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特許6990192強化リチウム系ガラス物品の製作方法およびリチウム系ガラス物品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-07
(45)【発行日】2022-01-12
(54)【発明の名称】強化リチウム系ガラス物品の製作方法およびリチウム系ガラス物品
(51)【国際特許分類】
   C03C 3/085 20060101AFI20220104BHJP
   C03C 21/00 20060101ALI20220104BHJP
   C03C 3/087 20060101ALI20220104BHJP
   G09F 9/00 20060101ALI20220104BHJP
【FI】
C03C3/085
C03C21/00 101
C03C3/087
G09F9/00 302
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018548718
(86)(22)【出願日】2017-03-16
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-04-11
(86)【国際出願番号】 US2017022686
(87)【国際公開番号】W WO2017161108
(87)【国際公開日】2017-09-21
【審査請求日】2020-03-16
(31)【優先権主張番号】62/310,272
(32)【優先日】2016-03-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】397068274
【氏名又は名称】コーニング インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100073184
【弁理士】
【氏名又は名称】柳田 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100123652
【弁理士】
【氏名又は名称】坂野 博行
(74)【代理人】
【識別番号】100175042
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 秀明
(72)【発明者】
【氏名】エッカルト,クリステン ロレーヌ
【審査官】大塚 晴彦
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/041618(WO,A1)
【文献】特表2013-520388(JP,A)
【文献】特開2012-232882(JP,A)
【文献】特開2002-348141(JP,A)
【文献】特開2011-201711(JP,A)
【文献】特開平10-241134(JP,A)
【文献】特開2011-123924(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 1/00 ー14/00
C03C 21/00
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス物品の強化方法において、
ガラス物品を、4時間以上から8時間以下の期間、接触中に370℃以上から410℃以下の温度を有するイオン交換溶液と接触させる工程と、
前記イオン交換溶液を、前記ガラス物品から分離する工程と、
を含み、
前記イオン交換溶液は、
5モル%以上から75モル%以下のKNOと、
5モル%以上から35モル%以下のNaNOと、
を含み、
前記接触工程前に、前記ガラス物品は、
62モル%以上から68モル%以下のSiOと、
10モル%以上から13モル%以下のAlと、
モル%以上から10モル%以下のNaOと、
モル%以上から13モル%以下のLiOと、
0.01モル%以上から0.07モル%以下のKOと、
0.01モル%以上から0.5モル%以下のMgOと、
0モル%以上からモル%以下のCaOと、
0モル%以上から2モル%以下のZrOと、
を含むものである方法。
【請求項2】
前記ガラス物品の厚さは、1mm以下である、請求項1に記載のガラス物品の強化方法。
【請求項3】
前記ガラス物品の厚さは、0.45mm以上から0.85mm以下である、請求項1または2に記載のガラス物品の強化方法。
【請求項4】
前記接触工程の前記期間は、5時間以上から7時間以下である、請求項1から3いずれか1項に記載のガラス物品の強化方法。
【請求項5】
前記イオン交換溶液は、前記接触工程中に、380℃以上から400℃以下の温度を有するものである、請求項1から4いずれか1項に記載のガラス物品の強化方法。
【請求項6】
前記イオン交換溶液は、
68モル%以上から72モル%以下のKNO 、および、
28モル%以上から32モル%以下のNaNO を、
含むものである、請求項1から5いずれか1項に記載のガラス物品の強化方法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本願は、2016年3月18日出願の米国仮特許出願第62/310,272号に基づく優先権の利益を主張し、その内容は依拠され、全体として参照により本明細書に組み込まれる。
【技術分野】
【0002】
本明細書は、概して、ガラス物品に関し、より具体的には、化学強化されて、高い落下および摩耗耐性を有するリチウム系ガラス物品に関する。
【背景技術】
【0003】
ガラス物品は、電子製品利用、自動車利用、および、建築材利用でさえなど、様々な消費者向け市販製品の利用例で、一般的に使われている。例えば、携帯電話、コンピュータ表示画面、GPS装置、テレビなどの消費者向け電子装置は、一般に、ガラス物品を表示部の一部として組み込んでいる。これらの装置のいくつかにおいて、ガラス物品は、表示部がタッチ画面の場合など、タッチ機能を可能にするためにも利用されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これらの装置の多くは移動自在で、したがって、その装置に組み込まれたガラス物品は、使用中と運搬中の両方で、衝撃、および/または、亀裂、擦り傷などの損傷に耐えるように、十分丈夫である必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
一実施形態によれば、ガラス物品の強化方法は、ガラス物品を、約4時間以上から約8時間以下の期間、接触中に約370℃以上から約410℃以下の温度を有するイオン交換溶液と接触させる工程と、イオン交換溶液を、ガラス物品から分離する工程とを含む。イオン交換溶液は、約65モル%以上から約75モル%以下のKNOと、約25モル%以上から約35モル%以下のNaNOとを含む。接触工程前に、ガラス物品は、約55モル%以上から約75モル%以下のSiOと、約8モル%以上から約15モル%以下のAlと、約5モル%以上から約12モル%以下のNaOと、約8モル%以上から約14モル%以下のLiOと、0モル%以上から約1モル%以下のKOと、0モル%以上から約2モル%以下のMgOと、0モル%以上から約2モル%以下のCaOと、0モル%以上から約2モル%以下のZrOとを含む。
【0006】
他の実施形態によれば、強化ガラス物品の製造方法は、ガラス物品を、約4時間以上から約8時間以下の期間、接触中に約370℃以上から約410℃以下の温度を有するイオン交換溶液と接触させる工程と、イオン交換溶液を、ガラス物品から分離する工程とから実質的になる。イオン交換溶液は、約65モル%以上から約75モル%以下のKNOと、約25モル%以上から約35モル%以下のNaNOとから実質的になる。接触工程前に、ガラス物品は、約55モル%以上から約75モル%以下のSiOと、約8モル%以上から約15モル%以下のAlと、約5モル%以上から約12モル%以下のNaOと、約8モル%以上から約14モル%以下のLiOと、0モル%以上から約1モル%以下のKOと、0モル%以上から約2モル%以下のMgOと、0モル%以上から約2モル%以下のCaOと、0モル%以上から約2モル%以下のZrOとを含む。
【0007】
更なる実施形態によれば、強化アルミノケイ酸塩ガラス物品を、前駆体ガラス物品と、接触中に約370℃以上から約410℃以下の温度を有するイオン交換溶液を、約4時間以上から約8時間以下の期間、互いに接触させる工程と、イオン交換溶液を、前駆体ガラス物品から分離して、強化アルミノケイ酸塩ガラス物品を生成する工程とを含む方法によって形成した。イオン交換溶液は、約65モル%以上から約75モル%以下のKNOと、約25モル%以上から約35モル%以下のNaNOとを含む。前駆体ガラス物品は、約55モル%以上から約75モル%以下のSiOと、約8モル%以上から約15モル%以下のAlと、約5モル%以上から約12モル%以下のNaOと、約8モル%以上から約15モル%以下のLiOと、0モル%以上から約2モル%以下のKOと、0モル%以上から約2モル%以下のMgOと、0モル%以上から約2モル%以下のCaOと、0モル%以上から約2モル%以下のZrOとを含む。この強化アルミノケイ酸塩ガラス物品は、約190cm以上の高さからの落下試験に耐える。
【0008】
本開示の態様(1)において、ガラス物品の強化方法を提供する。その方法は、ガラス物品を、約4時間以上から約8時間以下の期間、接触中に約370℃以上から約410℃以下の温度を有するイオン交換溶液と接触させる工程と、イオン交換溶液を、ガラス物品から分離する工程とを含み、イオン交換溶液は、約65モル%以上から約75モル%以下のKNOと、約25モル%以上から約35モル%以下のNaNOとを含み、接触工程前に、ガラス物品は、約55モル%以上から約75モル%以下のSiOと、約8モル%以上から約15モル%以下のAlと、約5モル%以上から約12モル%以下のNaOと、約8モル%以上から約14モル%以下のLiOと、0モル%以上から約1モル%以下のKOと、0モル%以上から約2モル%以下のMgOと、0モル%以上から約2モル%以下のCaOと、0モル%以上から約2モル%以下のZrOとを含む。
【0009】
本開示の態様(2)において、ガラス物品の厚さが約1mm以下である、態様(1)に記載のガラス物品の強化方法を提供する。
【0010】
本開示の態様(3)において、ガラス物品の厚さが約0.45mm以上から約0.85mm以下である、態様(1)または(2)に記載のガラス物品の強化方法を提供する。
【0011】
本開示の態様(4)において、接触工程の期間が約5時間以上から約7時間以下である、態様(1)から(3)のいずれか1つに記載のガラス物品の強化方法を提供する。
【0012】
本開示の態様(5)において、イオン交換溶液は、接触工程中に、約380℃以上から約400℃以下の温度を有するものである、態様(1)から(4)のいずれか1つに記載のガラス物品の強化方法を提供する。
【0013】
本開示の態様(6)において、イオン交換溶液は、約68モル%以上から約72モル%以下のKNOと、約28モル%以上から約32モル%以下のNaNOとを含むものである、態様(1)から(5)のいずれか1つに記載のガラス物品の強化方法を提供する。
【0014】
本開示の態様(7)において、イオン交換溶液は、約70モル%のKNOと、約30モル%のNaNOとを含むものである、態様(1)から(6)のいずれか1つに記載のガラス物品の強化方法を提供する。
【0015】
本開示の態様(8)において、ガラス物品は、約62モル%以上から約68モル%以下のSiOと、約10モル%以上から約13モル%以下のAlと、約7モル%以上から約10モル%以下のNaOと、約9モル%以上から約13モル%以下のLiOと、0.01モル%以上から約0.07モル%以下のKOと、0.01モル%以上から約0.5モル%以下のMgOと、0モル%以上から約1モル%以下のCaOとを含むものである、態様(1)から(7)のいずれか1つに記載のガラス物品の強化方法を提供する。
【0016】
本開示の態様(9)において、強化ガラス物品の製造方法を提供する。その方法は、ガラス物品を、約4時間以上から約8時間以下の期間、接触中に約370℃以上から約410℃以下の温度を有するイオン交換溶液と接触させる工程と、イオン交換溶液を、ガラス物品から分離する工程とから実質的になり、イオン交換溶液は、約65モル%以上から約75モル%以下のKNOと、約25モル%以上から約35モル%以下のNaNOとから実質的になり、接触工程前に、ガラス物品は、約55モル%以上から約75モル%以下のSiOと、約8モル%以上から約15モル%以下のAlと、約5モル%以上から約12モル%以下のNaOと、約8モル%以上から約14モル%以下のLiOと、0モル%以上から約1モル%以下のKOと、0モル%以上から約2モル%以下のMgOと、0モル%以上から約2モル%以下のCaOと、0モル%以上から約2モル%以下のZrOとから実質的になるものである。
【0017】
本開示の態様(10)において、イオン交換溶液は、約68モル%以上から約72モル%以下のKNOと、約28モル%以上から約32モル%以下のNaNOとを含むものである、態様(9)に記載の強化ガラス物品の製造方法を提供する。
【0018】
本開示の態様(11)において、ガラス物品は、約62モル%以上から約68モル%以下のSiOと、約10モル%以上から約13モル%以下のAlと、約7モル%以上から約10モル%以下のNaOと、約9モル%以上から約13モル%以下のLiOと、0.01モル%以上から約0.07モル%以下のKOと、0.01モル%以上から約0.05モル%以下のMgOと、0.2モル%以上から約1モル%以下のCaOとを含むものである、態様(9)または(10)に記載の強化ガラス物品の製造方法を提供する。
【0019】
本開示の態様(12)において、イオン交換溶液は、接触工程中に、約380℃以上から約400℃以下の温度を有するものである、態様(9)から(11)のいずれか1つに記載の強化ガラス物品の製造方法を提供する。
【0020】
本開示の態様(13)において、強化アルミノケイ酸塩ガラス物品を提供する。強化アルミノケイ酸塩ガラス物品は、前駆体ガラス物品と、接触中に約370℃以上から約410℃以下の温度を有するイオン交換溶液を、約4時間以上から約8時間以下の期間、互いに接触させる工程と、イオン交換溶液を、前駆体ガラス物品から分離して、強化アルミノケイ酸塩ガラス物品を生成する工程とを含む方法によって形成され、イオン交換溶液は、約65モル%以上から約75モル%以下のKNOと、約25モル%以上から約35モル%以下のNaNOとを含み、前駆体ガラス物品は、約55モル%以上から約75モル%以下のSiOと、約8モル%以上から約15モル%以下のAlと、約5モル%以上から約12モル%以下のNaOと、約8モル%以上から約15モル%以下のLiOと、0モル%以上から約2モル%以下のKOと、0モル%以上から約2モル%以下のMgOと、0モル%以上から約2モル%以下のCaOと、0モル%以上から約2モル%以下のZrOとを含み、強化アルミノケイ酸塩ガラス物品は、約190cm以上の高さからの落下試験に耐える。
【0021】
本開示の態様(14)において、前駆体ガラス物品は、約62モル%以上から約68モル%以下のSiOと、約10モル%以上から約13モル%以下のAlと、約7モル%以上から約11モル%以下のNaOと、約9モル%以上から約12モル%以下のLiOと、0モル%以上から約1モル%以下のKOと、0モル%以上から約1モル%以下のMgOと、0モル%以上から約1モル%以下のCaOとを含むものである、態様(13)に記載の強化アルミノケイ酸塩ガラス物品を提供する。
【0022】
本開示の態様(15)において、約200cm以上の高さからの落下試験に耐えるものである、態様(13)または(14)に記載の強化アルミノケイ酸塩ガラス物品を提供する。
【0023】
本開示の態様(16)において、約220cm以上の高さからの落下試験に耐えるものである、態様(13)から(15)のいずれか1つに記載の強化アルミノケイ酸塩ガラス物品を提供する。
【0024】
本開示の態様(17)において、約0.8mm以下の厚さ、および、約35kgf(約343N)以上の摩耗耐性を有する、態様(13)から(16)のいずれか1つに記載の強化アルミノケイ酸塩ガラス物品を提供する。
【0025】
本開示の態様(18)において、約0.55mm以下の厚さ、および、約15kgf(約147N)以上の摩耗耐性を有する、態様(13)から(17)のいずれか1つに記載の強化アルミノケイ酸塩ガラス物品を提供する。
【0026】
本開示の態様(19)において、イオン交換溶液は、約68モル%以上から約72モル%以下のKNOと、約28モル%以上から約32モル%以下のNaNOとを含むものである、態様(13)から(18)のいずれか1つに記載の強化アルミノケイ酸塩ガラス物品を提供する。
【0027】
本開示の態様(20)において、イオン交換溶液は、接触工程中に、約380℃以上から約400℃以下の温度を有するものである、態様(13)から(19)のいずれか1つに記載の強化アルミノケイ酸塩ガラス物品を提供する。
【0028】
本開示の態様(21)において、消費者向け電子製品を提供する。その消費者向け電子製品は、前面、後面、および、側面を有する筐体と、少なくとも部分的には筐体内に備えられ、少なくとも、制御部、メモリ、および、筐体の前面に、または、前面に隣接して備えられた表示部を含むものである電気的構成要素と、表示部の上に配置されたカバーガラスとを含み、筐体の一部またはカバーガラスの少なくとも1つが、態様(13)から(20)のいずれか1つに記載の強化アルミノケイ酸塩ガラス物品を含む。
【0029】
更なる特徴および利点を、次の詳細な記載に示し、それは、部分的には、当業者には、その記載から明らかであるか、または、次の詳細な記載、請求項、および、添付の図面を含む本明細書に記載の実施形態を実施することによって分かるだろう。
【0030】
ここまでの概略的記載および次の詳細な記載の両方が、様々な実施形態を記載し、請求した主題の本質および特徴を理解するための概観または枠組みを提供することを意図すると、理解すべきである。添付の図面は、様々な実施形態の更なる理解のために提供されたものであり、本明細書に組み込まれ、その一部を形成する。図面は、本明細書に記載の様々な実施形態を示し、明細書の記載と共に、請求した主題の原理および動作を説明する役割を果たす。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本明細書に開示した実施形態による強化ガラス物品を概略的に示している。
図2】リングオンリング耐摩耗性試験装置を概略的に示す断面図である。
図3A】本明細書に開示した任意の強化された物品を組み込んだ例示的な電子装置の平面図である。
図3B図3Aの例示的な電子装置の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本明細書において、強化ガラス物品の強化方法を開示する。その方法のいくつかの実施形態は、ガラス物品を、約4時間以上から約8時間以下の期間、イオン交換溶液と接触させる工程を含み、イオン交換溶液は、接触中に、約370℃以上から約410℃以下の温度を有する。接触工程後に、イオン交換溶液とガラス物品を分離する。いくつかの実施形態において、イオン交換溶液は、約65モル%以上から約75モル%以下のKNOと、約25モル%以上から約35モル%以下のNaNOとを含む。いくつかの実施形態において、ガラス物品は、接触工程前に、約55モル%以上から約75モル%以下のSiOと、約8モル%以上から約15モル%以下のAlと、約5モル%以上から約12モル%以下のNaOと、約8モル%以上から約14モル%以下のLiOと、0モル%以上から約1モル%以下のKOと、0モル%以上から約2モル%以下のMgOと、0モル%以上から約2モル%以下のCaOと、0モル%以上から約2モル%以下のZrOとを含む。
【0033】
いくつかの実施形態によるガラス組成物は、リチウムアルミノケイ酸塩ガラスである。イオン交換溶液と接触する前のガラス物品の組成物を、個々の成分ごとに、次に記載する。次に、具体的なガラス組成物、および、ガラス組成物を構成する成分の範囲を、分けて記載するが、ガラス組成物を構成する様々な成分は、限定することなく組み合わせうるものであり、本開示の実施形態において、構成成分の全ての可能な組合せを想定していると理解すべきである。
【0034】
いくつかの実施形態において、SiOは、ガラス組成物に最も多く含まれる成分であり、したがって、SiOは、ガラス組成物から形成されるガラスネットワークの主成分である。純粋なSiOは、比較的低い熱膨張係数(CTE)を有する。しかしながら、純粋なSiOは、高い融点を有する。したがって、ガラス組成物中のSiOの濃度が高すぎる場合には、ガラス組成物の成形性が低下しうる。それは、SiOの濃度が高いほど、ガラスの溶融が難しくなり、それは、次に、ガラスの成形性に悪影響を与えるからである。例えば、50モル%未満のSiOなど、SiOの濃度が低いガラスは、低い耐久性、および、低い耐失透性を有する傾向があるので、容易に成形するためには、55モル%より多くのSiOを有することが実用的である。
【0035】
いくつかの実施形態において、ガラス組成物は、約60モル%以上から約70モル%以下、約62モル%以上から約68モル%以下、約64モル%以上から約66モル%以下、約65モル%のSiO、または、その中の任意の部分範囲など、約55モル%以上から約75モル%以下の濃度で、SiOを含む。
【0036】
いくつかの実施形態のガラス組成物は、SiOに加えて、Alを更に含む。Alは、SiOと同様に、ガラスネットワーク形成物質として機能する。Alは、ガラス組成物の粘度を高める。しかしながら、Alの濃度を、SiOの濃度に対して、更に任意で、アルカリ酸化物の濃度に対して、ガラス組成物の中でバランスさせた場合には、Alは溶融ガラスの液相温度を低下させ、それによって液相粘度を高め、例えばダウンドロー処理など、ある形成処理とのガラス組成物の適合性を高めうる。更に、Alは、アルカリケイ酸塩ガラスのイオン交換性能を高める。
【0037】
いくつかの実施形態において、ガラス組成物は、Alを、約9モル%以上から約14モル%以下、約10モル%以上から約13モル%以下、約11モル%以上から約12モル%以下、または、その中の任意の部分範囲など、約8モル%以上から約15モル%以下の濃度で含む。
【0038】
アルカリ金属酸化物(以下、「RO」と称し、「R」は、1つ以上のアルカリ金属である)を、ガラス組成物に加えて、ガラスの粘度を低下させ、ガラスの溶融性および成形性を高めうる。更に、アルカリ金属酸化物は、ガラスの応力と屈折率プロファイルの両方を変えるイオン交換も可能にする。ROの含有量が高すぎると、ガラスの熱膨張係数が高くなりすぎ、ガラスの熱衝撃耐性が低下しうる。本明細書に開示したガラス組成物は、アルカリ金属酸化物として、LiOを含む。いくつかの実施形態において、ガラス組成物は、アルカリ金属酸化物として、LiOに加えて、NaO、KO、RbO、および、CsOの1つ以上を含む。
【0039】
いくつかの実施形態において、組成物は、LiOを、約9モル%以上から約13モル%以下、約10モル%以上から約12モル%以下、約10モル%以上から約11モル%以下、または、その中の任意の部分範囲など、約8モル%以上から約14モル%以下の濃度で含む。
【0040】
いくつかの実施形態において、組成物は、NaOを、約6モル%以上から約11モル%以下、約7モル%以上から約10モル%以下、約8モル%以上から約10モル%以下、または、その中の任意の部分範囲など、約5モル%以上から約12モル%以下の濃度で含む。
【0041】
いくつかの実施形態において、組成物は、KOを、約0.01モル%以上から約0.5モル%以下、約0.01モル%以上から約0.07モル%以下、または、その中の任意の部分範囲など、約0モル%以上から約1モル%以下の濃度で含む。
【0042】
いくつかの実施形態において、ガラス組成物は、ROを、約15モル%以上から約20モル%以下、約16モル%以上から約19モル%以下、約17モル%以上から約18モル%以下、または、その中の任意の部分範囲など、約14モル%以上から約22モル%以下の全濃度で含む。
【0043】
比較的多量のROをガラス組成物に含むことで、小さいアルカリ金属イオンと大きいアルカリ金属イオンのイオン交換処理(例えば、約400℃の溶融KNOおよび/またはNaNO塩浴内でのイオン交換)中の相互拡散を高めることが可能である。いかなる特定の理論にも縛られる訳ではないが、比較的多量のROは、Al3+に対して電荷補償剤として作用し、それによって、酸素で電荷が相殺された四面体配位ユニットを形成しうる。この四面体配位は、ガラス物品の強度を高めることを可能にする。
【0044】
高い圧入損傷耐性を保持するために、いくつかの実施形態によるガラス組成物は、約0.75:1.0以上から約1.0:1.0以下、または、その中の任意の部分範囲など、約0.5:1以上から約1.0:1.0以下のAlのROに対するモル比を有する。いくつかの実施形態において、ガラス組成物は、約0.9:1.0以上から約1.1:1.0以下、または、その中の任意の部分範囲など、約0.8:1.0以上から約1.2:1.0以下のAlのLiOに対するモル比を有する。
【0045】
ガラス組成物は、いくつかの実施形態において、アルカリ土類金属酸化物などの他の成分を含みうる。いくつかの実施形態において、アルカリ土類金属酸化物は、MgO、CaO、SrO、BaO、および、それらの組合せから選択しうる。これらの酸化物を加えて、ガラスの溶融性、耐久性、および、安定性を高めうる。更に、アルカリ土類金属酸化物を安定剤として加えて、ガラス組成物が様々な環境条件に曝された際のガラス組成物の劣化を回避するのを助けうる。しかしながら、ガラス組成物に加えるアルカリ土類金属酸化物が多すぎると、成形性を低下させうる。
【0046】
いくつかの実施形態において、ガラス組成物は、アルカリ土類金属酸化物を、約0.5モル%以上から約2.5モル%以下、約1.0モル%以上から約2.0モル%以下、または、その中の任意の部分範囲など、0モル%以上から約3.0モル%以下濃度で含む。いくつかの実施形態において、ガラス組成物は、CaOを、約0.2モル%以上から約1.0モル%以下、または、その中の任意の部分範囲など、約0モル%以上から約2.0モル%以下の濃度で含む。いくつかの実施形態において、ガラス組成物は、MgOを、約0.01モル%以上から約0.5モル%以下、または、その中の任意の部分範囲など、約0モル%以上から約2.0モル%以下の濃度で含む。
【0047】
ガラス組成物の実施形態は、ガラス組成物の化学耐久性を高めうるZrOを含みうる。更に、ZrOは、ガラス転移温度を上昇させ、ガラス組成物の熱膨張係数を低下させうる。
しかしながら、ZrOの量が多いと、ガラス組成物の成形性を低下させうる。いくつかの実施形態において、ガラス組成物は、ZrOを、約0.5モル%以上から約1.8モル%以下、約0.8モル%以上から約1.5モル%以下、または、その中の任意の部分範囲など、約0モル%以上から約2モル%以下の濃度で含む。
【0048】
いくつかの実施形態において、ガラス組成物は、例えば、SnO、硫酸塩、塩化物、臭化物、Sb、As、SrO、TiO、Fe、および、Ceなどの清澄剤を含みうる。いくつかの実施形態において、ガラス組成物は、1つ以上の清澄剤を、約0.002モル%以上から約0.9モル%以下、約0.05モル%以上から約0.8モル%以下、約0.1モル%以上から約0.7モル%以下、約0.1モル%以上から約0.3モル%以下、約0.15モル%、または、その中の任意の部分範囲など、0モル%以上から約1.0モル%以下の濃度で含む。硫酸塩を清澄剤として採用した実施形態において、硫酸塩は、約0.001モル%以上から約0.1モル%以下の量で含められうる。
【0049】
いくつかの実施形態において、ガラス組成物は、SnOを、約0モル%以上から約0.001モル%以下、または、その中の任意の部分範囲など、約0モル%以上から約0.01モル%以下の濃度で含む。いくつかの他の実施形態において、ガラス組成物は、TiOを、約0.01モル%以上から約0.05モル%以下、または、その中の任意の部分範囲など、約0モル%以上から約0.1モル%以下の濃度で含む。いくつかの実施形態において、ガラス組成物は、SrOを、約0.001モル%以上から約0.05モル%以下、または、その中の任意の部分範囲など、約0モル%以上から約0.1モル%の濃度で含む。いくつかの実施形態において、ガラス組成物は、Feは、約0.01モル%以上から約0.05モル%以下、または、その中の任意の部分範囲など、約0モル%以上から約0.1モル%以下の濃度で含む。
【0050】
本明細書に開示した実施形態によるガラスは、例えば、ガラスシートなどのガラス物品に成形しうる。いくつかの実施形態において、ガラス組成物は、少なくとも130キロポアズ(13kPa・s)の液相粘度を有し、限定するものではないが、例えば、フュージョンドロー処理、スロットドロー処理、および、リドロー処理などの適切な成形技術によって、ダウンドローが可能である。他の実施形態において、ガラスシートを、フロート処理によって製作しうる。
【0051】
ガラス組成物を、例えば、任意の適切な厚さを有するガラスシートなどのガラス物品に成形しうる。例えば、携帯電話、(ラップトップおよびタブレットを含む)コンピュータおよびATMのタッチ画面またはタッチ画面カバーガラスなど、電子装置で使用されるガラス物品について、ガラス物品は、約1mm以下の厚さを有しうる。いくつかの実施形態において、ガラス物品は、約0.4mm以上から約1mm以下、約0.45mm以上から約0.85mm以下、または、その中の任意の部分範囲など、約0.2mm以上から約1mm以下の範囲の厚さを有する。
【0052】
いくつかの実施形態によれば、ガラス物品は、例えば、イオン交換によって、化学強化される。イオン交換可能なガラス組成物は、典型的には、例えば、Liイオンなど、より小さな1価のアルカリ金属イオンを含み、それを、例えば、Na、K、Rb、または、Csイオンなど、より大きな1価のアルカリ金属イオンと交換しうる。いくつかの実施形態において、最初に、ガラス組成物は、イオン交換処理中にNaイオンと置換可能なLiイオンを含む。このタイプのイオン交換が可能な例示的なガラス組成物を、以下に記載する。
【0053】
イオン交換処理は、ガラス物品をイオン交換溶液と接触させる工程を含む。ガラス物品を、噴霧、浸漬、または、他の成膜技術によって、イオン交換溶液と接触させうる。いくつかの実施形態において、イオン交換処理は、ガラス物品を、イオン交換溶液の溶融浴中に浸漬させる工程を含む。ガラス物品の母材中の(Liイオンなどの)より小さいイオンが、イオン交換溶液中の(NaイオンまたはKイオンなどの)より大きいイオンで置換される反応を高めるように、イオン交換条件を選択する。図1を参照すると、上記のようなイオン交換処理により、圧縮応力層110が、イオン交換溶液と接触したガラス物品100の表面に形成される。図1は、圧縮応力層110を有する1つの表面だけを示しているが、圧縮応力層110は、ガラス物品100の多数の表面に形成しうると理解すべきである。圧縮応力層110は、ガラス物品の強度に貢献する少なくとも2つの測定可能なパラメータ、つまり、層深さ(図1で、「D」で示した(DOL))および、圧縮応力(CS)を有する。
【0054】
ガラス物品とイオン交換溶液の接触期間は、ガラス母材中のより小さいイオンが、イオン交換溶液中のより大きいイオンで置換される反応を高めるように選択する。いくつかの実施形態において、ガラス物品は、イオン交換溶液と、約5時間以上から約7時間以下、約5.5時間以上から約6.5時間以下、または、その中の任意の部分範囲など、約4時間以上から約8時間以下の期間、接触させられる。
【0055】
ガラス物品がイオン交換溶液と接触している間のイオン交換溶液の温度は、ガラス母材中のより小さいイオンが、イオン交換溶液中のより大きいイオンで置換される反応を高めるように選択する。いくつかの実施形態において、ガラス物品がイオン交換溶液と接触している間のイオン交換溶液の温度は、約380℃以上から約400℃以下、約385℃以上から約395℃以下、約390℃、または、その中の任意の部分範囲など、約370℃以上から約410℃以下である。
【0056】
イオン交換溶液の組成物は、イオン交換処理の効果を助け、それによって、ガラス物品の物性を高める。例であると共に、いかなる特定の理論にも縛られる訳ではないが、リチウムを含むガラス組成物は、2段階の処理が行われることによって、深いDOLを生じるイオン交換処理がなされうるもので、その2段階の処理において、ガラス物品は、最初に、NaNOが100%の溶融浴に接触させられ、次に、ガラス物品は、KNOが100%の溶融浴に接触させられる。更に、ガラス物品を、95%のKNOおよび5%のNaNOを含む溶融浴と接触させる工程を含む1段階のイオン交換処理も、深い層深さを有するガラス物品を生じるだろう。しかしながら、深い層深さだけでは、優れた摩耗耐性および強度を確実なものにしない。一方、本明細書に開示した特定の組成物を有するイオン交換溶液を、本明細書に開示した期間、本明細書に開示した温度で用いることで、優れた摩耗耐性および優れた強度の両方を有するガラス物品を提供する。
【0057】
いくつかの実施形態において、イオン交換溶液は、NaNOおよびKNOの混合物を含む。いくつかの実施形態において、イオン交換溶液は、KNOを約65モル%以上から約75モル%以下の濃度で含み、NaNOを約25モル%以上から約35モル%以下の濃度で含む。いくつかの他の実施形態において、イオン交換溶液は、KNOを約68モル%以上から約72モル%以下の濃度で含み、NaNOを約28モル%以上から約32モル%以下の濃度で含む。更にいくつかの他の実施形態において、イオン交換溶液は、KNOを約70モル%の濃度で含み、NaNOを約30モル%の濃度で含む。
【0058】
本明細書に開示したガラス組成物およびイオン交換条件を用いて、優れた摩耗耐性を有し、高強度のガラス物品を提供する。本明細書に開示した実施形態により形成された強化ガラス物品の強度および摩耗耐性を、次に記載する落下および摩耗試験によって測定する。
【0059】
本明細書の開示で用いるように、ガラス物品の強度を、2段階の落下試験によって測定する。落下試験のために、ガラス物品を切断し、切断した縁部を、研削、研磨、エッチングなどによって仕上げ加工して、切断したガラス物品を、元のカバーガラスを取り外した(携帯電話などの)ハンドヘルド型装置に配置しうる大きさになるようにする。切断工程および縁部仕上げ加工後に、ガラス物品にイオン交換処理を行う。イオン交換処理が完了したら、強化ガラス物品を洗浄し、乾燥させて、ハンドヘルド型装置に固定して、試験装置を形成する。2段階の落下試験の第1段階は、試験装置を第1の向きに配置して、試験装置を、第1の向きで、高さ1メートルから平滑な花崗岩に落下させる工程を含む。落下した時に試験装置のガラス物品に亀裂を生じた場合には、そのガラス物品は不合格であり、試験を続けない。しかし、試験装置のガラス物品に亀裂を生じない場合には、亀裂を生じなかった試験装置を、次に、第2の向きに配置して、高さ1メートルから平滑な花崗岩に落下させる。この処理を、18の異なる向きについて繰り返す。18の全ての向きで落下された後に亀裂を生じなかった試験装置を、次に、2段階の落下試験の第2段階に送る。
【0060】
落下試験の第2段階は、落下試験の第1段階の間に亀裂を生じなかった試験装置だけに行われる。落下試験の第2段階において、試験装置を、様々な高さから、180グリットの紙やすりに落下させる。試験装置を、ガラス物品が、試験装置のうち最初に紙やすりに接触する部分となるように向ける。試験装置を、22cm、30cm、40cm、50cm、60cm、70cm、80cm、90cm、100cm、110cm、120cm、130cm、140cm、150cm、160cm、170cm、180cm、190cm、200cm、210cm、および、221cmの高さから落下させる。次に、ガラス物品に亀裂を生じる高さを、その試験装置の落下高さとして記録する。一方、ある高さから落下させた時に、試験装置のガラス物品に亀裂を生じない場合には、ガラス物品は、その高さの落下試験に「合格した」と称する。例として、130cmから落下させた場合には亀裂を生じないが、140cmから落下させた場合には亀裂を生じる試験装置内のガラス物品は、130cmの落下試験は合格だが、140cmの不合格高さを有すると記載しうる。
【0061】
いくつかの実施形態において、ガラス物品は、約200cm以上、約210cm以上、約221cm以上、または、もっと高いなど、約190cm以上の高さからの落下試験に合格する。
【0062】
本明細書に記載したような摩耗耐性を、リングオンリング耐摩耗性(AROR)試験で測定する。材料の強度を、破損を生じる時の応力として定義する。AROR試験は、板ガラス試料を試験するための表面強度測定であり、本明細書に記載のAROR試験方法は、「Standard Test Method for Monotonic Equibiaxial Flexural Strength of Advanced Ceramics at Ambient Temperature」と称されるASTM C1499-09(2013)に基づいている。ASTM C1499-09の内容は、参照により、全体として本明細書に組み込まれる。リングオンリング試験前に、「Standard Test Methods for Strength of Glass by Flexure(Determination of Modulus of Rupture)」と称されるASTM C158-02(2012)の「Abrasion Procedures」というタイトルの付録A2に記載された方法および装置を用いて、ガラス試料を、ガラス試料に送られる90グリットの炭化ケイ素(SiC)粒子で摩耗させる。ASTM C158-02の内容、および、特に付録2の内容は、参照により、全体として本明細書に組み込まれる。
【0063】
リングオンリング試験の前に、ASTM C158-02の図A2.1に示された装置を用いて、ガラス系物品の表面を、ASTM C158-02、付録2に記載されたように摩耗させて、試料の表面欠陥条件を標準化および/または制御する。研磨材を、ガラス系物品の表面に、304kPa(44psi)の空気圧を用いて、104キロパスカル(kPa)(15ポンド/平方インチ(psi))の力でサンドブラストする。空気流が確立した後に、5cmの研磨材を漏斗へ落とし入れて、試料を、研磨材投入後に5秒間、サンドブラストする。
【0064】
AROR試験を行うために、図2に示したような少なくとも1つの摩耗面を有するガラス系物品を、2つの異なる大きさで同心円のリングの間に配置して、等二軸曲げ強度(つまり、材料が、2つの同心円のリングの間で曲げられた場合に、材料が耐えることが可能な最大応力)を特定する。AROR構成400において、摩耗したガラス系物品410は、直径Dを有する支持リング420によって支持される。力Fが、負荷セル(不図示)によって、ガラス系物品の表面に、直径Dを有する負荷リング430で加えられる。
【0065】
負荷リングと支持リングの直径の比D/Dは、0.2から0.5の比でありうる。いくつかの実施形態において、D/Dは0.5である。負荷および支持リング430、420は、支持リングの直径Dの0.5%以内のずれで、同心円に位置合わせされるべきである。試験に用いる負荷セルは、選択された範囲のいかなる負荷でも、±1%以内の精度を有するべきである。試験は、23±2℃の温度で、かつ、4±10%の相対湿度で行われる。
【0066】
固定部の設計については、負荷リング430の突出面の半径rは、h/2≦r≦3h/2の範囲であり、hは、ガラス系物品410の厚さである。負荷および支持リング430、420は、HRc>40の硬度を有する高硬度スチールで製作される。AROR固定部は、市販品から入手可能である。
【0067】
AROR試験について意図した不合格判断の仕組みは、負荷リング430内の表面430aで始まるガラス系物品410の破損を観察するものである。この領域外で、つまり、負荷リング430と支持リング420の間で発生する破損は、データ分析から除かれる。しかしながら、ガラス系物品410は、薄く、強度が高いので、試料の厚さhの1/2を超える大きな撓みが観察されることがある。したがって、負荷リング430の真下から高いパーセントで破損が始まるのを観察することは、稀ではない。リング内とリングの下の両方における(歪みゲージ分析により収集した)応力、および、各試料の破損源を知らないと、応力を正確に計算することはできない。したがって、AROR試験は、測定した応答としての破損時のピーク負荷に注目する。
【0068】
ガラス系物品の強度は、表面に傷があるかに左右される。しかしながら、ガラスの強度は、本来統計的なものであるので、所定の大きさの傷がある可能性は、正確には予想できない。したがって、いくつかの場合において、確率分布を、取得したデータを統計的に表すのに使用しうる。
【0069】
実施形態において、約0.8mm以上の厚さを有するガラス物品は、約37kgf(約363N)以上など、約35kgf(約343N)以上の摩耗耐性を有する。他の実施形態において、約0.8mm以上の厚さを有するガラス物品は、約40kgf(約392N)以上など、約39kgf(約382N)以上の摩耗耐性を有する。実施形態において、約0.55mm以下の厚さを有するガラス物品は、約17kgf(約167N)以上など、約15kgf(約147N)以上の摩耗耐性を有する。他の実施形態において、約0.55mm以下の厚さを有するガラス物品は、約19kgf(約186N)以上など、約18kgf(約177N)以上の摩耗耐性を有する。
【0070】
本明細書に開示した強化ガラス物品を、表示部を有する物品(表示用物品)(例えば、携帯電話、タブレット、コンピュータ、ナビゲーションシステムなどを含む消費者向け電子機器)、建築用物品、輸送用物品(例えば、自動車、電車、航空機、海洋船舶など)、家庭用器具物品、若しくは、ある程度の透明性、擦り耐性、摩耗耐性、または、それらの組合せを必要とする任意の物品などの他の物品に組み込みうる。本明細書に開示した任意の強化した物品を組み込んだ例示的な物品を、図3A、3Bに示している。具体的には、図3A、3Bは、前面204、後面206および側面208を有する筐体202と、少なくとも部分的には、または、全体が筐体内にある電気的構成要素(不図示)であって、少なくとも制御部、メモリ、および、筐体の前面に、または、前面に隣接した表示部210を含む電気的構成要素と、表示部を覆うように筐体の前面に、または、前面を覆うカバー基板212とを含む消費者向け電子装置200を示している。いくつかの実施形態において、カバー基板212または筐体202は、本明細書に開示した任意の強化ガラス物品を含みうる。
【実施例
【0071】
本開示の実施形態は、次に記載する制限するものではない実施例によって、さらに明確になるだろう。
【0072】
ガラス試料、以下の成分を混合して溶融させることによって用意した:65.38モル%のSiO、11.04モル%のAl、9.69モル%のNaO、0.06モル%のKO、10.67モル%のLiO、0.46モル%のMgO、0.81モル%のCaO、1.80モル%のZrO、0.02モル%のTiO、0.05モル%のSrO、および、0.02モル%のFe。表1に示した厚さを有するガラスシートを、ダウンドロー処理によって形成した。形成したガラスシートを望ましい大きさに切断して、切断縁部を仕上げ加工した。次に、仕上げ加工したガラスシートを、表1に示した組成物を有する溶融塩イオン交換浴に浸漬させた。仕上げ加工後のガラスシートを、表1に示した期間、イオン交換浴槽に保持した。その後、様々な試料を、表1に示した濃度を有する第2のイオン交換浴に、表1に示した期間および温度で浸漬させた。次に、強化ガラスシートに、本明細書に記載の摩耗耐性試験を行った。ガラス物品に、上記のような落下試験も何度か行った。これらの試験の結果を表1に示す。
【0073】
【表1-1】
【0074】
【表1-2】
【0075】
表1において、「NA」は、第2のイオン交換処理も落下試験も行われなかったことを示す。更に、表1で、落下試験の221cmより低い「高さ」は、落下試験後にガラス物品に亀裂が存在することによって、ガラスシートが破損した高さを示す。例えば、比較例1として高さ1から落下させたガラスシートは、110cmの高さからの落下で亀裂を示すことによって、破損した。しかしながら、221cmが、ガラス物品を落下させうる最大高さである。したがって、表1において、「高さ」が「>221」の落下試験は、試験を行ったいずれの高さでも、そのガラス物品に亀裂を生じなかったことを示す。
【0076】
表1に示すように、70モル%のKNOおよび30モル%のNaNOを含む1つの溶融塩浴でイオン交換された試料1、2は、落下試験と摩耗試験の両方において、2つのイオン交換浴処理でイオン交換された比較例(つまり、比較例1、3、4)、または、95モル%のKNOおよび5モル%のNaNOを含む溶融塩浴でイオン交換された比較例(つまり、比較例2)より優れた性能を示した。
【0077】
当業者には、請求した主題の精神および範囲を逸脱することなく、本明細書に記載の実施形態に様々な変更および変形が可能なことが明らかだろう。したがって、本明細書は、本明細書に記載の様々な実施形態の変更例および変形例も、そのような変更例および変形例が添付の請求項および、その等価物の範囲内である限りは、網羅することを意図する。
【0078】
以下、本発明の好ましい実施形態を項分け記載する。
【0079】
実施形態1
ガラス物品の強化方法において、
ガラス物品を、約4時間以上から約8時間以下の期間、接触中に約370℃以上から約410℃以下の温度を有するイオン交換溶液と接触させる工程と、
前記イオン交換溶液を、前記ガラス物品から分離する工程と、
を含み、
前記イオン交換溶液は、
約65モル%以上から約75モル%以下のKNOと、
約25モル%以上から約35モル%以下のNaNOと、
を含み、
前記接触工程前に、前記ガラス物品は、
約55モル%以上から約75モル%以下のSiOと、
約8モル%以上から約15モル%以下のAlと、
約5モル%以上から約12モル%以下のNaOと、
約8モル%以上から約14モル%以下のLiOと、
0モル%以上から約1モル%以下のKOと、
0モル%以上から約2モル%以下のMgOと、
0モル%以上から約2モル%以下のCaOと、
0モル%以上から約2モル%以下のZrOと、
を含むものである方法。
【0080】
実施形態2
前記ガラス物品の厚さは、約1mm以下である、実施形態1に記載のガラス物品の強化方法。
【0081】
実施形態3
前記ガラス物品の厚さは、約0.45mm以上から約0.85mm以下である、実施形態1に記載のガラス物品の強化方法。
【0082】
実施形態4
前記接触工程の前記期間は、約5時間以上から約7時間以下である、実施形態1に記載のガラス物品の強化方法。
【0083】
実施形態5
前記イオン交換溶液は、前記接触工程中に、約380℃以上から約400℃以下の温度を有するものである、実施形態1に記載のガラス物品の強化方法。
【0084】
実施形態6
前記イオン交換溶液は、
約68モル%以上から約72モル%以下のKNOと、
約28モル%以上から約32モル%以下のNaNOと、
を含むものである、実施形態1に記載のガラス物品の強化方法。
【0085】
実施形態7
前記イオン交換溶液は、約70モル%のKNOと、約30モル%のNaNOとを含むものである、実施形態1に記載のガラス物品の強化方法。
【0086】
実施形態8
前記ガラス物品は、
約62モル%以上から約68モル%以下のSiOと、
約10モル%以上から約13モル%以下のAlと、
約7モル%以上から約10モル%以下のNaOと、
約9モル%以上から約13モル%以下のLiOと、
0.01モル%以上から約0.07モル%以下のKOと、
0.01モル%以上から約0.5モル%以下のMgOと、
0モル%以上から約1モル%以下のCaOと、
を含むものである、実施形態1に記載のガラス物品の強化方法。
【0087】
実施形態9
強化ガラス物品の製造方法において、
ガラス物品を、約4時間以上から約8時間以下の期間、接触中に約370℃以上から約410℃以下の温度を有するイオン交換溶液と接触させる工程と、
前記イオン交換溶液を、前記ガラス物品から分離する工程と、
から実質的になり、
前記イオン交換溶液は、
約65モル%以上から約75モル%以下のKNOと、
約25モル%以上から約35モル%以下のNaNOと、
から実質的になり、
前記接触工程前に、前記ガラス物品は、
約55モル%以上から約75モル%以下のSiOと、
約8モル%以上から約15モル%以下のAlと、
約5モル%以上から約12モル%以下のNaOと、
約8モル%以上から約14モル%以下のLiOと、
0モル%以上から約1モル%以下のKOと、
0モル%以上から約2モル%以下のMgOと、
0モル%以上から約2モル%以下のCaOと、
0モル%以上から約2モル%以下のZrOと、
から実質的になるものである方法。
【0088】
実施形態10
前記イオン交換溶液は、
約68モル%以上から約72モル%以下のKNOと、
約28モル%以上から約32モル%以下のNaNOと、
を含むものである、実施形態9に記載の強化ガラス物品の製造方法。
【0089】
実施形態11
ガラス物品は、
約62モル%以上から約68モル%以下のSiOと、
約10モル%以上から約13モル%以下のAlと、
約7モル%以上から約10モル%以下のNaOと、
約9モル%以上から約13モル%以下のLiOと、
0.01モル%以上から約0.07モル%以下のKOと、
0.01モル%以上から約0.05モル%以下のMgOと、
0.2モル%以上から約1モル%以下のCaOと、
を含むものである、実施形態9に記載の強化ガラス物品の製造方法。
【0090】
実施形態12
前記イオン交換溶液は、前記接触工程中に、約380℃以上から約400℃以下の温度を有するものである、実施形態9に記載の強化ガラス物品の製造方法。
【0091】
実施形態13
強化アルミノケイ酸塩ガラス物品において、
前記ガラス物品は、
前駆体ガラス物品と、接触中に約370℃以上から約410℃以下の温度を有するイオン交換溶液を、約4時間以上から約8時間以下の期間、互いに接触させる工程と、
前記イオン交換溶液を、前記前駆体ガラス物品から分離して、前記強化アルミノケイ酸塩ガラス物品を生成する工程と、
を含む方法によって形成され、
前記イオン交換溶液は、
約65モル%以上から約75モル%以下のKNOと、
約25モル%以上から約35モル%以下のNaNOと、
を含み、
前記前駆体ガラス物品は、
約55モル%以上から約75モル%以下のSiOと、
約8モル%以上から約15モル%以下のAlと、
約5モル%以上から約12モル%以下のNaOと、
約8モル%以上から約15モル%以下のLiOと、
0モル%以上から約2モル%以下のKOと、
0モル%以上から約2モル%以下のMgOと、
0モル%以上から約2モル%以下のCaOと、
0モル%以上から約2モル%以下のZrOと、
を含み、
約190cm以上の高さからの落下試験に耐えるものであるガラス物品。
【0092】
実施形態14
前記前駆体ガラス物品は、
約62モル%以上から約68モル%以下のSiOと、
約10モル%以上から約13モル%以下のAlと、
約7モル%以上から約11モル%以下のNaOと、
約9モル%以上から約12モル%以下のLiOと、
0モル%以上から約1モル%以下のKOと、
0モル%以上から約1モル%以下のMgOと、
0モル%以上から約1モル%以下のCaOと、
を含むものである、実施形態13に記載の強化アルミノケイ酸塩ガラス物品。
【0093】
実施形態15
約200cm以上の高さからの落下試験に耐えるものである、実施形態13に記載の強化アルミノケイ酸塩ガラス物品。
【0094】
実施形態16
約220cm以上の高さからの落下試験に耐えるものである、実施形態13に記載の強化アルミノケイ酸塩ガラス物品。
【0095】
実施形態17
約0.8mm以下の厚さ、および、約35kgf(約343N)以上の摩耗耐性を有する、実施形態13に記載の強化アルミノケイ酸塩ガラス物品。
【0096】
実施形態18
約0.55mm以下の厚さ、および、約15kgf(約147N)以上の摩耗耐性を有する、実施形態13に記載の強化アルミノケイ酸塩ガラス物品。
【0097】
実施形態19
前記イオン交換溶液は、
約68モル%以上から約72モル%以下のKNOと、
約28モル%以上から約32モル%以下のNaNOと、
を含むものである、実施形態13に記載の強化アルミノケイ酸塩ガラス物品。
【0098】
実施形態20
前記イオン交換溶液は、前記接触工程中に、約380℃以上から約400℃以下の温度を有するものである、実施形態13に記載の強化アルミノケイ酸塩ガラス物品。
【0099】
実施形態21
消費者向け電子製品において、
前面、後面、および、側面を有する筐体と、
少なくとも部分的には前記筐体内に備えられ、少なくとも、制御部、メモリ、および、前記筐体の前記前面に、または、該前面に隣接して備えられた表示部を含むものである電気的構成要素と、
前記表示部の上に配置されたカバーガラスと、
を含み、
前記筐体の一部または前記カバーガラスの少なくとも1つが、実施形態13に記載の強化アルミノケイ酸塩ガラス物品を含むものである電子製品。
【符号の説明】
【0100】
100 ガラス物品
110 圧縮応力層
200 消費者向け電子装置
202 筐体
210 表示部
212 カバー基板
410 ガラス系物品
420 支持リング
430 負荷リング
図1
図2
図3A
図3B