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▶ ウポノール イノベイション エービーの特許一覧

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-08
(45)【発行日】2022-01-13
(54)【発明の名称】ポリオレフィンパイプ
(51)【国際特許分類】
   F16L 9/12 20060101AFI20220104BHJP
   C08L 23/00 20060101ALI20220104BHJP
   C08L 23/04 20060101ALI20220104BHJP
   C08L 23/10 20060101ALI20220104BHJP
   C08L 23/18 20060101ALI20220104BHJP
   C08K 5/3415 20060101ALI20220104BHJP
   C08K 5/14 20060101ALI20220104BHJP
   C08K 5/134 20060101ALI20220104BHJP
   C08K 5/3435 20060101ALI20220104BHJP
   C08J 3/24 20060101ALI20220104BHJP
【FI】
F16L9/12
C08L23/00
C08L23/04
C08L23/10
C08L23/18
C08K5/3415
C08K5/14
C08K5/134
C08K5/3435
C08J3/24 Z CES
【請求項の数】 34
(21)【出願番号】P 2017554557
(86)(22)【出願日】2016-04-20
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2018-05-24
(86)【国際出願番号】 EP2016058812
(87)【国際公開番号】W WO2016170016
(87)【国際公開日】2016-10-27
【審査請求日】2019-04-16
(31)【優先権主張番号】1506876.0
(32)【優先日】2015-04-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】515050183
【氏名又は名称】ウポノール イノベイション エービー
(74)【代理人】
【識別番号】100060759
【弁理士】
【氏名又は名称】竹沢 荘一
(74)【代理人】
【識別番号】100083389
【弁理士】
【氏名又は名称】竹ノ内 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100198317
【弁理士】
【氏名又は名称】横堀 芳徳
(72)【発明者】
【氏名】パトリック ロッセン
【審査官】伊藤 紀史
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第103044745(CN,A)
【文献】特開平06-049114(JP,A)
【文献】特開平06-065445(JP,A)
【文献】特表2003-514088(JP,A)
【文献】特開平03-095242(JP,A)
【文献】特開昭60-188412(JP,A)
【文献】国際公開第2014/177435(WO,A1)
【文献】特表2012-504513(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L
C08L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレンと、
0.52.5重量%のビスマレイミド架橋剤とを含むポリマーパイプであって、
前記ビスマレイミド架橋剤は、化学式1の化合物であり、
【化1】
化学式1
ここで、Rは、-(C -C 10 )アルキルである。
【請求項2】
前記ポリエチレンは、メルトフローインデックス(MFI)が小さくとも2である高密度ポリエチレン(HDPE)である、請求項1に記載のパイプ。
【請求項3】
Rは、-Cアルキルである、請求項1または2に記載のパイプ。
【請求項4】
前記ビスマレイミド架橋剤は、ヘキサメチレン-1,6-ジマレイミドであるか、または、これを含む、請求項1~のいずれか1項に記載のパイプ。
【請求項5】
前記ビスマレイミド架橋剤は、化学式1の少なくとも2種の化合物を含む、請求項1~のいずれか1項に記載のパイプ。
【請求項6】
前記ビスマレイミド架橋剤の量は、2重量%である、請求項1~のいずれか1項に記載のパイプ。
【請求項7】
さらに、過酸化物開始剤を0.02~2重量%含む、請求項1~のいずれか1項に記載のパイプ。
【請求項8】
前記過酸化物開始剤は、少なくとも1種の有機過酸化物である、請求項に記載のパイプ。
【請求項9】
前記有機過酸化物は、ジ-tert-ブチルペルオキシド(Trigonox(登録商標) B)、2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルペルオキシ)ヘキシン-3(Trigonox 145)、3,3,5,7,7-ペンタメチル-1,2,4-トリオキセパン(Trigonox 311)、2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルペルオキシ)ヘキサン(Trigonox 101)および3,6,9-トリエチル-3,6,9-トリメチル-1、4、7-トリペルオキソナン(Trigonox 301)から選択されるか、または、これらを含む、請求項またはに記載のパイプ。
【請求項10】
前記過酸化物開始剤の量は、0.05~1重量%である、請求項のいずれか1項に記載のパイプ。
【請求項11】
前記パイプは、さらに、0.02~10重量%の助剤を含み、前記助剤は、少なくとも1種の反応性炭素-炭素二重結合を含む、請求項1~10のいずれか1項に記載のパイプ。
【請求項12】
前記助剤は、少なくとも2種の反応性炭素-炭素二重結合を含む、請求項11に記載のパイプ。
【請求項13】
前記助剤は、アクリレート、メタクリレート、ポリブタジエン、アリルエーテル、ビニルエーテル、および、モノまたはポリ不飽和油から選択されるか、または、これらを含む、請求項11または12に記載のパイプ。
【請求項14】
前記助剤の量は、0.3~1.5重量%である、請求項1113のいずれか1項に記載のパイプ。
【請求項15】
さらに、0.1~2重量%の酸化防止剤を含む、請求項1~14のいずれか1項に記載のパイプ。
【請求項16】
前記酸化防止剤は、少なくとも1種のフェノール系酸化防止剤である、請求項15に記載のパイプ。
【請求項17】
前記酸化防止剤は、下記化学式で示される化合物を1種以上含む、請求項15または16に記載のパイプ。
【化2】
Irganox(登録商標) 1076
【化3】
Irganox 1010
【化4】
Irganox 1035
【請求項18】
前記酸化防止剤の量は、0.2~1重量%である、請求項1517のいずれか1項に記載のパイプ。
【請求項19】
さらに、0.05~1重量%のヒンダードアミン光安定剤(HALS)を含む、請求項1~18のいずれか1項に記載のパイプ。
【請求項20】
前記ヒンダードアミン光安定剤は、下記化学式で示される化合物から選択されるか、または、これらを含む、請求項19に記載のパイプ。
【化5】
ここで、Rは、C-C24アルキルである。
【請求項21】
前記ヒンダードアミン光安定剤は、Cyasorb(登録商標) 3853、Chimassorb(登録商標) 944LD、Tinuvin(登録商標) 770、Tinuvin 622から選択されるか、または、これらを含む、請求項19に記載のパイプ。
【請求項22】
前記ヒンダードアミン光安定剤の量は、0.05~0.3重量%である、請求項1921のいずれか1項に記載のパイプ。
【請求項23】
前記架橋度は、60~90%の範囲である、請求項1~22のいずれか1項に記載のパイプ。
【請求項24】
混合物を調製し、
押出パイプを形成するために、前記混合物を押し出し、
前記押出パイプを加熱することによってポリエチレンを架橋する、架橋ポリエチレンパイプの製造方法であって、
前記混合物は、前記ポリエチレンおよび0.52.5重量%のビスマレイミド架橋剤を含む成分を混合することによって調製され、
前記ビスマレイミド架橋剤は、化学式1の化合物であり、
【化6】
化学式1
ここで、Rは、-(C -C 10 )アルキルである。
【請求項25】
前記成分は、請求項2~22のいずれかに記載のパイプによって定められるものである、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記混合物は、前記混合物の前記成分を乾式混合することによって調製される、請求項24または25に記載の方法。
【請求項27】
前記乾式混合がブレンダー/ミキサー中で行われる、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記加熱は、赤外線(IR)オーブンを用いて行われる、請求項2427のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
前記加熱は、押し出し直後に行われる、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記赤外線(IR)オーブンは、押し出しを行う押出機とインラインにある、請求項28または29に記載の方法。
【請求項31】
前記押出機は、二軸押出機である、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
架橋ポリエチレンパイプの製造において、請求項1および3~のいずれかに定められるビスマレイミド架橋剤の使用。
【請求項33】
水の輸送のための、請求項1~19のいずれかに記載のポリエチレンパイプの使用。
【請求項34】
前記水は、飲料水である、請求項33に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ポリマーパイプに関し、特に、ビスマレイミド架橋剤を含む押出ポリオレフィンから形成された架橋ポリオレフィンを含むポリマーパイプに関する。この発明は、架橋されたポリエチレン(PEX)パイプおよびチューブを製造するために、ビスマレイミド架橋剤による架橋を伴うポリエチレンなどのポリオレフィンポリマーのプラスチックパイプおよびチューブの製造に関するものである。このパイプは、冷水(例えば、飲料)用または温水用のものである。
【背景技術】
【0002】
ポリオレフィンポリマーから製造される押出パイプは、様々な産業用として、よく知られている。この種のパイプは通常、家庭用(例えば、飲料用)水パイプ、ラジエーター用パイプ、床暖房用パイプ、および造船などにおける同様の分野で、建設業において用いられる。またこのようなポリオレフィンパイプは、地域暖房用パイプとして、また食品産業などにおける処理用パイプとしても用いることができる。その他の用途としては、ガス状流体およびスラリーの搬送が挙げられる。
【0003】
押出パイプ用のポリオレフィンは、多くの利点を得るために、しばしば架橋される。このような利点としては、これらに限定されるものではないが、飲料水用としての現在の規程や規格を満たすことができる耐酸化性を含む長期間の安定性、並びに「メモリー効果」を含む設置の自由度などが含まれる。架橋されたポリエチレン(PEX)は、通常プラスチックパイプに用いられている。種々の異なる架橋化学試薬および処理技術を利用するいくつかの種類のPEXがある。さらに、種々のグレードのPEXは、異なる濃度および組み合わせによる酸化防止剤および/または安定剤パッケージ、および/または加工助剤のような別の添加剤を含んでいる。パイプ用の3つのPEXとしては、PEX-a、PEX-b、およびPEX-cがある。
【0004】
PEX-a工程(例えば、「エンゲル(Engel)法」、塩浴法「ポンタ ムッソン(Pont a Mousson)」、または赤外線(IR)法によって製造される)では、架橋は、過酸化物によって誘導される。エンゲル法では、架橋は、熱および高圧の影響下で過酸化物によって誘導される。IR法では、架橋は、赤外線(IR)印加熱の影響下で、過酸化物によって誘導される。得られたPEX-a組成物は、炭素-炭素結合を通じて架橋され、架橋されたポリマー網を形成する。PEX-aの架橋工程は、ポリマーの固体状態で架橋が生じるPEX-bおよびPEX-cの一次架橋工程とは対照的に、溶融状態で生じる。この一次反応は、PEX-aについての定義により存在する過酸化物の分解によるフリーラジカルの生成であり、続いて、このフリーラジカルは、PEポリマー鎖から水素を引き抜く。この水素の引き抜きによって新たな炭素ラジカルが得られ、この新たな炭素ラジカルは、近傍のPE鎖と結合して、安定な炭素-炭素結合、すなわち、架橋を形成する。この架橋は、PEX-aでは均一かつ一様であると考えられ、実用的用途として、70~90%の範囲の架橋度(通常、CCLと呼ばれる)を与える。ある用途では、CCLは、「架橋ポリエチレン(PEX)チューブに関するASTM国際規格」F876-10(2010年2月1日承認)で定められているように、PEX-aについて70%を超える必要があり、および/または、ある用途では、CCLは、ISO 15875で定めるように、PEX-aについて70%を超える必要がある。したがって、PEX-a工程により、良質なパイプを製造することができる。
【0005】
PEX-b工程では、架橋は、通常、「サウナ雰囲気」において行われ、所定の長時間に亘る水分および熱によって誘導される。最も一般に用いられる方法は、それぞれSioplas(登録商標)法(2ステップ)およびMonosil法(1ステップ)と呼ばれている。Sioplas法では、パイプ押し出し前に、例えば、ビニルシランのようなシランがHDPE樹脂にグラフトされる。Monosil法では、パイプ押し出し中にシランがHDPE樹脂とブレンドされる。両方の方法では、架橋前ステップが化学的に異なるが、実際の架橋の基本原理は、実質的に同一である。すなわち、架橋は、熱および水分の組み合わせによって加速される、第2の押出後工程において生じる。この組み合わせは、活性な「試薬」であり、一次加水分解および縮合反応に関与する。原則として、押し出されたパイプは温水および蒸気浴に曝される。PEX-aに対する根本的な違いは、PEX-bでは、得られる架橋が、炭素-炭素結合ではなく、酸素-ケイ素共有結合(シロキサン「ブリッジ」)が形成されることである。PEX-aと比較して、PEX-bの架橋密度(CCL)は、若干低く(65~70%)、また架橋は不均一である。PEX-bでは、CCLは、通常65%以上必要である。
【0006】
PEX-c工程では、架橋は、一般に「コールド」法と呼ばれる。PEX-c工程では、架橋工程を促進するのに化学物質は必要なく、その代わりに、水素引き抜き、およびその後の架橋を起こすのに必要なフリーラジカルを生成するために、高エネルギーの電子ビーム(EB)照射が行われる。この高エネルギーの電子ビームは、非選択的である。すなわち、化学結合の開裂は、制御できない手法で行われる。これによって、目的とする反応、すなわち、HDPEの架橋と共に副反応を起こす結果となる。PEX-cの架橋密度は、通常、70~75%(最小60%以上)の範囲であり、長時間曝されると、製品の変色および/または脆化が生じることがあるので、照射時間について注意を払う必要がある。PEX-cは、製造条件が若干過酷であるにもかかわらず、長年にわたり成功裡に用いられている。
【0007】
飲料水用に用いられるすべての押出パイプで発生する一つの難しい問題は、ポリマーパイプ母体からの各種添加剤の浸出という潜在的な問題である。開始剤、安定剤、助剤、加工助剤、酸化防止剤、それらの分解生成物などを含む添加剤は、時間の経過とともに、ポリマー母体から浸出するか、パイプ内を流れる流体を汚染してしまうおそれがある。この問題は、飲料水用途で、かつ、このような用途のために、ある期間にわたってパイプから浸出する物質の許容可能な安全レベルを数値化する業界規格が存在するような場合に、特に問題である。さらに、添加剤、添加剤分解生成物、および/または架橋副生成物の浸出は、パイプを、全有機炭素(TOC)、または味覚試験および臭気試験に合格しないものとする可能性がある。原料ポリマーを押出す際におけるパイプの加工を容易にするために、また完成したパイプの構造的一体性および耐老化性などを確保するために、パイプを製造する際に、種々の添加剤をパイプの中に施こすことが必要となる。また所望のレベルの架橋を有するパイプを得るために、通常架橋剤が必要である。同時に、添加剤、分解生成物および架橋副生成物は、ある期間にわたってポリマー母体から浸出することがあるため、これらの材料の存在が難しい問題を提示する。
【0008】
公知の押出パイプおよびこのようなパイプの製造方法には、多くの制限があることは明らかである。したがって、従来のポリオレフィンパイプの製造方法、および/または特性を改善するための新規な製造方法、および/または化学的成分の新規な組合せが必要とされている。
【0009】
冷水および/または温水用、例えば家庭用冷水および/または温水用に用いることができるパイプを形成するための材料を提供することが本発明の目的である。産業用のパイプを製造するための材料を提供することも本発明の目的である。また、一以上の成分が時間の経過とともに浸出することがないようにしたパイプを製造することも、本発明の目的である。さらなる目的は、TOC、味覚、および臭気の一以上について、現在の規格を満たすか、またはそれを超える家庭用のパイプを製造することである。本発明は、これらの目的のいくつか、または全てを満たすものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、化学的残留物の浸出を低減させるための追加の押出後処理を最小限に抑えるか、または回避するとともに、これらの浸出レベルを低減させることができるパイプを提供することを目的とするものである。本発明のパイプは、多くの利点を提供するものである。例えば、本発明のパイプは、追加の押出後処理工程、例えば、追加の時間を要する熱処理を必要とすることなく、TOC、味覚、および臭気の一以上について、現在の規格を満たすか、またはそれを超えることができるものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第一の態様は、
ポリオレフィン構造ポリマーと、
0.02~5重量%のビスマレイミド架橋剤とを含むポリマーパイプを提供することであって、
前記ビスマレイミド架橋剤は、化学式1の化合物であり、
【化1】
化学式1
ここで、Rは、-(C-C24)アルキルである。
【0012】
本発明の別の態様は、
混合物を調製し、
押出パイプを形成するために、前記混合物を押し出し、
前記押出パイプを加熱することによってポリオレフィン構造ポリマーを架橋する、架橋ポリオレフィンパイプの製造方法を提供することであって、
前記混合物は、前記ポリオレフィン構造ポリマーおよび0.02~5重量%のビスマレイミド架橋剤を含む成分を混合することによって調製され、
前記ビスマレイミド架橋剤は、化学式1の化合物であり、
【化2】
化学式1
ここで、Rは、-(C-C24)アルキルである。
【0013】
本発明の第三の態様は、ポリオレフィンパイプの製造のための本明細書で定める化学式1のビスマレイミド架橋剤の用途を提供するものである。
【0014】
本発明の第四の態様は、水の輸送のための、本発明のパイプの用途、または本発明の方法または使用に従って形成されたパイプの用途を提供するものである。一実施形態では、この水は、飲料水である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
この明細書の記述および特許請求の範囲を通じて、用語「含む」、およびその変形例は、「含む、しかし、これらに限定されない」を意味し、かつ、他の部位、添加剤、成分、整数またはステップを除外するものではなく、また、除外することを意図していない。この明細書の記述および特許請求の範囲を通じて、文脈上、特に断りのない限り、単数は、複数を包含している。特に、不定冠詞が用いられる場合、文脈上、特に断りのない限り、本明細書は、単数と同様に複数を含んでいるものと理解されるべきである。
【0016】
特定の態様に関連して記載される特徴、整数、特性、化合物、化学的部位、または基本発明の実施形態、または実施例は、矛盾しない限り、本明細書に記載の如何なる他の態様、実施形態、または実施例に適用可能である。この明細書(添付の特許請求の範囲、要約書、および図面を含む)に開示されている全ての特徴、および/または、開示されている如何なる方法、または工程の全てのステップは、かかる特徴、および/または、ステップの少なくともいくつかが相互に排他的な組み合わせを除いて、如何なる組み合わせとすることができる。本発明は、前述の実施形態の詳細に限定されるものではない。本発明は、この明細書(添付の特許請求の範囲、要約書、および図面を含む)に開示されている特徴のすべての新規なもの、または、すべての新規な組み合わせに、または、開示されている方法または工程のステップのすべての新規なもの、または、すべての新規な組み合わせに及ぶものである。
【0017】
読者の注意は、この出願に関連して、この明細書と同時に、またはすでに出願されており、かつこの明細書と共に公衆の縦覧に供されるすべての論文および文書に向けられるべきもので、すべてのかかる論文および文書の内容は、参照用として本明細書に援用されるものとする。
【0018】
誤解を避けるために、見出し「背景技術」の下で、この明細書において先に開示されている情報は、本発明に関連しており、本発明の開示の一部として読まれるべきであることを、ここで述べておく。
【0019】
この発明のポリマーパイプは、例えば、熱い、および/または冷たい飲料水の輸送、放射床暖房、排水、火災スプリンクラーでの使用、食品業界のような産業用工程パイプ、ガス・スラリーのような水以外の流体の搬送用など、様々な用途に用いることができる。いくつかの実施形態では、これらのポリマーパイプは、ベースパイプ上に設けられる一以上の層を有するベースパイプを含んでいる。ポリマーベースパイプ上に設けることができる種々の層の例としては、その全体が参照用として援用される「コーティングパイプの製造方法および組成物」と題される米国特許出願公開第2010/0084037号明細書に記載されている。他の実施形態では、ポリマーパイプは、ベースパイプ上に層が設けられておらず、すなわち、パイプが単一の層(すなわち、一層)で構成されているベースパイプを含んでいる。
【0020】
パイプの規格および認証
本開示で援用するパイプ規格および標準試験手順には、以下のものが挙げられる。
架橋ポリエチレン(PEX)チューブに関するASTM国際規格、F876-10(2010年2月1日承認)(「ASTM F876」)。
温水および冷水設備用プラスチック配管システム-架橋ポリエチレン(PE-X)に関する欧州国際規格、EN ISO 15875。
ドイツ連邦環境庁Umweltbundesamt(UBA)の飲料水に接触する有機物の衛生的評価のガイドライン(KTWガイドライン)、2008年10月7日に発行された英語版「KTW Guideline」。
EN 1484 水分析に関する欧州規格:1997年5月に発行された全有機炭素(TOC)および溶存有機炭素(DOC)の測定ガイドライン(「EN 1484」)。
EN 1622:2006 水質に関する欧州規格:閾値臭気数(TON)および閾値風味数(TFN)の測定(「EN 1622」)。
これらの規格のすべての内容は、参照用として本明細書に援用されるものとする。
【0021】
本明細書で言及する試験は、業界で既知の規格であり、当業者に利用可能である。したがって、本発明者らは、簡潔にするために、一通りそれらについて述べるに止める。しかし、これらの規格の内容は、本発明に係るパイプが、規格の要求事項を満たすか、または超えることができる程度に、本発明の不可欠な部分を形成している。したがって、これらの規格の内容は、参照用として、本開示に明示的に援用されるものとする。
【0022】
製品発売前において、認定されるパイプについては、通常、ASTM F876(北米)およびEN ISO 15875(欧州)の規格に準拠して、それぞれ、必要な試験のすべてに合格することが必要である。
【0023】
架橋度は、以下のASTM F876からの引用に従って定量化することができる。
「6.8.架橋度 7.9節に従って試験が行われる場合において、PEXチューブ材の架橋度は、65~89%の範囲内でなければならない。適用される工程に応じて、過酸化物で70%(PEX-a)、アゾ化合物で65%、電子ビームで65%(PEX-c)、シラン化合物で65%(PEX-b)の最小架橋値(%)を達成しなければならない。」
EN ISO規格によれば、電子ビーム(PEX-c)およびアゾ化合物の場合、達成されなければならない最小架橋値(%)は、60%である。
この規格によれば、理想的には、パイプは、高い架橋レベル、すなわち少なくとも50%(好ましくは、少なくとも60%)の架橋レベルを有するべきである。しかし、ある用途では、より低い架橋度でも許容可能である。
【0024】
KTWガイドラインは、飲料水と接触している有機物の衛生的評価を行うために用いることができる。全有機炭素(TOC)は、KTWガイドラインの2.1.1および2.1.2に記載される移行試験手順に従って測定することができる。臭気および風味試験は、KTWガイドラインの2.2.1および2.2.2に記載される手順に従って実施することができる。
【0025】
定義
用語および方法の以下の説明は、本開示をよりよく説明するために、本開示の実施において、当業者をガイドするために提供されるものである。
【0026】
本明細書で用いられている用語「アルキル」、「C-C10アルキル」および「C-Cアルキル」(xは、少なくとも1および10未満、yは、10より大きい数である)は、例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9または10個の炭素原子を有する直鎖、または分枝鎖アルキル部位への言及を含んでいる。この用語は、例えば、メチル、エチル、プロピル(n-プロピルまたはイソプロピル)、ブチル(n-ブチル、sec-ブチルまたはtert-ブチル)、ペンチル、ヘキシルなどを含んでいる。特に、アルキルは、「C-Cアルキル」、すなわち、1、2、3、4、5または6個の炭素原子を有するアルキルであってもよく、または、「C-Cアルキル」、すなわち、1、2、3または4個の炭素原子を有するアルキルであってもよい。用語「低級アルキル」は、1、2、3または4個の炭素原子を有するアルキル基を含んでいる。
【0027】
本明細書で用いられている用語「アルケニル」、「C-C10アルケニル」および「C-Cアルケニル」(xは、少なくとも2および10未満、yは、10より大きい数である)は、例えば、2、3、4、5、6、7、8、9または10個の炭素原子を有し、かつ該当する場合には、EまたはZの立体化学のいずれかの少なくとも一つの二重結合を有する、直鎖または分枝鎖アルキル部位を含んでいる。この用語は、例えば、エテニル、2-プロペニル、1-ブテニル、2-ブテニル、3-ブテニル、1-ペンテニル、2-ペンテニル、3-ペンテニル、1-ヘキセニル、2-ヘキセニルおよび3-ヘキセニルなどへの言及を含んでいる。特に、アルケニルは、「C-Cアルケニル」、すなわち、2、3、4、5または6個の炭素原子を有するアルケニルであってもよく、または、「C-Cアルケニル」、すなわち、2、3または4個の炭素原子を有するアルケニルであってもよい。
【0028】
本明細書で用いられている用語「アルキニル」、「C-C10アルキニル」および「C-Cアルキニル」(xは、少なくとも2および10未満、yは、10より大きい数である)は、例えば、2、3、4、5、6、7、8、9または10個の炭素原子を有し、かつ少なくとも一つの三重結合を有する、直鎖または分枝鎖アルキル部位を含んでいる。この用語は、例えば、エチニル、2-プロピニル、1-ブチニル、2-ブチニル、3-ブチニル、1-ペンチニル、2-ペンチニル、3-ペンチニル、1-ヘキシニル、2-ヘキシニルおよび3-ヘキシニルなどを含んでいる。特に、アルキニルは、「C-Cアルキニル」、すなわち、2、3、4、5または6個の炭素原子を有するアルキニルであってもよく、または「C-Cアルキニル」、すなわち、2、3または4個の炭素原子を有するアルキニルであってもよい。
【0029】
化合物、部位、工程または製品が、「必要に応じて」特徴を有すると記載されている場合、本開示は、その特徴を有する化合物、部位、工程または製品を含み、かつ、その特徴を有しない化合物、部位、工程または製品も含んでいる。したがって、ある部位が、「必要に応じて置換される」と記載されている場合、それは、置換されない部位、および置換される部位を含んでいる。
【0030】
ここで、二つ以上の部位が、原子または基のリストから「独立して」または「それぞれ独立して」選択されると記載されている場合、それらの部位は、同じであっても、異なっていてもよいことを意味している。したがって、各部位の同一性は、一つ以上の他の部位の同一性とは無関係である。
【0031】
用語「CCL」は、通常、百分率として表される架橋密度を指す。したがって、CCLは、架橋のレベルの定量的尺度を表す。この明細書の記載および特許請求の範囲を通じて、語句「架橋度」、「架橋のレベル」、「架橋密度」または同様の語句は、CCLを意味する。
【0032】
用語「TOC」は、全有機炭素を指す。
【0033】
パイプ
この明細書において特に断らない限り、重量%による特定成分(例えば、ポリオレフィン構造ポリマー、光開始剤、反応押出種、助剤、ヒンダードアミン光安定剤、酸化防止剤、または必要に応じた添加剤)に関する言及は、特定成分が存在するパイプの総重量に対するその特定成分の重量%のことである。
【0034】
本発明のポリマーパイプは、ポリオレフィン構造ポリマーを含んでいる。構造ポリマーは、ポリエチレン(PE)であってもよいが、当業者ならば、他の様々な構造ポリマーを、ポリエチレンの代わりに用い得ることは理解しうると思う。例えば、構造ポリマーは、PE(例えば、高温耐性ポリエチレン、またはPE-RT)、ポリプロピレン(PP)、ポリブチレン(PB)のようなポリオレフィン、それらのいずれかの共重合体、エチレン-無水マレイン酸共重合体のようなポリオレフィン共重合体であってもよい。例えば、構造ポリマーは、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン、および高級オレフィンポリマーであってもよく、エチレン、プロピレン、1-ブテン、2-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテンおよび1-オクテンの共重合体、および、これらの互いのおよび他の不飽和モノマーとの異性体であってもよい。上記ポリマーのいずれかの重合性モノマーのブロック共重合体およびポリマーブレンドも含まれる。ポリマーパイプは、ポリオレフィン構造ポリマーを、少なくとも85重量%、少なくとも90重量%、または、少なくとも95重量%有していてもよい。
【0035】
本発明で用いる好適なポリオレフィン構造ポリマーとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、およびこれらの混合物が挙げられる。
【0036】
ポリエチレン(PE)は、主にその密度および分岐に基づいて、いくつかの異なるカテゴリーに分類される。最終製品の性能および機械的特性は、分岐の範囲およびタイプ、結晶性、密度、並びに、分子量およびその分布のような変数に大きく依存する。前述のように、PEXパイプは、これまでは最も一般的に、高密度ポリエチレン(HDPE)から製造される。しかし、本発明は、これに限定されるものではなく、低密度ポリエチレン(LDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、PE100、PE80、PE-RTグレード、高高分子量ポリエチレン(VHMWPE)、および超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)、またはこれらの組み合わせのような単層または多層プラスチックパイプの製造に用いられる如何なるタイプのポリオレフィンまたはポリエチレンにも適用可能である。本発明のパイプに用いることができる市販のPEの例としては、バセル(Basell)Q456、バセル(Basell)Q456B、バセル(Basell)新樹脂のバセル(Basell)Q471(これらの三つすべては、米国の、イクイスタル化学(Equistar Chemicals)、LPライオンデルバセル社(LP Lyondell Basell Company)、クリントンローワ(Clinton Iowa)から入手可能)、ボレアリス(Borealis)HE1878、ボレアリス(Borealis)HE1878E、ボレアリス(Borealis)HE2550(これらの三つすべては、ボレアリスAG(Borealis AG)から入手可能)を含んでいる。
【0037】
本発明のポリマーパイプは、ポリオレフィン構造ポリマーとして、架橋ポリエチレン(PEX)を含んでいてもよく、この場合には、このパイプは、PEXパイプであってもよい。このようなパイプに用いる構造ポリマーは、好ましくは本明細書に記載のビスマレイミド架橋剤の作用によって架橋された本明細書に記載の種々のポリエチレンのいずれかを含んでいてもよいし、または、いずれかから成っていてもよい。本発明のパイプは、架橋剤が、本明細書に記載されているような少なくとも1種(例えば1種、2種、3種、または4種、例えば1種、または2種)のビスマレイミド架橋剤からなるパイプも含んでいる。
【0038】
本発明のポリマーパイプは、化学式1のビスマレイミド架橋剤を含んでいてもよい。
【0039】
【化3】
化学式1
ここで、Rは、-(C-C24)アルキルである。Rは、本明細書においてさらに定めてもよい。例えば、Rは、-(C-C18)アルキル、例えば、-(C-C10)アルキルであってもよい。Rは、-C、-C、-C、-C、-C、-C、-C、-C、-C10、-C11、-C12、-C13、-C14、-C15、-C16、-C17、または-C18アルキルであってもよく、例えば、Rは、-Cアルキルであってもよい。例えば、本発明のポリマーパイプは、化学式1の1種以上のビスマレイミド架橋剤を含んでいてもよく、例えば、本明細書で定めるように、少なくとも1種、少なくとも2種、少なくとも3種、少なくとも4種、または少なくとも5種のビスマレイミド架橋剤を含んでいてもよい。ビスマレイミド架橋剤は、0.02~5重量%、例えば0.2~4重量%存在していてもよく、例えばビスマレイミド架橋剤は、0.2~3重量%、0.2~2重量%、または0.5~2.5重量%存在していてもよい。例えば、ビスマレイミド架橋剤は、0.5~5重量%または1~4重量%、例えば1~3重量%、または1.5~2.5重量%存在していてもよい。例えば、ビスマレイミド架橋剤は、0.3~2.5重量%、0.5~2.5重量%、または1~2重量%、例えば約1重量%、約1.2重量%、約1.5重量%、約1.7重量%、または約2重量%存在していてもよい。
【0040】
いかなる理論にも束縛されることを望まないが、化学式1のビスマレイミド架橋剤は、熱活性化架橋剤であり、活性化後に架橋ポリマー中に共有結合することができると考えられている。これは、ポリオレフィンパイプに用いられる他のタイプの架橋剤と比べて利点を有する。例えば、PEX-a工程によって製造されるパイプは、通常、PEX-a工程で用いられる過酸化物開始剤の副生成物の存在によって、飲料水パイプとしての、味覚および臭気要件を満たすために、さらなる後工程処理を必要とするかもしれない。本発明のパイプは、過酸化物開始剤が存在しない(または少ないレベルである)ため、通常、このさらなる後工程処理を回避する(または少なくとも低減する)ことができる。
【0041】
本発明のポリマーパイプは、過酸化物開始剤、例えば、1種以上の過酸化物開始剤、例えば、本明細書で定めるように、少なくとも1種、少なくとも2種、少なくとも3種、少なくとも4種、または少なくとも5種の過酸化物開始剤を含んでいてもよい。過酸化物開始剤は、0~2重量%、例えば0.02~2重量%存在していてもよく、例えば、過酸化物開始剤は、0.05~1.5重量%または0.1~1.5重量%存在していてもよい。例えば、過酸化物開始剤は、0.05~1重量%、0.1~1重量%、または0.2~1重量%存在していてもよい。過酸化物開始剤は、0.05~0.75重量%、0.1~0.5重量%、または0.2~0.5重量%存在していてもよい。一実施形態では、ポリマーパイプは、過酸化物開始剤を含んでいなくてもよく、すなわち、過酸化物開始剤は、約0重量%であってもよい。
【0042】
適切な過酸化物開始剤としては、有機過酸化物、例えばポリオレフィンモノマーと相溶性のある有機過酸化物が挙げられる。このような有機過酸化物の例としては、アルキル過酸化物、アルケニル過酸化物、アルキニル過酸化物が挙げられる。本発明のポリマーパイプに用いることができる例示的な有機過酸化物には、ジ-tert-ブチル(Trigonox(登録商標)B)、2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルペルオキシ)ヘキシン-3(Trigonox 145)、3,3,5,7,7-ペンタメチル-1,2,4-トリオキセパン(Trigonox 311)、2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルペルオキシ)ヘキサン(Trigonox 101)および3,6,9-トリエチル-3,6,9-トリメチル-1、4、7-トリペルオキソナン(Trigonox 301)が挙げられる。
【0043】
本発明のポリマーパイプは、本明細書で定めるように、助剤、例えば、一種以上の助剤、例えば、少なくとも1種、少なくとも2種、少なくとも3種、少なくとも4種、または少なくとも5種の助剤を含んでいてもよい。本発明の配合物に用いられる選択された助剤(モノマーおよび/またはオリゴマー)は、少なくとも一つの重合可能な二重結合または反応性基を含んでいる。助剤は、ポリオレフィン構造ポリマーのポリオレフィン鎖の間に追加の架橋を与える。従って、助剤は、架橋工程の効率を促進し、高めるように作用し、ポリオレフィン構造ポリマーがポリエチレンの場合、助剤は、PEXを製造するためにポリエチレン鎖の架橋を促進する。助剤(または、助剤の総量)は、0.02~10重量%で存在していてもよい。例えば、助剤は、0.1~5重量%、0.2~1重量%、0.3~0.7重量%、例えば約0.5重量%で存在していてもよい。
【0044】
助剤は、アクリレート、アリルエーテル、ポリブタジエン、ビニルエーテルのような反応性基を含む助剤から、また、大豆油のような不飽和植物油からも選択することができる。例えば、助剤は、アクリレート、アリルエーテル、ポリブタジエンおよびビニルエーテルから選択することができる。助剤は、反応性炭素-炭素二重結合を含んでいてもよい。反応性炭素-炭素二重結合は、末端が炭素-炭素結合である炭素-炭素二重結合であってもよい。反応性炭素-炭素二重結合は、炭素原子の一つが二つのジェミナル水素原子を含む炭素-炭素二重結合であってもよい。
【0045】
助剤は、複数の二重結合を含んでいてもよい。これは、架橋のレベルを高めることができる。ポリブタジエンのようなポリマー助剤、または、不飽和部位を含む任意のポリマー骨格は、本発明の範囲内で用いることができる。
【0046】
例えば、様々なアクリレートが助剤として用いることができ、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、1,3-ブチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ポリエチレングリコール200ジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、トリエチレンジアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、エトキシル化ビスフェノール-Aジアクリレート、プロピレングリコール(モノ)ジメタクリレート、トリメチロールプロパンジアクリレート、ジ-トリメチロールプロパンテトラアクリレート、トリス(ヒドロキシエチル)イソシアヌレートのトリアクリレート、ジペンタエリスリトールヒドロキシペンタアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、エトキシル化トリメチロールプロパントリアクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコール-200ジメタクリレート、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコール-600ジメタクリレート、1,3-ブチレングリコールジメタクリレート、エトキシル化ビスフェノール-Aジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、1,4-ブタンジオールジアクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、グリセリンジメタクリレート、トリメチロールプロパンジメタクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、ペンタエリスリトールジメタクリレート、ペンタエリスリトールジアクリレート、アミノプラスト(メタ)アクリレート、アマニのようなアクリル化油、大豆油、ヒマシ油などが挙げられる。他の適用可能な重合性化合物としては、メタクリルアミド、マレイミド、酢酸ビニル、ビニルカプロラクタム、チオールおよびポリチオールが挙げられる。スチレン誘導体も、この発明の範囲内で容易に適用可能である。
【0047】
助剤は、オリゴマーまたはプレポリマーであってもよい。例えば、助剤は、アクリレート官能性を有するオリゴマーまたはプレポリマーであってもよく、例えば、ポリウレタンアクリレート、エポキシアクリレート、シリコーンアクリレート、およびポリエステルアクリレートから選択されてもよい。他の例示的な助剤としては、(メタ)アクリル化エポキシ、(メタ)アクリル化ポリエステル、(メタ)アクリル化シリコーン、(メタ)アクリル化ウレタン/ポリウレタン、(メタ)アクリル化ポリブタジエン、(メタ)アクリル化アクリルオリゴマーおよびポリマーなど、および、それらの任意の組み合わせが挙げられる。例示的な助剤としては、オリゴマーまたはプレポリマー、すなわち、ポリウレタンアクリレート、例えば、Krasol(登録商標)NNプレポリマー(エクストン、ペンシルベニア州、アメリカ合衆国のCray Valley社から入手可能)である。
【0048】
本発明に用いる助剤のさらなる例としては、以下のものが挙げられる。
【0049】
トリアリルシアヌレート
【0050】
【化4】
トリアリルシアヌレート
【0051】
ポリブタジエン
【0052】
【化5】
ポリブタジエン
ここで、nは、平均分子量が約2,000~約10,000g/mol、好ましくは約4,000~約7,000g/molであるように選択される。平均分子量は、3000g/molまたは5000g/molであってもよい。
【0053】
末端水酸基エポキシ化ポリブタジエン(Poly BD(登録商標)600E)
【0054】
【化6】
Poly BD 600E
平均分子量は、約2,100g/molである。
【0055】
ポリブタジエン-Ricon(登録商標)
【0056】
【化7】
ポリブタジエン-Ricon
ここで、xおよびyは、平均分子量が約1,000~約10,000g/mol、好ましくは約2,000~約7,000g/molであるように選択される。例えば、平均分子量4,100g/molのポリブタジエン-Ricon142(CAS#9003-17-2)、平均分子量2,900g/molのポリブタジエン-Ricon152(CAS#9003-17-2)、平均分子量2,900g/molのポリブタジエン-Ricon156、平均分子量1,800g/molのポリブタジエン-Ricon157が挙げられる。
【0057】
トリメチロールプロパントリアクリレート(TMPTA)
【0058】
【化8】
トリメチロールプロパントリアクリレート(TMPTA)
【0059】
ポリエチレングリコールジアクリレート(CAS#:26570-48-9)
【0060】
【化9】
ポリエチレングリコールジアクリレート(CAS#:26570-48-9)
ここで、nは、平均分子量が約575g/molであるように選択される。
【0061】
平均分子量2,200g/molのポリブタジエンジアクリレート(CAS#:9003-17-2)。
【0062】
Krasol(登録商標)NNポリウレタンプレポリマー(エクストン、ペンシルベニア州、アメリカ合衆国のCray Valley社から入手可能)。例えば、Krasol NN32(9%のNCO、MDIベース、56%のビニル含有量、25℃で粘度12,000Cps)および/またはKrasol NN35。
【0063】
本発明のポリマーパイプは、酸化防止剤、例えば、1種以上のフェノール系酸化防止剤、例えば、本明細書で定めるように、少なくとも1種、少なくとも2種、少なくとも3種、少なくとも4種、または少なくとも5種の酸化防止剤を含んでもよい。酸化防止剤は、製造工程中に、例えばポリマーブレンドが押出工程の高温・高圧に曝される場合、ポリマーブレンドを保護するために用いることができる。具体的には、PEのようないくつかの構造ポリマーの機械的特性は、熱および圧力に曝される場合、酸化劣化により低下する傾向がある。例えば、いくつかのケースでは、構造ポリマーの平均分子量を事実上減少させ、構造ポリマーの特性を変化させて、より短い鎖を形成するような低下が見られるであろう。酸化防止剤は、このような低下を防止または制限するように作用する。
【0064】
酸化防止剤は、特に、パイプが塩素または他の酸化剤に曝される場合、経時的なパイプ特性の維持を容易にすることもできる。一例では、パイプ内に存在する流体(例えば、飲料水)は、塩素のような酸化剤を含むことがあり、時間の経過とともに、PEなどの構造ポリマーを酸化して分解する傾向がある。このような酸化は、構造ポリマーおよび完成したパイプの特性の劣化を引き起こす可能性がある。いくつかの例では、酸化防止剤は、酸化環境の存在下で構造ポリマーの特性を保護する傾向がある。酸化防止剤(例えば、本明細書に記載されるいずれか1種以上の酸化防止剤)の総量は、0.1~2重量%、0.1~1.5重量%、0.2~1.25重量%、0.2~1.0重量%、0.25~0.75重量%、0.2~0.6重量%、または約0.5重量%であってもよい。
【0065】
好適な酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤が挙げられる。そのような酸化防止剤の例としては、その全体が参照用として本明細書に援用される国際公開第2010/138816号に記載されている。例えば、国際公開第2010/138816号、12~14頁の[0048]段落に、本発明のパイプに用いることができる酸化防止剤が開示されている。本発明のポリマーパイプに用いることができる例示的な酸化防止剤としては、Irganox(登録商標)1076、Irganox 1010、Irganox 1035およびIgrafos(登録商標)168(tris(2,4-ditert-butylphenyl)phosphite)が挙げられる。
【0066】
【化10】
Irganox 1076
【0067】
【化11】
Irganox 1010
【0068】
【化12】
Irganox 1035

Igrafos 168 (tris(2,4-ditert-butylphenyl)phosphite)
【0069】
【化13】
Irgafos 168(トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト)
【0070】
本発明のポリマーパイプは、ヒンダードアミン光安定剤(HALS)、例えば、一以上のHALS、例えば、本明細書で定めるように、少なくとも1種、少なくとも2種、少なくとも3種、少なくとも4種、または少なくとも5種のHALSを含んでいてもよい。HALSは、アミン基が隣接する官能基によって立体障害される化合物である。PEのような構造ポリマーの物理的特性は、紫外線(UV)波長の光に曝されると経時的に劣化する傾向がある。ポリマーブレンド中のHALSの使用は、この劣化を妨害し、かつ、経時的な構造ポリマー特性の維持を容易にする。HALSの全量(例えば、本明細書に記載のHALSのいずれか1種以上)としては、0.05~1重量%、0.05~0.5重量%、0.07~0.3重量%、0.1~0.25重量%、または0.1~0.2重量%、または約0.1重量%、または約0.15重量%とすることができる。
【0071】
例示的なHALSは、その全体が参照用として本明細書に援用される国際公開第2010/138816号に記載されている。例えば、国際公開第2010/138816号は、15~17頁の[0050]段落に、本発明のパイプに用いることができるHALSを開示している。
【0072】
本発明に用いるHALSのさらなる例としては、下記化合物が挙げられる。
【0073】
Cyasorb(登録商標)3853は、下記化学式で表すことができる。
【0074】
【化14】
Cyasorb 3853
これは、379g/molの分子量を有する。
【0075】
Chimassorb(登録商標)944LDは、下記化学式で表すことができる。
【0076】
【化15】
Chimassorb 944LD
これは、2,000~3,100g/molの分子量を有する。
【0077】
Tinuvin(登録商標)770は、下記化学式で表すことができる。
【0078】
【化16】
Tinuvin 770
これは、481g/molの分子量を有する。
【0079】
Tinuvin(登録商標)622は、下記化学式で表すことができる。
【0080】
【化17】
Tinuvin 622
これは、3,100~4,000g/molの分子量を有する。
【0081】
本発明のパイプは、さらに、添加剤を含んでいてもよく、例えば、そのパイプは、1種以上の加工助剤、充填材、または顔料を含んでいてもよい。例えば、本発明のパイプは、充填材、例えば、ナノ粒子、ナノ繊維、または他の有機充填材、無機充填材、繊維、または粒子を含んでいてもよい。例えば、そのパイプは、加工助剤、例えば、フルオロポリマーを含んでいてもよい。例えば、本発明のパイプは、3MTM DYNAMARTMポリマー加工添加剤、例えば、3MTM DYNAMARTMポリマー加工添加剤のFX 9613(セントポール、ミネソタ州の3M Centerから入手可能)から選択されるフルオロポリマーを含んでいてもよい。そのパイプが、少なくとも1種の加工助剤を含む場合、その加工助剤は、0.01~1重量%、例えば、0.01~0.5重量%、例えば、0.02~0.4重量%、0.02~0.1重量%のレベルで存在していてもよい。
【0082】
製造方法
パイプは、本発明の方法または工程に従って製造することができる。本発明の工程は、PEX-aの製造方法に基づいている。パイプを形成するために用いられる成分、すなわちポリオレフィン構造ポリマー、および、本明細書で定めるようなビスマレイミド架橋剤、および/または過酸化物開始剤、および/または助剤、および/または酸化防止剤、および/またはヒンダードアミン光安定剤、および必要に応じた追加の添加剤などの他の成分は、通常、一緒に混合され、例えばブレンダー/ミキサーで乾式混合されて、混合物が形成される。次に、その混合物を押出機(例えば、逆回転二軸スクリュー押出機)に導入し、混合物を押し出す。押し出し直後、例えば、押出機とインラインにある赤外線(IR)オーブンを用いて加熱することで架橋パイプを形成する。
【0083】
飲料水パイプの製造に用いられる通常のPEX-a法と比較して、本発明の方法は、多くの利点を有する。例えば、本発明の方法は、例えば、衛生要件を満たすためにPEX-aに関して必要とされる可能性がある追加の後処理工程のステップを、通常、必要としない(または少なくともその必要性が低減する)。これによって、製造工程が簡略化され、下流工程との互換性を向上することもできる。
【0084】
当該技術分野で知られているポリオレフィンを含むポリマーパイプの製造方法に従って、例えば、パイプの形成に用いられる本明細書に開示される成分から本発明のパイプを形成するために、このような方法を適用することによって、本発明のパイプを製造することができることも理解されよう。
【0085】
試験法
本発明のパイプは、当業者に知られている標準的な試験を用いて、パラメータの数に関連して評価することができる。いくつかの好適な試験法が以下に記載され、他の好適な試験法は、「パイプの規格および認証」という見出しの下で前に記載されている。
【0086】
(A)架橋試験法
架橋度は、ASTM F876の7.9に記載の試験手順に従って測定することができる。架橋度は、ISO 15875に記載の試験手順に従って試験を行うこともできる。ASTM F876またはISO 15875に従って試験を行う場合、本発明のパイプは、約60%~約90%、例えば 、約65%~約89%の架橋度を有することができる。例えば、架橋度は、約70%~約80%、例えば約70%~約75%と測定することができる。架橋度は、約73%、例えば、73±1%または73±0.5%とすることができる。
【0087】
(B)全有機炭素(TOC)試験法
TOCは、KTWガイドライン2.1.1および2.1.2に記載の移行試験手順に従って測定することができ、移行水サンプルのTOCは、EN 1484に従って決定される。KTWガイドラインに従って試験を行う場合、本発明のパイプは、2.5mg/dmxd以下、例えば2mg/dmxd以下、例えば1.5mg/dmxd以下のTOCとすることができる。
【0088】
(C)味覚および臭気試験法
味覚および臭気は、KTWガイドライン2.2.1および2.2.2に記載の臭気および風味試験手順に従って測定することができる。KTWガイドラインに従って試験を行う場合、本発明のパイプは、5以下の味覚および臭気の測定値、例えば4以下の味覚および臭気の測定値とすることができる。例えば、本発明のパイプは、1以上5以下、例えば2以上4以下の味覚および臭気の測定値とすることができる。
【0089】
(D)成分試験法
ポリマーパイプ中に存在する成分は、パイプの一部を採取し、パイプのその一部を制御される条件下で有機溶媒を用いて抽出し、GC/MSのような分析技術を用いて溶媒に抽出される化合物を分析することを含む試験を行うことで評価することができる。
【0090】
有機抽出のための好適な手順は、以下の方法によって与えられる。1gのパイプ試料を2mLのキシレンに入れ、70℃で24時間抽出する。その後、残りの固体パイプ試料を除去し(例えば、濾過によって)、キシレンおよびパイプ試料から抽出された成分を含む抽出物を得る。異なる量のパイプ試料が用いられる場合、キシレンの量は、パイプ試料の量に比例して変えることができる。
【0091】
次に、パイプから抽出される成分を標準的な方法を用いて決定するため、抽出物をGC/MSによって分析する。GC/MS分析の好適な標準的方法は、NSFインターナショナル規格/飲料水添加剤の米国規格 61-2011(2011年6月10日)(「NSF61」)のB.7.4.2「ガスクロマトグラフィー/質量分析(GC/MS)分析」に記載され、更に、B14~B16頁の小見出しB.7.4.2.1~B.7.4.2.4で指定され、その内容は、参照用として本明細書に援用されるものとする。
【0092】
実施例1
配合物
パイプは、ヘキサメチレン-1,6-ジマレイミド(CAS 4856-87-5)を配合物として1.75重量%含むポリエチレンである、ボレアリス(Borealis)1878Eから製造されている。
【0093】
製造工程
配合物をブレンダー/ミキサーで注意深く乾式混合した後、押出機に挿入した。パイプを、Weber DS7二軸押出機を用いて加工した。架橋工程を活性化するため、パイプの加熱は、押出機の直後に設置した赤外線(IR)オーブンを用いて行った。押し出しは、75kg/hrで行い、20×2.8mmのパイプを製造した。
【0094】
結果
架橋パイプが製造された。化学的架橋レベルは、60.5%であった。
【0095】
KTWガイドラインおよびEN 1484に従って測定した場合、室温におけるTOCは、1.3であった(≦2.5必要条件)。
【0096】
KTWガイドラインに従って測定した場合、60℃における味覚および臭気は、2~4であった(≦4必要条件)。
【0097】
したがって、この配合物は、室温におけるTOCを満たし、かつ、味覚および臭気の必要条件を満たしている。対照的に、PEX-aまたはPEX-bパイプの場合、パイプがTOCならびに味覚および臭気の必要条件を満たすためには、通常、押出後工程を必要とする。
【0098】
実施例2
ヘキサメチレン-1,6-ジマレイミド(CAS 4856-87-5)を配合物として2.0重量%含む配合物を用いて、実施例1の手順を繰り返した。化学的架橋レベルは、実施例1で得られた化学的架橋レベル(60.5%)と同じであった。