(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-08
(45)【発行日】2022-01-13
(54)【発明の名称】ポリアミド6樹脂フィルム
(51)【国際特許分類】
C08J 5/18 20060101AFI20220104BHJP
B65D 65/40 20060101ALI20220104BHJP
H01M 50/10 20210101ALI20220104BHJP
【FI】
C08J5/18 CFG
B65D65/40 D
H01M50/10
(21)【出願番号】P 2021533731
(86)(22)【出願日】2021-03-19
(86)【国際出願番号】 JP2021011402
【審査請求日】2021-06-14
(31)【優先権主張番号】P 2020056317
(32)【優先日】2020-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001298
【氏名又は名称】特許業務法人森本国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山根 周平
(72)【発明者】
【氏名】黒澤 彰子
【審査官】石塚 寛和
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-006394(JP,A)
【文献】特開2000-289103(JP,A)
【文献】特開2017-228358(JP,A)
【文献】国際公開第2008/075461(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/217435(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/00-5/02、5/12-5/22
B32B 1/00-43/00
B65D 65/00-65/46
H01M 50/00-50/198
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二軸配向されたポリアミド6樹脂フィルムであって、
示差走査熱量測定(DSC)において、50℃から260℃まで昇温速度5℃/分で昇温した際の補外融解開始温度(T
im)が、216.0℃以上であり、
ポリアミド6樹脂フィルム面における任意の点から
、フィルム製造時の延伸工程におけるMDを0度
方向とし、その方向に対して時計回りに45度、90度、135度、180度、225度、270度および315度の8方向の厚みに対する変動係数(CV)が0.04以下であ
り、
ポリアミド6樹脂フィルム面における任意の点から、フィルム製造時の延伸工程におけるMDを0度方向とし、その方向に対して時計周りに45度、90度、135度の4方向のそれぞれにおいて、一軸引張試験による5%伸長時の各応力の最大値と最小値の差が35MPa以下であり、一軸引張試験による15%伸長時の各応力の最大値と最小値の差が40MPa以下であることを特徴とするポリアミド6樹脂フィルム。
【請求項2】
カプロラクタムモノマーの抽出量が0.1質量%以下であることを特徴とする請求項1に記載のポリアミド6樹脂フィルム。
【請求項3】
請求項1
または2に記載のポリアミド6樹脂フィルムとシーラント層とが積層されていることを特徴とする積層体。
【請求項4】
ポリアミド6樹脂フィルムとシーラント層との間にバリア層を有することを特徴とする請求項
3に記載の積層体。
【請求項5】
シーラント層の厚みが100~200μmであることを特徴とする請求項
3または
4に記載の積層体。
【請求項6】
請求項
3~
5のいずれかに記載の積層体を用いた包装材料。
【請求項7】
請求項
6に記載された包装材料を用いた電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なポリアミド6樹脂フィルムに関するものであり、さらに、それを含む積層体および包装材料、特に、その包装材料を用いた電池に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド6樹脂フィルムは、引張強度、突刺強度、ピンホール強度、耐衝撃性などの機械的物性に優れ、かつガスバリア性、耐熱性に優れている。このため、ポリアミド6樹脂フィルムを基材とし、ポリオレフィン樹脂からなるシーラントフィルムをドライラミネートや押出ラミネートなどの方法で貼合した積層フィルムは、包装材料をはじめとして幅広く使用されている。
【0003】
近年、基材にシーラントフィルムを積層した包装材料においては、ヒートシール工程の生産性の向上を狙ってヒートシール時間を短くするために、ヒートシール温度を従来の温度よりも高く設定する要望が強くなっている。しかし、ヒートシール温度が高いと、基材のポリアミド6樹脂フィルムは、シールバーに熱融着する場合がある。
特に、電池用外装材として用いる包装材料においては、電解液漏れを防ぐためシーラント層が厚い傾向にあるため、また、バリア性および形状保持の観点で、中間層として熱伝導率が高い金属層を設ける傾向にあるため、ヒートシール時に高温や長時間を要して熱量が多くなり、基材のポリアミド6樹脂フィルムは、シールバーへの熱融着がより発生し易い。
【0004】
シールバーに基材が熱融着することを防ぐ方法として、基材表面を、ポリテトラフルオロエチレン等の高融点樹脂でコーティングする方法がある。また、基材として、ポリアミド6樹脂よりも融点の高いポリエステルをポリアミド6樹脂と共押出で一体化した2層フィルムを用いる方法が提案されている(特許文献1、2)。また、基材に融点の異なる2種類のポリアミド樹脂層を用い、より高融点のポリアミド樹脂層を外側に配する方法が提案されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-156403号公報
【文献】特開2016-62805号公報
【文献】特開2018-196929号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ポリアミド6樹脂フィルム表面にポリテトラフルオロエチレン等の高融点樹脂をコーティングした基材は、製造コストがかかり、また、成形性が低下するという問題点があった。ポリエステルとポリアミド6樹脂とからなる異種樹脂を共押出した基材は、層間の接合性が良好でないために、特別な接着剤が必要となり、同種樹脂の共押出よりも製造コストがかかり、しかも、ポリアミド6樹脂の単層フィルムと比較すると、成形性が低下するという問題点があった。また、基材が、高融点のポリアミド樹脂層を有しても、高融点のポリアミド樹脂層は、融解ピークがブロードな場合は、融点よりも低い温度において、ポリアミドの低分子量成分が融解してしまうという問題点があった。
【0007】
本発明の課題は、上述した問題に鑑み、シーラントフィルムを積層した積層体において、高温でヒートシールした場合であっても、シールバーへの樹脂付着が抑制され、また成形性が優れるポリアミド6樹脂フィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、ポリアミド6樹脂フィルムとして、特定の熱特性を有するものを用いることにより、上記課題が解決できることを見出し、本発明に到達した。
すなわち、本発明の要旨は下記のとおりである。
【0009】
本発明のポリアミド6樹脂フィルムは、二軸配向されたものであり、
示差走査熱量測定(DSC)において、50℃から260℃まで昇温速度5℃/分で昇温した際の補外融解開始温度(Tim)が、216.0℃以上であり、
ポリアミド6樹脂フィルム面における任意の点から、フィルム製造時の延伸工程におけるMDを0度方向とし、その方向に対して時計回りに45度、90度、135度、180度、225度、270度および315度の8方向の厚みに対する変動係数(CV)が0.04以下であり、
ポリアミド6樹脂フィルム面における任意の点から、フィルム製造時の延伸工程におけるMDを0度方向とし、その方向に対して時計周りに45度、90度、135度の4方向のそれぞれにおいて、一軸引張試験による5%伸長時の各応力の最大値と最小値の差が35MPa以下であり、一軸引張試験による15%伸長時の各応力の最大値と最小値の差が40MPa以下であることを特徴とする。
本発明のポリアミド6樹脂フィルムによれば、カプロラクタムモノマーの抽出量が0.1質量%以下であることが好ましい。
本発明の積層体は、上記のポリアミド6樹脂フィルムとシーラント層とが積層されたものである。
本発明の積層体によれば、ポリアミド6樹脂フィルムとシーラント層との間にバリア層を有することが好ましい。
本発明の積層体によれば、シーラント層の厚みが100~200μmであることが好ましい。
本発明の包装材料は、上記の積層体を用いたものである。
本発明の電池は、上記の包装材料を用いたものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明のポリアミド6樹脂フィルムは、シーラントフィルムを積層した積層体において、高温でヒートシールした場合であっても、ポリアミド6樹脂がシールバーに付着することを抑制でき、また成形性に優れるため、ヒートシールが必要な包装材料として好適であり、特に、ポリアミド6樹脂がシールバーに付着しやすい電池用の包装材料として好適である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<ポリアミド6樹脂フィルムの材質・構成>
本発明のポリアミド6樹脂フィルムは、示差走査熱量測定(DSC)において、50℃から260℃まで昇温速度5℃/分で昇温した際の補外融解開始温度(Tim)が、216.0℃以上である。
本発明のフィルムは、主成分としてポリアミド6樹脂を含むものであり、本発明の効果を妨げない範囲内で、ポリアミド6樹脂以外の成分が必要に応じて含まれてもよいが、本発明のフィルムにおけるポリアミド6樹脂の含有量は、70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましい。
ポリアミド6樹脂の含有量の上限は、特に限定されないが、100質量%程度とすることができる。従って、ポリアミド6樹脂の含有量は、例えば、95~100質量%であることもできる。
【0012】
本発明のフィルムは、少なくとも一軸配向されていることが好ましく、二軸配向されていることがより好ましい。
また、本発明のフィルムは、単層であっても複層であってもよい。
【0013】
<ポリアミド6樹脂>
本発明のフィルムを構成する樹脂は、例えばε-カプロラクタムを原料としたポリアミド6樹脂であり、本発明の効果を妨げない範囲内で、3員環以上のラクタム、ω-アミノ酸、二塩基酸、ジアミン等を共重合したものでもよい。
【0014】
共重合体を構成するラクタムとしては、例えば、エナントラクタム、カプリルラクタム、ラウリルラクタムなどを挙げることができる。
ω-アミノ酸類としては、7-アミノヘプタン酸、8-アミノオクタン酸、9-アミノノナン酸、11-アミノウンデカン酸、12-アミノドデカン酸などを挙げることができる。
二塩基酸類としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、グルタル酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカンジオン酸、ドデカジオン酸、ヘキサデカジオン酸、エイコサンジオン酸、エイコサジエンジオン酸、2,2,4-トリメチルアジピン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、キシリレンジカルボン酸、ダイマー酸などを挙げることができる。
ジアミン類としては、エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、2,2,4(または2,4,4)-トリメチルヘキサメチレンジアミン、シクロヘキサンジアミン、ビス-(4,4′-アミノシクロヘキシル)メタン、メタキシリレンジアミン、ノナンジアミン、デカンジアミン等を挙げることができる。
本発明のフィルムは、上記したポリアミド6樹脂単独からなるものでも、あるいは、2種以上を混合したものでもよい。
【0015】
本発明におけるポリアミド6樹脂は、原料モノマーの一部または全てに再生モノマーを使用したものであってもよく、また、原料モノマーの一部または全てに再生モノマーを使用して得られるポリアミド6樹脂と、ヴァージンモノマーのみを使用して得られるポリアミド6樹脂とを混合したものでもよい。なお、再生モノマーとは、解重合などの手法でポリアミド6樹脂を化学的に分解して再生されたモノマーをいう。
【0016】
ポリアミド6樹脂の相対粘度は、2.0~4.0であることが好ましく、3.0~4.0であることがさらに好ましい。ポリアミド6樹脂は、相対粘度が2.0を下回ると、得られるフィルムにおいて力学特性が低下しやすくなる。一方、ポリアミド6樹脂は、相対粘度が4.0を超えると、押出時において、通過する濾過フィルターにかかる圧力が増加するため、濾過フィルターの寿命が短くなり、操業性が低下することに加え、延伸工程において、延伸応力が増大し、延伸性が低下する場合がある。
なお、本発明における相対粘度は、ポリアミド6樹脂を96%硫酸に濃度1.0g/dLとなるよう溶解した試料溶液(液温25℃)について、ウベローデ型粘度計を用いて測定した値である。
【0017】
<ポリアミド6樹脂フィルムの物性>
本発明のフィルムは、示差走査熱量測定(DSC)において、50℃から260℃まで昇温速度5℃/分で昇温した際の補外融解開始温度(Tim)が、216.0℃以上であることが必要であり、217.0℃以上であることが好ましく、218.0℃以上であることがさらに好ましく、219.0℃以上であることが最も好ましい。
ポリアミド6樹脂フィルムは、補外融解開始温度(Tim)が216.0℃未満であると、シーラント層を積層した積層体を高温でヒートシールした際に、シールバーに熱融着して、ヒートシール性が低下する。
【0018】
また、本発明のフィルムは、示差走査熱量測定(DSC)において、50℃から260℃まで昇温速度5℃/分で昇温した際の融解ピーク温度(Tpm)と上記補外融解開始温度(Tim)との差(Tpm-Tim)が、7.0℃以下であることが好ましく、6.5℃以下であることがより好ましく、6.0℃以下であることがさらに好ましい。
ポリアミド6樹脂フィルムは、上記差(Tpm-Tim)が7.0℃を超えると、シーラント層を積層した積層体を、融解ピーク温度(Tpm)に近い温度でヒートシールした際に、シールバーに熱融着する場合がある。
本発明のフィルムは、融解ピーク温度(Tpm)が217.0℃以上であることが好ましく、220.0℃以上であることがより好ましく、222.0℃以上であることがさらに好ましい。
【0019】
本発明のフィルムは、シールバーへの熱融着を防ぐ観点から、カプロラクタムモノマーの抽出量が0.1質量%以下であることが好ましく、0.05質量%以下であることがより好ましく、0.02質量%以下であることがさらに好ましい。ポリアミド6樹脂フィルムは、カプロラクタムモノマーの抽出量が0.1質量%を超えると、ヒートシール時にモノマー成分が溶出する。そして、ヒートシールを連続して実施すると、溶出したモノマー成分がシールバーに堆積し始め、ポリアミド6樹脂フィルムは、補外融解開始温度(Tim)が216.0℃以上であっても、次第に、モノマー成分が堆積したシールバーに熱融着しやすくなり、ヒートシールの連続生産性が低下することがある。
【0020】
本発明のフィルムは、成形加工性向上の観点で、フィルム面における任意の点から任意の方向を0度とし、その方向に対して時計周りに45度、90度、135度の4方向のそれぞれにおいて、一軸引張試験による5%伸長時の応力が、35~130MPaであることが好ましく、40~90MPaであることがより好ましく、45~85MPaであることがさらに好ましい。加えて、各応力の最大値と最小値の差が35MPa以下であることが好ましく、30MPa以下であることがより好ましく、25MPa以下であることがさらに好ましく、20MPa以下であることが最も好ましい。
また、本発明のフィルムは、一軸引張試験による15%伸長時の応力が55~145MPaであることが好ましく、60~140MPaであることがより好ましく、60~130MPaであることがさらに好ましい。加えて、各応力の最大値と最小値の差が40MPa以下であることが好ましく、38MPa以下であることがより好ましく、34MPa以下であることがさらに好ましく、30MPa以下であることが最も好ましい。
なお、前記任意の方向0度は、特に限定的でなく、例えば、フィルム製造時の延伸工程におけるMDを0度とすることができる。
ポリアミド6樹脂フィルムは、前記応力の条件を満たさない場合、シーラント層を積層した積層体において、全方向での応力バランスが劣り、均一な成形性を得ることが困難となることがあり、また、本発明フィルムとシーラント層との間に金属箔を積層した積層体において、冷間成形時に、金属箔に十分な延展性が付与されないため、金属箔の破断が発生したり、デラミネーション、ピンホール等の不具合が発生する可能性が高くなる。
【0021】
本発明のポリアミド6樹脂フィルムの厚みは、内容物の種類によって、適宜選定されるため、特に限定されないが、包装体の小型化の要望から、30μm以下であることが好ましく、中でも25μm以下であることがより好ましく、15μm以下であることがさらに好ましい。
【0022】
本発明のポリアミド6樹脂フィルムは、厚み精度(厚みの均一性)が非常に高いものであることを示す指標として、フィルム面における任意の点から任意の方向を0度とし、その方向に対して時計回りに45度、90度、135度、180度、225度、270度および315度の8方向の厚みに対する変動係数(CV)が、0.04以下であることが好ましく、0.035以下であることがより好ましく、0.02以下であることがさらに好ましい。ポリアミド6樹脂フィルムは、厚みの変動係数が0.04以下である場合、フィルム表面の厚みのバラツキが非常に小さいものとなり、例えばフィルムの厚みが約15μm以下の場合であっても、金属箔と貼り合わせた積層体とし、深絞り冷間成形を行った際にデラミネーション、ピンホール等の不具合が発生せず、良好な成形性を得ることができる。変動係数が0.04を超える場合、厚み精度が低くなるため、特に厚みが薄いフィルムは、金属箔と貼り合わせた際に、金属箔に十分な延展性を付与することができず、デラミネーションまたはピンホールの発生が顕著となり、良好な成形性が得られないことがある。
【0023】
本発明のフィルムは、本発明の特性を損なわない範囲において、顔料、熱安定剤、酸化防止剤、耐候剤、難燃剤、可塑剤、離型剤、強化剤等を含有してもよい。例えば、熱安定剤や酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール類、燐化合物、ヒンダードアミン類、硫黄化合物、銅化合物、アルカリ金属ハロゲン化物等が挙げられる。
また、本発明のフィルムは、フィルムのスリップ性などの向上のために、各種無機系滑剤や有機系滑剤を含有してもよい。滑剤の具体例としては、クレー、タルク、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、ワラストナイト、シリカ、アルミナ、酸化マグネシウム、珪酸カルシウム、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カルシウム、アルミノ珪酸マグネシウム、ガラスバルーン、カーボンブラック、酸化亜鉛、三酸化アンチモン、ゼオライト、ハイドロタルサイド、層状ケイ酸塩、エチレンビスステアリン酸アミド等が挙げられる。
【0024】
また、本発明のフィルムは、本発明の効果を損なわない範囲で、コロナ放電処理や易接着処理などの表面処理が施されてもよい。
【0025】
<ポリアミド6樹脂フィルムの製造方法>
本発明のフィルムの製造方法は、特に限定されないが、例えば以下の方法によって、前記のような物性をもつポリアミド6樹脂フィルムを、より確実に製造することができる。
【0026】
(未延伸シート作製)
本発明において、ポリアミド6樹脂の未延伸シートは、単層構成の場合、例えばポリアミド6樹脂を押出機で加熱溶融してTダイよりシート状に押出し、エアーナイフキャスト法、静電印加キャスト法等の公知のキャスティング法により回転する冷却ドラム上で冷却固化して、未延伸状態の単層ポリアミド6樹脂シートを得ることができる。また、複層構成の場合、例えば、一般的な多層化装置である多層フィードブロック、スタティックミキサー、多層マルチマニホールドなどを用いて、未延伸状態の複層ポリアミド6樹脂シートを得ることができる。
【0027】
(モノマー除去)
本発明のフィルムは、前述したようにカプロラクタムモノマーの抽出量が0.1質量%以下であることが好ましく、フィルム製造工程において、モノマー除去工程を含むことが好ましい。
ポリアミド6樹脂は、溶融時に、カプロラクタムモノマーの生成量が増加するため、モノマー除去は、ポリアミド6樹脂が溶融した後に行うことが好ましく、未延伸シートの段階、延伸後の段階いずれにおいて行ってもよいが、モノマー除去効率の観点で、フィルムの結晶、配向が進んでいない未延伸シートの段階において行うことが好ましい。また、延伸工程前にモノマーを除去しておくと、延伸工程時にモノマーが大気中に放出されないため、製造工程汚染抑制の観点でも好ましい。
【0028】
モノマー除去は、ポリアミド6樹脂の未延伸シートを、緊張状態でモノマー除去槽の水に、0.5~10分接触させて行うことができる。
モノマー除去槽の水の温度は、20~70℃であることが好ましく、30~65℃であることがより好ましく、40~55℃であることがさらに好ましい。モノマー除去槽の水温が20℃未満では、短時間でモノマーの除去を行うことが難しい。水温が70℃を超えると、未延伸シートに皺が入りやすくなり、その後の延伸が不均一となって、延伸フィルムの品質が低下し、また、延伸時にフィルムが切断したり、フィルム端部の掴みはずれなどのトラブルが発生したりしやすく、操業性が低下する。
モノマー除去槽の水のpHは、6.5~9.0であることが好ましく、7.0~8.5であることがより好ましく、7.5~8.0であることがさらに好ましい。水のpHが6.5未満であると、得られるポリアミド6樹脂フィルムは、酸化劣化が進行することがある。また、モノマー除去槽の水は、フィルムに付着して作業者に触れるおそれがあるため、pHが9.0を超えるアルカリ性の水は、安全上好ましくない。
【0029】
モノマー除去工程において、ポリアミド6樹脂の未延伸シートが水と接触する時間は、水の温度とpHとによって左右されるが、0.5~10分であることが好ましく、1~3分であることがより好ましい。接触時間が0.5分未満では、モノマーを十分除去することが難しく、10分を超えると、工程が長くなり過ぎる上に、未延伸シートは、延伸時において水分率が高くなるため好ましくない。
【0030】
(吸水処理)
本発明において、未延伸シートは、モノマー除去工程を通過した後、延伸するに先立って、吸水処理を施し、水分率を2.0~5.0質量%に調整することが好ましく、4.0~5.0質量%に調整することがより好ましい。この吸水処理により、未延伸シートを適度に可塑化し、ポリアミド6樹脂の結晶化を抑制することで、延伸工程におけるフィルムの切断を防止することができる。未延伸シートは、水分率が2.0質量%未満であると、延伸工程において延伸応力が増大して切断などのトラブルが起き、操業性が低下し、一方、水分率が5.0質量%を超えると、後の予熱温度を高く設定する必要があり、厚み精度が低下する問題が起きることがある。未延伸シートの吸水処理は、40~90℃に温調された温水槽で、5分間以下の条件で施されることが好ましく、中でも、50~80℃に温調された温水槽で、1分間以下の条件で施されることが好ましい。
【0031】
(延伸)
未延伸シートは、延伸工程の前に予熱することが好ましく、予熱温度は170℃以上であることが好ましく、185℃以上であることがより好ましい。予熱温度が170℃より低いと、未延伸シートは、前記吸水処理によって含有した水分が十分に乾燥せず、延伸工程において切断することがある。一方、予熱温度は210℃以下であることが好ましく、200℃以下であることがより好ましい。予熱温度が210℃を超えると、延伸後のフィルムの厚み精度が低下し、得られる積層体は、成形性が低下することがある。予熱時間は1.5~4.0秒であることが好ましい。
【0032】
延伸は、一軸延伸または二軸延伸のいずれでもよいが、フィルムの流れ方向(MD)および巾方向(TD)の引張破断伸度向上の観点から、二軸延伸であることが好ましい。ポリアミド6樹脂フィルムは、二軸延伸することで、未延伸状態よりもMDおよびTDに優れた機械的物性を示すため、包装材料に求められる物性を満たすことができる。二軸延伸法としては、同時二軸延伸法または逐次二軸延伸法のいずれも採用することができる。
【0033】
同時二軸延伸法としては、例えばテンターを用いて、未延伸シートの両端を把持し、シートのMDに延伸すると同時にTDにも延伸するテンター式同時二軸延伸法が挙げられる。テンター式同時二軸延伸法は、チューブラー式同時二軸延伸法に比べて、厚み制御に優れたポリアミド6樹脂フィルムを得ることが可能となるため好ましい。
テンター式同時二軸延伸は、パンタグラフ方式テンター、スクリュー方式テンター、リニアモーター方式テンターなどを用いて行うことができる。リニアモーター方式テンターは、他方式テンターに比べて、得られるフィルムの物性の調整が容易であるため好ましい。
【0034】
また、逐次二軸延伸は、例えばMD、TDの少なくとも一方向を、テンターにより延伸することが好ましい。これにより、より均一なフィルム厚みを得ることが可能となる。テンターを用いる逐次二軸延伸は、(1)回転速度が異なる複数のロールに未延伸シートを通過させることによりMDに延伸した後、延伸されたフィルムをテンターによりTDに延伸する方法、(2)未延伸シートをテンターによりMDに延伸した後、延伸されたフィルムをテンターによりTDに延伸する方法等がある。得られるフィルムの物性、生産性、設備面等の点で前記(1)の方法が好ましい。
【0035】
二軸延伸において、延伸倍率は、MDおよびTDに、それぞれ2.5~4.0倍であることが好ましく、3.0~3.5倍であることがより好ましい。MD、TDの延伸倍率が2.5倍未満であると、延伸後のフィルムは、厚みムラができてしまい、厚み精度が低下する。一方、MD、TDの延伸倍率が4.0倍を超えると、延伸後のフィルムは、収縮応力が高くなり、成形の際に破断の原因となる。
また、本発明の製造方法では、延伸工程において、MDの延伸倍率Xと、TDの延伸倍率Yを、下記式を満たす倍率に設定して、延伸することが好ましい。
0.85≦X/Y≦0.95
8.5≦X×Y≦9.5
上記式のいずれか一方でも満たさずに延伸した場合、得られるポリアミド6樹脂フィルムは、4方向の応力のバランスが劣り、得られる積層体は、均一な成形性を示すことが困難となることがある。
【0036】
同時二軸延伸の場合、未延伸シートを延伸する際の温度は、180~210℃であることが好ましく、190~200℃であることがより好ましい。
【0037】
(熱処理)
本発明のポリアミド6樹脂フィルムの製造方法においては、延伸工程を終了した後のフィルムについて、少なくとも3段階の特定の温度条件で熱処理を行う工程を含む。熱処理工程は少なくとも3段階の設定温度で行い、下記の関係を満たすものである。なお、本発明において、延伸ゾーンの最後のセクションの温度を「延伸工程の最終温度(A(℃))」とし、熱処理ゾーンの最初のセクションの温度を「熱処理工程の初期温度(B(℃))」とし、最後のセクションの温度を「熱処理工程の最終温度(D(℃))」とし、熱処理ゾーンの最高温度を「熱処理工程の最高温度(C(℃))」とする。
本発明においては、熱処理工程の初期温度(B(℃))は、延伸工程の最終温度(A(℃))よりも低く、また熱処理工程の最終温度(D(℃))は、熱処理工程の最高温度(C(℃))よりも低いことが重要である。すなわち、ポリアミド6樹脂フィルムの製造において、A>B<C>Dの温度条件を満たす熱処理工程を行うことで、本発明で規定する補外開始温度のポリアミド6樹脂フィルムを得ることができる。
また、補外開始温度向上、成形性向上の観点で、下記式(1)~(3)を満たす温度に設定して、熱処理することが好ましい。
【0038】
上記のように、熱処理工程の初期温度(B(℃))を、延伸工程の最終温度(A(℃))よりも低くするとともに、下記式(1)に示す温度以上に設定して、熱処理することが好ましい。
A>B≧180 (1)
すなわち、熱処理工程の初期温度(B)を、延伸工程の最終温度(A)よりも低い温度とし、温度差(A-B)を、3℃以上とすることが好ましく、5℃以上とすることがより好ましい。熱処理工程を、延伸工程の最終温度より低い温度で開始することで、熱処理工程のフィルムが延伸工程側へ引き込まれる現象を抑制することができ、より均一で高い結晶化度を有するフィルムを得ることができる。
一方、熱処理工程の初期温度(B)は、延伸応力緩和の観点から、180℃以上であることが好ましく、185℃以上であることがより好ましく、190℃以上であることがさらに好ましい。熱処理工程の初期温度が180℃未満であると、延伸応力の緩和が不十分となり、得られるフィルムは、沸水収縮率などの物性が低下することがある。
【0039】
本発明において、熱処理工程の最高温度(C(℃))を、熱処理工程の初期温度(B(℃))に対して、下記式(2)を満たす温度に設定して、熱処理することが好ましい。
B+10≦C≦230 (2)
すなわち、熱処理工程の最高温度(C)は、熱処理工程の初期温度(B)よりも10℃以上高いことが好ましく、15℃以上高いことがより好ましく、20℃以上高いことがさらに好ましい。熱処理工程内において、徐々に温度を上昇させることで、フィルムは、全体の温度が均一になり、熱処理工程後にフィルムが冷却された際に、結晶化がより均一となる。また、熱処理工程の最高温度(C)は、200℃以上であることが好ましく、205℃以上であることがより好ましく、210℃以上であることが最も好ましい。熱処理工程の最高温度(C)が200℃未満の場合、得られるフィルムは、延伸応力緩和が不十分となり、フィルム面内の物性が不均一になる可能性や、沸水収縮率などの物性が低下してしまう可能性が高くなる。
一方、熱処理工程の最高温度(C)は、得られるフィルムの力学特性の観点から、230℃以下であることが好ましく、225℃以下であることがより好ましく、220℃以下であることがさらに好ましい。フィルムの延伸応力の緩和に高温熱処理が有効であることは広く知られているが、熱処理工程の最高温度(C)が230℃を超えると、得られるポリアミド6樹脂フィルムは、機械的強度が低下し、成形性が低下することがある。
【0040】
前述のように、熱処理工程の最終温度(D(℃))を、熱処理工程の最高温度(C(℃))よりも低くするとともに、下記式(3)に示す温度以上に設定して、熱処理することが好ましい。
C>D≧C-40 (3)
すなわち、熱処理工程の最終温度(D)を、熱処理工程の最高温度(C)よりも低い温度とし、温度差(C-D)を10℃以上とすることが好ましく、15℃以上とすることがより好ましい。
一方、温度差(C-D)は、40℃以下であることが好ましく、30℃以下であることが好ましく、25℃以下であることがさらに好ましい。
熱処理工程内で徐々に温度を下げることで、得られるフィルムは、熱処理工程後の急冷を防ぐことができ、Timを高くすることができる。
【0041】
熱処理工程の時間は、延伸応力緩和の観点から、1秒以上であることが好ましい。熱処理工程の時間が1秒未満の場合、フィルムは、延伸応力が緩和される前に、熱処理が終了することがある。一方、熱処理工程の時間は、生産効率の観点から、10秒以下であることが好ましく、9秒以下であることがより好ましく、8秒以下であることがさらに好ましい。
【0042】
(リラックス処理)
本発明においては、熱処理工程中または後に、ポリアミド6樹脂フィルムをリラックス処理することが好ましい。
リラックス率は、MDおよびTDのいずれにも1~10%であることが好ましく、5~8%であることがより好ましい。ポリアミド6樹脂フィルムは、リラックス率が10%を超えるように設定しても、十分にリラックスせず、生産機台に接触してスリキズや切断が発生することがある。これを解消するには長時間のリラックス処理が必要となり、生産効率が著しく低下する。一方、リラックス率が1%未満であると、ポリアミド6樹脂フィルムの沸水収縮率を十分に低減するために、高温でリラックス処理することが必要となり、ポリアミド6樹脂フィルムは、機械的物性が低下することがある。また、MDのリラックス率およびTDのリラックス率の比(MD/TD)は0.66~1.50であることが好ましく、0.80~1.25であることがより好ましい。リラックス率の比(MD/TD)が0.66未満や1.50を超えると、ポリアミド6樹脂フィルムは、MDとTDの沸水収縮率のバランスが劣り、得られる積層体は成形性が低下する。
リラックス処理の温度は、180~230℃であることが好ましく、190~215℃であることがより好ましく、200~210℃であることがより好ましい。
リラックス処理の時間は、1~10秒であることが好ましい。
リラックス処理は、MDとTDに同時におこなってもよく、前後しておこなってもよい。
【0043】
<積層体>
本発明のポリアミド6樹脂フィルムは、単独で使用することもできるが、他の層と積層した二層以上の積層体としても使用することができ、特に、ポリアミド6樹脂フィルムとシーラント層とをそれぞれ最外層として積層した積層体として使用することが好ましい。
本発明の積層体は、包装材料として用いることが好適である。
【0044】
(シーラント層)
積層体におけるシーラント層は、耐薬品性および熱封止性の観点で、ポリエチレン、ポリプロピレン、オレフィン系共重合体、これらの酸変性物およびアイオノマーで構成されることが好ましい。オレフィン系共重合体として、エチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン・アクリル酸共重合体(EAA)、エチレン・メタアクリル酸共重合体(EMAA)が挙げられる。酸変性物として、無水マレイン酸変性ポリプロピレン、無水マレイン酸変性ポリエチレン等が挙げられる。
【0045】
積層体におけるシーラント層の厚みは、力学特性の観点から、30~200μmであることが好ましく、厚さの下限は、40μmであることがより好ましく、積層体を電池用包材として用いる場合は、内容物が電解液であるため、50μmであることがさらに好ましく、70μmであることが最も好ましい。一方、ヒートシール性の観点から、シーラント層の厚さの上限は、180μmであることがより好ましい。
【0046】
ポリアミド6樹脂フィルムまたはその積層体にシーラント層を積層する方法は、公知の方法を用いることができ、例えば、熱ラミネート法や押出しラミネート法が挙げられ、耐熱性の観点で、熱ラミネート法が好ましい。
【0047】
(バリア層)
本発明の積層体は、ポリアミド6樹脂フィルムとシーラント層の間にバリア層を有することが好ましく、少なくとも、ポリアミド6樹脂フィルムとバリア層とシーラント層がこの順に積層されていることが好ましい。
バリア層は、特に限定されないが、金属箔、アルミ蒸着フィルム、透明蒸着フィルムなどの無機系のバリア層や、ポリビニルアルコールやエチレン-ビニルアルコール共重合体等の有機系のバリア層などが挙げられる。バリア層は、バリア性の高いものが好ましく、中でも金属箔がより好ましい。金属箔の例としては、アルミニウム箔、ステンレス箔、ニッケル箔、銅箔、チタン箔、これらの金属のクラッド箔やめっきを施しためっき箔が挙げられる。バリア層の厚みは15~150μmであることが好ましく、20~100μmであることがより好ましい。積層体は、バリア層の厚みが15μm以上であると、ピンホール発生を防止でき、150μm以下であると、深絞り成形や、張り出し成形等の成形性が向上する。
【0048】
(接着剤層)
本発明において、積層体の各層は接着剤層を用いて積層されることが好ましい。接着剤層は、公知の接着剤を用いて形成することができる。接着剤としては、例えば、主剤としてのポリエステル樹脂と硬化剤としての多官能イソシアネート化合物とによる二液硬化型ポリエステル-ウレタン系樹脂、ポリエーテル-ウレタン系樹脂、ポリウレタン系接着剤、アクリル系接着剤、エポキシ系接着剤、酸変性ポリオレフィン系接着剤、エラストマー系接着剤、フッ素系接着剤等が挙げられる。接着剤層の乾燥後の厚みは1~4μmが好ましい。
【0049】
本発明の積層体には、前記した層以外に、プライマー層(アンカーコート層:AC層)や各種コート層などの層を設けてもよい。
【0050】
(積層体の使用)
本発明のポリアミド6樹脂フィルムを積層した積層体は、成形性に優れており、例えば、冷間成形による深絞り成形や張り出し成形を好ましく採用して成形することができる。
【0051】
本発明の積層体は、包装材料として好適に用いることができる。包装材料は、各種の食品や工業製品の包装用袋や包装用容器等、様々な用途に使用できる。包装用袋としては、例えば、ピロー袋、ガゼット袋、スタンド袋等の各種の袋体として用いることができる。
本発明の包装材料によって内容物が包装されてなる製品(包装製品)の包装状態としては、例えば、包装用袋や包装用容器等によって内容物が外部から密封された状態等を挙げることができる。袋体の成形は、公知の方法に従って実施すればよく、例えば、リチウムイオン電池の外装体の成形には、深絞り成形が好適に用いられる。
【0052】
本発明の電池は、負極、正極、セパレータおよび電解質を含む発電要素と、その発電要素を包装する外装体とを含むものであり、外装体として本発明の包装材料を用いたものであり、外装体が電池の最外層として配置されているものも含む。
【実施例】
【0053】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、これらの実施例のみに限定されるものではない。
【0054】
(1)融解ピーク温度および補外融解開始温度
JIS K7121:2012に準拠して測定を実施した。
具体的には、ポリアミド6樹脂フィルムから10mgの円形試験片を採取し、アルミセルに封入して試料を作製した。その後、入力補償型示差走査熱量分析装置(パーキン・エルマー社製 Pyris1/DSC)を用いて、初期温度50℃で1分間保持後、260℃まで5℃/分の速度で昇温してDSC曲線を得た。得られたDSC曲線について、全域にスムージングポイント10でスムージングを実施し、150~230℃の範囲にて、ポリアミド6樹脂フィルムの融解ピーク温度[℃]および補外融解開始温度[℃]を求めた。
なお、融解ピーク温度(Tpm)は、融解ピーク頂点の温度とし、補外融解開始温度(Tim)は、低温側のベースラインを高温側に延長した直線と、融解ピークの低温側の曲線に勾配が最大になる点で引いた接線の交点の温度とした。
【0055】
(2)ヒートシール性(融着個数)
得られた積層体を幅20mm×長さ300mmの短冊形にカットした。2枚のカット品のシーラント層どうしを重ね合わせた試験片について、ヒートシール装置(テスター産業社製 TP-701G)を用い、シール圧を9.8N(1kg/cm2)、シール温度とシール時間を、200℃×6秒間、200℃×10秒間、210℃×6秒間の3条件として、シールバーによる片面加熱を行ない、全面をヒートシールして、熱封止部(ヒートシール部)を形成する試験を行った。
上記ヒートシール試験を10個の試験片について実施し、10個の試験片のうち、試験片のポリアミド6樹脂フィルムがシールバーに融着する状態が生じた試験片の個数を計数した。シールバーに融着する状態が生じた試験片の個数は、実用的には3個以下であり、1個以下が好ましく、0個が最も好ましい。
【0056】
(3)ヒートシール性(シール強度)
得られた積層体を幅200mm×長さ300mmの形状にカットした。2枚のカット品のシーラント層どうしを重ね合わせて、ヒートシール装置(テスター産業社製 TP-701G)を用い、シール圧を9.8N(1kg/cm2)、シール温度とシール時間を、200℃×6秒間、200℃×10秒間、210℃×6秒間の3条件として、シールバーによる片面加熱によりヒートシールした。
ヒートシールして得られた試験片を、長手方向にシール部と非シール部が並行になる形で15mm幅に切り出し、23℃×50%RH環境下で1日調湿後、オートグラフ(島津製作所社製AS-1S型)を用い、チャックで非シール部を掴み、チャック間距離3cm、引張り速度300mm/分でT型剥離試験を行った。得られたヒートシール強力を試験片巾(15mm)で割り返して、ヒートシール強度(N/cm)を求めた。ヒートシール強度は高いほど良いが、おおむね40N/cm以上あれば実用上問題ない。
【0057】
(4)連続生産性
上記ヒートシール試験(210℃×6秒間)を50個の試験片について連続して実施し、41個目から50個目の10個の試験片のうち、試験片のポリアミド6樹脂フィルムがシールバーに融着する状態が生じた試験片の個数を計数した。シールバーに融着する状態が生じた試験片の個数は、実用的には3個以下であり、1個以下が好ましく、0個が最も好ましい。
【0058】
(5)フィルム中のカプロラクタムモノマーの抽出量
[測定試料の調製]
得られたポリアミド6樹脂フィルムを0.5cm角に裁断し、0.5gとなるように精秤した。これを10mlヘッドスペース瓶に採り、これに蒸留水10mlを添加し、ブチルゴム製栓とアルミキャップで密封した後、沸騰水浴中(100℃)で2時間抽出を行った。これを冷却後、0.45μmディスクフィルターでろ過し、測定試料とした。測定試料は下記条件でHPLC測定を行った。なお、カプロラクタムモノマーの検出限界は3ppmである。
[検量線]
カプロラクタムは、0.1gを100mlの蒸留水に溶解し、さらに希釈して100ppmの標準溶液を調整し、検量線を得た。
[HPLC条件]
装置:HewlettPacjard社製、HP1100HPLCsystem
カラム:Waters Puresil 5μ C18 200オングストローム、4.6mm×250mm(40℃)
検出器:UV210nm
溶離:メタノール/水(容積比)=35/75液で12分間実施し、その後3分かけてメタノール/水(容積比)=100/0液に切り替えて30分間実施し、その後5分かけてメタノール/水(容積比)=35/75液に切り替えてから20分間実施した。
流量:0.7ml/分
注入量:10μl、ただし濃度の低いものは50μl
[計算方法]
上記条件にて検出された試料のモノマーから、試料中のモノマーの質量を計算し、フィルムの質量で除した値をモノマーの抽出量(質量%)とした。
【0059】
(6)5%および15%伸長時の応力
ポリアミド6樹脂フィルムを23℃×50%RHで2時間調湿した後、フィルム上の任意の点Aを中心点とし、フィルム製造時の延伸工程におけるMDを基準方向(a)0度とし、その基準方向(a)から時計回りに45度方向(b)、90度方向(c)および135度方向(d)の各方向を測定方向とし、中心点Aから各測定方向に100mm、かつ、測定方向に対して垂直方向に15mmの短冊状に裁断したものを試料とした。例えば、0度方向では中心点Aから30mm~130mmの範囲で試料(縦100mm×横15mm)を切り取った。他の方向についても同様に試料を切り取った。
これらの試料について、50N測定用のロードセルとサンプルチャックとを取り付けた引張試験機(島津製作所社製 AG-1S)を用い、引張速度100mm/minにて、5%および15%伸長時の応力をそれぞれ測定した。
【0060】
(7)エリクセン値
JIS Z2247に基づいて、エリクセン試験機(安田精機製作所社製 No.5755)を用い、得られた積層体に鋼球ポンチを所定の押し込み深さで押し付け、エリクセン値を求めた。エリクセン値は0.5mmごとに測定した。積層体は、冷間成形や深絞り成形に用いる場合、エリクセン値が5mm以上であることが好ましく、8mm以上であることがより好ましい。
【0061】
(8)厚み精度
ポリアミド6樹脂フィルムを23℃×50%RHで2時間調湿した後、フィルム上の任意の点Aを中心点とし、フィルム製造時の延伸工程におけるMDを基準方向(0度方向)として、中心点Aから基準方向(a)、基準方向に対して時計回りに45度方向(b)、90度方向(c)、135度方向(d)、180度方向(e)、225度方向(f)、270度方向(g)および315度方向(h)の8方向へそれぞれ100mmの点の厚みを、長さゲージ(ハイデンハイン社製 HEIDENHAIN-METRO MT1287)により測定した。
同様に、10セット測定を繰り返し、得られたデータ合計80点の測定値の標準偏差と平均値を算出し、下記式で変動係数を求めた。
変動係数(CV)=標準偏差÷平均値
【0062】
(ポリアミド6樹脂)
本発明において、以下のポリアミド6樹脂を使用した。
ポリアミド6樹脂A:ユニチカ社製A1030BRF(Tim=212℃)
ポリアミド6樹脂B:三菱樹脂社製ノバミッド1022(Tim=215℃)
【0063】
実施例1
(ポリアミド6樹脂フィルムの製造)
ポリアミド6樹脂A(相対粘度3.23)を用いて、温度260℃でTダイより溶融押出しし、15℃のドラム上で冷却して、厚さ150μmの未延伸シートを得た。
得られた未延伸シートを、温度53℃、pH7.9に設定したモノマー除去槽に導き、モノマー除去工程として、1分間水中に浸漬した。その後に、60℃の水分調整層に導き、水分調整工程として、水中に20秒浸漬させて、未延伸シートの水分率が4.0%となるよう吸水させた。
吸水処理された未延伸シートを、リニアモーター駆動のテンター式同時二軸延伸機に導き、190℃で予熱した後、延伸温度198℃、延伸工程の最終温度(A)(均等配分された10セクションの延伸ゾーンのうちの最後のセクションの温度)197℃、MD延伸倍率2.9倍、TD延伸倍率3.2倍の条件で同時二軸延伸した。
次に、同時二軸延伸後のフィルムを、熱処理ゾーンで2.7秒間熱処理を行なった。10セクションに均等配分した熱処理ゾーンの最初のセクション(セクション1)温度(熱処理工程の初期温度(B))を192℃とし、4番目のセクション(セクション4)において熱処理工程の最高温度(C)を215℃とし、最後のセクション(セクション10)温度(熱処理工程の最終温度(D))を194℃とした。その後、リラックス温度205℃、フィルムのMDに6.0%、TDに6.0%のリラックス率でリラックス処理を施し、厚さ15μmのポリアミド6樹脂フィルムを得て、片面にコロナ処理を行い、ロール状に採取した。
【0064】
得られたフィルムは、補外融解開始温度(Tim)219.1℃、融解ピーク温度(Tpm)223.1℃であった。また、5%伸長時の引張強度は、0度83.6MPa、45度71.1MPa、90度64.2MPa、135度71.1MPaであり、最大値-最小値は19.4MPaであった。また、15%伸長時の引張強度は、0度112.0MPa、45度97.4MPa、90度104.9MPa、135度125.8MPaであり、最大値-最小値は28.4MPaであった。
【0065】
(積層体の作製)
得られたポリアミド6樹脂フィルムのコロナ処理を施した面に、二液型ポリウレタン系接着剤(東洋モートン社製 TM-K55/CAT-10L)を、塗布量が5g/m2となるように塗布し、80℃で10秒間乾燥した。その接着剤塗布面に、バリア層としてアルミニウム箔(厚み40μm)を貼り合わせた。
次に、アルミニウム箔面に、上記接着剤を同じ条件で塗布し、シーラント層として未延伸ポリプロピレンフィルム(三井化学東セロ社製 RXC-22、厚み100μm)を貼り合わせ、40℃の雰囲気下で72時間エージング処理を実施し、ポリアミド6樹脂フィルム/アルミニウム箔/未延伸ポリプロピレンフィルムからなる構成の積層体を作製した。
【0066】
実施例2~11、参考例1、比較例1~4
ポリアミド6樹脂の種類、製造条件を表1に示したものに変更した以外は、実施例1と同様の方法でポリアミド6樹脂フィルムと積層体とを作製した。
比較例1で得られたポリアミド6樹脂フィルムは、補外融解開始温度(Tim)215.0℃、融解ピーク温度(Tpm)223.2℃であった。また、5%伸長時の引張強度は、0度84.7MPa、45度75.4MPa、90度66.1MPa、135度74.0MPaであり、最大値-最小値は18.6MPaであった。また、15%伸長時の引張強度は、0度109.2MPa、45度100.7MPa、90度113.6MPa、135度128.6MPaであり、最大値-最小値は27.9MPaであった。
【0067】
実施例12
ポリアミド6樹脂A(相対粘度3.23)を用いて、温度260℃でTダイより溶融押出しし、15℃のドラム上で冷却して、厚さ150μmの未延伸シートを得た。
得られた未延伸シートを、モノマー除去工程を通過させずに、60℃の水分調整層に導き、水分調整工程として、水中に20秒浸漬させて、未延伸シートの水分率が4.0%となるよう吸水させた。その後、リニアモーター駆動のテンター式同時二軸延伸機に導き、190℃で予熱した後、延伸温度198℃、延伸工程の最終温度(A)(均等配分された10セクションの延伸ゾーンのうちの最後のセクションの温度)197℃、MD延伸倍率2.9倍、TD延伸倍率3.2倍の条件で同時二軸延伸した。
次に、同時二軸延伸後のフィルムを、熱処理ゾーンで2.7秒間熱処理を行なった。10セクションに均等配分した熱処理ゾーンの最初のセクション(セクション1)温度(熱処理工程の初期温度(B))を193℃とし、4番目のセクション(セクション4)において熱処理工程の最高温度(C)を215℃とし、最後のセクション(セクション10)温度(熱処理工程の最終温度(D))を194℃とした。その後、リラックス温度205℃、フィルムのMDに6.0%、TDに6.0%のリラックス率でリラックス処理を施し、厚さ15μmのポリアミド6樹脂フィルムを得て、片面にコロナ処理を行いロール状に採取した。
得られたポリアミド6樹脂フィルムを使用して実施例1と同様にして積層体を作製した。
【0068】
実施例14
実施例1と同様にして、水分率が4.0%の未延伸シートを得た。
吸水処理された未延伸シートを、パンタグラフ方式のテンター式同時二軸延伸機に導き、190℃で予熱した後、延伸温度198℃、延伸工程の最終温度(A)(均等配分された10セクションの延伸ゾーンのうちの最後のセクションの温度)197℃、MD延伸倍率2.9倍、TD延伸倍率3.2倍の条件で同時二軸延伸した。
次に、同時二軸延伸後のフィルムを、熱処理ゾーンで2.7秒間熱処理を行なった。10セクションに均等配分した熱処理ゾーンの最初のセクション(セクション1)温度(熱処理工程の初期温度(B))を192℃とし、4番目のセクション(セクション4)において熱処理工程の最高温度(C)を215℃とし、最後のセクション(セクション10)温度(熱処理工程の最終温度(D))を194℃とした。その後、リラックス温度205℃、フィルムのMDに6.0%、TDに6.0%のリラックス率でリラックス処理を施し、厚さ15μmのポリアミド6樹脂フィルムを得て、片面にコロナ処理を行いロール状に採取した。
得られたポリアミド6樹脂フィルムを使用して実施例1と同様にして積層体を作製した。
【0069】
実施例15
実施例1と同様にして、水分率が4.0%の未延伸シートを得た。
吸水処理された未延伸シートを、周速の異なる加熱ローラー群からなるMD延伸機により、延伸倍率2.9倍で縦延伸した。その後、テンターにより、3.2倍に横延伸して逐次延伸処理を実施した。横延伸温度は198℃、横延伸工程の最終温度(A)(均等配分された10セクションの延伸ゾーンのうちの最後のセクションの温度)は198℃とした。
次に、逐次二軸延伸後のフィルムを、熱処理ゾーンで2.7秒間熱処理を行なった。10セクションに均等配分した熱処理ゾーンの最初のセクション(セクション1)温度(熱処理工程の初期温度(B))を192℃とし、4番目のセクション(セクション4)において熱処理工程の最高温度(C)を215℃とし、最後のセクション(セクション10)温度(熱処理工程の最終温度(D))を194℃とした。その後、リラックス温度205℃、フィルムのMDに6.0%、TDに6.0%のリラックス率でリラックス処理を施し、厚さ15μmのポリアミド6樹脂フィルムを得て、片面にコロナ処理を行いロール状に採取した。
得られたポリアミド6樹脂フィルムを使用して実施例1と同様にして積層体を作製した。
【0070】
比較例5
汎用ポリアミド6樹脂フィルム(興人社製ボニールRX 15μm)について、補外融解開始温度(Tim)、融解ピーク温度(Tpm)等を測定し、また、実施例1と同様にして積層体を作製した。
【0071】
ポリアミド6樹脂フィルムの製造条件、補外融解開始温度、融解ピーク温度、モノマー抽出量、一軸引張試験における応力の最大値と最小値の差、厚みの変動係数、作製した積層体のエリクセン値、ヒートシール評価を表1~2に示す。
【0072】
【0073】
【0074】
実施例1~12、14~15のポリアミド6樹脂フィルムは、Timの値が本発明で規定する範囲であるため、得られた積層体は、高温ヒートシール性に優れ、シールバーへの熱融着が抑制されており、生産速度の上昇および加工トラブルの抑制が達成されたものであった。
実施例1のポリアミド6樹脂フィルムは、モノマー抽出量が0.1質量%以下であり、得られた積層体は、ヒートシール時におけるモノマー成分の部分的融解を防ぐことができ、実施例12の積層体に比較して、連続生産に優れたヒートシール性を示していた。
実施例1~12および14~15のポリアミド6樹脂フィルムは、MD延伸倍率とTD延伸倍率が最も好ましい条件であったため、4方向のそれぞれにおける一軸引張試験による5%および15%伸長時の各応力の最大値と最小値の差がいずれも好適条件を満たしており、積層体は、好適なエリクセン値を示し、成形加工性に優れたものであった。
【0075】
比較例1~3のポリアミド6樹脂フィルムは、Timの値が本発明で規定する範囲を満たしていなかったため、積層体のポリアミド6樹脂フィルムは、ヒートシール時に部分的な融解が生じ、シールバーへの熱融着が生じた。
比較例4において、比較例3で用いたポリアミド6樹脂に代えて、Timが高い(215℃)ポリアミド6樹脂を用いたが、フィルムの製造条件が本発明における好適な条件を満たしていなかったため、比較例3と同様に、フィルムのTimが本発明で規定する範囲を満たしておらず、積層体のポリアミド6樹脂フィルムは、ヒートシール時に部分的な融解が生じ、シールバーへの熱融着が生じた。
比較例5において、汎用ポリアミド6樹脂フィルム(興人社製ボニールRX 15μm)を評価したところ、本発明で規定するTimを満たしていなかったため、積層体のポリアミド6樹脂フィルムは、ヒートシール時に部分的な融解が生じ、シールバーへの熱融着が生じた。また、この汎用ポリアミド6樹脂フィルムは、チューブラー式の製膜方法で生産されているためか、厚みのばらつきが大きかった。
【要約】
示差走査熱量測定(DSC)において、50℃から260℃まで昇温速度5℃/分で昇温した際の補外融解開始温度(Tim)が216.0℃以上であることを特徴とするポリアミド6樹脂フィルム。