IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 富士重工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-エンジン制御装置 図1
  • 特許-エンジン制御装置 図2
  • 特許-エンジン制御装置 図3
  • 特許-エンジン制御装置 図4
  • 特許-エンジン制御装置 図5
  • 特許-エンジン制御装置 図6
  • 特許-エンジン制御装置 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-08
(45)【発行日】2022-01-12
(54)【発明の名称】エンジン制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 45/00 20060101AFI20220104BHJP
   F02D 29/02 20060101ALI20220104BHJP
   F02D 43/00 20060101ALI20220104BHJP
【FI】
F02D45/00 345
F02D29/02 Z
F02D43/00 301B
F02D43/00 301H
F02D45/00 362
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2017187750
(22)【出願日】2017-09-28
(65)【公開番号】P2019060328
(43)【公開日】2019-04-18
【審査請求日】2020-08-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100123696
【弁理士】
【氏名又は名称】稲田 弘明
(74)【代理人】
【識別番号】100100413
【弁理士】
【氏名又は名称】渡部 温
(72)【発明者】
【氏名】高橋 俊太郎
【審査官】池田 匡利
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-321742(JP,A)
【文献】特開平09-088666(JP,A)
【文献】特開平11-182394(JP,A)
【文献】特開平04-334743(JP,A)
【文献】特開平02-075736(JP,A)
【文献】特開2016-023551(JP,A)
【文献】特開2001-271691(JP,A)
【文献】特開2016-014356(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 45/00
F02D 29/02
F02D 43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼行程を順次繰り返すエンジンの各燃焼行程における燃焼圧力を制御するエンジン制御装置であって、
前記エンジンが搭載される車両の前後方向車体振動を検出する振動検出部と、
前記燃焼行程における前記燃焼圧力を制御する燃焼圧力制御部とを備え、
前記燃焼圧力制御部は、前記前後方向車体振動が検出された場合に、相対的に前記燃焼圧力が高い高圧力燃焼行程と相対的に前記燃焼圧力が低い低圧力燃焼行程とを周期的に繰り返す振動抑制制御を実行するとともに、前記振動抑制制御により、前記エンジンに車両の前後方向振動の固有振動数よりも低周波の出力トルク変動を発生させること
を特徴とするエンジン制御装置。
【請求項2】
燃焼行程を順次繰り返すエンジンの各燃焼行程における燃焼圧力を制御するエンジン制御装置であって、
前記エンジンの出力軸回転速度を検出する速度検出部と、
前記燃焼行程における前記燃焼圧力を制御する燃焼圧力制御部とを備え、
前記燃焼圧力制御部は、前記出力軸回転速度が所定の範囲内にある場合に、相対的に前記燃焼圧力が高い高圧力燃焼行程と相対的に燃焼圧力が低い低圧力燃焼行程とを周期的に繰り返す振動抑制制御を実行するとともに、前記振動抑制制御により、前記エンジンに車両の前後方向振動の固有振動数よりも低周波の出力トルク変動を発生させること
を特徴とするエンジン制御装置。
【請求項3】
前記燃焼圧力制御部は、前記振動抑制制御を実行する際に、複数回連続した前記高圧力燃焼行程と複数回連続した前記低圧力燃焼行程とを交互に繰り返すこと
を特徴とする請求項1又は請求項2に記載のエンジン制御装置
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載されるエンジンを制御するエンジン制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レシプロエンジンのように周期的に燃焼行程を繰り返すエンジンを走行用動力源として有する自動車等の車両において、各燃焼行程間で燃焼変動(燃焼圧力のばらつき)が発生した場合には、エンジンの出力トルクに周期的な変動が生じることになる。
このようなトルク変動の周波数が車両固有の前後方向振動の固有周波数と一致した場合、車体の低周波の振動(サージング)が生じ、ドライバビリティ(運転しやすさ)や快適性が損なわれる。
【0003】
エンジンの燃焼変動対策に関する従来技術として、例えば特許文献1には、高精度に燃焼安定度制御を行なうため、燃焼圧力に基づいて検出される燃焼状態から燃焼安定度指標を算出し、燃焼安定度指標が目標値となるように空燃比、EGR量等を制御する場合に、機関運転状態に基づく期待発生トルクの推定値とそれまでの平均値との比に基づいて燃焼状態を補正した後の値で制御を行なうことが記載されている。
特許文献2には、内燃機関のトルク変動によって動力伝達系が振動して発生する車両前後方向の低周波の振動(サージング)を抑制するため、車両乗員にとって不快なサージングが発生する場合に、各気筒間の点火タイミングのばらつきを抑えるように、全気筒中、点火時期が進角側となっている1又は複数の気筒について、点火タイミングを一定量だけ遅角して各気筒間の点火タイミングのばらつきを減少させ、サージングを抑えることが記載されている。
特許文献3には、各気筒の燃焼変動を検出し気筒別に燃焼状態を制御して機関振動レベルを低減する装置に関して、気筒毎にPi変動(燃焼変動)を検出することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平 8-144830号公報
【文献】特開平 8-338781号公報
【文献】実開平 2- 83344号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
エンジンの燃焼状態のばらつきに起因するトルク変動や、これに伴う車体振動の抑制のための制御として、各気筒の燃焼状態を極力平準化(燃焼安定化指数COVを極小化)するよう、燃焼圧力が高い気筒の点火時期遅延や空燃比のリーン化を行ったり、燃焼圧力が低い気筒の点火時期進角や空燃比のリッチ化を行うことが一般的である。
しかし、排ガスの一部を吸気側に循環させるEGRを行っている場合には、EGR量を増大させることによって、ポンプ損失の抑制による熱効率及び燃費の向上や、燃焼温度の低下によるNO排出量の低減を図ることができるが、EGR量が大きい領域では燃焼が緩慢となって各気筒の燃焼状態のばらつき(トルク差分)が大きくなり、上述した振動抑制制御によっては十分に振動抑制を図れない場合があった。
このため、燃焼安定化のためにEGR量を低減する必要が生じ、燃費改善やNO排出抑制を十分に図れない場合があった。
上述した問題に鑑み、本発明の課題は、燃費を向上しかつNO排出を抑制しつつ車体前後振動を抑制したエンジン制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下のような解決手段により、上述した課題を解決する。
請求項1に係る発明は、燃焼行程を順次繰り返すエンジンの各燃焼行程における燃焼圧力を制御するエンジン制御装置であって、前記エンジンが搭載される車両の前後方向車体振動を検出する振動検出部と、前記燃焼行程における前記燃焼圧力を制御する燃焼圧力制御部とを備え、前記燃焼圧力制御部は、前記前後方向車体振動が検出された場合に、相対的に前記燃焼圧力が高い高圧力燃焼行程と相対的に前記燃焼圧力が低い低圧力燃焼行程とを周期的に繰り返す振動抑制制御を実行するとともに、前記振動抑制制御により、前記エンジンに車両の前後方向振動の固有振動数よりも低周波の出力トルク変動を発生させることを特徴とするエンジン制御装置である。
これによれば、車体前後振動の発生時に、高圧力燃焼行程と低圧力燃焼行程とを周期的に繰り返すことによって、エンジンの出力トルク変動に任意の周波数を与えることができ、この周波数を車両の固有振動数と異ならせることによって車体の共振を防止し、車体前後振動を効果的に抑制することができる。
また、このような制振制御を行う場合、各気筒の燃焼圧力を平準化して振動を抑制する場合に対し、各気筒の燃焼状態のばらつきが比較的大きい場合であっても十分な制振効果を得ることができる。
このため、EGR量を比較的大きくすることができ、燃費を改善するとともにNOX排出量を抑制することができる。
【0007】
請求項2に係る発明は、燃焼行程を順次繰り返すエンジンの各燃焼行程における燃焼圧力を制御するエンジン制御装置であって、前記エンジンの出力軸回転速度を検出する速度検出部と、前記燃焼行程における前記燃焼圧力を制御する燃焼圧力制御部とを備え、前記燃焼圧力制御部は、前記出力軸回転速度が所定の範囲内にある場合に、相対的に前記燃焼圧力が高い高圧力燃焼行程と相対的に燃焼圧力が低い低圧力燃焼行程とを周期的に繰り返
す振動抑制制御を実行するとともに、前記振動抑制制御により、前記エンジンに車両の前後方向振動の固有振動数よりも低周波の出力トルク変動を発生させることを特徴とするエンジン制御装置である。
これによれば、エンジンのトルク変動が車両と共振しやすい出力軸回転速度である場合に、振動抑制制御を行うことによって、車体前後振動を予防することができる。
【0008】
請求項3に係る発明は、前記燃焼圧力制御部は、前記振動抑制制御を実行する際に、複数回連続した前記高圧力燃焼行程と複数回連続した前記低圧力燃焼行程とを交互に繰り返すことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のエンジン制御装置である。
これによれば、エンジンの出力トルク変動の周波数を低下させ、車両の共振を効果的に抑制することができる。
【発明の効果】
【0010】
以上説明したように、本発明によれば、燃費を向上しかつNO排出を抑制しつつ車体前後振動を抑制したエンジン制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明を適用したエンジン制御装置の第1実施形態により制御されるエンジンの構成を示す図である。
図2図1のエンジンを有する車両のパワートレーンの構成を示す図である。
図3】第1実施形態のエンジン制御装置における車体前後振動抑制制御を示すフローチャートである。
図4図1のエンジンにおける燃焼圧力推移の一例を模式的に示す図であって、燃焼変動が実質的に存在しない場合を示す図である。
図5図1のエンジンにおける燃焼圧力推移の一例を模式的に示す図であって、1気筒毎に順次燃焼圧力が増減する場合を示す図である。
図6図1のエンジンにおける燃焼圧力推移の一例を模式的に示す図であって、2気筒毎に順次燃焼圧力が増減する場合を示す図である。
図7】本発明を適用したエンジン制御装置の第2実施形態における車体前後振動抑制制御を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を適用したエンジン制御装置の実施形態について説明する。
<第1実施形態>
図1は、第1実施形態のエンジン制御装置により制御されるエンジンの構成を示す図である。
エンジン1は、例えば乗用車等の自動車に走行用動力源として搭載される4ストローク水平対向4気筒の直噴(筒内噴射)ガソリンエンジンである。
エンジン1の出力は、後述する動力伝達機構を介して、車両の駆動輪に伝達される。
【0013】
エンジン1は、出力軸である図示しないクランクシャフトの前端部側(変速機と反対側・縦置き搭載時における前側)から、順次配列された第1気筒10、第2気筒20、第3気筒30、第4気筒40を有する。
エンジン1は、例えば、クランクシャフトが車両の前後方向にほぼ沿って縦置き配置される。
第1気筒10、第3気筒30は、車幅方向右側に配置された右バンク、第2気筒20、第4気筒40は、車幅方向左側に配置された左バンクに設けられている。
【0014】
第1気筒10と第2気筒20、第3気筒30と第4気筒40は、各気筒のクランクピンのオフセット量だけずらした状態で、実質的にクランクシャフトを挟んで対向して配置されている。
エンジン1における点火順序(爆発順序)は、第1気筒10、第3気筒30、第2気筒20、第4気筒40の順に設定され、クランク角において180°毎に実質的に等間隔で点火(爆発)するようになっている。
【0015】
第1気筒10、第2気筒20、第3気筒30、第4気筒40は、それぞれシリンダ、ピストン、燃焼室、吸排気ポート、吸排気バルブ、動弁駆動機構などの他、インジェクタ11,21,31,41、点火栓12,22,32,42等を有する。
インジェクタ11,21,31,41は、各気筒の燃焼室内に、直接霧化されたガソリンを噴射する噴射装置である。
インジェクタ11,21,31,41の燃料噴射量及び燃料噴射時期は、エンジン1の運転状態に応じてエンジン制御ユニット100によって制御されている。
インジェクタ11,21,31,41は、図示しない燃料ポンプによって加圧された燃料が導入され蓄圧されるとともに、エンジン制御ユニット100から与えられる噴射信号に応じて開弁し、燃料を噴射する。
インジェクタ11,21,31,41の燃料噴射量及び噴射時期は、気筒毎に個別に制御可能となっている。
【0016】
点火栓12,22,32,42は、各気筒内で形成された混合気に、電気的なスパークによって着火させるものである。
点火栓12,22,32,42の点火時期は、エンジン制御ユニット100によって制御され、気筒毎に個別に制御可能となっている。
【0017】
また、エンジン1は、吸気装置50、排気装置60、さらに図示しないバルブタイミング可変装置、冷却装置、潤滑装置、EGR装置等を有する。
吸気装置50は、各気筒に燃焼用空気を導入するものである。
吸気装置50は、外気(大気)を燃焼用空気として導入する図示しないインテークダクト、ダスト等の異物を濾過する図示しないエアクリーナ、さらにスロットルバルブ51、インテークマニホールド52、吸気圧センサ53等を有する。
【0018】
スロットルバルブ51は、エンジン1の出力調整のため空気流量を制御するものである。
スロットルバルブ51は、電動アクチュエータによって開閉されるバタフライバルブ(スロットルバルブ)を有する電動スロットルであり、ドライバのアクセル操作に応じて設定される要求トルクに応じてエンジン制御ユニット100によって開度を制御される。
インテークマニホールド52は、スロットルバルブ51を通過した空気を、各気筒の吸気ポートに導入する分岐管である。
吸気圧センサ53は、インテークマニホールド52内の圧力(吸気管負圧)を検出する圧力センサである。
吸気圧センサ53の出力は、逐次エンジン制御ユニット100に伝達される。
【0019】
排気装置60は、各気筒10,20,30,40の燃焼室から、排気ポートを経由して排出される排ガス(既燃ガス)を排出するものである。
排気装置60は、エキゾーストマニホールド61、エキゾーストパイプ62、触媒コンバータ63、サイレンサ64、空燃比センサ65、リアOセンサ66等を有して構成されている。
【0020】
エキゾーストマニホールド61は、各気筒10,20,30,40の排気ポートから出た排ガスを集合させる集合管である。
エキゾーストパイプ62は、エキゾーストマニホールド61において集合した排ガスを外部へ排出する管路である。
【0021】
触媒コンバータ63は、エキゾーストパイプ62の中間部に設けられた排ガス後処理装置である。
触媒コンバータ63は、例えばアルミナ等の担体に白金、ロジウム、パラジウム等の貴金属を担持させた三元触媒である。
触媒コンバータ63は、エンジン1の空燃比がストイキ近傍となる所定の活性領域において、排ガス中のHC、CO、NOを低減する機能を有する。
【0022】
サイレンサ64は、エキゾーストパイプ62における触媒コンバータ63の下流側(出口側)に設けられ、音響エネルギを低減させる消音器である。
【0023】
空燃比センサ65は、触媒コンバータ63の入口近傍に設けられ、エンジン1における空燃比に応じて異なった出力電圧を発生するものである。
エンジン制御ユニット100は、空燃比センサ65の出力に応じて、エンジン1における空燃比が三元触媒の活性範囲内となるように燃料噴射量を設定する空燃比フィードバック制御を行う。
【0024】
リアOセンサ66は、触媒コンバータ63の出口近傍に設けられ、排ガス中のO濃度に応じて異なった出力電圧を発生するものである。
リアOセンサ66の出力はエンジン制御ユニット100に伝達される。
【0025】
エンジン1は、さらに、クランク角センサ70、水温センサ80等を有する。
クランク角センサ70は、エンジン1の出力軸である図示しないクランクシャフトの角度位置(クランク角・CA)を検出する磁気式の角度センサである。
クランク角センサ70は、センサプレート71、ポジションセンサ72等を有して構成されている。
【0026】
センサプレート71は、クランクシャフトの後端部に固定された円盤状の部材であって、外周縁部には所定の角度間隔で複数のベーン(歯)が放射状に突き出して形成されたスプロケット状の形状となっている。
ポジションセンサ72は、センサプレート71の外周縁部に対向して配置された磁気ピックアップであり、マグネット、コア、コイル、ターミナル等を有する。
ポジションセンサ72は、直前をセンサプレート71のベーンが通過した際に、所定のパルス信号を出力するようになっている。
エンジン制御ユニット100は、クランク角センサ70の出力に基づいて、エンジン1の回転数(クランクシャフト回転速度)を演算可能となっている。
エンジン制御ユニット100は、クランク角センサ70の出力に基づいてクランクシャフトの角速度を逐次モニタすることによって、車両(車体)の前後方向振動を検出することが可能である。
クランク角センサ70は、本発明にいう振動検出部及び速度検出部として機能する。
【0027】
水温センサ80は、シリンダヘッド及びシリンダに形成された冷却水流路であるウォータージャケット内を流れる冷却水(クーラント)の温度を検出するものである。
クランク角センサ70、水温センサ80の出力は、エンジン制御ユニット100に伝達される。
【0028】
エンジン制御ユニット(ECU)100は、エンジン1及びその補器類を統括的に制御するものである。
また、エンジン制御ユニット100は、エンジン1の停止時にモータジェネレータ制御ユニット220と協調制御を行う機能を備えている。この点に関しては、後に詳しく説明する。
エンジン制御ユニット100は、例えば、CPU等の情報処理装置、RAMやROM等の記憶装置、入出力インターフェイス及びこれらを接続するバス等を有して構成されている。
エンジン制御ユニット100は、例えば、ドライバのアクセル操作等に基づいて設定される要求トルクに応じて、実際のトルクが要求トルクと実質的に一致するよう図示しないスロットルバルブの開度、燃料噴射量、燃料噴射時期、点火時期、バルブタイミング等を制御する。
【0029】
エンジン制御ユニット100は、エンジン1の出力トルク変動が車両の前後方向振動の固有振動数と共振し、車体振動が悪化することを防止する車体前後振動抑制制御を実行する。
エンジン制御ユニット100は、燃料噴射量、燃料噴射時期、点火時期等を制御することによって、各気筒の燃焼行程における燃焼圧力(平均有効圧力)を、気筒毎に制御する機能を有する。
エンジン制御ユニット100は、本発明にいう燃焼圧力制御部として機能する。
【0030】
エンジン1の出力は、以下説明する動力伝達機構を介して各車輪に伝達される。
図2は、図1のエンジンを有する車両のパワートレーンの構成を示す図である。
図2に示すように、車両は、トルクコンバータ110、前後進切替部120、バリエータ130、フロントディファレンシャル140、リアディファレンシャル150、トランスファクラッチ160、トランスミッション制御ユニット200等を備えたAWD車両である。
【0031】
トルクコンバータ110は、エンジン1の出力をバリエータ130に伝達する流体継手である。
トルクコンバータ110は、車両が停止状態からエンジントルクを伝達可能な発進デバイスとしての機能を有する。
また、トルクコンバータ110は、トランスミッション制御ユニット200によって制御され、入力側(インペラ側)と出力側(タービン側)とを直結する図示しないロックアップクラッチを備えている。
【0032】
前後進切替部120は、トルクコンバータ110とバリエータ130との間に設けられ、トルクコンバータ110とバリエータ130とを直結する前進モードと、トルクコンバータ110の回転出力を逆転させてバリエータ130に伝達する後退モードとを、トランスミッション制御ユニット200からの指令に応じて切り換えるものである。
前後進切替部120は、例えば、プラネタリギヤセット等を有して構成されている。
【0033】
バリエータ130は、前後進切替部120から伝達されるエンジン1の回転出力を、無段階に変速する変速機構部である。
バリエータ130は、例えば、プライマリプーリ131、セカンダリプーリ132、チェーン133等を有するチェーン式無段変速機(CVT)である。
プライマリプーリ131は、車両の駆動時におけるバリエータ130の入力側に設けられ、エンジン1の回転出力が入力される。
セカンダリプーリ132は、車両の駆動時におけるバリエータ130の出力側に設けられている。
セカンダリプーリ132は、プライマリプーリ131と隣接しかつプライマリプーリ131の回転軸と平行な回転軸回りに回動可能となっている。
チェーン133は、環状に形成されてプライマリプーリ131及びセカンダリプーリ132に巻き掛けられ、これらの間で動力伝達を行うものである。
プライマリプーリ131及びセカンダリプーリ132は、それぞれチェーン133を挟持する一対のシーブを有するとともに、トランスミッション制御ユニット200による変速制御に応じて各シーブ間の間隔を変更することによって、有効径を無段階に変更可能となっている。
【0034】
フロントディファレンシャル140は、バリエータ130から伝達される駆動力を、左右の前輪に伝達するものである。
フロントディファレンシャル140は、最終減速装置、及び、左右前輪の回転速度差を吸収する差動機構を備えている。
バリエータ130とフロントディファレンシャル140との間は、実質的に直結されている。
【0035】
リアディファレンシャル150は、バリエータ130から伝達される駆動力を、左右の後輪に伝達するものである。
リアディファレンシャル150は、最終減速装置、及び、左右後輪の回転速度差を吸収する差動機構を備えている。
【0036】
トランスファクラッチ160は、バリエータ130からリアディファレンシャル150へ駆動力を伝達する後輪駆動力伝達機構の途中に設けられ、これらの間の動力伝達経路を接続又は切断するものである。
トランスファクラッチ160は、例えば、接続時の締結力(伝達トルク容量)を無段階に変更可能な油圧式あるいは電磁式の湿式多板クラッチである。
トランスファクラッチ160の締結力は、トランスミッション制御ユニット200によって制御されている。
トランスファクラッチ160は、締結力を変更することによって、前後輪の駆動トルク配分を調節可能となっている。
また、トランスファクラッチ160は、車両の旋回時や、ブレーキのアンチロック制御、車両挙動制御などの実行時に、前後輪の回転速度差を許容する必要がある場合には、締結力を低下(開放)させスリップさせることによって回転速度差を吸収する。
【0037】
トランスミッション制御ユニット200は、トルクコンバータ110のロックアップクラッチ、前後進切替部120、バリエータ130、トランスファクラッチ160等を統括的に制御するものである。
トランスミッション制御ユニット200は、それぞれCPU等の情報処理手段、RAMやROM等の記憶手段、入出力インターフェイス、及び、これらを接続するバス等を有して構成されている。
また、エンジン制御ユニット100、トランスミッション制御ユニット200は、例えば車載LANシステムの一種であるCAN通信システム等を介して、相互に通信し、必用な情報の伝達が可能となっている。
【0038】
第1実施形態のエンジン制御装置においては、エンジン1の出力軸変動が車両の前後方向固有振動数と実質的に一致し、共振が発生した場合に、各気筒の燃焼行程における燃焼圧力を周期的に変動させてトルク変動の周波数を車両の固有振動数とずらし、振動を抑制する振動抑制制御を実行する。
図3は、第1実施形態のエンジン制御装置における車体前後振動抑制制御を示すフローチャートである。
以下、ステップ毎に順を追って説明する。
【0039】
<ステップS01:車体前後振動検出>
エンジン制御ユニット100は、クランク角センサ70の出力に基づいて、車体の前後振動を検出する。
例えば、エンジン制御ユニット100は、クランクシャフトの角速度変化及び駆動系における減速比、タイヤ径などの車両諸元から、車体前後振動の周波数及び振幅を演算する。
その後、ステップS02に進む。
【0040】
<ステップS02:共振発生判断>
エンジン制御ユニット100は、ステップS01における車体前後振動の検出結果に基づいて、共振が発生しているか否かを判別する。
例えば、車両の前後方向の固有振動数と実質的に一致する周波数において、所定以上の振幅が検出された場合には、共振が発生しているものと判定される。
共振発生が判定された場合はステップS03に進み、共振発生が判定されない場合はステップS04に進む。
【0041】
<ステップS03:所定パターンで燃焼圧力増減>
エンジン制御ユニット100は、エンジン1において、比較的(平均に対して)燃焼圧力の高い高圧力燃焼行程と、比較的燃焼圧力が低い低圧力燃焼行程とが交互に増減するよう、各気筒の燃焼状態を制御する車体前後振動抑制制御を実行する。
燃焼状態の制御は、例えば、燃料噴射量及び点火時期によって行うことができる。
高圧力燃焼行程においては、燃料噴射量の増量による空燃比のリッチ化、点火時期のMBT近傍までの進角等により、燃焼圧力(平均有効圧力)及び出力トルクを増大させる。
このとき、高圧力燃焼行程とする気筒のノッキング耐性に余裕がある場合には、点火時期の進角により燃焼圧力を増大させると、燃費を向上することができる。
低圧力燃焼行程においては、燃料噴射量の減量による空燃比のリーン化、点火時期のMBTに対する遅延(リタード)等により、燃焼圧力(平均有効圧力)及び出力トルクを減少させる。
このとき、低圧力燃焼行程とする気筒の点火性、着火性に余裕がある場合には、空燃比のリーン化により燃焼圧力を低下させると、燃費を向上することができる。
この車体前後振動抑制制御については、後に詳しく説明する。
その後、一連の処理を終了(リターン)する。
【0042】
<ステップS04:通常燃焼制御>
エンジン制御ユニット100は、各気筒の燃焼状態に意図的に変化をつけることをしない通常の燃焼制御を実行する。
その後、一連の処理を終了(リターン)する。
【0043】
以下、上述した車体前後方向抑制制御についてより詳細に説明する。
図4は、図1のエンジンにおける燃焼圧力推移の一例を模式的に示す図であって、燃焼変動が実質的に存在しない場合を示す図である。
図4において、縦軸は各気筒内の燃焼圧力(平均有効圧力)を示しており、これはエンジン1の出力トルクと相関する。また、横軸は、点火順序(燃焼行程を迎える順序)を示している。(後述する図5図6において同じ)
上述したように、第1実施形態において、エンジン1では、第1気筒10、第3気筒30、第2気筒20、第4気筒40の順に、クランク角において180°毎に実質的に等間隔で点火(爆発)するようになっている。
【0044】
図4に示す状態は各気筒の燃焼行程における燃焼圧力変動が皆無である理想的な状態を示しているが、実際には燃焼状態のばらつきにより、燃焼圧力(平均有効圧力)変動及びこれに起因する出力トルク変動が発生することは避けられない。
特に、排ガスの一部を吸気系に再循環させるEGRガスの流量(EGR量)が大きい場合には、燃焼が緩慢となる結果、比較的大きな燃焼変動が発生しやすい。
燃焼安定化の観点からはEGR量を低減させることが好ましいが、EGR量を低減させた場合、ポンプ損失の増大による熱効率、燃費の悪化や、燃焼温度の上昇によるNO排出量増加の原因となる。
【0045】
図5は、図1のエンジンにおける燃焼圧力推移の一例を模式的に示す図であって、1気筒毎に順次燃焼圧力が増減する場合を示す図である。
この場合、高圧力燃焼行程と低圧力燃焼行程とが1回ずつ交互に繰り返されることになり、図5に破線で示すような出力トルクの周期的変動が発生する。
第1実施形態のエンジンにおいては、クランク角180°ごとに点火が行われるので、出力トルク変動は、クランクシャフトの360°回転で一周期となる。
【0046】
図6は、図1のエンジンにおける燃焼圧力推移の一例を模式的に示す図であって、2気筒毎に順次燃焼圧力が増減する場合を示す図である。
この場合、高圧力燃焼行程と低圧力燃焼行程とが2回ずつ交互に繰り返されることになり、図6に破線で示すような、クランクシャフトの720°回転で一周期となる出力トルクの周期的変動が発生する。
【0047】
例えば、エンジン1の運転中に、ある一つの気筒で顕著な燃焼変動がスパイク的に発生した場合、図5に示すような、クランク角にして360°周期のトルク変動が発生することが多い。
このようなトルク変動が車両の前後方向振動の固有振動数と実質的に一致すると、共振により車体が前後方向に揺すられるような著大な前後振動(いわゆるユサユサ振動)が発生する。
このとき、例えば図6に示すような長周期のトルク変動を発生させれば、車両の固有振動数に対してトルク変動の周波数を低下させ、共振を防止して車体振動を抑制することが可能となる。
この場合、全気筒平均の燃焼圧力が制御介入前と同等となるようにすれば、車両の走行性能(エンジン1出力)を同等に維持することが可能である。
【0048】
なお、図6においては、一例として高圧力燃焼行程と低圧力燃焼行程とを2回-2回ずつ交互に繰り返しているが、これに限らず、例えば3回-3回や、4回-4回、あるいは、それ以上の回数としてもよい。
また、高圧力燃焼行程、低圧力燃焼行程を繰り返す回数は、エンジン1の回転数(クランクシャフト回転速度)に応じて異ならせてもよい。
例えばクランクシャフト回転速度が1000rpmのときに、図6のように720°周期のトルク変動を生成することで共振が回避できるのであれば、2000rpmのときには高圧力燃焼行程、低圧力燃焼行程を4回-4回ずつ交互に繰り返す(繰り返し回数を回転数の増加に応じて増加させる)ことで、同じ周波数のトルク変動を生成し、共振を防止することができる。
【0049】
以上説明した第1実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)車体前後振動の発生時に、高圧力燃焼行程と低圧力燃焼行程とを周期的に繰り返すことによって、エンジン1の出力トルク変動に任意の周波数を与えることができ、この周波数を車両の前後方向振動の固有振動数と異ならせることによって共振を防止し、車体の前後振動を効果的に抑制することができる。
また、このような車体前後振動抑制制御を行う場合、各気筒の燃焼圧力を平準化して振動を抑制する場合に対し、各気筒の燃焼状態のばらつきが比較的大きい場合であっても十分な制振効果を得ることができる。
このため、EGR量を比較的大きくすることができ、燃費を改善するとともにNO排出量を抑制することができる。
(2)車体前後振動抑制制御を行う際に、高圧力燃焼行程と低圧力燃焼行程とを複数回-複数回ずつ交互に繰り返すことによって、エンジンの出力トルク変動の周波数を低下させ、車両の共振を効果的に抑制することができる。
(3)出力トルク変動を車両の前後方向振動の固有振動数よりも低周波とすることによって、共振の発生を確実に防止することができる。
【0050】
<第2実施形態>
次に、本発明を適用したエンジン制御装置の第2実施形態について説明する。
上述した第1実施形態と実質的に同様の箇所については同じ符合を付して説明を省略し、主に相違点について説明する。
車両の前後方向振動の固有振動数が既知であれば、共振が発生しやすいエンジン1のクランクシャフトの回転速度(回転数)も予め特定することが可能である。
そこで、第2実施形態においては、予め設定されたエンジン1の回転速度範囲において、フィードフォワード的かつ予防的に車体前後振動抑制制御を実行している。
図7は、第2実施形態のエンジン制御装置における車体前後振動抑制制御を示すフローチャートである。
以下、ステップ毎に順を追って説明する。
【0051】
<ステップS11:エンジン回転数検出>
エンジン制御ユニット100は、クランク角センサ70の出力に基づいて、クランクシャフトの回転速度(毎分回転数)を検出する。
その後、ステップS12に進む。
【0052】
<ステップS12:回転数判断>
エンジン制御ユニット100は、ステップS11におけるクランクシャフト回転数の検出結果に基づいて、共振が発生しやすい所定回転数範囲内であるか否かを判別する。
通常車両の前後方向振動の固有振動数は車種ごとに固有かつ既知の値である。
一方、顕著な燃焼変動が発生した際のエンジン1の出力トルク変動の周波数はクランクシャフトの回転速度(回転数)に比例することから、エンジン制御ユニット100は出力トルク変動により車体の共振が発生しやすい回転数範囲を所定回転数範囲として特定し、予めその値に関するデータを保持している。
エンジン1のクランクシャフト回転数が所定回転数範囲内である場合はステップS13に進み、所定回転数範囲以外である場合はステップS14に進む。
【0053】
<ステップS13:所定パターンで燃焼圧力増減>
エンジン制御ユニット100は、第1実施形態のステップS03と実質的に同様の車体前後振動抑制制御を実行する。
その後、一連の処理を終了(リターン)する。
【0054】
<ステップS14:通常燃焼制御>
エンジン制御ユニット100は、各気筒の燃焼状態に意図的に変化をつけることをしない通常の燃焼制御を実行する。
その後、一連の処理を終了(リターン)する。
【0055】
以上説明した第2実施形態によれば、上述した第1実施形態の効果と実質的に同様の効果に加えて、エンジン1のトルク変動が車両と共振しやすい出力軸回転速度である場合に、振動抑制制御を行うことによって、車体前後振動を予防的に防止することができる。
【0056】
(変形例)
本発明は、以上説明した実施形態に限定されることなく、種々の変形や変更が可能であって、それらも本発明の技術的範囲内である。
(1)エンジン及びエンジン制御装置の構成は上述した実施形態に限定されず、適宜変更することができる。
例えば、エンジンのシリンダレイアウト、気筒数、点火順序、燃料噴射方式や、パワートレーンのレイアウト等は適宜変更することができる。
また、本発明は、ガソリン以外の燃料を用いる火花点火式エンジンや、ディーゼルエンジン等の圧縮着火エンジンにも適用することができる。
(2)本発明は、単気筒のエンジンであっても連続する燃焼行程の燃焼圧力増減を制御することによって適用することができる。
(3)実施形態は等間隔爆発のエンジンについて説明したが、不等間隔爆発のエンジンであっても、燃焼圧力の制御によって任意のトルク変動周波数を得られるものであれば本発明を適用することが可能である。
(4)実施形態においては、それぞれ同じ回数だけ連続する高圧力燃焼行程と低圧力燃焼行程とを交互に繰り返しているが、これに限らず、高圧力燃焼行程が連続する回数と低圧力燃焼行程が連続する回数とを異ならせてもよい。
(5)実施形態においては、燃料噴射量及び点火時期によって各気筒の燃焼行程の燃焼圧力を増減させているが、燃焼圧力を制御する手法はこれに限らず、適宜変更することができる。
例えば、気筒毎にスロットルバルブを有するエンジンや、気筒毎にバルブタイミング、リフトを変更可能なエンジンにおいては、吸入空気量を変化させて燃焼圧力を増減させるようにしてもよい。
(6)第1実施形態においては、クランクシャフトの回転角速度をモニタして車両の前後方向振動を検出しているが、振動を検出する方法はこれに限らず適宜変更することができる。
例えば、車体に前後方向加速度を検出するGセンサを設けたり、車輪の回転速度を検出する車速センサの出力(車速パルス信号周期)変動に基づいて振動を検出してもよい。
【符号の説明】
【0057】
1 エンジン 10 第1気筒
11 インジェクタ 12 点火栓
20 第2気筒 21 インジェクタ
22 点火栓 30 第3気筒
31 インジェクタ 32 点火栓
40 第4気筒 41 インジェクタ
42 点火栓 50 吸気装置
51 スロットルバルブ 52 インテークマニホールド
53 吸気圧センサ 60 排気装置
61 エキゾーストマニホールド 62 エキゾーストパイプ
63 触媒コンバータ 64 サイレンサ
65 空燃比センサ 66 リアOセンサ
70 クランク角センサ 71 センサプレート
72 ポジションセンサ 80 水温センサ
100 エンジン制御ユニット
110 トルクコンバータ 120 前後進切替部
130 バリエータ 131 プライマリプーリ
132 セカンダリプーリ 133 チェーン
140 フロントディファレンシャル 150 リアディファレンシャル
160 トランスファクラッチ 200 トランスミッション制御ユニット
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7