(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-07
(45)【発行日】2022-01-12
(54)【発明の名称】セントル内の天井型枠の撤去方法および受け構台
(51)【国際特許分類】
E21D 11/10 20060101AFI20220104BHJP
【FI】
E21D11/10 B
(21)【出願番号】P 2017201040
(22)【出願日】2017-10-17
【審査請求日】2020-09-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】596007979
【氏名又は名称】大栄工機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082418
【氏名又は名称】山口 朔生
(74)【代理人】
【識別番号】100167601
【氏名又は名称】大島 信之
(74)【代理人】
【識別番号】100201329
【氏名又は名称】山口 真二郎
(72)【発明者】
【氏名】近藤 正隆
(72)【発明者】
【氏名】陳 君
(72)【発明者】
【氏名】小杉 勝之
(72)【発明者】
【氏名】藤本 昭弘
(72)【発明者】
【氏名】中川 由規
(72)【発明者】
【氏名】坂田 晴紀
【審査官】松本 泰典
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-000953(JP,A)
【文献】特開2005-282096(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第02472057(EP,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 11/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セントルを構成する天井型枠をトンネル坑内で撤去する方法であって、
(a)セントルの前後何れかの側に、セントルの通行空間を遮らない態様で昇降自在に構成した
支持台を具備する受け構台を配置
する工程、
(
b)解体した天井型枠をセントルの前後方向に移動させて
支持台に載せ替える工程、
(
c)受け構台を
セントルの前後方向に移動させずに、支持台の降下
によって天井型枠の上方に確保
された吊り空間を用いて
、前記天井型枠を
クレーンで吊り降ろして撤去する工程、
を少なくとも含むことを特徴とする、
天井型枠の撤去方法。
【請求項2】
前記受け構台をセントルに固定しておき、セントルを反力受け部とする天井型枠の牽引作業でもって、天井型枠を受け構台に載せ替えることを特徴とする、
請求項1に記載の天井型枠の撤去方法。
【請求項3】
前記受け構台が、
門形形状を呈してセントルの通行空間と連通可能な開口部を有する、脚部と、
前記脚部に対して
前記支持台を昇降自在に構成
する、移動部と、を
さらに具備し、
前記移動部の昇降動作によって前記開口部を遮らない構造を呈していることを特徴とする、
請求項1または2に記載の天井型枠の撤去方法。
【請求項4】
セントルの組立時または解体時にセントルの前後何れかの側に配置して、セントルとの間で天井型枠を移し変えるための受け構台であって、
門形形状を呈してセントルの通行空間と連通可能な開口部を有する、脚部と、
天井型枠を支持する支持台を有し、前記脚部に対して
前記支持台を昇降自在に構成し
た、移動部と、を少なくとも具備し、
前記
支持台の昇降動作によって
、前記移動部が前記開口部を遮らない構造を呈し
、かつ、
前記支持台の上昇時には、前記天井型枠を、横引きによって前記支持台に載せ替え可能であり、
前記支持台の降下時には、クレーンによる、前記支持台への前記天井型枠の吊り上げ、または前記支持台に載せた天井型枠の吊り降ろしをトンネル内で可能とする吊り空間が、前記支持台の上方に確保されることを特徴とする、
受け構台。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネル構築に用いるセントルを解体するにあたり、セントルを構成する天井型枠をトンネル内で撤去する方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
セントル(スライドセントルともいう。)は、トンネルの内周面にコンクリートを打設するための型枠を支持するための型枠支持装置である。
このセントルをトンネル内で解体する方法として、特許文献1に記載の方法がある。
特許文献1に記載の方法は、トンネル(1)の内周面(1a)に沿って配設される天井型枠(4)と両側面型枠とを備えたコンクリート打設用型枠を解体する際に、トンネルの底部(6)と支持台(7)との間に介設しておいた脚台(16)を取り外し、昇降機構(13)により支持台(7)で支持した天井型枠(4)を下動させている。
この方法によれば、トンネル内において、天井型枠(4)の上部にクレーンでの吊り降ろしが可能な空間を確保することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記特許文献1に記載の方法では、支持台(7)の下降に伴ってセントル内部の空間も狭まってしまうため、セントルの解体作業が完了するまで車両の通行ができなくなる、という問題があった。
【0005】
よって、本発明は、セントルの解体作業期間の途中であってもセントル内部の空間内で車両の通行を可能とする手段の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決すべくなされた本願の第1発明は、セントルを構成する天井型枠をトンネル坑内で撤去する方法であって、(a)セントルの前後何れかの側に、セントルの通行空間を遮らない態様で昇降自在に構成した支持台を具備する受け構台を配置する工程、(b)解体した天井型枠をセントルの前後方向に移動させて支持台に載せ替える工程、(c)受け構台をセントルの前後方向に移動させずに、支持台の降下によって天井型枠の上方に確保された吊り空間を用いて、前記天井型枠をクレーンで吊り降ろして撤去する工程、を少なくとも含むことを特徴とする。
また、本願の第2発明は、前記第1発明において、前記受け構台をセントルに固定しておき、セントルを反力受け部とする天井型枠の牽引作業でもって、天井型枠を受け構台に載せ替えることを特徴とする。
また、本願の第3発明は、前記第1発明または第2発明において、前記受け構台が、門形形状を呈してセントルの通行空間と連通可能な開口部を有する、脚部と、前記脚部に対して前記支持台を昇降自在に構成する、移動部と、をさらに具備し、前記移動部の昇降動作によって前記開口部を遮らない構造を呈していることを特徴とする。
また、本願の第4発明は、セントルの組立時または解体時にセントルの前後何れかの側に配置して、セントルとの間で天井型枠を移し変えるための受け構台であって、門形形状を呈してセントルの通行空間と連通可能な開口部を有する、脚部と、天井型枠を支持する支持台を有し、前記脚部に対して前記支持台を昇降自在に構成した、移動部と、を少なくとも具備し、前記支持台の昇降動作によって、前記移動部が前記開口部を遮らない構造を呈し、かつ、前記支持台の上昇時には、前記天井型枠を、横引きによって前記支持台に載せ替え可能であり、前記支持台の降下時には、クレーンによる、前記支持台への前記天井型枠の吊り上げ、または前記支持台に載せた天井型枠の吊り降ろしをトンネル内で可能とする吊り空間が、前記支持台の上方に確保されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、以下に記載する効果を奏する。
(1)解体作業期間中の車両通行が可能となる。
昇降する受け構台に天井型枠を乗せ替えることにより、セントルを構成する天井型枠を支持する装置(型枠支持装置)の高さを変更することなく解体した天井型枠を撤去できるため、セントルの解体作業期間中であっても、セントル内の車両通行を維持できる。
(2)トンネル覆工を傷つけない。
セントルを反力受け部として天井型枠の移動を行うため、トンネルを反力受け部とするためのアンカー打設などが不要となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図3】天井型枠の撤去作業の開始状態を示す概略側面図。
【
図5】天井型枠の吊り降ろし作業を示す概略側面図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施例について説明する。
【実施例1】
【0010】
<1>各装置の説明(
図1,2)
まず始めに、
図1,2を参照しながら、本発明に係る天井型枠の撤去方法で使用する装置(セントルA、受け構台B)の概要について説明する。
【0011】
<2>セントル(
図1)
セントルAは、トンネル内周面にコンクリート覆工を行うための装置である。セントルAは公知の装置を用いることができる。
図1に示すセントルAは、トンネル内を走行可能な型枠支持装置10と、該型枠支持装置10によってトンネル内周面に沿うように支持される型枠20とからなる。
【0012】
<2.1>型枠支持装置
型枠支持装置10は、トンネル内で型枠20を支持するための装置である。
型枠支持装置10は、型枠20の支持部材を設けた態様でトンネル内を走行可能な台車である。
【0013】
<2.1.1>通行空間
型枠支持装置10は、門型形状を呈することで、セントルAの前後に連通する通行空間A1を設けている。この通行空間A1でもって車両X等の往来を可能としている。
【0014】
<2.1.2>型枠の位置決め部材
型枠支持装置10には、後述する天井型枠21や側面型枠22を支持するための位置決め部材(中間支柱11、側方支柱12、台梁13、横支柱14)などを設けている。
これらの位置決め部材の数、配置場所等は、本発明において特段限定するものではない。
【0015】
<2.2>型枠(天井型枠・側面型枠)
型枠20は、トンネルの天端部分を構成するための天井型枠21と、トンネルの側壁部分を構成するための側面型枠22とからなり、これらを互いに一体化した構成している。
天井型枠21は、前記した中間支柱11、側方支柱12、台梁13などによって支持されており、これらの部材についてシリンダ等による伸縮機構を設けておけば、天井型枠21の位置を微調整することができる。
側面型枠22も同様に、型枠支持装置10から延びる、横支柱14によって位置決めされている。
【0016】
<3>受け構台(
図2)
受け構台Bは、天井型枠21を撤去するにあたり、セントルAから天井型枠21を載せ替えるための装置である。
受け構台Bは、セントルAの通行空間A1を妨げない態様で上下に伸縮可能な受け構台Bを少なくとも備える。
受け構台Bは、解体した天井型枠21を載せて降下することにより、該天井型枠21の上方に吊り空間を確保するための装置である。
図2に、受け構台Bの概略図を示す。
受け構台Bは、地面に設置する脚部30と、該脚部30に対して上下に昇降自在に設けてある移動部40とを少なくとも具備する。
【0017】
<3.1>脚部
脚部30は、受け構台Bの土台部分となる部材である。
脚部30は、トンネルの横断面視上、門形形状を呈し、中央にセントルAの通行空間A1を走行する車両Xの通行を妨げない程度の大きさの開口部31を有する。その他、脚部30には移動部40を昇降するための昇降装置(図示せず)を取り付けておく。
【0018】
<3.2>移動部
移動部40は、天井型枠21を載置した状態で、前記脚部30に取り付けた昇降装置(図示せず)の動作によって上下に昇降動作を行うための部材である。
【0019】
<3.2.1>支持台
移動部40を構成するフレームの両側には、外側に向かって突出するように支持台41を設けている。
この支持台41に、天井型枠21から下方に延びる側方支柱12を載せて支持することで、天井型枠21を移動部40に載置することができる。
【0020】
<3.2.2>脚部の開口部との関係
移動部40は、自身の昇降動作によって前記脚部30の開口部31を遮らない形状とする。本実施例では、移動部40を脚部30とほぼ等幅の門形形状を呈する部材で構成しているため、移動部40の昇降動作によって、移動部40の構成部材が脚部30の開口部31内に留まることは無い。
【0021】
<3.3>牽引部(
図4)
さらに、受け構台Bには、着脱自在な牽引部50を設ける。
牽引部50は、解体した天井型枠21をセントルAから受け構台Bに載せ替えるための機能を少なくとも実現するための装置である。
牽引部50は、受け構台Bに予め取り付けてある構成でも、任意に着脱自在な構成の何れであっても良い。
本実施例では、牽引部50にチェーンブロックを用いており、チェーンブロックの一方を移動部40に連結し、他方を対象の天井型枠21に連結している。この状態でチェーンの巻き取り動作を行うことで、天井型枠21を移動部40側に引き寄せ可能としている。
【0022】
<3.3.1>牽引部による横引き
なお、牽引部50は、受け構台Bへの載せ替え作業だけでなく、解体した天井型枠21を受け構台Bの近くまで横引きするための装置として使用してもよい。
【0023】
<3.4>その他の部材(図示せず)
その他、受け構台Bには、作業員の落下や、作業員が脚部30や昇降装置の動作に巻き込まれることを防止するための、親綱や安全柵などを適宜設けておくことが好ましい。
【0024】
<4>解体例(
図3~
図5)
次に、本発明に係るセントルAの解体方法の手順の一例について説明する。
【0025】
<4.1>開始状態(
図3)
図3に、本発明に係る解体方法の初期状態の概略側面図を示す。
図3は、型枠を構成する天井型枠21および側面型枠22のうち、既に側面型枠22が撤去されている状態である。
また、セントルAの後方から張り出した足場についても撤去を行うことで、本発明に係る受け構台Bを型枠支持装置10に接近させた状態で配置している。
そして、受け構台Bは、連結具60を介してセントルAと連結している。
この状態からの天井型枠21の撤去手順を以下に説明する。
【0026】
<4.2>天井型枠の解体・横引き・載せ替え(
図4)
天井型枠21は、トンネルの前後方向に向かって複数連結して構成しているため、受け構台Bを配置した側から順に一枚ずつ解体を行う。
まず、天井型枠21を支持している支柱のうち、中央付近に位置する支柱(中間支柱11)は、天井型枠21と型枠支持装置10の双方から切り離して解体する。解体した中間支柱11はセントルの作業床に仮置きしておく。
また、天井型枠21の側方を支持する側方支柱12は、型枠支持装置10側との連結を解除し、天井型枠21に固定したままとする。
さらに、天井型枠21の下縁付近を支持する台梁13は、天井型枠21との接触部付近を切断して、天井型枠21の牽引または横引き作業に干渉しない場所に仮置きしておく。
【0027】
<4.3>天井型枠の牽引(
図4)
解体した天井型枠21は、受け構台Bに設けた牽引部50を用いて受け構台B側に引き寄せて載せ替え作業を行う。
図4に示す牽引部50はチェーンブロックであり、チェーンブロックの一方を移動部40に連結し、他方を対象の天井型枠21に連結する。
この状態でチェーンの巻き取り動作を行うことで、天井型枠21をセントルAから移動部40まで牽引している。
このとき、受け構台Bは、連結具60を介してセントルAと連結しているため、天井型枠21の牽引作業の際にセントルAが反力受け部となる。
よって、トンネルを反力受け部とするためのアンカー打設が不要となる。
【0028】
<4.4>天井型枠の下降・吊り降ろし(
図5)
天井型枠21を移動部40に載せ替えたあとは、受け構台Bに設けた昇降手段を用いて、移動部40を下降させる。
この下降作業によって、天井型枠21の上方にクレーンZのアームや吊り治具を差し入れ可能な空間(吊り空間Y)を確保する。
吊り空間Yの確保後は、クレーンZを用いて天井型枠21を吊り降ろして撤去する。
【0029】
<4.5>繰り返し
前記<4.2>~<4.4>までの手順を、順次繰り返して、天井型枠21を1枚ずつ撤去していく。
なお、前記<4.2>~<4.4>までの手順を、解体した各天井型枠21に対して、矛盾のない範囲で並行実施しても良い。
【0030】
<4.5.1>離隔した天井型枠の横引き作業
受け構台Bから離れた位置に設置されていた天井型枠21は、型枠支持装置10の最後方近くまで横引きしてから、受け構台Bに設けた牽引部50を用いて、天井型枠21の載せ替え作業を行ってもよい。
この場合、型枠支持装置10に別途設けてある昇降手段などを用いて、側方支柱12と型枠支持装置10との間に台車を設けておき、この台車によって型枠支持装置10に存する部材をレールに見立てて、セントルAの後端まで天井型枠21を人力で押し出して横引きすればよい。
【0031】
<4.6>その後の作業(図示せず)
天井型枠21を撤去した後は、受け構台Bを解体し、型枠支持装置10とトンネル内周面との間の空間は確保されているため、適宜クレーンZでセントルAの構成部材(中間支柱11、台梁13など)を解体・撤去する。
【0032】
<5>まとめ
このように、前記<4.2>~<4.4>の手順において、型枠支持装置10の高さを変えないまま天井型枠21の解体・撤去が可能となる。
よって、解体作業中にセントルA内の車両Xの通行を要する場合であっても、解体作業を単に中断してクレーンZなどを退避するだけで、セントルの通行空間A1を使用できる。
したがって、夜間に解体作業を進め、昼間は解体作業を中断して車両通行を行い、夜間に解体作業を再開する、といった運用が可能となり、セントルAの解体作業が完全に完了するまでの間、セントルA内の車両通行が全くできない状態を回避することができる。
【実施例2】
【0033】
次に、本発明の第2実施例について説明する。
前記した実施例1で用いた受け構台は、トンネル坑内で、セントルの組立作業を行う際にも使用することができる(図示せず)。
基本的には、実施例1で説明した手順と逆の手順を行うことで、天井型枠を1枚ずつセントルに運搬して組立に供すればよい。
なお、天井型枠をセントル側に載せ替える際には、セントルに牽引部を設け、この牽引部でもって移動部に載せた天井型枠をセントル側に引き寄せればよい。
【符号の説明】
【0034】
A セントル
A1 通行空間
10 型枠支持装置
11 中間支柱
12 側方支柱
13 台梁
14 横支柱
20 型枠
21 天井型枠
22 側面型枠
B 受け構台
30 脚部
31 開口部
40 移動部
41 支持台
50 牽引部
60 連結具
X 車両
Y 吊り空間
Z クレーン