(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-08
(45)【発行日】2022-01-12
(54)【発明の名称】液体試料の元素組成を分析する装置およびその使用方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/67 20060101AFI20220104BHJP
H01J 49/10 20060101ALI20220104BHJP
H01J 49/26 20060101ALI20220104BHJP
G01N 21/73 20060101ALI20220104BHJP
G01N 27/62 20210101ALI20220104BHJP
G01N 27/68 20060101ALI20220104BHJP
【FI】
G01N21/67 A
H01J49/10
H01J49/26
G01N21/73
G01N21/67 C
G01N27/62 G
G01N27/68 Z
(21)【出願番号】P 2019513058
(86)(22)【出願日】2017-08-31
(86)【国際出願番号】 CA2017051032
(87)【国際公開番号】W WO2018045455
(87)【国際公開日】2018-03-15
【審査請求日】2020-06-03
(32)【優先日】2016-09-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】519075845
【氏名又は名称】オブチョースカ アグネス
【氏名又は名称原語表記】OBUCHOWSKA, Agnes
【住所又は居所原語表記】65 Bordeaux Drive, Woodbridge, Ontario, Canada
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】特許業務法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】オブチョースカ アグネス
【審査官】伊藤 裕美
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-225932(JP,A)
【文献】特開2013-064603(JP,A)
【文献】米国特許第05641686(US,A)
【文献】欧州特許第00569908(EP,B1)
【文献】Nahid Mashkouri Najafi et al.,Developing electrodeposition techniques for preconcentration of ultra-traces of Ni, Cr and Pb prior to arc-atomic emission spectrometry determination,Microchemical Journal ,2009年,Vol.93,159-163
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/62 - G01N 21/74
H01J 49/00 - H01J 49/48
G01N 27/60 - G01N 27/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体試料の元素組成を分析する装置であって、
それぞれの電気的活性端部を互いに向き合わせ、互いに離間して配置された、陽極電極および陰極電極
(115,116,310,311)と、
前記電極が液体に浸されることを可能にするよう、液体を前記装置に送り込む、および、前記液体を前記装置から排出することのできるポン
プと、
前記電極に電気的に接触し、一方または両方の前記電極の表面への被分析物の電着のために前記電極に直流電圧を提供するとともに、前記電極を洗浄する目的で逆極性の電圧を提供する、直流(DC)電源またはポテンショスタット/ガルバノスタットと、
前記電極に電気的に接触し、前記電極の間の放電を発生させることのできる高圧電源と、
電着、電極洗浄、および放電の発生のための電圧の順次印加を可能にする、スイッチ機構と、
前記陽極電極および前記陰極電極が中に配置される、透明または不透明な細管と、
前記放電の放出を記録することのできる光学分光計、または前記放電によって発生するイオンを試料採取することのできる質量分析計と、
を備えている、液体試料の元素組成を分析する装置。
【請求項2】
前記細管が、
吸入管および排出管に結合され、前記ポン
プによって
液体が
その中を
通って送られ
て、前記吸入管および前記排出管を通って吸
入および排出され
る、請求項1に記載の、液体試料の元素組成を分析する装置。
【請求項3】
前記電極が、直流電源、ポテンショスタット、またはガルバノスタットに電気的に接触する、請求項1または請求項2に記載の、液体試料の元素組成を分析する装置。
【請求項4】
前記被分析物を電着させるために前記電極の間に印加される直流電位が、分析される前記液体の前記組成に応じて調整され得る、請求項3に記載の、液体試料の元素組成を分析する装置。
【請求項5】
前記電極の間に印加される前記直流電位が、0.1Vと100Vの間であるように調整され得る、請求項4に記載の、液体試料の元素組成を分析する装置。
【請求項6】
前記電極が、アーク、火花、グロー放電、またはプラズマなどの放電を発生させることのできる高圧電源に電気的に接触する、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の、液体試料の元素組成を分析する装置。
【請求項7】
前記光学分光計の入射スリット、または前記光学分光計に結合されている光ファイバケーブルが、前記細管および前記放電の向かいに配置されている、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の、液体試料の元素組成を分析する装置。
【請求項8】
前記細管の背後に配置されてい
るまたは前記細管の一部の周囲を覆っており、前記光学分光計の入射スリットまたは前記光学分光計に結合されている
前記光ファイバケーブルの向かいに配置されている
鏡をさらに備えている
、請求項
7に記載の、液体試料の元素組成を分析する装置。
【請求項9】
前記陽極電極または前記陰極電極のいずれか、または両方の電極が、露出する前記電極の端部のみを残して、非導電性かつ不活性なコーティングによって覆われている、請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の、液体試料の元素組成を分析する装置。
【請求項10】
前記陽極または前記陰極として動作しモニターされる電極の電気的活性面が平坦である、請求項9に記載の、液体試料の元素組成を分析する装置。
【請求項11】
前記陽極または前記陰極として動作しモニターされる電極の電気的活性面が尖っている、請求項10に記載の、液体試料の元素組成を分析する装置。
【請求項12】
前記
陰極電極および/または前記
陽極電極が、
次の材料、すなわち、黒鉛、黒鉛複合材、カーボンナノチューブ、グラフェン、フラーレン、金、白金、イリジウム
、モリブデン、レニウム、ルテニウム
、またはこれらの酸化物もしくは複合材、
のいずれかまたは組み合わせから構成されている、請求項9から請求項11のいずれか1項に記載の、液体試料の元素組成を分析する装置。
【請求項13】
液体試料の元素組成を分析する方法であって、以下のステップ、すなわち、
請求項1から請求項12のいずれか1項に記載の装置を用意するステップと、
前記被分析物を含む溶液を、所定の流量で、所定の時間長にわたり前記細管に送り込むステップと、
前記溶液が前記細管に送り込まれている間、所定の時間長にわたり前記電極に直流電位を印加するステップであって、結果として被分析物が電着する、ステップと、
前記装置への前記溶液の前記送り込みを終了した後、前記細管から前記溶液すべてを排出するステップと、
前記溶液が前記細管から排出される前、または前記溶液が前記細管から排出された後のいずれかに、前記電極への電着直流電位の印加を終了するステップと、
前記電極に交流(AC)高電圧または一定もしくはパルス直流高電圧を印加するステップであって、結果として前記電極の間の放電が発生する、ステップと、
前記結果としての放電の光学発光スペクトルまたは質量スペクトルを記録するステップと、
前のステップにおいて使用された溶液と同じ溶液、または新しい溶液のいずれかを、所定の流量で、所定の時間長にわたり前記細管に送り込むステップと、
前記溶液が前記細管に送り込まれている間、前記被分析物を電着するために使用された直流電位とは逆極性の直流電位を印加するステップであって、結果として電着物質が除去されて前記電極の表面が洗浄される、ステップと、
前記細管から前記溶液を排出するステップと、
を含む、液体試料の元素組成を分析する方法。
【請求項14】
試料の分析のみならず、データの取得、処理、および分析が、設定された間隔において自律的に行われる、請求項13に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、液体試料の元素組成を分析する装置に関し、詳細には、電極の表面における被分析物の電気化学的な予備濃縮と、高エネルギー放電または高エネルギープラズマによる、析出した被分析物の気化および励起と、被分析物の特徴的な原子発光信号または質量分析信号に基づく被分析物の分光化学的検出と、を利用する装置、に関する。
【背景技術】
【0002】
試料の元素分析は、多くの化学分野において重要であり、環境モニタリング、飲料水のモニタリング、および食品分析において日常的に行われている。元素分析は、光学的な原子分光分析技術(原子吸光(AA)、誘導結合プラズマ原子発光分光分析(ICP-OES)、原子蛍光分光分析(AFS)など)によって、または誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)によって、しばしば実行される。これらの方法は極めて良好な検出限界を提供することができるが、大型で高価な機器を必要とするのみならず、ICP-OESおよびICP-MSの場合にはアルゴンなどの大量の気体を使用する必要がある。
【0003】
以前にWebbら(特許文献1)によって、大気圧陰極グロー放電(atmospheric pressure cathodic glow discharge)および原子発光信号の検出に基づく携帯型の方法が説明された。この方法では、陽極と、陰極として作用する酸性化された被分析物溶液との間にグロー放電を発生させる。この方法は、必要な電力が小さく、気体も必要としないが、被分析物溶液をpH1まで酸性化する必要がある。この方法は、強酸を使用する必要があり、大量の酸性廃棄物が発生するため、現場に適用するには実用的ではない。
【0004】
金属イオンの陽極電着またはカチオン電着に基づく電気化学的方法は、電極表面における金属イオンの予備濃縮の結果として、極めて低い検出限界(1ppb以下)を提供するが、このような方法は干渉を受けやすい。これらの干渉を回避するため、多元素検出では、いくつかの異なる電極材料を使用する必要がある(Marchら)。
【0005】
電気化学的な予備濃縮の後、析出したイオンの分光化学的検出を組み合わせることが文献に報告されている。Badieiらは、携帯型の電気化学的装置を使用して、携帯型のReフィラメント上に海水からCr(III)、Cr(III)+Cr(VI)、およびPbを予備濃縮させた後、ICP-OESを使用して検出した。得られた検出限界は、2~3分の電着の後に2~20pg/mLであり、水道の硬水中のPbの検出が実証された。Mashkouri Najafiらは、電気化学セルにおいて黒鉛電極上にNi、Cr、およびPbを予備濃縮させた後、黒鉛電極をアーク原子発光分光計(ED-AAES)(arc atomic emission spectrometer)に移して分析した。得られた検出限界は、30分の予備濃縮の後に3ppb以下であった。Komarekらは、黒鉛プローブ上に電気化学的に予備濃縮させた後、電熱原子吸光分析によって、微量のCu、Cd、Pb、Ni、およびCrを検出した。BatleyおよびMatousekは、フロースルーセルにおいて、黒鉛で被覆した管状炉を使用し、水銀との同時析出によって重金属を予備濃縮させた。次に、炉を原子吸光分析装置に移して分析した。この方法では、CoおよびNiをそれぞれ15分および10分予備濃縮させた後、0.02ppbのCoおよびNiを検出することができた。この方法では、原子吸光(AA)においてNaイオンからの干渉を排除するため、原子吸光分析の前に電極を注意深く洗浄する必要があった。
【0006】
例えば水道水の浄水場において金属イオンをオンラインで分析する能力は極めて有用であり、なぜなら水試料を試験施設に送る必要なしに水質をリアルタイムで常時モニタリングできるためである。電気化学的検出に基づくオンラインの金属イオンモニタリングシステムは、市販されており、低いppb検出限界を提供する。しかしながら機器が大型で高価であり、また多元素モニタリングには、2種類以上の電極材料とさまざまな緩衝液を使用する必要があり、これによりシステムが著しく複雑なものとなる。これに加えて、使用される試薬および緩衝液が汚染されやすい。
【0007】
したがって、試薬を使用せず現場に配置可能であり、高感度の多元素検出を提供する簡単な方法であって、元素の干渉およびマトリックス効果が最小限であり、金属イオンのオンライン分析も可能にする方法、の大きなニーズが存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【非特許文献】
【0009】
【文献】Modified Electrodes Used for Electrochemical Detection of Metal Ions in Environmental Analysis; G. March, T. Dung Nguyen, B. Piro; Biosensors, 5, pp. 241-275 (2015).
【文献】Bringing part of the lab to the field: On-site chromium speciation in seawater by electrodeposition of Cr(III)/Cr(VI) on portable coiled-filament assemblies and measurement in the lab by electrothermal, near-torch vaporization sample introduction and inductively coupled plasma-atomic emission spectrometry; H. Badiei, J. McEnaney, V. Karanassios; Spectrochimica Acta Part B, 78, pp. 42-49 (2012)
【文献】Taking part of the lab to the sample: On-site electrodeposition of Pb followed by measurement in a lab using electrothermal, near-torch vaporization sample introduction and inductively coupled plasma-atomic emission spectrometry; H. Badiei, C. Liu, V. Karanassios; Microchemical Journal, 108, pp. 131-136 (2013)
【文献】Developing electrodeposition techniques for preconcentration of ultra traces of Ni, Cr and Pb prior to arc atomic emission spectrometry determination; N. Mashkouri Najafi, M. Eidizadeh, S. Seidi, E. Ghasemi, R. Alizadeh; Microchemical Journal, 93, pp. 159-163 (2009)
【文献】Determination of heavy metals by electrothermal atomic absorption spectrometry after electrodeposition on a graphite probe; J. Komarek, J. Holy; Spectrochimica Acta Part B, 54, pp. 733-738 (1999)
【文献】Determination of Heavy Metals in Seawater by Atomic Absorption Spectrometry after Electrodeposition on Pyrolytic Graphite-Coated Tubes; G.E. Batley and J.P. Matousek; Analytical Chemistry, 49, pp. 2031-2035 (1977)
【文献】United States Environmental Protection Agency, Lead and Copper Rule (LCR), and National Primary Drinking Water Regulations for Lead and Copper 40 CFR Parts 9, 141 and 142, January 12 2000
【文献】In: Guidelines for drinking-water quality [electronic resource] incorporating first addendum, 3rd ed., Recommendations, vol. 1, World health Organization, 2006.
【文献】Guidelines for Canadian Drinking Water Quality, Health Canada, Dec. 2010.
【発明の概要】
【0010】
一態様によれば、液体試料の元素組成を分析する装置であって、吸入管と、液体を装置に送り込む、および装置から排出するポンプシステムと、吸入管および排出管に結合されている細管と、直流電源/ポテンショスタット/ガルバノスタット、または、一定もしくはパルス高圧直流電源あるいは高圧交流電源、のいずれかに接続される、細管の内側の2つの電極と、2つの電極の間の高圧放電からの発光スペクトルを記録することのできる光学分光計または質量分析計と、細管の背後に配置されている、または細管の一部を覆っており、光学分光計の入射スリットまたは光学分光計に結合されている光ファイバケーブルの向かいに位置している鏡面と、を備えている、液体試料の元素組成を分析する装置、を提供する。
【0011】
別の態様によれば、液体試料の元素組成を分析する方法であって、以下のステップ、すなわち、上述した装置を用意するステップと、装置に被分析物溶液を設定流量で送り込むステップであって、この時間の間、被分析物の電着に十分な電位が2つの電極の間に印加される、ステップと、液体を細管から排出し、溶液が細管から排出される前または排出された後のいずれかに直流電位の印加を停止するステップと、次に、電極の間に高電圧を印加するステップであって、結果として、アーク、火花、グロー放電、またはプラズマなどの放電が発生する、ステップと、高圧放電中に生成される、結果としての発光スペクトルまたは質量スペクトルを記録するステップと、残留電着物質を除去し、したがって電極の表面を洗浄するために、電着ステップ時に使用した溶液と同じ溶液、または新しい溶液を細管に送り込み、電着時に使用した直流電位とは逆極性の直流電位を印加するステップと、装置から溶液を排出するステップと、を含む、液体試料の元素組成を分析する方法、を提供する。
【0012】
さらに別の態様によれば、液体試料の元素組成を分析する装置であって、カップまたは容器の底面を通って突き出している吸入管と、カップまたは容器の底面の内側に配置されている排出管と、液体を装置に送り込む、および装置から排出するポンプシステムと、吸入管の直上に配置されている2つの電極と、直流電源もしくはポテンショスタット/ガルバノスタットなどの電源と、直流高圧電源もしくは交流高圧電源と、2つの電極の間の高圧放電からの発光スペクトルまたは質量スペクトルを記録することのできる光学分光計または質量分析計と、2つの電極の背後に配置されており、光学分光計の入射スリットまたは光学分光計に結合されている光ファイバケーブルの向かいに位置している鏡面と、を備えている、液体試料の元素組成を分析する装置、を提供する。
【0013】
本装置のさらに別の態様によれば、液体試料の元素組成を分析する方法であって、上述した装置を用意するステップと、カップまたは容器に溶液を送り込むステップであって、この時間の間、2つの電極が、流動溶液の流れの内側に浸される、ステップと、2つの電極の間に電位を印加するステップであって、結果として、電極の表面に被分析物が電着する、ステップと、その後に送り込みを停止するステップであって、結果として電極が、流動液体の流れにもはや浸されず空気にさらされる、ステップと、2つの電極の間に高電圧を印加するステップであって、結果として、アーク、火花、グロー放電、またはプラズマなどの放電が発生する、ステップと、高圧放電中に生成される、結果としての発光スペクトルまたは質量スペクトルを記録するステップと、残留電着物質を除去し、したがって電極の表面を洗浄するために、電着ステップ時に使用した溶液と同じ溶液、または新しい溶液を装置に送り込み、電着時に使用した直流電位とは逆極性の直流電位を印加するステップと、装置から溶液を排出するステップと、を含む、液体試料の元素組成を分析する方法、を提供する。
【0014】
以下では、実施形態について、添付の図面を参照しながら単なる一例として説明する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1a】透明な細管および光学的検出を利用する装置の側面図である。
【
図1b】透明な細管および光学的検出を利用する装置の正面図である。
【
図1c】透明な細管および光学的検出を利用する装置の上面図である。
【
図1d】透明な細管、光学的検出、およびポンプを利用する装置の略図であり、吸入管および/または排出管が浸される容器に液体を送り込む、および/または、容器から液体を排出するために使用される、弁および/または別のポンプシステムも描いてある。この装置のポンプシステムは、細管の吸入管に結合されている。
【
図1e】透明な細管、光学的検出、およびポンプを利用する装置の略図であり、吸入管および/または排出管が浸される容器に液体を送り込む、および/または、容器から液体を排出するために使用される、弁および/または別のポンプシステムも描いてある。この装置のポンプシステムは、細管の排出管に結合されている。
【
図1f】透明な細管および光学的検出を利用する装置の略図であり、細管の入口に結合されているリバーシブルポンプシステムも描いてある。吸入管のみが液体に浸されており、排出管は液体の表面の上方に位置している。
【
図1g】透明な細管および光学的検出を利用する装置の略図であり、細管の出口に結合されているリバーシブルポンプシステムも描いてある。吸入管のみが液体に浸されており、排出管は液体の表面の上方に位置している。
【
図1h】分光計の光ファイバケーブルまたは入射スリットと、鏡とが、作用電極のみの前に配置されている、透明な細管の側面図である。
【
図1i】分光計の光ファイバケーブルまたは入射スリットと、鏡とが、作用電極および対向電極の両方の前に配置されている、透明な細管の側面図である。
【
図2】電極を囲む非導電性かつ不活性なコーティングの層を有する、平坦な端部を有する作用電極の側面図と、尖った端部を有する対向電極の側面図である。
【
図3】細管および質量分析検出を利用する装置の上面図である。
【
図4a】カップ/容器を利用する装置の正面図であり、流れがオフにされており液体が装置を流れていない状態を示してある。
【
図4b】カップ/容器を利用する装置の正面図であり、溶液が装置を流れている状態を示している。
【
図4c】カップ/容器を利用する装置の上面図である。
【
図5a】装置100を使用して、放電の印加中に得られた2つの連続するスペクトルである(10ppbのCd、Hg、Pb、およびCrが添加された130ppm(総硬度)の水道水の試料、12Vで10分の電着)(示したスペクトル領域:204nm~500nm)。
【
図5b】装置100を使用して、放電の印加中に得られた2つの連続するスペクトルである(10ppbのCd、Hg、Pb、およびCrが添加された130ppm(総硬度)の水道水の試料、12Vで10分の電着)(示したスペクトル領域:204nm~265nm)。
【
図5c】装置100を使用して、放電の印加中に得られた2つの連続するスペクトルである(10ppbのCd、Hg、Pb、およびCrが添加された130ppm(総硬度)の水道水の試料、12Vで10分の電着)(示したスペクトル領域:275nm~343nm)。
【
図5d】装置100を使用して、放電の印加中に得られた2つの連続するスペクトルである(10ppbのCd、Hg、Pb、およびCrが添加された130ppm(総硬度)の水道水の試料、12Vで10分の電着)(示したスペクトル領域:360nm~433nm)。
【発明を実施するための形態】
【0016】
液体試料中のさまざまな金属イオン、半金属イオン、および非金属イオンの検出のために、携帯型の装置を使用することができる。低濃度の被分析物の検出は、電着後の電気化学的検出(ただしこれに限定されない)を含むさまざまな方法を通じて促進することができる。しかしながら、電気化学的検出は、例えば金属イオン錯体の形成による干渉、または別の物質による干渉、さらには陽極/陰極ストリッピングボルタンメトリー(anodic/cathodic stripping voltammetry)における広いピークが重なることからの干渉を受けやすい。これに加えて、電気化学的検出は、溶液の特性(溶液のpHなど)に左右される。したがって、被分析物を予備濃縮するための電着技術と、十分な解像度の分光法検出とを組み合わせて、検出方法をさまざまな対象の被分析物に特化させることが望ましいことがある。さらに、検出方法は、自律的かつ現場に配置可能であるのみならず、液体試料中の金属イオンの濃度レベルに関するオンライン分析およびオペレータ不要の連続的なデータを提供できることも望ましい。
【0017】
便宜上、説明の中の類似する数字は、図面内の類似する構造を指す。
図1a~
図1jを参照すると、液体試料の元素組成を分析する装置(全体が参照文字100によって識別されている)の実施形態を示してある。装置100は、放電の発光スペクトルを記録することのできる分光計108(
図1c、
図1h、
図1i)と、ガラスまたは石英(ただしこれらに限定されない)を含む透明材料からなる細管109と、一方の端部においてポンプ111に結合することができ(
図1dおよび
図1f)、かつ他方の端部においてコネクタ112を通じて透明な細管109に結合することのできる吸入管110と、コネクタ114を通じて細管109に結合することができ、かつポンプ111に結合することができる(
図1eおよび
図1g)排出管113と、2つの電極(作用電極115および対向電極116)と、細管109が取り付けられている支持部117と、前方を横切って細管109が配置されている、支持部117における孔118と、支持部117の反対側において孔118の内側に配置されている分光計の光ファイバケーブル、または孔118の前に配置されている分光計108の入射スリットと、細管の背後に配置されている、または細管の一部を覆っており、分光計108の入射スリットまたは分光計108に結合されている光ファイバケーブルの向かいに位置している鏡面121(
図1c、
図1h、
図1i)と、電気コネクタ124,125を通じて電極115,116に接続されている電気ケーブル122,123と、電気ケーブル122,123を直流電源/ポテンショスタット/ガルバノスタット、または、交流高圧電源もしくは一定あるいはパルス直流高圧電源などの高圧電源、のいずれかに接続する三路トグルスイッチ126,127と、内側に支持部117が配置されている基部128と、を備えている。
【0018】
陽極電極または陰極電極の表面に十分な量の被分析物が析出するのに必要な時間にわたり、装置100に溶液が送り込まれる。陰極析出の場合、陰極電極の表面に被分析物のイオンが析出する。陽極析出も可能である。電着の持続時間は、印加される電圧、溶液の流量、方法の感度、さらには溶液中の被分析物の濃度によって決まる。溶液の流量が大きいほど、電着電位が高いほど、および溶液中の被分析物濃度が高いほど、必要な電着時間が短い。この時間の間は、ポテンショスタット/ガルバノスタットまたは直流電源を通じて定電圧または定電流が電極に供給される。この時間の間、高圧電源は切断されている。
【0019】
電着ステップが完了した後、細管109から溶液が排出される。この排出は、吸入管110および/または排出管113がもはや液体に浸らないようにリザーバ129から液体を排出することによって、達成することができる(
図1dおよび
図1e)。この結果として、装置のポンプシステム111が、液体の代わりに空気を細管に送り込む。液体の排水は、
図1dおよび
図1eに示したように、弁130を開くことによって、または別のポンプ130を作動させることによって、または他の手段によって、達成することができる。これに代えて、細管109からすべての溶液を排出するのに十分な時間にわたり、ポンプの流れ方向を逆にすることによって、細管から溶液を排出することができる。
図1fおよび
図1gに示したように、リバーシブルポンプ111を使用することができる。この構成では、リバーシブルポンプ111の流れ方向が逆にされているときに細管109から排水する目的で、分析される液体中に吸入管110を位置させることができ、一方で排出管113を液体の表面131の上方に位置させることができる。リバーシブルポンプは、細管の入口または出口のいずれかに結合することができる。細管から溶液が排出された後、三路トグルスイッチ126,127(
図1a)によって、回路が、交流高圧電源、または一定もしくはパルス直流高圧電源に切り替えられる。高圧電源は、電極115と電極116の間に高電圧を印加し、アーク、火花、グロー放電、またはプラズマなどの放電を発生させる。2つの電極115,116の間にパルス直流放電を印加する場合、電極を周期的に冷やすことができることにより電極の過熱を低減することができ、したがって電極の腐食が減少する。また、パルス直流放電の印加は、信号対雑音比を改善するために、トリガーされるデータ取得を通じて対象の信号を変調する目的にも使用することができる。
【0020】
電極の表面115および/または116に析出した被分析物が、放電によって気化、原子化、および励起され、結果としての原子発光スペクトルが分光計によって記録される。光学分光計の入射スリットは、透明な細管が前方に取り付けられている、支持部117における孔118の真後ろに配置することができる。これに代えて、光学分光計に結合されている光ファイバケーブルを、孔118の内側に配置することができ、放電の間に放出される光を集めるために使用することができる。細管110の一部分の周囲を覆う平面鏡、凹面鏡、または鏡面121(
図1c)を、孔118の向かいに配置することができ、放電から放出された光を光ファイバケーブル内に反射する、または分光計109の入射スリット内に直接反射するために使用することができ、したがって分光計内への光の量が改善され、したがって装置の感度が向上する。
図1hに示したように、光ファイバケーブルまたは分光計の入射スリット109は、モニターされる電極(作用電極)115の電気的活性端部の真正面に配置し、モニターされない電極(対向電極)116の前には配置しないことができる。さらに、鏡121の縁部は、モニターされる電極(作用電極)115の面のすぐ下まで延びていることができ(延びていなくてもよい)、モニターされない電極(対向電極)116の面の上方に位置していることができる。これに代えて、
図1iに示したように、光ファイバケーブルまたは分光計の入射スリット109と、鏡121を、両方の電極の電気的活性端部の前に配置することができ、なぜなら陽極析出および陰極析出の両方を同時にモニターするときに必要であるためである。
図1hに示したように、モニターされる電極115(作用電極)の電気的活性面は、光ファイバケーブルまたは分光計の入射スリットにおける光の収集の効率を高める目的で、平坦とすることができる。これに加えて、対向電極の電気的活性面は、放電を作用電極の電気的活性面全体に導く目的で、尖っていることができる。
【0021】
吸入管110、排出管113、およびコネクタ112,114は、検出される金属イオンまたはそれ以外のイオンを浸出させない材料から作製されるべきである。
【0022】
作用電極115および対向電極116は、(以下に限定されないが)黒鉛、黒鉛複合材、カーボンナノチューブ、グラフェン、フラーレン、タングステン、モリブデン、白金、イリジウム、金、アルミニウム、レニウム、ルテニウム、チタン、タンタル、またはこれらの酸化物を含むさまざまな材料から構成することができ、さらには、複合電極、または、固体電極の表面に堆積した膜からなる電極、から構成することができる。溶液に接触する対向電極116または作用電極115の部分は、露出する電極の電気的活性端部のみを残して、テフロンコーティングまたはその誘導体を含む(ただしこれらに限定されない)非導電性かつ不活性のコーティングによって覆うことができる(覆わなくてもよい)。コーティングの目的は、電極の端部以外の電極表面への電着を排除することである。
図2は、露出する電極の端部のみを残して不活性コーティング202によって覆われている電極201を描いている。端部が平坦な電極の場合には、その平坦面のみが露出したまま残され、尖った電極の場合には、尖った先端部をコーティングによって覆わずに残すことができる。
【0023】
データ取得ステップが完了した後、残留電着物質を除去し、したがって電極の表面を洗浄するため、新しい溶液、または電着ステップ時に使用した溶液と同じ溶液が細管に送り込まれ、2つの電極の間に逆の極性の電圧が印加される。
図1fおよび
図1gに示したように、電着ステップ時に行われた方法と同じ方法で細管に液体を送り込むことによって、同じ溶液を使用することができる。これに代えて、
図1jに示したように、第2のリザーバ133およびリバーシブルポンプシステム134を利用して、第1のリザーバ129から第2のリザーバ133に、およびこの逆方向に液体を送ることによって、このステップを行うことができる。したがって、放電ステップおよび信号取得ステップの前に、第1のリザーバ129から第2のリザーバ133に液体が送られる。データ取得ステップが完了した後、溶液が第2のリザーバ133から第1のリザーバ129に戻され、洗浄ステップ時に細管109に送り込まれる。これに代えて、
図1dおよび
図1eに示した装置構成において新鮮な溶液を細管109に送り込むことによって、洗浄ステップ時に新しい溶液を使用することができる。洗浄ステップが完了した後、
図1d~
図1gおよび
図1jにおける弁を開く、またはポンプシステム130もしくは135を始動させることによって、(1つまたは複数の)リザーバから溶液が排出され、次の分析サイクルのための準備が行われる。
図1d~
図1gにおいて、リザーバ129に液体を送り込む、およびリザーバ129から液体を排出するために1つの弁またはポンプシステムを使用することができ、これに代えて、リザーバ129に液体を送り込む、およびリザーバ129から液体を排出するために個別の弁またはポンプシステムを使用することができる。
【0024】
溶液または放電成分(discharge components)によって電極が腐食する、または細管の表面が汚れた場合、取り付けられた細管109、電極115,116、コネクタ112,114、さらには吸入管110および排出管113を、垂直支持部117とともに定期的に交換することができる。したがって支持部117への組立部品は消耗品と考えることができる。
【0025】
実施形態100の上の説明は、光学分光計による検出について言及しているが、質量分析(MS)検出も可能であることが、当業者には理解されるであろう。
図3は、装置100に似ているが、質量分析(MS)検出を利用する装置(参照文字300によって識別される)の実施形態を示している。装置100と同様に、細管312の中に2つの電極310,311が配置されている。この装置では、T形状の細管312、または細管に沿ったいずれかの位置に配置されたT型コネクタ312が、質量分析計の入口316に結合されている。弁317は、T形状の細管またはT型コネクタ312と質量分析計316との間に配置されており、閉位置では、被分析物溶液が排出管315から流れ出ることを可能にし、開位置では、質量分析(MS)のために放電中に発生したイオンの試料採取を可能にする。この実施形態では質量分析検出が使用されるため、細管またはT型コネクタ312は、透明な材料から構成されている必要はない。
【0026】
次に
図4を参照し、
図4は、液体試料の元素組成を分析する装置(全体が参照文字400によって識別される)の代替実施形態を示している。装置400は、前に説明した装置100に似ている。しかしながらこの実施形態では、陽極電極410および陰極電極411が、中を溶液が送られる吸入管412の上に、かつ吸入管412に垂直に、配置されている。吸入管412および排出管413は、カップまたは容器414の内側に配置されている。
図1に示した構造に対するこの構造の利点は、主として、細管109が汚れることがないことである。
【0027】
図4aおよび
図4bに示したように、陽極410および陰極411は、吸入管412の上に、かつ吸入管412に垂直に、配置されている。吸入管は、ガラス、石英、プラスチック、セラミック、または、金属イオンもしくはそれ以外のイオンを浸出させない任意の非導電性材料、から作製することができる。
図4bに示したように、液体が吸入管の中を流れるとき、あふれる液体中に電極410,411が浸される。この時間の間、陰極電着の場合には陰極411の先端部表面に、陽極電着の場合には陽極410の先端部に、被分析物が電着する。さらに、カップ/容器414から溶液が排出管413を通じて排出される。電極表面に適切な量の被分析物が電着するのに十分な時間の後、液体の流れを止める。これは、ポンプを停止させ、液体が重力によってカップから流れ出るようにすることによって、または、
図1dに記載したポンプシステムに類似するポンプシステムにおけるリバーシブルポンプの流れを逆にすることによって、達成することができる。これに代えて、弁を開くことによって、または別のポンプを作動させることによって、吸入管が浸されている液体を除去することにより、達成することができる。これにより電極410,411は、もはや液体に浸されない。次に、三路トグルスイッチ415,416によって、回路が、直流電源またはポテンショスタット/ガルバノスタットから、高圧交流電源または一定もしくはパルス高圧直流電源に切り替えられる。放電から放出される光学発光信号が光学分光計によって検出される、または、放電成分の質量スペクトルが質量分析計によって検出される。光ファイバケーブル、光学分光計の入射スリット、または質量分析計の試料採取孔もしくは吸込み管417は、放電からの発光信号を記録する、または放電によって発生するイオンを試料採取するのに十分な、放電からの距離に位置している。装置100と同様に、装置に液体を送り込み、電着ステップ時に印加した電位とは逆極性の電位を印加することによって、電極から残留電着物質を除去することができる。オンライン検出用途においては、電着の後に放電、そして分光検出、次に洗浄ステップというサイクルを、所望の頻度において自律的に繰り返すことができる。
【0028】
電極410,411は、
図4a~
図4cに示したように、直流電源/ポテンショスタット/ガルバノスタット、または、直流高圧電源もしくは交流高圧電源、のいずれかに、電気コネクタ418,419および電気ケーブル420,421を通じて接続される。
【0029】
図4cに示したように、放電の正面に、かつ光ファイバケーブル417または光学分光計の入射スリット417の向かいに、平面鏡または凹面鏡422を配置することができる。装置100と同様に、鏡は、光学分光計の中に光を反射するために使用され、したがって分光計内への光の量が改善され、したがって装置の感度が向上する。
【0030】
装置100と同様に、陰極電極410および陽極電極411は、(以下に限定されないが)黒鉛、黒鉛複合材、カーボンナノチューブ、グラフェン、フラーレン、タングステン、モリブデン、白金、イリジウム、金、アルミニウム、レニウム、ルテニウム、チタン、タンタル、またはこれらの酸化物を含むさまざまな材料から構成することができ、さらには、複合電極、または、固体電極の表面に堆積した膜からなる電極、から構成することができる。陰極電極410および陽極電極411は、
図2に示したように、露出する電極の端部のみを残して、テフロンコーティングまたはその誘導体を含む(ただしこれらに限定されない)非導電性かつ不活性のコーティングによって覆うことができる(覆わなくてもよい)。
【0031】
図5a~
図5dは、
図1に示した装置を使用し、10ppbのCd、Hg、Pb、およびCrを添加した4Lの水道水試料を用いて10分の電着の後、高圧放電の印加中に得られた2つの連続するスペクトルを示している。カドミウム、水銀、鉛、およびクロムは、世界保健機関の、人の健康に最も関係する有毒化学物質リストに掲載されている。水試料は、地元の住宅の蛇口(カナダ、オンタリオ州、ウッドブリッジ)から採取し、総硬度は130ppmであった。120ppmを超える合計CaCO
3換算量を含む水は、硬いとみなされる。
図5a~
図5cにおけるスペクトルを得るために使用された電着電位は12Vであった。より硬い(より高濃度の合計CaCO
3換算量を含む)水試料は、より高い導電性を有し、したがって必要な電着電位がより低く、一方で、より柔らかい水試料は、より高い電着電位を必要とする。
図5a~
図5dにおけるスペクトルから得られる推定検出限界(3σ)は、Cd、Hg、Pb、Crにおいて、それぞれ0.03ppb、0.2ppb、0.3ppb、0.2ppbであった。飲料水中のCd、Hg、Pb、Crの、米国環境保護庁(US EPA)の最大許容濃度は、それぞれ5ppb、2ppb、15ppb、100ppbである。飲料水について世界保健機関によって設定されている指針は、Cd、Hg、Pb、Crに対して、それぞれ3ppb、1ppb、10ppb、50ppbである。カナダ保健省の飲料水の指針では、Cdの5ppb、Pbの10ppb、Hgの1ppb、Crの50ppbの最大濃度が許容される。なお、得られる検出限界は、電着時間および試料体積に依存し、したがって、電着時間を延ばす、および/または、試料体積を増やす、ことによって改善できることに留意されたい。したがって、
図1における装置によって得られる検出限界は、飲料水におけるこれらの重金属の濃度を同時にモニタリングするのに十分である。なお、電極表面への電着によって予備濃縮させることのできる他の金属も、本方法によって分析できることに留意されたい。
【0032】
図1~
図5において説明した装置は、従来技術の装置よりも有利であり、なぜならICP-OES、ICP-MS、またはWebbら(特許文献1)によって説明されている大気圧グロー放電法で必要な、強酸および濃酸などの化学修飾剤を使用することなく、試料をそのまま分析できるためである。これにより、コストの問題、廃棄物処理問題が軽減するのみならず、試料に汚染物質が混入する可能性が減少する。これに加えて、分光化学的検出ステップによって、電気化学的検出法の場合に直面する干渉の問題が回避される。電気化学的検出法は、分光化学的検出法よりも干渉を受けやすく、なぜなら陽極/陰極ストリッピングボルタンメトリーにおけるピークが、分光法のピークより広く、したがって重なりやすいためである。さらに、電気化学的検出法において得られるピーク電位は、溶液のpHなど試料の組成に左右される。これに加えて、装置100,300,400において使用される電気化学的な予備濃縮ステップによって、ICP-MSおよびICP-OESにおいて直面するマトリックス効果の問題が最小になり、この問題は、カルシウムおよびマグネシウムなど、豊富に存在しかつイオン化しやすい元素によって、被分析物のイオン化が抑制されることに起因する。本装置は簡単かつ安価であり、自動化することができ、現場に配置可能であり、オペレータなしでの水質のオンラインモニタリングに使用することができる。試料およびデータの分析に関与するすべてのステップを自動化することができ、マイクロコントローラおよび/またはコンピュータの制御下に置くことができる。試料の分析中に得られたデータは、データロギングのために1台または複数台のコンピュータ、またはクラウドネットワークに転送することができ、モニターされている1種類または複数種類の被分析物の濃度が、設定された限界を超えている場合に、警報を出すことができる。
【0033】
実施形態について説明してきたが、当業者には理解されるように、添付の請求項によって定義される範囲から逸脱することなく変形および修正を行うことができ、請求項の範囲は、全体として説明に矛盾しない最も広い解釈によって与えられるべきである。
【0034】
例えば、装置100,300,400の上の説明は、電着ステップと放電ステップ用に個別の電圧源/電流源を含むが、電着ステップと放電ステップが、同じ直流高圧電源から高電圧を印加することによって実行される、本装置の変形形態も可能である。