(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-08
(45)【発行日】2022-01-12
(54)【発明の名称】上向き排気・排熱構造を有するジグ研削盤
(51)【国際特許分類】
B24B 55/02 20060101AFI20220104BHJP
B23Q 11/12 20060101ALI20220104BHJP
【FI】
B24B55/02 B
B23Q11/12 Z
(21)【出願番号】P 2017187652
(22)【出願日】2017-09-28
【審査請求日】2020-08-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000174987
【氏名又は名称】三井精機工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098279
【氏名又は名称】栗原 聖
(72)【発明者】
【氏名】山本 正吾
(72)【発明者】
【氏名】浅井 岳見
【審査官】亀田 貴志
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-169345(JP,A)
【文献】特開平11-048087(JP,A)
【文献】実開昭60-178535(JP,U)
【文献】特開2006-102939(JP,A)
【文献】特開平07-237085(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 55/02
B23Q 11/12
B24B 41/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともヘッド、テーブル、砥石軸モータをその内部に含む加工室を有し、該加工室を覆うカバーが設けられ、該カバーには、前記ヘッドの両側に対応する位置にそれぞれ排気穴を設け、該排気穴に連結された排気ダクトが前記ヘッドの両側に対応する位置から、砥石軸モータの発熱により高温となり四方へ向かう空気を吸い出すために前記排気ダクトを前記砥石軸モータ近くまで下方に延ばして設けることで前記砥石軸モータの発熱により高温となり四方へ向かう空気を上向きに排気する第1の上向き排気構成と、前記カバーの側面の前記テーブルの略下側に対応する位置にスリットを設けると共に前記カバーの天面の前記ヘッド上部に換気扇を設けることで前記スリットから流入する空気を含め前記テーブル付近の空気を前記換気扇に向けて上向きに排気する第2の上向き排気構成とを備えたジグ研削盤であって、更に、前記加工室内に冷却用の圧縮空気を供給するラインが追加され、該供給される圧縮空気は前記加工室内の機械装置の熱変形に影響を与えないように調温されていることを特徴とするジグ研削盤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジグ研削盤に関し、特に、その排熱用の排熱構造に関する。
【背景技術】
【0002】
金属加工を行う工作機械の中で、特にジグ研削盤は、例えば、特許文献1に記載されているように、砥石を保持した砥石回転用のモータを高加速度で動かす機構を設け、比較的良好な仕上げ面を持った正確な輪郭を高能率に生成することを実現している。また、例えば、非特許文献1に記載されている装置では、円形穴加工においては、砥石軸モータを回転させ、更にその砥石軸自体を偏芯させた状態で保持して回転させ、さらにその状態を維持したままその機構自体を回転軸方向に往復運動させることを可能とする機構を有している。これらの工作機械では、例えば、砥石軸モータの発熱はロータリユニオン(ロータリジョイント)を通過して外部の固定装置から供給される圧縮空気等により四方へ排出され、また、加工熱もあわせて上部の開放部分より排出されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献】
【0004】
【文献】清水伸二著;「初歩から学ぶ工作機械」53頁
【文献】大河出版;「ツールエンジニア」2016年4月号, 51頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のジグ研削盤は、例えば、上記の非特許文献1に記載されているように、工作物と工具となる砥石周辺を覆い、以って切り屑の防止と砥石の破裂への対応としていた。一方、最近の機械では、非特許文献2に記載されているように、加工室全体を覆い砥石のみならず可動部から作業者の隔離を行う構造としている。しかしながら、この追加された密閉構造のために、上述した砥石軸モータの排熱が、囲う室内に滞留しやすくなった。加工室内に一旦滞留した熱は、テーブルそして工作物の温度を上昇させ、熱による変形を生じさせる。これが加工結果の正確さを著しく損なうことが問題となっている。通常、工作機械の工具回転用のモータについては、空気や油ないし水を循環させ、外に排熱を行うことが標準であるが、上述したような複雑な可動部分の構成により、循環経路の追加によるコストの増加が憚られる。
【0006】
本発明は、このような背景の中為されたものであり、その目的は、比較的容易に熱を取り除くことが可能な構造を有するジグ研削盤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明者は、種々検討を重ねた結果、空気をテーブル側から供給し上に向かって吸い上げるためヘッド上部に換気扇を設け上に排気する構造とし、集塵用ダクトを砥石軸モータの近くまで伸ばしモータから四方へ向かう空気を吸い出し排気が出来るだけテーブルに当たらないようにする構造を見出した。
【0008】
即ち、本発明のジグ研削盤では、少なくともヘッド、テーブル、砥石軸モータをその内部に含む加工室を有し、該加工室を覆うカバーが設けられ、該カバーには、前記ヘッドの両側に対応する位置にそれぞれ排気穴を設け、該排気穴に連結された排気ダクトが前記ヘッドの両側に対応する位置から、砥石軸モータの発熱により高温となり四方へ向かう空気を吸い出すために前記排気ダクトを前記砥石軸モータ近くまで下方に延ばして設けることで前記砥石軸モータの発熱により高温となり四方へ向かう空気を上向きに排気する第1の上向き排気構成と、前記カバーの側面の前記テーブルの略下側に対応する位置にスリットを設けると共に前記カバーの天面の前記ヘッド上部に換気扇を設けることで前記スリットから流入する空気を含め前記テーブル付近の空気を前記換気扇に向けて上向きに排気する第2の上向き排気構成とを備えたジグ研削盤であって、更に、前記加工室内に冷却用の圧縮空気を供給するラインが追加され、該供給される圧縮空気は前記加工室内の機械装置の熱変形に影響を与えないように調温されていることを特徴とする。
以上のように、本発明では、空気を上に向かって吸い上げるためヘッド上部に換気扇を設け上に排気する。
ヘッド上部に設ける換気扇の吸い込み近くには、複雑な可動機構を動かすためのモータ類を配置しそれらの排熱が下に向かわないようにしても良い。必要に応じて換気扇に向かう空気がモータ類に良く当たるように板材を追加して方向を制御する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、非特許文献2に記載された機械の場合、稼動条件によってはY方向(奥行き方向)の8時間動作での変位が半分以下に抑えられる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る工作機械としてのジグ研削盤の全体構成を示す図である。
【
図2】本発明の第1の実施形態に係る工作機械としてのジグ研削盤の主としてヘッド部分を示す図である。
【
図3】本発明の第1の実施形態に係るジグ研削盤において、加工室を覆うカバーと、その内部における熱の滞留状態を示す図である。
【
図4】本発明の第1の実施形態に係る工作機械としてのエアブロー装置が付属するジグ研削盤において、エアの流れる方向等を説明するための図である。
【
図5】本発明の第1の実施形態に係る工作機械としてのエアブロー装置が付属するジグ研削盤の主要部の構成を示す図であり、集塵用ダクトを砥石軸モータ近くまで延ばし、モータから四方へ向かう空気を吸い出す。
【
図6】本発明の第2の実施形態に係るジグ研削盤の主要部の構成を示す図であり、テーブル周辺での空気の流れが上向き傾向になるように、カバースリットを設ける例を示す。
【
図7】本発明の第3の実施形態に係るジグ研削盤の主要部の構成を示す図であり、ヘッド上部にファンを設け、コラムとヘッドの板金の隙間からも吸い上げる例を示す。
【
図8】本発明の第4の実施形態に係るジグ研削盤の主要部の構成を示す図であり、冷却用の圧縮空気のラインが追加されている例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る工作機械としてのジグ研削盤の要部の構成を示す図であり、
図2は、主として、そのヘッド部分を示す図である。
図1及び
図2には図示しないが、本実施形態に係るジグ研削盤は、ベッド、コラム80(
図3、
図5乃至
図8参照)等の一般的な機構部を有することは勿論である。
図1に示すように、本実施形態に係るジグ研削盤は、ヘッド100の先端に設けられた砥石102を回転させつつ、テーブル120上に載置されたワーク(図示せず)に対し、上下駆動装置104、回転駆動装置106、切り込み装置108等を介して、様々な加工動作を加えることにより、ワークに対するジグ研削を行う。
【0015】
ヘッド100の動作を詳細に述べれば、
図1及び
図2に示すように、本実施形態に係るジグ研削盤において、上下駆動装置104は、上下運動伝達装置104Aを介して、回転可能なクイル110を上下に駆動する。また、回転駆動装置106は、回転伝達装置106Aを介して、クイル110及びヘッド100下部の切り込み装置108を回転駆動する。また、切り込み装置108は、砥石回転モータ102Aごと砥石102をワークに切り込ませる。クイルの下側に設けた砥石のモータや切り込み装置108に電源や信号を供給するため、スリップリング104Bを介して配線が供給される。更に、回転伝達装置106A・上下運動伝達装置104Aを介して、その先端側に取付けられたクイル110が、上述した回転駆動装置106及び回転伝達装置106Aにより遊星回転(公転)することができる。ロータリーユニオン101を介して圧縮空気や潤滑剤が供給される。切り込み装置108の切り込み部108Aに取り付けられた砥石回転モータ102Aは、例えば、高周波モータにより構成されており、この砥石回転モータ102Aが回転することにより、そのモータ軸を砥石軸として取り付けられた砥石102が砥石回転(自転)することができる。
【0016】
ここで、
図1及び
図2に示すように、上下駆動装置104には、図示しないボールネジやリニアモータなどの駆動装置を備えており、Z軸に沿ってヘッド100に上下直線方向の運動を行う機能を与えている。また、回転駆動装置106は、図の下側の砥石102および砥石回転モータ102Aを切り込み装置108ごと、C軸(回転軸)に沿って回転させる機能を与えている。即ち、回転運動(C軸)と往復運動(Z軸)が互いを妨げず同時に行えるような構造になっている。また、切り込み装置108も、上記の上下駆動(Z軸)と直交する方向(U軸)に沿って直線運動を行うことが出来るように配置され、これも上記2つの運動を妨げない。そして、これらの運動とは別に砥石102に回転運動(自転)を与えることが出来る。そして、
図1に示すように、ヘッド100とは別にワークをのせてX-Y方向に駆動できるテーブル120及びその駆動装置(図示せず)を組み合わせることで、上述したワークに対するジグ研削加工が行える。また、図示しないコラム等に対してヘッド100全体を上下に運動できるW軸を備えている。従って、W軸は、Z軸と平行になる。本実施形態に係るジグ研削盤は、上記の座標軸を備え、以上の動作を行うことができる。
【0017】
ここで、
図2に示すように、ヘッド100上部から伸長するエアチューブ202が導管内に連結されており、このエアは、
図2に太い破線で示すように、クイル110内のエア通路(図示せず)を流れて、砥石回転モータ102A付近に冷却エアとして排気される。即ち、センタースルー構造で冷却エアを供給する構造であり、例えば、主軸部品とクイル110(工具ツール)双方の軸心部を連通して形成される共通の供給孔を介して、冷却エアが供給される。これにより、比較的簡単な構造で冷却エアを、工具の軸心部を通してセンターから供給することができ、クイル110(工具ツール)付近に冷却エアを吹き付け、駆動部品による発熱に対するクーラントエアとして用いることができる。尚、駆動部品としては、主として上下駆動装置104や回転駆動装置106、或いは砥石回転モータ102Aの駆動による発熱が大きい。尚、駆動部品による発熱に対するクーラントエアが供給されるだけではなく、図示しないが、砥石102によるワーク(図示せず)の切込みによる発熱等に対する潤滑油としてのクーラントも噴射され得るのは勿論である。
【0018】
図3は、本発明の第1の実施形態に係るジグ研削盤において、加工室を覆うカバーと、その内部における熱の滞留状態を示す図である。
図3に示すように、本実施形態に係るジグ研削盤においては、加工室300を覆うようにカバー302が設けられている。このため、上下駆動装置104(
図1及び
図2参照)や回転駆動装置106(
図1及び
図2参照)、或いは砥石回転モータ102Aの駆動による熱が、
図3に太い矢印で示すように、カバー302内部において滞留してしまう場合がある。尚、カバー302には、
図3では一方しか見えないが、ヘッド100の両側にそれぞれ排気穴304を設けている。しかしながら、これらの排気穴304を設けるだけでは、熱くなった空気を効果的に排気するのは困難である。
【0019】
図4は、本実施形態に係る工作機械としての、エアブロー装置が付属するジグ研削盤において、エアの流れる方向等を説明するための図である。即ち、本実施形態に係るジグ研削盤には、上述した冷却エアの他に、
図4に示すように、エアブロー装置402が付属している。このエアブロー装置402からは、主に、ワークWと工具としての砥石102付近にエアを吹き付け、切粉や残留クーラント(潤滑油)を除去することができる。
【0020】
図5は、本実施形態に係る工作機械としての、エアブロー装置(
図5には図示せず)が付属するジグ研削盤の主要部の構成を示す図である。即ち、本実施形態に係るジグ研削盤では、集塵用ダクト(排気ダクト)502を砥石軸モータ102A近くまで延ばし、砥石軸モータ102Aから四方へ向かう空気を吸い出すようにしている。即ち、本実施形態に係るジグ研削盤では、
図5に示すように、
図3に一方のみ示したそれぞれの排気穴304に連結する集塵用ダクト(排気ダクト)502がヘッド100の両側から設けられ、これらの集塵用ダクト(排気ダクト)502を砥石軸モータ102A近くまで延ばし、砥石軸モータ102Aから四方へ向かう空気を吸い出すようにしている。砥石軸モータ102Aは、高周波モータであり、高出力で高速回転するため発熱も大きく、この砥石軸モータ102Aから四方へ向かう空気は、温度が高い空気なので、ここから四方へ向かう空気を集塵用ダクト(排気ダクト)502が、
図5に矢印で示すように吸い出すようにすることで、効果的な排熱が可能となる。
【0021】
図6は、本発明の第2の実施形態に係るジグ研削盤の主要部の構成を示す図である。即ち、本発明の第2の実施形態に係るジグ研削盤では、上述した第1の実施形態と同様に、集塵用ダクト(排気ダクト)502を砥石軸モータ102A近くまで延ばし、砥石軸モータ102Aから四方へ向かう空気を吸い出す構成に加えて、テーブル120周辺での空気の流れが上向き傾向になるように、
図6に示すように、加工室300を覆うカバー302にスリット302Aを設けている。上述したように、集塵用ダクト(排気ダクト)502を砥石軸モータ102A近くまで延ばし、砥石軸モータ102Aから四方へ向かう空気を吸い出すために、カバー302内の加工室300では、下部付近が負圧になり易い。そこで、カバー302にスリット302Aを設けることで、スリット302Aを介してカバー302外部から空気が加工室300内に流入し、この空気のテーブル120周辺での流れを上向き傾向になるようにすることができる。これにより、カバー302にスリット302Aを設けない場合に比べて、より効果的な排熱が可能となる。
【0022】
図7は、本発明の第3の実施形態に係るジグ研削盤の主要部の構成を示す図である。即ち、本発明の第3の実施形態に係るジグ研削盤では、上述した第1及び第2の実施形態と同様の構成を有することに加えて、ヘッド100上部に換気扇(ファン)702を設け、コラム80とヘッド100の板金の隙間からも滞留エアを吸い上げるようにしている。即ち、本発明の第3の実施形態に係るジグ研削盤では、集塵用ダクト(排気ダクト)502を砥石軸モータ102Aの近くまで伸ばし砥石軸モータ102Aから四方へ向かう空気を吸い出す構成や加工室300を覆うカバー320にスリット302Aを設ける構成により、排気が出来るだけテーブル120に当たらないようにする効果に加え、集塵用ダクト(排気ダクト)502やスリット302Aの存在により空気をテーブル120側から供給し、その空気を上に向かって吸い上げるためにヘッド100上部に換気扇(ファン)702を設け上に排気する構造とした。これにより、ヘッド100及びコラム80の側方の矢印やコラム80の上方の矢印で示すように、コラム80とヘッド100の板金の隙間からも滞留エアを吸い上げることができ、より一層、効果的な排熱が可能となる。
【0023】
図8は、本発明の第4の実施形態に係るジグ研削盤の主要部の構成を示す図である。即ち、上述した第3の実施形態に係るジグ研削盤では、ヘッド100の上部に換気扇(ファン)702を設けたので、ヘッド100内部が負圧になりヘッド100内の部品の温度が上昇してしまう場合が懸念される。このようにヘッド100内部が負圧になり過ぎてヘッド100内の部品の温度が上昇してしまうことを避けるため、本発明の第4の実施形態に係るジグ研削盤では、必要に応じて加工室300内に圧縮空気を供給している。即ち、この第4の実施形態に係るジグ研削盤では、上述した第3の実施形態の換気扇(ファン)702を設ける構成に加えて、
図8に示すように、冷却用の圧縮空気のライン802が追加されている、尚、供給される圧縮空気は機械の熱変形に影響を与えないように調温されているのが望ましい。
【符号の説明】
【0024】
80 コラム、 100 ヘッド、 101 ロータリーユニオン、 102 砥石、
102A 砥石軸モータ、 104 上下駆動装置、 104A 上下運動伝達装置、
104B スリップリング、 106 回転駆動装置、 106A 回転伝達装置、
108 切り込み装置、 108A 切り込み部、 110 クイル、
120 テーブル、 202 エアチューブ、 300 加工室、 302 カバー、
302A スリット、 304 排気穴、 402 エアブロー装置、
502 集塵用ダクト(排気ダクト)、 702 換気扇(ファン)、
802 冷却用の圧縮空気のライン、 W ワーク