IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人信州大学の特許一覧

<>
  • 特許-フィルタ膜の透水性評価方法および装置 図1
  • 特許-フィルタ膜の透水性評価方法および装置 図2
  • 特許-フィルタ膜の透水性評価方法および装置 図3
  • 特許-フィルタ膜の透水性評価方法および装置 図4
  • 特許-フィルタ膜の透水性評価方法および装置 図5
  • 特許-フィルタ膜の透水性評価方法および装置 図6
  • 特許-フィルタ膜の透水性評価方法および装置 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-08
(45)【発行日】2022-01-12
(54)【発明の名称】フィルタ膜の透水性評価方法および装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/02 20060101AFI20220104BHJP
   B01D 65/10 20060101ALI20220104BHJP
【FI】
G01N27/02 Z
B01D65/10
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019132349
(22)【出願日】2019-07-18
(65)【公開番号】P2021016811
(43)【公開日】2021-02-15
【審査請求日】2020-07-16
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度および令和元年度、国立研究開発法人科学技術振興機構 研究成果展開事業 センター・オブ・イノベーションプログラム「世界の豊かな生活環境と地球規模の持続可能性に貢献するアクア・イノベーション拠点」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100073184
【弁理士】
【氏名又は名称】柳田 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100123652
【弁理士】
【氏名又は名称】坂野 博行
(74)【代理人】
【識別番号】100175042
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 秀明
(72)【発明者】
【氏名】田中 厚志
(72)【発明者】
【氏名】木村 睦
【審査官】小澤 瞬
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-228509(JP,A)
【文献】特開平01-197644(JP,A)
【文献】特開平08-126882(JP,A)
【文献】特表2018-513383(JP,A)
【文献】特開2000-288530(JP,A)
【文献】国際公開第2012/091028(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0254323(US,A1)
【文献】欧州特許出願公開第00525566(EP,A1)
【文献】田中 厚志 他,KCl電解液を用いた誘電緩和現象測定による逆浸透膜中のイオン挙動解析,日本化学会第99春季年会予稿集DVD,2019年03月01日,1 PB-028
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/22
B01D 61/00 - B01D 71/82
C02F 1/44
G01N 27/00 - G01N 27/10
G01N 27/14 - G01N 27/24
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持層と分離機能層とを有するフィルタ膜について、その透水性を評価する方法であって、
前記フィルタ膜を電解液中に浸漬し、
前記フィルタ膜を間に置いて透水方向の一方側と他方側に各々配された電極を介して、前記電解液に一または複数の周波数の交流を印加し、
前記交流が印加されている状態下で前記フィルタ膜の一方側と他方側との間のインピーダンスを測定し、
前記フィルタ膜の一方側または他方側から電解液に圧力を付加させ、
前記一または複数の周波数に対応する前記インピーダンスの前記圧力に対する緩和特性に基づいて前記フィルタ膜の透水性を評価することを特徴とするフィルタ膜の透水性評価方法。
【請求項2】
記周波数が、200Hz以上2MHz以下の範囲内の周波数である請求項1記載のフィルタ膜の透水性評価方法。
【請求項3】
前記インピーダンスの前記圧力に対する緩和特性における緩和時間τおよび/または前記インピーダンスに対応するコンダクタンスの変化量ΔGに基づいて透水性を評価する請求項1または2に記載のフィルタ膜の透水性評価方法。
【請求項4】
前記周波数を第1の周波数から第2の周波数の間で掃引させ、
この周波数掃引を複数回繰り返し、
各周波数掃引時にそれぞれ測定されたインピーダンスに基づいて前記透水性を評価する請求項1から3いずれか1項に記載のフィルタ膜の透水性評価方法。
【請求項5】
前記インピーダンスの測定を、前記交流を印加する電極の間で行う請求項1から4いずれか1項に記載のフィルタ膜の透水性評価方法。
【請求項6】
前記フィルタ膜として逆浸透膜の透水性を評価する請求項1から5いずれか1項に記載のフィルタ膜の透水性評価方法。
【請求項7】
支持層と分離機能層とを有するフィルタ膜について、その透水性を評価する装置であって、
電解液を貯え、該電解液中に浸漬した状態にしてフィルタ膜を保持する容器と、
フィルタ膜を間に置いて透水方向の一方側または他方側から電解液に圧力を付加させる圧力付加手段と、
前記一方側と他方側に各々配された電極を介して、前記電解液に一または複数の周波数の交流を印加する交流印加手段と、
前記フィルタ膜の一方側と他方側との間のインピーダンスを測定するインピーダンス測定器と、
前記インピーダンス測定器が測定した一または複数の周波数に対応するインピーダンスの前記圧力に対する緩和特性に基づいて前記透水性を解析する手段と、
を有するフィルタ膜の透水性評価装置。
【請求項8】
前記フィルタ膜が逆浸透膜であり、
前記圧力付加手段が、前記一方側および他方側のうち逆浸透膜を行う際に圧力が付加される側と同じ側から電解液に圧力を付加させるものである、
請求項7に記載のフィルタ膜の透水性評価装置。
【請求項9】
前記圧力付加手段が、前記一方側および他方側のうち逆浸透膜を行う際に圧力が付加される側と反対側からも圧力を付加可能である請求項8に記載のフィルタ膜の透水性評価装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、逆浸透膜等からなる水処理用フィルタ膜の透水性を評価する方法および、その方法を実施するための装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば特許文献1や2に示されるように、被処理水に含まれる特定成分を除去する水処理装置の一つとして、逆浸透膜やナノろ過膜等のフィルタ膜(ろ過膜)を用いる膜ろ過装置が広く実用に供されている。逆浸透膜等のフィルタ膜は基本的に、支持層の一面側に分離機能層が形成されてなるものであり、被処理水としての電解液中の除去対象特定成分を分離機能層で透過を阻止して溶媒から分離させる機能を有する。
【0003】
この種のフィルタ膜に対しては、透水性、つまり溶媒の透過しやすさを把握しておく要望がある。すなわちこのフィルタ膜は、使用を続けるうちにファウリング(汚れ)によって目詰まりを起こすことが避けられないので、透水性を調べることにより目詰まりの程度を知って、フィルタ膜の交換や逆洗を行う目安とすることができる。また、この目詰まりに起因して変化する透水性の他に、フィルタ膜が本来有している透水性を把握する要望もある。すなわち、この種のフィルタ膜を作製する際に、ゴミなどに起因して膜にピンホールが生じることがあるが、膜材料が本来有する透水性を評価できれば、膜材料合成の最適化に有益であり、一方で、意図しないプロセス上でのピンホールの発生などによる特性劣化要因を区分することができる。これにより、膜の本質的な透水性向上と、プロセス上生じる膜欠陥とを区分し、製造プロセスの効率的な立ち上げが可能になる。
【0004】
なお、本明細書における「透水性」とは、電解液の溶媒が水(H2O)であることを限定するものではない。つまりこの「透水性」は、電解液の如何に拘わらず、電解液中の溶媒がフィルタ膜を透過する容易さを示すものである。
【0005】
従来、フィルタ膜の透水性を評価する方法の一つとして、フィルタ膜の透水方向に圧力を印加して透過する溶媒の量を直接測定する方法が知られている。また、フィルタ膜の透水性を評価する別の方法として、例えば特許文献2に示されているように、フィルタ膜が浸漬されている電解液に交流を印加し、その状態下でフィルタ膜の一方側と他方側(ろ過前側とろ過後側)との間のインピーダンスを測定し、この測定されたインピーダンスに基づいて透水性を評価する方法も知られている。この方法は、フィルタ膜を実使用しながら透水性を簡便に評価可能であり、主に、前述した目詰まりによって変化する透水性を評価する上で適用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平1-228509号公報
【文献】特表2018-513383号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の透過する溶媒の量を直接測定する方法は、前述したピンホールのない良品部分(膜本来の性能を出している部分)の透水性を、ピンホールの影響と切り分けて評価することが困難であった。そのためにこの方法では、ピンホールの影響で透水性が不正に、より詳しくは見かけ上良くなって評価されることがあった。また、上記のインピーダンスに基づいて透水性を評価する方法は、汚れ等に起因して形成される分離機能層表面の拡散分極層によるインピーダンスの変化を測定するものであって、膜が本来有している透水性を評価するものではなかった。
【0008】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、フィルタ膜が本来有している透水性を高い精度で評価できる方法を提供することを目的とする。また本発明は、そのようなフィルタ膜の透水性評価方法を実施できる装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によるフィルタ膜の透水性評価方法は、
支持層と分離機能層とを有する逆浸透膜等のフィルタ膜について、その透水性を評価する方法であって、
フィルタ膜を電解液中に浸漬し、
フィルタ膜を間に置いて透水方向の一方側と他方側に各々配された電極を介して、電解液に一または複数の周波数の交流を印加し、
交流が印加されている状態下でフィルタ膜の一方側と他方側との間のインピーダンスを測定し、
フィルタ膜の一方側または他方側から電解液に圧力を付加させ、
上記一または複数の周波数に対応するインピーダンスの上記圧力に対する緩和特性に基づいてフィルタ膜の透水性を評価することを特徴とするものである。
なお上記の交流印加、インピーダンス測定および圧力付加は、必ずしもこの記載順通りに行わなくてもよく、例えばインピーダンス測定の前に、交流印加と並行して圧力付加を行うようにしてもよい。
【0010】
ここで上記の周波数は、具体的には例えば200Hz以上2MHz以下の範囲内、さらに好ましくは2kHz以上200kHz以下の範囲内の周波数とされる。
【0011】
また本発明によるフィルタ膜の透水性評価方法において、より具体的には、インピーダンスの圧力に対する緩和特性における緩和時間τおよび/またはインピーダンスに対応するコンダクタンスの変化量ΔGに基づいて透水性が評価される。
【0012】
また本発明によるフィルタ膜の透水性評価方法においては、
交流の周波数を第1の周波数から第2の周波数の間で掃引させ、
この周波数掃引を複数回繰り返し、
各周波数掃引時にそれぞれ測定されたインピーダンスに基づいて透水性を評価することが望ましい。
【0013】
ただし、そのような周波数掃引は特に行わず、予め定められた一つの特定周波数に対応するインピーダンスを測定して、付加した圧力に対するその緩和特性に基づいて透水性を評価してもよい。
【0014】
また、インピーダンスの測定は、上記交流を印加する電極の間で行うのが望ましい。その場合に使用する電極は1対つまり2電極に限るものではない。この種のインピーダンスの測定においては、前述した特許文献2にも示されている通り、4電極配置を使用する4端子インピーダンス測定法を適用することも従来提案されており、この4端子インピーダンス測定法は本発明によるフィルタ膜の透水性評価方法においても適用可能である。
【0015】
他方、本発明によるフィルタ膜の透水性評価装置は、
支持層と分離機能層とを有する逆浸透膜等のフィルタ膜について、その透水性を評価す
る装置であって、
電解液を貯え、該電解液中に浸漬した状態にしてフィルタ膜を保持する容器と、
フィルタ膜を間に置いて透水方向の一方側または他方側から電解液に圧力を付加させる圧力付加手段と、
上記一方側と他方側に各々配された電極を介して、前記電解液に一または複数の周波数の交流を印加する交流印加手段と、
フィルタ膜の一方側と他方側との間のインピーダンスを測定するインピーダンス測定器と、
このインピーダンス測定器が測定した一または複数の周波数に対応するインピーダンスの上記圧力に対する緩和特性に基づいて透水性を解析する手段と、
を有することを特徴とするものである。
【0016】
なお、フィルタ膜が逆浸透膜である場合、
圧力付加手段は、上記一方側および他方側のうち逆浸透により脱塩を行う際に圧力が付加される側と同じ側から電解液に圧力を付加させるものであることが望ましく、さらには、逆浸透により脱塩を行う際に圧力が付加される側と反対側からも電解液に圧力を付加可能であることがより望ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によるフィルタ膜の透水性評価方法によれば、一または複数の周波数に対応するインピーダンスの圧力付加に対する緩和特性に基づいて透水性を評価するようにしたので、この周波数を適切に選択することにより、前述したピンホール等の不良が無い支持層部分(特に分離機能層近傍の支持層)に対応したインピーダンスの変化を測定可能となる。それにより、ピンホール等の不良が有る部分の影響を排して、フィルタ膜が本来備えている透水性を精度良く評価することができる。そこで、フィルタ膜の製造プロセスにおいて本方法を適用すれば、本来の膜の透水特性が得られているか、また、ピンホール等の不良が発生しているかを即時に把握して、製造プロセスに短時間内にフィードバックすることも可能となる。
【0018】
他方、本発明によるフィルタ膜の透水性評価装置は、前述した通りの容器と、圧力付加手段と、交流印加手段と、インピーダンス測定器と、透水性を解析する手段とを備えているので、上に説明した効果を奏するフィルタ膜の透水性評価方法を実施できるものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態によるフィルタ膜の透水性評価装置を示す概略構成図
図2図1の装置により得られた、インピーダンスに係るコンダクタンスと交流周波数との関係を示すグラフ(付加圧力:0.073MPa時)
図3図2に示すコンダクタンスが、経過時間に応じて変化する様子を交流周波数毎に示すグラフ(付加圧力:0.073MPa時)
図4図1の装置により得られた、インピーダンスに係るコンダクタンスと交流周波数との関係を示すグラフ(付加圧力:0.123MPa時)
図5図4に示すコンダクタンスが、経過時間に応じて変化する様子を交流周波数毎に示すグラフ(付加圧力:0.123MPa時)
図6】上記コンダクタンスの値、コンダクタンスの変化量および経過時間の関係を、3通りの交流周波数毎に示す表(付加圧力:0.073MPa時)
図7】上記コンダクタンスの値、コンダクタンスの変化量および経過時間の関係を、3通りの交流周波数毎に示す表(付加圧力:0.123MPa時)
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。図1は、本発明の一実施形態による、フィルタ膜の透水性評価装置の概略構成を示すものである。まず、この図1の装置について説明する。本装置は、フィルタ膜の透水性評価に利用する電解液を貯える、例えばコンクリートや鋼鈑製の圧力容器1を有する。この圧力容器1は、後述するフィルタ膜によって互いに仕切られることになる第1槽2と第2槽3とからなる。第1槽2と第2槽3にはそれぞれ、電解液4、電解液5が貯えられる。本実施形態では一例として、電解液4および5としてKCl(塩化カリウム)水溶液またはNaCl(塩化ナトリウム)水溶液が用いられる。
【0021】
なお圧力容器1は、フィルタ膜の透水性評価のために専用に形成されてもよいし、あるいは、実際に稼働している膜ろ過装置を構成する容器が用いられてもよい。圧力容器1において第1槽2と第2槽3との間には、透水性を評価する対象としてのフィルタ膜6が保持される。本例のフィルタ膜6は逆浸透膜(RO膜)である。そこで以下では、このフィルタ膜をRO膜6と称することとする。
【0022】
RO膜6は、図示外の不織布と支持層6bと分離機能層6aとからなる複合膜構造であって、支持層6bの一面側に分離機能層6aが形成されてなる(図1では、不織布の図示は省略している)。一例として、不織布はポリエステル、支持層6bはポリスルホン、分離機能層6aは架橋芳香族ポリアミドからなり、支持層6bの厚さは30μm程度、分離機能層6aの厚さは200nm程度である。上述のように保持されたRO膜6は、透水性の評価時には、電解液4および5の中に浸漬された状態となる。
【0023】
第1槽2および第2槽3の中には、保持されたRO膜6を間に置いて互いに向い合う状態にして、それぞれ第1電極7、第2電極8が配設されている。第1電極7および第2電極8の電気的接続については後に詳述する。
【0024】
第1槽2の中には、圧力を付加した状態で電解液4が貯留され得る。以下、そのための構成について説明する。例えば高圧の空気が充填されたガスボンベ11が、配管12を介して第1リザーバ(貯留容器)13に接続されている。ガスボンベ11および第1リザーバ13の各内部空間を連通する配管12には、バルブ14が介設されている。このバルブ14は、例えばガスボンベ11に備えられたレギュレータ(圧力調整弁)等であって、第1リザーバ13および第1槽2の各内部空間に付加する圧力を調整可能なものであることが望ましい。第1リザーバ13は電解液4を貯留し、その内部空間は配管15を介して第1槽2の内部空間と連通されている。
【0025】
以上説明したように第1槽2に対して設けられたものと同様の構成が、第2槽3に対しても設けられている。その構成については逐一説明せず、以下、相対応する要素同士を説明する。第2槽3に対して設けられたガスボンベ21、配管22、電解液5を貯留する第2リザーバ23、バルブ24および配管25は、第1槽2に対して設けられた上記ガスボンベ11、配管12、第1リザーバ13、バルブ14および配管15とそれぞれ対応している。
【0026】
図1に示した以上の構成は、RO膜6の透水性評価のために使用されるものであるが、その評価を行うに当たっては、実使用されている一般的な膜ろ過装置と同様に稼働される。その場合は、ガスボンベ11から配管12、バルブ14、第1リザーバ13および配管15を介して第1槽2の内部空間つまり電解液4に付加される圧力をP1、ガスボンベ21から配管22、バルブ24、第2リザーバ23および配管25を介して第2槽3の内部空間つまり電解液5に付加される圧力をP2、RO膜6における浸透圧を仮に0(ゼロ)として、
1 >P2
に設定すれば、第1槽2内の電解液4がRO膜6を透過して第2槽3側に透水する。
【0027】
その際、電解液4中のイオンや、その他の不純物等がRO膜6の分離機能層6aにより透過を阻止される。つまり、図1の装置を透水性評価装置として、あるいは膜ろ過装置として機能させる場合、透水方向は第1槽2から第2槽3に向かう方向となる。したがってこの場合、第1槽2内の電解液4はいわゆる濃縮液、第2槽3内の電解液5はいわゆる透過液となる。
【0028】
なお、図1の装置を一般的な膜ろ過装置として稼働させる場合、透過液側から濃縮液側に浸透圧Πが作用することもある。その場合は、上記付加される圧力P1 およびP2 を、
1 -P2 >Π
となるように設定して、逆浸透による膜ろ過がなされる。
【0029】
前述した第1槽2内の第1電極7、および第2槽3内の第2電極8は、それぞれ接続線31、32を介してインピーダンスメータ33に接続されている。後述するようにインピーダンスメータ33は、第1電極7および第2電極8を介して電解液4、5に交流を印加する交流印加手段を構成している。それと共にインピーダンスメータ33は、第1電極7と第2電極8との間、つまりRO膜6の透水方向の一方側と他方側との間のインピーダンスを測定する。そしてこのインピーダンスメータ33には例えばコンピュータシステム等からなる解析部34が接続され、また解析部34には例えば液晶表示装置等からなる表示部35が接続されている。
【0030】
次に、以上の装置を使用してなされる本実施形態の透水性評価方法について、一例を挙げて説明する。なお以下では、時間経過に伴って変化する測定インピーダンス等を時刻tの関数として表し、その時刻tは後述する基準時刻をt=0(ゼロ)として示す。そこで、この方法を実施するに当たってなされる各手順は、時刻t=0よりも前の時点でなされるもの、時刻t=0の時点でなされるもの、時刻t=0よりも後の時点でなされるもの、の3つが存在することになる。それらの3つの手順が各々実行される時間帯を、上記の記載順つまり時間の経過順にt<0のとき、t=0のとき、t>0のとき、と表すこととする。
【0031】
また図1の装置において、前述したように第1槽2の電解液4に付加される圧力をP1、第2槽3の電解液5に付加される圧力をP2とする。また、電解液4から電解液5側に浸透圧が作用するならばそれをΠ1、電解液5から電解液4側に浸透圧が作用するならばそれをΠとする。
【0032】
[手順1]t<0のとき
この場合は平衡状態、つまりRO膜6を透過して電解液5または電解液4の媒質が移動することが無い状態にある。この平衡状態となるのは最も単純には、Π1=ΠでかつP1=P2=0の場合である。なお、Π1>Πとなる条件下でΠ1-P1=Πとした場合も同様に平衡状態となるが、ここでは上記最も単純な場合を想定して説明を続ける。
【0033】
この平衡状態下で、インピーダンスメータ33から第1電極7および第2電極8を介して電解液4、5に交流が印加される。本例において交流は、周波数を200Hz以上2MHz以下の範囲内で掃引してなされる。この周波数掃引は、一例として40s(秒)の周期で、12回繰り返される。こうして交流印加がなされているとき、インピーダンスメータ33は第1電極7と第2電極8との間、つまりRO膜6の透水方向一方側と他方側との間のインピーダンスを測定する。このインピーダンス測定結果は解析部34に入力される。
【0034】
解析部34は、入力されたインピーダンス測定結果から複素インピーダンスZの周波数依存性を測定する。つまり解析部34は、依存性を測定する交流周波数をn通りのf1、f2、f3・・・fn とすると、Z(f1)、Z(f2)、Z(f3)・・・Z(fn)を求める。さらに解析部34は、複素インピーダンスZをG(コンダクタンス)成分と、C(キャパシタンス)成分とに分解して、
{G(f1),C(f1)}、{G(f2),C(f2)}、{G(f3),C(f3)}・・・
{G(fn),C(fn)}とする。解析部34は、こうして求めたG成分に係るデータを内蔵メモリに記憶する。
【0035】
[手順2]t=0のとき
この時点を基準時刻として、例えば図1に示したバルブ14が開かれる。それにより、Π1=Π、P1>0、P2=0となって、第1槽2の電解液4に圧力P1が付加される。この圧力付加により、第1槽2の電解液4の媒質が分離機能層6aから支持層6bの内部に流れRO膜6を透過して第2槽3に流れる透水が始まる。つまり上述した平衡状態は、この時刻t=0において非衡状態に変化する。そしてこの場合も、[手順1]の場合と同様の交流印加およびインピーダンス測定が圧力付加と並行してなされ、インピーダンスの測定結果が解析部34の内蔵メモリに記憶される。なお、上記の交流印加およびインピーダンス測定を、電解液4への圧力付加を開始する前から行ってもよい。
【0036】
[手順3]t>0のとき
上記バルブ14は開かれたままとされ、Π1=Π、P1>0、P2=0の状態が維持される。前述の周波数掃引された交流の印加およびインピーダンス測定は、前記[手順1]から継続してなされているが、この[手順3]においては解析部34が、印加される交流の周波数fおよび時刻t毎の複素インピーダンスZ(f,t)を測定する。またこのときも解析部34は、複素インピーダンスZをG(コンダクタンス)成分と、C(コンダクタンス)成分とに分解して求める。すなわち、より詳しくは、複素インピーダンスZの実部、虚部をそれぞれReZ、ImZとし、角周波数をωとして、
ReZ=1/G、ImZ=-(1/ωC)である。
【0037】
解析部34は、特にG成分を、周波数fおよび時刻tの関数G(f,t)として内蔵メモリに記憶して行く。つまり、周波数掃引の
1回目は、G(f1,t1)、G(f2,t2)・・・G(fn,tn
2回目は、G(f1,t1+T)、G(f2,t2+T)・・・G(fn,tn+T


m回目は、G(f1,t1+(m-1)T)、G(f2,t2+(m-1)T)・・・G(fn,tn+(m-1)T
が記録される。なお上記Tは周波数掃引の周期(秒)であり、本例では前述した通り40s(秒)である。以上でインピーダンス測定は終了し、次の測定に備えてP2=0に戻される。
【0038】
本例ではm=12、n=17である。つまり、インピーダンス測定は周波数掃引を12回繰り返して行われ、そして1回の周波数掃引時に相異なる17通りの周波数毎にインピーダンス測定がなされる。この測定で得られたコンダクタンスG(単位はS:シーメンス)と交流周波数fとの関係の一例を図2に示す。また図3には、上記コンダクタンスGが、経過時間に応じて変化する様子を交流周波数f毎に分けて示す。なお、これらの図2および図3に示す関係は、第1槽2の電解液4に付加する圧力P1を0.073MPaとした場合のものである。さらに、図2および図3に示す関係と同様の関係であって、上記付加圧力P1を0.123MPaに変えた場合の関係を、それぞれ図4および図5に示す。
【0039】
[手順4]
次に解析部34は、以上の通りにして求められたコンダクタンスGに基づいて、RO膜6に付加した圧力に対するその緩和特性からRO膜6の透水性に係る解析を行う。すなわち解析部34は、上記手順3で得たコンダクタンスGに係るデータ列、
G(f,t)、G(f,ti+T)、G(f,ti+2T)・・・
(i=1、2、3・・・)と、手順1で得たデータG(f,t<0)と、手順2で得たデータG(f,)とから、
G(f,t)=G0+ΔG(e-(t/τ)-1) (t≧0の場合)
G(f,t)=G0 (t<0の場合)
として、時間t=0から無限大になるまでのコンダクタンス変化量ΔG、および緩和時間τを求める。具体的には、得られたデータをコンピューターや表計算アプリケーション等を利用して最小二乗法によって上記の式にフィッティングさせ、G0、ΔG、τを求める。
【0040】
基本的には、上記緩和時間τが小さいほど、そしてコンダクタンス変化量ΔGが大きいほど、RO膜6の透水性は優れていると評価できる。そこで、解析部34が解析して求めたτおよびΔGの値を、例えば表示部35において表示させれば、評価者はその表示からRO膜6の透水性を把握することができる。あるいは、これらのτおよびΔGの値を、RO膜6の製造プロセスにフィードバックして、不良品の発生を最小に抑えるようにしてもよい。
【0041】
なお本実施形態でもそうであるが、印加する交流の周波数は200Hz以上2MHz以下の範囲内の値とすることが望ましい。この範囲の周波数を適用すれば、RO膜6の支持層6b内部における電解液中のKおよびCl等のイオン濃度の変化を捉えることができ、その結果、RO膜6の透水性を正確に評価可能となる。この周波数は、基本的にはより低周波数であるほど、支持層6bにおいて分離機能層6aに近い部分での透水の様子を観測可能である。ただし、200Hz近くの周波数とすると、分離機能層6aの影響を受けて観測している可能性がある。そこで、観測精度の観点から、この周波数は、2kHz以上200kHz以下の範囲の値とするのがより好ましいと言える。
【0042】
ここで図6および図7に、電解液がKCl(濃度:10mM)のときの本実施形態の方法において求めたG0、ΔGおよびτの値を、印加する交流の周波数が2kHz、20kHz、200kHzである場合について抽出して示す。図6は付加圧力P1が0.073MPaの場合、図7は付加圧力P1が0.123MPaの場合の値をそれぞれ示している。なおG0およびΔGの単位はμS(マイクロ・シーメンス)である。
【0043】
これらの図に対比して示されている通り、各周波数において、付加圧力P1がより大であるほど、緩和時間τは小さくコンダクタンス変化量ΔGは大きな値となる。付加圧力P1が大きいほどRO膜6を透過する水の量は多いので、この結果は、RO膜6の透水性が高いほどτは小さくΔGは大きくなることを示している。よって、一定の圧力を付加してτとΔGを測定することでRO膜6の透水性を評価することができると言える。そして、付加圧力P1を変えることによって変化するτの値の変化幅とΔGは、交流の周波数が最も低い2kHzの場合が最大となっている。したがって、τの値の変化とΔGをより高感度に検出するためには、交流の周波数をより低くすることが望ましい。
【0044】
以上説明した実施形態では、RO膜6に付加する圧力P1を、該RO膜6を用いて逆浸透によるろ過を行う場合と同様に、電解液4から電解液5側に向けて付加している。こうする場合は、RO膜6の分離機能層6a近傍のKおよびCl等のイオンが次第に濃縮される結果、RO膜6の透水性を評価可能となっている。しかしそれとは反対に、RO膜6に対して、電解液5から電解液4側に向かう方向の圧力P2を印加するようにしてもよい。そうする場合は、RO膜6の分離機能層6a近傍のKおよびCl等のイオンが次第に希釈されることになるが、そのようにしても同様に、RO膜6の透水性を評価可能である。
【符号の説明】
【0045】
1 圧力容器
2 圧力容器の第1槽
3 圧力容器の第2槽
4 電解液(濃縮液)
5 電解液(透過液)
6 RO膜
6a RO膜の分離機能層
6b RO膜の支持層
7 第1電極
8 第2電極
11、21 ガスボンベ
12、15、22、25 配管
13 第1リザーバ
14、24 バルブ
23 第2リザーバ
31、32 接続線
33 インピーダンスメータ
34 解析部
35 表示部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7