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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-07
(45)【発行日】2022-02-03
(54)【発明の名称】高度不飽和脂肪酸含有組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C11B 7/00 20060101AFI20220127BHJP
   C07C 67/48 20060101ALI20220127BHJP
   A23D 9/02 20060101ALN20220127BHJP
【FI】
C11B7/00
C07C67/48
A23D9/02
【請求項の数】 31
(21)【出願番号】P 2018515726
(86)(22)【出願日】2017-05-01
(86)【国際出願番号】 JP2017017107
(87)【国際公開番号】W WO2017191821
(87)【国際公開日】2017-11-09
【審査請求日】2019-10-10
(31)【優先権主張番号】P 2016092284
(32)【優先日】2016-05-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017071002
(32)【優先日】2017-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】301049744
【氏名又は名称】日清ファルマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】原田 昌卓
(72)【発明者】
【氏名】野中 信吾
(72)【発明者】
【氏名】金井 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】池本 裕之
(72)【発明者】
【氏名】竹本 健二
【審査官】井上 恵理
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-091940(JP,A)
【文献】国際公開第2014/054435(WO,A1)
【文献】特許第3001954(JP,B2)
【文献】国際公開第2010/029706(WO,A1)
【文献】百合忠彦 ほか,高純度DHA エステルの工業的製法の確立(硝酸銀法によるDHA エチルエステル及び溶剤等の分離回収の検討),DHA 高度精製抽出技術開発事業研究報告書 平成7-8 年度,(1997),Page.103-111
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C11B 1/00-15/00
C11C 1/00- 5/02
A23L 9/00- 9/20
C07C67/48
C12M 1/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
FSTA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高度不飽和脂肪酸含有組成物の製造方法であって:
銀塩を含む水性溶液を反応槽へ投入して、高度不飽和脂肪酸のアルキルエステルを含有する原料液と接触させること、このとき該反応槽において、該銀塩を含む水性溶液は分散相で存在し、該記高度不飽和脂肪酸のアルキルエステルを含有する原料液は連続相で存在する;及び
該原料液と接触させた該銀塩を含む水性溶液を該反応槽から回収すること、
を含み、
該銀塩を含む水性溶液の該反応槽への投入と、該反応槽からの回収とが並行して行われる、
方法。
【請求項2】
前記銀塩を含む水性溶液の前記反応槽への投入、前記原料液との接触、及び該反応槽からの回収が酸素濃度0.4%未満の条件下で行われる、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記高度不飽和脂肪酸のアルキルエステルを含有する原料液の酸化指標がPOV 10以下、又はAV 0.3以下である、請求項記載の方法。
【請求項4】
前記高度不飽和脂肪酸がエイコサペンタエン酸又はドコサヘキサエン酸を含む、請求項記載の方法。
【請求項5】
前記反応槽から回収した銀塩を含む水性溶液を抽出槽へ投入して、有機溶媒と接触させること;及び
該接触後の該銀塩を含む水性溶液を該抽出槽から回収すること、
をさらに含み、
該銀塩を含む水性溶液の該抽出槽への投入と、該抽出槽からの回収とが並行して行われる、
請求項記載の方法。
【請求項6】
前記抽出槽から回収した銀塩を含む水性溶液を、前記反応槽へ再度投入することをさらに含む、請求項5記載の方法。
【請求項7】
前記銀塩を含む水性溶液の前記抽出槽への投入、前記有機溶媒との接触、及び該抽出槽からの回収が酸素濃度0.4%未満の条件下で行われる、請求項記載の方法。
【請求項8】
前記抽出槽内において、
前記銀塩を含む水性溶液が分散相で存在し、前記有機溶媒が連続相で存在するか、又は
前記銀塩を含む水性溶液が連続相で存在し、前記有機溶媒が分散相で存在する、
請求項記載の方法。
【請求項9】
前記有機溶媒がヘキサン又はシクロヘキサンである、請求項記載の方法。
【請求項10】
高度不飽和脂肪酸含有組成物の製造方法であって:
銀塩を含む水性溶液を、高度不飽和脂肪酸のアルキルエステルを含有する原料液に投入して該原料液中を下降させることで、該原料液と接触させること、このとき、該銀塩を含む水性溶液は分散相であり、該記高度不飽和脂肪酸のアルキルエステルを含有する原料液は連続相である;及び、
該原料液と接触させた後の水性溶液を回収すること、
を含み、
該原料液と接触する該水性溶液の温度が5~30℃であり、
該水性溶液の投入と回収が並行して行われる、
方法。
【請求項11】
前記銀塩を含む水性溶液前記高度不飽和脂肪酸のアルキルエステルを含有する原料液への投入と接触が、第1の反応槽の上部から該水性溶液を投入するとともに、該第1の反応槽の下部から該原料液を投入することによって、該水性溶液と該原料液とを該第1の反応槽内で互いに向流させて接触させることを含み、かつ
前記水性溶液の回収が、該原料液と接触させた後の水性溶液を、該第1の反応槽における該原料の投入口よりも下部から回収することを含む、
請求項10記載の方法。
【請求項12】
前記高度不飽和脂肪酸のアルキルエステルを含有する原料液に投入し、接触させた後で回収された水性溶液を、有機溶媒に投入して該有機溶媒中を下降させることで、該有機溶媒と接触させること、及び、
該水性溶液と接触させた後の有機溶媒を回収すること
をさらに含み、
該有機溶媒と接触する該水性溶液の温度が30~80℃であり、
該水性溶液の投入と該有機溶媒の回収が並行して行われる、
請求項10又は11記載の方法。
【請求項13】
前記有機溶媒と接触させた後の水性溶液を回収することをさらに含む、請求項12記載の方法。
【請求項14】
前記高度不飽和脂肪酸のアルキルエステルを含有する原料液に投入される銀塩を含む水性溶液が、前記有機溶媒と接触させた後に回収された水性溶液を含有する、請求項12記載の方法。
【請求項15】
前記第1の反応槽から回収した水性溶液を、第2の反応槽の上部から投入するとともに、該第2の反応槽の下部から有機溶媒を投入することによって、該水性溶液と該有機溶媒とを該第2の反応槽内で互いに向流させて接触させることを含み、かつ
水性溶液と接触させた後の有機溶媒を、該第2の反応槽における該水性溶液の投入口よりも上部から回収することを含む、
請求項11記載の方法。
【請求項16】
前記第1の反応槽から回収した後で前記有機溶媒と接触させた後の水性溶液を、前記第2の反応槽における該有機溶媒の投入口よりも下部から回収することをさらに含む、請求項15記載の方法。
【請求項17】
前記第1の反応槽に投入される水性溶液が、前記第2の反応槽から回収された水性溶液を含有する、請求項16記載の方法。
【請求項18】
前記第1の反応槽が密閉系である、請求項11記載の方法。
【請求項19】
前記第2の反応槽が密閉系である、請求項15記載の方法。
【請求項20】
前記有機溶媒が連続相であり、該有機溶媒と接触させる水性溶液が分散相である、請求項12記載の方法。
【請求項21】
前記分散相が、液滴又は霧状である、請求項10又は20記載の方法。
【請求項22】
前記高度不飽和脂肪酸がエイコサペンタエン酸又はドコサヘキサエン酸を含む、請求項10記載の方法。
【請求項23】
前記高度不飽和脂肪酸のアルキルエステルを含有する原料液に投入される銀塩を含む水性溶液における該銀塩の濃度が30質量%以上である、請求項10記載の方法。
【請求項24】
前記有機溶媒がヘキサン及びシクロヘキサンから選択される1種以上である、請求項12記載の方法。
【請求項25】
高度不飽和脂肪酸含有組成物の製造用の装置であって、
第1の反応槽を備え、
該第1の反応槽は、高度不飽和脂肪酸のアルキルエステルを含有する原料液を該反応槽に投入するための原料液投入口と、銀塩を含む水性溶液を該反応槽に投入するための水性溶液投入口と、該原料液と接触させた後の水性溶液を回収するための水性溶液回収口と、該水性溶液と接触させた後の原料液を回収するための原料液回収口とを備え、
該原料液投入口は、該第1の反応槽の下部であって、かつ該水性溶液回収口よりも上部に配置されており、
該水性溶液投入口は、該第1の反応槽の上部であって、かつ該原料液投入口よりも上部であるが該原料液回収口よりも下部に配置されており、
該第1の反応槽が、該水性溶液投入口から投入する水性溶液を分散相にするための液分配器を備え、
該水性溶液投入口から投入された該銀塩を含む水性溶液は分散相であり、該第1の反応槽内を下方に向けて流れる一方、該原料投入口から投入された該原料液は連続相であり、該第1の反応槽内を上方に向けて流れ、それによって該水性溶液と該原料液が該反応槽内で互いに向流して接触し、かつ接触後の該水性溶液が該水性溶液回収口から該反応槽外へと回収される、
装置。
【請求項26】
第2の反応槽をさらに備え、
該第2の反応槽は、有機溶媒を該反応槽に投入するための有機溶媒投入口と、前記第1の反応槽の水性溶液回収口から回収された水性溶液を該第2の反応槽に投入するための水性溶液投入口と、該有機溶媒と接触した後の水性溶液を回収するための水性溶液回収口と、該水性溶液と接触させた後の有機溶媒を回収するための有機溶媒回収口とを備え、
該有機溶媒投入口は、該第2の反応槽の下部であって、かつ該水性溶液回収口よりも上部に配置されており、
該水性溶液投入口は、該第2の反応槽の上部であって、かつ該有機溶媒投入口よりも上部であるが該有機溶媒回収口よりも下部に配置されており、
該水性溶液投入口から投入された該水性溶液は該第2の反応槽内を下方に向けて流れる一方、該有機溶媒投入口から投入された該有機溶媒は該第2の反応槽内を上方に向けて流れ、それによって該水性溶液と該有機溶媒が該第2の反応槽内で互いに向流して接触し、かつ接触後の該水性溶液が該水性溶液回収口から該第2の反応槽外へと回収される、
請求項25記載の装置。
【請求項27】
前記第2の反応槽から回収された水性溶液が、前記第1の反応槽の水性溶液投入口から前記第1の反応槽に投入される、請求項26記載の装置。
【請求項28】
前記第1又は第2の反応槽が、該反応槽内での水性溶液の温度を調節するための温度調節器を備える、請求項25又は26記載の装置。
【請求項29】
前記第2の反応槽が、前記水性溶液投入口から投入する水性溶液を分散相にするための液分配器を備える、請求項26記載の装置。
【請求項30】
請求項25記載の装置を用いて行われる、請求項10又は11記載の方法。
【請求項31】
請求項26記載の装置を用いて行われる、請求項12又は15記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高度不飽和脂肪酸含有組成物の製造方法、及び当該製造方法に用いる銀塩溶液の劣化の抑制に関する。
【背景技術】
【0002】
エイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)、ドコサペンタエン酸(DPA)などの高度不飽和脂肪酸(polyunsaturated fatty acid、PUFA)は、近年その薬理効果が明らかとなり、医薬品や健康食品の原料として利用されている。PUFAを化学合成によって得ることは容易ではないことから、現状では、工業利用されるPUFAのほとんどは、PUFAを豊富に含む海洋生物由来原料、例えば魚油などから抽出又は精製することによって製造されている。しかしながら、生物由来原料は、炭素数、二重結合の数や位置、さらには立体異性体の構成比などが異なる多種の脂肪酸の混合物であるため、PUFAの含有量は必ずしも高くない。そのため従来、生物由来原料から目的とするPUFAを選択的に精製することが求められていた。
【0003】
特許文献1~7には、PUFAを含む原料と銀塩を含む水溶液とを接触させてPUFAと銀との錯体を生成させ、水相に溶出させた後、該水相から有機溶媒を用いてPUFAを抽出する方法が記載されている。特許文献1~7記載の方法では、多量の銀塩水溶液にPUFAを含む原料を投入し、好適にはこれを撹拌することで、該水溶液とPUFAを含む原料との接触を増やし、PUFAと銀との錯体の生成を促進させる。しかしながら、上記従来の方法は、大量のPUFAを得るためには大規模設備を必要とすること、またPUFAの抽出の都度、原料と接触させた銀塩水溶液のバッチを回収しなければならないことから、工業的に効率がよいものではない。また上記従来の方法では、銀塩水溶液と酸素との接触機会が多いため、銀塩水溶液の劣化が進みやすい。さらに、原料中に含まれる過酸化物もまた、銀塩水溶液の劣化の原因となる(特許文献7)。劣化した銀塩水溶液は、回収後、銀に再生し、さらに銀塩に再加工することで再使用することができる。しかし、銀の再生費用、及び銀塩への加工費用は高額であるため、多量の銀塩水溶液の使用とその劣化はPUFAの製造コストを増加させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第3001954号公報
【文献】特許第2786748号公報
【文献】特許第2935555号公報
【文献】特許第2895258号公報
【文献】特開2015-091940号公報
【文献】国際公開公報第2014/054435号
【文献】国際公開公報第2016/194360号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、より効率よく低コストにPUFAを製造することができ、かつPUFA製造に用いる銀塩溶液の劣化を抑えることができる方法を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、銀塩を含む水性溶液を用いたPUFAの製造において、該銀塩溶液の反応槽への投入と、原料油脂と接触した該銀塩溶液の反応槽からの回収とを並行して行うことによって、PUFAと銀との錯体の生成及び該錯体を含む水相の回収を連続的に実施する方法を見出した。
【0007】
また本発明者らは、銀塩を含む水性溶液を用いたPUFAの精製において、該銀塩を含む水性溶液をPUFAを含む原料の上方から投入して、該原料中を下行させながら該原料と接触させた後、該水性溶液を回収することによって、PUFAと銀塩との錯体の生成及び該錯体を含む水相の回収を連続的に行うことができることを見出した。
【0008】
さらに本発明者らは、当該方法によれば、PUFAの製造過程における銀塩を含む水性溶液の劣化を抑制することができることを見出した。さらに本発明者らは、当該方法によれば、銀塩を含む水性溶液の使用量を削減することができることも見出した。
【0009】
したがって、本発明は、高度不飽和脂肪酸含有組成物の製造方法であって:
銀塩を含む水性溶液を反応槽へ投入して、高度不飽和脂肪酸のアルキルエステルを含有する原料液と接触させること;及び
該原料液と接触させた該銀塩を含む水性溶液を該反応槽から回収すること、
を含み、
該銀塩を含む水性溶液の該反応槽への投入と、該反応槽からの回収とが並行して行われる、
方法を提供する。
【0010】
さらに本発明は、高度不飽和脂肪酸含有組成物の製造方法であって:
銀塩を含む水性溶液を、高度不飽和脂肪酸のアルキルエステルを含有する原料液に投入して該原料液中を下降させることで、該原料液と接触させること、及び、
該原料液と接触させた後の水性溶液を回収すること、
を含み、
該原料液と接触する該水性溶液の温度が5~30℃であり、
該水性溶液の投入と回収が並行して行われる、
方法を提供する。
【0011】
さらに本発明は、高度不飽和脂肪酸含有組成物の製造用の装置であって、
第1の反応槽を備え、
該第1の反応槽は、高度不飽和脂肪酸のアルキルエステルを含有する原料液を該反応槽に投入するための原料液投入口と、銀塩を含む水性溶液を該反応槽に投入するための水性溶液投入口と、該原料液と接触させた後の水性溶液を回収するための水性溶液回収口と、
該水性溶液と接触させた後の原料液を回収するための原料液回収口とを備え、
該原料液投入口は、該第1の反応槽の下部であって、かつ該水性溶液回収口よりも上部に配置されており、
該水性溶液投入口は、該第1の反応槽の上部であって、かつ該原料液投入口よりも上部であるが該原料液回収口よりも下部に配置されており、
該水性溶液投入口から投入された該銀塩を含む水性溶液は該第1の反応槽内を下方に向けて流れる一方、該原料投入口から投入された該原料液は該第1の反応槽内を上方に向けて流れ、それによって該水性溶液と該原料液が該反応槽内で互いに向流して接触し、かつ接触後の該水性溶液が該水性溶液回収口から該反応槽外へと回収される、
装置を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】A:並行流式によるPUFA含有組成物の製造用装置の例の模式図。B:分配槽(1)から回収した原料液を反応槽に戻す経路を有する装置の部分模式図。
図2】銀塩溶液を分散相とする向流式によるPUFA含有組成物の製造用装置の例の模式図。
図3】銀塩溶液を連続相とする向流式によるPUFA含有組成物の製造用装置の例の模式図。
図4】向流式によるPUFA含有組成物の製造用の装置の一実施形態。
図5】銀塩溶液繰り返し使用に伴う高度不飽和脂肪酸含有組成物の脂肪酸組成の変化。A:EPA-E及びDHA-Eの面百値(%)、B:AA-E/EPA-E面百比及びETA-E/EPA-E面百比、横軸:繰り返し回数。
図6】銀塩水溶液繰り返し使用に伴う高度不飽和脂肪酸含有組成物の脂肪酸組成の変化。A:EPA-E及びDHA-Eの面百値(%)、B:AA-E/EPA-E面百比及びETA-E/EPA-E面百比、横軸:繰り返し回数。
図7】銀塩溶液の繰り返し使用による遊離脂肪酸含有量の経時的変化。
【発明の詳細な説明】
【0013】
本発明の例示的実施形態を以下に開示する。
〔1〕高度不飽和脂肪酸含有組成物の製造方法であって:
銀塩を含む水性溶液を反応槽へ投入して、高度不飽和脂肪酸のアルキルエステルを含有する原料液と接触させること;及び
該原料液と接触させた該銀塩を含む水性溶液を該反応槽から回収すること、
を含み、
該銀塩を含む水性溶液の該反応槽への投入と、該反応槽からの回収とが並行して行われる、
方法。
〔2〕前記銀塩を含む水性溶液の前記反応槽への投入、前記原料液との接触、及び該反応槽からの回収が低酸素条件下で行われる、〔1〕記載の方法。
〔3〕前記高度不飽和脂肪酸のアルキルエステルを含有する原料液の酸化指標がPOV 10以下、又はAV 0.3以下である、〔1〕又は〔2〕記載の方法。
〔4〕前記高度不飽和脂肪酸がエイコサペンタエン酸又はドコサヘキサエン酸を含む、〔1〕~〔3〕のいずれか1項記載の方法。
〔5〕前記反応槽内において、
前記銀塩を含む水性溶液が分散相で存在し、前記高度不飽和脂肪酸のアルキルエステルを含有する原料が連続相で存在するか、又は
前記銀塩を含む水性溶液が連続相で存在し、前記高度不飽和脂肪酸のアルキルエステルを含有する原料が分散相で存在する、
〔1〕~〔4〕のいずれか1項記載の方法。
〔6〕前記反応槽から回収した銀塩を含む水性溶液を抽出槽へ投入して、有機溶媒と接触させること;及び
該接触後の該銀塩を含む水性溶液を該抽出槽から回収すること、
をさらに含み、
該銀塩を含む水性溶液の該抽出槽への投入と、該抽出槽からの回収とが並行して行われる、
〔1〕~〔5〕のいずれか1項記載の方法。
〔7〕前記抽出槽から回収した銀塩を含む水性溶液を、前記反応槽へ再度投入することをさらに含む、〔6〕記載の方法。
〔8〕前記銀塩を含む水性溶液の前記抽出槽への投入、前記有機溶媒との接触、及び該抽出槽からの回収が低酸素条件下で行われる、〔6〕又は〔7〕記載の方法。
〔9〕前記抽出槽内において、
前記銀塩を含む水性溶液が分散相で存在し、前記有機溶媒が連続相で存在するか、又は
前記銀塩を含む水性溶液が連続相で存在し、前記有機溶媒が分散相で存在する、
〔6〕~〔8〕のいずれか1項記載の方法。
〔10〕前記有機溶媒がヘキサン又はシクロヘキサンである、〔6〕~〔9〕のいずれか1項記載の方法。
〔11〕高度不飽和脂肪酸含有組成物の製造方法であって:
銀塩を含む水性溶液を、高度不飽和脂肪酸のアルキルエステルを含有する原料液に投入して該原料液中を下降させることで、該原料液と接触させること、及び、
該原料液と接触させた後の水性溶液を回収すること、
を含み、
該原料液と接触する該水性溶液の温度が5~30℃であり、
該水性溶液の投入と回収が並行して行われる、
方法。
〔12〕前記銀塩を含む水性溶液と前記高度不飽和脂肪酸のアルキルエステルを含有する原料液との接触が、第1の反応槽の上部から該水性溶液を投入するとともに、該第1の反応槽の下部から該原料液を投入することによって、該水性溶液と該原料液とを該第1の反応槽内で互いに向流させて接触させることを含み、かつ
前記水性溶液の回収が、該原料液と接触させた後の水性溶液を、該第1の反応槽における該原料の投入口よりも下部から回収することを含む、
〔11〕記載の方法。
〔13〕前記回収後の水性溶液を、有機溶媒に投入して該有機溶媒中を下降させることで、該有機溶媒と接触させること、及び、
該水性溶液と接触させた後の有機溶媒を回収すること
をさらに含み、
該有機溶媒と接触する該水性溶液の温度が30~80℃であり、
該水性溶液の投入と該有機溶媒の回収が並行して行われる、
〔11〕又は〔12〕記載の方法。
〔14〕前記水性溶液と前記有機溶媒との接触が、第2の反応槽の上部から前記回収後の水性溶液を投入するとともに、該第2の反応槽の下部から該有機溶媒を投入することによって、該水性溶液と該有機溶媒とを該第2の反応槽内で互いに向流させて接触させることを含み、かつ
前記有機溶媒の回収が、該水性溶液と接触させた後の有機溶媒を、該第2の反応槽における該水性溶液の投入口よりも上部から回収することを含む、
〔13〕記載の方法。
〔15〕前記有機溶媒と接触させた後の水性溶液を回収することをさらに含む、〔13〕記載の方法。
〔16〕前記有機溶媒と接触させた後の水性溶液を、前記第2の反応槽における該有機溶媒の投入口よりも下部から回収することをさらに含む、〔14〕記載の方法。
〔17〕前記高度不飽和脂肪酸のアルキルエステルを含有する原料液に投入される銀塩を含む水性溶液が、前記有機溶媒と接触させた後に回収された水性溶液を含有する、〔15〕記載の方法。
〔18〕前記第1の反応槽に投入される水性溶液が、前記第2の反応槽から回収された水性溶液を含有する、〔16〕記載の方法。
〔19〕前記第1の反応槽が密閉系である、〔12〕~〔18〕のいずれか1項記載の方法。
〔20〕前記第2の反応槽が密閉系である、〔14〕~〔19〕のいずれか1項記載の方法。
〔21〕前記水性溶液が分散相であり、前記高度不飽和脂肪酸のアルキルエステルを含有する原料が連続相である、〔11〕~〔20〕のいずれか1項記載の方法。
〔22〕前記水性溶液が分散相であり、前記有機溶媒が連続相である、〔13〕~〔21〕のいずれか1項記載の方法。
〔23〕前記分散相が、液滴又は霧状である、〔21〕又は〔22〕記載の方法。
〔24〕前記高度不飽和脂肪酸がエイコサペンタエン酸又はドコサヘキサエン酸を含む、〔11〕~〔23〕のいずれか1項記載の方法。
〔25〕前記銀塩を含む水性溶液における該銀塩の濃度が30質量%以上である、〔11〕~〔24〕のいずれか1項記載の方法。
〔26〕前記有機溶媒がヘキサン及びシクロヘキサンから選択される1種以上である、〔11〕~〔25〕のいずれか1項記載の方法。
〔27〕高度不飽和脂肪酸含有組成物の製造用の装置であって、
第1の反応槽を備え、
該第1の反応槽は、高度不飽和脂肪酸のアルキルエステルを含有する原料液を該反応槽に投入するための原料液投入口と、銀塩を含む水性溶液を該反応槽に投入するための水性溶液投入口と、該原料液と接触させた後の水性溶液を回収するための水性溶液回収口と、該水性溶液と接触させた後の原料液を回収するための原料液回収口とを備え、
該原料液投入口は、該第1の反応槽の下部であって、かつ該水性溶液回収口よりも上部に配置されており、
該水性溶液投入口は、該第1の反応槽の上部であって、かつ該原料液投入口よりも上部であるが該原料液回収口よりも下部に配置されており、
該水性溶液投入口から投入された該銀塩を含む水性溶液は該第1の反応槽内を下方に向けて流れる一方、該原料投入口から投入された該原料液は該第1の反応槽内を上方に向けて流れ、それによって該水性溶液と該原料液が該反応槽内で互いに向流して接触し、かつ接触後の該水性溶液が該水性溶液回収口から該反応槽外へと回収される、
装置。
〔28〕第2の反応槽をさらに備え、
該第2の反応槽は、有機溶媒を該反応槽に投入するための有機溶媒投入口と、前記第1の反応槽の水性溶液回収口から回収された水性溶液を該第2の反応槽に投入するための水性溶液投入口と、該有機溶媒と接触した後の水性溶液を回収するための水性溶液回収口と、該水性溶液と接触させた後の有機溶媒を回収するための有機溶媒回収口とを備え、
該有機溶媒投入口は、該第2の反応槽の下部であって、かつ該水性溶液回収口よりも上部に配置されており、
該水性溶液投入口は、該第2の反応槽の上部であって、かつ該有機溶媒投入口よりも上部であるが該有機溶媒回収口よりも下部に配置されており、
該水性溶液投入口から投入された該水性溶液は該第2の反応槽内を下方に向けて流れる一方、該有機溶媒投入口から投入された該有機溶媒は該第2の反応槽内を上方に向けて流れ、それによって該水性溶液と該有機溶媒が該第2の反応槽内で互いに向流して接触し、かつ接触後の該水性溶液が該水性溶液回収口から該第2の反応槽外へと回収される、
〔27〕記載の装置。
〔29〕前記第2の反応槽から回収された水性溶液が、前記第1の反応槽の水性溶液投入口から前記第1の反応槽に投入される、〔28〕記載の装置。
〔30〕前記第1又は第2の反応槽が、該反応槽内での水性溶液の温度を調節するための温度調節器を備える、〔27〕~〔29〕のいずれか1項記載の装置。
〔31〕前記第1又は第2の反応槽が、前記水性溶液投入口から投入する水性溶液を分散相にするための液分配器を備える、〔27〕~〔30〕のいずれか1項記載の装置。
〔32〕〔27〕~〔31〕記載の装置を用いて行われる、〔11〕~〔26〕のいずれか1項記載の方法。
【0014】
本明細書において、高度不飽和脂肪酸(PUFA)とは、不飽和結合を2つ以上持つ脂肪酸をいう。PUFAの例としては、リノール酸(LA、18:2n-6)、γ-リノレン酸(GLA、18:3n-6)、アラキドン酸(AA、20:4n-6)、α-リノレン酸(ALA、18:3n-3)、エイコサテトラエン酸(ETA、20:4n-3)、ドコサペンタエン酸(DPA、22:5n-3)、エイコサペンタエン酸(EPA、20:5n-3)、ドコサヘキサエン酸(DHA、22:6n-3)などが挙げられる。本発明のPUFA含有組成物の製造方法において、製造される組成物に含有されるべきPUFAは、好ましくはEPA、DHA及びDPAからなる群より選択される少なくとも1種であり、より好ましくはEPA及びDHAからなる群より選択される少なくとも1種であり、さらに好ましくはEPAである。
【0015】
本発明の方法では、PUFAの二重結合部に銀塩が錯体を形成することによりPUFAの抽出溶媒への溶解性が変わることを利用して、PUFAアルキルエステルを分離精製する。当該本発明の方法では、炭素数が20以上であるEPA、AA、ETA、DHA、又はDPAのアルキルエステルを効率よく分離精製することができる。
【0016】
本発明で用いるPUFA含有組成物の原料としては、主として天然物由来の油脂混合物であって、上述したPUFAが含まれているものが挙げられる。そのような原料の例としては、魚類等の海産動物やプランクトン由来の油脂、藻類等の微生物由来の油脂などが挙げられ、中でもイワシ、ハマチ等の魚類由来の油脂、及び藻類由来の油脂が好ましい。
【0017】
好ましくは、本発明で用いるPUFA含有組成物の原料は、目的のPUFA(好ましくはEPA、DHA及びDPAからなる群より選択される少なくとも1種、より好ましくはEPA及びDHAからなる群より選択される少なくとも1種、さらに好ましくはEPA)を、含有する脂肪酸の全量に対して15質量%以上、より好ましくは40質量%以上含有する油脂である。該原料は、EPA、DHA及びDPAの合計含有量ができるだけ高いものであることが好ましい。コストや入手しやすさの点からは、該原料のEPA、DHA及びDPAの合計含有量は、含有する全脂肪酸中、好ましくは65質量%以下、より好ましくは60質量%以下、さらに好ましくは55質量%以下であればよい。該原料中のPUFAは、遊離脂肪酸の形態で存在していてもよく、又はモノ、ジ若しくはトリグリセリド等の脂肪酸鎖の形態で存在していてもよい。
【0018】
本発明の方法において、当該原料中のPUFAはアルキルエステル化されている。好ましくは、該原料は、目的のPUFA(好ましくはEPA、DHA及びDPAからなる群より選択される少なくとも1種、より好ましくはEPA及びDHAからなる群より選択される少なくとも1種、さらに好ましくはEPA)のアルキルエステルを含有する。該PUFAのアルキルエステルを構成するアルキル基としては、炭素数1~6の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基が挙げられ、好ましくはメチル基又はエチル基であり、より好ましくはエチル基である。アルキルエステル化の程度は高いほど好適であり、原料中に含まれる目的のPUFA(遊離体を含む)の全量のうち、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上がアルキルエステル化されているとよい。
【0019】
当該PUFAのアルキルエステルを含有する原料は、PUFAを含有する油脂と所望のアルキル基を有する酸とを公知の方法によりエステル化反応させることにより製造することができる。例えば、PUFAのトリグリセリドを含有する油脂をけん化処理することによって、簡便にPUFAのアルキルエステル化物を得ることができる。あるいは、該PUFAのアルキルエステルを含有する原料としては、市販されている油脂類を用いてもよい。例えば、含有するPUFAの種類や量が規格化された市販の魚油由来の油脂類などを用いることが好ましい。
【0020】
本発明で製造するPUFA含有組成物の品質保持、及び銀塩を含む水性溶液の劣化防止の観点から、本発明で用いるPUFAのアルキルエステルを含有する原料は、酸化指標が低いことが好ましい。脂質の酸化指標は、過酸化物価(POV)、酸価(AV)などで表すことができる。本発明で用いるPUFAのアルキルエステルを含有する原料は、POV(mEq/kg)が、好ましくは10以下、より好ましくは5以下であるか、又はAV(mg/g)が、好ましくは0.3以下、より好ましくは0.2以下である。さらに好ましくは、本発明で用いるPUFAのアルキルエステルを含有する原料は、POVが10以下かつAVが0.3以下であり、なお好ましくはPOVが5以下かつAVが0.2以下である。POVはヨウ素滴定法(ISO 3960:2007)などによって測定することができる。AVは水酸化カリウム滴定法(ISO 660:2009)などによって測定することができる。
【0021】
本発明の方法においては、上述したPUFAのアルキルエステルを含有する原料を、液体(原料液)の形態で、銀塩を含む水性溶液(本明細書において銀塩溶液ともいう、又は単に水性溶液ということもある)と接触させる。該銀塩溶液と接触するときの温度において液体の状態を維持するために、該原料は、必要に応じて、有機溶媒や他の油に溶解又は希釈されてもよい。該有機溶媒としては、例えば、酢酸エチル、クロロホルム、四塩化炭素、ジエチルエーテル、ヘキサン、シクロヘキサン等が挙げられる。
【0022】
本発明の方法で用いる銀塩溶液に含まれる銀塩としては、PUFAの不飽和結合と錯体を形成し得るものであれば特に制限されないが、例えば硝酸銀、過塩素酸銀、四フッ化ホウ素酸銀、酢酸銀等が挙げられる。このうち、硝酸銀が好ましい。該銀塩溶液の溶媒としては、水、又は水とグリセリンやエチレングリコール等の水酸基を有する化合物との混合媒体が挙げられるが、好ましくは水が用いられる。該銀塩溶液中の銀塩濃度は、20質量%以上であればよいが、好ましくは30質量%以上である。好ましい実施形態において、該銀塩溶液中の銀塩濃度は、20~80質量%、好ましくは30~70質量%である。
【0023】
(1.PUFA含有組成物の製造方法)
本発明の高度不飽和脂肪酸含有組成物の製造方法は、
銀塩を含む水性溶液を反応槽へ投入して、高度不飽和脂肪酸のアルキルエステルを含有する原料液と接触させること;及び、
該原料液と接触させた該銀塩を含む水性溶液を該反応槽から回収すること、
を含む。当該方法においては、該銀塩を含む水性溶液の反応槽への投入と、該銀塩を含む水性溶液の反応槽からの回収は、並行して行われる。
【0024】
本発明によるPUFA含有組成物の製造方法では、原料油脂への銀塩溶液の添加と、原料油脂と反応後の銀塩溶液の回収とが並行して連続的に行われる。本発明の方法では、従来のバッチ方式によるPUFAの製造方法と異なり、PUFAの回収の度に銀塩溶液を回収する操作が不要である。さらに本発明の方法によれば、銀塩溶液の使用量を削減できるうえ、該銀塩溶液の劣化を抑制することができる。したがって本発明によれば、PUFA製造にかかる設備の小規模化と、コストの削減とが可能になる。
【0025】
(1-1.錯体生成)
本発明の方法においては、該原料液と銀塩溶液との接触により、PUFAと銀との錯体(本明細書においてPUFA-銀錯体とも称する)が形成される。形成された錯体は、水相、すなわち銀塩溶液の相に移行する。したがって、原料液と接触させた銀塩溶液を回収することによって、PUFA-銀錯体を含む液を取得することができる。
【0026】
本発明の方法において、該原料液と銀塩溶液との接触は、PUFA-銀錯体形成のための第1の反応槽(PUFAと銀塩が接触する場、以下の本明細書において単に反応槽ともいう)内で主に行われる。当該本発明の方法においては、反応槽に銀塩溶液を投入して、該反応槽内でPUFAのアルキルエステルを含有する原料液と接触させる。
【0027】
該原料液と接触するときの銀塩溶液の温度は、好ましくは5~30℃、より好ましくは15~30℃である。原料液との接触の際の銀塩溶液の温度を上記範囲に維持するための方法としては、該原料液及び/又は銀塩溶液を上記範囲に加温又は冷却した後、それらを接触させる方法、該原料液と銀塩溶液とを接触させるための反応槽の温度を上記範囲に維持する方法、およびそれらの方法の組み合わせが挙げられる。
【0028】
本発明の方法においては、銀塩溶液の反応槽への投入及び原料液との接触と、該原料液と接触させた、錯体を含む銀塩溶液の反応槽からの回収とは並行して行われる。したがって、本発明の方法においては、従来法のバッチ方式のように錯体生成反応後の反応槽の銀塩溶液を全交換する必要がなく、銀塩溶液の原料液への投入及び原料液との接触を続けながら、錯体を含む銀塩溶液の回収を続けることができる。言い換えると、本発明の方法においては、原料液と銀塩溶液との接触及び錯体を含む銀塩溶液の回収は、連続的に(すなわち連続方式で)行われる。
【0029】
本発明の方法においては、PUFAのアルキルエステルを含有する原料液は、連続的又は断続的に反応槽に投入され得る。好ましくは、本発明の方法においては、原料液の反応槽への投入と、銀塩溶液と接触させた該原料液の回収は、並行して行われる。より好ましくは、該原料液の投入と回収のプロセスは、連続方式で、かつ上述した銀塩溶液の投入と回収のプロセスと並行して行われる。あるいは、本発明の方法においては、一定時間ごとに反応槽の原料液の一部もしくは全部を交換してもよい。例えば、予め原料液で反応槽を満たし、該反応槽に対して銀塩溶液を並行して投入及び回収するプロセスを一定時間行ってもよい。さらにこの反応槽における原料液の充填又は交換と、該反応槽に対して銀塩溶液を並行して投入及び回収するプロセスとを順に繰り返してもよい。
【0030】
反応槽への銀塩溶液及び原料液の投入は、好ましくは、該反応槽へと流体連絡した流路(以下の本明細書において、投入路と称する)を介して行われる。当該投入路は、銀塩溶液の投入と原料液の投入のために別々に設けられ、それぞれが、銀塩溶液及び原料液の供給源と該反応槽とを流体連絡する。当該投入路には、弁、ポンプ、バルブなどが設けられていてもよい。また、当該投入路は、それぞれが反応槽に直接接続されていてもよく、又は互いに接続してまとめられた後で反応槽に接続されてもよい。
【0031】
反応槽に投入された銀塩溶液及び原料液は、それぞれが反応槽内で連続相又は分散相を形成することができる。一実施形態においては、反応槽内において原料液は連続相で存在し、銀塩溶液は分散相で存在する。このとき、該銀塩溶液の分散相は、好ましくは該原料液の連続相中に分散する液滴であり得る。別の一実施形態においては、反応槽内において原料液は分散相で存在し、銀塩溶液は連続相で存在する。このとき、該原料液の分散相は、好ましくは該銀塩溶液の連続相中に分散する液滴であり得る。銀塩溶液又は原料液の分散相の形成には、液体を分散させることができる任意の方法を使用することができる。例えば、原料液が連続相、銀塩溶液が分散相である場合、原料液(連続相)を満たした反応槽に銀塩溶液を滴下するかもしくはノズル等から噴射する方法、振動機、撹拌機等を用いて反応槽内の液を撹拌することで、銀塩溶液を微細化する方法、銀塩溶液をリキッドディストリビューターや多孔質分散板等に通して微細化する方法、などを用いることができる。原料液を分散相にする場合も同様である。
【0032】
あるいは、反応槽内において銀塩溶液と原料液はいずれも連続相で存在してもよい。一実施形態において、反応槽内の銀塩溶液は、原料液の連続相中を貫流する。別の実施形態において、銀塩溶液と原料液のそれぞれの液流が反応槽内に存在し、該液流は、互いに接触する向流又は並行流であり得る。
【0033】
反応槽に投入された銀塩溶液は、連続相及び分散相のいずれの状態であっても、反応槽内を移動しながら原料液と接触し、生成されたPUFA-銀錯体を含有するようになる。一実施形態において、該錯体を含む銀塩溶液は、原料液とともに反応槽から流出する。別の実施形態において、該錯体を含む銀塩溶液は、反応槽の下部に集まって連続水相を形成し、該連続水相が反応槽から回収される。
【0034】
反応槽内での銀塩溶液の移動の方向は、銀塩溶液の噴射、振動、撹拌等の操作に影響を受けるが、反応槽での銀塩溶液の投入口と回収口の配置によって大まかに決定され得る。
【0035】
反応槽内での銀塩溶液の原料液との接触頻度を増やせば、PUFAと銀との錯体の形成を促進することができる。接触頻度は、反応槽の容量、反応槽内での原料液と銀塩溶液との容量比、反応槽に対して投入及び回収される銀塩溶液又は原料液の流量や流速、銀塩溶液又は原料液の分散相の大きさ(液滴の粒径等)などを変更することによって、調節することができる。好ましい実施形態において、反応槽のサイズは、容量が1cm3~10m程度であり、かつ反応槽での銀塩溶液又は原料液の投入口と回収口との距離は15~400cm程度である。好ましくは、反応槽に対して投入及び回収される銀塩溶液の流量は100~5000g/秒程度である。好ましくは、反応槽内を流れる銀塩溶液と原料液との容量比は1:0.25~1程度に調整される。好ましくは、反応槽内の銀塩溶液と原料液は、いずれか一方が分散相、もう一方が連続相を形成する。いずれが分散相の場合でも、反応槽内の分散相は、好ましくは0.05~5mm程度の粒径(50%粒子径、以下の本明細書において同じ)の液滴に調製される。また、原料液及び銀塩溶液の反応槽内滞留時間は、それらが分散相もしくは連続相のいずれであっても、好ましくは1~300秒程度である。
【0036】
反応槽からの銀塩溶液及び原料液の回収は、好ましくは、反応槽から流体連絡した流路(以下の本明細書において、回収路と称する)を介して行われる。当該回収路は、銀塩溶液の回収と原料液の回収のために別々に設けられる。当該回収路には、弁、ポンプ、バルブなどが設けられていてもよい。また、当該回収路は、それぞれが反応槽に直接接続されていてもよく、又は後述する反応槽とつながる分配槽等に接続されていてもよい。
【0037】
錯体を含む銀塩溶液を原料液とともに反応槽から流出させる場合、流出させた液体から銀塩溶液を分取する。好ましくは、反応槽から流出した原料液と銀塩溶液を含む液体は、分配槽に移行され、そこで原料液の相(有機相)と銀塩溶液の相(水相)に分配される。分配された水相を分取すれば、錯体を含む銀塩溶液を回収することができる。さらに、分配された有機相を分取すれば、使用後の原料液を回収することができる。分配槽からの銀塩溶液と原料液の回収は、分配槽に接続されたそれぞれの回収路によって行われ得る。分配された有機相と水相の回収を容易にするため、好ましくは、分配槽からの銀塩溶液の出口は、該分配槽の底面もしくは下部壁面に配置され、原料液の出口は、該分配槽の上面もしくは上部壁面に配置される。また好ましくは、銀塩溶液は、分配槽内の下部、好ましくは底面上に配置されたノズルから吸引されて、分配槽から回収されてもよい。
【0038】
反応槽内に集められた錯体を含む銀塩溶液の連続水相を回収する場合、該反応槽に直接銀塩溶液回収路が接続され、そこから銀塩溶液が回収される。さらに、該反応槽に原料液回収路を接続して、そこから原料液を回収してもよい。好ましくは、該銀塩溶液回収路は、該反応槽の底面もしくは下部壁面に配置され、該原料液回収路は、該反応槽の上面もしくは上部壁面に配置される。また好ましくは、銀塩溶液回収路から反応槽内の下部、好ましくは底面上に伸びるノズルで吸引することで、反応槽から銀塩溶液を回収してもよい。反応槽に銀塩溶液及び原料液の回収路を設ける場合、反応後の銀塩溶液及び原料液の回収を容易にするため、銀塩溶液の回収路は、原料液の投入口よりも下方に接続し、また原料液の回収路は、銀塩溶液の投入口よりも上方に接続することが好ましい。
【0039】
本発明で用いることができる反応槽の好ましい実施形態の一例として、静止型流体混合器(内部に流体混合のためのブレード、フィン等を備えたスタティックミキサー、インラインミキサー等)、圧入型混合器(ベンチュリーオリフィスを備えたインラインミキサー等)、エレメント積層型ミキサー(流体混合のための多数の貫通孔を有する積層体を備えたインラインミキサー等)、多孔質分散板や撹拌体を有する反応塔を備えた液液抽出装置、などが挙げられる。静止型流体混合器の例としては、スタティックミキサー(T-3、-4型、N10型、N60型等;株式会社ノリタケカンパニーリミテド)、インラインミキサー(TD型;株式会社北斗)、OHRミキサー(MX10型;株式会社OHR流体工学研究所)などが挙げられる。圧入型混合器の例としては、VRラインミキサー(VRX10、VRX20等;株式会社ナゴヤ大島機械)などが挙げられる。エレメント積層型ミキサーの例としてはMSEスタティックミキサー(アイセル株式会社)などが挙げられる。液液抽出装置の例としては、特開2004-243203号公報又は特開平5-200260号公報に記載される液液抽出装置などが挙げられる。ただし、本発明で用いることができる反応槽の例はこれらに限定されない。
【0040】
本発明の方法で用いられる反応槽は、1個の槽であってもよいが、流体連絡された2個以上の槽の組み合わせてあってもよい。例えば、上述した静止型流体混合器、圧入型混合器、エレメント積層型ミキサー、液液抽出装置、等を単独で又は2基以上組み合わせて用いることができる。2個以上の槽を組み合わせて用いる場合、第1の槽から回収された錯体を含む銀塩溶液は、別の槽に投入され、内部の原料液と接触して、そこで形成された錯体を蓄える。その後、該銀塩溶液は、さらなる槽に投入されて原料液と接触するか、又は分配槽もしくは後述する抽出槽へと移送される。
【0041】
反応槽から回収された有機相(原料液)には、錯体化されなかったPUFAがなお含まれていることがある。そのため、回収した有機相を該第1の、別の、又はさらなる反応槽に投入して、再度銀塩溶液と接触させることで、該錯体化されなかったPUFAをPUFA-銀錯体に変換し、銀塩溶液とともに回収することができる。得られた銀塩溶液は、上記と同様に有機相から分配することで回収することができる。回収された銀塩溶液は、前述の手順で得られたPUFA-銀錯体を含む銀塩溶液と合一して、後述するPUFAアルキルエステルの抽出工程に供することもでき、又はそれ単独で該抽出工程に供することもできる。
【0042】
好ましくは、以上の本発明の方法の手順は低酸素条件下で行われる。低酸素条件は、例えば、本発明の方法の系(例えば、反応槽、投入路、回収路、分配槽等)を外気から遮断した密閉系とすること、該反応槽、投入路、回収路、分配槽等の内部を窒素雰囲気下におくこと、該反応槽、投入路、回収路、分配槽等に液体(原料液又は銀塩溶液)を満たすこと、などにより達成できる。好ましくは、該反応槽、投入路、回収路、分配槽を外気から遮断した密閉系とし、これに原料液又は銀塩溶液を満たす。反応槽に対する銀塩溶液及び原料液の投入と回収をいずれも連続方式で行う場合、一旦系に液体を満たしてしまえば、あとは低酸素状態を維持することができる。好ましくは、本発明における低酸素条件とは、酸素濃度0.4%未満、より好ましくは0.1%以下の条件をいう。また好ましくは、本発明の方法は遮光下で行われる。本発明の方法を低酸素条件及び/又は遮光下で行うことにより、銀塩溶液のpH低下や原料液及び銀塩溶液中の油脂の酸化を抑制し、銀塩溶液の劣化や精製されるPUFA含有組成物の劣化を防止することができる。
【0043】
(1-2.PUFAアルキルエステルの抽出)
以上の手順で回収されたPUFAと銀との錯体を含む銀塩溶液から、有機溶媒を用いてPUFAアルキルエステルを抽出することができる。したがって、本発明のPUFA含有組成物の製造方法は、反応槽から回収した銀塩溶液から有機溶媒を用いてPUFAアルキルエステルを抽出する工程をさらに含んでいてもよい。
【0044】
PUFAアルキルエステルの抽出の手順は、特許文献1~4に記載された方法等の通常の手順に従って行うことができる。より詳細には、反応槽から回収されたPUFA-銀錯体を含む銀塩溶液を、有機溶媒と接触させる。この接触によって、該銀塩溶液中のPUFAアルキルエステルが有機溶媒に抽出される。該銀塩溶液と接触させた有機溶媒を回収することによって、PUFAアルキルエステルを取得することができる。
【0045】
当該抽出に用いる有機溶媒としては、ヘキサン、エーテル、酢酸エチル、酢酸ブチル、クロロホルム、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン等の、EPA、DHA、DPA等のアルキルエステルの溶解性が高く、かつ水と分離可能な溶媒が挙げられるが、ヘキサン又はシクロヘキサンが好ましい。
【0046】
好ましくは、反応槽から回収された銀塩溶液は、銀塩溶液と有機溶媒との接触のための第2の反応槽(以下の本明細書において、抽出槽ともいう)に移送され、そこで有機溶媒と接触する。抽出槽に対する銀塩溶液又は有機溶媒の投入及び回収は、バッチ方式で行われてもよいが、好ましくは連続方式で行われる。好ましくは、本発明の方法においては、有機溶媒の抽出槽への投入、反応槽から回収した銀塩溶液の抽出槽への投入、銀塩溶液と有機溶媒との接触、接触後の有機溶媒及び銀塩溶液の抽出槽からの回収は、並行して行われる。
【0047】
抽出槽への銀塩溶液の投入は、上述した反応槽又は分配槽と該抽出槽とを流体連絡する流路(以下の本明細書において、連絡路と称する)を介して行われる。また、抽出槽への有機溶媒の投入は、好ましくは、有機溶媒の供給源と該抽出槽とを流体連絡する流路(以下の本明細書において、有機溶媒投入路と称する)を介して行われる。当該連絡路及び有機溶媒投入路には、弁、ポンプ、バルブなどが設けられていてもよい。また、当該連絡路及び有機溶媒投入路は、それぞれが抽出槽に直接接続されていてもよく、又は互いに接続してまとめられた後で抽出槽に接続されてもよい。
【0048】
抽出槽に投入された銀塩溶液及び有機溶媒は、それぞれが抽出槽内で連続相又は分散相を形成することができる。一実施形態においては、抽出槽内において有機溶媒は連続相で存在し、銀塩溶液は分散相で存在する。このとき、該銀塩溶液の分散相は、好ましくは該有機溶媒の連続相中に分散する液滴であり得る。別の一実施形態においては、抽出槽内において有機溶媒は分散相で存在し、銀塩溶液は連続相で存在する。このとき、該有機溶媒の分散相は、好ましくは該銀塩溶液の連続相中に分散する液滴であり得る。銀塩溶液又は有機溶媒の分散相の形成には、上記(1-1)で述べたような液体を分散させることができる任意の方法を使用することができる。あるいは、抽出槽内において銀塩溶液と有機溶媒はいずれも連続相で存在する。一実施形態において、抽出槽内の銀塩溶液は、有機溶媒の連続相中を貫流する。別の実施形態において、銀塩溶液と有機溶媒のそれぞれの液流が抽出槽内に存在し、該液流は、互いに接触する向流又は並行流であり得る。
【0049】
抽出槽の好適な例としては、上記(1-1)で述べた静止型流体混合器、圧入型混合器、エレメント積層型ミキサー、液液抽出装置等が挙げられる。また該抽出槽は、1個の槽であってもよいが、流体連絡された2個以上の槽の組み合わせてあってもよい。例えば、上述した静止型流体混合器、圧入型混合器、エレメント積層型ミキサー、液液抽出装置等を単独で又は2基以上組み合わせて用いることができる。2個以上の槽を組み合わせて用いる場合、第1の槽から回収された銀塩溶液は、別の槽に投入され、内部の有機溶媒と接触して、残存するPUFAを抽出される。その後、該銀塩溶液は、必要に応じてさらなる抽出槽や分配槽へと移送された後、回収される。
【0050】
有機溶媒と接触するときの銀塩溶液の温度は、好ましくは30~80℃、より好ましくは50~70℃である。有機溶媒との接触の際の銀塩溶液の温度を上記範囲に維持するための方法としては、銀塩溶液及び/又は有機溶媒を上記範囲に加温した後、それらを接触させる方法、抽出槽の温度を上記範囲に維持する方法、およびそれらの方法の組み合わせが挙げられる。
【0051】
抽出槽内での銀塩溶液の有機溶媒との接触頻度を増やせば、PUFAアルキルエステルの抽出を促進することができる。好ましい実施形態において、抽出槽のサイズは、容量が1cm3~10m程度、かつ抽出槽での銀塩溶液又は有機溶媒の投入口と回収口の距離は15~400cm程度である。好ましくは、抽出槽に対して投入及び回収される銀塩溶液の流量は、好ましくは100~5000g/秒程度である。好ましくは、抽出槽内を流れる銀塩溶液と有機溶媒の容量比は、1:1~3程度に調整される。好ましくは、抽出槽内の銀塩溶液と有機溶媒は、いずれか一方が分散相、もう一方が連続相を形成する。いずれが分散相の場合でも、抽出槽内の分散相は、好ましくは0.05~5mm程度の粒径の液滴に調製され、また銀塩溶液及び有機溶媒の抽出槽内滞留時間は、それらが分散相もしくは連続相のいずれであっても、好ましくは1~300秒程度である。
【0052】
銀塩溶液と有機溶媒との接触により、該銀塩溶液中のPUFAアルキルエステルが有機溶媒に抽出される。接触後の銀塩溶液と有機溶媒は、抽出槽からまとめて回収してもよく、別々に回収してもよい。抽出槽からの銀塩溶液及び有機溶媒の回収は、好ましくは、上記(1-1)で述べた反応槽からの液体の回収と同様の手順で行うことができる。
【0053】
例えば、抽出槽から銀塩溶液と有機溶媒をまとめて回収する場合、回収した液体からPUFAアルキルエステルを含む有機溶媒を分取する。好ましくは、抽出槽から回収した液体は、第2の分配槽に移行され、有機溶媒の相(有機相)と銀塩溶液の相(水相)に分配される。分配された有機相を分取すれば、PUFAアルキルエステルを含む有機溶媒を回収することができる。さらに、分配された水相を分取すれば、使用後の銀塩溶液を回収することができる。第2分配槽からの銀塩溶液と有機溶媒の回収は、該分配槽に接続されたそれぞれの回収路によって行われ得る。分配された有機相と水相の回収を容易にするため、好ましくは、第2分配槽からの銀塩溶液の出口は、該分配槽の底面もしくは下部壁面に配置され、有機溶媒の出口は、該分配槽の上面もしくは上部壁面に配置される。また好ましくは、銀塩溶液は、第2分配槽内の下部、好ましくは底面上に配置されたノズルから吸引されて、該分配槽から回収されてもよく、有機溶媒は、第2分配槽内の上部に配置されたノズルから吸引されて、該分配槽から回収されてもよい。
【0054】
また例えば、抽出槽から銀塩溶液と有機溶媒を別々に回収する場合、好ましくは、該抽出槽の底面もしくは下部壁面に銀塩溶液回収路を配置し、一方、該抽出槽の上面もしくは上部壁面に有機溶媒回収路を配置する。反応後の銀塩溶液と有機溶媒の回収を容易にするため、銀塩溶液の回収路は、有機溶媒の投入口よりも下方に接続し、また有機溶媒の回収路は、銀塩溶液の投入口よりも上方に接続することが好ましい。
【0055】
抽出したPUFAアルキルエステルや、銀塩溶液の酸化を防止するためには、上記PUFAアルキルエステル抽出の手順もまた低酸素条件下及び/又は遮光下で行うことが好ましい。好ましくは、当該手順の系(例えば抽出槽、連絡路、有機溶媒投入路、回収路、第2分配槽等)を低酸素条件及び/又は遮光下におく。低酸素条件は、上記(1-1)で述べた手順と同様の手順で達成することができる。
【0056】
(1-3.銀塩溶液の劣化抑制と再利用)
本発明のPUFA含有組成物の製造方法では、反応槽に対する銀塩溶液の投入と回収のプロセス、さらには必要に応じて抽出槽に対する銀塩溶液の投入と回収のプロセスを並行して(すなわち連続方式で)行うことにより、好ましくは反応槽への銀塩溶液の投入から抽出槽からの銀塩溶液の回収までのプロセスを連続方式で行うことにより、銀塩溶液のpH低下や原料液及び銀塩溶液中の油脂の酸化、及びそれらによる銀塩溶液の劣化や精製されたPUFA含有組成物の劣化を大きく抑制することができる。例えば、従来のバッチ方式では、反応槽内での原料液と銀塩溶液との撹拌混合や、反応後の銀塩溶液のバッチ回収の過程で銀塩溶液が酸化しやすく、これが銀塩溶液の劣化をもたらしていたと考えられる。一方、本発明のような連続方式では、反応槽内や反応後の銀塩溶液の回収の過程での銀塩溶液と外気の接触を極めて少なくすることができるため、酸化による銀塩溶液の劣化を抑制することができる。
【0057】
したがって、本発明の方法においては、抽出槽から回収された銀塩溶液を再利用することができる。より詳細には、本発明の方法では、抽出槽から回収された銀塩溶液を、そのまま、又は銀塩の濃度を適宜調製してから、再び反応槽に投入して原料液と接触させることができる。本発明の方法の好ましい実施形態においては、反応槽に投入される銀塩溶液は、有機溶媒と接触させた後に抽出槽から回収された銀塩溶液を含有する。
【0058】
したがって、好ましい実施形態において、本発明のPUFA含有組成物の製造方法は、銀塩溶液を反応槽と抽出槽との間で循環させながら、該銀塩溶液と原料液との接触と、それによって得られた錯体を含む銀塩溶液と有機溶媒との接触を連続的に行う方法であり得る。この方法においては、反応槽から回収した銀塩溶液を有機溶媒と接触させて、該銀塩溶液からPUFAアルキルエステルを抽出した後、該有機溶媒と接触した銀塩溶液を、抽出槽から回収して、該反応槽に再度投入する。反応槽に再度投入された銀塩溶液は、原料液と接触してPUFA-銀錯体が形成される。本発明の方法において、銀塩溶液は、好ましくは10回以上、より好ましくは30回以上、さらに好ましくは70回以上、さらに好ましくは100回以上、さらに好ましくは300回以上、繰り返して使用することができる。なお、本発明における銀塩溶液の繰り返し使用に関する「使用」とは、銀塩溶液を、反応槽への投入から抽出槽からの回収までの一連のプロセスに適用することであり、このプロセスを1回行うことは、銀塩溶液の「1回」使用にあたる。当該プロセス1回あたりにおいて、銀塩溶液とPUFAが接触している時間(後述の実施例で示すPUFA接触時間、すなわち、原料液に銀塩溶液を投入した時点から、有機溶媒により銀塩溶液からPUFAエチルエステル含有組成物が抽出されるまでの時間)は、平均で好ましくは10分以内、より好ましくは5分以内である。
【0059】
銀塩溶液の劣化の程度は、銀塩溶液のpHや色調、又は銀塩溶液に含まれる遊離脂肪酸量、又は該溶液のpHやガードナー色数などを指標に測定することができる。例えば、未使用の銀塩溶液は通常、pHがほぼ7で、無色透明であり、かつ遊離脂肪酸を含まないが、使用に伴い劣化するにつれ、pHは低下し、黄色~褐色を帯びた色調となり、遊離脂肪酸量が増加する。溶液の遊離脂肪酸量は、後述の参考例2に記載の方法により測定することができる。本発明の方法によれば、錯体形成及びPUFAアルキルエステル抽出のプロセスに10回繰り返し使用した後の銀塩溶液の遊離脂肪酸量を、好ましくは5mEq/L以下、より好ましくは3mEq/L以下に抑えることができる。さらに好ましくは、100回繰り返し使用後の銀塩溶液の遊離脂肪酸量を、好ましくは50mEq/L以下、より好ましくは20mEq/L以下に抑えることができる。
【0060】
銀塩溶液のガードナー色数は、日本工業規格JIS K0071「化学製品の色試験方法」に従って測定することができる。溶液のガードナー色数が高いほど、銀塩溶液がより劣化していることを意味する。本発明の方法で使用される銀塩溶液は、30回以上程度繰り返し使用した後でもガードナー色数は5程度であり、さらに繰り返し使用してもガードナー色数9以上にはならない。これに対し、従来のバッチ法で使用される銀塩溶液は、15回程度の繰り返し使用でガードナー色数11以上まで上昇する。これは、本発明の方法では、バッチ法と比べてはるかに銀塩溶液の劣化が生じにくいことを表す。
【0061】
また本発明のPUFA含有組成物の製造方法では、連続方式の採用と銀塩溶液の再使用により、従来法(バッチ方式)と比べて、PUFA抽出に必要な銀塩溶液の量を低減することができる。好ましい実施形態において、本発明の方法では、従来法と比べて、PUFA抽出に必要な銀塩溶液の量を1/2~1/20程度、好ましくは1/5~1/10程度に減量させることができる。
【0062】
(1-4.PUFA含有組成物の分離)
本発明において、上記手順で回収されたPUFAアルキルエステルを含む有機溶媒は、PUFA含有組成物として取得される。該PUFA含有組成物は、原料液から分離されたPUFA、好ましくはEPA、AA、ETA、DHA、又はDPAのアルキルエステルを含有する。回収された有機溶媒は、必要に応じて濃縮、クロマトグラフィー、蒸留などによってさらに精製されてもよい。本発明の方法により得られたPUFA含有組成物は、含有する全脂肪酸中に、好ましくはEPA、DHA及びDPAからなる群より選択される少なくとも1種のPUFAのアルキルエステル、より好ましくはEPA及び/又はDHAのアルキルエステルを、70質量%以上、より好ましくは80質量%以上含有し、さらに好ましくは、EPAのアルキルエステルを50質量%以上、なお好ましくは70質量%以上含有する。
【0063】
また本発明の方法においては、回収された有機溶媒は、濃縮、クロマトグラフィー、蒸留等によりPUFAアルキルエステルを分離した後、PUFAアルキルエステルの抽出に再使用することができる。より詳細には、PUFAアルキルエステルを分離した有機溶媒を、そのまま、又は新たな有機溶媒と混合した後、再び抽出槽に投入して銀塩溶液と接触させることができる。
【0064】
本発明の連続方式によるPUFA含有組成物の製造方法では、従来法(バッチ方式)のように錯体を含む銀塩溶液やPUFAを含む有機溶媒の回収の操作を行う必要がなく、またその回収のために錯体生成反応やPUFA抽出操作を止める必要がない。また本発明の方法では、銀塩溶液の劣化が抑制され、かつ銀塩溶液の使用量を低減することができる。したがって、本発明は、高効率かつ低コストなPUFA製造法を提供する。
【0065】
(2.PUFA含有組成物の製造用装置)
本発明の好ましい実施形態として、並行流式及び向流式に基づくPUFA含有組成物の製造用装置を用いたPUFA含有組成物の製造手順の模式図を図1図3に開示する。
【0066】
図1Aは、並行流式のPUFA含有組成物の製造用装置の模式図を示す。図1Aにおいて、反応槽及び抽出槽は、静止型流体混合器であり、内部に流体混合のためのブレードを備える。反応槽は、原料液供給源と銀塩溶液供給源とに流体連絡する。反応槽に投入された原料液と銀塩溶液は、ブレードの撹拌作用により混合されて互いに接触する。撹拌される原料液と銀塩溶液の量を調節することによって、原料液又は銀塩溶液の液滴を生成することができる。一実施形態において、反応槽内の原料液は連続相であり、銀塩溶液は液滴状である。別の一実施形態において、反応槽内の原料液は液滴状であり、銀塩溶液は連続相である。別の一実施形態において、反応槽内の原料液と銀塩溶液はいずれも連続相である。反応槽は、液体投入口の反対側で分配槽(1)と連絡されているので、反応槽に投入された液体は徐々に分配槽(1)へと移送される。分配槽(1)では原料液(有機相)が上層に、錯体を含む銀塩溶液(水相)は下層に分離される。上層の原料液は回収され、下層の銀塩溶液は抽出槽に移送される。
【0067】
図1Aにおいて、抽出槽は、分配槽(1)の下層及び有機溶媒供給源と流体連絡する。抽出槽に投入された原料液と銀塩溶液は、ブレードの撹拌作用により混合されて互いに接触する。一実施形態において、抽出槽内の有機溶媒は連続相であり、銀塩溶液は液滴状である。別の一実施形態において、抽出槽内の有機溶媒は液滴状であり、銀塩溶液は連続相である。別の一実施形態において、抽出槽内の有機溶媒と銀塩溶液はいずれも連続相である。抽出槽は、液体投入口の反対側で分配槽(2)と連絡されているので、抽出槽に投入された液体は徐々に分配槽(2)へと移送される。分配槽(2)ではPUFAを含む有機溶媒(有機相)が上層に、銀塩溶液(水相)は下層に分離される。上層の有機溶媒は回収され、PUFA含有組成物が精製又は濃縮される。下層の銀塩溶液は銀塩溶液供給源に戻され、再び反応槽に投入される。
【0068】
図1Bには、図1Aと同様の構造のPUFA含有組成物の製造用装置における、反応槽と分配槽(1)の部分のみを示した模式図である。図1Bの装置においては、分配槽(1)から回収した原料液(有機相)を反応槽に戻す経路が設けられている。
【0069】
図2は、向流式のPUFA含有組成物の製造用装置の模式図を示す。図2において、反応槽及び抽出槽は反応塔である。反応槽は、原料液供給源と銀塩溶液供給源と流体連絡する。銀塩溶液は反応槽の上部から投入され下方に移動し、原料液は反応槽の下部から投入され上方に移動し、これによって向流が生じて原料液と銀塩溶液が接触する。銀塩溶液は、移動中は液滴状(分散相)であるが、反応槽の下層に集まって連続水相を形成する。当該連続水相は抽出槽に移送される。原料液は反応槽上部から回収される。
【0070】
図2において、抽出槽は、反応槽の下層及び有機溶媒供給源と流体連絡する。反応槽から回収された銀塩溶液は抽出槽の上部から投入され下方に移動し、有機溶媒は抽出槽の下部から投入され上方に移動し、これによって向流が生じて有機溶媒と銀塩溶液が接触する。銀塩溶液は、移動中は液滴状(分散相)であるが、抽出槽の下層に集まって連続水相を形成する。上層の有機溶媒は回収され、PUFA含有組成物が精製又は濃縮される。下層の銀塩溶液は銀塩溶液供給源に戻され、再び反応槽に投入される。
【0071】
図3は、別の向流式のPUFA含有組成物の製造用装置の模式図を示す。図3の装置の基本的な構成は、図2の装置と同様であるが、図3においては、反応槽及び抽出槽の銀塩溶液は連続相であり、原料液及び有機溶媒は液滴状(分散相)である。
【0072】
図1~3において、反応槽、抽出槽、分配槽、及びそれらを結ぶ流路は、密閉系かつ液体で満たされている。図1に示すように、反応槽及び抽出槽の内部の温度は、それぞれに設けられた冷媒又は熱媒によって制御することができる。また図1に示すように、反応槽及び抽出槽に対する液体の投入及び回収の速度及び量は、ポンプによって制御することができる。図2~3の銀塩溶液は自由落下であるが、液滴の大きさや放出量によって、原料液と銀塩溶液の接触頻度を調節することが可能である。図1~3の装置において、反応槽及び抽出槽に対して投入及び回収される銀塩溶液は、好ましくは流量100~5000g/秒程度である。また好ましくは、反応槽及び抽出槽内の銀塩溶液が分散相である場合、0.05~5mm程度の粒径の液滴に調製される。
【0073】
好ましい実施形態において、図1~3の装置における反応槽及び抽出槽のサイズは、容量が1cm3~10m3程度、かつ反応槽及び抽出槽での銀塩溶液の投入口と回収口との距離が15~400cm程度である。また図1~3の装置における銀塩溶液のPUFA接触時間は、1回使用あたり平均で好ましくは10分以内、より好ましくは5分以内である。図1~3に示されるように、本発明で用いるPUFA含有組成物の製造方法では、反応槽及び抽出槽に対する銀塩溶液の投入と回収を並行的かつ連続的に行うことにより、連続的なPUFA含有組成物の抽出を可能にするため、従来のバッチ方式で採用されていたような大規模な反応槽を必要としない。本発明によれば、PUFA製造にかかる設備の小規模化が可能である。
【0074】
(3.向流式に基づくPUFA含有組成物の製造方法の例示的実施形態)
(3-1.製造方法)
本項では、向流式に基づく、本発明によるPUFA含有組成物の製造方法の例示的実施形態を開示する。本実施形態による本発明の方法は、以下:
銀塩を含む水性溶液を、PUFAのアルキルエステルを含有する原料液に投入して該原料液中を下降させることで、該原料液と接触させること、及び、
該原料液と接触させた後の水性溶液を回収すること、
を含む。
【0075】
本実施形態の方法によれば、銀塩を用いた高度不飽和脂肪酸の精製を連続的に行うことができる。当該方法では、銀塩を含む水性溶液の使用量を削減できるうえ、高度不飽和脂肪酸の回収の度に銀塩を含む水性溶液バッチを回収する操作が不要になる。当該方法は、高度不飽和脂肪酸の製造の効率及びコストを改善する。
【0076】
本実施形態の方法において、該PUFAのアルキルエステルを含有する原料液と接触するときの銀塩溶液の温度は、好ましくは5~30℃、より好ましくは15~30℃である。原料液との接触の際の銀塩溶液の温度を上記範囲に維持するための方法としては、該原料液及び/又は銀塩溶液を上記範囲に加温又は冷却した後、それらを接触させる方法、該原料液と銀塩溶液とを接触させるための反応槽の温度を上記範囲に維持する方法、およびそれらの方法の組み合わせが挙げられる。
【0077】
好ましくは、該PUFAのアルキルエステルを含有する原料液は、反応槽内で所定の高さのある連続相を形成している。該銀塩溶液は、該原料液の連続相中を貫流する連続相であってもよいが、好ましくは分散相である。該分散相は、液滴状又は霧状の形態であり得る。該銀塩溶液の分散相の形成には、水性溶液を分散させることができる任意の方法を使用することができる。例えば、ノズル等から噴射する方法、振動機等を用いて銀塩溶液の投入経路に振動を加えることで銀塩溶液を微細化する方法、リキッドディストリビューターや多孔質分散板等を用いて銀塩溶液を微細化する方法、などを用いることができる。該銀塩溶液は、該原料液の連続相内、その上面、又はそれより上から投入することができるが、好ましくは該原料液の連続相内の上部に投入される。
【0078】
本実施形態の方法においては、反応槽内の原料液に銀塩溶液を投入すると、比重の違いにより、該銀塩溶液は該原料液中を下降しながら該原料液と接触する。この接触によって、PUFA-銀錯体が形成される。
【0079】
該銀塩溶液の原料液との接触時間(原料液中滞留時間)を長くすれば、PUFAと銀塩との錯体の形成が促進される。接触時間は、原料液の連続相の高さ、銀塩溶液の流速、銀塩溶液の分散相の大きさ(液滴の粒径等)などを変更することによって、調節することができる。例えば、原料液は、高さ30cm以上、好ましくは高さ50~300cmの連続相であり、かつ銀塩溶液は、0.01~0.2cm程度の粒径の液滴に調製され、例えば分散相形成にノズルを用いる場合は、ノズル1本あたり流量0.1~50g/分で該原料液に滴下される。ノズルを複数個所設けることで流量を増すことが可能である。原料液の連続相の高さは、原料液と銀塩溶液が接触する最大距離、例えば反応槽上部の銀塩溶液投入口の位置から、反応槽下部に形成された銀塩溶液の水相と原料液との界面までの距離である。
【0080】
形成されたPUFA-銀錯体は、銀塩溶液に溶解するため、該銀塩溶液とともに下方に移動する。最終的には、該錯体を含む銀塩溶液が、該原料液よりも重い水相を形成する。すなわち、本実施形態の方法においては、反応槽に投入された銀塩溶液は原料液中を下降しながらPUFAと銀塩との錯体を抽出し、次いで該反応槽内の底部に該錯体を含む水相を形成する。したがって、当該方法においては、PUFAと反応させる前の銀塩溶液と反応後の銀塩溶液とが混在することなく、それぞれ異なる相に分離される。この状況は、原料液への銀塩溶液の投入とは独立に、該原料液と接触後の銀塩溶液の回収を行うことを可能にする。
【0081】
したがって、本実施形態の方法においては、銀塩溶液の原料液への投入と、該原料液と接触させた後の銀塩溶液の回収とが並行して行われる。すなわち、当該方法においては、従来法のように反応槽の銀塩溶液を全交換する必要がなく、原料液への銀塩溶液の投入と接触を続けながら、接触後の水性溶液の回収を続けることができる。当該方法においては、銀塩溶液の原料液への投入と回収は、連続的に行っても、又は断続的に行ってもよい。該投入と回収のタイミングは、一致させてもよいが、それぞれ独立に設定することができる。好ましくは、当該方法において、銀塩溶液の原料への投入と回収は連続的に行われる。
【0082】
該原料液と接触させた後の銀塩溶液の回収は、吸引管等での吸引、反応槽の下部に設けた出口から水相を流出させること、などによって行うことができる。
【0083】
本実施形態の方法の一態様においては、該PUFAのアルキルエステルを含有する原料液もまた、連続的又は断続的に反応槽に投入され得る。好ましくは、該原料液は、該反応槽の下部から該槽内に投入され、銀塩溶液と接触した後、該反応槽の上部で該反応槽から排出される。好ましくは、該原料液は、該反応槽の上部に設けた排出口を通して該反応槽から排出される。該原料液の投入と回収は、連続的に行っても、又は断続的に行ってもよく、また該投入と回収のタイミングは、銀塩溶液の投入及び回収にあわせてもよく、またはそれらと独立に設定してもよい。
【0084】
本実施形態の方法においては、次に、上記の手順で回収されたPUFA-銀錯体を含む銀塩溶液から、有機溶媒を用いてPUFAアルキルエステルを抽出する。抽出の手順は、特許文献1~4に記載された方法に従って行うことができる。本手順で使用する有機溶媒としては、ヘキサン、エーテル、酢酸エチル、酢酸ブチル、クロロホルム、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン等の、EPA、DHA、DPA等のアルキルエステルの溶解性が高く、且つ水と分離可能な溶媒が挙げられるが、ヘキサン又はシクロヘキサンが好ましい。
【0085】
好ましくは、本実施形態の方法においては、原料液と接触させた後のPUFA-銀錯体を含む銀塩溶液は、次いで第2の反応槽内(すなわち抽出槽)に移送され、該第2の反応槽内の有機溶媒に投入される。投入された銀塩溶液は、比重の違いにより該有機溶媒中を下降して、該有機溶媒と接触する。この接触によって、該銀塩溶液中のPUFAアルキルエステルが有機溶媒に抽出される。
【0086】
該有機溶媒と接触するときの該銀塩溶液の温度は、好ましくは30~80℃、より好ましくは50~70℃である。有機溶媒との接触の際の銀塩溶液の温度を上記範囲に維持するための方法としては、該銀塩溶液及び/又は有機溶媒を上記範囲に加温した後、それらを接触させる方法、該銀塩溶液と有機溶媒とを接触させるための反応槽の温度を上記範囲に維持する方法、およびそれらの方法の組み合わせが挙げられる。
【0087】
好ましくは、該有機溶媒は、該第2の反応槽内で所定の高さのある連続相を形成している。該有機溶媒と接触させる銀塩溶液は、該有機溶媒の連続相中を貫流する連続相であってもよいが、好ましくは分散相である。該分散相は、液滴状又は霧状の形態であり得、上述した銀塩溶液を分散させることができる任意の方法によって形成することができる。該銀塩溶液は、該有機溶媒の連続相内、その上面、又はそれより上から投入することができるが、好ましくは該有機溶媒の連続相内の上部に投入される。
【0088】
該銀塩溶液の有機溶媒との接触時間(該有機溶媒中滞留時間)を長くすれば、該有機溶媒へのPUFAアルキルエステルの抽出が促進される。接触時間は、有機溶媒の連続相の高さ、銀塩溶液の分散相の大きさ(液滴の粒径等)などを変更することによって、調節することができる。例えば、該有機溶媒は、高さ30cm以上、好ましくは高さ50~300cmの連続相であり、かつ該銀塩溶液は、0.01~0.2cm程度の粒径の液滴に調製され、例えば分散相形成にノズルを用いる場合は、ノズル1本あたり流量0.1~50g/分で該有機溶媒に滴下される。有機溶媒の連続相の高さは、有機溶媒と銀塩溶液が接触する最大距離、例えば反応槽上部の銀塩溶液投入口の位置から、反応槽下部に形成された銀塩溶液の水相と有機溶媒との界面までの距離である。
【0089】
該銀塩溶液と接触させた後の有機溶媒を回収すれば、PUFAアルキルエステルを含む有機溶媒を得ることができる。好ましくは、該第2の反応槽内にある有機溶媒の上層が回収される。好ましくは、該有機溶媒は、該第2の反応槽の下部から該槽内に投入され、該銀塩溶液と接触した後、該反応槽の上部から回収される。該有機溶媒の回収は、有機溶媒の上層を吸引管等で吸引したり、該第2の反応槽の上部に設けた出口から有機溶媒を流出させることなどによって行うことができる。
【0090】
回収された有機溶媒は、PUFA含有組成物として取得される。該組成物は、該原料液から分離されたPUFA、好ましくはEPA、AA、ETA、DHA、又はDPAのアルキルエステルを含有する。回収された有機溶媒は、必要に応じて蒸留などによってさらに精製されてもよい。本実施形態の方法により得られたPUFA含有組成物は、含有する全脂肪酸中に、好ましくはEPA、DHA及びDPAからなる群より選択される少なくとも1種のPUFAのアルキルエステル、より好ましくはEPA及び/又はDHAのアルキルエステルを、70質量%以上、より好ましくは80質量%以上含有し、さらに好ましくは、EPAのアルキルエステルを50質量%以上、なお好ましくは70質量%以上含有する。
【0091】
該第2の反応槽内で有機溶媒と接触した後の銀塩溶液は、該有機溶媒の底部に水相を形成するので、該反応槽から容易に排出することができる。好ましくは、該原料液は、該第2の反応槽の下部に設けた排出口を通して該反応槽から排出される。一方、有機溶媒は、第2の反応槽内から回収される一方で、新たに投入される。好ましくは、該第2の反応槽の下部から該槽内に投入される。
【0092】
好ましくは、該第2の反応槽での銀塩溶液及び有機溶媒への投入と回収は、連続的又は断続的に行われ、該投入と回収のタイミングは、一致させてもよいが、それぞれ独立に設定することができる。より好ましくは、該投入と回収は連続的に行われる。
【0093】
本実施形態の方法においては、銀塩溶液の有機溶媒への投入と、該有機溶媒の回収とが並行して行われる。すなわち、当該方法においては、有機溶媒への銀塩溶液の投入と接触を続けながら、接触後の有機溶媒又は水性溶液の回収を続けることができる。好ましくは、該水性溶液及び有機溶媒への投入と回収が、全て並行して行われる。
【0094】
本実施形態の方法のさらに好ましい態様において、該原料液と銀塩を含む水性溶液との接触工程では、第1の反応槽の上部から該水性溶液を投入するとともに、該第1の反応槽の下部から該PUFAのアルキルエステルを含有する原料液を投入する。投入された水性溶液と原料液は、比重の違いにより、それぞれ互いの下方及び上方に移動する。これによって、該水性溶液と該原料液とを、該反応槽内で互いに向流させて接触させる。好ましくは、該原料液は連続相であり、一方、該水性溶液は、該原料液の連続相中を通過しながら下方に流れる。該水性溶液は、連続相でもよいが、好ましくは分散相である。該原料液の相を通過した水性溶液は、該原料液の相の下に、PUFAと銀塩との錯体を含む水相を形成する。したがって、該水相は、該反応槽における原料液の投入口よりも下部から回収され得る。好ましくは、該反応槽の原料液の投入口の下部には、該水相を回収するための出口が設けられており、該出口を通して該水相が回収される。
【0095】
本実施形態の方法のさらに好ましい態様において、該有機溶媒と水性溶液との接触工程では、第2の反応槽の上部から該水性溶液を投入するとともに、該第2の反応槽の下部から有機溶媒を投入する。投入された水性溶液と有機溶媒は、比重の違いにより、それぞれ互いの下方及び上方に移動する。これによって、該水性溶液と該有機溶媒とを、該反応槽内で互いに向流させて接触させる。好ましくは、該有機溶媒は連続相であり、一方、該水性溶液は、該有機溶媒の連続相中を通過しながら下方に流れる。該水性溶液は、連続相でもよいが、好ましくは分散相である。該有機溶媒は、該水性溶液の相の上に有機相を形成することができ、一方、該水性溶液は、該有機溶媒の相の下に水相を形成する。したがって、該有機相は、該第2の反応槽における水性溶液の投入口よりも上部から回収され得、一方、該水相は、該反応槽における有機溶媒の投入口よりも下部から回収され得る。好ましくは、該反応槽の有機溶媒の投入口の下部には該水相を回収するための出口が設けられ、該出口を通して該水相が回収され、かつ該反応槽の水性溶液の投入口の上部には該有機相を回収するための出口が設けられ、該出口を通して該有機相が回収される。該第2の反応槽から回収された有機相は、必要に応じてさらに精製され、PUFA含有組成物として取得される。
【0096】
例えば、本実施形態の方法では、該第2の反応槽から排出された有機溶媒と接触させた後の銀塩溶液を、回収した後、さらなる反応槽内で上記と同様の手順により新たな有機溶媒と接触させてもよい。さらに、この新たな有機溶媒との接触工程を2回以上繰り返してもよい。
【0097】
好ましくは、該銀塩溶液は、一連の有機溶媒との接触工程を経た後、回収されて、上述した原料液との接触工程に再利用される。回収された水性溶液は、そのまま該第1の反応槽に移送されて原料液に投入されてもよいが、銀塩の濃度を適宜調製してから再利用されてもよい。よって好ましくは、該第1の反応槽において該原料液に投入される銀塩溶液は、該有機溶媒と接触させた後に該第2の反応槽(又はさらなる反応槽)から回収された水性溶液を含有する。
【0098】
したがって、好ましくは、本実施形態によるPUFA含有組成物の製造方法は、銀塩溶液を該第1の反応槽と第2の反応槽(又はさらなる反応槽)との間で循環させながら、該銀塩溶液と原料液との接触と、それによって得られたPUFA-銀錯体を含む銀塩溶液と有機溶媒との接触を連続的に行う方法であり得る。
【0099】
好ましくは、該原料液と銀塩溶液との接触が行われる反応槽(第1の反応槽)、及び該有機溶媒と銀塩溶液との接触が行われる反応槽(第2及びさらなる反応槽)は、いずれも密閉系である。また好ましくは、これらの反応槽は遮光されている。さらに、これらの反応槽内を窒素雰囲気下においてもよい。このような反応槽を用いることにより、槽内でのPUFA及び銀塩の酸化が防止される。
【0100】
(3-2.製造用装置)
上記(3-1)で述べたような向流による、銀塩溶液と原料液との接触、及び銀塩溶液と有機溶媒との接触に基づいたPUFA含有組成物の製造用の装置の例示的実施形態を開示する。
【0101】
一実施形態において、当該PUFA含有組成物の製造用の装置は、
第1の反応槽を備え、
該第1の反応槽は、高度不飽和脂肪酸のアルキルエステルを含有する原料液を該反応槽に投入するための原料液投入口と、銀塩を含む水性溶液を該反応槽に投入するための水性溶液投入口と、該原料液と接触させた後の水性溶液を回収するための水性溶液回収口と、該水性溶液と接触させた後の原料液を回収するための原料液回収口とを備え、
該原料液投入口は、該第1の反応槽の下部であって、かつ該水性溶液回収口よりも上部に配置されており、
該水性溶液投入口は、該第1の反応槽の上部であって、かつ該原料液投入口よりも上部であるが該原料液回収口よりも下部に配置されている、
装置である。当該装置において、該水性溶液投入口から投入された該水性溶液は該第1の反応槽内を下方に向けて流れる一方、該原料液投入口から投入された該原料液は該第1の反応槽内を上方に向けて流れる。それによって、該水性溶液と該原料液は、該第1の反応槽内で互いに向流して接触し、かつ接触後の該水性溶液は、該水性溶液回収口から該反応槽外へと回収される。
【0102】
さらなる実施形態において、当該PUFA含有組成物の製造用の装置は、
第2の反応槽をさらに備え、
該第2の反応槽は、有機溶媒を該反応槽に投入するための有機溶媒投入口と、前記水性溶液回収口から回収された水性溶液を該反応槽に投入するための水性溶液投入口と、該有機溶媒と接触した後の水性溶液を回収するための水性溶液回収口と、該水性溶液と接触させた後の有機溶媒を回収するための有機溶媒回収口とを備え、
該有機溶媒投入口は、該第2の反応槽の下部であって、かつ該水性溶液回収口よりも上部に配置されており、
該水性溶液投入口は、該第2の反応槽の上部であって、かつ該有機溶媒投入口よりも上部であるが該有機溶媒回収口よりも下部に配置されている、
装置である。当該装置において、該水性溶液投入口から投入された該水性溶液は該第2の反応槽内を下方に向けて流れる一方、該有機溶媒投入口から投入された該有機溶媒は該第2の反応槽内を上方に向けて流れる。それによって、該水性溶液と該有機溶媒は、該第2の反応槽内で互いに向流して接触し、かつ接触後の該水性溶液は、該水性溶液回収口から該第2の反応槽外へと回収される。
【0103】
当該装置において、該第1の反応槽(いわゆる反応槽)及び該第2の反応槽(いわゆる抽出槽)は流体連絡されている。該第1の反応槽の水性溶液回収口から回収された銀塩溶液は、該第2の反応槽の水性溶液投入口からその内部へ投入される。好ましくは、該第2の反応槽の水性溶液回収口から回収された銀塩溶液は、該第1の反応槽の水性溶液投入口に還流される。
【0104】
あるいは、当該装置は、該第2の反応槽と流体連絡された1つ以上のさらなる反応槽を備えていてもよい。該さらなる反応槽は、該第2の反応槽と同様の構造を備えており、該第2の反応槽から回収された銀塩溶液と新たな有機溶媒との接触に使用される。該第2の反応槽の水性溶液回収口から回収された水性溶液は、該さらなる反応槽の水性溶液投入口から当該槽の内部へ投入される。好ましくは、該1つ以上のさらなる反応槽での反応を経た後回収された銀塩溶液は、該第1の反応槽の水性溶液投入口に還流される。
【0105】
好ましくは、該第1及び第2の反応槽は縦長の反応塔である。好ましくは、該第1の反応槽において、該原料液投入口と該水性溶液投入口の高さの差は、20cm以上であり、好ましくは高さ40~300cmである。また好ましくは、該第2の反応槽において、該有機溶媒投入口と該水性溶液投入口の高さの差は、20cm以上であり、好ましくは高さ40~300cmである。
【0106】
好ましくは、該第1及び第2の反応槽は密閉系であり、内部のPUFA及び銀塩の酸化を防止する。
【0107】
好ましくは、当該装置は、該第1又は第2の反応槽に投入する銀塩溶液を分散相にするための液分配器を備える。該液分配器の例としては、該第1もしくは第2の反応槽内へ該銀塩溶液を噴射する噴射ノズル、該第1もしくは第2の反応槽内への該銀塩溶液の投入経路に設けられた振動機又はリキッドディストリビューター、多孔質分散板などが挙げられる。
【0108】
好ましくは、当該装置は、該第1又は第2の反応槽内での銀塩溶液の温度を調節するための温度調節器を備える。該温度調節器の例としては、該第1又は第2の反応槽に投入する前の原料液、有機溶媒又は銀塩溶液を加温又は冷却するためのヒーター又はクーラー、反応槽内部全体の温度を加温又は冷却するためのヒーター又はクーラー、などが挙げられる。好ましくは、該温度調節器により、該第1の反応槽内での銀塩溶液の温度は5~30℃に調節され、該第2の反応槽内での銀塩溶液の温度は30~80℃に調節される。
【0109】
第1の反応槽から第2の反応槽への銀塩溶液の移送経路を備えた装置の一実施形態を、図4に示す。図4の装置は、第1の反応槽1と、第2の反応槽2を備える。第1の反応槽1は、原料液投入口11、原料液回収口12、水性溶液投入口13、及び水性溶液回収口14を備える。第2の反応槽2は、有機溶媒投入口21、有機溶媒回収口22、水性溶液投入口23、及び水性溶液回収口24を備える。第1の反応槽1に水性溶液投入口13から投入された銀塩溶液100は、反応槽1内を下降し、原料液200と向流し、反応槽1の下部にある水性溶液回収口14から回収される。回収された銀塩溶液100は、第2の反応槽2に水性溶液投入口23から投入され、反応槽2内を下降し、有機溶媒300と向流し、反応槽2の下部にある水性溶液回収口24から回収される。反応槽2から回収された銀塩溶液100は、水性溶液投入口13から、再び第1の反応槽1に投入される。反応槽1及び2は、銀塩溶液100を分散させるための液分配器31及び32をそれぞれ備える。液分配器31及び32はスタック状の分散板の形態を有する。また図4の装置は、反応槽2から回収された有機溶媒を濃縮してPUFAを精製するための濃縮器40を備える。図4の濃縮器40は蒸留器であり、有機溶媒300はここで蒸留される。濃縮器40から回収された有機溶媒は反応槽2に戻されて再利用することができる。
【0110】
上述した構成を有する装置の例としては、特開2004-243203号公報に記載される液液抽出装置が挙げられる。本発明は、当該装置のPUFA原料と銀塩との反応によるPUFA含有組成物の製造への応用という、当該装置の新たな用途を提供する。
【0111】
(3.3)利点
本項に開示した本発明のPUFA含有組成物の製造方法では、PUFAを含む原料液と銀塩溶液とを効率よく接触させることができるので、原料からのPUFAの抽出のために多量の銀塩溶液を使用しなくともよく、また抽出効率を高めるために原料液と銀塩溶液との混合液を撹拌する必要がない。当該方法によれば、従来法(原料液と銀塩溶液との撹拌混合)と比べて、PUFA抽出に必要な銀塩溶液の量を1/2~1/20に減量させることができる。さらに当該方法によれば、抽出されたPUFAを含む銀塩溶液が他の液体から分離されるので、その回収のために抽出操作を止める必要がなく、PUFAの抽出及び回収の操作を連続的に行うことができる。本発明は、高効率かつ低コストなPUFA製造法を提供する。
【実施例
【0112】
以下、実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例にのみ限定されるものではない。
【0113】
<試験例1 PUFA含有組成物の脂肪酸組成分析>
以下の試験例1において分析した脂肪酸は、以下のとおりである:AA-E:アラキドン酸エステル、DPA-E:ドコサペンタエン酸エステル、DHA-E:ドコサヘキサエン酸エステル、ETA-E:エイコサテトラエン酸エステル、EPA-E:エイコサペンタエン酸エステル。
【0114】
脂肪酸組成比の分析方法は次のとおりである。
測定試料12.5mgをn-ヘキサン1mLに希釈し、ガスクロマトグラフィー分析装置(Type 7890 GC;Agilent Technologies製)を用いて、以下の条件にて全脂肪酸中における各脂肪酸の含有比を分析した。結果は、クロマトグラムの面積から換算した質量%として表した。
<注入口条件>
注入口温度:250℃、スプリット比:10
<カラム条件>
カラム:J&W社製DB-WAX 0.25mm×30m、カラム温度:210℃
He流量:1.0mL/min、He圧力:20PSI
<検出条件>
流量:40mL/min、Air流量:450mL/min
He流量:1.00mL/min、DET温度:260℃
【0115】
AA-E/EPA-E面百比及びETA-E/EPA-E面百比の算出方法は次のとおりである。
【数1】
【0116】
EPA-E面百値、DHA-E面百値及びDPA-E面百値の算出方法は次のとおりである。
【数2】
【0117】
オイル回収率及びEPA-E回収率の算出方法は次のとおりである。
【数3】
【0118】
(実施例1)
原料油5gとシクロヘキサン2.7mLとをよく混合して溶解させ、カラム(内径10mm、長さ28cm)に充填した(原料油溶液高さ9.5cm)。この原料油溶液の上から、内径約1mmのノズルチップの先端より、硝酸銀50質量%の水溶液20gを2g/分の流量で滴下した。並行して、カラム内に充填した原料油溶液が高さ9.5cmを維持するように、カラム下部に蓄積した水相を2g/分の流量で回収した。回収した水相を60℃に加温し、シクロヘキサン23.3mLを加え、60℃の条件下で30分間、300rpmの速度にて攪拌して、水相中の脂肪酸エチルエステルを有機相に抽出した。攪拌後の液体を静置し、分離した有機相を回収した後、濃縮して、脂肪酸エチルエステル含有組成物を得た。
【0119】
(実施例2)
原料油溶液に滴下する硝酸銀水溶液を振動機にて微細化したこと以外は、実施例1と同様の手順で脂肪酸エチルエステル含有組成物を得た。
【0120】
(実施例3)
原料油10gとシクロヘキサン5.4mLとをよく混合して溶解させ、カラムA(内径6.75mm、長さ48cm)に充填した(原料油溶液高さ116cm)。この原料油溶液の上から、内径約1mmのノズルチップの先端より、硝酸銀50質量%の水溶液4gを振動機にて微細化しながら、1g/分の流量で滴下した。並行して、カラムA内に充填した原料油溶液が高さ116cmを維持するように、カラムA下部に蓄積した水相を1g/分の流量で回収した。次いで、回収した水相をカラムB(カラムAと同サイズ)の上部から注入しながら、60℃のシクロヘキサンを下部から注入することで、水相中の脂肪酸エチルエステルを有機相に抽出した。脂肪酸エチルエステル抽出後の硝酸銀水溶液は、カラムB下部から回収した後再びカラムAに戻し、繰り返し使用した(4gの硝酸銀水溶液を原料油溶液に2.5回通過させ、10分間連続注入した。合計で10gの硝酸銀水溶液と原料油溶液が接触した。)。脂肪酸エチルエステルを抽出した有機相をカラムB上部から回収し、濃縮して、脂肪酸エチルエステル含有組成物を得た。
【0121】
(実施例4)
原料油50gとシクロヘキサン23.3mLとをよく混合して溶解させ、カラムA(内径9.4mm、長さ130cm)に充填した(原料油溶液高さ116cm)。この原料油溶液の上から、内径約1mmのノズルチップの先端より、硝酸銀50質量%の水溶液20gを振動機にて微細化しながら、1g/分の流量で滴下した。並行して、カラムA内に充填した原料油溶液が高さ116cmを維持するように、カラムA下部に蓄積した水相を1g/分の流量で回収した。次いで、回収した水相をカラムB(カラムAと同サイズ)の上部から注入しながら、60℃のシクロヘキサンを下部から注入することで、水相中の脂肪酸エチルエステルを有機相に抽出した。脂肪酸エチルエステルを抽出した硝酸銀水溶液は、カラムB下部から回収した後再びカラムAに戻し繰り返し使用した(20gの硝酸銀水溶液を原料油溶液に2.5回通過させ、50分間連続注入した。合計で50gの硝酸銀水溶液と原料油溶液が接触した。)。脂肪酸エチルエステルを抽出した有機相をカラムB上部から回収し、濃縮して、脂肪酸エチルエステル含有組成物を得た。
【0122】
(実施例5)
実施例4と同様の手順で、脂肪酸エチルエステル含有組成物を得た。但し、20gの硝酸銀水溶液を原料油溶液に10回通過させ、200分間連続注入した。合計で200gの硝酸銀水溶液と原料油溶液が接触した。
【0123】
(比較例1)
原料油50gにシクロヘキサン23.3mLを加えてよく攪拌混合し、溶解させた。ここに硝酸銀50質量%の水溶液200gを加え、20℃の条件下で40分間、450rpmの速度にて攪拌した。攪拌後の液体を静置し、分離した有機相を除去し、水相を回収した。得られた水相を60℃に加温し、シクロヘキサン233mLを加え、60℃の条件下で30分間、300rpmの速度にて攪拌して、水相中の脂肪酸エチルエステルを有機相に抽出した。攪拌後の液体を静置し、分離した有機相を回収した後、濃縮して、脂肪酸エチルエステル含有組成物を得た。
【0124】
実施例1~5及び比較例1で製造した組成物における、全脂肪酸に対する各脂肪酸の組成比、オイル回収率及びEPA回収率を求めた。表1に示すとおり、オイル回収率とEPA-E回収率は、硝酸銀水溶液の原料油溶液への通過回数又は滞留時間とともに、あるいは硝酸銀水溶液を微細化することにより向上した。さらに表2に示すとおり、滞留時間の長い実施例5では、比較例1(撹拌混合による従来法)と比べて、硝酸銀水溶液の使用量が1/10であったにもかかわらず、AA-E及びETA-Eの対EPA-E面百比が低下し、EPA-E回収率とオイル回収率も向上した。硝酸銀水溶液を滴下及び回収して繰り返し使用することにより、少量の硝酸銀水溶液でも高いオイル収率とEPA回収率を達成することができる。なお、比較例1の従来法では、滞留時間40分以内に脂肪酸の回収は完了し、滞留時間を延長しても回収率は向上しないことが確認されている。
【0125】
【表1】
【0126】
【表2】
【0127】
(実施例6)
原料油50gとシクロヘキサン23.3mLとをよく混合して溶解させ、カラム(内径9.4mm、長さ130cm)に充填した(原料油溶液高さ116cm)。この原料油溶液の上から、内径約1mmのノズルチップの先端より、硝酸銀50質量%の水溶液10gを振動機にて微細化しながら、2g/分の流量で滴下した。並行して、カラム内に充填した原料油溶液が高さ116cmを維持するように、カラム下部に蓄積した水相を2g/分の流量で回収した。回収した水相を60℃に加温し、シクロヘキサン11.7mLを加えて水相中の脂肪酸エチルエステルを有機相に抽出し、分液、濃縮することで脂肪酸エチルエステル含有組成物と50質量%硝酸銀水溶液10gを得た。
次いで、カラム内の原料油溶液を2mL抜き取る一方、カラム内での原料油溶液の高さが116cmとなるようにフレッシュな原料油溶液を追加した。そこに、上記脂肪酸エチルエステルから分離された10gの硝酸銀水溶液を滴下して、上記と同様の手順で脂肪酸エチルエステル含有組成物の分離を行った。これらの操作を50回繰り返し、集めた脂肪酸エチルエステル含有組成物の組成を分析した。
【0128】
(実施例7)
原料油71.4gをカラム(内径10.0mm、長さ126cm)に充填した(原料油高さ100cm)。この原料油の上から、内径約1mmのノズルチップの先端より、硝酸銀50質量%の水溶液50gを振動機にて微細化しながら、3.5g/分の流量で滴下した。並行して、カラム下部に蓄積した水相を3.5g/分の流量で回収し、またカラム下部からフレッシュな原料油を1.5g/分の流速で注入しながら、カラム上部から1.5g/分の流速で原料油を抜き取った。これによって、カラム内に充填した原料油は高さ100cmを維持した。回収した水相を60℃に加温し、シクロヘキサン233.3mLを加えて水相中の脂肪酸エチルエステルを有機相に抽出し、分液、濃縮することで脂肪酸エチルエステル含有組成物と50質量%硝酸銀水溶液50gを得た。得られた50gの硝酸銀水溶液をカラムに戻し、上記と同様の手順で脂肪酸エチルエステル含有組成物の分離を7回繰り返し行った。集めた脂肪酸エチルエステル含有組成物の組成を分析した。
【0129】
実施例6と7で得られた脂肪酸エチルエステル含有組成物の脂肪酸組成の分析結果を表3に示す。また、硝酸銀水溶液の繰り返し使用に従う脂肪酸エチルエステル含有組成物の脂肪酸組成の変化を、実施例6について図5、実施例7について図6に示す。繰り返し操作に従って、脂肪酸エチルエステル含有組成物中のEPA-EとDHA-Eの組成比は一定となる一方で、AA-EとETA-Eの組成比は上昇する傾向にあった。
【0130】
【表3】
【0131】
<試験例2 銀塩溶液の劣化レベルの評価>
(参考例1)脂肪酸組成比の分析
測定試料12.5mgをn-ヘキサン1mLに希釈し、ガスクロマトグラフィー分析装置(Type 7890 GC;Agilent Technologies製)を用いて、以下の条件にて全脂肪酸中における各脂肪酸の含有比を分析した。結果は、クロマトグラムの面積から換算した質量%として表した。
<注入口条件>
注入口温度:250℃、スプリット比:10
<カラム条件>
カラム:J&W社製DB-WAX 0.25mm×30m、カラム温度:210℃
He流量:1.0mL/min、He圧力:20PSI
<検出条件>
流量:40mL/min、Air流量:450mL/min
He流量:1.00mL/min、DET温度:260℃
【0132】
分析した脂肪酸は、以下のとおりである:AA-E:アラキドン酸エチルエステル、DPA-E:ドコサペンタエン酸エチルエステル、DHA-E:ドコサヘキサエン酸エチルエステル、ETA-E:エイコサテトラエン酸エチルエステル、EPA-E:エイコサペンタエン酸エチルエステル。
【0133】
(参考例2)銀塩溶液における遊離脂肪酸含有量の測定方法
1.標準溶液の調製
(1)ミリスチン酸0.114gを100mLメスフラスコに取り、ジメチルスルホキシドで100mLにメスアップした。
(2)別に100mLメスフラスコにトリエタノールアミン1.5gを取り、純水で100mLにメスアップした。
(3)別に100mLメスフラスコにエチレンジアミン四酢酸四ナトリウム四水和物0.10gを取り、純水で100mLにメスアップした。
(4)(1)の溶液20mL、(2)の溶液10mL、(3)の溶液10mLを100mLメスフラスコに取り、純水で100mLにメスアップして標準溶液とした。
【0134】
2.銅試液の調製
(1)硫酸銅(II)五水和物6.49g及び塩化ナトリウム20.0gをビーカーに取り、純水で溶かし、100mLメスフラスコに移し、ビーカーの洗液をあわせた後、純水で100mLにメスアップした。
(2)別に100mLメスフラスコにトリエタノールアミン14.9gを取り、純水で100mLにメスアップした。
(3)(1)の溶液と(2)の溶液を同量(容量比)で混合し、銅試液とした。
【0135】
3.発色試液の調製
バソクプロイン0.189gを250mLメスフラスコに取り、2-ブタノールで250mLにメスアップした。
【0136】
4.操作手順
(1)銀塩溶液5μL、標準溶液500μLをそれぞれキャップ付き試験管に取り、銅試液1mLを加えた。
(2)クロロホルム/ヘプタン混液(容量比1/1)3mLをそれぞれの試験管に加え、キャップを締めて3分間激しく手で振とうした。
(3)振とう後キャップを外して遠心分離(3,000rpm)を行った。
(4)上澄み液2mLを採取し、別の試験管にいれ、発色試液2mLを加えて軽く振り混ぜた。
(5)2~3分後、純水を対照として475nmの吸光度を測定した。
【0137】
5.計算式
下記の式(1)により、銀水溶液中の遊離脂肪酸濃度を算出した。
(式1)遊離脂肪酸濃度(meq/L)=(B/A)×(D/C)
A:標準溶液を用いたときの吸光度
B:試料溶液を用いたときの吸光度
C:試料採取量(μL)
D:標準溶液採取量(μL)
【0138】
(材料)
原料油:AA-E 2.6%、ETA-E 1.7%、EPA-E 44.5
%、DPA-E 2.1%、DHA-E 7.4%、
過酸化物価(POV)=1.0mEq/kg、
酸価(AV)=0.1mg/g
銀塩溶液:50質量%硝酸銀水溶液
有機溶媒:シクロヘキサン
反応槽、抽出槽:
実施例8;カラム(内径20mm、長さ20cm、円筒型)
銀塩溶液投入口(ノズル、内径約1mm)の先端の位置は連
続有機相(原料液、有機溶媒)の上面下2cm以内、銀塩溶
液回収口はカラム下部
実施例9;ガラス管(内径3mm、長さ45cm、円筒型)
管内に金属メッシュを充填
【0139】
(実施例8)
向流を利用した連続方式により原料油からPUFAエチルエステルを精製した。原料油30gに対し有機溶媒14mLの比率で混合し、溶解させて原料液を得た。得られた原料液47mLを、第一のカラム(反応槽)に充填し、上部からアルゴンガスを吹き込みカラム内から空気を追い出した(カラム内酸素濃度0.1%以下)。カラム内の投入口より、銀塩溶液120gを10g/分の流量で滴下し、原料液と銀塩溶液を接触させた。滴下する銀塩溶液は振動機にて微細化した。銀塩溶液の滴下と並行して、カラム下部に蓄積した水相を11g/分の量で回収した。カラムの投入口のノズル先端から水相上面までの距離は13cmを維持した。続いて60℃の有機溶媒で充填した第二のカラム(抽出槽、アルゴンガスを吹き込み、空気を追い出した)に、カラム内の投入口より、第一のカラムから回収した水相(PUFAエチルエステルを含む銀塩溶液)を11g/分の流量で滴下し有機溶媒を接触させて、水相中のPUFAエチルエステルを有機相に抽出した。水相の滴下と並行して、第二のカラム下部に蓄積した銀塩溶液を10g/分の流量で回収した。第二のカラムの投入口のノズル先端から水相上面までの距離は13cmを維持した。第二のカラムより有機相を分離し、回収した後、濃縮して、PUFAエチルエステル含有組成物を得た。第二のカラムより回収した水相(銀塩溶液)は、一部を遊離脂肪酸含有量の測定にあて、残りは再使用した。以上の一連の操作を1プロセスとして、このプロセスを繰り返し、遊離脂肪酸含有量に基づいて銀塩溶液の繰り返し使用における経時的な劣化を観察した。第一のカラム内の原料液及び第二のカラム内の有機溶媒は、プロセスの都度新しいものと入れ換えた。
【0140】
(実施例9)
並行流を利用した連続方式により原料油からPUFAエチルエステルを精製した。原料油30gに対し有機溶媒14mLの比率で混合し、溶解させて原料液を得た。得られた原料液と銀塩溶液を第一のガラス管(反応槽)の一端(投入口)から管内に並行流入させ、互いに接触させた。120gの銀塩溶液は30g/分の流量でガラス管に流入させ、41gの原料液は10.3g/分の流量でガラス管に流入させた。
【0141】
銀塩溶液と原料液は、投入口に接続した内径5.5mmのガラス管を使用して反応槽に圧入した。第一のガラス管の反対側の端(回収口)は分配槽(カラム)に直結させ、該分配槽の下部に蓄積した水相(PUFAエチルエステルを含む銀塩溶液)は33g/分の流量にて第二のガラス管(抽出槽)の一端から管内に圧入した。並行して、140mLの有機溶媒を35mL/分の流量にて第二のガラス管の同じ端から流入させ、水相と有機溶媒を接触させて水相中のPUFAエチルエステルを抽出した。第二のガラス管の反対側の端(回収口)は第二の分配槽(カラム)に直結させ、該分配槽の下部に蓄積した水相(銀塩溶液)を有機相と分離し回収した。有機相から有機溶媒を留去して、PUFAエチルエステル含有組成物を得た。第二の分配槽より回収した水相(銀塩溶液)は、一部を遊離脂肪酸含有量の測定にあて、残りは再使用した。以上の一連の操作を1プロセスとして、このプロセスを繰り返し、遊離脂肪酸含有量に基づいて銀塩溶液の繰り返し使用における経時的な劣化を観察した。原料液及び有機溶媒は、プロセスの都度新しいものと入れ換えた。
【0142】
(比較例2)
バッチ法により原料油からPUFAエチルエステルを精製した。原料油30gと有機溶媒14mLとをよく攪拌混合し、溶解させて原料液を得た。フラスコに銀塩溶液120gと原料液41gを加え、窒素雰囲気(酸素濃度0.4%)下、20℃で20分間、300rpmの速度にて攪拌した。攪拌後の液体を15分間、20℃で静置し、分離した有機相を除去し、水相(PUFAエチルエステルを含む銀塩溶液)を回収した。得られた水相を60℃に加温し、有機溶媒140mLを加え、60℃の条件下で20分間、300rpmの速度にて攪拌して、水相中のPUFAエチルエステルを有機相に抽出した。攪拌後の液体を静置し、分離した有機相を回収した後、濃縮して、PUFAエチルエステル含有組成物を得た。残った水相(銀塩溶液)は回収して、一部を遊離脂肪酸含有量の測定にあて、残りは再使用した。以上の一連の操作を1プロセスとして、このプロセスを繰り返し、遊離脂肪酸含有量に基づいて銀塩溶液の経時的な劣化を観察した。原料液及び有機溶媒は、プロセスの都度新しいものと入れ換えた。
【0143】
(比較例3)
比較例1の5,000倍スケールにて、比較例2と同様の操作を行った。撹拌時間、撹拌速度、温度条件等は比較例2と同程度の条件にて行った。
【0144】
(試験例2-1)銀塩溶液の劣化レベル(遊離脂肪酸含有量)の比較
実施例8、実施例9及び比較例2における、銀塩溶液の繰り返し使用回数(プロセス数)に伴う遊離脂肪酸(FFA)含有量の経時的変化を図7に示す。
【0145】
(試験例2-2)処理時間と銀塩溶液劣化との関係
実施例8、実施例9、比較例2及び比較例3における、プロセス1回あたりの銀塩溶液のPUFA接触時間とFFA含有量の増加分の平均値(プロセス10回分)を表4に示す。銀塩溶液のPUFA接触時間とは、銀塩溶液中にPUFAエチルエステルと銀イオンとの錯体が存在している時間(すなわち、原料液に銀塩溶液を投入した時点から、有機溶媒により銀塩溶液からPUFAエチルエステル含有組成物が抽出されるまでの時間)である。言い換えると、反応槽内での銀塩溶液と原料液との接触時間、接触後の反応槽もしくは分配槽内での銀塩溶液の静置時間、抽出槽への液送時間、及び抽出槽内での銀塩溶液と有機溶媒との接触時間の合計値である。
【0146】
【表4】
【0147】
表4に示すとおり、銀塩溶液のFFA含有量は、PUFA接触時間に伴って増加した。連続方式を用いた実施例8、9では、バッチ方式による比較例2、3と比べて、銀塩溶液のPUFA接触時間がより短く、FFA含有量の増加も少なかった。このことから、実施例8、9では銀塩溶液の劣化が抑制されていたことが示された。
【0148】
(試験例2-3)銀塩溶液の使用量とPUFA収量との関係
実施例8、実施例9、比較例2及び比較例3における、銀塩溶液のFFA含有量が10mEq/Lおよび50mEq/Lを超過するまでに得られるPUFA含有組成物の合計収量を表5に示す。連続方式を用いた実施例8、9では、バッチ方式による比較例2、3と比べて、PUFA含有組成物の収量が、銀塩溶液のFFA含有量が10mEq/Lになったときで8倍以上、50mEq/Lになったときで25倍以上に増加した。このことから、実施例8、9では、PUFA含有組成物の生成に必要な銀塩溶液の量を、バッチ方式と比べて顕著に低減することができることが示された。
【0149】
【表5】
【0150】
(試験例2-4)銀塩溶液の劣化(色調変化)
実施例9と比較例3において30回繰り返し使用した銀塩溶液の外観と色調(ガードナー色数)を比較した。溶液のガードナー色数は、ガードナー標準液と比較して目視による官能試験を3人で行い、その平均値を採用することで評価した。結果を表6に示す。
【0151】
【表6】
【0152】
(試験例2-5)原料液POVと銀塩溶液劣化との関係
原料油の酸化劣化が銀塩溶液の劣化に与える影響を調べた。酸化指標(POV及びAV)の異なる下記原料油A~Fを用いて、実施例8又は9に従ってPUFAエチルエステル精製を行った。また、下記原料油E~Fを用いて、比較例2に従ってPUFAエチルエステル精製を行った。3回繰り返し使用(3プロセス)後における銀塩溶液のFFA含有量の変化を調べた。結果を表7に示す。
原料油A:POV=1.0mEq/kg、AV=0.1mg/g
原料油B:POV=1.0mEq/kg、AV=0.2mg/g
原料油C:POV=5.2mEq/kg、AV=0.2mg
原料油D:POV=11.6mEq/kg、AV=0.1mg
原料油E:POV=40.5mEq/kg、AV=0.2mg
原料油F:POV=1.3mEq/kg、AV=5.3mg
(脂肪酸組成はいずれも、AA-E 2.8%、ETA-E 1.8%、EPA-E 44.7%、DPA-E 2.0%、DHA-E 7.7%)
【0153】
【表7】
【符号の説明】
【0154】
1 第1の反応槽
2 第2の反応槽
11 原料液投入口
12 原料液回収口
13 水性溶液投入口
14 水性溶液回収口
21 有機溶媒投入口
22 有機溶媒回収口
23 水性溶液投入口
24 水性溶液回収口
31、32 液分配器
40 濃縮器
100 銀塩溶液
200 原料液
300 有機溶媒
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7