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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-08
(45)【発行日】2022-01-12
(54)【発明の名称】剤および消臭方法
(51)【国際特許分類】
   D06M 13/238 20060101AFI20220104BHJP
   D06M 13/148 20060101ALI20220104BHJP
【FI】
D06M13/238
D06M13/148
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018152825
(22)【出願日】2018-08-15
(65)【公開番号】P2020025793
(43)【公開日】2020-02-20
【審査請求日】2020-09-28
(73)【特許権者】
【識別番号】398042543
【氏名又は名称】株式会社パルグループホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100154405
【弁理士】
【氏名又は名称】前島 大吾
(74)【代理人】
【識別番号】100079005
【弁理士】
【氏名又は名称】宇高 克己
(72)【発明者】
【氏名】桑原 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】上田 五郎作
(72)【発明者】
【氏名】冨山 敬代
(72)【発明者】
【氏名】新家 陵子
(72)【発明者】
【氏名】伏見 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】國宗 篤史
【審査官】南 宏樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-146673(JP,A)
【文献】特開2018-030998(JP,A)
【文献】特開2006-104438(JP,A)
【文献】特開2017-025005(JP,A)
【文献】特開2011-037733(JP,A)
【文献】国際公開第2010/074311(WO,A1)
【文献】登録実用新案第3125457(JP,U)
【文献】特開2001-020179(JP,A)
【文献】特開2002-309456(JP,A)
【文献】特開2010-150684(JP,A)
【文献】特開2016-187549(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M 13/00-15/715
A61L 9/00-9/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
食事で臭いが付いた被服に向けて食後に剤を吹き付けることによって前記被服には前記剤によるシミ・汚れを付けないで臭いを除去する方法であって、
前記剤は、
下記一般式[I]で表されて色が淡褐色~赤褐色で柿由来の縮合型タンニンと水と、前記縮合型タンニンを変性しない天然物由来のトウモロコシ由来のペンチレングリコール、シロヤナギ樹皮エキスの群の中から選ばれる防腐剤と有してなり、
前記縮合型タンニンと前記水と前記防腐剤の他には乳酸ナトリウムや界面活性剤を含有せず、
前記下記一般式[I]で表されて色が淡褐色~赤褐色で柿由来の縮合型タンニンは、前記水100質量部に対して、0.001~0.1質量部であり、
前記防腐剤は、前記水100質量部に対して、0.01~0.5質量部である
方法
一般式[I]
【請求項2】
食事で臭いが付いた被服に向けて食後に剤を吹き付けることによって前記被服には前記剤によるシミ・汚れを付けないで臭いを除去する方法であって、
前記剤は、
下記一般式[I]で表されて色が淡褐色~赤褐色で柿由来の縮合型タンニンと、水と、前記縮合型タンニンを変性しない天然物由来の防腐剤とを含有してなり、
前記縮合型タンニンと前記水と前記天然物由来の防腐剤の他には乳酸ナトリウムや界面活性剤を含有せず、
前記下記一般式[I]で表されて色が淡褐色~赤褐色で柿由来の縮合型タンニンは、前記水100質量部に対して、0.001~0.1質量部であり、
前記天然物由来の防腐剤は、前記水100質量部に対して、0.01~0.5質量部である
方法
一般式[I]
【請求項3】
前記一般式[I]で表されて色が淡褐色~赤褐色で柿由来の縮合型タンニンは、前記水100質量部に対して、0.01~0.07質量部である
請求項1又は請求項2の方法。
【請求項4】
前記臭いが脂質およびタンパク質の群の中から選ばれる一種または二種以上の成分に由来の臭いである
請求項1~請求項3いずれかの方法。
【請求項5】
前記臭いが脂質の酸化物およびタンパク質の酸化物の群の中から選ばれる一種または二種以上の成分に由来の臭いである
請求項1~請求項3いずれかの方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は消臭技術に関する。
【背景技術】
【0002】
消臭剤が幾つも提案されている。体臭消臭剤が数多く市販されている。
【0003】
ところで、本発明が対象とする繊維製品(例えば、被服類)に付いた臭いを消す為の消臭剤には、体臭消臭剤には要求されない要件が有る。
【0004】
すなわち、消臭剤を被服に吹き付けた場合、消臭剤による着色やシミが起きてはならないと言う事である。吹き付けた消臭剤によって、被服に色が付いたり、シミが付いたりしたのでは、その被服を着ることが出来なくなる。クリーニングせざるを得なくなる。従って、消臭剤による着色・シミの発生が起きないことは、繊維製品(例えば、被服類)に付いた臭いを消す為の消臭剤としては絶対に必須の要件である。つまり、消臭効果が有れば良いと言うものではない。この点において、体臭消臭剤に要求される以上の厳しい要件が果たされる。
【0005】
繊維製品(例えば、被服類)に付いた臭いを消す為の消臭剤として、例えばトウモロコシ由来の消臭成分を用いたファブリーズ(商品名:P&G製)、茶葉抽出の消臭成分を用いたリセッシュ(商品名:花王製)等が市販されている。
【0006】
他にも、上記天然物由来の消臭成分を用いた消臭剤ではなく、合成化合物の消臭成分を用いた消臭剤も提案(特開2007-282798号公報)されている。しかし、昨今にあっては、上記市販製品からも判る通り、天然物由来の消臭成分を用いた消臭剤に注目が集まっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2007-282798号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、繊維製品(例えば、被服)に付いた臭いを手軽・簡単に除去でき、その際に繊維製品(例えば、被服)に目立った着色・シミ等を引き起こさない技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、
繊維製品に付いた臭いを消臭する剤であって、
縮合型タンニンと水とを有してなり、
前記タンニンは、前記水100質量部に対して、0.001~0.5質量部である
剤を提案する。
【0010】
本発明は、前記剤であって、前記タンニンが天然物由来のタンニンである剤を提案する。
【0011】
本発明は、前記剤であって、前記タンニンがカキタンニンである剤を提案する。
【0012】
本発明は、前記剤であって、前記タンニンは、前記水100質量部に対して、0.01~0.1質量部である剤を提案する。
【0013】
本発明は、前記剤であって、更に防腐剤を有してなり、前記防腐剤は天然物由来の防腐剤の群の中から選ばれる一種または二種以上である剤を提案する。
【0014】
本発明は、前記剤であって、前記防腐剤が、前記水100質量部に対して、0.01~0.5質量部である剤を提案する。
【0015】
本発明は、前記剤であって、前記繊維製品に付いた臭いが、脂質およびタンパク質の群の中から選ばれる一種または二種以上の成分に由来の臭いである剤を提案する。本発明は、前記剤であって、前記剤は繊維製品に付いた脂質およびタンパク質の群の中から選ばれる一種または二種以上の成分に由来の臭いを消臭する剤を提案する。
【0016】
本発明は、前記剤であって、前記繊維製品に付いた臭いが、脂質の酸化物およびタンパク質の酸化物の群の中から選ばれる一種または二種以上の成分に由来の臭いである剤を提案する。本発明は、前記剤であって、前記剤は繊維製品に付いた脂質の酸化物およびタンパク質の酸化物の群の中から選ばれる一種または二種以上の成分に由来の臭いを消臭する剤を提案する。
【0017】
本発明は、前記剤を繊維製品に付ける消臭方法を提案する。
【0018】
本発明は、前記剤を臭いが付いた繊維製品に付ける消臭方法を提案する。
【0019】
本発明は、前記剤を臭いが付いた後の繊維製品に付ける消臭方法を提案する。
【0020】
本発明は、前記剤を臭いが付いた被服に向けて噴霧する消臭方法を提案する。
【0021】
本発明は、前記剤を食事で臭いが付いた被服に向けて食後に噴霧する消臭方法を提案する。
【発明の効果】
【0022】
繊維製品(例えば、被服)に付いた臭いを手軽・簡単に消臭できる。
【0023】
繊維製品(例えば、被服)に目立った着色・シミ等を引き起こさない。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態が説明される。
【0025】
第1の発明は剤(消臭剤)である。前記剤は、特に、繊維製品(例えば、被服)に付いた臭いを消臭する剤である。特に、繊維製品(例えば、被服)に付いた脂質およびタンパク質の群の中から選ばれる一種または二種以上の成分に由来の臭いを消臭する場合の剤である。繊維製品(例えば、被服)に付いた脂質の酸化物およびタンパク質の酸化物の群の中から選ばれる一種または二種以上の成分に由来の臭いを消臭する場合の剤である。その理由は前記の如きの臭いに対する消臭効果が格段に優れていたからであった。
【0026】
前記剤はタンニンを含有する。前記タンニンは、特に、縮合型タンニンである。前記タンニンは、好ましくは、天然物由来のタンニンであった。前記タンニンは、特に好ましくは、カキタンニンであった。前記タンニンは,例えば柿を搾汁することで得られる。市販品(例えば、株式会社トミヤマ製、富士化学工業株式会社製)でも差し支えない。前記の如きのタンニンが用いられた場合、前記の如きの臭い成分に対する消臭効果が格段に優れていた。すなわち、本発明の目的が効果的に奏された。
【0027】
タンニンは、例えば茶葉にも含まれている。茶葉に含まれるタンニンとしては、エピカテキン、エピガロカテキン等のカテキン類が知られている。これ等は、一般的に、下記構造式で表される化合物である。
【0028】
これに対して、カキタンニン(縮合型カキタンニン)は、一般的に、下記構造式で表される化合物である。前記カキタンニンの構造は前記茶葉に含まれるタンニンの構造と全く異なっている。本発明が、前記茶葉に含まれるタンニンではなく、縮合型タンニンを用いたのは、例えば焼肉店などの食事中に被服に付いた臭いを除去する効果が高かったからである。すなわち、前記茶葉に含まれるタンニンでは本発明の特長を奏することが出来なかった。
【0029】
縮合型タンニンは、体臭(加齢臭)の原因物質であるノナネール等の不飽和アルデヒドを分解し、体臭(加齢臭)を改善する効果を有することが提案されている(特許第4212220号)。しかし、縮合型タンニンが、脂質やタンパク質に由来の臭い物質を分解して消臭することまでは知られていなかった。この点から、本発明は、新規であり、かつ、進歩性を有すると確信している。
【0030】
縮合型タンニンは淡褐色~赤褐色であることが周知である。カキタンニン(柿渋)が、例えば布染色に用いられていることも周知である。特に、カキタンニン(柿渋)は繊維製品に浸透し易いことが広く知られている。カキタンニン(柿渋)を利用した染色が柿服という名称で済州島を中心にした伝統工芸染色であるとも謂われている(特開2011-12379号公報)。カキタンニン(柿渋)が茶系統の塗料に用いられていることも周知である。特開2008-163281号公報では、柿渋が木材、綿、紙などに対する赤褐色~茶褐色の発色剤として用いられていることが開示されている。柿渋塗料が広く市販されている。このような着色(呈色)物質であるカキタンニン(柿渋)を被服に吹き付けたならば、これは、もう、被服に浸透してシミや汚れを引き起こしてしまうと考えるのが普通であろう。従って、仮に、カキタンニン(柿渋)が脂質やタンパク質に由来の臭い物質を分解することが判ったとしても、繊維製品(例えば、被服)に付いた前記臭いを消臭(除去)することを目的として、繊維製品(例えば、被服)にカキタンニン(柿渋)を吹き付けようとする発想は生まれなかったと確信している。この点からも、本発明は、新規であり、かつ、進歩性を有すると確信している。
【0031】
前記剤は水を含有する。前記タンニンは、前記水100質量部に対して、0.001~0.5質量部であった。好ましくは0.005質量部以上であった。更に好ましくは0.01質量部以上であった。好ましくは0.3質量部以下であった。更に好ましくは0.1質量部以下であった。すなわち、前記の如きの配合割合にしておくことによって、前記剤が繊維製品に噴霧された場合、消臭効果を発揮しながらも、繊維製品にシミや汚れを引き起こすことがなかったのである。例えば、水100質量部に対して前記タンニンが0.5質量部を越えて多すぎた場合、被服に噴霧された前記タンニンによるシミ・汚れが目立つようになり、又、消臭効果が劇的に向上したものでもなかった。逆に、水100質量部に対して前記タンニンが0.001質量部未満の少な過ぎた場合、被服に噴霧された前記タンニンによる消臭効果が小さかった。すなわち、前記の配合割合から外れた場合、本発明の目的が達成されなかった。
【0032】
カキタンニン(柿渋)は防腐効果を有している。従って、本発明の剤が防腐剤を含有していなくても、本発明の剤は保存性に優れている。しかしながら、好ましくは、更なる保存安定性の観点から、防腐剤が添加されていても良い。但し、カキタンニン(柿渋)を変性しない必要が有る。この観点から、防腐剤は、好ましくは、天然物由来の防腐剤の群の中から選ばれる一種または二種以上であった。例えば、トウモロコシ由来のペンチレングリコール(1,2-ペンタンジオールやシロヤナギ樹皮エキスが挙げられる。前記防腐剤は、前記水100質量部に対して、好ましくは、0.01~0.5質量部であった。更に好ましくは0.05質量部以上であった。もっと好ましくは0.3質量部以下であった。
【0033】
第2の発明は消臭方法である。前記方法は前記剤を臭いが付いた後の繊維製品に付ける方法である。予め前記剤を被服に付けていても良い。すなわち、臭いを分解し、臭いの発生を抑えることができる。前記方法は前記剤を臭いが付いた被服に向けて噴霧する方法である。前記方法は前記剤を食事で臭いが付いた被服に向けて食後に噴霧する方法である。
【0034】
本発明の剤は人体に対する安全性にも優れている。本発明の剤は、基本的には、被服などに吹き付けられる。本発明の剤が、着用している被服に噴霧された場合、例えば顔や手などの皮膚、又、髪の毛に付くことも予想される。この観点から消臭剤が生体安全性に富むことも大事な要件である。タンニンは、お歯黒の原料としても、古来から、用いられて来た。渋が抜けていない状態の柿を食したりする場合も有る。民間薬として、火傷や霜焼、血圧降下や解毒などに効くとして利用されても来た。その他にも、収斂作用、血行促進作用、抗炎症作用などが有るとも謂われている。従って、本発明の剤が被服に噴霧された際に含有タンニンが皮膚などに付いたとしても、生体安全性に優れているのみならず、美容効果などを期待することも出来るであろう。
【0035】
以下、更に具体的な説明が行われる。但し、本発明は以下の具体的実施例に限定されるものではない。本発明の特長が大きく損なわれない限り、各種の変形例・応用例も含まれる。
【0036】
[実施例1]
縮合型カキタンニン(原体:株式会社トミヤマ、精製加工:富士化学工業株式会社) 0.01質量部
ペンチレングリコール(防腐剤:(株)永廣堂本店製) 0.2質量部
水 100質量部
上記組成物が十分に混合・撹拌されて消臭剤が作製された。
【0037】
[実施例2]
縮合型カキタンニン(原体:株式会社トミヤマ、精製加工:富士化学工業株式会社) 0.04質量部
ペンチレングリコール(防腐剤:(株)永廣堂本店製) 0.03質量部
水 100質量部
上記組成物が十分に混合・撹拌されて消臭剤が作製された。
【0038】
[実施例3]
縮合型カキタンニン(原体:株式会社トミヤマ、精製加工:富士化学工業株式会社) 0.07質量部
ペンチレングリコール(防腐剤:(株)永廣堂本店製) 0.3質量部
水 100質量部
上記組成物が十分に混合・撹拌されて消臭剤が作製された。
【0039】
[比較例1]
縮合型カキタンニン(原体:株式会社トミヤマ、精製加工:富士化学工業株式会社) 0.0004質量部
ペンチレングリコール(防腐剤:(株)永廣堂本店製) 0.1質量部
水 100質量部
上記組成物が十分に混合・撹拌されて消臭剤が作製された。
【0040】
[比較例2]
縮合型カキタンニン(原体:株式会社トミヤマ、精製加工:富士化学工業株式会社) 1.5質量部
ペンチレングリコール(防腐剤:(株)永廣堂本店製) 0.1質量部
水 100質量部
上記組成物が十分に混合・撹拌されて消臭剤が作製された。
【0041】
[特性]
上記各例の消臭剤の試験が行われたので、その結果が表-1に示される。
2時間に亘って焼肉店にて食事をした被験者に対して、10名のパネラーによるチェックが行われた。被験者に対して前記各例の消臭剤が食後に噴霧された。噴霧の前後において、被服の臭い及びシミに対するチェックが行われた。臭い及びシミに対する評価は10名のパネラーによる平均値で示される。
【0042】
表-1
消臭効果 シミ・汚れ
実施例1 4 3
実施例2 4 3
実施例3 4 3
比較例1 2 3
比較例2 5 1
市販品(ファブリーズ) 3 3
市販品(リセッシュ) 3 3
*消臭効果の評価点 :5 非常に良好
4 良好
3 やや良好
2 不良
1 非常に不良
*シミ・汚れの評価点:3 シミ・汚れ認められず
2 シミ・汚れ注視しなければ判らず
1 シミ・汚れが認められる