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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-08
(45)【発行日】2022-01-12
(54)【発明の名称】ドームスクリーンおよび投映施設
(51)【国際特許分類】
   G03B 21/60 20140101AFI20220104BHJP
   H04R 1/02 20060101ALI20220104BHJP
【FI】
G03B21/60
H04R1/02 103B
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018553691
(86)(22)【出願日】2017-10-05
(86)【国際出願番号】 JP2017036377
(87)【国際公開番号】W WO2018100880
(87)【国際公開日】2018-06-07
【審査請求日】2020-09-14
(31)【優先権主張番号】P 2016231782
(32)【優先日】2016-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】595086410
【氏名又は名称】コニカミノルタプラネタリウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】上田 裕昭
【審査官】小野 博之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/175747(WO,A1)
【文献】特開2015-084043(JP,A)
【文献】特開2008-107536(JP,A)
【文献】特開平03-274035(JP,A)
【文献】特開平06-332073(JP,A)
【文献】特開2002-148719(JP,A)
【文献】特開2010-262210(JP,A)
【文献】米国特許第01959434(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03B 21/00-21/10
21/12-21/30
21/56-21/64
33/00-33/16
G09B 23/00-29/14
H04N 5/66-5/74
H04R 1/00-1/08
1/12-1/14
1/42-1/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像を投映可能なドームスクリーンであって、
複数の孔を有し、光反射性を有し、半球状に形成されたドーム部と、
前記ドーム部の外側に、前記ドーム部と重ねて配置され、光反射性を有するとともに孔を有さないシート部と、
を有するドームスクリーン。
【請求項2】
外側から内側に透過する音響エネルギーの損失を示す音響透過損失が、所定の閾値以下となるように、前記複数の孔による開口率が選択される請求項1に記載のドームスクリーン。
【請求項3】
外側から内側に透過する音響エネルギーの損失を示す音響透過損失が、所定の閾値以下となるように、前記複数の孔による開口率と、前記シート部を構成する材料とが選択される請求項1に記載のドームスクリーン。
【請求項4】
前記孔の底面に位置する前記シート部上に投映された前記画像を、所定の割合以上見ることができるように、前記複数の孔の孔径と、前記ドーム部の厚さとの比率が選択される請求項1~3のいずれか一項に記載のドームスクリーン。
【請求項5】
前記孔の底面に位置する前記シート部上に投映された前記画像を、所定の割合以上見ることができるように、前記複数の孔の孔径が選択される請求項1~4のいずれか一項に記載のドームスクリーン。
【請求項6】
外側から内側に透過する音響エネルギーの損失を示す音響透過損失が、所定の閾値以下となるように選択された開口率と、選択された前記孔径とに基づいて、前記複数の孔同士の間隔が決定される請求項5に記載のドームスクリーン。
【請求項7】
前記ドーム部の光反射率と前記シート部の光反射率は、それぞれ30%以上である、請求項1に記載のドームスクリーン。
【請求項8】
画像を投映可能なドームスクリーンと、
前記ドームスクリーンに画像を投影する投映装置と、
前記ドームスクリーンの外側に配置される複数のスピーカーと、を備え、
前記ドームスクリーンは、
請求項1~7のいずれか一項に記載の投映施設。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドームスクリーンおよび投映施設に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、プラネタリウム等に用いられるドーム型のスクリーン(ドームスクリーン)として、様々な材料や仕様のスクリーンが提案されている。たとえば、特許文献1には、複数の貫通孔を有する、アルミニウム製の孔開きスクリーンが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第2566062号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記特許文献1に記載するような孔開きドームスクリーンは、スクリーン裏から、孔を介した音声などの出力を可能にする一方で、孔の位置に重なった画像を孔に欠落させてしまう。特に、孔開きスクリーンが、小さな星を投映するプラネタリウムに用いられる場合には、画像の欠落の影響が大きくなる。標準的な孔開きドームスクリーンとして、孔径約1.5~2.0mmのスクリーンが用いられる一方で、投映される最小の星の直径が、1mmにも満たない場合があるためである。したがって、小さな星が孔の範囲内に完全に重なる場合があり、この場合には、星が視認されなくなるという問題が発生する。また、星の一部が孔に重なる場合には、星は完全には欠落しないが、星全体の光量は減少するため、星の明るさが低下して見えるという問題が発生する。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、ドームスクリーン上に投映される星の欠落を防止するドームスクリーンおよび投映施設を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の上記の目的は、下記の手段によって達成される。
【0007】
(1)画像を投映可能なドームスクリーンであって、複数の孔を有し、光反射性を有し、半球状に形成されたドーム部と、前記ドーム部の外側に、前記ドーム部と重ねて配置され、光反射性を有するとともに孔を有さないシート部と、を有するドームスクリーン。
【0008】
(2)外側から内側に透過する音響エネルギーの損失を示す音響透過損失が、所定の閾値以下となるように、前記複数の孔による開口率が選択される上記(1)に記載のドームスクリーン。
【0009】
(3)外側から内側に透過する音響エネルギーの損失を示す音響透過損失が、所定の閾値以下となるように、前記複数の孔による開口率と、前記シート部を構成する材料とが選択される上記(1)に記載のドームスクリーン。
【0010】
(4)前記孔の底面に位置する前記シート部上に投映された前記画像を、所定の割合以上見ることができるように、前記複数の孔の孔径と、前記ドーム部の厚さとの比率が選択される上記(1)~(3)のいずれか一つに記載のドームスクリーン。
【0011】
(5)前記孔の底面に位置する前記シート部上に投映された前記画像を、所定の割合以上見ることができるように、前記複数の孔の孔径が選択される上記(1)~(4)のいずれか一つに記載のドームスクリーン。
【0012】
(6)外側から内側に透過する音響エネルギーの損失を示す音響透過損失が、所定の閾値以下となるように選択された開口率と、選択された前記孔径とに基づいて、前記複数の孔同士の間隔が決定される上記(5)に記載のドームスクリーン。
(7)前記ドーム部の光反射率と前記シート部の光反射率は、それぞれ30%以上である、上記(1)に記載のドームスクリーン。
(8)画像を投映可能なドームスクリーンと、前記ドームスクリーンに画像を投影する投映装置と、前記ドームスクリーンの外側に配置される複数のスピーカーと、を備え、前記ドームスクリーンは、上記(1)~(7)のいずれか一つに記載のドームスクリーンである投映施設。
【発明の効果】
【0013】
ドームスクリーンによれば、複数の孔を有し、半球状に形成されたドーム部と、ドーム部の外側に、ドーム部と重ねて配置されるシート部とを有する。したがって、ドームスクリーンは、孔の位置に入射する画像の光については、シート部により反射できるため、画像を欠落させることなく、均一な画像を映し出せる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態に係るドームスクリーンの概略構成を示す断面図である。
図2】ドームスクリーンに対する見込み角度を説明するための図である。
図3図2のAの位置を拡大した図である。
図4】比較例1のスクリーンに投映された星を示す写真である。
図5】比較例2のスクリーンに投映された星を示す写真である。
図6】実施例1のスクリーンに投映された星を示す写真である。
図7】比較例2のスクリーンの光の透過状態を示す写真である。
図8】実施例1のスクリーンの光の透過状態を示す写真である。
図9】透過損失の測定システムを示す概略図である。
図10】表3に示す音響透過損失の測定結果をグラフ化した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付した図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。なお、図面の説明において、同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張され、実際の比率とは異なる場合がある。
【0016】
図1は、本発明の実施形態に係るドームスクリーンの概略構成を示す断面図である。
【0017】
図1に示すように、ドームスクリーン投映施設1は、ドームスクリーン10、支持枠部20、投映装置30およびスピーカー40を有する。
【0018】
ドームスクリーン10は、画像を投映可能なスクリーンである。本実施形態のドームスクリーン10は、ドーム部11およびシート部12から構成される。
【0019】
ドーム部11は、複数の孔を有し、半球状に形成される部材である。ドーム部11における複数の孔は、たとえば三角格子状や正方格子状に、均等に配置される。あるいは、複数の孔は、ランダムに配置されてもよい。ドーム部11は、たとえば複数枚の台形状の板材を、後述する支持枠部20に取り付けることにより、半球状に形成されてもよい。ドーム部11は、白色や灰色等に塗装されたアルミニウム等の金属から構成されてもよいが、ドーム部11の材料は、これに限定されない。ドーム部11が有する複数の孔の仕様や、ドーム部11の材料等は、設計条件に基づいて任意に変更されてもよい。ドーム部11は、たとえば約30%以上、より具体的には、たとえば約40~60%の光反射率を有してもよい。
【0020】
シート部12は、ドーム部11の外側に、ドーム部11に重ねて配置される、光反射性を有するシート状の部材である。シート部12は、接着剤または両面テープ等によって、ドーム部11の外側に貼り付けられる。シート部12は、白色や灰色等のポリエステル製の織布、不織布、樹脂シートまたは紙等から構成されてもよいが、これらに限定されない。シート部12は、ドーム部11と同程度の光反射率を有することが望ましい。したがって、シート部12は、たとえば約30%以上、より具体的には、たとえば約40~60%の光反射率を有してもよい。シート部12は、ドーム部11を構成する複数枚の板材ごとに、貼り付けられてもよい。
【0021】
なお、本明細書では、「ドーム部11の外側」とは、ドーム部11が形成する半球の外側、すなわち、図1において支持枠部20およびスピーカー40が設置された側を意味する。また、「ドーム部11の内側」とは、ドーム部11が形成する半球の内側、すなわち、図1において投映装置30が設置された側を意味する。さらに、「ドームスクリーン10の外側」とは、ドーム部11およびシート部12から構成されるドームスクリーン10が形成する半球の外側を意味し、「ドームスクリーン10の内側」とは、ドームスクリーン10が形成する半球の内側を意味する。
【0022】
支持枠部20は、ドームスクリーン10の構造を支持する支持部材である。支持枠部20は、半球の頂点から下端に向かって放射状に伸びる、複数本の支持部材を含む。ドーム部11を構成する複数枚の板材は、シート部12を貼り付けられた後、リベットやボルト等によって、支持枠部20に取り付けられてもよい。すなわち、支持枠部20は、ドーム部11およびシート部12から構成されるドームスクリーン10の外側に配置され、シート部12は、ドーム部11と支持枠部20との間に配置されることになる。
【0023】
投映装置30は、映像を含む画像を投映する装置である。投映装置30は、図1に示すように、ドームスクリーン10の内側に設置され、ドームスクリーン10上に画像を投映する。投映装置30の設置場所や個数は、図1に示す例に限定されず、ドームスクリーン投映施設1の設計条件に基づいて、任意に変更されてもよい。
【0024】
スピーカー40は、音を出力する装置である。スピーカー40は、図1に示すように、ドームスクリーン10の外側に複数個設置される。スピーカー40が出力する音声や音楽等は、ドーム部11が有する複数の孔とシート部12とを透過して、ドームスクリーン10の内側で聴取され得る。スピーカー40の設置場所や個数は、図1に示す例に限定されず、ドームスクリーン投映施設1の設計条件に基づいて、任意に変更されてもよい。たとえば、指向性の低い、低周波数帯域の音(低音)を出力するスピーカー(ウーハー)は、ドームスクリーン10の内側に設置されてもよい。また、指向性の高い、高周波数帯域の音(高音)を出力するスピーカーは、図1に示すスピーカー40のように、ドームスクリーン10の外側に複数個設置されてもよい。
【0025】
このように、本実施形態に係るドームスクリーン10は、ドーム部11とシート部12とを組み合わせることを特徴とする。ドームスクリーン10は、投映装置30から投映される、ドーム部11の孔以外の位置に入射する光については、ドーム部11上で反射し、孔の位置に入射する光については、シート部12上で反射する。ドームスクリーン10全体の光反射率を均一にするために、ドーム部11およびシート部12は、同程度の光反射率を有することが望ましい。
【0026】
以上のように、ドームスクリーン10によれば、複数の孔を有し、半球状に形成されたドーム部11と、ドーム部11の外側に、ドーム部11と重ねて配置されるシート部12とを有する。したがって、ドームスクリーン10は、孔の位置に入射する画像の光については、シート部12により反射できるため、画像を欠落させることなく、均一な画像を映し出せる。
【0027】
また、ドームスクリーン10は、シート部12を有することにより、孔の仕様によらず画像を欠落させないため、従来の孔開きスクリーンよりも大きい開口率を有することができる。したがって、ドームスクリーン10は、ドーム部11を構成する部材を軽量にしたり、ドームスクリーン10を支持する支持枠部20を細くしたりでき、ひいては、材料費や建設の労力も削減できる。
【0028】
また、ドームスクリーン10は、従来よりも大きい開口率を有することができるため、ドーム部11を構成する板材を支持枠部20に取り付ける際に、当該板材をより容易に湾曲させられる。また、当該板材を事前に湾曲させておく場合でも、より容易に湾曲させる加工が行われ、加工の精度も向上され得る。
【0029】
また、ドームスクリーン10は、従来よりも大きい開口率を有することができるため、ドームスクリーン10の外側に設置されるスピーカー40が出力する音を、シート部12があっても従来と遜色なく、内側に透過させることができる。
【0030】
また、ドームスクリーン10は、ドーム部11とシート部12とを組み合わせて構成される。したがって、ドームスクリーン10は、ドーム部11のみをスクリーンとして用いた場合に発生する、星の欠落の問題だけでなく、シート部12のみをスクリーンとして用いた場合に発生する問題も回避できる。すなわち、ドームスクリーン10は、シート部12が柔構造であることにより、単体では半球形状を維持することが困難であったり、金属製のスクリーンと比較して汚れが目立ちやすかったりという問題も回避できる。
【0031】
なお、上記実施形態では、ドームスクリーン10の構成の一例を説明した。しかし、本実施形態はこれに限定されない。以下のような変更や改良等が可能である。
【0032】
上記実施形態では、シート部12が、画像を映し出せることについて説明した。一方で、シート部12は、光を反射させるとともに、ある程度透過もさせるように、材料を選択されてもよい。シート部12が光を透過させる場合、通常、ドームスクリーン10の内側に設置される間接照明(図示なし)を、ドームスクリーン10の外側に移動させ、ドームスクリーン10の内側を照らすことが可能になる。これにより、ドームスクリーン投映施設1は、間接照明を設置するスペースをドームスクリーン10の内側に確保しないで済み、ドームスクリーン10の外側のスペースをより効率的に活用できる。また、ドームスクリーン10の外側における照明は、ドームスクリーン10の少なくともいくつかの孔の位置に合わせてLEDを配置することによって、実現されてもよい。LEDは、ドーム部11の孔の位置に合わせて、シート部12の背面に配置されても、シート部12に置き換えて配置されてもよい。LEDが、シート部12に置き換えて配置される場合には、孔の位置に投映された画像の光を反射できるように、乳白色のキャップ等で覆われることが望ましい。
【0033】
また、複数の孔を有する孔開きスクリーンと、シート部とからなる構成は、半球状でない通常のスクリーンに対して用いられてもよい。たとえば、映画館等に設置される通常のスクリーンに対して、孔開きスクリーンとシート部とからなる構成が用いられてもよい。
【0034】
続いて、以下では、本実施形態に係るドームスクリーン10が有する複数の孔の、孔径(孔の直径)について検討する。
【0035】
(孔径の検討)
ドームスクリーン10は、複数の孔を有するが、孔径が大きすぎると、孔に布が垂れて半球形状を維持できない可能性がある。また、孔径が大きすぎると、孔から、支持枠部20や、ドーム部11同士の継ぎ目等を含む、ドームスクリーン10の外側が見えやすくなるという問題が発生する可能性がある。そこで、これらの問題を回避するために、ドーム部11の孔径は、たとえば10mm以下になるように選択されてもよい。ドーム部11の孔径の最大値は、これに限定されず、たとえば15mmまたは20mmであってもよい。
【0036】
一方で、孔径が小さすぎると、シート部12上に投映される星が見えなくなるという問題が発生する。この問題について、以下で詳細に説明する。
【0037】
図2は、ドームスクリーンに対する見込み角度を説明するための図である。図3は、図2のAの位置を拡大した図である。
【0038】
図2に示すように、Aの位置に孔があり、当該孔の位置に投映装置30により星が投映されており、Bの位置から当該星を見る場合を想定する。この場合、Bの位置からは、ドーム面の垂線Cに対して一定の角度(以下「見込み角度」と呼ぶ)αを有して星を見ることになる。このように、任意の座席位置から任意のスクリーン位置の星を見る場合には、見込み角度αを有することになる。
【0039】
しかし、図3に示すように、見込み角度αと、ドーム部11の厚さTに対する孔径Dの比率T/Dとによっては、Aの位置にある孔の底面(すなわち、Aの位置にあるシート部12)が全く見えない場合がある。図3に示す例は、矢印の始点から孔の底面を見た場合、2つの矢印の幅分だけ、孔の底面が見える様子を示している。しかし、たとえば、αが増加したり、Tが増加(すなわち、T/Dが増加)したりすると、見ることができる孔の底面積の割合が減少することがわかる。孔の底面が見えなくなると、せっかくシート部12を用いて、孔の底面にあるシート部12に星が投映されたとしても、星の欠落に対する効果が実現され得ない。したがって、αを考慮して、T/Dを適切に選択することが重要になる。
【0040】
αとT/Dとの関係に基づいて、見ることができる孔の底面積の割合を算出した例を表1に示す。
【0041】
【表1】
【0042】
表1を参照すると、上述したように、αが小さいほど、および/または、T/Dが小さいほど、見ることができる孔の底面積の割合が大きいということが確認できる。また、少なくともT/D=0.4以下であれば、α=45度という厳しい条件でも、見ることができる孔の底面積の割合を50%確保できる。
【0043】
表1に例示する関係に基づいて、孔の底面に位置するシート部12上に投映された画像を、所定の割合以上見ることができるように、T/Dが選択されてもよい。たとえば、孔の底面に投映された星を、少なくとも50%以上見ることができるように、孔径Dおよびドーム部11の厚さTは、T/D=0.4以下となるように選択されてもよい。
【0044】
また、所望のT/Dを達成できるように、孔径Dおよび厚さTの少なくとも一方が調整されてもよい。厚さTを容易に変更できない場合には、孔径Dのみが変更されればよい。たとえば、孔の底面に投映された星を、少なくとも50%以上見ることができるように、ドーム部11の厚さTが1mmであれば、孔径Dは2.5mm以上になるように選択されればよい。見込み角度αは、ドームスクリーン10の内側の座席配置や、ドームスクリーン10自体の大きさ等に基づいて、適切な範囲を定めて検討されてもよい。
【0045】
したがって、これらの孔径の検討により、本実施形態のドームスクリーン10の孔径について、適切な範囲を定めることができる。
【0046】
以下ではさらに、シート部12を有する実施例と、シート部12を有しない比較例とを比較することによって、本実施形態に係るドームスクリーン10の効果を確認する。
【0047】
(星の欠落に対する効果の確認)
本実施形態に係るドームスクリーン10の、星の欠落に対する効果を確認した。
【0048】
まず、比較例1のスクリーンとして、白色に塗装された0.6mm厚の孔開きのアルミ板(アルミパンチングパネル)を準備した。比較例1のスクリーンは、三角格子状に配置される複数の孔を有し、孔径は1.5mm、孔同士の間隔(ピッチ)は4mm、孔の開口率(開孔率)は13%であった。比較例1のスクリーンの仕様は、従来からプラネタリウムに等用いられてきた、標準的な孔開きドームスクリーンの仕様に相当する。
【0049】
また、比較例2のスクリーンとして、白色に塗装された1mm厚のアルミパンチングパネルを準備した。比較例2のスクリーンは、三角格子状に配置される複数の孔を有し、孔径は5mm、孔同士の間隔(ピッチ)は8mm、孔の開口率は35%であった。星の欠落状態をより確認しやすくするために、比較例1のスクリーンよりも孔径や開口率が大きいスクリーンを、比較例2のスクリーンとして準備した。
【0050】
また、実施例1のスクリーンとして、比較例2のスクリーンの背面側(画像を投映される側とは反対側)に、ポリエステル製の布を貼り付けたスクリーンを準備した。
【0051】
比較例1、比較例2および実施例1のスクリーンに対して、オリオン座の原版を用いた光学式の投映装置により、約4m離れた位置から、オリオン座の三つ星を投映した。
【0052】
図4は、比較例1のスクリーンに投映された星を示す写真である。図5は、比較例2のスクリーンに投映された星を示す写真である。図6は、実施例1のスクリーンに投映された星を示す写真である。
【0053】
図4図6は、投映されたオリオン座に含まれる三つ星(アルニタク、アルニラム、ミンタカ)を拡大して示している。
【0054】
図4に示すように、比較例1のスクリーンは、左下の星の周辺部と、中央の星および右上の星の中央部とを点状に欠落させた。したがって、従来から用いられてきた標準的な孔開きドームスクリーンは、孔の位置に投映された星を欠落させることを確認できた。
【0055】
また、図5に示すように、比較例2のスクリーンは、左下の星の中央部と、中央の星および右上の星の周辺部とを大きく欠落させた。星の欠落状態をより確認しやすくするために、比較例1のスクリーンよりも孔径を大きくした比較例2のスクリーンは、より顕著に星を欠落させることを確認できた。
【0056】
一方で、図6に示すように、比較例2のスクリーンに布を貼り付けた実施例1のスクリーンは、星を全く欠落させなかった。このことは、実施例1のスクリーンが、孔の位置に入射した星の部分を、布の表面により映し出せていたことを示す。したがって、アルミパンチングパネルに布を貼り付けることにより、星の欠落に対する効果が得られることを確認できた。
【0057】
同じアルミパンチングパネルを用いた比較例2と実施例1とのスクリーンを比較すると、比較例2のスクリーンは、実施例1のスクリーンに対して、左下の星を34%、中央の星を15%、左上の星を12%欠落させていた。また、比較例2のスクリーンでは、左下の星の等級は2.3、中央の星の等級は1.9、右上の星の等級は2.5となっていたが、実施例1のスクリーンでは、左下の星の等級は1.9、中央の星の等級は1.7、右上の星の等級は2.3となっていた。したがって、アルミパンチングパネルに布を貼り付けて星の欠落を防ぐことにより、星の明るさが改善されることも確認できた。
【0058】
以下では、比較例2および実施例1のスクリーンの光の透過状態の違いをさらに確認する。
【0059】
図7は、比較例2のスクリーンの光の透過状態を示す写真である。図8は、実施例1のスクリーンの光の透過状態を示す写真である。
【0060】
図7および図8は、各々のスクリーンに対して左側から光を当てた際の、光の透過状態を示している。
【0061】
図7に示すように、比較例2のスクリーンは、孔の位置において、左側から右側に光をそのまま透過させた。比較例2のスクリーンに対して、オリオン座を同時に投映したところ、孔の位置に投映された星についても、右側に透過させた。したがって、図5に示すような星の欠落は、スクリーンの背面側に光が透過することによって生じていたことを確認できた。
【0062】
一方で、図8に示すように、実施例1のスクリーンは、孔開きスクリーンの孔以外の位置に入射する光を、孔開きスクリーン上で反射し、孔の位置に入射する光を、布上で反射させていた。したがって、実施例1のスクリーンは、スクリーン全体で画像の光を反射できることを確認できた。
【0063】
(孔の開口率の検討)
上記実施例では、布を貼り付けることにより、ドームスクリーン10が星の欠落を防止できることを確認した。一方で、布を貼り付けることにより、ドームスクリーン10の外側から内側に透過する音響エネルギーの損失(音響透過損失)は、増加してしまう。そこで、音響透過損失を低減させて、ドームスクリーン10の外側に設置されたスピーカー40が出力する音を、ドームスクリーン10の内側に効率よく透過させるため、ドームスクリーン10の孔の開口率について検討した。特に、音の指向性の問題により、高周波数帯域の音を出力するスピーカーが、ドームスクリーン10の外側に設置される場合が多いため、高周波数帯域における音響透過損失を、特に重要なものとして検討した。
【0064】
孔の開口率について検討するために、まず、開口率が異なる4つの種類のアルミパンチングパネル(a)~(d)を準備した。各アルミパンチングパネルの仕様は、以下の表2に示す通りであった。そして、各パネル(a)~(d)を、後述する透過損失測定用の音響管に設置するために、適切な大きさに切り抜いて、比較例3~6として準備した。さらに、切り抜いた各パネル(a)~(d)に対してポリエステル製の布を貼り付けたパネルを、実施例2~5として準備した。なお、比較例3は、上述した比較例1のスクリーンと同じ仕様であり、比較例5は、比較例2のスクリーンと同じ仕様であり、実施例4は、実施例1のスクリーンと同じ仕様であった。
【0065】
【表2】
【0066】
続いて、ASTM E2611に準拠した方法を用いて、各実施例および各比較例の垂直入射音響透過損失を測定した。
【0067】
図9は、透過損失の測定システムを示す概略図である。
【0068】
図9に示すように、各実施例および各比較例として準備した各サンプル50を、透過損失測定用の音響管60(ブリュエル・ケアー製 Type 4206T)内に設置した。そして、オーディオアナライザ70(ブリュエル・ケアー製 Type 3560B)と、PC80にインストールされた専用のソフトウェア(ブリュエル・ケアー製 PULSE Labshop Type 7758等)と、パワーアンプ90とを用いて、音響管60に接続されたスピーカー61から音を出力した。そして、4つのマイクロホン62により、音響管60内の音圧レベルを測定した。4つのマイクロホン62の測定結果に基づいて、実施例2~5および比較例3~6の透過損失を算出した。
【0069】
実施例2~5および比較例3~6について、音響透過損失を測定した結果を表3に示す。表3には、測定周波数f=1kHzおよび5kHzにおける結果を示した。
【0070】
【表3】
【0071】
図10は、表3に示す音響透過損失の測定結果をグラフ化した図である。
【0072】
図10では、開口率の変化に基づく透過損失の変化の様子を観察しやすいように、布の有無の条件および測定周波数fの条件(すなわち、「布なし、f=1kHz」や「布あり、f=5kHz」等の条件)が同じものをまとめて、累乗近似曲線も示した。
【0073】
表3および図10における比較例3~6の測定結果が示すように、布なしの場合、f=1kHzおよび5kHzともに、開口率の増加に伴い透過損失は減少した。
【0074】
また、実施例2~5の測定結果が示すように、布ありの場合でも、f=1kHzおよび5kHzともに、開口率の増加に伴い透過損失は減少した。したがって、開口率を増加させることにより、音響特性が改善されることを確認できた。
【0075】
また、布なしの場合には、比較例3の測定結果が示すように、13%という小さい開口率でも、f=1kHzでの透過損失は0.41dB、f=5kHzでの透過損失は2.33dBであり、ある程度良好な音響特性が得られている。
【0076】
しかし、星の欠落を防止するために布を貼り付けると、実施例2の測定結果が示すように、13%という小さい開口率では、f=1kHzでの透過損失が7.33dBまで増加し、f=5kHzでの透過損失が11.92dBまで増加してしまう。したがって、布を貼り付けることを前提としている本実施形態では、孔の開口率を増加させる必要がある。
【0077】
星の欠落を防止しつつ、音響特性も確保するためには、たとえば、孔の開口率を13%から35%に増加させる必要がある。これにより、f=1kHzでの透過損失を、7.33dBから1.96dBに大きく減少させ、f=5kHzでの透過損失を、11.92dBから3.14dBに大きく減少させることができる。
【0078】
孔の開口率は、ドームスクリーン10における所望の音響透過損失に基づいて、選択されてもよい。たとえば、少なくとも一つの周波数(たとえば1kHzや5kHz等)における音響透過損失の閾値を設定することにより、所定の閾値以下の音響透過損失を達成できる孔の開口率が、ドームスクリーン10の孔の開口率として選択されてもよい。
【0079】
音響透過損失の閾値は、たとえば、1dB、2dB、3dB、4.5dB、6dB等の任意の値に設定されてもよい。f=1kHzでの音響透過損失の閾値が2dBに設定された場合、表3を参照すると、布を貼りつけつつ閾値以下の音響透過損失を達成できるのは、35%以上の開口率となる。この場合、ドームスクリーン10の孔の開口率として、35%が選択されてもよい。また、f=1kHzおよび5kHzでの音響透過損失の閾値がともに3dBに設定された場合、表3を参照すると、閾値以下の音響透過損失を達成できるのは、51%以上の開口率である。この場合、ドームスクリーン10の孔の開口率として、51%が選択されてもよい。また、f=1kHzおよび5kHzでの音響透過損失の閾値がともに4.5dBに設定された場合、表3を参照すると、閾値以下の音響透過損失を達成できるのは、23%以上の開口率である。この場合、ドームスクリーン10の孔の開口率として、23%が選択されてもよい。
【0080】
また、孔の開口率は、表3に示すような離散的な値ではなく、図10の近似曲線が示すような連続的な値に基づいて選択されてもよい。たとえば、f=1kHzおよび5kHzでの音響透過損失の閾値がともに3dBに設定された場合、図10に示す近似曲線を参照すると、閾値以下の音響透過損失を達成できるのは、約40%以上の孔の開口率であると言える。したがって、近似曲線における連続的な値に基づいて選択された開口率は、表3に示すような離散的な値に基づいて選択された51%という開口率よりも小さい値となっており、必要以上に大きな開口率を選択しないで済むことが確認できる。
【0081】
また、孔の開口率は、ドームスクリーン10における、所望の音響透過損失の変化率に基づいて選択されてもよい。たとえば、布ありの場合、図10に示すように、開口率13%から23%の間では、透過損失の変化が非常に大きく、開口率35%から51%の間では、透過損失の変化が小さい。したがって、開口率を35%以上にしても、透過損失を大きく変化させることが難しいことが確認できる。そこで、透過損失の変化率を閾値として設定することにより、閾値以上となる変化率を実現できる範囲で、開口率を変化させることができ、より効果的に音響特性を改善できる。
【0082】
また、孔の開口率は、音響透過損失ではなく、音響透過率に基づいて選択されてもよい。音響透過損失TLと、音響エネルギーの透過率である音響透過率τとは、以下の関係を有する。
【0083】
【数1】
【0084】
したがって、たとえば、音響透過率の閾値が、80%、70%、60%、50%等の任意の値に設定されてもよく、閾値以上の音響透過率を達成できる孔の開口率が、ドームスクリーン10の孔の開口率として選択されてもよい。
【0085】
なお、開口率が決定された後、決定された開口率に基づいて、孔径および孔ピッチが決定され得る。たとえば、孔の配置が三角格子の場合、開口率Rと、孔径Dと、孔ピッチPとは、以下の関係を有する。
【0086】
【数2】
【0087】
Dの範囲は、上述したように、見込み角度α等に基づいて決定され得る。したがって、所望の音響特性から決定した開口率の値をRに代入することにより、Pの範囲も決定され得る。このように、上述したような孔径の検討と、孔の開口率の検討とをともに行うことにより、ドームスクリーン10の効果を実現するためのパラメータの範囲が、順次決定され得る。
【0088】
また、ドームスクリーン10における所望の音響透過損失に基づいて、孔の開口率とともに、シート部12の材料が検討されてもよい。所望の光反射率を確保しつつ高い音響透過率を有する材料をシート部12として選択することにより、音響透過損失をさらに減少させ、音響特性をより改善できる。
【0089】
本出願は、2016年11月29日に出願された日本特許出願番号2016-231782号に基づいており、その開示内容は、参照により全体として組み入れられている。
【符号の説明】
【0090】
1 ドームスクリーン投映施設、
10 ドームスクリーン、
11 ドーム部、
12 シート部、
20 支持枠部、
30 投映装置、
40 スピーカー。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10