(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-07
(45)【発行日】2022-01-12
(54)【発明の名称】薬液投与装置及びその動作方法
(51)【国際特許分類】
A61M 5/48 20060101AFI20220104BHJP
A61M 5/145 20060101ALI20220104BHJP
【FI】
A61M5/48 500
A61M5/145 500
(21)【出願番号】P 2019510096
(86)(22)【出願日】2018-03-29
(86)【国際出願番号】 JP2018013107
(87)【国際公開番号】W WO2018181657
(87)【国際公開日】2018-10-04
【審査請求日】2020-11-09
(31)【優先権主張番号】P 2017066816
(32)【優先日】2017-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077665
【氏名又は名称】千葉 剛宏
(74)【代理人】
【識別番号】100116676
【氏名又は名称】宮寺 利幸
(74)【代理人】
【識別番号】100191134
【氏名又は名称】千馬 隆之
(74)【代理人】
【識別番号】100136548
【氏名又は名称】仲宗根 康晴
(74)【代理人】
【識別番号】100136641
【氏名又は名称】坂井 志郎
(74)【代理人】
【識別番号】100180448
【氏名又は名称】関口 亨祐
(72)【発明者】
【氏名】薬師寺 祐介
【審査官】上田 真誠
(56)【参考文献】
【文献】特表2004-516107(JP,A)
【文献】国際公開第2014/045393(WO,A1)
【文献】特開2013-192850(JP,A)
【文献】特表平08-509898(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 5/48
A61M 5/145
A61M 5/315
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬液(M)を生体内に投与するための薬液投与装置(10)であって、
前記薬液(M)が充填された筒体(12)と、
前記筒体(12)内に摺動可能に配置されたガスケット(34)と、
前記筒体(12)の内周面、又は、前記ガスケット(34)の外周面に塗布された液体潤滑剤(LM)と、
前記ガスケット(34)を先端方向へ前進させるための前進機構(36)と、
前記前進機構(36)を駆動するモータ(40)を有する駆動機構(42)と、
前記モータ(40)に電力を供給する電池(26)と、
前記モータ(40)の回転速度を制御する制御ユニット(28)と、
を備え、
前記制御ユニット(28)は、前記筒体(12)内において前記ガスケット(34)が前進を開始してから所定距離だけ前進するまでの第1移動区間では前記モータ(40)を第1の回転速度(S1)で動作させ、前記ガスケット(34)が前記第1移動区間を過ぎた後の第2移動区間では前記モータ(40)を前記第1の回転速度(S1)よりも速い第2の回転速度(S2)で動作させるように設定されたプログラム(28a)を有し、
前記ガスケット(34)が前記筒体(12)内で摺動する際の摺動抵抗は、前記第1移動区間内において最も高くな
り、
前記制御ユニット(28)は、前記第1移動区間において、前記第1の回転速度(S1)での動作と停止を繰り返すように前記モータ(40)を制御し、前記第2移動区間において、前記第2の回転速度(S2)での動作と停止を繰り返すように前記モータ(40)を制御し、
前記第1の回転速度(S1)での動作と停止を繰り返す間欠駆動における各動作時間(T1a)は、前記第2の回転速度(S2)での動作と停止を繰り返す間欠駆動における各動作時間(T2a)よりも長い、
ことを特徴とする薬液投与装置(10)。
【請求項2】
請求項1記載の薬液投与装置(10)において、
前記第1移動区間は、前記第2移動区間よりも短い、
ことを特徴とする薬液投与装置(10)。
【請求項3】
請求項1又は2記載の薬液投与装置(10)において、
前記プログラム(28a)は、前記モータ(40)が前記第1の回転速度(S1)で動作する時間に基づいて前記ガスケット(34)が前記第1移動区間を過ぎたことを判定して、前記モータ(40)の動作を前記第1の回転速度(S1)から前記第2の回転速度(S2)に切り替える、
ことを特徴とする薬液投与装置(10)。
【請求項4】
請求項1又は2記載の薬液投与装置(10)において、
前記プログラム(28a)は、前記第1の回転速度(S1)で動作する前記モータ(40)の回転量に基づいて前記ガスケット(34)が前記第1移動区間を過ぎたことを判定して、前記モータ(40)の動作を前記第1の回転速度(S1)から前記第2の回転速度(S2)に切り替える、
ことを特徴とする薬液投与装置(10)。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の薬液投与装置(10)において、
前記第1の回転速度(S1)での動作と停止を繰り返す間欠駆動における各動作時間(T1a)は、1~6秒であり、
前記第2の回転速度(S2)での動作と停止を繰り返す間欠駆動における各動作時間(T2a)は、83~500ミリ秒である、
ことを特徴とする薬液投与装置(10)。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の薬液投与装置(10)において、
前記モータ(40)が前記第1の回転速度(S1)で動作することにより、前記第1移動区間における前記ガスケット(34)の摺動抵抗の最大値は、8N以下である、
ことを特徴とする薬液投与装置(10)。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の薬液投与装置(10)において、
前記モータ(40)が前記第1の回転速度(S1)で動作する際の前記ガスケット(34)の移動速度は、毎分1.0~6.0mmである、
ことを特徴とする薬液投与装置(10)。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の薬液投与装置(10)において、
前記第1移動区間の長さは、1.0~3.0mmである、
ことを特徴とする薬液投与装置(10)。
【請求項9】
薬液(M)が充填されるとともに内周面に液体潤滑剤(LM)が塗布された筒体(12)と、前記筒体(12)内に摺動可能に配置されたガスケット(34)と、前記ガスケット(34)を先端方向へ前進させるための前進機構(36)と、前記前進機構(36)を駆動するモータ(40)を有する駆動機構(42)と、前記モータ(40)に電力を供給する電池(26)と、前記モータ(40)の回転速度を制御するプログラム(28a)を有する制御ユニット(28)とを備えた薬液投与装置(10)の動作方法であって、
前記ガスケット(34)を初期位置から所定距離前進させるために、前記モータ(40)を介して前記前進機構(36)を駆動する第1駆動ステップと、
前記ガスケット(34)が前記初期位置から所定距離移動したか否かを判定する移動距離判定ステップと、
前記移動距離判定ステップで前記ガスケット(34)が前記所定距離移動したと判定した後に、前記モータ(40)を介して前記前進機構(36)をさらに駆動する第2駆動ステップ、とを有し、
前記第1駆動ステップでは、前記モータ(40)を第1の回転速度(S1)で動作させ、
前記第2駆動ステップでは、前記モータ(40)を第1の回転速度(S1)よりも早い第2の回転速度(S2)で動作さ
せ、
前記制御ユニット(28)は、前記第1駆動ステップにおいて、前記第1の回転速度(S1)での動作と停止を繰り返すように前記モータ(40)を制御し、前記第2駆動ステップにおいて、前記第2の回転速度(S2)での動作と停止を繰り返すように前記モータ(40)を制御し、
前記第1の回転速度(S1)での動作と停止を繰り返す間欠駆動における各動作時間(T1a)は、前記第2の回転速度(S2)での動作と停止を繰り返す間欠駆動における各動作時間(T2a)よりも長い、
ことを特徴とする薬液投与装置(10)の動作方法。
【請求項10】
請求項9記載の薬液投与装置(10)の動作方法であって、
前記第1駆動ステップで前記ガスケット(34)が移動する距離は、前記第2駆動ステップで前記ガスケット(34)が移動する距離よりも短い、
ことを特徴とする薬液投与装置(10)の動作方法。
【請求項11】
請求項9又は10記載の薬液投与装置(10)の動作方法であって、
前記移動距離判定ステップは、前記第1の回転速度(S1)で動作する前記モータ(40)の回転数に基づいて前記ガスケット(34)が前記所定距離移動したことを判定する、
ことを特徴とする薬液投与装置(10)の動作方法。
【請求項12】
請求項9又は10記載の薬液投与装置(10)の動作方法であって、
前記移動距離判定ステップは、前記モータ(40)が前記第1の回転速度(S1)で動作する時間に基づいて前記ガスケット(34)が前記所定距離移動したことを判定する、
ことを特徴とする薬液投与装置(10)の動作方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筒体内から薬液を押し出し、薬液を生体に投与するための薬液投与装置及びその動作方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、筒体内に充填した薬液を押し子により押し出して生体内に投与するシリンジポンプ型の薬液投与装置は公知である。この種の薬液投与装置は、バレル型の筒体と、筒体内に摺動可能に配置されたガスケットと、ガスケットを前進させる押し子と、押し子を前進させるための駆動源であるモータとを備える(例えば、特許第5777691号公報を参照)。筒体内でガスケットを摺動させるために、筒体の内周面又はガスケットの外周面に液体潤滑剤が塗布されている場合、筒体内にガスケットが配置された状態で数ヶ月間保管されていると、筒体内でのガスケットの摺動抵抗は、筒体内でガスケットが前進を開始してからガスケットが所定距離前進するまでの区間(初期摺動区間)では大きいが、初期摺動区間を過ぎた後の区間(常用摺動区間)では小さいことが分かっている。
【発明の概要】
【0003】
モータの駆動により押し子を前進させる際に、従来では、消費電力を低減するためにモータの高速駆動と停止とを繰り返し行う間欠駆動を採用している。しかしながら間欠駆動の場合、駆動区間では押し子の移動速度が一時的に早くなるため、ガスケットを前進させるために必要な駆動力(要求推力)は、摺動抵抗が特に大きい初期摺動区間で高くなってしまう。一方、必要な駆動力を下げるために、間欠駆動を行わず低速で連続的にモータを駆動させると、消費電力の増大を招く。また、ガスケットの移動速度が遅すぎると、所望の投与速度を満たせない場合がある。
【0004】
本発明はこのような課題を考慮してなされたものであり、消費電力を増大させることなく、所望の投与速度を満たすことが可能な薬液投与装置及びその動作方法を提供することを目的とする。
【0005】
上記の目的を達成するため、本発明は、薬液を生体内に投与するための薬液投与装置であって、前記薬液が充填された筒体と、前記筒体内に摺動可能に配置されたガスケットと、前記筒体の内周面、又は、前記ガスケットの外周面に塗布された液体潤滑剤と、前記ガスケットを先端方向へ前進させるための前進機構と、前記前進機構を駆動するモータを有する駆動機構と、前記モータに電力を供給する電池と、前記モータの回転速度を制御する制御ユニットと、を備え、前記制御ユニットは、前記筒体内において前記ガスケットが前進を開始してから所定距離だけ前進するまでの第1移動区間では前記モータを第1の回転速度で動作させ、前記ガスケットが前記第1移動区間を過ぎた後の第2移動区間では前記モータを前記第1の回転速度よりも速い第2の回転速度で動作させるように設定されたプログラムを有し、前記ガスケットが前記筒体内で摺動する際の摺動抵抗は、前記第1移動区間内において最も高くなる。
【0006】
筒体内でのガスケットの初期摺動抵抗はガスケットの移動速度によって異なり、ガスケットの移動速度が速いほど初期摺動抵抗が大きくなる傾向がある一方、その後の摺動抵抗はガスケットの移動速度に依存した傾向がないことが、本発明者によって見出された。そこで、本発明の薬液投与装置では、初期摺動抵抗が発生する第1移動区間ではガスケットをゆっくり移動させ、その後の第2移動区間ではガスケットを素早く移動させる。このため、第1移動区間でガスケットを前進させるために必要な駆動力(要求推力)が抑えられることで消費電力の増大を回避しつつ、所望の投与速度を満たすことが可能となる。
【0007】
前記第1移動区間は、前記第2移動区間よりも短くてもよい。
【0008】
前記プログラムは、前記モータが前記第1の回転速度で動作する時間に基づいて前記ガスケットが前記第1移動区間を過ぎたことを判定して、前記モータの動作を前記第1の回転速度から前記第2の回転速度に切り替えてもよい。
【0009】
前記プログラムは、前記第1の回転速度で動作する前記モータの回転量に基づいて前記ガスケットが前記第1移動区間を過ぎたことを判定して、前記モータの動作を前記第1の回転速度から前記第2の回転速度に切り替えてもよい。
【0010】
前記制御ユニットは、前記第1移動区間において、前記第1の回転速度での動作と停止を繰り返すように前記モータを制御してもよい。
【0011】
この構成により、消費電力を効果的に低減することができるとともに、電池に対する負担が軽減されることで電池の持ちを良くすることができる。
【0012】
前記モータが前記第1の回転速度で動作することにより、前記第1移動区間における前記ガスケットの摺動抵抗の最大値は、8N以下であってもよい。
【0013】
この構成により、モータの駆動による消費電力を効果的に低減することができる。
【0014】
前記モータが前記第1の回転速度で動作する際の前記ガスケットの移動速度は、毎分1.0~6.0mmであってもよい。
【0015】
この構成により、第1移動区間でガスケットを前進させるために必要な駆動力が十分に抑えられ、且つ所望の投与速度を容易に満たすことができる。
【0016】
前記第1移動区間の長さは、1.0~3.0mmであってもよい。
【0017】
この構成により、低速駆動を行う期間が適度に短いため、所望の投与速度を容易に満たすことができる。
【0018】
また、本発明は、薬液が充填されるとともに内周面に液体潤滑剤が塗布された筒体と、前記筒体内に摺動可能に配置されたガスケットと、前記ガスケットを先端方向へ前進させるための前進機構と、前記前進機構を駆動するモータを有する駆動機構と、前記モータに電力を供給する電池と、前記モータの回転速度を制御するプログラムを有する制御ユニットとを備えた薬液投与装置の動作方法であって、前記ガスケットを初期位置から所定距離前進させるために、前記モータを介して前記前進機構を駆動する第1駆動ステップと、前記ガスケットが前記初期位置から所定距離移動したか否かを判定する移動距離判定ステップと、前記移動距離判定ステップで前記ガスケットが前記所定距離移動したと判定した後に、前記モータを介して前記前進機構をさらに駆動する第2駆動ステップ、とを有し、前記第1駆動ステップでは、前記モータを第1の回転速度で動作させ、前記第2駆動ステップでは、前記モータを第1の回転速度よりも早い第2の回転速度で動作させる。
【0019】
前記第1駆動ステップで前記ガスケットが移動する距離は、前記第2駆動ステップで前記ガスケットが移動する距離よりも短くてもよい。
【0020】
前記移動距離判定ステップは、前記第1の回転速度で動作する前記モータの回転数に基づいて前記ガスケットが前記第1移動区間を過ぎたことを判定してもよい。
【0021】
前記移動距離判定ステップは、前記モータが前記第1の回転速度で動作する時間に基づいて前記ガスケットが前記第1移動区間を過ぎたことを判定してもよい。
【0022】
本発明の薬液投与装置及びその動作方法によれば、消費電力を増大させることなく、所望の投与速度を満たすことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の実施形態に係る薬液投与装置の概略図である。
【
図3】薬液投与装置の動作を説明するフローチャートである。
【
図4】薬液投与装置の作用を説明する第1の図である。
【
図5】薬液投与装置の作用を説明する第2の図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明に係る薬液投与装置及びその動作方法について好適な実施形態を挙げ、添付の図面を参照しながら説明する。
【0025】
図1に示す本実施形態に係る薬液投与装置10は、薬液Mを生体内に投与するために使用される。薬液投与装置10は、筒体12内に充填された薬液Mを押し子機構14の押圧作用下に比較的長い時間(例えば、数分~数時間程度)をかけて持続的に生体内に投与する。薬液投与装置10は、薬液Mを間欠的に生体内に投与してもよい。薬液Mとしては、例えば、タンパク質製剤、麻薬性鎮痛薬、利尿薬等が挙げられる。
【0026】
図1に示すように、薬液投与装置10の使用時において、薬液投与装置10には投与器具16として例えばパッチ式の針付きチューブ17が接続され、筒体12から吐出された薬液Mが針付きチューブ17を介して患者の体内に注入される。針付きチューブ17は、筒体12の筒先部12cに接続可能なコネクタ18と、一端部がコネクタ18に接続された可撓性を有する送液チューブ19と、送液チューブ19の他端に接続され皮膚Sに貼着可能なパッチ部20と、パッチ部20から突出した穿刺針21とを備える。穿刺針21は皮膚Sに対して略垂直に穿刺される。なお、穿刺針21は皮膚Sに対して斜めに穿刺されるものであってもよい。
【0027】
なお、薬液投与装置10に接続される投与器具16は上述したパッチ式の針付きチューブ17に限られず、例えば、送液チューブ19の先端に穿刺針(翼状針等)が接続されたものであってもよい。あるいは、投与器具16は、送液チューブ19を介さずに筒体12の筒先部12cに接続可能な屈曲した針であってもよい。この場合、屈曲した針は、例えば筒体12の筒先部12cから下方に略90°屈曲しており、薬液投与装置10の皮膚Sへの固定(貼り付け)に伴い皮膚Sに対して垂直に穿刺される。また、筒体12の筒先部12cと投与器具及び針の一部は筒体12の内部にあり、針の先端が筒体12より突出している形であってもよい。この場合でも、薬液投与装置10の皮膚Sへの固定(貼り付け)に伴い、針が皮膚Sに対して垂直に穿刺される。
【0028】
薬液投与装置10は、薬液Mが充填された筒体12と、筒体12内から薬液Mを押し出す押し子機構14と、筒体12及び押し子機構を収容するハウジング24とを備える。ハウジング24内には、薬液投与装置10の動作に必要な電力を供給する電池26、薬液投与装置10の各種制御を行う制御ユニット28(マイクロコンピュータ)、図示しないスピーカ等が配置されている。
【0029】
筒体12は、内部に薬液室13を有する中空円筒状に形成されている。筒体12は、その軸方向に内径及び外径が一定であり基端が開口した胴部12aと、胴部12aの先端から先端方向に向かって内径及び外径がテーパ状に縮径する肩部12bと、肩部12bから先端方向に突出した筒先部12cとを有する。薬液室13と連通する薬液吐出口12dが筒先部12cに形成されている。筒体12の内周面(胴部12aの内周面)には、液体潤滑剤LM(例えば、シリコーンオイル)が塗布されている。
【0030】
薬液Mは筒体12内に予め充填されている。薬液吐出口12dは、ゴム材やエラストマー材等の弾性樹脂材料からなる封止部材30によって液密に封止されている。封止部材30は、
図1に示したコネクタ18が筒先部12cに接続される際に、コネクタ18に設けられた針18aにより穿刺される。封止部材30は、先端に開口部を有するキャップ32によって筒体12の先端部に固定されている。
【0031】
押し子機構14は、筒体12内に摺動可能に配置されたガスケット34と、ガスケット34を先端方向へ前進させるための前進機構36と、前進機構36を駆動するモータ40を有する駆動機構42とを備える。
【0032】
ガスケット34は、ゴム材やエラストマー材等の弾性樹脂材料からなり、その外周部が筒体12(胴部12a)の内周面と液密に密着することにより、薬液室13の基端側を液密に閉じている。
図2に示すように、ガスケット34の外周部には、径方向外側に突出した環状突起34aが軸方向に間隔を置いて複数(図示例では2つ)設けられている。ガスケット34は、筒体12の内周面によって環状突起34aが弾性圧縮変形した状態で筒体12内に配置されている。上述した液体潤滑剤LMは、筒体12の内周面のうち、少なくともガスケット34が摺動する軸方向範囲に全周に亘って塗布されている。なお、液体潤滑剤LMは、初期位置にあるガスケット34の周囲及びその近傍の先端側にのみ塗布されていてもよい。液体潤滑剤LMは、ガスケット34の外周面に塗布されていてもよい。
【0033】
図1において、前進機構36は、筒体12に対して軸方向に移動可能でありガスケット34を押圧することにより先端方向に前進させる押し子46と、押し子46に接続され、雌ねじが形成されたナット部材48と、ナット部材48の雌ねじに螺合した雄ねじ50aが形成された送りねじ50とを有する。押し子46は、薬液Mを押し出すために軸方向に移動可能な部材である。押し子46の先端部にガスケット34が接続されている。押し子46の前進に伴って、ガスケット34が押し子46により先端方向に押圧されることで、ガスケット34は前進する。
【0034】
送りねじ50は、筒体12の軸に沿って配置されている。送りねじ50は、従動歯車である大歯車50bを有する。送りねじ50の雄ねじ50aは、大歯車50bよりも先端側の外周面に軸方向の所定範囲に亘って形成されている。送りねじ50の回転に伴って、ナット部材48は先端方向に移動する。その際、押し子46はナット部材48によって先端方向に押圧されることで前進する。なお、ナット部材48を省略して、押し子46自体に雌ねじを設けてもよい。
【0035】
駆動機構42は、電池26からの電力が供給されて制御ユニット28の制御作用下に駆動制御されるモータ40と、モータ40の出力軸に固定され、駆動歯車であるピニオン43とを有する。ピニオン43は、送りねじ50の大歯車50bと噛み合っている。
【0036】
モータ40は、制御周波数を上げると早く回転し、制御周波数を下げるとゆっくり回転することが可能な回転駆動源である。本実施形態ではモータ40は、パルス信号に同期して動作するステッピングモータ40Aである。ステッピングモータ40Aは、パルス周波数を変化させることにより回転速度を制御することができる。
【0037】
なお、モータ40としては、回転速度を制御可能な他の形態のモータ、例えば、ACモータ、DCモータ、ブラシレスDCモータ等が用いられてもよい。ACモータは、交流周波数を変化させることにより回転速度を変化させることができる。DCモータは、モータ電圧を変化させることにより、回転速度を変化させることができる。ブラシレスDCモータは、パルス周波数を変化させることにより、回転速度を変化させることができる。
【0038】
ハウジング24には、電源のオン及びオフを操作するための電源ボタン52と、複数の発光部54a、54bとが設けられている。
【0039】
複数の発光部54a、54bは、互いに異なる色を発光する第1発光部54a及び第2発光部54bを有する。第1発光部54aは、薬液投与装置10の動作状態を知らせるための発光部であり、異なる複数の色を発光可能である。第2発光部54bは、エラー発生を知らせるために点灯又は点滅する発光部である。第1発光部54a及び第2発光部54bは、例えばLEDにより構成される。
【0040】
次に、上記のように構成された薬液投与装置10の作用を説明する。
【0041】
薬液投与装置10の使用に際し、薬液投与装置10は保冷庫から取り出され、ある程度の時間(例えば、30分)、常温放置されて室温に戻される。次に、コネクタ18との接続部である封止部材30の表面(先端面)が例えばアルコール綿等で拭き取られることにより、接続部の消毒がなされる。次に、薬液投与装置10には投与器具16が接続される。
【0042】
次に、電源ボタン52が押される。そして、薬液投与装置10は、皮膚Sに貼り付ける、あるいは衣服に装着する等して、患者に取り付けられる。次に、穿刺針21が皮膚Sに穿刺される。なお、皮膚Sへの穿刺針21の穿刺前に薬液投与装置10が患者に取り付けられてもよい。
【0043】
次に、送液(薬液Mの投与)が開始される。具体的には、モータ40が駆動してピニオン43から大歯車50bを有する送りねじ50へと回転力が伝達される。送りねじ50の回転に伴い、送りねじ50と螺合しているナット部材48が前進し、ナット部材48により押し子46が押されて前進する。これにより、筒体12内の薬液Mが押し出される。筒体12内から押し出された薬液Mは、患者に穿刺された投与器具16を介して患者の体内に投与(注入)される。
【0044】
押し子46が所定位置まで前進することで送液が完了すると、薬液投与装置10に内蔵されたスピーカから送液完了を知らせる音が出力されるとともに、第1発光部54aが第1の色で点灯する。送液が完了したら、穿刺針21が皮膚S(皮下)から抜き取られる。その後、薬液投与装置10は廃棄される。
【0045】
上述した薬液投与装置10の動作において、モータ40の回転速度は制御ユニット28によって制御される。具体的に、制御ユニット28は、筒体12内においてガスケット34が初期位置から前進を開始してからガスケット34が所定距離だけ前進するまでの第1移動区間(以下、「初期摺動区間」ともいう)ではモータ40を第1の回転速度S1で動作させ、ガスケット34が第1移動区間を過ぎた後の第2移動区間(以下、「常用摺動区間」ともいう)ではモータ40を第1の回転速度S1よりも速い第2の回転速度S2で動作させるように設定されたプログラム28aを有する。ガスケット34が筒体12内で摺動する際の摺動抵抗は、第1移動区間内において最も高くなる。本実施形態において、初期摺動区間は、ガスケット34の一部が移動を開始してからガスケット34全体が移動を開始するまでの区間である。薬液投与装置10を長期間保管した場合、ガスケット34の摺動面(図示例の場合、2つの環状突起34a)が筒体12の内周面に固着している。押し子46の前進に伴い、ガスケット34は前進を開始する。ガスケット34の前進開始直後は、固着部分の一部のみ(基端側の環状突起34a)が引き剥がされることで、ガスケット34の一部のみが前進する。そして、すべての固着部分(先端側と基端側の環状突起34a)が引き剥がされると、ガスケット34の全体が前進を開始する(初期摺動区間から常用摺動区間へと移行する)。
【0046】
薬液投与装置10の動作方法は、ガスケット34を初期位置から所定距離前進させるために、モータ40を介して前進機構36を駆動する第1駆動ステップと、ガスケット34が初期位置から所定距離移動したか否かを判定する移動距離判定ステップと、移動距離判定ステップでガスケット34が所定距離移動したと判定した後に、モータ40を介して前進機構36をさらに駆動する第2駆動ステップ、とを有し、第1駆動ステップでは、モータ40を第1の回転速度S1で動作させ、第2駆動ステップでは、モータ40を第1の回転速度S1よりも早い第2の回転速度S2で動作させる。
【0047】
このように、薬液投与装置10は、モータ40の回転速度(ガスケット34の駆動速度)を切り替える制御を行う。以下、このような速度切替えを含む薬液投与装置10の動作について、より詳細に説明する。
【0048】
図3において、薬液投与装置10の電源ボタン52(
図1)が押されて電源がオンになると(ステップST1)、電池電圧を確認する処理が実行される(ステップST2)。電池電圧に異常がないと判断されると(ステップST2で、「YES」)、第1発光部54aの点灯(又はスピーカから出力されるブザー音)により異常のないことがユーザに報知され、所定時間(例えば、5分)のカウントが開始される(ステップST3)。次に、薬液投与装置10が患者に取り付けられる。なお、電池電圧に異常がある場合(ステップST2で、「NO」)、異常処理が行われる(ステップST4)。異常処理では、第2発光部54bが点灯又は点滅することにより、ユーザに異常が報知される。異常処理では、スピーカからブザー音が出力されてもよい。
【0049】
ステップST3の後、所定時間が経過したら(ステップST5で、「YES」)、薬液投与装置10の制御ユニット28は、第1の回転速度S1による投与(初期摺動投与)(低速駆動)を開始するとともに、投与時間のカウントを開始する(ステップST6)。
【0050】
次に、制御ユニット28は、初期摺動投与が終了したか否か(ガスケット34が所定距離移動したか否か)を判断する(ステップST7)。この場合、制御ユニット28のプログラム28aは、例えば、モータ40が第1の回転速度S1で動作する時間に基づいてガスケット34が第1移動区間を過ぎたこと(初期摺動投与が終了したこと/ガスケット34が所定距離移動したこと)を判定する。ステッピングモータは、1パルスで所定角度だけ回転するモータであり、1秒間にモータに送ったパルス数を表す単位がパルス周波数(pps)である。このため、所定のppsでステッピングモータを動かした時間を計測することで、ステッピングモータに送ったパルス数が分かり、そのパルス数に所定角度を掛けることで、回転量を割り出すことができる。モータ40がステッピングモータである場合、モータ40の回転量に、モータ40の1回転でガスケット34が前進する距離を掛けることで、ガスケット34が動いた距離を算出することができる。従って、ガスケット34が所定距離移動したか否かは、モータ40が所定速度(pps)で動作した時間に基づいて判断することができる。なお、モータ40がステッピングモータである場合、制御ユニット28のプログラム28aは、第1の回転速度S1で動作するモータ40の回転量(送ったパルス数)に基づいてガスケット34が所定距離移動したか否かを判断してもよい。
【0051】
初期摺動投与が完了したら(ステップST7で、「YES」)、薬液投与装置10の制御ユニット28は、低速駆動から第2の回転速度S2による投与(高速駆動)に切り替える(ステップST8)。そして、高速駆動での投与が行われ、制御ユニット28が投与完了(薬液残量ゼロ)を判断すると(ステップST9で、「YES」)、投与終了となる(ステップST10)。この場合、第1発光部54aの消灯(又はスピーカから出力されるブザー音)により投与完了がユーザに報知される。投与完了の判定がなされず(ステップST9で、「NO」)且つ投与時間のタイムオーバーと判断された場合(ステップST11で、「YES」)、制御ユニット28は、タイムオーバー検出処理を行う(ステップST12)。タイムオーバー検出処理では、第2発光部54bが点灯又は点滅することにより、ユーザに異常が報知される。タイムオーバー検出処理では、スピーカからブザー音が出力されてもよい。
【0052】
初期摺動区間は、常用摺動区間と比べて相当に短く、その長さは、例えば、1.0~3.0mmあるいは1.5~2.5mmである。なお、常用摺動区間は、ガスケット34が初期摺動区間を越えてから、薬液Mの送液の完了に伴って押し子46の前進が停止するまでにガスケット34が移動する区間であり、その長さは、例えば、10~20mmである。
【0053】
図4は、ガスケット34及び押し子46を前進させる際のモータ40の回転速度(制御ユニット28がモータ40に送信するパルス信号)のイメージ図である。初期摺動区間でのモータ40の第1の回転速度S1は、例えば、100~600ppsであり、好ましくは、100~120ppsである。常用摺動区間でのモータ40の第2の回転速度S2は、例えば、600~1200ppsであり、好ましくは、1000~1200ppsである。第2の回転速度S2に対する第1の回転速度S1の割合は、例えば、8~80%であり、好ましくは、8~60%である。
【0054】
本実施形態では、
図4に示すように、制御ユニット28は、初期摺動区間において、第1の回転速度S1での動作と停止を繰り返すようにモータ40を制御する。また、制御ユニット28は、常用摺動区間において、第2の回転速度S2での動作と停止を繰り返すようにモータ40を制御する。
【0055】
第1の回転速度S1での動作と停止を繰り返す間欠駆動において、各動作時間T1aは、例えば、1~6秒であり、好ましくは、2~4秒であり、各停止時間T1bは、例えば、動作時間T1aの1~4倍であり、好ましくは、1.5~3倍である。また、間欠駆動における動作と停止の1サイクルにおける動作時間T1aの比であるデューティ比としては、例えば、20~50%であり、好ましくは、25~35%である。このような間欠駆動により、モータ40を連続的に駆動する場合と比べて、モータ40の駆動による消費電力を効果的に低減することができる。
【0056】
第2の回転速度S2での動作と停止を繰り返す間欠駆動において、各動作時間T2aは、例えば、83~500ミリ秒であり、好ましくは、166~333ミリ秒であり、各停止時間T2bは、例えば、動作時間T2aの4~19倍であり、好ましくは、5~9倍である。また、間欠駆動における動作と停止の1サイクルにおける動作時間T2aの比であるデューティ比としては、例えば、5~20%であり、好ましくは、10~15%である。このような間欠駆動により、モータ40を連続的に駆動する場合と比べて、モータ40の駆動による消費電力を効果的に低減することができる。
【0057】
初期摺動区間でガスケット34が前進する際の移動速度(モータ40が第1の回転速度S1で回転する際のガスケット34の移動速度)は、毎分1.0~6.0mmであり、好ましくは毎分1.0~3.0mmである。常用摺動区間でガスケット34が前進する際の移動速度(モータ40が第2の回転速度S2で回転する際のガスケット34の移動速度)は、薬液Mを投与するための投与時間によるが、例えば、毎分7.5~12mmである。
【0058】
この場合、本実施形態に係る薬液投与装置10は、以下の効果を奏する。
【0059】
筒体12内でのガスケット34の初期摺動抵抗はガスケット34の移動速度によって異なり、ガスケット34の移動速度が速いほど初期摺動抵抗が大きくなる傾向がある一方、その後の摺動抵抗はガスケット34の移動速度に依存した傾向がない。従って、初期摺動区間では、ガスケット34の移動速度が遅いほど、摺動抵抗が小さくなる。一方、常用摺動区間では、ガスケット34の移動速度に依存した傾向がない。そして、薬液投与装置10の動作におけるガスケット34の総前進距離(初期摺動区間と常用摺動区間とを合計した距離)に対する初期摺動区間の長さは、相当に小さい。すなわち、常用摺動区間と比較して初期摺動区間は相当に短い。
【0060】
そこで、薬液投与装置10では、初期摺動区間ではモータ40を第1の回転速度S1で回転させることによりガスケット34をゆっくり移動させる低速駆動を実施し、初期摺動区間を越えた常用摺動区間ではモータ40を第2の回転速度S2で回転させることによりガスケット34を素早く移動させる高速駆動を実施する。
【0061】
このため、初期摺動区間で押し子46を前進させるために必要な駆動力(要求推力)が抑えられることで消費電力の増大を回避しつつ、所望の投与速度を満たすことが可能となる。すなわち、本実施形態と異なり、
図5において破線L2で示すように、初期摺動区間で押し子46の高速駆動を行った場合、筒体12に対するガスケット34の摺動抵抗は相当に大きくなる。この場合、モータ40を変更せずに大きな摺動抵抗に対応するために、モータ40に対して大電力を供給すると、消費電力の増大を招く。消費電力を増大させずに必要な駆動力を得ることができるモータを用いると、高コストのモータ又はサイズの大きいモータが必要となる。
【0062】
これに対し、
図5において実線L1で示すように、初期摺動区間で押し子46の低速駆動を行った場合、筒体12に対するガスケット34の摺動抵抗は、初期摺動区間で高速駆動を行った場合と比較して相当に小さい。従って、薬液投与装置10によれば、高コストのモータ又はサイズの大きいモータを用いることなく、消費電力の増大を回避し、且つ、所望の投与速度で薬液Mを投与することができる。
【0063】
薬液投与装置10では、モータ40が第1の回転速度S1で動作することにより、初期摺動区間におけるガスケット34の摺動抵抗の最大値は、8N以下となるのがよい。これにより、モータ40の駆動による消費電力を効果的に低減することができる。
【0064】
制御ユニット28は、初期摺動区間において、第1の回転速度S1での動作と停止を繰り返すようにモータ40を制御する。この構成により、モータ40の駆動による消費電力を効果的に低減することができる。また、電池26に対する負担が軽減されることで電池26の持ちを良くすることができる。
【0065】
モータ40が第1の回転速度S1で動作することにより、初期摺動区間におけるガスケット34の摺動抵抗の最大値は、8N以下である。これにより、モータ40の駆動による消費電力を効果的に低減することができる。
【0066】
モータ40が第1の回転速度S1で動作する際のガスケット34の移動速度は、毎分1.0~6.0mmである。この構成により、初期摺動区間で押し子46を前進させるために必要な駆動力が十分に抑えられ、且つ所望の投与時間内に薬液Mを投与することができる。
【0067】
初期摺動区間の長さは、1.0~3.0mmである。これにより、低速駆動を行う期間が適度に短いため、所望の投与速度を容易に満たすことができる。
【0068】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改変が可能である。