(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-08
(45)【発行日】2022-01-12
(54)【発明の名称】高密度ポリエチレン管、継手及びシール材
(51)【国際特許分類】
F16L 11/08 20060101AFI20220104BHJP
B32B 1/08 20060101ALI20220104BHJP
B32B 27/08 20060101ALI20220104BHJP
B32B 27/28 20060101ALI20220104BHJP
B32B 27/32 20060101ALI20220104BHJP
【FI】
F16L11/08 B
B32B1/08 Z
B32B27/08
B32B27/28 102
B32B27/32 C
(21)【出願番号】P 2018141625
(22)【出願日】2018-07-27
【審査請求日】2021-01-27
(73)【特許権者】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】特許業務法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】本棒 享子
(72)【発明者】
【氏名】寺尾 圭論
(72)【発明者】
【氏名】永田 純也
【審査官】▲高▼藤 啓
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0182735(US,A1)
【文献】特開2004-225820(JP,A)
【文献】特開2018-100330(JP,A)
【文献】特開2018-21135(JP,A)
【文献】特開2018-76460(JP,A)
【文献】中国実用新案第205424129(CN,U)
【文献】特開平2-43044(JP,A)
【文献】特開2003-97770(JP,A)
【文献】特開平1-319580(JP,A)
【文献】特開2018-25215(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 9/00-11/26
B32B 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
密度が0.940g/cm
3以上0.980g/cm
3以下の高密度ポリエチレンを主成分とする内層と、
前記内層の外表面を覆い、エチレン・ビニルアルコール共重合樹脂を含むガスバリアフィルムと、
前記ガスバリアフィルムの外表面を覆い、融点が150℃以上の樹脂からなる融着防止フィルムと、
前記融着防止フィルムの外表面を覆い、密度が0.910g/cm
3以上0.930g/cm
3以下の低密度ポリエチレンを主成分とする外層と、
を備える高密度ポリエチレン管。
【請求項2】
請求項1に記載の高密度ポリエチレン管であって、
前記内層が、原油を精製した際に生じるナフテンを含有するオイル、及び、原油を精製した際に生じるアロマティックスを含有するオイルのうちの少なくとも一方を含む高密度ポリエチレン管。
【請求項3】
請求項1に記載の高密度ポリエチレン管であって、
前記内層が、原油を精製した際に生じるオイルのうちn-d-M法による環分析の%CNが20%以上60%以下のナフテンを含有するオイル、及び、原油を精製した際に生じるオイルのうちn-d-M法による環分析の%CAが5%以上40%以下のアロマティックスを含有するオイルのうちの少なくとも一方を含む高密度ポリエチレン管。
【請求項4】
請求項1に記載の高密度ポリエチレン管であって、
前記エチレン・ビニルアルコール共重合樹脂の厚さが1μm以上50μm以下である高密度ポリエチレン管。
【請求項5】
請求項1に記載の高密度ポリエチレン管であって、
前記ガスバリアフィルムは、エチレン・ビニルアルコール共重合樹脂からなる中間層と、前記中間層の両面に積層された表面層と、を有する多層フィルムであり、
前記表面層は、低密度ポリエチレン、及び、直鎖状低密度ポリエチレンのうちの少なくとも一方を含む高密度ポリエチレン管。
【請求項6】
請求項5に記載の高密度ポリエチレン管であって、
前記多層フィルムは、外周に巻き付けたときの総厚さが50μm以上400μm以下である高密度ポリエチレン管。
【請求項7】
請求項1に記載の高密度ポリエチレン管であって、
前記融着防止フィルムは、ポリエチレンテレフタレート延伸フィルム、ポリイミドフィルム、又は、ポリアミドイミドフィルムである高密度ポリエチレン管。
【請求項8】
請求項1に記載の高密度ポリエチレン管であって、
前記融着防止フィルムは、外周に巻き付けたときの総厚さが20μm以上200μm以下である高密度ポリエチレン管。
【請求項9】
請求項1に記載の高密度ポリエチレン管であって、
前記外層が、カーボンブラックを含有する高密度ポリエチレン管。
【請求項10】
請求項9に記載の高密度ポリエチレン管であって、
前記カーボンブラックは、前記外層あたりの含有量が1.0質量%以上3.0質量%以下である高密度ポリエチレン管。
【請求項11】
請求項1から請求項10のいずれか一項に記載の高密度ポリエチレン管であって、
原子力関連施設における流体の輸送に用いられる原子力設備用配管である高密度ポリエチレン管。
【請求項12】
密度が0.940g/cm
3以上0.980g/cm
3以下の高密度ポリエチレンを主成分とする内層と、
前記内層の外表面を覆い、エチレン・ビニルアルコール共重合樹脂を含むガスバリアフィルムと、
前記ガスバリアフィルムの外表面を覆い、融点が150℃以上の樹脂からなる融着防止フィルムと、前記融着防止フィルムの外表面を覆い、密度が0.910g/cm
3以上0.930g/cm
3以下の低密度ポリエチレンを主成分とする外層と、
を備える継手。
【請求項13】
密度が0.940g/cm
3以上0.980g/cm
3以下の高密度ポリエチレンを主成分とする内層と、
前記内層の外表面を覆い、エチレン・ビニルアルコール共重合樹脂を含むガスバリアフィルムと、
前記ガスバリアフィルムの外表面を覆い、融点が150℃以上の樹脂からなる融着防止フィルムと、
前記融着防止フィルムの外表面を覆い、密度が0.910g/cm
3以上0.930g/cm
3以下の低密度ポリエチレンを主成分とする外層と、
を備えるシール材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子力設備用等の用途に用いられる高密度ポリエチレン管、継手及びシール材に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力関連施設に敷設される原子力設備用配管は、放射性物質を含む流体の輸送や、高放射線量下での流体の輸送を、長期間にわたって安全に実施できる性能が求められる。従来、原子力設備用配管としては、鋼管が使用されてきた。しかし、空間的制約や時間的制約が想定される原子力関連施設では、施工のために必要とされる工数や機材の多さから、鋼管が最適とはいえなくなっている。このような状況下、移動や加工が容易であり、管同士や継手の接合も容易な樹脂製配管への代替が進められている。
【0003】
樹脂製配管としては、水道用の長距離配管としても利用されている高密度ポリエチレン管の使用が検討されている。しかし、高密度ポリエチレン管は、鋼管と比較して耐放射線性が劣っており、高放射線量下において、脆性破壊を生じ易くなる欠点がある。高密度ポリエチレン管が劣化して樹脂に微小な欠陥を生じると、配管内の流体からの圧力や、配管外からの土圧等が加わったとき、その欠陥部に応力が集中し、割れや破裂を生じる。
【0004】
ポリエチレンの劣化は、主にラジカルが関与する自動酸化によって進行するが、放射線の作用だけでなく、紫外線や酸素によっても促進される。高密度ポリエチレン管で輸送する流体が、放射性物質を含む場合や、放射化する可能性がある場合には、漏洩事象を発生させないことが重要であるため、放射線、酸素、紫外線等の外的因子による劣化を防止する対策が必要になっている。
【0005】
例えば、特許文献1には、高密度ポリエチレンに、ヒドロ芳香族型劣化防止剤又はプロピルフルオランテンを1~7質量部となるように添加する技術が記載されている。
【0006】
特許文献2には、高密度ポリエチレン配管と、その外表面に熱融着可能な継手や、これらを備える流体輸送装置が記載されている。高密度ポリエチレン配管は、破壊の起点となり易い結晶構造を繋ぐタイ分子の間が、架橋構造で強化されている。また、高密度ポリエチレン配管の外表面には、熱融着可能な非架橋のポリエチレン層が形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2017-020628号公報
【文献】特開2017-101688号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1のように、高密度ポリエチレンに劣化防止剤を添加したり、特許文献2のように、タイ分子の間を架橋構造で強化したりすると、高密度ポリエチレン管の耐放射線性を向上させることができる。また、高密度ポリエチレン管を二重管構造にすると、紫外線や大気中の酸素が内側に到達し難くなるため、高放射線量下の屋外等であっても、ある程度長い期間にわたって配管の健全性を保つことができる。
【0009】
しかし、これらの高密度ポリエチレン管も、40年以上の耐久寿命があり、短期間での取り替えを必要としない鋼管と比較すると、十分な耐久性があるとはいえない。高密度ポリエチレンは、配管に必要とされる耐圧強度や硬度を有する一方、延性に乏しく、高放射線量下で使用を続けた場合に、容易に脆性破壊する、という本質的な欠点を有している。樹脂を劣化させるラジカル反応は、放射線によって容易に開始されるが、酸素、紫外線等の外的因子によって促進されるため、これらを防止する高度な対策が求められている。
【0010】
また、高密度ポリエチレン管と共に用いられる高密度ポリエチレン製の管継手や、ガスケット、Oリング等のシール材も、紫外線等の外的因子に晒される場合があり、その対策が求められている。シール材の材料としては、超高分子量ポリエチレン(Ultra High Molecular Weight Polyethylene:UHPE)等もあり、配管材料だけでなく、核燃料施設等における放射性溶液の長期的な密封も期待されている。
【0011】
そこで、本発明は、放射線等の外的因子による劣化が抑制される高密度ポリエチレン管、継手及びシール材を提供することを目的とする。
【0012】
前記課題を解決するために本発明に係る高密度ポリエチレン管は、密度が0.940g/cm3以上0.980g/cm3以下の高密度ポリエチレンを主成分とする内層と、前記内層の外表面を覆い、エチレン・ビニルアルコール共重合樹脂を含むガスバリアフィルムと、前記ガスバリアフィルムの外表面を覆い、融点が150℃以上の樹脂からなる融着防止フィルムと、前記融着防止フィルムの外表面を覆い、密度が0.910g/cm3以上0.930g/cm3以下の低密度ポリエチレンを主成分とする外層と、を備える。
【0013】
また、本発明に係る継手及びシール材は、前記の高密度ポリエチレン管と同様の層構成を備える。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、放射線等の外的因子による劣化が抑制される高密度ポリエチレン管、継手及びシール材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明に係る高密度ポリエチレン管を模式的に示す断面図。
【
図2】本発明に係る高密度ポリエチレン管を模式的に示す斜視図。
【
図3】添加剤として用いたオイルの%CNと破断時の伸びとの関係を示す図。
【
図4】添加剤として用いたオイルの%CAと破断時の伸びとの関係を示す図。
【
図5】ガスバリアフィルムに用いた直鎖状低密度ポリエチレンのMFRと破断時の伸びとの関係を示す図である。
【
図6】ガスバリアフィルムの総厚さと破断時の伸びとの関係を示す図である。
【
図7】ガスバリアフィルムに用いたエチレン・ビニルアルコール共重合樹脂の厚さと破断時の伸びとの関係を示す図である。
【
図8】融着防止フィルムの厚さと破断時の伸びとの関係を示す図である。
【
図9】保護層(外層)の厚さと破断時の伸びとの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態に係る高密度ポリエチレン管、継手及びシール材について、図を参照しながら説明する。
【0017】
図1は、本発明に係る高密度ポリエチレン管を模式的に示す断面図である。また、
図2は、本発明に係る高密度ポリエチレン管を模式的に示す斜視図である。
図2では、高密度ポリエチレン管の層構成を示すために、管体の内側を露出させている。
図1及び
図2に示すように、本実施形態に係る高密度ポリエチレン管10は、導管を成す筒状の内層1と、内層1の外表面を覆うガスバリアフィルム2と、ガスバリアフィルム2の外表面を覆う融着防止フィルム3と、融着防止フィルム3の外表面を覆う保護層を成す外層4と、を備えている。
【0018】
高密度ポリエチレン管10は、主に機器や設備間で流体の輸送を行う流体輸送用の配管として用いられる。高密度ポリエチレン管10は、優れた耐放射線性を備え、放射線、酸素、紫外線等の外的因子による高密度ポリエチレン製の導管(内層1)の劣化が抑制されるため、高濃度の放射性物質を含む流体の輸送や、高放射線量下での流体の輸送に、特に好適に用いられる。
【0019】
高密度ポリエチレン管10は、高密度ポリエチレンが持つ、高放射線量下で使用を続けた場合に、容易に脆性破壊する、という本質的な欠点を抜本的に改善するために、流体が流れる導管(内層1)の外側を、耐候性を向上させるためのガスバリアフィルム2と保護層(外層4)で被覆した多層管である。ガスバリアフィルム2と保護層(外層4)との間には、保護層(外層4)を樹脂成形するときに、ガスバリアフィルム2が破損しないように、融着防止フィルム3を挟んだ層構成としている。
【0020】
内層1は、密度が0.940g/cm3以上0.980g/cm3以下の高密度ポリエチレン(High Density Polyethylene:HDPE)を主成分として形成される。高密度ポリエチレンは、高い引張強さや耐衝撃性を有する一方、脆性が低いため、高密度ポリエチレンを主成分とする内層1によると、配管に必要な耐圧強度や硬度が得られる。
【0021】
高密度ポリエチレンは、密度等の物性が損なわれない限り、単量体として、エチレンの他、1-ブテン、1-ヘキセン等を含むことができる。高密度ポリエチレンの密度は、好ましくは0.940g/cm3以上0.970g/cm3以下、より好ましくは0.945g/cm3以上0.965g/cm3以下である。
【0022】
高密度ポリエチレンは、チーグラー触媒、メタロセン触媒、フィリップス触媒等のいずれの触媒で重合したものでもよい。また、高密度ポリエチレンは、その他の樹脂とブレンドされた混合材や、ポリエチレン製品を原料として再利用した再生材であってもよい。高密度ポリエチレンは、質量基準で50%未満の範囲であれば、ポリプロピレン等の他の樹脂を含んでいてもよい。
【0023】
高密度ポリエチレンとしては、例えば、反応圧力が5kgf/cm2以上200kgf/cm2以下、反応温度が60℃以上100℃以下の条件で重合させた樹脂を用いることができる。また、ISO1133に準拠して求められる溶解指数(Melt flow rate:MFR)が、試験温度190℃、試験荷重5.0kgf(49.03N)において、0.1g/10分以上3.0g/10分以下の樹脂、より好ましくは0.2g/10分以上0.5g/10分以下の樹脂を用いることができる。但し、内層1を構成する高密度ポリエチレンは、このような物性を示す樹脂に制限されるものではない。
【0024】
内層1は、高密度ポリエチレンを主成分とする基材に対し、酸化防止剤、耐熱安定剤等の一般的な添加剤が添加されていてもよいし、一般的な添加剤が添加されていなくてもよい。また、
図1及び
図2において内層1の形状は、円筒状とされているが、内層1の楕円度や断面の形状、長手方向の形状、内外径や肉厚等の寸法は、特に制限されるものではない。
【0025】
内層1は、高密度ポリエチレンを主成分とする基材に対し、原油を精製した際に生じるナフテンを含有するオイル、及び、原油を精製した際に生じるアロマティックスを含有するオイルのうち、少なくとも一方が配合されていることが好ましい。これらのオイルが配合されていると、後記するように、ポリエチレンの分子のすべり性が向上し、クレイズ破壊による高密度ポリエチレンの劣化が抑制される。
【0026】
ナフテンを含有するオイルとしては、ナフテン系原油を原料とし、これを精製して得られるオイルを配合することができる。例えば、ナフテン系原油を減圧蒸留し、溶剤抽出によって芳香族成分を含むオイルを取り除いたものを用いることができる。また、溶剤抽出の他に、吸着処理、白土処理、脱酸処理等を施して精製したオイルを用いてもよい。なお、ナフテンとは、一般式:CnH2nで表される環状炭化水素を意味する。
【0027】
アロマティックスを含有するオイルとしては、パラフィン系原油やナフテン系原油を原料とし、これらを精製して得られるオイルを配合することができる。例えば、パラフィン系原油やナフテン系原油の精製過程で生じる、高比重、高粘度の残油等を用いることができる。なお、アロマティックスとは、一般式:CnH2n-6で表される芳香族炭化水素、すなわち、共役二重結合を有する不飽和で環状の炭化水素を意味する。
【0028】
ナフテンを含有するオイルとしては、ナフテン系原油を精製した際に生じるオイルのうちn-d-M法による環分析の%CNが10%以上100%以下のオイルが好ましく、10%以上80%以下のオイルがより好ましく、20%以上60%以下のオイルが更に好ましい。%CNが20%以上60%以下付近であると、高密度ポリエチレンの劣化を抑制する高い効果が得られる。
【0029】
アロマティックスを含有するオイルとしては、パラフィン系原油やナフテン系原油を精製した際に生じるオイルのうちn-d-M法による環分析の%CAが5%以上100%以下のオイルが好ましく、5%以上60%以下のオイルがより好ましく、5%以上40%以下のオイルが更に好ましい。%CAが5%以上40%以下付近であると、高密度ポリエチレンの劣化を抑制する高い効果が得られる。
【0030】
また、ナフテンを含有するオイルや、アロマティックスを含有するオイルとしては、例えば、原油を精製した際に生じるオイルのうちn-d-M法による環分析の%CNが20%以上60%以下、且つ、n-d-M法による環分析の%CAが5%以上40%以下のオイルを添加剤として用いてもよい。
【0031】
n-d-M法は、ASTM D 3238-85に準拠した油(オイル)の構造基分析の一方法(環分析法)であり、ベースオイルの組成分析に一般的に利用されている。n-d-M法によれば、20℃におけるオイルの密度d20、20℃におけるオイルの屈折率nD20、及び、オイルの平均分子量のデータに基づいて、全炭素量に対するパラフィン炭素の質量割合(%CP)、全炭素量に対するナフテン炭素の質量割合(%CN)、全炭素量に対する芳香族炭素の質量割合(%CA)、一分子当たりのナフテン環の平均環数(RN)、及び、一分子当たりの芳香族環の平均環数(RA)が求められる。
【0032】
ガスバリアフィルム2は、少なくともエチレン・ビニルアルコール共重合樹脂(ethylene-vinylalcohol copolymer:EVOH)を含む樹脂フィルムによって形成される。エチレン・ビニルアルコール共重合樹脂を含むガスバリアフィルム2によると、外気中の酸素が遮蔽され、内層1の高密度ポリエチレンの酸化劣化が抑制される。
【0033】
一般に、高密度ポリエチレンの酸素透過係数は、0.4×10-10cm3(STP)・cm/(cm2・s・cmHg)程度であり、低密度ポリエチレンの酸素透過係数は、6.9×10-10cm3(STP)・cm/(cm2・s・cmHg)程度である。これに対し、エチレン・ビニルアルコール共重合樹脂は、酸素透過係数が、0.0001×10-10cm3(STP)・cm/(cm2・s・cmHg)程度と小さく、酸素の透過を高密度ポリエチレンに対して1/4000、低密度ポリエチレンに対して1/67000に抑制することができる。
【0034】
ガスバリアフィルム2は、エチレン・ビニルアルコール共重合樹脂からなる単層で構成されてもよいが、エチレン・ビニルアルコール共重合樹脂からなる層を含む複数層で構成されてもよい。
【0035】
エチレン・ビニルアルコール共重合樹脂の平均重合度、エチレンの含有率、及び、けん化度は、特に制限されるものではない。例えば、平均重合度は、500以上3000以下とすることができる。また、エチレンの含有率は、例えば、20%以上80%以下とすることができる。エチレンの含有量は、柔軟性や耐水性を向上させる観点からは、25%以上とすることが好ましい。また、けん化度は、例えば、85%以上99%以下とすることができる。けん化度は、ガスバリア性を確保する観点からは、90%以上とすることが好ましく、95%以上とすることがより好ましい。
【0036】
エチレン・ビニルアルコール共重合樹脂の厚さは、好ましくは0.5μm以上、より好ましくは1μm以上、更に好ましくは5μm以上である。また、好ましくは60μm以下、より好ましくは50μm以下、更に好ましくは30μm以下である。エチレン・ビニルアルコール共重合樹脂の厚さが0.5μm以上で厚いほど、優れたガスバリア性が得られ、内層1の樹脂の酸化劣化が抑制される。また、ピンホールを生じ難くなるため、ガスバリア性が健全に保たれ易くなる。また、厚さが5μm以上50μm以下であると、樹脂自体の中性子遮蔽能によって、特に高い耐放射線性が得られる。一方、厚さが60μm以下で薄いほど、柔軟性が備わるため、高密度ポリエチレン管10を施工、移動等する際に、ガスバリアフィルム2が破損し難くなる。
【0037】
エチレン・ビニルアルコール共重合樹脂は、他の樹脂とブレンドされた混合材であってもよい。ブレンドする他の樹脂としては、例えば、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-プロピレン共重合体、ポリオレフィン、変性ポリオレフィン、ポリアミド、ポリエステル等が挙げられる。また、エチレン・ビニルアルコール共重合樹脂は、エポキシ化合物等で変性された樹脂であってもよいし、エチレンや酢酸ビニル以外の他の単量体を含む共重合体であってもよい。
【0038】
ガスバリアフィルム2は、
図1及び
図2に示すように、エチレン・ビニルアルコール共重合樹脂からなる中間層22と、中間層22の両面に積層された表面層(21,23)と、を備える多層フィルムであることが好ましい。なお、
図1及び
図2において、表面層(21,23)としては、中間層22の内側に配置された内側層21と中間層22の外側に配置された外側層23とが備えられているが、中間層22の両面に積層される層の数は、特に制限されるものではない。
【0039】
表面層(21,23)は、低密度ポリエチレン(Low Density Polyethylene:LDPE)、及び、直鎖状低密度ポリエチレン(Linear Low Density Polyethylene:LLDPE)のうち、少なくとも一方を含むことが好ましい。これらのポリエチレンによると、エチレン・ビニルアルコール共重合樹脂との共押出が可能である。また、ポリエチレンによると、樹脂自体によって高い中性子遮蔽能が得られるため、内層1の樹脂の放射線劣化が抑制される。
【0040】
特に、表面層(21,23)を低密度ポリエチレンで形成すると、柔軟性、耐衝撃性、耐寒性、耐湿性等が高い多層フィルムを高精度で成形することができる。また、高密度ポリエチレン管10に加わる外圧、衝撃等を緩和して、内層1の損傷や、ガスバリアフィルム2の剥離、脱落等を防ぐことができる。なお、低密度ポリエチレンとは、密度が0.910g/cm3以上0.930g/cm3以下のポリエチレンを意味する。低密度ポリエチレンは、単量体として、エチレンの他、1-ブテン、1-ヘキセン等を含むことができる。
【0041】
また、表面層(21,23)を直鎖状低密度ポリエチレンで形成すると、低密度ポリエチレンよりも高い引張破壊強さ、密着性、耐寒性等が得られる。なお、直鎖状低密度ポリエチレンとは、密度が0.910g/cm3以上0.925g/cm3以下であり、分枝を有する単量体の含有率が数%であるポリエチレンを意味する。直鎖状低密度ポリエチレンは、単量体として、エチレンの他、1-ブテン、1-ヘキセン、1-オクテン等を含むことができる。直鎖状低密度ポリエチレンは、チーグラー触媒、フィリップス触媒等のいずれの触媒で重合したものでもよい。
【0042】
表面層(21,23)を形成する低密度ポリエチレンや直鎖状低密度ポリエチレンは、ISO1133に準拠して求められる溶解指数(MFR)が、0.5g/10分以上であることが好ましい。また、50g/10分以下であることが好ましく、20g/10分以下であることがより好ましく、10g/10分以下であることが更に好ましく、5g/10分以下であることが特に好ましい。樹脂の分子量とMFRとは相関性があることが知られている。このようなMFRを示すポリエチレンであると、低分子量の成分が少ないため、樹脂自体によって高い中性子遮蔽能が得られる。
【0043】
表面層(21,23)は、中間層22を挟んだ両側に低密度ポリエチレンからなる層又は直鎖状低密度ポリエチレンからなる層を有する限り、その他の樹脂が積層された層構成であってもよい。例えば、多層フィルムを強靭化する観点等から、ナイロン6等のポリアミド(polyamide:PA)や、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル(polyester:PEs)からなる多層構成としてもよい。
【0044】
多層フィルムの具体例としては、LDPE/EVOH/LDPE、LLDPE/EVOH/LLDPE等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。なお、低密度ポリエチレンや、直鎖状低密度ポリエチレンは、耐放射線性を向上させる観点からは、低分子量の成分を除いたものが好ましい。中間層22と表面層(21,23)との間には、必要に応じて、接着層等の他の層が設けられてもよい。
【0045】
多層フィルムの厚さは、好ましくは20μm以上200μm以下である。厚さが20μm以上で厚いほど、耐久性が高くなるため、高密度ポリエチレン管10を施工、移動等する際や、屋外等の外力が加わり易い過酷環境に敷設した場合に、ガスバリア性を健全に保つことができる。また、厚さが200μm以下で薄いほど、可撓性が失われ難いため、ハンドリング性や導管(内層1)への巻回性が良好になり、取り扱い時のフィルムの破損が低減する。
【0046】
ガスバリアフィルム2は、内層1の外周に巻き付けたときの総厚さが、好ましくは20μm以上、より好ましくは50μm以上である。また、好ましくは500μm以下、より好ましくは400μm以下、更に好ましくは300μm以下である。総厚さが20μm以上で厚いほど、高いガスバリア性が得られるため、内層1の樹脂の酸化劣化を確実に抑制することができる。また、総厚さが50μm以上400μm以下であると、特に高い耐放射線性が得られる。一方、総厚さが500μm以下で薄いほど、ガスバリアフィルム2の材料コストや巻回の手間が低減する。
【0047】
ガスバリアフィルム2は、内層1と互いに融着させたり、接着剤、粘着材等で接着させたりすることもできるが、内層1に対して融着や接着をしないことが好ましい。内層1とガスバリアフィルム2とを融着や接着によって面接合すると、配管の長さ方向や径方向に力が加わったとき、伸び率が異なる内層1とガスバリアフィルム2のそれぞれに反対向きの応力を生じるため、応力破壊や破損の発生確率が高くなる。ガスバリアフィルム2は、内層1と同様、ナフテンを含有するオイルやアロマティックスを含有するオイルを配合されていてもよい。
【0048】
ここで、高密度ポリエチレン管10の内層1に添加するオイルや、ガスバリアフィルム2の作用効果について具体的に説明する。
【0049】
ポリエチレン管は、鋼管に比べて軽量であり、移動や加工が容易であることから、水道用の長距離配管等として広く用いられている。しかし、ポリエチレン管は、鋼管とは異なり、主として炭素と水素で構成される有機高分子で形成されている。ポリエチレンは、放射線、紫外線、熱等の外的因子によって劣化が進行し、弾性、耐応力環境き裂性、耐衝撃性等が低下するため、配管に内圧、外圧、衝撃等が加わったり、配管に傷を生じたり、配管が化学物質に暴露されたりした場合に、脆性破壊を生じ易い。
【0050】
有機高分子は、放射線、紫外線、熱等で分子が励起され、分子中の結合が切断して分解することが知られている。例えば、ポリエチレンに放射線等が作用すると、水素ラジカル(H・)や炭化水素ラジカル(R・)が生成する。ラジカルは、反応性が高く、ラジカル同士が結合したり(再結合)、ラジカルが元素を引き抜いて別のラジカルを生成させたり(引き抜き反応)、ラジカルが二重結合に付加したり(付加反応)、ラジカル同士が結合すると同時に分子鎖が切断されたりする(不均化反応)。
【0051】
ラジカルによる再結合や付加反応は、架橋と呼ばれる分子量の増大をもたらし、不均化反応は、崩壊と呼ばれる分子量の減少をもたらす。ポリエチレン管において、分子鎖の架橋や崩壊が進行すると、衝撃や屈曲に対する抵抗性が低くなり、管体が脆くなる等の物性の変化を生じる。そして、管体の脆化が進むと、内圧、外圧、衝撃、荷重等が加わった場合に、き裂、割れ等の応力破壊やクリープ破壊を生じ易くなり、管壁にき裂や脆性割れを生じたり、管体が破裂したりする等の不具合を生じる。
【0052】
配水用ポリエチレン管等の配管材料としては、多段重合や改良触媒を用いて高性能化した高密度ポリエチレンも使用されている。この種の高密度ポリエチレンでは、高分子量の領域を増加させて、結晶構造同士を繋ぐタイ分子を増やすことで、長期静水圧強度と耐環境応力き裂性を向上させている。
【0053】
一般に、結晶領域は、過酷環境下であっても影響を受け難いが、非晶領域は、過酷環境下でタイ分子が切断されると増加することが知られている。タイ分子の切断が進むと、外力が加わったとき、樹脂の内部で応力集中が起こり易くなり、長期静水圧強度や、耐環境応力き裂性や、耐衝撃性が低下すると考えられている。
【0054】
特に、酸素が存在する大気中では、ラジカルにより酸化の伝播反応(連鎖反応)が進行することが知られている。はじめに、反応式(1)のように、炭化水素ラジカル(R・)と酸素(O2)とが反応して、過酸化ラジカル(ROO・)が生成する。
【0055】
【0056】
過酸化ラジカル(ROO・)は、反応性に富み、反応式(2)のように、他の分子(RH)から水素(H)を引き抜いて、過酸化物(ROOH)と新たな炭化水素ラジカル(R・)を生じる。
【0057】
【0058】
そして、新たに生成した炭化水素ラジカル(R・)は、反応式(1)にしたがって、別の過酸化ラジカル(ROO・)を生成し、過酸化ラジカル(ROO・)は、反応式(2)にしたがって、別の過酸化物(ROOH)を生成する。過酸化物(ROOH)も、不安定であるため、反応式(3)~(5)のように、新たなオキシラジカル(RO・)、過酸化ラジカル(ROO・)等を生成する。
【0059】
【0060】
【0061】
【0062】
酸素が存在する大気中では、このような酸化の伝播反応によって、最初に発生した炭化水素ラジカル(R・)が新たなラジカルを多数増殖させて、分子鎖の架橋や崩壊を進行させる。そのため、樹脂の劣化が加速的に進み、応力破壊やクリープ破壊を生じ易くなる。
【0063】
また、酸素が存在する大気中では、放射線や紫外線によって、オゾンが生成されることがある。オゾンは、二重結合を持つポリエチレンに対する反応性が高く、ポリエチレンとの反応によってオゾナイドを生成する。オゾナイドは不安定であるため、O-O結合が切断して、アルデヒド、ケトン、エステル、ラクトン、過酸化物等が生成される。このような反応で起こる分子の分解は、樹脂に微小なクラック(オゾンクラック)を形成することが知られている。
【0064】
特に、ポリエチレン管に1MPa程度以上の流体圧力、土圧等がかかる場合、分子鎖が伸長した状態となり易いため、オゾンの浸透率が高まると共に、特定の部位に応力が集中し易くなる。このような場合、オゾンクラックの発生の可能性や、オゾンクラックを起点とする破壊の可能性が高まる。
【0065】
また、ポリエチレン管は、高温の流体の輸送に用いられることもある。分子の分解をもたらす様々な素反応は、分子運動、すなわち、分子の振動や衝突確率とも関係している。分子運動は、高温になるほど激しくなるため、ポリエチレンが高温に晒されると、分子鎖の架橋や崩壊が加速し、樹脂の劣化が著しく進行する。
【0066】
特に、酸化反応を伴う系では、温度が、酸化層の厚さや、酸素の拡散速度や、酸化分解の反応速度に影響を及ぼすため、分子の酸化分解が益々加速される。一般に、温度が10℃上昇すると反応速度は2倍になる。そのため、ポリエチレン管を高温の流体の輸送に用いる場合等に、ポリエチレンが高温に晒されると、酸化劣化が加速して分子鎖の架橋や崩壊が進み、樹脂の劣化が著しくなる。
【0067】
このような放射線、紫外線、熱等によるポリエチレンの劣化は、弾性率、引張強さ、伸び等の種々の特性を低下させて、耐応力環境き裂性、耐衝撃性等を悪化させる。放射線環境、紫外線環境、高温環境等の過酷環境下でポリエチレン製の配管、継手等の使用が続けられると、内圧、外圧、衝撃等が加わったり、化学物質に晒されたりした場合に、応力破壊やクリープ破壊が起こり、き裂、割れ、管体の破裂等の不具合が生じて流体の漏洩等の問題を生じる。
【0068】
これに対し、高密度ポリエチレン管10の内層1をガスバリアフィルム2で覆うと、酸素の透過が妨げられ、酸化の伝搬反応が抑止されるため、高放射線量下であっても、内層1の樹脂の酸化劣化が抑制される。また、内層1にナフテンを含有するオイルやアロマティックスを含有するオイルを配合すると、放射線や紫外線の作用で発生したラジカルを、オイルの成分によって捕捉することができる。
【0069】
一般に、ポリエチレンは、放射線、紫外線、熱等の様々な外的因子によって、き裂、割れ等を生じるが、外的因子の種類によらず、いずれの破壊モードであっても、伸びが低下し、破面に白化が現れる特徴がある。破面には、白化やクラックが発生しており、ボイドとフィブリルが存在している。白化は、ボイドの形成による光のミー散乱によって起こる現象である。白化は、ボイドとフィブリルで構成された損傷形態であるクレイズ破壊が生じたことを示している。
【0070】
一般に、ポリエチレンの引張による破断は、次の(A)~(D)の順に進行することが知られている。
(A)引張降伏直後に発生するひずみの局所化領域の伝播
(B)クレイズ破壊領域の伝播
(C)クレイズ破壊の集中部で分子鎖切断やクラックが発生
(D)ポリマ破断
【0071】
また、結晶レベルでは、引張により次のような変化を生じることが知られている。
(a)分子レベルの結晶の破壊(分子鎖剥離)
(b)結晶のブロック状破壊(分子鎖剥離)
(c)結晶内での分子のすべり回転(変化小)
【0072】
これらのうち、(a)及び(b)では、結晶領域が破壊され、非晶領域が増加する。また、分子鎖が結晶領域から剥離し、ボイドやフィブリルが形成されて、クレイズ破壊が起こる。しかし、(c)では、結晶領域のダメージは少なく、非晶領域は殆ど増加しない。
【0073】
このような機構で増加する非晶領域は、応力割れをはじめとする破壊の起点となる。そのため、ボイドやフィブリルの形成や、クレイズ破壊の発生をできるだけ阻止し、配管の内部の流体からの圧力や、配管の外部からの土圧等が加わったとき、脆性破壊やクリープ破壊を生じないようにすることが望ましい。
【0074】
これに対し、高密度ポリエチレン管10の内層1にナフテンを含有するオイルやアロマティックスを含有するオイルを配合すると、ポリエチレンの結晶内に存在する分子のすべり性を大きく向上させることができる。結晶レベルの変化を結晶内での分子のすべり回転に転換することにより、ボイドやフィブリルの形成や、クレイズ破壊を低減し、非晶領域を拡大し難くすることができるため、高密度ポリエチレンの劣化による脆性破壊やクリープ破壊を低減することができる。
【0075】
また、ナフテンを含有するオイルは、ポリエチレンとSP値が近く、相溶性が良好である。高密度ポリエチレン管10の内層1にナフテンを含有するオイルを添加すると、オイルを結晶内の分子の細部にまで浸透させて、結晶内での分子のすべり性を大きく向上させることができる。そのため、分子レベルの結晶の破壊や、結晶のブロック状破壊を抑制しつつ、結晶内での分子のすべり回転を起こし易くすることができる。
【0076】
また、ナフテンを含有するオイルは、低温においても常温に近い流動性を示す。一般に、高分子材料は低温脆化を起こし易く、高密度ポリエチレンは低温における耐衝撃性が低い欠点を持つので、結晶内やタイ分子の周辺において分子のすべり回転を生じ易くすることが重要である。高密度ポリエチレン管10の内層1にナフテンを含有するオイルを添加すると、結晶内やタイ分子の周辺に浸透したオイルが、低温においても高い流動性を保ち、結晶内での分子のすべり回転を起こし易くするため、低温脆化に対する耐性や、低温における耐衝撃性を向上させることができる。
【0077】
一方、アロマティックスを含有するオイルは、粘度指数が高く、広い温度範囲において基材の高密度ポリエチレンから染み出し難い特徴を有している。そのため、高密度ポリエチレン管10の内層1にアロマティックスを含有するオイルを添加すると、オイルの添加による効果が長時間にわたって持続する。また、導管(内層1)の内側を流れる流体が、オイルの染み出しによって汚染され難くなる。
【0078】
また、アロマティックスを含有するオイルは、引火点が高い特徴を有している。そのため、添加剤としてアロマティックスを含有するオイルを用いると、高密度ポリエチレン管10を安全に製造することができる。
【0079】
また、アロマティックスを含有するオイルは、硫黄分等の不純物を含んでいたり、酸価が高かったりすることが多い。硫黄分や、アルデヒド、カルボン酸等は、ラジカル反応に関与し易いため、オイル自体が犠牲的に劣化することで、高密度ポリエチレン管10の内層1の劣化を抑制する効果が得られる。
【0080】
また、ナフテンを含有するオイルや、アロマティックスを含有するオイルは、ポリエチレンを軟化させる作用を示す。一般に、ポリエチレンは、放射線環境下で使用を続けた場合、硬くなり容易に脆化することが知られている。しかし、高密度ポリエチレン管10の内層1にナフテンを含有するオイルやアロマティックスを含有するオイルを配合すると、基材の高密度ポリエチレン自体が軟化するため、放射線による脆化を生じ難くすることができる。
【0081】
ナフテンを含有するオイルやアロマティックスを含有するオイルの添加量は、高密度ポリエチレン100質量部に対して、0.1質量部以上7質量部以下とすることが好ましく、1質量部以上7質量部以下とすることがより好ましい。添加量が7質量部を超えると、オイルが染み出すため、適切な配合が困難になる。一方、添加量が0.1質量部未満であると、添加による十分な効果を得ることができない。これに対し、前記の添加量の範囲で添加量が多いほど、樹脂の劣化を抑制する効果や、ポリエチレンの分子のすべり性を向上させる効果が高くなる。
【0082】
高密度ポリエチレンを主成分とする基材に含まれるオイルの含有量は、例えば、赤外分光分析によって測定することができる。また、基材中における結晶領域及び非晶領域の増減は、例えば、示差走査熱量計(Differential scanning calorimetry:DSC)を用いて調べることができる。一般的なポリエチレンでは、樹脂の劣化により結晶融解発熱量が大きく減少する。しかし、添加剤として、ナフテンを含有するオイルやアロマティックスを含有するオイルを配合すると、結晶融解発熱量が殆ど減少しなくなる。
【0083】
融着防止フィルム3は、融点が150℃以上の樹脂からなる樹脂フィルムによって形成される。融着防止フィルム3によると、後記する外層4を樹脂成形するとき、ガスバリアフィルム2に外層4が直接融着したり、ガスバリアフィルム2に溶融樹脂の熱が伝熱したりするのを抑制することができる。他の層に融着しているガスバリアフィルム2に大きな張力が加わったり、ガスバリアフィルム2自体が溶融したりするのが防止されるため、ガスバリアフィルム2にピンホールやクラックを生じなくなるので、ガスバリアフィルム2によるガスバリア性を健全に保つことができる。
【0084】
融着防止フィルム3は、ポリエチレンテレフタレート延伸フィルム、ポリイミドフィルム、又は、ポリアミドイミドフィルムで形成されることが好ましい。延伸ポリエチレンテレフタレートやポリアミドイミドは、融点が150℃以上である。また、ポリイミドは、150℃よりも高温(約500℃)で熱分解するまで溶融しない。そのため、これらの樹脂によると、外層4を樹脂成形するときの溶融温度において、融着防止フィルム3自体が溶融しなくなり、ガスバリアフィルム2の融着やガスバリアフィルム2への伝熱を確実に抑制することができる。
【0085】
また、延伸ポリエチレンテレフタレートや、ポリイミドや、ポリアミドイミドは、芳香環を有しており、耐放射線性が高く、高放射線量下であっても物性が変化し難い。そのため、外層4を樹脂成形するときには、融着や伝熱を抑制して、ガスバリアフィルム2のガスバリア性を健全に保つ一方、高密度ポリエチレン管10の製造後には、内層1やガスバリアフィルム2を、放射線、衝撃や外圧等から保護することができる。
【0086】
融着防止フィルム3は、ガスバリアフィルム2の外周に巻き付けたときの総厚さが、好ましくは10μm以上、より好ましくは20μm以上、更に好ましくは50μm以上である。また、好ましくは300μm以下、より好ましくは200μm以下、更に好ましくは150μm以下である。総厚さが10μm以上で厚いほど、融着や伝熱を抑制して、ガスバリアフィルム2のガスバリア性を健全に保つことができる。また、総厚さが20μm以上200μm以下であると、樹脂自体の中性子遮蔽能によって、特に高い耐放射線性が得られる。一方、総厚さが300μm以下で薄いほど、融着防止フィルム3の材料コストや巻回の手間が低減する。
【0087】
外層4は、密度が0.910g/cm3以上0.930g/cm3以下の低密度ポリエチレン(LDPE)を主成分として形成される。外層4は、融着防止フィルム3の外周表面を覆うように、押出成形、射出成形等で樹脂成形することによって設けることができる。低密度ポリエチレンは、柔軟性、耐衝撃性、耐湿性、耐水性、耐薬品性等が高いため、低密度ポリエチレンを主成分とする外層4によると、内層1やガスバリアフィルム2や融着防止フィルム3を、衝撃や外圧、傷の発生、化学物質、水蒸気や雨水や結露水等から保護することができる。
【0088】
一般的な二層管は、導管と被覆層とが融着しており、樹脂マトリックスが連続した構造とされている。そのため、被覆層に生じた脆性破壊の衝撃や動的歪みが、導管に伝搬し易く、導管に応力割れ等の破壊現象を生じる要因となる。特に、被覆層が高密度ポリエチレンや中密度ポリエチレンである場合、柔軟性が高い低密度ポリエチレンと比較して、導管に伝わる衝撃や動的歪みは大きくなる。
【0089】
これに対し、高密度ポリエチレン管10では、導管(内層1)と保護層(外層4)との間に、ガスバリアフィルム2と融着防止フィルム3が介在しており、保護層(外層4)が低密度ポリエチレンを主成分としている。そのため、外層4から内層1への衝撃、動的歪みの伝搬や、割れの進展を、ガスバリアフィルム2や融着防止フィルム3によって阻止することができる。また、外層4が低密度ポリエチレンを主成分としているため、継手との接合をエレクトロフュージョン等によって容易に行うことができる。
【0090】
外層4は、添加剤としてカーボンブラックを含有することが好ましい。カーボンブラックとしては、例えば、ファーネスブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック等を用いることができる。カーボンブラックが配合されていると、紫外線が吸収されるため、外層4や内層1の紫外線劣化を抑制することができる。すなわち、高密度ポリエチレン管10自体の耐候性が向上するので、高放射線量下の屋外等であっても、流体の輸送を健全に続けることができる。
【0091】
カーボンブラックは、外層4あたりの含有量が、好ましくは1.0質量%以上、より好ましくは1.5質量%以上である。また、好ましくは4.0質量%以下、より好ましくは3.0質量%以下、更に好ましくは2.5質量%以下である。含有量が1.0質量%以上で多いほど、紫外線を吸収する高い効果が得られるため、高密度ポリエチレン管10の耐候性を十分に向上させることができる。また、含有量が4.0質量%以下で少ないほど、多量のカーボンブラックが樹脂中に凝集塊を生じ難くなる。そのため、凝集塊が環境応力き裂ないし脆性破壊の起点となるのを防ぐことができる。
【0092】
外層4の厚さは、好ましくは0.4mm以上、より好ましくは0.5mm以上、更に好ましくは0.8mm以上である。また、好ましくは4mm以下、より好ましくは3mm以下、更に好ましくは2mm以下である。厚さが0.4mm以上で厚いほど、外層4による高い保護性能が得られる。また、厚さが0.5mm以上3mm以下であると、樹脂自体の中性子遮蔽能によって、特に高い耐放射線性が得られる。一方、厚さが4mm以下で薄いほど、外層4の材料コストが低減する。
【0093】
次に、高密度ポリエチレン管の製造方法について説明する。
【0094】
高密度ポリエチレン管の導管(内層1)や保護層(外層4)は、ペレット等として用意されるポリエチレンを加熱溶融し、必要に応じて、オイル、カーボンブラック等の添加剤を加えて混練し、得られたポリエチレン樹脂組成物を材料として、押出成形、射出成形等を行うことにより製造することができる。
【0095】
ポリエチレン樹脂組成物の製造時や、高密度ポリエチレン管の製造時において、添加剤は、ドライブレンドしてもよいし、樹脂に直接混合してもよい。但し、カーボンブラック等の固体の添加剤は、混練が不十分であると、凝集して破壊の起点となり得る。そのため、添加剤は、予めマスターバッチとしてから混合することが好ましく、特に、オイルと混合した状態でマスターバッチとしてから混合することが好ましい。
【0096】
例えば、ポリエチレン樹脂組成物の製造時、添加剤をドライブレンドする場合、添加剤を配合して作製したマスターバッチペレットと、ポリエチレン樹脂ペレットとを、ペレット製造装置のホッパーに投入し、これらを溶融混練する。そして、混練された溶融樹脂組成物を、多数の孔(例えば、直径3mm程度)が開けられているステンレス円盤に通して水中に押し出し、円盤面に平行に設置されているナイフで所定長さ(例えば、長さ3mm程度)に切断することによって、添加剤が配合されたポリエチレン樹脂組成物ペレットを得ることができる。
【0097】
或いは、ポリエチレン樹脂組成物の製造時、添加剤として配合するオイルは、溶融混練中の溶融樹脂組成物に単独で直接混合してもよい。例えば、マスターバッチペレットやポリエチレン樹脂ペレットを、ペレット製造装置のホッパーに投入すると共に、マイクロチューブポンプ等を用いてオイルを一定の滴下速度で滴下し、これらを溶融混練する。そして、混練された溶融樹脂組成物を水中に押し出し、所定長さに切断することによって、添加剤が配合されたポリエチレン樹脂組成物ペレットを得ることもできる。
【0098】
また、高密度ポリエチレン管の製造時、添加剤が配合されたポリエチレン樹脂組成物ペレットのみを材料として用いてもよいし、マスターバッチペレットとポリエチレン樹脂ペレットとを材料として用いてもよい。例えば、これらのペレットを押出機(パイプ製造装置)のホッパーに供給し、押出機中で加熱溶融し、ダイスから円筒状に押し出し、引取機で引き取りながら必要に応じてサイジングを行い、冷却水槽等に通して冷却することによって、導管(内層1)を製造することができる。
【0099】
混練機としては、バンバリーミキサ等の回分式混練機、二軸混練機、ロータ型二軸混練機、ブスコニーダ等の各種の混練機を用いることができる。また、押出機としては、例えば、単軸スクリュー押出機、二軸スクリュー押出機等を用いることができる。ダイスは、ストレートヘッドダイス、クロスヘッドダイス、オフセットダイス等のいずれのタイプであってもよい。また、サイジングは、サイジングプレート法、アウトサイドマンドレル法、サイジングボックス法、インサイドマンドレル法等のいずれの方法で行ってもよい。
【0100】
ポリエチレンの混練温度は、120℃以上250℃以下とすることが好ましい。バンバリーミキサを用いる場合、例えば、180℃で10分間の混練等で溶融樹脂組成物が得られる。なお、ポリエチレン樹脂組成物は、ポリエチレン100質量部に対して0.1~5質量部の範囲であれば、酸化チタンを含有していてもよい。
【0101】
ガスバリアフィルム2や、融着防止フィルム3は、塗布成形等の適宜の方法でフィルム成形することができる。また、ガスバリアフィルム2として用いる多層フィルムは、共押出法、ラミネート法等の適宜の方法で形成することができる。多層フィルムは、無延伸フィルム、一軸延伸フィルム、及び、二軸延伸フィルムのいずれによって形成されてもよい。多層フィルムは、高強度や優れたガスバリア性を得る観点からは、二軸延伸フィルムで形成することが好ましい。
【0102】
ガスバリアフィルム2は、樹脂成形された導管(内層1)の外表面を覆うように外周に巻回することができる。樹脂成形した内層1は、ガスバリアフィルム2の巻回前に、水冷や空冷によって、少なくとも熱融着を生じない温度まで冷却しておくことが好ましい。ガスバリアフィルム2の巻き方は、一重巻き、多重巻き、及び、螺旋巻きのうち、いずれの巻き方としてもよい。但し、ガスバリア性を確実に発揮させる観点からは、任意の重なり幅を設けた巻き方が好ましい。例えば、フィルム幅の1/2以上となる重なり幅を設けた多重巻き又は螺旋巻きが好ましい。
【0103】
融着防止フィルム3は、導管(内層1)に巻回されたガスバリアフィルム2の外表面を覆うように外周に巻回することができる。融着防止フィルム3の巻き方は、一重巻き、多重巻き、及び、螺旋巻きのうち、いずれの巻き方としてもよい。但し、外層4を樹脂成形するとき、ガスバリアフィルム2に外層4が直接融着したり、ガスバリアフィルム2に溶融樹脂の熱が伝熱したりするのを抑制する観点からは、任意の重なり幅を設けた巻き方が好ましい。例えば、フィルム幅の1/2以上となる重なり幅を設けた多重巻き又は螺旋巻きが好ましい。
【0104】
保護層(外層4)は、ガスバリアフィルム2と融着防止フィルム3が巻回された導管(内層1)を芯線としてシース押出成形装置に供給し、供給した芯線の外周に保護層用のポリエチレン樹脂組成物を押出成形することにより形成することができる。ポリエチレン樹脂組成物をシース押出成形装置中で加熱溶融し、芯線の外周に被覆してダイスから押し出し、引取機で引き取りながら必要に応じてサイジングを行い、冷却水槽等に通して冷却することによって、高密度ポリエチレン管10を製造することができる。
【0105】
次に、高密度ポリエチレン製の継手及びシール材について説明する。
【0106】
本実施形態に係る継手は、前記の高密度ポリエチレン管10と同様の層構成を有する。具体的には、本実施形態に係る継手は、内側を流体が流れる筒状の内層1と、内層1の外表面を覆うガスバリアフィルム2と、ガスバリアフィルム2の外表面を覆う融着防止フィルム3と、融着防止フィルム3の外表面を覆う外層4と、を備える。
【0107】
本実施形態に係る継手は、寸法、形状、接続法等が、特に制限されるものではない。接続法としては、メカニカル式、エレクトロフュージョン式、ねじ込み式等のいずれであってもよい。本実施形態に係る継手は、胴部が前記の高密度ポリエチレン管10と同様に、内層1、ガスバリアフィルム2、融着防止フィルム3及び外層4の層構成を有する限り、フランジ、ナット、サドル、シール材等を有していてもよい。
【0108】
本実施形態に係る継手は、例えば、前記の高密度ポリエチレン管10と同様に、ポリエチレン樹脂組成物を材料として、胴部(内層1)の押出成形、ガスバリアフィルム2や融着防止フィルム3の巻回等を行った後、保護層(外層4)まで形成した成形体に、二次加工を施すことによって製造することができる。
【0109】
また、本実施形態に係るシール材は、前記の高密度ポリエチレン管10と同様の層構成を有する。具体的には、本実施形態に係るシール材は、流体に接液する内層1と、内層1の外表面を覆うガスバリアフィルム2と、ガスバリアフィルム2の外表面を覆う融着防止フィルム3と、融着防止フィルム3の外表面を覆う外層4と、を備える。
【0110】
シール材に用いるポリエチレンとしては、分子量が100万~700万程度の超高分子量ポリエチレンを好ましく用いることができる。具体的には、ISO1133に準拠して求められる溶解指数が、試験温度190℃、試験荷重21.6kgfにおいて、0.1g/10分未満の樹脂を用いることができる。但し、シール材に用いるポリエチレンは、このような物性を示す樹脂に制限されるものではない。超高分子量ポリエチレンを用いる場合、内層1は必ずしも高密度ポリエチレンでなくてもよい。
【0111】
本実施形態に係るシール材は、フランジパッキン等のガスケットや、Oリングの形態とすることができるが、寸法、形状等が、特に制限されるものではない。シール材は、流体に接液する面と外気や紫外線に露出する面との間の少なくとも一部が、前記の高密度ポリエチレン管10と同様に、内層1、ガスバリアフィルム2、融着防止フィルム3及び外層4の層構成を有する限り、シール材の全表面が、ガスバリアフィルム2や融着防止フィルム3や外層4で覆われている必要は必ずしもない。
【0112】
本実施形態に係る継手やシール材は、例えば、前記の高密度ポリエチレン管10と同様に、ポリエチレン樹脂組成物を材料として、基部(内層1)の射出成形、フィルムの巻回・貼付等を行った後、その外側に保護層(外層4)を形成することによって製造することができる。
【0113】
以上の本実施形態に係る高密度ポリエチレン管、継手及びシール材によると、内層がガスバリアフィルムで覆われるため、外気中の酸素による内層の樹脂の酸化劣化を抑制することができる。そのため、高密度ポリエチレン管、継手、シール材が、高線量の放射線、大気中の酸素、夏場の屋外のような強い紫外線、酸性雨等に長時間晒される場合や、高濃度ないし高線量の放射性物質を含む流体、高温の流体等に長時間接触する場合等であっても、酸化の伝播反応が抑えられ、放射線、紫外線、酸素、熱等の外的因子による内層の樹脂の劣化が大幅に抑制される。
【0114】
また、本実施形態に係る高密度ポリエチレン管、継手及びシール材によると、ガスバリアフィルムが外層で覆われるため、外部から土圧、衝撃、荷重等が加わった場合に、ガスバリアフィルムが損傷するのが防止されるし、ガスバリアフィルム自体や、内層が、放射線や紫外線で劣化するのも抑制される。更に、ガスバリアフィルムと外層との間には、融着防止フィルムが備えられるため、外層をガスバリアフィルムの外側に溶融樹脂を用いて樹脂成形することができるし、その際に、ガスバリアフィルムの健全性を保つこともできる。最表面に保護テープを巻回するような場合とは異なり、樹脂成形された外層は、隙間・孔を生じ難く、剥離し難いため、樹脂を劣化させる外的因子に対する耐性を向上させることができる。
【0115】
よって、高密度ポリエチレン管、継手及びシール材に、流体圧力、土圧、その他、衝撃、荷重等が加わった場合にも、環境応力き裂やクリープ破壊が生じ難くなり、き裂、脆性割れ等が発生したり、配管・継手が破裂したりするのが防止される。すなわち、ポリエチレンが持つ脆性破壊割れを起こし易いという本質的な欠点を、抜本的に改善することができる。目に見えない微小な欠陥が存在しても、そこに応力が集中して脆性破壊や応力き裂を起こし難く、十分な伸び、弾性が得られるため、耐応力環境き裂性や耐衝撃性を向上させることができる。
【0116】
特に、通常環境だけでなく、高線量の放射線環境、夏場の屋外等の紫外線環境、夏場等の高温環境、高濃度の酸素や酸性雨に晒される環境等、種々の過酷環境下においても、樹脂の劣化による脆性破壊やクリープ破壊が低減する高密度ポリエチレン管、継手、シール材が得られる。また、長期静水圧強度、弾性、耐環境応力き裂性、耐衝撃性等が長期間にわたって低下し難く、脆性破壊割れや破裂に至り難い高密度ポリエチレン管、継手、シール材が得られる。
【0117】
なお、本実施形態に係る高密度ポリエチレン管、継手及びシール材は、用途が特に制限されるものではない。高密度ポリエチレン管、継手、シール材は、適宜の環境で用いることができる。また、高密度ポリエチレン管や継手は、水、海水等の適宜の流体の輸送に用いることができる。シール材は、流体の貯蔵時、輸送時、取り扱い時等において、適宜の流体の密封に用いることができる。
【0118】
特に、高密度ポリエチレン管や継手は、原子力関連施設における水、海水等の流体の輸送に用いることができる。原子力関連施設においては、数十~数百本の原子力設備用配管が張り巡らされ、複数の汚染水滞留エリアと接続されている。これらの配管の全長は、一般に、約10km~20km程度ある。高密度ポリエチレン管や継手は、このような原子力設備用配管の用途に好適に用いることができる。高密度ポリエチレン管や継手によると、放射性物質を含む流体の輸送や、高放射線量下ないし屋外での流体の輸送を、長期間にわたって健全且つ確実に行うことができる。
【0119】
また、シール材は、原子力関連施設、核燃料施設等における流体の密封に有効であり、原子力設備用配管、核燃料施設用配管、放射性物質保存容器等のシール材として好適に用いることができる。このシール材は、高濃度の放射性物質を含む流体の密封や、高放射線量下での流体の密封に、特に好適に用いることができる。
【0120】
本実施形態に係る高密度ポリエチレン管、継手及びシール材によると、樹脂の劣化が大きく抑制されるため、ラジカルが容易に発生する高放射線量下であっても、樹脂成形体の健全性を保持し、漏洩事象の発生を確実に防止することができる。高濃度の放射性物質を含む流体を取り扱う場合においても、長期にわたる使用が可能であり、取替えや点検の頻度が縮減されるため、敷設・装着のための工数や機材、施工者や点検者の被曝の危険性等を大幅に低減することができる。
【0121】
以上、本発明に係る高密度ポリエチレン管、継手及びシール材の実施形態について説明したが、本発明は前記の実施形態に限定されるものではなく、技術的範囲を逸脱しない限り、様々な変形例が含まれる。例えば、前記の実施形態は、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されない。また、実施形態の構成の一部を他の構成に置き換えたり、実施形態の構成に他の構成を加えたりすることが可能である。また、実施形態の構成の一部について、他の構成の追加、構成の削除、構成の置換をすることも可能である。
【0122】
例えば、前記の高密度ポリエチレン管、継手及びシール材は、内層1と、ガスバリアフィルム2と、融着防止フィルム3と、外層4とを、この順に備える層構成とされているが、内層1とガスバリアフィルム2との間、ガスバリアフィルム2と融着防止フィルム3との間に、衝撃を緩衝する緩衝層等の機能層を設けることもできる。緩衝層は、例えば、密度が0.940g/cm3未満のポリエチレンを主成分とする樹脂成形体や、その他のフィルム、テープ等で設けることができる。
【実施例】
【0123】
以下、実施例を示して本発明について具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれに限定されるものではない。
【0124】
ナフテンを含有するオイル及びアロマティックスを含有するオイルの添加量や、ガスバリアフィルムの層構成を変えて高密度ポリエチレン管の試験片を作製し、放射線照射処理後の引張破断伸びを評価した。
【0125】
内層の基材としては、チーグラー触媒を使用して製造された高密度ポリエチレンを用いた。高密度ポリエチレンの基材に、添加剤として、ナフテンを含有するオイル、又は、アロマティックスを含有するオイルを配合し、バンバリーミキサを用いて180℃で10分間混練し、高密度ポリエチレン管用のペレットを造粒した。そして、このペレットを射出成形機に投入し、円筒状の導管(内層)を成形した。
【0126】
続いて、成形した導管(内層)の外周に、巻回機を用いてガスバリアフィルムを巻回し、ガスバリアフィルムの外周に、融着防止フィルムを巻回した。そして、ガスバリアフィルムの外周に、カーボンを配合した密度が0.910g/cm3以上0.930g/cm3以下の低密度ポリエチレンを押出成形して保護層(外層)を形成し、高密度ポリエチレン管を得た。
【0127】
作製した高密度ポリエチレン管から、日本工業規格(Japanese Industrial Standards)JIS K 7162に記載されている1B形のダンベル形状の試験片を作製した。そして、作製した試験片に対し、60Co線源から放出されるγ線を1kGy/hの線量率で照射した。吸収線量は、1000kGyとした。
【0128】
<引張試験>
引張試験は、日本水道協会規格「水道配水用ポリエチレン管 JWWA K 144」に準拠して行った。試験機は、最大の引張力を指示する装置を備え、ダンベル形状の試験片を締めるつかみ具を備えるJIS B 7721に記載の装置を使用した。試験片の厚さと平行部の幅を測定し、伸び測定用の標線を平行部分の中心部に付けた後に、試験速度25mm/min、室温で引張試験を行った。標線間距離は50mmとした。引張試験を行って試験片の破断時の標線間距離を測定し、下記数式(1)によって、破断時の伸びを算出した。なお、数式(1)において、EBは破断時の伸び(%)、L0は標線間距離(mm)、L1は破断時の標線間距離(mm)をそれぞれ示している。
【0129】
【0130】
以下、ナフテンを含有するオイルの添加量を変えて作製した試験片について、放射線照射処理後の引張破断伸びの測定結果を示す。
【0131】
なお、導管(内層)の基材としては、密度が0.95g/cm3の高密度ポリエチレンを用いた。添加剤としては、原油を精製した際に生じるオイルのうち、n-d-M法による環分析の%CNが所定値であり、%CAが30%であるオイルを用いた。オイルの配合量は、高密度ポリエチレン100質量部に対して、5質量部とした。ガスバリアフィルムとしては、LLDPE/EVOH/LLDPEの多層フィルムであり、EVOHの厚さが24μm、LLDPEのMFRが3g/10分のフィルムを、外周に巻き付けたときの総厚さが300μmとなるように用いた。融着防止フィルムとしては、ポリエチレンテレフタレート延伸フィルムを、外周に巻き付けたときの総厚さが100μmとなるように用いた。保護層(外層)としては、3質量%のカーボンを配合した厚さが2mmの低密度ポリエチレンの層を形成した。
【0132】
図3は、添加剤として用いたオイルの%CNと破断時の伸びとの関係を示す図である。
図3において、横軸は、添加剤として用いたオイルの%CN(%)、縦軸は、引張による破断時の伸び(%)を示す。
【0133】
図3に示すように、添加剤としてナフテンを含有するオイルを添加した場合、%CNが20%以上60%以下で、引張破断伸びが顕著に大きくなり、放射線劣化が良好に抑制される結果が得られた。
【0134】
次に、アロマティックスを含有するオイルの添加量を変えて作製した試験片について、放射線照射処理後の引張破断伸びの測定結果を示す。
【0135】
なお、導管(内層)の基材としては、密度が0.95g/cm3の高密度ポリエチレンを用いた。添加剤としては、原油を精製した際に生じるオイルのうち、n-d-M法による環分析の%CAが所定値であり、%CNが40%であるオイルを用いた。オイルの配合量は、高密度ポリエチレン100質量部に対して、5質量部とした。ガスバリアフィルムとしては、LLDPE/EVOH/LLDPEの多層フィルムであり、EVOHの厚さが24μm、LLDPEのMFRが3g/10分のフィルムを、外周に巻き付けたときの総厚さが300μmとなるように用いた。融着防止フィルムとしては、ポリエチレンテレフタレート延伸フィルムを、外周に巻き付けたときの総厚さが100μmとなるように用いた。保護層(外層)としては、3質量%のカーボンを配合した厚さが2mmの低密度ポリエチレンの層を形成した。
【0136】
図4は、添加剤として用いたオイルの%CAと破断時の伸びとの関係を示す図である。
図4において、横軸は、添加剤として用いたアロマティックスを含有するオイルの%CA(%)、縦軸は、引張による破断時の伸び(%)を示す。
【0137】
図4に示すように、添加剤としてアロマティックスを含有するオイルを添加した場合、%CAが5%以上60%以下、特に5%以上40%以下で、引張破断伸びが顕著に大きくなり、放射線劣化が良好に抑制される結果が得られた。
【0138】
次に、ガスバリアフィルムのLLDPEのMFRを変えて作製した試験片について、放射線照射処理後の引張破断伸びの測定結果を示す。
【0139】
なお、導管(内層)の基材としては、密度が0.95g/cm3の高密度ポリエチレンを用いた。添加剤としては、原油を精製した際に生じるオイルのうち、n-d-M法による環分析の%CNが40%であり、%CAが30%であるオイルを用いた。オイルの配合量は、高密度ポリエチレン100質量部に対して、5質量部とした。ガスバリアフィルムとしては、LLDPE/EVOH/LLDPEの多層フィルムであり、EVOHの厚さが24μmのフィルムを、外周に巻き付けたときの総厚さが300μmとなるように用いた。融着防止フィルムとしては、ポリエチレンテレフタレート延伸フィルムを、外周に巻き付けたときの総厚さが100μmとなるように用いた。保護層(外層)としては、3質量%のカーボンを配合した厚さが2mmの低密度ポリエチレンの層を形成した。
【0140】
図5は、ガスバリアフィルムに用いた直鎖状低密度ポリエチレンのMFRと破断時の伸びとの関係を示す図である。
図5において、横軸は、ガスバリアフィルムの表面層として用いた直鎖状低密度ポリエチレンのMFR(g/10分)、縦軸は、引張による破断時の伸び(%)を示す。
【0141】
図5に示すように、ガスバリアフィルムの表面層として用いた直鎖状低密度ポリエチレンのMFRが、0.8g/10分以上10g/10分以下で、引張破断伸びが400%を超えており、放射線劣化が良好に抑制される結果が得られた。
【0142】
次に、ガスバリアフィルムの総厚さを変えて作製した試験片について、放射線照射処理後の引張破断伸びの測定結果を示す。
【0143】
なお、導管(内層)の基材としては、密度が0.95g/cm3の高密度ポリエチレンを用いた。添加剤としては、原油を精製した際に生じるオイルのうち、n-d-M法による環分析の%CNが40%であり、%CAが30%であるオイルを用いた。オイルの配合量は、高密度ポリエチレン100質量部に対して、5質量部とした。ガスバリアフィルムとしては、LLDPE/EVOH/LLDPEの多層フィルムであり、EVOHの厚さが24μm、LLDPEのMFRが3g/10分のフィルムを用いた。融着防止フィルムとしては、ポリエチレンテレフタレート延伸フィルムを、外周に巻き付けたときの総厚さが100μmとなるように用いた。保護層(外層)としては、3質量%のカーボンを配合した厚さが2mmの低密度ポリエチレンの層を形成した。
【0144】
図6は、ガスバリアフィルムの総厚さと破断時の伸びとの関係を示す図である。
図6において、横軸は、ガスバリアフィルムを内層の外周に巻き付けたときの総厚さ(μm)、縦軸は、引張による破断時の伸び(%)を示す。
【0145】
図6に示すように、ガスバリアフィルムの総厚さが、50μm以上400μm以下で、引張破断伸びが顕著に大きくなり、放射線劣化が良好に抑制される結果が得られた。
【0146】
次に、ガスバリアフィルムのEVOHの厚さを変えて作製した試験片について、放射線照射処理後の引張破断伸びの測定結果を示す。
【0147】
なお、導管(内層)の基材としては、密度が0.95g/cm3の高密度ポリエチレンを用いた。添加剤としては、原油を精製した際に生じるオイルのうち、n-d-M法による環分析の%CNが40%であり、%CAが30%であるオイルを用いた。オイルの配合量は、高密度ポリエチレン100質量部に対して、5質量部とした。ガスバリアフィルムとしては、LLDPE/EVOH/LLDPEの多層フィルムであり、LLDPEのMFRが3g/10分のフィルムを、外周に巻き付けたときの総厚さが300μmとなるように用いた。融着防止フィルムとしては、ポリエチレンテレフタレート延伸フィルムを、外周に巻き付けたときの総厚さが100μmとなるように用いた。保護層(外層)としては、3質量%のカーボンを配合した厚さが2mmの低密度ポリエチレンの層を形成した。
【0148】
図7は、ガスバリアフィルムに用いたエチレン・ビニルアルコール共重合樹脂の厚さと破断時の伸びとの関係を示す図である。
図7において、横軸は、ガスバリアフィルムの中間層として用いたエチレン・ビニルアルコール共重合樹脂の厚さ(μm)、縦軸は、引張による破断時の伸び(%)を示す。
【0149】
図7に示すように、ガスバリアフィルムの中間層として用いたエチレン・ビニルアルコール共重合樹脂の厚さが、10μm以上50μm以下で、引張破断伸びが顕著に大きくなり、放射線劣化が良好に抑制される結果が得られた。
【0150】
次に、融着防止フィルムの厚さを変えて作製した試験片について、放射線照射処理後の引張破断伸びの測定結果を示す。
【0151】
なお、導管(内層)の基材としては、密度が0.95g/cm3の高密度ポリエチレンを用いた。添加剤としては、原油を精製した際に生じるオイルのうち、n-d-M法による環分析の%CNが40%であり、%CAが30%であるオイルを用いた。オイルの配合量は、高密度ポリエチレン100質量部に対して、5質量部とした。ガスバリアフィルムとしては、LLDPE/EVOH/LLDPEの多層フィルムであり、EVOHの厚さが24μm、LLDPEのMFRが3g/10分のフィルムを、外周に巻き付けたときの総厚さが300μmとなるように用いた。融着防止フィルムとしては、ポリエチレンテレフタレート延伸フィルムを用いた。保護層(外層)としては、3質量%のカーボンを配合した厚さが2mmの低密度ポリエチレンの層を形成した。
【0152】
図8は、融着防止フィルムの厚さと破断時の伸びとの関係を示す図である。
図8において、横軸は、融着防止フィルムの厚さ(μm)、縦軸は、引張による破断時の伸び(%)を示す。
【0153】
図8に示すように、融着防止フィルムの厚さが、20μm以上200μm以下で、引張破断伸びが顕著に大きくなり、放射線劣化が良好に抑制される結果が得られた。
【0154】
次に、保護層(外層)の厚さを変えて作製した試験片について、放射線照射処理後の引張破断伸びの測定結果を示す。
【0155】
なお、導管(内層)の基材としては、密度が0.95g/cm3の高密度ポリエチレンを用いた。添加剤としては、原油を精製した際に生じるオイルのうち、n-d-M法による環分析の%CNが40%であり、%CAが30%であるオイルを用いた。オイルの配合量は、高密度ポリエチレン100質量部に対して、5質量部とした。ガスバリアフィルムとしては、LLDPE/EVOH/LLDPEの多層フィルムであり、EVOHの厚さが24μm、LLDPEのMFRが3g/10分のフィルムを、外周に巻き付けたときの総厚さが300μmとなるように用いた。融着防止フィルムとしては、ポリエチレンテレフタレート延伸フィルムを、外周に巻き付けたときの総厚さが100μmとなるように用いた。保護層(外層)としては、3質量%のカーボンを配合した低密度ポリエチレンの層を形成した。
【0156】
図9は、保護層(外層)の厚さと破断時の伸びとの関係を示す図である。
図9において、横軸は、保護層(外層)の厚さ(mm)、縦軸は、引張による破断時の伸び(%)を示す。
【0157】
図9に示すように、保護層(外層)の厚さが、0.5mm以上3mm以下で、引張破断伸びが顕著に大きくなり、放射線劣化が良好に抑制される結果が得られた。
【0158】
次に、ガスバリアフィルムの層構成と融着防止フィルムの種類を変えて作製した試験片について、放射線照射処理後の引張破断伸びの測定結果を示す。
【0159】
なお、導管(内層)の基材としては、密度が0.95g/cm3の高密度ポリエチレンを用いた。添加剤としては、原油を精製した際に生じるオイルのうち、n-d-M法による環分析の%CNが32%であり、%CAが10%であるオイルを用いた。オイルの配合量は、高密度ポリエチレン100質量部に対して、5質量部とした。
【0160】
【0161】
表1に示すように、ガスバリアフィルムの表面層として直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)を用いると、低密度ポリエチレン(LDPE)の場合と比較して、放射線劣化が抑制された。融着防止フィルムが、いずれの種類であっても、高い耐放射線性が得られたが、ポリエチレンテレフタレート延伸フィルムやポリイミドフィルムである場合と比較して、ポリアミドイミドフィルムである場合に、放射線劣化が特に抑制された。
【符号の説明】
【0162】
10 高密度ポリエチレン管
1 内層
2 ガスバリアフィルム
21 表面層
22 中間層
23 表面層
3 融着防止フィルム
4 外層