(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-08
(45)【発行日】2022-01-12
(54)【発明の名称】低果汁含有飲料、低果汁含有飲料ベース、低果汁含有飲料の製造方法、及び、低果汁含有飲料の香味向上方法
(51)【国際特許分類】
A23L 2/02 20060101AFI20220104BHJP
A23L 2/00 20060101ALI20220104BHJP
A23L 2/56 20060101ALI20220104BHJP
C12G 3/06 20060101ALI20220104BHJP
C12G 3/04 20190101ALI20220104BHJP
【FI】
A23L2/02 A
A23L2/00 B
A23L2/56
C12G3/06
C12G3/04
(21)【出願番号】P 2018023016
(22)【出願日】2018-02-13
【審査請求日】2021-02-05
(73)【特許権者】
【識別番号】303040183
【氏名又は名称】サッポロビール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】特許業務法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】坂口 淳哉
【審査官】緒形 友美
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-116493(JP,A)
【文献】特開2016-106555(JP,A)
【文献】特開2014-054192(JP,A)
【文献】特開2012-050347(JP,A)
【文献】特開2013-027328(JP,A)
【文献】特開2015-042148(JP,A)
【文献】特開2016-073275(JP,A)
【文献】特開2021-078382(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 2/02
A23L 2/00
A23L 2/56
C12G 3/06
C12G 3/04
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
果汁の含有量が果汁率換算で10%以下である低果汁含有飲料であって、
ボルネオールの含有量が0.25~1.60ppmであり、デカナールの含有量が0.12~1.10ppmである低果汁含有飲料。
【請求項2】
前記ボルネオールの含有量が0.50~1.10ppmであり、前記デカナールの含有量が0.40~0.75ppmである請求項1に記載の低果汁含有飲料。
【請求項3】
前記果汁が柑橘類果実由来の果汁である請求項1又は請求項2に記載の低果汁含有飲料。
【請求項4】
発泡性である請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の低果汁含有飲料。
【請求項5】
アルコールを含有する請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の低果汁含有飲料。
【請求項6】
果汁とボルネオールとデカナールとを含有する低果汁含有飲料ベースであって、
前記果汁の含有量の果汁率換算をX%とし、前記ボルネオールの含有量をYppmとし、前記デカナールの含有量をZppmとし、希釈倍率をD倍とした場合において、X/Dが10以下であり、Y/Dが0.25~1.60であり、Z/Dが0.12~1.10である低果汁含有飲料ベース。
【請求項7】
果汁とボルネオールとデカナールとを含有する低果汁含有飲料の製造方法であって、
前記果汁の含有量の果汁率換算を10%以下とし、前記ボルネオールの含有量を0.25~1.60ppmとし、前記デカナールの含有量を0.12~1.10ppmとする工程を含む低果汁含有飲料の製造方法。
【請求項8】
果汁の含有量が果汁率換算で10%以下である低果汁含有飲料の果汁の味の厚みとフレッシュ感とを増強させる香味向上方法であって、
前記低果汁含有飲料について、ボルネオールの含有量を0.25~1.60ppmとし、デカナールの含有量を0.12~1.10ppmとする低果汁含有飲料の香味向上方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低果汁含有飲料、低果汁含有飲料ベース、低果汁含有飲料の製造方法、及び、低果汁含有飲料の香味向上方法に関する。
【背景技術】
【0002】
果汁を含有する果汁飲料は、果実特有の酸味を感じることができ、消費者にフレッシュな印象を与えるといった強みがあり、飲料の市場において一定のシェアを獲得している。
そして、果汁飲料に関し、より市場のニーズに合致した商品を創出すべく、様々な研究開発が進められている。
【0003】
例えば、特許文献1には、果汁率が30%以上70%以下となる果汁を含有する果汁飲料であって、リン酸を0.02g/100g以上含有する容器詰め果汁飲料が記載されている。
また、特許文献1には、飲料全体に含まれる有機酸の総重量とリン酸の重量との合計(A)に対するリン酸の重量(B)の割合(B/A)が0.04以上であるのが好ましいと記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されている果汁飲料のように果汁の添加量が多いと、不快臭になり易く、良好な香味や適度な酸味を保つことが難しくなる。また、果汁飲料における果汁の添加量を増やすと、飲料の原料原価も上昇してしまう。
【0006】
上記のような事情に基づき、果汁の含有量を減らした果汁飲料も存在する。しかしながら、果汁飲料における果汁の含有量の減少に伴い、当然、果汁の味の厚みや、果汁に特有のフレッシュ感までもが低減してしまう。
【0007】
そこで、本発明は、果汁の含有量が低くても、果汁の味の厚み、及び、果汁のフレッシュ感に優れる低果汁含有飲料、低果汁含有飲料ベース、低果汁含有飲料の製造方法、及び、低果汁含有飲料の香味向上方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、低果汁含有飲料の果汁の味の厚み、及び、果汁のフレッシュ感を増強させるため、様々な物質に焦点をあてて数多くの実験を行った。その結果、ボルネオールとデカナールに着目し、これらを所定量含有させることにより、前記した課題を解決できることを見出し、本発明を創出した。
【0009】
前記課題は、以下の手段により解決することができる。
(1)果汁の含有量が果汁率換算で10%以下である低果汁含有飲料であって、ボルネオールの含有量が0.25~1.60ppmであり、デカナールの含有量が0.12~1.10ppmである低果汁含有飲料。
(2)前記ボルネオールの含有量が0.50~1.10ppmであり、前記デカナールの含有量が0.40~0.75ppmである前記1に記載の低果汁含有飲料。
(3)前記果汁が柑橘類果実由来の果汁である前記1又は前記2に記載の低果汁含有飲料。
(4)発泡性である前記1から前記3のいずれか1つに記載の低果汁含有飲料。
(5)アルコールを含有する前記1から前記4のいずれか1つに記載の低果汁含有飲料。
(6)果汁とボルネオールとデカナールとを含有する低果汁含有飲料ベースであって、前記果汁の含有量の果汁率換算をX%とし、前記ボルネオールの含有量をYppmとし、前記デカナールの含有量をZppmとし、希釈倍率をD倍とした場合において、X/Dが10以下であり、Y/Dが0.25~1.60であり、Z/Dが0.12~1.10である低果汁含有飲料ベース。
(7)果汁とボルネオールとデカナールとを含有する低果汁含有飲料の製造方法であって、前記果汁の含有量の果汁率換算を10%以下とし、前記ボルネオールの含有量を0.25~1.60ppmとし、前記デカナールの含有量を0.12~1.10ppmとする工程を含む低果汁含有飲料の製造方法。
(8)果汁の含有量が果汁率換算で10%以下である低果汁含有飲料の果汁の味の厚みとフレッシュ感とを増強させる香味向上方法であって、前記低果汁含有飲料について、ボルネオールの含有量を0.25~1.60ppmとし、デカナールの含有量を0.12~1.10ppmとする低果汁含有飲料の香味向上方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る低果汁含有飲料は、ボルネオールとデカナールとの含有量が所定範囲に特定されていることから、低果汁であっても、果汁の味の厚み、及び、果汁のフレッシュ感が増強している。
本発明に係る低果汁含有飲料ベースは、X/D、Y/D、Z/Dの値が所定範囲に特定されていることから、希釈後の低果汁含有飲料は、低果汁であっても、果汁の味の厚み、及び、果汁のフレッシュ感が増強している。
【0011】
本発明に係る低果汁含有飲料の製造方法は、果汁、ボルネオール、デカナールの含有量を所定範囲とする工程を含むことから、低果汁であっても、果汁の味の厚み、及び、果汁のフレッシュ感が増強された低果汁含有飲料を製造することができる。
【0012】
本発明に係る低果汁含有飲料の香味向上方法は、果汁、ボルネオール、デカナールの含有量を所定範囲とすることから、低果汁であっても、果汁の味の厚み、及び、果汁のフレッシュ感を増強させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る低果汁含有飲料、低果汁含有飲料ベース、低果汁含有飲料の製造方法、低果汁含有飲料ベースの製造方法、及び、低果汁含有飲料の香味向上方法を実施するための形態(本実施形態)について説明する。
【0014】
[低果汁含有飲料]
本実施形態に係る低果汁含有飲料は、果汁と、ボルネオールと、デカナールと、を含有する。また、本実施形態に係る低果汁含有飲料は、発泡性であってもよく、アルコール等を含有してもよい。
以下、低果汁含有飲料を構成する各成分等について説明する。
【0015】
(果汁)
果汁は、果実を搾った汁である。そして、果汁の由来となる果実は、特に限定されず、本発明の所望の効果が阻害されない範囲において、食用のものであれば、いずれの果実も使用できる。
例えば、果汁の由来となる果実としては、柑橘類に属する果実(適宜「柑橘類果実」という)である、レモン、グレープフルーツ、オレンジ、ライム、イヨカン、ウンシュウミカン、カボス、キシュウミカン、キノット、コウジ、サンボウカン、シトロン、ジャバラ、スダチ、ダイダイ、タチバナ、タンゴール、ナツミカン、ハッサク、ハナユズ、ヒュウガナツ、ヒラミレモン(シークヮーサー)、ブンタン、ポンカン(マンダリンオレンジ)、ユズ等や、これらの柑橘類果実以外にも、セイヨウリンゴ(いわゆるリンゴ)、エゾノコリンゴ、カイドウズミ、ハナカイドウ、イヌリンゴ(ヒメリンゴ)、マルバカイドウ、ノカイドウ、ズミ(コリンゴ、コナシ)、オオウラジロノキ、ブドウ、イチゴ、モモ、メロン、パイナップル、グァバ、バナナ、マンゴー、アセロラ、パパイヤ、パッションフルーツ、ウメ、ナシ、アンズ、スモモ、キウイフルーツ、カシス、ブルーベリー、ラズベリー等が挙げられる。
なお、果汁の由来となる果実は、飲料の果汁のフレッシュ感をより明確とすべく、柑橘類果実が好ましく、柑橘類果実の中でも酸味の強い香酸柑橘類果実(レモン、ライム、カボス、スダチ、ダイダイ、ヒラミレモン、ユズ等)がより好ましく、レモンが特に好ましい。
【0016】
果汁は、例えば、濃縮果汁、還元果汁、ストレート果汁といった各種果汁、果実ピューレ(火を通した果実あるいは生の果実をすりつぶしたり裏ごししたりした半液体状のもの)、これらの希釈液、濃縮液、混合液などを用いることができる。
また、果汁は、1種類の果実を原料としてもよいし、2種類以上の果実を原料としてもよい。
【0017】
果汁の含有量は、果汁率換算で10%以下が好ましく、8%以下がより好ましく、7%以下がさらに好ましく、6%以下が特に好ましい。果汁の含有量が所定値以下であることにより、時間経過に伴う不快臭の増加や原料原価の上昇を抑制することができるとともに、本発明の課題がより明確となる。
果汁の含有量は、果汁率換算で0.05%以上が好ましく、1%以上がより好ましく、2%以上がさらに好ましく、3%以上が特に好ましい。果汁の含有量が所定値以上であることにより、飲料の香味をより果汁らしい香味とすることができる。
【0018】
本実施形態に係る低果汁含有飲料の果汁の含有量(果汁率換算)は、「含有量(果汁率換算)%(詳細には、w/v%)」=「飲料100mL中への果汁配合量(g)」×「濃縮倍率」/100mL×100により算出することとする。
ここで、「濃縮倍率」(ストレート果汁を100%としたときの果汁の相対的濃縮倍率)を算出するにあたり、JAS規格に準ずるものとし、果汁に加えられた糖類、はちみつ等の糖用屈折計示度を除くものとする。
詳細には、ストレート果汁の糖用屈折計示度あるいは酸度の値は、JAS規格である果実飲料の日本農林規格(平成28年2月24日農林水産省告示第489号)において、各果実に固有の基準値が定められている(別表3において「糖用屈折計示度の基準(Bx)」、別表4において「酸度の基準(%)」)。したがって、使用する果汁の糖用屈折計示度あるいは酸度を測定し、その果実に固有の糖用屈折計示度あるいは酸度の基準値で割れば、果汁の濃縮倍率を求めることができる。
【0019】
例えば、果実飲料の日本農林規格(平成28年2月24日農林水産省告示第489号)の別表4によるとレモンの基準酸度は4.5%であるから、酸度が9.0%のレモン果汁は、2倍濃縮のレモン果汁となる。この2倍濃縮のレモン果汁を、飲料100mL中にZg配合した場合、この飲料におけるレモン果汁の含有量(果汁率換算)は、「Zg×2(濃縮倍率)/100mL×100」によって算出することができる。
【0020】
(ボルネオール)
ボルネオール(borneol)とは、化学式C10H18Oで示されるモノテルペンアルコールに属する化合物である。
このボルネオールは、一般的には、お香や墨のような香りを奏する物質として知られており、樟脳の香りに類似する香気成分であるが、驚くべきことに、後記のデカナールと相乗的に作用することによって、低果汁含有飲料の果汁の味の厚みとフレッシュ感とを増強させる(果汁感や爽やかなフレッシュ感を低果汁含有飲料から引き出し、際立たせる)ことができる。
【0021】
ボルネオールの含有量は、0.25ppm(mg/L)以上であるのが好ましく、0.50ppm以上であるのがより好ましく、0.60ppm以上であるのがさらに好ましく、0.70ppm以上であるのが特に好ましい。ボルネオールの含有量が所定値以上であることにより、低果汁含有飲料の果汁の味の厚みとフレッシュ感とを増強させることができる。
ボルネオールの含有量は、1.60ppm以下であるのが好ましく、1.10ppm以下であるのがより好ましく、1.05ppm以下であるのがさらに好ましい。ボルネオールの含有量が所定値以下であることにより、低果汁含有飲料の果汁の味の厚みとフレッシュ感との増強効果をしっかりと発揮させることができる。
【0022】
(デカナール)
デカナール(Decanal)とは、化学式C10H20Oで示される鎖状の有機化合物である。
このデカナールは、前記のボルネオールと相乗的に作用することによって、低果汁含有飲料の果汁の味の厚みとフレッシュ感とを増強させる(果汁感や爽やかなフレッシュ感を低果汁含有飲料から引き出し、際立たせる)ことができる。
【0023】
デカナールの含有量は、0.12ppm(mg/L)以上であるのが好ましく、0.40ppm以上であるのがより好ましく、0.50ppm以上であるのがさらに好ましく、0.70ppm以上であるのが特に好ましい。デカナールの含有量が所定値以上であることにより、低果汁含有飲料の果汁の味の厚みとフレッシュ感とを増強させることができる。
デカナールの含有量は、1.10ppm以下であるのが好ましく、0.75ppm以下であるのがより好ましい。デカナールの含有量が所定値以下であることにより、低果汁含有飲料の果汁の味の厚みとフレッシュ感との増強効果をしっかりと発揮させることができる。
【0024】
なお、ボルネオール及びデカナールの含有量は、溶媒抽出-GC/MS/MS法により測定することができる。具体的には、あらかじめ3gのNaClを入れた50mLのガラス遠沈管に10mLのサンプル、20mLのジクロロメタン及び100μLの内部標準液(100mg/Lのリナロール‐d3 10%エタノール溶液)を添加し、15分間振とうして抽出する。遠心して2層に分離した後、ジクロロメタン相を回収して硫酸ナトリウムで脱水し、このうち10mLを窒素気流下0.5mlまで濃縮したものをGC/MS/MSにより分析する。
【0025】
GC/MS/MSの分析の測定条件は以下のとおりである。
・分析機器:7890A GC、7000B GC/MS/MS(Agilent Technologies)
・カラム:InertCap Pure‐WAX、30m(長さ)×0.25mm(内径)、0.25μm(膜厚)(GLサイエンス)
・注入モード:スプリットレス注入
・注入量:1μL
・流量:1mL/分(定流量)
・注入口温度:240℃
・オーブン温度:40℃(3分)→5℃/分→250℃(0分:達温)
・MS検出器:MRM条件は以下のとおり
【0026】
上述の溶媒抽出-GC/MS/MS法においては、試料にボルネオール標準液及びデカナール標準液を別途添加して作成した検量線を使用する標準添加法により測定することが好ましい。また、夾雑物質の影響を受ける場合は、カラムの種類や長さ、オーブンの温度プログラムからなる群より選択される1以上の条件を適宜変更すること、及び/又は、GC/MS/MS又は2次元GC-MSを使用することが好ましい。
【0027】
(発泡性)
本実施形態に係る低果汁含有飲料は、非発泡性のものでも、発泡性のものでもよい。ここで、本実施形態における発泡性とは、20℃におけるガス圧が0.5kg/cm2以上であることをいい、非発泡性とは、20℃におけるガス圧が0.5kg/cm2未満であることをいう。
【0028】
(アルコール)
本実施形態に係る低果汁含有飲料は、アルコールを含有していてもよい。
アルコールは飲用することができるアルコールであればよく、本発明の所望の効果が阻害されない範囲であれば、種類、製法、原料などに限定されることがないが、蒸留酒又は醸造酒であることが好ましい。蒸留酒としては、例えば、焼酎、ブランデー、ウォッカ、ウイスキー、ラム等の各種スピリッツ、原料用アルコール等が挙げられ、これらのうちの1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。醸造酒としては、例えば、ビール、発泡酒、果実酒、甘味果実酒、清酒などを1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。また、前記した様々な酒類に果実等を漬け込んだ浸漬酒を使用してもよい。
なお、本明細書においてアルコールとは、特に明記しない限り、エタノールのことをいう。
【0029】
(アルコール度数)
本実施形態に係る低果汁含有飲料のアルコール度数は、特に限定されないが、アルコール飲料とする場合は、1v/v%以上であることが好ましく、3v/v%以上であることがさらに好ましい。
低果汁含有飲料のアルコール度数は、20v/v%以下であることが好ましく、10v/v%以下であることがさらに好ましい。
本実施形態に係る低果汁含有飲料のアルコール度数は、例えば、国税庁所定分析法(訓令)3清酒3-4アルコール分(振動式密度計法)に基づいて測定することができる。
【0030】
(その他)
本実施形態に係る低果汁含有飲料は、本発明の所望の効果が阻害されない範囲で飲料として通常配合される甘味料、高甘味度甘味料、酸化防止剤、香料、酸味料、塩類、食物繊維など(以下、適宜「添加剤」という)を添加することもできる。甘味料としては、例えば、果糖ぶどう糖液糖、グルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース、ラクトース、スクロース、マルトース、グリコーゲンやデンプンなどを用いることができる。高甘味度甘味料としては、例えば、ネオテーム、アセスルファムカリウム、スクラロース、サッカリン、サッカリンナトリウム、グリチルリチン酸二ナトリウム、チクロ、ズルチン、ステビア、グリチルリチン、ソーマチン、モネリン、アスパルテーム、アリテームなどを用いることができる。酸化防止剤としては、例えば、ビタミンC、ビタミンE、ポリフェノールなどを用いることができる。酸味料としては、例えば、アジピン酸、クエン酸、クエン酸三ナトリウム、グルコノデルタラクトン、グルコン酸、グルコン酸カリウム、グルコン酸ナトリウム、コハク酸、コハク酸一ナトリウム、コハク酸二ナトリウム、酢酸ナトリウム、DL-酒石酸、L-酒石酸、DL-酒石酸ナトリウム、L-酒石酸ナトリウム、二酸化炭素、乳酸、乳酸ナトリウム、氷酢酸、フマル酸、フマル酸一ナトリウム、DL-リンゴ酸、DL-リンゴ酸ナトリウム、リン酸などを用いることができる。塩類としては、例えば、食塩、酸性りん酸カリウム、酸性りん酸カルシウム、りん酸アンモニウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、メタ重亜硫酸カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、硝酸カリウム、硫酸アンモニウムなどを用いることができる。食物繊維としては、例えば、難消化性デキストリン、ペクチン、ポリデキストロース、グアーガム分解物などを用いることができる。
そして、前記した果汁、ボルネオール、デカナール、アルコール、添加物は、一般に市販されているものを使用することができる。
【0031】
以上説明したように、本実施形態に係る低果汁含有飲料は、ボルネオールとデカナールとの含有量が所定範囲に特定されていることから、低果汁であっても、果汁の味の厚み、及び、果汁のフレッシュ感が増強している。
【0032】
[低果汁含有飲料ベース]
本実施形態に係る低果汁含有飲料ベースは、後記する割り材で希釈されることにより前記の低果汁含有飲料とすることができる。
なお、本実施形態に係る低果汁含有飲料ベースは、消費者や飲食店などに提供されるに際して、飲料ベースの状態(RTS:Ready To Serve)で提供された後に割り材で希釈されてもよいし、飲料ベースを割り材で希釈した後に飲料の状態(RTD:Ready To Drink)で提供されてもよい。
【0033】
以下、本実施形態に係る低果汁含有飲料ベースを説明するに際して、前記の低果汁含有飲料と共通する構成については説明を省略し、相違する構成(特に数値等)を中心に説明する。
【0034】
(果汁)
低果汁含有飲料ベースの果汁の含有量(果汁率換算)をX%とし、希釈倍率をD倍とした場合、X/Dは、10以下が好ましく、8以下がより好ましく、7以下がさらに好ましく、6以下が特に好ましい。また、X/Dは、0.05以上が好ましく、1以上がより好ましく、2以上がさらに好ましく、3以上が特に好ましい。
【0035】
(ボルネオール)
低果汁含有飲料ベースのボルネオールの含有量をYppmとし、希釈倍率をD倍とした場合、Y/Dは、0.25以上であるのが好ましく、0.50以上であるのがより好ましく、0.60以上であるのがさらに好ましく、0.70以上であるのが特に好ましい。また、Y/Dは、1.60以下であるのが好ましく、1.10以下であるのがより好ましく、1.05以下であるのがさらに好ましい。
【0036】
(デカナール)
低果汁含有飲料ベースのデカナールの含有量をZppmとし、希釈倍率をD倍とした場合、Z/Dは、0.12以上であるのが好ましく、0.40以上であるのがより好ましく、0.50以上であるのがさらに好ましく、0.70以上であるのが特に好ましい。また、Z/Dは、1.10以下であるのが好ましく、0.75以下であるのがより好ましい。
【0037】
(アルコール度数)
低果汁含有飲料ベースのアルコール度数をAv/v%とし、希釈倍率をD倍とした場合、A/Dは、1以上であることが好ましく、3以上であることがさらに好ましい。また、A/Dは、20以下であることが好ましく、10以下であることがさらに好ましい。
【0038】
(割り材)
割り材とは、本実施形態に係る低果汁含有飲料ベースの希釈に用いるものである。
割り材としては、本発明の所望の効果が阻害されない範囲で選択すればよく、例えば、水、炭酸水、お湯、氷、果汁、果汁入り飲料、牛乳、茶、アルコール等を挙げることができ、これらのうちの1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
なお、割り材を用いた希釈は、本実施形態に係る低果汁含有飲料ベースが1.2~20倍、好ましくは1.5~10倍、さらに好ましくは2~5倍となるように実施すればよい。
【0039】
以上説明したように、本実施形態に係る低果汁含有飲料ベース(希釈倍率:D倍用)は、X/D、Y/D、Z/Dの値が所定範囲に特定されていることから、希釈後の低果汁含有飲料は、低果汁であっても、果汁の味の厚み、及び、果汁のフレッシュ感が増強している。
【0040】
[容器詰め低果汁含有飲料、及び、容器詰め低果汁含有飲料ベース]
本実施形態に係る低果汁含有飲料、及び、低果汁含有飲料ベースは、各種容器に入れて提供することができる。各種容器に低果汁含有飲料、又は、低果汁含有飲料ベースを詰めることにより、長期間の保管による品質の劣化を好適に防止することができる。
なお、容器は密閉できるものであればよく、金属製(アルミニウム製又はスチール製など)のいわゆる缶容器・樽容器を適用することができる。また、容器は、ガラス容器、ペットボトル容器、紙容器、パウチ容器などを適用することもできる。容器の容量は特に限定されるものではなく、現在流通しているどのようなものも適用することができる。なお、気体、水分および光線を完全に遮断し、長期間常温で安定した品質を保つことが可能な点から、金属製の容器を適用することが好ましい。
また、各種容器に低果汁含有飲料ベースを詰める場合は、その容器に、前記した割り材等によって希釈して飲んでもよい旨の表示(例えば、希釈倍率等)を付してもよい。
【0041】
[低果汁含有飲料、及び、低果汁含有飲料ベースの製造方法]
次に、本実施形態に係る低果汁含有飲料、及び、低果汁含有飲料ベースの製造方法を説明する。
本実施形態に係る低果汁含有飲料、及び、低果汁含有飲料ベースの製造方法は、混合工程と、後処理工程と、を含む。
【0042】
混合工程では、混合タンクに、水、果汁、ボルネオール、デカナール、飲用アルコール、添加剤などを適宜投入して混合後液を製造する。
この混合工程において、果汁、ボルネオール、デカナール等の含有量、アルコール度数、X/D、Y/D、Z/D、A/D等が前記した所定範囲の量となるように各原料を混合し、調整すればよい。
【0043】
そして、後処理工程では、例えば、殺菌、容器への充填などの処理を必要に応じて選択的に行う。
なお、後処理工程の殺菌処理は、処理速度等の観点から、チューブ式殺菌によって行うのが好ましいが、同様の処理を行うことができるのであればこれに限定されることなく適用可能である。また、後処理工程の充填処理は、飲料品の製造において通常行われる程度にクリーン度を保ったクリーンルームにて充填するのが好ましい。そして、後処理工程での各処理の順序は特に限定されない。
【0044】
なお、混合工程及び後処理工程にて行われる各処理は、RTD、RTS飲料などを製造するために一般的に用いられている設備にて行うことができる。
【0045】
以上説明したように、本実施形態に係る低果汁含有飲料の製造方法は、果汁、ボルネオール、デカナールの含有量を所定範囲とする工程を含むことから、低果汁であっても、果汁の味の厚み、及び、果汁のフレッシュ感が増強された低果汁含有飲料を製造することができる。
また、本実施形態に係る低果汁含有飲料ベースの製造方法は、X/D、Y/D、Z/Dの値を所定範囲とする工程を含むことから、希釈後の低果汁含有飲料について、低果汁であっても、果汁の味の厚み、及び、果汁のフレッシュ感が増強された低果汁含有飲料ベースを製造することができる。
【0046】
(低果汁含有飲料の香味向上方法)
次に、本実施形態に係る低果汁含有飲料の香味向上方法を説明する。
本実施形態に係る低果汁含有飲料の香味向上方法は、果汁の含有量が果汁率換算で10%以下である低果汁含有飲料について、ボルネオールとデカナールを含有させて、両成分の含有量を所定範囲とすることによって、果汁の味の厚みとフレッシュ感とを増強させる方法である。
なお、各成分の含有量等については、前記した「低果汁含有飲料」において説明した内容と同じである。
【0047】
以上説明したように、本実施形態に係る低果汁含有飲料の香味向上方法は、果汁、ボルネオール、デカナールの含有量を所定範囲とすることから、低果汁であっても、果汁の味の厚み、及び、果汁のフレッシュ感を増強させることができる。
【0048】
(低果汁含有飲料の香味向上方法:別実施形態)
次に、別実施形態に係る低果汁含有飲料の香味向上方法を説明する。
本発明者は、果汁の含有量が果汁率換算で10%以下である低果汁含有飲料に対し、ボルネオールを所定範囲の含有量となるように含有させるだけでも、一定の効果(果汁の味の厚みの増強)が発揮されることも確認した。
【0049】
詳細には、低果汁含有飲料にボルネオールを含有させ、ボルネオールの含有量を0.25ppm(mg/L)以上とするのが好ましく、0.50ppm以上とするのがより好ましく、0.60ppm以上とするのがさらに好ましく、0.70ppm以上とするのが特に好ましい。ボルネオールの含有量が所定値以上であることにより、低果汁含有飲料の果汁の味の厚みをある程度増強させることができる。
また、ボルネオールの含有量は、1.60ppm以下とするのが好ましく、1.10ppm以下とするのがより好ましく、1.05ppm以下とするのがさらに好ましい。ボルネオールの含有量が所定値以下であることにより、低果汁含有飲料の果汁の味の厚みの増強効果をある程度発揮させることができる。
【0050】
なお、別実施形態に係る低果汁含有飲料の香味向上方法に関し、果汁の含有量、発泡性、アルコール度数、添加剤等については、前記した「低果汁含有飲料」において説明した内容と同じである。
【実施例】
【0051】
次に、本発明の要件を満たす実施例とそうでない比較例とを例示して、本発明について説明する。
【0052】
[サンプルの準備]
表に示す量となるように、レモン果汁、レモン香料、デカナール、ボルネオール、飲用アルコール、炭酸水を混合してサンプルを準備した。
なお、サンプルの20℃におけるガス圧は約2.1kg/cm2であった。
【0053】
[試験内容]
前記の方法により製造した各サンプルについて、訓練された識別能力のあるパネル6名が下記評価基準に則って「果汁の味の厚み」、「果汁のフレッシュ感」について、-2~+2点の5段階評価で独立点数付けし、その平均値を算出した。
なお、全ての評価は、サンプルを飲んで評価した。
【0054】
(果汁の味の厚み:評価基準)
+2点:基準サンプルと比較して非常に強い。
+1点:基準サンプルと比較して強い。
0点:基準サンプルと同程度である。
-1点:基準サンプルと比較して弱い。
-2点:基準サンプルと比較して非常に弱い。
なお、サンプル1-1~1-5の評価においては、サンプル1-2を基準サンプルとし、サンプル2-1~2-5、3-1、3-2の評価においては、サンプル2-2を基準サンプルとした。
【0055】
(果汁のフレッシュ感:評価基準)
+2点:基準サンプルと比較して非常に強い。
+1点:基準サンプルと比較して強い。
0点:基準サンプルと同程度である。
-1点:基準サンプルと比較して弱い。
-2点:基準サンプルと比較して非常に弱い。
なお、サンプル1-1~1-5の評価においては、サンプル1-2を基準サンプルとし、サンプル2-1~2-5、3-1、3-2の評価においては、サンプル2-2を基準サンプルとした。
【0056】
なお、基準サンプル1-2は、デカナールを添加せずにボルネオールを添加したサンプルであるが、果汁の味の厚みはある程度感じられるものの、墨汁様の香りが強く、果汁のフレッシュ感は乏しかった。
一方、基準サンプル2-2は、基準サンプル1-2と異なり、ボルネオールだけでなくデカナールも添加したサンプルであるが、柑橘の香りが増し、果汁の味の厚みが更に増強するとともに、果汁のフレッシュ感も感じられた。
【0057】
表1~3に、各サンプルの配合を示すとともに、各評価の結果を示す。
なお、表中のデカナールとボルネオールの含有量とは、文言のとおり、サンプル中に各成分が含有している量であって、各成分の添加量に対して、他の構成物質に含まれている各成分の量を加えた値である。
【0058】
【0059】
【0060】
【0061】
(結果の検討)
サンプル1-1~1-5の結果から、ボルネオールの含有量が所定範囲であると、果汁の味の厚みが、ある程度増強されることが確認できた。
【0062】
サンプル2-1~2-5の結果から、ボルネオールとデカナールとの含有量が所定範囲であると、果汁の味の厚みと、果汁のフレッシュ感とが、明確に増強されることが確認できた。
【0063】
サンプル3-1、3-2の結果から、デカナールが所定範囲で含有されていても、ボルネオールの含有量が少なければ、各効果(果汁の味の厚みの増強、果汁のフレッシュ感の増強)は十分に発揮されず、ボルネオールの含有量が所定範囲となってはじめて、各効果が明確に発揮されるということが確認できた。