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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-07
(45)【発行日】2022-01-12
(54)【発明の名称】再粘着制御方法および電動機制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60L 15/20 20060101AFI20220104BHJP
【FI】
B60L15/20 Y
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018001607
(22)【出願日】2018-01-10
(65)【公開番号】P2018113850
(43)【公開日】2018-07-19
【審査請求日】2020-03-04
(31)【優先権主張番号】P 2017002701
(32)【優先日】2017-01-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100124682
【弁理士】
【氏名又は名称】黒田 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100104710
【弁理士】
【氏名又は名称】竹腰 昇
(74)【代理人】
【識別番号】100090479
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 一
(72)【発明者】
【氏名】山下 道寛
【審査官】佐々木 淳
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-249523(JP,A)
【文献】特開2006-034039(JP,A)
【文献】特開2004-096825(JP,A)
【文献】特開2002-325307(JP,A)
【文献】特開平11-168804(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 1/00-58/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
動輪の空転又は滑走(以下「空転滑走」という。)の発生を検知した場合に、
前記動輪に係るトルクを引き下げるトルク引き下げステップと、
前記トルク引き下げステップにより引き下げられたトルクを保持するトルク保持ステップと、
前記トルク保持ステップにより保持されたトルクを復帰させるトルク復帰ステップと、
を順に行う再粘着制御方法であって、
前記トルク復帰ステップは、
前記トルク保持ステップによりトルクが保持された状態における前記動輪の回転に係る加速度の推移が、所定の推移パターンに相当する推移をたどったことを示す所定の推移パターン条件であって、前記推移パターンが異なる複数の推移パターン条件のうちの何れか1つの推移パターン条件を満たしたことを検出することと、
前記検出に応じてトルクの復帰の制御を開始することと、
を含む、
再粘着制御方法。
【請求項2】
前記複数の推移パターン条件は、
前記トルク保持ステップによりトルクが保持された状態において、前記加速度の変化傾向が増減反転した後に、第1の加速度閾値条件を満たすほど前記加速度が変化した推移パターンを示す第1の推移パターン条件、
を少なくとも含む、
請求項1に記載の再粘着制御方法。
【請求項3】
前記複数の推移パターン条件は、
前記トルク保持ステップによりトルクが保持された状態において、前記加速度の変化傾向が増減反転し、前記加速度が、前記第1の加速度閾値条件より閾値の大きさが小さい第2の加速度閾値条件を満たした後、前記第1の加速度閾値条件を満たさずに更なる変化傾向の増減反転が生じた推移パターンを示す第2の推移パターン条件、
を含む、
請求項2に記載の再粘着制御方法。
【請求項4】
前記複数の推移パターン条件は、
前記トルク保持ステップによりトルクが保持された状態において、前記加速度の変化傾向が増減反転して前記加速度の正負が反転した後、前記加速度が、前記第2の加速度閾値条件より閾値の大きさが小さい第3の加速度閾値条件を満たして後、前記第2の加速度閾値条件を満たさずに更なる変化傾向の増減反転が生じて前記加速度の更なる正負の反転を生じた推移パターンを示す第3の推移パターン条件、
を含む、
請求項3に記載の再粘着制御方法。
【請求項5】
前記動輪の回転に係る速度をもとに、微分演算と、時間軸方向に平滑化する加速度検出用平滑化処理とを行って前記加速度を検出することと、
前記速度をもとに、微分演算と、時間軸方向に平滑化する平滑化処理であって前記加速度検出用平滑化処理よりも平滑化時間幅が短い短期平滑化処理とを行って短期平均加速度を検出することと、
を更に行い、
前記推移パターン条件は、
前記トルク保持ステップによりトルクが保持された状態において、前記加速度検出用平滑化処理を行って検出された加速度の変化傾向が増減反転して更に正負が反転した後、前記短期平均加速度の大きさが前記加速度検出用平滑化処理を行って検出された加速度の大きさ以下となった推移パターンを示す第4の推移パターン条件、
を少なくとも含む、
請求項1~4の何れか一項に記載の再粘着制御方法。
【請求項6】
動輪の空転又は滑走(以下「空転滑走」という。)の発生を検知した場合に、
前記動輪に係るトルクを引き下げるトルク引き下げステップと、
前記トルク引き下げステップにより引き下げられたトルクを保持するトルク保持ステップと、
前記トルク保持ステップにより保持されたトルクを復帰させるトルク復帰ステップと、
を順に行う再粘着制御方法であって、
前記動輪の回転に係る速度をもとに、微分演算と、時間軸方向に平滑化する加速度検出用平滑化処理とを行って加速度を検出することと、
前記速度をもとに、微分演算と、時間軸方向に平滑化する平滑化処理であって前記加速度検出用平滑化処理よりも平滑化時間幅が短い短期平滑化処理とを行って短期平均加速度を検出することと、
を更に行い、
前記トルク復帰ステップは、
前記トルク保持ステップによりトルクが保持された状態における前記動輪の回転に係る加速度の推移が、所定の推移パターンに相当する推移をたどったことを示す所定の推移パターン条件であって、前記トルク保持ステップによりトルクが保持された状態において、前記加速度検出用平滑化処理を行って検出された加速度の変化傾向が増減反転して更に正負が反転した後、前記短期平均加速度の大きさが前記加速度検出用平滑化処理を行って検出された加速度の大きさ以下となった推移パターンを示す推移パターン条件、を満たしたことを検出することと、
前記検出に応じてトルクの復帰の制御を開始することと、
を含む、
再粘着制御方法。
【請求項7】
前記トルク復帰ステップは、
前記検出がなされる前に、空転滑走の発生の前記検知に係る条件を満たさなくなった場合にはトルクの復帰の制御を開始すること、
を更に含む、
請求項1~6の何れか一項に記載の再粘着制御方法。
【請求項8】
動輪を駆動する電動機を制御し、当該動輪の空転又は滑走(以下「空転滑走」という。)の発生を検知した場合に、
前記動輪に係るトルクを引き下げるトルク引き下げステップと、
前記トルク引き下げステップにより引き下げられたトルクを保持するトルク保持ステップと、
前記トルク保持ステップにより保持されたトルクを復帰させるトルク復帰ステップと、
を順に行うことで再粘着制御を行う電動機制御装置であって、
前記トルク復帰ステップは、
前記トルク保持ステップによりトルクが保持された状態における前記動輪の回転に係る加速度の推移が、所定の推移パターンに相当する推移をたどったことを示す所定の推移パターン条件であって、前記推移パターンが異なる複数の推移パターン条件のうちの何れか1つの推移パターン条件を満たしたことを検出することと、
前記検出に応じてトルクの復帰の制御を開始することと、
を含む、
電動機制御装置。
【請求項9】
動輪を駆動する電動機を制御し、当該動輪の空転又は滑走(以下「空転滑走」という。)の発生を検知した場合に、
前記動輪に係るトルクを引き下げるトルク引き下げステップと、
前記トルク引き下げステップにより引き下げられたトルクを保持するトルク保持ステップと、
前記トルク保持ステップにより保持されたトルクを復帰させるトルク復帰ステップと、
を順に行うことで再粘着制御を行う電動機制御装置であって、
前記動輪の回転に係る速度をもとに、微分演算と、時間軸方向に平滑化する加速度検出用平滑化処理とを行って加速度を検出することと、
前記速度をもとに、微分演算と、時間軸方向に平滑化する平滑化処理であって前記加速度検出用平滑化処理よりも平滑化時間幅が短い短期平滑化処理とを行って短期平均加速度を検出することと、
を更に行い、
前記トルク復帰ステップは、
前記トルク保持ステップによりトルクが保持された状態における前記動輪の回転に係る加速度の推移が、所定の推移パターンに相当する推移をたどったことを示す所定の推移パターン条件であって、前記トルク保持ステップによりトルクが保持された状態において、前記加速度検出用平滑化処理を行って検出された加速度の変化傾向が増減反転して更に正負が反転した後、前記短期平均加速度の大きさが前記加速度検出用平滑化処理を行って検出された加速度の大きさ以下となった推移パターンを示す推移パターン条件、を満たしたことを検出することと、
前記検出に応じてトルクの復帰の制御を開始することと、
を含む、
電動機制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動輪の空転又は滑走の発生を検知した場合に当該動輪に係るトルクを引き下げ、当該引き下げた状態を保持した後に復帰させる再粘着制御方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
電動機で動輪を駆動して走行する車両として鉄道車両である電気車の他、電気自動車、燃料電池自動車等が知られているが、以下、その代表例として電気車について説明する。電気車は車輪・レール間の接線力(粘着力とも呼ばれる。)によって加減速がなされる。電動機の発生トルク(以下単に「トルク」という。)により生じる駆動力が、車輪とレールとに働く粘着力以下であれば粘着走行がなされるが、粘着力を超えた場合には空転又は滑走(以下「空転滑走」という。)が生じる。空転滑走の発生が検知された場合には、トルクを引き下げ、引き下げた状態を保持した後に復帰させる再粘着制御が行われる。
【0003】
その再粘着制御において、引き下げたトルクの復帰開始タイミングを判断する技術、すなわち復帰制御を開始可能と判断する技術としては、例えば、動輪の回転に係る加速度が一定の復帰検知レベルに達した場合にトルクの復帰を開始させる技術(特許文献1の[0007]~[0008]段落)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平11-168804号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、トルクの復帰制御を開始可能なタイミングの判断は、従来の技術では、動輪の回転に係る加速度が、所定の閾値に達したか否かという単一の固定閾値による単純判定で判断していた。
【0006】
ところで、空転滑走が発生して再粘着制御がなされた場合、再粘着時に接線力の回復によって動輪に大きな力が生じ、その力が車両に伝わって前後動が生じるため、乗り心地が悪化する問題がある。このときに生じる力は、回復した接線力の回復量が大きいほど大きく、動輪の回転に係る加速度(以下、適宜「加速度」と省略する。)の変化量が大きいほど大きい。空転滑走が生じていない粘着走行においては、加速度の変化は無い、若しくは緩やかな状態であるが、空転滑走が生じると加速度は大きく変化する。
【0007】
すなわち、再粘着制御において、トルクの復帰制御を開始する時点の加速度が、粘着走行時の加速度と大きく乖離していると、再粘着時に動輪に大きな力が生じ、乗り心地に大きな影響を与え得る。
【0008】
上述した従来の技術では、加速度が所定の閾値に達したか否かの単一の固定閾値による単純判定で引き下げたトルクの復帰開始タイミングを判断しているため、粘着走行時の加速度からの乖離が大きく、再粘着時に動輪に大きな力が生じる場合があった。
【0009】
また、単一の固定閾値による単純判定であったため、再粘着させるためのトルクの復帰制御の開始タイミングとして遅過ぎる判断になる場合があるなど、適切でない場合も起こり得た。
【0010】
本発明は、上述した背景に基づいて考案されたものであり、その目的とするところは、トルクの復帰制御の開始可能なタイミングをより適切に判断することができる技術を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
第1の発明は、
動輪の空転又は滑走(以下「空転滑走」という。)の発生を検知した場合に前記動輪に係るトルクを引き下げ、当該引き下げた状態を保持した後に復帰させる再粘着制御方法であって、
前記引き下げた状態における前記動輪の回転に係る加速度の推移が、所定の推移パターンに相当する推移をたどったことを示す所定の推移パターン条件を満たした場合に前記復帰の制御を開始すること、
を含む再粘着制御方法である。
【0012】
また、他の発明として、
動輪を駆動する電動機を制御し、当該動輪の空転又は滑走(以下「空転滑走」という。)の発生を検知した場合にトルクを引き下げ、当該引き下げた状態を保持した後に復帰させる再粘着制御を行う電動機制御装置であって、
前記再粘着制御では、前記引き下げた状態における前記動輪の回転に係る加速度の推移が、所定の推移パターンに相当する推移をたどったことを示す所定の推移パターン条件を満たした場合に前記復帰の制御を開始する、
電動機制御装置を構成することとしてもよい。
【0013】
この第1の発明等によれば、再粘着制御においてトルクを引き下げた状態における動輪の回転に係る加速度の推移が、所定の推移パターンに相当する推移をたどったことを示す所定の推移パターン条件を満たした場合にトルクを復帰させる制御が開始される。従って、トルクの復帰制御を開始するタイミングを、加速度の推移から適切に判断することが可能となる。
【0014】
第2の発明は、
前記推移パターン条件が、前記推移パターンが異なる複数の推移パターン条件を含み、
前記復帰の制御を開始することは、前記複数の推移パターン条件のうちの何れか1つの推移パターン条件を満たした場合に前記復帰の制御を開始することである、
第1の発明の再粘着制御方法である。
【0015】
この第2の発明によれば、推移パターンが異なる複数の推移パターン条件のうちの何れか1つの推移パターン条件を満たした場合に復帰制御が開始される。従って、トルクの復帰制御を開始可能な様々な推移パターンを示す推移パターン条件を定めておくことで、加速度の多様な推移に対して、適切に復帰制御の開始の是非を判断することが可能となる。
【0016】
より具体的には、第3の発明として、
前記複数の推移パターン条件が、
前記トルクの引き下げおよび前記引き下げた状態の保持によって前記加速度の変化傾向が増減反転した後に、第1の加速度閾値条件を満たすほど前記加速度が変化した推移パターンを示す第1の推移パターン条件、
を少なくとも含む、
第2の発明の再粘着制御方法を構成してもよい。
【0017】
更には、第4の発明として、
前記複数の推移パターン条件が、
前記トルクの引き下げおよび前記引き下げた状態の保持によって前記加速度の変化傾向が増減反転し、前記加速度が、前記第1の加速度閾値条件より閾値の大きさが小さい第2の加速度閾値条件を満たした後、前記第1の加速度閾値条件を満たさずに更なる変化傾向の増減反転が生じた推移パターンを示す第2の推移パターン条件、
を含む、
第3の発明の再粘着制御方法を構成してもよい。
【0018】
更に、第5の発明として、
前記複数の推移パターン条件が、
前記トルクの引き下げおよび前記引き下げた状態の保持によって前記加速度の変化傾向が増減反転して前記加速度の正負が反転した後、前記加速度が、前記第2の加速度閾値条件より閾値の大きさが小さい第3の加速度閾値条件を満たして後、前記第2の加速度閾値条件を満たさずに更なる変化傾向の増減反転が生じて前記加速度の更なる正負の反転を生じた推移パターンを示す第3の推移パターン条件、
を含む、
第4の発明の再粘着制御方法を構成してもよい。
【0019】
この第3~第5の発明によれば、トルクの引き下げおよび引き下げた状態の保持によって加速度の変化傾向が増減反転した後の様々な推移パターンに対して、適切に復帰制御の開始の是非を判断することが可能となる。
【0020】
また、第6の発明として、
前記動輪の回転に係る速度をもとに、微分演算と、時間軸方向に平滑化する加速度検出用平滑化処理とを行って前記加速度を検出することと、
前記速度をもとに、微分演算と、時間軸方向に平滑化する平滑化処理であって前記加速度検出用平滑化処理よりも平滑化時間幅が短い短期平滑化処理とを行って短期平均加速度を検出することと、
を更に含み、
前記推移パターン条件が、
前記トルクの引き下げおよび前記引き下げた状態の保持によって前記加速度の変化傾向が増減反転して前記加速度の正負が反転した後、前記短期平均加速度の大きさが前記加速度の大きさ以下となった推移パターンを示す第4の推移パターン条件、
を少なくとも含む、
第1~第5の何れかの発明の再粘着制御方法を構成することとしてもよい。
【0021】
この第6の発明によれば、動輪の回転に係る速度をもとにした2種類の加速度が検出される。1つは、微分演算と時間軸方向に平滑化する加速度検出用平滑化処理とを行って検出される加速度であり、もう1つは、微分演算と時間軸方向に平滑化する平滑化処理であって加速度検出用平滑化処理よりも平滑化時間幅が短い短期平滑化処理を行って検出される短期平均加速度である。そして、トルクの引き下げおよび引き下げた状態の保持によって加速度の変化傾向が増減反転して加速度の正負が反転した後、短期平均加速度の大きさが加速度の大きさ以下となったことで、トルクの復帰制御を開始することができる。
【0022】
平滑化時間幅が短いことから、加速度の変化に比べて、短期平均加速度の変化の方が機敏である。そのため、加速度の変化傾向が増減反転して加速度の正負が反転した後、短期平均加速度の大きさが加速度の大きさ以下となった場合には、空転滑走のピークが過ぎて収まりつつある傾向にあると言え、トルクの復帰制御を開始可能と判断できる。第6の発明によれば、この時機を適切に判断して、トルクの復帰制御を開始することができる。
【0023】
また、第7の発明として、
前記復帰の制御を開始することは、前記推移パターン条件を満たす前に、前記空転滑走の発生の前記検知に係る条件を満たさなくなった場合には前記復帰の制御を開始すること、
を更に含む第1~第6の何れかの発明の再粘着制御方法を構成することとしてもよい。
【0024】
この第7の発明によれば、推移パターン条件を満たしたか否かの判定の前提となる空転滑走の発生が検知されている状態が解消された場合には、トルクの復帰制御を開始することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】再粘着制御の流れを説明するための図。
図2】電気車の主回路の回路ブロックを示す図。
図3】再粘着制御装置の構成を示すブロック図。
図4】空転時における推移パターンを説明するための図。
図5】空転時における推移パターン条件を説明するための図。
図6】滑走時における推移パターンを説明するための図。
図7】滑走時における推移パターン条件を説明するための図。
図8】滑走時における推移パターンを説明するための図。
図9】滑走時における推移パターン条件を説明するための図。
図10】再粘着制御装置の変形例の構成を示すブロック図。
図11】空転時における推移パターンの変形例を説明するための図。
図12】滑走時における推移パターンの変形例を説明するための図。
図13】推移パターン条件の変形例を説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照して、本発明の好適な実施形態を説明する。尚、以下では、本発明を電気車に適用した場合を説明するが、電動機で動輪を駆動して走行する車両(電動車両)であれば、電気自動車や燃料電池自動車にも適用することが可能である。
【0027】
まず、再粘着制御について図1を参照して説明する。図1は、空転に係る再粘着制御を説明するための図であり、空転が発生していない一定加速中の状態から空転が発生し、再粘着制御を行って再粘着するまでの一連の各信号波形の概略を示している。横軸を時刻tとして、上から順に、制御対象の動軸(動輪)の回転に係る速度V及び基準速度Vmを示すグラフ、速度Vから検出される制御対象軸の加速度αを示すグラフ、制御対象軸に係るトルクである電動機トルク(以下適宜、単に「トルク」と省略する)τを示すグラフを示す。空転が発生していない力行状態では、速度Vは基準速度Vmにほぼ一致し、加速度αは正の略一定値を保ち、トルクτはほぼ一定に保たれている。空転が発生すると、速度Vが上昇し始め、基準速度Vmとの差分である速度差ΔVが増加する。そして、時刻t1において、速度差ΔVが予め定められた空転滑走検出閾値Vtに達すると、空転の発生が検知される。空転発生の検知は、加速度αに基づいて検知することも可能である。加速度αが、粘着走行では取り得ない正の加速度として予め定められた空転滑走検知閾値αtに達すると、空転の発生が検知される。また、速度差ΔVに基づく判定と、加速度αに基づく判定とのOR条件、或いは、AND条件として空転の発生を検知することもできる。
【0028】
空転の発生が検知されると、再粘着制御が発動されて、トルクτの引き下げ(制御の側面からより正確に述べると、電動機に対するトルク分電流の引き下げ)が開始される。トルクτの引き下げは、予め定められた引き下げ速度Wtで継続的に行われる。即ち、トルクτの引き下げ量を増加させていく。トルクτが引き下げられると、加速度αの増加が次第に抑えられ、減少に転ずる(増減傾向の反転)。この間、速度Vは上がり続けるが、加速度αがゼロとなる時刻t2では、速度Vの増加もゼロとなる。この加速度αがゼロとなったことを、空転からもとの粘着走行への回復開始として検知する(回復検知)。なお、回復検知とする加速度αをゼロとして説明したが、説明の簡明化のためにゼロとしたものであって、所定の回復検知閾値(例えばゼロではなく、“+1”や“-1”)以下に達した場合に回復開始として検知することとしてよい。回復検知がなされることは、加速度αの増減傾向の反転を検知したことをも意味する。空転の場合には、増加傾向から減少傾向への反転を意味する。
【0029】
回復検知がなされると、トルクτの引き下げを停止して、引き下げ量を保持する。すると、マイナスとなっていた加速度αの減少スピードが次第に抑えられ、やがて増減傾向の更なる反転が生じて増加に転じる。また、基準速度Vmからの乖離幅が大きくなっていた速度Vが低下し始める。このとき、詳細に後述する本実施形態の手法により、トルクτの復帰制御の開始が可能と判定されると(時刻t3)、トルク復帰制御が開始される。すなわち、保持していたトルクτの引き下げ量を減少させてトルクτを復帰させる制御が開始される。そして、トルクτが所定の目標トルク値(例えば、再粘着制御の開始時点(時刻t1)における値)まで復帰した時刻t4において、再粘着制御の終了となる。
【0030】
なお、図1を参照して空転の場合を説明したが、滑走の場合も同様である。滑走の場合は、ブレーキ動作中であるため速度Vが徐々に低下状態にあるところ、滑走の発生によって速度Vが基準速度Vmよりも低くなり、速度差ΔVが滑走検知閾値に達すると、滑走の発生が検知される。図1の速度Vのグラフを上下反転させたようなグラフとなる。
【0031】
また、加速度αもまた、図1の加速度αのグラフを加速度ゼロで折り返すように上下反転させたようなグラフとなる。すなわち、滑走が発生していない状態では加速度αは負の略一定値を保っているところ、滑走の発生によって加速度αが急低下する。そして、加速度αが滑走検知閾値に達すると、滑走の発生が検知される。
【0032】
トルクτのグラフは図1と同様である。滑走の発生が検知されるとトルクτが引き下げられ、トルクτの引き下げによって加速度αの増減傾向が反転し(この場合は減少傾向から増加傾向へ反転し)、加速度αがゼロ(或いはゼロ近傍の値)となったことで粘着走行への回復開始として検知する(回復検知)。回復検知がなされると、トルクτの引き下げを停止して引き下げ量を保持する。すると、プラスとなっていた加速度αの増加スピードが次第に抑えられ、やがて増減傾向の更なる反転が生じて減少に転じる。また、基準速度Vmからの乖離幅が大きくなっていた速度Vが増加し始める。その後、本実施形態の手法により、トルクτの復帰制御の開始が可能と判定されると、トルク復帰制御が開始され、保持していたトルクτの引き下げ量を減少させてトルクτを復帰させる制御が開始される。
【0033】
次に、本実施形態の電動機制御装置について説明する。図2は、本実施形態の電気車の主回路を示す回路ブロックであり、制御対象軸を1つとした場合を示している。すなわち、電動機の制御は個別制御(いわゆる1C1M)として以下説明するが、本発明の適用可能な形態がこれに限られるものではない。例えば、動輪2軸を一括して制御する1C2Mに適用することも可能である。本実施形態の電気車の主回路としては、電動機10と、パルスジェネレータ20と、インバータ30と、電流センサ40と、電動機制御装置50とが有る。
【0034】
電動機10は、インバータ30から電力が供給されることで車軸を回転駆動する主電動機(メインモータ)であり、例えば3相誘導電動機で実現される。パルスジェネレータ20は、制御対象軸の回転を検出する回転検出器であり、検出信号であるPG信号を再粘着制御装置60及びベクトル演算制御装置90に出力する。尚、パルスジェネレータの代わりに速度発電機等の他の回転検出器を用いてもよい。電流センサ40は、電動機10の入力端に設けられ、電動機10に流入するU相及びV相の電流Iu,Ivを検出する。インバータ30には、パンタグラフ及びコンバータを介して架線の電力が供給される。そして、インバータ30は、ベクトル演算制御装置90から入力されるU相、V相及びW相それぞれの電圧指令値Vu,Vv,Vwに基づいて出力電圧を調整し、電動機10に給電する。
【0035】
電動機制御装置50は、電動機10をベクトル制御する。この電動機制御装置50は、CPUやROM、RAM等から構成されるコンピュータ等によって実現され、例えば制御ボードとして電動機の制御装置の一部として実装されたり、或いはインバータ30を含めて一体的にインバータ装置として構成される。また、電動機制御装置50は、再粘着制御装置60と、ベクトル演算制御装置90とを備えている。
【0036】
再粘着制御装置60は、パルスジェネレータ20のPG信号から制御対象軸の速度Vを検出し、更に微分演算することで加速度αを検出する。そして、基準速度Vmを用いて、検出した速度Vおよび加速度αを監視対象として空転滑走の検知や回復検知、トルク復帰制御の開始判定ならびに再粘着検知を行って、空転滑走した動輪を再粘着させる制御を行う。この再粘着制御においては、電動機10の発生トルクを制御して動輪を再粘着させるためのトルク引き下げ指令信号を生成してベクトル演算制御装置90に出力する。ここで、基準速度Vmは電気車の走行速度であり、例えば運転台から得られる速度としてもよいし、T車の従輪の速度としてもよい。また、車両内の各軸の速度のうち、力行時であれば最小値、ブレーキ時であれば最大値等として決定してもよい。
【0037】
ベクトル演算制御装置90は、電流センサ40により検出された電流Iv,Iuをd-q軸座標変換することで得られるd軸成分である励磁電流成分Id及びq軸成分であるトルク電流成分(電動機トルク分電流)Iqや、パルスジェネレータ20により検出されたPG信号から得られる速度V、不図示の電流指令生成装置から入力される電流指令値Id,Iq、再粘着制御装置60から入力されるトルク引き下げ指令信号等に基づいて、インバータ30に対する電圧指令値Vu,Vv,Vwを生成する。具体的には、トルク引き下げ指令信号が入力されない間は、電流指令値Id,Iq等に基づく通常の演算処理を行って電圧指令値Vu,Vv,Vwを算出し、トルク引き下げ指令信号が入力されると、該信号に応じた分だけ電動機10の発生トルクを引き下げるように電圧指令値Vu,Vv,Vwを算出する。ここで、電流指令値Id,Iq等に基づき電圧指令値Vu,Vv,Vwを算出する演算処理は公知の演算処理であるため、詳細な説明は省略する。
【0038】
図3は、再粘着制御装置60の構成を示すブロック図である。再粘着制御装置60は、速度検出部601と、加速度検出部602と、加算器603と、空転滑走検知部610と、回復検知部620と、復帰制御開始判定部630と、再粘着制御部640とを有して構成される。
【0039】
速度検出部601は、PG信号をもとに制御対象軸の回転に係る速度Vを検出する。具体的には、例えば、一定時間パルス数計数方式や平均パルス幅計数方式等により速度を検出する。
加速度検出部602は、速度検出部601が検出した速度Vを微分演算することで加速度αを検出する。
【0040】
加算器603は、速度検出部601により検出された速度Vから基準速度Vmを減算して速度差ΔVを出力する。もしも空転が発生していたならば速度差ΔVは正の値となり、滑走が発生していたならば負の値となる。
【0041】
空転滑走検知部610は、速度差ΔVと加速度αとを用いて空転滑走の発生を検知する。具体的には、速度差ΔVが空転したと見なす所定の空転検知用速度差閾値以上であること、加速度αが空転したと見なす所定の空転検知用加速度閾値以上であることの何れか又は両方の判定結果から空転の発生を検知する。また、速度差ΔVが滑走したと見なす所定の滑走検知用速度差閾値以下であること、加速度αが滑走したと見なす所定の滑走検知用加速度閾値以下であることの何れか又は両方の判定結果から滑走の発生を検知する。空転滑走の発生を検知した場合には、検知信号を回復検知部620、復帰制御開始判定部630および再粘着制御部640に出力する。
【0042】
回復検知部620は、空転滑走検知部610による検知信号を受けて、空転であれば、加速度αが所定の空転回復加速度閾値以下(例えばゼロ以下)となったこと、滑走であれば、加速度αが所定の滑走回復加速度閾値以上(例えばゼロ以上)となったことで、空転滑走の回復開始を検知する。回復を検知した場合、回復検知部620は、検知信号を復帰制御開始判定部630および再粘着制御部640に出力する。
【0043】
復帰制御開始判定部630は、空転滑走検知部610の検知信号および回復検知部620の検知信号を受けて、加速度αに基づき、トルク復帰制御を開始できるか否かの判定を行う。トルク復帰制御を開始できるか否かの判定については図面を参照して詳細に後述する。トルク復帰制御を開始できると判定した場合、トルク復帰制御の開始指示信号を再粘着制御部640に出力する。
【0044】
再粘着制御部640は、空転滑走検知部610から入力される空転滑走検知信号、回復検知部620から入力される回復検知信号、復帰制御開始判定部630から入力されるトルク復帰制御の開始指示信号を用いて、図1を参照して説明した再粘着制御の通り、電動機10の発生トルクを低減させて再粘着を実現するためのトルク引き下げ指令信号を生成してベクトル演算制御装置90に出力する。
【0045】
次に、復帰制御開始判定部630によるトルク復帰制御を開始できるかの判定処理について説明する。
復帰制御開始判定部630による判定の時点では、空転滑走検知部610の検知がなされ、且つ、回復検知部620の検知がなされていることから、トルクτを引き下げて保持した状態にある。このトルクτの引き下げた状態における加速度αの推移が、所定の推移パターンに相当する推移をたどったことを示す所定の推移パターン条件を満たしたか否かで、復帰制御開始判定部630は、トルク復帰制御を開始できるか否かを判定する。
【0046】
推移パターン条件には、推移パターンが異なる複数の推移パターン条件が含まれ、何れか1つの推移パターン条件を満たした場合にトルク復帰制御を開始できると判定する。空転滑走時の加速度αの推移は画一的ではなく、傾斜路を走行中であるか、曲線を走行中であるか、高速走行中であるか、出発直後であるか、降雨や降雪があるか、といった空転滑走した場面や状況に応じて様々に変化する。そこで、再粘着する可能性が高い推移パターンをたどって加速度αが推移していることを早期に見極めて、できるだけ早期にトルク復帰制御を開始する条件として推移パターン条件を定め、これを満たすかを判断する。
本実施形態では、推移パターンは第1~第3の3つの推移パターンとする。
【0047】
図4,5は、空転時における推移パターンと、加速度αが各推移パターンの推移をたどったことを判定するための推移パターン条件とを説明するための図である。この図4,5を参照して空転時の推移パターンおよび推移パターン条件について説明する。
【0048】
第1の推移パターンは、空転検知後、トルクτの引き下げおよび引き下げた状態の保持によって加速度αの変化傾向が増減反転した後に、その傾向が増大して、第1の加速度閾値条件を満たすほど加速度αが変化した推移パターンであり、図4の(1)に示す推移パターンである。すなわち、空転時においては、トルクτの引き下げおよび引き下げた状態の保持によって加速度αは増加傾向から減少傾向に反転しており(図1の時刻t1~t2の状態)、その減少傾向が増大して、加速度αが閾値P3以下→P2以下→P1以下となったことを第1の推移パターン条件として、第1の推移パターンの推移をたどったと判定する。但し、閾値は、P1<P2<P3<0とし、閾値の大きさでは|P1|>|P2|>|P3|とする。第1の加速度閾値条件は、加速度αの大きさが閾値P1の大きさ以上となったこと、ということができる。
【0049】
第2の推移パターンは、空転検知後、トルクτの引き下げおよび引き下げた状態の保持によって加速度αの変化傾向が増減反転し、加速度αが、第1の加速度閾値条件より閾値の大きさが小さい第2の加速度閾値条件を満たした後、第1の加速度閾値条件を満たさずに更なる変化傾向の増減反転が生じた推移パターンであり、図4の(2)に示す推移パターンである。第2の加速度閾値条件は、加速度αの大きさが閾値P2の大きさ以上となったことである。
【0050】
すなわち、空転時において、トルクτの引き下げおよび引き下げた状態の保持によって加速度αが増加傾向から減少傾向に反転し、閾値P1よりも大きさが小さい閾値P2以下となることで第2の加速度閾値条件を満たした後、閾値P1以下とならず(第1の加速度閾値条件を満たさず)、閾値P4以上となることで変化傾向の更なる増減反転が生じたことを第2の推移パターン条件として、第2の推移パターンの推移をたどったと判定する。ここで、閾値P4は、P2<P4<P3<0であり、大きさでは|P2|>|P4|>|P3|である。
【0051】
第3の推移パターンは、空転検知後、トルクτの引き下げおよび引き下げた状態の保持によって加速度αの変化傾向が増減反転して加速度αの正負が反転した後、加速度αが、第2の加速度閾値条件より閾値の大きさが小さい第3の加速度閾値条件を満たして後、第2の加速度閾値条件を満たさずに更なる変化傾向の増減反転が生じて加速度αの更なる正負の反転を生じた推移パターンであり、図4の(3)に示す推移パターンである。第3の加速度閾値条件は、加速度αの大きさが閾値P3の大きさ以上となったことである。
【0052】
すなわち、空転時において、トルクτの引き下げおよび引き下げた状態の保持によって加速度αが増加傾向から減少傾向に反転し、更に正負が反転して負となった後、加速度αが、閾値P2よりも大きさが小さい閾値P3以下となることで第3の加速度閾値条件を満たした後、閾値P2以下とならず(第2の加速度閾値条件を満たさず)、加速度αの増加傾向が増加傾向に反転するとともに正負が正に反転したことを示す閾値P5以上となったことを第3の推移パターン条件として、第3の推移パターンの推移をたどったと判定する。ここで、閾値P5は、0≦P5である。
【0053】
また、滑走の場合も同様の判定を行う。
図6,7は、滑走時における推移パターンと、加速度αが各推移パターンの推移をたどったことを判定するための推移パターン条件とを説明するための図である。図6,7を参照して滑走時の推移パターンおよび推移パターン条件について説明する。
【0054】
滑走時の推移パターンも、空転時の推移パターンと同様、第1~第3の3つの推移パターンがあり、基本的には、正負の見方および増減傾向の見方が逆になるだけで、空転時と同じである。
【0055】
すなわち、第1の推移パターンは、滑走検知後、トルクτの引き下げおよび引き下げた状態の保持によって加速度αの変化傾向が増減反転(減少傾向から増加傾向へ反転)した後に、その傾向が増大して、第1の加速度閾値条件を満たすほど加速度αが変化した推移パターンであり、図6の(1)に示す推移パターンである。滑走検知後、加速度αが閾値D3以上→D2以上→D1以上となったことを第1の推移パターン条件として、第1の推移パターンの推移をたどったと判定する。但し、閾値は、D1>D2>D3>0であり、その大きさも|D1|>|D2|>|D3|である。第1の加速度閾値条件は、加速度αの大きさが閾値D1の大きさ以上となったこと、ということができる。
【0056】
第2の推移パターンは、滑走検知後、トルクτの引き下げおよび引き下げた状態の保持によって加速度αの変化傾向が増減反転(減少傾向から増加傾向へ反転)し、加速度αが、第1の加速度閾値条件より閾値の大きさが小さい第2の加速度閾値条件を満たした後、第1の加速度閾値条件を満たさずに更なる変化傾向の増減反転(増加傾向から減少傾向への反転)が生じた推移パターンであり、図6の(2)に示す推移パターンである。第2の加速度閾値条件は、加速度αの大きさが閾値D2の大きさ以上となったことである。
【0057】
より詳細には、トルクτの引き下げおよび引き下げた状態の保持によって加速度αが減少傾向から増加傾向に反転し、閾値D1よりも大きさが小さい閾値D2以上となることで第2の加速度閾値条件を満たした後、閾値D1以下とならず(第1の加速度閾値条件を満たさず)、閾値D4以下となることで変化傾向の更なる増減反転が生じたことを第2の推移パターン条件として、第2の推移パターンの推移をたどったと判定する。ここで、閾値D4は、D2>D4>D3>0であり、その大きさも|D2|>|D4|>|D3|である。
【0058】
第3の推移パターンは、滑走検知後、トルクτの引き下げおよび引き下げた状態の保持によって加速度αの変化傾向が増減反転(減少傾向から増加傾向へ反転)して加速度αの正負が反転(負から正へ反転)した後、加速度αが、第2の加速度閾値条件より閾値の大きさが小さい第3の加速度閾値条件を満たして後、第2の加速度閾値条件を満たさずに更なる変化傾向の増減反転(増加傾向から減少傾向への反転)と更なる正負の反転(正から負への反転)を生じた推移パターンであり、図6の(3)に示す推移パターンである。第3の加速度閾値条件は、加速度αの大きさが閾値D3の大きさ以上となったことである。
【0059】
より詳細には、トルクτの引き下げおよび引き下げた状態の保持によって加速度αが減少傾向から増加傾向に反転し、更に正負が反転して正となった後、加速度αが、閾値D2よりも大きさが小さい閾値D3以上となることで第3の加速度閾値条件を満たした後、閾値D2以上とならず(第2の加速度閾値条件を満たさず)、加速度αの増加傾向が減少傾向に反転するとともに正負が負に反転したことを示す閾値D5以下となったことを第3の推移パターン条件として、第3の推移パターンの推移をたどったと判定する。ここで、閾値D5は、0≧D5である。
【0060】
このように、復帰制御開始判定部630は、空転滑走時において加速度αが様々に推移したとしても、トルク復帰制御を開始可能とする推移パターンに沿った推移となっているかを早期に且つ適切に判断することができる。
よって、再粘着制御装置60(ひいては電動機制御装置50)は、再粘着制御において、トルクの復帰制御の開始可能なタイミングをより適切に判断することができる。
【0061】
なお、本発明を適用可能な形態は上述した形態に限られるものではない。
例えば、滑走時においては加速度αの値が負となることから、符号を正とした減速度βを用いて、復帰制御開始判定部630が、トルクの復帰制御の開始を判定することとしてもよい。
【0062】
図8,9に、加速度αに代えて減速度βとした場合の滑走時における推移パターンと、減速度βが各推移パターンの推移をたどったことを判定するための推移パターン条件とを示す。図6,7の正負が逆になった推移パターンおよび推移パターン条件となっている。
【0063】
また、例えば、推移パターン(および推移パターン条件)を3つとして説明したが、他の推移パターン(推移パターン条件)を加えることとしてもよい。或いは、選択した1つ又は2つの推移パターンおよび推移パターン条件のみでトルクの復帰制御が開始可能かを判定してもよい。
【0064】
例えば、第4の推移パターンおよび第4の推移パターン条件でトルク復帰制御の開始判定を行う変形例を、図10~13を参照して説明する。
【0065】
図10は、この変形例における再粘着制御装置60Aの構成を示すブロック図である。再粘着制御装置60Aは、図3に示した再粘着制御装置60から、短期平均加速度検出部606を追加して、復帰制御開始判定部630Aが、加速度αと、短期平均加速度検出部606が出力する短期平均加速度αとを用いてトルク復帰制御の開始判定を行う。
【0066】
ここで、加速度検出部602は、速度検出部601が検出した速度Vに対して、微分演算と、時間軸方向に平滑化する加速度検出用平滑化処理とを行って、加速度αを検出することとする。微分演算および加速度検出用平滑化処理のどちらを先に行うかは任意である。実際問題として、速度検出部601が検出する速度Vにはノイズ成分が含まれているため、このノイズ成分を低減する目的で加速度検出用平滑化処理を行うことが好適である。上述した実施形態においても同様である。
【0067】
例えば、移動平均演算を施したり、演算に用いるサンプリング時間間隔を所定間隔にする(より具体的には、随時検出される速度のうち、加速度演算に用いる速度のサンプリング間隔を所定間隔とする。)等の時間軸方向にある程度の平滑化を施す。
【0068】
そして、本変形例において、短期平均加速度検出部606は、速度検出部601によって検出された速度Vをもとに、微分演算と、時間軸方向に平滑化する平滑化処理であって加速度検出部602の加速度検出用平滑化処理よりも平滑化時間幅が短い短期平滑化処理とを行って短期平均加速度αを検出する。平滑化時間幅の短縮は、移動平均演算の時間幅を短くしたり、演算に用いるサンプリング時間間隔の短縮ないし使用するサンプリング数を少なくすることで実現される。
【0069】
復帰制御開始判定部630Aは、加速度αおよび短期平均加速度αの推移が、第4の推移パターンをたどる推移となった場合に再粘着が可能と判断して、トルク復帰制御を開始できると判定する。第4の推移パターンは、トルクτの引き下げおよび引き下げた状態の保持によって加速度αの変化傾向が増減反転して加速度αの正負が反転した後、短期平均加速度αの大きさが加速度αの大きさ以下となる推移パターンである。空転時の再粘着制御における第4の推移パターンを図11に、滑走時の再粘着制御における第4の推移パターンを図12に示す。
【0070】
図11,12に示すように、短期平均加速度αは、加速度αに比べて平滑化時間幅が短いことから、その値の変化が機敏である。
トルクτの引き下げおよび引き下げた状態の保持によって、空転時であれば加速度αの変化傾向が減少傾向に反転して時刻t11の時点で正負が負となり、滑走時であれば増加傾向に反転して時刻t21の時点で正負が正となる。その後、空転時であれば時刻t12の時点で短期平均加速度αの大きさが加速度αの大きさ以下となり、滑走時であれば時刻t22の時点で短期平均加速度αの大きさが加速度αの大きさ以下となる。第4の推移パターン条件は、図12に示すように、空転滑走が検知され、加速度αの正負が反転して後、短期平均加速度αの大きさが加速度αの大きさ以下となることである。
【0071】
この第4の推移パターンに沿った推移がなされた場合には、空転滑走のピークが過ぎて収まりつつある傾向にあると言え、復帰制御開始判定部630Aは、トルクの復帰制御を開始可能と判断して、トルク復帰制御の開始指示信号を再粘着制御部640に出力する。
【0072】
復帰制御開始判定部630は、上述した実施形態における第1~第3の推移パターン条件に第4の推移パターン条件を加えて、第1~第4の推移パターン条件のうちの何れか1つの条件を満たした場合に、トルクの復帰制御を開始可能と判断して、トルク復帰制御の開始指示信号を再粘着制御部640に出力することができる。
【0073】
また、図10の変形例における再粘着制御装置60Aにおいて、加速度αの代わりとなる長期平均加速度αを検出する長期平均加速度検出部605を更に設けて、復帰制御開始判定部630Aが、加速度αの代わりに長期平均加速度αを用いることとしてもよい。長期平均加速度検出部605は、速度検出部601によって検出された速度をもとに、微分演算と、時間軸方向に平滑化する平滑化処理であって短期平均加速度検出部606の短期平滑化処理よりも平滑化時間幅が長い長期平滑化処理とを行って長期平均加速度αを検出するものである。
【0074】
また、上述した実施形態でのトルクの復帰制御の開始判定は、空転滑走検知部610の検知がなされ、且つ、回復検知部620の検知がなされている状態であることを前提条件としている。そのため、復帰制御開始判定部630,630Aの判定内容にこの前提条件を付加することができることは勿論である。
【0075】
具体的には、復帰制御開始判定部630,630Aは、加速度α(或いは減速度β)の推移が所定の推移パターン条件を満たすか否かを判定している間に、空転滑走検知部610から入力される検知信号が空転滑走の検知条件を満たさなくなった旨(例えば、速度差ΔVが所定の空転検知用速度差閾値以上(滑走検知の場合には所定の滑走検知用速度差閾値以上)ではなくなった旨)を示す信号となった場合に、上記の前提条件が解消されたとしてトルクの復帰制御を開始すると判定することができる。
【0076】
また、上述した実施形態の各種の閾値判定においては、振動する信号に対するチャタリングを防止するために応差(ヒステリシス)判定を採用することができるのは勿論である。例えば、閾値P1~P5,D1~D5,D11~D15それぞれに係る判定を、応差判定とすることができる。
【符号の説明】
【0077】
10 電動機
20 パルスジェネレータ
30 インバータ
50 電動機制御装置
60 再粘着制御装置
601 速度検出部
602 加速度検出部
606 短期平均加速度検出部
610 空転滑走検知部
620 回復検知部
630 復帰制御開始判定部
640 再粘着制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13