(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-07
(45)【発行日】2022-01-12
(54)【発明の名称】炭化ケイ素粉末
(51)【国際特許分類】
C30B 29/36 20060101AFI20220104BHJP
C01B 32/97 20170101ALI20220104BHJP
【FI】
C30B29/36 A
C01B32/97
(21)【出願番号】P 2018060758
(22)【出願日】2018-03-27
【審査請求日】2020-10-06
(31)【優先権主張番号】P 2017145479
(32)【優先日】2017-07-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114258
【氏名又は名称】福地 武雄
(74)【代理人】
【識別番号】100125391
【氏名又は名称】白川 洋一
(72)【発明者】
【氏名】石田 弘徳
(72)【発明者】
【氏名】増田 賢太
(72)【発明者】
【氏名】野中 潔
【審査官】神▲崎▼ 賢一
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-515943(JP,A)
【文献】国際公開第2013/027790(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/36
C01B 32/97
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
AlおよびCaを含む炭化ケイ素粉末であって、
前記Alは、1ppm以上200ppm以下含まれ、
前記Caは、前記Alに対して、Al:Ca=38:62~60:40のモル比で含まれ
、
前記炭化ケイ素粉末の全量に対し、最小目開き寸法Aと最大目開き寸法Bとの間の粒度を有する粉末の割合が80vol%以上であり、
前記最小目開き寸法Aおよび前記最大目開き寸法Bは、B/A≦6を満たすことを特徴とする炭化ケイ素粉末。
【請求項2】
前記Alは、20ppm以下含まれることを特徴とする請求項1記載の炭化ケイ素粉末。
【請求項3】
前記最小目開き寸法Aは、38μm以上500μm以下であることを特徴とする請求項
1または請求項2記載の炭化ケイ素粉末。
【請求項4】
前記炭化ケイ素粉末に含まれるAlおよびCa以外の不純物を合計した割合は、200ppm以下であることを特徴とする請求項1から請求項
3のいずれかに記載の炭化ケイ素粉末。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、昇華再結晶法によって成長させる炭化ケイ素単結晶の原料となる炭化ケイ素粉末に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化ケイ素(SiC)ウエハから製造される炭化ケイ素製パワー半導体は、従来のシリコンウエハから製造されるシリコン製パワー半導体と比べて、耐電圧性能が10倍であり、電力損失が2分の1であるなどの優れた特性を持つことから、現在主流であるシリコン製パワー半導体の代替品として注目されており、電気自動車の制御や、太陽光発電または風力発電用のパワーコンディショナーにおける電力制御といった用途への適用が進んでいる。炭化ケイ素ウエハは、炭化ケイ素単結晶を切断することによって、製造することができる。
【0003】
炭化ケイ素単結晶を得るために、原料となる炭化ケイ素粉末を昇華させ、炭化ケイ素種結晶に再析出させ、炭化ケイ素単結晶を成長させる昇華再結晶法が知られている。昇華再結晶法の炭化ケイ素単結晶の成長速度を上げるために、成長炉の条件の最適化に加えて、原料である炭化ケイ素原料についても取り組みがなされている。また、炭化ケイ素単結晶は純度が高いことが望まれるため、高純度な炭化ケイ素粉末についての取り組みがなされている。
【0004】
特許文献1は、炭化ケイ素粉末の昇華速度を大きくするため、炭化ケイ素粉末の粒度分布を調整する技術が開示されている。特許文献2は、高純度の炭化ケイ素粉粒体、及び、簡易にかつ高い収率で高純度の炭化ケイ素粉粒体を製造することができる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-084259号公報
【文献】特開2015-048294号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
昇華再結晶法は、原料の炭化ケイ素粉末が昇華するにつれ、炭化ケイ素粉末の粒子は小さくなる。そのため、炭化ケイ素粒子が詰まり、炭化ケイ素粒子の間隙が小さくなる。例えば、炭化ケイ素粉末は黒鉛るつぼに入れるが、炭化ケイ素粉末の高さが減少する。これにより、昇華した炭化ケイ素ガスが炭化ケイ素粒子の間隙を通過しづらくなる。また、るつぼ底部から昇華した炭化ケイ素ガスが表面近傍の炭化ケイ素粒子に析出してしまう。その結果、炭化ケイ素単結晶の成長速度が低下する。
【0007】
特許文献1は、昇華再結晶法の過程の全体における昇華速度は考慮しているが、原料の炭化ケイ素粉末が昇華した結果起こる成長速度の低下は考慮していない。また、特許文献2は昇華再結晶法の成長速度の低下は考慮していない。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、昇華再結晶法に使用したとき、炭化ケイ素粉末の隙間が詰まりづらく、単結晶の成長に伴う、昇華速度の低下の割合が緩やかになる炭化ケイ素粉末を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)上記の目的を達成するため、本発明の炭化ケイ素粉末は、AlおよびCaを含む炭化ケイ素粉末であって、前記Alは、1ppm以上200ppm以下含まれ、前記Caは、前記Alに対して、Al:Ca=38:62~60:40のモル比で含まれることを特徴としている。
【0010】
このような濃度およびモル比でAlおよびCaを含むことで、AlとCaとが炭化ケイ素粒子の接触部分に集まりそこで炭化ケイ素粒子同士をネッキングさせる。ネッキングした部分はCa-Al-O化合物がコートするために、その部分の炭化ケイ素の昇華が阻害される。その結果、炭化ケイ素の「枠」が形成され、炭化ケイ素粉末が詰まりづらくなり、単結晶の成長に伴う、昇華速度の低下の割合が緩やかになる。
【0011】
(2)また、本発明の炭化ケイ素粉末において、前記Alは、20ppm以下含まれることを特徴としている。これにより、炭化ケイ素単結晶成長における成長炉の条件設定に余裕を持たせることができ、厳密な制御をする手間とコストを低減できる。
【0012】
(3)また、本発明の炭化ケイ素粉末において、前記炭化ケイ素粉末の全量に対し、最小目開き寸法Aと最大目開き寸法Bとの間の粒度を有する粉末の割合が80vol%以上であり、前記最小目開き寸法Aおよび前記最大目開き寸法Bは、B/A≦6を満たすことを特徴としている。このように粒度範囲を調整することで、炭化ケイ素粒子の間隙に微小な炭化ケイ素粒子が存在することがないので、炭化ケイ素粒子の間隙が小さくなることがなくなる。その結果、炭化ケイ素ガスの抜けがよくなる。
【0013】
(4)また、本発明の炭化ケイ素粉末において、前記最小目開き寸法Aは、38μm以上500μm以下であることを特徴としている。これにより、炭化ケイ素粉末の昇華速度を制御しやすくなり、炭化ケイ素単結晶の量産時の生産性を維持しつつ、安定性を高めることができる。
【0014】
(5)また、本発明の炭化ケイ素粉末において、前記炭化ケイ素粉末に含まれるAlおよびCa以外の不純物を合計した割合は、200ppm以下であることを特徴としている。これにより、炭化ケイ素単結晶に含まれる不純物濃度を低減させることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、昇華再結晶法に使用したとき、炭化ケイ素粉末の隙間が詰まりづらく、単結晶の成長に伴う、昇華速度の低下の割合が緩やかになる炭化ケイ素粉末とすることができる。また、本発明の炭化ケイ素粉末を原料として改良レーリー法で炭化ケイ素単結晶を作製すると、欠陥が少ない、Al不純物の含有量が少ない炭化ケイ素単結晶を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】(a)、(b)それぞれ炉、混合粉末および発熱体を示す側断面図および正断面図である。
【
図2】原料となる非晶質シリカおよびカーボンブラックに含有されるAlおよびCaの濃度を示す表である。
【
図3】実施例および比較例の作製に使用した原料およびその配合を示す表である。
【
図4】実施例および比較例の炭化ケイ素粉末に含まれるAl量およびAlとCaとのモル比、作製した炭化ケイ素単結晶のキャリア濃度および結晶欠陥の測定結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明者らは、鋭意研究の結果、炭化ケイ素粉末に所定の濃度のAlおよびCaをあえて含有させることで、昇華再結晶法に使用したとき、炭化ケイ素粉末が詰まりづらく、単結晶の成長に伴う、昇華速度の低下の割合が緩やかになる炭化ケイ素粉末を発明した。以下に、本発明の実施形態について説明する。
【0018】
[炭化ケイ素粉末の構成]
本発明の炭化ケイ素粉末は、AlおよびCaを含む。Alは、1ppm以上200ppm以下含まれる。また、Caは、Alに対して、Al:Ca=38:62~60:40のモル比で含まれる。このような濃度およびモル比でAlおよびCaを含むことで、AlとCaが炭化ケイ素粒子の接触部分に集まりそこで炭化ケイ素粒子同士をネッキングさせる。ネッキングした部分はCa-Al-O化合物がコートするために、その部分の炭化ケイ素の昇華が阻害される。そして、炭化ケイ素の「枠」または「骨格」のようなものが形成され、炭化ケイ素粉末の間隙が小さくなりづらくなる。その結果、炭化ケイ素粉末が詰まりづらくなり、単結晶の成長に伴う昇華速度の低下の割合が緩やかになる。
【0019】
Alは1ppm以上185ppm以下であることが望ましく、1ppm以上20ppm以下であることがさらに望ましい。1ppmより少ないと効果がない(炭化ケイ素の「枠」を形成し難い)。200ppmより多いと、炭化ケイ素単結晶中のAlが多くなり好ましくない。Alは炭化ケイ素単結晶に固溶しやすく、固溶すると炭化ケイ素単結晶のキャリア濃度が高くなり、炭化ケイ素特有の電気的性質を損なう。
【0020】
20ppm~185ppmであれば、炭化ケイ素単結晶成長における成長炉の条件を厳密に制御することで炭化ケイ素単結晶内へのAlの固溶を低く抑えることができる。単結晶成長においては、例えば、成長速度を確保しつつ転移欠陥や積層欠陥が生じないように条件を設定しなければいけないが、この濃度範囲では炭化ケイ素に固溶されるAl量を極力少なくするための条件も加味する必要があるため、厳密な制御が求められる。185ppmより大きくても制御は可能であるが、大きいほどより厳密な制御が必要となる。1~20ppmであれば、炭化ケイ素単結晶成長における成長炉の条件設定が上記より厳密でなくてすむ。
【0021】
Caは、Alに対して、Al:Ca=38:62~60:40のモル比である。炭化ケイ素単結晶の成長(昇華)は2100℃以上で行われる。よって、この温度以下で炭化ケイ素粒子のネッキングを生じさせる必要がある。工業的な安定性という観点から、2000℃以下で液相となるCa-Al-O化合物を得る必要があり、Al:Ca=38:62~60:40(モル)であれば、Ca-Al-O化合物の液相生成温度が2000℃以下となる。
【0022】
炭化ケイ素粉末は分級により所定の粒度範囲に調整されることが望ましい。例えば、ふるい分級において、粒度範囲A~Bμmとする場合、炭化ケイ素粉末の全量に対し、最小目開き寸法Aと最大目開き寸法Bとの間の粒度を有する粉末の割合が80vol%以上であることが望ましく、85vol%以上であることがより望ましく、90vol%以上であることがさらに望ましい。また、最大目開きB/最小目開きA≦6とすることが望ましく、B/A≦5とすることがより望ましく、B/A≦4とすることがさらに望ましい。このような範囲とすれば、炭化ケイ素粒子の間隙に微小な炭化ケイ素粒子が存在することがないので、炭化ケイ素粒子の間隙が小さくなることがない。その結果、炭化ケイ素ガスの抜けがよくなる。
【0023】
炭化ケイ素粉末の粒度範囲(上記でいうA)は38μm以上であることが望ましく、90μm以上であることがより望ましく、125μm以上であることがさらに望ましい。それは、Aが小さいほど比表面積が大きくなるため、炭化ケイ素単結晶成長における初期の炭化ケイ素粉末の昇華速度が速くなり、炭化ケイ素単結晶に欠陥を生じさせやすくなるからである。昇華速度は成長条件によって制御することはできるが、Aが大きいほど制御がしやすく、炭化ケイ素単結晶の量産時の安定性に富む。Aはあまりに大きいと炭化ケイ素の昇華速度それ自体が低くなり、炭化ケイ素単結晶の生産性が低下する。このような観点から、Aは500μm以下であることが望ましい。
【0024】
炭化ケイ素粉末に含まれるAlおよびCa以外の不純物(AlおよびCaのいずれにも当たらないもの)を合計した割合は、200ppm以下であることが望ましい。これにより、炭化ケイ素単結晶に含まれる不純物濃度を低減させることができる。
【0025】
[炭化ケイ素粉末の製造方法]
(基本的な工程)
次に、炭化ケイ素粉末の製造方法について説明する。ここでは、固相反応を利用した方法について説明するが、液相反応などを利用した方法であってもよい。
【0026】
基本的な工程として、無機ケイ酸質原料と炭素質原料を混合して炭化ケイ素製造用原料を得る原料作製工程と、前記炭化ケイ素製造用原料を2200℃以上で焼成することにより、炭化ケイ素からなる塊状物を形成する焼成工程と、前記塊状物を粉砕することにより、炭化ケイ素粉末を得る粉末形成工程とを含む。
【0027】
無機ケイ酸質原料としては、珪石などの結晶質シリカ、シリカフューム、シリカゲル等の非晶質シリカが挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。無機ケイ酸質原料の平均粒径は、焼成時の環境、原料の状態(結晶質、非晶質)、炭素質原料との反応性などによって、適宜選ばれる。
【0028】
炭素質原料としては、例えば、天然黒鉛、人工黒鉛等の結晶質カーボンや、カーボンブラック、コークス、活性炭等の非晶質カーボンが挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。炭素質原料の平均粒径は、焼成時の環境、原料の状態(結晶質、非晶質)、および炭素質材料との反応性などによって、適宜選ばれる。
【0029】
無機ケイ酸質原料と炭素質原料を混合した炭化ケイ素製造用原料中のAlとCaのモル比は、Al:Ca=38:62~60:40の範囲としておく。そして、原料全体のAlは200ppm以下とする。このような比となるよう無機ケイ酸質原料と炭素質原料が選択される。このような比とするため、無機ケイ酸質原料と炭素質原料の各々について複数の原料を組み合わせてもよい。
【0030】
このとき、原料中(無機ケイ酸質原料+炭素質原料)のAlとCaのモル比を、Al:Ca=38:62~60:40の範囲とするために、原料(無機ケイ酸質原料+炭素質原料)以外に、例えばCaが不足する場合はCa源(例えば炭酸カルシウム粉末)、Alが不足する場合にAl源(例えばアルミナ粉末)を添加しないことが好ましい。ppmという非常に少ない含有量を制御するにおいて、新たにCa源やAl源を添加しなければ、均一混合を行う際に、原料混合における混合時間が短くなり、混合機からのコンタミを小さくできる。
【0031】
(原料中のCaおよびAlの不純物量の算出について)
固相反応で本願の炭化ケイ素粉末を製造する場合、式(1)の反応で炭化ケイ素が生成される。
SiO2+3C→SiC+2CO…(1)
よって、C/Si=3(モル)となるように、無機ケイ酸質原料と炭素質原料が配合される。無機ケイ酸塩と炭素質原料中のAl、Ca量は、これらを酸分解して得られる溶液をICP発光分析法もしくはICP質量分析法によって定量する。
【0032】
ここで、原料中のAl、Ca量を算出する際、無機ケイ酸質原料は組成がSiO2であるがSiC化の際にOが離脱するため、これら分析値を60/28として不純物の算出に使用する。炭素質原料については分析値をそのまま使用してよい。
原料中のAlは以下とする。
無機ケイ酸質原料のAl量×60/28×0.625+炭素質原料のAl量×0.375≦200ppm
0.625…C/Si=3(モル)およびSiO2とCの分子量より
Caについても同様に計算を行う。
【0033】
原料は2軸ミキサー等によって混合する。得られた混合粉末を2200℃以上、好ましくは2500℃以上で焼成して、塊状の炭化ケイ素を得る。焼成方法は、特に限定されないが、外部加熱による方法、通電加熱による方法等が挙げられる。外部加熱の方法としては、例えば、流動層炉、バッチ式の炉などを用いる方法が挙げられる。通電加熱による方法としては、例えば、アチソン炉を用いるアチソン法が挙げられる。アチソン法は、昇華再結晶法に適した数10ないしは数100μm以上の炭化ケイ素粉末を容易に得ることができるので、好ましく採用される。
【0034】
焼成雰囲気は、還元雰囲気であることが好ましい。還元性が弱い雰囲気下で焼成すると、炭化ケイ素の収率が低下するためである。この際、無機ケイ酸質原料の一つとして非晶質シリカを用いると、反応性が良いことから炉の制御が容易になるため、無機ケイ酸質原料には非晶質シリカを単独あるいは、一部に非晶質シリカ含む混合物を使うことが好適である。
【0035】
なお、上記の「アチソン炉」とは、上方が開口した箱型の間接抵抗加熱炉をいう。ここで、間接抵抗加熱とは、被加熱物に電流を直接流すのではなく、電流を流して発熱させた発熱体によって炭化ケイ素を得るものである。以下に、アチソン炉の一例を説明する。
【0036】
(アチソン炉の構成)
炭化ケイ素粉末の製造に用いるアチソン炉の構成を説明する。
図1(a)、(b)は、それぞれ炉10、混合粉末20および発熱体30を示す側断面図および正断面図である。本発明の炭化ケイ素粉末の製造は、電極15a、15bつきの反応容器である炉10を用いて行うことができる。炉10は、鉛直上端面が大気開放され、内壁面に電極を有する。
【0037】
炉本体11を形成する容器の形状は特に問わないが、発熱体30に通電するための電極15a、15bを有していることが必要である。電極15a、15bは、容器内側の対向する両端面に設けられていることが好ましく、炉本体11は平行な対向する二面を有することが好ましい。炉本体11には、直方形の形状の容器を用いるのが簡便で好ましい。炉本体11は、反応ガスが過剰に発生した際にその濃度を適度に保つためのガス抜け用の隙間としてスリットを有してもよい。
【0038】
炉本体11の材質は特に問わないが、通電時に発熱体からの伝熱により壁面が高温になるため、混合粉末20と接触する部分には耐火性の高い材料を使うことが望ましい。例えば、高アルミナ質耐火れんが、珪酸カルシウムボード等が好適である。
【0039】
炉本体11に保持させる電極15a、15bとしては、高純度化の観点から金属を含まない素材が好ましい。電極15a、15bは、発熱体30からの伝熱の影響を受けることから、高温にも耐性のある黒鉛成型体が好適である。
【0040】
発熱体30の種類は、電気を通すことができるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、黒鉛粉、カーボンロッド等が挙げられる。発熱体30を構成する物質の形態は、特に限定されず、例えば、粉状、塊状等が挙げられる。発熱体30は、炉10の通電方向の両端に設けられた電極15a、15bを結ぶように全体として棒状の形状になるように設けられる。ここでの棒状の形状とは、例えば、円柱状、角柱状等が挙げられる。
【0041】
(焼成・粉砕の具体的手順)
発熱体30の埋設は、無機ケイ酸質原料および炭素質原料が混合された混合粉末20の内部に炉10内の電極15a、15b間を接続するように行う。
【0042】
混合粉末20に発熱体30を埋設し終えたら、電極15a、15bに通電する。その結果、充填された発熱体30が通電により発熱する。次第に伝熱により発熱体30から周囲の混合粉末20に熱が伝わり、発熱体30の周囲の炭素質原料と無機ケイ酸質原料が溶融あるいは反応し、ガラス質の組織や反応によって生じた炭化ケイ素結晶が生じる。このようにして混合粉末20から炭化ケイ素結晶が得られる。
【0043】
通電は、硬質な炭化ケイ素結晶の生じやすくするため、発熱体30周辺の温度が2200℃以上になるように電流等を調整する。また、2500℃以上に調整することが好ましい。
【0044】
所定時間の通電の後、炉内が常温に冷めるのを待って炉本体11から取り出す。炭化ケイ素結晶は、ガラス質組織と共に発熱体30の周囲を殻として包むような状態となっており、未反応の混合粉末20、発熱体30およびガラス質組織との分離は容易に行うことができる。
【0045】
得られた炭化ケイ素からなる塊状物(インゴット)を粉砕する。粉砕方法は、トップグラインダー、ディスクグラインダー、ジェットミル、ボールミル等を用いて粉砕する方法が挙げられる。その後、所望の粒度範囲になるように、粉砕物を分級することが好ましい。分級は、篩を用いた方法が最も簡便であり、好ましい。ただし、分級は、篩を用いた方法に限定されず、乾式、湿式の何れでもよい。また、乾式の分級として、気流を用いた例えば遠心式の分級方法を用いることもできる。
【0046】
[実施例および比較例]
複数の非晶質シリカおよびカーボンブラックを用意した。これらをJIS R 1616 「ファインセラミックス用炭化けい素微粉末の化学分析方法」の加圧酸分解-ICP発光分光法の手順に従い、事前に酸分解によって溶液化し、それぞれのAlとCaの含有量を求めた。
図2は、原料となる非晶質シリカおよびカーボンブラックに含有されるAlおよびCaの濃度を示す表である。
【0047】
所定のAl量、Ca量となるよう、非晶質シリカおよびカーボンブラックを選定し、Si/C=3(モル)となるよう配合し、2軸ミキサーで混合した。
図3は、実施例および比較例の作製に使用した原料およびその配合を示す表である。混合した原料をアチソン炉で2500℃、12時間焼成した。得られた炭化ケイ素塊をジョークラッシャーとボールミルで粉砕しふるい分級により、150~500μmの粒度範囲の炭化ケイ素粉末を得た。得られた炭化ケイ素粉末は、加圧酸分解により溶液化し、ICP発光分析によりAlとCaを定量した。
【0048】
その炭化ケイ素粉末をカーボンるつぼに入れて、炭化ケイ素単結晶を作製した。黒鉛るつぼに炭化ケイ素100gを入れた。黒鉛るつぼの上面のフタに種結晶となる炭化ケイ素単結晶をはりつけた。黒鉛るつぼ下部を2100℃にし、雰囲気圧力を30Torrとして6時間の成長を行った。
【0049】
得られた炭化ケイ素結晶は、ラマン分光法によりキャリア濃度を測定した。また、透過電子顕微鏡により結晶欠陥を測定した。Alを含むとキャリア濃度が高くなり、炭化ケイ素特有の電気的性質を損なう。結晶欠陥は、昇華速度の変化率が大きいと発生する。
図4は、実施例および比較例の炭化ケイ素粉末に含まれるAl量およびAlとCaとのモル比、作製した炭化ケイ素単結晶のキャリア濃度および結晶欠陥の測定結果を示す表である。
【0050】
実施例1~4は、炭化ケイ素粉末のAl量およびAlとCaとのモル比が適切な範囲だったため、これらを原料として作製した炭化ケイ素単結晶は、いずれもキャリア濃度が低く保たれ、結晶欠陥は確認されなかった。
【0051】
比較例1の炭化ケイ素粉末は、AlとCaとのモル比は範囲内であるが、Al量は範囲外である。比較例1の炭化ケイ素粉末を原料として作製した炭化ケイ素単結晶は、キャリア濃度が1×1018cm-3と高かった。これは、比較例1の炭化ケイ素粉末のAlの絶対量が多いため、昇華した炭化ケイ素ガスがAl-Ca-O液相成分を巻き込んだことで、Alが炭化ケイ素単結晶にドープされたものと推察される。
【0052】
比較例2の炭化ケイ素粉末は、Al量は範囲内であるが、AlとCaとのモル比が範囲外である。比較例2の炭化ケイ素粉末を原料として作製した炭化ケイ素単結晶は、キャリア濃度は低かったが、結晶欠陥が確認された。これは、比較例2の炭化ケイ素粉末のAlとCaとのモル比の組成での液相生成温度は、2000℃を超えるためであると考えられる。これにより、炭化ケイ素の「枠」が「強固」に形成されずに、炭化ケイ素が昇華される。つまり、単結晶成長の初期と後期の昇華速度の変化量が大きかったため、結晶欠陥が発生したと推察される。
【0053】
比較例3の炭化ケイ素粉末は、Al量は範囲内であるが、AlとCaのモル比が範囲外、特にAl過多の比である。比較例3の炭化ケイ素粉末を原料として作製した炭化ケイ素単結晶は、キャリア濃度が1×1018cm-3と高く、結晶欠陥も確認された。これは、比較例3の炭化ケイ素粉末がAl過多の比であったため、単結晶成長の初期と後期の昇華速度の変化量が大きく、結晶欠陥が発生したことに加え、昇華した炭化ケイ素ガスがAl-Ca-O成分を巻き込み、Alが炭化ケイ素単結晶にドープされたものと推察される。
【0054】
以上から、炭化ケイ素粉末に所定の濃度およびモル比でAlおよびCaを含ませることで、昇華再結晶法に使用したとき、炭化ケイ素粉末が詰まりづらく、単結晶の成長に伴う、昇華速度の低下の割合が緩やかになる炭化ケイ素粉末とすることができることが分かった。また、本発明の炭化ケイ素粉末を原料として改良レーリー法で炭化ケイ素単結晶を作製すると、欠陥が少ない、Al不純物の含有量が少ない炭化ケイ素単結晶を得ることができることが分かった。
【符号の説明】
【0055】
10 炉
11 炉本体
15a、15b 電極
20 混合粉末
30 発熱体