ電流の値として誤った値を読み込みこんでしまうことを防止するために、フィルタを入れる必要がある。ところが、フィルタを入れる場合、インダクタンス及び電流の微分値から算出される電圧降下の値の誤差が大きくなってしまい、電圧方程式から算出される予測速度は実測値と合わなくなってしまう。また、ブラシレスモータの回転速度の電圧方程式を用いた算出にマイクロコンピュータ(マイコン)を用いることがある。この場合、電圧方程式に現れる電流の微分値の算出には大きな演算能力を要するため、高性能なマイコンを使用することが求められ、コストが増加してしまう。
すなわち、特許文献1に記載されるような従来技術によると、簡易な構成を用いてブラシレスモータを安定した速度において駆動できないという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一実施形態は、ブラシレスモータの回転速度算出装置であって、前記ブラシレスモータのコイルを流れる電流の大きさを取得する電流取得部と、前記ブラシレスモータに供給される供給電圧を取得する供給電圧取得部と、前記電流取得部が取得する前記電流の大きさと、前記供給電圧取得部が取得する前記供給電圧と、前記電流の大きさと、前記供給電圧とに基づいて前記ブラシレスモータの回転速度を求める電圧方程式とに基づいて前記回転速度を算出する算出部とを備え、前記電圧方程式は、前記ブラシレスモータのコイルの巻線のインダクタンスによる電圧降下を表す項が、前記電流に比例する因子と前記ブラシレスモータの回転速度に比例する因子との積によって表される方程式である回転速度算出装置である。
【0007】
本発明の一実施形態は、上述の回転速度算出装置において、前記算出部は、前記ブラシレスモータのコイルを流れる前記電流の平均値と、前記供給電圧取得部が取得する前記供給電圧と、前記電圧方程式とに基づいて前記回転速度を算出する。
【0008】
本発明の一実施形態は、上述の回転速度算出装置において、前記電圧方程式とは、前記電流に比例する因子をA、前記ブラシレスモータの回転速度に比例する因子をB、前記ブラシレスモータの回転速度をw、前記電流の大きさをi、相間抵抗をR、前記供給電圧をv、誘起電圧定数であるモータ定数をKとしたときに、
【0009】
【数1】
【0010】
によって表される方程式である。
【0011】
本発明の一実施形態は、上述の回転速度算出装置において、前記算出部は、前記ブラシレスモータの回転位相を検出するホールセンサの出力信号の更新が所定の時間内に生じない場合において、前記回転速度を算出する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、簡易な構成を用いてブラシレスモータを安定した速度において駆動できる回転速度算出装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本実施形態のモータ制御装置の構成の一例を示す図である。
図2】本実施形態の低速駆動時回転速度算出部402の構成の一例を示す図である。
図3】本実施形態の回転速度算出処理の一例を示す図である。
図4】本実施形態の回転速度算出処理の変形例を示す図である。
図5】本実施形態の電圧方程式の算出に用いる相電流の値の一例を示す図である。
図6】本実施形態の移動平均電流とインダクタンス電圧降下との関係の一例を示す図である。
図7】本実施形態のモータ回転数とインダクタンス電圧降下との関係の一例を示す図である。
図8】本実施形態の予測回転速度と実測値との比較の第一例を示す図である。
図9】本実施形態の予測回転速度と実測値との比較の第二例を示す図である。
図10】本実施形態の回転速度の予測に用いたパラメータの値の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[実施形態]
以下、図面を参照し、本発明の実施形態について説明する。
図1は、本実施形態のモータ制御装置Mの構成の一例を示す図である。このモータ制御装置Mは、例えば、電動車椅子や電動シルバーカーなどの低速の駆動が要求される電動機器に備えられる。モータ制御装置Mは、バッテリ1と、インバータ2と、モータ3と、インバータ制御装置4と、電流検出部5と、電圧検出部6とを備える。
【0015】
バッテリ1は、モータ制御装置Mに直流電力を供給する。バッテリ1とは、例えば、ニッケルカドミウム電池やリチウムイオン電池などの二次電池であり、モータ制御装置Mに対して電力を供給する。なお、このバッテリ1は、二次電池に限られず、乾電池などの一次電池であってもよい。
インバータ2は、バッテリ1から供給される電力をモータ3に供給する。インバータ2は、バッテリ1から供給される直流電圧を三相交流電圧に変換し、変換した三相交流電圧をモータ3に供給する。
モータ3とは、三相ブラシレスモータである。モータ3は、不図示のロータと不図示の駆動コイルとを備える。モータ3は、駆動コイルに供給される電流によって生じる磁力と、ロータが備える永久磁石の磁力とによる吸引力又は反発力により、ロータを回転させる。
【0016】
電流検出部5は、例えばクランプメータを備えている。電流検出部5は、バッテリ1からインバータ2に供給される直流電流の大きさ(例えば、電流値)を検出する。電流検出部5は、検出した直流電流の大きさを、検出電流iとしてインバータ制御装置4に供給する。
電圧検出部6は、例えば電圧センサを備えている。電圧検出部6は、インバータ2に供給される直流電圧の大きさを検出する。電圧検出部6は、検出した直流電圧の大きさを、供給電圧vとしてインバータ制御装置4に供給する。
【0017】
インバータ制御装置4は、モータ3が目標回転速度TRにおいて回転するように、インバータ2をフィードバック制御する。インバータ制御装置4は、回転速度算出部40と、インバータ駆動信号生成部41と、記憶部42とを備える。
回転速度算出部40は、モータ3の回転速度wを算出する。回転速度算出部40は、算出した回転速度wをインバータ駆動信号生成部41に供給する。回転速度算出部40は、例えばマイクロコンピュータであって、低速高速駆動切替部400と、高速駆動時回転速度算出部401と、低速駆動時回転速度算出部402とを、その機能部として備える。
低速高速駆動切替部400は、回転速度算出部40が算出する回転速度wに応じて、高速駆動時回転速度算出部401と低速駆動時回転速度算出部402とのいずれによって回転速度wを算出させるかを切り替える。
【0018】
高速駆動時回転速度算出部401は、モータ制御装置Mが高速駆動をしている場合に、回転速度wを算出する。ここで、モータ制御装置Mが高速駆動をしている場合とは、例えば、モータ3の回転位相を検出するホールセンサの出力信号の更新が所定の時間内に生じる場合や、回転速度wが所定の値より大きい場合である。この高速駆動時回転速度算出部401は、モータ3に取り付けられた不図示の3個のホールセンサの各々からパルスの時間間隔を取得する。高速駆動時回転速度算出部401は、取得したパルスの時間間隔からモータ3の回転速度wを算出する。
【0019】
低速駆動時回転速度算出部402は、モータ制御装置Mが低速駆動をしている場合に、回転速度wを算出する。ここで、モータ制御装置Mが低速駆動をしている場合とは、例えば、モータ3の回転位相を検出するホールセンサの出力信号の更新が所定の時間内に生じない場合や、回転速度wが所定の値より小さい場合である。この低速駆動時回転速度算出部402は、後述する電圧方程式を用いて回転速度wを算出する。低速駆動時回転速度算出部402は、電流検出部5から検出電流iを取得する。低速駆動時回転速度算出部402は、電圧検出部6から供給電圧vを取得する。低速駆動時回転速度算出部402は、記憶部42から電圧方程式のパラメータを取得する。低速駆動時回転速度算出部402は、取得した検出電流iと、取得した供給電圧vと、取得したパラメータとを用いて回転速度wを電圧方程式の解として算出する。
【0020】
インバータ駆動信号生成部41は、インバータ駆動信号DSを生成する。インバータ駆動信号生成部41は、生成したインバータ駆動信号DSをインバータ2に供給する。インバータ駆動信号生成部41は、不図示の操作部から目標回転速度TRを取得する。ここで目標回転速度TRとは、モータ制御装置Mがモータ3を単位時間に何回転させるように制御するか示す値である。インバータ駆動信号生成部41は、回転速度算出部40から回転速度wを取得する。インバータ駆動信号生成部41は、取得した目標回転速度TRと、取得した回転速度wとを比較する。インバータ駆動信号生成部41は、比較結果に基づいてインバータ駆動信号DSを生成する。
記憶部42には、低速駆動時回転速度算出部402が回転速度wを算出するために用いる電圧方程式のパラメータが記憶される。
ここで、図2を参照して低速駆動時回転速度算出部402の詳細を説明する。
【0021】
[低速駆動時回転速度算出部402の構成]
図2は、本実施形態の低速駆動時回転速度算出部402の構成の一例を示す図である。低速駆動時回転速度算出部402は、検出電流取得部50と、移動平均電流算出部51と、供給電圧取得部52と、パラメータ取得部53と、算出部54とを備える。
検出電流取得部50は、電流検出部5から検出電流iを取得する。つまり、検出電流取得部50は、モータ3のコイルを流れる電流の大きさを取得する。検出電流取得部50は、取得した検出電流iを移動平均電流算出部51に供給する。
移動平均電流算出部51は、検出電流取得部50から検出電流iを取得する。移動平均電流算出部51は、例えば50マイクロ秒毎に検出電流iを取得する。移動平均電流算出部51は、取得した検出電流iの移動平均を算出する。移動平均電流算出部51は、検出電流iの例えば50マイクロ秒毎に、3.2ミリ秒間に相当する64回の検出に対する検出電流iについて移動平均を算出する。移動平均電流算出部51は、算出した移動平均を移動平均電流として算出部54に供給する。
供給電圧取得部52は、電圧検出部6から供給電圧vを取得する。つまり、供給電圧取得部52は、モータ3に供給される供給電圧を取得する。供給電圧取得部52は、取得した供給電圧vを算出部54に供給する。
パラメータ取得部53は、記憶部42から記憶部42に記憶されるパラメータを取得する。パラメータ取得部53は、取得したパラメータを算出部54に供給する。ここで、記憶部に記憶されるパラメータとは、相間抵抗R、モータ定数K、電流比例係数A、及びモータ速度比例係数Bである。
モータ3の電圧方程式を式(2)に示す。
【0022】
【数2】
【0023】
ここで、iaveは、移動平均電流算出部51から取得される移動平均電流である。wは算出部54が算出する回転速度wである。vは、供給電圧取得部52から取得される供給電圧vである。Rは、記憶部42から取得する相間抵抗Rである。電流比例係数Aは、モータ3の駆動コイルのインダクタンスにより生じる電圧降下のうち、この駆動コイルに流れる相電流に比例する成分の係数である。モータ速度比例係数Bは、モータ3の駆動コイルのインダクタンスにより生じる電圧降下のうち、モータ3の回転速度に比例する成分の係数である。Kはモータ定数Kである。モータ定数Kとは誘起電圧定数である。式(2)は、モータ3のコイルの巻線のインダクタンスによる電圧降下を表す項が、電流に比例する因子とモータ3の回転速度wに比例する因子との積によって表される電圧方程式である。
式(2)から式(3)が導かれる。算出部54は、式(3)を用いて回転速度wを算出する。つまり、算出部54は、検出電流iの大きさと、供給電圧vと、検出電流iの大きさと、電圧方程式とに基づいて回転速度wを算出する。ここで、検出電流iは検出電流取得部50によって取得され、供給電圧は供給電圧取得部52によって取得される。電圧方程式は、検出電流iの大きさと、供給電圧vとに基づいてモータ3の回転速度wを求める方程式である。さらに、算出部54は、モータ3のコイルを流れる電流の移動平均電流iaveと、供給電圧取得部52が取得する供給電圧vと、電圧方程式とに基づいて回転速度wを算出する。
【0024】
【数3】
【0025】
[回転速度算出処理]
図3は、本実施形態の回転速度算出処理の一例を示す図である。図3のフローチャートに示す処理は、モータ制御装置Mの電源が入れられた場合に開始される。モータ制御装置Mの電源が入れられると、インバータ制御装置4は不図示の計時部により計時を開始する。
低速高速駆動切替部400は、所定の時間内にモータ3に取り付けられた不図示の3個のホールセンサの出力信号の更新があるか否かを判定する(ステップS100)。ここで低速高速駆動切替部400は、高速駆動時回転速度算出部401からパルスの時間間隔を取得し、取得したパルスの時間間隔から所定の時間内にホールセンサの出力信号の更新があるか否かを判定する。所定の時間とは、例えば1秒間である。低速高速駆動切替部400は、所定の時間の間にホールセンサの更新がないと判定する場合(ステップS100;NO)、低速駆動への切り替えを行う(ステップS101)。ただし、インバータ制御装置4が低速駆動を行っている場合、低速高速駆動切替部400はインバータ制御装置4に低速駆動を続けさせる。一方、低速高速駆動切替部400は、所定の時間の間にホールセンサの更新があると判定する場合(ステップS100;YES)、高速駆動への切り替えを行う(ステップS107)。ただし、インバータ制御装置4が高速駆動を行っている場合、低速高速駆動切替部400はインバータ制御装置4に高速駆動を続けさせる。
【0026】
低速高速駆動切替部400が低速駆動への切り替えを行った場合、低速高速駆動切替部400は、低速駆動時回転速度算出部402を動作させる。低速駆動時回転速度算出部402は、電流検出部5から検出電流iを取得する(ステップS102)。低速駆動時回転速度算出部402は、電圧検出部6から供給電圧vを取得する(ステップS103)。低速駆動時回転速度算出部402は、記憶部42からパラメータを取得する(ステップS104)。低速駆動時回転速度算出部402は、取得した検出電流iと、取得した供給電圧vと、取得したパラメータと、式(2)に示す電圧方程式とを用いて回転速度wを算出する(ステップS105)。低速駆動時回転速度算出部402では、算出部54が回転速度wを算出する。つまり、算出部54は、モータ3の回転位相を検出するホールセンサの出力信号の更新が所定の時間内に生じない場合において、回転速度wを算出する。
【0027】
一方、低速高速駆動切替部400が高速駆動への切り替えを行った場合、低速高速駆動切替部400は、高速駆動時回転速度算出部401に動作させる。高速駆動時回転速度算出部401は、回転速度wを算出する(ステップS108)。
回転速度算出部40は算出した回転速度wをインバータ駆動信号生成部41に出力する(ステップS106)。その後、低速高速駆動切替部400はステップS100の処理を繰り返す。
【0028】
なお、図3に示す処理の例では、低速高速駆動切替部400が、ホールセンサの更新があるか否かに基づいて低速駆動と高速駆動とを切り替える例について説明したが、低速高速駆動切替部400は回転速度wに基づいて低速駆動と高速駆動とを切り替えてもよい。低速高速駆動切替部400が回転速度wに基づいて低速駆動と高速駆動とを切り替える場合について、図4を参照し説明する。
【0029】
図4は、本実施形態の回転速度算出処理の変形例を示す図である。なお、ステップS201、ステップS202、ステップS203、ステップS204、ステップS205、ステップS206、ステップS207、及びステップS208の各処理は、図3におけるステップS101、ステップS102、ステップS103、ステップS104、ステップS105、ステップS106、ステップS107、及びステップS108の各処理と同様であるため、説明を省略する。
【0030】
図4のフローチャートに示す処理は、モータ制御装置Mの電源が入れられた場合に開始される。低速高速駆動切替部400は、高速駆動時回転速度算出部401または低速駆動時回転速度算出部402から回転速度wを取得する。低速高速駆動切替部400は、取得した回転速度wが所定の値以下であるか否かを判定する(ステップS200)。低速高速駆動切替部400は、回転速度wが所定の値以下であると判定する場合(ステップS200;YES)、低速駆動への切り替えを行う(ステップS201)。一方、低速高速駆動切替部400は、回転速度wが所定の値以下でないと判定する場合(ステップS200;NO)、高速駆動への切り替えを行う(ステップS207)。ただし、モータ制御装置Mの電源が入れられた直後は、低速高速駆動切替部400は予め決められた設定に基づいて低速駆動または高速駆動への切り替えをしてよい。
【0031】
[従来技術との比較]
ここで、本実施形態に係る算出部54のモータ3の回転速度wの算出方法と比較するために、従来技術においてモータの回転速度を算出する場合の電圧方程式について説明する。従来、式(4)に示す電圧方程式を用いてモータの回転速度を算出していた。
【0032】
【数4】
【0033】
ここで、iはモータのコイルに流れる相電流の瞬時値である。式(4)では、モータの駆動コイルのインダクタンスにより生じる電圧降下は、相電流の微分値を含む。この微分値の算出のため、式(4)を用いてモータの回転速度を算出する場合、マイコンの処理の負荷が大きくなってしまう。また、式(4)では相電流の瞬時値を用いているため、相電流のノイズが大きい場合、算出される回転速度の誤差が大きくなってしまう。また、式(4)では、相電流の値が用いられるため、制御装置は3つの相電流の値を取得して処理を行わなくてはならず処理が重くなる。さらに、モータには相電流を検出するための3つの電流センサが取り付けられなくてはならない。
【0034】
一方、本実施形態では、モータ3の回転速度wは、式(2)に示す電圧方程式を用いて算出される。式(2)には微分値が含まれていないため、モータ3の回転速度wを算出する際にインバータ制御装置4の処理が式(4)を用いる場合に比べて軽くなる。インバータ制御装置4は、低級なマイコンにより実現することができる。また、式(2)では、電流の瞬時値ではなく電流の移動平均が用いられているため、相電流のノイズが大きい場合でも、ノイズが回転速度wの算出結果に与える影響を軽減することができる。電流の移動平均を用いた場合、電流の瞬時値を用いた場合に比べノイズの影響を、例えば約15パーセント軽減することができる。また、式(2)では、相電流ではなく、直流電流の値である検出電流iが移動平均の算出に用いられている。直流電流の値という1つの値を用いるため、3つの相電流の値を用いる場合に比べて、処理が軽くなる。さらに、モータに3つの電流センサを取りつける代わりに、バッテリ1が供給する直流電流を検出する1つの電流検出部5を備えるだけでよい。
なお、本実施形態においては、式(2)において、電流の瞬時値ではなく電流の移動平均が用いられている場合について説明したが、低速駆動時回転速度算出部402は、電流のノイズが大きくない場合には、式(2)において電流の移動平均の代わりに電流の瞬時値を用いて回転速度wを算出してもよい。
【0035】
[電圧方程式の算出]
ここまで、低速駆動時回転速度算出部402が式(3)に示す電圧方程式に基づいて回転速度wを算出する仕組みについて説明した。上述したように、式(3)は式(2)に基づいている。この式(2)を算出する方法について図5を参照して説明する。
図5は、本実施形態の電圧方程式の算出に用いる相電流の値の一例を示す図である。図5に示すグラフでは、モータ3のコイルに流れる3つの相電流IU、相電流IV、相電流IWの各々の値が時間に対して描かれている。モータ3の駆動コイルのインダクタンスにより生じる電圧降下は、電流周波数T及び相電流の振幅の大きさによって決まっていると考えられる。
まず、電流比例係数Aの導出方法について説明する。回転速度wは、電流周波数T及び極対数Pを用いて式(5)のように表すことができる。
【0036】
【数5】
【0037】
電流周波数Tが一定である場合、移動平均電流iaveに依存する電圧降下は、周期成分が支配的である。移動平均電流iaveに依存する電圧降下は式(6)を用いて表すことができる。
【0038】
【数6】
【0039】
ここで、Lはモータ3のインダクタンスLである。式(6)から電流比例係数Aは式(7)を用いて表される。
【0040】
【数7】
【0041】
次に、モータ速度比例係数Bの導出方法について説明する。モータ3のコイルには、相電流IU、相電流IV、相電流IWの各々が時間毎の位相において流れる。相電流IU、相電流IV、相電流IWのうちの時間毎の値が最も大きい相電流の値が電流一定値Iである場合、回転速度wに依存する電圧降下は、式(8)を用いて表すことができる。
【0042】
【数8】
【0043】
したがって、式(8)からモータ速度比例係数Bは式(9)を用いて表される。
【0044】
【数9】
【0045】
モータ3の駆動コイルのインダクタンスにより生じる電圧降下は、移動平均電流iaveに依存する電圧降下と、回転速度wに依存する電圧降下との積を取り、モータ3のインダクタンスLが重複する分をインダクタンスLにより除算すると式(10)となる。
【0046】
【数10】
【0047】
式(10)が正しいことを、シミュレーションを用いて確かめる。
図6は、本実施形態の移動平均電流とインダクタンス電圧降下との関係の一例を示す図である。図6では、回転速度wは一定値1500rpmとし、速度一定の負荷を使用し、負荷はDutyを変更した。インダクタンス電圧降下は、移動平均電流の二次関数として変化する。図6では、この二次関数を曲線C1により示している。曲線C1を直線L1により近似すると、インダクタンス電圧降下の回転速度wに対する比例定数の値は0.1561となった。この比例定数は、式(7)の電流比例係数Aに対応する。
【0048】
図7は、本実施形態のモータ回転数とインダクタンス電圧降下との関係の一例を示す図である。図7では、モータ3の負荷を一定値2.3Nmとし、移動平均電流は一定値23.7アンペアとし、回転数の変更はDuty比を変更した。インダクタンス電圧降下は回転数に比例する。図7では、この比例関係を直線L2により示している。比例定数の値は0.0021となった。この比例定数は、式(9)のモータ速度比例係数Bに対応する。
【0049】
式(3)を用いて算出される回転速度wと回転速度の実測値とを比較する。
図8は、本実施形態の予測回転速度と実測値との比較の第一例を示す図である。図8では、オープンループ制御において、Duty比を変更したときの回転速度wと、パルス幅速度による回転速度の実測値とを比較している。図8では、式(3)を用いて算出される回転速度wを点線EW1により示し、パルス幅速度による回転速度の実測値を実線MW1により示している。供給電圧vは24Vである。
モータ定数Kは、線間電圧に1.35を乗じた値である。ただし、進角となる場合はモータ定数が変化するため、線間電圧に1.35を乗じた値に進角を加えたものをモータ定数Kとしてよい。
相間抵抗Rは、相関抵抗だけでなくFETのON抵抗や配線抵抗などの影響を受けるため、相関抵抗に補正値を加えた値を相間抵抗Rとしてよい。図8に示す例では、相関抵抗の値80mΩに、補正値40mΩを加えた値を相間抵抗Rとしている。
起動時には、Dutyが所定の値以上の供給電圧がないと、モータ3は起動しない。このDutyの分をコギングトルクオフセットとして回転速度wの値を補正してよい。図8に示す例では、Dutyが3.6パーセント以上の電圧をコギングトルクオフセットとして、回転速度wの値を補正している。
式(3)を用いて算出される回転速度wと、パルス幅速度による回転速度の実測値とは、プラスマイナス50rpmの範囲において一致している。
【0050】
次に、同期整流を行った場合の予測回転速度と実測値との比較を行う。
図9は、本実施形態の予測回転速度と実測値との比較の第二例を示す図である。図9に示す例では、同期整流を行い、モータが無負荷の状態において、Duty比を変更したときの回転速度wと、パルス幅速度による回転速度の実測値とを比較している。図9では、式(3)を用いて算出される回転速度wを点線EW2により示し、パルス幅速度による回転速度の実測値を実線MW2により示している。式(3)を用いて算出される回転速度wと、パルス幅速度による回転速度の実測値とは一致している。
ここで図10を参照して、図9の比較に用いた各種のパラメータの値について説明する。
図10は、本実施形態の回転速度の予測に用いたパラメータの値の一例を示す図である。相間抵抗は80mΩ、回路抵抗は40mΩとし、相関抵抗の値80mΩに回路抵抗は40mΩを補正値として加えた値を相間抵抗Rとしている。電流比例係数Aとモータ速度比例係数Bとの積は、15としている。電圧補正値は512としている。モータ定数Kは、相間逆誘起電圧に1.35を乗じた値を、進角補正値を用いて補正している。ここで相間逆誘起電圧は6.3Vrms/krpmであり、進角補正値は1.01である。
【0051】
(まとめ)
以上に説明したように、本実施形態に係る低速駆動時回転速度算出部402は、検出電流取得部50と、供給電圧取得部52と、算出部54とを備える。
検出電流取得部50は、モータ3のコイルを流れる電流の大きさを取得する。
供給電圧取得部52は、モータ3に供給される供給電圧vを取得する。
算出部54は、電流の大きさ(検出電流i)と、供給電圧vと、電流の大きさ(検出電流i)と、電圧方程式とに基づいて回転速度wを算出する。ここで、電流の大きさ(検出電流i)は検出電流取得部50が取得する。供給電圧vは供給電圧取得部52が取得する。電圧方程式は、電流の大きさ(検出電流i)と、供給電圧vとに基づいてモータ3の回転速度wを求める方程式である。また、この電圧方程式は、モータ3のコイルの巻線のインダクタンスによる電圧降下を表す項が、電流に比例する因子とモータ3の回転速度wに比例する因子との積によって表される方程式である。
この構成により、本実施形態に係る低速駆動時回転速度算出部402は、電流の微分値を算出することなく回転速度wを算出できるため、簡易な構成を用いてブラシレスモータを安定した速度において駆動できる。
【0052】
また、算出部54は、モータ3のコイルを流れる電流の移動平均電流と、供給電圧取得部52が取得する供給電圧と、電圧方程式とに基づいて回転速度wを算出する。
この構成により、本実施形態に係る低速駆動時回転速度算出部402は、電圧方程式を用いて回転速度wを算出する際に、電流のノイズが回転速度wに与える影響を軽減できるため、電流のノイズが大きい場合であっても、簡易な構成を用いてブラシレスモータを安定した速度において駆動できる。
【0053】
また、電圧方程式とは、電流に比例する因子をA、モータ3の回転速度に比例する因子をB、モータ3の回転速度をw、電流の大きさをi、相間抵抗をR、供給電圧をv、誘起電圧定数であるモータ定数をKとしたときに、
【0054】
【数11】
【0055】
によって表される方程式である。
この構成により、本実施形態に係る低速駆動時回転速度算出部402は、電流の微分値を算出することなく回転速度wを算出できるため、簡易な構成を用いてブラシレスモータを安定した速度において駆動できる。
【0056】
また、算出部54は、モータ3の回転位相を検出するホールセンサの出力信号の更新が所定の時間内に生じない場合において、回転速度wを算出する。
この構成により、本実施形態に係る低速駆動時回転速度算出部402は、低速駆動において電流の微分値を算出することなく回転速度wを算出できるため、低速駆動において簡易な構成を用いてブラシレスモータを安定した速度において駆動できる。
【0057】
以上、本発明の実施形態を、図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更を加えることができる。
【0058】
なお、上述の各装置は内部にコンピュータを有している。そして、上述した各装置の各処理の過程は、プログラムの形式でコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記憶されており、このプログラムをコンピュータが読み出して実行することによって、上記処理が行われる。ここでコンピュータ読み取り可能な記録媒体とは、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、DVD-ROM、半導体メモリ等をいう。また、このコンピュータプログラムを通信回線によってコンピュータに配信し、この配信を受けたコンピュータが当該プログラムを実行するようにしてもよい。
【0059】
また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよい。
さらに、前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であってもよい。
【符号の説明】
【0060】
M…モータ制御装置、1…バッテリ、2…インバータ、3…モータ、4…インバータ制御装置、5…電流検出部、6…電圧検出部、40…回転速度算出部、41…インバータ駆動信号生成部、42…記憶部、400…低速高速駆動切替部、401…高速駆動時回転速度算出部、402…低速駆動時回転速度算出部、50…検出電流取得部、51…移動平均電流算出部、52…供給電圧取得部、53…パラメータ取得部、54…算出部、i…検出電流、v…供給電圧、w…回転速度、TR…目標回転速度、DS…インバータ駆動信号、T…電流周波数、I…電流一定値、R…相間抵抗、K…モータ定数K、A…電流比例係数、B…モータ速度比例係数、P…極対数
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10