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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-07
(45)【発行日】2022-01-12
(54)【発明の名称】電動機制御方法および制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60L 15/20 20060101AFI20220104BHJP
   H02P 5/46 20060101ALI20220104BHJP
   H02P 29/028 20160101ALI20220104BHJP
【FI】
B60L15/20 Y
B60L15/20 S
H02P5/46 H
H02P29/028
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020123489
(22)【出願日】2020-07-20
(62)【分割の表示】P 2017036451の分割
【原出願日】2017-02-28
(65)【公開番号】P2020174531
(43)【公開日】2020-10-22
【審査請求日】2020-07-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100124682
【弁理士】
【氏名又は名称】黒田 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100104710
【弁理士】
【氏名又は名称】竹腰 昇
(74)【代理人】
【識別番号】100090479
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 一
(72)【発明者】
【氏名】山下 道寛
【審査官】冨永 達朗
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-147555(JP,A)
【文献】特開2011-234510(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 15/20
H02P 29/028
H02P 5/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1軸の機械ブレーキの制御として、前記第1軸の滑走の発生を検知した場合に前記第1軸のブレーキ力を低減させ、前記第1軸の再粘着検知用状態値が再粘着したと判定するための閾値条件として定められた再粘着検知用閾値条件を満たした場合に当該ブレーキ力を増加させる再粘着制御が行われている際に、第2軸を駆動する電動機を制御する電動機制御方法であって、
前記第1軸の再粘着制御において前記再粘着検知用閾値条件を満たした場合、或いは、前記第1軸の再粘着検知用状態値が再粘着直前と判定するための閾値条件として定められた再粘着直前検知用閾値条件を満たした場合に、前記第2軸に係るトルクを一時的に引き下げ、当該第2軸に係るトルクの引き下げ速度を、前記第1軸の再粘着制御の前記第1軸に係る減速度のマイナス値又は加速度のプラス値に基づいて変更する、
電動機制御方法。
【請求項2】
前記第1軸の再粘着制御中の前記第1軸に係る減速度のマイナス値または加速度のプラス値に基づいて、前記第2軸に係るトルクの引き下げ量を変更する、
請求項1に記載の電動機制御方法。
【請求項3】
第1軸の機械ブレーキの制御として、前記第1軸の滑走の発生を検知した場合に前記第1軸のブレーキ力を低減させ、前記第1軸の再粘着検知用状態値が再粘着したと判定するための閾値条件として定められた再粘着検知用閾値条件を満たした場合に当該ブレーキ力を増加させる再粘着制御を行っている際に、第2軸を駆動する電動機を制御する制御装置であって、
前記第1軸の再粘着制御において前記再粘着検知用閾値条件を満たした場合、或いは、前記第1軸の再粘着検知用状態値が再粘着直前と判定するための閾値条件として定められた再粘着直前検知用閾値条件を満たした場合に、前記第2軸に係るトルクを一時的に引き下げる第2軸引き下げ手段、
を備え
前記第2軸引き下げ手段は、前記第2軸に係るトルクの引き下げ速度を、前記第1軸の再粘着制御の前記第1軸に係る減速度のマイナス値又は加速度のプラス値に基づいて変更する、
制御装置。
【請求項4】
前記第1軸の再粘着制御を行う、
請求項に記載の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動機を制御する電動機制御方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
電動機で動輪を駆動して走行する車両として鉄道車両である電気車の他、電気自動車、燃料電池自動車等が知られているが、以下、その代表例として電気車について説明する。電気車は車輪・レール間の接線力(粘着力とも呼ばれる。)によって加減速がなされる。電動機の発生トルク(以下単に「トルク」という。)により生じる駆動力が、車輪とレールとに働く粘着力以下であれば粘着走行がなされるが、粘着力を超えた場合には空転又は滑走(以下「空転滑走」という。)が生じる。空転滑走の発生が検知された場合には、トルクを引き下げ、引き下げた状態を保持した後に元のトルクに復帰させる再粘着制御が行われる。
【0003】
その再粘着制御において、空転滑走した軸が再粘着する際に、再粘着による接線力の回復によって車両が前後に変動して乗り心地が悪化する場合がある。
【0004】
再粘着制御の技術とは異なる技術であるが、車輪のすべりを許容して接線力を獲得する技術が特許文献1に開示されている。特許文献1には、すべりを許容している空転中の車輪とレール間の粘着条件が好転し、空転している車輪が急激に自然再粘着する場合がある([0010]段落参照)ため、再粘着が検知された場合には、1C2M(1インバータ2モータ)方式の制御対象2軸のトルクを引き下げる技術が開示されている([0016]段落、図1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2009-100603号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の主たる課題は、上述した通り、再粘着制御において、空転滑走した軸が再粘着する際に、再粘着による接線力の回復によって生じ得る乗り心地の悪化を抑制することである。
【0007】
この主たる課題に対して、特許文献1の技術を適用する方策が考えられる。しかしながら、まず問題となるのが、再粘着制御の技術とは異なる特許文献1の技術をいつどのようにして適用すべきかである。そもそも特許文献1の技術が想定している正常な走行状態は、すべりを許容している状態であるからである。また、制御対象となっている全軸のトルクを引き下げ、その後に全軸のトルクを復帰させることは、却って乗り心地が悪化する心配がある。
【0008】
本発明は、上述した背景に基づいて考案されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の発明は、
第1軸を駆動する電動機の制御として、前記第1軸の空転又は滑走(以下「空転滑走」という。)の発生を検知した場合に前記第1軸に係るトルクを引き下げ、前記第1軸の再粘着検知用状態値が再粘着したと判定するための閾値条件として定められた再粘着検知用閾値条件を満たした場合に当該トルクの復帰制御を開始して復帰させる前記第1軸の再粘着制御が行われている際に、第2軸を駆動する電動機を制御する電動機制御方法(例えば、図2の副次引き下げ制御処理)であって、
前記第1軸の再粘着制御において前記再粘着検知用閾値条件を満たした場合、或いは、前記第1軸の再粘着検知用状態値が再粘着直前と判定するための閾値条件として定められた再粘着直前検知用閾値条件を満たした場合に、前記第2軸に係るトルクを一時的に引き下げる、
電動機制御方法である。
【0010】
また、他の発明として、
第1軸を駆動する電動機の制御として、前記第1軸の空転又は滑走(以下「空転滑走」という。)の発生を検知した場合に前記第1軸に係るトルクを引き下げ、前記第1軸の再粘着検知用状態値が再粘着したと判定するための閾値条件として定められた再粘着検知用閾値条件を満たした場合に当該トルクの復帰制御を開始して復帰させる前記第1軸の再粘着制御が行われている際に、第2軸を駆動する電動機を制御する制御装置(例えば、図5の制御装置30-1、図6の第2軸に係る制御装置32、図7の統括制御装置300)であって、
前記第1軸の再粘着制御において前記再粘着検知用閾値条件を満たした場合、或いは、前記第1軸の再粘着検知用状態値が再粘着直前と判定するための閾値条件として定められた再粘着直前検知用閾値条件を満たした場合に、前記第2軸に係るトルクを一時的に引き下げる第2軸引き下げ手段(例えば、図5の副次指令生成部60-1、図6の第2軸に係る副次指令生成部62、図7の統括副次指令生成部360)、
を備えた制御装置を構成することとしてもよい。
【0011】
さらには、この制御装置が、前記第1軸の再粘着制御を行う、こととしてもよい。
【0012】
この第1の発明等によれば、第1軸に空転滑走が発生して再粘着制御を行って第1軸が再粘着する際に、第2軸のトルクが引き下げられるため、第1軸の再粘着制御はそのまま続行することができる。その一方で、第1軸の再粘着により回復する接線力が、再粘着制御を行っていない第2軸のトルクの引き下げ分と相殺される。結果、第1軸が再粘着する前後における第1軸および第2軸の合計引張力の変化が低減され、乗り心地の悪化が抑制され得る。
【0013】
また、第2の発明は、
前記第1軸の再粘着制御が前記第1軸の空転に対する再粘着制御の場合には、当該再粘着制御中の前記第1軸に係る加速度のマイナス値に基づいて、滑走に対する再粘着制御の場合には、当該再粘着制御中の前記第1軸に係る減速度のマイナス値または加速度のプラス値に基づいて、前記第2軸に係るトルクの引き下げ量を変更する、
第1の発明の電動機制御方法である。
【0014】
この第2の発明によれば、第2軸のトルクの引き下げ量を可変にできる。具体的には、第1軸の空転に対する再粘着制御の場合には、当該再粘着制御中の第1軸に係る加速度のマイナス値に基づいて第2軸のトルクの引き下げ量を決定し、第1軸の滑走に対する再粘着制御の場合には、当該再粘着制御中の第1軸に係る減速度のマイナス値または加速度のプラス値に基づいて第2軸のトルクの引き下げ量を決定することで、乗り心地の悪化を一層抑制し得る。
【0015】
また、第3の発明は、
前記第1軸の再粘着制御が前記第1軸の空転に対する再粘着制御の場合には、当該再粘着制御中の前記第1軸に係る加速度のマイナス値に基づいて、滑走に対する再粘着制御の場合には、当該再粘着制御中の前記第1軸に係る減速度のマイナス値又は加速度のプラス値に基づいて、前記第2軸に係るトルクの引き下げ速度を変更する、
第1又は第2の発明の電動機制御方法である。
【0016】
この第3の発明によれば、第2軸のトルクの引き下げ速度を可変にできる。具体的には、空転滑走中の接線力と再粘着時の引張力(ブレーキ力)の差が大きいほど、さらに、その時間変化が大きいほど、車両には瞬間的に強い前後動が生じ得ると言える。そのため、回復する接線力の大きさが大きいと見込まれるほど、素早く第2軸のトルクを引き下げることで、乗り心地の悪化を効果的に抑制できる可能性を高めることができる。
【0017】
第4の発明は、
第1軸の機械ブレーキの制御として、前記第1軸の滑走の発生を検知した場合に前記第1軸のブレーキ力を低減させ、前記第1軸の再粘着検知用状態値が再粘着したと判定するための閾値条件として定められた再粘着検知用閾値条件を満たした場合に当該ブレーキ力を増加させる再粘着制御が行われている際に、第2軸を駆動する電動機を制御する電動機制御方法(例えば図10の副次引き下げ制御処理)であって、
前記第1軸の再粘着制御において前記再粘着検知用閾値条件を満たした場合、或いは、前記第1軸の再粘着検知用状態値が再粘着直前と判定するための閾値条件として定められた再粘着直前検知用閾値条件を満たした場合に、前記第2軸に係るトルクを一時的に引き下げる、
電動機制御方法である。
【0018】
また、他の発明として、
第1軸の機械ブレーキの制御として、前記第1軸の滑走の発生を検知した場合に前記第1軸のブレーキ力を低減させ、前記第1軸の再粘着検知用状態値が再粘着したと判定するための閾値条件として定められた再粘着検知用閾値条件を満たした場合に当該ブレーキ力を増加させる再粘着制御を行っている際に、第2軸を駆動する電動機を制御する制御装置(例えば、図8の機械ブレーキ制御装置36-1、図9の制御装置32-2)であって、
前記第1軸の再粘着制御において前記再粘着検知用閾値条件を満たした場合、或いは、前記第1軸の再粘着検知用状態値が再粘着直前と判定するための閾値条件として定められた再粘着直前検知用閾値条件を満たした場合に、前記第2軸に係るトルクを一時的に引き下げる第2軸引き下げ手段(例えば、図8の副次指令生成部66-1、図9の副次指令生成部62-2)、
を備えた制御装置を構成することとしてもよい。
【0019】
さらには、この発明の制御装置が、前記第1軸の再粘着制御を行う、こととしてもよい。
【0020】
第4の発明等によれば、第1軸のブレーキが機械ブレーキであった場合に、第1の発明と同様の作用効果を発揮することができる。
【0021】
また、第5の発明として、
前記第1軸の再粘着制御中の前記第1軸に係る減速度のマイナス値または加速度のプラス値に基づいて、前記第2軸に係るトルクの引き下げ量を変更する、
第4の発明の電動機制御方法を構成することとしてもよい。
【0022】
また、第6の発明として、
前記第1軸の再粘着制御の前記第1軸に係る減速度のマイナス値又は加速度のプラス値に基づいて、前記第2軸に係るトルクの引き下げ速度を変更する、
第4又は第5の発明の電動機制御方法を構成することとしてもよい。
【0023】
この第5,第6の発明によれば、第2,第3の発明と同様の作用効果を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】再粘着制御の流れを説明するための図。
図2】再粘着制御処理と副次引き下げ制御処理の流れを説明するための図。
図3】副次引き下げ量の係数を説明するための図。
図4】副次引き下げ速度の係数を説明するための図。
図5】第1実施例の回路ブロック図。
図6】第2実施例の回路ブロック図。
図7】第3実施例の回路ブロック図。
図8図5に対応する変形例における回路ブロック図。
図9図6に対応する変形例における回路ブロック図。
図10】変形例における再粘着制御処理と副次引き下げ制御処理の流れを説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照して、本発明の好適な実施形態を説明する。尚、以下では、本発明を電気車に適用した場合を説明するが、電動機で動輪を駆動して走行する車両(電動車両)であれば、電気自動車や燃料電池自動車にも適用することが可能である。
【0026】
まず、再粘着制御について図1を参照して説明する。図1は、空転に係る再粘着制御を説明するための図であり、空転が発生していない一定加速中の状態から空転が発生し、再粘着制御を行って再粘着するまでの一連の各信号波形の概略を示している。横軸を時刻tとして、上から順に、制御対象の動軸(動輪とも言える)の回転に係る速度V及び基準速度Vmを示すグラフ、速度Vから検出される制御対象軸の加速度αを示すグラフ、制御対象軸に係るトルクである電動機トルク(以下適宜、単に「トルク」と省略する)τを示すグラフを示す。空転が発生していない力行状態では、速度Vは基準速度Vmにほぼ一致し、加速度αは正の略一定値を保ち、トルクτはほぼ一定に保たれている。空転が発生すると、速度Vが上昇し始め、基準速度Vmとの差分である速度差ΔVが増加する。そして、時刻t1において、速度差ΔVが予め定められた空転滑走検知閾値Vtに達すると、空転の発生が検知される。空転発生の検知は、加速度αに基づいて検知することも可能である。加速度αが、粘着走行では取り得ない正の加速度として予め定められた空転滑走検知閾値αtに達すると、空転の発生が検知される。また、速度差ΔVに基づく判定と、加速度αに基づく判定とのOR条件、或いは、AND条件として空転の発生を検知することもできる。
【0027】
空転の発生が検知されると、再粘着制御が発動されて、トルクτの引き下げ(制御の側面からより正確に述べると、電動機に対するトルク分電流の引き下げ)が開始される。トルクτの引き下げは、予め定められた引き下げ速度Wtで継続的に行われる。即ち、トルクτの引き下げ量を増加させていく。トルクτが引き下げられると、加速度αの増加が次第に抑えられ、減少に転ずる。この間、速度Vは上がり続けるが、加速度αがゼロとなる時刻t2では、速度Vの増加もゼロとなる。この加速度αがゼロとなったことを、空転からもとの粘着走行への回復開始として検知する(回復検知)。なお、本実施形態における、ここでの回復検知は、物理的に実際に回復したと断定できる検知では無く、制御上、回復開始とみなす検知である。従って、回復検知とする加速度αをゼロとして説明したが、説明の簡明化のためにゼロとしたものであって、所定の回復検知閾値(例えばゼロではなく、“+1”や“-1”)に達した場合に回復開始として検知することとしてよい。勿論、物理的に実際に回復したと判断できる時点(或いはこの時点に極めて近い時点)を検知するために、引張力が接線力以下となる列車加速度相当値未満となるまで引き下げたときを、回復開始として検知してもよい。
【0028】
回復検知がなされると、トルクτの引き下げを停止して、引き下げ量を保持する。すると、マイナスとなっていた加速度αの減少スピードが次第に抑えられ、やがて増加に転じる。また、基準速度Vmからの乖離幅が大きくなっていた速度Vが低下し始める。そして、速度差ΔVが予め定められた再粘着検知閾値Vr以下になると、再粘着したとして再粘着検知がなされ(時刻t3)、復帰動作用の制御が開始される。すなわち、保持していたトルクτの引き下げ量を減少させてトルクτを復帰させる制御が開始される。そして、トルクτが所定の目標トルク値(例えば、再粘着制御の開始時点(時刻t1)における値)まで復帰した時刻t4において、再粘着制御の終了となる。
【0029】
また、再粘着の検知は、加速度αに基づいて検知することも可能である。例えば、回復検知後のトルクτの引き下げ量が保持されている間(時刻t2以降)に加速度αの増減傾向が逆転したことをもって再粘着が検知したと判定してもよい。また、速度差ΔVに基づく判定と、加速度αに基づく判定とのOR条件、或いは、AND条件として再粘着を検知することもできる。速度Vや速度差ΔV、加速度αは再粘着検知用状態値の一例である。また、再粘着検知閾値Vrや、加速度αの増減傾向の逆転は、再粘着検知用閾値条件の一例である。
【0030】
なお、図1を参照して空転の場合を説明したが、滑走の場合も同様である。滑走の場合は、ブレーキ動作中であるため速度Vが徐々に低下状態にあるところ、滑走の発生によって速度Vが基準速度Vmよりも低くなり、速度差ΔVが滑走検知閾値に達すると、滑走の発生が検知される。図1の速度Vのグラフを上下反転させたようなグラフとなる。
【0031】
また、加速度αもまた、図1の加速度αのグラフを加速度ゼロで折り返すように上下反転させたようなグラフとなる。すなわち、滑走が発生していない状態では加速度αは負の略一定値を保っているところ、滑走の発生によって加速度αが急低下する。そして、加速度αが滑走検知閾値に達すると、滑走の発生が検知される。
【0032】
トルクτのグラフは図1と同様である。滑走の発生が検知されるとトルクτが引き下げられ、トルクτの引き下げによって加速度αの増減傾向が反転し、加速度αがゼロ(或いはゼロ近傍の値)となったことで粘着走行への回復開始として検知する(回復検知)。回復検知がなされると、トルクτの引き下げを停止して引き下げ量を保持する。すると、プラスとなっていた加速度αの増加スピードが次第に抑えられ、やがて増減傾向の更なる反転が生じて減少に転じる。また、基準速度Vmからの乖離幅が大きくなっていた速度Vが増加し始める。その後、速度差ΔVが再粘着検知閾値Vr以下となると再粘着検知がなされ、保持していたトルクτの引き下げ量を減少させてトルクτを復帰させる制御が開始される。
【0033】
空転滑走した軸に対する再粘着制御は上述の通りであり、いわば従来通りの制御を適用することができる。本実施形態の特徴の1つは、再粘着制御の対象となっている空転滑走軸ではない健全軸に係るトルクを、空転滑走軸の再粘着制御において再粘着検知用閾値条件を満たした場合、或いは、空転滑走軸の再粘着検知用状態値が再粘着直前と判定するための閾値条件として定められた再粘着直前検知用閾値条件を満たした場合に一時的に引き下げる制御にある。この引き下げ処理のことを「副次引き下げ制御処理」と呼び、以下具体的に説明する。
【0034】
図2は、副次引き下げ制御処理の流れを説明するための図であり、図1を参照して説明した再粘着制御の処理の流れとの関係を示している。
まず、ある軸に空転滑走の発生が検知されると(ステップA2)、再粘着制御が開始される。このとき、運転状態が力行状態なのかブレーキ状態なのか、或いは、加速中か減速中か、或いは、基準速度Vmよりも速度Vが高いか低いか、等に基づいて空転と滑走の何れが発生して再粘着制御が開始されたかが認知される(ステップB2)。
【0035】
次いで、空転滑走軸に係るトルクの引き下げが開始され(ステップA4)、回復検知がなされると(ステップA6)、副次引き下げ制御処理側では、空転滑走軸の加速度αの監視が開始される(ステップB6)。具体的には、空転に対する再粘着制御であれば加速度αの最小値を随時更新記憶することとし、滑走に対する再粘着制御であれば加速度αの最大値を随時更新記憶する。この加速度αの監視は、図1に示す時刻t2~t3間の加速度αの極値を取得することに相当する。時刻t2~t3間の加速度αの極値は、空転に対する再粘着制御であればマイナス値となり、滑走に対する再粘着制御であればプラス値となる。但し、滑走に対する再粘着制御において加速度αではなく減速度βを用いるのであれば、時刻t2~t3間の減速度βの極値はマイナス値となる。
空転滑走軸の加速度αの監視は、回復検知の前から、空転滑走軸の空転滑走の発生が検知されことで開始することとしてもよい。
【0036】
次いで、副次引き下げ制御処理においては、空転滑走軸が再粘着直前の状態に至ったかを検知する(ステップB8)。具体的には、再粘着検知の条件を緩やかにした条件、例えば再粘着検知条件の閾値の1.05倍や1.1倍等、再粘着検知条件とする閾値より大きな値の閾値条件であって、再粘着検知用閾値条件を満たす場合には原則、再粘着直前検知用閾値条件を満たすような閾値条件を定める。そして、空転滑走軸に係る速度Vや速度差ΔV、加速度αなどを判定対象として再粘着検知と同様の手法で再粘着直前の状態かを検知する。
【0037】
そして、空転滑走軸が再粘着直前の状態に至ったと検知された場合には副次引き下げの実行是非を判定して副次引き下げを実行する(ステップB12~B14)。また、何らかの要因により再粘着直前の状態に至ったことが検知されなかった場合であっても(ステップB12:NO)、再粘着制御での再粘着検知(ステップA10)がなされた場合には(ステップB10:YES)、副次引き下げの実行是非の判定および副次引き下げの実行を行う(ステップB12~B14)。
【0038】
副次引き下げの実行是非の判定は、ステップB6で監視していた空転滑走軸の加速度αの大きさに基づく。具体的には、空転に対する再粘着制御であれば加速度αの最小値の大きさ、滑走に対する再粘着制御であれば加速度αの最大値の大きさが、所定の最小閾値以下であれば、副次引き下げを行わないこととする(ステップB12:NO)。
【0039】
副次引き下げを行う場合、次の数式に従って第2軸に係るトルクを引き下げる。
(空転時)
副次引き下げ量τ=係数K×標準引き下げ量τ ・・・(1)
副次引き下げ速度W=係数K×標準引き下げ速度W ・・・(2)
(滑走時)
副次引き下げ量τ=係数K×標準引き下げ量τ ・・・(3)
副次引き下げ速度W=係数K×標準引き下げ速度W ・・・(4)
【0040】
空転時の標準引き下げ量τおよび標準引き下げ速度W、滑走時の標準引き下げ量τおよび標準引き下げ速度Wは、予め定められた所定値である。空転滑走していない健全軸に係るトルクを副次的に引き下げることから、標準引き下げ量τや標準引き下げ速度Wは、再粘着制御における空転滑走軸のトルク引き下げ量や引き下げ速度に比べて小さいことは勿論である。
【0041】
副次引き下げ量の係数Kは、図3に示すように、ステップB6で監視していた空転滑走軸の加速度αの大きさに応じて決定される。図3は、横軸にステップB6で監視していた空転滑走軸の加速度αの大きさをとり、その加速度αの大きさに応じた係数Kの値を示すグラフである。加速度αの大きさが所定の最小閾値以下の場合には係数Kの値は0(ゼロ)となり、加速度αの大きさが所定の最大閾値以上の場合には係数Kの値は1以上の上限値となる。
【0042】
すなわち、再粘着制御が空転に対する再粘着制御の場合には、空転滑走軸に係る加速度αのマイナス値に基づいて、滑走に対する再粘着制御の場合には、空転滑走軸に係る加速度αのプラス値(減速度βとするならばマイナス値)に基づいて、健全軸に係るトルクの引き下げ量を変更することとなる。
【0043】
再粘着時においては、空転滑走中の接線力と再粘着時の引張力(ブレーキ力)の差が大きいほど、さらに、その時間変化が大きいほど、車両には瞬間的に強い前後動が生じ得ると言える。そのため、回復する接線力の大きさが大きいと見込まれるほど、素早く健全軸のトルクを引き下げることで、乗り心地の悪化を効果的に抑制できる可能性が高まる。そこで、空転に対する再粘着制御の場合には、空転滑走軸に係る加速度αのマイナス値に基づいて健全軸のトルクの引き下げ量を決定し、滑走に対する再粘着制御の場合には、空転滑走軸に係る加速度αのプラス値に基づいて健全軸のトルクの引き下げ量を決定することで、乗り心地の悪化を抑制させ得る方向に制御する。
【0044】
また、副次引き下げ速度の係数Kは、図4に示すように、ステップB6で監視していた空転滑走軸の加速度αの大きさに応じて決定される。図4は、横軸にステップB6で監視していた空転滑走軸の加速度αの大きさをとり、その加速度αの大きさに応じた係数Kの値を示すグラフである。加速度αの大きさが所定の最小閾値以下の場合には係数Kの値は0(ゼロ)となり、加速度αの大きさが所定の最大閾値以上の場合には係数Kの値は1以上の上限値となる。
【0045】
すなわち、再粘着制御が空転に対する再粘着制御の場合には、空転滑走軸に係る加速度αのマイナス値に基づいて、滑走に対する再粘着制御の場合には、空転滑走軸に係る加速度αのプラス値(減速度βとするならばマイナス値)に基づいて、健全軸に係るトルクの引き下げ速度を変更することとなる。
【0046】
空転滑走中の接線力と再粘着時の引張力(ブレーキ力)の差が大きいほど、さらに、その時間変化が大きいほど、再粘着時に車両には瞬間的に強い前後動が生じ得ると言える。そのため、回復する接線力の大きさが大きいと見込まれること、すなわち空転滑走軸の加速度αの大きさが大きいほど、素早く健全軸のトルクを引き下げることで、乗り心地の悪化を効果的に抑制できる可能性を高めることができる。
【0047】
図2に戻る。副次引き下げ量の係数Kおよび副次引き下げ速度の係数Kが決まることで、副次引き下げ量τおよび副次引き下げ速度Wが決まる。そこで、この決まった副次引き下げ量τおよび副次引き下げ速度Wに従って健全軸に係るトルクを一時的に引き下げる(ステップB14)。制御の側面から正確に述べると、健全軸を駆動する電動機に対するトルク分電流を、副次引き下げ速度Wで副次引き下げ量τ分だけ引き下げる制御を行うこととなる。制御の内部処理としては、トルク分電流の引き下げ指令(副次引き下げ指令)を生成し、この引き下げ指令値分、電動機のベクトル演算制御のトルク指令値を減算することとなる。
副次引き下げを行う時間は、例えば1~3秒間といった所定時間とすることができる。
【0048】
一方、空転滑走軸については、再粘着が検知されて後(ステップA10)、トルクの復帰制御が開始されて(ステップA12)、所定の目標トルク値に復帰されることで再粘着制御が終了となる。
【0049】
以上のようにして、空転滑走が発生して再粘着制御を行って空転滑走軸が再粘着する際に、健全軸のトルクが引き下げられる。空転滑走軸の再粘着制御はそのまま続行されるため、空転滑走軸の再粘着により接線力が回復するが、その回復する接線力は、再粘着制御を行っていない健全軸のトルクの引き下げ分と相殺される。結果、空転滑走軸が再粘着する前後における空転滑走軸および健全軸の合計引張力の変化が低減され、乗り心地の悪化が抑制されることとなる。また、空転滑走軸に対する再粘着制御(特に、再粘着時の引張力の変化)を起因とした、健全軸の誘発的な空転滑走の発生を防止し得る効果も期待できる。
【0050】
次に、本実施形態を適用した電動機制御装置の3つの実施例について説明する。
【0051】
[第1実施例]
図5は、本実施形態を適用した第1実施例の回路ブロック図であり、電気車の主回路のうち、本実施形態に関わる回路ブロックを概略的に示した図である。電動機の制御は個別制御(いわゆる1C1M)である。また、第1軸および第2軸の2つの軸(電動機が駆動する駆動軸)を対象に説明するが、3以上の軸を本実施形態の対象としてもよいことは勿論である。以下、図5を参照して第1軸に係る主回路のみを説明するが、第2軸も同様の構成である。
【0052】
第1軸に係る主回路は、電動機10-1と、パルスジェネレータ15-1と、電流センサ17-1と、インバータ20-1と、制御装置30-1とを備えて構成される。
電動機10-1は、インバータ20-1から電力が供給されることで車軸を回転駆動する主電動機であり、例えば三相誘導電動機で実現される。パルスジェネレータ15-1は、電動機10-1によって駆動される動軸(第1軸)の回転を検出する回転検出器であり、検出信号であるPG信号を速度・加速度検出部40-1に出力する。
【0053】
電流センサ17-1は、電動機10-1の入力端に設けられ、電動機10-1に流入するU相及びV相の電流Iu,Ivを検出する。インバータ20-1には、パンタグラフや主変圧器、或いはコンバータを介して架線からの電力が供給される。インバータ20-1は、ベクトル演算制御装置90-1から入力されるU相、V相及びW相それぞれの電圧指令値Vu,Vv,Vwに基づいて出力電圧を調整し、電動機10-1に給電する。
【0054】
制御装置30-1は、電動機10-1をベクトル制御する電動機制御装置である。この制御装置30-1は、CPUやROM、RAM等の各種メモリから構成されるコンピュータや各種の電子回路等によって実現され、例えば制御ボードとして実装されたり、或いはインバータ20-1を含めて一体的にインバータ装置として構成される。インバータ20-1と一体的に構成される場合には、インバータ20-1および制御装置30-1が電動機制御装置となる。
【0055】
制御装置30-1は、速度・加速度検出部40-1と、再粘着制御装置50-1と、副次指令生成部60-1と、ベクトル演算制御装置90-1とを備え、電動機10-1をベクトル制御するための電圧指令値Vu,Vv,Vwの生成や上述した再粘着制御並びに副次引き下げ制御処理を行う。
【0056】
具体的には、ベクトル演算制御装置90-1は、電流センサ14-1により検出された電動機10-1に流入する電流から、d軸成分である励磁電流成分Id及びq軸成分であるトルク電流成分(トルク分電流)Iqを求める。そして、求めた励磁電流成分Id及びトルク電流成分(トルク分電流)Iqの他、パルスジェネレータ15-1により検出されたPG信号、速度・加速度検出部40-1により検出された速度V及び加速度α、不図示の電流指令生成装置から入力される電流指令値Id,Iq、再粘着制御装置50-1から入力されるトルク引き下げ指令信号、第2軸の制御装置から入力される副次引き下げ指令(トルク引き下げ指令)信号等に基づいて、インバータ20-1に対する電圧指令値Vu,Vv,Vwを生成する。
【0057】
速度・加速度検出部40-1は、公知の演算処理/信号処理等によりPG信号から自軸(第1軸)の速度Vおよび加速度αを検出する。検出した速度Vおよび加速度αは再粘着制御装置50-1および副次指令生成部60-1に出力される。
【0058】
再粘着制御装置50-1は、図1および図2を参照して説明した再粘着制御処理を実行する。具体的には、所与の基準速度Vm、速度・加速度検出部40-1で検出された速度Vおよび加速度αに基づいて、空転滑走の検知や回復検知、再粘着検知等の各種の検知を行って空転滑走した自軸(第1軸)を再粘着させる制御を行う。この再粘着制御においては、電動機10-1の発生トルクを制御して動輪を再粘着させるためのトルク引き下げ指令信号を生成してベクトル演算制御装置90-1に出力する。ここで、基準速度Vmは電気車の走行速度(例えば運転台から得られる速度)に応じた電動機駆動軸の回転速度としてもよいし、T車の従輪の速度や、車両内の各軸の速度のうち、力行時であれば最小値、ブレーキ時であれば最大値等として決定してもよい。
【0059】
また、再粘着制御装置50-1は、空転滑走検知、回復検知、再粘着検知のそれぞれの検知結果を副次指令生成部60-1に出力する。
【0060】
副次指令生成部60-1は、図2を参照して説明した副次引き下げ制御処理を実行する。具体的には、所与の基準速度Vm、速度・加速度検出部40-1で検出された速度Vおよび加速度α、並びに、再粘着制御装置50-1による各種検知結果(空転滑走検知、回復検知、再粘着検知)に基づいて、第2軸に係るトルクを副次的に引き下げるための副次引き下げ指令を生成・出力する。
【0061】
以上の第1実施例の制御装置30(30-1,・・・)によれば、空転滑走の発生が検知された場合には、トルクの引き下げが行われた後、再粘着検知用状態値が再粘着したと判定するための閾値条件として定められた再粘着検知用閾値条件を満たした場合に当該トルクの復帰制御を開始して復帰させる再粘着制御が行われることとなる。
【0062】
そして、自軸に対する再粘着制御を行っている過程で、再粘着検知用閾値条件を満たした場合、或いは、自軸の再粘着検知用状態値が再粘着直前と判定するための閾値条件として定められた再粘着直前検知用閾値条件を満たした場合には、他軸に係るトルクを一時的に引き下げるための副次引き下げ指令を生成して他軸に出力する。
【0063】
逆に、他軸における再粘着制御の過程で、自軸に係るトルクを一時的に引き下げるための副次引き下げ指令が生成されると、自軸に入力されることとなる。
【0064】
この結果、何れかの軸で再粘着制御が行われた場合には、当該軸が再粘着する際に他軸のトルクが一時的に引き下げられるため、再粘着前後における各軸の合計引張力の変化が低減されて、乗り心地の悪化が抑制されることとなる。
【0065】
[第2実施例]
次に、図6を参照して第2実施例について説明する。
図6は、本実施形態を適用した第2実施例の回路ブロック図である。第1実施例との違いは、副次指令生成部62-1である。第1実施例の副次指令生成部60-1は、自軸の情報に基づいて他軸のトルクを副次的に引き下げるための副次引き下げ指令を生成して他軸に出力した。第2実施例の副次指令生成部62-1は、他軸の情報に基づいて自軸のトルクを副次的に引き下げるための副次引き下げ指令を生成して、自軸のベクトル演算制御装置90-1に出力する。
【0066】
そのため、速度・加速度検出部40-1が検出した情報および再粘着制御装置50-1による検知結果の情報は、自軸の情報として他軸に出力され、同様の他軸の情報が他軸から入力されることとなる。
【0067】
[第3実施例]
次に、図7を参照して第3実施例について説明する。
図7は、本実施形態を適用した第3実施例の回路ブロック図である。第3実施例は、各軸の制御装置を統括して制御する上位装置として、統括制御装置300がある場合の実施例である。統括制御装置300は、各軸の再粘着制御および副次引き下げ制御を一括して実行する装置であり、統括再粘着制御部350および統括副次指令生成部360を有して構成される。また、図示していないが、各軸の速度Vおよび加速度αを検出する検出部も有して構成される。
【0068】
統括再粘着制御部350は、図1および図2を参照して説明した再粘着制御を各軸について実行する制御部であり、各軸のPG信号を入力して各軸の空転滑走の発生を検知するとともに、各軸のトルク引き下げ・復帰制御を行い、トルク引き下げ指令信号を生成して各軸の制御装置33(33-1,・・・)に出力する。
【0069】
統括副次指令生成部360は、図2を参照して説明した副次引き下げ制御を各軸について実行する制御部である。ある軸について統括再粘着制御部350が再粘着制御を実行する場合、当該軸の再粘着検知の際(再粘着検知用閾値条件を満たした場合、或いは、再粘着検知用状態値が再粘着直前と判定するための閾値条件として定められた再粘着直前検知用閾値条件を満たした場合)に、他軸に係るトルクを一時的に引き下げる副次引き下げ指令信号を生成して、他軸の制御装置33(33-1,・・・)に出力する。
【0070】
[変形例]
以上、本発明を適用した実施形態を説明したが、本発明が適用可能な実施形態はこれらに限られるわけではない。
例えば、電気車への適用について説明したが、電動機で動輪を駆動して走行する車両(電動車両)であれば、電気自動車や燃料電池自動車に本発明を適用できることは勿論である。
【0071】
また、制御対象の軸数を「2」として図示及び説明したが、「3」以上であってもよい。その場合、ある1軸が空転滑走軸となった場合、残りの健全軸が副次引き下げ制御処理の対象となる。
【0072】
また、上述した実施形態では、PG信号をもとに速度及び加速度を検出することとして説明した。しかし、速度センサレスベクトル制御の技術を適用して、パルスジェネレータ等の速度センサを不要として速度及び加速度を検出することとしてもよい。具体的には、速度・加速度検出部40-1は、電動機10-1に供給される電動機電流・電圧から回転速度を推定することで、軸速度Vを検出(推定)し、更に加速度αを検出(推定)することとしてもよい。
【0073】
また、図2のステップB12において副次引き下げを実行するか否かを判定することとしたが、このステップを省略することとしてもよい。係数Kや係数Kが0(ゼロ)となることで、実質的に副次引き下げを実行しないこととすることができるからである。
【0074】
また、上述した実施形態では、再粘着制御の対象軸は電動機で駆動されており、電動機の制御によって再粘着制御を実施することとして説明した。例えば、第1軸の滑走が検知されて第1軸の再粘着制御を行う場合には、第1軸を駆動する電動機の制御(いわゆる電制ブレーキの制御)によって再粘着制御を行うこととして説明した。しかし、第1軸のブレーキは、いわゆる機械ブレーキであってもよい。
【0075】
図面を参照して説明する。
図8,9は、第1軸のブレーキを機械ブレーキとし、図5,6における第1軸の制御装置30-1,32-1を機械ブレーキ制御装置36-1,37-1とすることで、第1軸が滑走した際に機械ブレーキによる再粘着制御を行う仕組みを組み込んだ回路ブロック図である。図8は、図5に対応し、第2軸については図5の第2軸(ひいては図5の第1軸)に係る制御装置30から副次指令生成部60を除いた構成となっている。また、図9は、図6に対応し、第2軸については図6の第2軸(ひいては図6の第1軸)に係る制御装置32と同様の構成となっている。
【0076】
また、図8,9においては、機械ブレーキを空気ブレーキとして図示しているが、油圧ブレーキであっても同様である。また、空気ブレーキの一例として、空気圧によりブレーキシリンダ圧(以下「BC圧」という)を昇圧させることでブレーキ力を得る方式として説明する。
【0077】
図8,9の機械ブレーキ制御装置36-1,37-1は、所与のブレーキ指令に従って機械ブレーキを制御する制御装置であり、CPUやROM、RAM等の各種メモリから構成されるコンピュータや各種の電子回路等によって実現され、例えば制御ボードとして実装される装置である。機械ブレーキ制御装置36-1,37-1は、速度・減速度検出部46-1と、再粘着制御部56-1を含む給排気制御部76-1とを備える。
【0078】
速度・減速度検出部46-1は、図5,6の速度・加速度検出部40-1と同様である。
再粘着制御部56-1は、第1軸の滑走に対する再粘着制御を行う機能部であり、機械ブレーキに対する公知の再粘着制御技術を適用することができる。例えば、所与の基準速度Vm、速度・減速度検出部46-1で検出された速度Vおよび減速度βに基づいて、滑走検知や回復検知、再粘着検知等の各種の検知を行って滑走した自軸(第1軸)を再粘着させる制御を行う。再粘着制御においては、ブレーキ力を低減させるための指令信号(より具体的にはBC圧を低減させる指令信号)を生成して、BC圧の給排気制御に用いる。
【0079】
また、図8の機械ブレーキ制御装置36-1は、副次指令生成部66-1を備えており、再粘着制御部56-1が、滑走検知、回復検知、再粘着検知のそれぞれの検知結果を副次指令生成部66-1に出力する。
【0080】
給排気制御部76-1は、機械ブレーキであるブレーキ装置80の電磁弁82をON/OFF(開閉)することで、空気タンク81からブレーキシリンダ83への空気圧力の供給(給気)や、ブレーキシリンダ83内の空気圧力の排出(排気)を制御する。電磁弁82には、ブレーキシリンダ83の空気圧力の供給/抑止に係る抑止電磁弁と、ブレーキシリンダ83内の空気圧力の吐出に係る吐出電磁弁とがある。
【0081】
給排気制御部76-1による制御内容を簡単に説明すると、運転台等の外部から入力される「ブレーキ指令」によってブレーキの作動を指示されると、給気制御を開始する。すなわち、ブレーキ力を増加させる。次いで、再粘着制御部56-1によって滑走が検知されて低減指令が生成されると、給気を停止させるとともに、排気制御を開始する。すなわち、ブレーキ力を低下させる。続いて、低減指令が回復検知がなされた旨の指令信号に変化すると、排気制御を停止させて、ブレーキシリンダ83内の空気圧力(BC圧)を一定に保つ。すなわち、ブレーキ力を保持する。
【0082】
その後、再粘着制御部56-1が再粘着を検知することで、低減指令が解除されると、給気制御を再開してブレーキ力を増加させる。
【0083】
また、図8における副次指令生成部66-1は、図5の副次指令生成部60-1と同様の機能を有しており、第2軸に係るトルクを副次的に引き下げるための副次引き下げ指令を生成・出力する。第2軸は電動機で駆動され、図5の第1軸に係る制御装置30-1と同様の構成の制御装置30-2によって制御される。
【0084】
また、図9においては、図6と同様に、速度・減速度検出部46-1(図6の速度・加速度検出部40-1に相当)が検出した情報および再粘着制御部56-1(図6の再粘着制御装置に相当)による検知結果の情報は、第1軸の情報として他軸(この場合、第2軸)に出力される。そして、第2軸においては、図6の第1軸に係る制御装置32-1と同様の構成の制御装置32-2によって、副次指令が副次指令生成部62-2(図6の副次指令生成部62-1に相当)により生成されて、第2軸の電動機が制御される。
【0085】
本変形例における再粘着制御処理と副次引き下げ制御処理との流れを、図10に示す。
図10のステップE2~E12が図2のステップA2~A12に、図10のステップF2~F14が図2のステップB2~B14に対応する。処理の流れは、図2と同様である。
【符号の説明】
【0086】
10(10-1) 電動機
30(30-1) 制御装置
40(40-1) 速度・加速度検出部
50(50-1) 再粘着制御装置
60(60-1) 副次指令生成部
90(90-1) ベクトル演算制御装置
37-1 機械ブレーキ制御装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10