(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-07
(45)【発行日】2022-01-12
(54)【発明の名称】香気捕集システム、香気捕集方法、芳香液、芳香組成物および調合香料
(51)【国際特許分類】
G01N 1/22 20060101AFI20220104BHJP
C11B 9/00 20060101ALI20220104BHJP
C11B 9/02 20060101ALI20220104BHJP
【FI】
G01N1/22 A
C11B9/00 Z
C11B9/02
G01N1/22 L
(21)【出願番号】P 2018126378
(22)【出願日】2018-07-02
【審査請求日】2020-02-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000214537
【氏名又は名称】長谷川香料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】大橋 輝久
(72)【発明者】
【氏名】福地 有吾
【審査官】外川 敬之
(56)【参考文献】
【文献】特開昭60-121929(JP,A)
【文献】特開2000-053992(JP,A)
【文献】特開2015-147835(JP,A)
【文献】特開2010-038700(JP,A)
【文献】特開2007-137781(JP,A)
【文献】特開2013-200226(JP,A)
【文献】特開2009-244190(JP,A)
【文献】特開2017-120228(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/0033058(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/22
C11B 9/00
C11B 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加湿気体発生部、動植物原材料収納部および香気成分捕集部をこの順で有し、
前記動植物原材料収納部が前記加湿気体発生部および前記香気成分捕集部と連通し、
前記加湿気体発生部が加湿された空気または不活性ガスである加湿気体を発生させ、
前記香気成分捕集部が吸着剤を含む、香気捕集システム。
【請求項2】
前記香気成分捕集部の温度が0℃を超える、請求項1に記載の香気捕集システム。
【請求項3】
前記吸着剤が疎水性吸着剤である、請求項1または2に記載の香気捕集システム。
【請求項4】
前記動植物原材料収納部が可撓性袋である、請求項1~3のいずれか一項に記載の香気捕集システム。
【請求項5】
前記可撓性袋が、前記加湿気体発生部に連通する気体流入口、
動植物原材料の少なくとも一部に接触させた状態で固定できる袋口部、および、
前記香気成分捕集部に連通する気体排出口を有する、請求項4に記載の香気捕集システム。
【請求項6】
前記加湿気体の湿度が、前記香気捕集システムが設置された場所における系外の湿度よりも高い、請求項1~5のいずれか一項に記載の香気捕集システム。
【請求項7】
加湿気体発生部で発生させた加湿気体を動植物原材料収納部に導入して動植物原材料に接触させる段階と、
前記動植物原材料の香気を包含させた気体を香気成分捕集部に導入して香気成分を捕集する段階を含み、
前記加湿気体が加湿された空気または不活性ガスであり、
前記香気成分捕集部が吸着剤を含む、香気捕集方法。
【請求項8】
前記加湿気体発生部に空気または不活性ガスを導入して前記加湿気体を調製する段階を含み、
前記加湿気体を調製する段階が水中に前記空気または前記不活性ガスを導入する段階である、請求項7に記載の香気捕集方法。
【請求項9】
前記加湿気体を調製する段階が前記加湿気体発生部に系外の空気を導入する段階であり、かつ、
前記加湿気体の湿度が系外の湿度よりも高い、請求項8に記載の香気捕集方法。
【請求項10】
前記動植物原材料が生育している植物の少なくとも一部である、請求項7~9のいずれか一項に記載の香気捕集方法。
【請求項11】
前記動植物原材料収納部が可撓性袋であり、
前記可撓性袋を変形させて前記生育している植物の少なくとも一部に刺激を与える段階を含む、請求項10に記載の香気捕集方法。
【請求項12】
前記動植物原材料が植物の少なくとも一部であり、
前記植物の少なくとも一部が、花、つぼみ、野菜、ハーブ類、樹木、樹皮、枝、葉、芽、根および果実のうち少なくとも1種類である、請求項7~11のいずれか一項に記載の香気捕集方法。
【請求項13】
前記吸着剤に有機溶媒を通液して前記香気成分を含む芳香液を得る段階を含む、請求項7~12のいずれか一項に記載の香気捕集方法。
【請求項14】
請求項1~6のいずれか一項に記載の香気捕集システムまたは請求項7~13のいずれか一項に記載の香気捕集方法によって芳香液を得る段階を含む、芳香液の製造方法。
【請求項15】
請求項14に記載の
芳香液の製造方法で製造された芳香液の成分分析を行う工程、前記工程で得られた芳香液の成分分析結果
を基に、前記芳香液の組成を再構成して芳香組成物を得る段階を含む、芳香組成物の製造方法。
【請求項16】
請求項15に記載の
芳香組成物の製造方法で製造された芳香組成物と、他の香料とを組み合わせて、調合香料を得る段階を含む、調合香料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、香気捕集システム、香気捕集方法、芳香液、芳香組成物および調合香料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、動植物原材料からその芳香成分を分離する手段として、工業的には水蒸気蒸留法や溶剤抽出法などが用いられている。また、香気分析研究の分野では微量分析の一手段としてヘッドスペースガス分析法がよく用いられ、生花の香気を直接吸着剤に捕集した後、香気成分をガスクロマトグラフィーや質量分析計等の分析装置を用いて成分分析が行われている。そのような香料分析技術は、例えば、「香料分析におけるガスクロマトグラフィーおよび質量分析計の利用」(西村,フレグランスジャーナル,1997-6,12,1997)等に紹介されている。
【0003】
ヘッドスペースガス分析法において、弱い芳香しか発散していない生花の雰囲気を採取してガスクロマトグラフィーで分析しようとする場合には、生花に空気を連続的に接触するように送り込み、芳香が包含された空気をシリカゲルや多孔性重合樹脂等の吸着剤と接触させて香気成分を吸着および濃縮する方法(ダイナミックヘッドスペース法;以下、DHS法と言う)が採られている。
【0004】
これに対し、DHS法よりも生花や生果実等の芳香の忠実な再現をするアクアスペース法(以下、アクアスペース法(従来法)と言う)が知られている(特許文献1参照)。特許文献1には、加湿された空気又は不活性ガスを動植物原材料に接触させ、この加湿された空気又は不活性ガス中に動植物原材料の香気を包含させた後に香気成分を分取する、動植物原材料の香気捕集方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の方法は冷却トラップを使用しないと香気捕集効率が低かった。香気捕集効率を高めるためには冷却トラップを使用する必要があったため、屋外で長時間香気を捕集することは困難であった。そのため、鉢植えや切り花の状態の植物を、室内に設置した装置に入れて香気捕集を行うこととなる。植物の種類によっては、切り花にすることで発散する香気が変化してしまい、アクアスペース法(従来法)で得られた芳香液(香気濃縮物)の香気が、その植物の本来の香気とは異なる場合があった。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、動植物の本来の香気をより効率良く捕集でき、かつ、ナチュラル感のある芳香液を得られる香気捕集システムおよび香気捕集方法を提供することである。
また、本発明が解決しようとする課題は、これらの香気捕集システムおよび香気捕集方法を用いて得られた芳香液、その芳香液を成分分析して再構成した芳香組成物、並びに、その芳香組成物と他の香料とを組み合わせた調合香料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意研究を行った結果、特定の加湿気体および吸着剤を用いることにより、DHS法やアクアスペース法(従来法)と比較して、動植物の本来の香気をより効率良く捕集でき、かつ、ナチュラル感のある芳香液を得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
上記課題を解決するための具体的な手段である本発明およびその好ましい態様は以下のとおりである。
[1] 加湿気体発生部、動植物原材料収納部および香気成分捕集部をこの順で有し、
動植物原材料収納部が加湿気体発生部および香気成分捕集部と連通し、
加湿気体発生部が加湿された空気または不活性ガスである加湿気体を発生させ、
香気成分捕集部が吸着剤を含む、香気捕集システム。
[2] 香気成分捕集部の温度が0℃を超える[1]に記載の香気捕集システム。
[3] 吸着剤が疎水性吸着剤である[1]または[2]に記載の香気捕集システム。
[4] 動植物原材料収納部が可撓性袋である[1]~[3]のいずれか一つに記載の香気捕集システム。
[5] 可撓性袋が、加湿気体発生部に連通する気体流入口、
動植物原材料の少なくとも一部に接触させた状態で固定できる袋口部、および、
香気成分捕集部に連通する気体排出口を有する[4]に記載の香気捕集システム。
[6] 加湿気体の湿度が、香気捕集システムが設置された場所における系外の湿度よりも高い[1]~[5]のいずれか一つに記載の香気捕集システム。
[7] 加湿気体発生部で発生させた加湿気体を動植物原材料収納部に導入して動植物原材料に接触させる段階と、
動植物原材料の香気を包含させた気体を香気成分捕集部に導入して香気成分を捕集する段階を含み、
加湿気体が加湿された空気または不活性ガスであり、
香気成分捕集部が吸着剤を含む、香気捕集方法。
[8] 加湿気体発生部に空気または不活性ガスを導入して加湿気体を調製する段階を含み、
加湿気体を調製する段階が水中に空気または不活性ガスを導入する段階である[7]に記載の香気捕集方法。
[9] 加湿気体を調製する段階が加湿気体発生部に系外の空気を導入する段階であり、かつ、
加湿気体の湿度が系外の湿度よりも高い[8]に記載の香気捕集方法。
[10] 動植物原材料が生育している植物の少なくとも一部である[7]~[9]のいずれか一つに記載の香気捕集方法。
[11] 動植物原材料収納部が可撓性袋であり、
可撓性袋を変形させて生育している植物の少なくとも一部に刺激を与える段階を含む[10]に記載の香気捕集方法。
[12] 動植物原材料が植物の少なくとも一部であり、
植物の少なくとも一部が、花、つぼみ、野菜、ハーブ類、樹木、樹皮、枝、葉、芽、根、および果実のうち少なくとも1種類である[7]~[11]のいずれか一つに記載の香気捕集方法。
[13] 吸着剤に有機溶媒を通液して香気成分を含む芳香液を得る段階を含む[7]~[12]のいずれか一つに記載の香気捕集方法。
[14] [1]~[6]のいずれか一つに記載の香気捕集システムまたは[7]~[13]のいずれか一つに記載の香気捕集方法によって得られた芳香液。
[15] [14]に記載の芳香液の成分分析結果によって、芳香液の組成を再構成した芳香組成物。
[16] [15]に記載の芳香組成物と、他の香料とを組み合わせた、調合香料。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、動植物の本来の香気をより効率良く捕集でき、かつ、ナチュラル感のある芳香液を得られる香気捕集システムおよび香気捕集方法を提供することができる。
また、本発明によれば、これらの香気捕集システムおよび香気捕集方法を用いて得られた芳香液、その芳香液を成分分析して再構成した芳香組成物、並びに、その芳香組成物と他の香料とを組み合わせた調合香料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本発明の香気捕集システムの一例の概略図である。
【
図2】
図2は、紅ほっぺ香気濃縮物のガスクロマトグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下において、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。なお、本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は「~」前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0013】
[香気捕集システム]
本発明の香気捕集システムは、加湿気体発生部、動植物原材料収納部および香気成分捕集部をこの順で有し、
動植物原材料収納部が加湿気体発生部および香気成分捕集部と連通し、
加湿気体発生部が加湿された空気または不活性ガスである加湿気体を発生させ、
香気成分捕集部が吸着剤を含む。
この構成により、動植物の本来の香気をより効率良く捕集でき、かつ、ナチュラル感のある芳香液を得られる。
本発明者らの開発した新規香気捕集方法を、「特開2000-53992号公報の改良法」と言うことがある。特開2000-53992号公報の改良法は、アクアスペース法(従来法)とは、吸着剤に香気成分を吸着させる点が異なり、その結果として冷却トラップを使用せずに香気捕集効率を高められる。
加湿空気などの特定の加湿気体を動植物原材料に強制的に接触させると、加湿気体は動植物原材料の本来の香気をよく包含する。その理由としては、加湿気体が動植物原材料に刺激を与えて動植物原材料が芳香を発散しやすい状態にするか、あるいは、水蒸気が動植物原材料の芳香発散部位において付着および揮散を繰り返し、それが結果として室温下における水蒸気蒸留のような作用を果たしていると推察されるが定かではない。
以上のメカニズムに起因して、本発明の香気捕集システムでは特定の加湿気体および吸着剤を用いることにより、動植物の本来の香気をより効率良く捕集でき、かつ、ナチュラル感のある芳香液を得られると推察される。
以下、本発明の好ましい態様について説明する。
【0014】
<香気捕集システムの全体構成>
本発明の香気捕集システムの全体構成を、図面を参照して説明する。
図1は、本発明の香気捕集システムの一例の概略図である。
本発明の香気捕集システムは、少なくとも加湿気体発生部2、動植物原材料収納部3および香気成分捕集部5をこの順で有し、動植物原材料収納部3が加湿気体発生部2および香気成分捕集部5と連通する。
このような全体構成の香気捕集システムにより、加湿された空気又は不活性ガスを動植物原材料に対して強制的に接触させて加湿気体中に芳香成分を包含せしめ、加湿気体を動植物原材料収納部から取り出して吸着剤に香気成分を吸着させ、香気を捕集することができる。なお、香気成分を吸着させた吸着剤に対して、有機溶媒(ジエチルエーテルなど)を用いて香気成分を脱着し、必要により濃縮などすることで、芳香液(香気濃縮物)を得られるが、脱着および濃縮については図面に示していない。
【0015】
図1に示した香気捕集システムの一例は、本発明の香気捕集システムの好ましい態様である。以下、
図1を参照して本発明の香気捕集システムの好ましい態様を説明するが、
図1に関する説明は本発明を限定するものではない。
図1では、送風機1および排風機8が、それぞれ台10に固定されている。
図1では、香気捕集システムの系外の気体11が送風機1によって、加湿気体発生部2に導入され、加湿気体発生部2によって加湿気体12が発生する。送風機1から加湿気体発生部2までの間に、清浄化部9を備えることが好ましい。加湿気体発生部2は、純水などの清浄な水7を備え、水7の中に気体11を通過させることにより、加湿気体12を発生させることができる。
図1では、加湿気体発生部2は動植物原材料4の一部に固定部材21を介して固定されている。
加湿気体発生部2で発生した加湿気体12は、動植物原材料収納部3に導入されて、動植物原材料4(
図1では、大島桜の花が咲いている枝)に強制的に接触させられる。動植物原材料収納部3は、加湿気体発生部2に連通する気体流入口31、動植物原材料4の一部(大島桜の枝)に接触させた状態で固定できる袋口部32、および、香気成分捕集部5に連通する気体排出口33を有する。
動植物原材料収納部3の内部で動植物原材料4に接触した加湿気体12は、排風機8によって吸引されて、動植物原材料収納部3から取り出されて香気成分捕集部5に導入される。取り出された加湿気体12は、香気成分捕集部5に含まれる吸着剤6を通過し、その際に動植物原材料の芳香(香気成分)を包含した加湿気体12に含まれる香気成分が吸着剤6に吸着される。吸着剤6を通過した加湿気体12は、排風機8によって吸引されて、香気成分捕集部5から取り出されて排風機8を介して、香気捕集システムの系外に排出される。
【0016】
また、工業的には、
図1のような香気捕集システムをスケールアップして用いることができる。例えば、動植物原材料収納部を密閉型とし、内部を多段式にして、各段に動植物原材料を載せてより多量の芳香液が得られるようにしてもよい。
【0017】
香気捕集システムの各部の材質は特に限定されないが、異臭の無いものまたは加湿気体により異臭が発生しないものであることが好ましい。例えば、PEP、アクリル樹脂等の樹脂、ステンレススチールなどの金属、ガラスなどを例示することができる。
以下、香気捕集システムの各部の好ましい態様について説明する。
【0018】
<送風機および排風機>
送風機および排風機としては特に制限はない。通常のポンプを使用することができる。送風機によって送風される気体の流量(送風量)は、香気捕集目的及び香気捕集システムの大きさにも応じて変更することができる。例えば、花や果実やハーブ類の香気捕集目的の場合、送風量は0.1~10.5L/minであることが好ましく、0.5~5.5L/minであることがより好ましく、1.0~3.5L/minであることが特に好ましい。
一方、排風機によって排風される気体の流量(排風量)は、送風量に応じて設定することができる。例えば、排風量は0.1~10L/minであることが好ましく、0.5~5L/minであることがより好ましく、1.0~3.0L/minであることが特に好ましい。
送風量および排風量がこれらの下限値以上であることが、吸着剤に香気成分を十分に吸着させる観点から好ましい。送風量および排風量がこれらの上限値以下であることが、吸着剤に香気成分が吸着する前に加湿気体が吸着剤を通過することを抑制して吸着剤に香気成分を吸着させやすくする観点、および、送風機から排風機までの流路にかかる負荷を抑制して流路を外れにくくする観点から好ましい。
送風量は、動植物原材料収納部の袋口部と動植物原材料との間を密封する場合は、排風量と同じであることが好ましい。
一方、動植物原材料収納部の袋口部と動植物原材料との間を密封しない場合は、送風量を排風量より多くすることが好ましい。動植物原材料収納部の気体流入口から気体排出口までの流路外の部分(端部など)に袋口部を設け、送風量を排風量より多くすることにより、加湿気体を主として可撓性袋の気体流入口から気体排出口に向けて通過させられる。また、袋口部から系外の気体が動植物原材料収納部に流入して系外の気体に由来するにおいを捕集されることを抑制できる。
送風または排風は連続してあっても、途中で中断してもよい。送風または排風を中断し、動植物原材料(例えば切り花など)を新鮮なものと交換した後、捕集を再開することにより、何日も継続して動植物原材料の芳香を捕集することが、工業化の観点からは好ましい。
送風機および排風機は、台などの上に設置されるなどして、地上から1m以上の高さ(好ましくは地上から1~3mの範囲)に固定された態様であってもよい。動植物原材料が地上から1m以上の高さの植物である場合に好ましく適用することができる。
【0019】
<加湿気体発生部>
本発明では、加湿気体発生部が加湿された空気または不活性ガスである加湿気体を発生させる。加湿気体発生部で発生した加湿気体を動植物原材料収納部に導入して動植物原材料に接触させることとなる。加湿気体を用いることにより、動植物原材料の本来の香気を捕集しやすくなる。
【0020】
(加湿気体)
加湿気体は、加湿された空気または不活性ガスである。
空気としては、香気捕集システムの系外の空気を用いることができる。
不活性ガスとしては、ヘリウム、窒素、アルゴンなどを用いることができるが、窒素が最も経済的で有用である。
なお、空気を用いるか不活性ガスを用いるかは、香気を捕集しようとする動植物原材料により適宜選択する必要がある。例えば、動植物原材料が生花や生果実(根から養分を吸い上げている生育している植物の花や果実)および切り花などの場合は、動植物原材料が窒息して枯れないように空気を用いることが好ましい。
【0021】
加湿気体の湿度が、香気捕集システムが設置された場所における系外の湿度よりも高いことが好ましい。加湿気体として系外の空気に加湿したものを導入する場合、その加湿気体の温度は系外の空気と同じであることが好ましく、その加湿気体の湿度は系外の空気より高いことが好ましい。一方、加湿気体として不活性ガスを導入する場合、その加湿気体の温度は系外の空気と同じになるように調整することが好ましく、その加湿気体の湿度は系外の空気より高いことが好ましい。
加湿気体の湿度は、40~100%であることが好ましく、60~100%であることがより好ましく、80~100%であることが特に好ましい。
加湿気体の温度は、0℃を超え50℃以下であることが好ましく、15~45℃であることがより好ましく、20~40℃であることが特に好ましい。50℃以下であることが、動植物原材料の香気を加熱等による変化を与えにくくする観点から好ましく、40℃以下であることが生花、生果実および切り花などの動植物原材料を用いる場合に動植物原材料を枯れにくくする観点から好ましい。0℃を超えることが湿度を高める観点から好ましく、15℃以上であることが湿度80%以上の加湿気体を調製しやすい観点から好ましい。
特に温度が15~40℃、湿度が80%以上の空気を用いることが、切り花などの鮮度維持には好適な条件であるので、切り花などが枯れることなく、長時間の香気捕集にも耐えることができる。
【0022】
<清浄化部>
動植物原材料収納部の上流側に清浄化部を設け、系外の気体を清浄化することが好ましい。清浄化部を設けることにより、動植物の本来の香気に寄与する微かな芳香を捕集しつつ、系外の大気中に存在するその他の種々の揮発性成分を捕集しないようにできる。
系外の気体の清浄化部は、系外から送風機までの間、送風機から加湿気体発生部までの間などに設けることができる。ただし、加湿気体の清浄化部を、加湿気体発生部から動植物原材料収納部までの間などに設けてもよい。送風機から加湿気体発生部までの間に、系外の気体の清浄化部を設けることが好ましい。必要に応じて、系外から送風機までの間に清浄化部を設けてもよいが、加湿気体発生部の直前に清浄化部を設けて加湿気体発生部に導入される系外の気体(空気又は不活性ガス)を清浄化することが好ましい。
清浄化部は、消臭などに寄与する材料の充填部であることが好ましい。消臭などに寄与する材料としては特に制限はないが、例えば後述の吸着剤に用いる材料を挙げることができる。揮発性成分の捕集効率の観点から活性炭がより好ましい。
【0023】
<動植物原材料収納部>
動植物原材料収納部は、動植物原材料を収納できれば特に制限はない。動植物原材料の収納および取出しが自在にできることが好ましい。
【0024】
(動植物原材料)
動植物原材料としては特に制限はなく、動物であっても、植物であってもよい。本発明では、動植物原材料が植物の少なくとも一部であることが好ましい。ただし、動植物原材料は、生育していない植物や動物由来の材料であってもよい。生育していない植物としては、切り花、もぎ取られた果実、加工された植物(例えば焙煎コーヒー豆、紅茶等茶類、香辛料、漢方薬に用いられる植物)などを挙げることができる。動物由来の材料としては、魚介類、畜肉類およびそれらの加工食品などを挙げることができる。
【0025】
動植物原材料として用いる植物の少なくとも一部が、花、つぼみ、野菜、ハーブ類、樹木、樹皮、枝、葉、芽、根および果実(本明細書中、イチゴなどの偽果も含む)のうち少なくとも1種類であることが好ましい。これらの2種類以上であってもよく、例えば花がついた枝を挙げることができる。これらの中でも、本発明の芳香液を分析して後述する本発明の調合香料をフレグランス用途やフレーバー用途に用いる観点から、花、つぼみ、ハーブ類、果実であることがより好ましい。
花、つぼみとしては、バラ、スズラン、ジャスミン、ユリ、クチナシ、ラン、スイセンなどの鉢植えの花;サクラ、ウメ、フジ、モクレン、タイサンボク、モクセイなどの樹木の花などを挙げることができる。
野菜としては、百合根、甘草、ウコン、山椒、高麗人参などの漢方薬に用いられる野菜などを挙げることができる。なお、野菜とは副食物として利用する草本類の総称であり、人参などの根菜も野菜に含む。
樹木、樹皮としては、シナモン、セダーウッド、沈香、伽羅などの芳香を発生するものを挙げることができる。
枝、葉、芽としては特に制限はなく、単独で芳香を発生するものであっても、単独で芳香を発生しないもの(花がついた枝などの主としては芳香を発生しない部位)であってもよい。
根としては、イリス根などを挙げることができる。
ハーブ類としては、ミント、レモングラス、ゼラニウム、タイム、ラベンダー、バジルなどの香辛料に用いられる植物などを挙げることができる。
果実としては、イチゴ、リンゴ、モモ、ミカン、洋ナシなどを挙げることができる。
【0026】
本発明は、冷却トラップを使用しなくても動植物の本来の香気を効率良く捕集できるため、特に樹木の花や、鉢植えの花の中でも大きな花などにも適用でき、具体的には動植物原材料として用いる植物の少なくとも一部が地上から1m以上(例えば1~3m程度)に存在する場合にも適用できる。また、本発明は、冷却トラップを使用しなくても動植物の本来の香気を効率良く捕集できるため、屋外に生育している植物に適用できる。この場合、動植物原材料収納部が地上から1m以上の高さに固定された態様であってもよい。
なお、本発明は、動植物原材料が1mよりも低い植物である場合に適用することもでき、その場合、香気成分捕集部の位置に制限はない。動植物原材料が1mよりも低い植物としては、例えばイチゴ、バジルなどを挙げることができる。
【0027】
(動植物原材料収納部の特性)
動植物原材料収納部は、可撓性を有することが好ましい。動植物原材料収納部が可撓性を有することにより、動植物原材料の目的とする香気を、自然な環境でより効率的に捕集することができる。特に、動植物原材料の目的とする香気が、特定の状況(生育している場合に香気を強く発生する場合)、特定のタイミング(日中のある時間帯に香気を発生する花の場合。月下美人などの夜中に咲く花など、開花のタイミングにあわせた捕集が人為的に難しい場合)、特定の条件(刺激して香気を発生するハーブ類などの場合)などでしか得られない場合に、目的とする香気を取得しやすくなる。
可撓性を有する動植物原材料収納部としては、具体的には可撓性袋であることが好ましい。
動植物原材料収納部の素材としては特に制限はない。例えば、樹脂、金属、ガラスを挙げることができる。この中でも、可撓性を有する樹脂や金属であることが好ましい。樹脂としては、ビニルアルコール系ポリマー、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレンを挙げることができる。金属としては、アルミニウム、ステンレススチールを挙げることができる。これらの中でも動植物原材料収納部の材料は、ビニルアルコール系ポリマーであることが好ましい。例えば、ビニルアルコール系ポリマーである可撓性袋の例として、ジーエルサイエンス株式会社製の「スマートバッグPA」を挙げることができる。
【0028】
(動植物原材料収納部の構造)
動植物原材料収納部は、
図1のような一部分開放容器であってもよく、密閉型容器であってもよく、目的に合わせて用いられる。例えば、生育している動植物原材料の場合は一部分開放容器を用いることが好ましく、生育していない動植物原材料の場合は密閉型容器の方が好ましい。
以下、動植物原材料収納部が可撓性袋である場合を代表例として、動植物原材料収納部の構造の好ましい態様を説明する。可撓性袋は、一部分開放容器であることが好ましい。具体的には、可撓性袋が、加湿気体発生部に連通する気体流入口、動植物原材料の少なくとも一部に接触させた状態で固定できる袋口部、および、香気成分捕集部に連通する気体排出口を有することが好ましい。
袋口部と動植物原材料との間は、袋口部の一部を開放した状態で固定してもよいが、香気成分の捕集効率を高めるために封止(密封)してもよい。
【0029】
<香気成分捕集部>
香気成分捕集部は、吸着剤を含む限りは特に制限はない。吸着剤を充填できる一般的なカラムなどを挙げることができる。
本発明では、香気成分捕集部の温度が0℃を超えることが好ましい。さらに、動植物原材料収納部から香気成分捕集部までの流路における最低温度が0℃を超えることがより好ましい。動植物原材料収納部から香気成分捕集部までの流路に実質的に冷却トラップを有さないことにより、吸着剤での香気収量を高めることができる。また、動植物原材料収納部から香気成分捕集部までの流路における最低温度が0℃を超えることにより、加湿気体の水分の凍結を抑制して流路の閉塞を抑制できる。
香気成分捕集部が地上から1m以上の高さに固定された態様であってもよい。動植物原材料が地上から1m以上の高さの植物である場合に好ましく適用することができる。
【0030】
(吸着剤)
吸着剤としては特に制限はない。例えば、シリカゲルや多孔性樹脂や活性炭などを挙げることができる。多孔性樹脂としては、2,6-ジメチル-パラフェニレンオキサイドポリマー、2,6-ジフェニレン-パラフェニレンオキサイドポリマー、アクリルエステルポリマー、スチレンジビニルベンゼンポリマーなどを挙げることができる。
吸着剤は疎水性吸着剤であっても、親水性吸着剤であってもよいが、疎水性吸着剤であることが好ましい。
吸着剤が2,6-ジフェニレン-パラフェニレンオキサイドポリマーを含むことがより好ましい。
多孔性の吸着剤のメッシュ数は特に制限はない。
香気成分捕集部に充填される吸着剤の量は特に制限はない。
【0031】
<香気捕集システムの使用方法>
香気捕集システムの好ましい実施態様の一つでは、香気捕集システムの全体が屋外に設置される態様であってもよい。この使用方法は、動植物原材料が樹木である場合に特に好ましい。特開2000-53992号公報に記載の方法で香気捕集効率を高めるためには、冷却トラップ(氷冷却トラップ、エタノールにドライアイスを入れたもので冷却したトラップ、液体窒素トラップ)を使用して長時間香気捕集することが必要であるため、屋外で長時間香気捕集することは困難であった。そのため、特開2000-53992号公報に記載の方法では、鉢植えや切り花の状態の植物を、室内に設置した装置に入れて香気捕集を行うこととなる。植物(花)の種類によっては、切り花にすることで発散する香気が変化してしまい、従来法で得た香気濃縮物がその植物本来の香気とは異なる場合がある。これに対し、本発明の好ましい実施態様の一つによれば、屋外に生育する植物に対しても、それを傷付けることなく、加湿気体を用いたヘッドスペースガス香気捕集を長時間行い、その植物(花)本来の香りを有する香気濃縮物を得ることができる。
ただし、香気捕集システムの一部または全体が、屋内に設置される態様であってもよい。この使用方法は、動植物原材料が鉢植えの植物、切り花にしても発散する香気が変化しない植物、もぎ取られた果実などである場合に特に好ましい。
【0032】
[香気捕集方法]
本発明の香気捕集方法は、加湿気体発生部で発生させた加湿気体を動植物原材料収納部に導入して動植物原材料に接触させる段階と、
動植物原材料の香気を包含させた気体を香気成分捕集部に導入して香気成分を捕集する段階を含み、
加湿気体が加湿された空気または不活性ガスであり、
香気成分捕集部が吸着剤を含む。
以下、本発明の香気捕集方法の好ましい態様を説明する。
【0033】
<加湿気体を調製する段階>
香気捕集方法は、加湿気体発生部に空気または不活性ガスを導入して加湿気体を調製する段階を含むことが好ましい。
加湿気体の発生方法は、特に制限はない。例えば、水を含む溶媒の中に、空気または不活性ガスを吹き込んで導入することによって発生させることができる。水を含む溶媒は、水以外の揮発性成分が少ない水であることが好ましく、無臭清浄な水であることがより好ましく、超純水(いわゆるMilli-Q水)であることが特に好ましい。加湿気体を調製する段階が、水中に空気または不活性ガスを導入する段階であることが好ましい。
なお、加湿気体発生部から動植物原材料収納部までの間に、加湿気体の清浄化部(例えば、活性炭充填部)を設ける場合は、水を含む溶媒が任意の揮発性成分や不揮発性成分を含んでいてもよい。
使用する水の温度は特に制限はなく、例えば0~50℃、好ましくは15~45℃、より好ましくは20~40℃とすることができる。
本発明では、加湿気体を調製する段階が加湿気体発生部に系外の空気を導入する段階であり、かつ、加湿気体の湿度が系外の湿度よりも高いことが好ましい。
【0034】
<動植物原材料を収納する段階>
香気捕集方法は、動植物原材料を収納する段階を含むことが好ましい。
動植物原材料を収納する方法としては特に制限はない。袋口部を有する可撓性袋などの一部分開放容器を用いる場合は、動植物原材料の一部または全部を可撓性袋の内部に収納した後に、袋口部の一部を開放した状態で固定して系外に開放した状態とすることができるが、必要に応じて袋口部を封止(密封)してもよい。
蓋および本体を備えるガラス容器などの密閉型容器を用いる場合は、動植物原材料を容器の本体に収納した後に蓋を閉じて密閉することができる。
【0035】
<刺激を与える段階>
香気捕集方法の好ましい実施態様の一つでは、動植物原材料収納部が可撓性袋であり、可撓性袋を変形させて生育している植物の少なくとも一部に刺激を与える段階を含むことが好ましい。可撓性袋を変形させて生育している植物に刺激を与えることにより、動植物原材料に積極的に香気を発生させる方法を行うことができる。この方法は、特開2000-53992号公報に記載の方法の場合(動植物原材料収納部が可撓性を有さない場合)は容易に実現できなかったものである。特に動植物原材料に対して複数回および/または2秒間以上にわたって刺激を与える場合、可撓性袋を用いることで容易に刺激を与えることができる。
【0036】
<香気成分を捕集する段階>
香気捕集方法は、香気成分を捕集する段階を含むことが好ましい。
香気成分を捕集する方法としては特に制限はない。動植物原材料収納部から取り出された加湿気体を、吸着剤を含む香気成分捕集部に導入することによって、香気成分を捕集できる。本発明では、排風機によって加湿気体を吸引し、強制的に動植物原材料収納部から取り出すことが好ましい。
捕集時間は、特に制限はない。本発明では、冷却トラップを使用せずに香気捕集効率を高めることができるため、簡便かつ低コストで長時間にわたって香気成分を捕集することができる。特に屋外で香気成分を捕集する場合、低コストで長時間にわたって香気成分を捕集することができる。そのため、捕集時間は、例えば3時間以上とすることができ、必要に応じて5時間以上とすることもできる。
【0037】
<芳香液を得る段階>
香気捕集方法は、吸着剤に有機溶媒を通液して香気成分を含む芳香液を得る段階を含むことが好ましい。吸着剤に有機溶媒を通液することを、脱着とも言う。
有機溶媒としては、ペンタンなどの炭化水素類やエーテル類などを用いることができ、必要に応じて1または2以上の有機溶媒を用いることができる。
芳香液を得る段階では、吸着剤に有機溶媒を通液して得られた脱着液を、さらに精製、洗浄および濃縮することが好ましい。
【0038】
[芳香液]
本発明の芳香液は、本発明の香気捕集システムまたは本発明の香気捕集方法によって得られたものである。本発明の芳香液の芳香は、朝霧の中に漂う花のにおいの如く、文字通りの「みずみずしさ」を再現した芳香となることがある。
本発明の芳香液は、香気成分分析研究に有用であり、ガスクロマトグラフィー(GC)と質量分析(MS)を組み合わせて(GC-MSと略称されている)分析したり、官能評価に用いたり、香りを参考に調香したりすることができる。GCに用いられるガスクロマトグラフは、FID(Flame Ionization Detector)検出器を備えることが好ましく、これと質量分析計を組み合わせてGC-MS/FID分析をすることが好ましい。
また、本発明の芳香液は、後述する本発明の芳香組成物に使用できる。一方、本発明の芳香液は、工業的には化粧料およびフレーバーなどの用途として有用である。
【0039】
[芳香組成物]
本発明の芳香組成物は、本発明の芳香液の成分分析結果によって、本発明の芳香液の組成を再構成したものである。
本発明の芳香液の香気分析結果を基に、その組成を再現した芳香組成物を得ることができる。
【0040】
[調合香料]
本発明の調合香料は、本発明の芳香組成物と、他の香料とを組み合わせたものである。本発明の調合香料は、フレグランス用途や、フレーバー用途に用いることができる。
【実施例】
【0041】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0042】
[実施例1]
<大島桜・屋外・特開2000-53992号公報の改良法(本発明の香気捕集方法)>
図1に例示した本発明の香気捕集システムを用いて、本発明の香気捕集方法を実施した。
用いた香気捕集システムは、送風機、清浄化部、加湿気体発生部、動植物原材料収納部、香気成分捕集部および排風機がこの順で連通した構成である。屋外かつ地面から高さ1~3mの位置に各部をそれぞれに配置し、固定した。なお、送風機および排風機は台に固定し、加湿気体発生部は動植物原材料の一部に固定部材を介して固定し、動植物原材料収納部は動植物原材料に後述する方法で固定した。
送風機および排風機として、ポンプを使用した。
加湿気体発生部として、特開2000-53992号公報の[0018]に記載の加湿気体発生器を用いた。加湿気体発生部の中に無臭清浄な水を配置して、水に気体を導入してバブリングすることにより加湿気体を供給できるようにした。なお、加湿気体発生部の入口に、系外の気体の清浄化部としての活性炭を配置した。
動植物原材料収納部として、ビニルアルコール系ポリマーである可撓性袋(ジーエルサイエンス株式会社製の「スマートバッグPA」)を用いた。可撓性袋には、加湿気体発生部に連通する気体流入口、袋口部、および、香気成分捕集部に連通する気体排出口を設けた。
動植物原材料として、神奈川県の屋外で生育している大島桜の花を用いた。大島桜は、花弁から淡い芳香を放つ品種である。
香気成分捕集部として、吸着剤を充填させた、カラムを用いた。
吸着剤として、Tenax TA(2,6-ジフェニレン-パラフェニレンオキサイドポリマー)、35/60メッシュ、2.0gを用いた。
【0043】
大島桜の花が20個程度ついた枝の一部を可撓性袋で包んで収納し、袋口部を枝に軽く接触させた状態で、密封せずに固定した。系外の空気を送風機によって加湿気体発生部に供給し、加湿空気を得た。得られた加湿空気を可撓性袋の気体流入口(可撓性袋の鉛直上部の面、かつ、袋口部よりは鉛直下側の部分に配置)に導入し、可撓性袋のヘッドスペースガスを気体排出口(可撓性袋の、袋口部とは反対側にある底面に配置)から香気成分捕集部を通して排風機により吸引して取出した。この工程により、加湿空気が主として可撓性袋の気体流入口から気体排出口に向けて通過し、吸着剤に香気成分が捕集される。なお、冷却トラップは使用しなかった。その他の条件は、以下のとおりとした。
・流量:送風(加湿気体)3.0L/min、排風(吸引)2.5L/min。
・捕集時間:4月の日中の3時間。
・気温(系外):19~21℃。
・温度(系内):系外と同じ。加湿気体発生部および香気成分捕集部の温度も制御せず。
次に、吸着剤にジエチルエーテル20mLを通液して、香気成分の脱着を行った。脱着液を芒硝(Na2SO4・10H2O)脱水処理した後、ろ紙でろ過を行い、43℃、常圧で濃縮して、実施例1の芳香液(香気濃縮物)を得た。
実施例1の芳香液は、GC-MS/FID分析に供した。
【0044】
[比較例1]
<大島桜・屋外・DHS法>
送風機および加湿気体発生部を使用せず、加湿気体を供給せず、系外の気体の清浄化部としての活性炭を介さずに気体流入口を系外の空気に開放した以外は実施例1と同様にして、比較例1の香気捕集方法を行った。得られた芳香液を、実施例1と同様の方法でGC-MS/FID分析に供した。
なお、ポンプは排風(吸引)のみを行い、排風の流量を2.5L/minとした。
・捕集時間:4月の日中の3時間。
【0045】
[比較例2]
<大島桜・屋内・アクアスペース法(従来法)>
大島桜(実施例1と同じ木)の花を枝ごと切り取って超純水(Milli-Q水)に挿したもの(切り枝)を動植物原材料として用い、特開2000-53992号公報の
図1に記載の装置を屋内で用いてアクアスペース法(従来法)で香気捕集を行った。動植物試料収納部としてガラス容器を使用した。ガラス容器には、加湿気体発生部に清浄化部を介して連通する気体流入口(ガラス容器の鉛直上部の側面に配置)、および、香気成分捕集部に連通する気体排出口(ガラス容器の鉛直下部の側面に配置)を設け、その他の部分は密封できるようにした。2台のポンプを使用して以下の条件で加湿空気を導入しつつヘッドスペースガスを吸引し、冷却トラップ(エタノールにドライアイスを入れたもので冷却したトラップ)で香気成分を捕集し、凝縮液(5.1g)を得た。
・流量:送風(加湿気体)2.5L/min、排風(吸引)2.5L/min。
・捕集日時:4月の日中の3時間。
凝縮液(5.1g)を回収後、冷却トラップの全ての壁面をジエチルエーテル20mLで洗って得られた液体の全量(洗い込んで得られた液体)を、凝縮液と混合した。得られた混合液に塩化ナトリウムを0.8g添加して溶解させた後、分液し、水層をエーテル5mLで2回抽出した。エーテル層を合わせて芒硝脱水処理した後、ろ紙でろ過を行い、43℃、常圧で濃縮し、比較例2の芳香液(香気濃縮物)を得た。得られた芳香液を、実施例1と同様の方法でGC-MS/FID分析に供した。
【0046】
[比較例3]
<大島桜・屋内・DHS法>
大島桜(実施例1と同じ木)の花を枝ごと切り取って超純水(Milli-Q水)に挿したもの(切り枝)を動植物原材料として用い、DHS法で比較例3の香気捕集方法を行った。動植物試料収納部としてガラス容器を使用した。ガラス容器には、清浄化部を介して系外の空気に連通する気体流入口(ガラス容器の鉛直上部の側面に配置)、および、香気成分捕集部に連通する気体排出口(ガラス容器の鉛直下部の側面に配置)を設け、その他の部分は密封できるようにした。1台のポンプを使用して以下の条件で空気を導入しつつヘッドスペースガスを吸引し、香気捕集を行って、比較例3の芳香液(香気濃縮物)を得た。得られた芳香液を、実施例1と同様の方法でGC-MS/FID分析に供した。
なお、ポンプは排風(吸引)のみを行い、排風の流量を2.5L/minとした。
・捕集日時:4月の日中の3時間。
【0047】
[評価]
<官能評価>
実施例1および比較例1~3の芳香液(香気濃縮物)について、よく訓練された専門パネラー10人で官能評価を行った。その結果を以下に示す。
評価基準:最も「好ましい香り」または「大島桜の花の香りに似ている」ものを10点、最も「好ましくない香り」または「大島桜の花の香りに似ていない」ものを0点、普通のものを5点とした11段階評価を1点刻みで採点し、官能的な特徴を記載させた。
専門パネラーの10名の評価点の平均点数と平均的な官能評価を下記表1に示す。
【0048】
【表1】
*1:パウダリー感について:広山均著、「フレグランス 香りのデザイン」、平成12年1月20日(2000)第1版、フレグランスジャーナル社発行、p169によれば、パウダリーノート(Powdery Note)とは、白粉のように、甘く粉っぽいにおいである(例、クマリン、バニリン、ヘリオトロビンなど)。
【0049】
上記表1より、比較例2および3の大島桜の花(切り枝)に対して香気捕集方法を行って得られた芳香液は、シソ様のメタリック感や、蒸れ臭などのネガティブな香気が感じられた。実施例1および比較例1の屋外で生育している大島桜の花に対して屋外で香気捕集方法を行って得られた芳香液は、ネガティブな香気は感じられなかったが、比較例1よりも実施例1の方がよりナチュラル感のある桜の香りであり、平均点数も高かった。
【0050】
<香気成分>
実施例1および比較例1~3の芳香液(香気濃縮物)のGC-MS/FID分析結果について、主な香気成分の存在割合(GC-Area%)を表2に示した。
【0051】
【0052】
上記表2より、実施例1ではフレッシュフローラルなリナロール(linalool)およびローズ様の2-フェニルエタノール(2-phenylethanol)が比較例1~3よりも高い割合で検出され、さらにはアニス様のアニスアルデヒド(anisaldehyde)およびp-アニス酸メチル(methyl anisate)が、比較例2および3よりも高い割合で検出された。
【0053】
<大島桜の花の評価結果のまとめ>
大島桜の花の香気捕集方法に関しては、比較例2のアクアスペース法(従来法)を用いて切り花の香気捕集をすると、蒸れ臭(ファッティなにおい)を含んだ芳香液(香気濃縮物)が得られた。
一方、本発明の香気捕集システムおよび香気捕集方法を用いることで、より本物の花の香気に近い、ナチュラル感のある芳香液(香気濃縮物)を得られることがわかった。
以上の評価結果より、大島桜の花の香気捕集方法に関しては、実施例1で行った屋外での本発明の香気捕集方法、すなわち特開2000-53992号公報の改良法による香気捕集方法が有効であると考えられる。
【0054】
[実施例101]
<紅ほっぺ・屋内・特開2000-53992号公報の改良法(本発明の香気捕集方法)>
実施例1で用いた香気捕集システムに以下の変更をしたものを実施例101の香気捕集システムとし、実施例101の香気捕集システムを用いて、本発明の香気捕集方法を実施した。
動植物原材料収納部として、ガラス容器を用いた。ガラス容器には、加湿気体発生部に連通する気体流入口(ガラス容器の鉛直下部の側面に配置)、および、香気成分捕集部に連通する気体排出口(ガラス容器の鉛直上部の蓋に配置)を設け、その他の部分は密封できるようにした。香気捕集システム全体を、屋内かつ地面から高さ1~2mの位置にそれぞれ配置し、固定した。なお、送風機、排風機および加湿気体発生部は台に固定し、動植物原材料収納部は動植物原材料を覆った状態で台に固定した。
動植物原材料として、もぎ取られた果実である、イチゴ(紅ほっぺ・偽果部分およびヘタ部分を有するもの)を用いた。
吸着剤として、Tenax TA(2,6-ジフェニレン-パラフェニレンオキサイドポリマー)、60/80メッシュ、2.0gを用いた。
【0055】
紅ほっぺ8個をガラス容器の内部に入れ、気体流入口および気体排出口以外を密封した。系外の空気を送風機によって加湿気体発生部に供給し、加湿空気を得た。得られた加湿空気をガラス容器の気体流入口(ガラス容器の下部の側面に配置)に導入し、ガラス容器のヘッドスペースガスを気体排出口(ガラス容器の鉛直上部の蓋に配置)から香気成分捕集部を通して排風機により吸引して取出した。この工程により、吸着剤に香気成分が捕集される。なお、冷却トラップは使用しなかった。
・流量:送風(加湿気体)1.5L/min、排風(吸引)1.5L/min。
・捕集時間:4時間
・室温(系外):21℃
・温度(系内):系外と同じ。加湿気体発生部および香気成分捕集部の温度も制御せず。
・湿度:(系外)42%
次に、吸着剤にジエチルエーテル20mLを通液して、香気成分の脱着を行った。脱着液を芒硝脱水処理した後、ろ紙でろ過を行い、43℃、常圧で濃縮して、実施例101の芳香液(香気濃縮物)42.7mg(溶媒含む)を得た。
実施例101の芳香液は、GC-MS/FID分析に供した。
【0056】
[参考例101]
<加湿気体の温度および湿度の確認>
実施例101と同様の実験を別の日に実施した結果、系外の空気および系内に導入された空気(加湿気体)は、それぞれ以下の温度、湿度となることが確認された。すなわち、加湿気体の温度は設置された場所における系外の温度と同じとなり、加湿気体の湿度は香気捕集システムが設置された場所における系外の湿度よりも高くなることがわかった。
<開始時>
系外:17.3℃、湿度47%
系内:17.3℃、湿度47%
<60分後>
系外:17.9℃、湿度51%
系内:17.9℃、湿度85%
【0057】
[比較例101]
<紅ほっぺ・屋内・アクアスペース法(従来法)>
動植物原材料として紅ほっぺ8個を用い、比較例2と同様の特開2000-53992号公報の
図1に記載の装置を屋内で用いてアクアスペース法(従来法)で香気捕集を行った。動植物試料収納部としてガラス容器を使用した。2台のポンプを使用して以下の条件で加湿空気を導入しつつヘッドスペースガスを吸引し、冷却トラップ(エタノールにドライアイスを入れたもので冷却したトラップ)で香気成分を捕集し、凝縮液(4.7g)を得た。
・流量:送風(加湿気体)1.5L/min、排風(吸引)1.5L/min。
・捕集時間:4時間
・室温(系外):21℃
・温度(系内):系外と同じ。加湿気体発生部および香気成分捕集部の温度も制御せず。
・凝縮液(4.7g)を回収後、冷却トラップの全ての壁面をジエチルエーテル20mLで洗って得られた液体の全量を、凝縮液と混合した。得られた混合液に塩化ナトリウムを0.7g添加して溶解させた後、分液し、水層をエーテル5mLで2回抽出した。エーテル層を合わせて芒硝脱水処理した後、ろ紙でろ過を行い、43℃、常圧で濃縮して、比較例101の芳香液(香気濃縮物)42.9mg(溶媒含む)を得た。得られた芳香液を、実施例101と同様の方法で、GC-MS/FID分析に供した。
【0058】
[比較例102]
<紅ほっぺ・屋内・DHS法>
加湿気体発生部を使用せず、加湿していない系外の空気を供給した以外は実施例101と同様にして、比較例102の香気捕集方法を行った。
・流量:送風(加湿していない系外の空気;温度20℃、湿度42%)1.5L/min、排風(吸引)1.5L/min。
・捕集時間:4時間
・室温(系外):20℃
・湿度(系外):42%
実施例101と同様の方法で吸着剤から脱着および濃縮をして、比較例102の芳香液(香気濃縮物)43.0mg(溶媒含む)を得た。得られた芳香液を、実施例101と同様の方法でGC-MS/FID分析に供した。
【0059】
[評価]
<官能評価>
動植物原材料として用いた試料(紅ほっぺ)、実施例101、比較例101および比較例102で得られた芳香液(香気濃縮物)について、よく訓練された専門パネラー10人で官能評価を行った。その平均的な官能評価の結果を下記表3に示す。
【0060】
【0061】
上記表3より、実施例101、比較例101および102で得られた芳香液(香気濃縮物)を比較すると、実施例101で得られた芳香液(香気濃縮物)は香りのバランスが良好で、動植物原材料から漂う香気に最も近い(すなわちナチュラル感のある香り)という評価であった。比較例101で得られた芳香液(香気濃縮物)は、香りが弱く酸っぱさ、甘さが目立っていた。比較例102で得られた芳香液(香気濃縮物)は、試料の香気では目立たなかったグリーンな香気が感じられた。
【0062】
<香気成分>
(各成分の存在割合;GC-Area%)
実施例101、比較例101および比較例102の芳香液(香気濃縮物)のGC-MS/FID分析結果(検出された成分の化合物名)および各成分の存在割合を下記表4に示す。実施例101、比較例101および比較例102で得られた芳香液(香気濃縮物)のGC-MS/FID分析によって得られたガスクロマトグラムを
図2に示す。
【0063】
【0064】
上記表4より、実施例101の特開2000-53992号公報の改良法と比較例101のアクアスペース法(従来法)を比較すると、酪酸メチル(methyl butanoate)、酪酸エチル(ethyl butanoate)、吉草酸エチル(ethyl pentanoate)等のフルーティなエステル類が実施例101でより高い割合であった。また、チーズ様香気のチオ酪酸S-メチル(S-methyl butanethioate)が実施例101では0.11GC-Area%、比較例101では0.02GC-Area%と大きな差が見られた。その他に、甘さに寄与すると考えられるフラネオール(furaneol)やγ-ドデカラクトン(γ-dodecalactone)が実施例101でより高い割合で検出された。反対に、比較例101においてより高い割合で検出された成分としては、酢酸(acetic acid)、2-エチルヘキサン酸(2-ethylhexanoic acid)などの酸類やメトキシフラネオール(methoxyfuraneol)等が挙げられ、酸類は比較例101の官能評価における酸っぱさに、メトキシフラネオール(methoxyfuraneol)は甘さに寄与していると推察される。
実施例101の特開2000-53992号公報の改良法と比較例102のDHS法を比較すると、複数のエステル類が比較例102でより高い割合で検出され、これらが比較例102の官能評価における完熟感のあるフルーティな香気に寄与していると推察される。また、ヘキサナール(hexanal)、酢酸(Z)-3-ヘキセニル([(Z)-hex-3-enyl] acetate)および酢酸(Z)-2-ヘキセニル([(Z)-hex-2-enyl] acetate)等のグリーンな香気成分が比較例102でより高い割合で検出されたことから、これらが比較例102の官能評価におけるグリーン感に寄与していると推察される。
【0065】
<イチゴの評価結果のまとめ>
イチゴ(紅ほっぺ)の香気捕集方法に関しては、本発明の香気捕集システムおよび香気捕集方法を用いることで、本物のイチゴから漂う香気に近い(すなわちナチュラル感のある)芳香液(香気濃縮物)を得られることがわかった。
以上の評価結果より、イチゴの香気捕集方法に関しては、実施例101で行った本発明の香気捕集方法、すなわち特開2000-53992号公報の改良法による香気捕集方法が有効であると考えられる。
イチゴ(紅ほっぺ)のように表面が乾燥すると、表面から漂う香気やそれを食した際の香味が劣るような果実や香気については、本発明の香気捕集方法(特開2000-53992号公報の改良法)を用いることで、動植物の本来の香気をより効率良く捕集でき、かつ、ナチュラル感のある芳香液を得られると推定される。アクアスペース法(従来法)と比較すると、本発明の香気捕集方法を用いることで、揮発性成分の中でも果実の香気に大きく寄与するエステル類、アルコール類、ラクトン類などを効率良く、本来の香気に近いバランスで捕集できる。一方、無加湿のDHS法では乾燥ストレスによって生成すると推察されるグリーンな香気が本来の香気よりも多くなるが、本発明の香気捕集方法ではグリーンな香気が少なく、より本物に近いバランスの香気が捕集できる。
【0066】
なお、本発明の香気捕集方法(特開2000-53992号公報の改良法)およびDHS法を生産農家のハウスおよび畑でもぎとる前のイチゴ(紅ほっぺ)について行った場合も、実施例101および比較例102と同様の傾向の結果が得られる。
【0067】
[実施例201]
<バジル・屋内・特開2000-53992号公報の改良法(本発明の香気捕集方法)>
実施例1で用いた香気捕集システムに以下の変更をしたものを実施例201の香気捕集システムとし、実施例201の香気捕集システムを用いて、本発明の香気捕集方法を実施した。
動植物原材料として、軟質プラスチックの鉢で生育している(ポット苗)ハーブ類である、バジル(スイートバジル)を用いた。
バジル1株の地上部のみを可撓性袋(スマートバッグPA)で包んで収納し、袋口部を茎に軽く接触させた状態で(バジルに圧力をあまりかけずに)、密封せずに固定した。系外の空気を送風機によって加湿気体発生部に供給し、加湿空気を得た。得られた加湿空気を可撓性袋の気体流入口(可撓性袋の鉛直上部の面に配置)に導入し、可撓性袋のヘッドスペースガスを気体排出口(可撓性袋の下部の側面、かつ、袋口部よりは鉛直上側の部分に配置)から香気成分捕集部を通して排風機により吸引して取出した。この工程により、加湿空気が主として可撓性袋の気体流入口から気体排出口に向けて通過し、吸着剤に香気成分が捕集される。なお、冷却トラップは使用しなかった。その他の条件は、以下のとおりとした。
・流量:送風(加湿気体)2.5L/min、排風(吸引);2.0L/min。
・捕集時間:6時間
・30分毎に1分間、可撓性袋を外側から手で軽く叩くことにより、可撓性袋を介してバジルの葉を刺激し、バジルの葉から香気を発散させた。
実施例1と同様の方法で吸着剤から脱着および濃縮をして、実施例201の芳香液(香気濃縮物)を得た。得られた芳香液を、実施例1と同様の方法でGC-MS/FID分析に供した。
【0068】
[比較例201]
<バジル・屋内・アクアスペース法(従来法)>
動植物原材料として実施例201と同じバジルを用い、比較例2と同様の特開2000-53992号公報の
図1に記載の装置を屋内で用いてアクアスペース法(従来法)で香気捕集を行った。動植物試料収納部としてガラス容器を使用した。ガラス容器の中にバジル1株のポット苗の全体(鉢も含む)を収納し、2台のポンプを使用して以下の条件で加湿空気を導入しつつヘッドスペースガスを吸引し、冷却トラップ(エタノールにドライアイスを入れたもので冷却したトラップ)で香気成分を捕集し、凝縮液(5.3g)を得た。
・流量:送風(加湿気体)2.0L/min、排風(吸引)2.0L/min。
・捕集時間:6時間
凝縮液(5.3g)を回収後、冷却トラップの全ての壁面をジエチルエーテル20mLで洗って得られた液体の全量を、凝縮液と混合した。得られた混合液に塩化ナトリウムを0.8g添加して溶解させた後、分液し、水層をエーテル5mLで2回抽出した。エーテル層を合わせて芒硝脱水処理した後、ろ紙でろ過を行い、43℃、常圧で濃縮して、比較例201の芳香液(香気濃縮物)を得た。得られた芳香液を、実施例1および201と同様の方法で、GC-MS/FID分析に供した。
【0069】
[比較例202]
<バジル・屋内・DHS法>
加湿気体発生部を使用せず、加湿していない系外の空気を供給した以外は実施例201と同様にして、比較例102の香気捕集方法を行った。
・流量:送風(加湿していない系外の空気)2.5L/min、排風(吸引)2.0L/min。
・捕集時間:6時間
・30分毎に1分間、可撓性袋を外側から手で軽く叩くことにより、可撓性袋を介してバジルの葉を刺激し、バジルの葉から香気を発散させた。
実施例1および201と同様の方法で吸着剤から脱着および濃縮をして、比較例202の芳香液(香気濃縮物)を得た。得られた芳香液を、実施例1および201と同様の方法でGC-MS/FID分析に供した。
【0070】
[評価]
<官能評価>
実施例201、比較例201および比較例202の芳香液(香気濃縮物)について、よく訓練された専門パネラー10人で官能評価を行った。
比較例201のアクアスペース法(従来法)で得られた芳香液は、ほとんど無臭であった。比較例201の香気捕集方法ではバジルを十分に刺激できないため、バジルの香気が発散されなかったためと推測される。
実施例201の特開2000-53992号公報の改良法と比較例202のDHS法でそれぞれ得られた芳香液を比較すると、実施例201の方が比較例202よりもフレッシュで華やかな印象であり、本物のバジルの葉を刺激した際の香気により近い香気であった。
【0071】
<香気成分>
比較例201の芳香液(香気濃縮物)のGC-MS/FID分析をした結果、香気収量が十分に得られなかったため、解析困難であった。
実施例201および比較例202の芳香液(香気濃縮物)のGC-MS/FID分析結果検出された主な香気成分の存在割合(GC-Area%)を下記表5に示す。表中の「trace」は、微量であることを意味する。
【0072】
【0073】
上記表5より、実施例201ではフレッシュフローラルなリナロール(linalool)が、比較例202よりも高い割合で捕集されたことがわかった。また、実施例201では、比較例202では検出されなかったフレッシュグリーンな(Z)-3-ヘキセノール((Z)-3-hexenol)や、フローラルなネロール(nerol)およびゲラニオール(geraniol)が捕集された。これらが実施例201の官能評価におけるフレッシュで華やかなバジル様香気に寄与していると推察される。
【0074】
<バジルの評価結果のまとめ>
バジル(スイートバジル)の香気捕集方法に関しては、本発明の香気捕集システムおよび香気捕集方法を用いることで、本物のバジルを刺激した際に漂う香気に近い(すなわちナチュラル感のある)芳香液(香気濃縮物)を得られることがわかった。
以上の評価結果より、バジルの香気捕集方法に関しては、実施例201で行った本発明の香気捕集方法、すなわち特開2000-53992号公報の改良法による香気捕集方法が有効であると考えられる。
【符号の説明】
【0075】
1 送風機
2 加湿気体発生部
3 動植物原材料収納部
4 動植物原材料
5 香気成分捕集部
6 吸着剤
7 水
8 排風機
9 清浄化部
10 台
11 気体
12 加湿気体
21 固定部材
31 気体流入口
32 袋口部
33 気体排出口