(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-07
(45)【発行日】2022-01-12
(54)【発明の名称】液圧機器
(51)【国際特許分類】
F16F 9/508 20060101AFI20220104BHJP
F16F 9/34 20060101ALI20220104BHJP
F16F 9/348 20060101ALI20220104BHJP
F16F 9/32 20060101ALI20220104BHJP
【FI】
F16F9/508
F16F9/34
F16F9/348
F16F9/32 L
(21)【出願番号】P 2018073599
(22)【出願日】2018-04-06
【審査請求日】2020-09-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000000929
【氏名又は名称】KYB株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122323
【氏名又は名称】石川 憲
(74)【代理人】
【識別番号】100067367
【氏名又は名称】天野 泉
(72)【発明者】
【氏名】君嶋 和之
【審査官】児玉 由紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-152078(JP,A)
【文献】特開平08-320047(JP,A)
【文献】特開2006-292152(JP,A)
【文献】特表2016-519261(JP,A)
【文献】特開2013-155769(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 9/00- 9/58
F16J 15/00-15/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一部材と第二部材とを有して構成されて、前記第一部材と前記第二部材との間に部屋が形成される隔壁部材を備え、
前記第二部材は、前記第一部材に弾性によって密着する環状のシール部材と、前記シール部材の一部が埋め込まれている合成樹脂製の保持部材とを含む
ことを特徴とする液圧機器。
【請求項2】
前記シール部材は、環状の皿ばね部を有し、前記皿ばね部を前記第一部材に密着させている
ことを特徴とする請求項1に記載の液圧機器。
【請求項3】
前記第二部材は、前記第一部材に積層されており、
前記シール部材は、前記第一部材と前記第二部材の積層方向に圧縮されるように配置されている
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の液圧機器。
【請求項4】
前記シール部材の前記保持部材に埋め込まれた部分には、曲げ部が形成されている
ことを特徴とする請求項1から3の何れか一項に記載の液圧機器。
【請求項5】
前記第一部材に形成されて前記部屋に通じる主通路を開閉する主弁体と、
前記第二部材に形成されて前記部屋に通じる副通路を開閉する副弁体とを備える
ことを特徴とする請求項1から4の何れか一項に記載の液圧機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液圧機器の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、緩衝器、液圧シリンダ等の液圧機器の中には、その内部に形成された液室内に、その液室と仕切られた部屋を形成する隔壁部材を備えるものがある。例えば、そのような隔壁部材では、有底筒状のソケット部を含む第一部材と、ソケット部内に挿入される円盤状の第二部材とを備え、第一部材と第二部材との間に部屋を形成している(特許文献1,2)。
【0003】
そして、その隔壁部材では、第二部材を第一部材のソケット部の内周に直接圧入したり(特許文献1)、第二部材の外周にOリングを装着してソケット部の内周に圧入したり(特許文献2)して、第一部材と第二部材との間をシールしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-173140号公報
【文献】特開2013-133896号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、第二部材を第一部材に直接圧入してこれらの間をシールする場合、圧入部の寸法公差を厳しく管理する必要があり、液圧機器の製造コストが上昇する。
【0006】
また、Oリングで第一部材と第二部材との間をシールする場合、第二部材の外周に装着したOリングを圧縮しつつ、第二部材を第一部材のソケット部内へ挿入する必要がある。つまり、Oリングは、ソケット部に対して締め代(潰し代)をもっている。さらには、Oリングは、一般的にゴム材料等で形成されていて、乾燥状態では摩擦係数が高い。
【0007】
このため、Oリングを装着した第二部材を乾燥状態で第一部材のソケット部内へ挿入しようとすると、Oリングの表面に破損を発生させたり、Oリングが捩じれてソケット部の内周に密着し難くなったりすることがある。よって、Oリングを装着した第二部材を第一部材のソケット部内へ挿入する際には、潤滑剤を塗布する必要があり、その塗布設備と人材が必要になって、この場合にも液圧機器の製造コストが上昇してしまう。
【0008】
そこで、本発明は、このような問題を解決するために創案されたものであり、液圧機器の内部に部屋を形成する隔壁部材が第一部材と第二部材とを有して構成される場合であっても、製造コストを低減できる液圧機器の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する液圧機器は、第一部材と第二部材とを有して構成されてこれらの間に部屋を形成する隔壁部材を備え、第二部材が第一部材に弾性によって密着する環状のシール部材と、このシール部材の一部が埋め込まれている合成樹脂製の保持部材とを含む。
【0010】
上記構成によれば、液圧機器の内部に第一部材と第二部材とで部屋を形成するに当たり、第二部材のシール部材を弾性変形させつつ第一部材に突き当てるだけでよい。このため、寸法公差の厳しい管理が不要であるとともに、潤滑剤の塗布設備も人材も不要である。
【0011】
さらには、シール部材と保持部材が一体化されているので、液圧機器の部品数が多くならず組立性を良好にできる。加えて、保持部材が合成樹脂で形成されていて、シール部材の一部が保持部材に埋め込まれた構造となっている。このため、第二部材をインサート成形等で形成できるので、第二部材を容易に形成できる。
【0012】
よって、上記構成によれば、液圧機器の内部に部屋を形成する隔壁部材が第一部材と第二部材とを有して構成される場合であっても、液圧機器の製造コストを低減できる。
【0013】
また、上記液圧機器では、シール部材が環状の皿ばね部を有し、その皿ばね部を第一部材に密着させているとよい。当該構成によれば、部屋の大きさが変わる場合であっても、所定以上の押し付け力(荷重)で皿ばね部を第一部材に密着させた状態に維持しやすい。
【0014】
また、上記液圧機器では、第二部材が第一部材に積層されるとともに、シール部材が第一部材と第二部材の積層方向に圧縮されるように配置されているとよい。当該構成によれば、上記積層方向と直交する方向に第一部材と第二部材ずれた場合であっても、シール部材の全周を第一部材に密着させやすく、液圧機器の製造を容易にできる。
【0015】
また、上記液圧機器では、シール部材における保持部材に埋め込まれた部分に、曲げ部が形成されているとよい。当該構成によれば、シール部材が保持部材から外れるのを確実に防止できる。
【0016】
また、上記液圧機器が、第一部材に形成されて部屋に通じる主通路を開閉する主弁体と、第二部材に形成されて部屋に通じる副通路を開閉する副弁体とを備えるとよい。当該構成によれば、第一部材、第二部材、主弁体、及び副弁体とで減衰バルブを構成し、液圧機器の伸縮時に生じる液体の流れに減衰バルブで抵抗を与えて、液圧機器がその抵抗に起因する減衰力を発揮できる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の液圧機器によれば、その内部に部屋を形成する隔壁部材が第一部材と第二部材とを有して構成される場合であっても、製造コストを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一実施の形態に係る液圧機器である緩衝器を示した縦断面図である。
【
図2】
図1の一部を拡大して示した縦断面図である。
【
図3】
図2の一部をさらに拡大して示した縦断面図である。
【
図4】(a)は、本発明の一実施の形態に係る液圧機器である緩衝器におけるシール部材の第一の変形例を示した部分拡大縦断面図である。(b)は、上記シール部材の第二の変形例を示した部分拡大縦断面図である。(c)は、上記シール部材の第三の変形例を示した部分拡大縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。いくつかの図面を通して付された同じ符号は、同じ部品か対応する部品を示す。
【0020】
図1に示すように、本発明の一実施の形態に係る液圧機器は緩衝器Dである。そして、その緩衝器Dは、自動車等の車両の車体と車軸との間に介装されている。以下の説明では、説明の便宜上、特別な説明がない限り
図1に示す緩衝器Dの上下を、単に「上」「下」という。
【0021】
なお、緩衝器Dの取付対象は、車両に限らず適宜変更できる。また、取付状態での緩衝器Dの上下を取付対象に応じて適宜変更できるのは勿論である。具体的には、本実施の形態の緩衝器Dを
図1と同じ向きで車両に取り付けても、上下逆向きにして車両に取り付けてもよい。
【0022】
つづいて、上記緩衝器Dの具体的な構造について説明する。
図1に示すように、緩衝器Dは、有底筒状のシリンダ1と、このシリンダ1内に摺動自在に挿入されるピストン2と、下端がピストン2に連結されて上端がシリンダ1外へと突出するピストンロッド3とを備える。
【0023】
そして、ピストンロッド3の上端には、ブラケット(図示せず)が設けられており、ピストンロッド3がそのブラケットを介して車体と車軸の一方に連結される。その一方、シリンダ1の底部1aにもブラケット(図示せず)が設けられており、シリンダ1がそのブラケットを介して車体と車軸の他方に連結される。
【0024】
このようにして緩衝器Dは車体と車軸との間に介装される。そして、車両が凹凸のある路面を走行する等して車輪が車体に対して上下に振動すると、ピストンロッド3がシリンダ1に出入りして緩衝器Dが伸縮するとともに、ピストン2がシリンダ1内を上下(軸方向)に移動する。
【0025】
また、緩衝器Dは、シリンダ1の上端を塞ぐとともに、ピストンロッド3を摺動自在に支える環状のシリンダヘッド10を備える。その一方、シリンダ1の下端は底部1aで塞がれている。このように、シリンダ1内は、密閉空間とされている。そして、そのシリンダ1内のピストン2から見てピストンロッド3とは反対側に、フリーピストン11が摺動自在に挿入されている。
【0026】
シリンダ1内におけるフリーピストン11の上側には液室Lが形成され、下側にはガス室Gが形成されている。さらに、液室Lは、ピストン2でピストンロッド3側の伸側室L1とピストン2側の圧側室L2とに区画されており、伸側室L1と圧側室L2には、それぞれ作動油等の液体が充填されている。その一方、ガス室Gには、エア、又は窒素ガス等の気体が圧縮された状態で封入されている。
【0027】
そして、緩衝器Dの伸長時にピストンロッド3がシリンダ1から退出し、その退出したピストンロッド3の体積分シリンダ内容積が増加すると、フリーピストン11がシリンダ1内を上側へ移動してガス室Gを拡大させる。反対に、緩衝器Dの収縮時にピストンロッド3がシリンダ1内へ侵入し、その侵入したピストンロッド3の体積分シリンダ内容積が減少すると、フリーピストン11がシリンダ1内を下側へ移動してガス室Gを縮小させる。
【0028】
なお、フリーピストン11に替えて、ブラダ、又はベローズ等を利用して液室Lとガス室Gとを仕切っていてもよく、この仕切となる可動隔壁の構成は適宜変更できる。
【0029】
さらに、本実施の形態では、緩衝器Dが片ロッド、単筒型であり、緩衝器Dの伸縮時にフリーピストン(可動隔壁)11でガス室Gを拡大又は縮小させて、シリンダ1に出入りするピストンロッド3の体積補償をする。しかし、この体積補償のための構成も適宜変更できる。
【0030】
例えば、フリーピストン(可動隔壁)11とガス室Gとを廃し、シリンダ1の外周にアウターシェルを設けて緩衝器を複筒型にするとともに、シリンダ1とアウターシェルとの間に液体を貯留するリザーバ室を形成し、このリザーバ室で体積補償をしてもよい。さらに、そのリザーバ室は、シリンダ1とは別置き型のタンク内に形成されていてもよい。
【0031】
また、ピストンの両側にピストンロッドを設けて緩衝器を両ロッド型にしてもよい。このような場合には、ピストンロッドの体積補償自体を不要にできる。
【0032】
つづいて、ピストン2は、ピストンロッド3の外周にナット30で保持される第一部材4と第二部材5とを有して構成されている。そして、第一部材4と第二部材5との間に液室Lと仕切られた部屋Rを形成している。このように、本実施の形態では、ピストン2が緩衝器Dの内部に部屋Rを形成する隔壁部材として機能している。
【0033】
さらに、本実施の形態では、第一部材4が後述する主弁体6,7が積層されるメインバルブケース、第二部材5が後述する副弁体8が取り付けられるサブバルブケースとなっている。このように、本実施の形態のピストン2は、主弁体6,7又は副弁体8等の弁体が取り付けられるバルブケースとしても機能しており、弁体等とともに減衰バルブVを構成している。以下、その減衰バルブVの構成について説明する。
【0034】
図2に示すように、第一部材4は、環状の本体部4aと、この本体部4aの下端外周部から下方へ突出する筒状のスカート部4bとを含む。そして、本体部4aには、スカート部4bの内周側に開口して本体部4aを軸方向に貫通する伸側と圧側の主通路4c,4dが形成されている。さらに、その本体部4aの下側(圧側室L2側)には、伸側の主通路4cの出口を開閉する伸側の主弁体6が積層されるとともに、本体部4aの上側(伸側室L1側)には、圧側の主通路4dの出口を開閉する圧側の主弁体7が積層されている。
【0035】
伸側と圧側の主弁体6,7は、それぞれ、複数の弾性変形可能なリーフバルブが積層された積層リーフバルブである。そして、伸側の主弁体6は、緩衝器Dの伸長時であってピストン速度が中高速域にある場合に開いて、伸側の主通路4cを伸側室L1から圧側室L2へ向かう液体の流れに抵抗を与える。その一方、圧側の主弁体7は、緩衝器Dの収縮時であってピストン速度が中高速域にある場合に開いて、圧側の主通路4dを圧側室L2から伸側室L1へ向かう液体の流れに抵抗を与える。
【0036】
また、伸側と圧側の主弁体6,7を構成する複数のリーフバルブのうちの、最も第一部材4側に位置する一枚目のリーフバルブの外周部には、それぞれ切欠き6a,7aが形成されている。そして、ピストン速度が低速域にあり、伸側と圧側の主弁体6,7が閉弁している場合、液体が切欠き6a,7aにより形成されるオリフィスを通って伸側室L1と圧側室L2との間を行き来する。当該液体の流れに対しては、オリフィス(切欠き6a,7a)により抵抗が付与される。
【0037】
なお、切欠き6a,7aにより形成されるオリフィスは、液体の双方向流れを許容する。そこで、伸側と圧側の主弁体6,7に形成される切欠き6a,7aのうちの一方を省略してもよい。さらに、オリフィスの形成方法は、適宜変更できる。例えば、伸側又は圧側の主弁体6,7が離着座する弁座に打刻を形成し、この打刻によりオリフィスを形成してもよい。また、オリフィスをチョークに替えてもよい。また、メインバルブケースである第一部材4に取り付けられて緩衝器Dに中高速域の減衰力を発生させるための主弁体6,7は、積層リーフバルブ以外でもよく、例えば、ポペットバルブ等であってもよい。
【0038】
つづいて、第二部材5は、伸側の主弁体6の下側(圧側室L2側)に積層されている。また、第二部材5は、合成樹脂製の保持部材50と、この保持部材50とインサート成形により一体化される金属又は合成樹脂製のシール部材51とを有し、このシール部材51の一部が保持部材50に埋め込まれた状態となっている。
【0039】
より詳しくは、保持部材50は、環状のディスク部50aと、このディスク部50aの上端内周部から上方へ突出する環状のボス部50bと、ディスク部50aの下端外周部から下方へ突出する環状のケース部50cと、このケース部50cの先端から径方向内側(緩衝器Dの中心側)へ突出する環状の対向部50dとを含む。
【0040】
そして、ディスク部50aのボス部50bより外周側には、ケース部50cの内周側に開口してディスク部50aを軸方向に貫通する連通孔50eが形成されている。また、ケース部50cには、バルブストッパ80が収容されるとともに、このバルブストッパ80の下側に副弁体8が積層されている。
【0041】
本実施の形態において、その副弁体8は、積層された三枚のリーフバルブを有して構成されていて、弾性変形できる。これら三枚のリーフバルブのうちの中央のリーフバルブ8aの外径は、他のリーフバルブの外径よりも大きい。そして、副弁体8とバルブストッパ80との間、及び副弁体8とナット30との間には、それぞれ間座81,82が介装されている。
【0042】
本実施の形態において、各間座81,82は、外径が副弁体8を構成する各リーフバルブの外径よりも小さい環状板であり、副弁体8はその内周部を間座81,82で挟まれた状態で第二部材5に固定されている。その一方、副弁体8の間座81,82よりも外周側は、間座81,82と副弁体8との当接部の外周縁を支点に上下(軸方向)へ移動できる。
【0043】
このように、本実施の形態では、サブバルブケースである第二部材5に装着された副弁体8の内周側の端(内周端)が第二部材5に対して動かない固定端8bとなっている。さらには、副弁体8の外周側の端(外周端)に位置する中央のリーフバルブ8aの外周面が、第二部材5に対して上下(軸方向の両側)へ動ける自由端8cとなっている。
【0044】
そして、緩衝器Dの動き出しのような、ピストン速度が0(ゼロ)に近い極低速域では、副弁体8が撓まず、取付初期の状態に保たれる(
図2)。このように、副弁体8が撓んでいない状態では、その副弁体8の自由端8cが対向部50dの内周に形成される対向面50fと所定の隙間Pをあけて対向するが、その隙間Pが非常に狭くなる。より具体的に、その副弁体8の取付初期状態での隙間Pの開口面積は、前述の主弁体6,7に形成された切欠き6a,7aにより形成される全オリフィスの開口面積よりも小さい。
【0045】
その一方、ピストン速度が低速域、又は中高速域にある場合には、副弁体8の外周部が上側又は下側へと撓み、自由端8cが対向面50fから上下にずれる。そして、上下にずれた副弁体8の自由端8cと対向面50fとの間にできる隙間の開口面積が、切欠き6a,7aにより形成されるオリフィスの開口面積よりも大きくなる。
【0046】
以下、副弁体8がその自由端8cと対向面50fとの間の隙間の開口面積を大きくする方向へ動くことを副弁体8が開く、反対に副弁体8がその自由端8cと対向面50fとの間の隙間の開口面積を小さくする方向へ動くことを副弁体8が閉じるとする。すると、本実施の形態では、連通孔50eと、ケース部50c及び対向部50dの内周部を有して第二部材5の上下を連通する副通路50gが構成されており、副弁体8は、その副通路50gを完全には閉じ切らないものの、副通路50gを開閉できるようになっている。
【0047】
なお、副弁体8の構成は、上記の限りではなく、適宜変更できる。例えば、副弁体8を構成するリーフバルブの枚数が三枚に限られないのは勿論、サブバルブケースである第二部材5に形成される弁座に副弁体を離着座させてもよい。さらに、副弁体8は、リーフバルブ以外でもよく、例えば、ポペットバルブ等であってもよい。
【0048】
つづいて、相対向する第二部材5のディスク部50aと第一部材4の本体部4aとの間であって、スカート部4bの内周側には部屋Rが形成されている。そして、第二部材5のシール部材51がスカート部4bの下端に押し当てられており、これによりスカート部4bの下端と、これに対向するディスク部50aの上端外周部との間がシールされる。
【0049】
また、その部屋Rには、伸側と圧側の主通路4c,4dと副通路50gがそれぞれ連通できるようになっている。換言すると、伸側の主通路4cと副通路50g、及び、圧側の主通路4dと副通路50gは、それぞれ部屋Rを介して連通されている。
【0050】
図3に示すように、本実施の形態のシール部材51は、環状の薄板を折り曲げて形成されており、環状の皿ばね部51aと、この皿ばね部51aの内周に連なる円環平板状の基部51bとを含む。そして、この基部51bが保持部材50に埋め込まれていて、これによりシール部材51が保持部材50に保持される。
【0051】
本実施の形態において、皿ばね部51aは、円環平板状の当接部51c、この当接部51cの内周に連なり基部51bへ向かうに従って徐々に縮径される円錐台環状のテーパ部51dとを含む。
【0052】
そして、第一部材4と第二部材5がピストンロッド3の段差3aとナット30の間に挟まれて固定された状態では、その皿ばね部51aが圧縮されて弾性変形し、テーパ部51dの当接部51c及び基部51bに対する傾斜角度が変わる。このとき、シール部材51の当接部51c(
図3)が弾性によりスカート部4bの下端に押し当てられて密着する。このため、スカート部4bと保持部材50との間がシール部材51で塞がれて、部屋R内の液体が漏れ出るのが防止される。
【0053】
以下、本実施の形態に係る緩衝器(液圧機器)Dの作動について説明する。
【0054】
緩衝器Dの伸長時には、ピストン2がシリンダ1内を上方へ移動して伸側室L1を圧縮し、この伸側室L1の液体が伸側の主弁体6と副弁体8を通過して圧側室L2へと移動する。当該液体の流れに対しては、伸側の主弁体6、各主弁体6,7の切欠き6a,7aにより形成されたオリフィス、又は副弁体8により抵抗が付与されるので、伸側室L1の圧力が上昇し、緩衝器Dが伸長作動を妨げる伸側減衰力を発揮する。
【0055】
反対に、緩衝器Dの収縮時には、ピストン2がシリンダ1内を下方へ移動して圧側室L2を圧縮し、この圧側室L2の液体が副弁体8と圧側の主弁体7を通過して伸側室L1へと移動する。当該液体の流れに対しては、圧側の主弁体7、各主弁体6,7の切欠き6a,7aにより形成されたオリフィス、又は副弁体8により抵抗が付与されるので、圧側室L2の圧力が上昇し、緩衝器Dが収縮作動を妨げる圧側減衰力を発揮する。
【0056】
そして、本実施の形態では、ピストン速度に応じて伸側と圧側の主弁体6,7が開弁したり、副弁体8の外周部(自由端8c側の端部)が上下に撓んだりして、緩衝器Dがピストン速度に依存した速度依存の減衰力を発生できる。
【0057】
より詳しくは、ピストン速度が0に近い極低速域にある場合、伸側と圧側の主弁体6,7が閉じるとともに、副弁体8が撓まずにその自由端8cを対向面50fに対向させている。
【0058】
そして、緩衝器Dの伸長時にピストン速度が極低速域にある場合、液体が伸側と圧側の主弁体6,7の切欠き6a,7aを通って伸側室L1から部屋R内へと流入し、連通孔50eと、ケース部50cの内周部を
図2中下向きに流れて、相対向する副弁体8の自由端8cと対向面50fとの間にできる隙間Pから圧側室L2へと流出する。
【0059】
反対に、緩衝器Dの収縮時にピストン速度が極低速域にある場合、液体が圧側室L2から相対向する副弁体8の自由端8cと対向面50fとの間にできる隙間Pからケース部50c内へ流入し、連通孔50eと部屋Rを
図2中上向きに流れて、伸側と圧側の主弁体6,7の切欠き6a,7aから伸側室L1へと流出する。
【0060】
前述のように、相対向する副弁体8の自由端8cと対向面50fとの間にできる隙間Pの開口面積は非常に小さいので、ピストン速度が極低速域にある場合、緩衝器Dは、その隙間Pを液体が流れる際の抵抗に起因する極低速域の減衰力を発揮できる。
【0061】
また、ピストン速度が高くなり、極低速域から脱して低速域にある場合、伸側と圧側の主弁体6,7は閉じているが、副弁体8の外周部(自由端8c側の端部)が伸長時には下側へ、収縮時には上側へと撓み、副弁体8の自由端8cと対向面50fとが上下にずれる。そして、これらの間にできる隙間の開口面積が、切欠き6a,7aにより形成されるオリフィスの開口面積よりも大きくなる。
【0062】
このため、ピストン速度が低速域にある場合、緩衝器Dは、伸側と圧側の主弁体6,7の切欠き6a,7aにより形成されるオリフィスの抵抗に起因する低速域の減衰力を発揮するようになる。そして、ピストン速度が極低速域からこのような低速域へ移行すると、緩衝器Dの減衰係数が小さくなる。
【0063】
また、ピストン速度がさらに高くなり、低速域から脱して中高速域にある場合、副弁体8の外周部が上側又は下側へ撓んでいるのは勿論、伸長時には伸側の主弁体6が開き、収縮時には圧側の主弁体7が開く。
【0064】
本実施の形態では、伸側の主弁体6が開くと、その主弁体6の外周部が下側へ撓み、その外周部と第一部材4との間にできる隙間を液体が通過できるようになる。同様に、圧側の主弁体7が開くと、その主弁体7の外周部が上側へ撓み、その外周部と第一部材4との間にできる隙間を液体が通過できるようになる。
【0065】
このため、ピストン速度が中高速域にある場合、緩衝器Dは、伸側又は圧側の主弁体6,7の開弁によってできる隙間の抵抗に起因する中高速域の減衰力を発揮するようになる。そして、ピストン速度が低速域からこのような中高速域へ移行すると、緩衝器Dの減衰係数が小さくなる。
【0066】
なお、中高速域の途中で、伸側と圧側の主弁体6,7の撓み量を規制してもよい。このような場合には、伸側と圧側の主弁体6,7の撓み量が最大となった速度を境に、減衰係数が再び大きくなる。
【0067】
以下、本実施の形態に係る緩衝器(液圧機器)Dの作用効果について説明する。
【0068】
本実施の形態に係る緩衝器(液圧機器)Dは、第一部材4と第二部材5とを有して構成されるピストン(隔壁部材)2を備え、第一部材4と第二部材5との間に部屋Rが形成されている。そして、第二部材5が第一部材4に弾性によって密着する環状のシール部材51と、このシール部材51の一部(基部51b)が埋め込まれている合成樹脂製の保持部材50とを含む。
【0069】
上記構成によれば、緩衝器Dの内部に第一部材4と第二部材5とで部屋Rを形成するに当たり、第二部材5のシール部材51を弾性変形させつつ第一部材4に突き当てるだけでよい。このため、寸法公差の厳しい管理が不要であるとともに、潤滑剤の塗布設備も人材も不要である。
【0070】
さらには、シール部材51と保持部材50が一体化されているので、緩衝器Dの部品数が多くならず組立性を良好にできる。加えて、保持部材50が合成樹脂で形成されていて、シール部材51の一部が保持部材50に埋め込まれた構造となっている。このため、第二部材5をインサート成形等で形成できるので、第二部材5を容易に形成できる。
【0071】
よって、上記構成によれば、緩衝器(液圧機器)Dの内部に部屋Rを形成するピストン(隔壁部材)2が第一部材4と第二部材5とを有して構成される場合であっても、緩衝器(液圧機器)Dの製造コストを低減できる。
【0072】
また、本実施の形態に緩衝器(液圧機器)Dは、第一部材4に形成されて部屋Rに通じる主通路4c,4dと、この主通路4c,4dを開閉する主弁体6,7と、第二部材5に形成されて部屋Rに通じる副通路50gと、この副通路50gを開閉する副弁体8とを備える。
【0073】
上記構成によれば、第一部材4、第二部材5、主弁体6,7、及び副弁体8とで減衰バルブVを構成し、緩衝器(液圧機器)Dの伸縮時に生じる液体の流れに減衰バルブVで抵抗を与えて、緩衝器Dがその抵抗に起因する減衰力を発揮できる。
【0074】
さらに、本実施の形態の緩衝器Dでは、主弁体6,7を中高速域の減衰力発生用に利用するとともに、副弁体8を極低速域の減衰力発生用に利用している。このように副弁体8を極低速域の減衰力発生用に利用する場合には、中高速域で部屋Rから液体が漏れたとしても、中高速域の減衰力に影響しないので、シール部材51の第一部材4に対する密着力を小さくできる。
【0075】
しかし、主弁体6,7及び副弁体8の利用目的は上記の限りではなく、適宜変更できる。さらに、第二部材5は、第一部材4の
図2中上下どちらに積層されていてもよく、主弁体6,7で開閉する主通路を第二部材5に形成するとともに、副弁体8で開閉する副通路を第一部材4に形成してもよい。
【0076】
また、上記説明では、ピストン速度の領域を、副弁体8が撓まず、主弁体6,7が閉じた状態に維持される領域である極低速域、副弁体8は撓むが主弁体6,7は閉じている領域である低速域、及び副弁体8が撓むとともに主弁体6,7が開弁する領域である中高速域に区画している。しかし、どのようにピストン速度の領域を区分けしてもよく、各領域の閾値もそれぞれ任意に設定できる。
【0077】
また、本実施の形態では、シール部材51が環状の皿ばね部51aを有し、その皿ばね部51aを第一部材4に密着させている。当該構成によれば、例えば、主弁体6,7又は副弁体8を構成するリーフバルブの積層枚数又は板厚の変更等により、部屋Rの大きさ(
図2中上下方向長さ)が変わる場合であっても、所定以上の押し付け力(荷重)で皿ばね部51aを第一部材4に密着させやすく、シールした状態を維持しやすい。
【0078】
また、本実施の形態では、第二部材5が第一部材4に積層されていて、シール部材51が第一部材4と第二部材5の積層方向に圧縮されるように配置されている。積層方向とは、積層される方向のことであり、本実施の形態では、第一部材4と第二部材5が装着されるピストンロッド3の軸方向(
図2中上下方向)に相当する。上記構成によれば、第一部材4と第二部材5が寸法公差等により積層方向と直交する方向にずれた場合であっても、環状のシール部材51の全周を第一部材4に密着させやすく、緩衝器Dの製造を容易にできる。
【0079】
しかし、シール部材51の構成は、上記の限りではなく適宜変更できる。例えば、
図4(a)に示すシール部材51Aのように、皿ばね部51aの形状を変更してもよい。さらに、
図4(b)(c)に示すシール部材51B,51Cのように、皿ばね部51aが第一部材4と第二部材5の積層方向と直交する方向へ圧縮されるとしてもよい。
【0080】
また、
図4(b)(c)に示すシール部材51B,51Cのように、基部(保持部材50に埋め込まれた部分)に、曲げ部51eを形成してもよく、このような場合には、シール部材51B,51Cが保持部材50から外れるのを確実に防止できる。そして、このような構成は、
図3,4(a)に示すシール部材51,51Aの基部51bに適用してもよいのは勿論である。
【0081】
さらには、シール部材51,51A,51B,51Cが第一部材4に弾性により密着する構造であれば、その密着する部分は必ずしも皿ばね構造をもつ皿ばね部51aでなくてもよい。具体的には、例えば、第一部材4に弾性により密着する部分を平板環状の板ばね部にして、その板ばね部を撓み変形させて第一部材4に密着させてもよい。
【0082】
また、本実施の形態では、ピストン2が緩衝器Dの内部に部屋Rを形成する隔壁部材として機能する。しかし、ピストン2の他に隔壁部材を設けてもよい。例えば、前述のように、緩衝器Dがシリンダとは別置き型のタンクを有して構成される場合には、そのタンク内に隔壁部材を設け、その隔壁部材で部屋Rとリザーバ室とを仕切っていてもよい。
【0083】
さらには、本実施の形態では、隔壁部材が緩衝器Dの内部に形成される液室Lと部屋Rとを仕切っているが、隔壁部材を緩衝器以外(例えば、液圧シリンダ等)の液圧機器に利用してもよい。
【0084】
以上、本発明の好ましい実施の形態を詳細に説明したが、特許請求の範囲から逸脱しない限り、改造、変形、及び変更が可能である。
【符号の説明】
【0085】
D・・・緩衝器(液圧機器)、R・・・部屋、2・・・ピストン(隔壁部材)、4・・・第一部材、4c・・・伸側の主通路(主通路)、4d・・・圧側の主通路(主通路)、5・・・第二部材、6・・・伸側の主弁体(主弁体)、7・・・圧側の主弁体(主弁体)、8・・・副弁体、50・・・保持部材、50g・・・副通路、51,51A,51B,51C・・・シール部材、51a・・・皿ばね部、51b・・・基部(保持部材に埋め込まれた部分)、51e・・・曲げ部