(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-07
(45)【発行日】2022-02-03
(54)【発明の名称】最適運動強度の推定方法、トレーニング方法、運動指示装置、及び最適運動強度の推定システム
(51)【国際特許分類】
A61B 5/1455 20060101AFI20220127BHJP
A61B 5/22 20060101ALI20220127BHJP
A63B 22/06 20060101ALI20220127BHJP
【FI】
A61B5/1455 ZDM
A61B5/22 100
A63B22/06 J
(21)【出願番号】P 2021082111
(22)【出願日】2021-05-14
【審査請求日】2021-07-16
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】593106918
【氏名又は名称】株式会社ファンケル
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100194803
【氏名又は名称】中村 理弘
(72)【発明者】
【氏名】阿部 征次
(72)【発明者】
【氏名】石井 有理
【審査官】門田 宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-027551(JP,A)
【文献】国際公開第2018/047945(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第111035375(CN,A)
【文献】特開2018-134294(JP,A)
【文献】特開2014-090903(JP,A)
【文献】特開2020-120910(JP,A)
【文献】特開2020-058663(JP,A)
【文献】特開2020-130591(JP,A)
【文献】特開2004-000646(JP,A)
【文献】特開2013-066704(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104545868(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/1455
A61B 5/22
A63B 22/00 - 22/20
A61H 1/02
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者に、Ramp負荷を与えながら異なる運動負荷量毎に血中酸素濃度(SpO
2)の測定値を96~100%の少なくとも一部を含む範囲内で求める工程と、
運動負荷量の増加に伴い、前記血中酸素濃度の測定値が下降傾向を示し始める下降開始点を決定する工程と、
を有し、
前記下降開始点における運動負荷量を、前記被験者の最適運動強度であると推定することを特徴とする最適運動強度の推定方法。
【請求項2】
SpO
2と同時に脈拍数を測定し、SpO
2の経時変化に基づいて前記下降開始点を決定する方法であって、
脈拍数が最初に目標脈拍数を超えた以降において、脈拍数が最初に目標脈拍数を超えたときのSpO
2の値を基準値として、SpO
2の測定値が前記基準値より5秒間以上連続して低い値を示す領域の直前のSpO
2の測定点を前記下降開始点として決定することを特徴とする請求項1に記載の最適運動強度の推定方法。
【請求項3】
SpO
2と同時に脈拍数を測定し、SpO
2の経時変化に基づいて前記下降開始点を決定する方法であって、
脈拍数が最初に目標脈拍数を超えた以降において、脈拍数が最初に目標脈拍数を超えたときのSpO
2の値を基準値として、SpO
2の測定値が前記基準値より5秒間以上連続して低い値を示す領域におけるSpO
2の最高値の測定点と最低値の測定点とを結ぶ直線と、前記領域以前の近似直線との交点を前記下降開始点として決定することを特徴とする請求項1に記載の最適運動強度の推定方法。
【請求項4】
被験者に、Ramp負荷を与えながら異なる運動負荷量毎に血中酸素濃度(SpO
2)の測定値を96~100%の少なくとも一部を含む範囲内で求め、SpO
2と同時に脈拍数を測定する工程と、
運動負荷量の増加に伴い、SpO
2/脈拍数の挙動が変化する屈曲点を決定する工程と、
を有し、
前記屈曲点における運動負荷量を、前記被験者の最適運動強度であると推定することを特徴とする最適運動強度の推定方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の推定方法で推定した最適運動強度で運動を行うことを特徴とするトレーニング方法。
【請求項6】
請求項1~4のいずれかに記載の推定方法で推定した最適運動強度における生体情報値を記憶する記憶手段と、
前記生体情報値を測定可能な測定手段と、
前記測定手段で測定した生体情報値と、前記最適運動強度における生体情報値とを対比して、運動負荷量を算出する演算手段と、
前記演算手段で算出された運動負荷量を指示する指示手段と、
を有することを特徴とする運動指示装置。
【請求項7】
前記測定手段が、血中酸素濃度(SpO
2)の測定が可能であり、
前記指示手段が、前記測定手段からの生体情報値に関する情報に基づいてRamp負荷となる運動負荷量を指示することが可能であり、
前記演算手段が、運動負荷量の増加に伴い、血中酸素濃度の測定値が下降傾向を示し始める下降開始点を算出することが可能であることを特徴とする請求項6に記載の運動指示装置。
【請求項8】
前記測定手段が、血中酸素濃度(SpO
2)と脈拍数の測定が可能であり、
前記指示手段が、前記測定手段からの生体情報値に関する情報に基づいてRamp負荷となる運動負荷量を指示することが可能であり、
前記演算手段が、運動負荷量の増加に伴い、SpO
2/脈拍数の挙動が変化する屈曲点を算出することが可能であることを特徴とする請求項6に記載の運動指示装置。
【請求項9】
ウェアラブル端末であることを特徴とする請求項6~8のいずれかに記載の運動指示装置。
【請求項10】
血中酸素濃度(SpO
2)を96~100%の少なくとも一部を含む範囲内で測定する測定部と、
Ramp負荷となる運動負荷量を指示する指示部と、
運動負荷量の増加に伴い、血中酸素濃度の測定値が下降傾向を示し始める下降開始点を算出する演算部と、
を有し、
前記下降開始点における運動負荷量を、最適運動強度であると推定することを特徴とする最適運動強度の推定システム。
【請求項11】
血中酸素濃度(SpO
2)を96~100%の少なくとも一部を含む範囲内で測定するとともに、脈拍数を測定する測定部と、
Ramp負荷となる運動負荷量を指示する指示部と、
運動負荷量の増加に伴い、SpO
2/脈拍数の挙動が変化する屈曲点を算出する演算部と、
を有し、
前記屈曲点における運動負荷量を、最適運動強度であると推定することを特徴とする最適運動強度の推定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、最適運動強度の推定方法、トレーニング方法、運動指示装置、及び最適運動強度の推定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
筋力、心肺能力等の体力が高いほど健康度と生存率が高く、死亡率が低いことが、多くの報告で明らかとなっている(非特許文献1,2)。筋力、心肺能力等の体力を向上させるためには、中強度以上の運動をする必要があり、例えば、強度が不足する運動は継続しても体力は向上しない。個人ごとに中強度の運動は異なるが、有酸素運動から無酸素運動へと切り替わる無酸素性作業閾値(AT)は、すべての人で中強度の運動となることが知られている。
ATは、運動強度の増加に伴い血液中の乳酸濃度が急激に増加し始める乳酸性作業閾値(LT)、または、運動強度の増加に伴い呼気中の二酸化炭素の増加率が一段と高くなる換気性作業閾値(VT)と一致する。従来、これらを測定するには、呼気分析機器を用いた検査法と血中乳酸濃度を用いた方法の2つがゴールデンスタンダード法として知られている。これらの方法は、徐々に運動強度を強めながら、個人の最大強度、すなわち、動けなくなるまで運動する必要があり、被験者の体力的、精神的負担が大きい。さらに、血中乳酸濃度を測定するには、血液の採取が必要であるため痛みを伴い、呼気中の二酸化炭素濃度を測定するには、呼気ガス測定装置と接続したマウスピースを通じて呼吸を行いながら運動する必要があり、専門家の元で高価な特殊測定装置を用いなければならない(特許文献1)。特殊な機器や採血が必要なため、ゴールデンスタンダード法によるATの測定は、病院や体育系大学、研究機関でしか実施できない。より一般的にATを健康づくりに活用するために、呼気分析法や血中乳酸法と同等の精度を持つ代替法が多くの研究者によって研究されているが、医療/リハビリテーション、スポーツ、健康づくりの現場で利用されるまでには至っていない。また、汗中乳酸濃度を測定することによりLTを求める方法も検討されているが、汗中の乳酸濃度は体調や食事内容による影響が大きく、正確な測定をするには不向きである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Blair SN et al., Physical fitness and all-cause mortality. A prospective study of healthy men and women JAMA. 1989; 262(17):2395-401.
【文献】Jonathan Myers, Manish Prakash, Victor Froelicher, et al., Exercise Capacity and Mortality among Men Referred for Exercise Testing. Engl J Med 2002; 346:793-801
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
個人の最大強度、すなわち、動けなくなるまで運動する必要のない最適運動強度の推定方法と推定システム、この推定方法で推定した最適運動強度で運動を行うトレーニング方法、個人の最適運動強度となる運動負荷量を指示することのできる運動指示装置と運動指示システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の課題を解決するための手段は以下の通りである。
1.被験者に、Ramp負荷を与えながら異なる運動負荷量毎に血中酸素濃度(SpO2)の測定値を96~100%の少なくとも一部を含む範囲内で求める工程と、
運動負荷量の増加に伴い、前記血中酸素濃度の測定値が下降傾向を示し始める下降開始点を決定する工程と、
を有し、
前記下降開始点における運動負荷量を、前記被験者の最適運動強度であると推定することを特徴とする最適運動強度の推定方法。
2.SpO2と同時に脈拍数を測定し、SpO2の経時変化に基づいて前記下降開始点を決定する方法であって、
脈拍数が最初に目標脈拍数を超えた以降において、脈拍数が最初に目標脈拍数を超えたときのSpO2の値を基準値として、SpO2の測定値が前記基準値より5秒間以上連続して低い値を示す領域の直前のSpO2の測定点を前記下降開始点として決定することを特徴とする1.に記載の最適運動強度の推定方法。
3.SpO2と同時に脈拍数を測定し、SpO2の経時変化に基づいて前記下降開始点を決定する方法であって、
脈拍数が最初に目標脈拍数を超えた以降において、脈拍数が最初に目標脈拍数を超えたときのSpO2の値を基準値として、SpO2の測定値が前記基準値より5秒間以上連続して低い値を示す領域におけるSpO2の最高値の測定点と最低値の測定点とを結ぶ直線と、前記領域以前の近似直線との交点を前記下降開始点として決定することを特徴とする1.に記載の最適運動強度の推定方法。
4.被験者に、Ramp負荷を与えながら異なる運動負荷量毎に血中酸素濃度(SpO2)の測定値を96~100%の少なくとも一部を含む範囲内で求め、SpO2と同時に脈拍数を測定する工程と、
運動負荷量の増加に伴い、SpO2/脈拍数の挙動が変化する屈曲点を決定する工程と、
を有し、
前記屈曲点における運動負荷量を、前記被験者の最適運動強度であると推定することを特徴とする最適運動強度の推定方法。
5.1.~4.のいずれかに記載の推定方法で推定した最適運動強度で運動を行うことを特徴とするトレーニング方法。
6.1.~4.のいずれかに記載の推定方法で推定した最適運動強度における生体情報値を記憶する記憶手段と、
前記生体情報値を測定可能な測定手段と、
前記測定手段で測定した生体情報値と、前記最適運動強度における生体情報値とを対比して、運動負荷量を算出する演算手段と、
前記演算手段で算出された運動負荷量を指示する指示手段と、
を有することを特徴とする運動指示装置。
7.前記測定手段が、血中酸素濃度(SpO2)の測定が可能であり、
前記指示手段が、前記測定手段からの生体情報値に関する情報に基づいてRamp負荷となる運動負荷量を指示することが可能であり、
前記演算手段が、運動負荷量の増加に伴い、血中酸素濃度の測定値が下降傾向を示し始める下降開始点を算出することが可能であることを特徴とする6.に記載の運動指示装置。
8.前記測定手段が、血中酸素濃度(SpO2)と脈拍数の測定が可能であり、
前記指示手段が、前記測定手段からの生体情報値に関する情報に基づいてRamp負荷となる運動負荷量を指示することが可能であり、
前記演算手段が、運動負荷量の増加に伴い、SpO2/脈拍数の挙動が変化する屈曲点を算出することが可能であることを特徴とする6.に記載の運動指示装置。
9.ウェアラブル端末であることを特徴とする6.~8.のいずれかに記載の運動指示装置。
10.血中酸素濃度(SpO2)を96~100%の少なくとも一部を含む範囲内で測定する測定部と、
Ramp負荷となる運動負荷量を指示する指示部と、
運動負荷量の増加に伴い、血中酸素濃度の測定値が下降傾向を示し始める下降開始点を算出する演算部と、
を有し、
前記下降開始点における運動負荷量を、最適運動強度であると推定することを特徴とする最適運動強度の推定システム。
11.
血中酸素濃度(SpO2)を96~100%の少なくとも一部を含む範囲内で測定するとともに、脈拍数を測定する測定部と、
Ramp負荷となる運動負荷量を指示する指示部と、
運動負荷量の増加に伴い、SpO2/脈拍数の挙動が変化する屈曲点を算出する演算部と、
を有し、
前記屈曲点における運動負荷量を、最適運動強度であると推定することを特徴とする最適運動強度の推定システム。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、簡単でありながらも正確に且つ経済性に優れた測定方法を用いることで、個人の最適運動強度を導くことができ、健康増進、健康寿命の延伸に貢献できる。術後の療養者や高齢者にとって、リハビリや普段の運動強度を導くことは、非常に重要である。従来の方法で最適運動強度を導くためには、採血や動けなくなるまでの運動が必要であり、体力的、精神的負担が大きい。本発明はこうした採血や動けなくなるまでの運動を要せずに正確に最適運動強度を求めることができるため、健常人だけでなく、術後の療養者や高齢者にとっても、非常に画期的な発明となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】Ramp負荷を与えて運動した際の被検者AのSpO
2と脈拍数の経時変化を示す図。
【
図2】Ramp負荷を与えて運動した際の被検者AのSpO
2と脈拍数の散布図。
【
図3】Ramp負荷を与えて運動した際の被検者AのSpO
2とSpO
2/脈拍数の散布図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
・推定方法と推定システム
本発明の第1の最適運動強度の推定方法は、
被験者に、Ramp負荷を与えながら異なる運動負荷量毎に血中酸素濃度(SpO2)の測定値を96~100%の少なくとも一部を含む範囲内で求める工程と、
運動負荷量の増加に伴い、血中酸素濃度の測定値が下降傾向を示し始める下降開始点を決定する工程と、
を有し、
この下降開始点における運動負荷量を、被験者の最適運動強度であると推定することを特徴とする。
【0010】
本発明の第2の最適運動強度の推定方法は、
被験者に、Ramp負荷を与えながら異なる運動負荷量毎に血中酸素濃度(SpO2)の測定値を96~100%の少なくとも一部を含む範囲内で求め、SpO2と同時に脈拍数を測定する工程と、
運動負荷量の増加に伴い、SpO2/脈拍数の挙動が変化する屈曲点を決定する工程と、
を有し、
この屈曲点における運動負荷量を、被験者の最適運動強度であると推定することを特徴とする。
なお、本明細書において、「A~B(A、Bは数字)」との記載は、A、Bの値を含む数値範囲、すなわち、A以上B以下を意味する。
【0011】
血中酸素濃度(SpO2)とは、動脈血液中の赤血球ヘモグロビンが酸素と結合している比率である。SpO2は、測定装置(パルスオキシメーター)を指先や手首等に装着するだけで測定することができる。本発明の最適運動強度の推定方法は、非侵襲的であるため、被験者への負担が小さい。
【0012】
第1、第2の推定方法は、被験者に、Ramp負荷を与えながら異なる運動負荷量毎に血中酸素濃度(SpO2)の測定値を96~100%の少なくとも一部を含む範囲内で求める工程を有する。
Ramp負荷となる運動方法は特に制限されず、トレッドミル、自転車エルゴメーター、ステップ等を採用することができる。
SpO2の測定値は、96~100%の少なくとも一部を含めばよく、95~100%、97~100%、98~100%、99~100%、97~99%等とすることができる。SpO2測定範囲の下限値が低くなると、より正確に最適運動強度を推定することができるが、測定時の運動負担が大きくなる。そのため、被験者の性別、年齢、運動習慣の有無等に応じて、下限値を設定し、SpO2の測定値が設定した下限値を下回ると測定を中止することが好ましい。特に、血中酸素濃度(SpO2)が低くなるほど被験者への負担が大きいため、その下限値は95%以上であることが好ましく、96%以上であることがより好ましい。
【0013】
SpO2等の測定は、連続的に行うこともできるが、運動しながら測定するため、測定装置がずれて正確な測定値が得られない場合がある。そのため、0.1~5秒程度の間隔で間欠的に測定した測定値を、1~30秒程度の平均値としてまとめた値を用いることが好ましい。また、Ramp負荷では、運動負荷量が徐々に増加するため、測定する生体情報値は、一方方向のみに、例えば、SpO2は減少する方向のみに、脈拍数は増加する方向のみに変化するのが通常であるので、通常とは逆の変化を示す値は用いない処理や、測定点と測定前2~5点程度の平均値と比較して乖離率が例えば10%以上の値は用いない処理等を行うことができる。
【0014】
第2の推定方法は、SpO2と同時に、脈拍数を測定する。なお、第1の推定方法も、SpO2と同時に、脈拍数を測定することができる。さらに、第1、第2の推定方法は、その他に、血圧、乳酸濃度(血中、汗中)、呼気中の二酸化炭素濃度等の1種、または2種以上の生体情報値を測定することができる。これらの中で、脈拍数が、測定が簡易なため好ましい。
第1、第2の推定方法において、血中酸素濃度が96%以上、かつ脈拍数が160拍/以下の範囲等の測定を行うことが、被験者への負担を抑えることができるため好ましい。
【0015】
第1の推定方法は、運動負荷量の増加に伴い、SpO2の測定値が下降傾向を示し始める下降開始点を決定する工程を有する。
無酸素性作業閾値(AT)は、有酸素運動から無酸素運動へと切り替わるポイントであり、ATでは、運動継続/エネルギー産生に必要な酸素供給量が不足して体内の酸素濃度が低下し始める。そのため、SpO2の測定値が下降傾向を示し始める下降開始点は、ATと近似している。
そして、この下降開始点における運動負荷量は、ATでの運動負荷量と近似しているため、下降開始点おける運動負荷量を被験者の最適運動強度と推定することができる。
【0016】
第2の推定方法は、運動負荷量の増加に伴い、SpO2/脈拍数の挙動が変化する屈曲点を決定する工程を有する。
運動負荷量が増加するにつれて、SpO2は低下し、脈拍数は増加するため、SpO2/脈拍数は低下傾向を示す。このSpO2/脈拍数が、ある点を超えると傾きが大きくなる屈曲点を有すること、この屈曲点が無酸素性作業閾値(AT)と近似することは、本発明者らによる新たな知見である。
【0017】
第1の推定方法は、例えば、
血中酸素濃度(SpO2)を96~100%の少なくとも一部を含む範囲内で測定する測定部と、
Ramp負荷となる運動負荷量を指示する指示部と、
運動負荷量の増加に伴い、血中酸素濃度の測定値が下降傾向を示し始める下降開始点を算出する演算部と、
を有し、
下降開始点における運動負荷量を、最適運動強度であると推定する第1の運動強度の推定システムにより実現できる。
【0018】
第2の推定方法は、例えば、
血中酸素濃度(SpO2)を96~100%の少なくとも一部を含む範囲内で測定するとともに、脈拍数を測定する測定部と、
Ramp負荷となる運動負荷量を指示する指示部と、
運動負荷量の増加に伴い、SpO2/脈拍数の挙動が変化する屈曲点を算出する演算部と、
を有し、
前記屈曲点における運動負荷量を、最適運動強度であると推定する第2の最適運動強度の推定システムにより実現できる。
【0019】
第1、第2の推定システムは、その他に、測定値を記憶する記憶部と、外部とデータをやり取りする通信部、指示内容を表示する表示部等を有することができる。また、記憶部や演算部の少なくとも一部は、通信部を通じて通信する外部サーバーで処理するクラウドシステムであってもよい。さらに、第1、第2の推定システムは、例えば、スマートフォン、スマートウォッチ、スマートグラス、イヤホン等のウェアラブルデバイスに、最適運動強度の推定機能を備えたアプリケーションをインストールすることにより、上記手段を実施可能となったものでもよい。第1、第2の推定システムは、指示部を備えたパルスオキシメーター等の測定装置と、例えば、スポーツジム等でのトレッドミルや自転車エルゴメーター等のトレーニング装置とを有線または無線で接続し、測定部(測定装置)で血中酸素濃度を測定しながら、指示部で運動装置、例えば、トレッドミルや自転車エルゴメーターのスピード、傾斜、抵抗等を指示して、運動負荷量がRamp負荷となるように指示するようにして構成することができる。
【0020】
第1、第2の推定システムは、血中酸素濃度(SpO2)を96~100%の少なくとも一部を含む範囲内で求めるものであり、その下限値は95%以上であることが好ましく、96%以上であることがより好ましい。第1、第2の推定システムは、SpO2を96~100%の少なくとも一部を含む範囲、好ましい下限値は95%以上で測定するものであり、被験者の測定時の負担が抑えられている。また、第1、第2の推定システムは、血中酸素濃度が測定可能なパルスオキシメーター等の測定装置と、Ramp負荷が可能なトレーニング装置とを組み合わせて構成することができるため、専門家の指導の元に専門の測定装置を用いる必要がなく、例えば、スポーツジム等に導入することができる。
【0021】
第1の推定方法、推定システムにおいて、測定したSpO2の値から下降開始点を決定する方法は特に制限されないが、例えば、以下の方法1-1、1-2を挙げることができる。
・下降開始点の決定方法1-1(方法1-1ともいう)
SpO2と同時に脈拍数を測定し、SpO2の経時変化に基づいて下降開始点を決定する方法であって、
脈拍数が最初に目標脈拍数を超えた以降において、脈拍数が最初に目標脈拍数を超えたときのSpO2の値を基準値として、SpO2の測定値がこの基準値より5秒間以上連続して低い値を示す領域の直前のSpO2の測定点を下降開始点として決定する方法。
【0022】
・下降開始点の決定方法1-2(方法1-2ともいう)
SpO2と同時に脈拍数を測定し、SpO2の経時変化に基づいて下降開始点を決定する方法であって、
脈拍数が最初に目標脈拍数を超えた以降において、脈拍数が最初に目標脈拍数を超えたときのSpO2の値を基準値として、SpO2の測定値がこの基準値より5秒間以上連続して低い値を示す領域におけるSpO2の最高値の測定点と最低値の測定点とを結ぶ直線と、前記領域以前の近似直線との交点を下降開始点として決定する方法。最高値の測定点もしくは最低値の測定点が2点以上存在する場合は、経時的に最初の値を測定点とする。
【0023】
第2の推定方法、推定システムにおいて、算出したSpO2/脈拍数の屈曲点を決定する方法は特に制限されないが、例えば、以下の方法2を挙げることができる。
・屈曲点の決定方法2(方法2ともいう)
SpO2と同時に脈拍数を測定し、脈拍数を独立変数、SpO2を脈拍数で除した値(SpO2/脈拍数)を従属変数として
最初の測定点からn番目(n≧2)までの測定点についての回帰直線1と、n+1番目の測定点からN番目の測定点(N≧n+2)についての回帰直線2の組み合わせにおいて、回帰直線1、2の残差平方和の和が最も小さくなるときの回帰直線1と2との交点を屈曲点として決定する方法。
【0024】
この方法1-1、1-2において、目標脈拍数は、有酸素運動をする基準として用いられている値等を用いることができ、例えば、カルボーネン法による目標心拍数{(220-年齢-安静時心拍数)×(0.4~0.7)+安静時心拍数}の値や、これを簡素化した(220-年齢)×0.5~0.7の値等を用いることができ、さらに、単に120~130拍/分程度の値を用いることができる。
【0025】
方法1-1、1-2において、SpO2の測定値が、基準値(脈拍数が目標脈拍数を最初に超えたときのSpO2の値)より低い値を示す秒数は、5秒間以上であればよい。この秒数が長くなるほど、傾向からずれた測定値に基づいて誤った下降開始点を決定する可能性は低くなるが、測定時間が長くなり、被験者の体力的負担が増加する。そのため、この秒数の下限は、8秒間以上であることが好ましく、10秒間以上であることがより好ましく、この秒数の上限は、60秒間以下であることが好ましく、50秒間以下であることがより好ましく、40秒間以下であることがさらに好ましい。
【0026】
また、一度の測定ミスによる誤判断を防ぐために、2回以上連続する複数回の測定値に基づいて判断することが好ましい。すなわち、SpO2の測定値を、1~30秒程度の平均値として測定している場合は、SpO2の測定値(平均値)を算出する秒数×(測定回数-1)の値が5秒間以上であり、かつ2回以上連続する複数の測定点が、基準値よりも低い値となることが好ましい。
第1の推定方法は、この下降開始点を決定できれば、それ以上Ramp負荷を加えた運動を行う必要はなく、そこで測定を終了することができるため、動けなくなるまで運動する必要はなく、被験者の体力的負担を小さくすることができる。
【0027】
方法2は、屈曲点が現れるまで運動する必要があるため、140拍/分まで測定することが好ましく、150拍/分まで測定することがより好ましく、155拍/分まで測定することがさらに好ましく、160拍/分まで測定することがよりさらに好ましい。ただし、その上限は、被検者の予測最大心拍数(220-年齢)の85%以下であることが好ましく、83%以下であることがより好ましく、80%以下であることがより好ましい。
【0028】
方法2において、M回目までの測定点において、最初の測定点からm番目までの測定点についての回帰直線1と、m+1番目の測定点からM回目までの測定点についての回帰直線2の組み合わせで回帰直線1、2の残差平方和の和が最も小さくなった場合、さらに運動を継続して得たM+p回までの測定点において、最初の測定点からm番目までの測定点についての回帰直線1と、m+1番目の測定点からM+p回目までの測定点についての回帰直線2’の組み合わせでも残差平方和の和が最も小さくなれば、そこで屈曲点を決定してそれ以上の運動を中止することもできる。このようにして途中で運動を中止する場合、Mは5以上であることが好ましく、pは2以上であることが好ましい。また、1~m回目、m+1~M回目の測定時間は、それぞれ20秒間以上であることが好ましく、30秒間以上であることがより好ましく、40秒間以上であることがさらに好ましい。また、M~M+p回目までの測定時間は、10秒間以上であることが好ましく、15秒間以上であることがより好ましく、20秒間以上であることがさらに好ましい。
第2の推定方法は、所定の脈拍数の範囲内でのみ運動を行えばよく、動けなくなるまで運動する必要はなく、被験者の体力的負担を小さくすることができる。
【0029】
・トレーニング方法
本発明のトレーニング方法は、上記推定方法で推定した最適運動強度で運動を行うことを特徴とする。
本発明の推定方法により、下降開始点、または屈曲点における運動負荷量を被験者の最適運動強度として推定することができる。そして、この推定した最適運動強度は、ATでの運動負荷強度と近似しているため、この最適運動強度で運動を行うトレーニング方法により、効率的な体力向上が可能である。一方、この推定方法で推定した最適運動強度より弱い運動強度では、運動を継続してもほとんど体力の向上は見込めず、この推定方法で推定した最適運動強度より強い運動強度では、怪我や疲労の蓄積につながる場合がある。
【0030】
・運動指示装置
本発明の運動指示装置は、本発明の推定方法で推定した最適運動強度における生体情報値を記憶する記憶手段と、この生体情報値を測定可能な測定手段と、測定手段で測定した生体情報値と、最適運動強度における生体情報値とを対比して、運動負荷量を指示する指示手段と、を有することを特徴とする。
本発明の運動指示装置は、その他に、メモリ等の記憶手段、通信手段、表示手段、CPU等の演算手段、バッテリー等を有することができる。また、記憶手段や演算手段の少なくとも一部は、通信部を通じて通信する外部サーバーで処理することもできる。
本発明の運動指示装置の形態は特に制限されず、例えば、トレーニング装置に内蔵することもでき、トレーニング装置に接続する外部端末であってもよく、例えば、スマートフォン、スマートウォッチ、スマートグラス、イヤホン等に、アプリケーションをインストールすることにより、上記手段を実施可能となったものでもよい。これらの中で、スマートウォッチ、スマートグラス等のウェアラブル端末であることが好ましい。
【0031】
本発明の運動指示装置において、測定・記憶する生体情報値としては、SpO2、脈拍数、血圧、汗中乳酸濃度等が挙げられ、1種または2種以上であってもよい。これらの中で、測定が容易なためSpO2と脈拍数を測定、記憶することが好ましい。
本発明の運動指示装置は、記憶手段が記憶する推定した最適運動強度における生体情報値と、測定手段が測定する生体情報値とを、演算手段が対比することで現在の運動強度と最適運動強度との差を算出し、最適な運動負荷量を算出することができる。この際、運動負荷量として、その日の気分や体調等に応じて、最適運動強度に対して、弱い/同等/強い等を設定できることが好ましい。そして、本発明の運動指示装置により指示された運動強度で運動することにより、使用者は、効率的な体力向上が可能である。
【0032】
さらに、本発明の運動指示装置は、測定手段がSpO2の測定が可能であり、指示手段がRamp負荷となる運動負荷量を指示することが可能であり、演算手段が運動負荷量の増加に伴い、血中酸素濃度の測定値が下降傾向を示し始める下降開始点を算出することが可能であることが好ましい。
または、測定手段が、SpO2と脈拍数の測定が可能であり、指示手段が情報に基づいてRamp負荷となる運動負荷量を指示することが可能であり、演算手段が、運動負荷量の増加に伴い、SpO2/脈拍数の挙動が変化する屈曲点を算出することが可能であることが好ましい。
このような運動指示装置は、Ramp負荷となる運動負荷量を指示し、SpO2の測定値が下降傾向を示し始める下降開始点、または、SpO2/脈拍数の挙動が変化する屈曲点を算出することができるため、使用者の最適運動強度を推定することができる。そのため、例えば、本発明の運動指示装置が指示する推定された最適運動強度でしばらく運動を続けたことにより体力が向上し、この運動強度では体力が向上しなくなってしまった場合でも、最新の最適運動強度を求め、より負荷が高くなった運動強度での運動を行うことができる。
【実施例】
【0033】
(実施例)
運動負荷方法1
使用機器:エルゴメーター
負荷方法:Ramp負荷法
エルゴメーター設定-クランクの回転数120bpm
サドルはペダルが下に来たときに被験者の膝が少し曲がる程度
安静条件-座位で2間安静にする(エルゴメーター上で座位)
Warm up条件-50wattで5分間
運動負荷条件-Ramp負荷漸増量 10watt/分
停止条件-下記のいずれかの条件を満たした時点で負荷を終了する
1)下肢疲労により120rpmの運動が持続できなくなったとき
2)試験担当者が試験中止を判断したとき
負荷単位:watt
【0034】
運動負荷方法2
使用機器:トレッドミル
負荷方法:Ramp負荷法
安静条件-座位で2間安静にする
Warm up条件-5km/hで5分間
運動負荷条件-Ramp負荷漸増量 1km/h/分
停止条件-下記のいずれかの条件を満たした時点で負荷を終了する
1)下肢疲労により運動が持続できなくなったとき
2)試験担当者が試験中止を判断したとき
負荷単位:km/h
【0035】
(SpO2と脈拍数の測定)
パルスオキシメーター (NellcorTM N-BSJ(コヴィディエンジャパン株式会社))を用い、酸素飽和度と脈拍数を測定した。
SpO2と脈拍数を4秒間隔で測定し、20秒ごとの平均値とした。
SpO2が96~100%の範囲内、かつ、脈拍数の上限160拍/分、目標脈拍数120拍/分として実施した。
【0036】
(呼気ガスパラメーターと心拍の測定)
測定機器:呼気ガス分析器 エアロモニタAE-310SRC(ミナト医科学)
心拍計 POLAR [ポラール] 心拍センサー H10 N
測定方法:ミキシングチャンバー法
測定項目:二酸化炭素排出量(VCO2:ml/min)、酸素摂取量(VO2:ml/min)、換気量(VE)、呼気終末酸素分圧(PETO2)、呼気終末二酸化炭素分圧(PETCO2)、呼気終末酸素濃度(ETO2)、呼気終末二酸化炭素濃度(ETCO2)、ガス交換比(R=VCO2/VO2)*、酸素換気当量(VE/VO2)*、二酸化炭素換気当量(VE/VCO2)*、心拍(HR:bpm) *計算値
データ取得頻度:20秒に1回
【0037】
被験者A~Cは運動負荷方法1(エルゴメーター)、被検者D~Fは運動負荷方法2(トレッドミル)で運動負荷を与えながら、VE/VO
2と同時に、SpO
2と脈拍数とを測定した。いずれの被検者も、運動が持続できなくなるまで、すなわち、被験者の最大強度まで実施した。
SpO
2と脈拍数を、その測定順に目標心拍数がNo.4となる位置に揃えた15の測定点の結果を表1に示す。なお、被検者BのNo.10の測定値は、脈拍数が直前に比べて減少しているため、除外した。
【表1】
【0038】
・GS法によるATの決定
Ramp負荷開始から停止までの20秒毎のデータをプロットに用い、運動強度に対し、VE/VCO2が増加せずに、VE/VO2が増加する点をATとした。
【0039】
・方法1-1による下降開始点の決定
方法1-1において、脈拍数が最初に目標脈拍数(120拍/分)を超えたときのSpO
2の値を基準値として、SpO
2の測定値がこの基準値より40秒間(20秒×(3-1))低い値を示す領域の直前のSpO
2の測定点を下降開始点1とした。
被検者AのSpO
2と脈拍数の経時変化を
図1に示す。例えば、被検者Aの場合、基準値がNo.5のSpO
2である99であり、No.9~11の40秒間のSpO
2がこの基準値よりも低い値を示したため、この直前の測定点であるNo.8の点を下降開始点と決定する。そして、この下降開始点における運動負荷量(心拍数が127となるときの運動負荷量)を、被検者Aの最適運動強度であると推定した。
方法1-1に依れば、被検者Aは、No.11のポイントまで運動すれば最適運動強度を推定でき、測定(運動)を終えることができる。
【0040】
・方法1-2による下降開始点の決定
方法1-2において、脈拍数が最初に目標脈拍数(120拍/分)を超えたときのSpO
2の値を基準値として、SpO
2の測定値がこの基準値より40秒間(20秒×(3-1))低い値を示す領域におけるSpO
2の最高値の測定点と最低値の測定点とを結ぶ直線と、前記領域以前(120拍~領域直前)の近似直線との交点を下降開始点2とした。
被検者AのSpO
2と脈拍数の散布図を
図2に示す。被検者Aは、脈拍数が最初に目標心拍数を超えて以降は、運動負荷量の増加に伴い脈拍数が増加している。例えば、被検者Aの場合、基準値がNo.5のSpO
2である99であり、No.9~11の40秒間のSpO
2がこの基準値よりも低い値を示しており、最高点がNo.9、最低点がNo.10である。この2点を結ぶ直線と、120拍を超えてからこの領域直前であるNo.4~8の近似直線(いずれもSpO
2が99)との交点(SpO
2、脈拍数=99、128)を下降開始点として決定する。そして、この下降開始点における運動負荷量(心拍数が128となるときの運動負荷量)を、被検者Aの最適運動強度であると推定した。
方法1-2に依れば、被検者Aは、No.11のポイントまで運動すれば最適運動強度を推定でき、測定(運動)を終えることができる。
【0041】
・方法2による屈曲点の決定
方法2において、SpO
2と同時に脈拍数を測定し、
脈拍数を独立変数、SpO
2を脈拍数で除した値を従属変数とし、
最初の測定点からN番目(N≧2)までの測定点についての回帰直線1と、N+1番目の測定点から最後の測定点についての回帰直線2の組み合わせにおいて、2本回帰直線1、2の残差平方和の和が最も小さくなるときの回帰直線1と2との交点を屈曲点とした。
被検者Aの脈拍数110以降(No.1~15を含む)の脈拍数と、SpO
2/脈拍数の散布図を
図3に示す。なお、被検者Aは、No.15の後、2分運動を行ったところで運動が持続できなくなり、この際のSpO
2は98.0、脈拍数は148であった。これらのプロットを2つに分け、2本の回帰直線の残差平方和の和を求めると、No.9までの測定点と、No.10以降の測定点とに分けた際に残差平方和の和が最も小さくなり、この2本の回帰直線の交点(脈拍数、SpO
2/脈拍数=127、0.78)を屈曲点として決定する。そして、この屈曲点における運動負荷量(心拍数が127となるときの運動負荷量)を、被検者Aの最適運動強度であると推定した。
方法2に依れば、被検者Aの場合、140拍/分(No.13)までの測定点を用いても、No.9までと、No.10~13とに分けた際の残差平方和が最も小さくなり、動けなくなるまで(No.15の後さらに2分)運動した際と同等の最適運動強度を推定でき、No.13のポイントで測定(運動)を終えることができる。
【0042】
上記した各方法で推定した最適運動強度を、呼気ガス分析によるゴールデンスタンダード法(GS法)で測定した最適運動強度とともに表2に示す。
【表2】
【0043】
本発明の推定方法により、従来の呼気ガス分析によるゴールデンスタンダード法(GS法)で測定した最適運動強度と近似した最適運動強度を推定できることが確かめられた。
例えば、被検者Aは、方法1-1、1-2に依ればNo.11の測定点まで運動すれば最適運動強度を推定でき、測定(運動)を終えることができ、方法2に依ればNo.13の測定点まで運動すれば最適運動強度を推定できる。本発明の推定方法は、限界まで(動けなくなるまで)運動する必要がなく、また、採血が不要であり、体力的、精神的な負担が小さい。
【要約】
【課題】最適運動強度の推定方法と推定システム、この推定方法で推定した最適運動強度で運動を行うトレーニング方法、個人の最適運動強度となる運動負荷量を指示することのできる運動指示装置と運動指示システムの提供。
【解決手段】被験者に、Ramp負荷を与えながら異なる運動負荷量毎に血中酸素濃度(SpO
2)の測定値を96~100%の少なくとも一部を含む範囲内で求める工程と、
運動負荷量の増加に伴い、前記血中酸素濃度の測定値が下降傾向を示し始める下降開始点を決定する工程と、
を有し、
前記下降開始点における運動負荷量を、前記被験者の最適運動強度であると推定する最適運動強度の推定方法。
【選択図】
図1