(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-08
(45)【発行日】2022-01-12
(54)【発明の名称】ステアリング装置
(51)【国際特許分類】
B62D 1/19 20060101AFI20220104BHJP
【FI】
B62D1/19
(21)【出願番号】P 2017020730
(22)【出願日】2017-02-07
【審査請求日】2020-01-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110002310
【氏名又は名称】特許業務法人あい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】作田 雅芳
(72)【発明者】
【氏名】長谷 篤宗
(72)【発明者】
【氏名】山岡 道明
(72)【発明者】
【氏名】吉原 愛仁
(72)【発明者】
【氏名】吉村 知記
(72)【発明者】
【氏名】明法寺 祐
(72)【発明者】
【氏名】森田 茂
【審査官】神田 泰貴
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-034883(JP,A)
【文献】特開2012-153279(JP,A)
【文献】特開2004-082758(JP,A)
【文献】特開平02-216360(JP,A)
【文献】特開2008-238846(JP,A)
【文献】特開2016-188070(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 1/00 - 1/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コラム軸方向の一端に操舵部材が接続される
ステアリングシャフトと、
前記ステアリングシャフトを介して前記操舵部材が接続されたアッパジャケット
、および、前記コラム軸方向における前記アッパジャケットの他端に対して摺動可能に外嵌されたロアジャケット
を含むコラムジャケットと、
車体に固定され、前記ロアジャケットを支持する支持部材と、
二次衝突時に前記ロアジャケットに対して前記アッパジャケットが移動する際には、前記アッパジャケットと第1相対摺動することによって第1抵抗力を発生させる第1抵抗力発生手段と、
前記コラム軸方向に前記第1抵抗力発生手段と一体移動し、二次衝突時に前記ロアジャケットに対して前記アッパジャケットが移動する際には、前記支持部材および前記ロアジャケットのうちの少なくとも一方と第2相対摺動することによって第2抵抗力を発生させる第2抵抗力発生手段とを含み、
二次衝突時の衝突荷重は、前記ロアジャケットに対する前記アッパジャケットの摩擦摺動の際の抵抗力と、前記第1抵抗力
および前記第2抵抗力
のうちの少なくとも一方とによって、吸収される、ステアリング装置。
【請求項2】
前記第1相対摺動を停止させる第1ストッパをさらに含み、
前記第1抵抗力が、前記第2抵抗力よりも小さい、請求項1に記載のステアリング装置。
【請求項3】
前記第2相対摺動を停止させる第2ストッパをさらに含み、
前記第1抵抗力が、前記第2抵抗力よりも大きい、請求項1に記載のステアリング装置。
【請求項4】
前記アッパジャケットに固定され、前記コラム軸方向における前記操舵部材側から前記第1抵抗力発生手段に対向する対向部材をさらに含み、
前記第1相対摺動の停止時に前記対向部材が前記第1抵抗力発生手段に当接する、請求項3に記載のステアリング装置。
【請求項5】
前記第1抵抗力が、前記第2抵抗力と等しい、請求項1に記載のステアリング装置。
【請求項6】
前記ロアジャケットに対向し前記ロアジャケットを締め付ける締付部材をさらに含み、
前記第2抵抗力発生手段は、前記締付部材と前記ロアジャケットとの間に配置されている、請求項1~5のいずれか一項に記載のステアリング装置。
【請求項7】
前記第2抵抗力発生手段が、長尺な板状の部材であり、前記コラム軸方向と平行になるように配置され、
前記第2抵抗力発生手段が、前記第1抵抗力発生手段に連結された幅広部と、上下方向における幅が前記幅広部よりも狭い幅狭部と、前記幅広部および前記幅狭部を連結し、前記幅広部側から前記幅狭部側に向かうにしたがって、前記上下方向における幅が狭くなるように構成された連結部とを含む、請求項1~6のいずれか一項に記載のステアリング装置。
【請求項8】
前記支持部材および前記ロアジャケットに挿通された挿通軸をさらに含み、
前記第2抵抗力発生手段が、上方または下方のうちの一方から前記挿通軸に対向する、請求項1~7のいずれか一項に記載のステアリング装置。
【請求項9】
前記アッパジャケットと前記第1抵抗力発生手段との相対位置の変化に応じて、前記第1抵抗力を変動させる第1変動手段をさらに含む、請求項1~8のいずれか一項に記載のステアリング装置。
【請求項10】
前記支持部材および前記ロアジャケットのうちの少なくとも一方と前記第2抵抗力発生手段との相対位置の変化に応じて、前記第2抵抗力を変動させる第2変動手段をさらに含む、請求項1~9のいずれか一項に記載のステアリング装置。
【請求項11】
二次衝突時に前記ロアジャケットに対して前記アッパジャケットが移動する際には、前記アッパジャケットと第3相対摺動することによって第3抵抗力を発生させる第3抵抗力発生手段と、
二次衝突時には、第3相対摺動が前記第1相対摺動と並行して発生する、請求項1~10のいずれか一項に記載のステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インナーコラムがアウターコラムにテレスコ調整可能に内嵌されたステアリング装置が知られている。このようなステアリング装置では、テレスコ調整によって、アウターコラムに対するインナーコラムの軸方向の位置が固定される。車両衝突の二次衝突時には、衝撃荷重が発生するが、アウターコラムに対してインナーコラムが摩擦摺動する抵抗力により、衝撃荷重が吸収される。
【0003】
下記特許文献1のステアリング装置では、金属製リングがインナーコラムの外周面に圧入されている。二次衝突時には、アウターコラムに対してインナーコラムが摩擦移動した後に、金属製リングがアウターコラムに衝突し、その後は、アウターコラムに対してインナーコラムが摩擦摺動する際の抵抗力、および、金属製リングに対してインナーコラムが摩擦摺動する際の抵抗力の和に相当する荷重によって、衝撃荷重が吸収される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のステアリング装置では、金属製リングは、インナーコラムのテレスコ調整範囲の一端を規制するようにインナーコラムに圧入されている。このため、テレスコ調整後にアウターコラムと金属製リングとの間に間隔が生じることがある。二次衝突時には、インナーコラムがアウターコラムに対して移動した後に、任意間隔だけ摩擦摺動し、金属製リングがアウターコラムに衝突する。したがって、二次衝突時には、アウターコラムに対してインナーコラムが摩擦摺動する際の抵抗力と、金属製リングに対してインナーコラムの摩擦摺動する際の抵抗力とによって衝撃荷重が吸収される。しかし、アウターコラムに対してインナーコラムが摩擦摺動する際の抵抗力は、テレスコ調整後のインナーコラムの位置によって変動するため、二次衝突時の衝撃吸収は、金属製リングに対してインナーコラムの摩擦摺動する際の抵抗力に依存する割合が高い。これでは、テレスコ調整後のインナーコラムの位置によっては、二次衝突時の衝撃の吸収量の総量が不充分となるおそれがある。
【0006】
ところで、二次衝突時に運転者に伝達される衝撃の低減などの観点から、近年、二次衝突中のアウターコラムに対するインナーコラムの移動量に応じて衝撃荷重を段階的に制御することができるステアリング装置が要求されている。特許文献1には、インナーコラムを段階的に拡径することで、金属製リングに対してインナーコラムが移動する際の抵抗力を段階的に増大させることが記載されているものの、より適切に衝撃荷重を設定できることが望ましい。
【0007】
この発明は、かかる背景のもとでなされたものであり、二次衝突時の衝撃の吸収量の総量を増大させ、かつ、適切な衝撃荷重を設定できるステアリング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の発明は、コラム軸方向(X)の一端に操舵部材(2)が接続されるステアリングシャフト(3)と、前記ステアリングシャフトを介して前記操舵部材が接続されたアッパジャケット(7)、および、前記コラム軸方向における前記アッパジャケットの他端に対して摺動可能に外嵌されたロアジャケット(8)を含むコラムジャケット(6)と、車体(13)に固定され、前記ロアジャケットを支持する支持部材(17)と、二次衝突時に前記ロアジャケットに対して前記アッパジャケットが移動する際には、前記アッパジャケットと第1相対摺動することによって第1抵抗力(G1)を発生させる第1抵抗力発生手段(40)と、前記コラム軸方向に前記第1抵抗力発生手段と一体移動し、二次衝突時に前記ロアジャケットに対して前記アッパジャケットが移動する際には、前記支持部材および前記ロアジャケットのうちの少なくとも一方と第2相対摺動することによって第2抵抗力(G2)を発生させる第2抵抗力発生手段(50)とを含み、二次衝突時の衝突荷重は、前記ロアジャケットに対する前記アッパジャケットの摩擦摺動の際の抵抗力と、前記第1抵抗力および前記第2抵抗力のうちの少なくとも一方とによって、吸収される、ステアリング装置(1;1P)である。
【0009】
請求項2に記載の発明は、前記第1相対摺動を停止させる第1ストッパ(7a;101)をさらに含み、前記第1抵抗力が、前記第2抵抗力よりも小さい、請求項1に記載のステアリング装置である。
請求項3に記載の発明は、前記第2相対摺動を停止させる第2ストッパ(8a)をさらに含み、前記第1抵抗力が、前記第2抵抗力よりも大きい、請求項1に記載のステアリング装置である。
【0010】
請求項4に記載の発明は、前記アッパジャケットに固定され、前記コラム軸方向における前記操舵部材側(XU)から前記第1抵抗力発生手段に対向する対向部材(101)をさらに含み、前記第1相対摺動の停止時に前記対向部材が前記第1摺動部材に当接する、請求項3に記載のステアリング装置である。
請求項5に記載の発明は、前記第1抵抗力が、前記第2抵抗力と等しい、請求項1に記載のステアリング装置である。
【0011】
請求項6に記載の発明は、前記ロアジャケットに対向し前記ロアジャケットを締め付ける締付部材(32,33)をさらに含み、前記第2抵抗力発生手段は、前記締付部材と前記ロアジャケットとの間に配置されている、請求項1~5のいずれか一項に記載のステアリング装置である。
請求項7に記載の発明は、前記第2抵抗力発生手段が、長尺な板状の部材であり、前記コラム軸方向に平行になるように配置され、前記第2抵抗力発生手段が、前記第1抵抗力発生手段に連結された幅広部(53)と、上下方向(Y)における幅が前記幅広部よりも狭い幅狭部(54)と、前記幅広部および前記幅狭部を連結し、前記幅広部側(XU)から前記幅狭部側(XL)に向かうにしたがって、前記上下方向における幅が狭くなるように構成された連結部(55)とを含む、請求項1~6のいずれか一項に記載のステアリング装置である。
【0012】
請求項8に記載の発明は、前記支持部材および前記ロアジャケットに挿通された挿通軸(21)をさらに含み、前記第2抵抗力発生手段が、上方または下方のうちの一方から前記挿通軸に対向する、請求項1~7のいずれか一項に記載のステアリング装置である。
請求項9に記載の発明は、前記アッパジャケットと前記第1抵抗力発生手段との相対位置の変化に応じて、前記第1抵抗力を変動させる第1変動手段(60;61;70;71)をさらに含む、請求項1~8のいずれか一項に記載のステアリング装置である。
【0013】
請求項10に記載の発明は、前記支持部材および前記ロアジャケットのうちの少なくとも一方と前記第2抵抗力発生手段との相対位置の変化に応じて、前記第2抵抗力を変動させる第2変動手段(52;59)をさらに含む、請求項1~9のいずれか一項に記載のステアリング装置である。
請求項11に記載の発明は、二次衝突時に前記ロアジャケットに対して前記アッパジャケットが移動する際には、前記アッパジャケットと第3相対摺動することによって第3抵抗力(G3)を発生させる第3抵抗力発生手段(80)をさらに含み、二次衝突時には、前記第3相対摺動が前記第1相対摺動と並行して発生する、請求項1~10のいずれか一項に記載のステアリング装置である。
【0014】
なお、上記において、括弧内の数字等は、後述する実施形態における対応構成要素の参照符号を表すものであるが、これらの参照符号により特許請求の範囲を限定する趣旨ではない。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に記載の発明によれば、二次衝突が発生すると、操舵部材を介してアッパジャケットに衝撃が伝達される。ロアジャケットは、車体に固定された支持部材によって支持されている。そのため、二次衝突時には、アッパジャケットが支持部材およびロアジャケットに対して移動する。
二次衝突時には、第1抵抗力発生手段はアッパジャケットと第1相対摺動して抵抗力を発生させ、コラム軸方向に第1抵抗力発生手段と一体移動する第2抵抗力発生手段は支持部材およびロアジャケットのうちの少なくとも一方と第2相対摺動して抵抗力を発生させる。つまり、互いに一体移動する第1抵抗力発生手段および第2抵抗力発生手段が、二次衝突時に相対移動するアッパジャケットと支持部材(ロアジャケット)とにそれぞれ摩擦摺動可能である。そのため、二次衝突時には、ロアジャケットに対するアッパジャケットの移動の開始と同時に、第1相対摺動、または、第2相対摺動が起こる。したがって、二次衝突時の衝撃荷重は、ロアジャケットに対するアッパジャケットの摩擦摺動の際の抵抗力と、第1抵抗力または第2抵抗力とによって、二次衝突の発生の直後から充分に吸収され始める。よって、二次衝突時の衝撃の吸収量の総量を増大させることができる。
【0016】
また、第1抵抗力および第2抵抗力のそれぞれを所望の値に調整すれば、ロアジャケットに対するアッパジャケットの軸方向変位に応じて、衝撃荷重を容易に制御することができる。たとえば、第1抵抗力および第2抵抗力が互いに異なる一定の値になるように、第1抵抗力および第2抵抗力を調整するだけで、ロアジャケットに対するアッパジャケットの軸方向変位に応じて、衝撃荷重を段階的に変化させることができる。
【0017】
その結果、二次衝突時の衝撃の吸収量の総量を増大させ、かつ、適切に衝撃荷重を設定することができる。
請求項2に記載の発明によれば、第1抵抗力が、第2抵抗力よりも小さい。そのため、二次衝突の発生の直後には、第1相対摺動が開始される。そして、第1ストッパによって、第1相対摺動が停止される。その後もアッパジャケットがロアジャケットおよび支持部材に対してさらに移動するので、第1抵抗力発生手段および第2抵抗力発生手段は、アッパジャケット一体移動する。そのため、第1相対摺動の停止と同時に、第1抵抗力発生手段および第2抗力発生手段がアッパジャケットとともに支持部材およびロアジャケットに対して移動する。このように、第1相対摺動の停止と同時に第2相対摺動が開始される。二次衝突時の衝撃をスムーズに吸収することができる。
【0018】
請求項3に記載の発明によれば、第1抵抗力が、第2抵抗力よりも大きい。そのため、二次衝突の発生の直後には、第2相対摺動が開始される。そして、第2ストッパによって、第2相対摺動が停止される。第2抵抗力発生手段と第1抵抗力発生手段とは一体移動するため、第2相対摺動の停止と同時に、支持部材およびロアジャケットに対する第1抵抗力発生手段の移動も終了する。その後もアッパジャケットがロアジャケットおよび支持部材に対してさらに移動するので、アッパジャケットが第1抵抗力発生手段に対して移動する。このように、第2相対摺動の停止と同時に第1相対摺動が開始される。二次衝突時の衝撃をスムーズに吸収することができる。
【0019】
請求項4に記載の発明によれば、アッパジャケットに固定された対向部材がコラム軸方向における操舵部材側から第1抵抗力発生手段に対向する。第1抵抗力が、第2抵抗力よりも大きい場合、二次衝突の発生直後には、第2相対摺動が開始され、第2相対摺動の停止後、即座に第1相対摺動が開始される。
第1相対摺動の停止時には、第1抵抗力発生手段は、アッパジャケットに固定された対向部材に当接し対向部材によって受けられる。そのため、第1抵抗力発生手段は、アッパジャケットと一体移動する。ここで、予め設定された距離の第2相対摺動が完了する前に偶発的に第2相対摺動が停止され第1相対摺動が開始された場合を想定する。この場合であっても、第1相対摺動の停止後には、対向部材によって受けられた第1抵抗力発生手段がアッパジャケットと一体移動する。これにより、第1抵抗力発生手段と一体移動する第2抵抗力発生手段がロアジャケットおよび支持部材に対して移動し、第2相対摺動が再び起こる。そのため、偶発的に第2相対摺動が停止され第1相対摺動が開始された場合であっても、予め設定された距離の第2相対摺動が最終的に完了する。このように、二次衝突時の衝撃の吸収量の総量が安定する。
【0020】
請求項5に記載の発明によれば、第1抵抗力が、第2抵抗力と等しい。そのため、二次衝突の初期段階と二次衝突の終期段階とで衝撃荷重の差が低減されるように衝撃荷重を設定することができる。
請求項6に記載の発明によれば、第2抵抗力発生手段は、締付部材とロアジャケットとの間に配置されている。そのため、ロアジャケットと締付部材とが対向する方向への第2抵抗力発生手段の移動が規制されている。第2抵抗力発生手段と一体移動する第1抵抗力発生手段が第1相対摺動時にがたつくことが抑制される。したがって、二次衝突時の衝撃荷重を安定させることができる。
【0021】
請求項7に記載の発明によれば、コラム軸方向と並行して延びる第2抵抗力発生手段において、幅広部および幅狭部を連結する連結部は、幅広部側から幅狭部側に向かうにしたがって上下方向における幅が狭くなるように構成されている。そのため、二次衝突時に上下方向の荷重が第2摺動部材に作用した際に第2抵抗力発生手段に発生する応力が、固定部と幅広部との境界と、連結部とに分散される。つまり、第2抵抗力発生手段の一箇所(たとえば固定部と幅広部との境界)に応力が集中するのを避けることができる。そのため、二次衝突時の第2抵抗力発生手段の変形を抑制できるので、二次衝突時の衝撃荷重が安定する。
【0022】
請求項8に記載の発明によれば、第2抵抗力発生手段が、上方または下方のうちの一方から挿通軸に対向する。ここで、支持部材やロアジャケットの寸法精度によっては、挿通軸よりも上方であるか下方であるかによって、支持部材やロアジャケットと第2抵抗力発生手段との摺動荷重が異なることがある。しかし、請求項8に記載の発明では、第2摺動部材が上方または下方のうちの一方から挿通軸に対向するため、支持部材やロアジャケットと第2抵抗力発生手段との摺動荷重のばらつきが低減される。そのため、第2抵抗力が安定し、ひいては、衝撃荷重が安定する。
【0023】
請求項9に記載の発明によれば、第1変動手段によって、アッパジャケットと第1抵抗力発生手段と相対位置の変化に応じて、第1抵抗力が変動される。そのため、一層適切に衝撃荷重を設定することができる。
請求項10に記載の発明によれば、第2変動手段によって、アッパジャケットと第2抵抗力発生手段と相対位置の変化に応じて、第2抵抗力が変動される。そのため、一層適切に衝撃荷重を設定することができる。
【0024】
請求項11に記載の発明によれば、二次衝突時には、第3抵抗力発生手段とアッパジャケットとの第3相対摺動が第1相対摺動と並行して発生するため、衝撃荷重が増大される。したがって、二次衝突時の衝撃の吸収量の総量が一層増大する。また、第3相対摺動の際に発生する第3抵抗力を調整したり、第3相対摺動が開始されるタイミングを調整したりすることによって、一層適切に衝撃荷重を設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】
図1は、本発明の第1実施形態に係るステアリング装置の概略構成を示す模式図である。
【
図2】
図2は、
図1におけるII-II線に沿った断面の模式図である。
【
図3】
図3は、ステアリング装置に備えられた衝撃吸収機構の斜視図である。
【
図4】
図4は、
図1におけるIV-IV線に沿った断面の模式図である。
【
図5】
図5は、衝撃吸収機構の周辺の模式的な底面図である。
【
図6】
図6は、二次衝突が発生したときの衝撃吸収機構の周辺の様子を示す模式図である。
【
図7】
図7(a)は、第1実施形態に係るステアリング装置において、二次衝突が発生したときのアッパジャケットの軸方向変位と、衝撃荷重との関係を示したグラフ図であり、
図7(b)は、第1参考例に係るステアリング装置において、二次衝突が発生したときのアッパジャケットの軸方向変位と、衝撃荷重との関係を示したグラフ図である。
【
図8】
図8は、第1実施形態の第1変形例に係るステアリング装置のアッパジャケットの周辺の模式的な側面図である。
【
図9】
図9は、第1変形例に係るステアリング装置において、二次衝突が発生したときのアッパジャケットの軸方向変位と、衝撃荷重との関係を示したグラフ図である。
【
図10】
図10は、第1実施形態の第2変形例に係るステアリング装置におけるアッパジャケットの周辺の模式的な側面図である。
【
図11】
図11は、第2変形例に係るステアリング装置において、二次衝突が発生したときのアッパジャケットの軸方向変位と、衝撃荷重との関係を示したグラフ図である。
【
図12】
図12(a)は、第1実施形態の第3変形例に係るステアリング装置における第1摺動部材の周辺の模式的な断面図であり、
図12(b)は、
図12(a)のXIIb-XIIb線に沿う断面の模式図である。
【
図13】
図13(a)は、第1実施形態の第4変形例に係るステアリング装置における第1摺動部材の周辺の模式的な断面図である。
図13(b)は、
図13(a)の矢印XIIIbからアッパジャケット7の外周面を見たときの模式図である。
【
図14】
図14は、第1実施形態の第5変形例に係るステアリング装置における第1摺動部材の周辺の模式的な断面図である。
【
図15】
図15は、第1実施形態の第6変形例に係るステアリング装置における第1摺動部材の周辺の模式的な断面図である。
【
図16】
図16(a)は、第1実施形態の第7変形例に係るステアリング装置における第2摺動部材の周辺の模式的な底面図であり、
図16(b)は、第1実施形態の第8変形例に係るステアリング装置における第2摺動部材の周辺の模式的な底面図であり、
図16(c)は、第1実施形態の第9変形例に係るステアリング装置における第2摺動部材の周辺の模式的な底面図である。
【
図17】
図17(a)は、第1実施形態の第10変形例に係るステアリング装置に備えられた衝撃吸収機構の斜視図であり、
図17(b)は、第1実施形態の第11変形例に係るステアリング装置に備えられた衝撃吸収機構の斜視図である。
【
図18】
図18は、第1実施形態の第12変形例に係るステアリング装置におけるアッパジャケットの周辺の模式的な側面図である。
【
図19】
図19は、第1実施形態の第12変形例に係るステアリング装置において二次衝突が発生したときのアッパジャケットの軸方向変位と、衝撃荷重との関係を示したグラフ図である。
【
図20】
図20は、第2実施形態に係るステアリング装置において、二次衝突が発生したときの衝撃吸収機構の周辺の様子を示す模式図である。
【
図21】
図21(a)は、第2実施形態に係るステアリング装置において、二次衝突が発生したときのアッパジャケットの軸方向変位と、衝撃荷重との関係を示したグラフ図であり、
図21(b)は、第2参考例に係るステアリング装置において、二次衝突が発生したときのアッパジャケットの軸方向変位と、衝撃荷重との関係を示したグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下では、本発明の実施形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
<第1実施形態>
図1は、本発明の第1実施形態に係るステアリング装置1の概略構成を示す模式図である。
図1を参照して、ステアリング装置1は、ステアリングシャフト3と、コラムジャケット6と、インターミディエイトシャフト4と、転舵機構5とを備える。ステアリングシャフト3の一端(軸方向上端)には、ステアリングホイール等の操舵部材2が連結されている。ステアリング装置1は、操舵部材2の操舵に連動して、転舵輪(図示せず)を転舵する。転舵機構5は、例えばラックアンドピニオン機構であるが、これに限られない。
【0027】
以下では、ステアリングシャフト3の軸方向であるコラム軸方向Xの上方を軸方向上方XUといい、コラム軸方向Xの下方を軸方向下方XLという。
ステアリングシャフト3は、筒状のアッパシャフト3Uおよびロアシャフト3Lを有している。アッパシャフト3Uとロアシャフト3Lとは、例えばスプライン嵌合やセレーション嵌合によって相対移動可能に嵌合されている。操舵部材2は、アッパシャフト3Uの軸方向上方XUの一端に連結されている。
【0028】
コラムジャケット6は、アッパシャフト3Uを介して操舵部材2が一端に接続されたアッパジャケット7と、アッパジャケット7の他端に摺動可能に外嵌されたロアジャケット8とを含む。アッパジャケット7は、インナジャケットでもあり、ロアジャケット8は、アウタジャケットでもある。コラム軸方向Xは、アッパジャケット7の軸方向でもあり、ロアジャケット8の軸方向でもある。軸方向上方XUは、アッパジャケット7の一端側でもあり、軸方向下方XLは、アッパジャケット7の他端側でもある。
【0029】
ステアリングシャフト3は、コラムジャケット6内に挿通されている。アッパシャフト3Uは、軸受9を介してアッパジャケット7に回転可能に支持されている。ロアシャフト3Lは、軸受10を介してロアジャケット8に回転可能に支持されている。アッパシャフト3Uがロアシャフト3Lに対してコラム軸方向Xに移動することによって、アッパジャケット7がロアジャケット8に対してコラム軸方向Xに移動する。コラムジャケット6は、ステアリングシャフト3とともにコラム軸方向Xに伸縮可能である。
【0030】
ステアリングシャフト3およびコラムジャケット6をコラム軸方向Xに伸縮させることで、操舵部材2の位置を車両の前後方向に調整することができる。このように、ステアリング装置1はテレスコ調整機能を有する。
テレスコ調整は、所定のテレスコ調整範囲内でアッパジャケット7を摺動させることで行われる。テレスコ調整範囲とは、コラム軸方向Xにおけるアッパジャケット7の調整上限位置と、コラム軸方向Xにおけるアッパジャケット7の調整下限位置との間の範囲である。コラムジャケット6は、アッパジャケット7が調整上限位置にあるときに最も伸びた状態になり、アッパジャケット7が調整下限位置にあるときに最も縮んだ状態になる。
【0031】
図2は、
図1におけるII-II線に沿った断面の模式図である。アッパジャケット7には、コラム軸方向Xに長手の案内溝27が形成されている。ロアジャケット8には、案内溝27に嵌合され、案内溝27に対してコラム軸方向Xに相対移動可能な被案内突起28が固定されている。ロアジャケット8には、被案内突起28が挿通された挿通孔8bが形成されている。被案内突起28は、ロアジャケット8の外周面において挿通孔8bの周りの部分に当接する頭部28aと、挿通孔8bに挿通された軸部28bとを含む。頭部28aおよび軸部28bは、一体に形成されている。軸部28bの先端は、案内溝27に嵌合している。
【0032】
テレスコ調整時、案内溝27の軸方向下方端が被案内突起28と当接することで、アッパジャケット7は、テレスコ調整範囲の調整上限位置に規制される。これにより、ロアジャケット8からのアッパジャケット7の抜け防止が達成される。また、テレスコ調整時、案内溝27の軸方向上方端が被案内突起28と当接することで、アッパジャケット7は、テレスコ調整範囲の調整下限位置に規制される。
【0033】
図1を参照して、ステアリング装置1は、車体13に固定された固定ブラケット14と、固定ブラケット14によって支持されたチルト中心軸15と、ロアジャケット8の外周に固定され、チルト中心軸15によって回転可能に支持されたコラムブラケット16とを含む。ステアリングシャフト3およびコラムジャケット6は、チルト中心軸15の中心軸線であるチルト中心CCを支点にしてチルト方向Y(略上下方向)に回動可能である。
【0034】
ステアリングシャフト3およびコラムジャケット6をチルト中心CC回りに回動させることで、操舵部材2の位置をチルト方向Yに調整することができる。このように、ステアリング装置1はチルト調整機能を有する。
図2を参照して、ステアリング装置1は、車体13に固定され、ロアジャケット8を支持するブラケットなどの支持部材17と、チルト調整およびテレスコ調整後のアッパジャケット7の位置をロックする締付機構18とを含む。締付機構18は、ロアジャケット8のコラム軸方向Xの上部に一体に設けられた一対の被締付部19を、支持部材17を介して締め付ける。
【0035】
ロアジャケット8は、ロアジャケット8の軸方向上端8aから軸方向下方XLに延びるスリット26を有する。一対の被締付部19は、スリット26の両側に配置されている。締付機構18は、一対の被締付部19に取り付けられている。締付機構18が一対の被締付部19を締め付けることにより、ロアジャケット8は、弾性的に縮径し、アッパジャケット7を締め付ける。
【0036】
支持部材17は、車体13に取り付けられた取付板24と、取付板24の両端からチルト方向Yの下方に延びる一対の側板22とを含む。各側板22には、チルト方向Yに延びるチルト用長孔23が形成されている。
ロアジャケット8の一対の被締付部19は、一対の側板22間に配置され、対応する側板22の内側面22aにそれぞれ沿う板状をなしている。各被締付部19には、円孔からなる軸挿通孔29が形成されている。
【0037】
締付機構18は、締付軸21(挿通軸)と、締付軸21を回転操作する操作レバー20とを含む。締付軸21の中心軸線C1が、操作レバー20の回転中心に相当する。
締付軸21は、例えば、ボルトである。締付軸21は、支持部材17の両側板22のチルト用長孔23とロアジャケット8の両被締付部19の軸挿通孔29とに挿通される。締付軸21およびロアジャケット8は、チルト調整時に、支持部材17に対し相対移動する。その際、締付軸21は、チルト用長孔23内でチルト方向Yに移動する。
【0038】
締付軸21の一端に設けられた頭部21aは、操作レバー20と一体回転可能に固定されている。締付機構18は、締付軸21の頭部21aと一方の側板22(
図2で左側の側板22)との間に介在し、操作レバー20の操作トルクを締付軸21の軸力(一対の側板22を締め付けるための締付力)に変換する力変換機構30をさらに含む。
力変換機構30は、操作レバー20と一体回転可能に連結され、締付軸21に対して中心軸線C1が延びる方向である締付軸方向Jの移動が規制された回転カム31と、回転カム31に対してカム係合し、一方の側板22を締め付ける一方の締付部材32とを含む。締付部材32は、回転が規制された非回転カムである。一方の締付部材32は、ロアジャケット8の一方の被締付部19(
図2で左側の被締付部19)に締付軸方向Jから対向している。
【0039】
締付機構18は、他方の側板22(
図2で右側の側板22)を締め付ける他方の締付部材33と、他方の締付部材33と他方の側板22との間に介在する針状ころ軸受37とをさらに含む。他方の締付部材33は、締付軸21の他端に設けられたねじ部21bに螺合したナットである。他方の締付部材33は、針状ころ軸受37を介して他方の側板22を締め付ける。他方の締付部材33は、ロアジャケット8の他方の被締付部19(
図2で右側の被締付部19)に締付軸方向Jから対向している。
【0040】
回転カム31と、一方の締付部材32と、針状ころ軸受37とは、締付軸21の外周によって支持されている。締付部材32は、一方の側板22に形成されたチルト用長孔23との嵌合によって、その回転が規制されている。
操作レバー20のロック方向への回転に伴って、回転カム31が締付部材32に対して回転すると、締付部材32は、締付軸方向Jに沿って回転カム31から離れる方向に移動する。これにより、一対の締付部材32,33によって、支持部材17の一対の側板22がクランプされて締め付けられる。
【0041】
このとき、支持部材17の各側板22が、ロアジャケット8の対応する被締付部19を締め付けることから、ロアジャケット8のチルト方向Yの移動が規制されて、チルトロックが達成される。また、両被締付部19が締め付けられることで、ロアジャケット8は、弾性的に縮径してアッパジャケット7を締め付ける。その結果、アッパジャケット7がテレスコ調整範囲内の所定のテレスコ位置にロック(保持)され、テレスコロックが達成される。
【0042】
以上のように、締付機構18は、支持部材17を介してロアジャケット8をアッパジャケット7に締め付けることによって、ロアジャケット8に対するアッパジャケットの位置を保持する。
一方、操作レバー20がロック解除方向へ回転すると、回転カム31の回転に伴い、締付部材32は、締付軸方向Jに沿って回転カム31に近づく方向に移動する。これにより、一対の締付部材32,33による一対の側板22の締め付けが解除され、チルト調整およびテレスコ調整が可能となる。
【0043】
図3を参照して、ステアリング装置1は、二次衝突時の衝撃を吸収する衝撃吸収機構SAをさらに含む。衝撃吸収機構SAは、第1摺動部材40および一対の第2摺動部材50をさらに含む。第1摺動部材40および第2摺動部材50は、金属製であり、鍛造などによって一体に形成されている。
図4は、
図1におけるIV-IV線に沿った断面の模式図である。
図5は、衝撃吸収機構SAの周辺の模式的な底面図である。
【0044】
図4を参照して、第1摺動部材40は、アッパジャケット7に対して摩擦摺動可能にアッパジャケット7に取り付けられている。第1摺動部材40は、たとえばアッパジャケット7に圧入されている。第1摺動部材40とアッパジャケット7との摩擦摺動を第1相対摺動という。第1相対摺動の際に発生する抵抗力を第1抵抗力G1という。
第1摺動部材40は、アッパジャケット7の外周面に外嵌された筒状の嵌合部41と、嵌合部41の一端からアッパジャケット7の径方向に張り出した円環状のフランジ部42と、嵌合部41の内周面からアッパジャケット7の外周面に向けて突出し、アッパジャケット7の外周面と接触する複数(本実施形態では8つ)の突部43とを含む。
【0045】
複数の突部43とアッパジャケット7の外周面との摩擦力や突部43の強度を調整することによって、第1相対摺動によって発生する第1抵抗力G1を調整することができる。複数の突部43は、アッパジャケット7の外周面の周方向Cに沿って等間隔に配置されているため、第1抵抗力G1が安定し易い。
第1摺動部材40は、第2摺動部材50を固定する一対の固定部44をさらに含む。一対の固定部44のぞれぞれは、径方向Rにおけるフランジ部42の外方端から径方向外方へ延びている。径方向Rとは、アッパジャケット7の中心軸線C2を中心とする半径方向である。径方向外方とは、径方向Rにおいて中心軸線C2から離れる方向のことである。一対の固定部44は、アッパジャケット7を挟むように周方向Cにおいて互いに180°離間した位置に配置されている。
【0046】
図5を参照して、アッパジャケット7には、コンビスイッチやキーロックなどの取付部品100が取り付けられている。取付部品100は、アッパジャケット7において第1摺動部材40が取り付けられている部分よりも軸方向上方XUに取り付けられている。また、ステアリング装置1は、アッパジャケット7に固定され、コラム軸方向Xにおける操舵部材2側(軸方向上方XU)から第1摺動部材40に対向する対向部材101をさらに含んでいる。対向部材101の軸方向下端は、アッパジャケット7において取付部品100と第1摺動部材40との間に位置している。対向部材101は、たとえば、取付部品100をアッパジャケット7に取り付けるためのブラケットなどである。当該ブラケットは、溶接、かしめまたは圧入などによってアッパジャケット7に固定されている。対向部材101は、取付部品100をアッパジャケット7に取り付けるためのブラケットに限られず、取付部品100以外の車両用部品(たとえば、コラムカバー、ワイヤーハーネス、ニーエアバッグなど)をアッパジャケット7に取り付けるためのブラケットであってもよい。
【0047】
図3を参照して、第2摺動部材50は、第1摺動部材40から軸方向下方XLに延びる板状の部材である。一対の第2摺動部材50は、第1摺動部材40とは別に形成された後、溶接等により第1摺動部材40に固定されている。そのため、一対の第2摺動部材50は、コラム軸方向Xに第1摺動部材40と一体移動する。第2摺動部材50は、第1摺動部材40の固定部44の軸方向下端面に接続されている。第2摺動部材50は、テレスコ調整の際、第1摺動部材40とともにアッパジャケット7と一体移動する。
【0048】
図5を参照して、一対の第2摺動部材50は、アッパジャケット7を挟んで締付軸方向Jに離間しており、締付軸方向Jに互いに対向している。一方の第2摺動部材50は、一方の締付部材32と一方の被締付部19(
図5で上側の被締付部19)との間に配置されている。一方の第2摺動部材50は、一方の側板22(
図5で上側の側板22)と、一方の被締付部19との間に配置されている。他方の第2摺動部材50は、他方の締付部材33と他方の被締付部19との間に配置されている(
図5で下側の被締付部19)。他方の第2摺動部材50は、他方の側板22(
図5で下側の側板22)と、他方の被締付部19との間に配置されている。
【0049】
各第2摺動部材50は、締付機構18による締付状態(ロアジャケット8がアッパジャケット7を締め付けた状態)では、対応する締付部材32,33によって、対応する被締付部19に押し付けられている。
締付機構18が各第2摺動部材50を対応する被締付部19に押し付ける押付方向Pは、締付軸方向Jと一致している。各押付方向Pにおいて対応する被締付部19に向かう方向を押付方向Pの下流側という。
【0050】
各第2摺動部材50は、対応する締付部材32,33によって対応する被締付部19に押し付けられることによって、対応する側板22および被締付部19によって挟持される。この状態で、各第2摺動部材50は、対応する側板22と被締付部19とに対して摩擦摺動可能である。
締付機構18がロアジャケット8をアッパジャケット7に締め付けた状態における一対の第2摺動部材50と、一対の側板22および一対の被締付部19との摩擦摺動を第2相対摺動という。第2相対摺動によって発生する抵抗力を第2抵抗力G2という。第2摺動部材50と側板22および被締付部19との摩擦力を調整することによって第2抵抗力G2を調整することができる。第1実施形態では、第1相対摺動によって発生する第1抵抗力G1は、第2相対摺動によって発生する第2抵抗力G2よりも大きい(G1>G2)。
【0051】
図3を参照して、第2摺動部材50は、第1摺動部材40に固定された固定部51と、コラム軸方向Xと平行に延びる延設部52とを含む。延設部52は、固定部51を介して第1摺動部材40に連結された幅広部53と、チルト方向Y(上下方向)における幅が幅広部53よりも狭い幅狭部54と、幅広部53および幅狭部54を連結する連結部55とを含む。連結部55は、幅広部53側(軸方向上方XU)から幅狭部54側(軸方向下方XL)に向かうにしたがって、チルト方向Yにおける幅が狭くなるように構成されている。
【0052】
第2摺動部材50は、締付軸21が挿通され、コラム軸方向Xに長手の軸方向長孔56を有する。軸方向長孔56は、延設部52に形成されている。
図5を参照して、テレスコ調整の際には、第2摺動部材50がアッパジャケット7とともにコラム軸方向Xに移動する。締付軸21は、軸方向長孔56内でコラム軸方向Xに沿って第2摺動部材50に対して相対移動する。第2摺動部材50において軸方向長孔56を軸方向上方XUから区画する部分を上方区画部56aといい、第2摺動部材50において軸方向長孔56を軸方向下方XLから区画する部分を下方区画部56bという。
【0053】
アッパジャケット7がテレスコ調整範囲内の任意の位置に位置する状態で、締付軸21と軸方向長孔56の上方区画部56aおよび下方区画部56bとの間には間隔が設けられている。詳しくは、テレスコ調整時にアッパジャケット7が調整下限位置にある状態であっても、締付軸21と軸方向長孔56の上方区画部56aとは接触していない。テレスコ調整時にアッパジャケット7が調整上限位置にある状態であっても、締付軸21と軸方向長孔56の下方区画部56bとは接触していない。
【0054】
延設部52は、第1摺動部材40から離れるにしたがって(軸方向下方XL)に向かうにしたがって、押付方向Pの下流側に向かうにように、コラム軸方向Xに対して傾斜する傾斜部58を含む。傾斜部58は、幅広部53よりも第1摺動部材40側に位置している。
第2摺動部材50では、延設部52において一対の締付部材32,33に対向する部分(軸方向長孔56の周辺の部分)が側板22と被締付部19との間で特に強固に挟持される。そのため、第2相対摺動時には、延設部52において軸方向長孔56の周辺の部分と、側板22および被締付部19とが主に摩擦摺動する。延設部52において軸方向長孔56の周辺の部分によって、側板22および被締付部19と主に摩擦摺動する摺動部57が構成されている。
【0055】
次に、車両衝突の二次衝突が発生したときのステアリング装置1の動作について説明する。二次衝突とは、車両衝突時に車両の運転者が操舵部材2に衝突することである。以下では、特に説明がある場合を除いて、アッパジャケット7が調整上限位置にある状態で二次衝突が発生した場合を想定している。
締付機構18による締付状態で二次衝突が発生すると、操舵部材2を介してアッパジャケット7に衝撃が伝達される。ロアジャケット8は、車体13に固定された支持部材17の一対の側板22によって支持されている。そのため、二次衝突時には、アッパジャケット7が支持部材17およびロアジャケット8に対して軸方向下方XLに移動する。これにより、ロアジャケット8に対してアッパジャケット7を摩擦摺動させながらコラムジャケット6が収縮する。締付機構18による締め付けが達成された状態でロアジャケット8に対してアッパジャケット7が摩擦摺動する際の抵抗力をコラム抵抗力Fとする。
【0056】
図6は、二次衝突が発生したときの衝撃吸収機構SAの周辺の様子を示す模式図である。
図6(b)は、
図6(a)に示す状態よりも後の状態を示している。
図7(a)は、二次衝突が発生したときのアッパジャケット7の軸方向変位と、衝撃荷重との関係を示したグラフ図である。
図7(a)では、横軸がアッパジャケット7の軸方向変位を示しており、縦軸が衝撃荷重を示している(後述する
図7(b)、
図9、
図11、
図19、
図21(a)および
図21(b)でも同様)。横軸では、コラムジャケット6が最も伸びた状態(アッパジャケット7が調整上限位置に位置する状態)のアッパジャケット7のコラム軸方向Xにおける位置を原点としている(後述する
図7(b)、
図9、
図11、
図19、
図21(a)および
図21(b)でも同様)。
【0057】
第1実施形態では、第1相対摺動によって発生する第1抵抗力G1が第2相対摺動によって発生する第2抵抗力G2よりも大きいので、まず、第2相対摺動が開始される。各第2摺動部材50は、二次衝突時に支持部材17の対応する側板22およびロアジャケット8の対応する被締付部19と第2相対摺動することによって第2抵抗力G2を発生させる第2抵抗力発生手段として機能する。第2相対摺動では、摺動部57は、支持部材17およびロアジャケット8に対して第2摺動部材50が移動することによって変化する。具体的には、摺動部57は、二次衝突の開始後、時間の経過とともに第1摺動部材40側(軸方向上方XU)に移動する。
【0058】
二次衝突の初期段階における衝撃荷重は、第2相対摺動によって発生する第2抵抗力G2と、ロアジャケット8に対してアッパジャケット7が摩擦摺動する際のコラム抵抗力Fとの和に相当する(
図7(a)参照)。第2相対摺動の途中で、案内溝27の軸方向下端と被案内突起28とが当接し、被案内突起28が破断する。被案内突起28が破断された後も第2相対摺動は継続される。そのため、二次衝突の発生直後には、テレスコ調整後のアッパジャケット7の位置に関係なく、第2相対摺動が開始される。
【0059】
そして、
図6(a)に示すように、第1摺動部材40とロアジャケット8の軸方向上端8aとが当接する。これにより、ロアジャケット8および支持部材17に対する第1摺動部材40および第2摺動部材50の軸方向下方XLへの移動が規制される。これにより、支持部材17およびロアジャケット8に対する第2摺動部材50の移動が終了する。つまり、第2相対摺動が停止する。ロアジャケット8の軸方向上端8aは、第2相対摺動を停止させる第2ストッパとして機能する。一方、アッパジャケット7は、ロアジャケット8に対して軸方向下方XLへ移動し続ける。そのため、アッパジャケット7と第1摺動部材40との相対移動(第1相対摺動)が開始される。第1摺動部材40は、二次衝突時に、アッパジャケット7と第1相対摺動することによって第1抵抗力を発生させる第1抵抗力発生手段として機能する。
【0060】
第1相対摺動が開始された後の衝撃荷重は、第1相対摺動によって発生する第1抵抗力G1と、ロアジャケット8に対してアッパジャケット7が摩擦摺動する際のコラム抵抗力Fとの和に相当する(
図7(a)参照)。第1相対摺動は、対向部材101が軸方向上方XUから第1摺動部材40に当接することによって停止する(
図6(b)参照)。このように、二次衝突の初期段階では、第2相対摺動が起こり、二次衝突の終期段階では、第1相対摺動が起こる。二次衝突時にコラムジャケット6が収縮する際には、二次衝突時の衝撃が第1相対摺動および第2相対摺動によって吸収される。
【0061】
第1実施形態によれば、二次衝突時には、第1摺動部材40がアッパジャケット7と第1相対摺動して第1抵抗力G1を発生させる。また、二次衝突時には、第1摺動部材40と一体移動する一対の第2摺動部材50が支持部材17の一対の側板22およびロアジャケット8の一対の被締付部19と第2相対摺動して第2抵抗力G2を発生させる。つまり、互いに一体移動する第1摺動部材40および第2摺動部材50が、二次衝突時に相対移動するアッパジャケット7および支持部材17(ロアジャケット8)にそれぞれ摺動可能である。そのため、二次衝突時には、ロアジャケット8とアッパジャケット7との移動の開始と同時に、第1相対摺動、または、第2相対摺動が起こる。
【0062】
第1実施形態では、第1相対摺動によって発生する第1抵抗力G1が、第2相対摺動によって発生する第2抵抗力G2よりも大きいため、ロアジャケット8に対するアッパジャケット7の移動の開始と同時に、第2相対摺動が起こる。したがって、二次衝突時の衝撃は、コラム抵抗力Fと第2抵抗力G2とによって二次衝突の発生の直後から充分に吸収され始める。よって、二次衝突時の衝撃の吸収量の総量を増大させることができる。そして、第2相対摺動が停止すると、二次衝突時の衝撃を吸収するために第1相対摺動が開始される。
【0063】
第1相対摺動および第2相対摺動に必要な抵抗力G1,G2を、それぞれ所望の値に調整すれば、ロアジャケット8に対するアッパジャケット7の軸方向変位に応じて、衝撃荷重を容易に制御することができる。たとえば、第1抵抗力G1および第2抵抗力G2が互いに異なる一定の値になるように、第1抵抗力G1および第2抵抗力G2を調整するだけで、ロアジャケット8に対するアッパジャケット7の軸方向変位に応じて、衝撃荷重を段階的に変化させることができる。アッパジャケット7を段階的に拡径させる加工を行う必要がない。
【0064】
その結果、二次衝突時の衝撃の吸収量を増大させ、かつ、適切に衝撃荷重を設定することができる。
また、第1実施形態によれば、第1相対摺動によって発生する第1抵抗力G1が、第2相対摺動によって発生する第2抵抗力G2よりも大きい。そのため、二次衝突の発生の直後には、第2相対摺動が開始される。第2相対摺動は、ロアジャケット8の軸方向上端8a(第2ストッパ)によって停止される。
【0065】
詳しくは、二次衝突時にロアジャケット8に対して軸方向下方XLにアッパジャケット7が移動する際、ロアジャケット8の軸方向上端8a(第2ストッパ)が第1摺動部材40に当接する。第2摺動部材50が第1摺動部材40と一体移動するため、第2相対摺動の停止と同時に、第1摺動部材40の支持部材17に対する移動も終了する。その後もアッパジャケット7は、支持部材17に対して軸方向下方XLにさらに移動しようとするため、アッパジャケット7が第1摺動部材40に対して軸方向下方XLに移動する。これにより、第2相対摺動の停止と同時に第1相対摺動が開始される。
【0066】
一方、本実施形態とは異なり、第1抵抗力G1が第2抵抗力G2よりも大きく、かつ、第2摺動部材50がコラム軸方向Xに第1摺動部材40と一体移動しない第1参考例の構成のステアリング装置では、第2相対摺動の停止後、即座に第1相対摺動が開始されるとは限らない。そのため、第2相対摺動の停止後で、かつ、第1相対摺動の開始前には、
図7(b)に示すように、衝撃荷重が、第2抵抗力G2およびコラム抵抗力Fの和からコラム抵抗力Fまで急激に低下することがある。したがって、第1参考例の構成のステアリング装置では、二次衝突時の衝撃をスムーズに吸収できないおそれがある。一方、本実施形態では、第2相対摺動の停止時には、第1相対摺動が即座に開始されるため、
図7(a)に示すように、第2相対摺動の停止に起因する抵抗力(衝撃荷重)の低下を抑制することができる。したがって、二次衝突時の衝撃をスムーズに吸収することができる。
【0067】
また、第1実施形態によれば、前述したように、二次衝突の発生直後には、第2相対摺動が開始され、第2相対摺動の停止後、即座に第1相対摺動が開始される。第1摺動部材40は、アッパジャケット7に固定された対向部材101に当接し対向部材101によって受けられる。そのため、第1摺動部材40は、アッパジャケット7と一体移動する。ここで、予め設定された距離の第2相対摺動が完了する前に偶発的に第2相対摺動が停止され第1相対摺動が開始される場合を想定する。この場合であっても、第1相対摺動の停止後には、対向部材101によって受けられた第1摺動部材40がアッパジャケット7と一体移動する。これにより、第1摺動部材40と一体移動する第2摺動部材50がロアジャケット8および支持部材17に対して移動し、第2相対摺動が再び起こる。そのため、偶発的に第2相対摺動が停止され第1相対摺動が開始された場合であっても、予め設定された距離の第2相対摺動が最終的に完了する。そのため、二次衝突時の衝撃の吸収量の総量が安定する。
【0068】
また、第1実施形態によれば、各第2摺動部材50は、対応する締付部材32,33とロアジャケット8の対応する被締付部19との間に配置されている。そのため、各第2摺動部材50は、対応する被締付部19と対応する締付部材32,33とが対向する方向(締付軸方向Jに相当)への移動が規制されている。第2摺動部材50と一体移動する第1摺動部材40が第1相対摺動時にがたつくことを抑制される。したがって、二次衝突時の衝撃荷重を安定させることができる。
【0069】
さらに、アッパジャケット7の周方向Cには、締付軸方向Jの成分が含まれる。そのため、締付軸方向Jにおける支持部材17とロアジャケット8との間に第2摺動部材50を配置するという簡単な構成によって、周方向Cまわりのアッパジャケット7とロアジャケット8との相対回転を規制することができる。
また、テレスコ調整時には、被案内突起28と案内溝27の軸方向上端とが接触することでロアジャケット8からのアッパジャケット7の抜け防止が達成されていた。しかし、二次衝突によって被案内突起28が破断された後は、被案内突起28および案内溝27は、抜け防止としては機能しない。しかし、締付軸21は、第1摺動部材40を介してアッパジャケット7に取り付けられた第2摺動部材50の軸方向長孔56に挿通されている。そのため、二次衝突によって被案内突起28が破断された後は、締付軸21と軸方向長孔56の下方区画部56bとが接触することによってアッパジャケット7の抜け防止が達成される。このように、第1摺動部材40および第2摺動部材50が、二次衝突後のアッパジャケット7の抜け防止を達成するための抜け防止部材を兼ねている。したがって、抜け防止部材を第1摺動部材40および第2摺動部材50とは別に設ける必要がないので、構成の簡素化および部品点数の削減を達成することができる。
【0070】
また、第1実施形態によれば、第2摺動部材50の延設部52において、幅広部53および幅狭部54を連結する連結部55は、幅広部53側から幅狭部54側に向かうにしたがってチルト方向Yにおける幅が狭くなるように構成されている。そのため、二次衝突時にチルト方向Yの荷重が延設部52に作用した際に延設部52に発生する応力が、固定部51と幅広部53との境界と、連結部55とに分散される。つまり、延設部52の一箇所(たとえば固定部51と幅広部53との境界)に応力が集中するのを避けることができる。そのため、二次衝突時の第2摺動部材50の変形を抑制できるので、二次衝突時の衝撃荷重が安定する。
【0071】
また、第1実施形態によれば、第1摺動部材40がロアジャケット8の軸方向上端8aによって軸方向上方XUに押圧されることによって第1相対摺動が開始される。このとき、ロアジャケット8の軸方向上端8aは、周方向Cにおいて広い範囲(周方向Cにおいてスリット26が設けられている領域を除く領域)で嵌合部41を押圧する。そのため、第1相対摺動によって発生する第1抵抗力G1が安定する。
【0072】
また、第1実施形態によれば、延設部52は、第1摺動部材40から離れるにしたがって、押付方向Pの下流側に向かうように、コラム軸方向Xに対して傾斜する傾斜部58を含む。そのため、第2相対摺動により発生する摩擦力によって第2摺動部材50が二次衝突時にコラム軸方向Xの荷重を受ける際、第2摺動部材50には、押付方向Pの下流側に向けた分力が作用する。したがって、第2摺動部材50は、二次衝突時には、対応する被締付部19に一層押し付けられるので座屈しにくい。よって、二次衝突時の衝撃荷重が安定する。
【0073】
また、第1実施形態によれば、第2摺動部材50は、第1摺動部材40の固定部44の軸方向下端面に接続されている。この場合、第1摺動部材40の固定部44の軸方向上端面に接続されている構成と比較して、第1摺動部材40および第2摺動部材50と対向部材101との間の距離を長くすることができる。すなわち、第1相対摺動により第1摺動部材40が移動する距離を長くすることができる。よって、より適切に衝撃荷重を設定することができる。
【0074】
次に、第1実施形態の第1変形例について説明する。
図8は、第1実施形態の第1変形例に係るステアリング装置1のアッパジャケット7の周辺の模式的な側面図である。
図9は、第1変形例に係るステアリング装置1において、二次衝突が発生したときのアッパジャケット7の軸方向変位と、衝撃荷重との関係を示したグラフ図である。
図8および
図9では、今まで説明した部材と同じ部材には同じ参照符号を付して、その説明を省略する。
【0075】
図8を参照して、第1変形例に係るステアリング装置1のアッパジャケット7の外周面には、アッパジャケット7の外周面と第1摺動部材40との摺動荷重を変更するコーティング60が施されている。
図8では、説明の便宜上、ハッチングを用いてコーティング60を図示している。この変形例では、コーティング60は、アッパジャケット7の外周面と第1摺動部材40との摺動荷重を増大させている。
【0076】
コーティング60は、アッパジャケット7の外周面において第1摺動部材40と対向部材101との間に間隔を空けて2箇所に設けられている。コーティング60は、アッパジャケット7の外周面の周方向全域に亘っている。第1摺動部材40に近い方(軸方向下方XL側)のコーティング60を第1コーティング60Aという。第1コーティング60Aよりも第1摺動部材40から離れた位置(軸方向上方XU側)に施されたコーティング60を第2コーティング60Bという。アッパジャケット7において第2コーティング60Bが施されている部分は、アッパジャケット7において対向部材101が取り付けられている部分に隣接している。
【0077】
図9に示すように、第1コーティング60Aが施された部分に対する第1摺動部材40の摩擦摺動によって発生する抵抗力f1は、コーティング60が施されていない部分に対する第1摺動部材40の摩擦摺動によって発生する抵抗力f0よりも大きい。第2コーティング60Bが施された部分に対する第1摺動部材40の摩擦摺動によって発生する抵抗力f2は、第1コーティング60Aが施された部分と第1摺動部材40との摩擦摺動によって発生する荷重f1よりも大きい。そのため、第1相対摺動では、アッパジャケット7と第1摺動部材40との相対位置の変化に応じて、第1相対摺動によって発生する第1抵抗力G1が変動している。アッパジャケット7の外周面に施されたコーティング60(第1コーティング60Aおよび第2コーティング60B)は、アッパジャケット7と第1摺動部材40との相対位置の変化に応じて、第1抵抗力G1を変動させる第1変動手段として機能する。そのため、一層適切に衝撃荷重を設定することができる。
【0078】
また、第1変形例によれば、アッパジャケット7の外周面と第1摺動部材40との摩擦荷重を増大させる第2コーティング60Bが対向部材101に軸方向下方XLから隣接している。そのため、第1相対摺動が終了する際、第1摺動部材40とアッパジャケット7とが当接する直前に第1摺動部材40およびアッパジャケット7の相対速度を効率良く低減させることができる。
【0079】
また、コーティング60によって第1抵抗力G1を調整する構成では、アッパジャケット7に対する第1摺動部材40の押付度合によって第1抵抗力G1を調整する構成と比較して、第1抵抗力G1の値を予測しやすい。そのため、第1相対摺動によって発生する第1抵抗力G1を所望の値に設定しやすい。
第1変形例とは異なり、コーティング60は、アッパジャケット7の外周面における周方向Cの一部に施されていてもよい。また、第1変形例とは異なり、アッパジャケット7の外周面にコーティング60を施す代わりに、アッパジャケット7の外周面に粗面加工などの表面加工を、第1変形例のコーティング60と同様の位置に施すことによって、アッパジャケット7の外周面に微小な凹凸部を形成してもよい。この場合、この凹凸部が第1変動手段として機能する。
【0080】
次に、第1実施形態の第2変形例について説明する。
図10は、第2変形例に係るステアリング装置1におけるアッパジャケット7の周辺の模式的な側面図である。
図11は、第2変形例に係るステアリング装置1において、二次衝突が発生したときのアッパジャケット7の軸方向変位と、衝撃荷重との関係を示したグラフ図である。
図10および
図11では、今まで説明した部材と同じ部材には同じ参照符号を付して、その説明を省略する。
【0081】
図10に示すように、第2変形例に係るステアリング装置1のアッパジャケット7の外周面には、第2変形例と同様に、アッパジャケット7の外周面と第1摺動部材40との摺動荷重を変更するコーティング61が施されている。
図10では、説明の便宜上、ハッチングを用いてコーティング61を図示している。
第2変形例に係るコーティング61が、第1変形例に係るコーティング60と異なる点は、コラム軸方向Xにおける位置によって、アッパジャケット7の外周面においてコーティング61が施されている面積が異なる点である。第2変形例では、コーティング61が施されている面積は、軸方向上方XUに向かうにしたがって増大している。コーティング61は、たとえば、側面視で(締付軸方向Jから見て)軸方向下方XL側に頂点を有する三角形状である。アッパジャケット7においてコーティング61が施されている部分は、アッパジャケット7において対向部材101が取り付けられている部分に隣接している。
【0082】
図11に示すように、二次衝突時には、第1相対摺動によって発生する第1抵抗力G1は、コーティング61が施された部分と第1摺動部材40との摩擦摺動が開始された時点から徐々に増加する。第1抵抗力G1が最大値f3に到達した時点で第1摺動部材40が対向部材101に当接し、第1相対摺動が停止する。
このように、アッパジャケット7の外周面に施されたコーティング61は、アッパジャケット7と第1摺動部材40との相対位置の変化に応じて、第1抵抗力G1を変動させる第1変動手段として機能する。そのため、一層適切に衝撃荷重を設定することができる。
【0083】
第2変形例とは異なり、アッパジャケット7の外周面にコーティング61を施す代わりに、アッパジャケット7の外周面に粗面加工などの表面加工をコーティング61と同様の位置に施すことによってアッパジャケット7の外周面に微小な凹凸部を形成してもよい。表面加工は、この場合、この凹凸部が第1変動手段として機能する。
次に、第1実施形態の第3変形例について説明する。
【0084】
図12(a)は、第3変形例に係るステアリング装置1における第1摺動部材40の周辺の模式的な断面図であり、
図12(b)は、
図12(a)のXIIb-XIIb線に沿う断面の模式図である。
図12(a)および
図12(b)では、今まで説明した部材と同じ部材には同じ参照符号を付して、その説明を省略する。
図12(a)を参照して、第3変形例に係るステアリング装置1のアッパジャケット7の外周面には、複数(この変形例では4つ)の突起70が形成されている。突起70は、円弧状面70aを有している。複数の突起70は、アッパジャケット7の外周面の周方向Cにおいて、等間隔に配置されている。突起70は、コラム軸方向Xに延びる筋状である。突起70は、第1摺動部材40の相対移動領域の全域に亘って延びている(
図12(b)参照)。第1摺動部材40の相対移動領域とは、アッパジャケット7の外周面において第1摺動部材40がコラム軸方向Xに相対移動可能な領域のことである。
【0085】
第1摺動部材40は、突部43を含んでおらず、嵌合部41の内周面が突起70の円弧状面70aと接触している。アッパジャケット7の外周面からの突起70の突出量pは、突起70内でのコラム軸方向Xにおける位置によって異なる。突起70の突出量pとは、アッパジャケット7の外周面の径方向Rにおける、アッパジャケット7の外周面から突起70の先端までの距離のことである。突起70内でのコラム軸方向Xにおける位置によって突起70の突出量pが変更されている。そのため、二次衝突時には、アッパジャケット7と第1摺動部材40との相対位置の変化に応じて、第1抵抗力G1が変動する。具体的には、突出量pを大きくすれば第1抵抗力G1が増大され、突出量pを小さくすれば第1抵抗力G1が低減される。このように、アッパジャケット7の外周面に設けられた複数の突起70は、第1変動手段として機能する。そのため一層適切に衝撃荷重を設定することができる。
【0086】
第3変形例とは異なり、突起70は、第1摺動部材40の相対移動領域の全域に設けられているのではなく、第1摺動部材40の相対移動領域の一部に設けられていてもよい。この場合、第1摺動部材40の相対移動領域には、突起70が設けられている領域、および、突起70が設けられていない領域の両方の領域が存在する。そのため、突起70の有無によって、第1相対摺動によって発生する第1抵抗力G1を変動させることができる。
【0087】
アッパジャケット7の中心軸線C2を通りチルト方向Yに延びる直線Lを挟んで線対称となるように複数の突起70が配置されていることが好ましい。第3変形例とは異なり、突起70の数が3つである場合、直線L上に突起70が1つ配置され、直線Lの両側のそれぞれに突起70が1つずつ配置されることが好ましい。突起70の数が4以上の偶数である場合、少なくとも一対の突起70が中心軸線C2を通る直線(直線Lを含む)上に配置されていることが好ましい。
【0088】
第3変形例とは異なり、突起70は、第3変形例とは異なり、径方向Rの外方に向かって先細りの略台形状であってもよい。また、突起70は、必ずしも複数設けられている必要はなく、1つだけ設けられるように構成されていてもよい。
次に、第1実施形態の第4変形例について説明する。
図13(a)は、第4変形例に係るステアリング装置1における第1摺動部材40の周辺の模式的な断面図である。
図13(b)は、
図13(a)の矢印XIIIbからアッパジャケット7の外周面を見たときの模式図である。
図13(a)および
図13(b)では、今まで説明した部材と同じ部材には同じ参照符号を付して、その説明を省略する。
【0089】
図13(a)を参照して、第4変形例に係るステアリング装置1では、アッパジャケット7の外周面に複数の凹部71が設けられている。複数の凹部71は、アッパジャケット7の外周面の周方向Cにおいて、等間隔に配置されている。凹部71は、アッパジャケット7を径方向Rに貫通している。
図13(b)を参照して、凹部71は、コラム軸方向Xに延びる筋状である。凹部71は、第1摺動部材40の相対移動領域の全域に設けられているのではなく、第1摺動部材40の相対移動領域の一部に設けられていている。この場合、第1摺動部材40の相対移動領域には、凹部71が設けられている領域A1、および、凹部71が設けられていない領域の両方の領域A2が存在する。そのため、凹部71の有無によって、二次衝突時には、第1相対摺動によって発生する第1抵抗力G1を変動させることができる。このように、アッパジャケット7の外周面に設けられた複数の凹部71は、アッパジャケット7と第1摺動部材40との相対位置の変化に応じて、第1抵抗力G1を変動させる第1変動手段として機能する。そのため、一層適切に衝撃荷重を設定することができる。
【0090】
第4変形例とは異なり、第1摺動部材40の相対移動領域内で、凹部71の数を変化させることによって第1抵抗力G1を変動させてもよい。また、
図13(b)に二点鎖線で示すように、凹部71は、コラム軸方向Xにおける位置によって周方向Cの幅が変化するように設けられていてもよい。凹部71がこのような形状であれば、第1摺動部材40の相対移動領域の全域に凹部71が設けられていても、アッパジャケット7と第1摺動部材40との相対位置の変化に応じて、第1抵抗力G1が変動する。
【0091】
第4変形例とは異なり、複数の凹部71は、コラム軸方向Xにおける長さが互いに異なっていてもよい。また、凹部71は、必ずしも複数設けられている必要はなく、1つだけ設けられるように構成されていてもよい。また、凹部71は、必ずしもアッパジャケット7を貫通している必要はなく、有底の溝であってもよい。
次に、第1実施形態の第5変形例について説明する。
【0092】
図14は、第5変形例に係るステアリング装置1における第1摺動部材40の周辺の模式的な断面図である。
図14では、今まで説明した部材と同じ部材には同じ参照符号を付して、その説明を省略する。
図14に示すように、第5変形例のステアリング装置1では、第1摺動部材40が複数の突部43を含んでおらず、第1摺動部材40が、嵌合部41に形成された挿通孔42aに挿通されるボルト72を含んでいる。
【0093】
ボルト72は、周方向Cに沿って複数設けられていてもよい。ボルト72は、頭部72aと頭部72aからアッパジャケット7の外周面に向けて延びる軸部72bとを含む。軸部72bの先端がアッパジャケット7の外周面に当接している。軸部72bの先端とアッパジャケット7の外周面とが摩擦摺動することによって、第1摺動部材40がアッパジャケット7に対して摩擦摺動する。ボルト72の締め込み度合を調整することによって、第1抵抗力G1を所望の値に設定することができる。
【0094】
アッパジャケット7の外周面において軸部72bの先端が当接する部分には、コラム軸方向Xに延びる平坦面7bが形成されている。これにより、第1相対摺動によって発生する第1抵抗力G1の安定化が図れる。第1相対摺動によって発生する第1抵抗力G1の安定化を達成するためには、複数のボルト72が、周方向Cに等間隔を隔てて配置されていることが好ましい。
【0095】
次に、第1実施形態の第6変形例について説明する。
図15は、第6変形例に係るステアリング装置1における第1摺動部材40の周辺の模式的な断面図である。
図15では、今まで説明した部材と同じ部材には同じ参照符号を付して、その説明を省略する。
図15に示すように、第6変形例のステアリング装置1では、第1摺動部材40が、複数の突部43を含んでおらず、第1摺動部材40が、嵌合部41の代わりに、周方向Cに一対の端部45aを有する有端環状部45を含んでいてもよい。一対の端部45aは、アッパジャケット7の周方向Cに互いに対向する板状である。フランジ部42には、一対の端部45aの間のスリット45bと連通するスリット42bが設けられている。
【0096】
第1摺動部材40は、一対の端部45aのそれぞれに形成された挿通孔45cに挿通されたボルト73と、ボルト73が螺合されるナット74とを含む。ナット74に対するボルト73の締め込み度合を調整することによって、有端環状部45の縮径度合を調整する。これにより、第1抵抗力G1を所望の値に設定することができる。
次に、第1実施形態の第7変形例~第9変形例について説明する。
【0097】
図16(a)は、第7変形例に係るステアリング装置1における第2摺動部材50の周辺の模式的な底面図であり、
図16(b)は、第8変形例に係るステアリング装置1における第2摺動部材50の周辺の模式的な底面図であり、
図16(c)は、第9変形例に係るステアリング装置1における第2摺動部材50の周辺の模式的な底面図である。
図16(a)~
図16(c)では、一対の第2摺動部材50のうち、一方の締付部材32に対応する第2摺動部材50の周辺のみを図示している。
図16(a)~
図16(c)では、今まで説明した部材と同じ部材には同じ参照符号を付して、その説明を省略する。
【0098】
図16(a)を参照して、第7変形例の第2摺動部材50の延設部52において対応する被締付部19に対向する面には、突出部59が設けられている。突出部59は、プレス加工などで延設部52を変形させることによって形成されている。延設部52において突出部59が設けられている部分は、延設部52において突出部59が設けられていない部分よりも、締付部材32,33によって強く押圧される。そのため、第2抵抗力G2は、延設部52において突出部59が設けられている部分に摺動部57が位置するときの方が、延設部52において突出部59が設けられていない部分に摺動部57が位置するときよりも大きい。したがって、二次衝突時には、第2相対摺動中に第2抵抗力G2が変化する。このように、突出部59は、コラム軸方向Xにおけるロアジャケット8および支持部材17と第2摺動部材50との相対位置の変化に応じて、第2相対摺動によって発生する第2抵抗力G2を変動させる第2変動手段として機能する。そのため、より適切に衝撃荷重を設定することができる。
【0099】
図16(b)を参照して、第8変形例に係るステアリング装置1では、第2摺動部材50の延設部52の板厚T(締付軸方向Jにおける幅)は、延設部52内でのコラム軸方向Xの位置によって異なっている。詳しくは、延設部52は、厚板部52aと、厚板部52aよりも第1摺動部材40側に設けられ厚板部52aよりも板厚Tが薄い薄板部52bと、厚板部52aおよび薄板部52bを連結し、薄板部52bから厚板部52aに向かうにしたがって板厚Tが厚くなる板厚変動部52cとを含む。厚板部52a、薄板部52bおよび板厚変動部52cは、延設部52における摺動部57の移動範囲に位置している。摺動部57が厚板部52aに位置するときの第2抵抗力G2は、摺動部57が薄板部52bに位置するときの第2抵抗力G2よりも大きい。したがって、二次衝突時には、第2相対摺動中に第2抵抗力G2が変化する。このように、延設部52は、コラム軸方向Xにおけるロアジャケット8および支持部材17と第2摺動部材50との相対位置の変化に応じて、第2抵抗力G2を変動させる第2変動手段として機能する。そのため、一層適切に衝撃荷重を設定することができる。
【0100】
図16(c)を参照して、第9変形例に係るステアリング装置1では、第8変形例と同様に、第2摺動部材50の延設部52の板厚Tは、延設部52内でのコラム軸方向Xの位置によって異なっている。第9変形例の延設部52は、摺動部57の移動範囲内において、第1摺動部材40から離れる(軸方向下方XLに向かう)に従って、板厚Tが厚くなるように構成されている。したがって、二次衝突時には、第2相対摺動中に第2抵抗力G2が変化する。このように、延設部52は、コラム軸方向Xにおけるロアジャケット8および支持部材17と第2摺動部材50との相対位置の変化に応じて、第2抵抗力G2を変動させる第2変動手段として機能する。そのため、一層適切に衝撃荷重を設定することができる。
【0101】
次に、第1実施形態の第10変形例および第11変形例について説明する。
図17(a)は、第10変形例に係るステアリング装置1に備えられた衝撃吸収機構SAの斜視図であり、
図17(b)は、第11変形例に係るステアリング装置1に備えられた衝撃吸収機構SAの斜視図である。
図17(a)および
図17(b)では、今まで説明した部材と同じ部材には同じ参照符号を付して、その説明を省略する。
【0102】
図17(a)に示すように、第10変形例の第2摺動部材50の延設部52には、軸方向長孔56が形成されていない。延設部52は、チルト方向Yの一方側(上方)から締付軸21に対向する上方対向部として機能する。
図17(b)に示すように、第11変形例の第2摺動部材50の延設部52には、軸方向長孔56が形成されていない。延設部52は、チルト方向Yの他方側(下方)から締付軸21に対向する下方対向部として機能する。
【0103】
ここで、支持部材17の側板22やロアジャケット8の被締付部19の寸法精度によっては、側板22と被締付部19とが第2摺動部材50を挟持する度合がチルト方向Yの位置によって異なることがある。その場合、延設部52と対応する側板22や被締付部19との摺動荷重や振動剛性が、チルト方向Yの位置によって異なる。したがって、締付軸21よりも上方の位置と、締付軸21よりも下方の位置とでは、延設部52と側板22や被締付部19との摺動荷重が異なるおそれがある。しかし、第10変形例の延設部52は、チルト方向Yのうちの上方のみから締付軸21に対向するため、第2摺動部材50と側板22や被締付部19との摺動荷重および振動剛性のばらつきが低減される。
【0104】
延設部52がチルト方向Yにおける締付軸21の両側に配置されている構成と比較して、延設部52を形成するために使用する金属などの材料の量を減らすことができる。これにより、第2摺動部材50のコストおよび質量を低減することができる。
二次衝突時には、アッパジャケット7には、チルト方向Yの衝撃が伝達されることがある。アッパジャケット7に伝達された衝撃は、ロアジャケット8を介して締付軸21に伝達される。これにより、締付軸21がチルト方向Yに移動しようとする。第10変形例の構成によれば、延設部52がチルト方向Yのうちの上方のみから締付軸21に対向するので、締付軸21や締付部材32,33が延設部52に当接したとしても、延設部52は、弾性変形することによって上方に逃げることができる。そのため、チルト方向Yの衝撃が締付軸21に伝達されることに起因して、締付軸21や締付部材32,33と延設部52との間に意図しない過大な摩擦力が発生することを抑制することができる。
【0105】
第11変形例においても第10変形例と同様の効果を奏する。
第10変形例や第11変形例とは異なり、
図17(a)および
図17(b)のそれぞれに二点鎖線で示すように、延設部52は、第1摺動部材40から離れるにしたがって、チルト方向Yにおける幅が小さくなるように先細り状に形成されていてもよい。これにより、延設部52と側板22および被締付部19とが接触する部分の面積を減らすことができる。これにより、コラム軸方向Xにおいて剛性や接触状態のばらつきを低減できる。
【0106】
次に、第1実施形態の第12変形例について説明する。
図18は、第12変形例に係るステアリング装置1におけるアッパジャケット7の周辺の模式的な側面図である。
図19は、第12変形例に係るステアリング装置1において二次衝突が発生したときのアッパジャケット7の軸方向変位と、衝撃荷重との関係を示したグラフ図である。
図18および
図19では、今まで説明した部材と同じ部材には同じ参照符号を付して、その説明を省略する。
【0107】
図18を参照して、第12変形例に係るステアリング装置1は、アッパジャケット7に対して摩擦摺動可能にアッパジャケット7に取り付けられた第3摺動部材80をさらに含む。第3摺動部材80とアッパジャケット7との摩擦摺動を第3相対摺動という。第3相対摺動によって発生する抵抗力を第3抵抗力G3という。第3摺動部材80は、第1摺動部材40の嵌合部41と同様の構成を有している。すなわち、第3摺動部材80は、アッパジャケット7の外周面に外嵌された環状の部材であり、その内周面には、アッパジャケット7の外周面と接触する複数の突部が設けられている。第3摺動部材80は、第1摺動部材40と対向部材101との間に位置している。
【0108】
二次衝突時には、第1相対摺動が開始された後で、かつ、第1摺動部材40が対向部材101と当接する前に、第1摺動部材40が第3摺動部材80に軸方向下方XLから当接する。これにより、第1摺動部材40に軸方向下方XLから押されることによって、第3摺動部材80がアッパジャケット7と相対摺動し始める。すなわち、第1相対摺動と並行して第3相対摺動が発生する。このように、第3摺動部材80は、二次衝突時にアッパジャケット7と第3相対摺動することによって第3抵抗力G3を発生させる第3抵抗力発生手段として機能する。
図19に示すように、衝撃荷重は、第1相対摺動の途中から増大し、第1相対摺動によって発生する第1抵抗力G1、第3抵抗力G3およびロアジャケット8に対してアッパジャケット7が摺動することによって発生するコラム抵抗力Fの和に等しくなる。第1相対摺動および第3相対摺動は、第3摺動部材80に対向部材101が軸方向上方XUから当接することによって停止する。
【0109】
第12変形例によれば、二次衝突時には、第3摺動部材80とアッパジャケット7との第3相対摺動が第1相対摺動と並行して発生することによって、衝撃荷重が増大される。したがって、二次衝突時の衝撃の吸収量の総量が一層増大する。また、第3抵抗力G3を調整したり、第3相対摺動が発生するタイミング(第3摺動部材80の取り付け位置)を調整したりすることができるので、より一層適切に衝撃荷重を設定することができる。
【0110】
第12変形例とは異なり、第3摺動部材80は、複数設けられていてもよい。これにより、衝撃荷重を多段階に増大させることができる。また、第3抵抗力G3は、第1抵抗力G1と異なる値となるように調整されていてもよい。
<第2実施形態>
図20は、第2実施形態に係るステアリング装置1Pにおいて、二次衝突が発生したときの第1摺動部材40および第2摺動部材50の周辺の様子を示す模式図である。
図20(b)は、
図20(a)に示す状態よりも後の状態を示している。
図21(a)は、第2実施形態に係るステアリング装置1Pにおいて二次衝突が発生したときのアッパジャケット7の軸方向変位と、衝撃荷重との関係を示したグラフ図である。
図20~
図21(b)では、今まで説明した部材と同じ部材には同じ参照符号を付して、その説明を省略する。
【0111】
第2実施形態に係るステアリング装置1Pは、第1実施形態に係るステアリング装置1(
図6参照)とほぼ同様の構成を有している。ステアリング装置1Pがステアリング装置1と主に異なる点は、第1相対摺動によって発生する第1抵抗力G1が第2相対摺動によって発生する第2抵抗力G2よりも小さい点である(G1<G2)。そのため、第2相対摺動よりも先に第1相対摺動が開始される。二次衝突の初期段階における衝撃荷重は、第1相対摺動によって発生する第1抵抗力G1と、ロアジャケット8に対してアッパジャケット7が摩擦摺動することによって発生するコラム抵抗力Fとの和に等しい(
図21(a)参照)。第1相対摺動の途中で、案内溝27の軸方向下端と被案内突起28とが当接し、被案内突起28が破断する。
【0112】
そして、
図20(a)に示すように、対向部材101と第1摺動部材40とが当接する。これにより、アッパジャケット7に対する第1摺動部材40および第2摺動部材50の軸方向下方XLへの移動が規制される。これにより、アッパジャケット7に対する第1摺動部材40の移動が終了する。つまり、第1相対摺動が停止する。対向部材101は、第1相対摺動を停止させる第1ストッパとして機能する。一方、アッパジャケット7は、ロアジャケット8に対して軸方向下方XLへ移動し続ける。そのため、第2摺動部材50とロアジャケット8および支持部材17との第2相対摺動が開始される。
【0113】
第2相対摺動が開始された後の衝撃荷重は、第2相対摺動によって発生する第2抵抗力G2と、ロアジャケット8に対してアッパジャケット7が摩擦摺動することによって発生するコラム抵抗力Fとの和に相当する(
図21(a)参照)。第2相対摺動は、ロアジャケット8の軸方向上端8aと第1摺動部材40とが当接することによって停止する(
図20(b)参照)。このように、二次衝突の初期段階では、第1相対摺動が起こり、二次衝突の終期段階では、第2相対摺動が起こる。
【0114】
第2実施形態によれば、第1相対摺動によって発生する第1抵抗力G1が、第2相対摺動によって発生する第2抵抗力G2よりも小さいため、ロアジャケット8に対するアッパジャケット7の移動の開始と同時に、第1相対摺動が起こる。したがって、二次衝突時の衝撃は、コラム抵抗力Fと第1抵抗力G1とによって二次衝突の発生の直後から充分に吸収され始める。よって、二次衝突時の衝撃の吸収量の総量を増大させることができる。そして、第1相対摺動が停止すると、二次衝突時の衝撃を吸収するために第2相対摺動が開始される。
【0115】
第1相対摺動および第2相対摺動に必要な抵抗力G1,G2を、それぞれ所望の値に調整すれば、ロアジャケット8に対するアッパジャケット7の軸方向変位に応じて、二次衝突中の衝撃荷重を容易に制御することができる。たとえば、第1抵抗力G1および第2抵抗力G2が互いに異なる一定の値になるように、第1抵抗力G1および第2抵抗力G2を調整するだけで、ロアジャケット8に対するアッパジャケット7の軸方向変位に応じて、衝撃荷重を段階的に変化させることができる。アッパジャケット7を段階的に拡径させる加工を行う必要がない。
【0116】
その結果、二次衝突時において、二次衝突時の衝撃の吸収量を増大させ、かつ、適切に衝撃荷重を設定することができる。
第2実施形態によれば、第1相対摺動によって発生する第1抵抗力G1が、第2相対摺動によって発生する第2抵抗力G2よりも小さい。そのため、二次衝突の発生の直後には、第1相対摺動が開始される。そして、第1相対摺動は、対向部材101(第1ストッパ)によって停止される。詳しくは、コラムジャケット6が収縮する際、対向部材101(第1ストッパ)が軸方向上方XUから第1摺動部材40に当接する。これにより、アッパジャケット7に対する第1摺動部材40および第2摺動部材50の相対移動が終了するので、第1相対摺動が停止する。その後もアッパジャケット7は、ロアジャケット8および支持部材17に対してさらに移動するので、第1摺動部材40および第2摺動部材50は、アッパジャケット7とともにロアジャケット8および支持部材17に対して移動する。これにより、第1相対摺動の停止と同時に第2相対摺動が開始される。
【0117】
一方、本実施形態とは異なり、第1抵抗力G1が第2抵抗力G2よりも小さく、かつ、第2摺動部材50がコラム軸方向Xに第1摺動部材40と一体移動しない第2参考例の構成のステアリング装置では、第1相対摺動の停止時に第2相対摺動が開始されるとは限らない。そのため、第1相対摺動の停止後で、かつ、第2相対摺動の開始前には、
図21(b)に示すように、衝撃荷重が、第1抵抗力G1およびコラム抵抗力Fの和からコラム抵抗力Fまで急激に低下することがある。したがって、第2参考例の構成のステアリング装置では、二次衝突時の衝撃をスムーズに吸収できないおそれがある。一方、第2実施形態では、第1相対摺動の停止時には、第2相対摺動が即座に開始されるため、
図21(a)に示すように、第1相対摺動の停止に起因する抵抗力(衝撃荷重)の低下を抑制することができる。したがって、二次衝突時の衝撃をスムーズに吸収することができる。
【0118】
ここで、ロアジャケット8の対応する被締付部19と支持部材17の対応する側板22とによって第2摺動部材50が挟持される荷重は、締付機構18がロアジャケット8をアッパジャケット7に締め付ける荷重に連動している。したがって、第2抵抗力G2の大きさは、締付機構18による締付荷重に連動している。一方、第1摺動部材40とアッパジャケット7との第1相対摺動によって発生する第1抵抗力G1は、締付機構18の締付荷重と連動していない。そのため、第1相対摺動によって発生する第1抵抗力G1は、第2相対摺動によって発生する第2抵抗力G2と比較して調整が容易である。したがって、第1相対摺動によって発生する第1抵抗力G1が、第2相対摺動によって発生する第2抵抗力G2よりも小さい構成では、二次衝突時の初期段階の衝撃荷重を調整し易い。
【0119】
第2実施形態によれば、これらの他にも第1実施形態と同様の効果を奏する。さらに、第1実施形態の各変形例(第1変形例~第12変形例)の構成は、第2実施形態にも適用することができる。
この発明は、以上に説明した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載の範囲内において種々の変更が可能である。
【0120】
たとえば、上述の実施形態とは異なり、第1相対摺動によって発生する第1抵抗力G1と、第2相対摺動によって発生する第2抵抗力G2とが等しくてもよい(G1=G2)。この場合、第1相対摺動および第2相対摺動が同時に開始される場合も有り得るし、第1相対摺動および第2相対摺動が交互に起こることも有り得る。この場合、二次衝突の初期段階における衝撃荷重と二次衝突の終期段階における衝撃荷重の差を抑えることができる。
【0121】
また、ステアリング装置1は、第2摺動部材50を必ずしも一対含んでいる必要はない。すなわち、一対の第2摺動部材50のうちの一方のみが設けられていてもよい。
また、各側板22に対応する第2摺動部材50が、複数設けられていてもよい。詳しくは、第2摺動部材50が、一方の側板22(
図6で上側の側板22)と、一方の締付部材32との間に複数配置されており、他方の側板22(
図6で下側の側板22)と、他方の締付部材33との間にも複数配置されていてもよい。各側板22に対応する複数の第2摺動部材50同士の間には、側板22に連結された摺動板が介在されていてもよい。
【0122】
また、上述の実施形態では、別々に形成された第1摺動部材40と第2摺動部材50とを溶接などにより固定するとした。しかし、上述の実施形態とは異なり、第1摺動部材40および第2摺動部材50は、プレス加工や鋳造などによって一体に形成されていてもよい。また、上述の実施形態では、第1摺動部材40および第2摺動部材50は、金属製であるとしたが、上述の実施形態とは異なり、第1摺動部材40および第2摺動部材50は、樹脂などによって形成されていてもよい。また、上述の実施形態では、第1摺動部材40および一対の第2摺動部材50は、固定されているとしたが、必ずしも固定されている必要はない。たとえば、第1摺動部材40および一対の第2摺動部材50は、一体移動可能に凹凸係合されていてもよい。
【0123】
また、上述の実施形態では、各第2摺動部材50は、ロアジャケット8の対応する被締付部19と支持部材17の対応する側板22との間に配置されていた。しかし、上述の実施形態とは異なり、各第2摺動部材50は、支持部材17の対応する側板22と、対応する締付部材32,33との間に配置されていてもよい。他方の締付部材33と他方の側板22との間に配置される第2摺動部材50は、厳密には、針状ころ軸受37と他方の側板22との間に配置される。
【0124】
また、上述の実施形態とは異なり、アッパジャケット7において第1摺動部材40が取り付けられている部分よりも軸方向上方XUの部分に拡径部7a(
図5の二点鎖線を参照)が設けられていてもよい。拡径部7aの外周面の直径は、第1摺動部材40が取り付けられている部分の外周面の直径よりも大きい。そのため、第1相対摺動によって、第1摺動部材40とアッパジャケット7とがコラム軸方向Xに相対摺動し、第1摺動部材40が拡径部7aまで到達すると、第1相対摺動によって発生する第1抵抗力G1が大きくなる。第1相対摺動によって発生する第1抵抗力G1が第2相対摺動によって発生する第2抵抗力G2よりも大きくなると、第1相対摺動が停止される。このように拡径部7aが第1ストッパとして機能する構成であってもよい。
【0125】
また、上述の実施形態とは異なり、アッパジャケット7は、第1摺動部材40の摺動領域において、軸方向上方XUに向かうにしたがって拡径されるように構成されていてもよい。この場合、アッパジャケット7と第1摺動部材40との相対位置の変化に応じて、第1相対摺動によって発生する第1抵抗力G1が変動する。この場合、対向部材101は、設けられていなくてもよい。
【0126】
また、上述の実施形態では、対向部材101は、取付部品100などのブラケットであるとした。しかし、対向部材101は、上述の実施形態とは異なり、アッパジャケット7の一部によって構成されていてもよい。詳しくは、対向部材101は、アッパジャケット7にU字状の切り込みを入れ、U字状の切り込みの内側の部分を切り起こした切起部によって構成されていてもよい。
【符号の説明】
【0127】
1;1P…ステアリング装置、2…操舵部材、7…アッパジャケット、7a…拡径部(第1ストッパ)、8…ロアジャケット、8a…軸方向上端(第2ストッパ)、13…車体、17…支持部材、21…締付軸(挿通軸)、32…一方の締付部材、33…他方の締付部材、40…第1摺動部材(第1抵抗力発生手段)、50…第2摺動部材(第2抵抗力発生手段)、51…固定部、52…延設部(第2変動手段)、53…幅広部、54…幅狭部、55…連結部、59…突出部(第2変動手段)60…コーティング(第1変動手段)、61…コーティング(第1変動手段)、70…突起(第1変動手段)、71…凹部(第1変動手段)、80…第3摺動部材(第3抵抗力発生手段)、101…対向部材(第1ストッパ)、X…コラム軸方向、XU…軸方向上方(操舵部材側,幅広部側)、XL…軸方向下方(幅狭部側)、Y…チルト方向、G1…第1抵抗力、G2…第2抵抗力、G3…第3抵抗力