(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-08
(45)【発行日】2022-01-12
(54)【発明の名称】飛散防止具
(51)【国際特許分類】
A61C 19/00 20060101AFI20220104BHJP
A61G 10/00 20060101ALI20220104BHJP
【FI】
A61C19/00 Z
A61G10/00 K
(21)【出願番号】P 2020152126
(22)【出願日】2020-09-10
【審査請求日】2020-09-10
(73)【特許権者】
【識別番号】520350742
【氏名又は名称】瀧元 知子
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】瀧元 知子
【審査官】松江 雅人
(56)【参考文献】
【文献】特開平8-33659(JP,A)
【文献】実開昭64-9620(JP,U)
【文献】国際公開第99/30663(WO,A1)
【文献】実開平5-88512(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61C 19/00
A61G 10/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
照明設備により光が照射される作業領域と、当該作業領域において手作業をする作業者の顔との間に設置され、当該作業領域の物質が当該顔へ飛散することを防止する飛散防止具であって、
前記作業領域を覆うことができる少なくとも一部が透明な板状体と、前記板状体を保持する保持機構とを備え、
前記板状体は前記作業者側の面が凹形状に構成され、
前記保持機構は前記手作業に係る設備に取付可能に構成されていることを特徴とする飛散防止具。
【請求項2】
前記板状体の周縁の少なくとも一部に膜状体が垂設され、
当該膜状体により前記作業領域の少なくとも一部の側面を覆うことができるように構成されている請求項1に記載の飛散防止具。
【請求項3】
前記保持機構は、前記板状体を前記凹形状となるように保持する請求項1又は2に記載の飛散防止具。
【請求項4】
前記保持機構は、前記手作業に係る設備に対する前記板状体の位置ないし姿勢を調節可能な調節機構を有している請求項1から3のいずれか一項に記載の飛散防止具。
【請求項5】
前記作業者は歯科医療従事者であり、前記作業領域は患者の口腔を含むその周囲の空間であり、前記手作業に係る設備は口腔外バキュームユニットであり、
前記保持機構は、当該口腔外バキュームユニットが有する吸込口が前記板状体によって覆われる空間内に位置するように、当該板状体を保持する請求項1から4のいずれか一項に記載の飛散防止具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、照明設備により光が照射される作業領域と、当該作業領域において手作業をする作業者の顔との間に設置され、当該作業領域の物質が当該顔へ飛散することを防止する飛散防止具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
歯科医院には、歯科医療を要する患者が座るチェア、患者の口腔を照らす歯科ライト、回転切削器具や超音波スケーラー等の機器類、当該機器類が備えられるとともに、ピンセット、ガーゼ、麻酔等の必要な器具類や歯科材料等を置くためのメインワークテーブル、患者の口腔内から唾液や回転切削器具による切削時に用いられる水を吸い上げるための口腔内バキューム、当該口腔内バキュームが備えられるサイドワークテーブル、患者がうがいをするためのスピットン等を備えたデンタルユニットが設置されている。
【0003】
また、当該デンタルユニットの近くには、回転切削器具や超音波スケーラー等を用いた歯牙の切削、研磨、除石や、抜歯等の手作業の際に、切削した歯牙や修復材料の粉塵、冷却水、患者の唾液、血液等の患者の口腔から飛散する物体(以下、「飛散物」という。)を吸引する口腔外バキュームユニット等の歯科医療の際に用いられる各種設備も設置されている。
【0004】
上述のような手作業を行う際には、患者の口元には飛散物を吸引するために口腔外バキュームユニットの吸込フードが配置されるのであるが、飛散物の大きさや重さによっては吸引されずに、歯科医療従事者(歯科医師、歯科衛生士、歯科助手等、以下同様。)の顔へ飛散し、汚染されるのみならず、特に飛散物が感染症を引き起こす病原体を含む場合には、歯科医療従事者が罹患する虞が少なからずあった。
【0005】
このような問題を解決するために、特許文献1には、歯科医療従事者の頭部に装着する帯部と、顔を覆う透明な板部とから構成されるフェイスガードが提案されており、歯科医療従事者は、当該フェイスガードを装着して手作業を行っている。
【0006】
他には、天面と側面とを有する略立方体形状をした透明な箱状体であって、側面に患者の頭部を通すことができる開口部や歯科医療従事者の手を通すことができる開口部が設けられたものが提案されている。当該箱状体は、チェアに座った患者の頭部を覆うように被せて設置し、歯科医療従事者が天面から患者の口腔を覗き見ながら側面の開口部から手を作業領域へ通して手作業を行うように用いられる。なお、当該箱状体については、適当な先行技術文献が発見できなかったため、先行技術文献情報の記載をしない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述のようなフェイスガードは、歯科医療従事者の体温や吐息により内側に熱がこもったり、内面が曇って患者の口腔が見づらくなったり、歯科医療が長時間になるにつれ歯科医療従事者の首や肩への負担となるため、作業性の点で改善の余地があった。また、フェイスガードは、歯科医療従事者の人数に応じた数を用意する必要があった。
【0009】
上述のような箱状体は、天面が平らであったり、歯科医療従事者側に凸形状であったりする。天面が平らであると歯科ライトの照射光が強く反射するため、また、天面が上記凸形状であると歯科ライトの照射光が発散するように反射するので反射光を避けづらく、したがって患者の口腔が見えづらいという問題があった。
【0010】
また、上述したフェイスガードや箱状体が有する問題は、歯科医院において用いられる場合に限らず、例えば、内科や耳鼻咽喉科において、患者の鼻腔や咽喉を診察、治療等の手作業をする際にも生じ得るし、感染症の疑いのある検査対象者の鼻腔や咽喉から細胞を採取等の手作業をする際にも生じ得る。
【0011】
本発明は、上述したような問題点を解決するためのものであり、作業性に大きな影響を与えることなく、作業領域の物質が作業者の顔へ飛散することを容易に防止することができる飛散防止具を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述の目的を達成するための、本発明に係る飛散防止具の特徴構成は、照明設備により光が照射される作業領域と、当該作業領域において手作業をする作業者の顔との間に設置され、当該作業領域の物質が当該顔へ飛散することを防止する飛散防止具であって、前記作業領域を覆うことができる少なくとも一部が透明な板状体と、前記板状体を保持する保持機構とを備え、前記板状体は前記作業者側の面が凹形状に構成され、前記保持機構は前記手作業に係る設備に取付可能に構成されている点にある。
【0013】
上述の構成によると、飛散防止具は、従来のフェイスガードのように作業者が装着するのではなく手作業に係る設備に取り付けることができるため、従来のフェイスガードのように内側に熱がこもったり内面が曇って患者の口腔が見づらくなったりすることがなく、また、長時間に亘り装着することによる首や肩への負担がないため、作業性がよい。
【0014】
また、飛散防止具は、手作業に係る設備に取り付けることができる構成であるため、作業者が装着する必要のある従来のフェイスガードのように、作業者の人数に応じた数を用意する必要もないし、従来の箱状体のように設置する必要もない。
【0015】
板状体は作業者側の面が凹形状を有していることから、作業者側にある天井照明や作業領域を照らすためのライト等の照明設備からの照射光は焦点に集まるように反射する。したがって作業者は当該焦点からずれた位置から反射光を避けて作業領域を覗き見ればよいため、作業領域が見づらくなることを容易に回避することができる。なお、当該焦点は、一点であるとは限らず、板状体の当該凹形状に応じて複数存在することもある。いずれにせよ、板状体は、照明設備からの照射光を作業者が避けやすいように反射させることができる形状を有していればよい。
【0016】
また、板状体は、作業者側の面が凹形状を有する、つまり作業領域側の面が凸形状を有していることから、当該板状体は周縁ほど作業者側に近づく形状、つまり作業領域から離れる形状となる。当該板状体を作業領域に対する好ましい位置ないし姿勢に設置した際であっても、周縁において作業領域を大きく確保することができるため、当該周縁が手に当たって作業がしにくくなる虞が低減されている。
【0017】
本発明においては、前記板状体の周縁の少なくとも一部に膜状体が垂設され、当該膜状体により前記作業領域の少なくとも一部の側面を覆うことができるように構成されていると好適である。
【0018】
従来のフェイスガードは、飛散物の、歯科医療従事者の顔への直接的な飛散は防止できたとしても、作業領域の周囲への飛散は防止できない。これに対して、上述の構成によると、膜状体によって、作業領域の少なくとも一部の側面を覆うことができるため、当該膜状体が垂設されている部分においては、飛散物が作業領域の周囲へ飛散することを容易に防止することができる。
【0019】
また、膜状体は、作業領域の少なくとも一部の側面を覆うことを可能としながらも、手で容易に押しのけることができるため、作業性に影響はない。
【0020】
本発明においては、前記保持機構は、前記板状体を前記凹形状となるように保持すると好適である。
【0021】
上述の構成によると、保持機構は、上記凹形状となるように板状体を保持することができることから、当該板状体そのものには上記凹形状とするための加工等が不要である。したがって、板状体として、可撓性を有する平板から構成することができる。
【0022】
なお、平板を構成する材料として、消毒する等して再利用することができ、一回から数回の使用後に使い捨てすることもできる点において、ポリ塩化ビニル等の安価で軽量な樹脂材料を好ましく例示することができる。
【0023】
本発明においては、前記保持機構は、前記手作業に係る設備に対する前記板状体の位置ないし姿勢を調節可能な調節機構を有していると好適である。
【0024】
上述の構成によると、調節機構は手作業に係る設備に対する板状体の位置ないし姿勢を調節可能であることから、板状体の作業領域に対する位置ないし姿勢及び姿勢が調節可能であるため、適切な位置及び姿勢に配置された手作業に係る設備とは別に、板状体を作業領域に対して好ましい位置及び姿勢とすることができる。
【0025】
本発明においては、前記作業者は歯科医療従事者であり、前記作業領域は患者の口腔を含むその周囲の空間であり、前記手作業に係る設備は口腔外バキュームユニットであり、前記保持機構は、当該口腔外バキュームユニットが有する吸込口が前記板状体によって覆われる空間内に位置するように、当該板状体を保持すると好適である。
【0026】
歯科医療においては、歯科医療従事者は患者の口腔に顔を近づけての手作業を要する。その際、当該飛散防止具によって、患者の口腔から歯科医療従事者の顔への飛散物の飛散を防止することが可能であり、歯科医療従事者は、上述のように照明設備の照射光の反射による影響を受けることなく良好に手作業をすることができる。
【0027】
なお、従来の箱状体は、歯科医院において用いるような場合には、必要に応じて患者の頭部を覆うように被せたり、排したりするのが煩雑であり、また、箱状体であることから、ある程度の大きさや重さにならざるを得ず、患者の頭部から排したときに置いておくスペースや、使用しないときに保管しておくスペースが必要であった。
【0028】
これに対して当該飛散防止具は、保持機構を歯科医療に係る設備として口腔外バキュームユニットに備えられた吸込フードやアーム等に取り付けることができるため、飛散物の飛散の虞がある手作業をするときに、吸込フードを患者の口元の適切に配置すると同時に、飛散防止具を患者の口腔と歯科医療従事者の顔との間に容易に設置することができ、吸込フードを患者の口元から離すと、これと同時に飛散防止具を患者の口腔と歯科医療従事者の顔との間から排することができるため、使い勝手がよい。
【0029】
また、従来の箱状体は、側面の開口部のみから手を通すことができる構成であるため、作業領域と手との位置関係によっては、手の動きが阻害され、作業がしづらい場合あった。これに対して当該飛散防止具は口腔外バキュームユニットに取り付けられる構成であることから、患者の頭部を覆いながらも従来の箱状体の側面に対応する部分がないため、手の動きが阻害されない。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図6】
図6は、別実施形態に係る飛散防止具の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下に、本発明に係る飛散防止具の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0032】
図1には、歯科医院において、デンタルユニットのチェア2に座った患者1と、歯科医療の際に用いられる口腔外バキュームユニット10と、当該口腔外バキュームユニット10の吸込フード11に取り付けられた飛散防止具20が示されている。本実施形態における歯科医療従事者が本発明に係る作業者であり、患者1の口腔を含むその周囲の空間が本発明に係る作業領域であり、歯科医療が本発明に係る手作業であり、口腔外バキュームユニット10が本発明に係る手作業に係る設備である。
【0033】
デンタルユニットは、患者1が座るチェア2、照明設備の一例である、患者1の口腔を照らす歯科ライト3、回転切削器具や超音波スケーラー等の機器類、当該機器類が備えられるとともに、ピンセット、ガーゼ、麻酔等の必要な器具類や歯科材料等を置くためのメインワークテーブル、患者1の口腔内から唾液や回転切削器具による切削時に用いられる水を吸い上げるための口腔内バキューム、当該口腔内バキュームが備えられるサイドワークテーブル、患者1がうがいをするためのスピットン等が備えられている。
【0034】
口腔外バキュームユニット10は、デンタルユニット(図示せず)の近くに設置される設備であり、患者1の口腔からの飛散物を、患者1の口元において吸引するために用いられる。
【0035】
口腔外バキュームユニット10は、患者1の口元に配置される吸込フード11と、ブロワーや濾過機構が内蔵されたユニット本体と、吸込フード11と当該ユニット本体とを連結するとともに、内部に吸込配管が備えられたアーム12等を備えている。
【0036】
アーム12は多軸、例えば六軸を有し、その姿勢を変更自在に構成されてあり、これにより吸込フード11を患者1の口元の適当な位置及び姿勢、例えば患者1の胸元から口元に向けて配置させることができる。
【0037】
歯科医療中には、口腔外バキュームユニット10が稼働され、飛散物を吸引することができるようになっているのであるが、飛散物の大きさや重さによっては吸引されずに、歯科医療従事者の顔へ飛散してしまう虞がある。そこで、当該飛散物の飛散を防止するために飛散防止具20が用いられる。
【0038】
(飛散防止具)
図1から
図3に示すように、飛散防止具20は、板状体21と、当該板状体21の周縁に垂設された膜状体22と、板状体21を保持する保持機構23と、が備えられている。
【0039】
(板状体)
板状体21は、歯科医療従事者が作業領域の外側から患者1の口腔を覗き見ることができるように、全面的に透明な平板から構成されている。本実施形態においては、当該平板は幅が350mm程度、奥行が250mm程度の略長方形をなし、厚みが0.5mm程度のポリ塩化ビニルから構成されている。
【0040】
板状体21は、その周縁のうち一部において保持機構23により保持されるように構成されている。また、板状体21は、
図4に示すように、四つの頂点21a,21b,21c,21dのうち、保持機構23によって保持される部分を含む一辺の対辺の両端にある二つの頂点21a,21bが丸められている。なお、「丸める」とは、頂点21a,21bを、例えば半径10~50mmくらいのR加工(円弧形に加工することをいう。)を施したり、斜めに切り落したりすることをいう。同様に、頂点21c、21dも丸められていてもよい。いずれにせよ、少なくとも丸められた頂点においては、手作業の際に、当該頂点が歯科医療従事者の手や腕へ引っ掛かること虞が低減されている。
【0041】
板状体21は、歯科医療従事者側が凹形状、本実施形態においては、保持機構23に保持された部分が、保持機構23によって保持されていない周縁よりも約20~50mm程度、作業領域に向けて下方に三次元的に凹んだ形状となっている。但し、当該寸法は例示であり、板状体21の全体的な寸法に応じて適当な寸法が設定される。なお、当該凹形状は、二次元的に凹んだ形状であってもよい。
【0042】
照明設備、例えば作業領域を照らすための歯科ライト3からの照射光の一部は、板状体21において反射する。板状体21は歯科医療従事者側の面が凹形状を有していることから、歯科ライト3からの照射光は焦点に集まるように反射する。したがって歯科医療従事者は当該焦点からずれた位置から反射光を避けて作業領域を覗き見ればよいため、作業領域が見づらくなることを容易に回避することができる。つまり、板状体21は、歯科ライト3からの照射光を歯科医療従事者が避けやすいように反射させることができる形状を有していればよい。
【0043】
また、板状体21は、歯科医療従事者側の面が凹形状を有する、つまり作業領域側の面が凸形状を有していることから、当該板状体21は周縁ほど歯科医療従事者に近づく形状、つまり作業領域から離れる形状となる。当該板状体21を作業領域に対する好ましい位置及び姿勢に設置した際であっても、周縁において作業領域を大きく確保することができるため、当該周縁が手に当たって作業がしにくくなる虞が低減されている。
【0044】
(膜状体)
図1から
図4に示すように、膜状体22は、板状体21の周縁のうち保持機構23が設けられている部分を除く部分に垂設されている。
【0045】
膜状体22は、側面視において高さが50~300mm程度のポリ塩化ビニルの薄膜から構成されている。但し、当該寸法は例示であり、板状体21の全体的な寸法に応じて適当な寸法が設定される。
【0046】
なお、膜状体22も、板状体21と同様に透明であることが好ましいが、透明でなくてもよい。また、膜状体22は一枚物から構成されていてもよいし、複数枚から構成されていてもよい。さらに、膜状体22には側面視において上下方向にスリットが設けられていてもよい。
【0047】
膜状体22は、歯科医療従事者の手によって、押しのけることができる程度でありながら、吸込フード11の吸引による作業領域側の陰圧によってなびかない程度の可撓性を有することが好ましい。
【0048】
膜状体22は、板状体21の周縁に粘着テープによって貼り付けられてもよいし、接着剤によって接着されてもよい。または、熱によって板状体21と膜状体22とを一体的に溶着させてもよい。
【0049】
いずれにせよ、膜状体22により作業領域の少なくとも一部の側面を覆うことができるように構成されているため、膜状体22が垂設されている部分においては、飛散物が作業領域の周囲へ飛散することを容易に防止することができる。
【0050】
なお、膜状体22は、手作業の際に歯科医療従事者の手によって押しのけられる場合があるが、作業領域は口腔外バキュームユニット10による吸引によって陰圧となっているため、押しのけられた部分から飛散物が作業領域の周囲へ飛散する虞は少ない。
【0051】
(保持機構)
図5に示すように、保持機構23は、板状体21を支持する支持部24と、当該支持部24を吸込フード11に取付可能な取付部25と、を有し、保持機構23は、吸込フード11の吸込口が板状体21によって覆われる空間内に位置するように、当該板状体21を保持するように構成されている。
【0052】
支持部24は、板状体21の周縁の一部に沿って配置される基部24aと、基部24aの中央から板状体21の表面に沿ってV字状に延びる二本の腕部24bを有している。当該基部24a及び腕部24bは、板状体21の支持面が湾曲した形状に構成されている。板状体21は、基部24a及び腕部24bの支持面の湾曲に沿うように接着剤によって接着したり、両面テープにより粘着させたり、クリップ等によって挟持したりすることによって支持されて、凹形状が維持される。
【0053】
取付部25は、本実施形態においては下方が切りかかれた環状に構成され、その内周部が吸込フード11の外周部に適合する形状を有し、吸込フード11の外周部に嵌合させる態様により取り付けることができるように構成されている。
【0054】
支持部24は、取付部25に対して50~200mm程度立ち上がった位置に配置され、取付部25を吸込フード11に取り付けた際に、支持部24は吸込フード11よりも50~200mm程度上方において板状体21を支持できるようになっている。これにより、患者1の口腔と板状体21との間に、作業領域が十分に確保される。但し、当該寸法は例示であり、板状体21を、なるべく患者1の口腔に近い位置に配置しながらも、患者1の口腔と板状体21との間に、手作業を円滑にすることができるだけの作業領域が確保できる寸法であればよい。
【0055】
支持部24や取付部25は、樹脂材料の一例としてのレジンから一体に成形することができる。ただし、支持部24と取付部25とは、別々に成形したものを後から接着する等によって一体的に構成してもよい。
【0056】
以上の構成により、飛散防止具20は吸込フード11に取り付けられ、吸込フード11を患者1の口元の適切な位置及び姿勢に配置する同時に、患者1の口腔と歯科医療従事者の顔との間の適切な位置及び姿勢に設置される。
【0057】
飛散防止具20は、吸込フード11に取り付けられる態様によって、患者1の口腔と歯科医療従事者の顔との間に設置される構成であることから、従来のフェイスガードのように、内側に熱がこもったり内面が曇って患者1の口腔が見づらくなったりすることがなく、また、長時間に亘り装着することによる首や肩への負担がないため作業性がよい。
【0058】
さらに、飛散防止具20は、吸込フード11に取付可能であり、手作業をするときに、吸込フード11を患者1の口元に配置すると同時に、患者1の口腔と歯科医療従事者の顔との間に容易に設置することができ、吸込フード11を患者1の口元から離すと、これと同時に患者1の口腔と歯科医療従事者の顔との間から排することができるため、従来の箱状体のように患者1の頭部から排したときに置いておくスペースや、使用しないときに保管しておくスペースを必要としない。
【0059】
また、飛散防止具20は口腔外バキュームユニット10の吸込フード11に取り付けられる構成であることから、患者1の頭部を覆いながらも、従来の箱状体の側面に対応する部分がないため、手作業が阻害されない。
【0060】
以上のとおり、作業性に大きな影響を与えることなく、作業領域の物質が歯科医療従事者の顔へ飛散することを容易に防止することができる飛散防止具20を提供することができるようになった。
【0061】
(別実施形態)
上述した実施形態において、板状体21は全面的に透明な平板から構成されている場合について説明したが、この限りではない。板状体21は、少なくとも患者1の口腔に対応する部分のみが透明であればよく、それ以外の部分、例えば患者1の目元に対応する部分は半透明や不透明であってもよい。
【0062】
上述した板状体21の形状は例示であり、他には例えば正方形、円形、楕円形のような形状であってもよい。また、板状体21の寸法は例示であり、適当な寸法が設定される。いずれにせよ板状体21は、吸込フード11を患者1の口元の適切な位置に配置したときに、患者1の顔を全て覆うことができる形状や寸法であると好ましい。
【0063】
また、板状体21は吸込フード11の中心に対して左右対称な形状である必要はない。例えば、歯科医療従事者の手作業がしやすいような形状であればよく、左右非対称な形状であってもよい。さらには、板状体21には、反射防止コーティングが施されていてもよい。
【0064】
上述した実施形態においては、板状体21は、ポリ塩化ビニルからなる平板を保持機構23によって凹形状となるように保持する構成について説明したが、この限りではない。例えば、板状体21は、ポリ塩化ビニルの熱可塑性を利用し、加熱して曲げ加工することによって、予め凹形状に構成してもよい。
【0065】
上述した実施形態においては、板状体21として用いられる平板を構成する材料としてポリ塩化ビニルを例に説明したが、これに限らない。当該平板の構成する材料は、可撓性を有する透明なものであり、消毒する等して再利用することができ、一回から数回の使用後に使い捨てすることもできるように、安価で軽量なものであることが好ましく、例えばポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート等が例示できる。
【0066】
上述した実施形態においては、口腔外バキュームユニット10の吸込フード11は、患者1の胸元から口元に向けて配置されるため、板状体21の周縁のうち保持機構23が設けられている部分に膜状体22が垂設されていない。しかし、膜状体22は、板状体21の周縁の全てに垂設されてもよい。また、歯科医療従事者がいる位置が特に定まっている場合は、当該位置に対応する部分にのみ膜状体22が垂設されてもよい。
【0067】
上述した実施形態においては、保持機構23は、板状体21を保持する支持部24と、口腔外バキュームユニット10に取付可能な取付部25とを有している場合について説明したが、この限りではない。保持機構23は、さらに板状体21の周縁に沿って配置される枠状部が設けられてもよい。
【0068】
当該枠状部は、例えば針金を、板状体21の周縁に対応する形状となるように曲げ加工することによって構成することができる。板状体21の周縁が枠状部の形状に沿うように接着材によって接着されたり、粘着性のあるテープによって貼り付けられたりする態様によって保持されることによって、周縁において補強がされるとともに所定の形状を容易に保持することができる。
【0069】
なお、当該枠状部は、板状体21の周縁のうち一部を除いて、例えば、保持機構23の支持部24が設けられている部分から離れた部分に設けられていてもよいし、保持機構23の支持部24と連結させつつ板状体21の周縁の全てに沿って配置されてもよい。
【0070】
上述した実施形態においては、支持部24及び取付部25をレジンから成形する場合について説明したが、これに限らない。支持部24及び取付部25は、シリコンやプラスチック等の樹脂材料や、ステンレス鋼やアルミニウム等の金属材料から成形してもよい。当該飛散防止具20の用いられる環境に応じて、剛性、耐薬品性、耐衝撃性や衛生面等を考慮して、適当な材料が用いられることが好ましい。
【0071】
保持機構23は、
図6に示すように、支持部24と取付部25との間に、吸込フード11の位置ないし姿勢はそのままに、患者1に対する板状体21の位置ないし姿勢を調節可能な調節機構26を有してもよい。
【0072】
調節機構26として、その姿勢を変更自在に構成されたアーム機構を用いることができる。その際、支持部24及び取付部25は一体ではなく別体に構成し、調節機構26によって、支持部24及び取付部25が連結される。
【0073】
吸込フード11を患者1の口元の適切な位置ないし姿勢に配置したときに、板状体21が作業領域と歯科医療従事者の顔との間において好ましい位置ないし姿勢でなかったとしても、調節機構26によって、吸込フード11に対する板状体21の位置ないし姿勢を調節することができるため、板状体21を作業領域と歯科医療従事者の顔との間において好ましい位置及び姿勢とすることができる。
【0074】
また、
図6に示すように、支持部24はクリップから構成し、当該クリップによって板状体21を挟持するように構成してもよいし、取付部25は一対の半割れの管状部材から構成してもよい。この場合は、支持部24は板状体21を挟持することによって当該板状体21を保持することができ、取付部25は当該管状部材どうし間に、例えば歯科ライト3の支柱4を挟んだ状態で当該管状部材のフランジどうしをボルト及びナットによって締め付けることにより、支柱4に固定することができる。
【0075】
上述の実施形態においては、飛散防止具20は、歯科医療に係る設備としての口腔外バキュームユニット10に備えられた吸込フード11や、歯科ライト3の支柱4に取り付けられる構成について説明したが、この限りではない。例えば、飛散防止具20は、アーム12に取り付けることができるように構成されていてもよいし、口腔外バキュームユニット10に限らず、デンタルユニットの各部、例えば歯科ライト3そのものに取り付けられてもよい。さらには、メインワークテーブルやサイドワークテーブルに、例えばステーを設け、これに取り付けられる構成であってもよい。
【0076】
上述した実施形態においては、板状体21、膜状体22及び保持機構23が別体から構成されている場合について説明したが、これらは一体的に構成されていてもよい。
【0077】
上述した実施形態においては、飛散防止具20が歯科医療において用いられる場合、すなわち歯科医療従事者が本発明に係る作業者であり、患者1の口腔を含むその周囲の空間が本発明に係る作業領域であり、歯科医療が本発明に係る手作業であり、口腔外バキュームユニット10が本発明に係る手作業に係る設備である場合について説明したが、この限りではない。例えば、飛散防止具20は、内科や耳鼻咽喉科において、患者の鼻腔や咽喉を診察、治療する際に、手作業である当該診察、治療に係る設備に取り付けて、作業領域に含まれる患者の鼻腔や咽喉と、作業者である医師の顔との間に設置するように用いることもできるし、感染症の疑いのある検査対象者の鼻腔や咽喉から細胞を採取する際に、手作業である当該採取に係る設備に取り付けて、作業領域に含まれる検査対象者の鼻腔や咽喉と、作業者である検査官の顔との間に設置するように用いることもできる。
【0078】
上述した実施形態は、いずれも本発明の一例であり、当該記載により本発明が限定されるものではなく、各部の具体的構成は本発明の作用効果が奏される範囲において適宜変更設計可能である。
【符号の説明】
【0079】
1 :患者
2 :チェア
3 :歯科ライト
4 :支柱
10 :口腔外バキュームユニット
11 :吸込フード
12 :アーム
20 :飛散防止具
21 :板状体
21a :頂点
21b :頂点
21c :頂点
21d :頂点
22 :膜状体
23 :保持機構
24 :支持部
24a :基部
24b :腕部
25 :取付部
26 :調節機構
【要約】
【課題】作業性に大きな影響を与えることなく、作業領域の物質が作業者の顔へ飛散することを容易に防止することができる飛散防止具を提供する。
【解決手段】歯科ライト3により光が照射される作業領域と、当該作業領域において手作業をする歯科医療従事者の顔との間に設置され、当該作業領域の物質が当該顔へ飛散することを防止する飛散防止具20であって、当該作業領域を覆うことができる透明な板状体21と、板状体21を保持可能な保持機構23とを備え、板状体21は、作業者側の面が凹形状に構成され、保持機構23は、口腔外バキュームユニット10の吸込フード11に取付可能に構成されている。
【選択図】
図1