(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-08
(45)【発行日】2022-01-12
(54)【発明の名称】コンクリート破砕方法
(51)【国際特許分類】
E01C 23/12 20060101AFI20220104BHJP
E04G 23/08 20060101ALI20220104BHJP
【FI】
E01C23/12 Z
E04G23/08 H
(21)【出願番号】P 2017221436
(22)【出願日】2017-11-17
【審査請求日】2020-04-22
(73)【特許権者】
【識別番号】510106968
【氏名又は名称】首都高メンテナンス東東京株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591216473
【氏名又は名称】一般財団法人首都高速道路技術センター
(73)【特許権者】
【識別番号】391023518
【氏名又は名称】一般社団法人日本建設機械施工協会
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】特許業務法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 栄作
(72)【発明者】
【氏名】岡部 次美
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 明彦
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】繪鳩 武史
(72)【発明者】
【氏名】小野 秀一
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 晋也
【審査官】亀谷 英樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-104817(JP,A)
【文献】特開2001-262845(JP,A)
【文献】特開2017-186854(JP,A)
【文献】特開2001-205131(JP,A)
【文献】特開2007-138382(JP,A)
【文献】特開昭61-186673(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0159931(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01C 23/12
E01C 23/09
E01C 19/06
E01D 1/00-24/00
E04G 23/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超速硬コンクリートの硬化体に溝を形成する切削工程と、
前記溝に板状の加熱手段を挿入して
前記溝の深さ方向および長さ方向に対して均一に加温することで前記硬化体を加熱する加熱工程と、
前記硬化体を破砕する破砕工程と、を備えることを特徴とする、コンクリート破砕方法。
【請求項2】
前記加熱工程では、130℃以上の前記加熱手段により30分以上加熱することを特徴とする、請求項1に記載のコンクリート破砕方法。
【請求項3】
前記溝の深さが、前記硬化体の撤去対象範囲の深さの50%~100%の範囲内であることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載のコンクリート破砕方法。
【請求項4】
前記切削工程では、複数の前記溝を平行に形成するものとし、
前記破砕工程では、前記溝同士の間の部分を撤去することを特徴とする、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のコンクリート破砕方法。
【請求項5】
450mm以下の間隔で、複数の前記溝を形成することを特徴とする、請求項4に記載のコンクリート破砕方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超速硬コンクリートの硬化体を破砕するためのコンクリート破砕方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート構造物の補修では、コンクリートの劣化した部分を撤去した後、この撤去箇所に新たなコンクリート(補修材)を打設することにより行われている。例えば、道路橋のジョイント等のように、コンクリートに固定された部材の補修(交換)は、ジョイント固定用のコンクリート硬化体を破砕・撤去した後、新たな固定用のコンクリートを打設している。
【0003】
なお、供用中の道路構造物の補修工事では、交通渋滞の発生を回避するために夜間や休日等の比較的交通量の少ない時間帯に交通規制(通行止めや車線規制等)を行い、所定の時間内に作業を行うのが一般的である。また、鉄道の補修工事では、車両の通過が停止される終電から始発までの深夜の時間帯に作業を行うのが一般的である。さらに、住宅に隣接したコンクリート構造物の補修工事では、住民の多くが帰宅している時間を避けて昼間に作業を行うのが一般的である。
【0004】
コンクリートの一部を破砕する際には、コンクリートブレーカー、コンクリートカッターまたはウォータージェット等(以下、「ブレーカー等」という)を利用するのが一般的である。ところが、ブレーカー等を利用したコンクリートの破砕作業は、コンクリートへの打撃音または切削音や、コンプレッサーまたは発電機等の機械音による騒音が伴うため、短時間で行うのが望ましい。一方、コンクリートの強度が高い場合には、コンクリートの破砕に時間がかかる。
【0005】
そのため、撤去対象のコンクリート硬化体を脆弱化させてから破砕・撤去することで、破砕に要する時間の短縮化を図る方法が開示されている。
例えば、特許文献1には、コンクリート硬化体の表面に載置させた発熱体によってコンクリート硬化体の撤去対象部分を1分当たり7.5℃の割合で昇温させることでコンクリート硬化体の表面の温度が300℃になるまで加熱する方法が開示されている。コンクリート硬化体を300℃以上に加熱すると、コンクリート硬化体の内部の水分が水蒸気となって膨張するため、水蒸気の圧力により撤去対象部分のコンクリート硬化体にクラックが生じる。そのため、特許文献1の補修方法によれば、撤去対象領域がクラックにより脆弱化されて、破砕する作業に要する時間の短縮化を図ることができる。
【0006】
また、特許文献2には、超速硬コンクリートの硬化体の撤去対象範囲を200℃以上250℃未満の加熱手段により50分以上加熱する加熱工程を備えるコンクリート破砕方法が開示されている。このコンクリート破砕方法によれば、超速硬コンクリートの硬化体内のエトリンガイトの水分子を加熱により脱水させることで撤去対象範囲内の超速硬コンクリートの硬化体の強度を低下させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第3435493号公報
【文献】特開2017-186854号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1および特許文献2の方法では、コンクリート硬化体の表面に設置した発熱体によってコンクリート硬化体を加熱しているため、コンクリート硬化体の内部の受熱温度を所定の温度にまで上昇させるのに時間がかかる。また、コンクリート硬化体の表面に設けた発熱体によって加熱することができる深さにも制限があるため、コンクリート硬化体の撤去対象範囲の深さが深い場合には、加熱と破砕の作業を複数回繰り返す必要があり、手間と時間がかかる。
【0009】
このような観点から、本発明は、超速硬コンクリートの硬化体を簡易に破砕(切削)することができ、なおかつ、時間的制約がある工事個所においても採用することが可能なコンクリート破砕方法を提案することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために、本発明のコンクリート破砕方法は、超速硬コンクリートの硬化体に溝を形成する切削工程と、前記溝に板状の加熱手段を挿入して前記溝の深さ方向および長さ方向に対して均一に加温することで前記硬化体を加熱する加熱工程と、前記硬化体を破砕する破砕工程とを備えている。
【0011】
なお、前記加熱工程では、130℃以上の前記加熱手段により30分以上加熱するのが望ましい。また、前記溝の深さは、前記硬化体の撤去対象範囲の深さの50~100%の範囲内とするのが望ましい。また、前記切削工程において複数の溝を平行に形成した場合には、前記破砕工程において前記溝同士の間の部分を撤去すればよい。このとき、複数形成された溝同士の間隔(溝と溝とによって挟まれた部分の幅)は450mm以下にするのが望ましい。硬化体を効率よく加熱するためには、溝同士の間隔を小さくして溝の本数を増やすのが望ましい。
【0012】
かかるコンクリート破砕方法によれば、超速硬コンクリートの硬化体内のエトリンガイトの水分子を加熱により脱水させることで当該エトリンガイトを分解し、ひいては、硬化体の強度を低下させることができる。硬化体の強度を低下させることで、硬化体の破砕(切削)に要する時間を短縮することができる。なお、超速硬コンクリートの硬化体は、水和反応により析出されたエトリンガイト(3CaO・Al2O3・3CaSO4・32H2O)により強度が増加するため、エトリンガイトを分解すれば、硬化体の強度を低減させることができる。
【0013】
ここで、超速硬コンクリートを構成する超速硬セメントは、例えば、ポルトランドセメントに急硬性成分としてカルシウムアルミネート成分が混合されたものであって、水和初期にカルシウムアルミネート成分とセメントとが反応してエトリンガイト(3CaO・ Al2O3・3CaSO4・32H2O)を生成し、強度が発現するものである。
【0014】
また、硬化体に形成したスリット状の溝に挿入された板状の加熱手段により硬化体を加熱するため、硬化体の表面から所定の深さまでの広範囲に対して短時間で加熱することができる。そのため、撤去対象範囲の深さに関わらず効率的に硬化体を加熱して強度を低減させることができる。その結果、硬化体の破砕に要する作業の手間と時間を低減することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明のコンクリート破砕方法によれば、超速硬コンクリートの硬化体を簡易に破砕(切削)することができ、なおかつ、時間的制約がある場合であっても補修工事を実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施形態に係る道路用のジョイントを一部断面として示す斜視図である。
【
図2】本実施形態のコンクリート破砕方法の施工状況を模式的に示す図であって、(a)は切削状況を一部断面として示す斜視図、(b)は加熱手段の設置状況を示す斜視図である。
【
図3】
図2に続く施工状況を模式的に示す図であって、(a)は加熱状況を一部断面として示す斜視図、(b)(a)のA-A断面図である。
【
図4】本実施形態で用いる加熱手段の概要を示す模式図である。
【
図5】
図3に続く施工状況を模式的に示す図であって、硬化体の破砕状況を示す斜視図である。
【
図6】本実施形態の実証実験の供試体を示す図であって、(a)は平面図、(b)は(a)のB-B断面図である。
【
図7】同実証実験における供試体および加熱手段の温度の経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本実施形態では、一例として、老朽化あるいは破損した道路用のジョイント(伸縮装置)1を補修(交換)する場合について説明する。はじめに、ジョイント1の構造について説明し、その後、ジョイント1の補修の手順について説明する。
【0018】
図1に示すように、ジョイント1は、隣り合う床版2,2の端部同士に跨って道路を横断する方向に配設されている。ジョイント1は、隣り合う床版2,2同士の隙間3の上面を覆うように配設されている。
【0019】
床版2は、普通コンクリートにより形成された鉄筋コンクリート部材である。床版2の端部には、上面が一般部21よりも低い段差部22が形成されている。隣り合う床版2,2の端部同士を突き合わせると、両段差部22,22により凹字状の凹溝23が形成される。ジョイント1は、この凹溝23内に配設されるとともに、凹溝23に充填された超速硬コンクリートの硬化体4により固定されている。なお、段差部22には、図示しない接続筋が突設されていて、硬化体4と床版2とが接続筋を介して一体化されている。なお、床版2は鉄筋コンクリート部材に限定されるものではない。
【0020】
ジョイント1は、一対のジョイント本体11,11とシール材12と複数のアンカー13とを備えている。
ジョイント本体11は、鋼製部材からなり、他方のジョイント本体11側の端部に凹凸が形成されている。ジョイント本体11の凹凸は、同一形状の凹部11aと凸部11bとが交互に連続していることにより形成されている。一対のジョイント本体11,11は、互いの凹部11aと凸部11bが噛み合わせた状態で突き合わされている。本実施形態では、平面視台形状の凹凸が形成されているが、ジョイント本体11の端部に形成される凹凸の形状は限定されるものではなく、例えば、三角形状であってもよい。
【0021】
シール材12は、ジョイント本体11,11同士の突き合わせ部の下面に貼着されていて、ジョイント本体11,11同士の隙間および床版2,2同士の隙間3を覆っている。シール材12は、断面視門型状を呈しているが、シール材12の形状は限定されるものではなく、例えば平板状であってもよい。また、シール材12を構成する材料は限定されるものではないが、伸縮性を備えた樹脂であるのが望ましい。
【0022】
アンカー13は、ジョイント本体11の背面(他方のジョイント本体11の反対側の面)に突設されている。ジョイント1は、アンカー13が硬化体4に埋設されることで固定されている。アンカー13は異形鉄筋により形成されているが、アンカー13を構成する材料は異形鉄筋に限定されるものではなく、例えばプレート状部材であってもよい。また、アンカー13には、必要に応じて定着部(フックや突起等)が形成されていてもよい。また、ジョイント1は、必ずしもアンカー13を備えている必要はなく、例えば、アンカー13に代えて床版2の段差部22に設けられた図示しない接続筋に取り付ける取付部材を備えていてもよい。
【0023】
床版2の一般部21の上面には、所定の厚さの舗装5が積層されている。ジョイント1および硬化体4の上面は、舗装5の上面と同一平面になっている。なお、舗装5を構成する材料は限定されるものではなく、例えばアスファルト舗装やコンクリート舗装等であってもよい。また、舗装5の層厚は限定されるものではなく、道路の用途や交通量等に応じて適宜設定される。
【0024】
ここで、普通コンクリートは所定の強度を発現するまでに時間を要する。そのため、時間的制限がある中で施工を行う必要がある道路のジョイント部では、打設後3時間程度で24N/mm2以上の圧縮強度を発現する超速硬コンクリート(いわゆるジェットコンクリート)をジョイント1と床版2との接合部(段差部22)に打設することがある。超速硬コンクリートは、必要な強度を発現した後も、水和反応が収束するまで強度が増加し続けるため、圧縮強度が高い(例えば、材齢28日強度が60N/mm2)。また、超速硬コンクリートは、水和反応により多量のエトリンガイトが析出されるが、このエトリンガイトの析出により膨張することで、硬化体の緻密化が進行する。
【0025】
ジョイント1の補修は、超速硬コンクリートの硬化体4を撤去して、ジョイント1を交換した後、新設したジョイント1の周囲(段差部22)に超速硬コンクリートからなる補修材(硬化体4)を新たに打設することにより行う。ジョイント1の補修作業は、交通量が少ない時間帯(例えば、夜間)において、交通規制をした状態で実施される。ジョイント1は、段差部22に打設された超速硬コンクリートの硬化体4により両床版2,2に固定されているため、ジョイント1を補修する際には、まず硬化体4を破砕して除去する。
【0026】
硬化体4の破砕方法は、切削工程と、加熱工程と、破砕工程とを含むように行われる。
硬化体4の破砕および除去は、道路の交通規制を行い、補修工事の作業エリアを確保した状態で行う。交通規制は、例えば、2車線道路のうちの一方の車線(撤去対象範囲を含む車線)を閉鎖して作業エリアとし、他方の車線(撤去対象範囲を含まない車線)を開放した状態で行う。なお、交通規制方法は限定されるものではなく、例えば、施工範囲(延長区間)に対して道路を通行止めにしてもよい。
【0027】
切削工程では、
図2(a)に示すように、硬化体4にスリット状の溝(薄幅溝)6を形成する。溝6は、ジョイント1(道路横断方向)に沿って切削する。溝6の切削は円盤状のブレードを有したコンクリートカッターM1を利用して行う。溝6の開口幅の大きさ(短手方向の寸法)は、3mm~15mm程度とする。なお、溝6の切削方法は限定されるものではなく、例えば、ウォータージェットを利用してもよい。また、溝6の方向も限定されるものではない。さらに、溝6の開口幅の大きさ(短手方向の寸法)は限定されるものではないが、好ましくは、溝6の深さの1/5以下とする。
【0028】
ここでは、一例として、複数(本実施形態では、一方の硬化体4に対して3本)の溝6を平行に形成する。このとき、溝6同士の間に100mm程度の隙間を確保する。また、溝6の深さは、硬化体4の厚さ(段差部22の深さ)の50%~100%の範囲とする。溝6の本数および溝6同士の間隔は限定されるものではないが、好ましくは溝6同士の間隔を450mm以下、より好ましくは150mm以下とする。溝6同士の間隔は、溝6同士の間の部分が破砕しやすい大きさになるように、硬化体4の幅(道路縦断方向の大きさ)や硬化体4の熱伝道率や伝播範囲(硬化体4の緻密化状態)等に応じて適宜決定する。また、溝6の深さも限定されるものではなく、加熱工程において撤去対象範囲(硬化体4)の深さ方向に対して全体的に加熱することが可能な深さに適宜設定すればよい。
【0029】
加熱工程では、
図2(b)および
図3に示すように、溝6に板状(プレート状)の加熱手段7を挿入して硬化体4を加熱する。本実施形態では、300℃以上400℃以下の加熱手段7を利用して、加熱手段7が設けられた深さ位置における硬化体4(被加熱体)の受熱温度の平均値が130℃以上になるように30分~1時間加熱する。このとき、硬化体4の昇温速度は、1.3℃/min~3.5℃/minとする。なお、硬化体4の受熱温度および昇温速度は限定されるものではない。また、加熱工程では、必要に応じて硬化体4の所定の位置に温度計(センサー)等を設けておき、硬化体4の受熱温度を確認しながら加熱してもよい。また、加熱手段7の温度は限定されるものではないが、好ましくは130℃以上とする。さらに、加熱手段7による加熱時間も限定されるものではないが、好ましくは30分以上とする。
【0030】
加熱手段7には、
図4に示すように、電熱線72が内部に配線された鋼板71を使用する。加熱手段7(電熱線72)は、発電機73に送電線74を介して接続されており、発電機73から送電された電力により加熱される。本実施形態では、発電機73を交通規制中の道路上に設置するが、発電機73の設置個所は限定されるものではなく、例えば、トラック等の車両に上載されていてもよいし、道路脇に設置されていてもよい。なお、加熱手段7の構成は限定されるものではない。
【0031】
鋼板71(加熱手段7)の幅(深さ方向の大きさ)および長さは、溝6の深さおよび長さと同程度とする。また、鋼板71(加熱手段7)の厚さは、溝6の幅よりもわずかに薄い厚さとする。このような加熱手段7を溝6に挿入して加熱することで、硬化体4の深さ方向および長さ方向(道路幅方向)に対して満遍なく均一に加熱することができる。なお、鋼板71の幅(深さ方向の大きさ)および長さは、溝6の深さおよび長さよりも小さくてもよい。また、溝6の長さが大きい場合には、複数枚の鋼板71を連続して挿入する。
【0032】
破砕工程では、加熱手段7(鋼板71)を溝6から撤去した後、
図5に示すように、加熱された硬化体4を破砕および撤去する。硬化体4は、加熱工程を実施することにより、内部のエトリンガイトの水分子が脱水されている。そのため、硬化体4内のエトリンガイトが分解されており、硬化体4の強度が低下させられている。
【0033】
硬化体4の破砕は、まず溝6同士の間の部分を撤去し、その後、残りの部分を撤去すればよい。本実施形態ではコンクリートブレーカーM2を利用して硬化体4を破砕する。硬化体4を破砕することにより発生したガラは撤去する。なお、硬化体4の破砕に使用する装置は限定されるものではなく、例えば、ウォータージェットを利用してもよい。また、硬化体4の破砕の手順は限定されるものではない。
【0034】
硬化体4を撤去したら、露出したジョイント1を新しいジョイント1に交換する。次に、交換したジョイント1と床版2及び舗装5との隙間(段差部22)に補修材を充填する(
図1参照)。また、補修材の打設に伴い、必要に応じて鉄筋を配筋する。補修材を構成する材料は限定されないが、本実施形態では、超速硬コンクリートを採用する。
補修材を所定の強度が発現するまで養生したら、交通規制を解除する。
【0035】
以上、本実施形態のコンクリート破砕方法によれば、硬化体4に形成したスリット状の溝6に挿入された加熱手段7により硬化体4を加熱するため、硬化体4の表面から所定の深さまでの範囲に対して短時間で加熱することができる。そのため、硬化体4を全深度にわたって加熱することで、硬化体4の強度を全体的に低下させることができる。すなわち、撤去対象範囲の深さに関わらず効率的に加熱および破砕を行うことができ、その結果、作業の手間と時間を低減することができる。
【0036】
硬化体4を受熱温度が130℃以上になるように加熱すると、硬化体4内のエトリンガイトの水分子が脱水されて、当該エトリンガイトを分解することができる。エトリンガイトを分解すれば、硬化体4の強度が低下するため、硬化体4の破砕に要する時間を短縮することができる。そのため、硬化体4の破砕に伴う騒音や振動等が発生する時間を最小限に抑えることで、周辺環境への悪影響を最小限に抑制することができる。なお、硬化体4は、水和反応により析出されたエトリンガイト(3CaO・Al2O3・3CaSO4・32H2O)により強度が増加するため、エトリンガイトを分解すれば、超速硬コンクリートの硬化体4の強度を低減させることができる。
【0037】
硬化体4の加熱温度(好ましくは130℃以上、より好ましくは300℃以上400℃以下の範囲内の加熱手段7)および加熱時間(好ましくは30分以上、より好ましくは30分~1時間の範囲内)を調整することで、硬化体4中のエトリンガイトを分解し、超速硬コンクリートの硬化体4のみを脆弱化することが可能となる。なお、普通コンクリートはより高い温度で脆弱化する性質を有している。そのため、本実施形態のコンクリートの破砕方法によれば、普通コンクリートからなる床版2の健全性を保ち、かつ、床版2に損傷を与えることなく、硬化体4を破砕することができる。
【0038】
硬化体4を加熱することにより、硬化体4内の水分の蒸発に伴う水蒸気によって硬化体4に亀裂が生じれば、硬化体4をより破砕しやすくなる。
溝6同士の間隔を450mm以下、好ましくは150mm以下にすることで、何らかの原因により溝6の切削後に道路を開放する必要が生じた場合であっても、通行に支障が生じることがない。また、溝6同士の間隔を小さくして溝6の本数を増やすことで、より効率的に硬化体4を温めることができる。
【0039】
次に、本実施形態のコンクリートの破砕方法について実施した実証実験結果について説明する。
本実験では、
図6(a)および(b)に示すように、超速硬コンクリートにより製造した供試体8に形成した溝6にプレート状の加熱手段7(鋼板71)を挿入して加熱した後、当該供試体8を破砕した。
【0040】
本実験では、まず、長さ600mm、幅350mm、高さ(深さ)300mmの供試体8に対して、供試体8の長手方向に沿って、深さ100mmのスリット(溝6)を100mm間隔で3本平行に形成した。
供試体8は、
図6(b)に示すように、普通コンクリートからなる厚さ150mmの基板20上に超速硬コンクリートからなる厚さ150mmの硬化体4が積層された2層構造である。
【0041】
次に、
図6(a)および(b)に示すように、各溝6に鋼板71(加熱手段7)を挿入して、供試体8(硬化体4)を加熱した。鋼板71は、発電機73等の電源により加熱する。夜間交通規制中に溝6の切削から補修完了(補修材の打設・養生)までを実施することを想定し、加熱時間を1時間とした。
【0042】
本実験では、供試体8の合計28か所に熱電対81を予め配置しておき、加熱時の供試体8の受熱温度を計測した。熱電対81の設置個所は、供試体8の長手方向先端(
図6(a)において上端)から110mm、310mmおよび510mm、供試体8の幅方向一端(
図6(a)において左端)から20mmおよび320mmの各位置において、深さ方向20mm、90mmおよび120mmにそれぞれ設置した(計18か所)。また、長手方向先端から110mmおよび510mmでは幅方向一端側から200mmの位置、長手方向先端から310mmの位置では幅方向一端側から120mmの位置にも深さ方向20mm、90mmおよび120mmにも熱電対81をそれぞれ設置した(計9か所)。さらに、長手方向先端から310mm、幅方向一端から200mmの位置の深さ150mmにも熱電対81を設置した(1か所)。
【0043】
加熱手段7の加熱温度は、300℃以上400℃以下とする。
図7に鋼板71(加熱手段7)及び供試体8(硬化体4)の温度変化を示す。なお、鋼板71(加熱手段7)の温度は、鋼板71の上端部において測定した。
図7に示すように、鋼板71の上部の最高温度は280℃前後であった。これは、コンクリートの吸熱により加熱手段7の温度が低下したものと想定される。なお、
図7では、供試体8の幅方向一端側(
図6において左側)の鋼板71から順に第一鋼板、第二鋼板、第三鋼板と称する。
【0044】
また、供試体8の深さ20mmにおいては、昇温速度(平均値)が約2~4℃/minで、最高受熱温度の平均値が140℃程度であった。また、供試体8の深さ90mmにおける最高受熱温度の平均値は120℃程度であった。したがって、鋼板71が設けられた位置における供試体8の受熱温度は、130℃前後であった。一方、供試体8の深さ150mmの位置では、昇温速度が約2~4℃/minで、最高受熱温度が80℃となった。
加熱後の供試体8は脆弱化しており、コンクリートブレーカーM2等を用いなくても、ハンマーやバール等により容易に破砕することができた。
【0045】
以上、本発明の実施形態について説明したが本発明は、前述の実施形態に限られず、前記の各構成要素については、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変更が可能である。
前記実施形態では、ジョイント1の補修について説明したが、本発明のコンクリート破砕方法が適用可能な対象物は限定されるものではなく、例えば、超速硬コンクリートからなる舗装体やコンクリート版等の補修に採用してもよい。
【0046】
本発明のコンクリート破砕方法は、ジョイント1の補修工事に限定されるものではなく、あらゆる超速硬コンクリートの構造物の解体・補修に採用することができる。
加熱工程で使用する加熱手段7は、硬化体4の部材厚や性状等に応じて適宜設定すればよい。
前記実施形態では、硬化体4の全体を加熱する場合について説明したが、硬化体4を複数層に分けて、各層毎に加熱および破砕を繰り返してもよい。
【符号の説明】
【0047】
1 ジョイント
2 床版
3 隙間
4 硬化体(超速硬コンクリート)
5 舗装
6 溝
7 加熱手段
71 鋼板