(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-08
(45)【発行日】2022-01-12
(54)【発明の名称】油類の回収方法
(51)【国際特許分類】
B09C 1/00 20060101AFI20220104BHJP
【FI】
B09C1/00 ZAB
(21)【出願番号】P 2018033416
(22)【出願日】2018-02-27
【審査請求日】2020-09-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591159675
【氏名又は名称】錦城護謨株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096091
【氏名又は名称】井上 誠一
(72)【発明者】
【氏名】大塚 誠治
(72)【発明者】
【氏名】河合 達司
(72)【発明者】
【氏名】石神 大輔
(72)【発明者】
【氏名】瀬尾 昭治
(72)【発明者】
【氏名】田中 真弓
(72)【発明者】
【氏名】三成 昌也
(72)【発明者】
【氏名】小▲柳▼ 勇也
【審査官】上坊寺 宏枝
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-185466(JP,A)
【文献】特開平04-309626(JP,A)
【文献】特開2005-074289(JP,A)
【文献】特開2014-221981(JP,A)
【文献】特開2007-245052(JP,A)
【文献】特開平04-254610(JP,A)
【文献】特開昭59-044427(JP,A)
【文献】特開2012-110813(JP,A)
【文献】特開2003-117540(JP,A)
【文献】特開2015-157267(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09C 1/00-1/10
E02D 3/10
C02F 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤中の油類の回収方法であって、
油層の存在する地下水位近傍に複数のドレーン材を打設する工程aと、
油類の含有をモニタリングしつつ、前記ドレーン材を真空ポンプにつないで吸引し、前記油類を回収する工程bと、
を具備し、
前記工程bと並行して前記ドレーン材の上端に連結されたホースの内部に気体を供給する
にあたり、
前記気体の供給手段として、コンプレッサと、一端が前記コンプレッサに連結されたエアチューブとを設け、
前記コンプレッサから送り出された前記気体を前記エアチューブを介して前記ドレーン材の下端部付近に移送し、前記ドレーン材から前記ホースの内部に供給することを特徴とする油類の回収方法。
【請求項2】
前記エアチューブの他端が前記ドレーン材の下端部に連結されたことを特徴とする請求項
1記載の油類の回収方法。
【請求項3】
地盤中の油類の回収方法であって、
油層の存在する地下水位近傍に複数のドレーン材を打設する工程aと、
油類の含有をモニタリングしつつ、前記ドレーン材を真空ポンプにつないで吸引し、前記油類を回収する工程bと、
を具備し、
前記工程bと並行して前記ドレーン材の上端に連結されたホースの内部に気体を供給する
にあたり、
前記気体の供給手段として、一端が地上もしくは地下水位よりも上の層に配置され、他端が前記ドレーン材の下端部に連結されたエアチューブを設け、
前記真空ポンプで負圧吸引することにより、前記地上もしくは地下水位よりも上の層に存在する前記気体を前記エアチューブを介して前記ドレーン材の下端部付近に移送し、前記ドレーン材から前記ホースの内部に供給することを特徴とする油類の回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤中の油類の回収方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、油類で汚染された土壌を浄化する方法として、ディープウェル工法やウェルポイント工法によって油と水とが混合された液体を吸引し、回収する方法が実施されてきた。
【0003】
また、地盤に設けられたスチーム注入井戸からスチームを、空気注入井戸から空気を注入することにより、土粒子から油を剥離させ、空気に同伴させた油を飽和層上面に移動させて油回収井戸から回収する方法(例えば、特許文献1参照)や、注入井戸に設けた微細気泡含有水供給手段から微細気泡(マイクロバブルあるいはナノバブル)を含有する微細気泡含有水を土壌に供給し、土壌に付着した油を微細気泡により剥離し、微生物の作用により分解する方法(例えば、特許文献2)があった。
【0004】
さらに、ドレーン材を地盤の対象範囲に打設し、ドレーン材を真空ポンプにつないで吸引することにより、油と水とが混合された液体を回収する方法(例えば、特許文献3参照)があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第4672582号公報
【文献】特許第4756651号公報
【文献】特開2017-185466号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ディープウェル工法では、揚水期間が長期化するという問題点があった。ウェルポイント工法では、ストレーナ部での目詰まりが生じるなどの問題点があった。井戸を用いる方法は、狭い間隔での井戸の設置が困難であり、油類を効率良く回収できないという問題点があった。
【0007】
また、ウェルポイント工法やドレーン材工法に共通する問題点として、真空ポンプによる負圧吸引を行うため、理論上、水や油類の揚程が限られることがあった。例えば、水の揚程は10m程度、油類の揚程は比重0.8であれば12~13m程度であった。
【0008】
さらに、ウェルポイント工法では、通常吸引されるのは油と水とが混合された液体であった。ドレーン工法では、地下水を吸引するよりも、地下水の上部にある油類を吸引する方が抵抗が小さい。このため、例えば油層が深さ7mから10mの範囲にある場合など、比較的深い場合には、水と油類との揚程の差が出やすいため、比較的優先的に油類が吸引される。一方、例えば油層が深さ0mから7mの範囲にある場合など、比較的浅い場合には、水と油類との揚程の差が出にくいため、油類と水とが混合された液体が吸引されていた。このように、油と水とが混合された液体が吸引された場合、目的の油濃度となるまでに大量の揚水量を必要とし、水処理費用や維持管理費用が嵩んでいた。
【0009】
本発明は、前述した問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とすることは、油層の存在する深度に関わらず水よりも油を優先的に回収でき、工期の短縮や回収装置の維持管理費用の削減が可能である油類の回収方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前述した目的を達成するために本発明の第1の発明は、地盤中の油類の回収方法であって、油層の存在する地下水位近傍に複数のドレーン材を打設する工程aと、油類の含有をモニタリングしつつ、前記ドレーン材を真空ポンプにつないで吸引し、前記油類を回収する工程bと、を具備し、前記工程bと並行して前記ドレーン材の上端に連結されたホースの内部に気体を供給するにあたり、前記気体の供給手段として、コンプレッサと、一端が前記コンプレッサに連結されたエアチューブとを設け、前記コンプレッサから送り出された前記気体を前記エアチューブを介して前記ドレーン材の下端部付近に移送し、前記ドレーン材から前記ホースの内部に供給することを特徴とする油類の回収方法である。
また、第2の発明は、地盤中の油類の回収方法であって、油層の存在する地下水位近傍に複数のドレーン材を打設する工程aと、油類の含有をモニタリングしつつ、前記ドレーン材を真空ポンプにつないで吸引し、前記油類を回収する工程bと、を具備し、前記工程bと並行して前記ドレーン材の上端に連結されたホースの内部に気体を供給するにあたり、前記気体の供給手段として、一端が地上もしくは地下水位よりも上の層に配置され、他端が前記ドレーン材の下端部に連結されたエアチューブを設け、前記真空ポンプで負圧吸引することにより、前記地上もしくは地下水位よりも上の層に存在する前記気体を前記エアチューブを介して前記ドレーン材の下端部付近に移送し、前記ドレーン材から前記ホースの内部に供給することを特徴とする油類の回収方法である。
【0011】
本発明では、真空ポンプで適切な負圧で吸引するとともに、吸引と並行してドレーン材の内部に気体を供給することにより、油層の存在する深度に関わらず水よりも油を優先的に回収することができる。油を優先的に回収することにより、水と油とが混合された液体を回収する場合と比較して、地盤の浄化に要する工期を短縮でき、水処理費用や回収装置の維持管理費用を削減することができる。気体は、例えば、エア、酸素、窒素等である。
【0012】
第1の発明では、前記気体の供給手段として、コンプレッサと、一端が前記コンプレッサに連結されたエアチューブとを設け、前記コンプレッサから送り出された前記気体を前記エアチューブを介して前記ドレーン材の下端部付近に移送し、前記ドレーン材の内部に供給する。
コンプレッサおよびエアチューブを用いることにより、ドレーン材の下端部付近に気体を移送し、ドレーンの内部に供給することができる。
【0013】
前記エアチューブの他端は、必要に応じて前記ドレーン材の下端部に連結される。
これにより、エアチューブを用いて移送された気体を、ドレーン材の内部に確実に供給することができる。
【0014】
また、第2の発明では、前記気体の供給手段として、一端が地上もしくは地下水位よりも上の層に配置され、他端が前記ドレーン材の下端部に連結されたエアチューブを設け、前記真空ポンプで負圧吸引することにより、前記地上もしくは地下水位よりも上の層に存在する前記気体を前記エアチューブを介して前記ドレーン材の下端部付近に移送し、前記ドレーン材の内部に供給する。
エアチューブの一端を地上もしくは地下水位よりも上の層に配置して負圧吸引することにより、コンプレッサを用いなくても、ドレーン材の下端部付近に気体を移送し、ドレーンの内部に供給することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、油層の存在する深度に関わらず水よりも油を優先的に回収でき、工期の短縮や回収装置の維持管理費用の削減が可能である油類の回収方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図8】エアチューブとホース7とを二重管で構成した例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0017】
(第1の実施の形態)
以下、図面に基づいて、本発明の第1の実施形態を詳細に説明する。
図1は、回収装置2の概要を示す図である。なお、
図1においては、後述するエア供給手段の図示を省略する。
図1に示すように、回収装置2は、複数のドレーン材1、ホース7、バルブ15、バルブ17、バルブ19、注液ホース11、給液槽21、排液ホース13、真空ポンプ25、水処理施設29、セパレートタンク27等からなる。
【0018】
図1に示すように、ドレーン材1は、地盤9の油類回収対象範囲に打設される。ドレーン材1は、前後左右に所定の間隔をおいて設置され、ドレーン材1同士の間隔は、例えば1m程度とする。
図1に示すように、ドレーン材1の上端にはキャップ5が取り付けられる。ドレーン材1とキャップ5との境界部には、シール材3が設けられる。シール材3は、ドレーン材1とキャップ5との隙間からの空気等の流入を防ぐものである。
【0019】
ドレーン材1は、全長が吸引部として機能する。吸引部の長さは、対象とする油層31の厚さに応じて設定する。ドレーン材1は、吸引部が油層31の全厚にわたって位置するように地盤9中に打設される。
【0020】
図1に示すように、ドレーン材1のキャップ5の先端は、ホース7の下端に接続される。ホース7の上端は、バルブ15に接続される。バルブ15には、注液ホース11から分岐した注液ホース11aと、排液ホース13から分岐した排液ホース13aとが接続される。注液ホース11は、給液槽21に接続される。排液ホース13は、セパレートタンク27に接続される。セパレートタンク27は、排液ホース13bを介して真空ポンプ25に、また、排液ホース13cを介して水処理施設29に接続される。
【0021】
排液ホース13は、セパレートタンク27の手前で分岐する2本の排液ホース13dにより観察槽23に接続される。2本の排液ホース13dには、バルブ19が設けられる。また、排液ホース13は、2本の排液ホース13dとの2ケ所の分岐箇所の間にバルブ17が設けられる。
【0022】
ドレーン材1は、板状の芯材と、芯材の表面を被覆するフィルター不織布部とからなる。ドレーン材1は、親油性が高いために相対的に撥水効果の期待できるフィルター不織布部の素材を基本とするが、さらに撥水性能を高めた、プラスチックドレーンないしペーパードレーンの使用も可能である。ドレーン材1の芯材は土中から液体のみをドレーン材1に集水する機能を有しており、多孔質体であるフィルター不織布部は濾過性能に優れている。フィルター不織布部の開孔径は、土粒子の流入を防ぐ孔径であればよく、撥水効果を機能させ、且つ粘土、シルトなどの細粒分を含む地盤で土粒子の流入を防ぐ点で100μm以下がなおよい。
【0023】
図2は、エア供給手段4の概要を示す図である。
図2に示すように、エア供給手段4は、コンプレッサ35、エアチューブ37、キャップ49で構成される。エア供給手段4は、気体としてエアを供給する。
【0024】
図2に示すように、コンプレッサ35は、地上に設置される。エアチューブ37は、地盤9内のドレーン材1およびホース7に沿って設けられる。エアチューブ37は、上方の端部43が地上に達しコンプレッサ35に連結される。キャップ49は、ドレーン材1の下端部41に設けられる。エアチューブ37は、ドレーン材1の下端部41より下方で下に凸となるように曲げられ、端部45がキャップ49に連結される。キャップ49は、例えば、ドレーン材1の上端に設けられたキャップ5と同様の材質および構造とする。
【0025】
次に、油類の回収方法について説明する。地盤9の油類を回収するには、まず、油層31の存在する地下水位33近傍の地盤9に複数のドレーン材1を所定の間隔で打設し、
図1に示す回収装置2を準備する。回収装置2を準備した後、バルブ17を開け、2ケ所のバルブ19を閉めた状態で真空ポンプ25を作動させて、ドレーン材1で地盤9から油類を含む液体を吸引する。
【0026】
または、バルブ17を閉め、2ケ所のバルブ19を開けた状態で真空ポンプ25を作動させて液体を吸引し、吸引した液体を観察槽23で観察してもよい。真空ポンプ25によって吸引された揚液は、セパレートタンク27で気体と液体とに分離され、液体は水処理施設29に回収される。液体は、状況に応じて、水処理施設29で水と油とに分離して排水されたり、循環のために再利用されたりする。
【0027】
真空ポンプ25を作動させてドレーン材1で地盤9から油類を含む液体を吸引する際には、吸引を行いつつ、各ドレーン材1で吸引した液体について油類の含有をモニタリングする。油類の含有のモニタリングは、観察槽23で液体を目視で観察することにより行ってもよいし、液体中の油と水と空気との比率を濃度や比重を用いて把握することにより行ってもよい。
【0028】
そして、モニタリングの結果から油類を所定の段階まで回収したかを判断して、複数のドレーン材1のうち、所定の段階まで回収していないドレーン材1では吸引を続行し、所定の段階まで回収したドレーン材1では吸引を停止する。吸引を中断したドレーン材1内部には、必要に応じて、給液槽21から温水等の注液または注気を行う。また、バイオレメディエーションに寄与する栄養塩や必須元素などを補助的に注入してもよい。
【0029】
油類を回収する際には、
図2に示すエア供給手段4を用いて、真空ポンプ25での吸引と並行して、コンプレッサ35からエアを送り出し、エアチューブ37およびキャップ49を介してエアをドレーン材1の下端部41に移送する。そして、ドレーン材1の内部にエアを供給する。ドレーン材1は、コンプレッサ35によりエア混入量を調節可能である。真空ポンプ25での吸引と並行してドレーン材1の内部にエアを供給することにより、油層31の存在する深度に関わらず、油層31の油類がドレーン材1の内部に移動し、ホース7、排液ホース13等を介して水より優先的に地上に回収される。
【0030】
ここで、エアの供給により、油層31の存在する深度に関わらず油類が水より優先的に回収されることについて説明する。
【0031】
真空ポンプ25での負圧吸引と並行して、エア供給手段4を用いてドレーン材1の内部にエアを供給すれば、エアを供給しない従来のドレーン工法と比較して、水、油類ともに揚程が大きくなる。これは、エアリフト効果により、ドレーン材1内での気液混合物全体としての見かけの比重が小さくなるためである。見かけの比重が小さくなることにより、従来のドレーン工法での理論的な揚程限界を超える高さまで水や油類を吸引することが可能になり、油層31が理論的な揚程限界を超える深度にある場合でも油類を回収できる。
【0032】
また、エアを供給すると、水と油類との揚程の差が大きくなる。上述したように、エアを供給しない従来のドレーン工法では、例えば油層31が深さ0mから7mの範囲にある場合などでは、水と油類との揚程の差が出にくいため、水と油類とが混合された液体が吸引されていた。しかし、油類は、元の比重が水より小さいうえ、粘性が高いためエアになじみやすいので、供給されたエアを長時間保持して見かけの比重を小さい状態で維持することができ、水よりも大きな揚程増大効果が得られる。水と油類との揚程の差が大きくなることにより、水より優先的に油類を回収することが可能になる。
【0033】
なお、エア供給手段4によって供給するエアの直径は、数十~数百μmとする。従来用いられていた、例えば直径60μm以下のマイクロバブルやナノバブルは、小さすぎて気液混合物全体としての見かけの比重を小さくする効果が十分に得られないため、不適である。
【0034】
表1は、タンク圧力と揚程の実験値を示す表である。表1に示す実験では、
図1に示す回収装置2の真空ポンプ25およびセパレートタンク27に相当する真空ポンプとタンクを建物上に設置し、ホースの上端を地上から19.8mの高さまで立ち上げて、地上に準備した水および灯油を、真空ポンプを用いて負圧吸引した。表1のエア供給なしは、真空ポンプでの負圧吸引のみを行った場合の値を示し、エア供給ありは、真空ポンプでの負圧吸引と並行して水および灯油にエアの供給を行った場合の値を示す。
【0035】
【0036】
表1に示すタンク圧力は、大気圧を0としたときのタンク内の圧力である。なお、水および灯油1の実験では、真空ポンプでの吸引は、エア供給なし、エア供給ありとも同じ設定負圧で行ったが、エアの供給により、エア供給ありの方がタンクの負圧が小さくなっている。灯油2の実験では、灯油1の実験よりも真空ポンプの負圧を増加させて吸引を行った。
【0037】
表1に示すように、エア供給なしの時は、エア供給ありの時と比較して、水、灯油1とも揚程が小さい。また、水と灯油との揚程の比は1.2程度であり、揚程の差も小さい。このことからも、エア供給なしの従来のドレーン工法では、地盤9中の油層の深さによっては、油を優先的に回収できないことがわかる。
【0038】
一方、エア供給ありの時は、灯油1では、16.8mという充分な揚程が確認された。一方、水の揚程は9.0mであった。このように、エアを供給してエアリフト効果を得ることによって、エア供給なしの時と比較して、水、灯油とも揚程が増大した。また、同等の負圧域において水と灯油1との揚程の比は1.87程度となり、揚程の差も増大した。
【0039】
エア供給ありで、灯油1の場合より更に負圧を増加させて吸引を行った灯油2では、揚程が上昇して19.8m以上となった。なお、19.8mは、ホースの立ち上げ高さであり、今回の実験における揚程の限界値である。エア供給ありの灯油1および灯油2の実験では、エアリフト効果によって、前述した油類の揚程の理論限界値(12~13m程度)よりも大きな揚程が得られた。また、負圧の増加によって揚程が上昇することが確認できた。
【0040】
表1に示す実験値からも、真空ポンプ25で吸引するとともに、ドレーン材1にエアを供給する方法を用いれば、油層31の存在する深度に応じて負圧の調整を行って揚程を調整することによって、水よりも油類を優先的に回収できるような条件を設定できると考えられる。真空ポンプ25で吸引する際の負圧域を水と油類との揚程の差が確保されるように設定し、設定負圧域での水および油の揚程が地盤9の油層31の深度に対して適切であれば、水よりも油を優先的に吸引できる。
【0041】
設定負圧域における水および油類の揚程が地盤9の油層31の深度と著しく相違している場合には、今回の実験のようにホース7の上部を地上で必要高さまで立ち上げて、油層31の見かけの深度を調節することも可能である。
【0042】
真空ポンプ25での負圧吸引と並行して、エア供給手段4を用いてドレーン材1の内部にエアを供給すれば、比重が大きい重質油でも、水よりも優先的に吸引することができる。一般的には、重質油は粘性が高いことなどにより地盤9中を移動しにくく、水の方が高い割合で吸引されてしまうことが多いが、エアを供給すれば、エアリフト効果によって、重質油よりも水を揚水しにくい条件を維持できる。このため、重質油の移動を待って、水よりも優先的に吸引することができる。
【0043】
このように、第1の実施の形態によれば、真空ポンプ25で吸引する際の負圧域を適切に設定し、負圧吸引と並行して、ドレーン材1の内部にエアを供給することにより、油層31の存在する深度に関わらず、油類を優先的に吸引できるように回収装置2を制御できる。これにより、従来のドレーン工法と比較して、油類の回収に要する工期を短縮でき、水処理費用や回収装置2の維持管理費用を削減することができる。また、装置の耐久性の向上なども期待できる。さらに、ドレーン材1を吸引する際の設定負圧が従来よりも小さくてよいため、1つの真空ポンプ25で吸引するドレーン材1の数を増やすことができるので、真空ポンプ25の設置数減によるコストの削減も可能となる。
【0044】
第1の実施の形態では、エア供給手段4を用いて、コンプレッサ35から送り出したエアをエアチューブ37およびキャップ49を介してドレーン材1の下端部41に移送することにより、エアを確実にドレーン材1の内部に供給することができる。
【0045】
第1の実施の形態では、エアを供給することでドレーン材1の内部に酸素が供給されること、低い負圧で吸引するため従来よりも多くの酸素がドレーン材1の内部に残存することから、ドレーン材1での微生物の活性化が可能である。このように、油類を回収する工程と並行してバイオレメディエーションに必要な好気的な環境を整えることによっても、地盤の浄化に要する工期の短縮が可能となる。また、回収装置2を用いれば、バイオレメディエーションに寄与する栄養塩や必須元素などを補助的に注入する場合に既存のドレーン材1を注入用として使用することができるので、合理的である。
【0046】
なお、第1の実施の形態では、キャップ5と同様の材質および構造のキャップ49をドレーン材1の下端部41に設け、エアチューブ37の端部45をキャップ49に連結したが、キャップはこれに限らない。
【0047】
図3は、他のキャップ49aを用いた例を示す図である。
図3に示すエア供給手段4aは、コンプレッサ35、エアチューブ37、キャップ49aからなる。キャップ49aは、ドレーン材1の下端部41に設けられ、エアチューブ37の端部45に連結される。キャップ49aは、多孔質体である。
図3に示す例においても、第1の実施の形態と同様の効果が得られる。また、多孔質体のキャップ49aを用いることにより、エアチューブ37を介して移送されたエアを、エアリフト効果を得るために適切な粒径に調整することができる。
【0048】
(第2の実施の形態)
次に、第2の実施の形態について説明する。以降の各実施の形態では、それまでに説明した実施の形態と異なる点について説明し、同様の点については図等で同じ符号を付すなどして説明を省略する。
【0049】
図4は、エア供給手段4bの概要を示す図である。
図4に示すエア供給手段4bは、コンプレッサ35、エアチューブ37aからなる。エアチューブ37aは、地盤9内のドレーン材1およびホース7に沿って設けられる。エアチューブ37aは、上方の端部43aが地上に達してコンプレッサ35に連結される。エアチューブ37aは、下方の端部45aが地盤9内のドレーン材1の下端部41より深い位置に開放される。
【0050】
第2の実施の形態では、油類を回収する際に、
図4に示すエア供給手段4bを用いて、真空ポンプ25での吸引と並行して、コンプレッサ35からエアを送り出し、エアチューブ37aを介してエア39をドレーン材1の下端部41付近の地盤9中に移送する。移送されたエア39は、真空ポンプ25での負圧吸引によって、ドレーン材1の内部に供給される。ドレーン材1は、コンプレッサ35によりエア39の混入量を調節可能である。真空ポンプ25での吸引と並行してドレーン材1の内部にエア39を供給することにより、地盤9の油層31の油類がドレーン材1の内部に移動し、ホース7等を介して水より優先的に地上に回収される。
【0051】
第2の実施の形態においても、真空ポンプ25で吸引する際の負圧域を適切に設定し、負圧吸引と並行して、ドレーン材1の内部にエアを供給することにより、油層31が存在する深度に関わらず、油類を優先的に吸引できるように回収装置を制御できる。
【0052】
なお、第2の実施の形態では、エア供給手段に多孔質体を追加してもよい。
図5は、多孔質体47を用いた例を示す図である。
図5(a)に示すエア供給手段4cは、コンプレッサ35、エアチューブ37、多孔質体47からなる。多孔質体47は、エアチューブ37の端部45に連結される。
図5(a)に示す例では、第2の実施の形態と同様の効果が得られる。また、エアチューブ37を介して移送されたエア39が、多孔質体47によってエアリフト効果を得るために適切な粒径に調整されて、ドレーン材1の下端部41に下方に送り出される。
【0053】
図5(b)に示すエア供給手段4dは、コンプレッサ35、エアチューブ37a、多孔質体47からなる。多孔質体47は、ドレーン材1の下端部41に連結される。
図5(b)に示す例においても、第2の実施の形態と同様の効果が得られる。また、エアチューブ37aを介して移送されたエア39が、多孔質体47によってエアリフト効果を得るために適切な粒径に調整されて、ドレーン材1の下端部41からドレーン材1の内部に供給される。
【0054】
(第3の実施の形態)
次に、第3の実施の形態について説明する。
図6は、エア供給手段4eの概要を示す図である。
図6に示すエア供給手段4eは、エアチューブ51、キャップ49からなる。エアチューブ51は、地盤9内のドレーン材1およびホース7に沿って設けられる。エアチューブ51は、上方の端部53が地上に達して大気中に開放される。エアチューブ51は、ドレーン材1の下端部41より下方で下に凸となるように曲げられ、端部55がキャップ49に連結される。
【0055】
第3の実施の形態では、油類を回収する際に、
図6に示すエア供給手段4eを用いて、真空ポンプ25での負圧吸引によって、大気中のエアをエアチューブ51およびキャップ49を介してドレーン材1の下端部41付近に移送し、ドレーン材1の内部に供給する。真空ポンプ25での吸引と並行してドレーン材1の内部にエアを供給することにより、地盤9の油層31の油類がドレーン材1の内部に移動し、ホース7等を介して水より優先的に地上に回収される。
【0056】
第3の実施の形態においても、真空ポンプ25で吸引する際の負圧域を適切に設定し、負圧吸引と並行して、ドレーン材1の内部にエアを供給することにより、油層31が存在する深度に関わらず、油類を優先的に吸引できるように回収装置を制御できる。
【0057】
なお、第3の実施の形態においても、エアチューブ51の端部55を連結するキャップは
図6に示すものに限らない。
図7は、他のキャップ49aを用いた例を示す図である。
図7に示すエア供給手段4fは、エアチューブ51、キャップ49aからなる。キャップ49aは、ドレーン材1の下端部41に設けられ、エアチューブ51の端部55に連結される。キャップ49aは、多孔質体である。
図7に示す例においても、第3の実施の形態と同様の効果が得られる。また、多孔質体のキャップ49aを用いることにより、エアチューブ51を介して移送されたエアを、エアリフト効果を得るために適切な粒径に調整することができる。
【0058】
第3の実施の形態や
図7に示す例では、エアチューブ51の端部53が地上に達して大気中に開放されているが、端部53の位置はこれに限らない。端部53は、地盤9中の地下水位33より上の不飽和層に開放されてもよい。
【0059】
第1から第3の実施の形態等では、エアチューブとドレーン材1およびホース7との間に離隔を設けたが、離隔を設けず、一体に構成してもよい。
【0060】
図8は、エアチューブとホース7とを二重管で構成した例を示す図である。
図8に示す例では、エアチューブ37(37a、51)の上部をホース7の外周に配置して二重管構造とする。また、エアチューブ37(37a、51)の下部をドレーン材1に沿わせて配置する。これにより、ドレーン材1およびホース7を地盤9に打設する際にエアチューブ37(37a、51)を同時に設置することができるので、施工性が向上する。
【0061】
第1から第3の実施の形態等では、ドレーン材1の内部にエアを供給したが、供給する気体はエアに限らない。エア以外の気体を供給した場合にも、第1から第3の実施の形態と同様のエアリフト効果が得られ、油層31の存在する深度に関わらず油類を優先的に吸引できるように回収装置2を制御できる。
【0062】
例えば、生分解性のドレーン材1を用いる場合には、エアの代わりに酸素を供給してもよい。これにより、地盤9の油類を回収して浄化が完了した後に、ドレーン材1の分解を促進することができる。また、エアの代わりに窒素を供給してもよい。これにより、ドレーン材1を嫌気性の環境として分解を抑制することができる。
【0063】
(第4の実施の形態)
次に、第4の実施の形態について説明する。
図9は、エア供給手段4gの概要を示す図である。
図9に示すように、第4の実施の形態では、ドレーン材1とキャップ5との境界部に、シール材の代わりに多孔質体57が設けられる。また、ドレーン材1の下端部41にシール材3aが設けることが望ましい。シール材3aは、ドレーン材1の下端部41の断面からドレーン材1の内部への水の流入を防止するものである。
【0064】
図9に示すエア供給手段4gは、コンプレッサ35、エアチューブ37b、多孔質体57からなる。エアチューブ37bは、地盤9内のホース7に沿って設けられる。エアチューブ37bは、上方の端部43bが地上に達してコンプレッサ35に連結される。エアチューブ37bは、下方の端部45bが地盤9内のドレーン材1の上端部に設けられた多孔質体57に連結される。
【0065】
油類を回収する際には、
図9に示すエア供給手段4gを用いて、真空ポンプ25での吸引と並行して、コンプレッサ35からエアを送り出し、エアチューブ37bを介してエアをドレーン材1の上端部付近に移送する。移送されたエアは、多孔質体57によってエアリフト効果を得るために適切な粒径に調整されて、キャップ5内に供給される。
【0066】
第4の実施の形態では、ドレーン材1を通さずにキャップ5を介してホース7内にエアを直接注入することにより、ホース7内での気液混合物全体としての見かけの比重をより精度よく制御することができる。第4の実施の形態においても、負圧吸引と並行して、ホース7の内部にエアを供給することにより、油類を優先的に吸引できるように回収装置を制御できる。
【0067】
なお、第4の実施の形態では、エア供給手段4gを用いたが、コンプレッサやエアチューブを用いずにエアを供給してもよい。この場合は、ドレーン材1の上端部とキャップ5との接合部やキャップそのものの構造を工夫することによって、地盤9中のエアを、エアリフト効果を得るために適切な粒径に調整して、キャップ5やホース7の内部に供給する。
【0068】
例えば、
図6、
図7に示すように、コンプレッサを設けず、エアチューブの上端を大気中に開放して真空ポンプ25で負圧吸引することによって、大気中のエアを地盤9中に移動させてキャップ5内に供給してもよい。また、地盤9が通気性を有する場合には、エアチューブを設けず、真空ポンプ25で負圧吸引することによって、地盤9中のエアをキャップ5内に供給してもよい。
【0069】
また、第4の実施の形態においても、
図8に示す例と同様に、エアチューブとホース7との間に離隔を設けず、エアチューブ37bの上部をホース7の外周に配置して二重管構造として一体に構成してもよい。
【0070】
従来のドレーン工法では、地盤9の通気性が高い場合、真空ポンプ25で吸引を行う際に、ドレーン材1の上部からエアが流入し、充分な揚程を確保できる負圧が維持しにくい場合がある。第1から第4の実施の形態によれば、地盤9の通気性が高く低負圧となる場合でも、エアリフト効果によって揚程を確保することが可能となる。
【0071】
以上、添付図面を参照しながら、本発明に係る好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、本願で開示した技術的思想の範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0072】
1………ドレーン材
2………回収装置
3、3a………シール材
4、4a、4b、4c、4d、4e、4f、4g………エア供給手段
5、49、49a………キャップ
7………ホース
9………地盤
11、11a………注液ホース
13、13a、13b、13c、13d………排液ホース
15、17、19………バルブ
21………給液槽
23………観察槽
25………真空ポンプ
27………セパレートタンク
29………水処理装置
31………油層
33………地下水位
35………コンプレッサ
37、37a、37b、51………エアチューブ
39………エア
41………下端部
43、43a、43b、45、45a、45b、53、55………端部
47、57………多孔質体