IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社神戸製鋼所の特許一覧

特許6990116圧延機の板厚制御装置および該方法ならびに圧延機
<>
  • 特許-圧延機の板厚制御装置および該方法ならびに圧延機 図1
  • 特許-圧延機の板厚制御装置および該方法ならびに圧延機 図2
  • 特許-圧延機の板厚制御装置および該方法ならびに圧延機 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-07
(45)【発行日】2022-01-12
(54)【発明の名称】圧延機の板厚制御装置および該方法ならびに圧延機
(51)【国際特許分類】
   B21B 37/00 20060101AFI20220104BHJP
   B21B 37/58 20060101ALI20220104BHJP
【FI】
B21B37/00 261C
B21B37/00
B21B37/00 241
B21B37/58 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018011492
(22)【出願日】2018-01-26
(65)【公開番号】P2019126833
(43)【公開日】2019-08-01
【審査請求日】2020-11-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100067828
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 悦司
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100111453
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻井 智
(72)【発明者】
【氏名】片山 裕之
(72)【発明者】
【氏名】清水 隆広
(72)【発明者】
【氏名】松谷 祐紀
【審査官】中西 哲也
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-019707(JP,A)
【文献】特開平05-305319(JP,A)
【文献】特開平06-285524(JP,A)
【文献】特開2000-033409(JP,A)
【文献】特開2012-086252(JP,A)
【文献】特開昭55-077922(JP,A)
【文献】特開2009-190076(JP,A)
【文献】特開2010-105011(JP,A)
【文献】米国特許第04244025(US,A)
【文献】中国実用新案第201632488(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21B 37/00-37/78
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧延機によって圧延される圧延材の厚みが目標値となるように前記圧延機を制御する圧延機の板厚制御装置であって、
前記圧延材の厚みが圧延終了後の目標値となるように複数のパスの実施によって前記圧延材を前記圧延機で圧延する場合に、2回目以降のパスにおいて、初期における前記圧延材の長手方向に沿った塑性係数分布である初期塑性係数分布、および、今回のパスにおける前記圧延材の長手方向に沿った塑性係数分布である今パス塑性係数分布に基づいて補正値を求める補正部と、
前記補正部で求めた補正値で補正した制御値で前記圧延機を制御する板厚制御部とを備える、
圧延機の板厚制御装置。
【請求項2】
前記補正部は、前記初期における圧延材と前記今回のパスにおける圧延材とで長手方向に沿った互いに対応する位置において、前記今パス塑性係数分布の塑性係数に対する前記初期塑性係数分布の塑性係数の比に基づいて前記補正値を求める、
請求項1に記載の圧延機の板厚制御装置。
【請求項3】
パスの回数をnとし、n回目のパスの前記圧延材の長手方向に沿った位置をx(n)とし、前記位置x(n)に対応する初期の前記圧延材の長手方向に沿った位置をXとし、前記位置Xにおける前記初期塑性係数分布の塑性係数をR(X)とし、前記位置x(n)における前記今パス塑性係数分布の塑性係数をR(n、x(n))とし、前記圧延材のミル定数をMとし、前記位置x(n)における今回のパスの入側板厚偏差を△H(n、x(n))とし、予め設定された前記補正値におけるスケーリング係数をaとした場合に、
前記補正部は、式1によって前記位置x(n)における今回のパスの前記補正値△C(n、x(n))を求め、
前記板厚制御部は、式2によって前記位置x(n)における今回のパスの前記制御値△S(n、x(n))を求めてフィードフォワード板厚制御する、
請求項2に記載の圧延機の板厚制御装置。
式1;△C(n、x(n))=a×R(X)/R(n、x(n))
式2;△S(n、x(n))=((R(n、x(n))+△C(n、x(n)))/M)×△H(n、x(n))
【請求項4】
パスの回数をnとし、n回目のパスの前記圧延材の長手方向に沿った位置をx(n)とし、前記位置x(n)に対応する初期の前記圧延材の長手方向に沿った位置をXとし、前記位置Xにおける前記初期塑性係数分布の塑性係数をR(X)とし、前記位置x(n)における前記今パス塑性係数分布の塑性係数をR(n、x(n))とし、前記圧延材のミル定数をMとし、前記位置x(n)における今回のパスの入側板厚をH(n、x(n))とし、前記位置x(n)における今回のパスの出側板厚をh(n、x(n))とし、前記位置x(n)における今回のパスの入側板速度をV1(n、x(n))とし、前記位置x(n)における今回のパスの出側板速度をV2(n、x(n))とし、予め設定された前記補正値におけるスケーリング係数をaとした場合に、
前記補正部は、式1によって前記位置x(n)における今回のパスの前記補正値△C(n、x(n))を求め、
前記板厚制御部は、式3によって前記位置x(n)における今回のパスの前記制御値△S(n、x(n))を求めてマスフロー板厚制御する、
請求項2に記載の圧延機の板厚制御装置。
式1;△C(n、x(n))=a×R(X)/R(n、x(n))
式3;△S(n、x(n))=(M+H(n、x(n))+△C)/M×(H×V1(n、x(n))/V2(n、x(n))-h)
【請求項5】
圧延機によって圧延される圧延材の厚みが目標値となるように前記圧延機を制御する圧延機の板厚制御方法であって、
前記圧延材の厚みが圧延終了後の目標値となるように複数のパスの実施によって前記圧延材を前記圧延機で圧延する場合に、2回目以降のパスにおいて、初期における前記圧延材の長手方向に沿った塑性係数分布である初期塑性係数分布、および、今回のパスにおける前記圧延材の長手方向に沿った塑性係数分布である今パス塑性係数分布に基づいて補正値を求める補正工程と、
前記補正工程で求めた補正値で補正した制御値で前記圧延機を制御する板厚制御工程とを備える、
圧延機の板厚制御方法。
【請求項6】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の圧延機の板厚制御装置を備える圧延機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧延機によって圧延される圧延材の厚みを自動的に制御する圧延機の板厚制御装置および板厚制御方法に関する。そして、本発明は、このような板厚制御装置を備える圧延機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、圧延機を用いることによって、例えばフィルムや鋼板等の圧延材を圧延する場合、前記圧延機に設けられた一対のワークロールの間における隙間の長さ(ロールギャップ長)を調整することによって、前記一対のワークロールにおける出側での圧延材の厚み(板厚)を所望の目標値(設定値)に一致させる板厚制御が板厚制御装置によって実施されている。この板厚制御には、フィードフォワード板厚制御方法、マスフロー板厚制御方法およびモニタ板厚制御方法等の種々の方法が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1に開示された自動板厚制御方法は、圧延機から離れて配置された出側板厚計により、圧延材の出側板厚偏差を検出し、これに基づきコントローラにてロールギャップ制御量を演算処理し、その結果を圧下制御装置に出力してロールギャップを調整する圧延機の自動板厚制御方法において、低速圧延時においては非連続制御とし、前回制御出力した時点のロール直下の圧延材が出側板厚計に到達したときの出側板厚偏差に基づきロールギャップ制御量を出力することを繰り返す。ここで、特許文献1に開示された自動板厚制御方法では、制御回数をiとし、ミル定数をMとし、第i回目の制御で求めた変形抵抗をmi とし、第i回目の制御で求めた出側板厚偏差を△hi とした場合、ロールギャップ制御量ΔSi は、{(M+mi )/M}・Δhi で求められ、第2回目以降の制御における変形抵抗mi は、{(△Si-1 -1)/△(△hi )}×Mで求められる。ただし、入側板厚偏差値を△Hi とし、圧下率をRとして、△(△hi )=△hi ’-△hi 、△hi ’=△Hi ×(1-R)。
【0004】
また例えば、特許文献2に開示された可逆圧延機における被圧延材板厚制御方法は、圧延ロール方向に供給状態にある入側の母材上の設定検出位置各々での実板厚の設定板厚との入側板厚偏差を一定母材長さ毎に検出する一方、検出された設定検出位置対応の入側板厚偏差にもとづき、圧延ロールの開度が制御された状態で母材が圧延ロールで圧延されるフィードフォワード自動板厚制御が行われるに際して、設定検出位置対応に、圧延ロールでの実開度の設定開度との開度偏差と、出側母材の実板厚の設定板厚との出側板厚偏差とを検出した上、設定検出位置対応の入側板厚偏差、開度偏差および出側板厚偏差と、予め設定されている塑性係数および弾性係数とにもとづき、母材上での設定検出位置対応に実塑性係数が第1パス目で検出された後は、第2パス目以降での被圧延材の圧延制御に際しては、当該パスでの設定検出位置対応の塑性係数を、前回パスでの設定塑性係数と該パスでの実塑性係数との比に、当該パスでの設定塑性係数を乗じたものとして得た上、出側被圧延材の実板厚の設定板厚との出側板厚偏差をモニタしつつ、圧延ロール方向に供給状態にある入側の被圧延材上の設定検出位置各々での実板厚の設定板厚との入側板厚偏差を一定母材長さ毎に検出する一方、検出された設定検出位置対応の入側板厚偏差と更新後の設定検出位置対応の実塑性係数とにもとづき、圧延ロールの開度が制御された状態で被圧延材が同一圧延ロールで繰返し圧延されるようにした。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平06-285524号公報
【文献】特開平05-305319号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、前記特許文献1に開示された自動板厚制御方法では、第2回目以降の変形抵抗(塑性係数)mi は、論理式で求めているため、現実の製造では実際値とズレが生じてしまい、板厚の精度が低下してしまう虞があった。特に、例えば数百ミクロンメートル以下や100μm以下等の極薄厚に圧延材を圧延する場合に、前記精度の低下は、重大である。また、前記特許文献2に開示された被圧延材板厚制御方法では、「第2パス目以降での被圧延材の圧延制御に際しては、当該パスでの設定検出位置対応の塑性係数を、前回パスでの設定塑性係数と該パスでの実塑性係数との比に、当該パスでの設定塑性係数を乗じたものとして得た上」と記載されているものの、パスを繰り返すごとに圧延材が薄くなって硬くなって行く点等を当該パスでの実塑性係数にどのように反映させるか不明であり、この点を反映させた当該パスでの実塑性係数を求めることができず、板厚の精度が低下してしまう虞がある。
【0007】
本発明は、上述の事情に鑑みて為された発明であり、その目的は、板厚の精度をより向上できる圧延機の板厚制御装置および板厚制御方法ならびに前記板厚制御装置を備えた圧延機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、種々検討した結果、上記目的は、以下の本発明により達成されることを見出した。すなわち、本発明の一態様にかかる圧延機の板厚制御装置は、圧延機によって圧延される圧延材の厚みが目標値となるように前記圧延機を制御する圧延機の板厚制御装置であって、前記圧延材の厚みが圧延終了後の目標値となるように複数のパスの実施によって前記圧延材を前記圧延機で圧延する場合に、2回目以降のパスにおいて、初期における前記圧延材の長手方向に沿った塑性係数分布である初期塑性係数分布、および、今回のパスにおける前記圧延材の長手方向に沿った塑性係数分布である今パス塑性係数分布に基づいて補正値を求める補正部と、前記補正部で求めた補正値で補正した制御値で前記圧延機を制御する板厚制御部とを備える。
【0009】
このような圧延機の板厚制御装置は、初期塑性係数分布(初期変形抵抗分布)と今パス塑性係数分布(今パス変形抵抗分布)とに基づいて補正値を求め、この補正値で補正した制御値で圧延機を制御するので、板厚の精度をより向上できる。
【0010】
他の一態様では、上述の圧延機の板厚制御装置において、前記補正部は、前記初期における圧延材と前記今回のパスにおける圧延材とで長手方向に沿った互いに対応する位置において、前記今パス塑性係数分布の塑性係数に対する前記初期塑性係数分布の塑性係数の比に基づいて前記補正値を求める。
【0011】
このような圧延機の板厚制御装置は、圧延材の長手方向に沿ったそれぞれの各位置で各補正値を求めることができるので、きめ細かく圧延機の板厚を制御できるから、板厚の精度をより向上できる。
【0012】
他の一態様では、上述の圧延機の板厚制御装置において、パスの回数をnとし、n回目のパスの前記圧延材の長手方向に沿った位置をx(n)とし、前記位置x(n)に対応する初期の前記圧延材の長手方向に沿った位置をXとし、前記位置Xにおける前記初期塑性係数分布の塑性係数(前記位置Xにおける前記初期変形抵抗分布の変形抵抗)をR(X)とし、前記位置x(n)における前記今パス塑性係数分布の塑性係数(前記位置x(n)における前記今パス変形抵抗分布の変形抵抗)をR(n、x(n))とし、前記圧延材のミル定数をMとし、前記位置x(n)における今回のパスの入側板厚偏差を△H(n、x(n))とし、予め設定された前記補正値におけるスケーリング係数をaとした場合に、前記補正部は、式1によって前記位置x(n)における今回のパスの前記補正値△C(n、x(n))を求め、前記板厚制御部は、式2によって前記位置x(n)における今回のパスの前記制御値△S(n、x(n))を求めてフィードフォワード板厚制御する。好ましくは、上述の圧延機の板厚制御装置において、前記補正値の演算において、前記位置Xにおける初期の板厚H(X)が、前記位置Xにおける前記初期塑性係数分布の塑性係数R(X)として用いられ、前記位置x(n)における今回のパスの板厚H(n、x(n))が、前記位置x(n)における前記今パス塑性係数分布の塑性係数R(n、x(n))として用いられる。
【0013】
式1;△C(n、x(n))=a×R(X)/R(n、x(n))
式2;△S(n、x(n))=((R(n、x(n))+△C(n、x(n)))/M)×△H(n、x(n))
これによれば、フィードフォワード板厚制御する圧延機の板厚制御装置が提供できる。
【0014】
他の一態様では、上述の圧延機の板厚制御装置において、パスの回数をnとし、n回目のパスの前記圧延材の長手方向に沿った位置をx(n)とし、前記位置x(n)に対応する初期の前記圧延材の長手方向に沿った位置をXとし、前記位置Xにおける前記初期塑性係数分布の塑性係数をR(X)とし、前記位置x(n)における前記今パス塑性係数分布の塑性係数をR(n、x(n))とし、前記圧延材のミル定数をMとし、前記位置x(n)における今回のパスの入側板厚をH(n、x(n))とし、前記位置x(n)における今回のパスの出側板厚をh(n、x(n))とし、前記位置x(n)における今回のパスの入側板速度をV1(n、x(n))とし、前記位置x(n)における今回のパスの出側板速度をV2(n、x(n))とし、予め設定された前記補正値におけるスケーリング係数をaとした場合に、前記補正部は、式1によって前記位置x(n)における今回のパスの前記補正値△C(n、x(n))を求め、前記板厚制御部は、式3によって前記位置x(n)における今回のパスの前記制御値△S(n、x(n))を求めてマスフロー板厚制御する。好ましくは、上述の圧延機の板厚制御装置において、前記補正値の演算において、前記位置Xにおける初期の板厚H(X)が、前記位置Xにおける前記初期塑性係数分布の塑性係数R(X)として用いられ、前記位置x(n)における今回のパスの板厚H(n、x(n))が、前記位置x(n)における前記今パス塑性係数分布の塑性係数R(n、x(n))として用いられる。
【0015】
式1;△C(n、x(n))=a×R(X)/R(n、x(n))
式3;△S(n、x(n))=(M+H(n、x(n))+△C)/M×(H×V1(n、x(n))/V2(n、x(n))-h)
これによれば、マスフロー板厚制御する圧延機の板厚制御装置が提供できる。
【0016】
本発明の他の一態様にかかる圧延機の板厚制御方法は、圧延機によって圧延される圧延材の厚みが目標値となるように前記圧延機を制御する圧延機の板厚制御方法であって、
前記圧延材の厚みが圧延終了後の目標値となるように複数のパスの実施によって前記圧延材を前記圧延機で圧延する場合に、2回目以降のパスにおいて、初期における前記圧延材の長手方向に沿った塑性係数分布である初期塑性係数分布、および、今回のパスにおける前記圧延材の長手方向に沿った塑性係数分布である今パス塑性係数分布に基づいて補正値を求める補正工程と、前記補正工程で求めた補正値で補正した制御値で前記圧延機を制御する板厚制御工程とを備える。
【0017】
このような圧延機の板厚制御方法は、初期塑性係数分布(初期変形抵抗分布)と今パス塑性係数分布(今パス変形抵抗分布)とに基づいて補正値を求め、この補正値で補正した制御値で圧延機を制御するので、板厚の精度をより向上できる。
【0018】
本発明の他の一態様にかかる圧延機は、これら上述のいずれかの圧延機の板厚制御装置を備える。
【0019】
これによれば、これら上述のいずれかの圧延機の板厚制御装置を備える圧延機が提供できる。このような圧延機は、板厚の精度をより向上できる。
【発明の効果】
【0020】
本発明にかかる圧延機の板厚制御装置および板厚制御方法は、板厚の精度をより向上できる。そして、本発明によれば、このような圧延機の板厚制御装置を備える圧延機が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】実施形態における圧延システムの構成を示す図である。
図2】板厚制御における制御値の補正の仕方を説明するための図である。
図3】前記圧延システムの板厚制御装置における板厚制御の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して、本発明の1または複数の実施形態が説明される。しかしながら、発明の範囲は、開示された実施形態に限定されない。なお、各図において同一の符号を付した構成は、同一の構成であることを示し、適宜、その説明を省略する。本明細書において、総称する場合には添え字を省略した参照符号で示し、個別の構成を指す場合には添え字を付した参照符号で示す。
【0023】
図1は、実施形態における圧延システムの構成を示す図である。図2は、板厚制御における制御値の補正の仕方を説明するための図である。図2の上段は、1回目のパス(第1パス)における入側板厚H(1)(初期の板厚H)を示し、図2の中段は、n回目のパス(第nパス)における入側板厚H(n)(今回のパスの板厚H(n))を示し、図2の下段は、前記1回目のパスにおける圧延材と前記n回目のパスにおける圧延材とで長手方向に沿った互いに対応する位置において、前記今回のパスの板厚H(n)に対する前記初期の板厚H(1)の比H(1)/H(n)を示す。図2の各段における横軸は、前記圧延材における長手方向の長さ(位置)を示し、図2の上段および下段における縦軸は、前記圧延材の厚み(mm)を示す。
【0024】
実施形態における圧延システムSは、圧延対象である圧延材WKを自動的に所定の目標の厚み(板厚)となるように圧延するシステムであり、例えば、図1に示すように、圧延機1と、板厚制御装置3と、第1速度計4と、第1厚み計5と、第2速度計6と、第2厚み計7と、第1デフレクタロール8と、第2デフレクタロール9とを備え、例えば第1および第2リールR1、R2に巻回された帯状の圧延材WKを、第1および第2リールR1、R2間に配設された圧延機1によって圧延する。この圧延システムSによって製造される圧延製品の板厚は、任意であって良いが、近年の薄物化に鑑み、好適には、例えば数百ミクロンメートル以下や100μm以下等の領域である。
【0025】
圧延機1は、一対のワークロールの間に圧延材を通し、前記一対のワークロールから力を受けて変形することでその厚みを減じ、前記目標の厚みに成形する装置である。圧延機1は、複数のパスそれぞれに対応する前記一対のワークロールを複数備え、圧延材を前記複数の一対のワークロールにおける各間を順次に通過させることによって順次にその厚みを減じ、前記目標の厚みに成形するタンデム型圧延機であって良いが、本実施形態では、前記一対のワークロールを1個備え、圧延材を前記一対のワークロールの間に、正方向およびその逆方向に1または複数回通過させることによって各回(各パス)で順次にその厚みを減じ、前記目標の厚みに成形するリバース型圧延機である。すなわち、複数回のパスを実施する一対のワークロールは、異なっても同一であっても良い。
【0026】
本実施形態では、より具体的には、圧延機1は、圧下装置13と、圧下装置13によりその間に力を加えながら圧延材WKを通して圧延材WKを圧延する一対の第1および第2ワークロール11-1、11-2と、前記一対の第1および第2ワークロール11-1、11-2の弾性変形等を抑制するように前記一対の第1および第2ワークロール11-1、11-2それぞれを支持する一対の第1および第2バックアップロール12-1、12-2とを備える。なお、図1に示す例では、1つのワークロール11は、1つのバックアップロール12によって支持されるが、複数のバックアップロール12によって支持されても良い。すなわち、圧延機1は、縦型ミルやクラスタ型ミル等の複数段型圧延機であっても良い。圧下装置13は、板厚制御装置3における後述の板厚制御部31に接続され、板厚制御部31の制御に従って、前記一対の第1および第2ワークロール11-1、11-2のうちの一方を他方に対して近接移動または離間移動することによって、前記一対の第1および第2ワークロール11-1、11-2の間における隙間の長さ(ロールギャップ長)を調整しながら、前記一対の第1および第2ワークロール11-1、11-2を圧下する装置である。圧下装置13は、本実施形態では、高応答性の観点から、例えば、油圧圧下装置である。
【0027】
第1デフレクタロール8は、圧延機1に対し一方側に、圧延機1から所定の距離だけ離間した位置に配設された、所定の軸回りに回転可能な円柱状の部材である。第2デフレクタロール9は、圧延機1に対し他方側に、圧延機1から所定の距離だけ離間した位置に配設された、所定の軸回りに回転可能な円柱状の部材である。
【0028】
第1速度計4は、圧延機1と第1デフレクタロール8と間における圧延材WKの移動速度を測定する装置である。第1速度計4は、その測定した圧延材WKの移動速度を板厚制御装置3の板厚制御部31へ出力する。第1速度計4は、本実施形態では、例えば、第1デフレクタロール8の回転速度を測定するパルスジェネレータである。第2速度計6は、圧延機1と第2デフレクタロール9と間における圧延材WKの移動速度を測定する装置である。第2速度計6は、その測定した圧延材WKの移動速度を板厚制御装置3の板厚制御部31へ出力する。第2速度計6は、本実施形態では、例えば、第2デフレクタロール9の回転速度を測定するパルスジェネレータである。
【0029】
第1厚み計5は、圧延機1と第1デフレクタロール8と間における圧延材WKの厚み(板厚)を測定する装置である。第1厚み計5は、その測定した圧延材WKの板厚を板厚制御装置3における板厚制御部31および後述の補正部32それぞれへ出力する。第1厚み計5は、本実施形態では、例えば、圧延機1と第1デフレクタロール8と間に配設されたX線透過型厚み計である。第2厚み計7は、圧延機1と第2デフレクタロール9と間における圧延材WKの厚み(板厚)を測定する装置である。第2厚み計7は、その測定した圧延材WKの板厚を板厚制御装置3における板厚制御部31および補正部32それぞれへ出力する。第2厚み計7は、本実施形態では、例えば、圧延機1と第2デフレクタロール9と間に配設されたX線透過型厚み計である。
【0030】
ここで、第1および第2速度計4、6で圧延材WKの速度を計測することで、サンプリング時間間隔が予め既知であるので、板厚制御装置3は、第1および第2厚み計5、7で計測された厚みに対する圧延材WKにおける長手方向の位置を求めることができ、第1および第2厚み計5、7で計測された厚みと圧延材WKにおける長手方向の位置とを互いに対応付けることができる。すなわち、板厚制御装置3は、圧延材WKの板厚をその長手方向でトラッキングできる。
【0031】
なお、第1および第2速度計4、6は、それぞれ、パルスジェネレータに限定されるものではなく、他の速度計であっても良い。例えば、第1速度計4は、圧延機1と第1デフレクタロール8と間に配設されたレーザドップラ速度計等であっても良く、第2速度計6は、圧延機1と第2デフレクタロール9と間に配設されたレーザドップラ速度計等であっても良い。特に、マスフロー板厚制御の場合では、板速度の検出精度が板厚精度に影響するので、第1および第2速度計4、6は、それぞれ、検出精度のより高いレーザドップラ速度計が好適である。第1および第2厚み計5、7は、それぞれ、X線透過型厚み計に限定されるものではなく、他の厚み計であっても良い。例えば、第1および第2厚み計5、7は、それぞれ、レーザ型厚み計や接触式厚み計等であっても良い。
【0032】
図1に矢符(→)で示す正方向(図1では紙面の左側から右側へ向かう方向)に圧延材WKが移動するパスの場合、第1および第2リールR1、R2、第1および第2速度計4、6、第1および第2厚み計5、7、ならびに、第1および第2デフレクタロール8、9は、次のように機能する。すなわち、第1リールR1は、入側リールとなり、巻回された圧延材WKを圧延機1へ供給する。第1デフレクタロール8は、第1リールR1から引き出された圧延材WKの方向を水平方向に変更する。第1速度計4は、入側速度計となり、圧延機1の入側における圧延材WKの移動速度(入側板速度)を測定し、この測定した入側板速度を板厚制御部31へ出力する。第1厚み計5は、入側厚み計となり、圧延機1の入側における圧延材WKの厚み(入側板厚)を測定し、この測定した入側板厚を板厚制御部31および補正部32それぞれへ出力する。第2デフレクタロール9は、圧延機1から送られてきた水平方向の圧延材WKを第2リールR2の方向に変更する。第2リールR2は、出側リールとなり、圧延機1で圧延された圧延材WKを巻き取って収容する。第2速度計6は、出側速度計となり、圧延機1の出側における圧延材WKの移動速度(出側板速度)を測定し、この測定した出側速度を板厚制御部31へ出力する。第2厚み計7は、出側厚み計となり、圧延機1の出側における圧延材WKの厚み(出側板厚)を測定し、この測定した出側板厚を板厚制御部31および補正部32それぞれへ出力する。
【0033】
一方、図1に矢符(→)で示す前記正方向に対し逆方向(図1では紙面の右側から左側へ向かう方向)に圧延材WKが移動するパスの場合、第1および第2リールR1、R2、第1および第2速度計4、6、第1および第2厚み計5、7、ならびに、第1および第2デフレクタロール8、9は、次のように機能する。すなわち、第2リールR2は、入側リールとなり、巻回された圧延材WKを圧延機1へ供給する。第2デフレクタロール9は、第2リールR2から引き出された圧延材WKの方向を水平方向に変更する。第2速度計6は、入側速度計となり、圧延機1の入側における圧延材WKの入側板速度を測定し、この測定した入側板速度を板厚制御部31へ出力する。第2厚み計7は、入側厚み計となり、圧延機1の入側における圧延材WKの入側板厚を測定し、この測定した入側板厚を板厚制御部31および補正部32それぞれへ出力する。第1デフレクタロール8は、圧延機1から送られてきた水平方向の圧延材WKを第1リールR1の方向に変更する。第1リールR1は、出側リールとなり、圧延機1で圧延された圧延材WKを巻き取って収容する。第1速度計4は、出側速度計となり、圧延機1の出側における圧延材WKの出側板速度を測定し、この測定した出側板速度を板厚制御部31へ出力する。第1厚み計5は、出側厚み計となり、圧延機1の出側における圧延材WKの出側板厚を測定し、この測定した出側板厚を板厚制御部31および補正部32それぞれへ出力する。
【0034】
板厚制御装置3は、圧延機1によって圧延される圧延材WKの厚みが圧延終了後の目標値(最終目標値)となるように圧延機1を制御する装置である。本実施形態では、板厚制御装置3は、フィードフォワード板厚制御またマスフロー板厚制御によって圧下装置13を介してワークロール11のロールギャップ長を調整することで圧延機1を制御する。このような板厚制御装置3は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、記憶素子(ROM(Read Only Memory)、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)およびRAM(Random Access Memory)等)およびその周辺回路を備えるマイクロコンピュータを備えて構成され、前記記憶素子に記憶されたプログラムの実行によってCPUに板厚制御部31および補正部32を機能的に備える。なお、板厚制御装置3は、PLC(Programmable Logic Controller)を備えて構成されても良い。
【0035】
補正部32は、初期における圧延材WKの長手方向に沿った塑性係数分布(変形抵抗分布)である初期塑性係数分布(初期変形抵抗分布)、および、今回のパスにおける前記圧延材の長手方向に沿った塑性係数分布である今パス塑性係数分布(今パス変形抵抗分布)に基づいて補正値を求め、この求めた補正値を板厚制御部31へ通知するものである。
【0036】
板厚制御部31は、フィードフォワード板厚制御またはマスフロー板厚制御による制御値であって、前記補正部32で求めた補正値で補正した前記制御値によって圧延機1を制御するものである。
【0037】
ここで、発明者の知見に基づく板厚制御における制御値の補正の仕方について説明する。補正値で補正しない制御値で板厚制御する場合において、1回目のパス(第1パス)における入側板厚H(1)(初期の板厚H)が図2の上段に示すプロファイルを持つ圧延材WKを複数のパスで圧延した結果、n回目のパス(第nパス)における入側板厚H(n)(今回のパスの板厚H(n))が図2の中段に示すプロファイルを持つ圧延材WKに圧延された場合を考える。図2の上段に示す例では、前記初期の板厚H(1)は、厚み4mmを中心に、区間ABおよび区間CDそれぞれでは長手方向に沿ってピーク4.2mmで上に凸の曲線で変化し、区間BCおよび区間DEそれぞれでは長手方向に沿ってボトム3.8mmで下に凸の曲線で変化している。各区間AB、BC、CD、DEは、この順で並んでいる。一方、図2の中段に示す例では、前記今回のパスの板厚H(n)は、厚み2mmを中心に、区間ABでは長手方向に沿ってピーク2.1mmで上に凸の曲線で変化し、区間BCでは長手方向に沿ってボトム1.9mmで下に凸の曲線で変化し、区間CDでは長手方向に沿ってピーク2.2mmで上に凸の曲線で変化し、区間DEでは長手方向に沿ってボトム1.8mmで下に凸の曲線で変化している。なお、複数のパスによる圧延で板厚が4mmから2mmに圧延されているので、今パスの圧延材WKの長さは、初期の圧延材WKの長さの2倍になっているため、n回目のパスの圧延材WKの長手方向に沿った位置x(n)に対応する初期の圧延材WKの長手方向に沿った位置Xは、x(n)/2となる。すなわち、図2の中段の横軸は、図2の上段の横軸と同一縮尺で表した場合に較べて半分に圧縮されている。例えば、図2の上段の横軸が仮に1/1000の縮尺で表されているとすると、図2の中段の横軸は、1/2000の縮尺で表されていることになる。このような場合において、前記初期における圧延材WKと前記今回のパスにおける圧延材WKとで長手方向に沿った互いに対応する位置において、前記今回のパスの板厚H(n)に対する前記初期の板厚H(1)の比H(1)/H(n)は、図2の下段のように求められる。図2の下段に示す例では、前記比H(1)/H(n)は、区間ABおよび区間BCそれぞれでは長手方向に沿って2倍で一定であり、区間CDでは長手方向に沿ってボトム約1.9倍で下に凸の曲線で変化し、区間DEでは長手方向に沿ってピーク約2.1倍で上に凸の曲線で変化している。圧延材WKの厚みの変化は、変形抵抗、すなわち、塑性係数に相関すると考えられるから、区間ABおよび区間BCの変形抵抗(塑性係数)を基準にすると、区間CDの変形抵抗は、区間ABの変形抵抗に較べて小さく、区間DEの変形抵抗は、区間ABの変形抵抗に較べて大きい。すなわち、圧延材WKは、区間CDでは区間ABに較べて柔らかく(変形し易く)、区間DEでは区間ABに較べて硬い(変形し難い)。このため、区間ABの変形抵抗に較べて小さい変形抵抗を持つ区間CD(相対的に柔らかい区間CD)では、区間ABで圧延材WKに加えられる圧力に較べて小さい圧力となるように、制御値が補正され、区間ABの変形抵抗に較べて大きい変形抵抗を持つ区間DE(相対的に硬い区間DE)では、区間ABで圧延材WKに加えられる圧力に較べて大きい圧力となるように、制御値が補正されれば良い。この知見から、本実施形態では、補正部32は、前記初期における圧延材WKと前記今回のパスにおける圧延材WKとで長手方向に沿った互いに対応する位置において、前記今パス塑性係数分布の塑性係数(前記今パス変形抵抗分布の変形抵抗)に対する前記初期塑性係数分布の塑性係数(前記初期変形抵抗分布の変形抵抗)の比に基づいて前記補正値を求める。本実施形態では、補正値の演算において、前記位置Xにおける初期の板厚が、前記位置Xにおける前記初期塑性係数分布の塑性係数として用いられ、前記位置x(n)における今回のパスの板厚が、前記位置x(n)における前記今パス塑性係数分布の塑性係数として用いられる。前記位置Xは、n回目のパスの圧延材WKの長手方向に沿った位置x(n)に対応する初期の前記圧延材WKの長手方向に沿った位置である。
【0038】
より具体的には、例えば、入側板厚に基づいて出側板厚偏差がゼロとなるようにロールギャップ長を変化させる板厚制御方式であるフィードフォワード板厚制御の場合では、パスの回数をnとし、n回目のパスの圧延材WKの長手方向に沿った位置をx(n)とし、前記位置x(n)に対応する初期の前記圧延材WKの長手方向に沿った位置をXとし、前記位置Xにおける前記初期塑性係数分布の塑性係数(前記位置Xにおける前記初期変形抵抗分布の変形抵抗)をR(X)とし、前記位置x(n)における前記今パス塑性係数分布の塑性係数(前記位置x(n)における前記今パス変形抵抗分布の変形抵抗)をR(n、x(n))とし、前記圧延材WKのミル定数をMとし、前記位置x(n)における今回のパスの入側板厚偏差を△H(n、x(n))とし、予め設定された、補正値におけるスケーリング係数をaとした場合に、補正部32は、式1Aによって前記位置x(n)における今回のパスの前記補正値△C(n、x(n))を求め、板厚制御部31は、式2によって前記位置x(n)における今回のパスの前記制御値△S(n、x(n))を求めてフィードフォワード板厚制御する。
式1A;△C(n、x(n))=a×R(X)/R(n、x(n))
式2;△S(n、x(n))=((R(n、x(n))+△C(n、x(n)))/M)×△H(n、x(n))
【0039】
あるいは、例えば、入側板速度、出側板速度および入側板厚に基づいて出側板厚推定値を求め、出側板厚偏差がゼロとなるようにロールギャップ長を変化させる板厚制御方式であるマスフロー板厚制御の場合では、前記位置x(n)における今回のパスの入側板厚をH(n、x(n))とし、前記位置x(n)における今回のパスの出側板厚をh(n、x(n))とし、前記位置x(n)における今回のパスの入側板速度をV1(n、x(n))とし、前記位置x(n)における今回のパスの出側板速度をV2(n、x(n))とし、予め設定された、補正値におけるスケーリング係数をaとした場合に、補正部32は、上記式1Aによって前記位置x(n)における今回のパスの前記補正値△C(n、x(n))を求め、板厚制御部31は、式3によって前記位置x(n)における今回のパスの前記制御値△S(n、x(n))を求めてマスフロー板厚制御する。これによって塑性係数(変形抵抗)が圧延材WKの各位置x(n)それぞれで得られ、長手方向に沿ってきめ細かく分布が得られ、長手方向に沿ってきめ細かく補正値△C(n、x(n))が求められる。
【0040】
式3;△S(n、x(n))=(M+H(n、x(n))+△C)/M×(H×V1(n、x(n))/V2(n、x(n))-h)
これらフィードフォワード板厚制御およびマスフロー板厚制御それぞれにおいて、本実施形態では、上述のように、補正値△C(n、x(n))の演算において、前記位置Xにおける初期の板厚H(X)が、前記位置Xにおける前記初期塑性係数分布の塑性係数R(X)として用いられ、前記位置x(n)における今回のパスの板厚H(n、x(n))が、前記位置x(n)における前記今パス塑性係数分布の塑性係数R(n、x(n))として用いられるので、補正部32は、式1Bによって前記位置x(n)における今回のパスの前記補正値△C(n、x(n))を求める。
式1B;△C(n、x(n))=a×H(X)/H(n、x(n))
【0041】
なお、これらフィードフォワード板厚制御およびマスフロー板厚制御それぞれにおいて、各位置x(n)の間隔は、例えば20mm、10mm、5mm等の、長手方向に沿った板厚の精度の仕様等に応じて適宜に設定される。
【0042】
次に、本実施形態の動作について説明する。図3は、前記圧延システムの板厚制御装置における板厚制御の動作を示すフローチャートである。
【0043】
このような構成の圧延システムSでは、図3において、まず、初期設定が実行される(S11)。より具体的には、圧延材WKにおける長手方向に沿った各位置Xの初期の板厚H(X)が板厚制御装置3に記憶され、パスの回数を表す制御変数nが0にセットされる。
【0044】
続いて、板厚制御部31は、n回目のパスを実行するために、制御変数nを1だけインクリメントする(n=n+1、S12)。
【0045】
続いて、補正部32は、補正値△C(n、x(n))を求める(S13)。より具体的には、前記各位置x(n)において、まず、補正部32は、処理S11で記憶された、前記位置x(n)に対応する初期の圧延材WKの長手方向に沿った位置Xの板厚H(X)を取り出す。次に、前記今パス塑性係数分布の塑性係数(前記今パス変形抵抗分布の変形抵抗)に対する前記初期塑性係数分布の塑性係数(前記初期変形抵抗分布の変形抵抗)の比として、補正部32は、前記各位置x(n)において、n回目のパスの板厚H(n、x(n))に対する初期の板厚H(X)の比H(X)/H(n、x(n))を求める。このn回目のパスの板厚H(n、x(n))は、後述の処理S15で、前回のパス(n-1回目のパス)の出側板厚として測定され、板厚制御装置1に記憶された測定結果である。次に、補正部32は、これら各位置x(n)それぞれで求められた各比H(X)/H(n、x(n))を、分散が1であって平均が0であるように、標準化する。この標準化の演算は、一般に、データAに対し、B=(A-μ)/σと変換すれば、Bは、分散が1となって平均が0となる。ここで、μは、データAの平均値であり、σは、データAの標準偏差の値である。そして、補正部32は、前記各位置x(n)において、この標準化後の比H(X)/H(n、x(n))に、予め設定された前記補正値におけるスケーリング係数をaを乗算し、これによって補正値△C(n、x(n))=a×H(X)/H(n、x(n))を求め、この求めた補正値△C(n、x(n))を板厚制御部31へ通知する。
【0046】
スケーリング係数aは、任意であり、適宜に設定される。スケーリング係数aが相対的に大きい値に設定されると、1回のパスで大きな補正値で制御値が補正され、スケーリング係数aが相対的に小さい値に設定されると、1回のパスで小さな補正値で制御値が補正される。このため、圧下装置13で印加できる圧力の範囲や、パスの回数等を勘案することによって、スケーリング係数aは、適宜に設定される。
【0047】
続いて、板厚制御部31は、前記各位置x(n)において、前記位置x(n)におけるn回目のパスの制御値△S(n、x(n))を求めて板厚制御する(S14)。
【0048】
例えば、フィードフォワード板厚制御の場合では、板厚制御部31は、前記各位置x(n)において、前記式2によって前記位置x(n)におけるn回目のパスの前記制御値△S(n、x(n))を求めてフィードフォワード板厚制御する。この場合では、フィードフォワード板厚制御するために、入側板厚が測定され、入側板厚偏差が求められる。
【0049】
あるいは、例えば、マスフロー板厚制御の場合では、板厚制御部31は、前記各位置x(n)において、前記式3によって前記位置x(n)におけるn回目のパスの前記制御値△S(n、x(n))を求めてマスフロー板厚制御する。この場合では、マスフロー板厚制御するために、入側板厚、出側板厚、入側板速度および出側板速度が測定される。
【0050】
続いて、板厚制御部31は、前記各位置x(n)において、出側板厚を厚み計によって測定し、この測定した出側板厚を次回のパス(n+1回目のパス)の板厚H(n+1、x(n+1))として記憶する(S15)。
【0051】
続いて、板厚制御部31は、圧延の終了か否かを判定する(S16)。例えば、予め設定された回数のパスを終了したか否かによって、圧延の終了か否かが判定される。あるいは、例えば、出側板厚の平均値が所定の許容の範囲内で目標値に達したか否かによって、圧延の終了か否かが判定される。この判定の結果、圧延の終了の場合(Yes)には、板厚制御部31は、本処理を終了し、一方、前記判定の結果、圧延の終了ではない場合(No)には、板厚制御部31は、処理を処理S12へ戻す。
【0052】
以上説明したように、本実施形態における板厚制御装置3およびこれに実装された板厚制御方法は、初期塑性係数分布(初期変形抵抗分布)と今パス塑性係数分布(今パス変形抵抗分布)とに基づいて補正値△Cを求め、この補正値△Cで補正した制御値△Sで圧延機1を制御するので、板厚の精度をより向上できる。このため、この板厚制御装置3を備える圧延機1は、板厚の精度をより向上できる。
【0053】
上記板厚制御装置3および板厚制御方法は、圧延材WKの長手方向に沿ったそれぞれの各位置x(n)で各補正値△(n、x(n))を求めることができるので、きめ細かく圧延機1の板厚を制御できるから、板厚の精度をより向上できる。
【0054】
なお、上述の実施形態では、処理S13で補正値△Cを求める際に、各位置x(n)の各比H(X)/H(n、x(n))は、分散が1であって平均が0であるように、標準化されたが、最大値が1であって最小値が0であるように、正規化されても良い。この正規化の演算は、一般に、データAに対し、B=(A-Amin)/(Amax-Amin)と変換すれば、Bは、最大値が1であって最小値が0となる。ここで、Amaxは、データAの最大値であり、Aminは、データAの最小値である。
【0055】
本発明を表現するために、上述において図面を参照しながら実施形態を通して本発明を適切且つ十分に説明したが、当業者であれば上述の実施形態を変更および/または改良することは容易に為し得ることであると認識すべきである。したがって、当業者が実施する変更形態または改良形態が、請求の範囲に記載された請求項の権利範囲を離脱するレベルのものでない限り、当該変更形態または当該改良形態は、当該請求項の権利範囲に包括されると解釈される。
【符号の説明】
【0056】
S 圧延システム
1 圧延機
3 板厚制御装置
4 第1速度計
5 第1厚み計
6 第2速度計
7 第2厚み計
11(11-1、11-2) ワークロール
12(12-1、12-2) バックアップロール
13 圧下装置
図1
図2
図3