IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ マサチューセッツ アイ アンド イヤー インファーマリーの特許一覧 ▶ チルドレンズ メディカル センター コーポレーションの特許一覧 ▶ スケペンス アイ リサーチ インスティテュートの特許一覧

特許6990182蝸牛および前庭細胞に核酸を送達するための材料および方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-07
(45)【発行日】2022-02-15
(54)【発明の名称】蝸牛および前庭細胞に核酸を送達するための材料および方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/864 20060101AFI20220207BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20220207BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20220207BHJP
   A61P 25/02 20060101ALI20220207BHJP
   A61P 27/16 20060101ALI20220207BHJP
   C12N 15/113 20100101ALI20220207BHJP
   C07K 14/01 20060101ALI20220207BHJP
   C12N 15/33 20060101ALI20220207BHJP
   A61K 38/18 20060101ALN20220207BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20220207BHJP
   C12N 15/13 20060101ALN20220207BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20220207BHJP
【FI】
C12N15/864 100Z
A61K35/76
A61K48/00
A61P25/02 101
A61P27/16
C12N15/113 Z
C07K14/01
C12N15/33
A61K38/18
C12N15/12 ZNA
C12N15/13
C12N15/09 100
C12N15/09 110
【請求項の数】 34
(21)【出願番号】P 2018529927
(86)(22)【出願日】2016-12-12
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2018-12-13
(86)【国際出願番号】 US2016066225
(87)【国際公開番号】W WO2017100791
(87)【国際公開日】2017-06-15
【審査請求日】2019-10-24
(31)【優先権主張番号】62/266,462
(32)【優先日】2015-12-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/266,477
(32)【優先日】2015-12-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】511140770
【氏名又は名称】マサチューセッツ アイ アンド イヤー インファーマリー
(73)【特許権者】
【識別番号】596115687
【氏名又は名称】ザ チルドレンズ メディカル センター コーポレーション
(73)【特許権者】
【識別番号】516106623
【氏名又は名称】ザ スケペンス アイ リサーチ インスティテュート,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】スタンコヴィック,コンスタンティナ
(72)【発明者】
【氏名】ヴァンデンベルゲ,ルク エイチ.
(72)【発明者】
【氏名】ホルト,ジェフリー
(72)【発明者】
【氏名】ギャロック,グウェナエル
【審査官】松田 芳子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/075838(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/054653(WO,A2)
【文献】国際公開第2015/089462(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/134022(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/09
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1または配列番号2のアミノ酸配列を有するAnc80カプシドタンパク質、およびTMC1、TMC2、MYO7A、USCH1C、CDH23、PCDH15、SANS、CIB2、USH2A、VLGR1、WHRN、CLRN1、およびPDZD7からなる群から選択される1つまたは複数の導入遺伝子を含む、アデノ随伴ウイルス(AVV)ベクターを含む、聴覚障害を治療する方法において用いるための組成物であって、前記1つまたは複数の導入遺伝子が、対象の内耳中の内有毛細胞(IHC)の少なくとも80%および外有毛細胞(OHC)の少なくとも80%に送達される、組成物。
【請求項2】
配列番号1または配列番号2のアミノ酸配列を有するAnc80カプシドタンパク質および導入遺伝子を含むアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを含む、対象の内耳中の1つまたは複数の細胞に導入遺伝子を送達し、聴覚障害を治療するための組成物であって、
前記導入遺伝子が、対象の内耳中の内有毛細胞(IHC)の少なくとも80%および外有毛細胞(OHC)の少なくとも80%に送達される、組成物。
【請求項3】
前記導入遺伝子が、らせん神経節ニューロン、前庭有毛細胞、前庭神経節ニューロン、支持細胞および血管条中の細胞の一以上にさらに送達される、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記導入遺伝子が、ACTG1、ADCY1、ATOHI、ATP6V1B1、BDNF、BDP1、BSND、DATSPER2、CABP2、CD164、CDC14A、CDH23、CEACAM16、CHD7、CCDC50、CIB2、CLDN14、CLIC5、CLPP、CLRN1、COCH、COL2A1、COL4A3、COL4A4、COL4A5、COL9A1、COL9A2、COL11A1、COL11A2、CRYM、DCDC2、DFNA5、DFNB31、DFNB59、DIAPH1、EDN3、EDNRB、ELMOD3、EMOD3、EPS8、EPS8L2、ESPN、ESRRB、EYA1、EYA4、FAM65B、FOXI1、GIPC3、GJB2、GJB3、GJB6、GPR98、GRHL2、GPSM2、GRXCR1、GRXCR2、HARS2、HGF、HOMER2、HSD17B4、ILDR1、KARS、KCNE1、KCNJ10、KCNQ1、KCNQ4、KITLG、LARS2、LHFPL5、LOXHD1、LRTOMT、MARVELD2、MCM2、MET、MIR183、MIRN96、MITF、MSRB3、MT-RNR1、MT-TS1、MYH14、MYH9、MYO15A、MYO1A、MYO3A、MYO6、MYO7A、NARS2、NDP、NF2、NT3、OSBPL2、OTOA、OTOF、OTOG、OTOGL、P2RX2、PAX3、PCDH15、PDZD7、PJVK、PNPT1、POLR1D、POLR1C、POU3F4、POU4F3、PRPS1、PTPRQ、RDX、S1PR2、SANS、SEMA3E、SERPINB6、SLC17A8、SLC22A4、SLC26A4、SLC26A5、SIX1、SIX5、SMAC/DIABLO、SNAI2、SOX10、STRC、SYNE4、TBC1D24、TCOF1、TECTA、TIMM8A、TJP2、TNC、TMC1、TMC2、TMIE、TMEM132E、TMPRSS3、TRPN、TRIOBP、TSPEAR、USH1C、USH1G、USH2A、USH2D、VLGR1、WFS1、WHRN、およびXIAPからなる群から選択される、請求項2に記載の組成物。
【請求項5】
前記導入遺伝子が、神経栄養因子をコードする、請求項2に記載の組成物。
【請求項6】
前記神経栄養因子が、GDNF、BDNF、NT3およびHSP70からなる群から選択される、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
前記導入遺伝子が、抗体またはその断片をコードする、請求項2に記載の組成物。
【請求項8】
前記導入遺伝子が、免疫調節タンパク質をコードする、請求項2に記載の組成物。
【請求項9】
前記導入遺伝子が、抗発癌性転写物をコードする、請求項2に記載の組成物。
【請求項10】
前記導入遺伝子が、アンチセンス、サイレンシング、または長鎖非コードRNA種をコードする、請求項2に記載の組成物。
【請求項11】
前記導入遺伝子が、遺伝子操作されたジンクフィンガーヌクレアーゼ、TALENおよびCRISPRからなる群から選択されるゲノム編集システムをコードする、請求項2に記載の組成物。
【請求項12】
前記Anc80カプシドタンパク質が、配列番号1に示される配列を有する、請求項2
に記載の組成物。
【請求項13】
前記Anc80カプシドタンパク質が、配列番号2に示される配列を有する、請求項2
に記載の組成物。
【請求項14】
前記導入遺伝子が、異種プロモーター配列の制御下にある、請求項2に記載の組成物。
【請求項15】
前記異種プロモーター配列が、CMVプロモーター、CBAプロモーター、CASIプロモーター、PGKプロモーター、EF-1プロモーター、アルファ9ニコチン受容体プロモーター、プレスチンプロモーター、KCNQ4プロモーター、Myo7aプロモーター、Myo6プロモーター、Gfilプロモーター、Vglut3プロモーターおよびAtoh1プロモーターからなる群から選択される、請求項14に記載の組成物。
【請求項16】
前記投与するステップが、蝸牛窓を通してAAVベクターを注入することを含む、請求項2に記載の組成物。
【請求項17】
前記AAVベクターが、蝸牛窓を通る注入により投与される、請求項2に記載の組成物。
【請求項18】
前記AAVベクターが、蝸牛開窓術の間またはカナロストミーの間に投与される、請求項2に記載の組成物。
【請求項19】
前記AAVベクターが、1つまたは複数のドラッグデリバリービヒクルによって中耳および/または蝸牛窓に投与される、請求項2に記載の組成物。
【請求項20】
前記導入遺伝子の発現が、内有毛細胞(IHC)、外有毛細胞(OHC)、らせん神経節ニューロン、血管条、前庭有毛細胞および/または前庭神経節ニューロンの再生をもたらし、それによって、聴覚または前庭機能を回復させる、請求項3に記載の組成物。
【請求項21】
AAVベクターおよび医薬組成物を含む製造品であって、前記AAVベクターは、配列番号1または配列番号2のアミノ酸配列を有するAnc80カプシドタンパク質およびプロモーターに作動可能に連結された導入遺伝子を含み、導入遺伝子を、対象の内耳中の内有毛細胞(IHC)の少なくとも80%および外有毛細胞(OHC)の少なくとも80%に送達して聴覚障害を治療する方法において用いるための、製造品。
【請求項22】
前記導入遺伝子が、ACTG1、ADCY1、ATOHI、ATP6V1B1、BDNF、BDP1、BSND、DATSPER2、CABP2、CD164、CDC14A、CDH23、CEACAM16、CHD7、CCDC50、CIB2、CLDN14、CLIC5、CLPP、CLRN1、COCH、COL2A1、COL4A3、COL4A4、COL4A5、COL9A1、COL9A2、COL11A1、COL11A2、CRYM、DCDC2、DFNA5、DFNB31、DFNB59、DIAPH1、EDN3、EDNRB、ELMOD3、EMOD3、EPS8、EPS8L2、ESPN、ESRRB、EYA1、EYA4、FAM65B、FOXI1、GIPC3、GJB2、GJB3、GJB6、GPR98、GRHL2、GPSM2、GRXCR1、GRXCR2、HARS2、HGF、HOMER2、HSD17B4、ILDR1、KARS、KCNE1、KCNJ10、KCNQ1、KCNQ4、KITLG、LARS2、LHFPL5、LOXHD1、LRTOMT、MARVELD2、MCM2、MET、MIR183、MIRN96、MITF、MSRB3、MT-RNR1、MT-TS1、MYH14、MYH9、MYO15A、MYO1A、MYO3A、MYO6、MYO7A、NARS2、NDP、NF2、NT3、OSBPL2、OTOA、OTOF、OTOG、OTOGL、P2RX2、PAX3、PCDH15、PDZD7、PJVK、PNPT1、POLR1D、POLR1C、POU3F4、POU4F3、PRPS1、PTPRQ、RDX、S1PR2、SANS、SEMA3E、SERPINB6、SLC17A8、SLC22A4、SLC26A4、SLC26A5、SIX1、SIX5、SMAC/DIABLO、SNAI2、SOX10、STRC、SYNE4、TBC1D24、TCOF1、TECTA、TIMM8A、TJP2、TNC、TMC1、TMC2、TMIE、TMEM132E、TMPRSS3、TRPN、TRIOBP、TSPEAR、USH1C、USH1G、USH2A、USH2D、VLGR1、WFS1、WHRN、およびXIAPからなる群から選択される、請求項21に記載の製造品。
【請求項23】
アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを含む、対象の内耳中の1つまたは複数の細胞にTMC1またはTMC2導入遺伝子を送達するための組成物であって、
前記AAVベクターは、配列番号1または配列番号2のアミノ酸配列を有するAnc80カプシドタンパク質および導入遺伝子を含み、TMC1またはTMC2導入遺伝子が、聴覚障害を治療するために対象の内耳中の内有毛細胞(IHC)の少なくとも80%および外有毛細胞(OHC)の少なくとも80%に送達される、組成物。
【請求項24】
アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを含む、対象の内耳中の1つまたは複数の細胞にアッシャー導入遺伝子を送達するための組成物であって、
前記AAVベクターは、配列番号1または配列番号2のアミノ酸配列を有するAnc80カプシドタンパク質および導入遺伝子を含み、アッシャー導入遺伝子が、聴覚障害を治療するために対象の内耳中の内有毛細胞(IHC)の少なくとも80%および外有毛細胞(OHC)の少なくとも80%に送達される、組成物。
【請求項25】
前記アッシャー導入遺伝子が、MYO7A、USCH1C、CDH23、PCDH15、SANS、CIB2、USH2A、VLGR1、WHRN、CLRN1、PDZD7からなる群から選択される、請求項24に記載の組成物。
【請求項26】
前記Anc80カプシドタンパク質が、配列番号1に示される配列を有する、請求項23または24に記載の組成物。
【請求項27】
前記Anc80カプシドタンパク質が、配列番号2に示される配列を有する、請求項23または24に記載の組成物。
【請求項28】
前記導入遺伝子が、異種プロモーター配列の制御下にある、請求項23または24に記載の組成物。
【請求項29】
前記異種プロモーター配列が、CMVプロモーター、CBAプロモーター、CASIプロモーター、PGKプロモーター、EF-1プロモーター、アルファ9ニコチン受容体プロモーター、プレスチンプロモーター、KCNQ4プロモーター、Myo7aプロモーター、Myo6プロモーター、Gfilプロモーター、Vglut3プロモーターおよびAtoh1プロモーターからなる群から選択される、請求項28に記載の組成物。
【請求項30】
前記投与するステップが、蝸牛窓を通してAAVベクターを注入することを含む、請求項23または24に記載の組成物。
【請求項31】
前記AAVベクターが、蝸牛窓を通る注入により投与される、請求項23または24に記載の組成物。
【請求項32】
前記AAVベクターが、蝸牛開窓術の間またはカナロストミーの間に投与される、請求項23または24に記載の組成物。
【請求項33】
前記AAVベクターが、1つまたは複数のドラッグデリバリービヒクルによって中耳および/または蝸牛窓に投与される、請求項23または24に記載の組成物。
【請求項34】
前記導入遺伝子の発現が、内有毛細胞(IHC)、外有毛細胞(OHC)、らせん神経節ニューロン、血管条、前庭有毛細胞および/または前庭神経節ニューロンの再生をもたらし、それによって、聴覚または前庭機能を回復させる、請求項23または24に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一般に、蝸牛および前庭細胞に核酸を送達するための材料および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝的な聴覚喪失は、蝸牛移植以外の治療選択肢がわずかである重要な問題である。遺伝性の聴覚の問題は、単一の遺伝子欠損によることが多い。言語習得前の難聴は、1/500の幼児において診断され、その約50%は遺伝的病因を有する。それぞれが多くの異なる遺伝子のいずれかにおける突然変異によって引き起こされうる多くの異なる臨床亜型と関連するアッシャー症候群は、幼児期の難聴の3~6%の原因であるが、より蔓延している遺伝子欠損のうちの1つは、遺伝性の難聴の1~2%と推定され、TMC1遺伝子において発生する。
【0003】
内耳、例えば、蝸牛、特に、蝸牛中の内有毛細胞および外有毛細胞(IHCおよびOHC)は、聴覚喪失および様々な病因による難聴、最も直接的には一遺伝子性の遺伝性難聴に介入するための遺伝子治療アプローチのための魅力的な標的である。しかしながら、IHCおよびOHCだけでなく、遺伝子治療アプローチに関係しうる他の内耳細胞を効率的に標的とし、形質導入することは挑戦的なことであった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
聴覚喪失は、世界的に最も一般的な感覚器障害であり、言語習得前の難聴の半分は遺伝子の原因による。それにもかかわらず、蝸牛遺伝子治療の臨床への移行は、安全で臨床的に意義のある効率的な送達モダリティーのないことによって遅らされてきた。しかしながら、Anc80カプシドタンパク質を含有するアデノ随伴ウイルス(AAV)に基づく新しい組成物および方法を含む本明細書に記載の新規遺伝子送達モダリティーは、IHCおよびOHCをどちらも含む内耳細胞への高効率の遺伝子導入を提供する。本明細書に示す通り、Anc80または特異的Anc80カプシドタンパク質(例えば、Anc80-0065)と呼ばれる祖先足場カプシドタンパク質を含有するアデノ随伴ウイルス(AAV)は、内耳中のIHCおよびOHCを含む様々な細胞をインビボで標的とすることにおいて驚くほど効率的である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
一態様において、Anc80カプシドタンパク質およびTMC1またはTMC2導入遺伝子を含むAAVベクターが提供される。別の態様において、Anc80カプシドタンパク質、およびMYO7A、USCH1C、CDH23、PCDH15、SANS、CIB2、USH2A、VLGR1、WHRN、CLRN1、PDZD7からなる群から選択される1つまたは複数の導入遺伝子を含む、AAVベクターが提供される。一実施形態において、AAVベクターは、異種プロモーターをさらに含む。
【0006】
なお別の態様において、対象の内耳中の1つまたは複数の細胞に導入遺伝子を送達する方法が提供される。そのような方法は、典型的に、対象の内耳にアデノ随伴ウイルス(AAV)を投与するステップを含み、AAVは、Anc80カプシドタンパク質および導入遺伝子を含む。
【0007】
また別の態様において、対象における聴覚障害を治療する方法(例えば、聴覚回復)または聴覚喪失(もしくはさらなる聴覚喪失)を予防する方法が提供される。そのような方法は、典型的に、AAVを対象に投与するステップを含み、AAVは、Anc80カプシドタンパク質、および内耳中の1または複数の細胞において発現したときに対象に聴覚を回復させる導入遺伝子を含む。
【0008】
一実施形態において、内耳中の1つまたは複数の細胞は、内有毛細胞(IHC)および外有毛細胞(OHC)からなる群から選択される。一部の実施形態において、導入遺伝子は、内有毛細胞の少なくとも80%および外有毛細胞の少なくとも80%に送達される。一部の実施形態において、内耳中の1つまたは複数の細胞は、らせん神経節ニューロン、前庭有毛細胞、前庭神経節ニューロン、支持細胞および血管条中の細胞からなる群から選択される。
【0009】
一部の実施形態において、導入遺伝子は、ACTG1、ADCY1、ATOHI、ATP6V1B1、BDNF、BDP1、BSND、DATSPER2、CABP2、CD164、CDC14A、CDH23、CEACAM16、CHD7、CCDC50、CIB2、CLDN14、CLIC5、CLPP、CLRN1、COCH、COL2A1、COL4A3、COL4A4、COL4A5、COL9A1、COL9A2、COL11A1、COL11A2、CRYM、DCDC2、DFNA5、DFNB31、DFNB59、DIAPH1、EDN3、EDNRB、ELMOD3、EMOD3、EPS8、EPS8L2、ESPN、ESRRB、EYA1、EYA4、FAM65B、FOXI1、GIPC3、GJB2、GJB3、GJB6、GPR98、GRHL2、GPSM2、GRXCR1、GRXCR2、HARS2、HGF、HOMER2、HSD17B4、ILDR1、KARS、KCNE1、KCNJ10、KCNQ1、KCNQ4、KITLG、LARS2、LHFPL5、LOXHD1、LRTOMT、MARVELD2、MCM2、MET、MIR183、MIRN96、MITF、MSRB3、MT-RNR1、MT-TS1、MYH14、MYH9、MYO15A、MYO1A、MYO3A、MYO6、MYO7A、NARS2、NDP、NF2、NT3、OSBPL2、OTOA、OTOF、OTOG、OTOGL、P2RX2、PAX3、PCDH15、PDZD7、PJVK、PNPT1、POLR1D、POLR1C、POU3F4、POU4F3、PRPS1、PTPRQ、RDX、S1PR2、SANS、SEMA3E、SERPINB6、SLC17A8、SLC22A4、SLC26A4、SLC26A5、SIX1、SIX5、SMAC/DIABLO、SNAI2、SOX10、STRC、SYNE4、TBC1D24、TCOF1、TECTA、TIMM8A、TJP2、TNC、TMC1、TMC2、TMIE、TMEM132E、TMPRSS3、TRPN、TRIOBP、TSPEAR、USH1C、USH1G、USH2A、USH2D、VLGR1、WFS1、WHRN、およびXIAPからなる群から選択される。
【0010】
一部の実施形態において、導入遺伝子は、神経栄養因子(例えば、GDNF、BDNF、NT3およびHSP70)をコードする。一部の実施形態において、導入遺伝子は、抗体またはその断片をコードする。一部の実施形態において、導入遺伝子は、免疫調節タンパク質をコードする。一部の実施形態において、導入遺伝子は、抗発癌性転写物をコードする。一部の実施形態において、導入遺伝子は、アンチセンス、サイレンシング、または長鎖非コードRNA種をコードする。一部の実施形態において、導入遺伝子は、遺伝子操作されたジンクフィンガーヌクレアーゼ、TALENおよびCRISPRからなる群から選択されるゲノム編集システムをコードする。
【0011】
一部の実施形態において、Anc80カプシドタンパク質は、配列番号1に示される配列を有する。一部の実施形態において、Anc80カプシドタンパク質は、配列番号2に示される配列を有する。一部の実施形態において、導入遺伝子は、異種プロモーター配列の制御下にある。代表的な異種プロモーター配列としては、非限定的に、CMVプロモーター、CBAプロモーター、CASIプロモーター、PGKプロモーター、EF-1プロモーター、アルファ9ニコチン受容体プロモーター、プレスチン(prestin)プロモーター、KCNQ4プロモーター、Myo7aプロモーター、Myo6プロモーター、Gfilプロモーター、Vglut3プロモーターおよびAtoh1プロモーターが挙げられる。
【0012】
一部の実施形態において、投与するステップは、蝸牛窓を通してAncAAVを注入することを含む。一部の実施形態において、AncAAVは、蝸牛窓を通る注入により投与される。一部の実施形態において、AncAAVは、蝸牛開窓術(cochleostomy)の間またはカナロストミー(canalostomy)の間に投与される。一部の実施形態において、AncAAVは、1つまたは複数のドラッグデリバリービヒクルによって中耳および/または蝸牛窓に投与される。
【0013】
一部の実施形態において、導入遺伝子の発現は、内有毛細胞(IHC)、外有毛細胞(OHC)、らせん神経節ニューロン、血管条、前庭有毛細胞および/または前庭神経節ニューロン(例えば、Atoh1、NF2)の再生をもたらし、それによって、聴覚または前庭機能を回復させる。
【0014】
一態様において、AAVベクターおよび医薬組成物を含む製造品が提供される。そのような製造品において、AAVベクターは、Anc80カプシドタンパク質およびプロモーターに作動可能に連結された導入遺伝子を含む。一部の実施形態において、導入遺伝子は、ACTG1、ADCY1、ATOHI、ATP6V1B1、BDNF、BDP1、BSND、DATSPER2、CABP2、CD164、CDC14A、CDH23、CEACAM16、CHD7、CCDC50、CIB2、CLDN14、CLIC5、CLPP、CLRN1、COCH、COL2A1、COL4A3、COL4A4、COL4A5、COL9A1、COL9A2、COL11A1、COL11A2、CRYM、DCDC2、DFNA5、DFNB31、DFNB59、DIAPH1、EDN3、EDNRB、ELMOD3、EMOD3、EPS8、EPS8L2、ESPN、ESRRB、EYA1、EYA4、FAM65B、FOXI1、GIPC3、GJB2、GJB3、GJB6、GPR98、GRHL2、GPSM2、GRXCR1、GRXCR2、HARS2、HGF、HOMER2、HSD17B4、ILDR1、KARS、KCNE1、KCNJ10、KCNQ1、KCNQ4、KITLG、LARS2、LHFPL5、LOXHD1、LRTOMT、MARVELD2、MCM2、MET、MIR183、MIRN96、MITF、MSRB3、MT-RNR1、MT-TS1、MYH14、MYH9、MYO15A、MYO1A、MYO3A、MYO6、MYO7A、NARS2、NDP、NF2、NT3、OSBPL2、OTOA、OTOF、OTOG、OTOGL、P2RX2、PAX3、PCDH15、PDZD7、PJVK、PNPT1、POLR1D、POLR1C、POU3F4、POU4F3、PRPS1、PTPRQ、RDX、S1PR2、SANS、SEMA3E、SERPINB6、SLC17A8、SLC22A4、SLC26A4、SLC26A5、SIX1、SIX5、SMAC/DIABLO、SNAI2、SOX10、STRC、SYNE4、TBC1D24、TCOF1、TECTA、TIMM8A、TJP2、TNC、TMC1、TMC2、TMIE、TMEM132E、TMPRSS3、TRPN、TRIOBP、TSPEAR、USH1C、USH1G、USH2A、USH2D、VLGR1、WFS1、WHRN、およびXIAPからなる群から選択される。
【0015】
別の態様において、対象の内耳中の1つまたは複数の細胞にTMC1またはTMC2導入遺伝子を送達する方法が提供される。そのような方法は、典型的に、対象の内耳にアデノ随伴ウイルス(AAV)を投与するステップを含み、AAVは、Anc80カプシドタンパク質および導入遺伝子を含む。また別の態様において、対象における聴覚障害を処置する方法が提供される。そのような方法は、典型的に、対象にAAVを投与するステップを含み、AAVは、Anc80カプシドタンパク質、および内耳中の1つまたは複数の細胞において発現したときに、対象に聴覚を回復させまたは対象における聴覚喪失(たとえば、さらなる聴覚喪失)を予防するTMC1またはTMC2導入遺伝子を含む。
【0016】
なお別の態様において、対象の内耳中の1つまたは複数の細胞にアッシャー導入遺伝子を送達する方法が提供される。そのような方法は、典型的に、対象の内耳にアデノ随伴ウイルス(AAV)を投与するステップを含み、AAVは、Anc80カプシドタンパク質および導入遺伝子を含む。また別の態様において、対象における聴覚障害を処置する方法が提供される。そのような方法は、対象にAAVを投与するステップを含み、AAVは、Anc80カプシドタンパク質、および内耳中の1つまたは複数の細胞において発現したときに、対象に聴覚を回復させるアッシャー導入遺伝子を含むことができる。代表的なアッシャー導入遺伝子としては、非限定的に、MYO7A、USCH1C、CDH23、PCDH15、SANS、CIB2、USH2A、VLGR1、WHRN、CLRN1、PDZD7が挙げられる。
【0017】
一実施形態において、内耳中の1つまたは複数の細胞は、内有毛細胞(IHC)および外有毛細胞(OHC)からなる群から選択される。一実施形態において、導入遺伝子は、内有毛細胞の少なくとも80%および外有毛細胞の少なくとも80%に送達される。一実施形態において、内耳中の1つまたは複数の細胞は、らせん神経節ニューロン、前庭有毛細胞、前庭神経節ニューロン、支持細胞および血管条中の細胞からなる群から選択される。
【0018】
一実施形態において、Anc80カプシドタンパク質は、配列番号1に示される配列を有する。一実施形態において、Anc80カプシドタンパク質は、配列番号2に示される配列を有する。一実施形態において、導入遺伝子は、異種プロモーター配列の制御下にある。代表的な異種プロモーター配列としては、非限定的に、CMVプロモーター、CBAプロモーター、CASIプロモーター、PGKプロモーター、EF-1プロモーター、アルファ9ニコチン受容体プロモーター、プレスチンプロモーター、KCNQ4プロモーター、Myo7aプロモーター、Myo6プロモーター、Gfilプロモーター、Vglut3プロモーターおよびAtoh1プロモーターが挙げられる。
【0019】
一実施形態において、投与するステップは、蝸牛窓を通してAncAAVを注入することを含む。一実施形態において、AncAAVは、蝸牛窓を通る注入により投与される。一実施形態において、AncAAVは、蝸牛開窓術の間またはカナロストミーの間に投与される。一実施形態において、AncAAVは、1つまたは複数のドラッグデリバリービヒクルによって中耳および/または蝸牛窓に投与される。
【0020】
一実施形態において、導入遺伝子の発現は、内有毛細胞(IHC)、外有毛細胞(OHC)、らせん神経節ニューロン、血管条、前庭有毛細胞および/または前庭神経節ニューロン(例えば、Atoh1、NF2)の再生をもたらし、それによって、聴覚もしくは前庭機能を回復させ、かつ/または聴覚喪失(例えば、さらなる聴覚喪失)を予防する。
【0021】
別段の定めのない限り、本明細書中で使用されるすべての技術用語および科学用語は、方法および物質の組成物が属する分野の当業者により一般に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書に記載されたものに類似するまたは等価な方法および材料が、方法および物質の組成物の実践または試験において使用されうるが、好適な方法および材料が以下に記載される。加えて、材料、方法および例は、例示的であるだけで、限定的であることを意図されない。本明細書中で言及されるすべての刊行物、特許出願、特許および他の参考文献は、参照することによりその全体として本明細書に組み込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
第1部:高効率の蝸牛遺伝子導入
図1図1A-1Gは、C57BL/6マウスの蝸牛外植片におけるeGFP導入遺伝子発現のための数種のAAV血清型のインビトロでの比較の代表的な共焦点投射図を示す画像である。図1A~1Gは、すべての血清型についての蝸牛基底(cochlear base)における発現ならびに示されるAAVについての頂端および基底を示す。スケールバー=100μM。上:Myo7A+TuJ1;下:eGFPのみ;中:オーバーレイ;S.細胞=支持細胞、OHC:外有毛細胞、IHC:内有毛細胞、図1H~1Kは、48hまたは48h+5日のインキュベーション後の100μM当たりのeGFP陽性有毛細胞のパーセンテージを示すグラフである。48hについてはN=3、48h+5dについてはN=2。エラーバーは、平均の標準誤差(SEM)を表す。
図2図2A-2Gは、各パネルの上に示された力価の示されたAAV血清型のインビボでの蝸牛形質導入を示す画像である。図2Aは、Alexa-546-ファロイジン(赤色)で対比染色され、eGFP(緑色)についてイメージングされた、マウスコルチ器官の共焦点画像である。スケールバー=50μm。図2Bは、AAV-eGFPを注入された蝸牛の基底および頂端におけるeGFP陽性IHCの定量化を示すグラフである。図2Cは、AAV-eGFPを注入された蝸牛の基底および頂端におけるeGFP陽性OHCの定量化を示すグラフである。図2Dは、eGFP陰性OHC(黒)およびeGFP陽性OHC(緑色)からのP7(左)で記録された感覚変換電流群を示す画像である。垂直のスケールバーは200pAを示し;水平のスケールバーは20ミリ秒を示す。eGFP陰性(黒)およびeGFP陽性(緑色)のP35のIHCからの電流が右側に示される。垂直のスケールバーは100pAを示し;水平のスケールバーは20ミリ秒を示す。図2Eは、下に示された齢における103のIHCおよびOHCについてプロットした感覚変換電流の振幅を示すグラフである。eGFP陰性(黒)およびeGFP陽性(緑色)からのデータが示される。各群の細胞数をグラフ上に示す。図2Fは、平均±標準偏差(SD)を示すグラフである。注入関連の損傷(赤色)のためにeGFP蛍光のない、1つの注入した耳のデータとともに、4つのAnc80を注入した耳(緑色)および4つの注入しない耳(黒)についてプロットしたABR閾値。図2Gは、平均±SDを示すグラフである。DPOAE閾値を、4つのAnc80を注入した耳(緑色)および4つの注入しない耳(黒)および注入による損傷があり、eGFP蛍光のない1つの陰性対照の耳(赤色)についてプロットする。図2B~2G中のデータ点についての注入力価は図2Aの通りである。
図3図3A-3Dは、前庭感覚上皮におけるAnc80-eGFPの形質導入を示す画像である。図3Aは、1μLのAnc80-eGFP(1.7×1012GC/mL)を注入したP1マウス由来のマウス卵形嚢を示す画像である。組織を採取し、固定し、Alexa546-ファロイジン(赤色)で染色し、eGFP(緑色)についてイメージングした。スケールバー=100μm。図3Bは、図3Aに記載の同じマウス由来の後部三半規管の稜を示す画像である。スケールバー=50μm。図3Cは、ヒト卵形嚢の感覚上皮を示す画像である。組織をAnc80-eGFPベクターに曝露し、培養し、固定し、Alexa546-ファロイジン(赤色)で染色し、eGFP蛍光(緑色)についてイメージングした。スケールバー=100μm。図3Dは、Alexa546-ファロイジン(赤色)およびMyo7A(青色)で染色し、図3Cと同一条件で形質導入したeGFP(緑色)についてイメージングした、卵形嚢中のヒト上皮の高倍率図を示す画像である。オーバーレイパネル中の白い矢印は、選択されたeGFP陽性/Myo7A陽性細胞を示す。スケールバー=20μm。
図4図4A-4Jは、数種のAAV血清型の、CBA/CaJマウスの蝸牛外植片中のeGFP発現に関するインビトロの比較の代表的画像である。図4A~4Fは、等用量のAAV血清型におけるインキュベーション後の結果を示す画像である。スケールバー=200μm。図4G~4Jに示すエラーバーは、SEMを表す。
図5図5A-5Hは、注目される発現のないことを表す「0」(図5D、5H)、薄暗く発現している一部の細胞「1」(図5C、5G)、顕微鏡視野当たりの有意な数の細胞における低レベルから中レベルの発現「2」(図5B、5F)および中度から高度にわたるレベルでeGFPを発現している高いパーセンテージの細胞「3」(図5A、5E)により、感染細胞の数および強度の点から発現の範囲を例解するために、0(図5D、5H)(最低の発現)から3(図5A、5E)(最高レベルの発現)までにわたる、eGFP定性的発現スコアリングシステムを示す画像である。(図5A~5Dに関して)図5Aおよび(図5E~5Hに関して)図5Eに示されるスケールバー=20μm。
図6図6は、上の図5に詳述したeGFPスコアリングシステムを使用して、C57BL/6マウスの縁、支持細胞およびらせん神経節ニューロンにおけるeGFP発現を示すグラフである。エラーバーは、SEMを表す。SGNの形質導入は、顕微鏡視野当たりのeGFP陽性細胞数により評価した。
図7図7は、上の図5に詳述したeGFPスコアリングシステムを使用して、CBA/CaJマウスの縁、支持細胞およびらせん神経節ニューロンにおけるeGFP発現を示すグラフである。エラーバーは、SEMを表す。SGNの形質導入は、顕微鏡視野当たりのeGFP陽性細胞数により評価した。
図8図8A-8Eは、Anc80によるマウス蝸牛における広範な内有毛細胞および外有毛細胞の形質導入を示す画像である。図8Aは、Anc80-eGFPを注入したマウス蝸牛の全頂端部分の低倍率図を示す画像である。蝸牛を採取し、Alexa546-ファロイジン(赤色)で染色し、eGFP(緑色)についてイメージングした。スケールバー=100μm。図8Bは、Anc80-eGFPを注入した異なるマウスの蝸牛由来の基底部分の高倍率図を示す画像である。蝸牛を採取し、Alexa546-ファロイジン(赤色)で染色し、eGFP(緑色)についてイメージングした。スケールバー=20μm。図8Cおよび8Dは、C57BL/6マウスの蝸牛窓注入後の内有毛細胞および外有毛細胞の形質導入効率の定量的比較を示すグラフである。図8Eは、Anc80有毛細胞形質導入の用量依存性を示す画像である。2つの異なるAnc80-eGFP力価に蝸牛を曝露し、固定し、Alexa546-ファロイジン(赤色)で染色し、eGFP(緑色)についてイメージングした。スケールバー=20μm。
図9図9A-9Hは、TuJ1(赤色)およびMyo7A(マゼンダ)について染色した組織切片におけるeGFP導入遺伝子発現について評価した、マウス蝸牛の基底から頂端までの両側性蝸牛形質導入を示す画像である。頂端まで広がる効率的なAnc80形質導入が、注入された蝸牛において(図9A/9F)、および対側の注入されない耳においても(図9B~9E=頂端から基底まで)観察された。eGFP陽性およびTuJ1陽性のらせん神経節ニューロンの接写画像(図9G)。Anc80形質導入のSGN評価のための再構築3D画像(図9H)。スケールバー=100μm(図9A~9E)および20μm(図9F/9G)。
図10図10A-10Bは、Anc80による片側性蝸牛注入後のマウス脳の横断面を示す顕微鏡画像の表示である(図10A)。小脳、特にプルキンエ細胞(白い矢じり)において、卓越した発現が観察された(図10B)。スケールバー1mm(図10A)および300μm(図10B)。図10Cは、注入しないおよびAnc80RWMを注入した動物の血清および脳脊髄液(CSF)中の抗AAV中和抗体(NAB)力価を示す画像である。力価は、NABアッセイにおいて形質導入の50%阻害が観察される、血清またはCSFの希釈率を反映する。試料体積の制限のために、血清NABについての感度の限界は1/4、CSFについては1/52.5であった。
図11図11A-11Bは、それぞれ、Anc80蝸牛形質導入後の前庭機能を示す、画像およびグラフである。マウスにAnc80-eGFPを注入し、発現およびロータロッド装置上の平衡機能について評価した。図11Aは、Myo7A(赤色)についての免疫蛍光染色を伴う共焦点顕微鏡観察による、前庭組織中のeGFP(緑色)の発現を示す画像である。図11Bは、マウスが装置から落下するまでの平均時間±SEMを示すグラフである。スケールバー=50μm。 第2部-遺伝子治療がアッシャー症候群のマウスモデルにおいて機能を回復させる
図12図12A-12Lは、Ush1cc.216G>A突然変異体マウスのコルチ器官の走査電子顕微鏡観察を示す画像である。図12A~12Fは、c.216GAおよびc.216AA突然変異体マウスのイメージングしたコルチ器官の基底、中間および頂端領域を示す画像である。図12G~12Lは、OHC(図12G~12H)およびIHC(図12I~12J)の高倍率画像である。星印は、保存された毛束;矢じり、秩序の乱れた毛束;および矢印、波状のIHC束を示す。スケールバー低倍率:5μm(図12A~12F);高倍率:2μm(図12G)、3μm(図12H)、2μm(図12I~12J)および1μm(図12K、12L)。
図13図13A-13Hは、Ush1cc.216G>A新生児突然変異体マウスの有毛細胞におけるメカノトランスダクションを示す画像である。図13A~13Dは、c.216GAおよびc.216AAマウスの有毛細胞中のオープントランスダクションチャネルの存在を評価するためのFM1-43染色を示す画像である。IHCのFM1-43蛍光は、IHCが異なる焦点面にあるとき薄暗く見える。左:DIC、右:FM1-43;スケールバー 10μm;図13C、スケールバー 50μm;図13D、スケールバー 10μm。図13Dの白線は、ストリオーラ(取り込みなし)およびストリオーラ外(取り込み)を描写する。図13E~13Hは、新生児c.216GAおよびc.216AAマウスのOHC、IHCおよびVHCにおいて評価したメカノトランスダクションを示すグラフである。代表的なトランスダクション電流(図13E)、2次Boltzmann関数に当てはめたそれに関連した電流/変位プロット(図13F)および平均ピークトランスダクション電流をプロットした(図13G~13H)。平均ピークトランスダクションは、OHC、IHCおよびVHCにおいて2つの遺伝子型の間で有意に相違した(***P<0.01、一元配置ANOVA)。
図14図14A-14Eは、インビトロおよびインビボでアデノ随伴ウイルスベクターに曝露した組織中の蛍光標識harmoninの発現および局在化を示す画像である。図14A~14Cは、AAV2/1ベクターに曝露し、培養し、固定し、対比染色し(Alexa Fluor ファロイジン、Invitrogen)、共焦点顕微鏡でイメージングした、直ちに解剖した内耳組織を示す。図14Aスケールバー:10μm-上のパネル;5μm-下のパネル;図14Bスケールバー:10μm;図14Cスケールバー:3μm;図14Dスケールバー:30μm;図14Eスケールバー:5μm。
図15図15A-15Cは、Anc80harmoninベクターを注入したマウスの有毛細胞におけるメカノトランスダクションの回復を示す画像である。図15A~15Cは、c.216AA非注入対照マウスおよびAnc80harmonin-b1を注入したまたはAnc80harmonin-b1とAnc80harmonin-a1を組み合わせ注入したc.216AAマウスのIHCにおいて記録したメカノトランスダクション電流を示す。器官型培養を準備し、記録を実施した。各データセットについての対応するI/X曲線および二重Boltzmannフィット関数。各最大メカノトランスダクション電流Imax=102.1pA(c.216AA);424.3pA(c.216AA+harmonin-b1)および341.1pA(c.216AA+harmonin-a1&-b1)(図15B)。平均反応(平均±SD)は、非注入マウスに対して、harmonin-b1およびharmonin-a1+-b1を注入したマウスについてトランスダクションの有意な回復(***P<0.001)を示す。平均トランスダクション電流は、harmonin-b1を注入したマウスとc.216GA対照マウスで有意に相違しなかった(NS P>0.5)。メカノトランスダクションの回復は、harmonin-aおよびharmonin-bを組み合わせたときにも有意に改善しなかった。図15Cは、一元配置ANOVAを示す。
図16図16A-16Eは、Anc80harmonin-b1を注入したマウスにおけるABRおよびDPOAE閾値の回復を示す画像である。図16Aは、c.216AA対照マウスおよびharmonin-a1、harmonin-b1または2つの組み合わせをコードしたベクターを注入したc.216AAマウスにおける16kHz発信音についての代表的なABR反応を示す画像である。30dB SPL近辺の回復したABR閾値を、harmonin-b1単独またはharmonin-a1とb1を一緒に注入したマウスにおいて測定した。図16Bは、c.216AA;c.216GA;c.216AA+harmonin-a1;c.216AA+harmonin-b1;c.216AA+harmonin-a1&-b1について得られた平均ABR反応を示す画像である。平均±SE、実線。点線:その16kHzの記録が図16Aに示されるマウスの全周波数範囲についてのABR閾値。図16Cは、c.216AA;c.216GA;c.216AA+harmonin-a1;c.216AA+harmonin-b1;c.216AA+harmonin-a1&-b1について得られた平均DPOAE反応を示す。平均±SE、実線。点線:その記録が図16Aに図示される4頭のマウスについてのDPOAE閾値。矢印は、閾値が試験した最大刺激レベルよりも高いことを示す。図16D~16Eは、45dB未満または45dBに等しい最初のABR閾値を示したマウスにおいて6週および3カ月で得られたABRおよびDPOAE反応を示す。8頭のうちの6頭のマウスを6カ月飼育し、ABRおよびDPOAEを評価した(点線)。平均±SE。最初の3カ月間、ABRおよびDPOAE閾値のシフトが明白であった一方、聴覚レスキューは、低周波数範囲において6カ月齢でなお卓越していた。
図17図17A-17Eは、Anc80harmonin-a1およびAnc80harmonin-b1を注入したマウスにおける驚愕反応、ロータロッド成績およびオープンフィールド行動の回復を示す画像である。図17Aは、対照c.216GA、c.216AAおよび注入したc.216AAマウスにおいて記録したホワイトノイズ刺激に対する驚愕反応を示す。部分的な驚愕レスキューが、harmonin-b1を注入したマウスにおいて明白であったが、harmonin-a1ではそうでなかった。平均を、±SEで示す。図17Bは、対照c.216GA、c.216AAおよび注入したc.216AAマウスにおけるロータロッド成績を示す。harmonin-b1およびharmonin-a1/b1を注入したマウスにおいて完全な回復が観察され;harmonin-a1単独では回復を観察しなかった。平均を、±SEで示す。図17C~17Eは、対照c.216GA、c.216AAならびに注入したc.216AAおよびc.216GAマウスにおいて5分間実施したオープンフィールド観察を示す。代表的な2.5分にわたるトラックを示す(図17B)。c.216AA突然変異体マウスが全フィールドを探索し、繰り返して全身回転(full body rotation)を行ったが、P1でharmonin-a1、harmonin-b1または2つのベクターの組み合わせを注入したc.216AAマウスは、そのヘテロ接合性c.216GAカウンターパートまたは切断型ベクターを注入したc.216GAマウスと同様の正常行動を示した。図17Cは、回転数および1分あたりの進んだ距離についての平均±SEを図示するグラフを示す。有意な回復***P<0.001が、非注入および注入したマウスの間で観察された。一元配置ANOVAによる統計解析。
図18】Anc80harmonin-b1を注入したマウスのコルチ器官の走査電子顕微鏡画像である。c.216GA、c.216AAおよびc.216AAマウスにおいてコルチ器官の基底、中間および頂端領域をイメージングした。c.216GAマウスではOHCおよびIHC毛束が保存されたが、c.216AAマウスではコルチ器官に沿って秩序が乱れて見えた。器官の基底末端におけるよりはっきりした変性とともに、c.216AAマウスにおいて注目すべき有毛細胞喪失(アスタリスク)および毛束の秩序の乱れが観察された。c.216AAマウスの毛束は正常な不動毛の列がなかった。c.216AAマウスにおいて、低い列は引っ込んで見えたが、より高い列は維持された(矢印)。レスキューされたc.216AAマウスにおいて有毛細胞の喪失および束の秩序の乱れがなお明白であった一方、器官の基底および中間領域において有毛細胞の生存は著しく高かった。有毛細胞数を棒グラフに要約する。全部で1824個の細胞をc.216AAマウスにおいて、792個をレスキューされたc.216AAマウスにおいてカウントした。平均±SE。高倍率イメージングは、多くのしかしすべてではない細胞(矢じり)における注入したc.216AAマウス(矢印)の階段状の列のレスキューを明らかにした。スケールバー低倍率:5μm;高倍率:1μm。
図19図19A-19Lは、Ush1cc.216G>Aマウスの毛束形態のSEMによる分析を示す画像である。図19A~19Cは、正常な毛束形態を呈するヘテロ接合性c.216GAマウスを示す。図19D~19Iは、ホモ接合性c.216AA突然変異体マウスの器官に沿って観察された秩序の乱れた毛束を示す。図19J~19Lは、c.216AAマウスで穏やかに秩序の乱れたIHC毛束を示す。頂端から測定した距離:基底3.5~4mm;中間1.8~2.2mm;頂端0.6~0.8mm。スケールバー低倍率:5μm;高倍率:1μm。
図20図20A-20Jは、c.216AA突然変異体マウスにおけるメカノトランスダクション特性を示す画像である。図20A~20Eは、蝸牛の中間および中回転~頂回転からの新生児OHCにおけるメカノトランスダクションの分析を示す。c.216GAおよびc.216AA突然変異体における順応を評価するために、~P0=0.5からの代表的な電流トレースを二重指数関数的減衰関数にフィットさせた(図20A)。あてはめを使用して、早い(図20E)および遅い(図20D)時定数だけでなく、順応の程度(図20E)を生成した。10~90%の作動範囲は、有意に変化しなかった(図20B)。c.216AAマウスにおける順応の程度は、この分散プロット(図20E)に示すヘテロ接合性OHCよりも有意に小さかった。図20F~20Jは、新生児IHCにおけるメカノトランスダクションの分析を示す。10~90%の作動範囲の値は、c.216GA対c.216AAIHCでより小さかった(図20G)。順応が常に存在したが、c.216AA IHCではわずかに遅く、程度は有意に小さかった(図20H~20J)。統計解析を各プロットに示す:P<0.05、**P<0.01、***P<0.001、一元配置ANOVA。
図21図21A-21Cは、P1での二重ベクター注入後6週間の、c.216AAのコルチ器官中の蛍光標識したharmonin-aおよびharmonin-b Anc80ベクターの発現を示すデータである。図21A~21Cは、P1でのAAV2/Anc80.CMV.tdTomato::harmonin-a1(0.5μl;4.11E^12gc/ml)およびAAV2/Anc80.CMV.eGFP::harmonin-b1(0.5μl;2.99E^12gc/ml)の同時注入後の6週齢のc.216AAマウスの基底回転の共焦点画像を示す。それぞれ、全細胞数の69%および74%が、eGFP(図21A)およびtdTomato(図21C)を発現し、65%が両マーカーを発現し、成功した同時形質導入を実証している。スケールバー:20μm。
図22図22A-22Fは、対照c.216GAおよび注入され、レスキューされたc.216AAマウスのABR反応の分析を示すデータである。図22Aおよび22Dは、対照c.216GAおよびレスキューされたc.216AAマウスについての8および16kHzにおけるABR反応の例を示す。図22B~22Cおよび22E~22Fは、平均ピーク1の振幅(図22B~22D)および匹敵する閾値(n=8 c.216GA、n=5 c.216AA+Harmonin-b1 RWM P1)を有するr6週齢のマウスにおける8~11.3および16kHzでの潜時(図22C~22D)を示す。平均±SE:一元配置ANOVA。
図23図23A-23Dは、Ush1cc.216G>Aマウスで発現したharmoninの突然変異型が、有毛細胞または聴覚機能を変更しないことを示す。図23Aは、野生型harmonin-b1タンパク質とUsh1c遺伝子のエクソン3における潜在性スプライシングおよびアカディア(acadian)G>A突然変異を伴うフレームシフトの結果として分泌される切断型harmoninの間の配列アラインメントである。図23Bは、野生型マウス、c.216GAおよびc.216AA突然変異体マウスの聴覚器官からの半定量的RT-PCRが、野生型(450bp)およびc.216GAおよびc.216AAマウスの切断型(-35bp)harmoninの発現を確認することを示す。図23C~23Dは、聴性脳幹反応(ABR、図23C)および歪成分(DPOAE、図23D)を、注入したc.216GAマウスおよび対照c.216GAおよびc.216AAマウスにおいて測定したことを示す。プロットは、平均±SEとして示す。
図24図24A-24Cは、AAV2/Anc80.CMV.harmonin-b1を注入した6週齢のマウスの内耳における正確なUsh1cスプライシングの回復を示す画像である。図24Aは、Ush1c.216Aアレル由来の正確にスプライシングされた(450bp)および異常な(415bp)mRNAの半定量的RT-PCRによる定量化が、レスキューされたc.216AAマウス#1および#2の注入した(I)および対側の耳(図24C)における正確なUsh1cスプライシングの回復を示すことを示している(注入した耳からの11.3kHzにおける35dB SPLの反応)。ABR反応不良のマウス#3(11.3kHzにおいて90dB SPL)は、正確なmRNA発現の中程度の回復を示し、マウス#4(11.3kHzにおいて100dB SPL)は回復を示さなかった。注入しないc.216AAマウス(マウス#5、6)においては正確なスプライス型を検出しないが、正確および切断型のスプライス型の両方をc.216GAマウス(マウス#7、8、9)で検出する。物質の相対量を確認するために、下のパネルに示す、対応するマウスGAPDHを増幅した。図24Bは、半定量的放射標識RCR解析が、Ush1c.216AAマウスの注入したおよび対側の耳におけるAAV-mUsh1cの存在を確認したことを示す画像である。相対的レベルのAAV-mUsh1cDNAが存在したが、マウス#3および#4では低減していた。図24Cは、相対量のAAC-mUsh1cがABR閾値と相関していたことを示す。11.3および16kHzについての分析を例証する。線形回帰が、2つの間の高い相関を示した。
図25図25は、長期のABR閾値の回復が、聴覚器官の中間~頂端領域におけるOHCの生存と相関したことを示すグラフである。コルチ器官全体にわたる有毛細胞の計数を、3頭の非注入c.216AAおよび5頭の注入したc.216AAの左耳で死後に実施した。IHCおよびOHC有毛細胞の総数は、注入したマウスにおいて増加した。レスキューされた注入したマウスとレスキューが不良であった注入したマウスの比較は、IHCの数は相違しなかったが、レスキューされたマウスではかなりの数のOHCが注目された。器官の長さ全体にわたる分析は、相違が、器官の中間から頂端領域からの有毛細胞の生存の増加によると説明できることを示した。挿入図:マウスのうちの2頭(マウス#1、2)が試験範囲全体にわたりABR反応閾値の不良を示した(≧95dB SPL)一方、3頭(#3、4、5)は、5.6から16kHzの間の音刺激に対して35から55dB SPLにわたる閾値をもって反応した。 第3部-聴覚喪失に関与するさらなる突然変異の遺伝子治療
図26図26A-26Dは、RWMを通してAnc80-Harmonin::GFP(すなわち、GFPがHarmoninポリペプチドに融合されている)を注入し、採取し、アクチン(赤色;図26A)、Myo7A(青色;図26B)染色し、GFPについてイメージングした(緑色;図26C)、Ush1c突然変異体マウスの蝸牛の代表的な共焦点画像である。図26A、26Bおよび26Cの重ね合わせ画像を図26Dに示す。
図27図27は、Ush1c突然変異体マウス(四角)およびAnc80-Harmonin::GFPベクターを注入したUsh1c突然変異体マウス(丸)についての音の周波数の関数としてプロットしたABR閾値を示すグラフである。
図28図28A-28Cは、RWMを通してAnc80-KCNQ4を注入し、採取し、Alexa546-ファロイジン(赤色)およびKCNQ4に対する抗体(緑色)で染色したKCNQ4-/-蝸牛の、高倍率の注入しない蝸牛(図28C)に比較した、低倍率(図28A)または高倍率(図28B)の代表的な共焦点画像を示す。
図29図29A-29Cは、野生型マウス(図29A)、P10のKCNQ4-/-マウス(図29B)およびP10のAnc80-KCNQ4を注入したKCNQ4-/-マウス(図29C)におけるKCNQ4電流を示す一連のグラフである。注入の8日後に蝸牛を採取した。
図30図30は、Anc80 Tmc1ベクターを注入したTmc1-/-組織におけるFM1-43の取り込み(FM1-43は、機能的Tmc1チャネルのみを透過する)を示す一連の3つの画像である。
図31図31Aは、野生型マウス(左)、Tmc1-/-マウス(中間)およびAnc80 Tmc1を注入したTmc1-/-マウス(右)のIHCから記録した感覚変換電流の代表的な群を示す画像である。注入の8日後に蝸牛を採取した。 図31Bは、図31Aに示すマウスの回復率のグラフ表示である。図31B中のグラフは、野生型マウス(左)、Tmc1-/-マウス(中間)およびAnc80 Tmc1を注入したTmc1-/-マウス(右)における機能的細胞のパーセンテージを示す。
図32図32は、歪成分耳音響放射(DPOAE)閾値を、野生型、Tmc1-/-マウスおよびAnc80 Tmc1を注入したTmc1-/-マウスについての刺激周波数の関数として示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
成体哺乳動物蝸牛の感覚細胞は自己修復能力を欠くため、(障害のレベルおよび正確な位置に依存する)現行の治療ストラテジーは、聴覚神経を形成し、音響情報を中継して脳へ伝える一次感覚有毛細胞またはらせん神経節ニューロンの永久的損傷を補償するために、増幅(補聴器)、音のより良い伝達(中耳プロステーシス/能動型インプラント)または直接的な神経刺激(蝸牛移植片)に依存する。これらのアプローチは変革的なものであった一方、現代生活にとって重要な複雑なヒトの聴覚機能を回復させるために最適なものからは遠いままであった。特に、主要な問題は、限定された周波数感度、不自然な音知覚、およびうるさい環境での限定された語音弁別をなお含む。
【0024】
蝸牛への治療的遺伝子導入は、加齢性および環境誘発の聴覚喪失から遺伝型の難聴にわたる現行の標準的治療にさらなる改善を加えると考えられてきた。300超の遺伝子座が、記載された70を超える原因遺伝子による遺伝性の聴覚喪失と関係があるとされてきた(Parker & Bitner-Glindzicz, 2015, Arch. Dis. Childhood, 100:271-8)。これらのアプローチにおける治療の成功は、蝸牛のコルチ器官(OC)中の関連する治療標的細胞への外来遺伝子構築物の安全で効率的な送達に大いに依存する。
【0025】
OCは、2つの種類の感覚有毛細胞:音によって運ばれた機械的情報を、神経構造に伝達される電気シグナルに変換するIHCおよび複雑な聴覚機能に必要とされるプロセスである、蝸牛反応を増幅し、調整する役割を果たすOHCを含む。内耳中の他の潜在的な標的としては、らせん神経節ニューロン、らせん板縁の円柱細胞が挙げられ、これらは、保護機能を有し、早期の新生児期までに有毛細胞への分化転換を誘発されうる、隣接する蓋膜または支持細胞の維持に重要である。
【0026】
高カリウム内リンパ液で満たされた蝸牛管への注入は、有毛細胞への直接アクセスを提供しうる。しかしながら、このデリケートな流体環境の変化は、蝸牛内電位を乱し、注入関連毒性のリスクを高める可能性がある。蝸牛管、鼓室階および前庭階を取り巻く外リンパで満たされた空間は、前庭窓膜または蝸牛窓膜(RWM)のいずれかを通って中耳からアクセス可能である。内耳への唯一の非骨質開口部であるRWMは、多くの動物モデルにおいて比較的容易にアクセスでき、この経路を使用するウイルスベクターの投与は、よく忍容されている。ヒトにおいて、蝸牛移植片の設置は、RWNを通る手術用電極の挿入に日常的に依存する。
【0027】
器官型蝸牛外移植片およびインビボの内耳注入においてAAV血清型を評価する先の研究は、遺伝性難聴のマウスモデルで聴覚の部分的なレスキューのみをもたらした。予想外に、祖先AAVカプシドタンパク質を含有するアデノ随伴ウイルス(AVV)は高効率でOHCに形質導入する。この知見は、従来のAAV血清型を使用する蝸牛遺伝子治療の開発の成功を限定してきた、低い導入率を克服する。本明細書に記載の祖先AAVカプシドタンパク質を含有するAAVは、IHCおよびOHCだけでなく、遺伝性の聴覚および平衡障害によって損なわれた多くの他の内耳細胞型への内耳遺伝子送達のための価値あるプラットフォームを提供する。高い導入率を提供することに加えて、本明細書に記載の祖先AAVカプシドタンパク質を含有するAAVは、全身注射に際してマウスおよび非ヒト霊長類において類似した安全性プロフィールを有し、循環中のAAVとは抗原性が異なり、従来のAAVベクターの有効性を制限する既存の免疫に関して潜在的な利益を提供することが示された。
【0028】
しかしながら、細胞、特に内耳、例えば、蝸牛内の細胞(または蝸牛の細胞もしくは蝸牛細胞)への核酸の高効率の送達を可能とする組成物および方法が本明細書に記載される。本明細書中で使用されるとき、内耳細胞は、非限定的に、内有毛細胞(IHC)、外有毛細胞(OHC)、らせん神経節ニューロン、前庭有毛細胞、前庭神経節ニューロン、支持細胞および血管条中の細胞をさす。支持細胞は、興奮性でない耳の中の細胞、例えば、有毛細胞またはニューロンでない細胞をさす。支持細胞の例はシュワン細胞である。
【0029】
本明細書に記載の1つまたは複数の核酸の内耳細胞への送達は、典型的に、部分的な聴覚喪失または完全な難聴により定義される、任意の数の遺伝性または後天性聴覚障害を治療するために使用可能である。本明細書に記載の方法は、非限定的に、劣性難聴、優性難聴、アッシャー症候群および他の症候群性難聴だけでなく、外傷または加齢による聴覚喪失のような聴覚障害を治療するために使用されうる。
【0030】
特定の導入遺伝子を保有するウイルスを作製する方法
本明細書に記載される通り、祖先AAVカプシドタンパク質を含有するアデノ随伴ウイルス(AAV)は、内耳細胞へ核酸(例えば、導入遺伝子)を送達することにおいて特に効率的であり、特に有効な種類の祖先AAVカプシドタンパク質が、Anc80と名付けられた祖先足場カプシドタンパク質により表され、配列番号1に示される。Anc80祖先カプシドタンパク質の種類に属する1つの具体的な祖先カプシドタンパク質は、Anc80-0065(配列番号2)であるが、国際公開第2015/054653号パンフレットは、Anc80祖先カプシドタンパク質の種類に属する多くのさらなる祖先カプシドタンパク質を記載している。
【0031】
Anc80カプシドタンパク質を含有する、本明細書に記載のウイルスは、様々な核酸を内耳細胞に送達するために使用されうる。発現の目的のために細胞に送達される核酸配列は、しばしば導入遺伝子と呼ばれる。内耳細胞に送達され、そこで発現しうる代表的な導入遺伝子としては、非限定的に、神経栄養因子(例えば、グリア細胞株由来神経栄養因子(GDNF)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、ノイロトロピン-3(NT3)、もしくは熱ショックタンパク質(HSP)-70)、免疫調節タンパク質または抗発癌性転写物をコードする導入遺伝子が挙げられる。加えて、内耳細胞に送達され、そこで発現しうる代表的な導入遺伝子としては、非制限的に、抗体もしくはその断片、アンチセンス、サイレンシングもしくは長鎖非コードRNA種、またはゲノム編集システム(例えば、遺伝子改変ジンクフィンガーヌクレアーゼ、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、もしくはクラスター化規則的間隔短鎖回文リピート(CRISPR))をコードする導入遺伝子が挙げられる。さらに、内耳細胞に送達され、そこで発現しうる代表的な導入遺伝子としては、ACTG1、ADCY1、ATOHI、ATP6V1B1、BDNF、BDP1、BSND、DATSPER2、CABP2、CD164、CDC14A、CDH23、CEACAM16、CHD7、CCDC50、CIB2、CLDN14、CLIC5、CLPP、CLRN1、COCH、COL2A1、COL4A3、COL4A4、COL4A5、COL9A1、COL9A2、COL11A1、COL11A2、CRYM、DCDC2、DFNA5、DFNB31、DFNB59、DIAPH1、EDN3、EDNRB、ELMOD3、EMOD3、EPS8、EPS8L2、ESPN、ESRRB、EYA1、EYA4、FAM65B、FOXI1、GIPC3、GJB2、GJB3、GJB6、GPR98、GRHL2、GPSM2、GRXCR1、GRXCR2、HARS2、HGF、HOMER2、HSD17B4、ILDR1、KARS、KCNE1、KCNJ10、KCNQ1、KCNQ4、KITLG、LARS2、LHFPL5、LOXHD1、LRTOMT、MARVELD2、MCM2、MET、MIR183、MIRN96、MITF、MSRB3、MT-RNR1、MT-TS1、MYH14、MYH9、MYO15A、MYO1A、MYO3A、MYO6、MYO7A、NARS2、NDP、NF2、NT3、OSBPL2、OTOA、OTOF、OTOG、OTOGL、P2RX2、PAX3、PCDH15、PDZD7、PJVK、PNPT1、POLR1D、POLR1C、POU3F4、POU4F3、PRPS1、PTPRQ、RDX、S1PR2、SANS、SEMA3E、SERPINB6、SLC17A8、SLC22A4、SLC26A4、SLC26A5、SIX1、SIX5、SMAC/DIABLO、SNAI2、SOX10、STRC、SYNE4、TBC1D24、TCOF1、TECTA、TIMM8A、TJP2、TNC、TMC1、TMC2、TMIE、TMEM132E、TMPRSS3、TRPN、TRIOBP、TSPEAR、USH1C、USH1G、USH2A、USH2D、VLGR1、WFS1、WHRN、およびXIAPと名付けられた核酸が挙げられる。本明細書において使用される命名法の説明および定義は、World Wide Webのhereditaryhearingloss.org/において見出されうる。
【0032】
導入遺伝子の発現は、導入遺伝子の自然のプロモーター(すなわち、導入遺伝子のコード配列とともに天然に見出されるプロモーター)により指令されるか、または導入遺伝子の発現は、異種プロモーターにより指示されてもよい。例えば、本明細書に記載のいずれの導入遺伝子もその自然のプロモーターとともに使用されうる。代替的に、本明細書に記載のいずれの導入遺伝子も異種プロモーターとともに使用されうる。本明細書中で使用されるとき、異種プロモーターは、その配列の発現を自然に指令しない(すはわち、自然においてその配列とともに見出されない)プロモーターをさす。本明細書に示されるいずれかの導入遺伝子の発現を指令するために使用されうる代表的な異種プロモーターとしては、例えば、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、トリベータアクチン(CBA)プロモーター、合成CASIプロモーター、ホスホグリセリン酸キナーゼ(PGK)プロモーター、および伸長因子(EF)-1プロモーター、アルファ9ニコチン性受容体プロモーター、プレスチンプロモーター、成長因子非依存性(GFI1)プロモーター、および小胞グルタミン酸トランスポーター3(VGLUT3)プロモーターが挙げられる。加えて、上記導入遺伝子のうちの1つの発現を自然に指令するプロモーター(例えば、KCNQ4プロモーター、Myo7aプロモーター、Myo6プロモーターまたはATOH1プロモーター)は、導入遺伝子の発現を指令するための異種プロモーターとして使用されうる。
【0033】
Anc80カプシドタンパク質を含有するウイルス中へパッケージングするための導入遺伝子を作製する方法は、当分野で知られており、従来の分子生物学および組換え核酸技術を利用する。一実施形態において、Anc80カプシドタンパク質をコードする核酸配列を含む構築物および好適な逆位末端反復配列(ITR)に隣接した導入遺伝子を保有する構築物が提供され、これは、導入遺伝子がAnc80カプシドタンパク質内にパッケージングされることを可能とする。
【0034】
導入遺伝子は、例えば、パッケージング宿主細胞を使用して、Anc80カプシドタンパク質を含有するAAV中にパッケージングされうる。ウイルス粒子の構成要素(例えば、rep配列、cap配列、逆位末端反復(ITR)配列)が、本明細書に記載の1つまたは複数の構築物を使用して、一過性にまたは安定的にパッケージング宿主細胞に導入されうる。本明細書に記載のウイルスは、少なくともAnc80カプシドタンパク質を含有し;ウイルス粒子の他の構成要素(たとえば、rep配列、ITR配列)は、祖先配列または現代の配列に基づくことができる。一部の場合において、例えば、ウイルス粒子全体が祖先配列に基づくことができる。そのようなウイルスは、日常的な方法を使用して精製されうる。
【0035】
1つまたは1つを超える導入遺伝子が内耳に送達されうることが理解されうる。Anc80カプシドタンパク質を含む単一のAAVベクターを使用して、またはAnc80カプシドタンパク質を含む複数のAAVベクターを使用して、1を超える導入遺伝子が内耳に送達されうることも理解されうる。
【0036】
一般に、本明細書中で使用されるとき、「核酸」は、DNAおよびRNAを含むことができ、1つまたは複数のヌクレオチド類似体または骨格改変を含有する核酸も含むことができる。核酸は、一本鎖または二本鎖であることができ、これは、通常その意図される用途に依存する。本明細書に記載の方法において使用可能な核酸は、知られた核酸配列と同一であることができるかまたは本明細書に記載の方法において使用可能な核酸は、そのような知られた配列とは配列が異なることができる。単に例として、核酸(またはコードされるポリペプチド)は、知られた配列に対して少なくとも75%の配列同一性(例えば、少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%の配列同一性)を有することができる。
【0037】
配列同一性パーセントを計算することにおいて、2つの配列がアラインされ、2つの配列間のヌクレオチドまたはアミノ酸残基の完全な一致の数が決定される。完全な一致の数が、アラインされた領域の長さ(すなわち、アラインされたヌクレオチドまたはアミノ酸残基の数)で割られ、100をかけると、配列同一性パーセント値となる。アラインされた領域の長さが、一方または両方の配列の一部から最短の配列の完全長サイズまでであることができるのは理解される。単一の配列が、1つを超える他の配列とアラインすることができ、したがって、アラインされた各領域にわたって、異なる配列同一性パーセント値を有しうることも理解される。
【0038】
配列同一性パーセントを決定するための2つ以上の配列のアラインメントは、コンピュータプログラムClustalWおよびデフォルトパラメータを使用して実施され、これは核酸またはポリペプチド配列のアラインメントが、その長さ全体にわたって実行されることを可能とする(グローバルアラインメント)。Chenna et al., 2003, Nucleic Acids Res., 31(13):3497-500。ClustalWは、クエリと1つまたは複数の対象配列との間のベストマッチを計算し、同一性、類似性および相違が決定されるように、これらをアラインする。配列アラインメントを最大化するために、1つまたは複数の残基のギャップがクエリ配列、対象配列またはその両方に挿入されうる。核酸配列のペアワイズアラインメントのためには、デフォルトパラメータが使用され(すなわち、ワードサイズ:2;ウィンドウサイズ:4;スコアリング法:パーセンテージ;トップダイアゴナルの数:4;およびギャップペナルティー:5);多重核酸配列のアラインメントのためには、以下のパラメータが使用される:ギャップ開始ペナルティー:10.0;ギャップ伸長ペナルティー:5.0;およびウエイトトランジッション:あり。ポリペプチド配列のペアワイズアラインメントのためには、以下のパラメータが使用される:ワードサイズ:1;ウィンドウサイズ:5;スコアリング法:パーセンテージ;トップダイアゴナルの数:5およびギャップペナルティー:3。ポリペプチド配列の多重アラインメントのためには、以下のパラメータが使用される:ウエイトマトリックス:BLOSUM(置換マトリックスをブロック(blocks substitution matrix));ギャップ開始ペナルティー:10.0;ギャップ伸長ペナルティー:0.05;親水性ギャップ:オン、疎水性残基:Gly、Pro、Ser、Asn、Asp、Gln、Glu、Arg、およびLys;ならびに残基特異的なギャップペナルティー:オン。ClustalWは、例えば、Baylor College of Medicine Search LauncherウエブサイトまたはWorld Wide WebのEuropean Bioinformatics Instituteウエブサイトにおいて実行されうる。
【0039】
核酸配列に変化が導入可能であり、これは、その核酸配列がコード配列である場合には、コードされるポリペプチドのアミノ酸配列に変化をもたらしうる。変化は、例えば、突然変異誘発(例えば、部位特異的突然変異誘発、PCR介在性突然変異誘発)を使用してまたはそのような変化を有する核酸分子を化学合成することにより、核酸コード配列に導入されうる。そのような核酸の変化は、1つまたは複数のアミノ酸残基における保存的および/または非保存的アミノ酸置換に導きうる。「保存的アミノ酸置換」は、1のアミノ酸残基が、類似する側鎖を有する異なるアミノ酸残基で置換されるもの(例えば、アミノ酸置換についての度数分布表を提供する、Dayhoffら(1978, Atlas of Protein Sequence and Structure, 5(Suppl. 3):345-352)を参照されたい)であり、非保存的置換は、アミノ酸残基が、類似する側鎖を有さないアミノ酸残基で置換されるものである。
【0040】
核酸は、ベクターまたはプラスミドとも呼ばれうる構築物内に含有されうる。構築物は、市販されているかまたは当分野において日常的な組換え技術により生成されうる。核酸を含有する構築物は、そのような核酸の発現を指令および/または制御する発現エレメントを含むことができ、構築物を維持するための配列(例えば、複製の起点、選択マーカー)のような配列を含むこともできる。発現エレメントは、当分野において知られており、例えば、プロモーター、イントロン、エンハンサー配列、応答性エレメントまたは誘導性エレメントを含む。
【0041】
核酸を内耳細胞に送達する方法
核酸を細胞に送達する方法は、一般に、当分野において知られており、導入遺伝子を含有する(ウイルス粒子とも呼ばれうる)ウイルスをインビボで内耳細胞に送達する方法は本明細書に記載されている。本明細書に記載される通り、約10~約1012個のウイルス粒子を対象に投与することができ、ウイルスは好適な体積(例えば、10μL、50μL、100μL、500μL、または1000μL)の、例えば、人工の外リンパ液に懸濁されうる。
【0042】
本明細書に記載の導入遺伝子を含有するウイルスは、任意の数のメカニズムを使用して内耳細胞(例えば、蝸牛中の細胞)に送達されうる。例えば、本明細書に記載の1つまたは複数の異なるタイプの導入遺伝子を含有するウイルス粒子を含む組成物の治療有効量が、蝸牛窓または前庭窓を通して、典型的には比較的単純な(例えば、外来患者)手順で注入されうる。一部の実施形態において、本明細書に記載の導入遺伝子を含有するかまたは異なるウイルス粒子の1つまたは複数の組を含有するウイルス粒子の治療有効数を含む組成物であって、組の中の各粒子は同じタイプの導入遺伝子を含むことができるが、粒子の各組は他の組とは異なるタイプの導入遺伝子を含む、組成物が、手術(例えば、蝸牛開窓術またはカナロストミー)の間に耳の中の適切な位置に送達されうる。
【0043】
加えて、鼓膜を横切りかつ/または蝸牛窓を通る薬剤の移動を促進する送達ビヒクル(例えば、ポリマー)が利用可能であり、任意のそのような送達ビヒクルが、本明細書に記載のウイルスを送達するために使用されうる。例えば、Arnold et al., 2005, Audiol. Neurootol., 10:53-63を参照されたい。
【0044】
本明細書に記載の組成物および方法は、内耳細胞、例えば、蝸牛細胞への核酸の高効率の送達を可能とする。例えば、本明細書に記載の組成物および方法は、導入遺伝子の、内有毛細胞の少なくとも80%(例えば、少なくとも85、90、91、92、93、94、95、96、97、98または99%)への送達および発現を可能とするかまたは外有毛細胞の少なくとも80%(例えば、少なくとも85、90、91、92、93、94、95、96、97、98または99%)への送達およびそこにおける発現を可能とする。
【0045】
本明細書において実証される通り、Anc80カプシドタンパク質を含有するAAVを使用して送達された導入遺伝子の発現は、聴覚または前庭機能が延長された期間(例えば、数カ月間、数年間、数十年間、一生涯)回復させられるように、内有毛細胞(IHC)、外有毛細胞(OHC)、らせん神経節ニューロン、血管条、前庭有毛細胞、および/または前庭神経節ニューロン(例えば、Atoh1、NF2)の再生をもたらしうる。
【0046】
国際公開第2015/054653号パンフレットに記載された通り、Anc80カプシドタンパク質を含有するAAVは、その血清有病率および/または従来のAAV(すなわち、Anc80カプシドタンパク質を含有しないAAV)と比較してそれが中和される程度に特徴を有しうる。当分野において血清有病率は、血清反応陽性の(すなわち、特定の病原体または免疫原に曝露されてきた)集団における対象の割合をさすと理解され、特別な病原体または免疫原に対して抗体を産生する集団における対象の数を、検査した集団中の個体の総数で割ったものとして計算される。ウイルスの血清有病率を決定することは、当分野において日常的に実施され、個体の特別な集団由来の試料(例えば、血液試料)中の1つまたは複数の抗体の蔓延を決定するためには、典型的にイムノアッセイを使用することを含む。加えて、血清試料中の中和抗体の程度を決定するための数種の方法が利用可能である。例えば、中和抗体アッセイは、抗体を含まない対照試料に比較して50%以上感染を中和する抗体濃度を実験試料が含有する、力価を測定する。Fisherら(1997, Nature Med., 3:306-12)およびManningら(1998, Human Gene Ther., 9:477-85)も参照されたい。代表的な従来のAAVとしては、非限定的に、AAV8(またはAAV8カプシドタンパク質を含むウイルス)および/またはAAV2(またはAAV2カプシドタンパク質を含むウイルス)が挙げられる。
【0047】
アッシャー症候群
ヒトアッシャー症候群(USH)は、合併した難聴と失明の原因となる稀な遺伝子疾患である。これは常染色体劣性形質として遺伝し、米国において16,000~20,000人を冒し、3~6%の幼児期難聴の原因となる。アッシャー症候群は、症状の重症度により3つの臨床亜型(USH-1、-2および-3)に分類される。USH1は、最も重症型である。USH1に冒された患者は、先天性の両側性重度感音性難聴、前庭反射消失および思春期前の網膜色素変性症(進行性の網膜の桿体および錐体機能の両側性対称性変性)を患う。蝸牛移植片を装着されない限り、個体は典型的に発声する能力を発達させない。現在、アッシャー患者のための生物学的治療法は存在しないが、欠陥遺伝子の野生型形態の早期再導入は疾患の回復を可能としうる。
【0048】
6つのアッシャー遺伝子:MYO7A(myosin 7a)、USH1C(harmonin)、CDH23(cadherin 23)、PCDH15(protocadherin 15)、SANS(sans)およびCIB2(calcium and integrin binding protein2)がUSH1と関連する。これらの遺伝子は、内耳中の毛束の形態形成に関与し、インタラクトームの一部であるタンパク質をコードする(例えば、Mathur & Yang, 2015, Biochim. Biophys. Acta, 1852:406-20を参照されたい)。harmoninは、それが他のUsher1タンパク質に結合する、USH1インタラクトームの中心に存在する。そのPDZ(PSD-59 95/Dlg/ZO-1)相互作用ドメインのために、harmoninは、足場タンパク質として機能することが提案されてきた。インビトロの結合研究は、すべての他の知られたUSH1タンパク質が、USH2タンパク質のうちの2つであるusherinおよびVLGR1と同様にharmoninのPDZドメインに結合することを示した。USH1C遺伝子は、タンパク質のドメイン組成に依存して3つの異なるサブクラス(a、bおよびc)に分類される、harmoninの10種のオルタナティブスプライス型をコードする、28のエクソンからなる。3つのアイソフォームは、PDZタンパク質-タンパク質相互作用ドメイン、コイルドコイル(CC)ドメインおよびプロリン-セリン-スレオニン(PST)リッチドメインの数が異なる。
【0049】
USH1タンパク質は、多数の細胞外連結によって相互接続された何百もの不動毛から構成される機械感覚性毛束中の有毛細胞の頂端に局在化している。Usher遺伝子(それぞれ、USH1DおよびUSH1E)の産物であるカドヘリン23およびプロトカドヘリン15は、不動毛の遠位末端に位置する感覚糸(tip-link)を形成する。harmonin-bは、CDH23、PCDH15、F-アクチンおよびそれ自身に結合する。有毛細胞の感覚糸挿入点近くの不動毛の先端において認められ、そこで有毛細胞における伝達と順応に機能的役割を演じると考えられている。harmonin-bは、出生後の早い段階で発現するが、その発現は、蝸牛および前庭の両方において出生後30日(P30)近辺で消失する。harmonin-aも、カドヘリン23にも結合し、不動毛に認められる。最近の報告は、シナプスにおけるharmonin-aのさらなる役割を明らかにし、そこにおいて、harmonin-aはCav1.3 Ca2+チャネルと結合して、ユビキチン依存性経路によるチャネルの利用可能性を制限する。
【0050】
アッシャー症候群の数種のマウスモデルが、同定されまたは過去10年間にわたって操作され、そのうちの7種はharmoninに影響を及ぼす。これらの中で、唯一のモデル、Ush1cc.216G>Aモデルのみが、ヒトアッシャー症候群を特徴づける聴覚および網膜欠損の両方を再現する。Ush1cc.216G>Aは、フランス系アカディア人USH1C患者のコホートにおいて認められるものに類似する点突然変異により、すべての従来のharmoninアイソフォームの発現に影響を及ぼすノックインマウスモデルである。突然変異は、Ush1c遺伝子のエクソン3の末端に隠れたスプライス部位を導入する。この隠れたスプライス部位の使用は、35bpの欠失を含むフレームシフトした転写物を生成し、PDZ、PSTおよびCCドメインを欠く、著しく切断されたタンパク質の翻訳をもたらす。ホモ接合性のC.216AAノックインマウスは、1カ月齢で重症の聴覚喪失を患うが、ヘテロ接合性のc.216GAマウスはいかなる異常な表現型も呈さない。c.216AAマウスにおける蝸牛の組織構造は、P30における中回転および基底回転の無秩序な毛束、異常な細胞の列ならびに内有毛細胞および外有毛細胞の喪失を示す。
【0051】
特に、harmonin導入遺伝子と組み合わせた本明細書に記載の祖先AAVカプシドタンパク質を使用して、有毛細胞にうまく形質導入し、harmoninスプライス型の発現および正確な局在化を推進し、それにより野生型harmoninを再導入して、アッシャー症候群関連の難聴、例えば、USH1C関連難聴と診断された患者を治療することができる。さらに、出生後早期の蝸牛窓膜への本明細書に記載の祖先AAVカプシドタンパク質を含有するAAVの注入が、ホモ接合性c.216AAマウスにおいて、聴覚および前庭機能をうまく回復させることが、本明細書において実証される。注入されたマウスにおける聴覚機能の回復は、野生型harmoninをコードするmRNAの発現の回復だけでなく、毛束形態の保存およびメカノトランスダクションと関連している。
【0052】
TMC1/TMC2
40超の異なる突然変異が、難聴を引き起こすTMC1において同定されている。これらは、35の劣性突然変異および5の優性突然変異にさらに分割される。劣性突然変異のほとんどは、重度の先天性聴覚喪失をもたらす(例えば、DFNB7/11)が、少数は後発性の中程度から重度の聴覚喪失を引き起こす。すべての優性突然変異は、十代半ばに発症する、進行性の聴覚喪失(例えば、DFNA36)を引き起こす。特に、本明細書に記載のAnc80カプシドタンパク質を含むAAVベクターは、非突然変異体(例えば、野生型)TMC1配列またはTMC2配列を送達し、それにより聴覚喪失(例えば、さらなる聴覚喪失)を予防しかつ/または聴覚機能を回復させるために、使用されうる。
【0053】
当業者のスキルの範囲内の従来の分子生物学、微生物学、生化学および組換えDNA技術が、本開示に従って使用されうる。そのような技術は、文献中で十分に説明されており、以下の実施例のいくつかにおいて例証されている。本発明は、請求の範囲に記載された方法および組成物の範囲を限定することのない、以下の例においてさらに記載される。
【実施例
【0054】
第1部:高効率の蝸牛遺伝子導入
実施例1
祖先AAVカプシドタンパク質を含有するアデノ随伴ウイルス(AAV)は、安全かつ効率的な蝸牛遺伝子導入をもたらす
以下の方法および材料を実施例1において使用した。
【0055】
ウイルスベクター
CMV駆動eGFP導入遺伝子を含むAAV2/1、2/2、2/6、2/8、2/9およびAAV2/Anc80L65およびウッドチャック肝炎ウイルス転写後調節因子(WPRE)カセットを、先に記載した通りに(Zinn et al., 2015, Cell Reports, 12:1056-68)マサチューセッツ眼科耳科(Massachusetts Eye and Ear)のGene Transfer Vector Core(vector.meei.harvard.edu)において調製した。AAV2/Anc80L65プラスミド試薬はaddgene.comより入手可能である。
【0056】
インビトロの外植片培養
両系統の仔マウスからの全部で156の蝸牛外植片培養を、先の刊行物(Dilwali et al., 2015, Scientific Reports, 5:18599)に記載された通りに評価するために出生後4日目に調製した。すなわち、断頭後にマウス側頭骨を採取し、らせん神経節ニューロン領域に接続された器官型外植片として培養するために、蝸牛を解剖した。蝸牛当たり2つの検体を得て、1つ(「頂端」)は下部頂回転から、1つ(「基底」)は上部基底回転からなる。各血清型について、最も少なくて4つ(CBA/CaJ、48h)、2つ(CBA/CaJ、48h+5d)、3つ(C57BL/6、48h)、2つ(C57BL/6、48h+5d)の基底および頂端検体を接種した。蝸牛の形態が培養中に維持されなかった場合には、検体を除外した。形質導入のばらつきについての情報を与え、さらなるインビボの評価のための選択の基礎を提供するために、試料の数を選択した。培地(98%ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、1%アンピリシンおよび最初の12時間の間の1%N補充、プラス1%ウシ胎仔血清(FBS))および1010GCのAAVとともに外植片を48h、50μl中でインキュベートした。48h+5dの条件のためには、追加の5日間、AAVを含む培地をAAVを含まない新鮮な培地に交換した。前庭神経鞘腫切除を受けている4人の同意を得た成人患者から得た、卵形嚢由来のヒト前庭上皮を先に記載された通りに培養し(Kesser et al., 2007, Gene Ther., 14:1121-1131)、1010GCのAAVに24時間曝露し、10日間培養中に維持し、その後、組織を固定してファロイジンで染色してイメージングした。試験は、参照番号11/LO/0475でSurrey Borders NRES Committee London (Health Research Authority)により承認された。
【0057】
動物モデルおよび一般的方法
野生型C57BL/6JおよびCBA/CaJマウスを、Jackson Laboratory(Bar Harbor,ME)から入手し、いずれかの性別の動物を推定50/50の比率で実験に使用した。インビトロおよびインビボの形質導入アッセイならびに後続のエンドポイントのための実験当たりの群サイズは、検体へのアクセスおよび技術的実行可能性により決定した。Anc80形質導入について報告された観察を、(検体へのアクセスの独特で制限された性質のため、ヒト前庭組織形質導入を除き)様々なベクターロットを使用する後続の実験において定性的に確認した。検体への制限されたアクセスおよび報告された知見の定性的性質のため、血清型の間の形質導入効率の統計学的分析は実施しなかった。
【0058】
CSFおよび血液のサンプリング
大槽からの脳脊髄液(CSF)サンプリング(Lui & Duff, 2008, J. Visualized Exp., 21:e960)および開胸による心臓内血液採取を最終手順において実施した。ミクロキャピラリー管を通じて、動物当たり最大量(5μL以下)の清澄なCSFを、体積60μLのPBS中に採取し、これは、わずかに異なる開始希釈液をもたらし、その後実験開始前にさらなる対照PBSにより標準化した。1.1mLのZ-Gelマイクロ管(Sarstedt,Numbrecht,Germany)中に血液試料を得た後、これを8,000rpmで8分間、沈降させ、血清を(PBS中の)CSF試料とともに、さらなる使用まで-80℃で保管した。
【0059】
実施例1A-組織学的分析
5~29日間のフォローアップ期間の後、動物を屠殺し、蝸牛の全組織標本を先に報告された通りに調製した(Sergeyenko et al., 2013, J. Neurosci., 33:13686-94)。蝸牛全組織標本および外植片の両方を、対応する二次抗体(Alexa Fluor 555抗マウス抗体およびAlexa Fluor 647抗ウサギ抗体、#A-21422および#A-21245 Thermo Fisher Scientific, Waltham, MA、1:1000)とともにミオシン7A(Myo7A、#25-6790 Proteus Biosciences, Ramona, CA、1:400)およびベータ-チューブリン(TuJ1、#MMS-435P Biolegend, San Diego, CA、1:200)に対する抗体で染色した(Dilwali et al., 2015, Scientific Reports, 5:18599)。検体をマウントし、その後共焦点顕微鏡法を行った。所与の一連の実験の各画像を、同じ設定で、蛍光の飽和を防ぐために最も強いeGFPシグナルを有する検体に基づいて選択したレーザー強度を使用して得た。コルチ器官およびらせん神経節ニューロン(SGN)域のために概観画像およびズームイン写真についてZスタックを得た。AMIRAによる3D再構成を、SGNトランスフェクションをより正確に決定するために使用した。
【0060】
図1および図4の結果は、C57BL/6およびCBA/CaJにおいてeGFPをそれぞれコードするAAVの発現によりモニターした、5つの血清型のトロピズムを図示する。特に、eGFP発現は、Anc80に曝露した蝸牛培養において定性的により明るく、多くの蝸牛細胞型において発現が明白であった。
【0061】
実施例1B-eGFP発現の定量化
インビトロのデータのために、各検体について基底および頂端試料当たり1または2の100μm切片当たりの外有毛細胞または内有毛細胞の総数でeGFP陽性細胞の数を割ることによって、eGFP陽性の内有毛細胞(IHC)および外有毛細胞(OHC)のパーセンテージを蝸牛に沿って手動で定量化した。蝸牛外移植片中のすべての目に見えるSGNをそれらのeGFP発現に関して評価した。らせん板縁および支持細胞の面積を、(上で説明した通り、各一連の実験に応じて調整した)定性的アプローチにより、0(発現なし)から3(最強のシグナル)のスケールで評価した。自己蛍光を除外するためにAAVを含まない対照サンプルを使用した。データは、試験した両マウス系統で、頂端および基底において60から100%の間の効率でAnc80がIHCおよびOHCを標的化したことを実証した。Anc80は、AAV2に比較して、IHCおよびOHCにおいて一貫してかつ定性的により明るいeGFP発現を示した(図1および図4)。
【0062】
2日目の(早期)時点における発現の過小評価をもたらしうる、異なるAAVの間の発現開始における潜在的な相違を調整するために、より長期の実験を行った。新たな蝸牛の組に同一の条件で形質導入したが、AAVとの48hのインキュベーション後に外植片培養のベクターを含有する培地を除去し、新しい培地に交換して、さらに5日間、培養を生存可能に維持した(48h+5dと称する)。類似の発現パターンを、この長期試験においてAAV2およびAnc80について観察した。CBA/CaJマウスでは、特に基底回転において(図1J、1Kおよび図4I、4J)、AAV6、8および9について発現の中程度の増加に注目した。他の細胞型は、すべての血清型により標的化され、支持細胞よりも縁がより許容的であり、それに続いてSGNであった(図5、6および7)。より明るいeGFP蛍光により証明された通り、Anc80形質導入は、一貫してより高い効率およびより強い発現を生じさせた。
【0063】
実施例1C-インビボの注入
仔マウス(P0~P2)に、斜角研磨したガラスマイクロインジェクションピペットを使用して、蝸牛窓膜(RWM)を介して注入した。P-2000ピペットプラー(Sutter Instrument,Novato,CA)においてキャピラリーガラス(WPI)からピペットを引き、マイクロピペットベベラー(Sutter Instrument,Novato,CA)を使用して斜角研磨した(28°の角度で、~20μmの先端径)。手術部位(左乳様突起)を覆うために滅菌スワブを使用する鎮痛のために、EMLAクリーム(リドカイン2.5%およびプリロカイン2.5%)を外部に塗布した。術前は38℃のウォームパッド上で体温を維持した。意識喪失するまで、2~3分間、氷/水中で急速な体温低下を誘導することによって仔を麻酔し、手術中、5~10分間、冷却プラットフォーム上でこの状態を維持した。べタジンでごしごし擦り、70%エタノールで拭くことを3回繰り返して、手術部位を消毒した。耳後部の切開を行って透明な耳嚢を露出させ、嚢および覆っている筋膜を通してマイクロピペットを手動ですすめ、マイクロピペットの先端によりRWMを穿通した。およそ1μLのウイルスを、片側性に1分以内で5頭の(AAV1)、4頭の(AAV2)、2頭の(AAV8)、1頭の(AAV6)、3頭の(Anc80)C57BL/6動物の左耳に手動で注入した。質および純度のような特定のベクター調製物に関する因子を調整するために、本明細書に提示する本発明者らの定性的知見を確認するための独立した調製物由来の異なるベクターロットを使用する後続の試験においてAnc80の結果を確認した(データは示さない)。非盲検様式で群ごとに注入を実施した。時折、注射針の挿入は深すぎ、浅すぎまたは誤った角度で行われた。中耳または内耳構造に目に見える損傷があった場合には、試料をさらなる分析から除外した。注入の成功率は、注入する人の経験レベル次第で、~50%から~80%の間で変動した。注入後、6-0の黒色モノフィラメント縫合糸(Surgical Specialties,Wyomissing,PA)を使用して皮膚切開を閉じた。その後、仔を38℃のウォーミングパッドに5~10分間戻し、次いで、飼育のためにそれらの母親に戻した。
【0064】
先の報告と一致して、AAV1は中程度から高度の効率でIHCに形質導入した(図2A、2B)。これらの研究は、AAV2、6および8が少数のIHCを標的化し、AAV8のみが頂端および基底においておおよそ同等の形質導入を実証していることを示している(図2B)。また、先の報告と一致して、試験した従来のAAV血清型のすべてについてOHC形質導入は最小限であった(<5%)。しかしながら、Anc80は、20倍(AAV1について)~3倍(AAV2について)低い用量で、ほぼ100%のIHCおよび~90%のOHC(図2A~2C)に形質導入した。落射蛍光顕微鏡法による生細胞イメージングにより観察した通り、すべての血清型について1.36×1012GCの等用量における形質導入は、Anc80については実質的なIHCおよびOHCの形質導入をもたらしたが、AAV1、2および8ではIHCの標的化は最小限であり、OHCでは認められなかった(図8C、8D)。
【0065】
続いて、Anc80で形質導入した試料を固定し、染色し、共焦点顕微鏡法によりイメージングし、有毛細胞形質導入の用量依存性を明らかにした(図8E)。比類のないOHC標的化(図2C図8)は、他のAAVに比較して質的にはっきりと異なるAnc80による形質導入の生物学を例証している。同様のレベルのAnc80による形質導入を、Anc80を注入した全3頭のマウスの基底から頂端までの蝸牛全体において認めた(図2A、B、C)。蝸牛頂端の低倍率写真(図8A)は、注入部位から遠くで強力なeGFP発現を示した。基底の高倍率画像は、100%のIHCおよび95%のOHC形質導入を明らかにしている(図8B)。
【0066】
一部の動物において、注入していない対側の耳に強いeGFP発現を認めた(図9)。マウスにおいては、蝸牛水管は開存しており、蝸牛外リンパからCSF、対側水管および対側蝸牛への流体通路を提供している。かくして、RWMを介して注入したAnc80-eGFPが脳内のニューロンに形質導入できるかを調べた。実際に、小脳の横断面は、小脳プルキンエニューロンにおける強いeGFP発現を明らかにした(図10A、10B)。
【0067】
遺伝性の難聴の一部の型は、前庭機能不全も引き起こすため、Anc80は、ヒト前庭器官への遺伝子送達に有用なベクターである可能性がある。この可能性を調べるために、前庭シュワン細胞腫の切除を受けている4人の成人患者からヒト前庭上皮を採取し;感覚上皮を先に記載の通りに培養中に置いた(Kesser et al., 2007, Gene Ther., 14:1121-31)。AAVで形質導入した試料について、図3Cは、ヒト前庭上皮全体で両有毛細胞および支持細胞における強力なeGFP蛍光を明らかにした。図3D中のMyo7Aで対比染色した上皮の高倍率写真は、Myo7A陽性有毛細胞の83%(19/23)が、eGFP陽性でもあったことを明らかにし、Anc80がマウスおよびヒト両方の有毛細胞に効率的に形質導入できることを示唆している。
【0068】
実施例1D-免疫学的アッセイ
CSFおよび血清中のAnc80に対する抗体力価を、中和アッセイにより決定した(Zinn et al., 2015, Cell Reports, 12:1056-68)。96ウエルフォーマットを使用して、(上記の通りに採取した)熱失活させたCSFまたは血清試料を連続的に無血清培地(Life Technologies,Carlsbad,CA)で希釈し、次いで、Anc80-ルシフェラーゼ(10GC/ウエル)で1時間、37℃で処理した。次いで、試料/Anc80-ルシフェラーゼ混合物を、前日にアデノウイルス(MOI20)で処理したHEK293細胞に移植した。37℃で1時間後、希釈した血清培地(1部の無血清培地、2部の血清培地)を各ウエルに添加した。
【0069】
2日後、細胞を溶解バッファー(Promega,Madison,WI)で処理し、-80℃で30分間凍結した。次いで、基質バッファー(Tris-HCl、MgCl2、ATP(Life Technologies,Carlsbad,CA)、D-ルシフェリン(Caliper Life Sciences,Hopkinton,MA))で処理する前に、細胞を37℃で15分間解凍した。Synergy BioTek Plate Reader(BioTek,Winooski,VT)を使用してルミネッセンスのアウトプットを読み取った。
【0070】
アッセイの感度およびサンプリングのレベルにおいて、ベクターに対する低レベルの中和を、注入したマウスの血清中で検出することができたが、CSFでは検出できなかった(図10C)。
【0071】
実施例1E-有毛細胞の電気生理学
蝸牛を切除し、カバーガラスに載せ、63x水浸対物レンズおよび微分干渉オプティクスを備えたAxio Examiner.A1正立顕微鏡(Carl Zeiss, Oberkochen, Germany)で眺めた。電気生理学的記録をMEM中、(mMで)137NaCl、5.8KCl、10HEPES、0.7NaHPO、1.3CaCl、0.9MgClおよび5.6D-グルコース、ビタミン(1:100)およびアミノ酸(1:50)を含有する標準液(Life Technologies,Carlsbad,CA)(pH7.4;~310mOsm/kg)中、室温(22℃~24℃)で実施した。
【0072】
記録用電極(3~4MΩ)をR-6ガラス(King Precision Glass,Claremont,CA)から引き出し、(mMで)140CsCl、5EGTA-KOH、5HEPES、2.5NaATP、3.5MgClおよび0.1CaClを含有する細胞内液(pH7.4;~280mOsm/kg)で満たした。Axopatch 200B(Molecular Devices,Sunnyvale,CA)を使用するメカノトランスダクション電流を記録するために、全細胞密封(whole-cell, tight-seal)技術を使用した。有毛細胞を-84mVに維持した。ローパスBesselフィルターにより5kHzで電流をフィルタリングし、12ビットの収集ボード(Digidata 1440A、Molecular Devices,Sunnyvale,CA)により≧20kHzにデジタル化し、pCLAMP10ソフトウエア(Molecular Devices,Sunnyvale,CA)を使用して記録した。
【0073】
LVPZT増幅器(E-500.00、Physik Instrumente,Karlsruhe,Germany)により駆動させたPICMAチップ型ピエゾアクチュエータ(Physik Instrumente,Karlsruhe,Germany)に搭載した堅いガラスプローブを使用してIHCおよびOHC由来の毛束を偏向させ、8-ポールBesselフィルター(Model 3384フィルター、Krohn Hite Corporation,Brokton,MA)により40kHzでフィルタリングして、残留ピペット共振を排除した。全束の記録のために有毛細胞の不動毛の列の凹側面にフィットするように、堅いガラスプローブをデザインした(OHC用には直径3~4μm、IHC用には直径4~5μm)。P10を超える全細胞の電気生理学的記録のために、蝸牛組織をP5~7で切開し、MEM(1X)+1%FBSを含むGlutaMAXTM-1培地中、37℃、5%COにおいて30日間以下インキュベートした。
【0074】
毛束の偏りによって、P7のOHCおよびP35のIHCから誘発された代表的な電流は、eGFP陽性細胞およびeGFP陰性対照細胞の間に、振幅、感度またはキネティクスの相違のないことを明らかにした(図2D)。51個のeGFP陽性および52個のeGFP陰性有毛細胞を、Anc80への曝露後、蝸牛のすべての領域および1から5週齢の間で記録した。すべての場合において、反応は野生型から識別不可能であり(図2E)、これは、Anc80による形質導入が感覚細胞機能に有害な効果を及ぼさなかったことを確認した。
【0075】
実施例1F-聴覚試験
聴性脳幹反応(ABR)および歪成分耳音響放射(DPOAE)データを、先に記載の通りに収集した(Askew et al., 2015, Science Translational Med., 7:285ra108)。DPOAEは、適切な蝸牛の増幅および同調に関するアッセイであり、外有毛細胞の生存可能性の敏感な尺度である(Guinan et al., 2012, Hearing Res., 293:12-20)。麻酔したマウスにおいて試験した刺激は、5.6、8、11.3、16、22.6および32KHzの周波数の10から90dBの間の音圧レベルで変化した。4つのAnc80を注入した耳と4つの注入しない耳および1つのeGFP蛍光を含まない注入による損傷を伴う陰性対照耳を、P28~P30で分析した。
【0076】
ABRを誘発するために必要な最小限の音閾値をプロットし(図2F)、注入したおよび注入しない耳の間で閾値に相違のなかったことを明らかにした。組織学的解析は、4つの注入した耳のすべてにおいて強力なeGFP蛍光を明らかにした(データは示さない)。1の事例においては、eGFP陽性細胞はなく、ABR閾値が上昇し(図2F)、注入が失敗し、針が蝸牛管を破って永久的な損傷をもたらしたかもしれないことを示唆している。Anc80-eGFPによる強い外有毛細胞の形質導入にもかかわらず、注入しない対照耳と比べたDPOAE閾値に相違を認めなかった(図2G)。よって、ABRおよびDPOAEのデータは、IHCおよびOHCにおけるRWM注入、Anc80形質導入および導入遺伝子の発現は、すべて聴覚機能にとって安全であることを示している。
【0077】
実施例1G-ロータロッド試験
ロータロッド装置上での平衡行動について5頭のC57BL/6マウスを試験した。前庭機能の障害を有するマウスは、ロータロッド装置上での成績が良くないことが知られている(Parker & Bitner-Glindzicz, 2015, Archives Dis. Childhood, 100:271-8)。先の研究は、一方の耳のみが冒されている場合に平衡機能不全を検出するためのこのロータロッド試験の能力を強調した(Fukui & Raphael, 2013, Hearing Res., 297:99-105; Geleoc & Holt, 2014年, Science, 344:1241062)。P1において3頭のマウスに注入し、P36において試験し、2頭はP79において注入していない対照マウスであった。以下のロータロッドプロトコールを使用して、すべてのマウスを試験した。1日目に、4RPMで回転しているロッド上で5分間平衡を保つためにマウスを訓練した。2日目に、各トライアルを5分間隔てた5回のトライアルにおいてマウスを試験した。2RPMの開始速度から、各トライアルごとにロッドを1RPM加速した(Fukui & Raphael, 2013, Hearing Res., 297:99-105)。マウスが装置から落下するまでの時間を(秒で)記録した。
【0078】
蝸牛の外リンパ液は前庭迷路の外リンパ液と連続しているため、蝸牛RWMを介して注入したAnc80-eGFPが前庭感覚器官に形質導入しうるかを評価した。実際に、前庭上皮の全組織標本は、重力および直線的な頭の動きに対して敏感な前庭器官である卵形嚢のI型およびII型有毛細胞の両方における、ならびに回転性の頭の動きに対して敏感な三半規管における強力なeGFP発現を明らかにした(図3A、3B)。よって、Anc80形質導入が平衡に影響しうるという安全性の懸念に取り組むために、前庭における発現が確認された注入したマウスは、前庭機能に関するロータロッド試験の成績が注入しなかった対照と同様であった(図11)。
【0079】
第2部-遺伝子治療はアッシャー症候群のマウスモデルにおいて機能を回復させる
実施例2
アッシャー症候群のマウスモデル
以下の方法および材料を実施例2において使用した。
【0080】
組織標本
電気生理学的研究のために、Ush1cc.216G>Aヘテロ接合性またはホモ接合性突然変異体マウス由来の卵形嚢およびコルチ器官を、出生後0日目から8日目まで(P0~P8)採取した。出生後の仔マウスを、迅速な断頭によって殺した。側頭骨を切除し、10mM HEPES(pH7.4)を補充したMEM(Invitrogen,Carlsbad,CA)中に浸した。先に記載の通りに酵素を使用せずにコルチ器官を切り離した。0.1mg/mlのプロテアーゼによる10分間の処理後(Protease XXIV, Sigma)に卵形嚢を切除した。切除した器官を丸いカバーガラスに載せた。先にカバーガラスに接着剤でつけた一組の細いガラス繊維を組織の縁に置いて、下向きに安定化させた。組織を急性的に使用するかまたは1%ウシ胎仔血清の存在下で培養中に保持した。培養を7から8日間維持し、インビトロのウイルスベクター感染を伴う実験のために、2~3日ごとに培地を交換した。
【0081】
動物
Ush1cc.216G>Aノックインマウスを、ルイジアナ州立大学のHealth Science Centerから入手した。C57BL6のバックグラウンドを有する輸入した系統は、加齢性の聴覚喪失を引き起こすCdh23(Ahl)突然変異から先に育種された。(P8よりも前に)トゥクリップまたは(P8の後に)イヤーパンチを使用してマウスの遺伝子型を同定し、先に記載の通りにPCRを実施した(Lentz et al., 2007, Mutat. Res., 616:139-44)。すべての試験について、雄性および雌性マウスをおよそ等しい割合で用いた。その他の方法で無作為化パラダイムは適用しなかった。
【0082】
ウイルスベクターの生成
c.216AA突然変異体マウスの蝸牛から全RNAを単離し(RNAqueous micro kit,Ambion)、QuantiTect Reverse Transcriptionキット(Qiagen)を使用して逆転写した。trunc-harmoninのcDNAを、Platinum Taq DNAポリメラーゼ High Fidelity(Invitrogen)およびプライマー:Trunc-harmonin.F(KpnI)GAG GTA CCA TGG ACC GGA AGG TGG CCC GAG(配列番号9);Trunc-harmomin.RV(BamHI)CAG GAT CCG GAC AAT TTC ATC CCC TAC(配列番号10)を使用してPCRにより増幅した。387bpのPCR産物を、TAクローニングキット(Invitrogen)によりクローニングし、シーケンシングにより確認した。GFP融合構築物を生成するために、KpnIおよびBamHIを使用して、切断したharmonin断片をpEGFP-C1中へサブクローニングした。NheI-XbaI EGFP::trunc-harmonin cDNAを、AAVシャトルベクターに導入した。慣用のベクターをAAV2逆位末端反復配列(ITR)とともにAAV1カプシドへパッケージングし、ここで、導入遺伝子カセットが、CMVプロモーター(AAV2/1.CMV.EGFP::trunc-harmomin.hGH、1.92 E14gc/m,BCH)により駆動される。
【0083】
harmonin-a1およびharmonin-b1プラスミドを、Lily ZhengおよびJames Bartlesからご厚意により提供されたEGFPタグ付き標識構築物(Zheng et al., 2010, J. Neurosci., 30:7187-201)(Department of Cell and Molecular Biology, Northwestern University, Feinberg School of medicine, Chicago, IL)から、本発明者らの研究室において調製した。harmonin-a1は、元々、マウス腎臓から、harmonin-b1は単離されたマウス蝸牛感覚上皮にから得た。harmonin-a1構築物は、そのN末端においてEGFPタグをtdTomatoで置換するために、さらに修飾した。蛍光標識したおよび非標識構築物をAAVベクターにパッケージングした。Boston Children’s Hospitalのウイルスコア施設およびMassachusetts Eye and Ear InfirmaryのGene Transfer Vector Coreがウイルスベクターを生成した。以下のベクター:AAV2/1.CMV.tdTomato::harmonin-a1 4.33 10^13gc/ml(BCH);AAV2/1.CMV.EGFP::harmonin-b1 2.73 564 10^14gc/ml(BCH);AAV2/1.CMV.EGFP-harmonin-a1:2.81 10^12gc/ml(MEEI);AAV2/1.CMV.EGFP-trunc-harmonin;1.92 10^14gc/ml(BCH);AAV2/Anc80.CMV.harmonin-a1:1.93 10^12gc/ml(MEEI);AAV2/Anc80.CMV.harmonin-b1:1.74 10^12gc/ml(MEEI);AAV2/Anc80.CMV.trunc-harm.WPRE:9.02 567 10^12gc/ml(MEEI)を生成した。インビトロの実験のために、10μlの濃縮したベクターを、1%ウシ胎仔血清の存在下で迅速に切開した組織の1ml MEMを補充した培地に24h添加した。その後、培養を最長10日、維持した。
【0084】
蝸牛窓膜(RWM)注入
RWM注入を、Boston Children’s Hospitalの動物実験委員会により認可された動物プロトコール#15-01-2878Rの通りに実施した。0.8μl~1μlのAAVベクターを新生児マウスP0~P1およびP10~P12に注入した。最初に、低体温への曝露を使用してP0~P1マウスを麻酔したが、P10~P12マウスはイソフルランにより麻酔した。麻酔に際して、耳嚢を露出させ、蝸牛を可視化するために、耳後部を切開した。マイクロマニピュレーター(Askew et al., 2015, Sci. Transl. Med., 7:295ra108)により制御したガラスマイクロピペットを使用してRWMを通して注入を行った。注入した材料の体積を、10分間、およそ0.02μl/分に制御した。標準的な術後ケアを適用した。試料サイズを最適化し、変動を減少させるために、インビボ試験のための試料サイズを継続的に決定した。
【0085】
電気生理学的記録
(mMで)144 NaCl、0.7 NaHPO、5.8 KCl、1.3 CaCl、0.9 MgCl、5.6 D-グルコースおよび10 HEPES-NaOHを含有する、pH7.4および320mOsmol/kgに調整した標準的な人工の外リンパ液中で記録を実施した。濃縮物(Invitrogen,Carlsbad,CA)から、ビタミン(1:50)およびアミノ酸(1:100)を添加した。63X水浸対物レンズおよび微分干渉オプティクスを備えた正立Axioskop FS顕微鏡(Zeiss,Oberkochen,Germany)を使用して、頂端表面から有毛細胞を眺めた。記録用ピペット(3~5MΩ)を、ホウケイ酸キャピラリーガラス(Garner Glass,Claremont,CA)から引き、(mMで)135 KCl、5 EGTA-KOH、10 HEPES、2.5 KATP、3.5 MgCl、0.1 CaClを含有するpH 7.4の細胞内液で満たした。全細胞電位固定下、-64mVの保持電位、室温において電流を記録した。ローパスBesselフィルターにより10kHzでフィルタリングし、Axopatch Multiclamp 700AまたはAxopatch 200A(Molecular Devices,Palo Alto,CA)を使用して、12ビットの収集ボード(Digidata 1322)により≧20kHzにデジタル化し、pClamp8.2および10.5(Molecular Devices,Palo Alto,CA)を使用してデータを収集した。データをOriginLabソフトウエアによりオフラインで解析し、特記しない限り、平均±標準偏差として表す。
【0086】
統計解析
再現性を確実にするために、各時点において、1群当たり少なくとも3頭のラットにおいて試験および対照ベクターを評価した。試料サイズは図の凡例に記されている。RWM注入が成功したすべての動物を試験の解析に含めた。注入が成功しなかった動物は、平均から除外したが、完全な開示のために、凡例に含めた。注入の成功を、閾値>90dB SPLのABRの回復により決定した。統計解析を、Origin 2016(OriginLab Corporation)を使用して実施した。本文および図の凡例に記した通り、データは、平均±標準偏差(SD)または平均の標準誤差(SEM)として表す。平均の間の有意な相違を決定するために、一元配置分散分析(ANOVA)を使用した。
【0087】
実施例2A-マウスアッシャーモデルにおける走査電子顕微鏡観察(SEM)
対照および突然変異体マウスのコルチ器官に沿って、P7、P18および~P42(6週)においてSEMを実施した。P18のSEMを、ワシントン大学のDr. Edwin Rubelと共同して実施した。内耳を0.1M リン酸ナトリウム中、4%グルタルアルデヒド中で、4℃で一夜、固定した。翌日、0.1M リン酸ナトリウムバッファー(PB)で検体を3回すすぎ、30分間、氷浴中で0.1M PB中、1%四酸化オスミウム中に後固定した。次いで、0.1M PBで検体をすすぎ、段階的な一連のエタノール:35%、70%、95%、および100%(×2)により脱水した。試料を臨界点乾燥し、SEMスタブに搭載し、Au/Pdでスパッタ被覆した。JEOL JSM-840A走査電子顕微鏡を使用してSEMを実施した。同様の調製をP8および6週の段階について実施した。コルチ器官外植片を、2mMCaClを補充した、0.1Mカコジル酸バッファー(Electron Microscopy Sciences)中、2.5%グルタルアルデヒド中で、1時間、室温で固定した。段階的な一連のアセトン中で検体を脱水し、液体COから臨界点乾燥し、4~5nmのプラチナ(Q150T、Quorum Technologies、United Kingdom)でスパッタ被覆し、電界放出走査電子顕微鏡(S-4800、Hitachi、Japan)で観察した。
【0088】
ホモ接合性c.216AA突然変異体マウスは、耳が聞こえず、循環行動および頭を振りたてる行動を特徴とする前庭機能不全を示す。先の研究(Lentz et al., 2010, Dev., Neurobiol., 70:253-67)は、P30における蝸牛の基底の明白な内有毛細胞および外有毛細胞の変性を記載した。変性および有毛細胞死は、中回転においても観察したが、器官の頂端部分は、1月齢においてより良く保存されていた。有毛細胞の変性は、内耳器官の発達中は漸進的に発生すると仮定され、より早い段階での有毛細胞の生存を評価するために、P8およびP18においてコルチ器官に沿ってSEM分析を実施した。ヘテロ接合性c.216GAマウスの外有毛細胞(OHC)および内有毛細胞(IHC)を保存し、その束は、これらの年齢では、適切に方向づけられていた(図12A~12C、12G、12Iおよび図19A~19C、19K)。しかしながら、分析した両年齢においてホモ接合性c.216AAマウスのコルチ器官の全長に沿って、秩序の乱れた毛束が明白であった(図12D~12F、12H、12J~12Lおよび図19D~19J、19L)。P8では、IHC束は基底、中間および頂端領域において中程度に秩序が乱れていた(図12D~12F、12J)。多くのIHC束が、波状のパターンおよび不動毛の列の軽い秩序の乱れを示した(図12J)。c.216AA突然変異体マウスの多くのOHCが良く保存された毛束を有した(図12H、12K)一方、断片化し、秩序の乱れた毛束が器官に沿ってまばらにあることが明らかであった(図12D~12F、12L)。P18では、破壊がより明白であったが、有毛細胞の大部分は先に報告された通りになお存在していた(Lentz et al., 2013, Nat. Med., 19:345-50)(図19D~19F)。
【0089】
harmonin-b1による遺伝子治療を受けたマウスにおける毛束の形態を評価するために、6週齢の未処置(または注入されない)および処置した(または注入した)マウスの側頭骨を、SEM分析のために調製した。未処置のc.216AAマウスは、器官の基底および中間領域における重度の有毛細胞損失を示した(図18)。基底領域においては、OHCは最初の列ではほとんど存在せず、第2および第3の列にまばらに存在した。器官の中間領域でも、OHCの最初の列は大部分が存在しなかった。頂端にはより穏やかな表現型を観察した。高倍率SEMも、c.216AA突然変異体マウスの器官の全長に沿って重度に秩序の乱れた毛束を明らかにした。驚くべきことに、6週齢のc.216AAマウスにおいては、毛束を観察せず、3列すべてが不動毛である典型的な階段構造を保持していた。その代わりに、c.216AAマウス由来の有毛細胞は、最初の列に沿って引っ込んだ不動毛、異常な第2の列およびわずかに保存された最も高い列を有する、秩序の乱れた毛束を示した。対照的に、低減した有毛細胞損失および正常な毛束を、harmonin-b1による処置後のc.216AAマウスにおいて観察した。有毛細胞数を、代表的な視野中の毛束の存在または非存在から推定した。
【0090】
データは、注入したマウスにおける、器官の基底から頂端における有毛細胞数の明白な保存、基底における40~79%、中間における68~95%、および頂端における93~99%を明らかにした(n=4のc.216AAマウスの耳からのn=1824個の細胞およびn=2のレスキューされたc.216AAの耳からのn=792)。異常な毛束がharmonin-b1を注入したマウスにおいてなお明白であり、ほとんどの毛束は3列の不動毛を有し、それらのヘテロ接合性対照からほとんど識別不可能な形態を有していた(図18)。
【0091】
実施例2B-アッシャーマウスモデルにおけるFM1-43イメージング
5マイクロモルのFM1-43(Invitrogen)を、細胞外記録液で希釈し、10秒間組織に適用し、次いで、細胞外記録液で3回洗浄して、過剰の色素を除去し、エンドサイトーシスによる取り込みを防止した。5分後、水浸20×、40×および63×対物レンズを有するZeiss Axioscope FS plusにおいて落射蛍光光源、微分干渉オプティクスおよびFM1-43フィルターセット(Chroma Technologies)を使用して、細胞内FM1-43をイメージングした。CCDカメラおよびバックグラウンド蛍光差分法を使用するArgus-20イメージプロセッサー(Hamamatsu)を使用して16ビットで画像を捉えた。同じゲインおよびコントラスト設定を、すべての画像の取得のために維持し、Adobe PhotoshopまたはImage-Jソフトウエアを使用してオフラインで分析した。
【0092】
早い段階の有毛細胞機能を評価するために、急速に解剖した内耳器官におけるFM1-43の取り込みをP4において分析した。短時間(<10秒)の適用に際して、FM1-43は、機能的な機械受容性チャネルを有する有毛細胞に浸透した。均一なFM1-43の取り込みをc.216GAマウスの有毛細胞で観察したが(図13A)、取り込みのレベルはc.216AAマウスのOHCの間で変動し、いくつかの、しかしすべてではない細胞が機能的な伝達チャネルを保持したこと(図13B)を示唆している。同様の観察を蝸牛の全長に沿って行った。周波数特異的な相違は認めなかった。FM1-43の取り込みも、出生後の最初の1週間、c.216AAマウスのIHCで減少した(データは示さない)。FM1-43の取り込みを、突然変異体マウスの卵形嚢の有毛細胞においても評価した。興味深いことに、c.216AA突然変異体マウスにおいては、取り込みはP6ではストリオーラ外領域に限定され、ストリオーラ領域の有毛細胞に、安静時に開口する機械受容性チャネルのないことを示唆している(図13C、13D)。
【0093】
実施例2C-アッシャーマウスモデルにおける機械刺激
OHCおよびIHC:400mA ENV400Amplifier(Piezosystem Jena Germany)により駆動されるワン-524ディメンショナルPICMAチップピエゾアクチュエーター(one-524 dimensional PICMA chip piezo actuator)(Physik Instruments,Waldbronn,Germany)に搭載した堅いガラスプローブを介して機械刺激を伝達した。プローブの先端は、不動毛の束にフィットするように、先端熱加工した(Fire polisher、H602、World Precision Instruments Inc.、Sarasota,FL)(Stauffer & Holt, 2007年, J. Neurophysiol., 98:3360-9)。8-ポールBesselフィルター(Khron-Hite,528 Brockton,MA)を50kHzで使用してフィルタリングした電圧ステップを印加することによって、偏りを誘発し、残留ピペット共振を排除した。C2400 CCDカメラ(Hamamatsu,Japan)を使用して、毛束の偏りをモニターした。刺激プローブの動きを、その静止位置の±2μm近辺に較正するために、電圧ステップを使用した。軸はずれの動きのないことを確認するために、プローブのビデオ画像を記録し、プローブの動きを較正した(~4nmの空間分解能)。プローブの立ち上がり時間の10~90%は~20μ秒であった。
【0094】
VHC:圧電バイモルフ要素に搭載した堅いガラスプローブを介して機械刺激を伝達した。刺激ピペット中への動毛の穏やかな吸引によりカップリングを実施した。連続的に搭載され、刺激プローブに直接カップリングした2つのバイモルフからなる圧電装置に電圧ステップを印加することによって、偏りを誘発した。pClamp8.0ソフトウエアにより電圧ステップを制御し、8ポールBesselフィルターにより1kHzでフィルタリングした(Khron-Hite,Brockton,MA)。C2400 CCDカメラ(Hamamatsu,Japan)を使用して毛束の偏りをモニターした。実験の前に、刺激プローブの動きをその静止位置近辺(±2μm)に較正した。
【0095】
出生後の最初の1週間の間、聴覚および前庭上皮は、比較的正常な形態を有するものを含む機械受容性有毛細胞を保持している(図12)。コルチ器官において、P3~P6のc.216AAマウスの蝸牛の中回転および頂回転から、正常に見える束を有する有毛細胞およびより重度に破壊された毛束を有するものから記録を得た。c.216AA突然変異体において、OHCは機械受容性を保持していたが、反応の振幅は170±80pAまで、~63%、有意に低減した(n=24;p<0.001、図13E、13F、13G)。c.216AAマウスにおいて、31から292pAの間の広範な反応の振幅をOHC中で観察した。毛束の形態に従ってデータを群分けすると、有意差(p<0.01)が認められ:重度に秩序の乱れた束を有した突然変異体有毛細胞において誘発された電流は、毛束がより保存された突然変異体細胞において誘発されたものよりも小さく、それぞれ、120±65pA(n=9)および201±74pA(n=15)であった。電流振幅の低減にもかかわらず、機械的変位に対する有毛細胞の反応は、ヘテロ接合性c.216GAマウスのものに類似した特性を保持していた。刺激応答[I(X)]曲線を、2次Boltzmann方程式を使用してフィットさせ(図13F)、このあてはめを10~90%の作動範囲を決定するために使用した(図20B)。c.216GAおよびc.216AAから記録したOHCの間では、作動範囲の有意な差は認めなかった(p=0.054)。同様に、c.216AA突然変異体マウスのIHC由来の毛束は、DIC顕微鏡下で軽度に破壊されて見え、P6においてトランスダクション電流が有意に低減された(図13E、13F、13G)。-64mVの保持電位で、ヘテロ接合性c.216GAのIHC(P6~P7)における最大トランスダクション電流は平均して587±96pA(n=21)であったが、c.216AAのIHCでは316±127pA(n=19;p<0.001)まで46%低減された。作動範囲における有意な(p<0.01)低減を、c.216AA突然変異体マウスのIHCで測定した(図20G)。・
【0096】
定常的な束の偏りの存在下でのトランスダクション電流の低下と定義される、順応も、c.216AA突然変異体マウスに存在した。順応速度論を、速い成分および遅い成分を決定するために、二重指数関数あてはめを使用して解析した。両成分は、c.216AA突然変異体マウス由来のIHCおよびOHCにおいてより遅かったが、その相違は、遅い成分に関してのみ有意であった(OHCにおいてp<0.05およびIHCにおいてp<0.001;図20C、20D、20H、20I)。一方、Popen=0.5で測定した順応の程度は、c.216GAよりもc.216Aの有毛細胞のOHCおよびIHCで有意に少なかった(図20E、20J;p<0.001)。合わせると、これらの結果は、機械受容性がc.216AAマウスの内有毛細胞および外有毛細胞において軽度に損なわれ、重要なことに、両細胞型が、遺伝子治療および細胞機能の回復のための必要条件である、出生後の最初の1週間全体を通して生存したことを実証している。
【0097】
前庭有毛細胞では、c.216AAマウスにおいてメカノトランスダクション電流の低減も観察した。ストリオーラ外領域では、c.216AAの電流は、109±30pA(n=9、P5~P7)まで有意に低減した(p<0.001)のに対して、c.216GAの電流は231±53pA(n=8、P6~P7)であった(図13E、13F、13H)。ストリオーラ領域におけるFM1-43の取り込みがないこと(以下を参照されたい;図13C、13D)と一致して、ストリオーラ領域中の有毛細胞からは非常に小さな電流が記録されたかまたは電流は記録されなかった(6±13pA、n=6、P5~P7)。DIC顕微鏡観察により、卵形嚢の毛束が極めてよく保存されて見えた一方、トランスダクション電流は、ストリオーラ外およびストリオーラそれぞれにおいて、有毛細胞で著しく低減されたかまたは存在しなかった。よって、ストリオーラ領域を除き、これらの結果は、突然変異体マウスにおいて、トランスダクション装置が正確にアセンブルされ、標的化されるが、機能的な複合体の数は新生児マウスで低減されることを示唆している。
【0098】
次に、harmonin発現を駆動するAAVベクターに曝露したc.216AA有毛細胞における機能を評価した。外来のharmoninによる機能的レスキューの可能性を高めるために、CMVプロモーターにより駆動されるタグ付けされていないharmonin-a1またはharmonin-b1コード配列を、Anc80として知られるAAVカプシド中にパッケージングした(Zinn et al., 2015, Cell Rep., 12:1056-68)。本明細書中に示す通り、Anc80カプシドは、IHCの100%およびOHCの80~90%にインビボで形質導入する。harmonin-bがIHCおよびOHCの両方におけるメカノトランスダクションに必要であり、両細胞型における聴覚機能に必要であると仮定した。AAV2/Anc80.CMV.harmonin-b1(0.8μl、1.9×10^12gc/ml)、これとは別にAAV2/Anc80.CMV.harmonin-a1(1.7×10^12 gc/ml)+AAV2/Anc80.CMV.harmonin-b1(0.5μl+0.5μl)の混合物のRWM注入を実施し、メカノトランスダクション反応を処置の2週間後に評価した。
【0099】
蝸牛が骨化する前に、P5~P6で組織を抽出し、培養中に10日間維持した。成熟OHC(>P10)はエクスビボで記録のパラダイムを生存しないが、頑強な電気生理学的記録を、P14~P16に相当するときにIHCから得た。結果を図15に表す。注入しないマウス由来のIHCが、大幅に低減されたトランスダクション電流をP16で示したが(79±43pA、n=8)、感覚変換の回復は、AAV処置を受けたマウスにおいて明らかであった。P1にharmonin-b1またはb1とa1両方の組み合わせを注入したマウスにおいて、それぞれ、338±66pA(n=15)および352±28pA(n=7;図15C)の平均最大トランスダクション電流により有意な回復(***P<0.001)を観察した。harmonin-b1による処置後のIHCにおけるトランスダクション電流の振幅は、対照c.216GAマウスと有意に相違しなかった。回復のレベルは、harmonin-b1とharmonin-a1の同時注入によって有意に変化しなかった。これらの結果は、早い段階でのRWM注入による外来harmonin-b1の送達が、IHCにおいてメカノトランスダクションを回復させうることを示唆している。
【0100】
実施例2D-アッシャーマウスモデルにおける共焦点イメージング
出生後のマウスP0~P8からの共焦点イメージングのための組織を準備するために、4%パラホルムアルデヒド(PFA)を使用して、15分間、固定を行った。0.01%トライトンによる透過処理およびAlexa Fluorファロイジン(Invitrogen、1/200)による対比染色を使用して、アクチンフィラメントを標識した。LSM700Zeiss共焦点顕微鏡で画像を得た。より高齢のマウス(4~8週)においては、安楽死後に側頭骨を除去し、4%PFA中に1時間おき、それに続いて120mM EDTAにより24~36時間、脱灰した。次いで、感覚上皮を切り出し、免疫染色のために上記の通りに注入した。マウス抗CTBP2(BD Bioscience #612044、1/200)を48時間適用し、Alexa Fluorヤギ抗マウス抗体(1/200)で一夜、4℃で対比染色して、リボンシナプスを標識した。Zeiss LSM 710レーザー共焦点顕微鏡(IDDRC Imaging CoreグラントP30 HD18655)で画像を取得し、Zeiss LSMイメージビューワー4.2を使用して加工した。
【0101】
先の研究は、感覚有毛細胞中のharmoninの2つのオルタナティブスプライス型の発現を明らかにした。外来harmoninスプライス型の発現を駆動するAAVベクターの能力を評価するために、新生児c.216AAおよび野生型(C57BL/6J)マウス由来の卵形嚢およびコルチ器官を、harmonin-b1のN末端に融合したeGFP(eGFP::harmonin-b1)またはharmonin-a1の181N末端に融合したtdTomato(tdTomato::harmonin-a1)をコードするAAV2/1ベクターに曝露した。ベクターは、P1において、インビトロまたはRWN注入(1μl)によりインビボで適用した。インビトロで適用する場合、ベクターの存在下でP0~P1の組織を24時間インキュベートし、1週間、培養中に維持した。共焦点画像は、野生型、c.216GAおよびC.216AAマウスの有毛細胞が、形質導入に成功したことを示した(図14A~14C、14E)。VHC(図14A)、IHCおよびOHC(図14B、14C)中の不動毛の先端においてEGFP::harmonin-b1シグナルがはっきり表れた。EGFPシグナルは、P1で注入したマウスの蝸牛基底部分のOHCおよびIHC中でもP60で検出した(図14D)。tdTomato::harmonin-a1は、聴覚有毛細胞の基底で検出した(図14E)。リボンシナプスマーカーCTBP2との共染色は、P7のIHCにおける共局在化を頻繁に明らかにしたが(図14E)、P7の卵形嚢ではそうでなかった(データは示さない)。
【0102】
外来融合構築物の局在化は、harmonin-bの感覚糸挿入物の近くの不動毛の遠位末端へのおよびharmonin-aのシナプスへの局在化という先の研究と一致した。
【0103】
実施例2E-聴性脳幹反応(ABR)および歪成分(DPOAE)
ABRおよびDPOAEを、キシラジン(5~10mg/kg i.p.)およびケタミン(60~100mg/kg i.p.)で麻酔したマウスから記録した。皮下用針電極を、a)2つの耳の間の背部の(参照電極);b)左の耳介の後ろの(記録用電極);およびc)動物の尻の背部の(接地電極)皮膚に挿入した。耳介基部の管をトリミングして外耳道を露出させた。ABR記録のために、外耳道および聴覚装置(EPL Acoustic system,MEEI,Boston)に、5ミリ秒のトーンピップを提示する。反応を増幅し(10,000倍)、フィルタリングし(0.1~3kHz)、PCに基づくデータ取得システム(EPL,Cochlear function test suite,MEEI,Boston)のアナログ・デジタルボードにより平均した。音のレベルを、0~110dBの音圧レベル(デシベルSPL)から5~10dBずつ上げた。各レベルにおいて、「アーチファクト除去」後に、(刺激の極性を交互に入れ替えることにより)512~1024の反応を平均した。目視検査によって閾値を決定した。データを解析し、Origin-2015(OriginLab Corporation,MA)を使用してプロットした。特に明記しない限り、閾値の平均±標準偏差を提示する。DPOAEのために、f1およびf2プライマリートーン(f2/f1=1.2)を、5.6と45.2kHzの間で半オクターブずつ変化するf2およびL1-L2=10dB SPLとともに提示した。各f2において、L2は10dB SPLきざみで10から80dB SPLの間で変化した。DPOAE閾値は、ノイズフロアを5dB SPL上回る大きさのDPOAEを誘発するL2レベルとして、平均スペクトルから定義した。平均ノイズフロアレベルは、すべての周波数にわたって0dB SPLを下回った。SA-1スピーカードライバ(Tucker-Davis Technologies,Inc.)で増幅した、PXI-1042Q筐体中の24ビットのデジタルI-Oカード(National Instruments PXI-4461)により刺激を生成し、本発明者らの慣用の音響システム中の2つの静電ドライバー(CUI CDMG15008-03A)から送達した。小さなプローブ管の末端のエレクトレットマイク(Knowles FG-23329-P07)を使用して、外耳道内の音圧をモニターした。これらの実験の大部分は、盲検条件下で実施しなかった。
【0104】
切断型harmoninが正常な聴覚機能を妨げたかを決定するために、切断型タンパク質を過剰発現させるためのAnc80.CMV.trunc-harmベクターを作製した。ベクターは、RWMを介してc.216GAマウスの内耳に注入した。ABRおよびDPOAESを、4、6および12週で測定し、注入したおよび注入しないc.216GAマウスの間に閾値の相違はなかった(図23C~23Dに示す6週齢マウスからの記録)。このデータは、注入技術についての対照としての役割を果たし、重要なことには、ベクターは、外来の切断型harmoninが内在性の完全長harmoninと競合しないと主張し、c.216AA有毛細胞中の内在性切断型が、遺伝子治療用ベクターを介して発現する外来の完全長harmoninを妨害しないことを暗示している。
【0105】
harmonin遺伝子の増大がUsh1cマウスにおける聴覚および平衡機能をレスキューすることができるかを決定するために、P0~P1でAAV2/Anc80.CMV.harmonin-a1(0.8μL、1.7×10^12gc/ml)またはAAV2/Anc80.CMV.harmonin-b1(0.8μl、1.9×10^12gc/ml)のRWM注入を実施し、聴性脳幹反応(ABR)、歪成分耳音響放射(DPOAE)、聴覚性驚愕反射、オープンフィールドおよびロータロッド行動を評価した。c.216AAマウスが深刻な聴覚喪失および前庭機能不全を患う段階である6週において、マウスを評価した。一部のマウスを3および6カ月でさらに試験した。
【0106】
AAV2/Anc80.CMV.harmonin-a1を注入した12頭のマウスのうち、6週間で聴覚機能を回復したものはなく(図16A~16C)、harmonin-a1の外来性発現が聴覚のレスキューのためには不十分であることを示唆している。しかしながら、AAV2/Anc80.CMV.harmonin-b1を注入した25頭のマウスのうちの19頭は、6週間で聴覚機能を顕著に回復した。低周波数(5.6~16kHz)において、AAV2/Anc80.CMV.harmonin-b1を注入した耳の最良のABR閾値は25~30dB SPLにおけるものであり、野生型マウスの閾値に驚くほど類似していた(図16A~16B)。部分的なレスキューを、22.6kHzで観察し、32kHzではほとんどないかまたは全くなかった。OHCにおける機能のレスキューと一致して、DPOAE閾値のレスキューも明白であった(図16C)。8~11.3kHzの刺激について45dB SPL未満の可聴閾を有するマウスのうちの8頭を、後の段階で試験して、レスキューの寿命を評価した。6週から3カ月まで、~10dB SPLのABR閾値のシフトを低周波数範囲において、~30dB SPLを高周波数範囲において観察した(図16D)。同様のシフトを、DPOAE閾値においても観察した(図16E)。この時点の後、ABR閾値およびDPOAEは、試験した最も遅い時点である6か月齢まで安定なままであった(図16D~16E)。
【0107】
より完全な聴覚レスキューのために、特に高周波数末端(high frequency end)でharmonin-a1およびharmonin-b1が両方とも必要であるかを評価するために、AAV2/Anc80.CMV.tdTomato::harmonin-a1(0.5μl;238 4.1E^12 gc/ml)およびAAV2/Anc80.CMV.eGFP::harmonin-b1(0.5μl;3.0E^12 gc/ml)を同時注入した。両蛍光タグについて陽性の細胞から明らかな通り、有毛細胞の65%が、harmonin-a1およびharmonin-b1を両方とも発現した(図21)。蛍光標識したharmonin-a1は、おそらく過剰発現により、AAV2/Anc80.CMV.tdTomato::harmonin-a1に曝露したマウスの不動毛中に時折観察された。非標識harmonin-a1およびharmonin-b1ベクターを同時注入したマウスにおけるABRおよびDPOAE閾値(図16)は、harmonin-b1単独を注入したものに類似し、さらなる改善を提供せず、harmonin-a1が聴覚機能に不可欠ではない可能性を示唆している。重要なことには、データは、harmonin-b1単独が、低周波数における可聴閾の顕著な回復に十分であることを実証している(図16)。
【0108】
レスキューの程度をさらに評価するために、45dB SPL以下の閾値を有するマウス由来のABR波形を分析し、8頭の対照c.216GAマウスとAAV2/Anc80.CMV.harmonin-b1を注入した5頭のc.216AAマウスの間で比較した。8~11.3kHzおよび16kHzにおける反応の分析は、正常波1の振幅(有意でない相違、P>0.2、スチューデントt検定)およびより長いピーク1潜時(P>0.001)(図22)を明らかにし、シナプスにおける神経伝達の遅れの可能性を示唆している。多くの動物で、聴覚レスキューは対側耳でも観察され、ABR閾値は11.3kHzで20dB SPLと低かった(harmonin-b1:平均59.7±5.3dB SPL、n=15/25;harmonin-a1+-b1:255平均76.2±10.3dB SPL、n=4~6)。AAVベクターの対側耳への拡散は以前に観察されており、新生児マウスのクモ膜下腔と連続したままである外リンパ管を介して発生する可能性がある。
【0109】
本発明者らは、より遅い発達段階での注入が部分的な聴覚レスキューをもたらしうるかも調べた。P10~P12でAAV2/Anc80.CMV.harmonin-b1(0.8μl)のRWM注入を実施し、可聴閾を6週で評価した。P10~P12で注入したマウスのいずれも検出可能なDPOAEを有さず、そのABR閾値は注入しないc.216AA対照マウスと相違せず(n=10;データは示さない)、おそらくより高齢の組織における低いウイルス形質導入効率または後の発達段階におけるコルチ器官の縮退のため、治療介入の機会が出生後の早期段階に限られる可能性があることを示唆している。
【0110】
実施例2F-アッシャーマウスモデルにおけるRT-PCR
P2~P3の野生型ヘテロ接合性およびホモ接合性Ush1cc.216G>Aマウスの6つの聴覚器官から、QUANTITECT(登録商標)Reverse Transcription Kit(Qiagen)を使用してcDNAを調製した。完全長(450bp)または切断型harmonin(~35bp)をコードするcDNAを、以下のプライマー:フォワードプライマーmUsh1c_Ex2F:5’ CTC ATT GAA AAT GAC GCA GAG AAG G 3’(配列番号11)、リバースmUsh1c_Ex5R:5’ TCT CAC TTT GAT GGA CAC GGT CTT 3’(配列番号12)を使用して増幅した。これらのプライマーは、マウスUsh1c配列に特異的であり、標的配列がUsh1cc.216Aアレルのヒトのノックイン部分の領域外にあるため、内在性およびAAV2由来のUsh1cを両方とも増幅する。処置の6週間後に採取したマウス組織から、DNAおよびRNAレベルも評価した。製造業者のプロトコールに従ってTRIzol試薬(Life Technologies,Carlsbad,CA)を使用して、蝸牛からDNAおよびRNAを単離した。GoScript逆転写システム(Promega,Madison,WI)を使用してRNAを逆転写した。GoTaq Green Master Mix(Promega,Madison,WI)を使用して、放射標識PCRを実施した。ウイルスDNAの増幅のために、マウスUsh1c特異的なプライマー:mUsh1c_Ex3F(5’-GAA CCC AAC CGC CTG CCG(配列番号13))およびmUsh1c_Ex4WTR(5’-TGC AGA CGG TCC AAG CGT-3’(配列番号14))を使用した。
【0111】
これらのプライマーは、ウイルスUsh1cDNAのみを増幅し、それは、ホモ接合性Ush1c.216AAマウスが、エクソン3およびエクソン4にノックインされ、マウス配列を置換しているヒトUSH1Cc.216A遺伝子を有するからである(Lentz et al., 2007, Mutat. Res., 616:139-44)。完全長(450bp)および異常にスプライシングされた/切断されたharmonin(415bp)のcDNA増幅のためには、上記と同じプライマーを使用した(mUsh1c_Ex2FおよびmUsh1c_Ex5R)。Gapdhプライマーは:mGapdh_Ex3F(5’-611 GTG AGG CCG GTG CTG AGT ATG-3’(配列番号15)およびmGapdh_Ex4R(5’-GCC AAA GTT GTC ATG GAT GAC-3’(配列番号16)であった。生成物を、6%非変性ポリアクリルアミドゲルで分離し、Typhoon 9400ホスホイメージャー(GE Healthcare)を使用して定量化した。
【0112】
先の研究が、切断型harmoninが内在性結合パートナーについて完全長harmoninと競合することによって機能を破壊しうる可能性を提起したため、切断型タンパク質の持続的な発現が、外来性の完全長harmoninを発現するベクターを注入したc.216AAマウスにおける回復を制限するかを調査した(図23A)。この懸念に取り組むために、RT-PCRアッセイを使用して、c.216GAおよびc.216AAマウスにおけるUsh1c転写物の発現を調べた。先の報告と一致して、完全長および切断型harmoninをコードするUsh1c転写物が、c.216GA蝸牛において検出され、c.216AAの蝸牛では、切断型harmoninをコードする転写物のみが検出された(図23B)。
【0113】
AAV2/Anc80.CMV.harmonin-b1の発現を確認し、ウイルス発現レベルとABR閾値の間の関係を調査するために、注入した蝸牛と対側の蝸牛からDNAおよびRNAを単離し、それぞれ、PCRおよびRT-PCRで定量化した。6週齢のc.216GAマウスならびにAAV2/Anc80.CMV.harmonin-b1(0.8μl;1.93 10^12gc/ml)を注入したおよび注入しないc.216AAマウスで発現を評価した。試料は、ABRレスキューが良好な(11.3kHzにおける閾値≦35dB SPL)注入した2頭のマウスおよびABRレスキューが不良の(11.3kHzにおける閾値≧90dB SPL)2頭を含んでいた。harmoninの正確なスプライシング型をコードするRNA(図24A)およびAAV2/Anc80.CMV.harmonin-b1 DNA(図24B)を、注入したすべての蝸牛で検出し、比較的程度は低いが、試験したすべての動物の対側蝸牛で検出した。
【0114】
ABR閾値ならびにDNAおよびRNAの発現量で、動物間にばらつきがあった(図24C)。しかしながら、AAV2/Anc80.CMV.harmonin-b1 DNAレベル、harmoninの正確なスプライシング型をコードするRNAの量およびABR閾値レベルの間には強い相関が見られ、これは、ABRデータのばらつきが、AAV発現の直接の結果でありうることを示唆している。ABR閾値の回復がうまくいったマウスにおける有毛細胞の長期生存を評価するために、6週齢の5頭のマウスにおいて組織を準備し、IHCおよびOHCの数を計数した(図25)。2つのコホートにおいてIHCの数が変動しなかった一方、長期のABRレスキューを示した3頭のマウスにおいては50%以上のOHCが残存した。OHCの生存を、基底回転を除き、器官全体にわたって観察した(図25)。
【0115】
実施例2G-アッシャーマウスモデルにおける聴覚性驚愕反応
Startle Monitor(Kinder Sicientific)を使用して聴覚性驚愕反応(ASR)を測定した。ピエゾ/プレキシガラスセンシングアセンブリに固定した小さなサイズの非拘束性立方体Plexiglas記録チャンバー(27cm×10cm×12.5cm)にマウスを入れ、60dB SPLのバックグラウンドホワイトノイズで5分間、慣れさせた。各セッションは35回のトライアルからなり、その間、平均30秒(25~35秒範囲)のトライアル間インターバルで、単一のノイズパルスは強度10dB SPL単位で60~120dB SPLの範囲にわたって送達した。外部ノイズによる干渉を制限するための定常的な60dB SPLのバックグラウンドノイズにおいて、パルスを疑似ランダム順に配置した。Startle Monitorシステムは、ピーク驚愕反応(ASR振幅)および刺激からピーク驚愕反応までの時間(ASR潜時)の計算のために、各パルスに対する反応を最初のN、最大のNおよび反応の最大時間(ms)の測定に減らした。ASRはすべて盲検で行った。
【0116】
ABR/DPOAEの回復が、行動に関連した聴覚機能の回復を生じさせたかを評価するために、AAV2/Anc80.CMV.harmonin-a1、AAV2/Anc80.CMV.harmonin-b1を注入したマウスおよび両ベクターを注入したマウスにおいて聴性驚愕反応を測定した。ホワイトノイズに対する驚愕反応の分析は6週齢のAAV2/Anc80.CMV.harmonin-b1を注入したマウスおよび両ベクターを同時注入したマウスで反応の部分的レスキューを示した(図17A)。harmonin-a1のみを注入したマウスは、注入しないc.216AAマウスに類似して、驚愕反応を回復しなかった。
【0117】
実施例2H-アッシャーマウスモデルにおける前庭評価
オープンフィールドおよびロータロッド平衡試験を使用して、前庭機能を評価した。中心を30ルクスに設定した天井のLED照明を有する音響チャンバーの内部に置いた、直径42cmの円形フレームを使用し、薄暗い室内でオープンフィールド試験を行った。一度に1頭のマウスを円形のオープンフィールドに入れ、5分間探索させた。行動を記録し、Ethovision XTを使用して追跡し、移動距離と速度の測定を可能とした。オープンフィールド評価はすべて盲検で行った。ロータロッドの実施は、密閉した筐体において、4rpmで回転を開始し0.1rpm s-1の割合で加速したロッドにマウスを置くことを含んだ。1日目は、機器に慣れさせるために5分間、マウスをロッド上に置いた。翌日、全部で5回のトライアルで動物をロッド上に置いた。トライアル間で5分間の静止期を与えた。筐体の機器装備した床に落下する前に動物が装置上に留まることのできた時間の長さを、タイマーに表示し、各試験ランの後に記録した。
【0118】
外リンパ腔は蝸牛と前庭迷路の間で連続しているため、RWMを介して注入したAAVベクターは、前庭感覚器官に同様に形質導入しうる。前庭の行動を評価するために、ロータロッド上でのその成績についてマウスを試験した。不良のロータロッド成績を、c.216AAおよびAAV2/Anc80.CMV.harmonin-a1を注入したc.216AAマウス(落下までの潜時<平均22秒)で観察し、AAV2/Anc80.CMV.harmonin-b1を注入したc.216AAマウスならびにharmonin-a1および-b1ベクターを同時注入したものは、ロータロッド上で60~120秒、平衡機能を維持し、対照c.216GAマウスと一致した(図17B)。
【0119】
オープンフィールド行動の回復は、harmonin-b1、ならびにharmonin-a1およびb1を二重に注入したc.216AAマウスにおいても観察した。代表的なオープンフィールド探索の追跡を図17Cにプロットする。c.216GAマウスはフィールドの縁を探索し、最小の全身回転を示したが、c.216AAマウスは、回転数/分として定量化した全身回転の増加を伴うチャンバー全体のいたるところにおけるさらなる活動を示した(図17D~17E)。驚くべきことに、AAV2/Anc80.CMV.harmonin-a1を注入したマウスではABRレスキューを観察しなかったが、オープンフィールドデータは、対照マウスのレベルへの前庭機能の回復を実証した。AAV2/Anc80.CMV.trunc-harmoninを注入したc.216GAマウスの行動は、対照c.216GAマウスと相違せず、ここでも、切断型および野生型harmoninの間に妨害のないことを示している。
【0120】
harmonin-a1を注入したマウスは、旋回行動は消失したが、ロータロッド試験には不合格であったため、行動アッセイは、harmonin-a1による部分的な前庭レスキューを実証した。一方、harmonin-b1を注入したマウスは、両試験において機能を回復した(図17)。ストリオーラ領域における形質導入およびFM1-43の取り込みのないことは、ストリオーラ領域の有毛細胞およびおそらくI型細胞の機能が、適切なharmonin発現に依存することを示している(図13)。
【0121】
聴覚レスキューが高周波数でなく低周波数で卓越した一方(図16)、6週における毛束形態の保存を器官全体に沿って観察した(図18)。高周波数においてレスキューのないことは、注入に起因する損傷による可能性は低い。高周波数の聴覚喪失は、AAVベクターを注入したc.216GAのいずれでも観察しなかった(図23C~23D)。蝸牛の長さ全体に沿ったAAVターゲティングは、説明として基底における形質導入効率を欠くことと相反する。1つの可能性は、短いharmonin-cのような他のharmoninアイソフォームが、蝸牛の基底高周波数末端における機能のレスキューに必要でありうるということである。代替的に、蝸牛の発達は基底末端(basal end)から始まるため、P0までに、基底高周波数末端由来の有毛細胞が修復点を超えて成熟した可能性がある。もしそうなら、胚への介入が高周波数領域におけるより良いレスキューを可能としうる。
【0122】
第3部-聴覚喪失に関与するさらなる突然変異の遺伝子治療
実施例3A-インビボ実験
改変CMVプロモーターにより駆動されるマウスTMC1のコード配列を保有するAnc80ベクターを、ヘルパーウイルスフリーシステムおよび先に記載の二重トランスフェクション法を使用して作製した(Grimm et al., 2003, Mol. Ther., 7:839:50)。トリプルflagタグ(FLAG)配列をTMCコード配列のC末端に融合させて、発現したタンパク質の可視化を可能とした。イオジキサノールステップグラジエント、それに続いてイオン交換クロマトグラフィーを使用して、Anc80.CMV.Tmcベクターを精製した。ヒトベータグロブリンイントロンエレメントに特異的なプライマーセットを使用する定量的PCRにより測定して、力価は1×1012から1×1013gc/mlの範囲にわたった。ウイルスのアリコートを-80℃で保管し、使用直前に解凍した。
【0123】
P0~P2齢のマウスを、Boston Children’s Hospitalの動物実験委員会により認可されたプロトコール(プロトコール#2659、#2146)に従って、以下に記載の通りにウイルスベクターのインビボ送達のために使用した。C57BL/6J(Jackson Laboratories)またはSwiss Websterマウス系統(Taconic)を、野生型対照マウスとして使用し、TMC1突然変異体アレル(TMC1Δ/ΔまたはTmc1-/-)を保有するマウスは、先に記載の通りにC57BL/6Jをバックグラウンドとした(Kawashima et al., 2011, J. Clin. Invest., 121:4796-809)。
【0124】
評価のための組織を準備するために、P0~P10の仔マウスから側頭骨を採取した。迅速な断頭によって仔を安楽死させ、10mM HEPES、0.05mg/ml アンピシリンおよび0.01mg/ml シプロフロキサシンを補充したMEM(Invitrogen)、pH7.40中で側頭骨を解剖した。解剖鏡下で膜迷路を単離し、ライスナー膜を剥がし、蓋膜および血管条を機械的に除去した。コルチ器官培養を、1つの端がSylgardにより18mmの丸いカバーガラスに接着された一対の細いガラスファイバーの下に平らにピンで留めた。急性的に組織を電気生理学的研究に使用した。P10よりも高齢のマウスについては、吸入したCOにより動物を安楽死させた後に、側頭骨を採取し、蝸牛全組織標本を作製した。
【0125】
図中に表したすべての平均値およびエラーバーは、平均±SDを表す。注入した耳および注入しない耳の間の統計学的有意性についての比較を、対応のある両側t検定を使用して実施した。P<0.05が有意と考えた。
【0126】
実施例3B-ウイルスベクターのインビボ注入
蝸牛窓膜(RWM)を介して、斜角研磨したガラスマイクロインジェクションピペットを使用して仔マウス(P0~P2)に注入した。P-2000ピペットプラー(Sutter Instruments)においてキャピラリーガラスからピペットを引き、マイクロピペットベベラー(Sutter Instruments)を使用して斜角研磨した(28°の角度で、~20μmの先端径)。手術部位(左乳様突起)を覆うために滅菌スワブを使用する鎮痛のために、EMLAクリーム(リドカイン2.5%およびプリロカイン2.5%)を外部に塗布した。術前は37℃のウォームパッド上で30~60分、体温を維持した。
【0127】
意識喪失するまで、2~3分間、急速な体温低下を誘導することによって仔を麻酔し、手術中、10~15分間この冷却プラットフォーム上でこの状態を維持した。べタジンでごしごし擦り、70%エタノールで拭くことを3回繰り返して、手術部位を消毒した。耳後部の切開を行って透明な耳嚢を露出させ、耳嚢および覆っている筋膜を通してマイクロピペットをマイクロマニピュレーター(MP-30,Sutter Instrument Company)ですすめ、マイクロピペットの先端によりRWMを穿通した。
【0128】
1012から1014gc/mLの間の力価のおよそ1μLのウイルス(10から1011個の全ウイルス粒子)を、片側性に0.1μl/分で、空圧マイクロインジェクター(WPI Nanoliter 2010)を使用して左耳に注入した。6-0のモノフィラメント縫合糸(Ethicon)を使用して皮膚切開を閉じた。その後、回復のために仔をウォーミングパッドに戻した。
【0129】
実施例3C-免疫蛍光法
ウイルスベクターにより送達した導入遺伝子の発現の分布を決定するために免疫染色を実施した。そのために、新たに解剖したコルチ器官に対して免疫染色を実施し、PBSで希釈した4%パラホルムアルデヒドにより室温で1時間、液浸固定した。次いで、組織をPBSですすぎ、0.01~0.1%Triton X-100中で30分間、透過化処理し、Alexa Fluor546-ファロイジン(Molecular Probes、1:200希釈液)で1時間、対比染色して、線維状アクチンを標識した。
【0130】
外因性に発現したTMC::FLAG融合タンパク質の局在化のために、2% BSAおよび5%正常ヤギ血清を使用して、1時間、組織をブロッキングし、FLAGモチーフに対する抗体(BD Biosciences、1:200希釈液)とともに4℃で一夜、インキュベートした。有毛細胞計数のために、正常ヤギ血清中で組織を1時間、ブロッキングし、ウサギ抗ミオシンVIIa一次抗体(Proteus Biosciences、1:1000希釈液)により、4℃で一夜染色し、AlexaFluor488(Life Technologies、1:200希釈液)にコンジュゲーションしたヤギ抗ウサギ抗体で1時間標識した。試料を、Vectashield封入剤(Vector Laboratories)とともにカバーガラスに搭載し、Zeiss LSM700共焦点顕微鏡を使用して使用倍率10X~63Xでイメージングした。
【0131】
図26は、harmoninのUsh1c突然変異体マウスへの均一なAnc80送達を実証する免疫蛍光法を示し、図28は、KCNQ4のKCNQ4突然変異体マウスの細胞へのAnc80送達を実証する免疫蛍光法を示す。よって、Anc80は、聴覚消失をもたらす(多くの異なる遺伝子座における)多くの異なる遺伝子異常を処置するための有効なベクターである。
【0132】
実施例3D-有毛細胞の電気生理学
器官型蝸牛培養を、137mM NaCl、0.7mM NaHPO、5.8mM KCl、1.3mM CaCl、0.9mM MgCl、10mM Hepesおよび5.6mM D-グルコースを含有する標準的な人工の外リンパ液に浸した。濃縮物(Invitrogen)からビタミン(1:50)およびアミノ酸(1:100)を溶液に添加し、最終的なpHを7.40(310mosmol/kg)に調整するためにNaOHを使用した。記録用ピペット(3~5メガオーム)を、R6キャピラリーガラス(King Precision Glass)から引き、135mM CsCl、5mM Hepes、5mM EGTA、2.5mM MgCl、2.5mM Na-アデノシン3リン酸および0.1mM CaClを含有する細胞内液で満たし、最終的なpHを7.40(285mosmol/kg)に調整するためにCsOHを使用した。Axopatch 200B増幅器(Molecular Devices)を使用して、-84mV、室温(22~24℃)において全細胞密封電圧クランプ記録を行った。ローパスBesselフィルターにより10kHzで感覚変換電流をフィルタリングし、16ビットの収集ボード(Digidata 1440A)およびpCLAMP10ソフトウエア(Molecular Devices)により≧20kHzにデジタル化した。OriginPro8(OriginLab)を使用するオフラインで解析のためにデータを記録した。
【0133】
図29は、突然変異体マウス(図29B)に対するAnc80-KCNQ4でトランスフェクトしたKCNQ4-/-細胞(図10C)における野生型レベル近くまでのカリウム流の回復を示し(図29A)、それにより、Anc80を使用する遺伝子治療が機能を回復できることを実証している。
【0134】
実施例3E-聴性脳幹反応(ABR)
先に記載の通りに(Maison et al., 2010, J. Neurosci., 30:6751-62)、ABR記録を行った。すなわち、P25~P30のマウスを、5mlの0.9%食塩水に希釈した50mgのケタミンおよび5mgのキシラジンを含むIP注射(0.1ml/10g体重)により麻酔した。ABR実験を、32℃において防音チャンバー内で実施した。聴覚機能を試験するために、10から115dBの間、5dBずつの音圧レベルにおいて、再現可能なABR波形(ピークI~IV)を誘発する閾値強度を検出するまで、5.6kHz、8kHz、11.3kHz、16kHz、22.6kHzまたは32kHzの純音刺激をマウスに提示する。交番極性刺激を使用して、512~1024の反応を集め、各音圧レベルについて平均した。15μV(最高最低間)より大きな振幅を有する波形は、「アーチファクト除去」機能により捨てた。
【0135】
ABR試験の開始前、典型的に外耳道の入り口を見えなくする、垂れ下がった皮膚および軟骨を解剖はさみによって切り取り、すべての刺激周波数において、各個別の被験対象について外耳道の入り口の音圧を較正した。音刺激を、プライマリートーンを生成するための2つの静電イヤホン(CUI Miniature Dynamics)および外耳道内音圧を記録するためのKnowlesミニチュアマイクロフォン(エレクトレットコンデンサ)からなる慣用のプローブチューブスピーカー/マイクロフォンアセンブリ(EPL PXI Systems)によって、試験される耳に直接送達した。音刺激は、5ミリ秒のバースト音(cos開始で0.5ミリ秒の上昇下降で、40/秒で送達された)。
【0136】
耳介(活動電極)、頭頂(参照電極)および尻(接地電極)に挿入した皮下針電極を使用して、ABRシグナルを収集した。ABR電位を増幅し(10,000×)、パスフィルタリングし(0.3~10kHz)、慣用のデータ取得ソフトウエア(LabVIEW)を使用してデジタル化した。デジタルI-Oボード(National Instruments)を使用して、音刺激および電極電圧を40μ秒の間隔でサンプリングし、オフライン解析のために保管した。音の強さが増大するにつれて任意の波(I-IV)が検出され、再現された最低デシベルレベルとして、閾値を視覚的に定義した。各実験群内でABR閾値を平均し、統計解析のために使用した。
【0137】
図27は、Harmoninをコードし、発現するAnc80ウイルスベクターの送達が、特に、低い周波数(例えば、約5~約22kHz)において、聴覚機能の完全に近い回復をもたらすことができることを図により実証している。
【0138】
実施例3F-定量的RT-PCR解析
インビボ投与後に蝸牛中に存在するウイルス量を評価するために実験を行った。2頭のTMC1-/-マウスに、P1で左耳に注入した。蝸牛を左右の耳から切除し、P10に相当する3日間培養中に維持した。RNAを抽出し、Agilent Bioanalyzer(Agilent Technologies)を使用して質を確認し、先に記載の通りに(Kawashima et al., 2011, J. Clin. Invest., 121:4796-809)SYBR GreenER qPCR試薬(Invitrogen)を使用する、TMC1特異的な効率的プライマーセットによる定量的RT-PCR解析のためにcDNAに逆転写した。
【0139】
TMC1の断片を増幅するために、以下のプライマー:5’-CAT CTG CAG CCA ACT TTG GTG TGT-3’(配列番号17)および5’-AGA GGT AGC CGG AAA TTC AGC CAT-3’(配列番号18)を使用した。発現レベルを、5’-TGA GCG CAA GTA CTC TGT GTG GAT-3’(配列番号19)および5’-ACT CAT CGT ACT CCT GCT TGC TGA-3’(配列番号20)により増幅した(β-アクチンをコードする)Actbの発現レベルに正規化した。すべてのプライマーを、イントロンに橋をかけるようデザインし、融解曲線解析および陰性対照を使用して検証した。Actbならびに注入したおよび注入しない耳の間の相違に関連して、ΔΔCT法を使用してデータを解析した。
【0140】
これらの結果は、注入した耳において、注入しない耳よりもTMC1 mRNAの発現が12倍高かったことを実証している。
【0141】
実施例3G-FM1-43の標識化
FM1-43色素ローディング実験を先に記載の通りに実施した(Gale et al., 2001, J. Neurosci., 21:7013-25; Meyers et al., 2003, J. Neurosci., 23:4054-65;およびGeleoc & Holt, 2003, Nat. Neurosci., 10:1019-20)。接着性の蝸牛培養を有するカバーガラスを、ガラス底のチャンバー上の正立顕微鏡(Zeiss Axioscope FS Plus)下に置いた。人工の外リンパ液で希釈した5μMのFM1-43FX(Invitrogen)を、10秒間添加し、人工の外リンパ液で組織を3回洗浄して、細胞膜の外葉から色素を除去した。5分後、細胞内FM1-43を、FM1-43フィルターセットおよび63X水浸対物レンズを有する落射蛍光光源を使用してイメージングした。上記の通りに、組織を固定し、免疫蛍光法のために加工した。
【0142】
図30は、本明細書に記載のAnc80ウイルスベクターに曝露した細胞によるFM1-43色素の取り込みを示す、免疫染色画像であり、図31は、本明細書に記載のAnc80ウイルスベクターにより送達されたTMC1が、インビボでTmc1欠損有毛細胞において感覚変換を回復させたことを図により実証している。
【0143】
実施例3H-歪成分耳音響放射(DPOAE)
ABRデータと同じ条件下で、同じ記録セッションの間にDPOAEデータを収集した。2f1-f2でのDPOAEの生成のために1.2の周波数割合(f2/f1)でプライマリートーンを作り、各f2/f1対について、f2レベルはf1レベルよりも10dB、音圧レベル低かった。f2レベルを、5-dBずつ20から80dBまで動かした。記録した外耳道音圧のシグナル対ノイズ比を増加させるために、波形およびスペクトル平均化を各レベルで使用した。平均したスペクトルから、2f1-f2におけるDPOAEの振幅を、スペクトルの隣接点におけるノイズフロアとともに抽出した。DPOAE振幅対音レベルのプロットから、等反応曲線を内挿した。閾値を、0dBにおいてDPOAEを生成するために必要なf2レベルとして定義した。
【0144】
図32は、本明細書に記載のAnc80ウイルスベクターを使用して送達したTMC1が、TMC1-/-マウス、特に低周波数(例えば、約5~約16kHz)において、外有毛細胞の機能をレスキューすることを図により実証する。
【0145】
他の実施形態
方法および物質の組成物が、多くの異なる態様と併せて本明細書に記載されたが、様々な態様の上記記載が、例示を目的とし、方法および物質の組成物の範囲を制限するものでないことは理解されるべきである。他の態様、利益および改変は、以下の特許請求の範囲の範囲内にある。
【0146】
開示されるのは、開示された方法および組成物のために使用可能であり、それをともに使用可能であり、その準備において使用可能であり、またはその生成物である、方法および組成物である。これらおよびその他の材料が本明細書に記載され、これらの方法および組成物の組み合わせ、サブセット、相互作用、群などが開示されることが理解される。すなわち、様々な個々のものおよび集合的な組み合わせの具体的な参照およびこれらの組成物および方法の並べ替えは、明示的に開示されないかもしれないが、それぞれが具体的に考慮され、本明細書に記載される。例えば、物質の特別な組成物または特別な方法が開示され、議論され、多数の組成物または方法が議論される場合、組成物および方法のそれぞれならびに各組み合わせおよび並べ替えは、特にそうでないと示されない限り、具体的に考慮される。同様に、これらの任意のサブセットまたは組み合わせも、具体的に考慮され、開示される。

本発明の様々な実施形態を以下に示す。
1.Anc80カプシドタンパク質、およびTMC1、TMC2、MYO7A、USCH1C、CDH23、PCDH15、SANS、CIB2、USH2A、VLGR1、WHRN、CLRN1、PDZD7からなる群から選択される1つまたは複数の導入遺伝子を含む、AVVベクター。
2.対象の内耳中の1つまたは複数の細胞に導入遺伝子を送達する方法であって、
対象の内耳にアデノ随伴ウイルス(AAV)を投与するステップを含み、前記AAVはAnc80カプシドタンパク質および導入遺伝子を含む、方法。
3.前記内耳中の1つまたは複数の細胞が、内有毛細胞(IHC)および外有毛細胞(OHC)からなる群から選択される、上記2に記載の方法。
4.前記導入遺伝子が、内有毛細胞の少なくとも80%および外有毛細胞の少なくとも80%に送達される、上記3に記載の方法。
5.前記内耳中の1つまたは複数の細胞が、らせん神経節ニューロン、前庭有毛細胞、前庭神経節ニューロン、支持細胞および血管条中の細胞からなる群から選択される、上記2に記載の方法。
6.前記導入遺伝子が、ACTG1、ADCY1、ATOHI、ATP6V1B1、BDNF、BDP1、BSND、DATSPER2、CABP2、CD164、CDC14A、CDH23、CEACAM16、CHD7、CCDC50、CIB2、CLDN14、CLIC5、CLPP、CLRN1、COCH、COL2A1、COL4A3、COL4A4、COL4A5、COL9A1、COL9A2、COL11A1、COL11A2、CRYM、DCDC2、DFNA5、DFNB31、DFNB59、DIAPH1、EDN3、EDNRB、ELMOD3、EMOD3、EPS8、EPS8L2、ESPN、ESRRB、EYA1、EYA4、FAM65B、FOXI1、GIPC3、GJB2、GJB3、GJB6、GPR98、GRHL2、GPSM2、GRXCR1、GRXCR2、HARS2、HGF、HOMER2、HSD17B4、ILDR1、KARS、KCNE1、KCNJ10、KCNQ1、KCNQ4、KITLG、LARS2、LHFPL5、LOXHD1、LRTOMT、MARVELD2、MCM2、MET、MIR183、MIRN96、MITF、MSRB3、MT-RNR1、MT-TS1、MYH14、MYH9、MYO15A、MYO1A、MYO3A、MYO6、MYO7A、NARS2、NDP、NF2、NT3、OSBPL2、OTOA、OTOF、OTOG、OTOGL、P2RX2、PAX3、PCDH15、PDZD7、PJVK、PNPT1、POLR1D、POLR1C、POU3F4、POU4F3、PRPS1、PTPRQ、RDX、S1PR2、SANS、SEMA3E、SERPINB6、SLC17A8、SLC22A4、SLC26A4、SLC26A5、SIX1、SIX5、SMAC/DIABLO、SNAI2、SOX10、STRC、SYNE4、TBC1D24、TCOF1、TECTA、TIMM8A、TJP2、TNC、TMC1、TMC2、TMIE、TMEM132E、TMPRSS3、TRPN、TRIOBP、TSPEAR、USH1C、USH1G、USH2A、USH2D、VLGR1、WFS1、WHRN、およびXIAPからなる群から選択される、上記2に記載の方法。
7.前記導入遺伝子が、神経栄養因子をコードする、上記2に記載の方法。
8.前記神経栄養因子が、GDNF、BDNF、NT3およびHSP70からなる群から選択される、上記7に記載の方法。
9.前記導入遺伝子が、抗体またはその断片をコードする、上記2に記載の方法。
10.前記導入遺伝子が、免疫調節タンパク質をコードする、上記2に記載の方法。
11.前記導入遺伝子が、抗発癌性転写物をコードする、上記2に記載の方法。
12.前記導入遺伝子が、アンチセンス、サイレンシング、または長鎖非コードRNA種をコードする、上記2に記載の方法。
13.前記導入遺伝子が、遺伝子操作されたジンクフィンガーヌクレアーゼ、TALENおよびCRISPRからなる群から選択されるゲノム編集システムをコードする、上記2に記載の方法。
14.前記Anc80カプシドタンパク質が、配列番号1に示される配列を有する、上記2に記載の方法。
15.前記Anc80カプシドタンパク質が、配列番号2に示される配列を有する、上記2に記載の方法。
16.前記導入遺伝子が、異種プロモーター配列の制御下にある、上記3に記載の方法。
17.前記異種プロモーター配列が、CMVプロモーター、CBAプロモーター、CASIプロモーター、PGKプロモーター、EF-1プロモーター、アルファ9ニコチン受容体プロモーター、プレスチンプロモーター、KCNQ4プロモーター、Myo7aプロモーター、Myo6プロモーター、Gfilプロモーター、Vglut3プロモーターおよびAtoh1プロモーターからなる群から選択される、上記16に記載の方法。
18.前記投与するステップが、蝸牛窓を通してAncAAVを注入することを含む、上記2に記載の方法。
19.前記AncAAVが、蝸牛窓を通る注入により投与される、上記2に記載の方法。
20.前記AncAAVが、蝸牛開窓術の間またはカナロストミーの間に投与される、上記2に記載の方法。
21.前記AncAAVが、1つまたは複数のドラッグデリバリービヒクルによって中耳および/または蝸牛窓に投与される、上記2に記載の方法。
22.前記導入遺伝子の発現が、内有毛細胞(IHC)、外有毛細胞(OHC)、らせん神経節ニューロン、血管条、前庭有毛細胞および/または前庭神経節ニューロンの再生をもたらし、それによって、聴覚または前庭機能を回復させる、上記2に記載の方法。
23.AAVベクターおよび医薬組成物を含む製造品であって、前記AAVベクターは、Anc80カプシドタンパク質およびプロモーターに作動可能に連結された導入遺伝子を含む、製造品。
24.前記導入遺伝子が、ACTG1、ADCY1、ATOHI、ATP6V1B1、BDNF、BDP1、BSND、DATSPER2、CABP2、CD164、CDC14A、CDH23、CEACAM16、CHD7、CCDC50、CIB2、CLDN14、CLIC5、CLPP、CLRN1、COCH、COL2A1、COL4A3、COL4A4、COL4A5、COL9A1、COL9A2、COL11A1、COL11A2、CRYM、DCDC2、DFNA5、DFNB31、DFNB59、DIAPH1、EDN3、EDNRB、ELMOD3、EMOD3、EPS8、EPS8L2、ESPN、ESRRB、EYA1、EYA4、FAM65B、FOXI1、GIPC3、GJB2、GJB3、GJB6、GPR98、GRHL2、GPSM2、GRXCR1、GRXCR2、HARS2、HGF、HOMER2、HSD17B4、ILDR1、KARS、KCNE1、KCNJ10、KCNQ1、KCNQ4、KITLG、LARS2、LHFPL5、LOXHD1、LRTOMT、MARVELD2、MCM2、MET、MIR183、MIRN96、MITF、MSRB3、MT-RNR1、MT-TS1、MYH14、MYH9、MYO15A、MYO1A、MYO3A、MYO6、MYO7A、NARS2、NDP、NF2、NT3、OSBPL2、OTOA、OTOF、OTOG、OTOGL、P2RX2、PAX3、PCDH15、PDZD7、PJVK、PNPT1、POLR1D、POLR1C、POU3F4、POU4F3、PRPS1、PTPRQ、RDX、S1PR2、SANS、SEMA3E、SERPINB6、SLC17A8、SLC22A4、SLC26A4、SLC26A5、SIX1、SIX5、SMAC/DIABLO、SNAI2、SOX10、STRC、SYNE4、TBC1D24、TCOF1、TECTA、TIMM8A、TJP2、TNC、TMC1、TMC2、TMIE、TMEM132E、TMPRSS3、TRPN、TRIOBP、TSPEAR、USH1C、USH1G、USH2A、USH2D、VLGR1、WFS1、WHRN、およびXIAPからなる群から選択される、上記23に記載の製造品。
25.対象の内耳中の1つまたは複数の細胞にTMC1またはTMC2導入遺伝子を送達する方法であって、
対象の内耳にアデノ随伴ウイルス(AAV)を投与するステップを含み、前記AAVは、Anc80カプシドタンパク質および導入遺伝子を含む、方法。
26.対象の内耳中の1つまたは複数の細胞にアッシャー導入遺伝子を送達する方法であって、
対象の内耳にアデノ随伴ウイルス(AAV)を投与するステップを含み、前記AAVは、Anc80カプシドタンパク質および導入遺伝子を含む、方法。
27.前記アッシャー導入遺伝子が、MYO7A、USCH1C、CDH23、PCDH15、SANS、CIB2、USH2A、VLGR1、WHRN、CLRN1、PDZD7からなる群から選択される、上記25または26に記載の方法。
28.前記内耳中の1つまたは複数の細胞が、内有毛細胞(IHC)および外有毛細胞(OHC)からなる群から選択される、上記25または26に記載の方法。
29.前記導入遺伝子が、内有毛細胞の少なくとも80%および外有毛細胞の少なくとも80%に送達される、上記28に記載の方法。
30.前記内耳中の1つまたは複数の細胞が、らせん神経節ニューロン、前庭有毛細胞、前庭神経節ニューロン、支持細胞および血管条中の細胞からなる群から選択される、上記25または26に記載の方法。
31.前記Anc80カプシドタンパク質が、配列番号1に示される配列を有する、上記25または26に記載の方法。
32.前記Anc80カプシドタンパク質が、配列番号2に示される配列を有する、上記25または26に記載の方法。
33.前記導入遺伝子が、異種プロモーター配列の制御下にある、上記25または26に記載の方法。
34.前記異種プロモーター配列が、CMVプロモーター、CBAプロモーター、CASIプロモーター、PGKプロモーター、EF-1プロモーター、アルファ9ニコチン受容体プロモーター、プレスチンプロモーター、KCNQ4プロモーター、Myo7aプロモーター、Myo6プロモーター、Gfilプロモーター、Vglut3プロモーターおよびAtoh1プロモーターからなる群から選択される、上記33に記載の方法。
35.前記投与するステップが、蝸牛窓を通してAncAAVを注入することを含む、上記25または26に記載の方法。
36.前記AncAAVが、蝸牛窓を通る注入により投与される、上記25または26に記載の方法。
37.前記AncAAVが、蝸牛開窓術の間またはカナロストミーの間に投与される、上記25または26に記載の方法。
38.前記AncAAVが、1つまたは複数のドラッグデリバリービヒクルによって中耳および/または蝸牛窓に投与される、上記25または26に記載の方法。
39.前記導入遺伝子の発現が、内有毛細胞(IHC)、外有毛細胞(OHC)、らせん神経節ニューロン、血管条、前庭有毛細胞および/または前庭神経節ニューロンの再生をもたらし、それによって、聴覚または前庭機能を回復させる、上記25または26に記載の方法。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31
図32
【配列表】
0006990182000001.app