(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-07
(45)【発行日】2022-01-12
(54)【発明の名称】コロナウイルス不活化剤
(51)【国際特許分類】
A01N 25/30 20060101AFI20220104BHJP
C11D 1/22 20060101ALI20220104BHJP
C11D 1/72 20060101ALI20220104BHJP
C11D 1/83 20060101ALI20220104BHJP
A01P 1/00 20060101ALI20220104BHJP
A61K 31/185 20060101ALI20220104BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20220104BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20220104BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220104BHJP
A61K 31/77 20060101ALI20220104BHJP
D06M 13/256 20060101ALI20220104BHJP
【FI】
A01N25/30
C11D1/22
C11D1/72
C11D1/83
A01P1/00
A61K31/185
A61P31/14
A61P17/00 101
A61P43/00 121
A61K31/77
D06M13/256
(21)【出願番号】P 2020187003
(22)【出願日】2020-11-10
(62)【分割の表示】P 2020540368の分割
【原出願日】2020-07-17
【審査請求日】2020-11-10
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2020/026757
(32)【優先日】2020-07-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】598041566
【氏名又は名称】学校法人北里研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】八城 勢造
(72)【発明者】
【氏名】石田 悠記
(72)【発明者】
【氏名】森本 拓也
(72)【発明者】
【氏名】片山 和彦
(72)【発明者】
【氏名】芳賀 慧
(72)【発明者】
【氏名】戸高 玲子
【審査官】中島 芳人
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-069488(JP,A)
【文献】特開2002-069487(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0316939(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 25/
C11D 1/
A61K 31/
A61P 31/
A61P 17/
A61P 43/
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩、並びに、アルキル基の炭素数が12でエチレンオキサイド付加モル数が7であるポリオキシエチレンアルキルエーテル及びアルキル基の炭素数が12でエチレンオキサイド付加モル数が8であるポリオキシエチレンアルキルエーテルから選ばれる少なくとも1種のポリオキシエチレンアルキルエーテルをSARSコロナウイルス-2の汚染が懸念される対象に接触させることを含む非治療的なSARSコロナウイルス-2の不活化方法であって、
前記直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩の濃度(X)が12.5ppm以上、
前記ポリオキシエチレンアルキルエーテルの濃度(Y)が4.0ppm以上であり、且つ次式(1)を満たす、不活化方法。
Y≧5000×X
-1.5 (1)
【請求項2】
前記直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩の濃度(X)と前記ポリオキシエチレンアルキルエーテルの濃度(Y)が次式(1a)を満たす請求項1記載のSARSコロナウイルス-2の不活化方法。
Y≧6500×X
-1.5 (1a)
【請求項3】
前記直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩の濃度(X)が12.5ppm以上300ppm以下であり、前記ポリオキシエチレンアルキルエーテルの濃度(Y)が4.0ppm以上300ppm以下である請求項1又は2記載のSARSコロナウイルス-2の不活化方法。
【請求項4】
前記SARSコロナウイルス-2の汚染が懸念される対象が、硬質表面、繊維製品又は空間である請求項1~3のいずれか1項記載のSARSコロナウイルス-2の不活化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SARSコロナウイルス-2不活化剤に関する。
【背景技術】
【0002】
SARSコロナウイルス-2(Severe acute respiratory syndrome coronavirus 2,;SARS-CoV-2)は、SARSコロナウイルス(SARS-CoV)やMERSコロナウイルス(MERS-CoV)と同様ベータコロナウイルス属に属し、急性呼吸器疾患(COVID-19)の原因となるSARS関連コロナウイルスである。SARS-CoV-2は2019年に中国湖北省武漢市付近で発生が初めて確認され、その後、COVID-19の世界的流行(パンデミック)を引き起こしている。
【0003】
SARS-CoV-2の感染拡大に対応し、ウイルスの付着のおそれがある手や指、衣類、各種器具・部材を洗浄・消毒してウイルス不活性化により感染を予防するため、エタノールや界面活性剤、次亜塩素酸水等の消毒物資のSARS-CoV-2に対する有効性評価が実施されている。界面活性剤については、独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)における検証試験の結果、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム(0.1%以上)、アルキルグリコシド(0.1%以上)、アルキルアミンオキシド(0.05%以上)、塩化ベンザルコニウム(0.05%以上)、塩化ベンゼトニウム(0.05%以上)、塩化ジアルキルジメチルアンモニウム(0.01%以上)、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(0.2%以上)、脂肪酸カリウム(0.24%以上)、脂肪酸ナトリウム(0.22%以上)の計9種類にSARS-CoV-2不活化効果が認められたことが報告されている(非特許文献1)。前記括弧内の数値は各界面活性剤の最小有効濃度である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】” 新型コロナウイルスに対する消毒方法の有効性評価について最終報告をとりまとめました。~物品への消毒に活用できます~”、[online]、[令和2年7月8日検索]、インターネット<URL:https://www.nite.go.jp/information/osirase20200626.html>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、優れたSARS-CoV-2不活化効果を示すSARS-CoV-2不活化剤を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
従来の検証試験では、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムについては0.1%以上、ポリオキシエチレンアルキルエーテルについては0.2%以上の濃度でそれぞれSARS-CoV-2の不活化効果が認められていたが、本発明者は、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムとポリオキシエチレンアルキルエーテルとを一定の濃度関係で併用することによって、より低濃度でSARS-CoV-2不活化効果を示すことを見出した。
【0007】
本発明は、以下の1)~3)に係るものである。
1)直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩、並びに、アルキル基の炭素数が12でエチレンオキサイド付加モル数が7であるポリオキシエチレンアルキルエーテル及びアルキル基の炭素数が12でエチレンオキサイド付加モル数が8であるポリオキシエチレンアルキルエーテルから選ばれる少なくとも1種のポリオキシエチレンアルキルエーテルを有効成分とするSARSコロナウイルス-2不活化剤であって、
前記直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩の濃度(X)が12.5ppm以上、
前記ポリオキシエチレンアルキルエーテルの濃度(Y)が4.0ppm以上であり、且つ次式(1)を満たすSARSコロナウイルス-2不活化剤。
Y≧5000×X-1.5 (1)
2)直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩、並びに、アルキル基の炭素数が12でエチレンオキサイド付加モル数が7であるポリオキシエチレンアルキルエーテル及びアルキル基の炭素数が12でエチレンオキサイド付加モル数が8であるポリオキシエチレンアルキルエーテルから選ばれる少なくとも1種のポリオキシエチレンアルキルエーテルを有効成分とするSARSコロナウイルス-2感染症の予防剤であって、
前記直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩の濃度(X)が12.5ppm以上、
前記ポリオキシエチレンアルキルエーテルの濃度(Y)が4.0ppm以上であり、且つ次式(1)を満たすSARSコロナウイルス-2感染症の予防剤。
Y≧5000×X-1.5 (1)
3)直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩、並びに、アルキル基の炭素数が12でエチレンオキサイド付加モル数が7であるポリオキシエチレンアルキルエーテル及びアルキル基の炭素数が12でエチレンオキサイド付加モル数が8であるポリオキシエチレンアルキルエーテルから選ばれる少なくとも1種のポリオキシエチレンアルキルエーテルをSARSコロナウイルス-2の汚染が懸念される対象に接触させることを含むSARSコロナウイルス-2の不活化方法であって、
前記直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩の濃度(X)が12.5ppm以上、
前記ポリオキシエチレンアルキルエーテルの濃度(Y)が4.0ppm以上であり、且つ次式(1)を満たす、不活化方法。
Y≧5000×X-1.5 (1)
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、界面活性剤の低濃度での使用においてもSARS-CoV-2の不活化が可能で、SARS-CoV-2感染の拡大を防止又は低減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明では、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩と、アルキル基の炭素数が12でエチレンオキサイド付加モル数が7であるポリオキシエチレンアルキルエーテル及びアルキル基の炭素数が12でエチレンオキサイド付加モル数が8であるポリオキシエチレンアルキルエーテルから選ばれる少なくとも1種のポリオキシエチレンアルキルエーテルとをSARSコロナウイルス-2不活化のための有効成分として併用する。以下、本明細書においては「アルキル基の炭素数が12でエチレンオキサイド付加モル数が7であるポリオキシエチレンアルキルエーテル及びアルキル基の炭素数が12でエチレンオキサイド付加モル数が8であるポリオキシエチレンアルキルエーテルから選ばれる少なくとも1種のポリオキシエチレンアルキルエーテル」を単に「ポリオキシエチレンアルキルエーテル」と記載することがある。
【0010】
本発明において、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩は特に限定されるものではないが、SARS-CoV-2不活化の観点から、直鎖アルキル基の炭素数は、好ましくは8~18であって、より好ましくは9~16、さらに好ましくは9~15である。
直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩の塩を形成する対イオンは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニア、アルカノールアミン等が挙げられる。好ましくはアルカリ金属であり、より好ましくはナトリウムである。直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩は単独で用いてもよく、また複数を組み合わせて用いてもよい。
直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩は、市販品として入手可能であり、高純度に精製されていても、直鎖アルキル基の炭素数に分布があってもよい。また、常法により化学合成してもよい。
【0011】
本発明において、ポリオキシエチレンアルキルエーテルは、アルキル基の炭素数が12でエチレンオキサイド付加モル数が7であるポリオキシエチレンアルキルエーテル及びアルキル基の炭素数が12でエチレンオキサイド付加モル数が8であるポリオキシエチレンアルキルエーテルのいずれか一方又は両方を用いる。ポリオキシエチレンアルキルエーテルは、市販品として入手可能であり、高純度に精製されていても、エチレンオキサイド付加モル数に分布があるものを用いてもよい。また、常法により化学合成してもよい。
【0012】
本発明では、SARS-CoV-2不活化の観点から、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩の濃度(X(ppm))と、ポリオキシエチレンアルキルエーテルの濃度(Y(ppm))とが、次式(1)を満たす。
Y≧5000×X-1.5 (1)
【0013】
また、前記XとYは、SARS-CoV-2不活化の観点から、次式(1a)、更には次式(1b)を満たすことが好ましい。
Y≧6500×X-1.5 (1a)
Y≧8000×X-1.5 (1b)
【0014】
ここで、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩の濃度(X)は12.5ppm以上であり、ポリオキシエチレンアルキルエーテルの濃度(Y)は4.0ppm以上である。
直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩の濃度(X)は、SARS-CoV-2不活化の観点から、12.5ppm以上であって、好ましくは20.0ppm以上、より好ましくは25.0ppm以上、さらに好ましくは50.0ppm以上であり、また、コストや不活化対象へのダメージの観点から、300ppm以下であるのが好ましく、200ppm以下であるのがより好ましく、100ppm以下であるのがさらに好ましい。
また、ポリオキシエチレンアルキルエーテルの濃度(Y)は、SARS-CoV-2不活化の観点から、4.0ppm以上であって、好ましくは10.0ppm以上、より好ましくは25ppm以上であり、また、コストや不活化対象へのダメージの観点から、300ppm以下であるのが好ましく、250ppm以下であるのがより好ましく、200ppm以下であるのがさらに好ましく、150ppm以下であるのがさらに好ましく、100ppm以下であるのがよりさらに好ましい。
なお、本明細書における界面活性剤の定量は、JIS K 3362:2008家庭用合成洗剤試験方法におけるアニオン界面活性剤、非イオン界面活性剤の定性及び定量に従うものとする。
【0015】
後記実施例に示すように、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムと、アルキル基の炭素数が12でエチレンオキサイド付加モル数が7であるポリオキシエチレンアルキルエーテル又はアルキル基の炭素数が12でエチレンオキサイド付加モル数が8であるポリオキシエチレンアルキルエーテルとを一定の濃度関係で併用すると、当該界面活性剤濃度が低濃度であっても抗SARS-CoV-2検証試験においてSARS-CoV-2不活化効果が認められる。
本明細書において、SARS-CoV-2は、急性呼吸器疾患(COVID-19)の原因となる、SARS関連コロナウイルスである。
SARS-CoV-2は、そのウイルスゲノムは29,903塩基程度で、一本鎖プラス鎖RNAウイルスである。また、ウイルス粒子(ビリオン)は、50~200nmほどの大きさである。一般的なコロナウイルスと同様に、スパイクタンパク質、ヌクレオタンパク質、内在性膜タンパク質、エンベロープタンパク質として知られる4つのタンパク質と、RNAより構成されている。このうちヌクレオタンパク質がRNAと結合してヌクレオカプシドを形成し、脂質と結合したスパイクタンパク質、内在性膜タンパク質、エンベロープタンパク質がその周りを取り囲んでエンベロープを形成する(A pneumonia outbreak associated with a new coronavirus of probable bat origin. Nature. 2020 Mar;579(7798):270-273.、A new coronavirus associated with human respiratory disease in China. Nature. 2020 Mar;579(7798):265-269.)。
【0016】
スパイクタンパク質は、2つのサブユニット、S1及びS2からなる大きなI型膜貫通型タンパク質で、S1は主に、細胞表面の受容体を認識する受容体結合ドメイン(RBD)が、S2には膜融合に必要な要素が含まれている。S1に結合する既知の受容体には、ACE2(アンジオテンシン変換酵素2)、DPP4(ジペプチジルペプチダーゼ-4)、APN(アミノペプチダーゼN)、CEACAM(癌胎児性抗原関連細胞接着分子1)、O-ac Sia(O-アセチル化シアル酸)があり、SARS-CoV-2は、ヒトACE2を介してヒト呼吸上皮細胞に感染することが報告されている(Structure, Function, and Antigenicity of the SARS-CoV-2 Spike Glycoprotein Cell. Volume 181, Issue 2, 16 April 2020, Pages 281-292.e6)。
【0017】
本明細書における抗SARS-CoV-2検証試験は、評価対象となる不活化剤で処理したSARS-CoV-2をVero E6/TMPRSS2細胞に感染させた系によって行われる。詳細は後述するとおりである。本明細書では、当該検証試験において、約100,000個のウイルスをほぼ完全に不活化(検出限界以下まで)させた場合を不活化効果ありとする。
【0018】
従って、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩とアルキル基の炭素数が12でエチレンオキサイド付加モル数が7であるポリオキシエチレンアルキルエーテル及びアルキル基の炭素数が12でエチレンオキサイド付加モル数が8であるポリオキシエチレンアルキルエーテルから選ばれる少なくとも1種のポリオキシエチレンアルキルエーテルの組み合わせは、SARS-CoV-2不活化効果を示すことから、SARS-CoV-2不活化剤となり得、SARS-CoV-2不活化のために使用することができる。また、SARS-CoV-2不活化剤を製造するために使用することができる。SARS-CoV-2不活化により、当該ウイルス感染を阻止し、SARS-COV-2感染症を予防又は改善することができる。
ここで、「使用」は、生体(ヒト又は非ヒト動物)における使用である場合、治療的使用であっても非治療的使用であってもよい。「非治療的」とは、医療行為を含まない概念、すなわち人間を手術、治療又は診断する方法を含まない概念、より具体的には医師又は医師の指示を受けた者が人間に対して手術、治療又は診断を実施する方法を含まない概念である。
【0019】
本明細書において、SARS-COV-2感染症とは、SARS-COV-2に感染することによって発症する急性呼吸器疾患(COVID-19)を指す。その症状は特異的ではなく、症状のないもの(無症候性)から重症の肺炎まで幅広い。典型的な症状・徴候としては発熱、空咳、疲労、喀痰、息切れ、咽頭痛、頭痛、下痢、嗅覚異常等があるが、本発明においては、斯かる症状に限定されるものではない。
また、「予防」とは、個体におけるSARS-COV-2感染の防止、抑制又は遅延、或いは発症の危険性を低下させることをいう。「改善」とは、SARS-COV-2の感染又は症状の好転、症状の悪化の防止又は遅延、或いは症状の進行の逆転、防止又は遅延を意味し、「治療」を含む意である。
【0020】
本発明のSARS-CoV-2不活化剤は、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩とポリオキシエチレンアルキルエーテルとを使用する形態であってもよく、また、使用態様に応じて、これらと適宜溶剤や製剤添加物等の他の成分を含む組成物の形態であってもよい。当該組成物は、未希釈の形態であってもよく、また、希釈形態であってもよい。未希釈の形態は、希釈されることなく、処理対象のSARS-CoV-2不活化に用いられる。希釈形態は、推奨希釈濃度で希釈された後の濃度が、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩及びポリオキシエチレンアルキルエーテルによりSARS-CoV-2不活化効果が発揮される上記の有効成分濃度となるように水等の適当な媒体によって希釈されて、処理対象のSARS-CoV-2不活化に用いられる。
好適には、SARS-CoV-2不活化剤は、SARS-CoV-2の汚染が懸念される手や指、野菜や魚などの食品、無生物対象物の硬質表面、繊維や繊維製品の洗浄等に使用される製品や製剤となり、或いは当該製品や製剤にSARS-CoV-2不活化のための素材として使用される。
硬質表面としては、飲料や食品の包装、または家庭や事業施設における、床、壁、窓、扉、食品加工機器、医療機器、化粧室やトイレ、浴室、洗面所、シャワー台、台所、居室、寝室等の各種家具・家電・器具・道具等が挙げられる。硬質表面の材質は、例えば、プラスチック(シリコーン樹脂等を含む)、金属、陶器、木、ガラス又はこれらの組み合わせが挙げられる。
繊維や繊維製品としては、衣類、タオル、マスク、ソファー、クッション、寝具、カーテン、靴、鞄等が挙げられる。
【0021】
SARS-CoV-2を不活化させるには、本発明のSARS-CoV-2不活化剤を処理対象に接触させればよい。接触時間は、SARS-CoV-2不活化の観点から、10秒以上、好ましくは1分以上、より好ましくは10分以上であり、作業負荷の観点から、24時間以下、好ましくは1時間以下、より好ましくは30分以下である。接触の手段としては、特に限定するものではなく、塗布又は噴霧する、浸漬する、洗浄する、添加する、揮散する等が挙げられる。
【0022】
上記製品や製剤の形態としては、用途に応じて適宜選択することができ、例えば、液状、ゲル状、ペースト状、固形状とすることができる。
また、紙、天然繊維、再生繊維(レーヨン等)及び/又は合成繊維(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル等)の織布又は不織布に、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩とポリオキシエチレンアルキルエーテルを塗布、或いは含浸した形態とすることができる。
具体的な製品や製剤の形態としては、例えば、ハンドソープ等の皮膚洗浄剤、台所用洗剤、洗濯用洗剤、柔軟剤、住居用洗剤、トイレ洗浄剤、風呂用洗剤、コンタクトレンズ洗浄・保存剤、紙製品、ウェット拭き取り用品、空間噴霧製品等が挙げられる。
【0023】
上記製品や製剤は、上記本発明の有効成分を、又は本発明の効果を阻害しない範囲内で、当該有効成分以外の他の成分を適宜組み合わせて、定法に従って調製することができる。斯かる他の成分としては、例えば、キレート剤、水溶性溶剤、油分、高級脂肪酸、シリコーン類、アルカリ剤、pH調整剤、水軟化剤、金属封鎖剤、分散剤、安定化剤、酵素、蛍光増白剤、漂白剤、保湿剤、増粘剤、懸濁剤、防腐剤、抗菌剤、消泡剤、粉末成分、色素、蛍光染料、香料、他の界面活性剤等が挙げられる。
他の界面活性剤としては、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩とアルキル基の炭素数が12でエチレンオキサイド付加モル数が7であるポリオキシエチレンアルキルエーテル及びアルキル基の炭素数が12でエチレンオキサイド付加モル数が8であるポリオキシエチレンアルキルエーテルから選ばれる少なくとも1種のポリオキシエチレンアルキルエーテル以外のイオン性界面活性剤(アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤)、非イオン性界面活性剤、高分子界面活性剤等が挙げられる。
【0024】
本発明のSARS-CoV-2不活化剤における上記本発明の有効成分の含有量は、組成物の形態に応じて適宜決定できる。希釈を想定した製品や製剤において好適な含有量は、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩が1質量%以上30質量%以下、ポリオキシエチレンアルキルエーテルが0.1質量%以上20質量%以下であるが、より好ましくは、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩が5質量%以上15質量%以下、ポリオキシエチレンアルキルエーテルが0.5質量%以上5質量%以下である。希釈を想定しない製品や製剤において好適な含有量は、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩が12.5ppm以上300ppm以下、ポリオキシエチレンアルキルエーテルが4ppm以上300ppm以下であるが、より好ましくは、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩が25ppm以上200ppm以下、ポリオキシエチレンアルキルエーテルが5ppm以上150ppm以下である。
【実施例】
【0025】
実施例1
[抗SARS-CoV-2検証試験]
抗SARS-CoV-2検証試験の概要は以下のとおりである。
(材料)
SARS-CoV-2:JPN/TY/WK-521
細胞:Vero E6/TMPRSS2 (JCRB1819)
培地:500mL DMEM(High Glucose) (ナカライテスク, 08459-64)
10mL G 418 Disulfate Aqueous Solution(ナカライテスク, 09380-44)
5mL Penicillin-Streptomycin (10,000 U/mL)(Gibco,15140122)
FBS:biosera,FB-1365/500 ,Lot10259
非働化56℃、30分
通常培養時5%培地に添加
感染時2%培地に添加
Trypsin:TrypLE(登録商標) Select Enzyme(1X), no phenol red(Gibco, 12563011)
RT-qPCR:SARS-CoV-2 Detection Kit -N2 set-(東洋紡, NCV-302)
【0026】
(プロトコル)
1.Vero E6/TMPRSS2を96well plateに100%コンフルエントとなるようにまく
2.オートクレーブした水道水で界面活性剤を希釈し評価液を調整
3.評価液27μLとSARS-CoV-2液3μL(約10万ウイルス相当)を混合
4.室温10分反応
5.2%FBS培地 270μLを添加し反応停止
6.5.の溶液20μLを180μLの2%FBS培地へと事前に培地交換したVero
E6/TMPRSS2の96plateに添加・混合
7.37℃/5%CO2下で1時間感染
8.2%FBS DMEM 200μLで2回Wash
9.37℃/5%CO2下で3日間培養
10.ウイルス性細胞変性効果とRT-qPCRによりSARS-CoV-2不活化を判断
IX73(オリンパス社)を用いた顕微鏡観察でウイルスによる細胞変性効果が認めら
れず、かつ、または培養上清のRT-qPCRでウイルスゲノムが検出できなかった場合
にSARS-CoV-2を不活化したと判断した。RT-qPCRではCt(Thresh
old Cycle)値が30未満となった場合にウイルスが増殖したと判断した
。
【0027】
[評価液]
・直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム:ネオペレックスG-25、花王(株)製、アルキル分布(C10-13)
・ポリオキシエチレン(7E.O.)ラウリルエーテル:BL-7SY、日光ケミカルズ(株)製、純度98%
・ポリオキシエチレン(8E.O.)ラウリルエーテル:Octaethylene Glycol Monododecyl Ether、O0139、東京化成工業(株)製、純度97%
【0028】
[試験結果]
結果を表1に示す。SARS-CoV-2不活化が認められたものは「〇」、SARS-CoV-2不活化が認められなかったものは「×」とした。
【0029】
【0030】
上記表1のとおり、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムとポリオキシエチレンアルキルエーテルとを一定の濃度関係で併用することでSARS-CoV-2不活化効果が確認された。
【要約】 (修正有)
【課題】優れたSARS-CoV-2不活化効果を示すSARS-CoV-2不活化剤の提供。
【解決手段】直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩、並びにアルキル基の炭素数が12でエチレンオキサイド付加モル数が7であるポリオキシエチレンアルキルエーテル及びアルキル基の炭素数が12でエチレンオキサイド付加モル数が8であるポリオキシエチレンアルキルエーテルから選ばれる少なくとも1種のポリオキシエチレンアルキルエーテルを有効成分とするSARSコロナウイルス-2不活化剤であって、前記直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩の濃度(X)が12.5ppm以上、前記ポリオキシエチレンアルキルエーテルの濃度(Y)が4.0ppm以上であり、且つ次式(1)を満たすSARSコロナウイルス-2不活化剤。Y≧5000×X-1.5(1)
【選択図】なし