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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-08
(45)【発行日】2022-02-03
(54)【発明の名称】引き裂き性を有する熱収縮チューブ
(51)【国際特許分類】
   F16L 11/12 20060101AFI20220127BHJP
   B29C 61/02 20060101ALI20220127BHJP
   C08L 27/20 20060101ALI20220127BHJP
   C08J 5/00 20060101ALI20220127BHJP
   B29K 27/18 20060101ALN20220127BHJP
   B29L 23/00 20060101ALN20220127BHJP
【FI】
F16L11/12 N
B29C61/02
C08L27/20
C08J5/00 CEW
B29K27:18
B29L23:00
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2016128577
(22)【出願日】2016-06-29
(65)【公開番号】P2017044335
(43)【公開日】2017-03-02
【審査請求日】2019-05-24
(31)【優先権主張番号】P 2015164679
(32)【優先日】2015-08-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000145530
【氏名又は名称】株式会社潤工社
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 雅弘
(72)【発明者】
【氏名】由利 衡平
(72)【発明者】
【氏名】大久保 智世
【審査官】岩瀬 昌治
(56)【参考文献】
【文献】特許第5839310(JP,B1)
【文献】特開2001-011273(JP,A)
【文献】特開2014-144580(JP,A)
【文献】特開2015-034278(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 11/12
B29C 61/02
C08L 27/20
C08J 5/00
B29K 27/18
B29L 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベース樹脂として、少なくともテトラフルオロエチレン及びヘキサフルオロプロピレンを構成モノマーとして含む共重合体を含み、かつ該ベース樹脂以外の樹脂であって、少なくともテトラフルオロエチレン及びヘキサフルオロプロピレンを構成モノマーとして含む共重合体を含むチューブであって、チューブ長手方向の断面において観察される、高分子の絡み合い単位の太さが、9μm以下であることを特徴とする引き裂き性を有する熱収縮チューブ。
【請求項2】
前記ベース樹脂がパーフルオロアルキルビニルエーテルを構成モノマーとして含む共重合体であることを特徴とする請求項1に記載の引き裂き性を有する熱収縮チューブ。
【請求項3】
前記ベース樹脂以外の樹脂がパーフルオロアルキルビニルエーテルを構成モノマーとして含む共重合体であることを特徴とする請求項1~2に記載の引き裂き性を有する熱収縮チューブ。
【請求項4】
200℃に加熱したときの熱収縮率が48%以上であることを特徴とする請求項1~3に記載の引き裂き性を有する熱収縮チューブ。
【請求項5】
160℃に加熱したときの熱収縮率が38%以上であることを特徴とする請求項1~4に記載の引き裂き性を有する熱収縮チューブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
フッ素樹脂製の引き裂き性を有する熱収縮チューブに関するものであり、特にチューブの材質が熱可塑性フッ素樹脂からなる熱収縮性を有する引き裂きチューブに関するものである。
【背景技術】
【0002】
引き裂き性を有するチューブは、各種物品の使用時までの保護部材として利用されている。なかでもフッ素樹脂製の引き裂きチューブは、炭化水素系合成樹脂製の引き裂きチューブでは得られない、フッ素樹脂が有する耐熱性、耐薬品性、撥水撥油性、非粘着性、自己潤滑性などの特性を有している。そこで、これらの特性を利用して、精密機器、電子部品などの保護用チューブ、あるいはカテーテル、ガイドワイヤーなどを体内に導入するための医療機器導入用チューブ、カテーテルなどの組み立て治具として使用され、不要になると、チューブが引き裂かれて除去される。とくに、熱収縮性を有する引き裂きチューブは、内部の物品の保護を確実に行うことが可能であるが、熱収縮チューブと内部の物品との密着を十分なものとするためには熱収縮率が大きいことが必要である。さらに、近年では、熱収縮チューブを収縮させるときに加える熱による内部の物品に与える影響を、最小限にするために、より低い温度、より短時間で十分に収縮させることができる熱収縮チューブが求められている。また、特殊な器具を使用しなくても容易に引き裂きが可能であることが求められている。従来の引き裂きチューブでは、チューブ表面の全長にわたって長手方向に切れ目を入れたもので,決して容易に引き裂きができるものではなかった。
【0003】
そこで、WO2013/077452号公報では、過度の切れ目を必要とせず引き裂きができるチューブで、熱収縮率を高めたチューブが提案されている。
しかし、用途によって、必要とされるチューブ径が細くなると、チューブを引き裂くときの引き裂き直進性が十分ではないという課題が生じる。チューブ径が細いと、チューブを引き裂くときのチューブを左右に切り開く(引き裂き)力を、左右均等にチューブに加えることは困難である。引き裂き力が不均一に加えられる場合であっても、チューブの全長に亘って確実に引き裂くためには、優れた引き裂き直進性が必要である。また、カテーテルなどの組み立て治具として使用される場合、引き裂き直進性以外にも、高い熱収縮性が必要であると同時に、組み立てたカテーテルの完成品の寸法精度に影響するため、収縮させたときの寸法精度が要求される。収縮したときの内径、長さ共に数%の誤差が大きな問題となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】WO2013/077452号公報
【文献】特願2015-52533号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の課題を鑑み、更に特許文献2に記載の引き裂き性を有する熱収縮チューブの、特に熱収縮率を向上させることを目的とし、200℃で加熱したときの熱収縮率が48%以上であり、160℃で加熱した時の熱収縮率が38%以上であり、収縮させた後のチューブを引き裂いたときの引き裂き直進性に優れるチューブを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するため検討した結果、チューブを構成する高分子の絡み合い単位の太さが特定の範囲にあるとき、優れた引き裂き直進性を有することを見出し、加えて、特定の樹脂同士をブレンドすることにより、熱収縮率を大きく向上させることができることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、ベース樹脂として、少なくともテトラフルオロエチレン及びヘキサフルオロプロピレンを構成モノマーとして含む共重合体を含み、かつ該ベース樹脂以外の樹脂であって、少なくともテトラフルオロエチレン及びヘキサフルオロプロピレンを構成モノマーとして含む共重合体を含むチューブであって、チューブ長手方向の断面において観察される、高分子の絡み合い単位の太さが、9μm以下であることを特徴とする引き裂き性を有する熱収縮チューブに関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明のチューブは引き裂き直進性に優れるため、チューブ除去時に引き裂き力を均等にかけ難い、細径のチューブでも、容易に引き裂いて除去することが可能である。更に、本発明のチューブは高い熱収縮率を有しているため、細径のチューブであっても、内部の物品(被被覆物)との隙間がとれ、内部の物品への挿入が容易である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明のチューブの製造工程の一例を示すフロー図である。
図2】本発明のチューブの断面の観察方法を示す図である。
図3】本発明のチューブの長手方向断面の写真である。
図4】チューブ拡張に使用する拡張治具の断面概略図である。(a)はチューブ両端を固定するタイプ、(b)は片端のみ固定するタイプ、の拡張治具を示す。
図5】THV分散粒子の分散制御による本発明のチューブを、(a)はチューブ内の分子の状態を模式的に表した図、(b)は(a)が引き裂けるときの伝播の経路を表した図である。
図6】ダルメージスクリューの先端ダルメージの形状の一例を示す概略図である。
図7】FEP分子同士の絡み合い制御による本発明のチューブを、(a)はチューブ内の分子の状態を模式的に表した図、(b)は(a)が引き裂けるときの伝播の経路を表した図である。
図8図2に示す本発明のチューブのx-y断面を模式的に表した図である。(a)は、THV分散粒子の分散制御による分子の絡み合い強度を制御したチューブ、(b)は、FEP分子同士の絡み合いの制御による分子の絡み合い強度を制御したチューブの一部の模式図である。
図9】2軸押出機スクリューのギャップを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明では、ベース樹脂として、少なくともテトラフルオロエチレン及びヘキサフルオロプロピレンを構成モノマーとして含む共重合体(以後、「FEP(1)」と言う。)を使用する。これらの樹脂は、融点が200℃以上であり、これにより耐熱性に優れたチューブが得られる。本発明では、後述する引き裂き性を向上させる添加剤として、少なくともテトラフルオロエチレン及びヘキサフルオロプロピレンを構成モノマーとして含む共重合体(以後、「FEP(2)」と言う。)を使用する。引き裂き性を向上させるために、FEP(2)はFEP(1)と異なる樹脂であるが、両者は、少なくともテトラフルオロエチレン及びヘキサフルオロプロピレンを構成モノマーとして有しているため、その分子構造は似ている。2つの樹脂の分子構造が似るほど、2つの樹脂の接着性が大きくなるから、FEP(1)とFEP(2)からなるチューブは、その製造工程中のチューブ拡張時において破裂しにくく、より大きく拡張できるために、元の形状に戻るプロセスである熱収縮時に戻り量がより大きくなり、従前のチューブに比べ熱収縮率が向上することになる。
本発明では、ベース樹脂又はベース樹脂以外の樹脂がパーフルオロアルキルビニルエーテルを構成モノマーとして含む共重合体であることが好ましい。構成モノマーとしてのパーフルオロアルキルビニルエーテルは、低温での高い熱収縮率をもたらす。
高分子材料は、それを構成する分子の分子鎖が毛糸だま状に絡まった状態で存在している。高分子材料を成形した成形体においても、この分子の絡み合いの状態を維持しており、成形体の物性は、分子の絡み合いの構造に大きく影響される。本発明は、自社出願の特許文献1を改良した発明であり、チューブを構成する分子の絡み合いの強度の制御によって、優れた引き裂き直進性を有する熱収縮チューブを提供するものである。本発明の引き裂き直進性に優れる熱収縮チューブは、チューブ長手方向の断面において観察される、高分子の絡み合い単位の太さが、9μm以下であることを特徴としている。
【0010】
本発明の引き裂き性を有する熱収縮チューブは、一例として図1に示す工程によって作成される。図1の原料製造からチューブカットまでが製品の製造工程であり、収縮とチューブ引き裂き除去がユーザーの工程に相当する。本発明の特徴を有する熱収縮チューブを作製するには、後述するように、分子の絡み合い強度を制御する必要がある。分子の絡み合い強度を制御するには、主に2つの方法がある。ひとつは、引き裂き性を向上させるための添加剤の分散制御による絡み合い強度の制御、もうひとつは、ベース樹脂の分子同士の絡み合い制御による絡み合い強度の制御である。
【0011】
以下に、図を用いて、分子の絡み合い構造によるチューブの引き裂き性への影響を説明する。
【0012】
図2において、熱収縮チューブの断面の観察方法を説明する。ここで、本発明のチューブは引き裂き性チューブなので、引き裂くことによってその断面を観察することができる。チューブ1を引き裂くときには、チューブの中心に入れた切り込み11に、切り込みを広げる方向の引っ張りの力を加えて、z軸方向(図2ではチューブ長手方向をz軸方向としている)へ引き裂く。一例として、z軸方向へ引き裂いたときのz軸を含む断面の写真を図3に示す。
【0013】
引き裂き性を向上させるための添加剤の分散制御による絡み合い強度を制御する方法を以下に示す。
【0014】
本発明の引き裂き性を有する熱収縮チューブには、ベース樹脂として、FEP(1)を用いる。引き裂き性を向上させる添加剤として、ベース樹脂と非相溶の高分子であるFEP(2)を使用する。
【0015】
FEP(2)として、例えば、THV、エチレン-テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(以後、「EFEP」と言う。)などが挙げられる。FEP(1)に添加するFEP(2)の添加量は、FEP(1)を含めた全体量の20wt%以下が好ましい。添加量が20wt%を超えると、チューブの拡張率を高くしにくくなり、200℃で加熱した時の熱収縮率が48%以上、160℃で加熱した時の熱収縮率が38%以上の高い熱収縮率が得られにくくなる。
【0016】
本発明の一態様として、FEP(1)としてテトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(以後、「FEP」と言う。)を、FEP(2)としてTHVを使用したチューブを例にして、以下に説明する。
【0017】
チューブは図1に示す工程で成形される。FEPにTHVを分散させるために用いる二軸押出機は、THVを微細に分散(以後、「微分散」という)させるために、スクリューのパターンとギャップを調整する。図9に示すように、ギャップ8とは、スクリュー7の山部の間隔をいう。スクリューのパターンには滞留部を設けることが好ましい。これを単軸押出機でチューブに成形する。成形したチューブは、図4(a)に示す拡張治具2を用いて拡張する。チューブ1を、外径を規制するためのパイプ(以後、「外径規制管21」と言う)に通し、チューブ1の両端を、外径規制管21の両端にある封止治具22にセットして密封する。チューブをセットした拡張治具2を加熱しながら、圧縮気体を注入口23から注入し、チューブ1の内部を加圧して径方向へ拡張する。
【0018】
上述のように作成したチューブを収縮させたときの、チューブ内の分子の状態を模式的に表したのが図5(a)である。THV分散粒子3は、押出成形後にチューブ長手方向(図5ではチューブ長手方向をz軸方向としている)に引き伸ばされた状態で存在しており、次にチューブの内径を拡張することで、FEP4とTHV分散粒子3の界面の一部にボイドが発生する。拡張により発生したボイド部分はFEP4とTHV分散粒子3が解離した状態であり、分子の絡み合いが断たれた状態となっている。THVを微分散したことで、チューブ内には多数のボイドが存在することになる。また、FEP分子の絡み合いの状態としては、押出成形後にFEP分子の絡み合った部分4aと分子の絡み合いのない部分4bが存在し、拡張により、FEP分子の絡み合いが解けやすい状態となる。具体的には、フッ素樹脂であるFEPは、分子鎖間の凝集力が低いため分子鎖が滑りやすく、FEP分子の絡み合いが少ない部分では、拡張によって分子鎖がスライドし、FEP分子の絡み合いが解けやすい状態となる。
【0019】
前記ボイド部分では、分子の絡み合いが無くなっているため、分子の絡み合いを解くための力(以後、「分子の絡み合い強度」という)は、0である。また、FEP分子の絡み合いが解けやすい状態の部分は、分子の絡み合い強度は0に近い。拡張後のチューブには、この分子の絡み合い強度0の部分と絡み合い強度の弱い部分とに囲まれたFEP分子の束が形成される。このチューブ端部に切り込みを入れ、切り込みを引き裂き起点にして引き裂く力を加えると、FEP分子の束に沿って裂けが伝搬する。図5(b)は、図5(a)が引き裂けるときの伝播の経路5を表している。
【0020】
THV分散粒子3の分散の制御によって、分子の絡み合い強度を制御したチューブには、実際に、z軸を含む断面に分子の束を観察することができる(図3(拡張後のチューブ断面))。
【0021】
以下に、FEP分子同士の絡み合いの制御による分子の絡み合い強度を制御する方法を示す。FEP分子同士の絡み合いを制御するには、主に2つの方法がある。
【0022】
一つ目は、THVの凝集を抑えながら、押出金型内でFEP分子の絡み合いをほどく方法である。具体的には、THVを微分散させたFEPを用い、さらに、THVの凝集を抑える方法の一例として、ダルメージスクリューを用いる。ダルメージの形状は、凝集を抑えながら、せん断力をできるだけ低くできるように考慮した形状を選択する。ダルメージスクリューの先端の形状の一例を図6に示す(ダルメージ6)。スクリューからダイ間は、せん断速度を抑える構造の金型を用いる。せん断速度を抑えることでせん断力が抑えられ、スクリュー部で絡み合った分子の絡み合いがほどかれる。
【0023】
二つ目に、押出金型出口で分子の絡み合いを減少させる方法である。具体的には、押出し成形時のDraw-Down-Ratio(DDR)を大きく設定して成形する。DDRは、下式で求められる。
【数1】
DDRを大きくすることでチューブ径方向の分子の絡み合いを減少させることができる。ここで、フッ素樹脂のチューブ押出成形時には、通常、DDRを3~15として成形される(日刊工業新聞社刊 フッ素樹脂ハンドブック P250)と記されている。しかし、本発明の引き裂き性を有する熱収縮チューブでは、DDRを50以上とすることが好ましい。このようにして成形したチューブは、径方向にFEP分子の絡み合いが少ない部分が多く存在する。
【0024】
ただし、DDRを大きくして押出成形したチューブを熱収縮チューブに加工した場合、チューブの熱収縮作業時に長手方向に大きく収縮することが知られている。DDRが30のときでも5%以上の収縮が起こってしまうことが知られており(特開平11‐323053)、これまで、DDRを50以上として成形することは行われていない。本発明のチューブにおいても、カテーテルの組み立て治具として使用する場合には長手方向の収縮が大きいことは問題となる。そこで、図4(b)に示した拡張治具2を用いて拡張することで、DDRを大きくして押出成形したチューブでも長手方向に収縮しない熱収縮チューブを得られるように工夫した。チューブ1の一端に可動封止治具24を取り付け、外径規制管21の中に入れる。次に、チューブ1の他端を、外径規制管21にセットされた封止治具22に取り付けてチューブ内部を密封する。チューブをセットした拡張治具2を加熱しながら、圧縮気体を注入口23から注入し、チューブ1の内部を加圧して径方向へ拡張する。可動封止治具24の外径は外径規制管21の内径より小さく、規制管内をスライドして移動可能であり、チューブ長手方向の成形時のひずみを取り除きながら拡張を行うことができる。
【0025】
上述のように特に分子の絡み合いの状態を調整して作成したチューブを拡張させたときの、チューブ内の分子の状態を模式的に表したのが図7(a)である。図5(a)と比較して、THV分散粒子3の数が少なく、FEP分子の絡み合いがない部分4bが多く存在する。THV分散粒子3の分散制御による分子の絡み合い強度の制御のときと比較して、分子の絡み合い強度が0の部分は少なく、分子の絡み合い強度が弱い部分が多く存在することになる。拡張後のチューブには、分子の絡み合い強度の弱い部分と分子の絡み合い強度0の部分に囲まれたFEP分子の束が形成される。図7(b)は、図7(a)が引き裂けるときの裂け伝播の経路5を表している。チューブの引き裂きは、FEP分子の束に沿って伝搬する。
【0026】
FEP分子同士の絡み合いの制御による分子の絡み合い強度を制御したチューブにも、THV分散粒子の分散制御による分子の絡み合い強度を制御したチューブと同様に、z軸を含む断面に、分子の束が観察される。
【0027】
FEPに添加するTHVの添加量が少ない時、THV分散粒子3はまばらにしか存在せず、ほとんどがFEP分子同士の絡み合いの制御のみでFEP分子の束を形成している。このように、添加剤を減らしていっても、または添加剤がなくても、FEP分子の絡み合いの制御による分子の絡み合い強度の制御によって、拡張後のチューブに分子の絡み合い強度の弱い部分に囲まれたFEP分子の束を有する熱収縮チューブを得ることが可能である。
【0028】
図2のチューブのx-y断面の一部を模式的に表したのが図8である。図8(a)は、THV分散粒子3の分散制御による分子の絡み合い強度を制御したチューブの模式図であり、ベース樹脂のFEP4の中にTHV分散粒子3が点在している。図8(b)は、FEP分子同士の絡み合いの制御による分子の絡み合い強度を制御したチューブの模式図であり、FEP分子の絡み合いが少なくなったベース樹脂4の中に、FEP分子の絡み合いがない点4bが存在している。図8(a)のTHV分散粒子3と、図8(b)のFEP分子の絡み合いがない点4bは、分子の絡み合い強度が0または0に近い点となり、その間に分子の絡み合い強度がそれらより大きいベース樹脂4がある。分子の絡み合い強度の弱い部分と分子の絡み合い強度0の部分に囲まれたFEP分子の束の太さ(以後、「高分子の絡み合い単位の太さ」と言う)は、THV分散粒子3またはFEP分子の絡み合いがない点4b間の間隔に依存する。高分子の絡み合い単位の太さは、チューブの引き裂き直進性と相関する。チューブに、優れた引き裂き直進性を付与するには、高分子の絡み合い単位の太さは、9μm以下であることが必要である。7μm以下であることが好ましく、5μm以下であることが特に好ましい。
【0029】
高分子の絡み合いの単位の太さが大きすぎるとき、それは、分子の絡み合いの強度が0または0に近い点の間隔が大きいことを意味し、裂けの伝播の方向がふらついて引き裂き直進性に劣る。
【実施例
【0030】
(高分子の絡み合い単位の太さの測定)
高分子の絡み合い単位の太さは、チューブ長手方向の断面の形状を測定し、その断面の形状を波形として表示して算出した。以下に、図3を用いて説明する。断面の形状について、コンフォーカル顕微鏡(レーザーテック(株)製 H1200、対物レンズ 100倍)を用いて、図3のy軸方向に走査して、断面の、高さ方向(表面形状測定においてZ方向と呼ばれる)の測定を行った。測定範囲における波形のZ方向の幅の中心値を算出し中心線を引いた。中心値は、測定範囲で得られる波形の最大値を有するピークと、最小値を有するピークを除いて算出した。その中心線と波形の交差する点から、次の中心線との交差する点までの間隔、つまり一つの山または谷の幅となる中心線の長さを、高分子の絡み合い単位の太さとした。
(引き裂き直進性の試験)
細径のチューブを引き裂くときにも十分な引き裂き直進性が得られるかを、より明確に判断するために、以下の方法で測定した。長さ1000mmの試料の一方の端部に、長さ40mmの切り込みを設ける。切り込みは治具を用いて、チューブの中心に、チューブ長手方向に平行に設ける。切り込み部から、200mm/minの速度でチューブのもう一方の端部まで引き裂く。引き裂かれた二片のチューブの重量をそれぞれ測定し、重量の比率を求める。比率が50%対50%に近いものほど引き裂き直進性が高いと判断できる。細径のチューブを引き裂くには、比率は50%対50%~45%対55%の範囲内にすることが必要である。比率が50%対50%~48%対52%の範囲内、更には50%対50%~49%対51%の範囲内にすることで引き裂き直進性が向上する。
(200℃熱収縮率の測定)
後述するように、内径0.6mm、肉厚0.24mmのチューブ(原管)を破裂する直前まで拡張したチューブ(製品)から無作為に10個抜き取り、内径を測定した後、200℃の恒温槽で20min加熱して熱収縮させた後の内径を測定して、収縮率を算出した。
(収縮率、%)=((収縮前内径)-(収縮後内径))÷(収縮前内径)×100
(160℃熱収縮率の測定)
200℃熱収縮率の測定と同様にして試料を準備した。内径を測定した後、160℃の恒温槽で5min加熱して熱収縮させた後の内径を測定して、上記式に基づいて収縮率を算出した。
【0031】
実施例1
(成形材料の作製)
FEP(1):テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(三井デュポンフロロケミカル製FEP-130J)とFEP(2):テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン―ビニリデンフルオライド―パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(THV:ダイネオン製THV815GZ)を、FEP(1)/FEP(2)重量比=80/20で混合し、タンブラーで十分に攪拌した。これをシリンダー径20mmの2軸押出機に投入し、スクリュー回転数45rpm、ダイ温度320℃で押し出し、ペレット成形した。スクリューは、滞留部を4か所設けたパターンのものを使用し、ギャップが0.5mmの組み合わせとした。
(試料チューブの成形)
作成したペレットを用いて、シリンダー径20mmの単軸押出機によって、チューブ成形を行った。スクリューは、ダルメージスクリューを使用し、スクリュー回転数10rpm、ダイ温度390℃、引き落とし比DDR50でサイジングプレート法によってチューブ成形を行った。内径0.6mm、肉厚0.24mmのチューブを得た。
(試料チューブの拡張)
成形したチューブを、図4(b)と同じタイプの拡張治具に装着し、治具外部から加熱しながら内部に加圧窒素を注入して、チューブ内径の拡張を行い、長さ1000mmにカットした。
(試料チューブの収縮)
拡張した試料チューブから無作為に10個抜き取り、内径を測定した後、200℃の恒温槽で20min加熱して熱収縮させて試料チューブとした。収縮後の内径を測定して、収縮率を算出した。
さらに、拡張した試料チューブから無作為に10個抜き取り、内径を測定した後、160℃の恒温槽で5min加熱して熱収縮させて試料チューブとし、収縮後の内径を測定して、収縮率を算出した。
【0032】
実施例2
(成形材料の作製)
FEP(2)のTHV815GZを、エチレン-テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(EFEP:ダイキン製RP-5000)に代えた以外は、実施例1と同様に作製した。
(試料チューブの成形)
実施例1と同様の条件で行った。
(試料チューブの拡張・収縮)
実施例1と同様の条件で行った。
【0033】
実施例3
(成形材料の作製)
FEP(1)/FEP(2)重量比=85/15で混合した以外は、実施例1と同様に作製した。
(試料チューブの成形)
実施例1と同様の条件で行った。
(試料チューブの拡張・収縮)
実施例1と同様の条件で行った。
【0034】
実施例4
(成形材料の作製)
FEP(1)/FEP(2)重量比=90/10で混合した以外は、実施例1と同様に作製した。
(試料チューブの成形)
引き落とし比DDRを10とした以外は、実施例1と同様に成形した。
(試料チューブの拡張)
成形したチューブを、図4(a)と同じタイプの拡張治具に装着し、治具外部から加熱しながら内部に加圧窒素を注入して、チューブ内径の拡張を行い、長さ1000mmにカットした。
(試料チューブの収縮)
実施例1と同様の条件で行った。
【0035】
比較例1
(成形材料の作製)
FEP(2)のTHV815GZを、テトラフルオロエチレン-エチレン共重合体(ETFE:旭硝子製C-55AP)に代えた以外は、実施例4と同様に作製した。
(試料チューブの成形)
実施例4と同様の条件で行った。
(試料チューブの拡張)
実施例4と同様の条件で行った。
(試料チューブの収縮)
実施例1と同様の条件で行った。
【0036】
実施例5
(成形材料の作製)
FEP(1)のFEP-130Jを、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP:三井デュポンフロロケミカル製FEP-100)に代えた以外は、実施例4と同様に作製した。
(試料チューブの成形)
実施例4と同様の条件で行った。
(試料チューブの拡張)
実施例4と同様の条件で行った。
(試料チューブの収縮)
実施例1と同様の条件で行った。
【0037】
作製した各試料チューブについて、分子の絡み合い単位の太さを、先述の分子の絡み合い単位の太さの測定方法に基づいて求めた。また、引き裂き直進性を、先述の引き裂き直進性の試験方法に基づいて測定した。その結果を表1に示す。
【表1】
本発明の実施例1~5のチューブは、200℃で48%以上の熱収縮率が得られており、高分子の絡み合い単位の太さは、9μm以下であった。チューブの引き裂き直進性を示す、引き裂かれたチューブの重量の比率は、50%対50%~52%対48%で、非常に優れた引き裂き直進性が得られた。これに対し、従来の引き裂き性を有する熱収縮チューブの比較例1は、200℃で46%の熱収縮率が得られたに過ぎない。
次に、160℃で加熱したときの熱収縮率を表2に示す。
【表2】
本発明の実施例1~5のチューブは、160℃で38%以上の熱収縮率が得られた。これに対し、従来の引き裂き性を有する熱収縮チューブの比較例1は、160℃で36%の熱収縮率が得られたに過ぎない。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明のフッ素樹脂製の引き裂きチューブは、熱収縮性が高いとともに引き裂き直進性が良好であるので、加工時の装着および使用後の除去が容易であり、カテーテルなどの組み立て治具として好適である。
【符号の説明】
【0039】
1:チューブ、2:拡張治具、21:外径規制管、22:封止治具、23:注入口、24:可動封止冶具、3:THV分散粒子、4:FEP、5:裂け伝播の経路、6:ダルメージ、7:スクリュー、8:ギャップ
図1
図2
図3
図4
図5
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図7
図8
図9