(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-07
(45)【発行日】2022-01-12
(54)【発明の名称】電気アーク炉内での融解方法及び対応する装置
(51)【国際特許分類】
C21C 5/52 20060101AFI20220104BHJP
F27B 3/20 20060101ALI20220104BHJP
【FI】
C21C5/52
F27B3/20
(21)【出願番号】P 2020559468
(86)(22)【出願日】2019-04-24
(86)【国際出願番号】 IT2019050080
(87)【国際公開番号】W WO2019207609
(87)【国際公開日】2019-10-31
【審査請求日】2020-12-10
(31)【優先権主張番号】102018000004847
(32)【優先日】2018-04-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】512288949
【氏名又は名称】ダニエリ アンド チ.オフィチーネ メカーニク エッセピア
【氏名又は名称原語表記】DANIELI&C.OFFICINE MECCANICHE SPA
(73)【特許権者】
【識別番号】514165990
【氏名又は名称】ダニエリ オートメーション ソシエタ ペル アチオニ
(74)【代理人】
【識別番号】100134832
【氏名又は名称】瀧野 文雄
(74)【代理人】
【識別番号】100165308
【氏名又は名称】津田 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100115048
【氏名又は名称】福田 康弘
(72)【発明者】
【氏名】パトリツィオ ダミアーノ
(72)【発明者】
【氏名】モルデグリア アントネッロ
【審査官】馳平 憲一
(56)【参考文献】
【文献】特開平2-282413(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00-61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気炉(11)内に固体金属材料(M)を投入する工程と、
少なくとも1つの電極(13)と前記金属材料(M)との間に電気アークを発生させる工程と、
前記電極(13)を前記金属材料(M)の中に移動させることを伴う、前記金属材料に穴を開ける工程と、
融解材料を得るために前記固体金属材料(M)を融解させる工程と、
反応化合物を添加することによって前記融解材料を精錬する工程と、を有する融解方法であって、
前記融解させる工程において、前記電気アークの交流電源電流(Ia)は、第1電流値(I1)にて、経時的にほぼ一定に維持され、
前記電気炉(11)への電力供給は、少なくとも1つの変圧器(15)を用いて、幹線交流電圧及び幹線交流電流をベース交流電圧及びベース交流電流に変えることを伴い、
前記融解方法は、
直流電圧及び直流電流を得るために整流器(19)を用いて前記ベース交流電圧及び前記ベース交流電流を整流する工程と、
コンバータ(20)を用いて、前記直流電圧及び前記直流電流を交流電源電圧及び交流電源電流に変換する工程と、をさらに有し、
前記精錬する工程において、
前記少なくとも1つの電極(13)に加えられる前記交流電源電圧(Ua)が前記融解させる工程中と比べて減少するよう、前記電気アークの前記交流電源電流(Ia)を、前記第1電流値(I1)の1.04~1.2倍である第2電流値(I2)まで増大させ、
前記整流器(19)は、直流で機能する少なくとも1つの中間回路(23)によって前記コンバータ(20)に接続され、
前記中間回路(23)は、電気エネルギーを連続的に蓄えるとともに、前記電極(13)と前記整流器(19)との間の分離、即ち幹線電気ネットワーク(16)との分離をもたらすよう構成されている、融解方法。
【請求項2】
前記第2電流値(I2)は、前記第1電流値(I1)の1.05~1.15倍である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記交流電源電圧(Ua)を、前記融解させる工程では第1電圧値(U1)に維持し、前記精錬する工程では前記第1電圧値(U1)の0.6~0.85倍である第2電圧値(U2)に維持する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記精錬する工程において、前記電極(13)に供給される電力を、前記融解させる工程中に前記電極(13)に供給される電力の7%~15%に相当する値だけ減少させる、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記精錬する工程中の前記電気アークの長さは、前記融解させる工程中の前記電気アークの長さの0.6~0.85倍である、請求項3又は4に記載の方法。
【請求項6】
前記融解材料の上にスラグの層が生成され、
前記精錬する工程において、前記スラグの層の厚さは、前記融解させる工程中に提供される前記スラグ層の厚さの0.5~0.85倍である、請求項3~5の何れか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記精錬する工程中に前記電極(13)に与えられる電力が前記融解させる工程中に前記電極(13)に与えられる電力の0.9~1.1倍となるように、前記少なくとも1つの電極(13)の前記交流電源電圧(Ua)を調整する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項8】
前記精錬する工程中の前記電気アークの長さは、前記融解させる工程中の前記電気アークの長さの0.8~0.95倍である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記融解材料の上にスラグの層が生成され、
前記精錬する工程中の前記スラグの層の厚さは、前記融解させる工程中の前記スラグの層の厚さの0.8~0.95倍である、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
前記穴を開ける工程中において、前記交流電源電流(Ia)を前記第1電流値(I1)と実質的に等しくなるよう維持し、かつ、前記交流電源電圧(Ua)の値は、前記融解させる工程中に加えられる前記交流電源電圧(Ua)の0.3~0.7倍である、請求項1~9の何れか一項に記載の方法。
【請求項11】
中に金属材料(M)が導入される電気アーク炉(11)であって、前記金属材料(M)に向けて電気アークを発生させるよう構成された少なくとも1つの電極(13)が設けられた電気アーク炉(11)と、
前記電気アークの少なくとも交流電源電流(Ia)を調整するよう構成された制御及び命令ユニット(21)と、を備えた融解装置であって、
前記融解装置は、さらに、
幹線交流電圧及び幹線交流電流を供給するために電気ネットワーク(16)に接続されるとともに、前記幹線交流電圧及び前記幹線交流電流をベース交流電圧及びベース交流電流にそれぞれ変えるよう構成された変圧器(15)と、
前記変圧器(15)に接続され、前記ベース交流電圧及び前記ベース交流電流を直流電圧及び直流電流に変えるよう構成された複数の整流器(19)と、
前記整流器(19)に接続され、直流電圧及び直流電流を交流電源電圧及び交流電源電流に変換するよう構成された複数のコンバータ(20)と、を備え、
前記融解装置は、さらに、
前記交流電源電流(Ia)が、融解させる工程中に第1電流値(I1)に維持されるとともに精錬する工程中に
、前記少なくとも1つの電極(13)に加えられる前記交流電源電圧が前記融解させる工程中と比べて減少するよう前記第1電流値(I1)の1.04~1.2倍である第2電流値(I2)に維持されるように、少なくとも前記融解させる工程及び前記精錬する工程中に前記電気アークの少なくとも前記交流電源電流(Ia)を調整するよう構成された調整デバイス(22)と、
前記整流器(19)を前記コンバータ(20)に接続するとともに、直流で機能する少なくとも1つの中間回路(23)と、を備え、
前記中間回路(23)は、電気エネルギーを連続的に蓄えるとともに、前記電極(13)と前記整流器(19)との間の分離、即ち前記電気ネットワーク(16)との分離をもたらすよう構成されている、融解装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気アーク炉内での融解方法及び対応する融解装置に関する。
【0002】
具体的には、本発明は、金属材料を融解させるのに用いられる電気炉の分野で応用される。
【0003】
本発明の好ましい実施形態は、3段階電気アーク炉を対象としているが、これに限定されるものではない。
【背景技術】
【0004】
アーク炉の融解サイクルは、通常、以下の作業工程を提供する。
- 通常スクラップである金属材料を、上方から中身を投入するバスケットを用いて又はスクラップ及び/若しくは直接還元鉄(DRI)が供給される連続投入用輸送装置を用いて、炉内に投入する。
- 電気アークを発生させる。この工程中、電極が電極の端部と融解される材料との間に融解電気アークを生じさせるまで、電極は金属材料に向かって下げられる。
- 発生した電気アークによって金属材料の層に穴を開ける。この工程中、スクラップの実際の融解によって、金属材料の完全が融合が開始される。
- 融解金属浴を形成する。
- 浴の温度及びスチールの炭素含量を調整するために融解材料を精錬する及び/又は化学成分を添加することでスチールの所望の組成を定める。
- 考え得る排滓の後に、電気炉内に存在する融解材料を出湯(タッピング)する。
【0005】
投入、電気アーク生成及び穴を開ける作業は、1つの融解サイクル中に複数回繰り返すことができる。例えば、炉内への金属材料の1回目のチャージ及びこのチャージ分の融解の後、融解材料の精錬に進む前に、金属材料のさらなるチャージ分を導入し、その後これを融解させる作業を行うことができる。
【0006】
連続チャージ融解プロセスの場合、上記の融解サイクルは異なり、通常、第1のバスケットを炉に投入し、続いて融解を行って十分な液体ヒールレベルを生成し、続いて融解される材料を連続導入して、出湯すべき所望量を達成する。
【0007】
穴を開ける工程中、電極と金属材料のチャージ分の間の電気アークの挙動は非常に不安定であり、これは融解が進むにつれて徐々に向上する。一方で、このことは、吸収された電力の予期せぬ急激な変化を生じさせ、これは幹線電源ネットワークに対してマイナスの反動を与え、電源ネットワークによって電力供給されるユーザのデバイスにダメージを与える可能性がある。
【0008】
実際には、穴を開ける工程及び融解させる工程中、回収された未だ融解されていないスクラップが電極の上に崩れる場合があり、これによって短絡状態が生じ、これは、融解作業に有用な有効電力の大幅な減少及び幹線電気ネットワークによって吸収される電流の急激な増大に対応する。
【0009】
融解が進むにつれて、即ちアークが固体材料から又は泡状の液体(スラグ)から適切に遮蔽されると、電気アークの挙動はより安定化し、このようにしてアークの長さを長くすることができ、したがって融解される材料に伝わる熱パワーも増大する。電圧とアークの長さは、融解プロセスに応じてそして耐熱性が過度に弱まることを防ぐように調整される。
【0010】
したがって、融解プロセス中の電気アークの上記の挙動を考慮すると、従来技術においては、少なくとも穴を開ける工程及び融解させる工程の間は、例えばスクラップが融解浴内に崩れることによってアークの中断又はシャットダウンが生じないことを確実とするために高電流値を維持することが知られている。しかしながら、考え得るアークの突然のピークにより融解装置の電気部品がどうにかしてダメージを受けることを防止するために、アークの平均電流値はその最大閾値より下に設定されている。
【0011】
その後、精錬する工程中に、起こり得る電流の考え得る急上昇の結果として電極自身によって発生される高温による炉の電極及び耐熱性ライニングの過度な摩損を防止するために、アークの電流値を例えば10%~30%減少させることが知られている。
【0012】
融解浴に供給される熱エネルギーをも減少させる電流の減少に対し補償をするために、化学化合物を大量に添加して、吸熱反応を引き起こすとともに、融解液の浴が覆われることを保証するように十分厚いスラグの層を生成させることが知られている。
【0013】
実際には、スラグの層は、融解浴を酸化から保護するだけでなく、融解浴の熱の放熱に対する保護シールドとしての役割も果たす。
【0014】
さらに、電流強度の減少は、融解サイクルの継続期間、即ち電源オンの時間を長くし、製造コストが高くなる。
【0015】
特開平2-282413号公報には、プラントの効率を高めるためにプロセス中の力率を向上させる電気アーク炉への電力供給を制御するシステムが記載されており、幹線電気ネットワークに直接接続された電源を有することが記載されている。この文献に記載された解決方法では、融解プロセス中に電流値を変化させることが可能となっているが、システムの過度なアンバランスを避けるため、電気パラメータのバランスを保つために過電流放電システムを連続的に使用する必要がある。
【0016】
本発明の目的の1つは、融解プロセスの効率を高めることができる電気アーク炉内での融解方法を完成させることである。
【0017】
本発明の別の目的は、各融解サイクルの時間を短縮できる電気アーク炉内での融解方法を完成させることである。
【0018】
本発明の別の目的は、炉の電極及び耐熱性ライニングの寿命を延ばすことができる融解方法を完成させることである。
【0019】
本発明の別の目的は、スラグの生成のための化学化合物の添加に関連するコストを抑制することができる融解方法を完成させることである。
【0020】
本発明の別の目的は、シンプルかつ経済的な融解装置を完成させることである。
【0021】
本発明の別の目的は、効率が良くかつ各融解サイクルの時間を短縮できる融解装置を完成させることである。
【0022】
本出願人は、従来技術の欠点を克服するため及び上記の及び他の目的及び利点を得るために、本発明を考案し、試験し、具現化した。
【発明の概要】
【0023】
本発明は独立請求項において記載され特徴づけられており、従属請求項においては本発明の他の特徴又は主要な発明の思想に対するバリエーションが記載されている。
【0024】
上記の目的のもと、本発明に係る融解方法は以下の工程を有する。
- 電気融解炉内に固体金属材料を投入する工程。
- 少なくとも1つの電極と前記金属材料との間に電気アークを発生させる工程。
- 前記金属材料に穴を開ける工程。この工程では、前記電極が前記金属材料の中に移動される。
- 融解材料を得るために前記固体金属材料を融解させる工程。融解させる工程では、前記電気アークの電源電流は、第1電流値にて、経時的にほぼ一定に維持される。
- 反応化合物を添加することによって前記融解材料を精錬する工程。
【0025】
本発明の一態様では、前記精錬する工程において、前記電気アークの前記電源電流を前記第1電流値の1.04~1.2倍である第2電流値まで増大させる。
【0026】
このようにして、電気炉のタイプ及び使用される電力を従来技術と同じにしたままで、アークの電源電流を増大させると、同時に電気アークの電源電圧が減少する。
【0027】
本出願人により完成された経験的関係、Larc=Varc-35mm、によって、電気アークの電源電圧は電気アークの長さに直接相関づけられる。このことから、アークの電圧が減少すると、同時に電気アークの長さが減少することとなる。この電気アークの長さの減少は、電気炉内の電極の位置を調整することによって得ることができる。
【0028】
アークの長さを減少させることによって、電気アーク自体を保護するために融解金属の上に生成されるスラグの厚さを減少させることができる。これにより、ほんの一例としてライム、石炭及び酸素などを含む、スラグを生成するための化学反応化合物の使用量を削減することができ、結果として精錬コストを削減することができる。
【0029】
さらに、スラグ及び融解金属に対する化学反応化合物の量がより少なくなることで、炉内に投入されたものに対する出湯される融解材料の産出量をより多くすることができる。また、本出願人は、本発明によって融解サイクル時間を短縮できることを発見した。
【0030】
精錬する工程において、プロセスの安定性のおかげで、電源電流は経時的にかなり安定し、突然増大又は減少する可能性が低くなる。金属を精錬する工程において電流を増大させることで、電極の消費速度をより増大させることなく、その安定性を生かすことができる。
【0031】
さらに、本発明を用いることで、炉が従来技術で使用されているものと同じとすると、精錬する工程において電極に供給される電力を増大させることが可能であり、結果として融解サイクルの時間を短縮することが可能となる。
【0032】
また、本発明の実施形態は、中に金属材料が導入される電気アーク炉であって、前記金属材料に向けて電気アークを発生させるよう構成された少なくとも1つの電極が設けられた電気アーク炉と、前記電気アークの少なくとも電源電流を調整するよう構成された制御及び命令ユニットと、を備えた融解装置に関する。
【0033】
本発明の一態様では、前記融解装置は、前記電源電流が、融解させる工程中に第1電流値に維持されるとともに精錬する工程中に前記第1電流値の1.04~1.2倍である第2電流値に維持されるように、少なくとも前記融解させる工程及び前記精錬する工程中に前記電気アークの少なくとも前記電源電流を調整するよう構成された調整デバイスを備える。
【0034】
本発明の上記の及び他の特徴は、図面を参照しながら非限定的な例として示されるいくつかの実施形態に関する以下の記載から明らかとなるであろう。
【0035】
なお、理解を補助するため、図面では可能な場合同一の共通要素については同じ参照符号を用いている。ある実施形態の要素及び特徴を追加説明なしに他の実施形態に好都合に組み込むことができることは理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】本発明のいくつかの実施形態に係る電気アーク炉の電力供給装置の概略図である。
【
図2】投入される最後のバスケットについての投入する工程、穴を開ける工程、融解させる工程及び精錬する工程中における、従来技術で知られている解決手段(実線)と、本発明の2つの可能な実施形態(点線及び一点鎖線)とにおけるアークの電源電流の時間変化を示す。
【
図3】投入される最後のバスケットについての投入する工程、穴を開ける工程、融解させる工程及び精錬する工程中における、従来技術で知られている解決手段(実線)と、本発明の2つの可能な実施形態(点線及び一点鎖線)とにおけるアークの電圧の時間変化を示す。
【
図4】投入される最後のバスケットについての投入する工程、穴を開ける工程、融解させる工程及び精錬する工程中における、従来技術で知られている解決手段(実線)と、本発明の2つの可能な実施形態(点線及び一点鎖線)とにおけるアークの平均電力の時間変化を示す。
【
図5】投入される最後のバスケットについての投入する工程、穴を開ける工程、融解させる工程及び精錬する工程中における、従来技術で知られている解決手段(実線)と、本発明の2つの可能な実施形態(点線及び一点鎖線)とにおけるアークの長さの時間変化を示す。
【
図6】投入される最後のバスケットについての投入する工程、穴を開ける工程、融解させる工程及び精錬する工程中における、従来技術で知られている解決手段(実線)と、本発明の2つの可能な実施形態(点線及び一点鎖線)とにおけるスラグの厚さの時間変化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本発明の実施形態は、電気アーク炉11を有する、全体的に参照符号10(
図2)で示される融解装置に関するものである。
【0038】
電気炉11は容器12又はシェルを備えており、容器12内に金属材料Mが導入されてその後融解される。
【0039】
また、電気炉11には、少なくとも1つの電極13、図示の例では3つの電極13が設けられており、これらは金属材料Mにわたり電気アークを引き起こして金属材料Mを融解させるよう構成されている。
【0040】
本発明の一部の実施形態では、電極13は、電極13を金属材料Mに向かう方向及び金属材料Mから離れる方向に選択的に移動させるよう構成された移動デバイス14上に設置されている。電極13を移動させることでこれらの位置を特定の製造工程に関連して適合させることができる。具体的には、電極13の位置を調整することで、電極13と金属材料Mとの間に設けられた電気アークの長さを制御することも可能である。
【0041】
通常、移動デバイス14は、電極13を独立して移動させて、各電極によって生成される電気アークの長さを制御することができる。
【0042】
好ましい解決手段では、電極13の位置は、電極13によって生成される電気アークが互いに実質的に等しくなるように、即ち異なる電極間で位相が不均衡とならないように調整される。
【0043】
移動デバイス14は、機械式アクチュエータ、電気式アクチュエータ、空気式アクチュエータ、油圧式アクチュエータ、連結式機構、機械運動、類似及び同等部材、又はこれらの考え得る組み合わせのうち少なくとも1つからなるグループから選択することができる。
【0044】
本発明の可能な解決手段では、電極13が3つある場合、各々が、それぞれの電力位相に関連づけられている。
【0045】
本発明の一部の実施形態では、融解装置10には、幹線(mains)交流電圧Ur及び幹線交流電流Irを供給する電気ネットワーク16に直接的又は間接的に接続されるとともに、幹線交流電圧Ur及び幹線交流電流Irをベース交流電圧Ub及びベース交流電流Ibに変えるよう構成された少なくとも1つの変圧器15が設けられている。
【0046】
本発明の可能な解決手段では、幹線電気ネットワーク16は3相とすることができる。
【0047】
ベース電圧「Ub」及びベース電流「Ib」は、変圧器15自体のデザイン特性即ちその変換比によって規定及び設定されている。
【0048】
例えばマルチタップ式の変圧器15は、変圧器15の電気変換比を具体的な要件との関連で選択的に調整するように設けられた調整デバイス(非図示)を備えることができる。
【0049】
また、本発明に係る装置10は、変圧器15に接続されるとともにベース交流電圧Ub及びベース交流電流Ibを直流電圧及び直流電流に変えるよう構成された複数の整流器19を備える。
【0050】
具体的には、整流器19を用いることで、ベース交流電圧Ub及びベース交流電流Ibを直流電圧及び直流電流にそれぞれ整流することができる。
【0051】
整流器19は、ダイオードブリッジ及びサイリスタブリッジからなるグループから選択することができる。
【0052】
可能な解決手段では、整流器19は、例えばダイオード、SCR(シリコン制御整流器)、GTO(ゲートターンオフサイリスタ)、IGCT(集積化ゲート転流型サイリスタ)、MCT(金属-酸化物-半導体制御サイリスタ)、BJT(バイポーラジャンクショントランジスタ)、MOSFET(金属-酸化物-半導体接合電界効果トランジスタ)及びIGBT(絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)からなるグループから選択されるデバイスを備える。
【0053】
本発明のさらなる態様では、装置10には、整流器19に接続されるとともに、電極13に電力供給するために直流電圧及び直流電流を、電極13の電源電圧「Ua」及び電源電流「Ia」に変換するよう構成された複数のコンバータ20が設けられている。
【0054】
電源電圧「Ua」及び電源電流「Ia」は以下に記載するように選択的に調整される。
【0055】
可能な解決手段では、コンバータ20は、例えばダイオード、SCR(シリコン制御整流器)、GTO(ゲートターンオフサイリスタ)、IGCT(集積化ゲート転流型サイリスタ)、MCT(金属-酸化物-半導体制御サイリスタ)、BJT(バイポーラジャンクショントランジスタ)、MOSFET(金属-酸化物-半導体接合電界効果トランジスタ)及びIGBT(絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)からなるグループから選択されるデバイスを備える。
【0056】
コンバータ20は、融解炉11の電極13と制御及び命令ユニット21とに接続されており、制御及び命令ユニット21は、コンバータ20の機能を制御及び命令するとともに、電極13の電源電圧Ua及び電源電流Iaを経時的に調整するよう構成されている。
【0057】
具体的には、制御及び命令ユニット21は、上記交流電源のパラメータを選択的に設定するように上記コンバータ20を制御する。
【0058】
本発明の一態様では、制御及び命令ユニット21は調整デバイス22を備え、調整デバイス22は、交流電源の電源電流「Ia」及び電源電圧「Ua」を調整するよう構成されている。
【0059】
本発明の可能な解決手段では、調整デバイス22はほんの一例として含まれている。
【0060】
可能な解決手段では、少なくとも1つの中間回路23によって整流器19をコンバータ20に接続することができる。
【0061】
中間回路23は、直流で機能するとともに、ほんの一例としてDCリンクを備えることができる。
【0062】
中間回路23は、電気エネルギーを連続的に蓄えるとともに、電極13と整流器19との間の分離、即ち幹線電気ネットワーク16との分離をもたらすように構成されている。
【0063】
具体的には、プロセスから生じる高速の電力変動が中間回路23を介して部分的にフィルタ処理されることで、これらによる電気ネットワーク16側へのインパクトが減少する。
【0064】
制御及び命令ユニット21はさらに移動デバイス14にも接続させることができ、これにより、融解プロセスの異なる工程に関連して電極13の位置を調整することができる。
【0065】
具体的には、電極13は、材料の位置を追うために、したがってアークの長さを変更するために、移動デバイス14によって移動される。
【0066】
このようにして、制御及び命令ユニット21は、プロセスの特定の工程に関連して、少なくとも、電源電圧Ua、電源電流Ia及び電極13の位置といったパラメータを制御及び命令することができる。
【0067】
各種パラメータの制御の高実現性により、プロセスへのエネルギーの移動を最適化することができ、同時に、炉側における電力の高速な変動による電気ネットワーク16への影響を抑えることができる。
【0068】
本発明の可能な実施形態では、制御及び命令ユニット21は、上記の電力供給装置の電源周波数「fa」も調整するように構成することができる。
【0069】
可能な解決手段では、変圧器15と、変圧器15に接続された整流器19と、コンバータ20とは、共に電源モジュール24を画定する。
【0070】
本発明の可能な実施形態では、装置10は、互いに並列に接続されるとともに電気ネットワーク16及び電気炉11に接続された複数の電源モジュール24を備えることができる。
【0071】
複数の電源モジュール24の組み合わせによって、電源供給される電気炉11の具体的なサイズに応じてサイズを拡大縮小できる融解装置10を得ることができる。
【0072】
可能な解決手段では、制御及び命令ユニット21は、少なくともコンバータ20のそれぞれを制御するために全ての電源モジュール24に接続されており、各モジュールが、同じ電圧Ua、電流Ia及び電源周波数「fa」の値を電極13に供給するように構成されている。このようにして、システム全体の機能不良を防止することが可能となる。
【0073】
可能な解決手段では、ネットワークの電気エネルギーを電源モジュール24に供給される電気エネルギーに変換するために、別の変圧器25を、電気ネットワーク16と電源モジュール24の間に介在させることができる。
【0074】
また、本発明の実施形態は、固体金属材料Mを電気炉11内に投入する工程を有する融解方法にも関する。
【0075】
投入する工程は、所定量の金属材料Mを電気炉11内に入れるために投入バスケットを用いて実行することができる。
【0076】
可能な変形例では、金属材料Mを投入する工程は、例えば振動コンベア又はコンベアベルトの助けにより実質的に連続的に行うことができる。
【0077】
実質的に連続的な投入を行う場合、穴を開ける工程を開始するために、電気炉11内に投入される総量の一部である所定量の金属材料Mが投入される。投入は、1つ若しくは複数のバスケットによって又は連続的な投入に用いられるものと同じコンベアによって実行することができる。
【0078】
その後、穴を開ける工程が開始される。穴を開ける工程及び融解させる工程の間、電気炉11内にさらなる金属材料Mが実質的に連続的に投入され、これは金属材料Mを精錬する工程の始まりまで又はその直前まで続けられる。
【0079】
以下の説明において、また
図2~
図6を参照して、不連続な投入を伴うプロセスに触れて記載しているが、そのような考察及び
図2~
図6に示すパラメータの傾向を連続的な投入を伴う融解プロセスに適用できることを排除してはいない。
【0080】
連続的な投入を伴う融解プロセスの場合、金属材料を融解させる工程は、継続期間が
図2~
図6に示す継続期間よりも長くなる。ほんの一例として、連続的な投入を行う場合、融解させる工程の継続期間は、精錬する工程の継続期間の少なくとも3倍である。
【0081】
また、本発明に係る方法は、金属材料Mを融解させる工程を開始するために、電極13の1つ1つと金属材料Mとの間に電気アークを発生させる工程を有する。
【0082】
本発明の一態様では、上記の固体金属材料Mを融解させる工程によって、融解材料が得られ、そして、この融解させる工程の間は、電源電流Iaが、第1電流値I1にて、経時的にほぼ一定に維持される(
図2)。
【0083】
ほんの一例として、第1電流値I1は、100トンの電気炉に対して40kA~70kAとすることができる。
【0084】
本発明の可能な実施形態では、金属材料に穴を開ける工程は、電気アークを発生させる工程と融解させる工程との間に実行することができ、この工程の間、電極13が金属材料Mの中に移動されて、金属材料を融解させる。金属材料Mを漸進的に融解させるために、金属材料Mが徐々に融解するにつれて、電極13が金属材料Mにおける依然として固体の部分を貫通する。電極13が容器12内部の位置に到達すると、電極13の周囲の残っている金属材料Mが実際に融解し始める。
【0085】
可能な解決手段では、穴を開ける工程及び融解させる工程は、融解材料を最終的に精錬する工程の前に複数回繰り返すことができ、これらの工程の間に、電気炉11内にさらなる金属材料Mを投入する工程を有する。このようにして、電気炉11の総容量に到達するまで電気炉11に投入することを完了することが可能である。
【0086】
穴を開ける工程中、電源電流「Ia」は上記の第1電流値I1(
図2)と実質的に等しくなるよう維持され、一方で電源電圧「Ua」の値は、融解させる工程中(
図3)に加えられる電源電圧Uaの0.3~0.7倍、好ましくは0.4~0.6倍である。このことから、平均電力(
図4)もまた、電源電圧Uaと実質的に同様の傾向を有することとなる。
【0087】
穴を開ける工程中、制限された電力に維持することで、電極13間に生じ得る短絡によって起こり得る考え得る電力の急上昇に対する補償をすることができる。これにより、融解装置10の電気部品へのダメージが防止される。
【0088】
穴を開ける工程中の電気アークの長さ(
図5)は、融解させる工程中に存在する電気アークの長さの0.3~0.7倍である。これによって、穴を開ける工程中に、あらゆる望ましくない電気アークの中断が防止され、この中断により生じる融解効率の低下が防止される。
【0089】
金属材料Mが完全に融解した後、融解材料が精錬され、ここでは反応化合物が融解材料に添加される。
【0090】
反応化合物は、ほんの一例として、石炭、ライム、酸素及びニッケル、クロム、モリブデン、バナジウム、シリカなどの合金元素などを含むことができる。
【0091】
反応化合物は、融解材料の組成を変えるため及び上に配置されて融解材料を保護する保護スラグの層を生成するために提供することができる。
【0092】
実際には、スラグの層は、融解金属材料の酸化に対するバリアを形成するとともに、外部への熱の放出に対するシールドとして機能する。
【0093】
本発明の一態様では、精錬中に、電気アークの電源電流「Ia」を、融解中に与えられる第1電流値I1の1.04~1.2倍である第2電流値I2まで増大させる(
図2)。
【0094】
電源電流I1を増大させることによって、融解中に電極13によって供給される入熱を増大させることができる。
【0095】
本発明の可能な解決手段では、第2電流値I2は、融解中に与えられる第1電流値I1の1.05~1.15倍である。
【0096】
図2~
図6に一点鎖線で示す本発明の第1の実施形態では、電源電圧Uaは、融解させる工程においては第1電圧値U1に維持され、精錬する工程においては第1電圧値U1の0.6~0.85倍である第2電圧値U2に維持される。
【0097】
この第1の実施形態(
図4)では、精錬する工程において、電極13に供給される電力は、融解させる工程中に電極13に供給される電力の7%~15%に相当する値だけ低減される。
【0098】
精錬する工程において電源電圧Uaを減少させることで、電気アークの長さを、融解させる工程中に適用される長さよりも減少させることができる。
【0099】
ほんの一例として、精錬する工程中の電気アークの長さは、融解させる工程中の電気アークの長さの0.6~0.85倍とすることができる。
【0100】
アークの長さを減少させることで、融解金属への電流伝達効率を高めることができ、したがって加熱効率を高めることができる。
【0101】
融解させる工程と精錬する工程の間においてアークの長さを減少させることで、融解金属の上のスラグ層の厚さを減少させることができる。これにより、電気炉内に導入される反応化合物の量を削減でき、同時に電気炉11内に導入された金属材料Mの産出量を増大させることもできる。
【0102】
本発明の可能な解決手段では、精錬する工程におけるスラグ層の厚さは、融解させる工程中に提供されるスラグ層の厚さの0.5~0.85倍である。
【0103】
図2~
図6において点線で示す本発明の第2の実施形態では、精錬する工程中に電極13に与えられる電力が、融解させる工程中に電極に与えられる電力の0.9~1.1倍となるように、電極13の電源電圧Uaが調整される。
【0104】
本発明のこの解決手段によって、融解サイクル時間を約3%減少させることができ、これは年間でいうとかなりのエネルギー削減となる。
【0105】
この解決手段では、電源電圧Uaを、上記の融解させる工程中には第1電圧値U1に維持し、上記の精錬する工程では、第1電圧値U1の0.8~0.95倍である第2電圧値U2に維持することができる。
【0106】
この第2の実施形態では、第2電流値I2は、第1電流値I1の1.12~1.17倍とすることができる。
【0107】
この解決手段では、精錬する工程中の電気アークの長さは、融解させる工程中のアークの長さの0.8~0.95倍とすることができる。
【0108】
この第2の解決手段では、精錬する工程中のスラグ層の厚さは、融解させる工程中のスラグ層の厚さの0.8~0.95倍とすることができる。
【0109】
以下の表1~表6は、従来技術並びに上記の本発明の第1実施形態及び第2実施形態による融解装置の様々な作動電気パラメータの比較を示す。特に、報告した値は全て、100トンの容量を有する融解炉を有する融解装置に関するものである。
【0110】
【0111】
【0112】
【0113】
【0114】
【0115】
【0116】
本明細書に記載した融解方法及び対応する装置10に対し、本発明の分野及び範囲から逸脱することなく、部分的な変更及び/又は追加を行なってもよいことは明らかである。
【0117】
また、本発明について一部の具体例を参照して記載したが、当業者であれば、特許請求の範囲に記載された特徴を有し故に全てが特許請求の範囲に記載の保護範囲内となる融解方法及び対応する装置10の多数の他の等価の形態を、無論達成可能であろうことも明らかである。
【0118】
特許請求の範囲において、カッコ内の参照符号は理解を深めることだけを目的としており、特定の特許請求の範囲に記載の保護範囲に関する限定をするものであると考慮すべきではない。