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特許6990659がん幹細胞(CSC)含有細胞集団の培養のための化学的に規定された培地
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-08
(45)【発行日】2022-01-12
(54)【発明の名称】がん幹細胞(CSC)含有細胞集団の培養のための化学的に規定された培地
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/095 20100101AFI20220104BHJP
   C12N 1/00 20060101ALI20220104BHJP
【FI】
C12N5/095
C12N1/00 G
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2018544270
(86)(22)【出願日】2017-02-17
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-03-14
(86)【国際出願番号】 EP2017053666
(87)【国際公開番号】W WO2017140876
(87)【国際公開日】2017-08-24
【審査請求日】2019-01-29
(31)【優先権主張番号】16156163.4
(32)【優先日】2016-02-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】518293239
【氏名又は名称】プロモセル・ゲー・エム・ベー・ハー
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ビーラント,ハーゲン
【審査官】伊達 利奈
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-516562(JP,A)
【文献】国際公開第2014/118810(WO,A1)
【文献】特表2010-516259(JP,A)
【文献】特開2013-208104(JP,A)
【文献】特表2015-526087(JP,A)
【文献】国際公開第2013/035824(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/046797(WO,A1)
【文献】特開2010-227088(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0022789(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2008/0299540(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/00
C12N 1/00
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水、少なくとも1つの炭素源、1つ以上のビタミン、1つ以上の塩、1つ以上の脂肪酸、1つ以上の緩衝成分、及び下記の微量元素
1.5nM~15nMの範囲の濃度のアルミニウム(Al)、
1.5nM~15nMの範囲の濃度のバリウム(Ba)、
0.4nM~4nMの範囲の濃度の臭素(Br)、
4nM~40nMの範囲の濃度のカドミウム(Cd)、
1nM~10nMの範囲の濃度のコバルト(Co)、
0.5nM~5nMの範囲の濃度のクロム(Cr)、
2nM~20nMの範囲の濃度のゲルマニウム(Ge)、
0.25nM~2.5nMの範囲の濃度のヨウ素(I)、
12nM~120nMの範囲の濃度のフッ素(F)、
0.2nM~2nMの範囲の濃度のニッケル(Ni)、
0.1nM~1nMの範囲の濃度のマンガン(Mn)、
0.7nM~7nMの範囲の濃度のモリブデン(Mo)、
4nM~40nMの範囲の濃度のルビジウム(Rb)、
40nM~400nMの範囲の濃度のセレン(Se)、
0.3nM~3nMの範囲の濃度の銀(Ag)、
130nM~1.3μMの範囲の濃度のケイ素(Si)、
0.1nM~1nMの範囲の濃度のスズ(Sn)、
2nM~22nMの範囲の濃度のバナジウム(V)、及び
3.5nM~35nMの範囲の濃度のジルコニウム(Zr)
を含む、がん細胞の増殖に由来する3D球状体(3D tumorsphere)の培養のための化学的に規定された培地。
【請求項2】
いかなる成長因子も含まない、請求項1に記載の化学的に規定された細胞培養培地。
【請求項3】
1つ以上の成長因子を含む、請求項1に記載の化学的に規定された細胞培養培地。
【請求項4】
成分の全てが、がん幹細胞の増殖及び/又は維持を支持するのに十分な濃度で各々存在する、請求項1~3のいずれかに記載の化学的に規定された細胞培養培地。
【請求項5】
1つ以上の脂肪酸が、アラキドン酸、リノレン酸、リノール酸、オレイン酸、ミリスチン酸、パルチミン酸、ステアリン酸からなる群から選択される、請求項1~4のいずれかに記載の化学的に規定された培地。
【請求項6】
ポリソルベート、プルロニック(登録商標)F-68、プルロニック(登録商標)188、ポロキサマー188の群から選択される少なくとも1つの非イオン性界面活性剤をさらに含む、請求項1~5のいずれかに記載の化学的に規定された培地。
【請求項7】
2つの非イオン性界面活性剤トゥイーン(登録商標)80及びプルロニック(登録商標)F-68を含む、請求項6に記載の化学的に規定された培地。
【請求項8】
1つ以上の成長因子が、上皮成長因子(EGF)、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)、トランスフォーミング成長因子(TGF)、インターロイキン6(IL-6)、インターロイキン8(IL-8)、白血病抑制因子(LIF)からなる群から選択される、請求項3~7のいずれかに記載の化学的に規定された培地。
【請求項9】
インスリン、トランスフェリン及び/又はアルブミンをさらに含む、請求項1~8のいずれかに記載の化学的に規定された培地。
【請求項10】
緩衝成分が、HEPES、無機炭酸水素塩、無機リン酸塩、3-(N-モルホリノ)プロパンスルホン酸(MOPS)から選択される、請求項1~9のいずれかに記載の化学的に規定された培地。
【請求項11】
少なくとも3つの緩衝成分、特に、HEPES、無機炭酸水素塩、無機リン酸塩を含む、請求項1~10のいずれかに記載の化学的に規定された培地。
【請求項12】
コレステロール及び/又は酢酸トコフェロールをさらに含む、請求項1~11のいずれかに記載の化学的に規定された培地。
【請求項13】
少なくとも2つの脂肪酸を含む、請求項6~12のいずれかに記載の化学的に規定された培地。
【請求項14】
3D浮遊培養としてがん幹細胞を培養するための、請求項1~13のいずれかに記載の化学的に規定された培地の使用。
【請求項15】
がん幹細胞、及び請求項1~13のいずれかに記載の化学的に規定された培地を含む、細胞培養システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真核細胞培養のための化学的に規定された培地、並びにがん幹細胞の増殖及び/又は維持のための培地の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
全てのタイプの幹細胞は、自己複製のホールマーク及び様々な最終的に成熟細胞タイプに分化する能力を共有する。これらの機構が正常な幹細胞において厳密に制御されているがゆえに、この潜在能力は幹細胞のゆるやかな複数段階の最終分化型成熟細胞へと向かう分化プロセスの間に次第に失われる[1]。
【0003】
1863年に、病理学者Rudolf Virchowは、「未成熟細胞」ががんの起源を代表することを述べる、がん幹細胞(CSC)のモデルを最初に提唱している[2]。1997年に、Bonnetは、骨髄球性白血病における「がんドライバー細胞(cancer driver cell)」としてのCSCの特定の亜集団を記述している[3]。最近、CSCは、造血性の悪性疾患及びある範囲の固形腫瘍を含む様々ながんにおいて同定された[4]。
【0004】
腫瘍のがん幹細胞モデルにおいて、CSCは、腫瘍を自己複製及び維持する独占的な能力を有するアノイキス耐性悪性細胞の小さなサブセットとして規定される。それらは非腫瘍形成性がん細胞タイプの異質な集団に分化することができ、これらは通常、腫瘍のほとんどを構成する[5]。この状況において、悪性表現型であるにもかかわらず、CSCが、正常な幹細胞の共通のホールマークを共有し、これらの細胞に特別な生物学的な潜在能力を与えることは明らかである。
【0005】
CSCは、原発腫瘍から分離可能であり、身体を通って移動し、拡散して、そこで離れた器官に二次性の腫瘍(転移)を形成することができる。転移は、急速に起こることもあり、又は、原発腫瘍の処置が見た目上は成功した後に、数年にわたって起こることもある。伝統的な治療アプローチは、手術、照射、化学療法及び生物製剤(biologics)の手段によって、腫瘍塊をできる限り排除することを目的としている。しかし、これらの措置は、急速に分裂している腫瘍の細胞塊(より無害である)を標的とするが、疾患の根源であると推定されるCSCを根絶しないことが、積み上げられた証拠によって示唆されている。
【0006】
静止状態のCSCは、その幹細胞特性により媒介される保護機構を使用して現在の治療レジメンを逃れることが可能であるので、それによって再発が引き起こされると考えられる。したがって、今、がん研究を、特に悪性疾患を処置する新しい臨床戦略を探索する場合に、変革する。CSCは、新しい治療標的であると解され、それらを排除することによって永久的な緩解をもたらすか又は治癒さえももたらすと考えられる。これは、CSCを直接的に根絶することによって達成されてもよく、又はCSC細胞分裂を非対称性から対称性へ特異的に適合させて、その自己複製能力をブロックすることによりCSC集団の排除をもたらすことによって達成されてもよい[5、6]。これを達成するため、CSCの詳細な特徴付けを可能にする、生物学的に関連性のある培養システムが必要とされている。
【0007】
倫理的な理由のために、それらの機能性の特徴付け及び評価が、間接的な方法に頼る必要があることは、全てのタイプのヒト起源の幹細胞に共通している。
【0008】
今日では、様々なタイプの幹細胞が十分に特徴付けされており、これらの細胞を確実に識別する技術も開発されている。一例として、多能性幹細胞に関して、免疫無防備状態のマウスにおける奇形腫のインビボ形成又は全ての三胚葉へと分化する胚様体のインビトロ生成が、多能性試験の代替方法として使用されている[7]。Oct-3/4、Nanog、SSEA及びTra抗原などの多能性マーカー発現パターンに関する試験も、多能性の状態の間接的な証拠として現在広く受け入れられている(総説に関して[8]を参照されたい)。細かく規定されかつ最適化された培養システムの最近の進捗のおかげで、今日の科学者は、多能性幹細胞の完全に規定された/ヒト化誘導及び非制限的な成長を可能とすることができる。
【0009】
対照的に、CSC生物学の探索及びそれらの信頼のおける特徴付けのためのツールとして、CSCの持続性維持のための生物学的に関連性のある培養システムの開発は、依然として不十分である。したがって、複数タイプの正常な幹細胞に関して首尾よく実証されたように、様々なアプローチが、マーカー検出に基づいてCSCを特徴付けるため行われてきた。これらには、細胞内及び細胞外分子の染色、並びにアルデヒドデヒドロゲナーゼ(ALDH1)又はABCトランスポートシステムなどの小分子輸送体のような特定の細胞の酵素の活性を測定することが含まれる[9~11]。しかし、研究は、異なるがんにおけるCSCの不均一性[5、12]、並びに腫瘍形成のような機能的なCSC特徴を有する確立されたマーカーの特異性、一貫性及び相関性の欠如[5、13]によって妨げられている。したがって、CSCの検出及び特徴付けのための、頑強で、信頼のおける、とりわけ総合的な、マーカーに基づく方法は、遠い期待であるように思われてきた。結果として、現在、CSC研究における最大の障壁は、十分な数の機能的で均質なCSC集団の単離及び精製である。生物学的に有意義なインビトロ培養システムが欠如していることから、これらの困難性は増しており、ほとんどの他のタイプの幹細胞については利用可能である技術的可能性と、きわめて対照的である。
【0010】
現在、CSCは、連続的に成長する腫瘍の生成を繰り返す、それらの能力によって実験的にのみ規定することができる[5]。現在まで、CSCの分析に関して最も受け入れられている戦略は、一般に、それらの基礎的な機能的特徴に基づいている。これらには、自己複製及び多能性のような典型的な幹細胞特性、並びに連続的に伝達される腫瘍形成の可能性及びアノイキス耐性のようながんの特異的なホールマークが含まれる。しかし、また主要なモデルシステムの欠如は、研究が、代替モデルシステム及び試験によって生成される間接的な読み出された情報に頼ることを強制されることを意味している。CSCに対するゴールドスタンダードであるインビボアッセイは、免疫無防備状態マウスの同所性部位への連続的な移植である。しかし、これは労力を要し、結果の解釈が困難であることがある[5]。もっぱら機能的基準においてCSCの固有の特徴の組合せを選択的に活用する最も有意なインビトロ法の1つは、3D浮遊培養における連続的に継代可能な腫瘍様塊(tumorsphere)の形成である[5]。
【0011】
悪性腫瘍に匹敵して、確立されたがん細胞系の主な細胞塊は、がん及びそれらが由来する組織のタイプに依存する組織特異性を有する、幾分機能的に最終分化した細胞からなる。したがって、がん細胞系は、コストの理由ゆえに、及び、正常な初代細胞の限られた寿命により定められる制限を避ける普遍的な細胞の供給源であるがゆえに、広く受け入れられ十分に確立された初代培養に替わるモデルシステムとして、研究に広く使用されている。
【0012】
実際、これらの細胞系は、培養に対して無限の寿命及び増殖ポテンシャルを授ける、小さいが、安定的なCSCの亜集団(ドライバー細胞)を含有する。したがって、今日、がん細胞系は、CSC標的化アプローチを含むがん研究に関する最も重要なインビトロモデル及び明確に規定された細胞供給源も提示している[14~19;27~28]。
【0013】
これらの細胞系に使用される2つの最も顕著な培養技術は:
1)主として、様々な量のウシ胎児血清及び最終的に追加のサプリメントを補充したDMEM又はDMEM-ハムF12栄養混合物などの標準基本培地中での接着性2D培養[16]。
2)二番目に重要な培養方法は、非規定であるが、主として、DMEM-ハムF12栄養混合物に基づく無血清培地を用いる、球(腫瘍様塊)としての3D浮遊培養である[18~20]である。
【0014】
非規定培地を使用する接着性2D培養技術は、以下のCSCに関連する幾つかの欠点を有する:
a)幾つかのタイプの幹細胞について実証されたように、これらの培養培地は、その性質が規定されていないことにより、CSCを含む幹細胞特性に干渉し、幹細胞の分化を優先的に支持する場合がある[21]。したがって、非規定培地における2D培養は、初代細胞代用品として分化型細胞を得るための適切な培養方法であるが、これらの条件下で通常<1%であるCSC亜集団が目的の標的である場合には、より不適切な培養方法である。
【0015】
b)非規定培養培地は、実験的な変動性の有力な発生源である。上述の培地は、規定されかつ制御される培養環境には許容されない。標的CSCに対する細胞単離又は薬物スクリーニングのような実験手順は、培養培地の非規定成分の効果に起因して誤った結果を伝える場合がある。さらに、細胞は、そのような培養条件によって有意に変化し得る[22]。
【0016】
腫瘍様塊の3D浮遊培養技術は、初代ニューロン細胞並びに脳がん細胞、たとえばグリア芽細胞腫(連続的に継代及び増殖できるが、幹細胞プール(自己複製)及び分化ポテンシャルを維持している、いわゆる「神経幹細胞塊(neurosphere)培養」[23])の培養に関して当初開発された方法から採用された。したがって、この培養方法は、多分化能ニューロン(がん)細胞の培養に関する強力なインビトロモデルとして、このタイプの細胞の探索を有意にスピードアップさせることを促すことが、既に証明されている。
【0017】
これらの神経幹細胞塊培養に関して確立された培地は、本出願において良好に機能し、中心的な培地として、ほぼ、DMEM-ハムF12栄養混合物及び独自開発のB27(登録商標)サプリメント(Life Technologies)、インスリン、トランスフェリン、亜セレン酸ナトリウム、上皮成長因子(EGF)及び塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF、FGF-2)を補充したそのバリアントのみに基づく[23]。最終的に、アルブミン、ヒドロコルチゾン及び/又はヘパリンなどでさらなる補充を行った。3D神経幹細胞塊培養技術が、単に機能的なレベルにおいてアノイキス耐性及び自己複製能力などのニューロン(がん)幹細胞の固有の生物学的特徴を選択的に活用しているので、この培養方法が、同じ生物学的特性を共有している他のタイプのがんからのCSCの培養に有用であることも証明し得ることは明らかであった。
【0018】
結果として、「腫瘍様塊培養」と称される3D腫瘍モデルシステムとして他のがん細胞培養のための神経幹細胞塊培養システムを採用することが試みられた[18、19]。腫瘍様塊は小さい腫瘍様構造と構造的に似ており、幹細胞並びに腫瘍形成特性はこのタイプの培養において増強され得るので[20]、研究者は、2D標準培養からの細胞の代わりに腫瘍様塊由来がん細胞を使用することを目的としている。
【0019】
しかし、球培養法は、神経(がん)幹細胞の培養における全ての前述の技術的及び生物学的利点を活用することができるが、他のがん細胞タイプの腫瘍様塊培養は、この培養システムにおける幾つかの短所をなおも受ける:
1)全てのタイプのがん細胞培養が、これらの「神経幹細胞塊培養条件」下で腫瘍様塊を形成することができるとは限らない[24]。
【0020】
2)神経幹細胞塊培養とは極めて対照的に、腫瘍様塊培養の連続継代能力(serial passageability)は、多くの場合、限られた期間(3~5の連続的な継代)しか支持されないか、又は全く支持されないことすらある[24]。
【0021】
これは、望ましくない効果として、ドライバー細胞(すなわち、CSC)が、これらの培養条件下で、何らかの様式で失われることを示唆している。これらの既存の制限にもかかわらず、研究は、インビトロ腫瘍モデルとして、その都合よい特性に関連する腫瘍様塊培養のユニークな利点を採用することを要求している。したがって、科学者は、2D培養から新たに確立された又は非常に低い連続継代にある、腫瘍様塊に由来する、がん細胞を使用することを強制されることが多い。しかし、そのような変質している腫瘍様塊から由来する細胞は、機能的なCSCが既に枯渇している可能性がある。さらに、新たに確立された腫瘍様塊培養における細胞は、十連続継代の腫瘍様塊培養からの細胞と比較することができない可能性が高い。すなわち少ない継代で新たに確立された腫瘍様塊は、どちらかというと当初の血清含有2D標準培養由来の細胞の特徴を示すであろうが、十継代における連続的に継代された腫瘍様塊からの細胞は、この洗練された培養技術によって幹細胞集団へと仲介されるユニークな特徴の全てを、獲得することになる。
【0022】
それらは古典的な神経幹細胞塊培養培地の処方に遡るので、確立された市販の公開されたCSC培養培地は、広範囲のがん細胞タイプ/CSCの培養及び維持の支持に関連するこれらの強い制限をなお共有している。
【0023】
CSCは、異質であり、細胞周期の遅い細胞(slow-cycling cells)である可能性のある、デリケートなグループである[25]。そらの幹細胞特性に加えて、がん細胞に固有の遺伝的な及び代謝性の異常は、そらの拡大された培地要求性の一部の原因であり得る。実際、がん性細胞に形質転換を起こしている細胞が、それらの代謝を広範に順応させていることは周知されている[26]。
【0024】
DMEM-ハムF12栄養混合物(確立されたCSC培地に使用されるような)は、無血清培養培地及びさらに幾つかの細胞タイプに関するいくつかの化学的に規定された処方の開発に関する基礎として伝統的に使用されている。しかし、腫瘍様塊培養において観察されたように、DMEM-ハムF12栄養混合物は、より規定された処方において、がん細胞の異質なグループの広範に変動する要求を、確実に充足することはできない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0025】
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【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0026】
したがって、連続的に継代可能な腫瘍様塊としてのCSC含有細胞集団の培養のための、化学的に規定された細胞培養培地を提供することが本発明の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0027】
(発明の要旨)
この課題は、本発明の主題によって解決される。本発明は、水、少なくとも1つの炭素源、1つ以上のビタミン、1つ以上の塩、1つ以上の脂肪酸、1つ以上の緩衝成分、セレン及び1つ以上のさらなる微量元素を含む、真核細胞培養のための化学的に規定された培地を提供する。化学的に規定された培地は、1つ以上の成長因子を含み得る。あるいは、化学的に規定された培地は、成長因子を含まなくてよい。
【0028】
本発明者らは、標準化された培養環境における広範囲のCSC含有がん細胞系の3D腫瘍様塊培養を可能にする、化学的に規定された培養培地の必要な成分を同定した。本発明による化学的に規定された培地は、好ましくは、種々の脂肪酸及び種々の微量元素を含む。本発明による化学的に規定された培地は、CSC自己複製を示す3D腫瘍様塊培養の連続的な増殖及び連続的な継代能力を与える。完全に順応させた腫瘍様塊培養が確立されたら、細胞は連続的に継代することができる。
【0029】
化学的に規定された培地は、CSCの維持のためのインビトロツールとして及び腫瘍形成のモデルとしての腫瘍様塊培養技術の完全な潜在能力及び生物学的有意性の活用を可能にする。
【0030】
本発明は、がん幹細胞を培養するための、化学的に規定された培地の使用をさらに提供する。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】CSC培地1(三角形)対腫瘍様塊培養用比較CSC培地(菱形)における、3D腫瘍様塊培養の連続的な継代の間の、MCF-7乳癌細胞の累積的な集団倍加のプロットを示す。ウェル当たり4万個のMCF-7細胞(10,000/ml)を、6ウェル浮遊培養プレートを使用してそれぞれの培地中に三連でプレートに入れた。プロトコールによる酵素解離による連続的な継代を、9日毎に行った。腫瘍様塊形成及び増殖は、培養の間に維持されたが、これは十継代の後に、成長速度阻害の徴候なく中断された。
図2】化学的に規定された培地における腫瘍様塊培養の連続的な継代の間の、異なる継代数でのMCF-7細胞の腫瘍様塊形成効率(TFE)を示す。MCF-7細胞を、ウェル当たり1つの単独細胞で、96ウェルu底浮遊培養プレートに入れた。10日後、全てのウェルを、腫瘍様塊の存在について確認した。腫瘍様塊を形成した、全てのプレートに入れた細胞の割合を、計算した(%におけるTFE)。化学的に規定された培地において腫瘍様塊として培養されたMCF-7細胞に関するTFEは、一継代(P1)で2%であったが、P4において14%に及びP9において28%に増加した(バー)。
図3】PromoCell CSC培地2において培養されたMCF-7細胞の3D培養内の三次(三継代)腫瘍様塊の顕微鏡画像を示す。細胞の拡大率は、100倍である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
明細書及び特許請求の範囲明瞭かつ矛盾のない理解、並びに以下のような用語の範囲を提供するため、以下の定義が提供される。
【0033】
本明細書で使用する用語「成分(ingredient)」は、化学的起源であろうと生物学的起源であろうと、細胞培養培地に使用して、細胞の成長又は増殖を維持又は促進することができる、任意の化合物を指す。用語「成分(component)」、「栄養分(nutrient)」及び「成分(ingredient)」は、交換可能に使用することができ、全てがそのような化合物を指すことを意味する。細胞培養培地において使用される典型的な成分は、アミノ酸、塩、金属、糖、脂質、核酸、ホルモン、ビタミン、脂肪酸、タンパク質などを含む。エクスビボで細胞の成長を促進又は維持する他の成分は、特定の必要性に従って、当業者が選択することができる。
【0034】
本明細書で使用する用語「培地」、「細胞培養培地」、「培養培地」及び「培地処方」は、細胞を培養する又は成長させるための栄養溶液を指す。
【0035】
本明細書で使用する「細胞培養」は、人工的なインビトロ環境において維持され、培養され又は成長する細胞又は組織を意味する。用語「培養する(cultivating)」及び「培養する(culturing)」は、同義である。
【0036】
本明細書で使用する「化学的に規定された培地」は、全ての成分及び濃度が知られる培地である。それは、特に「無血清」であり、つまり培地は血清(たとえば、ウシ胎児血清(FBS)、ヒト血清、ウマ血清、ヤギ血清など)を含有しない。
【0037】
「培養器」は、成長している細胞のための無菌的な環境を提供することができる様々なサイズのガラス容器、プラスチック容器又は他の容器を意味する。たとえば、フラスコ、単一ウェルプレート又はマルチウェルプレート、単一ウェル皿又はマルチウェル皿、又はマルチウェルマイクロプレートを、使用することができる。
【0038】
本明細書で使用する用語「栄養補給(feeding)」及び「培地交換」は、細胞が培養される培地を置き換えることを指す。本明細書で使用する用語「継代(passage)」及び「継代すること(passaging)」は、以前の培養から新鮮な細胞培養培地にいくつか又は全ての細胞を移すことを意味する。
【0039】
本明細書で使用する用語「微量元素」は、わずか微量で細胞培養培地中に存在する部分(moiety)を指す。本発明においては、この用語は、Se、Cu、Zn、Fe、Ag、Al、Ba、Cd、Co、Cr、Ge、Se、Br、I、Mn、F、Si、V、Mo、Ni、Rb、Sn又はZrのような元素を特に指すが、これらの元素を異なる酸化状態で含む、それぞれの塩も指し得る。
【0040】
本明細書で使用する用語「塩」又は「無機塩」は、微量を超えて細胞培養培地中に存在する要素の塩を指す。
【0041】
本明細書で使用する「微量」は、特に1mg/L未満の濃度を指す。
【0042】
用語「無血清培養条件」及び「無血清条件」は、いかなるタイプの血清も排除された細胞培養条件を指す。
【0043】
当該技術分野における定義と一致して、本発明による用語「成長因子」は、細胞の成長、増殖、治癒、及び細胞の分化を刺激することができる天然に存在する物質に関し、特に、上皮成長因子(EGF)、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)又はトランスフォーミング成長因子(TGF)のような名の用語をもつ成長因子、及びインターロイキン6(IL-6)、インターロイキン8(IL-8)のようなサイトカインのクラスに関する。
【0044】
本発明は、水、少なくとも1つの炭素源、1つ以上のビタミン、1つ以上の塩、1つ以上の成長因子、1つ以上の脂肪酸、1つ以上の緩衝成分、セレン及び1つ以上のさらなる微量元素を含む、真核細胞培養のための化学的に規定された培地を提供する。
【0045】
本発明による化学的に規定された培地は、腫瘍様塊培養のための、価値あるツールである。実施例に示されるように、本発明による化学的に規定された培地は、3D腫瘍様塊の形態におけるがん細胞培養の連続的な継代を支持する。さらに、それは、異なるがん細胞タイプに対して普遍的に適用可能である。
【0046】
腫瘍の形成において、悪性疾患の発生を最終的にもたらす、異常細胞を生成させる可能性のある事象/変異の不均一性は、異なるタイプのがんを比較する場合に(及び単一腫瘍内での細胞を比較する場合においてさえも)、がん細胞において見出される同じ遺伝的な不均一性及び生理的な不均一性に反映される。全ての主要なタイプのがんの確立された細胞系は、培地要求性の変動をも示す。これらの細胞系は、これらの異なるタイプの悪性疾患の広く受け入れられるインビトロモデルを代表する。化学的に規定された培地は、異なるタイプ及び組織起源のがんにおける代謝要求性の変動の範囲を網羅する(表1)。
【0047】
さらに、本発明による化学的に規定された培地を用い、普通の浮遊培養プラスチック製品中でがん細胞培養物を成長させることが可能である。コスト的に低い付着性プラスチック製品は、必要ではない。
【0048】
1つの実施形態によると、この化学的に規定された培地の成分は、がん幹細胞の増殖及び/又は維持を支持するのに十分な濃度で各々存在する。いかなる成分の濃度も、化学的に規定された培地の総容積に基づく。
【0049】
真核細胞培養のための全ての培地と同様に、本発明による化学的に規定された培地は、水、少なくとも1つの炭素源、1つ以上のビタミン、1つ以上の塩及びセレンを含有する。これらの成分は、本明細書で「基礎培地成分」とも呼ばれる。本発明による化学的に規定された培地の調製において、基礎培地成分は、基礎培地によって提供され得る。用語「基礎培地」は、真核細胞の成長を支持し、追加の成分の補充を使用して、本発明による細胞培養のための培地を形成することができる、任意の培地を指す。基礎培地は、塩、たとえば、マグネシウム、カルシウム、ナトリウム及びカリウムの塩及び微量元素の任意選択的な塩、並びにビタミン、グルコース、緩衝系及び必須アミノ酸を供給する。本発明に使用することができる基礎培地は、ダルベッコ修正イーグル培地(DMEM)、最小必須培地(MEM)、基礎培地イーグル(BME)、RPMI1640、F-10、ハムF-12、α最小必須培地(αMEM)、Glasgowの最小必須培地(G-MEM)、及びIscoveの修正ダルベッコ培地を含むが、それらに限定されない。
【0050】
したがって、化学的に規定された培地は、少なくとも1つの炭素源を含む。炭素源は、好ましくは、グルコース、ガラクトース、マンノース及びフルクトースの群から選択されるヘキソース糖である。糖は、特にD-グルコースである。炭素源の濃度は、好ましくは、0.45g/L~4.5g/Lの範囲である。
【0051】
また、化学的に規定された培地は、1つ以上の塩を含む。塩は、好ましくは、硝酸カルシウム四水和物、塩化カルシウム、二塩化マグネシウム六水和物、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム、塩化カリウム、硝酸カリウム、塩化ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、炭酸水素ナトリウム及び酢酸ナトリウムからなる群から選択される。
【0052】
塩は、好ましくは、がん幹細胞の増殖及び/又は維持を支持するのに十分な濃度で存在する。塩は、たとえば、以下の濃度で培地中に含有される:硝酸カルシウム四水和物を12mg/L~120mg/Lの範囲、二塩化マグネシウム六水和物を9mg/L~90mg/Lの範囲、硫酸マグネシウム無水物を4mg/L~40mg/Lの範囲、塩化カリウムを80mg/L~800mg/Lの範囲、塩化ナトリウムを1g/L~10g/Lの範囲、リン酸水素二ナトリウム無水物を50mg/L~500mg/Lの範囲、及びリン酸二水素ナトリウム無水物を4mg/L~40mg/Lの範囲。
【0053】
さらに、基礎培地成分は、1つ以上のビタミンである。1つ以上のビタミンは、好ましくは、D-ビオチン、D-Caパントテン酸塩、葉酸、ニコチンアミド、ピリドキサール塩酸塩、ピリドキシン塩酸塩、リボフラビン、チアミン塩酸塩、ビタミンB12、トコフェロール酢酸塩、レチノール、コレカルシフェロール、ビタミンK1/2及びアスコルビン酸(アスコルビン酸リン酸塩を含む)から選択される。
【0054】
ビタミンは、がん幹細胞の増殖及び/又は維持を支持するのに十分な濃度で存在する。ビタミンは、たとえば、以下の濃度で培地中に含有される:D-ビオチンを0.04mg/L~0.4mg/Lの範囲、D-Caパントテン酸塩を0.3mg/L~3mg/Lの範囲、葉酸を0.3mg/L~3mg/Lの範囲、ニコチンアミドを0.3mg/L~3mg/Lの範囲、ピリドキサール塩酸塩を0.1mg/L~1mg/Lの範囲、ピリドキシン塩酸塩を0.09mg/L~0.9mg/Lの範囲、リボフラビンを0.07mg/L~0.7mg/Lの範囲、チアミン塩酸塩を0.6mg/L~6mg/Lの範囲、トコフェロール酢酸塩を8μg/L~80μg/Lの範囲、ビタミンB12を0.1mg/L~1mg/Lの範囲。
【0055】
化学的に規定された培地は、1つ以上のアミノ酸を含む。1つ以上の「アミノ酸」は、アミノ酸又はそれらの誘導体(たとえば、アミノ酸類似体)、並びにそれらのD-及びL-体を指す。1つ以上のアミノ酸は、好ましくは、グリシン、L-アラニン、L-アルギニン、L-アスパラギン、L-アスパラギン酸、L-システイン、L-シスチン、L-グルタミン酸、L-ヒスチジン、L-プロリン、L-ヒドロキシ-プロリン、L-イソロイシン、L-ロイシン、L-リジン、L-メチオニン、L-フェニルアラニン、L-プロリン、L-セリン、L-トレオニン、L-トリプトファン、L-チロシン、L-バリンから選択される。より好ましくは、化学的に規定された培地は、全てのこれらのアミノ酸を含有する。
【0056】
アミノ酸は、好ましくは、以下に規定する濃度範囲において培地に含有される:グリシンを2mg/L~20mg/Lの範囲、L-アラニンを0.5mg/L~5mg/Lの範囲、L-アラニル-L-グルタミンを230mg/L~2.3g/Lの範囲、L-アルギニン一塩酸塩を13mg/L~130mg/Lの範囲、L-アルギニン遊離塩基を15mg/L~150mg/Lの範囲、L-アスパラギン一水和物を1.2mg/L~12mg/Lの範囲、L-アスパラギン無水物を6mg/L~60mg/Lの範囲、L-アスパラギン酸3mg/L~30mg/L、L-システイン一塩酸塩一水和物を1.2mg/L~12mg/Lの範囲、L-シスチン二塩酸塩を5.5mg/L~55mg/Lの範囲、L-グルタミン酸を2mg/L~20mg/Lの範囲、L-ヒスチジン一塩酸塩一水和物を2.5mg/L~25mg/Lの範囲、L-ヒドロキシ-L-プロリンを3.5mg/L~35mg/Lの範囲、L-イソロイシンを16mg/L~160mg/Lの範囲、L-ロイシンを7mg/L~70mg/Lの範囲、L-リジン一塩酸塩を11mg/L~110mg/Lの範囲、L-メチオニンを1.8mg/L~18mg/Lの範囲、L-フェニルアラニンを7mg/L~70mg/Lの範囲、L-プロリンを6mg/L~60mg/Lの範囲、L-セリンを4mg/L~40mg/Lの範囲、L-トレオニンを5mg/L~50mg/Lの範囲、L-トリプトファンを2mg/L~20mg/Lの範囲、L-チロシン二ナトリウム塩二水和物を10mg/L~100mg/Lの範囲、L-バリンを6mg/L~60mg/Lの範囲。
【0057】
1つの実施形態によると、化学的に規定された培地は、L-アラニル-L-グルタミン及びグリシル-L-グルタミン及びN-アセチル-L-グルタミンからなる群から選択される1つ以上のジペプチドをさらに含む。
【0058】
1つ以上のビタミンは、D-ビオチン、D-Caパントテン酸塩、葉酸、ニコチンアミド、ピリドキサール塩酸塩、ピリドキシン塩酸塩、リボフラビン、チアミン塩酸塩、トコフェロール酢酸塩、ビタミンB12から選択され得る。
【0059】
微量元素セレンは、本発明による基礎成分である。好ましくは、セレン含有塩は、40nM~400nMの範囲の濃度において存在する。化学的に規定された培地は、銅(Cu)、鉄(Fe)、亜鉛(Zn)から選択される、標準的な微量元素を付加的に含み得る。化学的に規定された培地は、好ましくは、Feを含む。化学的に規定された培地は、たとえば、標準的な微量元素Cu及びFeを含み得る。あるいは、化学的に規定された培地は、Fe及びZnを含み得る。より好ましくは、化学的に規定された培地は、Cu、Fe及びZnを含む。
【0060】
標準的な微量元素は、好ましくは、がん幹細胞の増殖及び/又は維持を支持するのに十分な濃度で存在する。Znは、好ましくは、80nM~800nMの範囲において化学的に規定された培地中に存在する。Cuは、好ましくは、0.3nM~3.0nMの範囲において化学的に規定された培地中に存在する。Feは、好ましくは、150nM~1.5μMの範囲において化学的に規定された培地中に存在する。
【0061】
発明者らは、標準的な微量元素以外に少なくとも1つのさらなる微量元素の存在が、培養中の3D腫瘍様塊の成長に必要であることを観察した。これらの、もう1つのさらなる微量元素は、アルミニウム(Al)、バリウム(Ba)、臭素(Br)、カドミウム(Cd)、クロム(Cr)、コバルト(Co)、ゲルマニウム(Ge)、ヨウ素(I)、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)、フッ素(F)、モリブデン(Mo)、ルビジウム(Rb)、ケイ素(Si)、銀(Ag)、スズ(Sn)、バナジウム(V)及びジルコニウム(Zr)からなる群から選択され得る。
【0062】
発明者らは、一種を超えるさらなる微量元素の存在が、3D腫瘍様塊の成長の改善を導くことをさらに同定した。1つの実施形態によると、化学的に規定された培地は、少なくとも3つのさらなる微量元素を含む。さらにより良い結果は、少なくとも5つのさらなる微量元素で得られる。好ましくは、それは、少なくとも5つのさらなる微量元素、より好ましくは少なくとも8つのさらなる微量元素を含む。3D腫瘍様塊培養のための最高の結果は、全ての以下のさらなる微量元素を含有する培地で観察された:Al、Ba、Br、Cd、Cr、Co、Ge、I、Mn、Ni、F、Mo、Rb、Ag、Si、Sn、V及びZr。したがって、1つの実施形態によると、それは、さらなる微量元素Al、Ba、Br、Cd、Cr、Co、Ge、I、Mn、Ni、F、Mo、Rb、Ag、Si、Sn、V及びZrを含む。
【0063】
微量元素は、好ましくは、それらの参照される水溶性塩として化学的に規定された培地に導入される。たとえば、アルミニウムは、アルミニウム塩酸塩、アルミニウム硝酸塩又はアルミニウム硫酸塩として導入される。バリウムは、バリウム炭酸塩、バリウム塩酸塩又はバリウム酢酸塩として導入される。臭素は、臭化マグネシウム、臭化カリウム又は臭化ナトリウムとして導入される。カドミウムは、塩化カドミウム、硝酸カドミウム又は硫酸カドミウムとして導入される。クロムは、塩化クロム、硝酸クロム又は硫酸クロムとして導入される。コバルトは、塩化コバルト、硝酸コバルト又は硫酸コバルトとして導入される。銅は、塩化銅、硝酸銅又は硫酸銅として導入される。フッ素は、フッ化マグネシウム、フッ化カリウム又はフッ化ナトリウムとして導入される。ゲルマニウムは、酸化ゲルマニウムとして導入される。ヨウ素は、ヨウ化マグネシウム、ヨウ化カリウム又はヨウ化ナトリウムとして導入される。鉄は、塩化鉄、クエン酸鉄、硝酸鉄又は硫酸鉄として導入される。マンガンは、塩化マンガン、硝酸マンガン又は硫酸マンガンとして導入される。モリブデンは、塩化モリブデン、モリブデン酸アンモニウム又はモリブデン酸ナトリウムとして導入される。ニッケルは、塩化ニッケル、硝酸ニッケル又は硫酸ニッケルとして導入される。ルビジウムは、塩化ルビジウム、硝酸ルビジウム又は硫酸ルビジウムとして導入される。銀は、炭酸銀、硝酸銀又は硫酸銀として導入される。セレンは、亜セレン酸ナトリウム、セレン酸ナトリウム又はセレノメチオニンとして導入される。ケイ素は、ケイ酸カリウム又はケイ酸ナトリウムとして導入される。スズは、塩化スズ又はピロリン酸スズとして導入される。バナジウムは、塩化バナジウム、硫酸バナジル又はバナジン酸アンモニウムとして導入される。亜鉛は、塩化亜鉛、硝酸亜鉛又は硫酸亜鉛として導入される。ジルコニウムは、オキシ塩化ジルコニウムとして導入される。
【0064】
微量元素は、好ましくは、がん幹細胞の増殖及び/又は維持を支持するのに十分な濃度で、化学的に規定された培地中に存在する。さらなる微量元素の好ましい濃度範囲は、以下に示される。
【0065】
Seは、好ましくは、40nM~400nMの範囲において化学的に規定された培地中に存在する。Mnは、好ましくは、0.1nM~1nMの範囲において化学的に規定された培地中に存在する。Siは、好ましくは、130nM~1.3μMの範囲において化学的に規定された培地中に存在する。Moは、好ましくは、0.7nM~7nMの範囲において化学的に規定された培地中に存在する。Vは、好ましくは、2nM~22nMの範囲において化学的に規定された培地中に存在する。Niは、好ましくは、0.2nM~2nMの範囲において化学的に規定された培地中に存在する。Snは、好ましくは、0.1nM~1nMの範囲において化学的に規定された培地中に存在する。Alは、好ましくは、1.5nM~15nMの範囲において化学的に規定された培地中に存在する。Agは、好ましくは、0.3nM~3nMの範囲において化学的に規定された培地中に存在する。Baは、好ましくは、1.5nM~15nMの範囲において化学的に規定された培地中に存在する。Brは、好ましくは、0.4nM~4nMの範囲において化学的に規定された培地中に存在する。Cdは、好ましくは、4nM~40nMの範囲において化学的に規定された培地中に存在する。Coは、好ましくは、1nM~10nMの範囲において化学的に規定された培地中に存在する。Crは、好ましくは、0.5nM~5nMの範囲において化学的に規定された培地中に存在する。Fは、好ましくは、12nM~120nMの範囲において化学的に規定された培地中に存在する。Geは、好ましくは、2nM~20nMの範囲において化学的に規定された培地中に存在する。Iは、好ましくは、0.25nM~2.5nMの範囲において化学的に規定された培地中に存在する。Rbは、好ましくは、4nM~40nMの範囲において化学的に規定された培地中に存在する。Zrは、好ましくは、3.5nM~35nMの範囲において化学的に規定された培地中に存在する。
【0066】
理論に制限されることなく、1つ以上の脂肪酸は、成長させることが難しいがん細胞における脂質関連細胞成分の生成を促進することによって、腫瘍様塊培養において効果を有するはずである。未規定培地において、これらの化合物は、伝統的に血清の付加によって大量に提供される。
【0067】
本発明による1つ以上の脂肪酸は、飽和及び不飽和脂肪酸から選択され得る。1つ以上の脂肪酸は、たとえば、アラキドン酸、リノール酸、リノレン酸、ミリスチン酸、オレイン酸、パルチミン酸、ステアリン酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、サピエン酸、エライジン酸、バクセン酸、リノエライジン酸、エイコサペンタエン酸、エルカ酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸からなる群から選択され得る。化学的に規定された培地中のこれらの脂肪酸の任意で、3D腫瘍様塊培養は、達成可能であるはずである。
【0068】
本発明者らは、3D腫瘍様塊成長に対する及びそれにおける優れた結果が、脂肪酸のアラキドン酸、リノレン酸、オレイン酸、ミリスチン酸、パルチミン酸又はステアリン酸を含有する化学的に規定された培地で得られることを見出した。したがって、1つの実施形態によると、1つ以上の脂肪酸は、アラキドン酸、リノレン酸、オレイン酸、ミリスチン酸、パルチミン酸、ステアリン酸からなる群から選択される。
【0069】
実施例に示されるように、3D腫瘍様塊培養に関して優れた結果が、1つを超える脂肪酸で得られる。1つの実施形態によると、化学的に規定された培地は、少なくとも2つの脂肪酸を含む。好ましくは、それは、少なくとも3つの脂肪酸、より好ましくは少なくとも4つの脂肪酸を含む。1つの実施形態によると、それは、アラキドン酸、リノール酸、リノレン酸、ミリスチン酸、オレイン酸、パルチミン酸及びステアリン酸を含む。
【0070】
脂肪酸は、好ましくは、がん幹細胞の増殖及び/又は維持を支持するのに十分な濃度で、化学的に規定された培地中に存在する。脂肪酸の総濃度は、好ましくは、1~100μg/Lの範囲にある。個々の脂肪酸の適切な濃度範囲は、以下に示される。アラキドン酸は、好ましくは、0.8μg/L~8μg/Lの範囲において化学的に規定された培地中に存在する、リノール酸は、好ましくは、3μg/L~30μg/Lの範囲において化学的に規定された培地中に存在する、リノレン酸は、好ましくは、1.2μg/L~12μg/Lの範囲において化学的に規定された培地中に存在する、ミリスチン酸は、好ましくは、2.5μg/L~25μg/Lの範囲において化学的に規定された培地中に存在する、オレイン酸は、好ましくは、3μg/L~30μg/Lの範囲において化学的に規定された培地中に存在する、パルミチン酸は、好ましくは、2.5μg/L~25μg/Lの範囲において化学的に規定された培地中に存在する、ステアリン酸は、好ましくは、3.8μg/L~38μg/Lの範囲において化学的に規定された培地中に存在する。
【0071】
本発明による化学的に規定された培地は、特に、さらなる微量元素Al、Ba、Br、Cd、Cr、Co、Ge、I、Mn、Ni、F、Mo、Rb、Si、Ag、Sn、V及びZr、並びに脂肪酸のアラキドン酸、リノール酸、リノレン酸、ミリスチン酸、オレイン酸、パルチミン酸及びステアリン酸を含有し得る。
【0072】
本発明による化学的に規定された培地は、3D浮遊培養における剪断力を減少させるため適切な1つ以上の因子を含み得る。そのような因子は、たとえば、プルロニック(登録商標)F-68、プルロニック(登録商標)188及びポロキサマー188のような界面活性剤又はポリビニルピロリドン(PVP)又はポリエチレングリコール(PEG)のような巨大分子である。
【0073】
1つの実施形態によると、任意の本発明による化学的に規定された培地は、少なくとも1つの界面活性剤をさらに含む。界面活性剤は、脂肪酸の溶解性を改善する。界面活性剤は、3D浮遊培養における剪断力をさらに減少させ得る。界面活性剤は、好ましくは、非イオン性である。非イオン性界面活性剤は、それらが、水ベース溶液(たとえば、細胞培養培地)における親油性物質の可溶化を可能にし、細胞に対して生物が利用可能な形態において、これらの親油性物質を提供するとの利点を有する。
【0074】
界面活性剤(特に非イオン性界面活性剤)の総濃度は、好ましくは、1mg/L~1g/Lの範囲、より好ましくは50mg/L~500mg/Lの範囲、より好ましくは100~300mg/Lの範囲にある。
【0075】
非イオン性界面活性剤は、ポリソルベート、プルロニック(登録商標)F-68、プルロニック(登録商標)188及びポロキサマー188からなる群から選択され得る。1つの実施形態によると、界面活性剤は、プルロニック(登録商標)F-68である。この界面活性剤は、細胞に対して毒性がなく、剪断応力の効率的な減少化及び浮遊培養における培養器表面に対する細胞付着の阻害を可能とするとの有利な効果を有する。プルロニック(登録商標)F-68は、好ましくは、40~400mg/Lの範囲の濃度において存在する。
【0076】
1つの実施形態によると、界面活性剤は、トゥイーン(登録商標)80である。この界面活性剤は、適用される濃度において細胞に対して毒性がなく、水ベース溶液(たとえば、細胞培養培地)における親油性物質に対して強い乳化/分散効果を保有するとの有利な効果を有する。トゥイーン(登録商標)80は、好ましくは、1~10mg/Lの範囲の濃度において存在する。
【0077】
1つの実施形態によると、化学的に規定された培地は、2つの非イオン性界面活性剤トゥイーン(登録商標)80及びプルロニック(登録商標)F-68を含む。
【0078】
1つの実施形態によると、化学的に規定された培地は、成長因子無しであってもよい。すなわち、それは、上皮成長因子(EGF)、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)、若しくはトランスフォーミング成長因子(TGF)のような成長因子又はインターロイキン6(IL-6)、インターロイキン8(IL-8)のようなサイトカインとして作用するいかなる成分も含有しない。
【0079】
実施例に示されるように、本発明による化学的に規定された培地の組成物は、(特に微量元素及び脂肪酸の存在に起因して)いかなる成長因子無しであっても、3D腫瘍様塊の成長を継続するように、生理的に良好にバランスが取れている。成長因子の非存在は、腫瘍様塊培養に関する特定の実験上の問題にとって有益であることがある。
【0080】
代替的な1つの実施形態によると、化学的に規定された培地は、1つ以上の成長因子を含む。培地中の1つ以上の成長因子の存在は、増殖の増加を導く(実施例を参照されたい)。化学的に規定された培地中の1つ以上の成長因子は、上皮成長因子(EGF)、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)、トランスフォーミング成長因子(TGF)、インターロイキン6(IL-6)、インターロイキン8(IL-8)、白血病抑制因子(LIF)からなる群から選択され得る。1つの実施形態によると、化学的に規定された細胞培養培地の1つ以上の成長因子は、EGF及びbFGFである。
【0081】
1つの実施形態によると、化学的に規定された培地は、インスリン若しくはインスリン代替物、トランスフェリン若しくはトランスフェリン代替物、及び/又はアルブミン若しくはアルブミン代替物をさらに含む。これらの成分の各々は、好ましくは、がん幹細胞の増殖及び/又は維持を支持するのに十分な濃度で、化学的に規定された培地中に存在する。
【0082】
用語「アルブミン代替物」は、アルブミンの任意の機能的な均等物を指す。例は、ウシ下垂体抽出物、植物加水分解物(たとえば、コメ/大豆加水分解物)、フェチュイン、卵アルブミン、ヒト血清アルブミン(HSA)又は別の動物由来アルブミン、ニワトリ抽出物(chick extract)、ウシ胚抽出物、AlbuMAX(登録商標)I及びAlbuMAX(登録商標)IIを含むが、それらに限定されない。アルブミン代替物のさらなる例は、ポリビニルピロリドン(PVP)及びポリエチレングリコール(PEG)のようなポリマーである。
【0083】
用語「トランスフェリン代替物」は、サプリメント中のトランスフェリンの任意の機能的な均等物を指す。トランスフェリン代替物の例は、任意の鉄キレート化合物を含むが、それらに限定されない。使用され得る鉄キレート化合物は、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、エチレングリコール-bis(β-アミノエチルエーテル)-N,N,N′,N′-四酢酸(EGTA)、デフェロキサミンメシレート、ジメルカプトプロパノール、ジエチレントリアミン-五酢酸(DPTA)及びトランス-1,2-ジアミノシクロヘキサン-N,N,N′,N′-四酢酸(CDTA)、オーリントリカルボン酸の鉄キレート、並びにクエン酸酸化鉄キレート(ferric citrate chelate)及び硫酸第一鉄キレート(ferrous sulfate chelate)又はProxyferrin(登録商標)を含むが、それらに限定されない。
【0084】
用語「インスリン代替物」は、インスリンの機能的な均等物を指す。インスリン代替物の例は、インスリン様成長因子(IGF)グループ、たとえばIGF-1、IGF-2、LONG(登録商標)R3IGF-Iの成長因子並びに微量金属インスリン模倣体、たとえばZn2+を含むが、それらに限定されない。
【0085】
化学的に規定された細胞培養培地のさらなる成分は、好ましくは、以下の濃度範囲において使用される:プトレシン二塩酸塩は、好ましくは、0.015mg/L~0.15mg/Lの範囲において化学的に規定された培地中に存在する、ピルビン酸ナトリウムは、好ましくは、3.14mg/L~31.4mg/Lの範囲において化学的に規定された培地中に存在する、チオクト酸は、好ましくは、0.015mg/L~0.15mg/Lの範囲において化学的に規定された培地中に存在する、チミジンは、好ましくは、0.025mg/L~0.25mg/Lの範囲において化学的に規定された培地中に存在する、アルブミンは、好ましくは、1.2g/L~12g/Lの範囲において化学的に規定された培地中に存在する、インスリンは、好ましくは、0.1mg/L~1.0mg/Lの範囲において化学的に規定された培地中に存在する、トランスフェリンは、好ましくは、9mg/L~90mg/Lの範囲において化学的に規定された培地中に存在する、ヒポキサンチンは、好ましくは、0.16mg/L~1.6mg/Lの範囲において化学的に規定された培地中に存在する、パラ-アミノ安息香酸は、好ましくは、0.05mg/L~0.5mg/Lの範囲において化学的に規定された培地中に存在する、ミオ-イノシトールは、好ましくは、7.5mg/L~75mg/Lの範囲において化学的に規定された培地中に存在する、塩化コリンは、好ましくは、0.7mg/L~7.0mg/Lの範囲において化学的に規定された培地中に存在する。
【0086】
好ましくは、本発明による化学的に規定された培地は、アルブミン、インスリン及びトランスフェリンを含む。
【0087】
1つの実施形態によると、化学的に規定された培地は、HEPES、無機炭酸水素塩、無機リン酸塩、3-(N-モルホリノ)プロパンスルホン酸(MOPS)から選択される緩衝成分を含む。
【0088】
1つの実施形態によると、化学的に規定された培地は、少なくとも3つの緩衝成分を含有する。3つの緩衝成分は、好ましくは、HEPES、無機炭酸水素塩及び無機リン酸塩である。これらの緩衝成分の組合せにより、改善されたpH安定性(細胞代謝産物による培地酸性化の阻害の観点から)を導き、継代間の培地交換をスキップすることを可能にすると同時に細胞の健康は維持されることが見出された。これは、3D浮遊培養の効率的な維持に関して有意な技術的な利点であり、またアップスケール及び自動化を促進する。
【0089】
本発明による化学的に規定された培地は、好ましくは、付加的に1つ以上のラジカルスカベンジャーを含む。そのようなラジカルスカベンジャーの例は、グルタチオン、酢酸トコフェロール、s-メルカプトエタノール、ジチオスレイトール(DTT)、N-アセチル-L-システイン(NAC)、ビタミンL-アスコルビン酸又はその安定なリン酸塩形態である。
【0090】
1つの実施形態によると、化学的に規定された培地のさらなる成分は、好ましくは、がん幹細胞の増殖及び/又は維持を支持するのに十分な濃度における酢酸トコフェロールである。酢酸トコフェロールは、好ましくは、0.0084mg/L~0.084mg/Lの範囲において化学的に規定された培地中に存在する。ラジカルスカベンジャーとしての酢酸トコフェロールは、有害な脂質過酸化を最小限にするとの利点を有する。1つの実施形態によると、化学的に規定された培地は、2.14mg/L~21.42mg/Lの濃度においてグルタチオンを含有する。
【0091】
1つの実施形態によると、化学的に規定された培地のさらなる成分は、好ましくは、がん幹細胞の増殖及び/又は維持を支持するのに十分な濃度におけるコレステロールである。特殊なタイプの細胞の成長速度及び生合成の能力に応じて、コレステロールが成長制限栄養分であることがある。特に成長させることが難しい細胞、たとえばがん細胞は、コレステロール補充から利益をもたらされ得、効率的な細胞膜合成の手段により急速な細胞大量生産が可能となる。規定されない伝統的な培地においては、追加コレステロールは、血清補充によって供給される。コレステロールは、好ましくは、0.07mg/L~0.75mg/Lの範囲の濃度において化学的に規定された培地中に存在する、
【0092】
本発明による化学的に規定された培地は、好ましくは、B27(登録商標)のような複雑な非規定の独自開発サプリメントを含有しない。さらに、1つの実施形態によると、本発明による化学的に規定された培地は、ヒドロコルチゾンを含有しない。ヒドロコルチゾンが、幹細胞の分化を促進させ得ることが示唆される。1つの実施形態によると、細胞培養培地は、明確に規定されない動物由来物質であるヘパリンを含有しない。
【0093】
本発明の好ましい実施形態は、以下に列挙される成分を含む化学的に規定された培地である。硝酸カルシウム四水和物、二塩化マグネシウム六水和物、硫酸マグネシウム無水物、塩化カリウム、塩化ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム無水物、リン酸二水素ナトリウム無水物、Zn、Cu、Fe、Se、Mn、Si、Mo、V、Ni、Sn M、Al、Ag、Ba、Br、Cd、Co、Cr、F、Ge、I、Rb、Zr、グリシン、L-アラニン、L-アラニル-L-グルタミン、L-アルギニン一塩酸塩、L-アルギニン遊離塩基、L-アスパラギン一水和物、L-アスパラギン無水物、L-アスパラギン酸、L-システイン一塩酸塩一水和物、L-シスチン二塩酸塩、L-グルタミン酸、L-ヒスチジン一塩酸塩一水和物、L-ヒドロキシ-L-プロリン、L-イソロイシン、L-ロイシン、L-リジン一塩酸塩、L-メチオニン、L-フェニルアラニン、L-プロリン、L-セリン、L-トレオニン、L-トリプトファン、L-チロシン二ナトリウム塩二水和物、L-バリン、D-ビオチン、D-Caパントテン酸塩、葉酸、ニコチンアミド、ピリドキサール塩酸塩、ピリドキシン塩酸塩、リボフラビン、チアミン塩酸塩、酢酸トコフェロール、ビタミンB12、アラキドン酸、リノール酸、リノレン酸、ミリスチン酸、オレイン酸、パルチミン酸、ステアリン酸、プトレシン二塩酸塩、ピルビン酸ナトリウム、チオクト酸、チミジン、アルブミン、インスリン、トランスフェリン、ヒポキサンチン、パラ-アミノ安息香酸、ミオ-イノシトール、塩化コリン、HEPES、L-グルタチオン還元型、D-グルコース無水物、コレステロール、トゥイーン(登録商標)80、プルロニック(登録商標)F-68、フェノールレッドナトリウム塩、炭酸水素ナトリウム、最終体積までの水。
【0094】
別の好ましい実施形態は、同じ成分を含有するが、付加的に上皮成長因子、塩基性線維芽細胞成長因子を含有する。
【0095】
好ましくは、成分は、以下の濃度において存在する:硝酸カルシウム四水和物 6.18×10mg/L、二塩化マグネシウム六水和物 4.18×10mg/L、硫酸マグネシウム無水物 2.09×10mg/L、塩化カリウム 4.06×10mg/L、塩化ナトリウム 5.56×10mg/L、リン酸水素二ナトリウム無水物 2.48×10mg/L、リン酸二水素ナトリウム無水物 2.06×10mg/L、Zn 4.13×10nM、Cu 1.56nM、Fe 7.31×10nM、Se 1.95×10nM、Mn 5.53×10-1nM、Si 6.4×10nM、Mo 3.48nM、V 1.08×10nM、Ni 9.64×10-1nM、Sn 5.70×10-1nM、Al 7.46nM、Ag 1.40nM、Ba 7.99nM、Br 1.82nM、Cd 2.11×10nM、Co 5.50nM、Cr 2.83nM、F 6.00×10nM、Ge 9.88nM、I 1.33nM、Rb 1.90×10nM、Zr 1.80×10nM、グリシン 9.56mg/L、L-アラニン 2.54mg/L、L-アラニル-L-グルタミン 1.14×10mg/L、L-アルギニン一塩酸塩 6.31×10mg/L、L-アルギニン遊離塩基 7.60×10mg/L、L-アスパラギン一水和物 6.06mg/L、L-アスパラギン無水物 2.85×10mg/L、L-アスパラギン酸 1.65×10mg/L、L-システイン一塩酸塩一水和物 5.84mg/L、L-シスチン二塩酸塩 2.75×10mg/L、L-グルタミン酸 1.04×10mg/L、L-ヒスチジン一塩酸塩一水和物 1.32×10mg/L、L-ヒドロキシ-L-プロリン 1.85×10mg/L、L-イソロイシン 7.94×10mg/L、L-ロイシン 3.36×10mg/L、L-リジン一塩酸塩 5.61×10mg/L、L-メチオニン 9.19mg/L、L-フェニルアラニン 3.36×10mg/L、L-プロリン 3.01×10mg/L、L-セリン 2.14×10mg/L、L-トレオニン 2.44×10mg/L、L-トリプトファン 9.32mg/L、L-チロシン二ナトリウム塩二水和物 5.23×10mg/L、L-バリン 3.11×10mg/L、D-ビオチン 1.88×10-1mg/L、D-Caパントテン酸塩 1.42mg/L、葉酸 1.56mg/L、ニコチンアミド 1.58mg/L、ピリドキサール塩酸塩 5.70×10-1mg/L、ピリドキシン塩酸塩 4.41×10-1mg/L、リボフラビン 3.58×10-1mg/L、チアミン塩酸塩 2.86mg/L、酢酸トコフェロール 4.20×10-2mg/L、ビタミンB12×5.21×10-1mg/L、アラキドン酸 3.80×10-3mg/L、リノール酸 1.62×10-2mg/L、リノレン酸 6.00×10-3mg/L、ミリスチン酸 1.30×10-2mg/L、オレイン酸 1.60×10-2mg/L、パルミチン酸 1.20×10-2mg/L、ステアリン酸 1.90×10-2mg/L、プトレシン二塩酸塩 7.50×10-2mg/L、ピルビン酸ナトリウム 1.57×10mg/L、チオクト酸 7.48×10-2mg/L、チミジン 1.21×10-1mg/L、アルブミン 6.00×10mg/L、インスリン 4.97×10-1mg/L、トランスフェリン 4.45×10mg/L、ヒポキサンチン 7.98×10-1mg/L、パラ-アミノ安息香酸 2.61×10-1mg/L、ミオ-イノシトール 3.84×10mg/L、塩化コリン 3.41mg/L、HEPES 4.56×10mg/L、L-グルタチオン還元型1.07×10mg/L、D-グルコース無水物 2.25×10mg/L、コレステロール 3.74×10-1mg/L、トゥイーン(登録商標)80×3.96mg/L、プルロニック(登録商標)F-68×1.90×10mg/L、フェノールレッドナトリウム塩 5.93mg/L、炭酸水素ナトリウム 2.39×10mg/L、最終体積までの水。成長因子を有する細胞培養培地の実施形態は、1.10×10-2mg/Lの濃度において上皮成長因子及び3.60×10-2mg/Lの濃度において塩基性線維芽細胞成長因子を含有する。
【0096】
化学的に規定された培地の成分は、当技術分野において知られている任意の方法によって組み合わせることができる。
【0097】
本発明による化学的に規定された培地は、以下のプロトコールに従って調製され得る。最初に、最終的な体積の90%の細胞培養グレードの水が、混合器中に入れられる。次に、参照物質のストック溶液の計量した量又は適切な量が、連続的な撹拌下で加えられる。最終的に、体積が調整され、培地は0.22μmフィルターユニットを使用してフィルター滅菌される。
【0098】
本発明は、CSC(特にCSCを含むがん細胞培養物)を培養するための、化学的に規定された培地の使用をさらに提供する。本発明による化学的に規定された培地で培養され得るがん細胞系の例は、U-87MG、MCF-7、HT-29、HT1080、HepG2、A-549、Panc-1、LNCaP及びA-431である。
【0099】
1つの実施形態によると、CSCの培養は、3D浮遊培養として行われる。
【0100】
CSCの培養は、成長因子を含有している化学的に規定された細胞培養培地及び成長因子無しの化学的に規定された細胞培養培地の使用を用いてもよい。
【0101】
本発明は、特にがん幹細胞を含むがん細胞及び本発明による化学的に規定された培地を含む細胞培養システムにさらに関する。細胞培養システムの1つの実施形態によると、がん細胞は原発性腫瘍細胞である。細胞培養システムのさらなる実施形態によると、がん細胞は、脳、乳房、結腸、結合組織、肝臓、肺、膵臓、前立腺及び皮膚から選択される組織に由来するがん細胞系である。がん細胞系は、特に、U-87MG、MCF-7、HT-29、HT1080、HepG2、A-549、Panc-1、LNCaP及びA-431から選択される。好ましい実施形態によると、がん細胞系はMCF-7である。
【0102】
また、本発明は:
a)患者から以前に得られた腫瘍試料を用意するステップ、
b)本発明による化学的に規定された培地中で腫瘍試料を培養し、ここで、この培養により、腫瘍細胞の増殖が導かれるステップを含む、がん細胞培養を確立する方法に関する。腫瘍試料の供給は、好ましくは、ヒト又は動物の身体の手術又は処置のいかなるステップも含まない。腫瘍試料は、好ましくは、脳、乳房、結腸、結合組織、肝臓、肺、膵臓、前立腺及び皮膚から選択される任意の組織に由来する。
【0103】
さらに、本発明は:
a)3D腫瘍様塊の形態におけるがん細胞を用意するステップ、
b)本発明による化学的に規定された培地に3D腫瘍様塊を加えるステップ、
c)化学的に規定された培地において3D腫瘍様塊を培養し、この培養により、腫瘍細胞の増殖及び/又は腫瘍様塊の成長が導かれるステップを含む、3D浮遊培養においてがん細胞を増殖させる方法に関する。
【0104】
方法の1つの実施形態によると、がん細胞は、脳、乳房、結腸、結合組織、肝臓、肺、膵臓、前立腺及び皮膚から選択される組織に由来するがん細胞系である。がん細胞系は、特に、U-87MG、MCF-7、HT-29、HT1080、HepG2、A-549、Panc-1、LNCaP及びA-431から選択される。好ましい実施形態によると、がん細胞系はMCF-7である。
【0105】
この方法は、腫瘍様塊を継代することをさらに含んでもよい。
【0106】
本発明は、以下の非限定的な例によりさらに規定される。
【実施例
【0107】
材料
がん幹細胞培地
Ca++/Mg++なしのリン酸緩衝食塩水(PBS、PromoCell #C-40232)
Detach-Kit(トリプシン-EDTA及びトリプシン中和溶液;PromoCell #C-41210)
6-ウェル浮遊培養プレート(たとえば、Greiner Bio One、#657 185)
【0108】
[実施例1]
本発明によるCSC培地の調製
最初に、最終的な体積の90%の細胞培養グレードの水を、混合器中に入れる。炭酸水素ナトリウムを除き、次に、成分の貯蔵溶液の計量した量又は適切な量を、連続的な撹拌下で、およそ以下に規定されるような量で加える。全てのものを溶液に入れてから、炭酸水素ナトリウムを加え、最終的に体積を調整し、培地をフィルター滅菌する。最終的な培地は、以下の組成を有した:硝酸カルシウム四水和物 6.18×10mg/L、二塩化マグネシウム六水和物 4.18×10mg/L、硫酸マグネシウム無水物 2.09×10mg/L、塩化カリウム 4.06×10mg/L、塩化ナトリウム 5.56×10mg/L、リン酸水素二ナトリウム無水物 2.48×10mg/L、リン酸二水素ナトリウム無水物 2.06×10mg/L、Zn 4.13×10nM、Cu 1.56nM、Fe 7.31×10nM、Se 1.95×10nM、Mn 5.53×10-1nM、Si 6.4×10nM、Mo 3.48nM、V 1.08×10nM、Ni 9.64×10-1nM、Sn 5.70×10-1nM、Al 7.46nM、Ag 1.40nM、Ba 7.99nM、Br 1.82nM、Cd 2.11×10nM、Co 5.50nM、Cr 2.83nM、F 6.00×10nM、Ge 9.88nM、I 1.33nM、Rb 1.90×10nM、Zr 1.80×10nM、グリシン 9.56mg/L、L-アラニン 2.54mg/L、L-アラニル-L-グルタミン 1.14×10mg/L、L-アルギニン一塩酸塩 6.31×10mg/L、L-アルギニン遊離塩基 7.60×10mg/L、L-アスパラギン一水和物 6.06mg/L、L-アスパラギン無水物 2.85×10mg/L、L-アスパラギン酸 1.65×10mg/L、L-システイン一塩酸塩一水和物 5.84mg/L、L-シスチン二塩酸塩 2.75×10mg/L、L-グルタミン酸 1.04×10mg/L、L-ヒスチジン一塩酸塩一水和物 1.32×10mg/L、L-ヒドロキシ-L-プロリン 1.85×10mg/L、L-イソロイシン 7.94×10mg/L、L-ロイシン 3.36×10mg/L、L-リジン一塩酸塩 5.61×10mg/L、L-メチオニン 9.19mg/L、L-フェニルアラニン 3.36×10mg/L、L-プロリン 3.01×10mg/L、L-セリン 2.14×10mg/L、L-トレオニン 2.44×10mg/L、L-トリプトファン 9.32mg/L、L-チロシン二ナトリウム塩二水和物 5.23×10mg/L、L-バリン 3.11×10mg/L、D-ビオチン 1.88×10-1mg/L、D-Caパントテン酸塩 1.42mg/L、葉酸 1.56mg/L、ニコチンアミド 1.58mg/L、ピリドキサール塩酸塩 5.70×10-1mg/L、ピリドキシン塩酸塩 4.41×10-1mg/L、リボフラビン 3.58×10-1mg/L、チアミン塩酸塩 2.86mg/L、酢酸トコフェロール 4.20×10-2mg/L、ビタミンB12 5.21×10-1mg/L、アラキドン酸 3.80×10-3mg/L、リノール酸 1.62×10-2mg/L、リノレン酸 6.00×10-3mg/L、ミリスチン酸 1.30×10-2mg/L、オレイン酸 1.60×10-2mg/L、パルミチン酸 1.20×10-2mg/L、ステアリン酸 1.90×10-2mg/L、プトレシン二塩酸塩 7.50×10-2mg/L、ピルビン酸ナトリウム 1.57×10mg/L、チオクト酸 7.48×10-2mg/L、チミジン 1.21×10-1mg/L、アルブミン 6.00×10mg/L、インスリン 4.97×10-1mg/L、トランスフェリン 4.45×10mg/L、ヒポキサンチン 7.98×10-1mg/L、パラ-アミノ安息香酸 2.61×10-1mg/L、ミオ-イノシトール 3.84×10mg/L、塩化コリン 3.41mg/L、上皮成長因子 1.10×10-2mg/L、塩基性線維芽細胞成長因子 3.60×10-2mg/L、HEPES 4.56×10mg/L、L-グルタチオン還元型1.07×10mg/L、D-グルコース無水物 2.25×10mg/L、コレステロール 3.74×10-1mg/L、トゥイーン(登録商標)80 3.96mg/L、プルロニック(登録商標)F-68×1.90×10mg/L、フェノールレッドナトリウム塩 5.93mg/L、炭酸水素ナトリウム 2.39×10mg/L。
【0109】
[実施例2]
接着性2D培養から3D腫瘍様塊培養への乳癌細胞系の移行
非規定標準培養培地中での接着性2D培養から実施例1(PromoCell CSC培地)によるCSC培養培地中での3D腫瘍様塊培養への乳癌細胞系MCF-7の移行を、以下のプロトコールを使用して試験した。参照として、がん細胞系の腫瘍様塊培養のための比較のCSC培地を、同時に同じ実験で試験した。比較のCSC培地は、Promab Biotechnologies Incによって製造されたCancer Stem Premium(商標)である。この培地の正確な組成は、開示されていない。
【0110】
プロトコールにおいて、両方の培養培地、CSC培地1及び比較のCSC培地は、CSC培地と呼ばれる。
【0111】
2.1接着性細胞の回収
ヒトのCSCを含有し、接着して成長するがん細胞系(MCF-7)の細胞を、標準的な手順、すなわちDetach Kitを使用するトリプシン-EDTAでのトリプシン処理を使用して脱離させた。細胞は、80~90%集密であり、良好な状態であった。細胞懸濁液を300×gで5分間遠心分離し、上清を吸引した。細胞を、5mlのCSC培地に再懸濁した。
【0112】
2.2.細胞の計数
生存可能なMCF-7細胞を、ViaCount(商標)試薬及びMuse(商標)細胞分析計(Millipore)を使用して計数し、体積をCSC培地で調整して100万個細胞/mlの濃度を得た。
【0113】
2.3腫瘍様塊培養の設定
MCF-7細胞は、10,000個細胞/ml(すなわち、6ウェル浮遊培養プレートの各ウェルにおいて4mlのCSC培地中に40,000個の細胞)で適切な浮遊培養器に播種した。
【0114】
2.4.腫瘍様塊の成長を可能にする
培養物を、9(8~10)日インキュベートした。新鮮なCSC培地を、培養体積の50%の体積で3~4日毎に加えた。培地を、除去しなかった。
【0115】
[実施例3]
3D腫瘍様塊培養の連続的な継代
腫瘍様塊を、以下のプロトコールに従って、9(8~10)日毎にCSC培地における3D腫瘍様塊培養での連続的な継代にかけた。単一細胞への腫瘍様塊の解離及び再プレーティングの手段による継代を行った。
【0116】
3.1.腫瘍様塊の収集
腫瘍様塊を含有する培地を、血清ピペットを使用して15mlコニカルチューブに移した。
【0117】
3.2.腫瘍様塊の重力沈殿
球を、室温で10分間重力沈殿させることによって、定着させた。上清を吸引したが、約200μlをコニカルチューブに残した。
【0118】
3.3.腫瘍様塊の洗浄
沈殿(ステップ3.2)を、等しい体積のPBSで繰り返した。穏やかにPBSを吸引して約200μlをコニカルチューブに残す。
【0119】
3.4.腫瘍様塊の酵素消化
1mlのトリプシン-EDTAを、腫瘍様塊に加え、室温で3分間インキュベートした。
【0120】
3.5.残りの細胞凝集物の解体
球を、1000μlピペットチップを使用して10~15回ピペットで上げ下げして、単一細胞の懸濁液を生成した。細胞懸濁液は正常に吸引されたが、細胞を排出する場合には、ピペットチップをチューブの底でわずかに傾けた。発生した剪断力により、任意の残留する細胞凝集物の解体を促進した。視覚的な点検を行い、大きい細胞凝集物が残っていないことを確認した。粉砕直後、二倍体積のトリプシン中和溶液(TNS)を加えた。
【0121】
3.6.細胞数及び生存度の決定
新鮮なCSC培地で体積を5mlにし、細胞数及び生存度を決定した。細胞を、300×gで5分間スピンダウンした。上清を廃棄し、細胞を100万個細胞/mlで新鮮な培地に再懸濁した。
【0122】
3.7.細胞のプレーティング
細胞を、新しい浮遊培養器に10,000個細胞/mlで再播種した。これに関して、ウェル毎に4mlの培地中に40,000個細胞を有する6ウェルプレートを使用した。継続的で連続的な継代に関して、完全な手順をステップ2.4から開始して繰り返した。
【0123】
3.8.結果
図1は、行われた試験の結果を代表して要約する。2D標準培養から市販されている競合CSC培地に移したMCF-7細胞は、緩徐に成長する腫瘍様塊を生成した。しかし、これらの腫瘍様塊は、増殖を停止し、一継代前でさえも衰退(decay)が始まった。
【0124】
対照的に、ここで提示される培地において培養した腫瘍様塊は、着実に増殖し、腫瘍様塊培養として十連続の継代を経た。試験を停止したが、培養物は消耗の徴候を示さなかった。
【0125】
ここで記載した培地及び競合CSC培地中で培養した場合、匹敵する結果がHT1080線維肉腫細胞系で得られた。競合培地における腫瘍様塊培養は四連続の継代後に停止したが、ここで提示される培地における培養は、いかなる消耗の徴候もなく10回継代することができた(データは示さず)。
【0126】
[実施例4]
PromoCell CSC培地中のMCF-7細胞の腫瘍様塊形成効率(TFE)の決定
実施例1及び2により培養したMCF-7細胞に関して、腫瘍様塊形成効率(TFE)の反復決定を、腫瘍様塊培養の連続的な継代の間の異なる継代数で行った。TFEを、化学的に規定された培地を使用するMCF-7腫瘍様塊培養の連続的な一継代、四継代及び九継代(P1、P4及びP9)において決定した。
【0127】
腫瘍様塊培養の継代プロセスの間に、単一細胞が酵素解離によって得られる(実施例3、ステップ3.4を参照されたい)。腫瘍様塊解離からのP1、P4及びP9単一細胞を、2つの96ウェルu底浮遊培養プレートに入れた(100μlの化学的に規定された培地を有するウェル毎に1つの単一細胞)。5~6日後、100μlの新鮮な培地を加えた。10日後、全ての192ウェルを腫瘍様塊の存在について確認し、腫瘍様塊を形成した全てのプレートに入れた細胞の割合を計算した。腫瘍様塊形成を可能とする細胞の割合は、細胞のTFEである。
【0128】
化学的に規定された培地において腫瘍様塊として培養したMCF-7細胞に関するTFEは、P1で2%であったが、P4において14%に及びP9において28%に増加した(図2を参照されたい)。CSCだけが、単一細胞から腫瘍様塊を形成する能力を有すると考えられるので、これらの結果は、化学的に規定された培地において腫瘍様塊培養としてのMCF-7細胞の連続的な継代が時間/継代数依存的な様式で培養内でCSCの数及び割合を有意に増強することを示唆している。
【0129】
[実施例5]
PromoCell CSC培地におけるがん細胞系の3D腫瘍様塊培養
3D腫瘍様塊培養としての異なる起源のがん細胞系の維持のための提示された培地の広い適応性を検証するため、ヒト悪性疾患の最も頻出するタイプに位置する表1に列挙される細胞系を、連続的な増殖及び連続的な継代能力について試験した。試験した全ての細胞系は、腫瘍様塊培養として増殖することができ、十連続の継代の間に連続的な増殖を示した。全ての培養を、いかなる成長速度阻害の徴候もなく十継代にて中止した。
【0130】
【表1】
【0131】
[実施例6]
PromoCell CSC培地2におけるがん細胞系の3D腫瘍様塊培養
以下の実施例は、本発明による化学的に規定された培地が、成長因子の非存在下でさえも細胞系の3D腫瘍様塊成長を支持することを示す。
【0132】
第二の細胞培養培地、すなわち上皮成長因子及び塩基性線維芽細胞成長因子が含まれていない以外は、実施例1によるPromoCell CSC培地と同じ成分を有するPromoCell CSC培地2を製造した。PromoCell CSC培地2を、2つの上記成長因子を省いて、実施例1におけるPromoCell CSC培地についての記載のように製造した。
【0133】
PromoCell CSC培地2を、2つの異なるがん細胞系の腫瘍様塊成長を支持する能力において試験した。MCF-7は、細胞系であり、ヒト乳がんから由来し、細胞系HT-29は、結腸がんから由来する細胞系である。
【0134】
2つの細胞系MCF-7及びHT-29を、成長因子含有PromoCell CSC培地の代わりに成長因子無しのPromoCell CSC培地2を使用して実施例3のプロトコールに従って培養した。
【0135】
したがって、細胞系を、MCF-7について14~16日及びHT-29について10~12日の定常的な継代間隔で3回の逐次的な(連続的な)継代にかけた。両方の細胞系は、1継代毎に約三集団の倍加をともなう頑強な増殖を示した。
【0136】
第三の継代後、細胞系を分析した。培養は、成長阻害の徴候を示さなかった。MCF-7細胞培養の画像を、図3に示す(100×拡大率)。図3から、加えた成長因子(すなわち、EGF及びbFGF)の非存在下でさえも、培養が、MCF-7細胞培養における腫瘍様塊の頑強な形成及び成長を可能とすることを結論付けることができる。さらに、球を形成する細胞は、均一な及び健常な形態パターンを示す。
【0137】
培養の(いくらか減速されるとしても)持続性である増殖速度との組合せにおいて、これらの結果は、化学的に規定された培地の成長因子無しのバリアントでさえも、ヒトがん細胞系の継続的で連続的な3D腫瘍様塊培養を支持することを指し示す。
【0138】
本明細書に記載された本発明の多くの改変及び他の実施形態が、本発明が属する当業者によって想到され、前述の記載及び関連する図面において提示される教示の利益を有する。したがって、本発明は、開示する具体的な実施形態に限定されず、改変及び他の実施形態を、添付の特許請求の範囲内に含むことを意図していると理解される。本明細書において特定の用語を用いるが、これらは包括的及び説明のための意味でのみ用いられ、限定する目的のためではない。
【0139】
【表2】
図1
図2
図3