(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-07
(45)【発行日】2022-01-12
(54)【発明の名称】距離計測装置、及び距離計測方法
(51)【国際特許分類】
G01S 7/486 20200101AFI20220104BHJP
G01C 3/06 20060101ALI20220104BHJP
G01S 17/10 20200101ALI20220104BHJP
G01S 17/89 20200101ALI20220104BHJP
【FI】
G01S7/486
G01C3/06 120Q
G01S17/10
G01S17/89
(21)【出願番号】P 2018173543
(22)【出願日】2018-09-18
【審査請求日】2020-08-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317011920
【氏名又は名称】東芝デバイス&ストレージ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100082991
【氏名又は名称】佐藤 泰和
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100118843
【氏名又は名称】赤岡 明
(74)【代理人】
【識別番号】100125151
【氏名又は名称】新畠 弘之
(72)【発明者】
【氏名】久保田 寛
(72)【発明者】
【氏名】松本 展
【審査官】仲野 一秀
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-167054(JP,A)
【文献】特開2016-176750(JP,A)
【文献】特開2013-96742(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/48-7/51
17/00-17/95
G01C 3/00-3/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光の反射光を信号化した計測信号が第1閾値に達する立ち上がり時間と、前記第1閾値に達した後に第2閾値に達する立ち下がり時間と、を取得する時間取得部と、
前記立ち上がり時間に第1重み係数で重み付けした第1時間、及び前記立ち下がり時間に第2重み係数で重み付けした第2時間に基づくタイミングと、前記レーザ光の照射タイミングとの時間差に基づいて、対象物までの距離を計測する距離計測部と、
を備え、
前記距離計測部は、前記計測信号のパルス幅に応じて前記第1重み係数を取得する、距離計測装置。
【請求項2】
前記距離計測部は、前記計測信号の信号強度に応じて前記第1重み係数を取得する、請求項1に記載の距離計測装置。
【請求項3】
前記距離計測部は、環境光強度に応じて前記第1重み係数を取得する、請求項1に記載の距離計測装置。
【請求項4】
前記距離計測部は、前記計測信号の信号強度、及び環境光強度に応じて前記第1重み係数を取得する、請求項1に記載の距離計測装置。
【請求項5】
前記距離計測部は、前記パルス幅が大きくなるに従い前記第1重み係数を増加させる、請求項
1に記載の距離計測装置。
【請求項6】
前記距離計測部は、前記計測信号のパルス幅が所定値を超えた場合に、前記立ち上がり時間に所定値を加えた値に基づくタイミングと、前記レーザ光の照射タイミングとの時間差に基づいて、対象物までの距離を計測する、請求項1乃至
5のいずれか一項に記載の距離計測装置。
【請求項7】
前記レーザ光の照射方向を変更しながら計測対象物に照射する照射光学系と
前記照射光学系が照射した前記レーザ光の反射光を受光する受光光学系と、
前記受光光学系を介して受光した反射光を電気信号に変換するセンサと、
前記センサが出力する電気信号を前記計測信号に増幅変換する増幅器と、を更に備え、
前記距離計測部は、前記センサの特性に応じて前記第1重み係数を変更する、請求項1乃至
5のいずれか一項に記載の距離計測装置。
【請求項8】
レーザ光の反射光に基づきセンサが出力する電気信号を計測信号に増幅変換する増幅器と、
前記計測信号が第1閾値に達する立ち上がり時間と、前記第1閾値に達した後に第2閾値に達する立ち下がり時間と、を取得する時間取得部と、
前記立ち上がり時間に第1重み係数で重み付けした第1時間、及び前記立ち下がり時間に第2重み係数で重み付けした第2時間に基づくタイミングと、前記レーザ光の照射タイミングとの時間差に基づいて、対象物までの距離を計測する距離計測部と、
を備え、
前記距離計測部は、前記計測信号のパルス幅に応じて前記第1重み係数を取得する、距離計測装置。
【請求項9】
前記センサは、複数のアバランシェフォトダイオードを有する
、請求項
7又は8に記載の距離計測装置。
【請求項10】
前記センサは、シリコンフォトマルチプライアにより構成される、請求項
7又は8に記載の距離計測装置。
【請求項11】
前記センサは、フォトダイオードにより構成される、請求項
7又は8に記載の距離計測装置。
【請求項12】
レーザ光の反射光をデジタル化した計測信号が第1閾値に達する立ち上がり時間と、前記第1閾値に達した後に第2閾値に達する立ち下がり時間と、を取得する時間取得工程と、
前記立ち上がり時間に第1重み係数で重み付けした第1時間、及び前記立ち下がり時間に第2重み係数で重み付けした第2時間に基づくタイミングと、前記レーザ光の照射タイミングとの時間差に基づいて、対象物までの距離を計測する距離計測工程と、
を備え、
前記距離計測工程は、前記計測信号のパルス幅に応じて前記第1重み係数を取得する、距離計測方法。
【請求項13】
レーザ光の反射光に基づきセンサが出力する電気信号を計測信号に増幅変換する増幅工程と、
前記計測信号が第1閾値に達する立ち上がり時間と、前記第1閾値に達した後に第2閾値に達する立ち下がり時間と、を取得する時間取得工程と、
前記立ち上がり時間に第1重み係数で重み付けした第1時間、及び前記立ち下がり時間に第2重み係数で重み付けした第2時間に基づくタイミングと、前記レーザ光の照射タイミングとの時間差に基づいて、対象物までの距離を計測する距離計測工程と、
を備え、
前記距離計測工程は、前記計測信号のパルス幅に応じて前記第1重み係数を取得する、距離計測方法。
【請求項14】
レーザ光の反射光を信号化した計測信号が第1閾値に達する立ち上がり時間と、前記第1閾値に達した後に第2閾値に達する立ち下がり時間と、を取得する時間取得部と、
前記立ち上がり時間に第1重み係数で重み付けした第1時間、及び前記立ち下がり時間に第2重み係数で重み付けした第2時間に基づくタイミングと、前記レーザ光の照射タイミングとの時間差に基づいて、対象物までの距離を計測する距離計測部と、
を備え、
前記距離計測部は、環境光強度に応じて前記第1重み係数を取得する、距離計測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、距離計測装置及び距離計測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
LIDAR(Light Detection and Ranging)と称される距離計測装置が知られている。この距離計測装置では、レーザ光を計測対象物に照射し、計測対象物により反射された反射光の強度をセンサ出力に基づき時系列な計測信号に変換する。これにより、レーザ光の発光の時点と、計測信号の信号値のピークに対応する時点との時間差に基づき、計測対象物までの距離が計測される。
【0003】
ところが、センサへの単位時間あたりの入力フォトン数が増加すると、センサの出力信号値が飽和する場合があり、計測精度が低下してしまう恐れがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、センサの出力信号値が飽和しても安定的に距離計測が可能な距離計測装置及び距離計測方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本実施形態に係る距離計測装置は、時間取得部と、距離計測部と、を備える。時間取得部は、レーザ光の反射光を信号化した計測信号が第1閾値に達する立ち上がり時間と、第1閾値に達した後に計測信号が第2閾値に達する立ち下がり時間と、を取得する。距離計測部は、立ち上がり時間に第1重み係数で重み付けした第1時間、及び立ち下がり時間に第2重み係数で重み付けした第2時間に基づくタイミングと、レーザ光の照射タイミングとの時間差に基づいて、対象物までの距離を計測する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】第1実施形態に係る距離計測装置の概略的な全体構成を示す図。
【
図2】第1実施形態に係る距離計測装置の構成例を示す図。
【
図3】光源の出射パターンを模式的に示している図。
【
図4】レーザ光それぞれの計測対象物上の照射位置を拡大して示す模式図。
【
図5】時間取得部、及び距離計測部の詳細な構成を示すブロック図。
【
図6】時間検出部による計測信号の立ち上がり時間、及び立ち下がり時間の一例を示す図。
【
図7】センサの計測信号がパイルアップした状態を模式的に示す図。
【
図8】光源の出射時点とセンサの電気信号化の時間関係を説明する図。
【
図9】SPADセルの1フォトン検出時の出力波形例を示す図。
【
図10】SPADセルの計測信号値のシミュレーション例を示す図。
【
図11】演算されたタイミングと、立ち上がり時間及び立ち下がり時間との関係を示す図。
【
図13】異なる入出力特性に基づく信号値を示す図。
【
図14】比較例として、CFDの測定方法を示す図。
【
図15】第2実施形態に係る距離計測処理部の詳細な構成例を示すブロック図。
【
図16】単位時間あたりのフォトン数を変更してえられた計測信号値の最大値を示す図。
【
図17】最大値に対応する計測信号値毎に、第1重み係数W1を求めた図。
【
図18】最大値に対応する第1重み係数を環境光の強度値を変更して求めた図。
【
図19】補正最大値に対応する第1重み係数を環境光の強度値を変更して求めた図。
【
図20】第3実施形態に係る距離計測処理部の詳細な構成例を示すブロック図。
【
図21】計測信号の特性をパルス幅に応じて説明する概念図。
【
図22】C及びDに対応する場合の演算式に用いる関数の特性を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態に係る距離計測装置及び距離計測方法について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下に示す実施形態は、本発明の実施形態の一例であって、本発明はこれらの実施形態に限定して解釈されるものではない。また、本実施形態で参照する図面において、同一部分又は同様な機能を有する部分には同一の符号又は類似の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する場合がある。また、図面の寸法比率は説明の都合上実際の比率とは異なる場合や、構成の一部が図面から省略される場合がある。
【0009】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る距離計測装置1の概略的な全体構成を示す図である。この
図1に示すように距離計測装置1は、走査方式及びTOF(Time Of Flight)方式を用いて、計測対象物10の距離画像を生成する。より具体的には、この距離計測装置1は、出射部100と、光学機構系200と、計測部300と、画像処理部400と、を備えて構成されている。
【0010】
出射部100は、レーザ光L1を間欠的に出射する。光学機構系200は、出射部100が出射するレーザ光L1を計測対象物10に照射するとともに、計測対象物10上で反射されたレーザ光L1の反射光L2を計測部300に入射させる。ここで、レーザ光とは、位相および周波数が揃った光を意味する。
【0011】
計測部300は、光学機構系200を介して受光した反射光L2に基づき、計測対象物10までの距離を計測する。すなわち、この計測部300は、出射部100がレーザ光L1を計測対象物10に照射した時点と、反射光L2が計測された時点との時間差に基づき、計測対象物10までの距離を計測する。
【0012】
画像処理部400は、ノイズの除去、歪み補正、及び補間処理を行い、計測対象物10上の複数の測定点までの距離に基づき最終的な距離画像データを出力する。画像処理部400は、距離計測装置1の筐体内に組み込んでもよい。
【0013】
次に、
図2に基づき、第1実施形態に係る距離計測装置1の出射部100、光学機構系200、および計測部300のより詳細な構成例を説明する。
図2は、第1の実施形態に係る距離計測装置1の構成例を示す図である。
図2に示すように、距離計測装置1は、出射部100と、光学機構系200と、計測部300と、画像処理部400と、を備えて構成されている。ここでは、散乱光L3の内、所定の方向の散乱光を反射光L2と呼ぶこととする。
【0014】
出射部100は、光源11と、発振器11aと、第1駆動回路11bと、制御部16と、第2駆動回路16aとを、有する。
【0015】
光学機構系200は、照射光学系202と、受光光学系204とを有する。照射光学系202は、レンズ12と、第1光学素子13と、レンズ13a、ミラー(反射デバイス)15とを有する。
【0016】
受光光学系204は、第2光学素子14と、ミラー15とを有する。すなわち、これら照射光学系202、及び受光光学系204は、ミラー15を共有している。
【0017】
計測部300は、光検出器17、センサ18と、レンズ18aと、第1増幅器19と、第2増幅器20と、時分割処理部21と、距離計測部22と、を有する。なお、光を走査する既存方法としては、距離計測装置1を回転させる方法(以下、回転方法と呼ぶ)がある。また、別の走査する既存方法として、OPA方法(Optical Phased array)がある。本実施形態は、光を走査する方法に依存しないため、回転方法やOPA方法により光を走査してもよい。
【0018】
出射部100の発振器11aは、制御部16の制御に基づき、パルス信号を生成する。第1駆動回路11bは、発振器11aの生成したパルス信号に基づいて光源11を駆動する。光源11は、例えばレーザダイオードなどのレーザ光源であり、第1駆動回路11bによる駆動に応じてレーザ光L1を間欠的に発光する。
【0019】
図3は、光源11の出射パターンを模式的に示している図である。
図3において、横軸は時刻を示し、縦線は光源11の出射タイミングを示している。下側の図は、上側の図における部分拡大図である。この
図3に示すように光源11は、例えばT=数マイクロ秒~数十マイクロ秒の間隔で、レーザ光L1(n)(0≦n<N)を間欠的に繰り返し発光する。ここで、n番目に発光されるレーザ光L1をL1(n)と表記する。Nは、計測対象物10を計測するために照射するレーザ光L1(n)の照射回数を示している。
【0020】
図2に示すように、照射光学系202の光軸O1上には、光源11、レンズ12、第1光学素子13、第2光学素子14、及びミラー15がこの順番に配置されている。これにより、レンズ12は、間欠的に出射されるレーザ光L1をコリメートして、第1光学素子13に導光する。
【0021】
第1光学素子13は、レーザ光L1を透過させると共に、レーザ光L1の一部を光軸O3に沿って光検出器17に入射させる。第1光学素子13は、例えばビームスプリッタである。
【0022】
第2光学素子14は、第1光学素子13を透過したレーザ光L1を更に透過して、レーザ光L1をミラー15に入射させる。第2光学素子14は、例えばハーフミラーである。
【0023】
ミラー15は、光源11から間欠的に出射されるレーザ光L1を反射する反射面15aを有する。反射面15aは、例えば、互いに交差する2つの回動軸線RA1、RA2を中心として回動可能となっている。これにより、ミラー15は、レーザ光L1の照射方向を周期的に変更する。
【0024】
制御部16は、例えばCPU(Central Processing Unit)及びプログラムを記憶する記憶部を備え、記憶部に記憶されるプログラムを実行することにより制御を実行する。この制御部16は、反射面15aの傾斜角度を連続的に変更させる制御を第2駆動回路16aに対して行う。第2駆動回路16aは、制御部16から供給された駆動信号に従って、ミラー15を駆動する。すなわち、制御部16は、第2駆動回路16aを制御して、レーザ光L1の照射方向を変更させる。
【0025】
図4は、レーザ光L1の計測対象物10上の照射位置を拡大して示す模式図である。この
図4に示すように、反射面15aは、レーザ光L1毎に照射方向を変更して計測対象物10上のほぼ平行な複数の直線経路P1~Pm(mは2以上の自然数)に沿って、離散的に照射させる。このように、本実施形態に係る距離計測装置1は、レーザ光L1(n)(0≦n<N)の照射方向O(n)(0≦n<N)を変更しつつ、計測対象物10に向けて1回ずつ照射する。ここで、レーザ光L1(n)の照射方向をO(n)で表記する。すなわち、本実施形態に係る距離計測装置1では、レーザ光L1(n)は、照射方向O(n)に一回照射される。
【0026】
レーザ光L1(n)とL1(n+1)との計測対象物10上の照射位置の間隔は、レーザ光L1間の照射間隔T=数マイクロ秒~数十マイクロ秒(
図3)に対応している。このように、各直線経路P1~Pm上に照射方向の異なるレーザ光L1が離散的に照射される。なお、直線経路の数や走査方向は特に限定されない。また、図示したレーザ光の照射数や照射を行う範囲は一例であり、照射数や照射を行う範囲を変更してもよい。
【0027】
図2に示すように、受光光学系204の光軸O2上には、反射光L2が入射する順に、ミラー15の反射面15a、第2光学素子14、レンズ18a、センサ18が配置されている。ここで、光軸O1とは、レンズ12の中心位置を通過するレンズ12の焦点軸である。光軸O2とは、レンズ18aの中心位置を通過するレンズ18aの焦点軸である。
【0028】
反射面15aは、計測対象物10上で散乱された散乱光L3のうち光軸O2に沿って進む反射光L2を第2光学素子14に入射させる。第2光学素子14は、反射面15aで反射された反射光L2の進行方向を変えて、光軸O2に沿って計測部300のレンズ18aに入射させる。レンズ18aは、光軸O2に沿って入射した反射光L2をセンサ18にコリメートさせる。
【0029】
一方で、散乱光L3のうちレーザ光L1と異なる方向に反射された光の進行方向は、受光光学系204の光軸O2からずれている。このため、散乱光L3のうち光軸O2と異なる方向に反射された光は、仮に受光光学系204内に入射しても、受光光学系204が配置されている筐体内の黒体などに吸収されるか、センサ18の入射面からずれた位置に入射される。これに対して、何らかの物体により散乱された太陽光などの環境光の中には、光軸O2に沿って進行する光があり、これらの光は、ランダムにセンサ18の入射面に入射して、ランダムなノイズとなる。
【0030】
なお、
図2においては、明確化のためにレーザ光L1と反射光L2の光路を分けて図示しているが、実際にはこれらは重なっている。また、レーザ光L1の光束の中心の光路を光軸O1として図示している。同様に、反射光L2の、光束の中心の光路を光軸O2として図示している。
【0031】
センサ18は、レンズ18aから入射する反射光L2を検出する。このセンサ18は、例えば、シリコンフォトマルチプライア(SiPM:Silicon Photomultipliers)により構成される。シリコンフォトマルチプライアは、ガイガーモードのアバランシェフォトダイオード(APD:Avalanche Photo Diod)をマルチピクセル化したフォトンカウンティングデバイスである。シリコンフォトマルチプライアは、フォトンカウンティングレベルの微弱光を検出することが可能である。すなわち、センサ18を構成する受光素子のそれぞれは、光学機構系200を介して受けた光の強さに応じた出力信号を出力する。なお、ガイガーモードで使用するアバランシェフォトダイオードはスパッド(SPAD: Single-Photon Avalanche Diode)と呼ばれる場合がある。
【0032】
本実施形態に係るセンサ18は、シリコンフォトマルチプライアにより構成されるがこれに限定されない。例えば、センサ18を、フォトダイオード(Photodiode)、アバランシェダイオード(ABD:avalanche breakdown diode)などを複数配置して構成してもよい。フォトダイオードは、例えば光検出器として働く半導体により構成される。アバランシェダイオードは、特定の逆電圧にてアバランシェ降伏を起こすことにより、受光感度を上げたダイオードである。
【0033】
第2増幅器20は、例えばトランスインピーダンスアンプ(Transimpedance Amplifier)であり、反射光L2に基づく電気信号を増幅する。第2増幅器20は、例えばセンサ18の電流信号を計測信号としての電圧信号に増幅変換する。
【0034】
時間取得部21は、レーザ光L1の反射光を信号化した計測信号が第1閾値に達する立ち上がり時間と、第1閾値に達した後に第2閾値に達する立ち下がり時間と、を取得する。
距離計測部22は、時間取得部21が取得した立ち上がり時間に第1重み係数で重み付けした第1時間、及び時間取得部21が取得した立ち下がり時間に第2重み係数で重み付けした第2時間に基づくタイミングと、レーザ光L1の照射タイミングとの時間差に基づいて、対象物10までの距離を計測する。
【0035】
図5は、時間取得部21、及び距離計測部22の詳細な構成を示すブロック図である。
図5に示すように、時間取得部21は、立ち上がり検出部21aと、第1TDC21bと、立ち下がり検出部21cと、第2TDC21dとを有する。距離計測部22は、距離計測処理部22aを有する。なお、
図5に記載のブロック図は、信号例であり、順序、配線はこれに限定されない。
【0036】
図6は、時間検出部21による計測信号の立ち上がり時間、及び立ち下がり時間の一例を示す図である。
図6の横軸はレーザ光L1の発光時刻からの経過時間を示し、縦軸は計測信号の信号値を示す。ここでは、計測信号のピークタイミングTL2における値が異なる2種類の信号を図示している。計測信号が第1閾値Th1に達する立ち上がり時間Tupと、第1閾値に達した後に計測信号が低下して第2閾値Th2に達する立ち下がり時間Tdnとをそれぞれ2種類の計測信号に対して示している。
【0037】
図5に示すように、立ち上がり検出部21aは、例えば比較器であり、第2増幅器20が出力する計測信号の信号値と第1閾値とを比較し、計測信号の値が第1閾値を超えた時刻に立ち上がり信号を出力する。すなわち、立ち上がり検出部21aは、正理論により計測信号が第1閾値に達すると、立ち上がり信号を出力する。
【0038】
第1TDC21bは、例えば時間デジタル変換器(TDC:Time to Digital Converter)であり、レーザ光L1が出射されてから立ち上がり検出部21aが立ち上がり信号を出力するまでの立ち上がり時間Tupを計測する。すなわち、第1TDC21bは、レーザ光の反射光を信号化した計測信号が第1閾値に達する立ち上がり時間Tupを取得する。
【0039】
立ち下がり検出部21cは、例えば比較器であり、第2増幅器20が出力する計測信号の信号値と第2閾値とを比較し、計測信号の値が第2閾値を超えた時刻に立ち下がり信号を出力する。すなわち、立ち下がり検出部21cは、負理論により計測信号が第2閾値に達すると、立ち下がり信号を出力する。例えば、立ち下がり検出部21bは、第1閾値に達した後に計測信号の値が低下して第2閾値に達すると立ち下がり信号を出力する。すなわち、立ち上がり信号が出力される時間は、レーザ光L1の発光時刻から計測信号が第1閾値に達した後に第2閾値に達する時間に対応する。
【0040】
第2TDC21dは、例えば時間デジタル変換器(TDC:Time to Digital Converter)であり、レーザ光L1が出射されてから立ち下がり検出部21cが立ち下がり信号を出力するまでの立ち下がり時間Tdnを計測する。すなわち、第2TDC21dは、レーザ光の反射光を信号化した計測信号が第2閾値に達する立ち下がり時間Tdnを取得する。
【0041】
なお、計測信号をネガティブ反転して閾値処理をしてもよい。この場合、立ち上がり検出部21aは、第2増幅器20が出力する計測信号の信号値と第1閾値とを比較し、時系列に変化する計測信号の値が時間経過と共に低下し、第1閾値を超えた際に立ち上がり信号を出力する。立ち下がり検出部21bは、第2増幅器20が出力する計測信号の信号値と第2閾値とを比較し、時系列に変化する計測信号の値が時間経過と共に増加し、第1閾値に達した後に第2閾値を超えた際に立ち下がり信号を出力する。
【0042】
距離計測部22は、例えば例えば加算器、減算器、乗算器、及び除算器を含んで構成され、時間取得部22で取得された立ち上がり時間Tup(
図6)及び、及び立ち下がり時間(
図6)に基づき、対象物までの距離を計測する。すなわち、この距離計測処理部22aは、立ち上がり時間Tup(
図6)に第1重み係数W1で重み付けした第1時間、及び立ち下がり時間(
図6)に第2重み係数W2で重み付けした第2時間に基づくタイミングと、レーザ光の照射タイミングとの時間差に基づいて、対象物までの距離を計測する。例えば、距離計測処理部22aは、立ち上がり時間Tup(
図6)に第1重み係数W1で重み付けした第1時間、及び立ち下がり時間Tdn(
図6)に第2重み係数W2で重み付けした第2時間に基づき、計測信号のピークタイミングTL2に対応するタイミングTL3を取得する。すなわち、タイミングTL3=第1重み係数W1×立ち上がり時間Tup+第2重み係数W2×立ち下がり時間Tdnで示すことができる。本実施形態に係る第1閾値Th1(
図6)は第2閾値Th2(
図6)と等しいため、第2重み係数W2=(1-第1重み係数W1)の関係がある。
【0043】
このように、距離計測処理部22aは、計測距離=光速×(タイミングTL3-光検出器17がレーザ光L1を検出したタイミングTL1)/2なる式に基づき、対象物までの距離を計測する。このように、計測距離は(1)式として示すことができる。
[数式1]
計測距離=光速×((W1×Tup+(1-W1)×Tdn)-TL1)/2 (1)式
【0044】
時間取得部21、及び距離計測部22のそれぞれは、ハードウェアで構成される。例えば、時間取得部21、及び距離計測部22のそれぞれは、回路で構成される。なお、上述のように、本実施形態に係る第2しきい値Th2は、重み係数の計算を簡略化するために、第1しきい値Th1と同じ値にするが、これに限定されない。
【0045】
図7は、センサ18(
図1)の計測信号がパイルアップ(Pile UP)した状態を模式的に示す図である。横軸はレーザ光L1の発光時刻からの経過時間を示し、縦軸は計測信号の信号値を示す。ここでは、計測信号のピーク値が異なる2種類の信号を図示している。本実施形態に係るセンサ18(
図1)は、SPADセルにより構成されており、単位時間あたりの受光光子数とSPADセルの出力値の関係は、単位時間あたりの受光光子数が少ないときは線形特性を有する。一方で、単位時間あたりの受光光子数が大きくなると、SPADセルの出力値が飽和し、単位時間あたりの受光光子数とSPADセルの出力値の関係は、非線形特性を有する。このため、
図7に示すように、計測信号のピークがなだらかになる場合があり、パイルアップと呼ばれる。
【0046】
図8乃至
図11は、パイルアップした場合のタイミングTL3のシミュレーション例を説明する図である。以下では、パイルアップした場合にも、立ち上がり時間Tupに第1重み係数W1で重み付けした第1時間、及び立ち下がり時間Tdnに第2重み係数W2で重み付けした第2時間に基づく、タイミングTL3がピークタイミングTL2(
図6)とほぼ同等の値を示すことを説明する。
【0047】
図8は、光源11の出射時点とセンサ18の電気信号化の時間関係を説明する図である。横軸は時間を示す。P10は、光源11が照射するレーザパルス光の照射時間の一例を示し、T=0が照射開始時間、10nsがパルス幅を示している。P12は、P10が10メートル先の対象物10から反射されて戻ってくる時間範囲を示している。すなわち、光の往復速度は6.7ns/mなので、計測対象物10までの距離が10mの場合、67nsとなる。このため、対象物10が10メートル先に有る場合、屋外などの測定環境においてT=67からT=77nsの時間範囲に受光される光子はレーザパルス光の反射光と環境光であり、それ以外の時間に受光される光子は環境光である。
【0048】
図9は、SPADセルの1フォトン検出時の出力波形例を示す図である。出力波形I(t)とすると、近似的に(2)式で示される。ここで、SPADセルの出力時定数を10nsとしている。I0は、t=0での出力信号値である。
[数式2]
I(t)∝exp(-t/10ns), or
I(t)=I0×exp(-t/10ns)
(2)式
【0049】
図10は、パイルアップを考慮しない場合のSPADセルの計測信号値のシミュレーション例を示す図である。縦軸は計測信号値を示し、横軸は時間tを示している。ここで、SPADセルのPDE(検出フォトン数/入力フォトン数)を10パーセント、1画素あたりのSPADセル数を10とし、(2)式で示した出力波形I(t)を用いる。この条件では、パイルアップ前励起フォトン数として、例えば10フォトン入力時には、平均で1フォトン検出できる。また、10000フォトン入力時には、パイルアップ前励起フォトン数として、平均で1000個(=10000×10%)検出できる。
図10では、単位時間あたりのフォトン数、すなわち、フォトン/入力時間を、10.0、14.4、20.7、29.8,42.8,61.6,88.6,127.4,183.3,263.7,379.3,545.6,784.8,1128.8,1623.8,2335.7,3359.8,4832.9,6951.9,10000.0としてシュミレーションしている。また、環境光を0とし、第2増幅器20(
図1)の出力帯域を100MHZとしている。
【0050】
このシミュレーションでは、第1閾値Th1=第2閾値Th2=0.2とした場合における、立ち上がり時間Tupと、立ち下がり時間Tdnを求め、パイルアップ前励起フォトン数に対し測距結果が変わらない重み係数W1を求める。すなわち、タイミングTL3と
図10で示す計測信号のピークタイミングTL2とが最も一致する重み係数W1を求める。より詳細には、TL3=(W1×Tup+(1-W1)×Tdn)が
図10で示す計測信号のピークタイミングTL2と最も一致する重み係数W1を求める。このような、演算により、本パラメータ例では、第1重み係数W1=0.71が演算される。
【0051】
図11は、第1重み係数W1=0.71により演算されたタイミングTL3と、立ち上がり時間Tup及び立ち下がり時間Tdnとの関係を示す図である。ここで、縦軸は時間を示し、横軸はパイルアップ前励起フォトン数を示す。また、第1ライン130aが立ち上がり時間Tupを示し、第2ライン130bが立ち下がり時間を示し、第3ライン130cがタイミングTL3を示している。
図12に示すように、パイルアップ前励起フォトン数により、立ち上がり時間Tup及び立ち下がり時間Tdnが変動する。一方で、パイルアップ前励起フォトン数が変更されても、重み係数W1=0.71により演算されたタイミングTL3は、ほぼ一定値、すなわち8.9nsを示す。
【0052】
これらから分かるように、一つの重み係数W1=0.71により、パイルアップ前励起フォトン数が変更されても、
図12で示す計測信号のピークタイミングTL2とほぼ同一のタイミングTL3を演算可能である。このように、パイルアップ前励起フォトン数が変更されても、SPADセルの入出力特性の線形性が維持される範囲に第1閾値Th及び第2閾値Th2を設定することにより、パイルアップした場合にも、
図12で示す計測信号のピークタイミングTL2とほぼ同一のタイミングTL3を演算可能となる。また、同様の演算により、異なる特性のセンサ18に対しても、予め重み係数W1を演算可能である。さらにまた、本実施形態に係るセンサ18は、シリコン光電子増倍管で構成したが、これに限定されず、他の種類の撮像素子に対しても第1重み係数W1の演算は可能である。
【0053】
図12及び
図13に基づき、第2増幅器20により生じる波形歪みの低減効果について説明する。
図12は、第2増幅器20の入出力特性示す図である。縦軸は出力信号値を示し、横軸は入力信号値を示す。入出力特性140aは、入出力特性が線形であり、理想的な入出力特性を示している。入出力特性140bは、入出力特性が非線形であり、歪みのある場合の入出力特性を示している。
【0054】
図13は、理想的な入出力特性に基づく信号値と、歪みのある場合の入出力特性に基づく信号値とを示す図である。縦軸は信号値を示し、横軸は時間を示している。信号値150aは、理想的な入出力特性を有する第2増幅器20を用いた場合のサ信号値であり、信号値150bは、歪みのある入出力特性を有する第2増幅器20を用いた場合の信号値である。第1重み係数W1=0.5とする信号値150a、150bは、センサ18(
図1)のパイルアップが生じない範囲でのデータである。
【0055】
信号値150aによる測定距離は、(0.5*T1+0.5*T4)/6.7であり、信号値150bによる測定距離は、(0.5*T2+0.5*T3)/6.7である。前提により、T2-T1=T4-T3なので、信号値150aによる測定距離は、信号値150bによる測定距離と等しくなる。これから分かるように、(1)式で示す本実施形態に係る演算方式を用いると、歪みのある入出力特性を有する第2増幅器20を用いた場合にも測定精度の低下を抑制できる。また、上述のようにセンサ18(
図1)の入出力特性の線形性が維持される範囲に閾値を設定することにより、飽和やパイルアップした場合にも、歪みのある入出力特性を有する第2増幅器20を用いた場合にも測定精度の低下を抑制可能となる。
【0056】
なお、本実施形態では、第2増幅器20により計測信号に変換しているが、これに限定されず、第2増幅器20及びAD変換器などにより計測信号に変換してもよい。この場合、AD変換器が歪みのある入出力特性を有していても、測定精度の低下を抑制可能となる。
【0057】
図14は、比較例として、CFDの測定方法を示す図である。
図14に示すように、CFD(Constant Fraction Discriminator)では、計測信号70a,72aを、減数した減衰信号70b,72bを取得する。また、CFDでは、計測信号70a,72aを、反転し且つ遅延させて信号70c,72cを取得する。そして、CFDでは、減衰信号70b,72bに反転し且つ遅延させて信号70c,72cを加算した信号70d,72dを得る。CFDでは、信号70d,72dのゼロクロス点を距離測定の基準時間として使用する。
図14に示すように、飽和やパイルアップが生じていない場合には、計測信号70a,72aの波高値の影響を抑制できる。ところが、CFDでは、計測信号70a,72aでは、飽和やパイルアップが生じると、ゼロクロス点がずれてしまい、距離測定の精度が低下してしまう。これに対して、本実施形態によれば、計測信号が第1閾値に達する立ち上がり時間Tupと、第1閾値に達した後に計測信号が低下して第2閾値に達する立ち下がり時間Tdnと、に基づき、距離測定の基準時間を取得するので、計測信号70a,72aに飽和やパイルアップが生じても、測定精度に与える影響を抑制できる。
【0058】
以上のように本実施形態によれば、計測信号が第1閾値に達する立ち上がり時間Tupと、第1閾値に達した後に計測信号が低下して第2閾値に達する立ち下がり時間Tdnと、に基づき、対象物までの距離を計測する。これにより、第1閾値以上の値を有する計測信号の距離測定への影響を低減でき、計測信号がパイルアップ、飽和などする場合でも対象物までの距離を精度よく、かつ安定的に計測できる。
【0059】
(第2実施形態)
第2の実施形態は、計測信号の強度値、及び環境光の強度値の内の少なくともいずれかを参照して重み係数を取得することにより、計測距離をより高精度に取得する。以下では、第1実施形態と異なる点について説明する。
【0060】
図15は、第2実施形態に係る距離計測部22の詳細な構成例を示すブロック図である。
図15に示すように、距離計測部22は、信号光強度検出部22bと、環境光強度検出部22cと、重み係数取得部22dとを有している。信号光強度検出部22b、環境光強度検出部22c、重み係数取得部22dのそれぞれは、ハードウェアで構成される。例えば、信号光強度検出部22b、環境光強度検出部22c、重み係数取得部22dのそれぞれは、回路で構成される。なお、
図15に記載のブロック図は、信号例であり、順序、配線はこれに限定されない。
【0061】
信号光強度検出部22bは、光源11(
図1)がレーザ光L1(n)を照射し、次のレーザ光L1(n+1)を照射するまでの時間Tでの計測信号の第1代表値として、例えば最大値を取得する。信号光強度検出部22bは、フィルタリング処理によりノイズを低減した後に信号値の最大値を取得してもよい。
【0062】
環境光強度検出部22cは、環境光の強度を検出する。より具体的には、光源11(
図1)がレーザ光の照射を停止している期間における時間Tでの計測信号の第2代表値として、例えば平均値を取得する。環境光強度検出部22cは、フィルタリング処理によりノイズを低減した後に代表値を取得してもよい。また、第2代表値は、時間Tでの計測信号の最大値、中間値などでもよい。
【0063】
重み係数取得部22dは、信号光強度検出部22bが検出した第1代表値、及び環境光強度検出部22cが検出した第2代表値のうちの少なくとも一方に基づき、重み係数W1及びW2を所得する。上述のように本実施形態に係る第2重み係数W2はW2=(1-W1)の関係がある。これにより、距離計測処理部22aは、上述の(1)式に重み係数取得部22dが取得した第1重み係数W1を代入して、計測対象物10までの距離を計測する。このように、距離計測処理部22aは、計測信号の信号強度、及び環境光強度の少なくとも一方に応じて第1重み係数W1を変更する。
【0064】
図16乃至
図20に基づき、重み係数取得部22dに関してより詳細に説明する。
図16は、
図10で示した単位時間あたりのフォトン数を変更してえられた計測信号値の最大値を示す図である。縦軸は計測信号値の最大値を示し、横軸は単位時間あたりのフォトン数、すなわち、フォトン/入力時間示す。
図16に示すように、計測信号値の最大値は単位時間あたりのフォトン数と対応している。また、最大値は、単位時間あたりのフォトン数が増加するに従い単調増加し、フォトン数が増加するに従い増加率が減少する傾向がある。
【0065】
図17は、
図15で示した最大値に対応する計測信号値毎に、第1重み係数W1を求めた図である。縦軸は、第1重み係数W1を示し、横軸は、
図15で示した計測信号値の最大値を示している。
ここでの第1重み係数W1は、
図10で示した単位時間あたりのフォトン数毎の計測信号に基づき、演算した値である。すなわち、第1閾値Th1=第2閾値Th2=0.2とした場合における、立ち上がり時間Tupと、立ち下がり時間Tdnを計測信号毎に求め、タイミングTL3と
図12で示す計測信号のピークタイミングTL2とが最も一致する重み係数W1を求めたものである。上述したように、計測信号値の最大値は単位時間あたりのフォトン数と対応しているので、計測信号値の最大値毎に、タイミングTL3と計測信号のピークタイミングTL2とが最も一致する重み係数W1を得ることができる。
【0066】
重み係数取得部22dは、例えば
図17に示す最大値と第1重み係数W1との関係をルックアップテーブルとして記憶している。これにより、重み係数取得部22dは、信号光強度検出部22bが検出した第1代表値、すなわち最大値を引き数として第1重み係数W1を取得する。このように、重み係数取得部22dは、信号光強度検出部22bが検出した第1代表値、すなわち最大値に基づき、第1重み係数W1を取得することにより、より高精度に演算された第1重み係数W1を得ることができる。これにより、距離計測処理部22aは、上述の(1)式に重み係数取得部22dが取得した第1重み係数W1を代入して、計測対象物10までの距離をより高精度に計測可能となる。
【0067】
図18は、計測信号の最大値に対応する第1重み係数W1を環境光の強度値を変更して求めた図である。縦軸は、第1重み係数W1を示し、横軸は、計測信号値の最大値を示している。環境光は定常的にセンサ18(
図1)に入射してくるフォトンであるので、DC(直流)的に電気信号を励起している。すなわち、環境光が増加するに従い、平均的にはSPAD数を減らした場合と同等の効果を生じる。このため、
図18では、環境光の強度を、SPAD数を減らした割合として示している。例えば、10%であれば、SPAD数を10%減らした場合に相当し、20%であれば、SPAD数を20%減らした場合に相当し、30%であれば、SPAD数を30%減らした場合に相当する。すなわち、
図18で示す環境光の強度値毎の第1重み係数W1の値は、
図17と同等の演算をSPADセルの数を変更して行ったものである。
【0068】
重み係数取得部22dは、例えば
図18に示す最大値及び環境光の強度値と、第1重み係数W1との関係をルックアップテーブルとして記憶している。これにより、重み係数取得部22dは、信号光強度検出部22bが検出した第1代表値、すなわち最大値と、環境光強度検出部22cが検出した第2代表値、すなわち環境光による計測信号の平均値とを引き数として第1重み係数W1を取得する。
【0069】
図18は、計測信号の最大値に対応する第1重み係数W1を環境光の強度値を変更して求めた図である。環境光による信号強度は、計測信号値のDC成分として考えることが可能である。
【0070】
図19は、計測信号の補正最大値に対応する第1重み係数W1を環境光の強度値を変更して求めた図である。縦軸は、第1重み係数W1を示し、横軸は、計測信号値の補正最大値を示している。ここで、補正最大値CMaは(3)式で示される。
[数式3]
CMa=Ma×(1+ES) (3)式
ここで、最大値Maは、信号光強度検出部22bが検出した第1代表値であり、環境光の強度値ESは、環境光強度検出部23bが検出した第2代表値である。
【0071】
近似線200aは、補正最大値CMaに対する第1重み係数W1の近似線を示している。
重み係数取得部22dは、補正最大値CMaに対する第1重み係数W1の近似線200aをルックアップテーブルとして記憶している。或いは、重み係数取得部22dは、補正最大値CMaに対する第1重み係数W1の近似線200aを線形式として記憶している。線形式は一般的な一次回帰式であるので記載を省略する。
【0072】
このように、近似線200aをルックアップテーブルとして記憶するので、環境光の強度値ごとにルックアップテーブルを記憶する場合よりもメモリ量を低減できる。また、近似線200aを線形式として記憶する場合には、ルックアップテーブルを記憶する場合よりも更にメモリ量を低減可能となる。
【0073】
このように、重み係数取得部22dは、信号光強度検出部22bが検出した第1代表値である最大値Maに、環境光強度検出部22cが検出した第2代表値である環境光の強度値ESに1を加算して乗算し、補正最大値CMaを取得する。そして、重み係数取得部22dは、補正最大値CMaに対応する第1重み係数W1を取得する。なお、補正最大値CMaが小さいときは精度が出ないが、その場合、計測対象物10との距離が遠いことが考えられ、そこまで精度は必要ないと考えられている。距離計測処理部22aは、計測信号の信号強度、及び環境光強度に応じて第1重み係数W1を変更する。これにより、計測対象物10までの計測距離をより高精度に取得できる。
以上のように本実施形態によれば、立ち上がり時間Tupと、立ち下がり時間Tdnと、を加算するために用いる第1重み係数W1を計測信号の強度値、及び環境光の強度値の内の少なくともいずれかを参照して取得することした。これにより、計測信号の強度値、及び環境光の強度値によりセンサ18の入出力特性が変わる場合にも、入出力特性に対応した第1重み係数W1の取得が可能となり、計測信号の強度値、及び環境光の強度値が変化する場合にも、対象物までの距離を精度よく、かつ安定的に計測できる。
【0074】
(第3実施形態)
第3の実施形態は、計測信号のパルス幅に応じて第1重み係数を変更することにより、計測距離をより高精度に取得する。以下では、第2実施形態と異なる点について説明する。
【0075】
図20は、第3実施形態に係る距離計測部22の詳細な構成例を示すブロック図である。
図20に示すように、距離計測部22は、パルス幅取得部23eを更に有している。パルス幅取得部23eは、回路で構成される。なお、
図20に記載のブロック図は、信号例であり、順序、配線はこれに限定されない。
【0076】
パルス幅取得部23eは、立ち上がり検出部22aが検出した立ち上がり時間Tupと、立ち下がり検出部22bが検出した立ち下がり時間Tdnと、に基づきパルス幅を取得する。例えば、パルス幅取得部23eは、立ち下がり時間Tdnと立ち上がり時間Tupとの差分をパルス幅として取得する。なお、本実施形態に係る立ち下がり検出部22bは、光源11(
図1)の照射間隔Tを超えても立ち下がり時間Tdnを検出できない場合に、検出エラーを示す情報を含むエラー信号を出力するように構成されている。
【0077】
図21は、計測信号の特性をパルス幅に応じて説明する概念図である。縦軸は、計測信号値であり、横軸は時間である。
図21に示すように、A、B,C,Dの順にパルス幅が大きくなっている。
【0078】
Aは、単位時間あたりのフォトン数が最も少ない場合であり、Bは、単位時間あたりのフォトン数がAよりも強く、パイルアップする程度であり、Cは、単位時間あたりのフォトン数がBよりも強く、立ち下がりの時定数がBから変化する程度であり、Dは、単位時間あたりのフォトン数がCよりも強く、立ち下がり検出部22bが立ち下がり時間Tdnを検出できない程度である。このように、パルス幅に応じて計測信号の特性が変化する。
【0079】
このため、距離計測処理部22aは、パルス幅取得部23eが取得したパルス幅に基づき、第1重み係数W1の取得方法を変更する。より具体的には、距離計測処理部22aは、Aに対応する場合には、時分割処理部21が出力する計測信号を数フレーム分積算し、積算信号のピーク値に基づき、計測対象物10までの距離を計測する。距離計測処理部22aは、Bに対応する場合には、上述したように(1)式に基づき、計測対象物10までの距離を計測する。
【0080】
図22は、C及びDに対応する場合の演算式に用いる関数の特性を説明する図である。縦軸は関数の値を示し、横軸はパルス幅Pを示している。ここで、P=Tup-Tdnであり、P1、P2は、フィッティングパラメータとしての定数である。
図22に示すように関数f1(p)は、パルス幅P1までは0であり、パルス幅P1を超えるとf1(p)=k×(P-P1)の線形式に従い線形増加し、パルス幅Pdに達すると定数CONST1となる関数である。
【0081】
関数f2(p)は、f2(p)=k/(P+P2)の式に従い単調増加し、パルス幅Pdに達すると定数CONST2となる関数である。
【0082】
距離計測処理部22aは、パルス幅PcからPdの範囲である状態Cの場合に、例えば(4)式に従い、計測距離を所得する。
[数式4]
計測距離=光速×(Tup+f1(P))
=光速×(1-k)×Tup+k×Tdn-k×P1)
=光速×(W1×Tup+(1-W1)×Tdn-k×P1) (4)式
ここで、(1-k)をW1としている。これから分かるように、(4)式は、オフセット成分であるk×P1を除き、(1)式と同等の式となる。
【0083】
また、パルス幅PがPd以上であるDの状態では、距離計測処理部22aは、例えば(5)式に従い、計測距離を取得する。
[数式5]
計測距離=光速×(Tup+CONST1) (5)式
【0084】
距離計測処理部22aは、パルス幅PcからPdの範囲である状態Cの場合に、例えば(6)式に従い、計測距離を所得する。状態Cの場合、f2(P)は、状態Cの場合に単調増加するので、パルス幅Pが大きくなるにしたがい立ち上がり時間Tdnの重みが立ち下がり時間Tdnよりもより大きくなる。
[数式6]
計測距離=光速×(f2(P)×Tup+(1-f2(P))×Tdn (6)式
また、パルス幅PがPd以上であるDの状態では、PをCONST2として扱う。
【0085】
このように、パルス幅Pがパルス幅PcからPdの範囲である状態Cの場合、立ち上がり時間Tupが急峻であり、立ち下がり時間Tdnが緩やかである。立ち上がり時間Tupは入力の光量依存性が小さく、立ち下がり時間Tdnは入力の光量依存性が大きい。(4)式又は(6)式に従い計測距離を取得することにより、光量依存性を小さくすることが可能であり、計測誤差も縮小できる。
【0086】
また、パルス幅Pがパルス幅Pd以上の範囲である状態Dの場合、立下り時間Tdnの取得ができない場合がある。しかし、状態Dの場合、本実施形態に係る距離計測処理部22aは、立ち下がり時間Tdnを使わないため、計測距離の測定が可能となる。このように、パルス幅Pを距離計測に導入することにより、より自由度が増し、計測信号のフィツティング精度がより向上する。
【0087】
本実施形態によれば、パルス幅Pが大きくなるにしたがい立ち上がり時間Tdnの重みを立ち下がり時間Tdnよりも大きくする。立ち上がり時間Tdnは、センサ18への入力光量依存性が小さく、下がり時間Tdnは大きいので、入力光量依存性が低減され、計測信号の強度値がより増加する場合にも、対象物までの距離を精度よく、かつ安定的に計測できる。
【0088】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施することが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形例は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0089】
1:距離計測装置、10:計測対象物、22:時間取得部、23a:距離計測部、20:第2増幅器、202:照射光学系、204:受光光学系