(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-07
(45)【発行日】2022-01-12
(54)【発明の名称】靴および靴の製造方法
(51)【国際特許分類】
A43B 13/16 20060101AFI20220104BHJP
B29D 35/08 20100101ALI20220104BHJP
【FI】
A43B13/16
B29D35/08
(21)【出願番号】P 2020561849
(86)(22)【出願日】2019-12-25
(86)【国際出願番号】 JP2019050855
(87)【国際公開番号】W WO2021130904
(87)【国際公開日】2021-07-01
【審査請求日】2020-11-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000000310
【氏名又は名称】株式会社アシックス
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】若杉 晋作
【審査官】粟倉 裕二
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-270902(JP,A)
【文献】特開2000-4908(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0153252(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A43B 13/00-13/42
B29D 35/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アッパーと、
前記アッパーの下方に位置するソールとを備え、
前記ソールは、前記アッパーの下面を覆うミッドソールと、前記ミッドソールの外表面のうちの前記アッパーに対向する対向領域を除く部分である非対向領域の一部を覆う付加ソール材とを含み、
前記ミッドソールには、前記対向領域と前記非対向領域との双方に達する貫通孔状または溝状の欠除部が設けられ、
前記付加ソール材は、前記非対向領域に固着した本体部と、前記アッパーおよび前記ミッドソールの双方に固着することで前記アッパーと前記ミッドソールとを接合する接合部と、前記ミッドソールの前記欠除部を充填する埋め込み部とを有し、
前記埋め込み部を介して前記本体部と前記接合部とが接続されることにより、前記本体部および前記接合部が、前記ミッドソールの厚み方向において離隔した状態で一体化されている、靴。
【請求項2】
前記接合部が、前記アッパーと前記ミッドソールとの境界部の周縁に沿って周回するように設けられた囲繞部を含んでいる、請求項1に記載の靴。
【請求項3】
前記接合部が、前記ミッドソールの厚み方向と交差する方向において前記囲繞部の一部と他の一部とを架設するように設けられたブリッジ部を含んでいる、請求項2に記載の靴。
【請求項4】
前記ソールが、足の踏付け部を支持する前足部、足の踏まず部を支持する中足部、および、足の踵部を支持する後足部とを含み、
前記埋め込み部が、前記中足部に設けられた傾斜板形状の部位を含んでいる、請求項1から3のいずれかに記載の靴。
【請求項5】
前記付加ソール材が、前記アッパーの側面の下端を覆うことで前記アッパーを補強する補強部を含んでいる、請求項1から4のいずれかに記載の靴。
【請求項6】
前記付加ソール材が、アウトソールであり、
前記本体部が、前記ミッドソールの下面に固着することで接地面を構成している、請求項1から5のいずれかに記載の靴。
【請求項7】
前記欠除部が前記ミッドソールの上面および下面の双方に達する貫通孔状の形状を有することにより、前記埋め込み部が前記ミッドソールの内部に埋設されており、これにより前記ミッドソールの周面がその全面にわたって露出している、請求項6に記載の靴。
【請求項8】
前記欠除部が前記ミッドソールの周面に設けられた溝状の形状を有することにより、前記埋め込み部が前記ミッドソールの周面において露出しており、これにより前記ミッドソールの周面のうちの前記埋め込み部が設けられた部分以外の部分が露出している、請求項6に記載の靴。
【請求項9】
前記付加ソール材が、緩衝材からなり、
前記本体部が、前記ミッドソールの周面に固着している、請求項1から6のいずれかに記載の靴。
【請求項10】
アッパーを準備する工程と、
外表面のうちの前記アッパーに対向することとなる対向領域と、外表面のうちの前記対向領域を除く部分となる非対向領域との双方に達する貫通孔状または溝状の欠除部が設けられたミッドソールを準備する工程と、
前記ミッドソールの外表面のうちの前記非対向領域の一部を覆う付加ソール材となる溶融材料を準備する工程と、
前記ミッドソールによって前記アッパーの下面が覆われることとなるように、前記アッパーおよび前記ミッドソールを金型にセットする工程と、
前記金型内のキャビティに前記溶融材料を注入して固化させることにより、前記付加ソール材が、前記非対向領域に固着した本体部と、前記アッパーおよび前記ミッドソールの双方に固着することで前記アッパーと前記ミッドソールとを接合する接合部と、前記ミッドソールの前記欠除部を充填する埋め込み部とを含むこととなるように、前記付加ソール材を成形する工程とを備え、
前記付加ソール材を成形する工程において、前記埋め込み部を介して前記本体部と前記接合部とが接続されるようにすることにより、前記本体部および前記接合部を前記ミッドソールの厚み方向において離隔した状態で一体化させる、靴の製造方法。
【請求項11】
前記付加ソール材を成形する工程が、前記アッパーにラストが挿入された状態で行なわれる、請求項10に記載の靴の製造方法。
【請求項12】
前記アッパーおよび前記ミッドソールを金型にセットする工程において、前記アッパーの下面と前記ミッドソールの前記対向領域とが一部において接着されることで仮固定が行なわれる、請求項10または11に記載の靴の製造方法。
【請求項13】
前記アッパーおよび前記ミッドソールのうちの前記付加ソール材が固着される部分の外表面に、予め接着性を向上させるための改質処理を施す工程をさらに備える、請求項10から12のいずれかに記載の靴の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、靴および靴の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、靴は、接地面が設けられたソールと、ソールの上方に位置するとともに足の甲側の部分を覆うアッパーとを備えている。アッパーとソールとは、接着剤を用いて接合される場合が多い。
【0003】
このアッパーとソールとの接着作業は、熟練性を必要とするものであり、現状においては十分な機械化が進んでおらず、手作業で行なうことが一般的である。そのため、高度な技能が求められるばかりでなく、工程が複雑化して製造コストが圧迫されてしまう問題がある。たとえば、ソールがミッドソールとアウトソールとを備える場合には、接着工程には、アッパーとミッドソールとを接着する工程、および、ミッドソールとアウトソールとを接着する工程の2つが含まれることになり、製造コストが増大してしまう。
【0004】
この問題を解決する一つの方法として、米国特許公開公報第2018/0153252号明細書(特許文献1)は、接地面を規定するアウトソールを注型成形または射出成形によって形成することとし、当該アウトソールの成形時において、ソールのコアであるミッドソールと、アッパーとを、当該アウトソールの一部によって接合することを開示している。
【0005】
より詳細には、当該公報に開示の靴の製造方法は、アウトソールの成形時において、ミッドソール上にアッパーが載置されるようにこれらを金型にセットし、ミッドソールの下面および周面を包み込むようにアウトソールを注型成形または射出成形によって形成し、その際にミッドソールの周面を包み込む部分のアウトソールがアッパーの周面に達してこれに固着するようにするものである。
【0006】
このような製造方法に従って靴を製造することにより、アッパーとソールとの接合作業を機械化することが可能になり、製造コストの削減に繋がることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】米国特許公開公報第2018/0153252号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記公報に開示の靴の製造方法は、ミッドソールの周面を基本的に全周にわたってアウトソールによって覆うものであるため、ミッドソールの本来の機能である緩衝機能が、当該ミッドソールの周面を覆う部分のアウトソールによって損なわれてしまう問題がある。これは、アウトソールが、耐久性等の面において優れたものである反面、ミッドソールよりも柔軟性に大幅に劣るためである。
【0009】
したがって、本発明は、上述した問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、ミッドソールの緩衝機能を損なうことなく低コストに靴を製造することを可能にすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に基づく靴は、アッパーと、上記アッパーの下方に位置するソールとを備えている。上記ソールは、上記アッパーの下面を覆うミッドソールと、上記ミッドソールの外表面のうちの上記アッパーに対向する対向領域を除く部分である非対向領域の一部を覆う付加ソール材とを含んでいる。上記ミッドソールには、上記対向領域と上記非対向領域との双方に達する貫通孔状または溝状の欠除部が設けられている。上記付加ソール材は、上記非対向領域に固着した本体部と、上記アッパーおよび上記ミッドソールの双方に固着することで上記アッパーと上記ミッドソールとを接合する接合部と、上記ミッドソールの上記欠除部を充填する埋め込み部とを有している。上記本発明に基づく靴にあっては、上記埋め込み部を介して上記本体部と上記接合部とが接続されることにより、上記本体部および上記接合部が、上記ミッドソールの厚み方向において離隔した状態で一体化されている。
【0011】
本発明に基づく靴の製造方法は、アッパーを準備する工程と、外表面のうちの上記アッパーに対向することとなる対向領域と、外表面のうちの上記対向領域を除く部分となる非対向領域との双方に達する貫通孔状または溝状の欠除部が設けられたミッドソールを準備する工程と、上記ミッドソールの外表面のうちの上記非対向領域の一部を覆う付加ソール材となる溶融材料を準備する工程と、上記ミッドソールによって上記アッパーの下面が覆われることとなるように、上記アッパーおよび上記ミッドソールを金型にセットする工程と、上記金型内のキャビティに上記溶融材料を注入して固化させることにより、上記付加ソール材が、上記非対向領域に固着した本体部と、上記アッパーおよび上記ミッドソールの双方に固着することで上記アッパーと上記ミッドソールとを接合する接合部と、上記ミッドソールの上記欠除部を充填する埋め込み部とを含むこととなるように、上記付加ソール材を成形する工程とを備えている。上記本発明に基づく靴の製造方法にあっては、上記付加ソール材を成形する工程において、上記埋め込み部を介して上記本体部と上記接合部とが接続されるようにすることにより、上記本体部および上記接合部が、上記ミッドソールの厚み方向において離隔した状態で一体化される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ミッドソールの緩衝機能を損なうことなく低コストに靴を製造することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図3】
図1に示す靴のソールの構造を示す模式的な斜視図である。
【
図5】実施の形態1に係る靴の製造方法を示すフロー図である。
【
図6】
図5に示す靴の製造方法におけるアッパーおよびミッドソールを金型にセットする工程を示す模式断面図である。
【
図7】
図5に示す靴の製造方法におけるアッパーおよびミッドソールを金型にセットする工程が完了した後の状態を示す模式断面図である。
【
図8】
図5に示す靴の製造方法におけるアウトソールを射出成形する工程を示す模式断面図である。
【
図9】第1変形例に係る靴のソールからアウトソールのみを抜き出して示した模式的な斜視図である。
【
図10】第2変形例に係る靴のソールからアウトソールのみを抜き出して示した模式的な斜視図である。
【
図12】実施の形態2に係る靴のソールの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について、図を参照して詳細に説明する。なお、以下に示す実施の形態においては、同一のまたは共通する部分について図中同一の符号を付し、その説明は繰り返さない。
【0015】
(実施の形態1)
図1は、実施の形態1に係る靴の斜視図であり、
図2は、当該靴の分解斜視図である。まず、これら
図1および
図2を参照して、本実施の形態に係る靴1Aの概略的な構成について説明する。
【0016】
図1および
図2に示すように、靴1Aは、アッパー10と、ソール20Aと、中敷き30とを備えている。アッパー10は、挿入された足の甲側の部分の全体を少なくとも覆う形状を有している。ソール20Aは、足の足裏を覆うようにアッパー10の下方に位置している。中敷き30は、アッパー10の内底面を覆うようにアッパー10の内部に収容されている。
【0017】
アッパー10は、アッパー本体11と、シュータン12と、爪先側補強部13と、踵側補強部14と、アイレット補強部15と、シューレース16とを含んでいる。このうち、シュータン12、爪先側補強部13、踵側補強部14、アイレット補強部15およびシューレース16は、いずれもアッパー本体11に固定または取り付けられている。
【0018】
アッパー本体11の上部には、足首の上部と足の甲の一部とを露出させる上側開口部が設けられている。一方、アッパー本体11の下部には、一例としては、ソール20Aによって覆われる下側開口部が設けられており、他の例としては、当該アッパー本体11の下端が袋縫いされることで底部が形成されている。ここで、アッパー本体11の下部に底部を設ける場合としては、上述した袋縫いを適用する以外にも、靴下編みや丸編み等によってアッパー本体11の全体を予め袋状に形成してもよい。
【0019】
シュータン12は、アッパー本体11に設けられた上側開口部のうち、足の甲の一部を露出させる部分を覆うようにアッパー本体11に縫製、溶着あるいは接着またはこれらの組み合わせ等によって固定されている。アッパー本体11およびシュータン12としては、たとえば織地や編地、不織布、合成皮革、樹脂等が用いられ、特に通気性や軽量性が求められる靴においては、ポリエステル糸を編み込んだダブルラッセル経編地が利用される。
【0020】
爪先側補強部13および踵側補強部14は、特に耐久性が求められる部分であるアッパー本体11の足の爪先を覆う部分および足の踵を覆う部分をそれぞれ補強するために設けられたものであり、これら部分のアッパー本体11の外側表面を覆うように位置している。
【0021】
アイレット補強部15は、爪先側補強部13および踵側補強部14と同様に、特に耐久性が求められる部分である、アッパー本体11に設けられた足の甲の一部を露出させる上側開口部の周縁(すなわち、シューレース16が取り付けられる部分)を補強するために設けられたものであり、当該部分のアッパー本体11の外側表面を覆うように位置している。
【0022】
これら爪先側補強部13、踵側補強部14およびアイレット補強部15は、アッパー本体11の外側表面に縫製、溶着あるいは接着またはこれらの組み合わせ等によって固定されたたとえば織地や編地、不織布、合成皮革、樹脂等からなる。
【0023】
シューレース16は、アッパー本体11に設けられた足の甲の一部を露出させる上側開口部の周縁を足幅方向において互いに引き寄せるための紐状の部材からなり、当該上側開口部の周縁に設けられた複数の孔部に挿通されている。アッパー本体11に足が挿入された状態においてこのシューレース16を締め付けることにより、アッパー本体11を足に密着させることが可能になる。
【0024】
ソール20Aは、ミッドソール21と、付加ソール材としてのアウトソール22とを含んでいる。ミッドソール21およびアウトソール22は、これらが一体化されてなる全体として略偏平な形状を有している。ミッドソール21は、アッパー10の下面を覆っており、アウトソール22は、ミッドソール21の一部を覆っている。
【0025】
なお、より厳密には、本実施の形態においては、後述するように、アウトソール22が注型成形または射出成形によって形成されることでミッドソール21およびアウトソール22のみならずアッパー10とソール20Aとがすべて一体化されることになるが、この点ならびにソール20Aの詳細な構造については、いずれも後述することとする。
【0026】
ソール20Aは、上述したミッドソール21およびアウトソール22に加えて、図示しない中底を有していてもよい。ソール20Aが中底を有している場合には、中底は、上述したアッパー本体11の下側開口部を覆うようにアッパー本体11に取り付けられるか、あるいは、上述したアッパー本体11の下端が袋縫いされることで形成された底部を覆うようにアッパー本体11に取り付けられる。
【0027】
より詳細には、中底は、アッパー本体11に縫製等によって固定されるとともに、ミッドソール21の上面に固定される部位である。中底は、たとえばポリエステル等の合成樹脂繊維で構成された織地、編地または不織布、あるいは、主成分としての樹脂材料と、副成分としての発泡剤や架橋剤とを含む樹脂製のフォーム材からなる。
【0028】
中敷き30は、上述したようにアッパー10の内部に収容されており、アッパー10の内底面上に着脱自在に取り付けられるか、あるいは、アッパー10の内底面に溶着または接着等によって固定されている。中敷き30は、たとえばポリエステル等の合成樹脂繊維で構成された織地、編地または不織布、あるいは、主成分としての樹脂材料と、副成分としての発泡剤や架橋剤とを含む樹脂製のフォーム材からなり、足当たりをよくする目的で配置されるものである。なお、中敷き30は、必須の構成ではなく、これを設けないこととしてもよい。
【0029】
ここで、ソール20Aの前方側末端を基準とし、当該前方側末端からソール20Aの前後方向の寸法の40%の寸法に相当する位置を第1境界位置とし、当該前方側末端からソール20Aの前後方向の寸法の80%の寸法に相当する位置を第2境界位置とした場合に、前後方向に沿って前方側末端と第1境界位置との間に含まれる部分をソール20Aの前足部と称し、前後方向に沿って第1境界位置と第2境界位置との間に含まれる部分をソール20Aの中足部と称し、前後方向に沿って第2境界位置とソール20Aの後方側末端との間に含まれる部分をソール20Aの後足部と称する。
【0030】
その場合、ソール20Aの前足部は、足の足趾部と踏付け部とを支持する部分に該当し、ソール20Aの中足部は、足の踏まず部を支持する部分に該当し、ソール20Aの後足部は、足の踵部を支持する部分に該当する。
【0031】
また、足のうちの解剖学的正位における正中側(すなわち正中に近い側)を内足側と称し、足のうちの解剖学的正位における正中側とは反対側(すなわち正中に遠い側)を外足側と称する。
【0032】
図3は、本実施の形態に係る靴のソールの構造を示す模式的な斜視図であり、
図4は、当該靴の
図1中に示すIV-IV線に沿った模式断面図である。次に、これら
図3および
図4と、前述の
図1および
図2とを参照して、本実施の形態に係る靴1Aのソール20Aの詳細な構造について説明する。なお、ミッドソール21とアウトソール22とは、前述のとおり一体化されるものであるが、
図3においては、本実施の形態に係る靴1Aのソール20Aからミッドソール21とアウトソール22とを個別に抜き出すことでこれらを模式的に表わしている。
【0033】
図1ないし
図4を参照して、ソール20Aは、上述したようにミッドソール21とアウトソール22とを有しており、これらミッドソール21およびアウトソール22が一体化されることで構成されている。アウトソール22は、ミッドソール21の外表面の一部を覆うように設けられており、ミッドソール21との境界部においてミッドソール21に固着している。
【0034】
図3および
図4に示すように、ミッドソール21は、上面21a、下面21bおよび周面21cを有する細長略板状の外形を有している。ミッドソール21の上面21aは、アッパー10に対向する対向領域を規定しており、ミッドソール21の下面21bおよび周面21cは、当該対向領域を除く部分である非対向領域を規定している。
【0035】
ミッドソール21には、上記対向領域である上面21aと上記非対向領域である下面21bとの双方に達するように、溝状の欠除部21dが設けられている(特に
図3参照)。本実施の形態においては、当該欠除部21dが、上述したソール20Aの中足部のうちの内足側の縁部と外足側の縁部とにそれぞれ1箇所ずつ設けられている。
【0036】
一方、アウトソール22は、本体部22aと、接合部22bと、埋め込み部22cとを含む立体的な形状を有しており、これら本体部22a、接合部22bおよび埋め込み部22cは、いずれもミッドソール21の外表面に固着している。
【0037】
本体部22aは、ミッドソール21よりも下方に位置しており、ミッドソール21の下面21bを覆う細長の略板状の外形を有している。本体部22aは、その下面によって接地面22eを規定しており、当該接地面22eには、グリップ性を向上させるために、その露出面に凹凸が形成されることでトレッドパターンが付与されていてもよい。
【0038】
接合部22bは、ミッドソール21の上面21a側に位置しており、ミッドソール21の上面21aの周縁を覆う略環状形状の囲繞部22b1を含んでいる。当該接合部22bは、アッパー10の底部の周縁とミッドソール21の上面21aの周縁との間に介在しており、これによりアッパー10の下面とミッドソール21の上面21aとに固着することでこれらアッパー10とミッドソール21とを接合している(特に
図4参照)。
【0039】
埋め込み部22cは、ミッドソール21に設けられた上記欠除部21dを充填するように当該欠除部21dの内部に位置している。埋め込み部22cは、上述したソール20Aの中足部のうちの内足側の縁部と外足側の縁部とに1箇所ずつ設けられており、ミッドソール21の周面において露出している(
図1および
図2参照)。
【0040】
上述した本体部22aおよび接合部22bは、この埋め込み部22cを介して接続されている。すなわち、本体部22aと接合部22bとは、この埋め込み部22cによって接続されており、これによりミッドソール21の厚み方向において離隔した状態で一体化されている。
【0041】
ここで、ミッドソール21は、適度な強度を有しつつも緩衝性に優れていることが好ましく、当該観点から、ミッドソール21としては、たとえば、主成分としての樹脂材料と、副成分としての発泡剤や架橋剤とを含む樹脂製のフォーム材が用いられる。また、これに代えて、主成分としてのゴム材料と、副成分としての可塑剤や発泡剤、補強剤、架橋剤とを含むゴム製のフォーム材を用いてもよい。
【0042】
上記樹脂材料としては、熱可塑性樹脂および熱硬化性樹脂が利用でき、熱可塑性樹脂としては、たとえばエチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)が好適に利用でき、熱硬化性樹脂としては、たとえばポリウレタン(PU)が好適に利用できる。上記ゴム材料としては、たとえばブタジエンゴムが好適に利用できる。
【0043】
一方、アウトソール22は、耐摩耗性やグリップ性に優れていることが好ましく、当該観点から、アウトソール22の材質としては、たとえば熱可塑性樹脂を主成分とする樹脂材料を用いることが好ましい。上記樹脂材料としては、たとえばエチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)が好適に利用できる。
【0044】
これにより、ミッドソール21は、一般にアウトソール22よりもヤング率が小さくかつ軟質の部材にて構成されることになり、アウトソール22は、一般にミッドソール21よりもヤング率が大きくかつ硬質の部材にて構成されることになる。
【0045】
ミッドソール21は、上述したように樹脂製のフォーム材あるいはゴム製のフォーム材によって構成されており、たとえば樹脂材料あるいはゴム材料を原料とした注型成形または射出成形によって形成することができる。また、アウトソール22も、上述したように樹脂材料にて構成されており、たとえば樹脂材料を原料とした注型成形または射出成形によって形成することができる。なお、より特定的には、本実施の形態においては、アウトソール22は、熱可塑性樹脂を主成分とする樹脂材料を原料とした射出成形によって形成されている。
【0046】
ここで、本実施の形態においては、ソール20Aが、その上面を規定するミッドソール21の上面21aの周縁部が周囲に比して盛り上がった形状を有しており、これにより当該上面21aの中央部には、凹状の部位が設けられている。この凹状の部位は、アッパー10を受け入れるための部位であり、当該凹状の部位の底面である上記周縁部を除く上面21aは、足裏の形状にフィットするように滑らかな曲面形状を有している。なお、ミッドソール21の上面21aには、必ずしも上述したような凹状の部位が設けられている必要はなく、これがフラットな形状とされていてもよい。
【0047】
図5は、本実施の形態に係る靴の製造方法を示すフロー図である。
図6は、本実施の形態に係る靴の製造方法におけるアッパーおよびミッドソールを金型にセットする工程を示す模式断面図であり、
図7は、当該
図5に示す工程が完了した後の状態を示す模式断面図である。また、
図8は、本実施の形態に係る靴の製造方法におけるアウトソールを射出成形する工程を示す模式断面図である。以下、これら
図5ないし
図8を参照して、本実施の形態に係る靴の製造方法について説明する。
【0048】
上述した本実施の形態に係る靴1Aは、
図5に示す製造フローに従って製造することができる。以下、当該製造フローにつき、ステップ毎にその説明を行なう。
【0049】
まず、
図5に示すように、ステップST1において、アッパー10が準備され、ステップST2においてミッドソール21が準備される。具体的には、アッパー10は、アッパー本体11の原料となる生地等を所定の形状に裁断し、これを立体的にかたち作って必要箇所を縫合、溶着あるいは接着またはこれらの組み合わせ等によって接合すること等で準備される。ここで、靴下編みや丸編み等によってアッパー本体11の全体を予め袋状に形成した場合には、上述した縫合等は不要である。一方、ミッドソール21は、たとえば樹脂材料あるいはゴム材料を原料とした注型成形や射出成形、または、プレス形成等によって形成される。
【0050】
次に、ステップST3において、アッパー10およびミッドソール21に接着改質剤が塗布される。ここで、接着改質剤は、後述するアウトソール22の射出成形の際に、アウトソール22とアッパー10およびミッドソール21との接着性を高めるためのものである。そのため、当該ステップST3においては、好ましくはアッパー10およびミッドソール21のうちのアウトソール22が固着される部分の外表面の全域に接着改質剤が塗布される。
【0051】
なお、接着性を高めるための方法としては、上述した接着改質剤の塗布以外にも、種々の方法が適用できる。たとえば、貼り付けることができるように構成されたシート状の接着改質材を用いることとしてもよいし、予めアッパー10およびミッドソール21の原料に接着改質材を含ませておくこともできる。さらには、プラズマ照射によってアッパー10およびミッドソール21の表面を改質させてもよい。一方で、このような接着性を高めるための工程は必須のものではなく、これを省略することとしてもよい。
【0052】
次に、ステップST4において、アウトソール22となる溶融材料が準備される。ここで、準備される溶融材料は、上述したアウトソール22の原料となる樹脂の溶融物である。この溶融材料を準備するステップは、後述するアウトソール22が射出成形されるステップの前であれば、いずれのタイミングで行なわれてもよい。
【0053】
なお、当該ステップST4のみならず、上述したステップST1およびステップST2を含めた準備工程は、後述するアウトソール22が射出成形されるステップの前であればいずれのタイミングで行なわれてもよく、またそれらの実施順序も適宜変更が可能である。
【0054】
次に、ステップST5において、アッパー10にラスト200(
図6等参照)が挿入される。ラスト200は、アッパー10の形状を最終製品の形状に成形して維持するためのものであり、足の形を模した型である。なお、アッパー10にラスト200が挿入されるステップは、後述するアッパー10およびミッドソール21が金型100(
図6等参照)にセットされるステップの前であれば、いずれのタイミングで行なわれてもよい。
【0055】
次に、ステップST6において、アッパー10およびミッドソール21が金型100にセットされ、ステップST7においてアウトソール22が射出成形される。この一連の工程は、たとえば
図6ないし
図8に示す金型100を備えた射出成形機によって実施される。
【0056】
図6に示すように、射出成形機の金型100は、たとえば第1ないし第3金型101~103に分割されている。第1金型101は、射出成形時において、主としてアッパー10の外足側の部分に宛がわれるものであり、第2金型102は、射出成形時において、主としてアッパー10の内足側の部分に宛がわれるものである。一方、第3金型103は、射出成形時において、アッパー10の下方に配置されるミッドソール21に宛がわれるものである。なお、金型100に設けられる、溶融材料の射出口であるゲート104は、好ましくは図示するように第3金型103に設けられる。
【0057】
アッパー10およびミッドソール21を金型100にセットする工程においては、まず、ラスト200が挿入されたアッパー10の下面を覆うように、ミッドソール21が当該アッパー10に仮固定され、次に、ラスト200が挿入されるとともにミッドソール21が仮固定されたアッパー10が、第1ないし第3金型101~103によって挟み込まれる。
【0058】
ここで、アッパー10に対するミッドソール21の仮固定は、たとえば、ミッドソール21の対向領域である上面21aのうち、後述するアウトソール22の接合部22bによって覆われることのない部分と、これに対向する部分のアッパー10の下面とが、両面テープや粘着テープ、接着剤等を用いることによって行なわれる。
【0059】
また、上述した第1ないし第3金型101~103による挟み込みは、ラスト200が挿入されるとともにミッドソール21が仮固定されたアッパー10を取り囲むように第1ないし第3金型101~103が配置され、これらが駆動機構によって
図6中に示す矢印方向に沿って駆動されることで行なわれる。
【0060】
これにより、
図7(A)および
図7(B)に示すように、アッパー10およびミッドソール21が金型100にセットされた後の状態においては、ラスト200、アッパー10およびミッドソール21によって第1ないし第3金型101~103の内部の空間の大部分が占められることになる一方で、アッパー10およびミッドソール21の周囲に所定の形状のキャビティCが形成されることになる。このキャビティCは、第3金型103に設けられたゲート104に連通している。ここで、
図7(B)は、
図7(A)中に示すVIIB-VIIB線に沿った断面を表わしている。
【0061】
アウトソール22が射出成形される工程においては、アウトソール22となる溶融材料がゲート104を介してキャビティCに向けて射出される(
図7(A)および
図7(B)中に示す矢印A参照)。これにより、当該キャビティCが溶融材料によって充填される。
【0062】
その際、
図8(A)および
図8(B)に示すように、ゲート104から第1ないし第3金型101~103に射出された溶融材料は、アウトソール22の本体部22aとなる部分から、アウトソール22の埋め込み部22cとなる部分を経由して、アウトソール22の接合部22bとなる部分にまで達することになる。ここで、
図8(B)は、
図8(A)中に示すVIIIB-VIIIB線に沿った断面を表わしている。
【0063】
その後、第1ないし第3金型101~103によって冷却されることで当該溶融材料が固化することになり、これによってアウトソール22が形成される。このとき、アウトソール22のうちのアッパー10およびミッドソール21と接触する部分においては、当該アウトソール22がこれらに対して固着することになる。
【0064】
そのため、特に、アッパー10とミッドソール21との間に介在する部分であるアウトソール22の接合部22bにおいて、これらアッパー10とミッドソール21とが接合されることになる。したがって、アウトソール22が射出成形によって形成されることでミッドソール21およびアウトソール22のみならずアッパー10とソール20Aとがすべて一体化されることになる。
【0065】
次に、
図5に示すように、ステップST8において、アッパー10とソール20Aとが一体化されてなる靴1Aが、金型100から離型され、その後、ステップST9において、アッパー10からラスト200が取り出される。以上により、アッパー10とソール20Aとの一体化の作業がすべて完了することになる。
【0066】
以上において説明したように、本実施の形態に係る靴1Aとすることにより、または、本実施の形態に係る靴の製造方法に従って靴を製造することにより、アッパー10とソール20Aとの接合作業を機械化することが可能になり、製造コストを削減することが可能になる。ここで、上述した製造コストの削減には、製造にかかる時間、人員、作業スペース等の削減が含まれる。
【0067】
さらには、ソール20Aの周面が、実質的にアウトソール22によって覆われることなく、ほぼその全周にわたってミッドソール21によって覆われた状態(すなわち、ミッドソール21が露出した状態)に構成できるため、ミッドソール21の本来の機能である緩衝機能が十分に発揮されることになる。
【0068】
したがって、本実施の形態に係る靴1Aとすることにより、または、本実施の形態に係る靴の製造方法に従って靴を製造することにより、ミッドソール21の緩衝機能を損なうことなく低コストに靴を製造することが可能になる。
【0069】
なお、本実施の形態によれば、アッパー10とソール20Aとの接合作業を機械化することが可能になるため、品質を安定化することができるという副次的な効果も得られる。また、本実施の形態によれば、ミッドソール21の意匠面が露出することになるため、デザイン面での設計自由度が向上するという副次的な効果も得られる。
【0070】
ここで、本実施の形態に係る靴1Aにおいては、上述したように、アウトソール22の接合部22bが、アッパー10とミッドソール21との境界部の周縁に沿って周回するように設けられた略環状形状の囲繞部22b1を含んでいる。このように構成することにより、アッパー10とソール20Aとの境界部の端部において剥離が発生することが効果的に抑制できるとともに、アッパー10とミッドソール21との接合強度を靴全体として高めることが可能になり、耐久性に優れた靴とすることができる。
【0071】
また、本実施の形態に係る靴1Aにおいては、上述したように、アウトソール22の埋め込み部22cが、ソール20Aの中足部に設けられており、さらには、当該埋め込み部22cが、
図3に示すように傾斜板形状の部位を含んでいる。このように構成した場合には、ソール20Aの中足部の所定位置に、ミッドソール21よりも剛性の大きいアウトソール22からなるいわゆるトラス構造の部位を形成することができる。したがって、運動時にソールが捩れることを抑制することが可能になる。なお、このトラス構造に代えて、いわゆるバネ構造の部位を上述した埋め込み部22cとしてソール20Aに設けることとしてもよい。
【0072】
さらには、本実施の形態においては、アッパー10にラスト200が挿入された状態において、射出成形によってアウトソール22が形成されるようにしている。このようにすることにより、射出成形時においてアッパー10やミッドソール21が変形することが抑制でき、高精度にアウトソール22を成形することが可能になる。
【0073】
(第1ないし第3変形例)
図9および
図10は、それぞれ第1および第2変形例に係る靴のソールからアウトソールのみを抜き出して示した模式的な斜視図である。また、
図11は、第3変形例に係る靴の模式断面図である。以下、これら
図9ないし
図11を参照して、上述した実施の形態1に基づいた第1ないし第3変形例に係る靴1A1~1A3について説明する。
【0074】
図9に示すように、第1変形例に係る靴1A1は、上述した実施の形態1に係る靴1Aと比較した場合に、異なる構造のソール20A1を備えている点においてのみその構成が相違している。ソール20A1は、上述したソール20Aと同様に、ミッドソール(不図示)とアウトソール22とを有しており、アウトソール22は、ミッドソールの形状に依存して、
図9に示す如くの形状を有している。
【0075】
具体的には、ソール20A1の図示しないミッドソールの前足部には、その上面側(すなわちアッパー10に面する側であるミッドソールの対向領域側)の所定位置に足幅方向に沿って延在する凹部が設けられており、これによってアウトソール22の接合部22bには、略環状形状の囲繞部22b1の一部と他の一部とを架設するブリッジ部22b2が設けられている。
【0076】
また、ソール20A1の図示しないミッドソールの周面のうちの前方側末端(すなわち前足部の先端)および後足部には、中足部に設けられた一対の欠除部に加えて、さらに溝状の複数の欠除部が設けられており、これによってアウトソール22には、前足部から後足部にかけて合計で5つの埋め込み部22cが設けられている。
【0077】
このように構成された第1変形例に係る靴1A1においては、ブリッジ部22b2が接合部22bに設けられることにより、上述した実施の形態1の場合に比べて、アッパー10とソール20A1との接合強度がさらに高められることになる。また、このように構成された第1変形例に係る靴1A1においては、ブリッジ部22b2が設けられた分だけ、また、複数の埋め込み部22cの数が増えた分だけ、射出成形時において溶融材料がキャビティCの隅々にまで行き渡り易くなり、成形性が向上することになる。
【0078】
図10に示すように、第2変形例に係る靴1A2は、上述した実施の形態1に係る靴1Aと比較した場合に、異なる構造のソール20A2を備えている点においてのみその構成が相違している。ソール20A2は、上述したソール20Aと同様に、ミッドソール(不図示)とアウトソール22とを有しており、アウトソール22は、ミッドソールの形状に依存して、
図10に示す如くの形状を有している。
【0079】
具体的には、ソール20A1の図示しないミッドソールの前足部および後足部には、その上面側(すなわちアッパー10に面する側であるミッドソールの対向領域側)の所定位置に足幅方向に沿って延在する凹部がそれぞれ設けられており、これによってアウトソール22の接合部22bには、略環状形状の囲繞部22b1を橋渡しするように2つのブリッジ部22b2が設けられている。
【0080】
また、ソール20A1の図示しないミッドソールの前足部および後足部には、上述した凹部に挿通するように当該ミッドソールの厚み方向に沿って延在する貫通孔状の欠除部が設けられており、これによってアウトソール22には、本体部22aと接合部22bとを接続する2つの円柱状の埋め込み部22cが設けられている。
【0081】
この2つの円柱状の埋め込み部22cが設けられることにより、ソール20A1の図示しないミッドソールの中足部には、上述したソール20Aが有していた一対の溝状の欠除部が設けられておらず、これに伴ってアウトソール22にも、上述したソール20Aが有していた傾斜板形状の部位からなる2つの埋め込み部22cは設けられていない。
【0082】
そのため、このように構成された第2変形例に係る靴1A2においては、ソール20A2の周面が、アウトソール22によって覆われることがなく、その全周にわたってミッドソール21によって覆われた状態(すなわちミッドソール21が露出した状態)となる。したがって、ミッドソール21の本来の機能である緩衝機能が十分に発揮された靴とすることができる。
【0083】
また、このように構成された第2変形例に係る靴1A2においては、2つのブリッジ部22b2が接合部22bに設けられることにより、上述した実施の形態1の場合に比べて、アッパー10とソール20A1との接合強度がさらに高められることになる。また、このように構成された第2変形例に係る靴1A2においては、2つのブリッジ部22b2が設けられた分だけ、また、外形が小さい傾斜板状の2つの埋め込み部22cに代えて、外形が大きい円柱状の2つの埋め込み部22cが設けられた分だけ、射出成形時において溶融材料がキャビティCの隅々にまで行き渡り易くなり、成形性が向上することになる。
【0084】
図11に示すように、第3変形例に係る靴1A3は、上述した実施の形態1に係る靴1Aと比較した場合に、異なる構造のソール20A3を備えている点においてのみその構成が相違している。ソール20A3は、上述したソール20Aと同様に、ミッドソール21とアウトソール22とを有している。このうちミッドソール21の形状は、上述した実施の形態1のそれと同様である。
【0085】
第3変形例に係る靴1A3においては、上述した第1および第2金型101,102(
図6ないし
図8参照)によって規定されることとなるキャビティCの形状が変更されることにより、アウトソール22のうちの接合部22bの周縁がアッパー本体11の外側表面に沿ってアッパー10の上端側に向けて所定量だけ延設されている。このアウトソール22の延設された部分は、アッパー本体11を覆う補強部22dとして機能することになる。
【0086】
したがって、このように構成された第3変形例に係る靴1A3とすることにより、アッパー本体11の必要箇所が、アウトソール22の接合部22bから延設した部分である補強部22dによって補強されることになるため、高い耐久性を備えた靴を容易にかつ安価に製造することが可能になる。ここで、当該補強部22dは、靴の全周にわたって設けられてもよいし、靴の周方向の一部にわたってのみ設けられてもよい。なお、これらアウトソール22からなる補強部22dは、上述した爪先側補強部13および踵側補強部14の代替となり得るものである。
【0087】
以上において説明したように、アウトソール22の一部となる接合部22bや埋め込み部22cの形状は、種々変更が可能である。たとえば、接合部22bは、上述したブリッジ部22b2に限らず、網目状の部位を有していてもよいし、点列状の部位を有していてもよい。また、埋め込み部22cも、上述した形状に限られず、非傾斜板状、多角柱状、楕円柱状、円錐台状、多角錐台状等、どのような形状を有していてもよい。
【0088】
なお、埋め込み部22cは、前足部、中足部および後足部の少なくともいずれかに設けられていればよく、前足部、中足部および後足部の各々にそれぞれ1箇所以上設けられていればより好ましい。このように、前足部、中足部および後足部の各々にそれぞれ1箇所以上設けることとすれば、上述した射出成形時における溶融材料の行き渡りが改善し、成形性が向上することになる。
【0089】
ここで、本発明によれば、上述した実施の形態1において説明した如くの靴1Aの構成や、上述した第1ないし第3変形例において説明した如くの靴1A1~1A3の構成を、金型を変更することなく容易に実現することができる。すなわち、ミッドソールの形状を変更することにより、これに応じて自ずとアウトソールの形状も変更されることになるため、アウトソールを成形するための金型を別途新たに準備する必要がない。したがって、本発明によれば、個別に金型を準備することなく各種の構成の靴を製造することが可能になり、様々な構成の靴を(すなわち、多様な製品ラインナップの商品を)安価に製造することが可能になる。
【0090】
(実施の形態2)
図12は、実施の形態2に係る靴のソールの斜視図である。以下、この
図12を参照して、本実施の形態に係る靴1Bについて説明する。なお、本実施の形態に係る靴1Bは、上述した実施の形態1に係る靴1Aと比較した場合に、異なる構造のソール20Bを備えている点においてのみその構成が相違している。
【0091】
図12に示すように、靴1Bのソール20Bは、ミッドソール21と、アウトソール22と、付加ソール材としての緩衝材23とを含んでいる。ミッドソール21、アウトソール22および緩衝材23は、これらが一体化されてなる全体として略偏平な形状を有している。ミッドソール21は、アッパー10の下面を覆っており、アウトソール22は、ミッドソール21の下面を覆っており、緩衝材23は、ミッドソール21の一部を覆っている。
【0092】
緩衝材23の材質としては、弾性力に富んだ材料であれば基本的にどのような材料であってもよいが、たとえばオレフィン系ポリマー、アミド系ポリマー、エステル系ポリマー、ウレタン系ポリマー、スチレン系ポリマー、アクリル系ポリマー等のポリマー組成物とすることができる。
【0093】
ここで、緩衝材23は、ミッドソール21の外表面の一部を覆うように設けられており、ミッドソール21との境界部においてミッドソール21に固着している。より具体的には、緩衝材23は、本体部23aと、接合部23bと、埋め込み部23cとを含む立体的な形状を有しており、これら本体部23a、接合部23bおよび埋め込み部23cは、いずれもミッドソール21の外表面に固着している。
【0094】
本体部23aは、ミッドソール21の周面21c上においてその一部が露出するようにミッドソール21の内部に埋設されている。一方、接合部23bは、ミッドソール21の上面21a側に位置することにより、アッパー10の底部の周縁とミッドソール21の上面21aの周縁との間に介在している。埋め込み部23cは、ミッドソール21の周面21cに設けられた溝状の欠除部を充填するように当該欠除部の内部に位置している。
【0095】
このうち、接合部23bは、アッパー10の下面とミッドソール21の上面21aとに固着することでこれらアッパー10とミッドソール21とを接合している。一方、埋め込み部23cは、本体部23aと接合部23bとを接続しており、これによってミッドソール21の厚み方向においてこれら本体部23aと接合部23bとを離隔した状態で一体化している。
【0096】
この緩衝材23は、上述したポリマー組成物を原料とした注型成形または射出成形によって形成することができる。なお、その成形方法については、ここではその詳細な説明を省略するが、上述した実施の形態1において説明したアウトソールの成形方法に準じたものとなる。ここで、本実施の形態においては、アウトソール22は、ミッドソール21の下面を覆うのみであり、これによって接地面22eを規定している。当該アウトソール22は、たとえば接着剤を用いた接着等により、ミッドソール21の下面に貼り付けられる。
【0097】
以上において説明した本実施の形態に係る靴1Bとした場合にも、アッパー10とソール20Bとの接合作業を機械化することが可能になり、製造コストを削減することも可能になる。さらには、ソール20Bの周面が、実質的にアウトソール22によって覆われることなく、ほぼその全周にわたってミッドソール21によって覆われた状態(すなわち、ミッドソール21が露出した状態)に構成できるため、ミッドソール21の本来の機能である緩衝機能が十分に発揮されることになる。
【0098】
したがって、本実施の形態に係る靴1Bとすることにより、上述した実施の形態1の場合と同様に、ミッドソール21の緩衝機能を損なうことなく低コストに靴を製造することが可能になる。
【0099】
(実施の形態等における開示内容の要約)
上述した実施の形態1,2およびその変形例において開示した特徴的な構成を要約すると、以下のとおりとなる。
【0100】
本開示のある態様に従った靴は、アッパーと、上記アッパーの下方に位置するソールとを備えている。上記ソールは、上記アッパーの下面を覆うミッドソールと、上記ミッドソールの外表面のうちの上記アッパーに対向する対向領域を除く部分である非対向領域の一部を覆う付加ソール材とを含んでいる。上記ミッドソールには、上記対向領域と上記非対向領域との双方に達する貫通孔状または溝状の欠除部が設けられている。上記付加ソール材は、上記非対向領域に固着した本体部と、上記アッパーおよび上記ミッドソールの双方に固着することで上記アッパーと上記ミッドソールとを接合する接合部と、上記ミッドソールの上記欠除部を充填する埋め込み部とを有している。上記本開示のある態様に従った靴にあっては、上記埋め込み部を介して上記本体部と上記接合部とが接続されることにより、上記本体部および上記接合部が、上記ミッドソールの厚み方向において離隔した状態で一体化されている。
【0101】
上記本開示のある態様に従った靴にあっては、上記接合部が、上記アッパーと上記ミッドソールとの境界部の周縁に沿って周回するように設けられた囲繞部を含んでいてもよい。
【0102】
上記本開示のある態様に従った靴にあっては、上記接合部が、上記ミッドソールの厚み方向と交差する方向において上記囲繞部の一部と他の一部とを架設するように設けられたブリッジ部を含んでいてもよい。
【0103】
上記本開示のある態様に従った靴にあっては、上記ソールが、足の踏付け部を支持する前足部、足の踏まず部を支持する中足部、および、足の踵部を支持する後足部とを含んでいてもよい。その場合には、上記埋め込み部が、上記中足部に設けられた傾斜板形状の部位を含んでいてもよい。
【0104】
上記本開示のある態様に従った靴にあっては、上記付加ソール材が、上記アッパーの側面の下端を覆うことで上記アッパーを補強する補強部を含んでいてもよい。
【0105】
上記本開示のある態様に従った靴にあっては、上記付加ソール材が、アウトソールであってもよい。その場合には、上記本体部が、上記ミッドソールの下面に固着することで接地面を構成することになる。
【0106】
上記本開示のある態様に従った靴にあっては、上記欠除部が上記ミッドソールの上面および下面の双方に達する貫通孔状の形状を有していてもよい。その場合には、上記埋め込み部が上記ミッドソールの内部に埋設されることにより、上記ミッドソールの周面が、その全面にわたって露出することになる。
【0107】
上記本開示のある態様に従った靴にあっては、上記欠除部が上記ミッドソールの周面に設けられた溝状の形状を有していてもよい。その場合には、上記埋め込み部が上記ミッドソールの周面において露出することにより、上記ミッドソールの周面のうちの上記埋め込み部が設けられた部分以外の部分が、露出することになる。
【0108】
上記本開示のある態様に従った靴にあっては、上記付加ソール材が、緩衝材であってもよい。その場合には、上記本体部が、上記ミッドソールの周面に固着することになる。
【0109】
本開示のある態様に従った靴の製造方法は、アッパーを準備する工程と、外表面のうちの上記アッパーに対向することとなる対向領域と、外表面のうちの上記対向領域を除く部分となる非対向領域との双方に達する貫通孔状または溝状の欠除部が設けられたミッドソールを準備する工程と、上記ミッドソールの外表面のうちの上記非対向領域の一部を覆う付加ソール材となる溶融樹脂を準備する工程と、上記ミッドソールによって上記アッパーの下面が覆われることとなるように、上記アッパーおよび上記ミッドソールを金型にセットする工程と、上記金型内のキャビティに上記溶融樹脂を注入して固化させることにより、上記付加ソール材が、上記非対向領域に固着した本体部と、上記アッパーおよび上記ミッドソールの双方に固着することで上記アッパーと上記ミッドソールとを接合する接合部と、上記ミッドソールの上記欠除部を充填する埋め込み部とを含むこととなるように、上記付加ソール材を成形する工程とを備えている。上記本開示のある態様に従った靴の製造方法にあっては、上記付加ソール材を成形する工程において、上記埋め込み部を介して上記本体部と上記接合部とが接続されるようにすることにより、上記本体部および上記接合部が、上記ミッドソールの厚み方向において離隔した状態で一体化される。
【0110】
上記本開示のある態様に従った靴の製造方法にあっては、上記付加ソール材を成形する工程が、上記アッパーにラストが挿入された状態で行なわれてもよい。
【0111】
上記本開示のある態様に従った靴の製造方法にあっては、上記アッパーおよび上記ミッドソールを金型にセットする工程において、上記アッパーの下面と上記ミッドソールの上記対向領域とが一部において接着されることで仮固定が行なわれてもよい。
【0112】
上記本開示のある態様に従った靴の製造方法は、上記アッパーおよび上記ミッドソールのうちの上記付加ソール材が固着される部分の外表面に、予め接着性を向上させるための改質処理を施す工程をさらに備えていてもよい。
【0113】
(その他の形態等)
上述した実施の形態1および2ならびにその変形例においては、付加ソール材の接合部によってアッパーとミッドソールとが靴の全周にわたって接合されるように構成した場合を例示して説明を行なったが、必ずしも靴の全周にわたってアッパーとミッドソールとが接合されている必要はなく、周縁の一部のみあるいは周縁からより奥まった部分においてのみ、これらアッパーおよびミッドソールが接合されるようにしてもよい。
【0114】
また、上述した実施の形態1および2ならびにその変形例においては、アッパーとミッドソールを接合する付加ソール材の成形時において、アッパーとミッドソールとを接着剤等によって仮固定するように構成した場合を例示して説明を行なったが、金型の形状を工夫することにより、これらを仮固定することなく単に金型にセットするのみでこれらの位置決めを行なうこともできる。
【0115】
また、上述した実施の形態1および2ならびにその変形例においては、アウトソールを成形する際に使用する金型として、3つに分割されたものを用いる場合を例示して説明を行なったが、金型の分割数は特に制限されるものではなく、たとえばこれを4つ以上に分割することも可能である。
【0116】
また、上述した実施の形態1および2ならびにその変形例においては、シューレースを用いることでアッパー本体が足に密着させられるように構成された靴を例示して説明を行なったが、アッパー本体が面ファスナによって足に密着させられるように構成された靴としてもよいし、シュータンを備えていないソック状のアッパー本体とすることで足をアッパー本体に挿入するのみでアッパー本体が足に密着させられるように構成された靴としてもよい。
【0117】
また、上述した実施の形態1および2ならびにその変形例においては、アッパーに補強部が設けられてなる靴を例示して説明を行なったが、補強部を必ずしも設ける必要はなく、上述した補強部の一部が設けられていない靴としてもよいし、上述した補強部のすべてが設けられていない靴としてもよい。
【0118】
さらには、上述した実施の形態1および2ならびにその変形例において開示した特徴的な構成は、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて当然に相互に組み合わせることができる。
【0119】
このように、今回開示した上記実施の形態およびその変形例はすべての点で例示であって、制限的なものではない。本発明の技術的範囲は請求の範囲によって画定され、また請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むものである。
【符号の説明】
【0120】
1A,1A1~1A3,1B 靴、10 アッパー、11 アッパー本体、12 シュータン、13 爪先側補強部、14 踵側補強部、15 アイレット補強部、16 シューレース、20A,20A1~20A3,20B ソール、21 ミッドソール、21a 上面(対向領域)、21b 下面(非対向領域)、21c 周面(非対向領域)、21d 欠除部、22 アウトソール、22a 本体部、22b 接合部、22b1 囲繞部、22b2 ブリッジ部、22c 埋め込み部、22d 補強部、22e 接地面、23 緩衝材、23a 本体部、23b 接合部、23c 埋め込み部、100 金型、101 第1金型、102 第2金型、103 第3金型、104 ゲート、200 ラスト、C キャビティ。