(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-07
(45)【発行日】2022-02-03
(54)【発明の名称】固化処理土の製造方法
(51)【国際特許分類】
E02F 7/00 20060101AFI20220127BHJP
E02D 3/12 20060101ALI20220127BHJP
C09K 17/10 20060101ALN20220127BHJP
【FI】
E02F7/00 D
E02D3/12 102
C09K17/10 P
(21)【出願番号】P 2018071694
(22)【出願日】2018-04-03
【審査請求日】2020-11-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000166627
【氏名又は名称】五洋建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000752
【氏名又は名称】特許業務法人朝日特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】新舎 博
(72)【発明者】
【氏名】柳橋 寛一
【審査官】皆藤 彰吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-191286(JP,A)
【文献】特開2006-326422(JP,A)
【文献】特開2002-180449(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0168460(US,A1)
【文献】寺師 昌明、奥村 樹郎、光本 司,石灰安定処理土の基本的特性に関する研究(第1報),港湾技術研究所報告,第16巻 第1号,日本,国立研究開発法人 港湾空港技術研究所,1977年07月03日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02F 7/00
E02D 3/12
C09K 17/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固化処理土を製造するための土質材料の含水比、及び該土質材料に対する固化材の混合比率を決定する方法であって、
前記土質材料の塑性限界を測定するステップと、
前記固化処理土に含まれる水の量から、前記塑性限界に基づき特定される前記土質材料の塑性分に相当する水の量と、前記固化材の水和反応に必要な水の量とを差し引いた量である余裕水の量が、所定の閾値以上となるように、前記含水比及び前記混合比率を決定するステップと、を備える含水比及び混合比率の決定方法。
【請求項2】
請求項1に記載の含水比及び混合比率の決定方法により決定された前記含水比により土質材料の含水比を調整し、決定された前記固化材の混合比率により前記土質材料と前記固化材とを混合して固化処理土を製造する固化処理土の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土質材料の含水比、この土質材料に対する固化材の混合比率の決定方法、及び固化処理土の製造方法に関する。本願では、土質材料とは土粒子と水との混合物を意味し、固化材は粉体を意味する。
【背景技術】
【0002】
浚渫土は、処分場が不足しているため、有効利用が求められている。浚渫土の大きな処分方法の一つは、浚渫土に固化材を混合して埋立材として利用することであり、各地の建設工事などで既に利用されている。この場合の固化処理土の圧縮強度は、設計基準強度がおよそ0.1~0.2メガニュートン毎平方メートル[MN/m2]であり、安全率を考慮した室内配合強度は0.2~0.5メガニュートン毎平方メートル[MN/m2]である。
【0003】
さらなる用途拡大のため、浚渫土を用いて圧縮強度が10メガニュートン毎平方メートル[MN/m2]以上の高強度固化処理土ブロックを製造することも検討されている。この高強度固化処理土は、砂礫や自然石の代替品として利用することが考えられる。
【0004】
圧縮強度が約10メガニュートン毎平方メートル[MN/m2]以上の固化処理土は、JISのA5003-1995「石材」において、強度的に準硬石の分類に入り、海水中で利用してもカルシウム分の溶出による劣化がほとんど生じないため、長期的安定性が期待される、という特長がある。
【0005】
非特許文献1には、圧縮強度が10メガニュートン毎平方メートル[MN/m2]以上の固化処理土を製造する方法として、高圧フィルタープレスを用いる方法が記載されている。この方法は、高含水比に調整した浚渫土に固化材を混合した後、4メガニュートン毎平方メートル[MN/m2]の高圧で脱水し、高強度の固化処理土を製造する方法である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】山下祐佳,善功企,陳光斉,笠間清伸:脱水固化処理による大型浚渫土ブロックの均質性および強度特性,土木学会論文集B3 (海洋開発), Vol.67, No.2, pp.440-444, 2011.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、非特許文献1に記載の方法はコストが高く、大量施工には向かないという問題がある。
【0008】
本発明の目的の一つは、高圧フィルタープレスを用いる方法に比べて安価に10メガニュートン毎平方メートル以上の固化処理土を製造することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の請求項1に係る含水比及び混合比率の決定方法は、固化処理土を製造するための土質材料の含水比、及び該土質材料に対する固化材の混合比率を決定する方法であって、前記土質材料の塑性限界を測定するステップと、前記固化処理土に含まれる水の量から、前記塑性限界に基づき特定される前記土質材料の塑性分に相当する水の量と、前記固化材の水和反応に必要な水の量とを差し引いた量である余裕水の量が、所定の閾値以上となるように、前記含水比及び前記混合比率を決定するステップと、を備える含水比及び混合比率の決定方法である。
【0010】
本発明の請求項2に係る固化処理土の製造方法は、請求項1に記載の含水比及び混合比率の決定方法により決定された前記含水比により土質材料の含水比を調整し、決定された前記固化材の混合比率により前記土質材料と前記固化材とを混合して固化処理土を製造する固化処理土の製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、高圧フィルタープレスを用いる方法に比べて安価に10メガニュートン毎平方メートル以上の固化処理土を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】土質材料の含水比と該土質材料に対する固化材の混合比率の決定方法の例を示す図。
【
図2】水/固化材重量比と圧縮強度との関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<混合比率の決定方法>
図1は、土質材料の含水比と該土質材料に対する固化材の混合比率の決定方法の例を示す図である。固化処理土の製造者は、まず、固化処理土に利用する浚渫土等の土質材料の原料(原料土という)を選択し、この土質材料の塑性限界を測定する(ステップS101)。この塑性限界の測定は、例えばJISのA1205-2009「土の液性限界・塑性限界試験方法」に準じて行われる。
【0014】
次に、製造者は、土質材料の含水比の割合、及びその土質材料に対する固化材の割合を変化させた混合比率の候補を策定し(ステップS102)、各候補について水の量から、土質材料の塑性分に相当する水の量と、固化材の水和反応に必要な水の量とを差し引いた値を「余裕水の量」として特定する(ステップS103)。
【0015】
製造者は、候補の中から、ステップS103で特定した余裕水の量が負になる候補を除外する(ステップS104)。なお、この例では、余裕水の量が負になる候補が除外されるが、製造者は、候補の中から余裕水の量が予め決められた閾値を下回る候補を除外してもよい。
【0016】
製造者は、除外後の各候補に対応する複数のサンプルを用意し(ステップS105)、そのそれぞれを28日間にわたって養生し(ステップS106)、その後、各サンプルの圧縮強度を測定する(ステップS107)。この圧縮強度の測定は、例えばJISのA1108-2006「コンクリート用圧縮強度試験」に準じて行われる。
【0017】
圧縮強度が測定されると、製造者は、各サンプルについて測定された値と室内配合強度の目標値とを比較し、目標強度を満たすと推定されるサンプルの土質材料の含水比(水/土粒子重量比)と、該土質材料に対する固化材の混合比率(水/固化材重量比)を決定する(ステップS108)。この際の手順としては、土質材料の含水比を先に決定し、その後、固化材の混合比率を決定してもよい。
【0018】
<固化処理土の製造方法>
上述した通り、室内配合強度の目標値を満たす固化処理土を製造するための土質材料の含水比、及びその土質材料に対する固化材の混合比率が決定される。そして、この決定された含水比、及び固化材の混合比率を用いて、原料土を乾燥又は加水して土質材料を製造し、この土質材料と固化材とを混合することで、固化処理土が製造される。
【0019】
<余裕水の考え方の説明>
以下に、土質材料の含水比と、固化材の混合比率、及び余裕水の考え方を実施例に基づいて説明する。
表1は、固化処理土に利用する原料土の物理特性を示す表である。なお、この例では、原料土として、浚渫土である名古屋港海成粘土を使用した。
【0020】
上述した通り、固化処理土の製造者は、原料土(浚渫土)の塑性限界、すなわち、土質材料の塑性限界を測定した。表1に示す通り、試験の結果、この浚渫土の塑性限界は24.4パーセント[%]であることがわかった。
【0021】
【0022】
次に、製造者は、土質材料の含水比と、この土質材料に対する固化材の混合比率を変化させた混合案(以下、配合案という)を策定した。表2は、この配合案で製造された試料(サンプルともいう)の試験結果を示す表である。なお、土質材料の含水比[%]は「100×Ww/Ws」で表され、土質材料に対する固化材の割合は「Wc/(Ws+Ww)」で表される。
【0023】
【0024】
ここで、固化材には太平洋セメント株式会社製の普通ポルトランドセメントを、室内配合における水には水道水を用いることとした。このポルトランドセメントの水和反応に必要な水の量は、固化材であるポルトランドセメントの重量「Wc」に対して0.6倍の重量であることがわかっている。したがって、固化材の水和反応に必要な水の量「Ww(H)」は、次の式(1)により計算される。
Ww(H)=0.6×Wc …(1)
【0025】
また、上述した通り、土質材料である名古屋港海成粘土の塑性限界は24.4%である。したがって、塑性限界に基づき特定される土質材料の塑性分に相当する水の量「Ww(wp)」は、土質材料の重量「Ws」を用いて次の式(2)により計算される。
Ww(wp)=0.244×Ws …(2)
【0026】
そして、余裕水の量は、次の式(3)により、固化処理土に用いられる水の量「Ww」から、上述した「Ww(H)」と、「Ww(wp)」とを差し引いて計算される。
余裕水の量=Ww-Ww(H)-Ww(wp) …(3)
【0027】
製造者は、試料番号「1」から「15」までの候補について余裕水の量を特定する。この場合、試料番号「7」から「11」までは、余裕水の量が負になる。したがって、製造者は、この試料番号「7」から「11」までの配合案を除外し、その他の試料番号の候補について定めた混合比率に沿ってサンプルを作製する。
【0028】
図2は、水/固化材重量比と圧縮強度との関係を示す図である。
図2には、作製されたサンプルを28日間にわたって養生した後、圧縮強度を測定した結果が表されている。ここでは説明のため、除外した候補についてもいくつかのサンプルを作製し、養生して圧縮強度を測定した。
【0029】
図2に示すように、余裕水量が負の試験結果(破線枠内)は、図内に示した強度推定ラインから大きく外れており、除外した候補は他の候補とは異なる傾向を示している。
【0030】
すなわち、これらの配合では余裕水の量が負であって、固化材の水和反応に用いられる水が十分に確保されず、サンプルに不均一な箇所が生じて圧縮強度が低下したものと推察される。
【0031】
製造者は、余裕水の量が正であった配合で作製されたサンプルのみについて、その水/固化材重量比と圧縮強度との関係を特定する。水/固化材重量比「Ww/Wc」と圧縮強度「qu」とには、次の式(4)の関係があることがわかっている。
qu=a×(Ww/Wc)-b …(4)
【0032】
すなわち、式(4)は、固化体の圧縮強度は、その固化体の水/固化材重量比の累乗に比例することを示している。製造者は、実際に測定したデータを用いて、最小二乗法等により式(4)の係数a、bを求める補間計算を行い、近似式を得た。その結果、a=20.273、b=1.144という係数が算出された。つまり、水/固化材重量比「Ww/Wc」と、材齢28日の圧縮強度「qu28」とには、次の式(5)の関係があることがわかった。ただし、式(5)は、水/固化材重量比「Ww/Wc」と、材齢28日のサンプルについて測定した圧縮強度の平均値「qu28」に対する式であり、含水比「100×Ww/Ws」に対して、圧縮強度は約20%の変動があることがわかる。
qu28=20.273×(Ww/Wc)-1.144 …(5)
【0033】
<実施例>
室内配合での強度目標値は、施工現場における不均一性等を考慮して10メガニュートン毎平方メートル[MN/m2]よりも高い15メガニュートン毎平方メートル[MN/m2]に設定した。
【0034】
次に、製造者は、配合案の候補を策定した。配合案は、含水比「100×Ww/Ws」を60%、80%、100%とし、水/固化材重量比「Ww/Wc」を1.2、2.0、4.0とした。これらの配合の余裕水量はすべて正である。
【0035】
表3は、上記の組み合わせによる混合比率の候補で製造された試料の試験結果を示す表である。試料番号「13」から「15」までは表2に記述したものであり、いずれも水/固化材重量比「Ww/Wc」が「1.2」である。
【0036】
また試料番号「16」「17」は、含水比が、試料番号「13」と同じ「60%」になるものであり、試料番号「16」は、水/固化材重量比「Ww/Wc」が「2」、試料番号「17」は、水/固化材重量比「Ww/Wc」が「4」になるものである。
【0037】
同様に、試料番号「18」「19」は、含水比が、試料番号「14」と同じ「80%」になるものであり、試料番号「18」は、水/固化材重量比「Ww/Wc」が「2」、試料番号「19」は、水/固化材重量比「Ww/Wc」が「4」になるものである。
【0038】
そして、試料番号「20」「21」は、含水比が、試料番号「15」と同じ「100%」になるものであり、試料番号「20」は、水/固化材重量比「Ww/Wc」が「2」、試料番号「21」は、水/固化材重量比「Ww/Wc」が「4」になるものである。
【0039】
【0040】
図3は、配合試験の結果例を示す図である。
図3には、上述した試料番号「13」から「21」までのサンプルの水/固化材重量比と、これらサンプルを28日間にわたって養生した後、圧縮強度を測定した結果とが対応付けて表されている。
【0041】
製造者は、表3及び
図3に示したデータを参照し、含水比wを「60%」「80%」「100%」の3つの水準で比較したところ、含水比「80%」の圧縮強度が、含水比「60%」及び「100%」の圧縮強度に比べて、水/固化材重量比に関わらず高いことがわかった。
【0042】
そこで、製造者は、含水比「80%」の圧縮強度のプロットについて最小二乗法等により式(4)の係数a、bを求める補間計算を行い、近似式を得た。その結果、a=22.647、b=1.061という係数が算出された。つまり、この条件下で、水/固化材重量比「Ww/Wc」と、材齢28日の圧縮強度「qu28」とには、次の式(6)の関係があることがわかった。
qu28=22.647×(Ww/Wc)-1.061 …(6)
【0043】
製造者は、式(6)で示される近似曲線に対して、室内配合強度の目標値を当てはめ、対応する水/固化材重量比「Ww/Wc」を決定した。室内配合強度の目標値は15メガニュートン毎平方メートル[MN/m
2]に設定しており、この目標値に対応する水/固化材重量比「Ww/Wc」は、
図3により1.5に決定された。
【0044】
すなわち、製造者は、上述した試験結果を考慮して、含水比を80%にした土質材料の量を1356kg/m3とし、固化材である粉体状のポルトランドセメントの量を402kg/m3とした。
【0045】
製造者は、陸上の仮置き場で長期間天日乾燥された名古屋港海成粘土(浚渫土)を原料土とした。この原料土は天日乾燥のため含水比が80%を下回っており、製造者は、不足した水分を水道水で補うことにより、固化処理土の製造に使用する土質材料の含水比を調整した。そして、製造者はバッチ式ミキサーを用いて、この土質材料とポルトランドセメントとを混合した。
【0046】
次に、製造者は、混合によって製造した固化処理土を0.3メートル[m]の厚みで撒き出し、ハンドガイドタイプの振動ローラを用いて締固め、約1日間放置した後に、固化した処理土をブレーカー付きバックホウで幅、奥行き、高さのいずれもが30センチメートル[cm]程度の破片に破砕した。そしてその28日後に、製造者は、破砕した破片から作製したサンプルで圧縮強度を測定した。測定の結果、材齢28日のこのサンプルの圧縮強度は10メガニュートン毎平方メートル[MN/m2]以上であったため、海水中での捨石材として利用した。
【0047】
以上、説明した通り、土質材料の塑性限界を測定し、固化処理土に含まれる水の量から、測定したこの塑性限界に基づき特定される土質材料の塑性分に相当する水の量と、固化材の水和反応に必要な水の量とを差し引いた量である余裕水の量が、所定の閾値以上となるように、土質材料の含水比及び土質材料に対する固化材の混合比率を決定することで、高圧フィルタープレスを用いる方法に比べて安価に10メガニュートン毎平方メートル[MN/m2]以上の固化処理土を製造することが可能となることがわかった。