(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-07
(45)【発行日】2022-01-12
(54)【発明の名称】金属基板へのスズ層の被覆方法、および、ニッケル/リン合金下層と、前記方法による前記スズ層と、を備えた構造の使用
(51)【国際特許分類】
C25D 5/18 20060101AFI20220104BHJP
C25D 5/12 20060101ALI20220104BHJP
C25D 5/14 20060101ALI20220104BHJP
C25D 7/00 20060101ALI20220104BHJP
【FI】
C25D5/18
C25D5/12
C25D5/14
C25D7/00 J
(21)【出願番号】P 2019521768
(86)(22)【出願日】2017-10-24
(86)【国際出願番号】 EP2017077156
(87)【国際公開番号】W WO2018077874
(87)【国際公開日】2018-05-03
【審査請求日】2020-10-12
(32)【優先日】2016-10-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】503037583
【氏名又は名称】アトテック・ドイチュラント・ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】ATOTECH DEUTSCHLAND GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【氏名又は名称】富岡 潔
(72)【発明者】
【氏名】ネオ,ティン-ジー
(72)【発明者】
【氏名】タン,チー-チョウ
(72)【発明者】
【氏名】リン,チェン ジョー
(72)【発明者】
【氏名】ルーター,ローベルト
(72)【発明者】
【氏名】バルテルメス,ユルゲン
(72)【発明者】
【氏名】クルツ,オーラフ
【審査官】大塚 美咲
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-096095(JP,A)
【文献】特開平07-090675(JP,A)
【文献】特開昭58-221291(JP,A)
【文献】特開2003-003292(JP,A)
【文献】特開2006-307328(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 5/18
C25D 5/12
C25D 5/14
C25D 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧力誘起によるウィスカの形成が抑制されたスズ層の
、銅または銅合金から形成された金属基板への被覆方法であって、
(a)前記金属基板を提供し、
(b)前記金属基板の少なくとも一つの表面にニッケル/リン合金下層を被覆し、
(c)前記ニッケル/リン合金下層に前記スズ層を被覆する、
ことを備え、
前記スズ層の被覆は、パルスめっき法を用いることを備え、
前記パルスめっき法は、単極性パルスめっき法であり、この単極性パルスめっき法は、それぞれカソードパルス部分およびゼロ電流パルス部分を備えた、連続するパルス時間を備え、
前記カソードパルス部分は
、0.1秒
~10秒のカソードパルス幅を有するとともに
、10A/dm
2
~35A/dm
2
のカソードパルスピーク電流密度を有し、
前記ゼロ電流パルス部分は
、0.1秒
~10秒のゼロ電流パルス幅を有しており、
(b1)前記ステップ(c)において前記スズ層を被覆する前に、前記基板の少なくとも一つの表面にニッケル下層を被覆することであって、前記ステップ(b)において前記ニッケル/リン合金下層を被覆する前に、前記ニッケル下層を被覆し、
(d)前記スズ層に銀または銀合金の最上層を被覆する、
ことをさらに備えた、被覆方法。
【請求項2】
前記ニッケル/リン合金下層が、5重量%~15重量%のリン含有量のリンを備えることを特徴とする請求項1に記載の被覆方法。
【請求項3】
前記ステップ(b1),(b)が、前記ニッケル下層および前記ニッケル/リン合金下層を備えた二重層を被覆することを備え、前記二重層は、0.01μm~10μmの厚さを有することを特徴とする請求項1または2に記載の被覆方法。
【請求項4】
前記ステップ(b1),(b)が、0.05μm~5μmの厚さを有する前記二重層を被覆することを備えることを特徴とする請求項3に記載の被覆方法。
【請求項5】
前記ステップ(d)が、前記銀または銀合金の最上層を0.01μm~0.5μmの厚さで被覆することを備えることを特徴とする請求項1に記載の被覆方法。
【請求項6】
前記ステップ(c)が、前記スズ層を0.1μm~10μmの厚さで被覆することを備えることを特徴とする請求項1~5のうちいずれか一項に記載の被覆方法。
【請求項7】
前記単極性パルスめっき法の周波数は、0.05s
-1~5s
-1であることを特徴とする請求項1~
6のうちいずれか一項に記載の被覆方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧力誘起によるウィスカの形成を防ぎつつ、金属基板、特に銅または銅合金基板にスズ層を被覆することに関する。こうしたスズ層は、電子装置における電子回路の製造、より具体的には電気コネクタおよび集積回路リードフレームの製造に使用される。
【背景技術】
【0002】
電子装置では、電子回路の導線、およびスライディングボーや接触ボー(bows)などの接触素子は、概ね、一般的に金属から形成された耐食性/耐酸化コーティングによって最終的に被覆される。導線は通常、銅から形成され、接触素子は通常、銅、真鍮、または銅/ニッケル/スズなどのその他の銅合金から形成される。これらの最終的なコーティングは、特に電気コネクタ用途において、はんだ付け性を維持し、その電気接点の低抵抗を維持するように、素地の酸化を防止する。さらに、最終コーティングは、例えば電気コネクタ用途、例えば、めっき材料の押圧の働きによって形成される雄型端子と雌型端子との係合において、低減された差込み力を付与することが要求される。最終的なコーティングは概ねスズまたはスズ合金からなる。従来、スズ/鉛合金がスズ合金として用いられてきた。しかしながら、環境要求事項により、鉛が使われなくなってきている。したがって、こうした用途では純スズが耐食性/耐酸化層として頻繁に利用されている。
【0003】
純スズはウィスカの形成、特に圧力によって誘起されたウィスカの形成の影響を受けやすいという問題があることが分かった。ウィスカは、スズ表面から突出したスズ金属の細長い構造からなる。これらのウィスカは、互いに隣接する導線の間や互いに隣接する接触素子の間に短絡を生じさせることにより、そして増大した表面粗さの結果として増大した滑り抵抗を生じさせることにより、電子装置に問題を生じさせうる。圧力誘起されたウィスカの形成は電気コネクタ用途の、雄型端子と雌型端子要素が互いに押圧する部位に特に見られ、その圧力によりウィスカが形成される。こうした純スズ層の欠点、特に腐食よって誘起されたスズのウィスカや金属間化合物の形成によって誘起されたウィスカにおける欠点を克服すべく多大な取り組みがなされている。しかしながら、圧力誘起ウィスカはその他の種類のウィスカほど多くの注意を引いていなかった。
【0004】
例えば、特許文献1は、低いウィスカ生成性と高い耐久性を有する電子部品の金属材料を記載している。その金属材料は、銅または銅合金などの基材と、スズ、インジウム、またはそれらの合金から形成された表層と、銀、金、白金、パラジウム、ルテニウム、ロジウム、オスミウム、イリジウム、またはそれらの合金から形成された、基材と表層との間に設けられた中間層と、任意選択的に、ニッケル、クロム、マンガン、鉄、コバルト、および銅からなる群から選択された1種または2種の金属から形成された、基材と中間層との間に設けられた下層と、を備える。
【0005】
特許文献2は、銅又は銅合金表面への水溶性無電解スズめっきの方法を記載している。その方法は、はんだ付け性を維持するとともにスズのウィスカの成長を抑制する。その方法は、銅または銅合金表面への純スズの浸漬めっきと、スズ、銀、ビスマス、銅、ニッケル、鉛、亜鉛、インジウム、パラジウム、白金、金、カドミウム、ルテニウム、およびコバルトから選択された少なくとも2つの金属の合金の浸漬めっきであって、特に、スズ/鉛合金、スズ/インジウム合金、スズ/ビスマス合金、スズ/インジウム/銀合金、スズ/銀合金、または銀/インジウム合金の浸漬めっきと、を備える。
【0006】
特許文献3は、フィルム上のウィスカの形成を防ぐと同時にフィルムの基板への付着を実現する、半導体製造におけるスズめっきされたフィルムの製造方法を記載している。その方法は、スズめっきされたフィルムを形成し、次いで無電解または電解めっき法を用いることによりスズめっきされたフィルム上に銀フィルムを形成することを備える。
【0007】
特許文献4は、スズを備えた表層を含んだめっき基体におけるスズウィスカの形成を低減させる方法を記載している。その方法は、スズを備えた層の下に銀を備えた下層またはバリア層を堆積させることを備える。こうしたバリア層はニッケルバリア層であってもよい。
【0008】
特許文献5は、多層コーティングを備えた金属物品を記載しており、その金属物品は電気コネクタまたはリードフレームとしての使用に適している。その多層コーティングは、ニッケル、ニッケル合金、コバルト、またはコバルト合金、好ましくは非晶質ニッケル/リン合金の下層と、ウィスカ成長の影響を受けるスズまたはスズ合金の中間層と、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、白金、銅、銀、インジウム、ビスマス、またはそれらの一つ以上の金属の合金の外層と、を備える。その外層は、ウィスカの形成を抑制するように設けられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】欧州特許出願公開第2759622号明細書
【文献】米国特許第6361823号明細書
【文献】特開2007-284762号公報
【文献】米国特許出願公開第2006/0292847号明細書
【文献】欧州特許出願公開第1257004号明細書
【文献】欧州特許出願公開第2014798号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
これらの上記の文献は、腐食、金属間化合物の形成、または金属堆積物と基体材料との熱的な不整合によって誘起されるスズウィスカの防止に関するものである。一方、それらの方法や複数の層は、ウィスカの形成を十分に抑制していないことが分かっている。加えて、上記の文献のいずれも、外圧を加えることによって誘起されるスズウィスカの形成に関連していない。したがって、本発明の根底にある課題は、圧力誘起によるウィスカの形成を抑制する改善された方法を提供することである。その方法は、より好ましくはスズ層の形成方法を提供するものであり、そのスズ層は、その層が設けられた基体金属の腐食および酸化を防止するとともにこうしたスズ層に圧力誘起されるウィスカを抑制するための必要な特性を有する。さらに好ましくは、本発明の根底にある課題は、圧力誘起によるウィスカの形成の防止に対処しつつ、電子装置への純スズ層の被覆方法を提供することを備える。
【課題を解決するための手段】
【0011】
圧力誘起によるウィスカの形成は、パルスめっき法を用いてスズ層を形成することにより効果的に抑制できることが判明した。そのスズ層は、基体の少なくとも一つの表面に被覆されたニッケル/リン合金(nickel/phosphorous alloy)下層上のスズ堆積物として形成される。
【0012】
したがって一態様によれば、本発明は金属基板へのスズ層の被覆方法に関する。その方法は、
(a)金属基板を提供し、
(b)前記金属基板の少なくとも一つの表面にニッケル/リン合金下層を被覆し、
(c)前記ニッケル/リン合金下層に前記スズ層を被覆する、
ことを備え、
前記スズ層の被覆は、パルスめっき法を用いることを備え、
前記パルスめっき法は、単極性パルスめっき法であり、この単極性パルスめっき法は、それぞれカソードパルス部分(section)およびゼロ電流パルス部分(section)を備えた、連続するパルス時間(pulse periods)を備え、
前記ゼロ電流パルス部分は、少なくとも0.1秒のゼロ電流パルス幅(pulse duration)を有する。
【0013】
さらに、別の態様によれば、本発明は、金属基板上に被覆されたニッケル/リン合金の下層と、圧力誘起によるウィスカの形成を防止するように本発明の方法によってパルス電気めっきされたスズ層と、を備えた構造の使用に関する。
【0014】
さらに、追加の態様によれば、本発明は、電子装置における電子回路の製造のための本発明の方法の使用に関し、圧力誘起されたウィスカの無いスズ層を有し、これは、そのスズ層に所定圧力の機械的応力を所定期間の間、印加することによって判定される。
【0015】
したがって、ニッケル/リン合金が少なくとも一つの基板表面に被覆されるとともに、好ましくは湿式化学法を用いることにより、そのニッケル/リン合金の被覆上にスズが被覆され、湿式化学法は通常、少なくとも一つの基板表面を、ニッケルおよびリン種(phosphorous species)を含有するニッケル/リン合金めっき液と、スズ種(tin species)を含有するスズめっき液と、に接触させることを備え、その後、ニッケル/リン合金が少なくとも一つの基板表面上に被覆されるとともに、スズ金属がそのニッケル/リン合金被覆上に被覆される。好ましくは、それらの接触ステップ中、基板に亘って電圧が印加されるとともに、対向電極がニッケル/リン合金またはスズめっき液とも接触され、それによりニッケル/リン合金またはスズが少なくとも一つの基板表面上に電気めっきされる。ニッケル/リン合金は代替的に無電解法を用いて被覆されてもよい。
【0016】
パルスめっきはニッケル/リン合金被覆上にスズを被覆するのに用いられ、これは少なくとも一つのめっき部分(plating section)と少なくとも一つの非めっき部分(non-plating section)との間で電圧および電流を切り替えることにより電圧がパルス発信(pulsed)されることを意味しており、少なくとも一つのめっき部分は、スズ金属がニッケル/リン合金被覆上に被覆されるレベルに電圧および電流を設定することを備え、少なくとも一つの非めっき部分は、スズ金属の被覆が生じないレベルに電圧および電流を設定することを備える。原則的に、スズ金属の被覆が非めっき部分において生じない電流レベルは、ゼロ電流レベルまたはアノード電流の両方を備える。好ましくは、この電流レベルはゼロ電流レベルである。パルス発信の形態は、異なる電圧および電流レベルを有する複数のめっきおよび非めっき部分が適用される点において非常に複雑であってもよく、あるいは、一つのめっき部分および一つの非めっき部分のみが適用される点において非常に単純であってもよい。一般に、パルスめっきの形態は、電圧または電流曲線に関してそれぞれ同一であるとともに、それぞれ互いに交互に続く少なくとも一つのめっき部分および少なくとも一つの非めっき部分、より好ましくは一つのめっき部分および一つの非めっき部分から構成された、連続したパルス時間を備えたパルス列からなる。パルスは時間に関して任意の形状を有してもよく、好ましくは、パルスは時間に関して矩形である。
【0017】
スズ層の下のニッケル/リン合金下層が形成され、パルスめっきを用いることによりスズが堆積されるに従い、圧力誘起されるウィスカの形成がこれまでに達成されてきたレベルを下回るレベルにまで抑制される。特に、これはニッケル/リン合金下層の形成、および、圧力誘起されたウィスカの無いスズ層を本質的に生成させるスズ層のパルスめっきである。ニッケル/リン合金下層の有無におけるウィスカの形成の比較のみならず、スズのパルスめっきの有無におけるウィスカの形成を比較すると、ウィスカの形成に関連する問題が解消されるほどにこうしたウィスカの伸長が著しく減少することが明らかである。したがって、ウィスカの形成に関連する全ての問題、すなわち、隣接する導電領域間の短絡の形成や、例えばめっき材料の押圧の働きによって形成される雄型端子と雌型端子との係合における電気コネクタの増大した差込み力に関連する問題を解消する。したがって、本発明による金属基板上へのスズ層の被覆方法は、好ましくは圧力誘起によるスズウィスカの形成の抑制に関し、より好ましくは圧力誘起されたウィスカの無いスズ層の形成に関する。さらに、金属基板へのスズ層の被覆方法は、好ましくはスズ層に起因するあらゆる欠陥を形成せず、より好ましくはスズの被覆時にあらゆる障害を生じさせず、さらに好ましくはスズの樹枝状結晶の形成を生じさせない。
【0018】
圧力誘起によるウィスカの形成はスズフィルム内に形成される機械的応力に起因する。こうした機械的応力は外的機械的圧力を加えることにより、スズ層に誘起される。電気コネクタでは、例えば、それらのコネクタを互いに接続した場合に圧力ウィスカが誘起されうる。圧力誘起されたウィスカの形成は、スズ層に外的機械的圧力を連続した期間、印加することによってそのようなウィスカを生成させ、そして得られたウィスカの数および大きさを最終的に測定することによって、評価または分析される。
【0019】
圧力誘起されたウィスカの形成と異なるのは、腐食によって誘起されるウィスカの生成や、金属間化合物の形成または金属被覆と基板材料との間の熱的不整合によって誘起されるウィスカの生成である。
【0020】
腐食誘起によるウィスカを生成させるウィスカ形成条件は、スズ層を有する試料を高温または室温で湿り空気などの腐食環境に連続した期間、曝すことを備える。例えば塩化物イオンの存在が腐食をさらに促進し、延いては腐食によって誘起されるウィスカの形成を促進する。
【0021】
したがって、腐食誘起されたウィスカを生成させるスズ層の傾向を評価するための手段は、スズ層を等温的に55°Cで87%の相対湿度の雰囲気に4000時間、曝すことによって腐食を誘発することである。腐食誘起されたスズウィスカの生成は、特許文献6によれば、スズ層を、アルキルホスホン酸などの有機ホスホン酸と、非イオン界面活性剤などの界面活性剤を含有する水溶液で処理することによって緩和させることができる。
【0022】
金属間化合物の形成によって誘起されるウィスカは、例えば銅表面などのその他の金属表面に堆積されたスズ層から発達する。例えば銅原子などのその他の金属の原子は、スズ層中に拡散して金属間化合物を形成し、その結果、スズウィスカの形成を引き起こす。こうしたウィスカを生成させるスズ層の傾向を評価するための手段は、iNEMI(国際電子機器製造イニシアチブ)によって推奨されるように、スズ層を等温的に30°Cで60%の相対湿度の雰囲気に4000時間、曝すことによって金属間化合物の形成を誘発することである。こうしたスズウィスカの生成は、iNEMIによって推奨されるように、スズ層を150°Cで1時間、熱処理することによって緩和させることができる。
【0023】
熱的不整合によって誘起されるウィスカは、スズ層の熱膨張係数(CTE)とは大きく異なる熱膨張係数を有する基板材料上に被覆されたスズ層から発達する。一例は、銅基板上またはニッケル層を有する銅基板上に被覆されたスズ層である。例えば半田付けの際の、高温の適用が、温度上昇時に材料を伸長させ、温度低下時に材料を収縮させる。スズとその基板の大きく異なる熱膨張係数により、圧縮応力がスズ層に影響を及ぼし、その結果スズウィスカの形成をもたらす。こうしたウィスカを生成させるスズ層の傾向を評価するための手段は、1000サイクルの間、-55°C~+85°Cの温度サイクルによって熱応力を誘発することである。
【0024】
ウィスカとは異なる類似点を有するスズめっきの欠陥は所謂、樹枝状結晶である。スズの樹枝状結晶はスズの堆積物から突出するフィラメント状または樹枝状の構造である。スズのウィスカは単結晶構造を有する一方、スズの樹枝状構造はフラクタルおよび多結晶構造を有する。ウィスカの単結晶特性に特有の特異的な条線のために、樹枝状結晶とウィスカとは顕微鏡下で容易に区別することができる。樹枝状結晶はスズの電着時に成長する。それらの樹枝状結晶は成長に電流を必要とし、電着が停止したときに成長が停止する。対照的に、電着が完了するとすぐにスズのウィスカが生成を開始する。したがって、ウィスカの検出は可能ではないが、樹枝状結晶はスズの堆積後にすぐに検出される。スズの樹枝状結晶は、スズめっきされる基板表面の不均質性や、スズめっき処理前の基板表面の不十分なまたは誤った前処理、基板表面の含浸不良、または、スズめっき溶液の不適切な組成またはめっきの不適切な条件によって生じる。対照的に、スズのウィスカは、上述したように既に被覆されたスズ層内部に発達する複数の応力によって生じる。したがって、スズの樹枝状結晶とスズのウィスカとは全く種類の異なる欠陥である。
【0025】
一方では圧力誘起されるウィスカの形成を低減し、他方ではその他の現象によって誘起されるウィスカの形成を低減するように、複数の異なる手段が利用可能であり、かつ、それらの手段が必要であることが分かってきている。それらの異なる回避手段は、それぞれその他の種類のウィスカには適していないことが判明している。したがって、腐食誘起によるウィスカの形成または金属間化合物の形成によって誘起されるウィスカを防ぐ方法は、圧力誘起によるウィスカの形成には全く適していないことが判明している。これを本明細書の比較例10および11に示す。このことは、各種のウィスカが、その防止のために異なる処置の必要な全く異なる現象であるという事実に基づく。
【0026】
好ましい実施例では、ステップ(c)で被覆されるスズ層は、ステップ(b)でニッケル/リン合金下層が被覆された後に被覆される。スズ層はさらに基板の優れたはんだ付け性を保証し、これは回路線、または例えばスライディングボーや接触ボーなどの接触素子であってもよい。スズ層は、例えば酸化銅の表面層を形成しつつ、その酸化に起因して生じる基板の腐食/酸化を防止する。
【0027】
(本発明の詳細な説明)
本明細書中に記載の比率および範囲の限界値は組み合わせられてもよい。例えば30~100の範囲が記載され、50~70の範囲が記載されている場合、30~70の範囲および70~100の範囲は記載されているとみなされる。
【0028】
本発明の具体的な実施例を以下に示す。それらの実施例は単独で実施してもよくあるいは任意の組合せで実施してもよい。
【0029】
ニッケル/リン合金とスズ層が設けられる基板は、好ましくは銅、真鍮、青銅、洋銀、または銅/ニッケル/スズなどの任意のその他の銅合金から作られる。基板はまた、鋼またはアルミニウムから作られてもよい。基板は、接触素子、例えば接触素子のペアの雄型または雌型端子、例えば銅から形成された回路線を備えたプリント基板、または、スズめっき層が設けられる金属接触部又はその他の電気素子を有するリードフレームであってもよい。接触素子は締りばめコネクタ、フレキシブルフラットケーブル(FCC)コネクタ、又はフレキシブルプリント回路(FPC)コネクタであってもよい。
【0030】
スズは湿式化学金属堆積法(wet chemical metal deposition method)を用いて被覆され、この方法は、少なくとも一つの基板表面をスズめっき液と接触させ、スズイオンがその(ニッケル/リン合金堆積物で被覆された)少なくとも一つの基板表面で放出されて、ニッケル/リン合金堆積物上にスズ層を形成するスズ金属元素となるように、電流を流すことを含む。
【0031】
スズめっき液は好ましくはスズめっき溶液である。めっき溶液はスズイオン種と溶媒を含む。さらに好ましくは、めっき溶液は、その溶液の電気伝導率を向上させるイオン物質を含みうる。さらに好ましくは、めっき溶液はpH調整剤を含みうる。さらに好ましくは、めっき溶液は、そのめっき溶液による少なくとも一つの基板表面の湿潤を向上させ、かつめっき溶液中に含有する成分の溶解度を増加させる界面活性剤などの更なる成分、めっき溶液の分解に対する安定性を向上させる更なる成分、および、スズ層に対し機械的性質、電気的性質などの特性を付与するその他の成分を備えうる。
【0032】
めっき溶液中に一つ以上の溶媒を含んでもよい。めっき溶液は好ましくは溶媒の一つとして水を含む。水を主要な溶媒成分(少なくとも50体積%)としてめっき溶液中に含む場合、スズめっき溶液はめっき水溶液と見なされる。さらにアルコールエーテルのような、アルコールおよび/またはエーテルなどの有機溶媒をめっき溶液中に含んでもよい。
【0033】
スズイオン種は、例えば、無機または有機スズ塩、硫酸スズ、硝酸スズ、塩化スズ、臭化スズ、酢酸スズ、メタンスルホン酸スズ、またはスルファミン酸スズ(アミド硫酸のスズ塩)などの、スズ塩の一部を構成する任意のスズイオンである。スズはスズ(II)イオン種および/またはスズ(IV)イオン種として存在してもよく、すなわちスズ塩はスズ(II)塩またはスズ(IV)塩のいずれか、またはスズ(II)塩およびスズ(IV)塩の混合物である。スズ(IV)イオン種またはスズ(IV)塩は、好ましくは強アルカリ性スズめっき溶液中に含まれるスズイオン源である。
【0034】
めっき溶液の電気伝導性を向上させるイオン物質は、めっき溶液、好ましくはめっき水溶液中で、イオン種に容易に解離する任意の無機塩または有機塩である。このイオン物質はスズの堆積に加わらず、そのためそれらの構成成分のいずれもスズとともに堆積してスズ層を形成しない。めっき溶液の電気伝導性を向上させる無機塩または有機塩は、アルカリ塩、ナトリウム、カリウム、または、例えば硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、塩化物、臭化物、酢酸塩、メタンスルホン酸塩、スルファミン酸塩などの無機または有機アニオンといったその他のアルカリ塩である。同様に、こうした塩は、アルカリ土類金属塩、マグネシウム、カルシウム、または、例えばそれらのアニオンなどのその他のアルカリ土類金属塩であってもよい。さらに好ましくは、めっき溶液の電気伝導性を向上させるイオン物質は、無機または有機酸であってもよく、すなわち、硫酸、リン酸、塩酸、臭化水素酸などの鉱酸、テトラフルオロホウ酸、酢酸、メタンスルホン酸、またはスルファミン酸(アミド硫酸)など、めっき溶液中で解離によりヒドロニウムイオンまたはその他のプロトン化溶媒イオンを生成する化合物であってもよい。好ましくはテトラフルオロホウ酸が強酸性スズめっき溶液中に含まれる。
【0035】
pH調整剤は、硫酸、リン酸、塩酸、および/または臭化水素酸などの鉱酸と、テトラフルオロホウ酸と、酢酸と、メタンスルホン酸と、スルファミン酸と、水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムなどの塩基と、好ましくはNH4
+および第四アンモニウムイオンなどの弱塩基のカチオンを用いることによりそれらの酸とともに形成される緩衝混合液と、を含む、任意の酸、塩基、または緩衝混合液である。
【0036】
界面活性剤は、非イオン性、陽イオン性、陰イオン性、または両性の界面活性剤である。
【0037】
めっき溶液の分解に対する安定性を向上させる成分は、めっき溶液中のスズ(II)イオンのスズ(IV)イオンへの酸化を防ぐ還元剤であってもよい。このような成分はヒドロキノンなどの芳香族ヒドロキシ化合物であってもよい。
【0038】
加えて、スズめっき溶液は、カルボン酸またはヒドロキシカルボン酸など、スズイオンの錯化剤を含みうる。特に、中性のpH値を有するスズめっき溶液は錯化剤を含む。
【0039】
本発明の好ましい実施例では、方法(c)は、少なくとも0.1μm、より好ましくは少なくとも0.2μm、さらに好ましくは少なくとも1μm、そして最も好ましくは少なくとも2μmの厚さで前記スズ層を被覆することを備える。さらに好ましくは、前記スズ層の厚さは、多くても10μm、より好ましくは5μm、そして最も好ましくは4μmである。より好ましくは、0.1μm~10μm、さらに好ましくは0.2μm~5μm、さらにより好ましくは1μm~5μm、そして最も好ましくは2μm~4μmの厚さで被覆される。加えて、0.5μmよりも大きいスズ層の厚さにより、スズ層がはんだの貯蔵所としての役割を果たすことを可能にする。
【0040】
好ましくは、本発明の方法によって被覆されたスズ層のスズは純スズである。より好ましくは、純スズの被覆は、98.0~99.99重量%以上の量のスズ、好ましくは99.0~99.99重量%以上、より好ましくは99.85%~99.99重量%以上の量のスズを含有する堆積物である。
【0041】
好ましくは、本発明の方法によって被覆されたスズ層のスズにスズ合金は無く、より好ましくはスズ-銅合金は無く、スズ-銀合金は無く、スズ-ビスマス合金は無い。従って、本発明の方法によって被覆されたスズ層のスズは好ましくは本質的に合金元素または合金金属を含んでおらず、より好ましくは本質的に合金金属としての銅、銀、またはビスマスを含んでいない。この点、本質的には、スズ以外の元素又は金属が、例えばスズめっき液の成分由来の汚染物質として意図せずに発生した量またはそれよりも少ない量で、スズ中に含まれることを意味する。好ましくは、スズ中のスズ以外の元素または金属の量は、2~0.01重量%以下、より好ましくは1~0.01重量%以下、より好ましくは0.15~0.01重量%以下に及ぶ。
【0042】
スズ-銅合金およびスズ-ビスマス合金はスズウィスカの形成、特に圧力誘起によるスズウィスカの形成を増大させることが知られている。スズ-ビスマス合金は、はんだ付けのリフロー処理を通過したときにウィスカの形成をさらに増加させる。スズ-銀合金もまた圧力誘起によるスズウィスカの形成を増大させる。さらに、スズ-銀合金は、それら2つの金属の異なる電気化学ポテンシャルのために被覆が困難である。その被覆プロセスは、長期に亘る安定した性能が無いことを示しており、時間が経つに従い堆積物中のスズの銀に対する比率を所望の範囲に維持することは困難である。加えて、高コストを招く多量の銀が必要となる。またスズ-ビスマス合金も、高価なビスマスのために高コストを招く。
【0043】
本発明によればその方法が、上記の方法ステップ(c)において前記スズ層を被覆する前に、(b)前記基板の少なくとも一つの表面にニッケル/リン合金下層を被覆することを備える。この更なる方法ステップ(b)を行うことにより、圧力ウィスカの形成の抑制に寄与するニッケル/リン合金層が形成される。ニッケル/リン合金層はさらに基板の腐食の予防に寄与する。
【0044】
ニッケル/リン(NiP)合金は、ニッケルおよび一つ以上の追加の合金元素から構成される。追加の合金元素のうちの一つは好ましくはホウ素である。その他の合金元素は鉄またはコバルトである。
【0045】
ニッケル/リン合金は湿式化学金属めっき法を用いることにより利用可能な任意のニッケル合金である。この合金から作られた下層は好ましくは湿式化学金属堆積法を用いることによって形成され、これは、ニッケル、リン、および任意選択的にその他の金属イオンまたは非金属種がそれぞれ少なくとも一つの基板で放出されて、基板上でそれぞれニッケル又はニッケル合金となるように、基板表面をニッケル/リン合金めっき液と接触させることを含む。湿式化学金属めっき法を用いることで利用可能な任意のニッケル/リン合金を用いてもよい。こうした金属の被覆は、基板と対向電極をめっき液に接触させながら、基板と対向電極との間に電流を流すことを備えた電気めっき法を用いるか、または、還元剤、すなわち次亜リン酸イオン、任意選択的にボラン化合物を付加的に含む還元剤により、ニッケルおよび任意選択的にその他の金属または非金属種が放出される無電解(自触媒)めっき法を用いるか、のいずれかを用いることによって行われる。電気めっき法を用いる場合、この電気めっき法は好ましくは直流(DC)を利用する。
【0046】
ニッケル/リン合金の被覆に用いられるめっき液は、好ましくは一つ以上の溶媒と、ニッケルイオン種と、一つ以上のリン合金源と、任意選択的にその他の合金化合物と、めっき溶液の電気伝導率を向上させる更なるイオン物質と、めっき液が無電解めっき液の場合、該当する場合はニッケル金属を形成するようにニッケルイオンを放出することが可能な還元剤、すなわち次亜リン酸塩化合物と、更なるpH調整剤と、さらに、めっき溶液による基板表面の湿潤を向上させかつめっき溶液中に含まれる成分の溶解度を増加させる界面活性剤などの追加の成分、ならびに、めっき溶液の分解に対する安定性を向上させ、かつ/または、ニッケル/リン合金に対し例えば機械的および/または電気的性質などの特性を付与するその他の物質と、を含有するめっき溶液である。こうしためっき溶液は好ましくは水性であり、より好ましくはニッケルイオン、さらにより好ましくは、硫酸ニッケル、塩化ニッケル、酢酸ニッケル、メタンスルホン酸ニッケル、スルファミン酸ニッケルなどの一つ以上のニッケル塩から形成されるニッケルイオンを含有する。
【0047】
このめっき溶液が、電気めっき法を用いることにより、ニッケル/リン合金を被覆するように用いられる場合、このめっき溶液は、亜リン酸(H3PO3)、および/または、例えばアルカリホスホン酸、ホスホン酸ナトリウムなどのホスホン酸塩(HPO3
2-)化合物等の、リン合金源を付加的に含有する。このめっき溶液が、無電解めっき法を用いることにより、ニッケル/リン合金を被覆するように用いられる場合、このめっき溶液は、次亜リン酸化合物、例えばそのアルカリ塩やナトリウム塩など、または次亜リン酸を付加的に含有しうる。この化合物はまた合金化合物としての役割を果たす。このめっき溶液が、無電解めっき法を用いることにより、ニッケル/リン合金を被覆するように用いられる場合、このめっき溶液は、ニッケルイオンの錯化剤を付加的に含有してもよく、任意選択的に、アルキルアミン、アンモニア、酒石酸のようなカルボン酸、クエン酸のようなヒドロキシルカルボン酸、アミノカルボン酸、またはそれらの塩など、合金金属イオンの錯化剤を含有してもよい。
【0048】
めっき溶液の電気伝導性を向上させるイオン物質は、めっき溶液、好ましくはめっき水溶液中で、イオン種に容易に解離する任意の無機塩または有機塩である。このイオン物質はニッケル/リン合金の堆積に加わらず、そのためそれらの構成成分のいずれもニッケルおよびリン、またはニッケル/リンと合金化するその他の物質とともに堆積してニッケル/リン合金層を形成しない。めっき溶液の電気伝導性を向上させる無機塩または有機塩は、アルカリ塩、ナトリウム、カリウム、または、例えば硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、塩化物、臭化物、酢酸塩、メタンスルホン酸塩、スルファミン酸塩などの無機または有機アニオンといったその他のアルカリ塩である。同様に、こうした塩は、アルカリ土類金属塩、マグネシウム、カルシウム、または、例えばそれらのアニオンなどのその他のアルカリ土類金属塩であってもよい。さらに好ましくは、めっき溶液の電気伝導性を向上させるイオン物質は、無機または有機酸であってもよく、すなわち、硫酸、リン酸、塩酸、臭化水素酸などの鉱酸、酢酸、メタンスルホン酸、またはスルファミン酸など、めっき溶液中で解離によりヒドロニウムイオンまたはその他のプロトン化溶媒イオンを生成する化合物であってもよい。
【0049】
pH調整剤は、硫酸、リン酸、塩酸、および/または臭化水素酸などの鉱酸と、酢酸と、メタンスルホン酸と、スルファミン酸と、水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムなどの塩基と、好ましくはNH4
+および第四アンモニウムイオンなどの弱塩基のカチオンを用いることによりそれらの酸とともに形成される緩衝混合液と、を含む、任意の酸、塩基、または緩衝混合液である。
【0050】
界面活性剤は、非イオン性、陽イオン性、陰イオン性、または両性の界面活性剤である。
【0051】
めっき溶液の分解に対する安定性を向上させるその他の物質は、鉛イオン種および三重結合を有する有機化合物であってもよく、S,Se,Teなどの6族元素の化合物、AsO2
-,IO3
-,MoO4
2-などの酸素含有化合物、Sn2+,Pb2+,Hg+,Sb3+などの重金属カチオン、またはマレイン酸、イタコン酸などの不飽和有機酸であってもよい。
【0052】
本発明の好ましい実施例ではその方法は、上記の方法ステップ(c)において前記スズ層を被覆する前に、(b1)前記基板の少なくとも一つの表面にニッケル下層を被覆することをさらに備える。この更なる方法ステップ(b1)を行うことにより、圧力誘起によるウィスカの形成の抑制をさらに向上させるニッケル下層が形成される。ニッケル下層がニッケル/リン合金下層の下に形成される第1の下層で、ニッケル/リン合金下層が第2の下層である場合、ニッケル/リン合金下層は少なくとも一つの基板表面に直接被覆されるのではなくニッケル下層上に被覆される。本発明の好ましい実施例では上記の方法ステップ(c)において前記ニッケル/リン合金下層が被覆される前に、前記ニッケル下層が被覆される。代替的に、ニッケル下層がニッケル/リン合金下層とスズ層との間に配置されるようにニッケル/リン合金下層上に被覆してもよい。ニッケル/リン合金のニッケル下層との組み合わせはさらに基板の腐食の予防に寄与する。
【0053】
ニッケル層はニッケル、または一つ以上の金属合金元素とともにニッケルから構成される。これはリンまたはホウ素のような非金属合金元素のいずれも含んでいない。一つ以上の金属合金元素は鉄またはコバルトである。
【0054】
ニッケル下層は好ましくは湿式化学金属堆積法を用いることによって形成され、これは、ニッケル、および任意選択的にその他の金属イオンが少なくとも一つの基板で放出されて、基板上でそれぞれニッケル又はニッケル金属合金層を形成するニッケルまたは対応するその他の金属となるように、基板表面をニッケルめっき液と接触させることを含む。こうした金属の被覆は、基板と対向電極をめっき液に接触させながら、基板と対向電極との間に電流を流すことを備えた電気めっき法を用いるか、または、ヒドラジン化合物やホルムアルデヒドのような還元剤により、ニッケルおよび任意選択的にその他の金属が放出される無電解(自触媒)めっき法を用いるか、のいずれかを用いることによって行われる。電気めっき法を用いる場合、この電気めっき法は好ましくは直流(DC)を利用する。
【0055】
ニッケル層の被覆に用いられるめっき液は、好ましくは一つ以上の溶媒と、ニッケルイオン種と、任意選択的に合金金属イオンと、めっき溶液の電気伝導率を向上させるイオン物質と、めっき液が無電解めっき液の場合、該当する場合はニッケル金属を形成するようにニッケルイオンを放出することが可能な還元剤と、更なるpH調整剤と、さらに、めっき溶液による基板表面の湿潤を向上させかつめっき溶液中に含まれる成分の溶解度を増加させる界面活性剤などの追加の成分、ならびに、めっき溶液の分解に対する安定性を向上させ、かつ/または、ニッケル堆積物に対し例えば機械的および/または電気的性質などの改善された特性を付与するその他の物質と、を含むめっき溶液である。好ましくは、主な溶媒は水である。
【0056】
ニッケル下層を生成するように、ニッケルめっき溶液が利用される。ニッケルめっき溶液はワットめっき浴のようなニッケル電気めっき溶液であってもよく、これはめっき水溶液であり、一般的に硫酸ニッケル、塩化ニッケル、ホウ酸、サッカリン、および任意選択的に安定剤として知られるとともに当業者に周知の更なる成分を含む。ニッケル下層の形成に用いられるニッケルめっき溶液は代替的に無電解ニッケルめっき浴であり、これは一般的にめっき水溶液であり、硫酸ニッケルと、ニッケルの還元剤としてのヒドラジン化合物またはホルムアルデヒドと、更なる成分と、を含む。
【0057】
ニッケルイオン種、ニッケルめっき溶液の電気伝導率を向上させる更なるイオン物質、pH調整剤、界面活性剤、めっき溶液の分解に対する安定性を向上させる物質、ニッケル堆積物に対し改善された特性を付与する物質、および/または、ニッケルめっき溶液中に含有する錯化剤は、ニッケル/リンめっき溶液について上述したものと同様である。
【0058】
本発明の更なる実施例では前記ニッケル/リン合金下層は、少なくとも0.1重量%、好ましくは少なくとも1重量%、より好ましくは少なくとも5重量%、さらに好ましくは少なくとも8重量%のリン含有量のリンを備える。リン含有量はさらに多くとも17重量%、好ましくは多くとも15重量%である。さらに好ましくは、前記ニッケル/リン合金下層は、0.1重量%~17重量%、好ましくは1重量%~15重量%、より好ましくは5重量%~15重量%、さらに好ましくは8重量%~15重量%、さらにより好ましくは9重量%~13重量%のリン含有量のリンを備える。
【0059】
ニッケル/リン合金めっき液は、ニッケル/リン/ホウ素合金が形成されるように付加的にホウ素めっき源を含みうる。この場合ホウ素合金化合物は、ジメチルアミン-ボランまたはボラン酸ナトリウムなどのホウ素化合物である。
【0060】
本発明のさらに好ましい実施例では、上記の方法ステップ(b1),(b)が、前記第1のニッケル下層および前記第2のニッケル/リン合金下層を備えた二重層を被覆することを備え、前記二重層は、少なくとも0.01μm、より好ましくは少なくとも0.05μm、最も好ましくは少なくとも0.08μmの厚さを有する。さらに好ましくは、前記二重層の厚さは、多くとも10μm、より好ましくは多くとも5μm、最も好ましくは多くとも2μmである。より好ましくは、二重層の厚さは、0.01μm~10μm、さらに好ましくは0.05μm~5μm、最も好ましくは0.08μm~2μmである。2つ以上のニッケルまたはニッケル合金下層が少なくとも一つの基板表面に被覆される場合、このニッケルおよび/またはニッケル/リン合金の厚さは、全てのニッケルおよびニッケル/リン合金下層の全厚を意味する。二重層はさらに基板の腐食の予防に寄与する。
【0061】
二重層内では、第1のニッケル下層は好ましくは0.5μm~5μm、より好ましくは1μm~3μm、さらに好ましくは1μm~2μmの厚さを有する。二重層に含まれる第2のニッケル/リン合金下層は、0.01μm~2μm、より好ましくは0.05μm~1μm、さらに好ましくは0.08μm~0.5μmの厚さを有する。
【0062】
ニッケル/リン合金下層が唯一存在する下層である場合、ニッケル/リン合金下層は、0.01μm~5μm、より好ましくは0.05μm~3μm、さらに好ましくは0.08μm~2μmの厚さを有する。
【0063】
本発明の好ましい実施例では、この方法は(d)前記スズ層に銀または銀合金の最上層を被覆することをさらに備える。この更なる方法ステップ(d)を行うことにより、圧力誘起によるウィスカ形成の抑制をさらに向上させる銀または銀合金層が形成される。さらに、スズ層と、銀または銀合金最上層とを互いに別々に被覆することは、スズ-銀合金の被覆に優る複数の利点を有する。スズ層と銀または銀合金層との別々の被覆は、実施がより容易であり、安定した性能を有し、かつ、より再現可能である。さらに、銀の要求される量がより少なく、延いてはコストを節減する。
【0064】
銀合金は、銀および一つ以上の合金元素から構成される。合金元素は、金、銅、パラジウム、白金、ルテニウム、イリジウム、および/またはロジウムであってもよい。その他の合金元素は、鉄、コバルト、および/または銅である。
【0065】
銀または銀合金は湿式化学金属堆積法を用いることによって被覆され、これは、少なくとも一つの基板を銀または銀合金めっき液に接触させることを備える。湿式化学金属堆積法が電気めっき法である場合、銀、および任意選択的にその他の金属イオンが基板表面において放出されて、その少なくとも一つの基板上で銀最上層を形成する銀金属となる、または任意選択的に銀合金最上層を形成する銀合金となるように、基板をめっき液と接触させながら電流を流すことにより、銀または銀合金が被覆される。代替的な方法の変形例では、自触媒めっき法が用いられ、ここではギ酸またはギ酸誘導体などの還元剤により銀イオン種および任意選択的にその他の金属イオン種が放出される。更なる代替的な方法の変形例では浸漬めっき法が用いられ、ここでは銀イオン種および任意選択的にその他の金属イオン種が基板表面に存在する金属との置換反応により被覆される。金属めっき法を用いる場合、この電気めっき法は直流(DC)を利用する。
【0066】
銀または銀合金めっき液は好ましくはそれぞれ銀または銀合金めっき溶液である。このめっき溶液は、溶媒はもとより銀イオン種および任意選択的に合金金属イオン種を含む。さらに好ましくは、電気めっき法を用いる場合、めっき溶液は、その電気伝導性を向上させるイオン物質を含みうる。さらに好ましくは、めっき溶液はpH調整剤を含みうる。さらに好ましくは、めっき溶液は、めっき溶液による基板表面の湿潤を向上させかつめっき溶液中に含まれる成分の溶解度を増加させる界面活性剤などの追加の成分、および、めっき溶液の分解に対する安定性を向上させる追加の成分を備えうる。
【0067】
一つ以上の溶媒をめっき溶液中に含有しうる。めっき溶液は好ましくは溶媒の一つとして水を含有する。水を主要な溶媒成分(少なくとも50体積%)としてめっき溶液中に含む場合、銀または銀合金めっき溶液はめっき水溶液と見なされる。さらに、アルコールおよび/またはエーテルなどの有機溶媒をめっき溶液中に含んでもよい。
【0068】
銀めっき溶液は通常の銀電気めっき溶液であり、めっき水溶液である。銀電気めっき溶液はシアン化物含有めっき溶液または非シアン化物めっき溶液である。シアン化物含有銀めっき溶液は、銀イオン種として銀シアン化カリウムのようなアルカリシアン銀化合物を含有する。錯化剤は、シアン化カリウムまたはシアン化ナトリウムなどのアルカリシアン化化合物といったシアン化物塩を含む。シアン化物含有銀めっき溶液は、光沢剤および/または界面活性剤のような添加剤を含みうる。光沢剤はセレニウムまたは硫黄含有化合物であってもよい。シアン化物含有銀めっき溶液は通常、追加のpH調整剤を必要としないアルカリ溶液である。
【0069】
非シアン化物銀電気めっき溶液は通常、銀イオン種として硝酸銀を含むとともに好ましくは酸を含む。錯化剤はスクシンイミド、チオ硫酸塩、またはそれらの誘導体であってもよい。
【0070】
銀めっき溶液は自触媒めっき法に用いられる通常の銀めっき溶液であってもよい。好ましくは、自触媒銀めっき溶液はめっき水溶液である。自触媒銀めっき溶液は、銀イオン種としての硝酸銀と、グルコース、酒石酸、ヒドラジン、およびそれらの塩などの還元剤と、当業者に周知の安定剤および錯化剤と、pH調整剤と、を含む。
【0071】
銀めっき溶液は、代替的に浸漬銀めっき溶液であってもよく、この溶液は通常、めっき水溶液であるとともに、任意選択的にシアン化カリウムのようなシアン化物塩、またはチオ硫酸塩などの銀錯化剤と錯化した硝酸銀を含む。このめっき溶液はさらにギ酸などの還元剤を含有してもよい。さらに、このめっき溶液は、その電気伝導性を向上させるイオン物質などの追加の物質、pH調整剤、ならびに、めっき溶液の分解に対する安定性を向上させるその他の物質を含みうる。
【0072】
銀または銀合金めっき溶液の電気伝導性を向上させるイオン物質は、めっき溶液中で、イオン種に容易に解離する任意の無機塩または有機塩である。このイオン物質は銀または銀合金の堆積に加わらず、そのためそれらの構成成分のいずれも銀、または銀と合金化するその他の物質とともに堆積して、銀または銀合金層を形成しない。めっき溶液の電気伝導性を向上させる無機塩または有機塩は、アルカリ塩、ナトリウム、カリウムであってもよく、または、炭酸塩、シアン化物、硫酸塩、硝酸塩、酢酸塩、メタンスルホン酸塩、スルファミン酸塩などの無機または有機アニオンのようなその他のアルカリ塩であってもよい。同様に、こうした塩は、アルカリ土類金属塩、マグネシウム、カルシウム、または、例えばそれらのアニオンなどのその他のアルカリ土類金属塩であってもよい。さらに好ましくは、めっき溶液の電気伝導性を向上させるイオン物質は、無機または有機酸であってもよく、すなわち、硫酸などの鉱酸、酢酸、メタンスルホン酸、スルファミン酸など、めっき溶液中で解離によりヒドロニウムイオンまたはその他のプロトン化溶媒イオンを生成する化合物であってもよい。
【0073】
好ましくは銀または銀合金めっき溶液中に含まれるpH調整剤は、硫酸などの鉱酸と、酢酸と、メタンスルホン酸と、スルファミン酸と、水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムなどの塩基と、好ましくはNH4
+および第四アンモニウムイオンなどの弱塩基のカチオンを用いることにより、それらの酸とともに形成される緩衝混合液と、を含む、任意の酸、塩基、または緩衝混合液である。
【0074】
好ましくは銀または銀合金めっき溶液中に含まれる界面活性剤は、非イオン性、陽イオン性、陰イオン性、または両性の界面活性剤である。
【0075】
銀電気めっき法を用いる場合、銀または銀合金を堆積させるように0.1A/dm2~5A/dm2、より好ましくは0.5A/dm2~2A/dm2の電流密度が印加される。
【0076】
本発明の好ましい実施例では、方法ステップ(d)が、少なくとも0.01μm、より好ましくは少なくとも0.05μmの銀または銀合金厚さで、前記銀または銀合金最上層を被覆することを備える。さらに好ましくは、前記銀または銀合金の厚さは、多くとも0.5μm、より好ましくは多くとも0.2μmである。より好ましくは、銀または銀合金の厚さは0.01μm~0.5μm、そして最も好ましくは0.05μm~0.2μmである。これを達成するように、1秒~2分、より好ましくは10秒~1分間に及ぶ、好ましい銀または銀合金の被覆時間、好ましくは電気めっき時間が用いられる。
【0077】
さらに好ましい実施例では、パルスめっき法を用いることによりスズ層を被覆することに加えて、直流(DC)めっき法を用いることによりスズ層の一部(副層)を形成させてもよい。こうしたDC電流を用いて堆積された追加のスズの副層は、第1の変形例では、パルスめっき法によって生成されるスズ層の形成前に形成され、あるいは第2の変形例では、パルスめっき法によって生成されるスズ層の形成後に形成される。第3の変形例では、DC法によって生成されるスズ副層が、パルスめっき法によって被覆されるスズ副層の前に形成されるとともに、DC法によって生成される更なるスズ副層が、パルスめっき法によって被覆されるスズ副層の後に形成される。さらに好ましい実施例では、パルスめっき法を用いてスズを電気めっきすることに加えて、DC法を用いて最初にスズを低電流密度で被覆し、その後高電流密度で被覆することにより、スズを被覆してもよい。この二連式の順序は、スズのパルスめっきの前または後、またはスズパルスめっきの前後の両方に適用してもよい。
【0078】
DC法を用いたスズの電気めっきに使用されるスズ電気めっき液は、パルスめっき法を用いたスズの電気めっきに使用されるスズの電気めっき液と同じ組成を有しうる。DC法を用いたスズの電気めっきの条件は、少なくとも1A/dm2、より好ましくは少なくとも2A/dm2、最も好ましくは少なくとも5A/dm2の電流密度でスズを電気めっきするように、従来どおりであってもよい。電流密度は多くとも50A/dm2、より好ましくは多くとも25A/dm2、最も好ましくは多くとも15A/dm2である。二連式の順序で低電流密度を適用する場合、この電流密度は好ましくは1A/dm2~10A/dm2、より好ましくは2A/dm2~7.5A/dm2、最も好ましくは4A/dm2~6A/dm2である。二連式の順序で高電流密度を適用する場合、この電流密度は好ましくは10A/dm2~50A/dm2、より好ましくは12A/dm2~25A/dm2、最も好ましくは14A/dm2~16A/dm2である。スズパルスめっきステップの前、その後、またはスズパルスめっきステップの前後の両方に適用される二連式の順序に関して、それらの好ましい条件の各々が適用される。
【0079】
一実施例では、ニッケル/リン合金下層は、スズ層を形成する前にそのニッケル/リン合金下層を少なくとも一つの基板表面に直接被覆することによって形成される。次いでその形成されたニッケル/リン合金下層上にスズ層が形成される。スズ層に加えて銀または銀合金最上層が被覆される場合、銀または銀合金最上層がそのスズ層上に形成される。別の実施例では、ニッケル下層とニッケル/リン合金下層を備えた二重層が、スズ層を形成する前にそれらのニッケル下層とニッケル/リン合金下層とを少なくとも一つの基板表面に直接被覆することによって形成される。次いでその形成された二重層上にスズ層が形成される。スズ層に加えて銀または銀合金最上層が被覆される場合、銀または銀合金最上層がそのスズ層上に形成される。
【0080】
本発明の好ましい実施例では、前記パルスめっき法は単極性パルスめっき法であり、その単極性パルスめっき法は、それぞれカソードパルス部分(めっき部分(section))と、ゼロ電流パルス部分(非めっき部分(section))と、を備えた連続するパルス時間を備える。好ましくは、それらの連続するパルス時間はそれぞれ同一であるとともに互いに続く。カソードパルス部分時にスズが被覆される。ゼロ電流パルス部分時には、少なくとも一つの基板表面に被覆されたニッケル/リン合金下層上にスズは被覆されない。
【0081】
本発明の更に好ましい実施例では、前記カソードパルス(部分)は少なくとも0.1秒、より好ましくは少なくとも0.2秒、最も好ましくは少なくとも0.5秒のカソードパルス幅(pulse duration)を有する。さらに好ましくは、カソードパルス幅は、多くとも10秒、より好ましくは多くとも5秒、最も好ましくは多くとも1秒である。より好ましくは、カソードパルス幅は、0.1秒~10秒、さらに好ましくは0.2秒~5秒、最も好ましくは0.5秒~1秒である。
【0082】
本発明のさらに好ましい実施例では、前記ゼロ電流パルス(部分)は少なくとも0.1秒、より好ましくは少なくとも0.2秒、最も好ましくは少なくとも0.5秒のゼロ電流パルス幅を有する。さらに好ましくは、ゼロ電流パルス幅は、多くとも10秒、より好ましくは多くとも5秒、最も好ましくは多くとも1秒である。より好ましくは、ゼロ電流パルス幅は、0.1秒~10秒、さらに好ましくは0.2秒~5秒、最も好ましくは0.5秒~1秒である。
【0083】
本発明のさらに好ましい実施例では、前記単極性パルスめっき法の周波数は、少なくとも0.05s-1、より好ましくは少なくとも0.1s-1、最も好ましくは少なくとも0.5s-1である。さらに好ましくは、前記単極性パルスめっき法の周波数は、多くとも5s-1、より好ましくは多くとも2.5s-1、最も好ましくは多くとも1s-1である。より好ましくは、その周波数は0.05s-1~5s-1、さらに好ましくは0.1s-1~2.5s-1、最も好ましくは0.5s-1~1s-1である。
【0084】
本発明のさらに好ましい実施例では、前記カソードパルス(部分)は、少なくとも1A/dm2、より好ましくは少なくとも5A/dm2、さらに好ましくは少なくとも10A/dm2、そして最も好ましくは少なくとも8A/dm2のカソードパルスピーク電流密度を有する。さらに好ましくは、前記カソードパルスは、多くとも60A/dm2、より好ましくは多くとも35A/dm2、最も好ましくは多くとも20A/dm2のカソードパルスピーク電流密度を有する。より好ましくは、前記カソードパルスピーク電流密度は、1A/dm2~60A/dm2、さらに好ましくは5A/dm2~35A/dm2、さらにより好ましくは10A/dm2~35A/dm2、最も好ましくは8A/dm2~20A/dm2である。これらのカソードパルスピーク電流密度はパルスめっきによるスズ層の被覆、特にラック用途(rack application)に適している。
【0085】
本発明のさらに好ましい実施例では、前記カソードパルス(部分)は、リール対リール(reel-to-reel)/ストリップ対ストリップ(strip-to-strip)用途で少なくとも10A/dm2、より好ましくは少なくとも15A/dm2、最も好ましくは少なくとも25A/dm2のカソードパルスピーク電流密度を有する。さらに好ましくは、前記カソードパルスは、多くとも60A/dm2、より好ましくは多くとも45A/dm2、さらにより好ましくは多くとも35A/dm2、最も好ましくは多くとも25A/dm2のカソードパルスピーク電流密度を有する。より好ましくは、前記カソードパルスは、リール対リール/ストリップ対ストリップ用途で10A/dm2~60A/dm2、さらに好ましくは15A/dm2~45A/dm2、さらにより好ましくは10A/dm2~35A/dm2、最も好ましくは25A/dm2のカソードパルスピーク電流密度を有する。
【0086】
本発明のさらに好ましい実施例では、カソードパルス幅の、ゼロ電流パルス幅に対する比率は少なくとも0.5、より好ましくは少なくとも0.75、最も好ましくは少なくとも0.9である。さらに好ましくは、この比率は多くとも2、より好ましくは多くとも1.5、最も好ましくは多くとも1.1である。より好ましくはこの比率は0.5~2、さらに好ましくは0.75~1.5、最も好ましくは0.9~1.1に設定される。さらにより好ましいこの比率は1.0である。
【0087】
本発明による金属基板へのスズ層の被覆方法は、好ましくは圧力誘起によるスズウィスカの形成をより低水準に抑制し、より好ましくは圧力誘起によるスズウィスカの形成を防ぎ、さらにより好ましくは圧力誘起されたウィスカの無いスズ層を形成することを目的とする。
【0088】
したがって、好ましくは本発明の方法によって被覆されたスズ層では、圧力誘起によるスズウィスカの形成がより低水準に抑制され、より好ましくは圧力誘起によるスズウィスカの形成が防止され、さらにより好ましくは本発明の方法によって被覆されたスズ層には圧力誘起されたウィスカが存在しない。
【0089】
好ましくは、本発明の方法によって被覆されたスズ層における、より低水準に抑制された圧力誘起によるスズウィスカ、防止された圧力誘起によるスズウィスカ、または皆無となった圧力誘起によるスズウィスカは、前記スズ層に機械的応力を所定圧力で所定期間、印加することによって判定、例えば、検査される。スズ層に機械的応力を印加することは、圧力誘起されたウィスカの形成を含むが、腐食誘起されたウィスカ、金属間化合物の形成によって誘起されたウィスカ、または熱的不整合によって誘起されたウィスカなどのその他の種類のウィスカの形成は誘起しない。その他の種類のウィスカを誘起させるための手段を加えることは、圧力誘起されたウィスカの形成に関して全く意味をなさない。したがって、圧力誘起されたウィスカを形成するスズ層の傾向は、機械的応力を印加することによって検査され、同じスズ層の他種のウィスカを形成する傾向とは区別することができる。
【0090】
本発明のより好ましい実施例は、上記の更なる改善のうちの一つまたは幾つかを備える。スズ層には、好ましくは直接、すなわち熱処理などの任意の後処理が施されること無く、機械的応力が印加される。好ましくは、ステップ(d)をステップ(c)の後に行った場合、すなわち銀または銀合金最上層を前記スズ層に被覆した場合、スズ層は、銀または銀合金最上層の被覆後に機械的応力にかけられ、より好ましくは熱処理などの任意の後処理を施すことなく機械適応力にかけられる。例えば、工具をスズ層に押圧することによって金属基板に機械的応力を印加することにより、スズ層に機械的応力が加えられる。実際には、その機械的応力は、ニッケル/リン合金下層およびスズ層がめっきされた接触素子ペアの雄型端子と雌型端子とを互いに接続することにより、スズ層に印加される。好ましくは、スズ層に押圧される工具は、上述した
図1のスクリュー式ウィスカ用ジグ(jig)である。
【0091】
所定の圧力は、少なくとも0.001Nm、より好ましくは少なくとも0.01Nm、さらにより好ましくは少なくとも0.05Nm、最も好ましくは少なくとも0.1Nmである。この所定の圧力は、多くとも100Nm、より好ましくは多くとも10Nm、さらにより好ましくは多くとも5Nm、最も好ましくは多くとも1Nmである。所定の圧力は0.001Nm~100Nm、より好ましくは0.01Nm~10Nm、さらにより好ましくは0.05Nm~5Nm、最も好ましくは0.1Nm~1Nmである。所定期間は、少なくとも1分、より好ましくは少なくとも1時間、さらにより好ましくは少なくとも1日、最も好ましくは少なくとも5日である。所定期間は、多くともめっき基板すなわちめっきされた接触素子の耐用期間、より好ましくは多くとも1年、さらに好ましくは多くとも1ヶ月、さらにより好ましくは多くとも2週間、最も好ましくは多くとも10日間である。この所定期間は、1分~めっき基板の耐用期間の終了まで、より好ましくは1分~1年、さらに好ましくは1時間~1ヶ月、さらにより好ましくは1日~2週間、最も好ましくは5日~10日の範囲に及ぶ。
【0092】
好ましくは、最終的に、前記スズ層に機械的応力を印加した後、得られた圧力誘起によるスズウィスカの数および/または寸法を測定する。ウィスカの数および/または寸法は、SEM(走査型電子顕微鏡)などの顕微鏡を用いることによって測定される。ウィスカの寸法の測定は、上記および実施例中に記載のようにウィスカを評価または分析することによって実施される。
【0093】
本明細書においてパラメータ圧力および時間によって記載された「スズ層に圧力誘起されたウィスカが無い」特徴の判定は、本発明により被覆されたスズ層の特定の性質を意味し、上記のように試験されることを理解されたい。すなわち「スズ層に圧力誘起されたウィスカが無い」とは、本発明により被覆されたスズ層には、例えば以下の方法により記載されたパラメータの範囲内にスズ層の圧力誘起されたウィスカが無いことを意味する。
【0094】
本発明の方法は好ましくは装置内で行われ、ここでめっきされる基板が複数のめっき液に順々に浸漬され、それらのめっき液は、各容器中に収容されており、基板は、各金属層をその少なくとも一つの表面に被覆するのに必要な時間、各容器中に維持される一方で、一つの容器から次の容器へと移送される。
【0095】
そのためめっき装置は、それらの電気めっき液用の複数の容器ならびに基板を保持するための手段を備え、その手段は、基板を一つの容器から別の容器へと移送し、その基板を各めっき液に浸漬することが可能である。基板を保持するための手段は、次いで例えばキャリアバーによって保持されるフレームなどの任意のホルダであってもよい。代替的に、保持手段は、基板をコンベヤ式の装置を通して輸送するローラであってもよく、基板は連続的にめっき液と接触される。
【0096】
さらに、被覆される金属が基板の少なくとも一つの表面に電気めっきされる場合、装置は基板と少なくとも一つの対向電極(アノード)の各々を電気めっき液と接触させる手段を備える。これはパルスめっき法が適用されるスズめっき工程の場合は勿論である。無電解(自触媒)めっきまたは浸漬(置換)めっき工程の場合、対向電極装置は不要である。少なくとも一つの対向電極が好ましくは基板付近に配置され、基板とともに電気めっき液と接触されて、基板と少なくとも一つの対向電極との間に電流を通流させる。水平方向のコンベヤ式装置では、複数の対向電極が基板のコンベヤ経路の片側または両側のいずれかに沿って連続的に配置される。
【0097】
本発明の方法が電気めっき処置を含む場合、その装置は、少なくとも一つの基板表面に金属被覆を生じさせるように基板を電気的に分極するための手段をさらに備える。その分極手段は基板に電気エネルギーを供給する役割を果たす。そのためその手段は整流器などの電流/電圧源/供給源であってもよい。分極手段は基板および少なくとも一つの対向電極に電気的に接続される。スズ層の被覆を目的として、分極手段は少なくとも一つの基板表面にパルス電流を供給するようにさらに設計される。そのため分極手段は少なくとも一つの基板表面と電気的に接続されるとともに、パルス列を生じされるための制御手段を搭載しうる。こうした制御手段はマイクロコントローラによって駆動され、そしてまたコンピュータによってプログラムされる電気回路配置であってもよい。
【0098】
以下の図面および実施例は本発明をより詳細に説明する。それらの図面および実施例は理解に役立つことを主体とし、請求項に記載の本発明の範囲を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【
図1】スクリュー式のウィスカ用ジグの側断面図である。
【
図2】
図1に示すスクリュー式ウィスカ用ジグの圧子によって形成されたスズ主層内の押込みの境界領域を走査型電子顕微鏡写真として示す図である。
【
図3】種々のスズ層に生成したウィスカの短絡長さを示すグラフである。
【
図4】更なるスズ層に生成したウィスカの短絡長さを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0100】
圧力誘起によるウィスカの形成を基板上の様々な層の組み合わせにおいて研究した。それらの層はそれぞれ(純)スズ層を備えていた。いずれの場合でも銅板を基板として使用した。その銅板は、個々の層を銅板上および互いの上に被覆させることによる様々な層の組合せを備えていた。被覆される層のために銅板をまず浄化し、その後スズおよび任意選択的に更なる金属コーティングでめっきした。スズコーティングは約3.0~3.5μmの厚さであった。
【0101】
特に断りのない限り、現在使用されている工業生産工程をシミュレートするように、層の組合せを備えた基板を、それらの層の形成後24時間以内に、空気中150°Cで1時間熱処理した。それらの試料を室温に冷却した後、それらのウィスカの形成を、平坦な円形の先端部を備えた圧子を有するスクリュー式のウィスカ用ジグ(jig)で個別に検査した。
【0102】
図1は概ね圧力誘起によるウィスカの形成を調べるために用いられるスクリュー式ウィスカ用ジグ10を示す。このジグは、直径3mmの円形部を備えた平坦な圧子先端部21を有する鉛直方向に摺動可能な圧子20を含む。好ましくは、圧子20は棒状またはロッド状である。このジグは、ベースプレート11および圧子を保持する保持機構12を備える。
【0103】
ベースプレートは、被覆されたスズ層Snを有する金属基板としての基板試料Pを収容するように構成される。保持機構は、ガイド要素13を備え、その貫通開口部14を通して圧子を摺動可能に案内するように構成される。さらに、保持機構はまた、ガイド要素上に高く架設されるとともに、圧子の前面18を押圧するねじ付きボルト17を収容するためのねじ穴16を有する固定ブラケット15を備える。
【0104】
基板試料Pは、ベースプレート11の、圧子先端部21のすぐ下に載置されることにより、ジグ10に取り付けられた。次いで、ねじ付きボルト17に0.3Nmのトルクが最終的に印加されるようにねじ付きボルトをトルクレンチで下方にねじ込むことにより、圧子先端部を有する圧子20をベースプレートの表面に押圧した。この圧力は所定期間、例えば1週間、維持された。
【0105】
従って試料に形成された圧力により、圧子先端部により形成された押込み部Aの境界にウィスカの形成を生じさせる。形成されるこうしたウィスカの典型的な例を走査型電子顕微鏡(SEM)写真として
図2に示す。この例で用いられた試料はスズ層Snのみを有していた。このスズ層は直流(DC)めっき法を用いて電気めっきすることによって形成した。したがって、この試料は本発明に従って作成しなかった。
図2は、その層を扁平にするように圧子の先端部を試験期間中(所定の期間)押圧した、押込み部Aの平坦な領域を示す。その領域の外側にはめっきされたスズ層の僅かに粗い表面の相が現れている。平坦な領域の境界には隆起部Rが生じるように材料が押しつぶされているのが見られる。その隆起部には大きい圧力によって誘起されたウィスカが生成しており(太い矢印参照)、このウィスカは、まず押込み部からほぼ半径方向に成長し、次いで短く進行した後、隆起部に対してほぼ平行な方向に増殖している。
【0106】
圧力誘起されたウィスカの生成の傾向を調べるため、既に圧子で1週間負荷をかけた試料を次いでSEMを用いて検査し、形成されたウィスカを評価した。この分析のために、隆起部の起点から測定した、ウィスカの各々が到達した最長の伸長部を個々に判定した。その長さは、屈曲のためにウィスカがその起点付近に残留しうるため、ウィスカの全長よりも明らかに短い場合がある。その伸長部を判定するように、ウィスカの起点を中心として、ウィスカの最も遠い伸長部がその内部で接触する半円を描いた。その半円の半径をその個々のウィスカの短絡長さ(shorting length)Sと見なした。このように最長の伸長部を有するそれら5つのウィスカを分析し、短絡長さの平均値Smeanを算出した。
【0107】
(比較例1,2)
従来の方法で銅板を前処理することにより、すなわち、アルカリ洗浄剤で銅板を陰極的(cathodically)に洗浄し、次いで酸性洗浄剤で銅板をエッチングし、最後に希硫酸で活性化することにより、比較例の試験試料を作成した。
【0108】
表1に示すように、洗浄した銅板に次いでニッケル被覆を設け、ニッケル被覆上にめっきされたスズ被覆を設けた。その目的のため銅板を表2に示す条件下でめっきした。個々の層の被覆に用いられるめっき浴および条件を以下に示す。
【0109】
ニッケル電気めっき(下層1すなわち第1の下層):
標準状態で作用する通常のワット(Watts)ニッケル電気めっき浴を用いて清浄な銅板に純ニッケルを被覆した。電気めっきはDC電流を用いて行った。得られたニッケル被覆の厚さを表2に示す。
【0110】
スズパルス電気めっき(スズ層):
メタンスルホン酸スズ/メタンスルホン酸ベースで構成されたスズ電気めっき浴を用いてスズを電気めっきした。銅板にパルス電流を印加することによりスズ層を得た。
【0111】
パルス電流は、パルス時間内に任意のその他のパルス部分を持たない、カソード電流パルスと、その後のゼロ電流パルスとを備えた、連続する同一のパルス時間のパルス列を有する、単極性パルス電流であった。パルスは時間に関して矩形であった。カソードパルス電流部分のパルス幅(pulse duration)およびカソードピーク電流密度を表2に示した。完成したスズ被覆の厚さは表2に示した通りであった。
【0112】
ニッケルおよびスズ層のめっき後、被覆した板を150°Cで1時間、熱処理した。その後、板をスクリュー式ウィスカ用ジグに締結し、室温で1週間、0.3Nmの荷重を印加した。
【0113】
次いで基板表面をSEMで検査し、5つの最長のウィスカを評価し、それらの短絡長さSを測定することにより、ウィスカの形成を判定した。5つの最長のウィスカから平均値を算出し、この平均値は平均短絡長さS
meanを示す。この評価の結果を
図3に示し、これは各試料の5つ全てのウィスカの平均短絡長さS
meanを示す。比較例の結果を
図3に「1」、「2」として示す。その結果は表1にもまとめられている。
【0114】
(本発明の実施例3,4)
本発明による試験試料を、比較例1,2に用いた試験片と同様に作成した。次いで洗浄した板に様々な被覆を表1に示すように設けた。そのため銅板を再び表2に示す条件下でめっきした。ニッケルおよびスズ被覆の作成に用いられるめっき浴は、比較例1,2を参照して前述したものであった。ニッケル/リン合金層と銀最上層の作成に用いためっき浴、および、それらの被覆の作成に用いた条件を以下に示す。
【0115】
ニッケル/リン合金電気めっき(下層2):
先に銅板上に被覆したニッケル被覆(第1の層)の上に、第2の下層(下層2)としてニッケル/リン合金を電気めっきした(実施例3,4)。ニッケル/リン電気めっき浴は、被覆にリンを含めるためのリン源として、ホスホン酸ナトリウム(Na2HPO3)を含む通常のめっき浴であった。めっき浴中のニッケルイオン濃度は120g/l、めっき浴のpHは1.5、温度は65°Cであった。DC電流を用いることにより電気めっきを行った。ニッケル被覆の厚さは表2に示す通りであった。
【0116】
銀最上層(最上層):
実施例4の場合では、アトテック・ドイチュランド・ゲーエムベーハーのArgalux(登録商標)NC mod 電気めっき浴を用いることにより、スズ層に銀最上層を被覆した。この浴は非シアン化物ベースで構成される。pHは8.8、温度は20°Cであった。DC電流を用いることにより電気めっきを行った。銀被覆の厚さは表2に示す通りであった。
【0117】
スズ層および銀最上層(銀最上層が被覆された場合)の被覆後、被覆された基板を150°Cで1時間、熱処理した。その後、板をスクリュー式ウィスカ用ジグに締結し、室温で1週間、0.3Nmの荷重を印加した。
【0118】
次いで基板表面をSEMで検査することにより、ウィスカの形成を判定した。個々の圧力誘起されたウィスカの短絡長さSを各試験片について検査し、平均短絡長さS
meanを比較例1,2に記載のように算出した。この評価の結果を
図3に示し、本発明の実施例の結果を「3」、「4」として示す。その結果は表1にもまとめられている。
【0119】
それらの値を、それぞれ、比較例1,2で得られた対応するものと比較した。本発明による実施例3,4の平均短絡長さSmeanは、比較例1,2の試料の平均短絡長さSmeanよりも著しく小さいことが判明した。これは、銅板をスズ層で被覆する前に銅板をまずニッケル/リン合金でめっきすることと共に、パルスめっき法を用いたスズの電着が、圧力誘起によるウィスカの形成を明らかに抑制することを意味する。スズ層の下にニッケル下層のみ(比較例1,2)を電気めっきすることにより、20μm~30μmの平均短絡長さSmeanを有する圧力誘起されたウィスカが生じる一方、ニッケル/リン合金下層を追加で含めることにより、ウィスカ形成の傾向が20μmを大きく下回り、約10μmまで低下する顕著な減少をもたらす。スズ層の上の銀最上層の追加の被覆は、その短絡長さを10μm未満にするように圧力誘起されたウィスカの防止をさらに最適化する傾向がある。
【0120】
(比較例5):
銅板を前述のように前処理し、前述の条件下、表3に示した各金属被覆で被覆した。銅板を表4に示す条件下でめっきした。得られたニッケル堆積物の厚さは表4に示す通りであった。スズ電気めっきにおけるカソードパルス電流部分のパルス幅およびカソードピーク電流密度もまた表4に示す通りであった。めっき液の組成およびめっき条件は本明細書の上記例1,2,3,4に記載の通りであった。
【0121】
被覆を作成した後、試料をスクリュー式ウィスカ用ジグに締結し、熱処理を行うことなく室温で一週間、0.3Nmの負荷を印加した。
【0122】
次いでウィスカの形成を比較例1,2に記載のように判定した。この評価の結果を
図4に示し、その結果を図中に‘5’として示す。また、その結果を表3に示す。
【0123】
(本発明の実施例6):
本発明による試験試料を比較例5で用いた試験片と同様の方法で作成した。清浄な銅板には、表3に示すように様々な金属被覆を設けた。そのため銅板を再び表4に示す条件下でめっきした。得られたニッケル、ニッケル/リン合金、および銀被覆の厚さは表4に示す通りであった。スズ電気めっきにおけるカソードパルス電流部分のパルス幅およびカソードピーク電流密度はまた表4に示す通りであった。ニッケル、ニッケル/リン合金、スズ、および銀被覆の作成に用いられるめっき浴ならびにそれらの作成に用いられる条件は、本明細書の上記例1,2,3,4に示す通りであった。
【0124】
被覆を作成した後、試料をスクリュー式ウィスカ用ジグに締結し、熱処理を行うことなく室温で一週間、0.3Nmの負荷を印加した。
【0125】
次いでウィスカの形成を比較例1,2に記載のように判定した。この評価の結果を
図4に示し、その結果を図中に‘6’として示す。また、その結果を表3に示す。
【0126】
本発明の実施例ではウィスカは全く形成されなかったが、比較例5の場合では、約20μmのSmeanを有するウィスカが形成された。
【0127】
(比較例7A,7B):
銅板の2つの試験片を前述のように前処理し、前述の条件下、表3に示した各金属被覆で被覆した。銅板を表4に示す条件下でめっきした。得られたニッケル堆積物の厚さは表4に示す通りであった。カソードパルス電流部分のパルス幅およびカソードピーク電流密度もまた表4に示す通りであった。めっき液の組成およびめっき条件は本明細書の上記例1,2,3,4に記載の通りであった。
【0128】
ニッケルおよびスズ層をめっきした後、被覆した試験片を150°Cで1時間、熱処理した。その後、試料をスクリュー式ウィスカ用ジグに締結し、室温で一週間、0.3Nmの負荷を印加した。次いでウィスカの形成を比較例1,2に記載のように判定した。この評価の結果を
図4に示し、その結果を図中に‘7A,7B’として示す。また、その結果を表3に示す。
【0129】
(本発明の実施例8,9):
銅板の2つの試験片を、それぞれ、比較例7A,7Bで用いた試験片と同様の方法で前処理した。
【0130】
次いで清浄な基板に、表3に示す様々な金属被覆を設けた。そのため銅板を再び表4に示す条件下でめっきした。得られたニッケル、ニッケル/リン合金、および銀被覆の厚さは表4に示す通りであった。カソードパルス電流部分のパルス幅およびカソードピーク電流密度はまた表4に示す通りであった。ニッケル、ニッケル/リン合金、スズ、および銀被覆の作成に用いられるめっき浴ならびにそれらの被覆の作成に用いられる条件は、本明細書の上記例1,2,3,4に示す通りであった。
【0131】
被覆を作成した後、被覆した基板を150°Cで1時間、熱処理した。その後、基板をスクリュー式ウィスカ用ジグに締結し、室温で一週間、0.3Nmの負荷を印加した。次いでウィスカの形成を比較例1,2に記載のように判定した。この評価の結果を
図4に示し、その結果を図中に‘8,9’として示す。また、その結果を表3に示す。
【0132】
比較例7A,7BのSmeanを本発明の実施例8,9のSmeanと比較した場合(熱処理した状態で:約20μm以下と比較して30μmより大きいSmean)、ニッケル/リン合金下層を含めるとともにスズ層を銀最上層でさらに電気めっきすることにより、圧力誘起によるウィスカ形成の回避に顕著な改善をもたらすことができることが判明した。
【0133】
(比較例10):
銅板の幾つかの試験片を前述のように前処理し、比較例7A,7B(比較例:ニッケル被覆、スズ被覆)の試料と同様に各金属被覆でめっきした。比較例7A,7Bについて表4に示す条件下で銅板をめっきした。得られたニッケル堆積物の厚さは表4に示す通りであった。スズ電気めっきにおけるカソードパルス電流部分のパルス幅およびカソードピーク電流密度もまた表4に示す通りであった。めっき液の組成およびめっき条件は本明細書の上記例1,2,3,4に記載の通りであった。
【0134】
次いで試験片の第1の部分を150°Cで1時間、熱処理し、その後、等温的に55°Cで87%の相対湿度の雰囲気に4000時間、保存した。この保存により、複数の腐食誘起されたウィスカが形成された。それらのウィスカを比較例1,2に記載したものと同様に評価した。
【0135】
金属被覆を備えたそれらの試験片の第2の部分を、アルキルホスホン酸および非イオン界面活性剤を含有する水溶液で付加的に処理した(後処理)。この処理後、それらの試験片もまた、150°Cで1時間、熱処理し、その後、等温的に55°Cで87%の相対湿度の条件下で4000時間、保存した。これらの後処理された試験片では、腐食誘起されたウィスカがずっと少なく、試験片の第1の部分の短絡長さSに比べて短絡長さSがより短いことが分かる。
【0136】
したがって、アルキルホスホン酸および非イオン界面活性剤を含有する水溶液によるスズ層の処理により、腐食誘起によるウィスカが防止されることが分かる。
【0137】
金属被覆を備えたそれらの試験片の第3の部分を、同様にアルキルホスホン酸および非イオン界面活性剤含有する水溶液で付加的に処理し、150°Cで1時間、熱処理した後、それらをスクリュー式ウィスカ用ジグに締結し、室温で一週間、0.3Nmの負荷を印加した。
【0138】
この場合、多数の圧力誘起によるウィスカが形成された。形成された圧力誘起によるウィスカの量および寸法は比較例7A,7Bについて
図4に示したものと同様であった。実際には、圧力誘起されたウィスカの量および寸法は、試験片の第2の部分の場合に形成された腐食誘起されたウィスカに比べてずっと大きいものであった。
【0139】
したがって、ホスホン酸および界面活性剤を含有する水溶液は腐食誘起によるウィスカ形成の防止に適しているが、この水溶液を用いた試料の後処理では圧力誘起によるウィスカの形成は防止できないことが判明した。
【0140】
(比較例11):
銅板の幾つかの試験片を前述のように前処理し、比較例1に記載の条件下でスズ堆積物のみをめっきした。スズ電気めっきにおけるカソードパルス電流部分のパルス幅およびカソードピーク電流密度もまた比較例1について表2に示す通りであった。スズめっき液の組成は本明細書の上記比較例1について記載の通りであった。
【0141】
次いで試験片の第1の部分を、等温的に30°Cで60%の相対湿度の雰囲気に4000時間、保存した。この保存により、銅基板とスズ層との間に金属間化合物の形成によって誘起された、複数のウィスカが形成された。それらのウィスカを比較例1,2に記載したものと同様に評価した。
【0142】
スズ被覆を備えたそれらの試験片の第2の部分を、まず150°Cで1時間、熱処理し、その後、等温的に30°Cで60%の相対湿度の雰囲気に4000時間、保存した。これらの熱処理された試験片では、金属間化合物の形成によって誘起されたウィスカがずっと少なく、試験片の第1の部分の短絡長さSに比べて短絡長さSがより短いことが分かる。
【0143】
したがって、スズ層の熱による処理により、金属間化合物の形成によって誘起されるウィスカが防止されることが分かる。
【0144】
スズ被覆を備えたそれらの試験片の第3の部分を、同様に150°Cで1時間、付加的に熱処理し、その後、それらをスクリュー式ウィスカ用ジグに締結して、室温で一週間、0.3Nmの負荷を印加した。
【0145】
この場合、多数の圧力誘起によるウィスカが形成された。形成された圧力誘起によるウィスカの量および寸法は、試験片の第2の部分の場合に形成された、金属間化合物の形成によって誘起されたウィスカに比べてずっと大きいものであった。
【0146】
したがって、熱処理は、金属間化合物の形成によって誘起されるウィスカの防止には適しているが、その試料の熱処理では圧力誘起によるウィスカの形成は防止できないことが判明した。
【0147】
【0148】
【0149】
【0150】
【0151】
「./.」は被覆されていないことを意味する。
【0152】
(本発明の実施例12対比較例13):
銅板の2つの試験片を、それぞれ、比較例7A,7Bで用いた試験片と同様の方法で前処理した。
【0153】
次いで前処理した基板に、表5に示す様々な金属被覆を設けた。そのため銅板を再び表6に示す条件下でめっきした。本発明の実施例12では、スズ層を単極性パルスめっき法によって被覆した。比較例13では、直流を用いることによりスズ層を被覆した。得られたニッケル、ニッケル/リン合金、およびスズ被覆の厚さは表6に示す通りであった。カソードパルス電流部分のパルス幅およびカソードピーク電流密度、および直流の電流密度はまた表6に示す通りであった。実施例12の平均電流密度は15A/dm2であり、したがって例13の直流電流密度に相当する。ニッケル、ニッケル/リン合金、およびスズ被覆の作成に用いられるめっき浴ならびにそれらの被覆の作成に用いられる条件は、本明細書の上記例1,2,3,4に示す通りであった。
【0154】
スズ被覆のめっき後、被覆した基板を150°Cで1時間、熱処理した。その後、基板をスクリュー式ウィスカ用ジグに締結し、室温で一週間、0.3Nmの負荷を印加した。次いでウィスカの形成を比較例1,2に記載のように判定した。その結果を表5に示す。
【0155】
比較例13のSmeanを本発明の実施例12のSmeanと比較した場合、直流を用いる代わりにパルスめっきによってスズの被覆を行うことにより、圧力誘起によるウィスカ形成の回避に顕著な改善をもたらすことができることが判明した。
【0156】
(本発明の実施例14対比較例15):
銅板の2つの試験片を、それぞれ、比較例7A,7Bで用いた試験片と同様の方法で前処理した。
【0157】
次いで前処理した基板に、表5に示す様々な金属被覆を設けた。そのため銅板を再び表6に示す条件下でめっきした。本発明の実施例14では、スズ層を単極性パルスめっき法によって被覆した。比較例15では、直流を用いることによりスズ層を被覆した。得られたニッケル、ニッケル/リン合金、スズおよび銀被覆の厚さは表6に示す通りであった。カソードパルス電流部分のパルス幅およびカソードピーク電流密度、および直流の電流密度はまた表6に示す通りであった。実施例14の平均電流密度は15A/dm2であり、したがって比較例15の直流電流密度に相当する。ニッケル、ニッケル/リン合金、スズおよび銀被覆の作成に用いられるめっき浴ならびにそれらの被覆の作成に用いられる条件は、本明細書の上記例1,2,3,4に示す通りであった。
【0158】
それらの被覆の作成後、被覆した基板を150°Cで1時間、熱処理した。その後、基板をスクリュー式ウィスカ用ジグに締結し、室温で一週間、0.3Nmの負荷を印加した。次いでウィスカの形成を比較例1,2に記載のように判定した。その結果を同様に表5に示す。
【0159】
比較例15のSmeanを本発明の実施例14のSmeanと比較した場合、直流を用いる代わりにパルスめっきによってスズの被覆を行うことにより、圧力誘起によるウィスカ形成の回避に顕著な改善をもたらすことができることが判明した。本発明の実施例12のSmeanを実施例14のSmeanと比較した場合、スズ層に銀最上層を付加的に電気めっきすることにより、圧力誘起によるウィスカ形成の回避に更なる改善を得ることができる。
【0160】
【0161】
【0162】
「./.」は被覆されていないことを意味し、「---」は適用されていないことを意味する。
【0163】
(例16A,16B,17A,17B):
銅板の幾つかの試験片を前述のように前処理し、実施例8(ニッケル被覆、ニッケル/リン合金被覆、スズ被覆)の試料と同様に各金属被覆でめっきした。銅板を表7に示す条件下でめっきした。パルス幅を変化させた。全ての例における平均電流密度は15A/dm2であった。得られたニッケル、ニッケル/リン、およびスズ被覆の厚さは表7に示す通りであった。スズ電気めっきにおけるカソードパルス電流部分のパルス幅およびカソードピーク電流密度もまた表7に示す通りであった。めっき液の組成およびめっき条件は本明細書の上記例1,2,3,4に記載の通りであった。
【0164】
スズ層のめっき後、被覆した基板を150°Cで1時間、熱処理した。その後、それらの基板をスクリュー式ウィスカ用ジグに締結し、室温で一週間、0.3Nmの負荷を印加した。この処理により複数の圧力誘起によるウィスカが形成された。これらのウィスカを比較例1,2に記載されたものと同様に判定した。
【0165】
本発明の実施例16A,16Bの平均短絡長さSmeanは、実施例3および実施例8についてと同様の範囲であることが判明した。対照的に、比較例17A,17Bの平均短絡長さSmeanは著しく高く、例17AのSmeanは約65%高く、例17BのSmeanは約85%高かった。
【0166】
【符号の説明】
【0167】
10…スクリュー式ウィスカ用ジグ(screw type whisker jig)
11…基板
12…保持機構
13…ガイド要素
14…貫通開口部
15…固定ブラケット
16…ねじ穴
17…ねじ付きボルト
18…圧子の前面
20…圧子
21…圧子先端部
A…平坦な領域、押込み部
C…半円
P…基板試料
R…隆起部
S…短絡長さ(shorting length)
Smean…平均短絡長さ(mean shorting length)
Sn…スズ層