(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-08
(45)【発行日】2022-01-12
(54)【発明の名称】溶融成形用材料及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 27/20 20060101AFI20220104BHJP
C08L 27/18 20060101ALI20220104BHJP
【FI】
C08L27/20
C08L27/18
(21)【出願番号】P 2017248288
(22)【出願日】2017-12-25
【審査請求日】2020-07-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000174851
【氏名又は名称】三井・ケマーズ フロロプロダクツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100075177
【氏名又は名称】小野 尚純
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(72)【発明者】
【氏名】西尾 孝夫
(72)【発明者】
【氏名】筑後 春輝
(72)【発明者】
【氏名】糠谷 明伸
【審査官】古妻 泰一
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-080672(JP,A)
【文献】特開2002-265522(JP,A)
【文献】特開2013-071341(JP,A)
【文献】特開2010-013520(JP,A)
【文献】国際公開第2016/204174(WO,A1)
【文献】特開2015-124346(JP,A)
【文献】特表2015-507061(JP,A)
【文献】特開2016-124913(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 27/20
C08L 27/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
360℃、せん断速度60.8/secにおけるトルートン比が18以上である溶融成形用材料であって、ASTM D1238に準拠して、荷重5kg、測定温度372℃で測定したメルトフローレート(MFR)が0.1~200g/10分であるテトラフルオロエチレン・パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体(PFA)と、ASTM D1238に準拠して、荷重5kg、測定温度372℃で測定したメルトフローレートが0g/10分且つ結晶化融解熱量が50J/g未満である非溶融流動性ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)から成
り、前記非溶融流動性ポリテトラフルオロエチレンの含有量が、溶融成形用材料の総重量に対して0.01~10重量%の量であることを特徴とする溶融成形用材料。
【請求項2】
伸長粘度が1.00E+04Pa・s以上である請求項1記載の溶融成形用材料。
【請求項3】
前記テトラフルオロエチレン・パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体のパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)含有量が1~20モル%である請求項1
又は2に記載の溶融成形用材料。
【請求項4】
ペレット形状である請求項1~
3の何れかに記載の溶融成形用材料。
【請求項5】
請求項1~
4の何れかに記載の溶融成形用材料から成ることを特徴とする成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素樹脂から成る溶融成形用材料に関するものであり、より詳細には、トルートン比が高く、且つ伸長粘度が高いことにより、偏肉精度(寸法精度)、ドローダウン性、厚肉成形性、フィルム押出成形におけるネッキング等が改良された成形用材料、及びその製造方法に関する。
本発明はまた、電線押出成形におけるコーンブレイクの改善、電線被覆等の成形における臨界押出速度の向上及び薄膜化、発泡成形におけるセルサイズの均一性の改善及び発泡率の向上に有用な成形用材料に関する。
【背景技術】
【0002】
テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体(PFA)、或いはテトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)等の熱溶融性フッ素樹脂は溶融成形が可能であることから、溶融押出成形、射出成形、トランスファー成形、回転成形(ロトモールド)、ブロー成形、圧縮成形、コーティング等、各種成形法により様々な成形品を得ることが出来る。例えば、各種基材(鉄、アルミニウム等の金属、プラスチック(熱可塑性樹脂或いは熱硬化性樹脂)等)基材への塗装や配管類のライニング、電線被覆、チューブ、パイプ、ホース、フィルム、シート、フィラメント、シールリング、パッキン、ウェハーキャリア、継手、バルブボディ、各種容器、ボトル、タンク、丸棒、板、スリーブ等に利用されている。
【0003】
しかしながら、得られる成形品の強度、耐薬品性、電気的絶縁性、遮光性等を向上させるため成形品の肉厚やコーティング品の膜厚を厚くしたり、成形性を改善させるため成形樹脂温度を過度に高くしたりすると、成形中にドローダウンやサージング(脈動)が発生し、厚み変動が大きくなり、均一な厚みの成形品を得ることが難しく、収率が低下するという不具合があった。
また、電線被覆等の成形においては、生産性向上及びコストダウンを目的として、成形速度(臨界押出速度)を上げたり、被覆を薄膜化したりすると、メルトフラクチャ―が発生し被覆が破断する等の成形不良が発生するという不具合があった。これらの不具合を解消するために、熱溶融性フッ素樹脂に低分子量のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の微粒子や粉末を分散或いはブレンドすることが提案されている。
【0004】
下記特許文献1には、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン系共重合体(FEP)と、標準比重が2.15~2.30のPTFEとからなる共凝集物を溶融押出することにより得られるフッ素樹脂組成物が記載されている。しかしながら、FEPはPFAに比べ耐熱性・耐薬品性に劣ることに加え、標準比重が2.20を超えるPTFEは分子量が低いため繊維化し難く、そのためFEP分子鎖とPTFE分子鎖が絡まらず、被覆の破断を十分に防ぐ被覆強度を得ることが出来ないという問題が有った。
【0005】
下記特許文献2には、粉体塗装や回転成形等の粉末加工により表面平滑性に優れた塗膜や成形物を与える、結晶化熱が50J/g未満のPTFEとPFA からなる粉末組成物が記載されている。結晶化熱が50J/g未満のPTFEは高分子量PTFEではあるが、表面平滑性を得るためには成形品表面の平均球晶径をできるだけ小さくすることが望ましく、そのためには該PTFEを繊維化させないことが必要である。それ故、特許文献2では、高分子量PTFEが繊維化していない。また、回転成形、粉体塗装等に限定した原料であるためPFAの分子鎖とPTFEの分子鎖が絡まることが無く、溶融樹脂のドローダウン性が改善されないという問題が有った。
また、一般的に高分子量PTFEの一次粒子から成る粉末(ファインパウダー)やその凝集粉末(モールディングパウダー)は、他の樹脂と混合する際に、低分子量PTFEに比べ容易に繊維化(フィブリル化)し凝集物が発生し易く粉体の取り扱い性が劣るため、高分子量PTFEを混合した粉末組成物は、成形性が悪く生産効率が低いという問題も有った。
【0006】
従って、特許文献1及び2では、溶融成形における偏肉精度(寸法精度)、ドローダウン性、厚肉成形性、射出成形性を十分に向上することが出来ず、得られる成形品の遮光性等も十分に向上することが出来ないため、更なる改善が求められている。
加えて、熱溶融性フッ素樹脂組成物からなるフィルムは、T-ダイによるフィルム成形時にスリットから出てくる溶融樹脂がネッキング現象のため、得られるフィルムの幅がT-ダイのスリット幅よりも狭くなることに加え、フィルム中心部から端に向かうに従い肉厚が厚くなる。従って、所定の肉厚のフィルムを得るためには、端の部分を大幅にカッティングする必要があり、歩留まりが非常に悪くなるという問題を抱えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第4798131号
【文献】特許第3594950号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、熱溶融性フッ素樹脂から成る溶融成形用材料において、トルートン比及び伸長粘度を改善することにより、溶融成形(溶融押出成形、ブロー成形、射出成形等)における偏肉精度(寸法安定性)、ドローダウン性、厚肉成形性、真空成形性が改良され、フィルム押出成形におけるネッキングの防止等にも優れた溶融成形用材料を提供することにある。また、電線押出成形におけるコーンブレイク(押出速度が上がった際に樹脂破断する)が改善され、発泡成形におけるセルサイズの均一性が改善されていると共に、発泡率の向上も可能な、優れた溶融成形用材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、360℃、せん断速度60.8/secにおけるトルートン比が18以上である溶融成形用材料であって、ASTM D1238に準拠して、荷重5kg、測定温度372℃で測定したメルトフローレート(MFR)が0.1~200g/10分であるテトラフルオロエチレン・パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体(PFA)と、ASTM D1238に準拠して、荷重5kg、測定温度372℃で測定したメルトフローレートが0g/10分且つ結晶化融解熱量が50J/g未満である非溶融流動性ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)から成り、前記非溶融流動性ポリテトラフルオロエチレンの含有量が、溶融成形用材料の総重量に対して0.01~10重量%の量であることを特徴とする溶融成形用材料が提供される。
【0010】
本発明の溶融成形用材料においては、
1.伸長粘度が1.00E+04Pa・s以上であること、
2.前記PFA中のパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)含有量が1~20モル%であること、
3.ペレット形状であること、
が好ましい態様である。
【0012】
本発明によれば更に、上記溶融成形用材料から成ることを特徴とする成形品が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明の溶融成形用材料及びその製造方法、並びに上記溶融成形用材料からなる成形品にあっては、以下の優れた効果が期待できる。
すなわち、本発明の溶融成形用材料においては、溶融成形における偏肉精度(寸法安定性)、ドローダウン性、厚肉成形性、真空成形性が改良されていることから、強度、遮光性等が向上された厚肉で均一な肉厚の成形品を成形することができる。またフィルム押出成形におけるネッキングの発生が防止されているため、均一な肉厚のフィルムを歩留まりよく成形できるという効果が得られる。更に、電線押出成形における臨界押出速度の向上及び薄膜化、コーンブレイクの発生の抑制 、発泡成形におけるセルサイズの均一性の改善及び発泡率の向上という効果が得られる。更にまた、トルートン比が高いことにより離型性も向上できることから、射出成形性にも優れている。
また本発明の溶融成形用材料の製造方法においては、トルートン比及び伸張粘度が上記範囲にある溶融成形用材料を効率よく製造できる。
更に本発明の溶融成形用材料から成る成形品は、容器、フィルム、チューブ等においては均一な厚みを有すると共に厚肉又は薄肉の成形品として成形可能であり、或いは電線被覆においては、薄肉の被覆や均一なセルサイズを有し発泡率の高い被覆を形成可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の溶融成形用材料のMFR減少率のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(溶融成形用材料)
本発明の溶融成形用材料は、360℃、せん断速度60.8/secにおけるトルートン比が18以上であり、ASTM D1238に準拠して、荷重5kg、測定温度372℃で測定したメルトフローレート(以下、単に「MFR」ということがある)が0.1~200g/10分であるテトラフルオロエチレン・パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体(PFA)と、MFRが0g/10分且つ結晶化融解熱量が50J/g未満である非溶融流動性ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)からなることが重要な特徴である。
【0016】
本発明で規定するトルートン比は、下記式(1)
トルートン比 = 伸長粘度(伸長変形に抵抗する力)/剪断粘度(剪断変形に抵抗する力)…(1)
で表され、流入圧力損失法を用い、コックスウェル(Cogswell)の理論[Polymer Engineering Science 12、p.64-73(1972)]にしたがって測定を行うことにより得られ、これにより分子鎖の絡み具合が示される。
尚、トルートン比の求め方の詳細については、後述する。
【0017】
本発明においては、このトルートン比が18以上、より好ましくは40以上であること、が重要である。トルートン比が上記範囲にあることにより、PFAの分子鎖と、繊維化された非溶融性PTFEの分子鎖が十分に絡み合っていることが示されている。
すなわち、本発明の溶融成形用材料においては、せん断力が加わることにより容易に繊維化するPTFEを、溶融成形時のせん断力及び/又は延伸力により繊維化し、この繊維化したPTFEの繊維(フィブリル)を溶融したPFA中に分散させる。更に繊維化したPTFEが分散したPFAを、PTFEの融点以上の温度で加熱することにより、整然と並んだPTFEの結晶の分子鎖が分子緩和により解れ、PFAの分子鎖とPTFEの分子鎖同士がランダムに絡み合う。
PFAの分子鎖とPTFEの分子鎖同士が十分に絡み合っていること、すなわちトルートン比が高いほど、ドローダウンの発生やサージングの発生が抑制され、偏肉精度(寸法精度)、厚肉成形性、射出成形性等が改善される。またフィルム押出成形におけるネッキングを改善することができることから、均一な厚みのフィルムを歩留まり良く成形できる。更に電線被覆においては、成形速度を上げてもメルトフラクチャーが発生しないことからコーンブレイクが発生せず、発泡用途においてはセル同士が接着せず微細均一発泡が可能になる。
尚、トルートン比が高すぎる場合には溶融成形が困難になるため、トルートン比は30000以下であることが好ましい。
【0018】
また本発明の溶融成形用材料においては、360℃、せん断速度60.8/secでの伸長粘度が1.00E+04Pa・s以上であることが好ましく、特に4.00E+04Pa・s以上であることが好ましい。伸長粘度が1.00E+04Pa・s未満の場合には、溶融樹脂が伸び易く切れ易い、或いは破れ易くなるため好ましくない。
すなわち、溶融成形の過程において、樹脂は流れるだけでなく、潰されたり、引き伸ばされたりする伸長変形を受ける。この時の樹脂の挙動は伸長粘度によって表すことが出来、伸長粘度はこの変形に対する抵抗の強さをいう。伸長粘度は、伸長変形を与えた時に発生する応力を伸長速度で割ることにより得られ、粘度の低い樹脂でも測定可能な伸張流動を利用してCogswell法で測定することが出来る。キャピラリーレオメーターを用いる場合には、同じオリフィス径(1mm)でランド長さ(L≒0mm、L=10mm)を変えて測定することにより剪断粘度測定と同時に測定することが出来る。
【0019】
更に、本発明の溶融成形用材料においては、360℃、せん断速度60.8/secでのせん断粘度は1.00E+04Pa・s以下であることが好ましく、特に5.00E+03Pa・s以下であることが好ましい。せん断粘度が1.00E+04Pa・sを超える場合には、トルートン比が小さくなるため好ましくない。
すなわち、溶融成形の過程においては、樹脂は積み重ねたカードがずれるようにも変形(せん断変形)する。この時の樹脂の挙動はせん断粘度によって表すことが出来、せん断粘度はこの変形に対する抵抗の強さをいう。せん断粘度は、せん断変形を与えた時に生じるせん断応力をその時のせん断速度で割ることにより得られ、変形スピード(剪断速度)によってその値が大きく異なる。
せん断粘度は、縦軸を溶融成形用材料のMFR、横軸をPTFE添加量とした時に得られるMFR対数グラフの直線の傾きと関連し、傾きがー0.1より小さいほど、PTFEの分散性が良く、PFAの分子鎖とPTFEの分子鎖がより絡まっていることを示している(溶融成形用材料のMFR減少効果が高いことを示している)。また、
図1に示されるように溶融成形用材料のMFRが大きいほど、この効果が大きいことを示している。
【0020】
本発明の溶融成形用材料においては、特にペレット形状を有していることが好適である。すなわち、PTFEの分子鎖とPFAの分子鎖が絡み合った状態で存在しているペレットを用いて溶融成形することにより、更に、PTFEの分子鎖とPFAの分子鎖、或いはPTFEの分子鎖と、PFA及びFEPの分子鎖同士の絡み合いを促進することが可能になり、本発明の溶融成形用材料が有する前述したドローダウン性等の効果をより向上することが可能になる。
本発明の溶融成形用材料においては、ペレット形状に成形することなく、PFAとPTFEの粉末状(粉末状物の造粒品、フレーク等含む)、粒状物、フレーク等を溶融混合し、繊維化されたPTFEの分子鎖とPFAの分子鎖が絡み合った溶融混合状態とし、溶融混合状態の溶融成形用材料から直接成形品を成形することも可能である。
【0021】
[PFA]
本発明の溶融成形用材料に用いられるPFAは、融点以上の温度で溶融して流動性を示す熱溶融性フッ素樹脂である。
本発明の溶融成形用材料においては、PFAを単独で使用しても良いし、PFAにFEPを混合して用いても良い。
また、PFA及びFEPとしては、コモノマー種類、コモノマー含有量、分子量(重量平均分子量または数平均分子量)、分子量分布、融点及びMFR等が異なる、あるいは機械的物性等が異なる少なくとも2種類以上の同一種類の共重合体同士の混合物も挙げられる。例えば2種以上のPFA同士、あるいは少なくとも1種のPFAと少なくとも1種のFEPとの混合物であっても良い。この様なPFA及びFEPは、溶液重合、乳化重合、懸濁重合等公知の方法によって製造することができる。
【0022】
本発明に用いるPFA及びFEPのMFRは、1~200g/10分であることが好ましく、より好ましくは1~100g/10分、さらに好ましくは1~50g/10分であることが望ましい。前述したとおり、MFRは、ASTM D1238―95に従い、温度372℃、荷重5kg重で測定する。
MFRは、前述したPTFEの繊維化によるトルートン比に影響を与え、MFRが低いほどトルートン比は大きくなり、偏肉精度(寸法精度)、ドローダウン性、厚肉成形性等の本発明の溶融成形用材料が有する前述した効果が向上される傾向にある。
また、PFA及びFEPの融点は、溶融成形が可能な範囲であれば限定されないが、PFA及びFEPの融点はPTFEの融点未満であり、かつ相溶する目的で、PTFEの融点と近いことが好ましい。
【0023】
本発明に用いるPFAは、主成分であるテトラフルオロエチレン(TFE)と、コモノマーであるパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)との共重合により得られる溶融成形性共重合体である。コモノマーとして用いられるパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)としては、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)(PMVE)、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)(PEVE)、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)(PPVE)、パーフルオロ(ブチルビニルエーテル)(PBVE)などが好ましく、中でもパーフルオロ(エチルビニルエーテル)(PEVE)およびパーフルオロ(プロピルビニルエーテル)(PPVE)が好ましい。
PAVEの含有量は、1~20モル%であることが好ましい。より好ましくは1~15モル%である。
【0024】
本発明の溶融成形用材料においては、上述したとおり、PFAと共に、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)を含んでいても良い。FEPを含有する場合には、PFA、FEP及びPTFEの総重量に対して、40重量%以下の量で含有する。
FEPが40重量%を超えると、耐熱性、耐薬品性が劣る為好ましくない。
FEPとしては、主成分であるテトラフルオロエチレン(TFE)と、コモノマーであるヘキサフルオロプロピレン(HFP)との共重合により得られる溶融成形性共重合体、或いは更にHFP以外の、TFE及びHFPと共重合可能な含フッ素モノマー、例えば、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)を重合させてFEPを得るものであってもよい。共重合可能な含フッ素モノマーは2種以上共重合させるものであっても良い。共重合体中のヘキサフルオロプロピレン(HEP)含有量は30モル%以下、好ましくは5~15モル%であることが望ましい。
【0025】
[非溶融流動性PTFE]
本発明の溶融成形用材料に用いる非溶融流動性PTFEは、テトラフルオロエチレンの単独重合体であって、ホモポリマーと呼ばれるテトラフルオロエチレン(TFE)の単独重合体(PTFE)、或いは1%以下のコモノマーを含むテトラフルオロエチレンの共重合体(変性PTFE)である。PTFEの融点は、その重合方法により異なるが320℃~350℃である。
PTFEの重合方法としては、溶液重合、乳化重合、懸濁重合等公知の方法を用いることができるが、乳化重合で得られたポリマーラテックスであることがより好ましい。
【0026】
本発明のPTFEは、上述した重合方法により得られるPTFEであって、結晶化融解熱量が50J/g未満、特に40J/g未満である非溶融流動性のPTFEであることが好ましい。
このようなPTFEは高分子量であるため溶融成形性を有さないが、前述したとおり、溶融成形時のせん断力及び/又は延伸力により容易に繊維化し、溶融したPFA中にその繊維(フィブリル)が分散する。更にPTFEの融点以上の温度に加熱されると分子緩和により整然と並んだPTFEの結晶の分子鎖が解れ、PTFEの分子鎖とPFAの分子鎖、或いはPTFEの分子鎖と、PFA及びFEPの分子鎖とがランダムに絡み合った状態で溶融成形用材料中(ペレット中)に存在する。
PTFEの結晶化融解熱量が50J/g以上であるPTFEの場合には、分子量が低く繊維化し難くなるため、好ましくない。
【0027】
本発明の溶融成形用材料におけるPTFEの含有量は、PFAとPTFEの総重量に対し、0.1~10重量%である。PTFEの含有量が0.1~10重量%の範囲にあれば、高分子量PTFEを含む溶融成形用材料を溶融成形することが可能となる。10重量%を超える場合には、熱溶融成形性を有さない繊維化したPTFEの分子鎖が多量に溶融成形用材料中に存在し溶融成形が困難になるため好ましくない。溶融成形性とドローダウン性、偏肉精度、厚肉成形性等の全ての特性に優れるという観点で、より好ましくは0.3~5重量%、更に好ましくは0.5~3重量%である。
【0028】
[その他]
本発明の溶融成形用材料は、公知の各種熱安定剤を含有することができる。熱安定剤としては、アミン系酸化防止剤、有機硫黄系化合物、錫又は亜鉛粉末、フェノール系酸化防止剤、ポリフェニレンサルファイド等を例示することができるが、耐薬品性に優れ、溶出物の問題がない点においてポリフェニレンサルファイドが熱安定剤として好ましい。
【0029】
本発明の溶融成形用材料は、用途によっては各種の充填材或いは顔料を含有することもできる。例えば、金属粉末、金属繊維、カーボンブラック、カーボン繊維、炭化珪素、酸化チタン、ガラス繊維、ガラスビーズ、ガラスフレーク、グラファイト、耐熱性樹脂、例えばポリフェニレンサルファイド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルスルフォン、ポリエーテルエーテルケトン、芳香族ポリアミド等を例示することができる。充填剤は溶融成形に悪影響のない形状であることが望ましい。
【0030】
(溶融成形用材料の製造方法)
[混合工程]
PFAとPTFEからなる溶融成形用材料を得る前の準備として、予めこれらを混合しておくことが好ましい。混合方法については、乾式混合又は湿式混合等のような従来公知の方法を用いることができる。例えば、共凝集法、プラネタリーミキサー、高速インペラー分散機、ロータリードラム型ミキサー、スクリュー型ミキサー、ベルトコンベヤ混合、ボールミル、ペブルミル、サンドミル、ロールミル、アトライター、ビードミルなどの公知の分散・混合機を用いて行うことができ、均一に分散できる装置がより好ましい。より好ましくは共凝集法である。共凝集法によるPFAと、PTFEの一次粒子の共凝集粉末が、最も均一な混合物となる。また、混合物の平均粒径は、0.1μm以上であって、ハンドリング性が損なわれない範囲であることが好ましい。
【0031】
混合に用いられるPFA及びPTFEの形態に制限は無いが、作業性を考慮して平均粒径0.05μm~1μmの微粒子の分散液や数μm~数10μmの粉末状物、あるいは数100μmの粉末状物の造粒物を例示することができる。
予め混合した混合物の形態は、粉末状物、粉末状物の造粒品、粒状物、フレーク等の形態を挙げることができる。
また溶融時の熱安定性を向上させる目的で、混合前の粉末或いはペレットを、例えば特開昭62-104822や特開平2-163128の方法によりふっ素ガス処理することにより重合体末端基を安定化することもできる。
【0032】
[溶融混合工程]
混合工程で予め混合されたPFAとPTFEとを、PTFEの融点以上の温度にて更に溶融混合する。PTFEの融点以上の温度にて溶融混合することにより、得られる成形用材料(ペレット)中でPFAの分子鎖と、PTFEの分子鎖同士がランダムに絡みあった状態となる。
尚、溶融混合の条件は、PTFEの融点(Tm)以上、450℃以下であり、特に390℃以下の温度で混合することが好適である上記範囲よりも溶融混合温度が高い場合には上記範囲にある場合に比して、PFA或いはFEPの劣化を生じるおそれがあるため好ましくない。
【0033】
[ペレット化工程]
本発明の溶融成形用材料においては、上記溶融混合工程で混合することにより得られた溶融成形用材料を、ペレット形状に成形することが好ましい。これにより、前述したとおり、成形品への溶融成形の際に、更にPFAの分子鎖、或いはPFA及びFEPの分子鎖と、PTFEの分子鎖同士の絡み合いが促進できる。
ペレット化の方法としては、例えば、単軸あるいは二軸の押出機等を用いて前記組成物を溶融押出してストランド(紐状物)とした後冷却し、所定の長さに切断してペレット状に成形する方法等、従来公知の方法を用いることができる。所定の長さに切断する方法としては、ストランドカット、ホットカット、水中カットなどの従来公知の方法を用いることができる。ペレット状の材料の平均粒径は、0.1mm以上であって、ハンドリング性が損なわれない範囲であることが好ましい。
ペレット状の溶融成形用材料を得るための溶融押出温度も、PTFEの繊維化及びこの繊維化されたPTFEの分子鎖とPFAの分子鎖の絡み合いを促進するために、前述した溶融混合工程における混合温度と同様に、PTFEの融点以上、特にPTFEの融点320℃~350℃以上、450℃以下の範囲の温度であることが好ましい。
【0034】
(成形品)
前述したとおり、本発明の溶融成形用材料は、溶融成形(ブロー成形、押出成形、射出成形、圧縮成形等)におけるドローダウンの発生が有効に防止されていることから、偏肉精度(寸法安定性)に優れ、均一な厚みを有する厚肉の成形品を成形することができる。フィルム成形においては、ネッキングの発生が防止されていることから、均一な厚みのフィルムを歩留まりよく成形することができる。更に、電線押出成形におけるコーンブレイクの発生が有効に抑制されていると共に、発泡成形において均一なサイズのセルが高い発泡率で形成された発泡成形品を成形することができる。
したがって、本発明の成形品としては、例えば、電線被覆、チューブ、パイプ、ホース、フィルム、シート、フィラメント、シールリング、パッキン、ウェハーキャリア、継手、バルブボディ、ボトル、タンク等の各種容器、特に厚肉の大型容器、丸棒、板、スリーブ等を例示できるが、本発明の溶融成形用材料から成形される限り、その成形方法及び形態等は限定されない。
尚、成形品への成形に際しては、本発明の溶融成形用材料を用い、従来公知の成形条件で成形することができるが、成形温度はPTFEの融点(320~350℃)以上、450℃以下の温度範囲であることが好ましい。成形温度が400℃を超える場合には、成形時間を短時間にすることがより好ましい。
【実施例】
【0035】
以下に具体例によって本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって、何ら制限されるものではない。
【0036】
(1)トルートン比/せん断粘度/伸張粘度
トルートン比は、前述したとおり、流入圧力損失法を用いてコックスウェル(Cogswell)の理論から、キャピラリーレオメーターによるせん断粘度と伸長粘度の測定結果から算出した。同じサンプルについて同様の測定を3回行い、得られたトルートン比の平均値を当該サンプルのトルートン比とした。
【0037】
なお、測定は、下記条件で行った。
・装置(キャピラリーレオメーター):キャピログラフ 形式1D型(株式会社東洋精機製作所製) シリンダー内径:9.55mmφ
・測定温度:360℃
・毛管サイズ:オリフィス(1)径1.0mmφ×ランド長さ10mm(L>0)
オリフィス(2)径1.0mmφ×ランド長さ0.2mm(L≒0)
・剪断速度:10/sec付近~1000/sec付近
【0038】
キャピログラフでは、長さの異なる2つのオリフィスで同時測定することにより、各オリフィスでの圧力損失から、バーグレープロットを用い、オリフィス入口で生じる圧力損失(ΔPent)を求めることができる。すなわち、ある剪断速度での剪断粘度、ΔPentを同時に求めることができるので、伸張粘度ηEは下記式(3)より求めることができる。
【0039】
【数1】
ここで、ηE:伸張粘度、ηs:剪断粘度、γa:剪断速度である。
また、nはべき法則(σs=kγan、σs:剪断応力)における流れ指数である。
【0040】
【0041】
【0042】
また、剪断速度は、ラビノビッチ補正により、装置付属のコンピュータを用いて、キャピラリー壁面の真の値に換算した。なお、バーグレープロット、ラビノビッチ補正の詳細は、例えば、JIS K 7199(1991)、8.2;日本レオロジー学会編、“講座・レオロジー”、高分子刊行会(1993)、68頁などを参考できる。
【0043】
得られた伸張粘度-伸張ひずみ速度曲線、剪断粘度-剪断速度曲線をそれぞれ指数関数として近似し、これらの関数を用いて、ひずみ速度60.8/secでのηE(60)、ηs(60)を求めた。これより、下記式(5)によりひずみ速度60.8/secでのトルートン比(Trouton Ratio;同じひずみ速度でのηEとηsの比)を算出した。
【0044】
【0045】
(2)メルトフローレート(MFR)
ASTM D1238-95に準拠した耐食性のシリンダー、ダイ、ピストンを備えたメルトインデクサー(東洋精機社製)を使用し、5gの試料を372±1℃に保持されたシリンダーに充填して5分間保持した後、5kgの荷重(ピストン及び重り)下でダイオリフィスを通して押し出し、この時の溶融物の押し出し速度(g/10分)をMFRとして求めた。
【0046】
(3)結晶化融解熱量
パーキンエルマー社製Pyris1 DSCを使用した。試料10mgを秤量して専用のアルミパンに入れ、専用のクリンパーによってクリンプした後、DSC本体に収納し昇温を開始する。140℃から380℃まで10℃/分で昇温し、この時得られる融解曲線から融解ピーク温度を融解温度(Tm1:℃)として求めた。試料を380℃で5分間保持した後、140℃まで10℃/分で降温し、更に試料を140℃で1分間保持した後、再度380℃まで10℃/分で昇温し、この時得られる融解曲線から融解ピーク温度を融解温度(Tm2:℃)として求めた。結晶化融解熱量(Hc:J/g)は常法に従い、結晶化ピーク前後で曲線がベースラインから離れる点とベースラインに戻る点とを直線で結んで定められるピーク面積から求めた。
【0047】
PFA及びPTFEとして下記に示す原料を用いた
(A)TEFLONTM PFA 350-JK
(融点308℃、MFR 1.9g/10min 三井・デュポンフロロケミカル社製)
(B)TEFLONTM PFA 340-JK
(融点309℃、MFR 13.4g/10min 三井・デュポンフロロケミカル社製)
(C)TEFLONTM PFA 320-JK
(融点307℃、MFR 31.4g/10min 三井・デュポンフロロケミカル社製)
(D)TEFLONTM PFA 310-JK
(融点302℃、MFR 51.0g/10min 三井・デュポンフロロケミカル社製)
(E)TEFLONTM PTFE A-5
(融点346℃、MFR0g/10min、結晶化融解熱量 26.5J/g、三井・デュポンフロロケミカル社製)
(F)TEFLONTM PTFE 6-J
(融点338℃、MFR0g/10min、結晶化融解熱量 32.1J/g、三井・デュポンフロロケミカル社製)
(G)TEFLONTM PTFE 7A-J
(融点345℃、MFR0g/10min、結晶化融解熱量 24.0J/g、三井・デュポンフロロケミカル社製)
(H)TEFLONTM PTFE MP-1600
(融点327℃、MFR20g/10min、結晶化融解熱量 68.0J/g、三井・デュポンフロロケミカル社製)
(I)TEFLONTM PTFE TLP-6
(融点333℃、MFR0.1g/10min、結晶化融解熱量 64.1J/g、三井・デュポンフロロケミカル社製)
【0048】
[実施例1~14、比較例1~8]
表1に示すPFA(上記(A)~(D))と、PTFE(上記(E)~(I))を、表1に示す量混合し、表1に示すペレタイズ温度(PTFEの融点以上)にて溶融成形(ペレタイズ)して、溶融成形用材料(ペレット)を得た。得られたペレットのトルートン比及び伸長粘度を表1及び表2に示す。
【0049】
[実施例15]
PFAとして、PFA350-JK(上記(A))、PFTEとして、PTFE 6-J(上記(F)))をそれぞれ用い、表3に示す量混合し、380℃(PTFEの融点以上)にて溶融成形(ペレタイズ)して、溶融成形用材料(ペレット)を得た。得られたペレットを株式会社プラ技研製φ25mmT-ダイ押出成形機にて下記成形条件で約100μm厚みのフィルムを作成した。
・T-ダイスリット幅×ギャップ:200mm×1mm
・成形樹脂温度:365℃
・成形ロール温度:190℃
・スクリュー回転数:30rpm
フィルム成形では、フィルム中央部の肉厚が約100μmになるように引取速度をコントロールした。
得られたフィルムの中央部厚みと幅、ネッキング率を表3に示す。
成形でのネッキング率を下記式(6)により算出した。
【0050】
【0051】
[実施例16]
実施例15と同様に、混合するPTFEの添加量を変えて作製された溶融成形用材料(ペレット)を使用し、引取速度以外は実施例15と同条件でフィルムを作成した。得られたフィルムの中央部厚みと幅、ネッキング率を表3に示す。
【0052】
[比較例9]
PTFEを用いない以外は、実施例15と同条件で溶融成形用材料(ペレット)を作製し、引取速度以外は実施例15と同条件でフィルムを作成した。得られたフィルムの中央部厚みと幅、ネッキング率を表3に示す。
【0053】
【0054】
【0055】
【0056】
以上より、本発明の溶融成形用材料は、従来技術と比較して、厚肉成形による容器のサイズアップ、厚肉ブロー成形品(例えば、薬液用遮光性ボトル)、高速電線押出及び電線被覆の薄肉(薄膜)化、発泡セルが小さく均一な薄肉高発泡電線等に有用である。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の溶融成形用材料は、偏肉精度(寸法精度)、ドローダウン性、厚肉成形性の改善、射出成形性の改善、フィルム押出成形におけるネッキングの防止、遮光性に優れた成形用材料、及びその製造方法に関するものである。
本発明はまた、電線押出成形におけるコーンブレイク の改善、電線被覆等の成形における臨界押出速度の向上及び薄膜化、発泡成形におけるセルサイズの均一性の改善及び発泡率の向上に有用である。