(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-08
(45)【発行日】2022-01-12
(54)【発明の名称】高性能Fe-Ga基合金単結晶製造方法
(51)【国際特許分類】
C30B 29/52 20060101AFI20220104BHJP
C30B 15/20 20060101ALI20220104BHJP
【FI】
C30B29/52
C30B15/20
(21)【出願番号】P 2017077053
(22)【出願日】2017-04-07
【審査請求日】2020-04-06
(31)【優先権主張番号】P 2017043014
(32)【優先日】2017-03-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】502209796
【氏名又は名称】株式会社福田結晶技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100088096
【氏名又は名称】福森 久夫
(72)【発明者】
【氏名】福田 承生
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 清和
(72)【発明者】
【氏名】高橋 和也
(72)【発明者】
【氏名】安藤 宏孝
【審査官】神▲崎▼ 賢一
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-028831(JP,A)
【文献】特開2015-182937(JP,A)
【文献】特開2014-189413(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/52
C30B 15/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ルツボ内原料を融解後、融液上面を1200℃以下に冷却し、前記冷却を維持しながら種結晶下にFe-Ga基合金を晶出させ引上げを行うことを特徴とする高性能Fe-Ga基合金単結晶製造方法において、
種付け温度:1000~1200℃
融液表面直上10mmの温度勾配:50℃/cm以上
融液表面直下10mmの温度勾配90℃/cm以上
融液内温度差:250~350℃以上 (融点:約1440℃)
加熱コイルの降下速度0.1mm/h以上
の条件で引上げを行う高性能Fe-Ga基合金単結晶製造方法。
【請求項2】
ルツボを、外側ルツボと、該外側ルツボ内に配置された内側ルツボとからなる二重ルツボとし、前記外側ルツボの外側に配置した加熱源により加熱を行い、前記内側ルツボ内の原料融液に種結晶を接触させた後に、前記種結晶を引き上げて単結晶を育成させる請求項1記載の高性能Fe-Ga基合金単結晶製造方法。
【請求項3】
前記外側ルツボはグラファイトルツボであり、前記内側ルツボはアルミナルツボである請求項
2記載の高性能Fe-Ga基合金単結晶製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高性能Fe-Ga基合金単結晶製造方法に係る。
【背景技術】
【0002】
Fe-Ga基合金は大きな磁歪を示すため、アクチュエータや振動発電等に用いる素材として注目されている。なお、Gaの一部を例えばAl、Snその他の元素で置き換えたものもFe-Ga基合金に含まれる。
この合金の磁歪特性は化学組成や結晶方位に大きく依存するため、化学組成や結晶方位を厳密に制御する必要がある。
これまである組成や方位の結晶は、主に、急冷凝固法(特許文献1)、ブリッジマン法や異常粒成長法(非特許文献1、2)により作製されてきた。
【0003】
上記先行技術記載の従来の方法では、廉価な単結晶を大量に作製することは困難である。
特許文献2では、
図2に示すように、ルツボを、外側ルツボと、該外側ルツボ内に配置された内側ルツボとからなる二重ルツボとし、該ルツボ内の原料融液に種結晶を接触させた後に、前記種結晶を引き上げて単結晶を育成させる技術が提供されている。この技術によれば、大型の結晶を、化学組成、結晶方位を精度よく、しかも、廉価に製造することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007-214297号公報
【文献】特開2016-28831号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】Y.-H.Yoo et al.:J. Applied Physics, 103(2008),07B325,
【文献】S.-M. et al. Scripta Mater.,66(2012),307.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記従来技術によっても下記の課題を有している。
(1)結晶長尺化につれて結晶欠陥が入りやすい。表面に肌荒れが生じる。結晶内に空孔、異成分晶出物が入りやすい。
(2)磁歪特性に50-350ppmnのバラツキがある。
結晶咲くとき直径自動制御装置をしようしても突然制御が困難になることがある。すなわち、安定的な結晶製造にかける事がある。
Fe-Ga単結晶は固溶体単結晶なので固化率に対応して偏析により結晶組成が変化して磁歪特性が変わる。
結晶育成中に結晶重量が増すとシードが伸び、ロードセルに過信号が入り結晶直径制御が不十分である。
本発明は、長尺であっても結晶欠陥が無く、表面に肌荒れが無く、結晶内に空孔、異成分晶出物が無く。磁歪特性が従来より優れ、かつバラつきが少なく単結晶を製造することが可能な高性能Fe-Ga基合金単結晶製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係る発明は、ルツボ内原料を融解後、融液上面を1200℃以下に冷却し、前記冷却を維持しながら種結晶下にFe-Ga基合金を晶出させ引上げを行うことを特徴とする高性能Fe-Ga基合金単結晶製造方法において、
種付け温度:1000~1200℃
融液表面直上10mmの温度勾配:50℃/cm以上
融液表面直下10mmの温度勾配90℃/cm以上
融液内温度差:250~350℃以上 (融点:約1440℃)
加熱コイルの降下速度0.1mm/h以上
の条件で引上げを行う高性能Fe-Ga基合金単結晶製造方法。
請求項2に係る発明は、ルツボを、外側ルツボと、該外側ルツボ内に配置された内側ルツボとからなる二重ルツボとし、前記外側ルツボの外側に配置した加熱源により加熱を行い、前記内側ルツボ内の原料融液に種結晶を接触させた後に、前記種結晶を引き上げて単結晶を育成させる請求項1記載の高性能Fe-Ga基合金単結晶製造方法である。
請求項3に係る発明は、前記外側ルツボはグラファイトルツボであり、前記内側ルツボはアルミナルツボである請求項2記載の高性能Fe-Ga基合金単結晶製造方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、長尺であっても結晶欠陥が無く、表面に肌荒れが無く、結晶内に空孔、異成分晶出物が無く。磁歪特性が従来より優れ、かつバラつきが少なく単結晶を製造することが可能な高性能Fe-Ga基合金単結晶製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明を実施するための単結晶育成装置の例を示す概念図である。
【
図2】従来における二重ルツボ型の単結晶育成装置を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0011】
[育成装置の形態]
図1は、本発明を実施するための第1の形態に係る単結晶引き上げ装置を説明するための図である。
ルツボを、外側ルツボ(カーボンサセプタ)19と、外側ルツボ19内に配置された内側ルツボ(アルミナルツボ)18とからなる二重ルツボとし、ルツボ内の原料融液300に種結晶210を接触させた後に、種結晶210を引き上げて単結晶200を育成させる単結晶育成装置である。
内側ルツボ18の側面と外側ルツボ19の側面とは接触させて配置してもよいし、離間させて配置してもよい。離間させた方がより組成、結晶配向のばらつきの少ない単結晶が得られる。かかる観点からは、離間距離は1mm~10mmが好ましく、2mmから5mmがより好ましい。また、内側ルツボ18の底面と外側ルツボ19の底部内面との間にはスペーサーを設けることが好ましい。
この装置は、
図2に示す二重ルツボ型の単結晶育成装置とは次の点で異なる。本例では、加熱コイル20を上下移動可能としている点である。結晶の育成が進むにつれ液表面の位置が下降する。そのため、液表面の温度に変化をもたらし、所定の過冷却温度を維持できなくなる。そのため、加熱コイルを下降させて過冷却温度の維持を図る。下降速度は、引上げ速度、育成室の容量などにより変わるが、0.1mm/h以上が好ましい。
また、加熱室を形成する耐火材の厚みを、ルツボ上端の位置より上方の部分を図
2に比べて薄くしてある。図では、図
2に比べて1/2の厚さにしている。
【0012】
本形態を詳細に説明する。
チャンバ11内に設けられた断熱材(耐火材)で形成される加熱室15と、加熱室15の内部に設けられたルツボと、加熱室15の外周に配置された加熱コイル20とを備え、前記ルツボを加熱して得られた原料融液300に種結晶210を接触させた後に、種結晶210を引き上げて単結晶200を育成させる単結晶育成装置である。
ルツボ内の原料融液300に種結晶210を接触させた後に、種結晶210を引き上げ
て単結晶200を育成させる。
前記ルツボは、原料保持用である内側ルツボ18と、内側ルツボ18の外側に間隔を置いて又は置かないで配置された外側ルツボ19とからなる単結晶育成装置である。
【0013】
以下本形態をより詳細に説明する。
(内側ルツボ)
内側の内側ルツボ18は高融点材料からなる。アルミナが好ましい。
また、マグネシア、パイタリテックな窒化ホウ素(BN)でもよい。
【0014】
(外側ルツボ)
外側ルツボ19はグラファイトから構成される。グラファイトはIrに比べてはるかに
安価である。また、高周波(RF)に対する発熱効率が極めて良好である。
外側ルツボ19は、底部を有し(有底)、底部の周縁から上方に立ち上げる側壁を有している。
【0015】
グラファイトが発熱した場合に発生するカーボンガスあるいはカーボン粒子が融液に混入しないように、外側ルツボ19の上端(側壁の最上部)の高さは、内側ルツボ18の上端よりも高くなく設定される。
図1に示す例では、両者の上端は面一状態となっている。
【0016】
外側ルツボ19の内部は、内側ルツボ18の外面全体と外側ルツボ19の内面全体が接触するように、外径、内径を適宜設定しておくことが好ましい。底部においても、外側ルツボ19の底部内面が、内側ルツボ18の底部外面と接触させ外側ルツボ19内に内側ルツボ18をスライドさせてはめ込み可能な形状としておくことが好ましい。
外側ルツボ19の内面及び内側ルツボ18の外面は鏡面仕上げしておけば、内側ルツボ18を容易に外側ルツボ19内にスライドさせて収納させることができる。
【0017】
なお、
図1では、内側ルツボ18と外側ルツボ19とを接触させて配置した例を示した
が、Fe
0.80Ga
0.20よりFeが多くなるか、Gaの置換体によって所要温度が高くなる場合はカーボンとアルミナが反応するので、内側ルツボ18の側壁と外側ルツボ19の側壁とを離隔して配置した方がよい。
【0018】
(加熱室)
ルツボ18,19を内包し、単結晶育成を行う加熱室15は耐火材により形成されている。本形態において、耐火材の厚さは、ルツボ18,19の上端から上方においては、上端より下方よりも薄くしてある。薄くすることにより上方からの外部への放熱が大きくなり融液上面における過冷却が生じやすくまた維持しやすくなる。
【0019】
(加熱コイル)
加熱コイルは加熱室の周囲に設けられている。単結晶の育成が進むにつれ固液界面の位置が下降する。そのため、加熱コイルを下降させることにより過冷却の維持を図る。
【実施例】
【0020】
(従来例)
図2に示すような炉内構造と表1の温度パラメータ(1)を持つ高周波誘導加熱式チョクラルスキー炉(CZ法)を用いてFe-Ga単結晶を育成した。
内径130mmのアルミナ製の坩堝に、出発原料としてFeを80at%、Gaを20at%の割合に配合した原料5000g投入した。原料を投入したアルミナ製の坩堝を前記育成炉に投入し、炉内の圧力を減圧雰囲気とし、アルゴンガスを1.0L/minの流量でフローを行った。その後、坩堝の加熱を開始し、Fe-Gaの融点に達するまで16時間かけて徐々に加熱した。その後、(100)方位に切り出した単結晶を種結晶として用い、種結晶を融液近くまで降下させた。この種結晶を毎分4.0回転の速度で回転させながら、徐々に降下させ、種結晶の先端を融液に接触させて温度を徐々に降下させながら、実行成長2.0mm/hの速度で種結晶を上昇させて結晶成長を行った。
その結果、直径50mm、直胴部の長さ125mmの単結晶が得られた。得られた結晶は底部から50mmの範囲において表面の凹凸、内部空孔があり、その箇所は磁歪特性も250ppmを下回っていた。
【0021】
(参考例)
図1に示すような炉内構造と表1の温度パラメータ(2)を持つ高周波誘導加熱式チョクラルスキー炉(CZ法)を用いてFe-Ga単結晶を育成した。
内径130mmのアルミナ製の坩堝に、出発原料としてFeを80at%、Gaを20at%の割合に配合した原料5000g投入した。原料を投入したアルミナ製の坩堝を前記育成炉に投入し、炉内の圧力を減圧雰囲気とし、アルゴンガスを1.0L/minの流量でフローを行った。その後、坩堝の加熱を開始し、Fe-Gaの融点に達するまで16時間かけて徐々に加熱した。その後、(100)方位に切り出した単結晶を種結晶として用い、種結晶を融液近くまで降下させた。この種結晶を毎分4.0回転の速度で回転させながら、徐々に降下させ、種結晶の先端を融液に接触させて温度を徐々に降下させながら、実行成長2.0mm/hの速度で種結晶を上昇させて結晶成長を行った。
その結果、直径50mm、直胴部の長さ125mmの単結晶が得られた。得られた結晶は底部から20mmの範囲において表面の凹凸、内部空孔があり、その箇所は磁歪特性も250ppmを下回っていた。
【0022】
(実施例)
図1に示すような炉内構造と表1の温度パラメータ(2)を持つ高周波誘導加熱式チョクラルスキー炉(CZ法)を用いてFe-Ga単結晶を育成した。
内径130mmのアルミナ製の坩堝に、出発原料としてFeを80at%、Gaを20at%の割合に配合した原料5000g投入した。原料を投入したアルミナ製の坩堝を前記育成炉に投入し、炉内の圧力を減圧雰囲気とし、アルゴンガスを1.0L/minの流量でフローを行った。その後、坩堝の加熱を開始し、Fe-Gaの融点に達するまで16時間かけて徐々に加熱した。その後、(100)方位に切り出した単結晶を種結晶として用い、種結晶を融液近くまで降下させた。この種結晶を毎分4.0回転の速度で回転させながら、徐々に降下させ、種結晶の先端を融液に接触させて温度を徐々に降下させながら、実行成長2.0mm/hの速度で種結晶を上昇させて結晶成長を行った。また、結晶肩部形成終了から加熱コイルを0.2mm/hの速度で降下させつつ結晶直胴部の形成を行った。
その結果、直径50mm、直胴部の長さ125mmの単結晶が得られた。得られた結晶は全部分において表面の凹凸、内部空孔が無く、磁歪特性も250ppmを超えていた。
【0023】
【符号の説明】
【0024】
15 加熱室
18 内側ルツボ
19 外側ルツボ
20 加熱手段(加熱コイル)
200 インゴット(単結晶)
210 種結晶
300 原料融液