(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-08
(45)【発行日】2022-02-03
(54)【発明の名称】固定化アルロースエピメラーゼの製造方法
(51)【国際特許分類】
C12N 11/08 20200101AFI20220127BHJP
C12N 9/90 20060101ALN20220127BHJP
C13K 13/00 20060101ALN20220127BHJP
【FI】
C12N11/08
C12N9/90
C13K13/00
(21)【出願番号】P 2018539767
(86)(22)【出願日】2017-09-14
(86)【国際出願番号】 JP2017033178
(87)【国際公開番号】W WO2018052054
(87)【国際公開日】2018-03-22
【審査請求日】2020-08-17
(31)【優先権主張番号】P 2016179954
(32)【優先日】2016-09-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000188227
【氏名又は名称】松谷化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【氏名又は名称】水谷 馨也
(72)【発明者】
【氏名】グラッパリ プシュパ キラン
(72)【発明者】
【氏名】新谷 知也
(72)【発明者】
【氏名】西岡 純一郎
(72)【発明者】
【氏名】島田 研作
【審査官】太田 雄三
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2008/142860(WO,A1)
【文献】特開2001-011090(JP,A)
【文献】TAKESHITA, K., et al.,Mass Production of D-Psicose from D-Fructose by a Continuous Bioreactor System Using Immobilized D-Tagatose 3-Epimerase,Journal of Bioscience and Bioengineering,2000年,Vol. 90, No. 4,p. 453-455
【文献】LIM, B-C., et al.,A stable immobilized D-psicose 3-epimerase for the production of D-psicose in the presence of borate,Process Biochemistry,2009年,Vol. 44,p. 822-828
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 11/00
C12N 9/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
比活性が50U/mg以上であるアルロースエピメラーゼを含む酵素液を、負荷総タンパク質量が1.3~15mg/ml-Rとなるように、スチレン系ポーラス型弱塩基性陰イオン交換樹脂又はスチレン系ゲル型弱塩基性陰イオン交換樹脂と接触させる工程を含
み、
イオン交換樹脂と接触させる前記酵素液のアルロースエピメラーゼ単位数がイオン交換樹脂1ml当り270U以上である、固定化アルロースエピメラーゼの製造方法。
【請求項2】
スチレン系ポーラス型弱塩基性陰イオン交換樹脂又はスチレン系ゲル型弱塩基性陰イオン交換のイオン交換基が3級アミンである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記スチレン系ポーラス型弱塩基性陰イオン交換樹脂のイオン交換基が-N(CH
3)
2である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固定化アルロースエピメラーゼの製造方法に関する。より具体的には、本発明は、比活性が高く、耐久性に優れた固定化アルロースエピメラーゼを効率的に製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フラクトースにD-ケトヘキソース・3-エピメラーゼ(特許文献1)を作用させて生成されるアルロースは、別名をプシコースと称する希少糖の一種であり、エネルギー値がゼロ(非特許文献1)、食後血糖上昇抑制効果(非特許文献2)、抗肥満効果(非特許文献3)等の有用性が報告されており、生活習慣病予防素材として注目されている。
【0003】
このようにアルロースはダイエット甘味料として脚光を浴びており、食品産業分野でアルロースを効率的に生産できる方法の開発の必要性が高まっている。
【0004】
従来、アルロースの生産方法としては、例えばフルクトースを基質として用いて、微生物由来のD-ケトヘキソース3-エピメラーゼ(以下、「アルロースエピメラーゼ」とも言う)を作用させてアルロースを酵素的に生成する方法が知られている。
【0005】
アルロースエピメラーゼとしては、アルスロバクター・グロビホルミス(Arthrobacter globiformis)又はアグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)由来のアルロースエピメラーゼ、及びシュードモナス・チコリ(Pseudomonas cichorii)又はロドバクター・スフェロイデス(Rhodobacter sphaeroides)由来のタガトースエピメラーゼ等が知られている。
【0006】
また、アルロースエピメラーゼを利用してアルロースを工業的に製造する場合には、製造効率を高めるために、固定化アルロースエピメラーゼが使用されている。従来、固定化アルロースエピメラーゼの製造方法としては、アルギン酸ナトリウム(特許文献2)、スチレン系ポーラス型弱塩基性イオン交換樹脂(特許文献3)、及びフェノール系ポーラス型弱塩基性イオン交換樹脂(特許文献4)を固定化担体として使用する方法が知られている。
【0007】
しかしながら、従来の固定化アルロースエピメラーゼの製造方法では、商業的生産に求められる経済性(製造コスト)や安定性(活性維持)等の性能が不十分であったり、連続生産に耐えられなかったりするという欠点がある。そこで、比活性が高く、耐久性に優れた固定化アルロースエピメラーゼを効率的に製造する方法の開発が切望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平6-125776号公報
【文献】特表2013-501519号公報
【文献】特開2014-140361号公報
【文献】特表2015-530105号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】J.Nutri.Sci.Vitaminol.,48,77-80,2002.
【文献】J.Nutri.Sci.Vitaminol.,54,511-514,2008.
【文献】Int.J.food Sci.Nutri.,65,245-250,2014.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、比活性が高く、耐久性に優れた固定化アルロースエピメラーゼを効率的に製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記課題を解決することを目的として、比活性が高く、耐久性に優れた固定化アルロースエピメラーゼを効率的に製造し得る方法について鋭意研究した。その結果、比活性が特定のレベル以上のアルロースエピメラーゼを含む酵素液をスチレン系ポーラス型弱塩基性陰イオン交換樹脂又はスチレン系ゲル型弱塩基性陰イオン交換樹脂に負荷総タンパク質量が1.3~15mg/ml-Rとなるように接触させることにより、比活性が高く、耐久性に優れた固定化アルロースエピメラーゼが効率的に得られることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいてさらに検討を重ねることにより完成したものである。
【0012】
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. 比活性が50U/mg以上であるアルロースエピメラーゼを含む酵素液を、負荷総タンパク質量が1.3~15mg/ml-Rとなるように、スチレン系ポーラス型弱塩基性陰イオン交換樹脂又はスチレン系ゲル型弱塩基性陰イオン交換樹脂と接触させる工程を含む、記固定化アルロースエピメラーゼの製造方法。
項2. スチレン系ポーラス型弱塩基性陰イオン交換樹脂又はスチレン系ゲル型弱塩基性陰イオン交換のイオン交換基が3級アミンである、項1に記載の製造方法。
項3. 前記スチレン系ポーラス型弱塩基性陰イオン交換樹脂のイオン交換基が-N(CH3)2である、項1又は2に記載の製造方法。
項4. イオン交換樹脂と接触させる前記酵素液のアルロースエピメラーゼ単位数がイオン交換樹脂1ml当り270U以上である、項1~3のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、従来の固定化アルロースエピメラーゼと比べ、アルロースエピメラーゼ活性が高く、耐久性に優れた固定化アルロースエピメラーゼを得ることができる。また、本発明の方法で得られる固定化アルロースエピメラーゼを充填したカラムにフルクトース溶液を通液するという簡易な手法でアルロースを生産することが可能になる。更に、本発明の固定化アルロースエピメラーゼと既存の固定化グルコースイソメラーゼを組み合わせたカラムを用いれば、グルコースから異性化糖を含むアルロースを効率的に製造することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施例3において、固定化アルロースエピメラーゼを用いてフラクトースからアルロースの連続酵素反応を実施し、固定化アルロースエピメラーゼの半減期を評価した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、固定化アルロースエピメラーゼの製造方法であって、比活性が50U/mg以上であるアルロースエピメラーゼを含む酵素液を、負荷総タンパク質量が1.3~15mg/ml-Rとなるように、スチレン系ポーラス型弱塩基性陰イオン交換樹脂、又はスチレン系ゲル型弱塩基性陰イオン交換樹脂と接触させる工程を含むことを特徴とする。以下、本発明の製造方法について詳述する。
【0016】
[定義]
本発明において、「アルロースエピメラーゼの酵素活性(U)」は、アルロースを基質として、反応温度50℃で反応させ、1分間に1μmolのフルクトースを生成する酵素力を1単位(U)としたものである。具体的には、2mMの硫酸マグネシウムを含む50mMのリン酸緩衝液(pH8.0)で溶解した0.2Mのアルロース溶液2500μl、2mMの硫酸マグネシウムを含む50mMのリン酸緩衝液(pH8.0)2167μl及びアルロースエピメラーゼ333μlをスクリューキャップ付きの試験管に投入し、温水浴に浸して50℃で15分間反応させる。5質量%の塩酸水溶液を添加してpH2.5~3.0に調整して酵素を失活させ、イオン交換樹脂による脱塩、フィルターろ過した後、HPLC分析する。生成したフルクトースのピーク面積比を用いて酵素活性を算出する。
【0017】
本発明において、「アルロースエピメラーゼの比活性(U/mg)」は、タンパク質1mgがもつアルロースエピメラーゼの酵素活性(U)である。具体的には、(1)アルロースエピメラーゼを溶解させた酵素液を準備する、(2)当該酵素液のタンパク質濃度(mg/ml)をブラッドフォード法で測定する、(3)当該酵素液のアルロースエピメラーゼの酵素活性(U/ml)を前述の方法で測定する、(4)得られたアルロースエピメラーゼの酵素活性(U/ml)をタンパク質濃度(mg/ml)で除して、アルロースエピメラーゼの比活性(U/mg)を算出する、ことによって求めることができる。
【0018】
本発明において、「固定化アルロースエピメラーゼの比活性(U/ml-R)」は固定化樹脂1ml当たりの活性であり、以下の測定方法に基づいて測定される値である。具体的には、50mMのリン酸緩衝液(pH8.0)で溶解した0.2Mのアルロース溶液2500μl、50mMのリン酸緩衝液(pH8.0)2480μl、及び余計な水分を除いた膨潤状態の固定化アルロースエピメラーゼ20mgを10mlのスクリューキャップ付き試験管に投入し、温水浴に横に倒して浸漬させ、50℃で15分間振とう反応させる。その後5質量%の塩酸水溶液を添加してpH3.0~2.5に調整して酵素を失活させて反応液を回収し、イオン交換樹脂による脱塩、フィルターろ過に供した後に、HPLC分析し、生成したフラクトースのピーク面積比から、固定化アルロースエピメラーゼの比活性(U/ml-R)を求める。
【0019】
本発明において「負荷総タンパク質量(mg/ml-R)」とは、接触させる酵素液の総量に含まれるタンパク質の質量(mg)を、当該酵素液に接触させたイオン交換樹脂の膨潤時の容量(1ml-R)で除することにより求められる値である。
【0020】
本発明において、「空間速度(SV)」とは、溶液をカラムに通液する速度の単位であり、「空間速度(SV)=通液量(ml)/カラム体積(ml)/時間(h)」にて算出される。
【0021】
[アルロースエピメラーゼ]
アルロースエピメラーゼとは、フルクトースとアルロースとの相互変換を触媒し得る酵素である。本発明で使用されるアルロースエピメラーゼの由来については特に制限されず、微生物、動物及び植物等の生物のいずれの由来であってもよい。例えば、アルロースエピメラーゼは、Arthrobacter globiformis M30株(寄託番号:NITE BP-1111)、Pseudmonas cichorii、Agrobacterium tumefaciens、Clostrideum sp.、Clostridium scindens、Clostrideum bolteae、Clostridium cellulolyticum、Ruminococcus sp.等の微生物によって生産されることが知られている。
【0022】
また、本発明において固定化されるアルロースエピメラーゼは、前記生物を用いて製造したものであってもよく、また遺伝子工学的手法によって製造された組換えアルロースエピメラーゼであってもよい。更に、本発明で使用されるアルロースエピメラーゼは、前記生物由来のアルロースエピメラーゼに変異を施した変異体であってもよい。
【0023】
また、本発明において固定化されるアルロースエピメラーゼは、精製品又は粗精製品のいずれであってもよい。
【0024】
[固定化に供する酵素液]
本発明では、比活性が50U/mg以上のアルロースエピメラーゼを含む酵素液を後述する固定化担体への固定化に供する。このように特定の比活性を有する酵素液と後述する固定化担体とを使用して、特定の負荷総タンパク質量でアルロースエピメラーゼの固定化を行うことによって、比活性が高く、耐久性に優れた固定化アルロースエピメラーゼを効率的に製造することが可能になる。
【0025】
固定化担体への固定化に供する酵素液のアルロースエピメラーゼの比活性については、50U/mg以上であることを限度として特に制限されないが、比活性が高く耐久性に優れた固定化アルロースエピメラーゼをより一層効率的に製造するという観点から、好ましくは50U/mg~200U/mg、更に好ましくは50~160U/mgが挙げられる。
【0026】
固定化担体への固定化に供する酵素液の溶媒については、特に制限されず、水、緩衝液等のいずれであってもよい。
【0027】
[固定化担体]
本発明で使用されるアルロースエピメラーゼの固定化担体は、スチレン系ポーラス型弱塩基性陰イオン交換樹脂又はスチレン系ゲル型弱塩基性陰イオン交換樹脂である。このような特定の陰イオン交換樹脂を使用することによって、比活性が高く、耐久性に優れた固定化アルロースエピメラーゼを効率的に製造することが可能になる。
【0028】
スチレン系ポーラス型弱塩基性陰イオン交換樹脂とは、ポリスチレンジビニルベンゼンの共重合体のゲル状の樹脂基体からなり、物理的に穴(マクロポアー)を開けた多孔質の弱塩基性陰イオン交換樹脂である。
【0029】
スチレン系ポーラス型弱塩基性陰イオン交換樹脂の形態については、特に制限されず、例えば、粉状、球状、繊維状、膜状等のいずれであってもよい。
【0030】
スチレン系ポーラス型弱塩基性陰イオン交換樹脂におけるイオン交換基については、陰イオン交換が可能で弱塩基性を示す基であることを限度として特に制限されないが、例えば、第3級アミン、第4級アミン、ポリアミン等のアミンが挙げられる。これらのイオン交換基は、1種単独でスチレン系ポーラス型弱塩基性陰イオン交換樹脂に含まれていてもよく、2種以上を組み合わせてスチレン系ポーラス型弱塩基性陰イオン交換樹脂に含まれていてもよい。これらのイオン交換基の中でも、比活性が高く耐久性に優れた固定化アルロースエピメラーゼをより一層効率的に製造するという観点から、好ましくは第3級アミン、更に好ましくは基-N(CH3)2が挙げられる。
【0031】
スチレン系ポーラス型弱塩基性陰イオン交換樹脂としては、例えば、アーバンライトEPA95、アンバーライトIRA904(以上、オルガノ社製);デュオライトA378D(住化ケムテックス社製);ピュロライトA111S、ピュロライトA103S(以上、ピュロライト社製);ダイアイオンWA20、ダイアイオンWA30(以上、三菱レーヨンアクアソリューション社製)等が市販されており、本発明ではこれらの市販品を使用することもできる。
【0032】
スチレン系ゲル型弱塩基性陰イオン交換樹脂とは、ポリスチレンジビニルベンゼンの共重合体のゲル状の樹脂基体からなる弱塩基性陰イオン交換樹脂である。
【0033】
スチレン系ゲル型弱塩基性陰イオン交換樹脂の形態については、特に制限されず、例えば、粉状、球状、繊維状、膜状等のいずれであってもよい。
【0034】
スチレン系ゲル型弱塩基性陰イオン交換樹脂におけるイオン交換基については、陰イオン交換が可能で弱塩基性を示す基であることを限度として特に制限されないが、例えば、第3級アミン、第4級アミン、ポリアミン等のアミンが挙げられる。これらのイオン交換基は、1種単独でスチレン系ゲル型弱塩基性陰イオン交換樹脂に含まれていてもよく、2種以上を組み合わせてスチレン系ゲル型弱塩基性陰イオン交換樹脂に含まれていてもよい。これらのイオン交換基の中でも、比活性が高く耐久性に優れた固定化アルロースエピメラーゼをより一層効率的に製造するという観点から、好ましくは第3級アミンが挙げられる。
【0035】
スチレン系ゲル型弱塩基性陰イオン交換樹脂としては、例えば、ダイアイオンHPA25L(三菱レーヨンアクアソリューション社製)、アンバーライトIRA411S(オルガノ社製)等が市販されており、本発明ではこれらの市販品を使用することもできる。
【0036】
スチレン系ポーラス型弱塩基性陰イオン交換樹脂及びスチレン系ゲル型弱塩基性陰イオン交換樹脂において、総交換容量(イオン交換樹脂が持っている最大のイオン交換量)については、特に制限されないが、比活性が高く耐久性に優れた固定化アルロースエピメラーゼをより一層効率的に製造するという観点から、通常1eq/l-R以上、好ましくは1~2eq/l-R、更に好ましくは1.2~1.5eq/l-Rが挙げられる。
【0037】
本発明では、スチレン系ポーラス型弱塩基性陰イオン交換樹脂又はスチレン系ゲル型弱塩基性陰イオン交換樹脂のいずれか一方のみを使用してもよく、またこれらの双方を組み合わせて使用してもよい。
【0038】
これらの陰イオン交換樹脂の中でも、比活性が高く耐久性に優れた固定化アルロースエピメラーゼをより一層効率的に製造するという観点から、好ましくはスチレン系ポーラス型弱塩基性陰イオン交換樹脂、更に好ましくはイオン交換基として第3級アミンを有するスチレン系ポーラス型弱塩基性陰イオン交換樹脂が挙げられる。
【0039】
[アルロースエピメラーゼの固定化]
前記酵素液を前記固定化担体に対して負荷総タンパク質量が1.3~15mg/ml-Rとなるように接触させることによって、アルロースエピメラーゼの比活性が高く、優れた耐久性を備える固定化アルロースエピメラーゼが得られる。
【0040】
前記酵素液を前記固定化担体に接触させるに先立って、緩衝液等の洗浄液を使用して、前記固定化担体を洗浄しておくことが望ましい。
【0041】
前記固定化担体に接触させる前記酵素液量は、負荷総タンパク質量が1.3~15mg/ml-Rとなるように設定すればよいが、比活性が高い固定化アルロースエピメラーゼをより一層効率的に製造するという観点から、前記酵素液の負荷総タンパク質量として、好ましくは2~15mg/ml-R、より好ましくは3~10mg/ml-R、更に好ましくは5~10mg/ml-Rが挙げられる。
【0042】
前記固定化担体と前記酵素液を接触させる工程において、前記酵素液に含まれるアルロースエピメラーゼ量と前記固定化担体の比率については、前記負荷総タンパク質量の範囲を充足できる範囲で適宜設定すればよいが、比活性が高い固定化アルロースエピメラーゼをより一層効率的に製造するという観点から、前記固定化担体の膨潤時の体積1ml当たり、接触させる前記酵素液に含まれるアルロースエピメラーゼの総量が200~2000U、好ましくは500~1000U、更に好ましくは600~900Uとなる比率が挙げられる。
【0043】
前記酵素液を前記固定化担体に接触させる方法については、特に制限されず、通常の固定化酵素の製造で採用されている方法を用いればよいが、具体的には、前記固定化担体を充填したカラムに前記酵素液を通液する方法、前記酵素液を入れた容器に前記固定化担体を添加する方法等が挙げられる。
【0044】
前記固定化担体を充填したカラムに前記酵素液を通液する方法の場合、前記固定化担体を充填したカラムに対する前記酵素液の空間速度については、特に制限されないが、例えば0.1~1.0hr-1、好ましくは0.2~0.8hr-1、更に好ましくは0.4~0.6hr-1、が挙げられる。また、当該方法によって固定化アルロースエピメラーゼを製造する場合、カラムを通液して排出された酵素液は、再度カラムに通液することにより、酵素液を循環させて前記酵素液を繰り返し通液することが望ましい。
【0045】
また、前記固定化担体を充填したカラムに前記酵素液を通液する方法の場合、前記酵素液を通液する時間については、特に制限されないが、例えば5~20時間、好ましくは10~18時間、更に好ましくは12~16時間が挙げられる。
【0046】
また、前記酵素液を入れた容器に前記固定化担体を添加する方法の場合、前記酵素液を入れた容器に前記固定化担体を添加して、必要に応じて撹拌を行い、アルロースエピメラーゼが前記固定化担体に固定化されるまでインキュベートすればよい。
【0047】
また、前記固定化担体を充填したカラムに前記酵素液を通液する方法の場合、記酵素液を入れた容器に前記固定化担体を添加してインキュベートする時間については、特に制限されないが、例えば10~40時間、好ましくは15~35時間、更に好ましくは20~30時間が挙げられる。
【0048】
斯くして得られた固定化アルロースエピメラーゼは、必要に応じて、緩衝液等の洗浄液を使用して洗浄を行ってもよい。また、得られた固定化アルロースエピメラーゼは、必要に応じて、グルタルアルデヒドやポリエチレンイミン等で架橋させて、アルロースエピメラーゼの固定化を強固にしてもよい。
【0049】
[固定化アルロースエピメラーゼの特性・用途]
斯くして得られた固定化アルロースエピメラーゼは、アルロースエピメラーゼの比活性が高く、優れた耐久性を備えることができている。
【0050】
本発明の製造方法で得られる固定化アルロースエピメラーゼが有する比活性として、通常150U/ml-R以上、好ましくは150~500U/ml-R、更に好ましくは200~500U/ml-R、特に好ましくは250~500U/ml-Rが挙げられる。
【0051】
また、本発明の製造方法で得られる固定化アルロースエピメラーゼが備える耐久性としては、以下の試験条件における固定化アルロースエピメラーゼの比活性の半減期が150日以上、好ましくは160~250日、更に好ましくは200~240日が挙げられる。
(耐久性の試験条件)
ジャケット付きのガラス製カラム(内径20mm、長さ400mm)に、活性が4500Uに相当する量の固定化アルロースエピメラーゼを充填する。別途、2mMの硫酸マグネシウムを添加し、更に炭酸ナトリウムを添加してpH7.8~8.0に調整した35質量%のフラクトース溶液を準備する。当該フラクトース溶液を、固定化アルロースエピメラーゼが充填されたガラス製カラムに、ジャケット温度55℃、上向流でフラクトース分が0.004g/hr/Uとなるように連続的に接触させる。例えば、比活性が450U/ml-Rの固定化アルロースエピメラーゼの場合、ジャケット付きのガラス製カラム(内径20mm、長さ400mm)に固定化アルロースエピメラーゼを10ml充填し、上記フラクトース溶液を、空間速度5hr-1で通液する。カラムから流出した流出液を24時間毎に1回採取し、採取したそれぞれの液を、脱塩してフィルターろ過した後、HPLC分析し、フラクトース及びアルロースのピーク面積に占めるアルロースの面積を求め、変換率とした。変換率を経時的にプロットして近似直線を求め、その近似直線から試験開始1日後の変換効率の半分となる日数を求めて半減期とする。
【0052】
このように、本発明の製造方法で得られる固定化アルロースエピメラーゼは、アルロースエピメラーゼの比活性が高く、優れた耐久性を有しているので、フラクトース又はグルコースからアルロースを工業的に連続的に製造するのに適している。また、本発明の製造方法で得られる固定化アルロースエピメラーゼは、単独でアルロースの製造に使用してもよく、また他の固定化酵素(例えば、固定化グルコースイソメラーゼ等)と組み合わせてアルロースの製造に使用してもよい。
【実施例】
【0053】
以下に実施例を示して本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0054】
実施例1(固定化担体のスクリーニング)
1.固定化に使用するアルロースエピメラーゼの調製
固定化に使用するアルロースエピメラーゼは、次の(1)及び(2)に示す工程を経て調製した。
【0055】
(1)菌体培養と菌体回収
0.5質量%のアルロースを含む最少塩培地(MSM培地)4LにArthrobacter globiformis M30株を植菌し、ジャーファメンターを用いて30℃で24時間、撹拌速度400rpm、通気量毎分0.10L/培地Lで培養した。この培養液から遠心分離により菌体100g(湿重量)を回収し、50mMリン酸緩衝液(pH8.0)で洗浄した。
【0056】
(2)粗酵素の抽出工程
得られた菌体100g(湿重量)を50mMリン酸緩衝液(pH8.0)1000mlに懸濁し、そこへ10g卵白リゾチーム(食品添加物、キューピー社製)及び5g塩化ナトリウムを加え、37℃で120分間加熱することにより、酵素の抽出反応を行った。その後、更に55℃で15分間の加熱を行い、遠心分離(12000rpm、30分)により得られる上清を粗酵素液とした。当該租酵素液に含まれる総タンパク質1mg当りのアルロースエピメラーゼの比活性は4.9U/mgであった。
【0057】
2.固定化担体の一次スクリーニング
アルロースエピメラーゼの固定化担体として、表1に示すイオン交換樹脂(市販品)を評価した。
【0058】
【0059】
2mM硫酸マグネシウムを含む50mMリン酸緩衝液(pH8.0)で洗浄した表1のイオン交換樹脂355mgと前記で調製された30Uのアルロースエピメラーゼを含む10mlの50mMリン酸緩衝液(pH8.0)を混合し、20℃に設定したチャンバー中でツイストミキサーを用いて24時間ゆっくり撹拌させた。次いで、ピペットを用いて上清を除去し、10mlの50mMリン酸緩衝液(pH8.0)で5回洗浄し、固定化アルロースエピメラーゼとした。
【0060】
一次スクリーニングにおける固定化アルロースエピメラーゼの酵素活性測定方法は次の通りである。即ち、50mMのリン酸緩衝液(pH8.0)で溶解した0.2Mのアルロース溶液500μl、50mMのリン酸緩衝液(pH8.0)480μl及び紙製のウエス(キムワイプ)で余計な水分を除いた固定化アルロースエピメラーゼ20mgをマイクロチューブに投入し、温水浴に浸して50℃で10分間反応させた。その後、95℃の沸騰浴中に5分間投入して酵素を失活させ、イオン交換樹脂による脱塩、フィルターろ過した後、HPLC(分析カラム:MCIGEL CK08EC 三菱化学社製)分析し、生成したフラクトースとアルロースの総ピーク面積に対するフラクトースのピーク面積比から、固定化アルロースエピメラーゼの比活性(U/ml-R)を求めた。
【0061】
得られた結果を表2に示す。その結果、スチレン系ポーラス型弱塩基性イオン交換樹脂及びスチレン系ゲル型弱塩基性イオン交換樹脂で固定化したアルロースエピメラーゼの比活性が高く、とりわけスチレン系ポーラス型で3級アミンを有するイオン交換樹脂、スチレン系ゲル型で3級アミンを有するイオン交換樹脂で固定化したアルロースエピメラーゼの比活性が高いという傾向が認められた。しかしながら、データには示していないが、フラクトースに固定化アルロースエピメラーゼを作用させてアルロースを連続的に生成させた別の実験においてスチレン系ポーラス型3級アミンであっても、強塩基性陰イオン交換樹脂は、生成したアルロースを分解し、純度を低くすることが認められ、固定化担体として不適当であることが分かった。
【0062】
【0063】
3.固定化担体の二次スクリーニング
次に、一次スクリーニングで比活性が高く、効率的と評価されたNo.1及び3のイオン交換樹脂について、固定化に使用するアルロースエピメラーゼの単位数を多くして、吸着固定化容量を評価した。
【0064】
アルロースエピメラーゼは大腸菌発現系を用いて生産されたものを用いた。即ち、Arthrobacter globiformis M30株由来のアルロースエピメラーゼ遺伝子をpQEベクター(QIAGEN社)に組み込み、それを大腸菌M15(QIAGEN社)に導入して発現させ、得られた菌体16gを80mlの2mM硫酸マグネシウムを含む50mMリン酸緩衝液(pH8.0)で懸濁して、超音波処理及び遠心分離により抽出及び精製した。得られたアルロースエピメラーゼの比活性は93.8U/mgであった。
【0065】
2mM硫酸マグネシウムを含む50mMリン酸緩衝液(pH8.0)で洗浄した表1に示すNo.1又は3のイオン交換樹脂1mlと450U又は1000Uのアルロースエピメラーゼを含む10mlの50mMリン酸緩衝液(pH8.0)を混合し、20℃に設定したチャンバー中でツイストミキサーを用いて24時間ゆっくり撹拌させた。その後、ピペットを用いて上清を除去し、10mlの50mMリン酸緩衝液(pH8.0)で5回洗浄し、固定化アルロースエピメラーゼとした。二次スクリーニングにおける固定化アルロースエピメラーゼの酵素活性測定方法は次の通りである。即ち、50mMのリン酸緩衝液(pH8.0)で溶解した0.2Mのアルロース溶液2500μl、50mMのリン酸緩衝液(pH8.0)2480μl及び紙製のウエス(キムワイプ)で余計な水分を除いた固定化アルロースエピメラーゼ20mgを10mlのスクリューキャップ付き試験管に投入し、温水浴に横に倒して置き、50℃で15分間振とう反応させた。5質量%の塩酸水溶液を添加してpH3.0~2.5に調整して酵素を失活させ、イオン交換樹脂による脱塩、フィルターろ過した後、HPLC(分析カラム:MCIGEL CK08EC 三菱化学社製)分析し、生成したフラクトースとアルロースの総ピーク面積に対するフラクトースのピーク面積比から、固定化アルロースエピメラーゼの比活性(U/ml-R)を求めた。
【0066】
得られた結果を表3に示す。その結果、意外なことに、負荷酵素単位数を多くした場合は、固定化アルロースエピメラーゼの比活性上昇することが認められた。そして、最も比活性の高い固定化アルロースエピメラーゼを与えるイオン交換樹脂は表1のNo.1に示すイオン交換樹脂(オルガノ社製のアンバーライトFPA95)であることも明らかとなった。
【0067】
【0068】
更に、表1のNo.1に示すイオン交換樹脂(オルガノ社製のアンバーライトFPA95)を用いて、固定化に供するアルロースエピメラーゼの負荷酵素単位を代えて、アルロースエピメラーゼの固定化を行った。具体的には、2mM硫酸マグネシウムを含む50mMリン酸緩衝液(pH8.0)で洗浄した表1に示すNo.1又は3のイオン交換樹脂1mlと、前記比活性93.8U/mgのアルロースエピメラーゼ540U、630U、900U、1350U又は1800Uを含む10mlの50mMリン酸緩衝液(pH8.0)を混合し、20℃に設定したチャンバー中でツイストミキサーを用いて24時間ゆっくり撹拌させた。その後、ピペットを用いて上清を除去し、10mlの50mMリン酸緩衝液(pH8.0)で5回洗浄して、固定化アルロースエピメラーゼを調製し、固定化アルロースエピメラーゼの比活性(U/ml-R)と固定化後に残存する酵素液の活性(U/ml)を測定した。具体的には、50mMのリン酸緩衝液(pH8.0)で溶解した0.2Mのアルロース溶液2500μl、50mMのリン酸緩衝液(pH8.0)2480μl及び紙製のウエス(キムワイプ)で余計な水分を除いた固定化アルロースエピメラーゼ20mgを10mlのスクリューキャップ付き試験管に投入し、温水浴に横に倒して置き、50℃で15分間振とう反応させた。5質量%の塩酸水溶液を添加してpH3.0~2.5に調整して酵素を失活させ、イオン交換樹脂による脱塩、フィルターろ過した後、HPLC(分析カラム:MCIGEL CK08EC 三菱化学社製)分析し、生成したフラクトースとアルロースの総ピーク面積に対するフラクトースのピーク面積比から、固定化アルロースエピメラーゼの比活性(U/ml-R)を求めた。また、2mMの硫酸マグネシウムを含む50mMのリン酸緩衝液(pH8.0)で溶解した0.2Mのアルロース溶液2500μl、2mMの硫酸マグネシウムを含む50mMのリン酸緩衝液(pH8.0)2167μl及び残存酵素液333μlをスクリューキャップ付きの試験管に投入し、温水浴に浸して50℃で15分間反応させる。5質量%の塩酸水溶液を添加してpH2.5~3.0に調整して酵素を失活させ、イオン交換樹脂による脱塩、フィルターろ過した後、HPLC分析する。生成したフルクトースのピーク面積比を用いて残存する酵素活性(U/ml)を求めた。
【0069】
得られた結果を表4に示す。この結果、負荷総タンパク質量が1.3~15mg/ml-Rの範囲内であれば、比活性が高い固定化アルロースエピメラーゼを効率的に製造できることが分かった。
【0070】
【0071】
4.他の微生物由来アルロースエピメラーゼの固定化
表1のNo.1及び3のイオン交換樹脂について、他の微生物由来アルロースエピメラーゼの吸着固定化容量を同様に評価した。
【0072】
他の微生物由来アルロースエピメラーゼは、Clostridium Cellulolyticum H10株由来アルロースエピメラーゼを用いた。即ち、Lifetechnologies社にて合成した当該アルロースエピメラーゼ遺伝子をpQEベクター(QIAGEN社)に組み込み、それを大腸菌M15(QIAGEN社)に導入して発現させ、得られた菌体16gを80mlの2mM硫酸マグネシウムを含む50mMリン酸緩衝液(pH8.0)で懸濁して、超音波処理及び遠心分離により抽出及び精製した。得られたアルロースエピメラーゼの比活性は156U/mgであった。
【0073】
2mM硫酸マグネシウムを含む50mMリン酸緩衝液(pH8.0)で洗浄した表1のNo.1及び3のイオン交換樹脂1mlと630Uのアルロースエピメラーゼ(タンパク質量で6.7mg)を含む10mlの50mMリン酸緩衝液(pH8.0)を混合し、20℃に設定したチャンバー中でツイストミキサーを用いて24時間ゆっくり撹拌させた。次いで、ピペットを用いて上清を除去し、10mlの50mMリン酸緩衝液(pH8.0)で5回洗浄し、固定化アルロースエピメラーゼを得た。2次スクリーニングと同様の方法で当該固定化アルロースエピメラーゼの比活性を測定した。
【0074】
得られた結果を表5に示す。この結果から、2次スクリーニングと同様に最も比活性の高い固定化アルロースエピメラーゼを与えるイオン交換樹脂は、表1のNo.1に示すイオン交換樹脂(オルガノ社製のアンバーライトFPA95)であった。
【0075】
【0076】
実施例2(固定化アルロースエピメラーゼの製造)
1.固定化低活性アルロースエピメラーゼの製造(比較例)
固定化低活性アルロースエピメラーゼは、次の(1)~(3)に示す工程を経て調製した。
【0077】
(1)菌体培養と菌体回収工程
0.5質量%のアルロースを含む最少塩培地(MSM培地)4LにArthrobacter globiformis M30株を植菌し、ジャーファメンターを用いて30℃で24時間、撹拌速度400rpm、通気量毎分0.10L/培地Lで培養した。この培養液から遠心分離により菌体100g(湿重量)を回収し、50mMリン酸緩衝液(pH8.0)で洗浄した。
【0078】
(2)粗酵素の抽出工程
得られた菌体100g(湿重量)を50mMリン酸緩衝液(pH8.0)1000mlに懸濁し、そこへ10g卵白リゾチーム(食品添加物、キューピー社製)及び5g塩化ナトリウムを加え、37℃で120分間加熱することにより、酵素の抽出反応を行った。その後、更に55℃で15分間の加熱を行い、遠心分離(12000rpm、30分)により得られる上清を粗酵素液とした。粗酵素液に含まれる総タンパク質1mg当りのアルロースエピメラーゼの比活性は4.9U/mgであった。
【0079】
(3)アルロースエピメラーゼの固定化
湿潤状態のイオン交換樹脂(表1のNo.4に示すイオン交換樹脂、ピュロライト社製、商品名:PUROLITE A103S)50mlをカラムに充填し、2mM硫酸マグネシウムを含む50mMリン酸緩衝液(pH8.0)で洗浄した後、前記で調製したアルロースエピメラーゼを4500U(タンパク質量で918mg)含む500mlの2mM硫酸マグネシウム含有50mMリン酸緩衝液(pH8.0)を、4℃で16時間、循環しながらイオン交換樹脂に通液して酵素を吸着させた後に、2mM硫酸マグネシウム含有50mMリン酸緩衝液(pH8.0)で洗浄して固定化アルロースエピメラーゼを得た。この時負荷したタンパク質量は18.3mg/ml-Rであった。得られた固定化アルロースエピメラーゼの比活性は56U/ml-Rであった。
【0080】
2.固定化高活性アルロースエピメラーゼの製造
アルロースエピメラーゼは大腸菌発現系を用いて生産されたものを用いた。すなわち、Arthrobacter globiformis M30株由来のアルロースエピメラーゼ遺伝子をpQEベクター(QIAGEN社)に組み込み、それを大腸菌M15株(QIAGEN社)に導入して発現させ、得られた菌体16gを160mlの2mM硫酸マグネシウムを含む50mMリン酸緩衝液(pH8.0)で懸濁して、超音波処理及び遠心分離により抽出及び精製し、アルロースエピメラーゼ液を得た。得られたアルロースエピメラーゼ液に含まれる総タンパク質1mg当りのアルロースエピメラーゼの比活性は51.9U/mgであった。
【0081】
湿潤状態のイオン交換樹脂(表1のNo.1に示すイオン交換樹脂、オルガノ社製、商品名:アンバーライトFPA95)50mlをカラムに充填し、2mM硫酸マグネシウムを含む50mMリン酸緩衝液(pH8.0)で洗浄した後、前記で調製したアルロースエピメラーゼを13500U(タンパク質量で260mg)、22500U(タンパク質量で433mg)又は31500U(タンパク質量で607mg)含む500mlの2mM硫酸マグネシウム含有50mMリン酸緩衝液(pH8.0)を、4℃で16時間、循環しながらイオン交換樹脂に負荷して酵素を吸着させ後に、2mM硫酸マグネシウム含有50mMリン酸緩衝液(pH8.0)で洗浄して固定化アルロースエピメラーゼを得た。得られた固定化アルロースエピメラーゼの比活性はそれぞれ、160U/ml-R、203U/ml-R、243U/ml-Rであった。
【0082】
実施例3(固定化アルロースエピメラーゼの連続使用)
実施例2で得られた固定化低活性アルロースエピメラーゼ(56U/ml-R)及び固定化高活性アルロースエピメラーゼ(160U/ml-R、203U/ml-R、243U/ml-R)を用いてそれぞれ連続酵素反応を実施し、酵素反応の半減期を評価した。
【0083】
ジャケット付きのガラス製カラム(内径20mm、長さ400mm)に56U/ml-Rの固定化低活性アルロースエピメラーゼを80ml、160U/ml-Rの固定化高活性アルロースエピメラーゼを28ml、203U/ml-Rの固定化高活性アルロースエピメラーゼを22ml、及び243U/ml-Rの固定化高活性アルロースエピメラーゼを18.5mlそれぞれ充填した。また、別途、2mMになるように硫酸マグネシウムを添加し、更に炭酸ナトリウムを添加してpH7.8~8.0に調整した35質量%のフラクトース溶液を準備した。前記カラムにフラクトース溶液を、ジャケット温度55℃で、上向流で連続的に合計4320時間通液した。固定化したアルロースエピメラーゼ量(1U)あたり0.007g/hのフラクトースが接触するように、固定化低活性アルロースエピメラーゼの場合は空間速度をSV=1に、160U/ml-Rの固定化高活性アルロースエピメラーゼの場合は空間速度をSV=3に、203U/ml-Rの固定化高活性アルロースエピメラーゼの場合は空間速度をSV=3.6に、243U/ml-Rの固定化高活性アルロースエピメラーゼの場合は空間速度をSV=4.3にそれぞれ設定して通液した。流出液を24時間毎に1回採取し、採取したそれぞれの液の一部を、イオン交換樹脂による脱塩及びフィルターろ過を行った後、HPLC(分析カラム:MCIGEL CK08EC 三菱化学社製)分析に供し、フラクトース及びアルロースのピーク面積に占めるアルロースの面積を求め、変換率とした。変換率を経時的にプロットして近似直線を求め、その近似直線から試験開始1日後の変換効率の半分となる日数を求めて半減期として算出した。
【0084】
得られた結果を
図1に示す。その結果、意外なことに、56U/ml-Rの固定化低活性アルロースエピメラーゼの半減期が144日であるのに対し、160U/ml-Rの固定化高活性アルロースエピメラーゼの半減期は154日、203U/ml-Rの固定化高活性アルロースエピメラーゼの半減期は207日、243U/ml-Rの固定化高活性アルロースエピメラーゼの半減期は237日であった。即ち、比活性の高い固定化アルロースエピメラーゼは半減期が長くなり、耐久性に優れ、より連続反応に適していることが明らかとなった。