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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-08
(45)【発行日】2022-01-12
(54)【発明の名称】X線源
(51)【国際特許分類】
   H05G 1/00 20060101AFI20220104BHJP
   H05G 1/52 20060101ALI20220104BHJP
   A61B 6/00 20060101ALI20220104BHJP
   H05G 1/56 20060101ALI20220104BHJP
【FI】
H05G1/00 D
H05G1/52 D
A61B6/00 300B
A61B6/00 300J
H05G1/56 K
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2019517925
(86)(22)【出願日】2016-10-19
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-12-19
(86)【国際出願番号】 GB2016053259
(87)【国際公開番号】W WO2018073554
(87)【国際公開日】2018-04-26
【審査請求日】2019-09-06
(73)【特許権者】
【識別番号】517112007
【氏名又は名称】アダプティックス リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100091683
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼川 俊雄
(74)【代理人】
【識別番号】100179316
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 寛奈
(72)【発明者】
【氏名】トラヴィシュ,ギル
(72)【発明者】
【氏名】ベタリッジ,ポール
(72)【発明者】
【氏名】エバンス,マーク
(72)【発明者】
【氏名】ホールデン,マーティン
(72)【発明者】
【氏名】ムガール,アブダル サミー
(72)【発明者】
【氏名】シュミーデバウセン,クリステン
【審査官】伊藤 昭治
(56)【参考文献】
【文献】特表2007-522894(JP,A)
【文献】特開2013-154254(JP,A)
【文献】特表2014-508619(JP,A)
【文献】特開2014-184346(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05G 1/00 - 1/70
A61B 6/00 - 6/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分散X線発生器のアレイと;
高電圧を発生させる手段であって、前記高電圧は前記分散X線発生器のアレイに電力供給可能である、手段と;
前記分散X線発生器のアレイから放射されたX線を、前記分散X線発生器のアレイと、撮像される対象物または人との間の所与の距離でエリア内において平行にする手段と
を備え、
前記分散X線発生器のアレイは、
複数の電子電界エミッタと;
複数のターゲットであって、高エネルギーの制動放射において効果的な材料から構成された前記ターゲットのエリアに電子が入射するときに、各ターゲットがX線光子を放射でき、各ターゲットが電子電界エミッタと整合される、複数のターゲットと;
前記電子電界エミッタ前記ターゲットから絶縁する手段と;
前記電子電界エミッタを前記ターゲットから離す手段と;
前記分散X線発生器のアレイからのX線の放射を選択的に制御する手段と;
放射された電子が、高エネルギーの制動放射において効果的な材料から構成された、整合される前記ターゲットの前記エリアに衝突するように、複数の前記電子電界エミッタのいずれか1つによって放射された電子を偏向及び誘導し、前記ターゲットからのX線光子の生成をもたらすため、及び、放射された電子が、他の整合された前記ターゲットの前記エリアに衝突しないように、複数の前記電子電界エミッタのうちの他の前記電子電界エミッタによって放射された電子を偏向及び誘導し、X線光子の生成を防止するために使用される、複数の放射制御器と;
複数の前記電子電界エミッタおよび複数の前記ターゲットが真空内に維持される、エンクロージャと;
低エネルギーのX線光子をフィルタリングする手段と
を備える、可搬型X線源。
【請求項2】
前記分散X線発生器のアレイは複数のゲートをさらに備え、各々のゲートが、関連する電子電界エミッタの放射電界を制御可能である、請求項1に記載の可搬型X線源。
【請求項3】
前記分散X線発生器のアレイは、
前記ゲートを前記電子電界エミッタから離す手段と;
前記ゲートに電力供給する手段と;
前記ゲートを前記ターゲットから離す手段と
を備える、請求項2に記載の可搬型X線源。
【請求項4】
前記分散X線発生器のアレイは、複数のコリメータから構成されたコリメータアレイをさらに備え、各々のコリメータが、関連するターゲットによって放射されたX線の角度を狭くすることが可能な、請求項1~3のうちいずれか一項に記載の可搬型X線源。
【請求項5】
前記分散X線発生器のアレイは、固定されたアレイをさらに備える、請求項1~4のうちいずれか一項に記載の可搬型X線源。
【請求項6】
前記分散X線発生器のアレイは、平面アレイをさらに備える、請求項1~5のうちいずれか一項に記載の可搬型X線源。
【請求項7】
前記複数の放射制御器が、複数の電磁コイルまたは複数の平行プレートデフレクタのうちの一方を備える、請求項1~6のうちいずれか一項に記載の可搬型X線源。
【請求項8】
ハウジングをさらに備え;前記ハウジングは、前記可搬型X線源の高電圧構成要素を絶縁する内部エンクロージャ、および前記可搬型X線源の他の構成要素を含包する外部エンクロージャを含む、請求項1~7のうちいずれか一項に記載の可搬型X線源。
【請求項9】
1つまたは複数のセンサをさらに備え、前記1つまたは複数のセンサは、前記分散X線発生器のアレイとX線探知器との間の接触を必要とせず、前記分散X線発生器のアレイを前記X線探知器と整合可能にする、請求項1~8のうちいずれか一項に記載の可搬型X線源。
【請求項10】
前記高電圧を発生させる手段は、外部電力に頼ることなく、前記分散X線発生器のアレイに電力供給するために、バッテリ電圧を前記高電圧に変換可能である、請求項1~9のうちいずれか一項に記載の可搬型X線源。
【請求項11】
前記高電圧を発生させる手段は、前記分散X線発生器のアレイに電力供給するために、線間電圧を前記高電圧に変換可能である、請求項1~10のうちいずれか一項に記載の可搬型X線源。
【請求項12】
前記高電圧を発生させる手段は、
-30kV~-80kVの範囲の電圧を発生させることが可能である、または、
実質的に1つの定電圧で動作可能である、請求項1~11のうちいずれか一項に記載の可搬型X線源。
【請求項13】
前記分散X線発生器のアレイからのX線の放射を選択的に制御する手段は、デジタルアドレス指定回路およびタイミング回路を備える、請求項1~12のうちいずれか一項に記載の可搬型X線源。
【請求項14】
前記分散X線発生器のアレイは、ミリメートル~センチメートルの範囲で適度なピッチ間隔を有する、請求項1~13のうちいずれか一項に記載の可搬型X線源。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全体的にX線撮像源に関し、より詳細には、移動させる必要がないトモシンセシス撮像が可能で、歯科用および小さい体の部位/小さいエリアの撮像に好適である、可搬型X線撮像源に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のX線撮像は、一般に平面放射線撮像に基づいている。このアプローチは、広範囲のエネルギーおよび電流にわたる、X線の単一コーンまたはファンビームを生成することができる真空管のセットによって構成された、単一で高電力の点状X線源を使用する。
【0003】
通常このようなシステムは、X線源が撮像される人から大きく距離を置いて位置付けられ、X線が確実に十分なエリアを網羅し、かつ、皮膚の特定の入口点において、過剰なX線量を避けるために必要な最小距離である「皮膚に安全な距離」を維持することを必要とする。この大きい離隔距離、すなわち線源と対象物との間の距離によって、多量の電力が必要となる。このパワーを提供するために、従来のX線システムは、大きく、高価で、重い(数十キログラム)電源を使用する。このような電源は冷却が必要となることが多く、それがシステムの容量、重量、および費用にさらに追加される。最終的にこのような従来のシステムは、通常固定され(可搬型ではない)、または大きい空間を占有して、病院、プライマリケア施設、スクリーニングクリニック、および歯科医院などのエンドユーザに、高い資本費用を課す。
【0004】
さらに、このような従来の(ガントリ、または線源を移動させる他の手段をもたない)単一線源システムは、一般的に二次元(2D)画像しか生成することができない。従来の二次元(または平面)撮像は、臨床検出および診断に必須である特徴(またはバイオマーカ)の識別には、不十分であることが多い。これは、歯科用、またはマンモグラフィなど小さい体の部位/小さいエリアの撮像において、特に当てはまる。
【0005】
歯科診断において、口腔内の(口の内側で撮る)X線または放射線撮像は、歯の問題を診断するために使われる、最も一般的な画像である。しかし、口腔内放射線撮像は二次元であるため、広範な歯の問題を識別するためには不十分であることを示すことが多い。広範な歯の問題として、垂直歯根の骨折、骨の欠損、インプラントの不安定な状態、および齲蝕(虫歯)、を含み、そのうち虫歯は、大部分は防げるにもかかわらず、児童および成人の両方にとって最も一般的な慢性病である。歯科医にとって特に困難なことは、臼歯を抜歯する前に、歯根に対する神経根管の位置を確認することである。現在、このような手順のための最良なデバイスは、コーンビーム断層撮影法(CBCT)システムである。しかし、一般的に平面歯科撮像の放射線露出の30~150倍という、CBCTに特有の高い放射線露出のため、CBCTの使用は一般に避けられる。特に、条件によって危険が発生する場合は、このような露出に十分なメリットはない。さらに、CBCT装備の費用のため、多くの歯科医はこのようなシステムを利用しない。したがって歯科医は、二次元の平面X線画像からの限定された情報を指標として、「リスクを負って」治療を進めることが必要となることが多い。
【0006】
同様の問題が、他の小さいエリアの撮像用途に発生する。例えばマンモグラフィは、乳房の内側を見るためにX線を使用する特殊用途の医療撮像技術であり、乳房疾患の早期発見に必須の医療診断ツールである。しかし二次元マンモグラフィは、デジタル乳房トモシンセシスまたは三次元(3D)マンモグラフィよりも、一般的に有効性が劣る。デジタル乳房トモシンセシスにおける、乳房の異なる角度の複数画像は、三次元画像のセットで捕捉および再現、または「合成」される。現在、乳房トモシンセシスは、X線源を円弧状に移動させ、複数のポイントで制止させることが必要なので、費用および合計撮像時間が増加し、撮像時間の間に乳房は圧縮クランプに保持され、患者に不快をもたらす。
【0007】
集団研究は、乳房トモシンセシスを伴うスクリーニングが、二次元撮像で発見することが困難となり得る小さい癌を含む乳癌の、改善された早期発見をもたらすことを示す。乳房トモシンセシスは、より少ない「コールバック」すなわち追加のスクリーニングと、より正確な異常箇所のサイズ、形状、および箇所の特定と、より少ない生体組織検査と、より大きい多発性腫瘍の発見の可能性と、より鮮明な異常個所の画像とをもたらす。
【0008】
放射線量の減少も、三次元X線撮像において非常に重要な課題である。この課題は、おそらく利用可能な最も開発された三次元撮像技術であるコンピュータトモグラフィ(CT)の場合、特に強いられる。CTは、非常に多くの投影像を(患者の全角度を効果的に走査して)収集するために、線源を対象物の周りで移動させ、次にデータを使用可能な三次元画像セットに構築することを含む。この360°の走査は、従来の平面放射線撮像よりも著しく高いX線量に、患者をさらすことになる(低線量CT(LDCT)では約1.5mSv、および通常線量CTでは8.0mSvまで)。
【0009】
2007年の推定では、その年だけで、米国内において29,000件の将来的な癌が、実施されたCT走査に関連され得ると概算している。この高い癌発生率は、おそらくCTに起因する高いX線照射から生じる。実際、英国では2008年に、CT走査は全てのX線手順の10%未満を構成するのにもかかわらず、患者に対するX線量の68%を構成すると概算された。したがって、特に小児がかかわる場合、複数のスクリーニングまたは追加の検査、および患者が慢性疾患を患う場合、人口全体にわたるCT研究の回数を減少させる必要がある。
【0010】
デジタルトモシンセシス(DT)は、CTに代わる実用的な低線量を提供する。デジタルトモシンセシスは、(360°走査とは対照的に)患者の一部の角度(または限定された動き)の走査のみを伴うので、現在のデジタルトモシンセシスのシステムは、従来の2つの視野の胸部放射線撮像(平面:0.1mSv、DT:0.13mSv)と比較して30%の線量増加のみで、低線量胸部CT走査の1/10未満の有効放射線量を発生させ得る。
【0011】
それにもかかわらず、従来の単一線源を基にしたシステムを使用するデジタルトモシンセシスは、このようなシステムの費用および複雑さによって限定される。トモシンセシスへの従来のアプローチは、一般に様々な方向から静止した対象物または人の複数の画像を(一般に患者の対象エリアにおける部分的角度において)撮ることと、次にこれら複数の二次元画像を使用して三次元画像のセットを再現することと、を含む。一般に、機械式ガントリが、単一のX線源(真空管)を一連の位置に沿って移動させるために必要とされ、それがX線システムのサイズおよび出費に加算される。さらに、画像が連続して撮られるので、この設定は、望ましいものよりも長い画像捕捉の合計時間を必要とする。その費用および複雑さのため、一般的にデジタルトモシンセシスは、歯科適用、またはマンモグラフィおよび胸部撮像以外の小さいエリア/小さい体の部位への適用には使用されない。
【0012】
したがって、従来の二次元(平面)撮像は、歯科および小さい四肢/小さいエリアへの適用において、様々な臨床的な関連マーカを識別するためには不十分である一方で、CTは、潜在的に高線量放射線にさらされる可能性のために、歯科および小さい四肢/小さいエリアへの適用は避けられることが多い。そのため、胸部およびマンモグラフィにおいてDTによって例証された、線量情報の改善を、従来のDTシステムに特有の費用および複雑さを伴わずに、実現する必要がある。
【0013】
したがって当技術分野には、より安全(例えばより低い線量)で、より正確な(三次元)一次診断撮像を提供できる、より広く利用可能(例えば可搬型で、高価ではなく、かつより小さい設置面積)なX線源が必要とされる。現在までのところ市場には、可搬型で移動させる必要がないトモシンセシスX線システムは存在しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】国際特許出願US2016/014782号
【文献】国際特許出願US2010/044762号明細書
【文献】国際特許出願2015/050639号明細書
【文献】PCT英国特許出願公開第2015/050637号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本開示の実施形態の目的は、移動させる必要がない線源からトモシンセシスを作動させる、可搬型X線源(少なくとも従来のシステムよりも規模が小さい)を提供することである。本開示の実施形態の別の目的は、従来の二次元X線撮像と比較して、放射線量の増加を最小にした、高解像度の三次元X線撮像を可能にすることである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
限定ではないが例として、本開示の実施形態は、複数のX線発生器で構成された可搬型X線源を含み得る。複数のX線発生器を、分散アレイで配置してよく、各X線発生器は個々でアドレス指定可能(または制御可能)であり得る。このように、可搬型X線源は、(トモシンセシスで必要な)対象領域の部分的角度の走査を実施することができ、一方でより短い離隔距離、したがってより小さい電力しか必要としない。
【0017】
さらに、X線源は、X線発生器に電力供給可能な高電圧の電源も含み得る。1つの態様において、高電圧電源は、バッテリ電圧を高電圧に変換することができ、それによって可搬的な適用が可能になる。可搬型X線源は、放射されたX線を、発生器と撮像される対象物または人との間の所与の距離における限定されたエリア内で平行にすることができる、グロスコリメータなどの機構をさらに含み得る。より小さい離隔距離を伴うグロスコリメータの使用により、患者および線源オペレータに対する有害な放射線露出の可能性を軽減させる。
【0018】
分散X線発生器のアレイは、エミッタアレイに配置された複数の電子電界エミッタを含み得る。さらに、分散X線発生器のアレイは、高エネルギーの制動放射において効果的な材料で作られる複数のターゲットか、またはそのような材料で作られたエリアを有する複数のターゲットを含み得る。これらのターゲットは、電子エミッタから放射された電子が、制動放射ターゲットに衝突し、それによってX線を発生させることができるよう、エミッタアレイと類似の構成を有するアレイに配置されるか、または対で配置され得る。複数の電子エミッタおよびターゲットは、とりわけエミッタおよびターゲットを真空チャンバに収容することによって、真空内に維持され得る。
【0019】
分散X線発生器のアレイは、スペーサも含み得る。このスペーサは、ターゲットからのエミッタの好適な離隔、およびターゲットからのエミッタの好適な絶縁を維持し得る。さらに、分散X線発生器のアレイは、限定ではないが、各ターゲットからのX線の放射を制御可能な、選択的に電力供給されたソレノイドコイルなどの、複数の放射制御器を含み得る。分散X線発生器のアレイは、X線撮像に寄与しない低エネルギーのX線を遮断または取り除くのに役立ち得るフィルタ、および線源から放射されたX線の角度を狭くするのに役立ち得るコリメータのアレイも、含み得る。
【0020】
本発明の実施形態における、上記および他の特性、特徴、および利点は、例として本発明の原理を例示する添付の図面と共に、以下の詳細な説明によって明白となろう。説明は例としてのみ与えられ、本発明の範囲を限定するものではない。以下で示す参照図は、添付の図を指す。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、本開示の態様によるX線源の例を示す図である。
図2図2は、従来の単一線源の管を基にしたX線源と、本開示の態様によるX線源の例とを、横に並べて比較した図である。
図3図3は、本開示の態様による複数の放射制御器の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明を、特定の図に対して説明するが、本発明はそれらには限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。示した図は単なる概略であり、かつ非限定である。各図は、本発明の全ての特徴を含むのではなく、したがって本発明の実施形態であると考慮する必要は必ずしもない。図では、いくつかの要素のサイズは、例示目的のために誇張されており、縮尺に則って表わされていない。寸法および相対寸法は、本発明を実行するための実際の縮図に対応していない。
【0023】
さらに、明細書および特許請求の範囲における、第1、第2、第3などの用語は、類似の要素間を区別するために使用され、時間的、空間的、ランキング、または任意の他の方法のいずれかにおける順序を、必ずしも表わすためのものではない。使用される用語は、適切な状況下で交換可能であり、動作は、本明細書で説明または例示したもの以外の順序でも可能であることを、理解されたい。
【0024】
さらに、明細書および特許請求の範囲における、頂部、底部、上方、下方などの用語は、説明を目的として使用され、相対的位置を必ずしも表わさない。使用される用語は、適切な状況下で交換可能であり、動作は、本明細書で説明または例示したもの以外の方向が可能であることを、理解されたい。
【0025】
特許請求の範囲で使用される用語「備えている(comprising)」は、その後に列挙される手段に限定されるべきではなく、他の要素またはステップを除外しないことに留意されたい。したがって、記述した特徴、整数、ステップ、または構成要素の存在を言及したように特定するものと解釈するべきであるが、1つまたは複数の他の特徴、整数、ステップ、もしくは構成要素、もしくはそれらのグループの存在、または追加を排除しない。したがって、「手段AおよびBを備えるデバイス」という表現の範囲は、構成要素AおよびBのみから構成されるデバイスに限定するべきではない。これは本発明に関して、デバイスの関係する構成要素がAおよびBであることのみを意味する。
【0026】
同様に、説明で使用される用語「接続された(connected)」は、直接の接続のみに限定されるものと解釈するべきではないことに留意されたい。したがって、「デバイスBに接続されたデバイスA」という表現の範囲は、デバイスAの出口がデバイスBの入口に直接接続されるデバイスまたはシステムに、限定するべきではない。他のデバイスまたは手段を含む通路であり得る、Aの出口とBの入口との間の通路が存在することを意味する。「接続された」は、2つ以上の要素が、物理的もしくは電気的に直接接触しているか、または2つ以上の要素が、互いに直接接触していないが互いに協働もしくは相互作用していることを、意味し得る。例えば、ワイヤレスの接続性が企図される。
【0027】
本明細書を通して「一実施形態(an embodiment)」または「一態様(an aspect)」の言及は、実施形態もしくは態様と共に説明する特定の特徴、構造、もしくは特性が、本発明の少なくとも1つの実施形態もしくは態様に含まれることを意味する。したがって、本明細書を通して様々な箇所における、「1つの実施形態において(in one embodiment)」、「一実施形態において(in an embodiment)」、または「一態様において(in an aspect)」という句の発現は、必ずしも同じ実施形態または態様の全てに言及しないが、異なる実施形態または態様に言及し得る。さらに、本発明の任意の実施形態または態様の特定の特徴、構造、または特性は、当業者には本開示から明らかなように、1つまたは複数の実施形態または態様において、任意の好適な方法で組み合わされ得る。
【0028】
同様に、説明の中で本発明の様々な特徴が、単一の実施形態、図またはその説明の中で、本開示を合理的にする目的、および様々な発明の態様のうちの1つまたは複数の理解を助ける目的で、共にグループ分けされることがあることを理解すべきである。しかし開示のこの方法は、請求する発明が、各請求項で明示的に列挙される以上の特徴を要求するという意図を反映するとは、解釈するべきではない。さらに、任意の個々の図または態様の説明は、必ずしも本発明の一実施形態であると考慮する必要はない。むしろ、以下の特許請求の範囲が反映するように、発明の態様は、単一の前述の開示した実施形態の全ての特徴よりも少ない。したがって、詳細な説明に続く特許請求の範囲は、この詳細な説明に明示的に組み込まれ、各請求項は、本発明の別個の実施形態としてそれ自体で独立している。
【0029】
さらに、本明細書で説明されるいくつかの実施形態は、当業者には理解されるように、他の実施形態に含まれたいくつかの特徴を含み、異なる実施形態の特徴の組み合わせは、本発明の範囲内にあることを意味し、さらに別の実施形態を形成する。例えば、以下の特許請求の範囲において、任意の請求される実施形態が任意の組み合わせで使用することができる。
【0030】
本明細書で提供される説明において、多くの具体的な詳細が記載される。しかし、本発明の実施形態は、これらの具体的な詳細なしで実施され得ることが理解される。他の例において、この説明の理解を曖昧にしないため、公知の方法、構造、および技術は詳細を示さない。
【0031】
本発明の説明において、別途記載しない限り、パラメータの許容範囲の上限または下限の代替値の開示は、これらの値のうちの1つが他よりも好ましい表示と共に、より好ましい値と代替の好ましくない値との間の、このパラメータの各中間値が、好ましくない値、および好ましくない値とこの中間値との間の各値に対しても、それ自体が好ましい、という暗示された記述として解釈するべきである。
【0032】
用語「少なくとも1つ(at least one)」は、特定の状況におけるただ1つを意味し得る。
【0033】
次に本発明の原理を、本発明の例示的特徴に関する少なくとも1つの図の詳細な説明によって、説明する。他の配置が、本発明の基本的概念または技術的教示から逸脱することなく、当業者の知識に従って構成することができることが明白であり、本発明は添付の特許請求の範囲の条件によってのみ限定される。
【0034】
本開示の実施形態を、特定の図に対して説明するが、本発明はそれらには限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。示した図は単なる概略であり、かつ非限定である。各図は、本発明の全ての特徴を含まず、したがって必ずしも本発明の実施形態であると考慮する必要はない。図では、いくつかの要素のサイズは、例示目的のために誇張されており、縮尺に則って表わされていない。寸法および相対寸法は、本発明を実行するための実際の縮図に対応していない。
【0035】
図1は、本開示の態様に従った可搬型X線源100の例を示す図である。可搬型X線源100は、複数のX線発生器102を備えてよく、各X線発生器102は、X線放射の小さいコーン(または「コーンレット」)の発生を可能にし得る。複数のX線発生器102は、分散X線発生器のアレイ103として配置してもよく、本開示の1つの好ましい態様において、Travishらによる特許文献1に記載されている、フラットパネルのX線源(FPS)を備え得る。
【0036】
分散X線発生器のアレイ103の使用は、現在のシステムに対していくつかの改善を提供し、従来のX線撮像へのアプローチから離れる。従来のアプローチは一般に、単一の管(真空管)を基にした線源に焦点を当て、分散線源を利用するシステムから離れて教示している。
【0037】
図2は、従来の単一線源の管を基にしたX線源200(通常は歯の撮像に使用される)と、本開示の態様に従った可搬型X線源100とを、横に並べて比較した図である。管を基にしたX線源200は、X線コーン201を生成することができる。X線コーン201は対象物203(例えば患者の口)に作用し、探知器202が明暗(したがって対象物203によって生じるX線コーン201の減衰)を計測して、二次元の放射線撮像(または影写真)を形成し得る。標準的な口腔内X線走査源200は、一般に対象物203から少なくとも20cm離して位置付けなければならない。
【0038】
反対に、可搬型X線源100は、適度なピッチ間隔(例えばmm~cmの範囲)を備える分散X線発生器のアレイ103(例えば固定された二次元のアレイ)を含み得る。各発生器102は、分散X線発生器のアレイ103が複数の様々な角度のコーンレット(例えばコーンレット204aおよびコーンレット204b)を発生できるよう、個々にアドレス指定されてよく、それによって可搬型X線源100が十分な角度から対象物203(または、より具体的には対象物の領域)を撮像し、線源を移動させる必要なく、換言すると移動させる必要がないトモシンセシスによって、三次元再生物を生成することができる。可搬型X線源100が、CBCTなどの従来のトモグラフィシステムとは異なり、高価で正確なコンピュータ制御の発動機を必要としないため、可搬型X線源100の費用および複雑性は、従来のシステムと比較して著しく軽減される。
【0039】
分散X線発生器のアレイ103の設計は、可搬型X線源100を探知器202に近付け、対象物203から概ね12cm離して位置付けることも可能であり、標準的な口腔内放射線撮像では20cmであることとは対照的である。この離隔距離(線源から対象物の距離)の減少は、管を基にしたX線源200などの従来の線源と比較して、可搬型X線源100の重量および電力要件を大きく軽減可能にする。その結果として、費用のかかる電源の必要性をなくし、それによって、可搬型X線源100の費用を、従来のシステムと比較して著しく減少させる。
【0040】
重量および入力電力の減少は、放射が距離の二乗で減少するという事実に部分的に起因するので、本開示のこのような実施形態は、従来のシステムの概ね1/4のX線の明暗(したがって1/4の入力電力)のみを必要とし得る。分散X線発生器のアレイ103の設計(例えばアドレス指定能力および適度なピッチ間隔)は、従来のトモグラフィシステムと比較して、より速い取得スピードも可能にする。なぜなら、十分な走査角度を実現するために機械的移動を一般的に必要とする従来のシステムと異なり、本開示の実施形態は移動させる必要がないトモシンセシスが可能であるためである。ガントリの必要性を排除することによって、従来のシステムと比較して、可搬型X線源100のサイズ、重量、複雑性、および費用を低減させる。さらに、より速い取得スピードにより、患者が静止する必要がある時間を低減させ、したがって患者の快適性を促進させ得る。
【0041】
本開示の1つの態様において、可搬型X線源100は概ね4kgの重量であり、標準的なカメラバッグの中に適合する。反対に、標準的な壁取り付け式の歯科X線装置は40kg近くの重量であることがあり、一方で二次元可搬型システムは、通常約6kgの重量である。
【0042】
可搬型X線源100の費用も、真空管を排除することによって軽減される。真空管は壊れやすい傾向があり、耐用寿命が短く、かつ病院の設定外では限定された使用のみとなる。際立って対照的に、分散X線発生器のアレイ103は半導体製造所で作られてよく、それによって可搬型X線源100の製造、配備、および維持のための費用が軽減されることになる。
【0043】
本開示の実施形態の費用節減、薄型、および可搬性は、撮像システムに大きい資本投資を要求されることが多い病院、プライマリケア施設、および歯科医院などのエンドユーザの負担を軽減し、それが三次元X線撮像の有用性を増大させ得る。例えば、可搬型三次元X線撮像源を複数の歯科医の実地の中に配備することは、装備費用のために多くの歯科医がCBCTまたは他の三次元撮像システムに手が届かず、そのために限定された二次元平面X線撮像に頼らざるを得ないことが多いという実情を、変化させ得る。
【0044】
本開示の実施形態によって実現可能である、より短い離隔距離は、放射線の散乱(横散乱および後散乱)の軽減も可能にし、それは、X線オペレータおよび医院の作業者のX線露出の危険を軽減する。散乱した放射線は、グロスコリメータ115の使用によってさらに軽減され得る。グロスコリメータ115は、対象物の対象領域(ROI)203の外側のX線など、撮像目的に有用ではないX線を吸収し、その一方で撮像に有用なX線をROIに衝突させる。
【0045】
グロスコリメータ115は、X線減衰材料(例えばX線を高吸収する高密度材料)で作られた構造を備え得る。1つの態様において、グロスコリメータ115は、可搬型X線源100によってROIに照射されるエリアを限定する、高い面(または壁)を備え得る。このように、グロスコリメータ115は、X線の後散乱および横散乱を、除去できなくとも軽減させることによって、撮像に使用されないX線光子の線量を低減させ得る。したがって、グロスコリメータ115は、X線画像の品質に影響を与えずに、不要で危険な可能性のある放射線照射を最小限に抑えるのに役立ち得る。
【0046】
このようなグロスコリメータ115の使用は、探知器の作動エリアが小さい場合、および影響されやすい器官が撮像されるエリアに隣接する場合の撮像に、特に有用である。このような使用ケースの例は、歯科用撮像である。口腔内の探知器は、2cm×4cm以下であることが多く、かつ対象の歯および顎は脳に隣接している。
【0047】
図1に戻ると、分散X線発生器のアレイ103は、複数のターゲット106と整合した、または対になった、複数の電子電界エミッタ104を備え得る。このように、各発生器102は、ターゲット106と対になった電子電界エミッタ104から構成され得る。各電子電界エミッタ104は、高エネルギー制動放射において効果的な材料などのターゲット106に導かれ得る電子ビームを生成して、X線を発生させ得る。
【0048】
複数の電子電界エミッタ104(したがって複数のターゲット106)は、エミッタアレイ105として配置され得る。エミッタアレイ105は、方形格子を形成する二次元アレイ、「六角形パック」としても知られている三角格子を含む任意のいくつかの構成を含み得る。または、電子電界エミッタ104はランダムに間隔を空けられ得る。エミッタアレイ104の間隔およびパターンは、とりわけ最終用途、撮像適用外形、もしくは所望の画像解像度を含む、いくつかの要因に基づき、またはいくつかの要因に判定されて、変化し得る。
【0049】
電子電界エミッタ104は、とりわけドープシリコン、タングステンもしくはタングステン合金、または銅もしくはアルミニウムなどの高導電性金属を含む様々な導電性材料から、製作され得る。代替えとして(または併せて)、電子電界エミッタ104(またはそれらのチップ)を、タングステン、窒化チタン、ダイヤモンドライクカーボン、または他の堅牢な導電性材料の保護コーティングまたは膜で、上塗りすることが望ましい場合がある。
【0050】
記述したように、分散X線発生器のアレイ103は、入射電子を物理的プロセスを介してX線に変換することができる、1つまたは複数の材料で作られた、複数のターゲット106を備え得る。本開示の1つの態様において、各ターゲット106は、タングステン、モリブデン、レニウム、金、または他の重金属など、高エネルギー制動放射において効果的な材料で作られた金属膜を備え得る。別の態様において、各ターゲット106は2つ以上の金属で作られ得る。または各ターゲット106は1層以上の材料層を備え、したがって各ターゲット106は、効果的な制動放射材料(例えばタングステン)で構成された小さいエリア、および低Z材料(例えばシリコン)で作られた隣接エリアを含み得る。
【0051】
ターゲット106は自己保持であってよく、または導電性基板によって支持されてもよく、それによって(複数の電子電界エミッタ104とターゲット106との間の)電気回路を完全なものにすること、および電子ビームによって溜まった熱エネルギーを消散させることに役立ち得る。1つの例において、ターゲット106は、シリコン基板によって支持されたタングステン、またはアルミニウムなど他の導電性で軽元素材料の薄膜を備え得る。さらに別の実施形態において、基板は、導電性コーティングを有する絶縁材料で作られ得る。
【0052】
ターゲット106は、とりわけ「ドーナツ」型、円形を含む様々な外形を有してよく、または直線を組み込んでもよい。当業者には理解されるように、ターゲット106の厚さは、ターゲット106材料の原子番号、ターゲット106材料の熱特性、またはターゲット106に入射することになる電子ビームのエネルギーによって変化し得る。本開示の一態様において、各ターゲット106の厚さは、1~100μmであり得る。
【0053】
電子電界エミッタ104によって生成された電子電界は、電子電界エミッタ104に隣接した(例えば+zおよび/または-z面における)ガス分子をイオン化するのに、十分に強い場合がある。このイオン化は、とりわけ、イオン化されたガスが放出された電子を散乱させ、電子電界エミッタ104およびターゲット106を損傷させ得るため、有用なX線の発生を妨げ得る。したがって、とりわけ、エミッタ104およびターゲット106を真空または低圧環境の中に収容することで、電子電界エミッタ104とターゲット106との間の真空を維持することにより、ガス分子のイオン化を、除去できなくとも最小限に抑えることが望ましい場合がある。
【0054】
本開示の一態様において、このような真空(低圧)環境は、分散X線発生器のアレイ103を高真空下で製造し、その後分散X線発生器のアレイ103(したがって電子電界エミッタ104およびターゲット106)を真空(低圧)環境に維持できるチャンバ内に収容することによって、実現され得る。真空環境は、ガス分子を化学的に組み合わせるか、または吸収することができる真空ゲッターを利用することによって、可搬型X線源100の動作寿命を通して維持され得る。真空ゲッターは、内表面にコーティングされるか、または分散X線発生器のアレイ103を収容する真空チャンバに装着され得る。本開示を考慮して当業者には理解されるように、機械式ポンプおよびイオンポンプなど、他の機構が、必要な真空環境を維持するのに好適であり得る。
【0055】
ターゲット106は、分散X線発生器のアレイ103を収容する真空チャンバの内表面に付けられ得る。この構造は、ターゲット106を真空チャンバの内表面に付けることによって、ターゲット106上に生成された熱が熱伝導によって、より容易に消散され(例えば過剰な熱はチャンバ全体で消散され)、従来のシステムよりも可搬型X線源100をより容易に冷却し得るという点で、従来の管を基にした線源に対して大きい改善を提供する。際立って対照的に、従来のX線源におけるターゲットまたはアノードは、線源の真空管内に収容されるが、熱を消散させる放射に頼らなければならないため、冷却を困難にする。
【0056】
分散X線発生器のアレイ103は、電子電界エミッタ104からの電子の放出を制御可能にし得るゲートも含み得る。ゲートは複数の導電性構造を備えてよく、それを通して電子は通過することができ、電圧を印加することができる。代替えとして、ゲートは、電子電界エミッタ104とターゲット106との間に生成される電子電界の抑制を可能にし得る。例として、ゲートは、電子を電子電界エミッタ104から通すことが可能な穴を有する、導電性プレートを備え得る。別の実施形態において、ゲートは個々の環状構造のアレイを備えてよく、その各々は電子電界エミッタ104と関連付けられる。ゲートは、導電性材料でコーティングされた絶縁基板も含み得る。
【0057】
本開示の一態様において、ゲートは、可搬型X線源100の高電圧電源109によって電力供給され得る。別の態様において、穴または環状構造の特定のセットなど、特定の電子電界エミッタ104と関連付けられたゲートの、各部分への電圧は、個々に制御され得る。
【0058】
ゲートは全て省いてもよく、それによって分散X線発生器のアレイ103は、ダイオード構成(例えばゲートのないカソートおよびアノード構造)を備え得る。一般に、このダイオード構成は、電界放射(例えば放射される電流は、印加された電圧に指数関数的に依存する)の指数関数的性質のため、限定された動作電圧範囲を有するが、より容易に作製され、三極管構成またはゲートを含む構成よりも信頼できる。それでもなお、三極管は、放射電圧および加速(または最終)電圧を独立して制御する性能を含む、様々な利益を提供し得る。したがって、使用および他の設計思想に基づき、別の構成よりも1つの構成を選択することが望ましいことがある。例として、定電圧またはほぼ定電圧が許容される歯科用撮像源の場合、ダイオード構成が好ましい場合がある。
【0059】
図1を参照すると、可搬型X線源100は、電子電界エミッタ104とターゲット106との間に配設されたスペーサ108も含み得る。スペーサ108は、電子電界エミッタ104とターゲット106との間の必要な離隔を維持すること、および電子電界エミッタ104をターゲット106から絶縁させることに、役立ち得る。
【0060】
スペーサ108は、使用する材料および印加する電圧(電子電界エミッタ104とターゲット106との間の電位差)によって厚さが変化し得る。例えば、より大きい電圧は、電子電界エミッタ104とターゲット106との間に、より大きい距離を必要とし得るので、より厚いスペーサ108を必要とし得る。反対に、より薄いスペーサ108が、より小さい電圧と共に使用され得る。本開示の態様において、スペーサ108は1mm~30mmの厚さであり得る。別の態様において、スペーサ108は5mm~15mmの厚さであり得る。さらに別の態様において、スペーサ108は15mm~30mmの厚さであり得る。
【0061】
スペーサ108は、ガラス、ホウケイ酸ガラス、セラミック、または本開示を考慮して当業者には理解されるような他の好適な材料から作られ、様々な構成を有し得る。本開示の1つの態様において、スペーサ108は実質的に円筒形であり得る。三極管構成を含む、さらに別の態様において、スペーサ108は、ゲートを分散X線発生器のアレイ103から分離、または取り除けるように、2つのパーツで形成され得る。
【0062】
スペーサ108は、電子電界エミッタ104およびターゲット106を収容し得る真空チャンバの一部として、さらに役立ち得る。代替えとして、スペーサ108は、このような真空を形成または維持するのに役立たない。
【0063】
可搬型X線源100は、電子電界エミッタ104とターゲット106との間に大きい電位差(電圧)を発生させることが可能であり得る、高電圧電源109をさらに含み得る。本開示の一態様において、高電圧電源109は、標準的な差し込み口で見られる通常電圧などの線間電圧を高電圧に変換可能であり得る。代替えとして、電源109は、1つまたは複数のバッテリ107に接続され、バッテリ電圧を高電圧に変換可能であり得る。
【0064】
高電圧電源109は-120kVまでの電圧(限定ではない)を発生させることが可能であり得る。本開示の別の態様において、高電圧電源109は-20~-120kVの電圧を発生させ得る。代替えとして、高電圧電源109は正の電圧を発生させ、別の態様においては50kV~70kVの定電圧で動作し得る。本開示のさらに別の態様において、電源109は2つ以上の電圧で、順次または並行して動作可能であり得る。
【0065】
高電圧の電源(例えば-30kV~-80kV)は、本開示で説明するように、従来のX線撮像のアプローチと対照的に作動する。詳細には、従来のアプローチは、電子電界エミッタが、低~中間電源で駆動されるよう教示し、高電圧電源109の使用を排除するよう教示する。従来のアプローチは、接地と高張力面との間の空隙が最小限に抑えられる小型の電源を排除するよう教示する。
【0066】
図1に例示するように、一般に高電圧電源109の外形は、電子電界エミッタ104およびターゲット106の外径に追従し、高電圧電源109の出力面は電子電界エミッタ104に触れて電気的接触を形成し得る。歯科用放射線医学に好適な、本開示の一態様において、高電圧電源109は30mmの厚さで150mm×150mmの横断サイズを有し得る。可搬型X線源100は、液体(絶縁オイル)内および/または固体(パテ、ポッティング)内にパッケージ化されてよく、それによって高電圧電源109の高電圧に必要な絶縁を提供する。
【0067】
別の実施形態(図示せず)において、分散X線発生器のアレイ103は、特許文献2に記載されているような、複数の強誘電性結晶によって電力供給され得る。代替えとして、本開示を考慮して当業者には理解されるように、分散X線発生器のアレイ103は、所望の電圧を発生させることができる任意の数のデバイスによって電力供給され得る。
【0068】
可搬型X線源100は、複数の放射制御器110をさらに含み得る。複数の放射制御器110は、電子電界エミッタ104によって放射された電子を制御可能(例えば脱焦/合焦、または偏向/誘導)であり得る。このように、放射制御器110は、各発生器102によってX線の放射を調整可能であり得る。次に、これによって各発生器102を個々にアドレス指定可能(制御可能)で、そのため分散X線発生器のアレイ103は、一時的に分離されるが物理的に重複するX線コーンレットを生成することができる。これは、対象物をシームレスの被写域で撮像すること、および最低の離隔距離を有する性能を維持しながら、利用可能なフラックスを最大限に使用すること、を可能にする。
【0069】
複数の放射制御器110は、電子ビームを電子電界エミッタ104から脱焦/合焦、または偏向/誘導し、個々をターゲット106上に、またはターゲット106から離し、それがX線の発生または中断のそれぞれに影響し得る。放射制御は1つのアプローチに限定されず、静電気、静磁気、および電磁気手段を介することを含む、1つまたは複数の方法と組み合わせて使用され得ることを、当業者は理解するであろう。このようなアプローチの1つが、特許文献3に記載されている。
【0070】
図3は、選択的に電力供給された複数のコイルまたは磁石(コイル/磁石)301を備える、複数の放射制御器110の例を示す。コイル/磁石301は、電子電界エミッタ104から放射された電子ビーム304が、高エネルギー制動放射において効果的な材料で構成されたターゲット106の一部に衝突することを防止することができ、それによってX線放射を制御可能にし得る。
【0071】
図3に示すように、電子電界エミッタ104の出力フラックス(電子ビーム304)は、エネルギーが与えられるか、または「オン」302にされるときに、発生した電界が、電子ビーム304を放射軌跡/軸307から離れてターゲット106上に偏向させるように、コイル/磁石301によって生成された電磁界を使用して制御され得る。コイル/磁石301が「オフ」303であるとき、電子ビーム304は軸307上に直接延びて、信号を発生しない低エネルギー光子のみを生成する低原子番号の材料で構成された基板305に衝突する。したがって、コイル/磁石301の状態(オン302、またはオフ303)は、所与のエミッタからのX線306の生成を制御するのに役立つ。
【0072】
本開示の一態様において、ターゲット106は、タングステンなどの効果的な制動放射材料で作られた別個のエリア、シリコンなどの低Z材料で作られた隣接エリア、およびアルミニウムなどの導電性材料で作られた支持部を備え得る。レンズまたはヨークを使用して、磁界をビーム軸方向に伸ばし、磁界を軸外に密集させ得る。
【0073】
本開示の別の実施形態において、選択的に電力供給された個々のコイル/磁石301は、エミッタアレイ105のパターンと実質的に同等のパターンのコイル/磁石301のクラスタに配置され得る。このクラスタは、各電子電界エミッタ104の周りに配置された双極子磁場を作り出すことが可能な、4つのコイル/磁石301を備え得る。代替えとして、クラスタは8つ以上のコイル/磁石301を配置して備えてよく、それによってコイルの中央のセットが、電子電界エミッタ104のビーム軌跡を偏向させるための双極場を作り出し、周りを囲むコイル/磁石301は、中央のコイル/磁石301の漂遊磁界を相殺するために使用される。これらのクラスタは、エミッタアレイ105のパターンと実質的に同等のパターンで構成される。
【0074】
本開示の態様において、電子ビームを公称経路から0.1mm~1.25mmの距離、偏向させることが、ソレノイドコイル301のために必要であり得る。特許文献3は、高電流コイルを使用するこのような偏向を実現させる方法を記載している。特に、本明細書で説明するように、コイルのクラスタを使用すると、類似の結果が低電流で実現され得る。
【0075】
可搬型X線源100は、分散X線発生器のアレイ103からのX線放射を、選択的に制御可能な機構も含み得る。本開示の一態様において、この機構は、所定のシーケンスで、ソレノイドコイル301などの1つまたは複数の制御器110を選択的に作動させることが可能な、アドレス指定回路およびタイミング回路などの回路を含み得る。ターゲット106および複数の放射制御器110が、可搬型X線源100がオンモードで正常に動作するように配置され得る。代替えとして、可搬型X線源100が正常にオフモードで動作するように配置され得る。さらに、制御機構(例えば電子回路)は、探知器の所定の信号レベルが実現された後、X線光子の放射を自動的に制止させることが可能となり得る。
【0076】
可搬型X線源100は、組織によって完全に吸収される低エネルギーのX線など、X線撮像に寄与しない放射線を取り除くか、または遮断できるフィルタも含み得る。このようにフィルタは、X線撮像に悪影響を与えることなく、患者、放射線技師、技術者、臨床医、歯科医などに対する不要なX線照射を最小限に抑えることが可能となり得る。本開示の一態様において、フィルタは取り外し可能であり得る。フィルタは符号化されてよく、それによって制御電子機器は、使用する特定のフィルタを判定することができる。
【0077】
本開示を考慮して当業者には理解されるように、フィルタは様々な材料で作られてよく、動作電圧または可搬型X線源100の所望の最終用途によって、様々な厚さを有し得る。例として、フィルタは1mm~10mmの厚さのアルミニウム板を備え得る。代替えとして、フィルタは1mm~5mmの厚さの銅板を備え得る。さらに別の態様において、フィルタは、アルミニウムおよび炭素などの、高原子番号材料と低原子番号材料との交互の積層を備え得る。
【0078】
可搬型X線源100は、放射されたX線の角度を狭くするのに役立ち得るコリメータアレイを含み得る。それによって対象物の領域の小さい適用範囲に対してさらに役立つ。コリメータアレイは、Travishらによる特許文献4に記載されているものであり得る。代替えとして、コリメータアレイは、適切なサイズの複数の穴を有する高密度材料によって作られたプレートを備え得る。これらの穴は、特定の開口角度でX線を送ることが可能である。これらの高密度材料として、タングステン、鋼鉄、または高X線減衰係数を有する類似の材料で作られた合金を挙げてよい。
【0079】
本開示の別の態様において、コリメータアレイは複数の管を備え得る。各管は、放射されたX線コーンの開口角度を制御することが可能であり得る。例えば、コリメータアレイは、複数のアルミニウム挿入物を有するタングステンプレートを備え得る。各アルミニウム挿入物は、輪郭がはっきりとした開口角度を伴う各X線コーンの一部を送るのに役立つ。別の実施形態において、コリメータアレイは、複数の穴を有する各プレートが上下に配置された、2枚のプレートを含んでよく、それによって特定のX線コーンが下部プレートの穴を、次に上部プレートの穴を通過する。
【0080】
可搬型X線源100は、ハウジング101を含み得る。ハウジング101は、X線源100のための機械的に堅固なプラットフォームを提供し、かつ可搬性を促進し得る、軽量な防護ケースを含み得る。ハウジング101は、例えば熱をハウジング101全体から消散させることによって、熱制御にも役立ち得る。本開示の好ましい態様において、ハウジング101は、滅菌、アルコール、ワイプダウン、および細胞毒性など、医療デバイス要件と適合できる。
【0081】
ハウジング101は、可搬型X線源100を探知器に整合させるための機構も含み得る。この探知器は、可搬型X線源100が探知器と適切に整合されているという表示を、可搬型X線源100のユーザに提供できる、1つまたは複数の非接触センサなどである。本開示の別の態様において、ハウジング101は、分散X線発生器のアレイ103などの高電圧構成要素を囲むよう設計された内部ケースと、他の非高電圧構成要素を保持するよう設計された外部ケースと、を備え得る。ハウジング101の内部ケースは、絶縁流体または代替として固体絶縁物で満たされ得る。ハウジング101は、壁埋め込み式の電源を必要とせず、可搬型X線システム101に電力供給するためのバッテリ107も、収容し得る。
図1
図2
図3