(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-08
(45)【発行日】2022-01-12
(54)【発明の名称】引き戸用引き手
(51)【国際特許分類】
E05B 1/06 20060101AFI20220104BHJP
E06B 7/36 20060101ALI20220104BHJP
【FI】
E05B1/06 105F
E06B7/36 F
(21)【出願番号】P 2018150837
(22)【出願日】2018-08-09
【審査請求日】2020-07-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000198787
【氏名又は名称】積水ハウス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】593121634
【氏名又は名称】双葉実業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080182
【氏名又は名称】渡辺 三彦
(72)【発明者】
【氏名】太田 聡
(72)【発明者】
【氏名】甲斐 吉彦
(72)【発明者】
【氏名】上谷 博
(72)【発明者】
【氏名】村上 秀文
(72)【発明者】
【氏名】新田 典昭
【審査官】鳥井 俊輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-255690(JP,A)
【文献】特開2003-027774(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0148865(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E05B 1/06
E06B 3/68-3/88
E06B 7/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
引き戸を開閉する戸板の閉方向の側端部に凹状に切り欠かれて形成された切欠き凹部に固定される引き戸用引き手であって、
前記切欠き凹部を前記戸板の厚さ方向に隔てるように配置される本体と、
前記本体の両面の幅方向の中央からそれぞれ前記戸板の厚さ方向に突出して形成される中央指掛け部と、
前記切欠き凹部の下面の突端から上方に向けて立ち上がる下部指掛け部と、を備え
、
前記本体の厚さ方向の中央で分割された2つの分割体に分かれて形成されており、当該2つの分割体が接近離反することで、前記本体の厚さが調節可能であるとともに、分割された前記本体の前記戸板の閉方向側の先端に前記戸板の開閉方向に互いに重なり合う重合部が形成されることを特徴とする引き戸用引き手。
【請求項2】
前記切欠き凹部の上面の突端から下方に向けて垂れ下がる上部指掛け部をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の引き戸用引き手。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、引き戸の戸板に設けられ、引き戸の開閉操作を行う引き戸用引き手に関する。
【背景技術】
【0002】
引き戸には、引込み戸、片引き戸、引違い戸等の種類がある。この種の引き戸の戸板は、壁体の戸袋内に収納されるようにして開放され、又は、別の引き戸の裏側に重ね合わせるようにして開放される。そして、このような開放操作の際には、引き戸に凹んで設けられた引き戸用引き手に指を掛けて、戸板を開放する方向にスライドさせるが、引き戸用引き手に掛けられている指が戸袋や他の戸板に挟まる危険があるので、このような危険を回避するために様々な工夫がなされた引き戸用引き手が提案されている。
【0003】
特許文献1の引き戸用引き手では、戸板の端部に形成された切欠き凹部に引き戸用引き手を設けており、切欠き凹部内を引戸開閉方向に仕切る指掛け部を備え、この指掛け部を挟んで切欠き凹部の奥側がテーパー状に膨らんで形成されている。このように形成されることで、引き戸の開放操作の際に指が指掛け部よりも奥側には掛からないので、指掛け部の手前側の面に指を掛けて引き戸の開放操作をすることになり、引き戸用引き手の指掛け部と戸袋や他の戸板との間に指が入り込むことがなく、指を挟むことを防止できる。また、特許文献1の引き戸用引き手は、切欠き凹部の指掛け部よりも手前側に指で摘んで戸板を引き出し可能な摘み部が設けられており、戸袋などに収納された戸板を引き出すことで、引き戸を閉めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、近年の引き戸はソフトクローズ機能とよばれる開放操作の際に戸板が戸袋内部で衝突せずにゆっくりと引きこまれるように構成されているものが知られており、開閉時の騒音や振動を低減させ、指挟みのリスクを減らしている場合が多い。このようなソフトクローズ機能を搭載した引き戸においては、戸袋内に完全に引き込まれた全開状態の戸板を当該戸袋から引き出す際の初動に大きな力が必要となる。したがって力の弱い子供のような場合は、従来の引き戸用引き手の摘み部を指で挟んで戸板を引き出すことが困難であった。
【0006】
そこで本発明は、指挟みを防止できる安全性の高い引き戸用引き手であって、力の弱い子供でも引き出しやすい引き戸用引き手を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の引き戸用引き手は、引き戸を開閉する戸板の閉方向の側端部に凹状に切り欠かれて形成された切欠き凹部に固定される引き戸用引き手であって、前記切欠き凹部を前記戸板の厚さ方向に隔てるように配置される本体と、前記本体の両面の幅方向の中央からそれぞれ前記戸板の厚さ方向に突出して形成される中央指掛け部と、前記切欠き凹部の下面の突端から上方に向けて立ち上がる下部指掛け部と、を備え、前記本体の厚さ方向の中央で分割された2つの分割体に分かれて形成されており、当該2つの分割体が接近離反することで、前記本体の厚さが調節可能であるとともに、分割された前記本体の前記戸板の閉方向側の先端に前記戸板の開閉方向に互いに重なり合う重合部が形成されることを特徴としている。
【0009】
本発明の引き戸用引き手は、前記切欠き凹部の上面の突端から下方に向けて垂れ下がる上部指掛け部をさらに備えることを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明の引き戸用引き手によると、戸板には、閉方向の側端部に凹状の切欠き凹部が切り欠かれて形成されており、この切欠き凹部に引き戸用引き手が固定される。引き戸用引き手は、本体が戸板の厚さ方向に隔てるように配置されており、本体の両面の幅方向の中央からそれぞれ戸板の厚さ方向に突出して中央指掛け部が形成されるので、引き戸を開放する際に、この中央指掛け部の切欠き凹部が開いている側の面に指を掛けて戸板をスライドさせることができる。したがって、中央指掛け部に掛かっている指が、戸板の開方向への移動途中で切欠き凹部の開いている側に逃げることができるので、安全に引き戸を開放することができる。また、下部指掛け部が切欠き凹部の下面の突端から上方に向けて立ち上がって形成されているので、戸板が戸袋などに収納された状態のときに、すなわち引き戸が全開のときに引き戸を閉じる場合には、下部指掛け部に指を掛けて戸袋などから戸板を引き出せばよいので、簡単に引き出すことができる。下部指掛け部は、切欠き凹部の下面の突端から上方に向けて突出しているので、戸板が戸袋に完全に収まっている場合でも戸袋の入り口から指を差し込んで、下部指掛け部に指を掛けることができる。そして、下部指掛け部に指を掛けて戸板を引き出す構造であることから、例えばソフトクローズ機能が設けられている引き戸のように、比較的初動に大きな力が必要となる場合であっても、より容易に戸板を引き出すことができる。特に、背が低く、力の弱い子供であっても、比較的容易に戸板を引き出して引き戸を閉じることが出来る。
【0011】
本発明の引き戸用引き手によると、本体の戸板の厚さ方向の中央で2つに分割される2つの分割体から形成されており、2つの分割体が接近離反することで本体の厚さが調節可能であるので、引き戸用引き手を厚さの異なる複数種類の戸板に取り付けることができる。そして、分割された本体4の戸板の閉方向側の先端に戸板の開閉方向に互いに重なり合う重合部が形成されているので、戸板が厚く2つの分割体が離反している場合であっても重合部によって戸板の閉方向の端部側から見て分割体同士の離反した部分が隠されるので、良好な意匠性を保つことができる。
【0012】
本発明の引き戸用引き手によると、切欠き凹部の上面の突端から下方に向けて垂れ下がる第三指掛け部をさらに備えるので、戸袋に収まった戸板を引き出して引き戸を閉める際に、例えば背の高い大人であっても、第三指掛け部に指を掛けることで簡単に戸板を戸袋から引き出すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図2】引き戸用引き手の内部構成を示す水平断面図。
【
図4】引き戸用引き手を戸板に取り付けた状態を示す一部省略拡大断面図。
【
図5】引き戸用引き手を取り付けた戸板を示す斜視図。
【
図6】引き戸用引き手を取り付ける前の切欠き凹部の形状を説明する斜視図。
【
図7】一方の分割体を切欠き凹部に取り付けた状態を説明する断面図。
【
図8】両方の分割体を切欠き凹部に取り付けて、ネジで固定する状態を示す斜視図。
【
図9】引き戸用引き手の切欠き凹部への固定が完了した状態を示す斜視図。
【
図10】異なる板厚の戸板に引き戸用引き手を取り付ける状態を示す一部省略断面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る引き戸用引き手1の実施形態について、各図を参照しつつ説明する。引き戸用引き手1は、引き戸の戸板2に設けられた切欠き凹部3に固定される引き手であり、戸板2を開閉方向に移動させるためのものである。なお、本実施形態の引き戸用引き手1が設けられる引き戸は、引込み戸、片引き戸、引違い戸を含み、戸板2を直線移動させることで開閉可能な建具である。引き戸は、屋内空間同士を仕切る内装用建具であるが、これに限定されるものではなく、屋内外を仕切るドアや窓に用いられても良い。なお、本実施形態においては、引き戸を開放する際に戸板2が移動する方向を開方向といい、引き戸を閉鎖する際に戸板2が移動する方向を閉方向という。
【0015】
引き戸用引き手1は、
図5に示すように、戸板2の切欠き凹部3に固定されており、
図1及び
図2に示すように、切欠き凹部3を戸板2の厚さ方向に隔てるように配置される本体4と、本体4の両面の幅方向の中央からそれぞれ戸板2の厚さ方向に突出して形成される中央指掛け部5と、切欠き凹部3の下面32の突端から上方に向けて立ち上がる下部指掛け部6と、切欠き凹部3の上面31の突端から下方に向けて垂れ下がる上部指掛け部7と、を備える。
【0016】
切欠き凹部3は、
図6に示すように、引き戸を閉める際に戸板2の移動先となる方向側の側端部8、すなわち戸板2の閉方向の側端部8に形成されている。切欠き凹部3は矩形に切りかかれて上面31、下面32、及び鉛直側面33を有する凹状に形成されており、この切欠き凹部3に引き戸用引き手1が固定される。
【0017】
引き戸用引き手1は、
図1及び
図2に示すように、本体4の厚さ方向の中央で2つの分割体1a,1bに分割されて形成されている。本体4は2つの薄板状を重ね合わせた形状である。分割された本体4は、切欠き凹部3を戸板2の厚さ方向に隔てるように形成される隔壁部41と、隔壁部41の閉方向の先端に形成され、戸板2の開閉方向から見て互いに重なり合う重合部42と、切欠き凹部3の表面を覆うように当接する当接部43とを有する。
【0018】
本体4は、それぞれの隔壁部41の面にその幅方向の中央から戸板2の厚さ方向に向かって中央指掛け部5が形成されている。隔壁部41は中央指掛け部5を挟んで戸板2の開方向側に、隔壁部41同士が互いに開方向に向かって離反するテーパー部44が形成されている。隔壁部41にこのようなテーパー部44が形成されることで、中央指掛け部5よりも戸板2の開方向側は、戸板2を開方向に移動させる際に指を掛けることが困難となっている。したがって、戸板2を開方向に移動させて引き戸を開放する際には、中央指掛け部5の閉方向側の面に指を掛けて戸板2を移動させることになり、中央指掛け部5と戸袋や他の戸板との間に指が挟まれることがない。
【0019】
本体4の重合部42は、
図4に示すように、一方の重合部42が他方の重合部42に向かって突出する凸部42aを形成しており、他方の重合部42が凸部42aを受け入れる受け部42bを形成しており、凸部42aが受け部42bに挿入されることで2つの重合部42が互いに重なり合っている。
【0020】
2つの当接部43は、
図4及び
図5に示すように、切欠き凹部3の上面31、下面32、及び鉛直側面33を覆うようにそれぞれ当接する形状であり、戸板2の板面の切欠き凹部3の周縁に当接するようにフランジ45が形成されている。引き戸用引き手1は、切欠き凹部3の周縁を2つの当接部43のフランジ45が挟み込んだ状態で切欠き凹部3に固定される。なお、一方の当接部43には、切欠き凹部3の鉛直側面33に固定するためのビス孔46が形成されており、他方の当接部43には、一方の当接部43と固定するためのネジ挿入孔47が形成されている。
【0021】
中央指掛け部5は、先端が戸板2の板面とほぼ面一になるように形成されており、それぞれの中央指掛け部5が当接部43の上面及び下面の間に鉛直方向に延びて形成されている。また、下部指掛け部6は、切欠き凹部3の下面32を覆うように形成されている当接部43の突端から上方に向けて立ち上がる形状である。下部指掛け部6の突出長さは、例えば10mmである。また、上部指掛け部7は、切欠き凹部3の上面31を覆うように形成されている当接部43の突端から下方に向けて垂れ下がる形状である。上部指掛け部7の突出長さは、例えば10mmである。下部指掛け部6の先端と上部指掛け部7の先端との間の距離は例えば90mm以上に形成されている。上部指掛け部7及び下部指掛け部6の突出長さはこれに限られるものではないが、少なくとも指先を掛けることができ、戸袋などから戸板2を引き出すことができる程度に突出している。また、引き戸を開放させるときに、指が上部指掛け部7及び下部指掛け部6と戸袋などとの間に挟まれないように、上部指掛け部7及び下部指掛け部6の突出長さが必要最小限であることが好ましい。
【0022】
以上のように構成される引き戸用引き手1を切欠き凹部3に固定する際には、まず、
図7に示すように、一方の分割体1aを、戸板2の切欠き凹部3に固定する。具体的には、一方の分割体1aの本体4部の当接部43に設けられたビス孔46に挿入したビス11を切欠き凹部3の鉛直側面33に打ち込んで、一方の分割体1aを切欠き凹部3に固定する。このとき、当接部43のフランジ45が切欠き凹部3の一方の周縁に当接するように一方の分割体1aを配置して固定する。
【0023】
そして、次に、
図4に示すように、他方の分割体1bを当接部43のフランジ45が切欠き凹部3の他方の周縁に当接するように他方の分割体1bを配置する。そして、
図8に示すように、他方の分割体1bに形成されたネジ挿入孔47にネジ12を挿入して、一方の分割体1aに形成されている図示しないネジ孔に当該ネジ12を螺着させることにより、他方の分割体1bを一方の分割体1aに接近する方向に力を加えて、
図9に示すように、引き戸用引き手1を切欠き凹部3に固定する。
【0024】
引き戸用引き手1は、このように2つの分割体1a,1bに分かれて形成されており、一方の分割体1aの当接部43のフランジ45が引き戸の切欠き凹部3の一方の周縁に当接するように配置されて固定され、他方の分割体1bが当接部43のフランジ45が引き戸の切欠き凹部3の他方の周縁に当接するように配置されて固定されるものであるので、両方のフランジ45で切欠き凹部3の周縁で戸板2を挟んだ状態となり、
図10(A)に示すように、厚さαが厚い戸板2に設けられた切欠き凹部3にも引き戸用引き手1を固定することができ、
図10(B)に示すように厚さβが薄い戸板2に設けられた切欠き凹部3にも引き戸用引き手1を固定することができる。
【0025】
また、引き戸用引き手1には、隔壁部41の先端に重合部42が形成されており、一方の重合部42の凸部42aが他方の重合部42の受け部42bに挿入されて、引き戸の開閉方向から見て互いに重なりあって配置されているので、
図10(A)(B)に示すように、厚さαが厚い戸板2に固定される場合であっても、厚さβが薄い戸板に固定される場合であっても、引き戸用引き手1を切欠き凹部3に固定した状態で、戸板2の木口面を見たときに、2つの分割体1a,1bの間が隠されることになり意匠性を高めることができる。
【0026】
本実施形態の引き戸用引き手1は、中央指掛け部5の開方向側にテーパー部44が形成されることで、戸袋や他の戸板と中央指掛け部5との間に指が挿入されることを避けることができるので、指挟みを防止することができる安全性の高い引き戸用引き手1とすることができる。そして、切欠き凹部3の下面32を覆うように形成されている当接部43の突端から上方に向けて立ち上がる下部指掛け部6が形成されるとともに、切欠き凹部3の上面31を覆うように形成されている当接部43の突端から下方に向けて垂れ下がる上部指掛け部7が形成されているので、例えばソフトクローズ機能が設けられた引き戸の場合のように、全開状態の戸板2を動かす初動に大きな荷重が必要な場合でも、下部指掛け部6又は上部指掛け部7に指を掛けることで簡単に戸板2を動かすことができる。したがって、非力で、且つ、背の低い子供であっても簡単に戸板2を動かして引き戸を閉じることが出来る。
【0027】
本発明の実施の形態は上述の形態に限ることなく、本発明の思想の範囲を逸脱しない範囲で適宜変更することができることは云うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明に係る引き戸用引き手1は、例えば住宅の内装建具としての引き戸の引き手として好適である。
【符号の説明】
【0029】
1 引き戸用引き手
1a,1b 分割体
2 戸板
3 切欠き凹部
4 本体
5 中央指掛け部
6 下部指掛け部
7 上部指掛け部
8 側端部
42 重合部