(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-07
(45)【発行日】2022-01-12
(54)【発明の名称】チェーンベルト
(51)【国際特許分類】
F16G 5/18 20060101AFI20220104BHJP
F16H 9/24 20060101ALI20220104BHJP
F16H 57/04 20100101ALI20220104BHJP
【FI】
F16G5/18 C
F16H9/24
F16H57/04 J
(21)【出願番号】P 2017218992
(22)【出願日】2017-11-14
【審査請求日】2020-10-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】特許業務法人青海特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】谷口 幹直
(72)【発明者】
【氏名】高橋 大樹
(72)【発明者】
【氏名】倉林 雅彦
(72)【発明者】
【氏名】吉川 朝翔
(72)【発明者】
【氏名】宮原 英和
【審査官】鷲巣 直哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-097856(JP,A)
【文献】特開2016-044726(JP,A)
【文献】特開2001-108023(JP,A)
【文献】特開2009-115218(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16G 5/18
F16H 9/24
F16H 57/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リンクプレートと、
複数の前記リンクプレートを貫通して連結するロッカーピンと、
を備え、
前記リンクプレートが前記ロッカーピンによって無端状に連結され、無段変速機のプライマリプーリおよびセカンダリプーリに巻き掛けられるチェーンベルトであって、
前記ロッカーピンは、
先行ピンと、
前記先行ピンと並んで設けられ、前記先行ピンに対して前記チェーンベルトの回転方向の後方側に位置する追従ピンと、
を有し、
前記先行ピンは、
前記追従ピンに対向して前記チェーンベルトの内側寄りに設けられる先行ピン側転動面と、
前記チェーンベルトの内側方向に臨む内側面に形成され、長手方向に延びる第1の溝部と、
を有し、
前記追従ピンは、
前記先行ピンに対向して前記チェーンベルトの内側寄りに設けられる追従ピン側転動面と、
前記内側面に形成され、長手方向に延びる第2の溝部と、
を有し、
前記先行ピン側転動面と前記追従ピン側転動面とが接触した状態で、前記第1の溝部と前記第2の溝部とが一体となって1つの溝部が形成されることを特徴とするチェーンベルト。
【請求項2】
前記溝部は、前記チェーンベルトの回転によって生じる遠心力がかかる方向に向かって窪んでいる請求項1に記載のチェーンベルト。
【請求項3】
前記プライマリプーリおよび前記セカンダリプーリは、それぞれ、コーン面を対向させた1対のシーブを有しており、
前記チェーンベルトは、前記ロッカーピンの端部が前記コーン面と接触して前記1対のシーブに挟持され、
前記溝部の断面形状は、前記ロッカーピンの端部と前記コーン面との接触面の圧力が、前記接触面における他の位置よりも大きい位置に向かって窪む形状となっている請求項1または2に記載のチェーンベルト。
【請求項4】
前記溝部の深さが前記長手方向に沿って一定となっている請求項1から3のいずれか1項に記載のチェーンベルト。
【請求項5】
前記溝部の底面は、前記長手方向における中央部が前記ロッカーピンの両端よりも突出する山状に傾斜している請求項1から3のいずれか1項に記載のチェーンベルト。
【請求項6】
前記溝部の底面は、前記長手方向における中央部が前記ロッカーピンの両端よりも窪む谷状に傾斜している請求項1から3のいずれか1項に記載のチェーンベルト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チェーンベルトに関する。
【背景技術】
【0002】
無段変速機(CVT)では、プライマリプーリおよびセカンダリプーリにチェーンベルトが巻き掛けられており、プライマリプーリの回転がチェーンベルトによってセカンダリプーリに伝達される。プライマリプーリの回転をセカンダリプーリに効率よく伝達するためには、それぞれのプーリとチェーンベルトとの接触面を潤滑にさせることが好ましい。潤滑に関する技術として、例えば、特許文献1が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
チェーンベルトは、リンクプレートがロッカーピンによって無端状に連結されて構成されている。特許文献1では、ロッカーピンにおけるチェーンベルトの回転方向の前方側面および後方側面に溝部が設けられている。特許文献1によれば、この溝部によってチェーンベルト全体にオイルをいきわたらせることが可能である。
【0005】
しかし、溝部に供給されたオイルには、チェーンベルトの回転によって生じる遠心力が与えられるため、そのオイルは、ロッカーピンにおける前方側面および後方側面に沿って、チェーンベルトの外側に向かって移動することとなる。すなわち、チェーンベルトの幅方向には、オイルが十分に移動しない。このため、特許文献1の技術では、プーリとチェーンベルトとの接触面には、オイルが十分に供給されない。
【0006】
そこで、本発明は、プーリとチェーンベルトとの接触面をより効率的に潤滑にさせることが可能な無段変速機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のチェーンベルトは、リンクプレートと、複数のリンクプレートを貫通して連結するロッカーピンと、を備え、リンクプレートがロッカーピンによって無端状に連結され、無段変速機のプライマリプーリおよびセカンダリプーリに巻き掛けられるチェーンベルトであって、ロッカーピンは、先行ピンと、先行ピンと並んで設けられ、先行ピンに対してチェーンベルトの回転方向の後方側に位置する追従ピンと、を有し、先行ピンは、追従ピンに対向してチェーンベルトの内側寄りに設けられる先行ピン側転動面と、チェーンベルトの内側方向に臨む内側面に形成され、長手方向に延びる第1の溝部と、を有し、追従ピンは、先行ピンに対向してチェーンベルトの内側寄りに設けられる追従ピン側転動面と、内側面に形成され、長手方向に延びる第2の溝部と、を有し、先行ピン側転動面と追従ピン側転動面とが接触した状態で、第1の溝部と第2の溝部とが一体となって1つの溝部が形成される。
【0008】
溝部は、チェーンベルトの回転によって生じる遠心力がかかる方向に向かって窪んでいてもよい。
【0009】
プライマリプーリおよびセカンダリプーリは、それぞれ、コーン面を対向させた1対のシーブを有しており、チェーンベルトは、ロッカーピンの端部がコーン面と接触して1対のシーブに挟持され、溝部の断面形状は、ロッカーピンの端部とコーン面との接触面の圧力が、接触面における他の位置よりも大きい位置に向かって窪む形状となっていてもよい。
【0010】
溝部の深さが長手方向に沿って一定となっていてもよい。
【0011】
溝部の底面は、長手方向における中央部がロッカーピンの両端よりも突出する山状に傾斜していてもよい。
【0012】
溝部の底面は、長手方向における中央部がロッカーピンの両端よりも窪む谷状に傾斜していてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、プーリとチェーンベルトとの接触面をより効率的に潤滑にさせることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】第1実施形態によるチェーンベルトを含む無段変速機の構成を示す平面図である。
【
図3】チェーンベルトの構成を示す部分拡大図である。
【
図4】チェーンベルトの構成を示す部分拡大図である。
【
図5】チェーンベルトの回転方向に沿って先行ピンを見たときの側面図である。
【
図6】オイル供給部と溝部の関係を説明する図である。
【
図7】第2実施形態によるチェーンベルトの構成を示す部分側面図である。
【
図8】第3実施形態による先行ピンの構成を示す側面図である。
【
図9】第4実施形態による先行ピンの構成を示す側面図である。
【
図10】第5実施形態によるチェーンベルトの構成を示す部分側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易にするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0016】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態によるチェーンベルト30を含む無段変速機1の構成を示す平面図である。無段変速機1は、入力側となるプライマリプーリ10と、出力側となるセカンダリプーリ20と、チェーンベルト30とを備えている。プライマリプーリ10には、不図示のエンジンのクランクシャフトが接続される。セカンダリプーリ20には、不図示の車輪に接続される出力軸が接続される。
【0017】
プライマリプーリ10は、回転軸方向の移動が規制されている固定シーブ11と、固定シーブ11に対して回転軸方向に移動可能な可動シーブ12と、を備えている。固定シーブ11および可動シーブ12は、それぞれ円錐状のコーン面11a、12aを備えており、これらコーン面11a、12aを回転軸方向に対向させている。コーン面11a、12aの対向間隔は、回転軸に近づくほど狭くなり、回転軸から離れるほど広くなっている。
【0018】
同様に、セカンダリプーリ20は、回転軸方向の移動が規制されている固定シーブ21と、固定シーブ21に対して回転軸方向に移動可能な可動シーブ22と、を備えている。固定シーブ21および可動シーブ22は、それぞれ円錐状のコーン面21a、22aを備えており、これらコーン面21a、22aを回転軸方向に対向させている。コーン面21a、22aの対向間隔は、回転軸に近づくほど狭くなり、回転軸から離れるほど広くなっている。
【0019】
プライマリプーリ10とセカンダリプーリ20とには、
図1中一点鎖線で示すチェーンベルト30が巻き掛けられている。プライマリプーリ10では、コーン面11aとコーン面12aとによって形成される溝にチェーンベルト30が巻き掛けられる。セカンダリプーリ20では、コーン面21aとコーン面22aとによって形成される溝にチェーンベルト30が巻き掛けられる。
【0020】
チェーンベルト30は、プライマリプーリ10のコーン面11a、12aによって挟持されている。プライマリプーリ10が回転すると、コーン面11a、12aとチェーンベルト30との摩擦抵抗によってチェーンベルト30が回転する。また、チェーンベルト30は、セカンダリプーリ20のコーン面21a、22aにも挟持されている。チェーンベルト30が回転すると、コーン面21a、22aとチェーンベルト30との摩擦抵抗によってコーン面21a、22a、すなわち、セカンダリプーリ20が回転することとなる。なお、以下では、プライマリプーリ10およびセカンダリプーリ20を総称して単にプーリと呼ぶ。
【0021】
プライマリプーリ10の可動シーブ12は、不図示のオイルポンプから油圧制御弁を介して供給されるオイルの圧力により、回転軸方向の位置が変えられる。このように、プライマリプーリ10は、固定シーブ11と可動シーブ12との対向間隔、すなわち、コーン面11aとコーン面12aとの対向間隔が可変となっている。コーン面11aとコーン面12aとの対向間隔が変わると、チェーンベルト30が巻き掛けられる溝幅が変更されることとなる。その結果、プライマリプーリ10におけるチェーンベルト30の巻き掛けられる位置(半径)が変更されることとなる。
【0022】
また、セカンダリプーリ20の可動シーブ22は、可動シーブ12と同様に、オイルポンプから油圧制御弁を介して供給されるオイルの油圧により、回転軸方向の位置が変えられる。このように、セカンダリプーリ20は、固定シーブ21と可動シーブ22との対向間隔、すなわち、コーン面21aとコーン面22aとの対向間隔が可変となっている。コーン面21aとコーン面22aとの対向間隔が変わると、チェーンベルト30が巻き掛けられる溝幅が変更されることとなる。その結果、セカンダリプーリ20におけるチェーンベルト30の巻き掛けられる位置(半径)が変更されることとなる。
【0023】
例えば、プライマリプーリ10のコーン面11aとコーン面12aとの対向間隔が広くなると、コーン面11a、12aのうち、チェーンベルト30が巻き掛けられる位置は、回転軸に近づく方向に移動し、チェーンベルト30の巻き掛け半径が小さくなる。このとき、セカンダリプーリ20では、コーン面21aとコーン面22aとの対向間隔が狭くなり、コーン面21a、22aのうち、チェーンベルト30が巻き掛けられる位置は、回転軸から離れる方向に移動し、チェーンベルト30の巻き掛け半径が大きくなる。一方、プライマリプーリ10のコーン面11aとコーン面12aとの対向間隔が狭くなると、コーン面11a、12aのうち、チェーンベルト30が巻き掛けられる位置は、回転軸から離れる方向に移動し、チェーンベルト30の巻き掛け半径が大きくなる。このとき、セカンダリプーリ20では、コーン面21aとコーン面22aとの対向間隔が広くなり、コーン面21a、22aのうち、チェーンベルト30が巻き掛けられる位置は、回転軸に近づく方向に移動し、チェーンベルト30の巻き掛け半径が小さくなる。このようにして、無段変速機1は、プライマリプーリ10の回転軸とセカンダリプーリ20の回転軸との間の伝達動力を無段変速する。
【0024】
図2は、チェーンベルト30の構成を示す側面図である。
図2は、
図1の白抜き矢印IIで示す横方向からプライマリプーリ10の可動シーブ12を透視したときのチェーンベルト30の側面が示されている。
図2では、チェーンベルト30のセカンダリプーリ20側は省略されている。また、
図2では、チェーンベルト30の回転方向が矢印で示されている。
【0025】
図3および
図4は、チェーンベルト30の構成を示す部分拡大図である。
図3では、チェーンベルト30におけるプーリに接触していない部分(すなわち、チェーンベルト30における弦の部分)の側面の一部が拡大されて示されている。
図4では、チェーンベルト30におけるプーリに接触している部分(すなわち、チェーンベルト30における弧の部分)の側面の一部が拡大されて示されている。
図3および
図4では、チェーンベルト30の回転方向が、
図3および
図4中、横方向の矢印で示されている。また、
図3および
図4では、チェーンベルト30における
図3および
図4中の下側が、チェーンベルト30の内側(プーリの回転中心軸側)となっており、チェーンベルト30における
図3および
図4の上側が、チェーンベルト30の外側(プーリの回転中心軸とは反対側)となっている。
【0026】
図2、
図3および
図4に示すように、チェーンベルト30は、リンクプレート31とロッカーピン32とを含んで構成される。リンクプレート31は、例えば、金属製の薄板によって構成される。リンクプレート31には、リンクプレート31を厚さ方向に貫通する前方孔部33および後方孔部34が設けられる。前方孔部33は、後方孔部34に比べ、チェーンベルト30の回転方向の前方側に位置する。後方孔部34は、前方孔部33に比べ、チェーンベルト30の回転方向の後方側に位置する。
【0027】
前方孔部33および後方孔部34には、ロッカーピン32が挿通される。また、リンクプレート31は、ロッカーピン32の挿通方向に複数積層される。ロッカーピン32は、積層された複数のリンクプレート31を貫通する。つまり、ロッカーピン32は、チェーンベルト30の幅方向に延在する。
【0028】
共通のロッカーピン32が挿通される複数のリンクプレート31には、ロッカーピン32が前方孔部33に挿通されるものと、後方孔部34に挿通されるものとがある。すなわち、共通のロッカーピン32に対して、チェーンベルト30の回転方向の前方側に位置するリンクプレート31では、ロッカーピン32が後方孔部34に挿通される。一方、共通のロッカーピン32に対して、チェーンベルト30の回転方向の後方側に位置するリンクプレート31では、ロッカーピン32が前方孔部33に挿通される。このようにして、チェーンベルト30は、リンクプレート31がロッカーピン32によってチェーンベルト30の回転方向に無端状に連結されて構成される。
【0029】
ロッカーピン32は、先行ピン32aと追従ピン32bとによって構成される。換言すれば、ロッカーピン32は、1つの前方孔部33または後方孔部34に、先行ピン32aと追従ピン32bとが並んで挿通されている。先行ピン32aは、チェーンベルト30の回転方向の前方側に位置する。追従ピン32bは、チェーンベルト30の回転方向の後方側に位置する。
【0030】
先行ピン32aおよび追従ピン32bの長手方向(すなわち、チェーンベルト30の幅方向)の両端面は、プライマリプーリ10のコーン面11a、12a、セカンダリプーリ20のコーン面21a、22aに対向する。
【0031】
先行ピン32aには、追従ピン32bに対向する面である第1転動面35aおよび第2転動面36aが設けられている。第1転動面35aは、第2転動面36aよりもチェーンベルト30の内側寄りに設けられており、第2転動面36aは、第1転動面35bよりもチェーンベルト30の外側寄りに設けられている。第2転動面36aは、
図3に示すように、第1転動面35aに対して、チェーンベルト30の回転方向の前方側に傾斜している。
【0032】
追従ピン32bには、先行ピン32aに対向する面である第1転動面35bおよび第2転動面36bが設けられている。第1転動面35bは、第2転動面36bよりもチェーンベルト30の内側寄りに設けられており、第2転動面36bは、第1転動面35bよりもチェーンベルト30の外側寄りに設けられている。第2転動面36bは、
図3に示すように、第1転動面35bに対して、チェーンベルト30の回転方向の後方側に傾斜している。
【0033】
図3に示すように、プーリに接触していない部分のロッカーピン32は、先行ピン32aの第1転動面35aと追従ピン32bの第1転動面35bとが接触する状態となっている。このとき、先行ピン32aの第2転動面36aと追従ピン32bの第2転動面36bとは、離れた状態となっている。
【0034】
チェーンベルト30が回転し、プーリに接触していなかった部分がプーリに接触すると、その部分は、直線状から円弧状に変わる。このとき、隣り合うリンクプレート31の屈曲に伴って、先行ピン32aおよび追従ピン32bが転動する。これにより、
図4に示すように、ロッカーピン32は、先行ピン32aの第1転動面35aと追従ピン32bの第1転動面35bとが離れ、先行ピン32aの第2転動面36aと追従ピン32bの第2転動面36bとが接触する状態に移る。
【0035】
一方、チェーンベルト30のうち、プーリに接触していた部分がプーリから離れると、その部分は、円弧状から直線状に変わる。このとき、曲げられていた隣り合うリンクプレート31が直線状に戻ることに伴って、先行ピン32aおよび追従ピン32bが転動する。これにより、
図3に示すように、ロッカーピン32は、先行ピン32aの第2転動面36aと追従ピン32bの第2転動面36bとが離れ、先行ピン32aの第1転動面35aと追従ピン32bの第1転動面35bとが接触する状態に移る。
【0036】
第1実施形態によるチェーンベルト30では、先行ピン32aにおける内側面37に溝部40aが設けられており、追従ピン32bにおける内側面37に溝部40bが設けられている。先行ピン32aの内側面37および追従ピン32bの内側面37は、チェーンベルト30の内側方向に臨む面であり、ロッカーピン32の内側面37に相当する。以下、溝部40aおよび溝部40bを総称して、溝部40と呼ぶ。
【0037】
ここで、チェーンベルト30におけるプーリに接触している部分には、チェーンベルト30の内側から外側に向かう方向に遠心力が生じる。
図4では、遠心力の方向が一点鎖線の矢印で示されている。溝部40は、この遠心力の方向に向かって窪んでいる。また、溝部40は、溝部40の長手方向(チェーンベルト30の幅方向)に垂直な断面形状が略椀状となるように形成されている。
【0038】
図5は、チェーンベルト30の回転方向に沿って先行ピン32aを見たときの側面図である。溝部40aは、先行ピン32aにおける固定シーブ側端41から可動シーブ側端42に亘って設けられている。溝部40aは、溝部40aの底面43(換言すると、溝部40の深さ)が先行ピン32aの長手方向に沿って一定となっている。
図5では、先行ピン32aについて示されていたが、追従ピン32bも同様となっている。すなわち、ロッカーピン32の溝部40は、固定シーブ側端41から可動シーブ側端42に亘って設けられており、溝部40の深さがロッカーピン32の長手方向に沿って一定となっている。
【0039】
図2に戻って、無段変速機1には、オイル供給部50が設けられている。オイル供給部50は、チェーンベルト30によって囲まれた領域において、プライマリプーリ10とセカンダリプーリ20との隙間に配置される。オイル供給部50は、略筒状に形成されており、オイル供給部50内には、長手方向に延びる空間が形成される。オイル供給部50の内部の空間には、不図示のオイルポンプからオイルが供給される。
【0040】
オイル供給部50には、オイル供給部50の内外の空間を連通させる開口部(図示略)が設けられている。オイル供給部50の開口部は、チェーンベルト30がプライマリプーリ10と接触し始める位置(すなわち、プライマリプーリ10の入口位置)付近におけるロッカーピン32の内側面37に臨んで開口している。オイル供給部50は、オイルポンプから供給されるオイルを、開口部を介して噴射する。これにより、オイルは、プライマリプーリ10の入口位置付近において、ロッカーピン32の内側面37に設けられた溝部40に噴射されることとなる。なお、
図2では、オイルの噴射方向を破線で囲まれた領域で概念的に示している。
【0041】
図6は、オイル供給部50と溝部40aの関係を説明する図である。オイル供給部50の開口部は、溝部40aの長手方向の中央に位置する中央部44に臨んで開口している。これにより、オイルは、溝部40aの中央部44に向けて噴射されることとなる。
図6では、オイルの移動方向を破線の矢印で概念的に示している。
図6では、先行ピン32aについて示されていたが、追従ピン32bも同様となっている。すなわち、オイルは、溝部40bの中央部44にも噴射される。
【0042】
ここで、オイルがプライマリプーリ10の入口位置付近に噴射されるため、オイルが中央部44に供給された直後、オイルが供給されたロッカーピン32(先行ピン32aおよび追従ピン32b)は、円弧状に移動することとなる。このため、オイルには遠心力が生じ、オイルは、この遠心力により、溝部40(溝部40a、40b)の底面43に押し付けられる。
【0043】
その結果、溝部40aの中央部44に供給されたオイルは、溝部40aと遠心力とによって溝部40a内に保持されるとともに、先行ピン32aの固定シーブ側端41および可動シーブ側端42に徐々に移動する。同様に、溝部40bの中央部44に供給されたオイルは、溝部40bと遠心力とによって溝部40b内に保持されるとともに、追従ピン32bの固定シーブ側端41および可動シーブ側端42に徐々に移動する。
【0044】
固定シーブ側端41に移動したオイルは、固定シーブ側端41とコーン面11aとの間ににじみ出る。これにより、固定シーブ側端41とコーン面11aとの間の接触面が潤滑される。また、可動シーブ側端42に移動したオイルは、可動シーブ側端42とコーン面12aとの間ににじみ出る。これにより、可動シーブ側端42とコーン面12aとの間の接触面が潤滑される。
【0045】
以上のように、第1実施形態によるチェーンベルト30では、ロッカーピン32の内側面37に溝部40が設けられており、溝部40に向けてオイルが供給される。これにより、チェーンベルト30がプライマリプーリ10に接触し始めて離脱するまでの間、オイルは、溝部40によって保持されるとともに、溝部40によってコーン面11a、12aに供給されることとなる。したがって、第1実施形態によるチェーンベルト30によれば、プーリとチェーンベルト30との接触面をより効率的に潤滑にさせることが可能となる。
【0046】
また、溝部40は、チェーンベルト30の回転によって生じる遠心力がかかる方向に向かって窪んでいる。このため、オイルは、溝部40内に保持され易くなっているとともに、コーン面11a、12aに供給され易くなっている。したがって、第1実施形態によれば、遠心力がかかる方向とは異なる方向に窪んでいる場合に比べ、プーリとチェーンベルト30との接触面をより効率的に潤滑にさせることが可能となる。
【0047】
また、溝部40の底面43は、長手方向に沿って一定となっている。このため、溝部40内にオイルを保持することと、コーン面11a、12aにオイルを供給することとが、バランスよく行われることとなる。したがって、第1実施形態によれば、オイルを効率よく消費することが可能となる。
【0048】
なお、溝部40は、少なくともロッカーピン32の内側面37に設けられていればよく、遠心力がかかる方向に向かって窪んでいなくてもよい。溝部40がロッカーピン32の内側面37に設けられていれば、オイルを、溝部40と遠心力とによって保持するとともに、コーン面11a、12aに供給することが可能だからである。
【0049】
また、溝部40の形状は、略椀状であったが、略椀状に限らない。例えば、溝部40の形状は、矩形状などであってもよい。
【0050】
また、溝部40は、先行ピン32aおよび追従ピン32bのそれぞれに設けられていた。しかし、溝部40は、先行ピン32aと追従ピン32bとの両方に設けられる態様に限らず、先行ピン32aおよび追従ピン32bのうちの、少なくともいずれか一方に設けられていればよい。
【0051】
(第2実施形態)
図7は、第2実施形態によるチェーンベルト130の構成を示す部分側面図である。
図7では、チェーンベルト130におけるプーリに接触している部分(すなわち、チェーンベルト130における弧の部分)の側面の一部が拡大されて示されている。
【0052】
第2実施形態のチェーンベルト130では、先行ピン32aに溝部140aが設けられており、追従ピン32bに溝部140bが設けられている。溝部140aおよび溝部140bを総称して、溝部140と呼ぶ。
【0053】
ここで、チェーンベルト130がプーリに接触すると、先行ピン32aおよび追従ピン32bの両端面には、コーン面11a、12aから、プーリの回転軸方向に圧縮される力が与えられる。先行ピン32aの端部とコーン面11a、12aとの接触面、および、追従ピン32bの端部とコーン面11a、12aとの接触面には、接触面に加わる圧力の大きさが異なる圧力分布が現れる。
図7では、圧力分布を破線の等高線で概念的に示している。
図7の等高線では、周囲の破線から中央の破線に進むに従って、圧力が高くなる。
【0054】
溝部140aは、先行ピン32aの端部とコーン面11a、12aとの接触面の圧力が、当該先行ピン32aの接触面における他の位置よりも大きい位置(つまり、接触面の中で最も大きい位置)に向かって窪んでいる。同様に、溝部140bは、追従ピン32bの端部とコーン面11a、12aとの接触面の圧力が、当該追従ピン32bの接触面における他の位置よりも大きい位置(つまり、接触面の中で最も大きい位置)に向かって窪んでいる。つまり、第2実施形態では、溝部140の底面143と、接触面の圧力が最も大きい位置との距離が、第1実施形態に比べ、短い。このため、溝部140aに供給されて、先行ピン32aの端部とコーン面11a、12aとの間ににじみ出たオイルは、接触面の圧力が最も大きい位置に到達し易い。同様に、溝部140bに供給されて、追従ピン32bの端部とコーン面11a、12aとの間ににじみ出たオイルは、接触面の圧力が最も大きい位置に到達し易い。
【0055】
以上のように、第2実施形態では、ロッカーピン32の端部とコーン面11a、12aとの接触面の圧力が最も大きい位置にオイルが供給され易い。したがって、第2実施形態によれば、プーリとチェーンベルト130との接触面をより効率的に潤滑にさせることが可能となる。
【0056】
(第3実施形態)
図8は、第3実施形態による先行ピン32aの構成を示す側面図である。第3実施形態では、先行ピン32aにおける内側面37に溝部240aが設けられている。溝部240aは、溝部240aの底面243が先行ピン32aの長手方向に沿って傾斜している。
【0057】
より詳細には、中央部44における溝部240aの深さは、溝部240aの中で最も浅くなっている。そして、溝部240aの深さは、中央部44から固定シーブ側端41、可動シーブ側端42に進むに従って徐々に深くなっている。つまり、底面243は、中央部44が固定シーブ側端41および可動シーブ側端42よりも突出する山状に傾斜している。追従ピン32bについても、先行ピン32aと同様となっている。
【0058】
溝部240aの中央部44に供給されたオイルは、傾斜する底面243に遠心力によって押し付けられるため、固定シーブ側端41および可動シーブ側端42に移動し易い。その結果、ロッカーピン32の端部とコーン面11a、12aとの接触面にオイルが供給され易い。
【0059】
したがって、第3実施形態によれば、プーリとチェーンベルト30との接触面をより効率的に潤滑にさせることが可能となる。
【0060】
なお、底面243の傾斜角は、接触面へのオイルの供給度合やオイルの供給期間を考慮して設計されればよい。
【0061】
(第4実施形態)
図9は、第4実施形態による先行ピン32aの構成を示す側面図である。第4実施形態は、第3実施形態の変形例である。第4実施形態では、先行ピン32aにおける内側面37に溝部340aが設けられている。
【0062】
中央部44における溝部340aの深さは、溝部340aの中で最も深くなっている。そして、溝部340aの深さは、中央部44から固定シーブ側端41、可動シーブ側端42に進むに従って徐々に浅くなっている。つまり、底面343は、中央部44が固定シーブ側端41および可動シーブ側端42よりも窪む谷状に傾斜している。追従ピン32bについても、先行ピン32aと同様となっている。
【0063】
溝部340aの中央部44に供給されたオイルは、中央部44が窪む溝部340aと遠心力とによって、溝部340a内に保持され易い。その結果、ロッカーピン32がプライマリプーリ10から離脱するまで、固定シーブ側端41および可動シーブ側端42に、オイルが供給され易い。
【0064】
したがって、第4実施形態によれば、プーリとチェーンベルト30との接触面をより効率的に潤滑にさせることが可能となる。
【0065】
なお、底面343の傾斜角は、接触面へのオイルの供給度合やオイルの供給期間を考慮して設計されればよい。
【0066】
(第5実施形態)
図10は、第5実施形態によるチェーンベルト430の構成を示す部分側面図である。
図10では、チェーンベルト430におけるプーリに接触していない部分(すなわち、チェーンベルト430における弦の部分)の側面の一部が拡大されて示されている。
【0067】
第5実施形態のチェーンベルト430では、先行ピン32aに溝部440aが設けられており、追従ピン32bに溝部440bが設けられている。溝部440aおよび溝部440bは、長手方向に垂直な断面形状が略4分割円となるように形成されている。そして、溝部440aおよび溝部440bは、溝部440aと溝部440bとを合わせて、1つの略半円状の溝部440となるように形成されている。
【0068】
第5実施形態では、プライマリプーリ10の入口位置の直前において、溝部440aと溝部440bとが合わさった溝部440によってオイルを受けることが可能となる。つまり、第5実施形態では、より多くのオイルを受けることができ、より多くのオイルをロッカーピン32とコーン面11a、12aとの接触面に供給することが可能となる。したがって、第5実施形態によれば、プーリとチェーンベルト430との接触面をより効率的に潤滑にさせることが可能となる。
【0069】
ただし、チェーンベルト430がプーリと接触すると、先行ピン32aの第1転動面35aと追従ピン32bの第1転動面35bとが離れるため、略半円状の溝部440は、略4分割円の溝部440a、440bに分離される。これにより、第5実施形態では、チェーンベルト430がプーリに接触している期間において、溝部440にオイルを保持することが困難となる。これに対し、第1実施形態では、溝部40が先行ピン32aおよび追従ピン32bのそれぞれに独立して設けられており、オイルを溝部40に保持することが可能である。このため、第5実施形態よりも、第1実施形態の方が、より好ましい。
【0070】
なお、溝部440a、440bの形状は、略4分割円に限らず、溝部440aと溝部440bとを合わせた溝部440の形状は、略半円状に限らない。例えば、溝部440a、440b、440の形状は、矩形状などであってもよい。
【0071】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0072】
各実施形態では、プライマリプーリ10の入口位置付近に向けてオイルが噴射されていた。しかし、プライマリプーリ10に限らず、セカンダリプーリ20の入口位置(チェーンベルト30がセカンダリプーリ20と接触し始める位置)付近に向けてオイルが噴射されてもよいし、プライマリプーリ10の入口位置付近とセカンダリプーリ20の入口位置付近の両方にオイルが噴射されてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明は、チェーンベルトに利用できる。
【符号の説明】
【0074】
1 無段変速機
10 プライマリプーリ
11 固定シーブ
11a コーン面
12 可動シーブ
12a コーン面
30 チェーンベルト
31 リンクプレート
32 ロッカーピン
37 内側面
40 溝部