IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 公益財団法人鉄道総合技術研究所の特許一覧

<>
  • 特許-地盤探査装置 図1
  • 特許-地盤探査装置 図2
  • 特許-地盤探査装置 図3
  • 特許-地盤探査装置 図4
  • 特許-地盤探査装置 図5
  • 特許-地盤探査装置 図6
  • 特許-地盤探査装置 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-08
(45)【発行日】2022-01-12
(54)【発明の名称】地盤探査装置
(51)【国際特許分類】
   G01V 1/20 20060101AFI20220104BHJP
   E02D 1/02 20060101ALI20220104BHJP
【FI】
G01V1/20
E02D1/02
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019032544
(22)【出願日】2019-02-26
(65)【公開番号】P2020134483
(43)【公開日】2020-08-31
【審査請求日】2021-02-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100104064
【弁理士】
【氏名又は名称】大熊 岳人
(72)【発明者】
【氏名】仲山 貴司
(72)【発明者】
【氏名】滝川 遼
【審査官】佐野 浩樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-282115(JP,A)
【文献】特開2018-115492(JP,A)
【文献】特開2017-048604(JP,A)
【文献】特表2007-523276(JP,A)
【文献】特開2006-265993(JP,A)
【文献】米国特許第8863862(US,B1)
【文献】特開2000-147130(JP,A)
【文献】特開平5-248175(JP,A)
【文献】特開平9-043361(JP,A)
【文献】特開2004-085408(JP,A)
【文献】特開2003-121276(JP,A)
【文献】特開2017-049198(JP,A)
【文献】特開2009-186483(JP,A)
【文献】特開2010-286471(JP,A)
【文献】特開昭62-206480(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0056523(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01V 1/00 -99/00 、
E02D 1/00 - 3/115、
E21D 1/00 - 9/14 、10/00 -19/06 、
23/00 -23/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤内を伝搬するせん断波を測定してこの地盤を探査する地盤探査装置であって、
前記地盤を掘進するエレメント内から切羽に刺し込まれる刺さり込み部と、
前記地盤内を伝搬するせん断波を受信する受信圧電部とを備え、
前記受信圧電部は、前記刺さり込み部に間隔をあけて複数配置されていること、
を特徴とする地盤探査装置。
【請求項2】
請求項1に記載の地盤探査装置において、
前記刺さり込み部は、前記地盤内を掘進する鋼管の先端部から切羽に刺し込まれること、
を特徴とする地盤探査装置。
【請求項3】
請求項2に記載の地盤探査装置において、
前記刺さり込み部は、非開削で線路下に地下構造物を構築する線路下横断工法の鋼製エレメントの先端部から切羽に刺し込まれること、
を特徴とする地盤探査装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の地盤探査装置において、
前記刺さり込み部は、平面形状が逆V字状の板状部材であり、
前記受信圧電部は、前記刺さり込み部の長さ方向に沿って間隔をあけて装着されていること、
を特徴とする地盤探査装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の地盤探査装置において、
前記受信圧電部の出力信号に基づいて、前記地盤内を一方向から伝搬するせん断波の速度を演算するせん断波速度演算部を備えること、
を特徴とする地盤探査装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の地盤探査装置において、
前記受信圧電部の出力信号をこの受信圧電部の直近で増幅する増幅部を備えること、
を特徴とする地盤探査装置。
【請求項7】
請求項1から請求項6までのいずれか1項に記載の地盤探査装置において、
前記受信圧電部の出力信号に基づいて、前記地盤内の速度分布を演算する速度分布演算部を備えること、
を特徴とする地盤探査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、地盤内を伝搬するせん断波を測定してこの地盤を探査する地盤探査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
都市化の進展に伴って、既設の鉄道の直下を横断して地下構造物を非開削により建設する線路下横断工法によって施工されることが多くなっている。例えば、このような線路下横断工法では、近年、安全面や経済面の利点からエレメント推進・けん引工法と称される非開削工法が数多く採用されている。線路下横断工法では、小口径のエレメントを連続的に推進・けん引及び接合した後に、これらのエレメントで閉合される空間を掘削してトンネルを構築している。線路下横断工法では、従来の山岳工法やシールド工法とは異なり、トンネルの外郭(覆工)を先に構築するため、変位などの地上影響を抑制することができる。
【0003】
従来の線路下構造物の構築方法は、軌道を受ける工事桁を地盤上に施工する工程と、この工事桁の下方の軌道下の地盤中に鋼製エレメントを順次挿入する工程となどを含む(例えば、特許文献1参照)。この従来の線路下構造物の構築方法では、隣接する鋼製エレメント同士を継手で連結し、この鋼製エレメントで囲まれた領域を掘削して地下構造物を形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2005-282115号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の線路下構造物の構築方法では、鋼製エレメントを地盤中に挿入する前に、この地盤の土のゆるみ状態を把握する必要がある。このため、従来の地盤探査方法では、ボーリング掘削機などによって地盤を掘削して、ボーリング穴に加速度計を設置し、地盤を加振して地盤中を伝搬する弾性波を加速度計によって測定し、この弾性波の伝搬時間と伝搬距離との関係から地盤の特性を把握している。このため、従来の線路下構造物の構築方法では、地盤にボーリング穴を掘削するための大規模な工事が必要になるとともに、作業に手間がかかり工期が長くなってしまう問題点がある。
【0006】
また、従来の地盤探査方法では、地盤の地表面に打撃を加えて、地盤内を伝搬する弾性波をこの地表面に設置した複数の受振器によって受振し、地表面に設置した収録装置によって弾性波の速度を収録し解析して、地盤の土のゆるみ状態を把握している。しかし、このような従来の地盤探査方法では、地表面付近の地盤に探査範囲が制限されてしまうため、地盤内を掘進する鋼製エレメントから探査する場合には、鋼製エレメントによる弾性波の乱反射の影響があり、正確な探査が困難になってしまう問題点がある。
【0007】
この発明の課題は、短時間で簡単に地盤の特性を把握することができる地盤探査装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は、以下に記載するような解決手段により、前記課題を解決する。
なお、この発明の実施形態に対応する符号を付して説明するが、この実施形態に限定するものではない。
請求項1の発明は、図2図4に示すように、地盤(3)内を伝搬するせん断波を測定してこの地盤を探査する地盤探査装置であって、前記地盤を掘進するエレメント(6)内から切羽(4a)に刺し込まれる刺さり込み部(10)と、前記地盤内を伝搬するせん断波を受信する受信圧電部(R1~R14)とを備え、前記受信圧電部は、前記刺さり込み部に間隔(D)をあけて複数配置されていることを特徴とする地盤探査装置(9)である。
【0009】
請求項2の発明は、請求項1に記載の地盤探査装置において、図2及び図3に示すように、前記刺さり込み部は、前記地盤内を掘進する鋼管(6)の先端部から切羽に刺し込まれることを特徴とする地盤探査装置である。
【0010】
請求項3の発明は、請求項2に記載の地盤探査装置において、図1図3に示すように、前記刺さり込み部は、非開削で線路(2)下に地下構造物を構築する線路下横断工法の鋼製エレメント(6)の先端部から切羽に刺し込まれることを特徴とする地盤探査装置である。
【0011】
請求項4の発明は、請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の地盤探査装置において、図4に示すように、前記刺さり込み部は、平面形状が逆V字状の板状部材であり、前記受信圧電部は、前記刺さり込み部の長さ方向に沿って間隔(D)をあけて装着されていることを特徴とする地盤探査装置である。
【0012】
請求項5の発明は、請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の地盤探査装置において、図5及び図7に示すように、前記受信圧電部の出力信号に基づいて、前記地盤内を一方向から伝搬するせん断波の速度を演算するせん断波速度演算部(12)を備えることを特徴とする地盤探査装置である。
【0013】
請求項6の発明は、請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の地盤探査装置において、図5に示すように、前記受信圧電部の出力信号をこの受信圧電部の直近で増幅する増幅部(A1~A14)を備えることを特徴とする地盤探査装置である。
【0014】
請求項7の発明は、請求項1から請求項6までのいずれか1項に記載の地盤探査装置において、図5に示すように、前記受信圧電部の出力信号に基づいて、前記地盤内の速度分布を演算する速度分布演算部(13)を備えることを特徴とする地盤探査装置である。
【発明の効果】
【0015】
この発明によると、短時間で簡単に地盤の特性を把握することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】この発明の実施形態に係る地盤探査装置によって探査される地盤を模式的に示す斜視図である。
図2】この発明の実施形態に係る地盤探査装置による地盤探査を模式的に示す斜視図である。
図3】この発明の実施形態に係る地盤探査装置の刺さり込み部を切羽に差し込んだ状態を模式的に示す斜視図である。
図4】この発明の実施形態に係る地盤探査装置の刺さり込み部の全体図であり、(A)は正面図であり、(B)は平面図であり、(C)は側面図であり、(D)は背面図であり、(E)は受信圧電部の斜視図である。
図5】この発明の実施形態に係る地盤探査装置の構成図である。
図6】この発明の実施形態に係る地盤探査装置によって探査される地盤に線路下構造物を構築する線路下横断工法を説明するための模式図であり、(A)~(D)は各工程の模式図である。
図7】この発明の実施形態に係る地盤探査装置の波形測定部の測定過程を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して、この発明の実施形態について詳しく説明する。
図1に示す車両1は、軌道2に沿って走行する移動体である。車両1は、電車、気動車、機関車、客車又は貨車などの鉄道車両である。軌道2は、車両1が走行する通路(線路)である。軌道2は、例えば、砂利又は砕石などの粒状体によって構成された道床上に左右一対のレールと支持体とによって構成された軌きょうを敷設した有道床軌道である。路盤3は、軌道2を支持する基盤である。路盤3は、車両1が通過するときに発生する荷重を支持する構造物である。路盤3は、例えば、良質な自然土などを用いて締め固められた土路盤などである。
【0018】
図1図3に示す地盤4は、構造物の基礎を支える地面である。図1に示す地盤4は、良質な自然土又は岩石を主材料として原地盤よりも高く盛り上げた盛土などの土構造物による人工地盤であり、トンネル工事にあたって対象となる地山である。地盤4は、図1に示すように、車両1が安定して走行可能なように軌道2及び路盤3を安全に支持している。図2及び図3に示す切羽(鏡面)4aは、エレメント6の掘削方向における最奥部の掘削の正面である。
【0019】
図1に示す土留工5は、地盤4の崩壊を防ぐための構造物である。土留工5は、地盤4内にエレメント6を掘進させて地下構造物を構築するときに、周囲の地盤4の安定性を確保するために施工される。土留工5は、例えば、鋼矢板工法によって地盤4に打ち込まれている鋼矢板(シートパイル)などである。
【0020】
図1図3に示すエレメント6は、地盤4を掘進する部材である。エレメント6は、線路下横断工法によって構築されるトンネルの構成要素である。ここで、線路下横断工法(線路下横断工法)とは、非開削で線路下に線路下構造物を構築する工法である。線路下構造物とは、軌道2の直下の地盤4中を横断する道路又は水路などの構造物である。エレメント6は、例えば、断面形状が四角形であり、施工条件によって長さが変わるが、長さ3m×高さ1m×幅1m程度の大きさの角形鋼管などの鋼製エレメントである。エレメント6は、構築されるトンネルの延長に合わせて、複数本を継ぎ足して使用される。エレメント6は、このエレメント6の先端部に切羽4aに貫入される刃口などを備えている。エレメント6は、図1に示すように、推進装置によって推進又はけん引装置によって矢印方向に引き込まれて、軌道2の下方を横切るように発進側から到達側に向かって地盤4内に挿入される。エレメント6は、隣接するエレメント6同士が継手部によって接合される。
【0021】
図5に示す地盤探査システム7は、地盤4内を伝搬するせん断波を測定して地盤4を探査するシステムである。地盤探査システム7は、図2及び図5に示す加振装置8と、図5に示す地盤探査装置9などを備えている。地盤探査システム7は、加振装置8によって地盤4を加振させたときに、地盤4内を伝搬するせん断波の速度を地盤探査装置9によって測定して、地盤探査装置9によって切羽4aを探査し地盤4の特性を把握する。ここで、せん断波とは、せん断応力の変化として伝搬する波動(弾性波)である。せん断波速度とは、せん断波の伝搬距離及び伝搬時間から演算した速度である。
【0022】
図2及び図5に示す加振装置8は、地盤4を加振する装置である。加振装置8は、地盤4の表面の加振点Pに打撃を加えて地盤4を振動させる。加振装置8は、使用者の操作によって地盤4に打撃力(加振力)を作用させ、地盤4にせん断波(弾性波)を発生させるハンマーなどである。
【0023】
図5に示す地盤探査装置9は、地盤4内を伝搬するせん断波を測定して地盤4を探査する装置である。地盤探査装置9は、加振装置8によって地盤4を加振させたときに、地盤4内を伝搬するせん断波の速度を測定して切羽4aを探査し、地盤4の特性を把握する。地盤探査装置9は、図2図4に示す刺さり込み部10と、図2図5に示す受信圧電部(受信側圧電部)R1~R14と、図5に示す増幅部A1~A14と、波形測定部11と、せん断波速度演算部12と、速度分布演算部13と、情報記憶部14と、表示部15と、制御部16などを備えている。地盤探査装置9は、例えば、エレメント6の坑内に設置されている。
【0024】
図2図4に示す刺さり込み部10は、エレメント6内から切羽4aに刺し込まれる部分である。刺さり込み部10は、切羽4aに刺し込まれたときに破損しないような十分な強度を有する所定の幅及び厚さの金属製の部材であり、平面形状が逆V字状の板状部材である。刺さり込み部10は、図2及び図3に示すように、鋼製のエレメント6の先端部から切羽4aに刺し込まれる。刺さり込み部10は、エレメント6内から作業者が切羽4aを掘削するときに作業者によって使用されるスコップと同一構造であり、エレメント6内から作業者によって把持されて切羽4aに刺し込まれる。刺さり込み部10は、頂角が所定の角度に形成された尖った先端部10aと、この先端部10aから分岐して後退する後退部10b,10cなどを備えている。
【0025】
図2図5に示す受信圧電部R1~R14は、地盤4内を伝搬するせん断波を受信する手段である。受信圧電部R1~R14は、いずれも同一構造であり、図2図4に示すように刺さり込み部10に間隔Dをあけて複数配置されている。受信圧電部R1~R14は、刺さり込み部10の長さ方向に沿って間隔Dをあけて装着されており、受信圧電部R1~R7は後退部10b側に配置されており、受信圧電部R8~R14は後退部10c側に配置されている。受信圧電部R1~R14は、圧電セラミックのような振動子(ベンダーエレメント)であり、長さ20mm×幅10mm×厚さ0.5~2mm程度の大きさに形成されている。受信圧電部R1~R14は、地盤4内を伝搬するせん断波を受けると微小変形(振動)して電圧を発生する。受信圧電部R1~R14は、絶縁及び防水のためエポキシ樹脂などの被覆材によって被覆されている。受信圧電部R1~R14は、地盤4内を伝搬するせん断波を受信波として受信して、この受信波をせん断波受信信号(せん断波受信情報)として増幅部A1~A14に出力する。受信圧電部R1~R14は、図4(E)に示すように、一方の端部が刺さり込み部10の内側縁部に固定されており、刺さり込み部10に片持ち支持されている。受信圧電部R1~R14は、この受信圧電部R1~R14の表面に対して垂直方向(厚さ方向(面法線方向))D1に撓み易いため、地盤4内を垂直面内で伝搬するせん断波に対して感度(指向性)が高くなる。一方、受信圧電部R1~R14は、この受信圧電部R1~R14の表面に対して平行な水平方向(幅方向(面方向))D2に撓み難いため、地盤4内を水平面内で伝搬するせん断波に対して感度(指向性)が低くなる。
【0026】
増幅部A1~A14は、受信圧電部R1~R14の直近で受信圧電部R1~R14の出力信号を増幅する手段である。増幅部A1~A14は、例えば、外形が10mm×10mm程度の受信圧電部R1~R14用の小型計装アンプなどを備えている。増幅部A1~A14は、受信圧電部R1~R14が出力するせん断波受信信号(電気信号)を増幅し、増幅後のせん断波受信信号を制御部16に出力する。増幅部A1~A14は、小型かつ薄型の計装アンプを主体として抵抗及びコンデンサなどによって構成された電気回路である。増幅部A1~A14は、絶縁及び防水のためエポキシ樹脂などの被覆材によって被覆されている。
【0027】
波形測定部11は、受信圧電部R1~R14が出力するせん断波受信信号の波形を測定する手段である。波形測定部11は、増幅部A1~A14が出力するせん断波受信信号の波形に基づいて、地盤4内にせん断波が発生してから、受信圧電部R1~R14がこの地盤4内を伝搬するせん断波を受信するまでの伝搬時間を測定する。波形測定部11は、地盤4内を一方向から伝搬するせん断波の波形を測定する。波形測定部11は、例えば、加振点Pと各受信圧電部R1~R14とを結ぶ直線上の伝搬経路を伝搬して、加振点Pから各受信圧電部R1~R14まで伝搬するせん断波の伝搬時間(到達時間)を測定する。波形測定部11は、地盤4内で反射及び回折するせん断波、並びにエレメント6付近の土中を伝搬するせん断波などを除外し、加振点Pから各受信圧電部R1~R14まで一方向の伝搬経路で伝搬するせん断波に基づいて伝搬時間を測定する。波形測定部11は、受信圧電部R1~R14毎にせん断波の伝搬時間を測定し、この測定結果を伝搬時間信号(伝搬時間情報)として制御部16に出力する。
【0028】
せん断波速度演算部12は、地盤4内を伝搬するせん断波の速度を演算する手段である。せん断波速度演算部12は、せん断波の伝搬距離とせん断波の伝搬時間とに基づいて、せん断波速度を演算する。せん断波速度演算部12は、波形測定部11が出力する伝搬時間信号に基づいて、地盤4内を一方向の伝搬経路から伝搬するせん断波の速度を演算する。せん断波速度演算部12は、例えば、図2及び図5に示すように、加振点Pで発生したせん断波を受信圧電部R1~R14が受信したときに、加振点Pから各受信圧電部R1~R14までの距離L1~L14を、各距離L1~L14を伝搬するせん断波の伝搬時間t1~t14によって除算して、せん断波速度V1~V14を演算する。せん断波速度演算部12は、演算後のせん断波速度V1~V14をせん断波速度信号(せん断波速度情報)として制御部16に出力する。
【0029】
速度分布演算部13は、受信圧電部R1~R14の出力信号に基づいて、地盤4内の速度分布を演算する手段である。速度分布演算部13は、例えば、弾性波トモグラフィを使用して地盤4内のせん断波の速度分布を視覚的な断面画像として生成する。速度分布演算部13は、せん断波速度演算部12が演算するせん断波速度に基づいて地盤4内の速度分布を演算する。速度分布演算部13は、加振点Pと受信圧電部R1~R14との間を伝搬するせん断波の走時を計測して、走時群を満足する速度分布を2次元のセルで繰り返し計算によって再構成する弾性波トモグラフィの解析方法を実行する。速度分布演算部13は、測定されたせん断波速度(測定値)と、設定された初期速度モデル(理論値)との差が収束する速度構造を最終モデルとしてコンター図に出力する。速度分布演算部13は、演算後の速度分布を速度分布信号(速度分布情報)として制御部16に出力する。
【0030】
情報記憶部14は、地盤探査装置9に関する種々の情報を記憶する手段である。情報記憶部14は、例えば、加振点Pと受信圧電部R1~R14との間の距離L1~L14に関する伝搬距離情報と、受信圧電部R1~R14の間隔Dに関する間隔情報と、隣接する受信圧電部R1~R14間をせん断波が伝搬する伝搬時間差Δtに関する伝搬時間差情報と、加振点Pから各受信圧電部R1~R14まで一方向の伝搬経路を伝搬するせん断波の基準せん断波速度に関する基準せん断波速度情報と、加振点Pから受信圧電部R1~R14までせん断波が伝搬する伝搬時間に関する伝搬時間情報と、せん断波速度演算部12が演算するせん断波速度に関するせん断波速度情報と、これらのせん断波速度情報に基づいて演算した速度分布情報などを記憶する。情報記憶部14は、例えば、地盤4内を伝搬するせん断波を測定して地盤4を探査するための地盤探査プログラムなどを記憶する。表示部15は、地盤探査装置9に関する種々の情報を表示する手段である。表示部15は、例えば、走時解析結果などを画面上に表示する。
【0031】
制御部16は、地盤探査装置9に関する種々の動作を制御する手段である。制御部16は、情報記憶部14が記憶する地盤探査プログラムを読み出して一連の地盤探査処理を実行する。制御部16は、例えば、伝搬距離情報、伝搬時間差情報及び基準せん断波速度情報を情報記憶部14から読み出して波形測定部11に出力したり、波形測定部11が出力する伝搬時間情報を情報記憶部14に出力したり、伝搬時間情報の記憶を情報記憶部14に指令したり、伝搬時間情報及び伝搬距離情報を情報記憶部14から読み出してせん断波速度演算部12に出力したり、せん断波速度演算部12にせん断波速度の演算を指令したり、せん断波速度演算部12が出力するせん断波速度情報を情報記憶部14に出力したり、せん断波速度情報の記憶を情報記憶部14に指令したり、せん断波速度情報を情報記憶部14から読み出して速度分布演算部13に出力したり、速度分布演算部13に速度分布の演算を指令したり、速度分布演算部13が出力する速度分布情報を情報記憶部14に出力したり、速度分布情報の記憶を情報記憶部14に指令したり、せん断波速度又は速度分布の表示を表示部15に指令したりする。制御部16には、加振装置8の打撃検出部8a、波形測定部11、せん断波速度演算部12、速度分布演算部13、情報記憶部14及び表示部15が通信可能に接続されている。
【0032】
次に、この発明の実施形態に係る地盤探査装置の作用を説明する。
線路下横断工法は、図6(A)(B)に示すように、エレメント6を連続的に地盤4に挿入する工程と、隣接するエレメント6を継手部によって接合しながらエレメント6内にコンクリートを充填する工程と、図6(C)に示すようにこれらのエレメント6によって閉合する工程と、図6(D)に示すようにこれらのエレメント6によって閉合された領域Aを掘削して軌道2の下方に線路下構造物を構築する工程とを含む。図6(A)(B)に示すように、エレメント6によって地盤4を掘進するときには、図1図3に示すエレメント6内に作業員が入り込み、作業員が切羽4aを人力で掘削する。エレメント6によって地盤4を掘進するときに、図2図4に示す刺さり込み部10を作業者がエレメント6内に持ち込み、刺さり込み部10を作業者が切羽4aに突き刺すと、受信圧電部R1~R14が地盤4内に埋め込まれる。次に、図2に示す加振装置8によって地盤4の表面に作業者が打撃を加えると、地盤4内にせん断波が発生する。このため、図2に示す地盤4内を伝搬するせん断波を受信圧電部R1~R14が受信して、図5に示す受信圧電部R1~R14が出力する出力信号を増幅部A1~A14が増幅する。その結果、増幅部A1~A14がそれぞれ出力するせん断波受信信号に基づいて、波形測定部11が伝搬時間を演算する。
【0033】
図7に示すグラフは、増幅部A1~A14が出力するせん断波受信信号の波形の模式図である。以下では、加振点Pに最も近い受信圧電部R1から最も遠い受信圧電部R7にせん断波が順次伝搬する場合を例に挙げて説明する。図7に示す縦軸は、増幅部A1~A7が出力するせん断波受信信号W1~W7の強度であり、横軸は時刻である。図7に示す時刻0は、加振装置8によって地盤4を加振して地盤4内にせん断波が発生した時刻である。伝搬時間t1~t7は、加振点Pから各受信圧電部R1~R7まで地盤4内を伝搬するせん断波のうち、一方向の伝搬経路から伝搬するせん断波を受信圧電部R1~R7が受信した時刻である。地盤4内を伝搬するせん断波は、地盤4内の支障物などで反射又は回折しながら様々な伝搬経路を経て多方向から伝搬する。このため、一方向の伝搬経路から伝搬するせん断波の伝搬時間t1~t7よりも遅い時刻に受信圧電部R1~R7に伝搬する。一方、エレメント6付近の土中を伝搬するせん断波は、一方向の伝搬経路から伝搬するせん断波よりも速度が速くなる。このため、一方向の伝搬経路から伝搬するせん断波の伝搬時間t1~t7よりも早い時刻に受信圧電部R1~R7に伝搬する。その結果、せん断波受信信号W1~W7の波形には複数のピークが存在する。
【0034】
加振点Pから受信圧電部R1まで一方向の伝搬経路を伝搬するせん断波の伝搬時間t1については理論的に演算することができる。例えば、地盤4から作製した供試体のせん断波速度をベンダーエレメント法によって予め測定し、このせん断波速度を基準せん断波速度V0として情報記憶部14が記憶する。ここで、ベンダーエレメント法とは、供試体の両側に設置したベンダーエレメント(振動子)を用いて、せん断波を供試体の一方の側から送信し、他方の側に伝搬したせん断波を受信して、せん断波速度を測定する方法である。加振点Pから受信圧電部R1までの距離L1に関する距離情報と、基準せん断波速度V0に関する基準せん断波速度情報とを情報記憶部14から制御部16が読み出して、これらの距離情報及び基準せん断波速度情報を波形測定部11に制御部16が出力する。その結果、加振点Pから受信圧電部R1までの距離L1を基準せん断波速度V0で波形測定部11が除算し、図7に示す伝搬時間t1を波形測定部11が演算する。演算後の伝搬時間t1に関する伝搬時間情報を波形測定部11が制御部16に出力すると、この伝搬時間情報を制御部16が情報記憶部14に出力し、この伝搬時間情報を情報記憶部14が記憶する。
【0035】
刺さり込み部10には一定の間隔Dをあけて受信圧電部R1~R14が装着されている。このため、受信圧電部R1~R14の間隔Dに応じて各受信圧電部R1~R14に到達するせん断波の伝搬時間差Δtも略一定になり、伝搬時間差Δtを理論的に演算することができる。間隔情報及び基準せん断波速度情報を情報記憶部14から制御部16が読み出して、これらの間隔情報及び基準せん断波速度情報を波形測定部11に制御部16が出力する。その結果、受信圧電部R1~R14の間隔Dを基準せん断波速度V0で除算し、図7に示す伝搬時間差Δtを波形測定部11が演算する。演算後の伝搬時間差Δtに関する伝搬時間情報を波形測定部11が制御部16に出力すると、この伝搬時間差情報を制御部16が情報記憶部14に出力し、この伝搬時間差情報を情報記憶部14が記憶する。
【0036】
図7に示すように、受信圧電部R1に向かって一方向から伝搬するせん断波の伝搬時間t1から伝搬時間差Δtだけ遅れた伝搬時間t2において、受信圧電部R2に向かって一方向からせん断波が到達すると考えられる。同様に、せん断波の伝搬時間t2から伝搬時間差Δtだけ遅れた伝搬時間t3において、受信圧電部R3に向かって一方向からせん断波が到達すると考えられる。
【0037】
受信圧電部R1~R14は、垂直方向D1には容易に撓むため、地盤4内を垂直面内で伝搬するせん断波に対して感度が高くなるが、水平方向D2には容易に撓むことができず、地盤4内を水平面内で伝搬するせん断波に対して感度が低くなる。刺さり込み部10には一定の間隔Dをあけて受信圧電部R1~R14が装着されているため、加振点Pから各受信圧電部R1~R14までの距離L1~L14がそれぞれ異なることになり、各受信圧電部R1~R14に到達するせん断波に伝搬時間差Δtが生じる。伝搬時間差Δtを理論的に演算することができるため、加振点Pから各受信圧電部R1~R14まで多方向から伝搬するせん断波のうち一方向から伝搬するせん断波の伝搬時間t1~t14を波形測定部11が特定する。その結果、本来ならば指向性が低い水平方向D2から伝搬するせん断波の伝搬時間についても、垂直方向D1から伝搬するせん断波の伝搬時間と同様に波形測定部11が特定することができる。せん断波受信信号W1,…の波形に基づいて伝搬時間t1,…を特定し、波形測定部11が伝搬時間情報を制御部16に出力し、この伝搬時間情報が情報記憶部14に記憶される。
【0038】
伝搬距離情報及び伝搬時間情報を情報記憶部14から制御部16が読み出して、この伝搬距離情報及び伝搬時間情報をせん断波速度演算部12に制御部16が出力するとともに、せん断波速度演算部12にせん断波速度の演算を制御部16が指令する。その結果、せん断波速度演算部12がせん断波速度を演算して、せん断波速度情報をせん断波速度演算部12が制御部16に出力し、このせん断波速度情報が情報記憶部14に記憶される。せん断波速度情報を情報記憶部14から制御部16が読み出して、このせん断波情報を速度分布演算部13に出力するとともに、速度分布演算部13に速度分布の演算を制御部16が指令すると、速度分布演算部13が走時解析を実施する。その結果、速度分布演算部13が速度分布情報を制御部16に出力し、この速度分布情報が情報記憶部14に記憶される。制御部16が表示部15に速度分布情報の表示を指令すると、二次元のコンター図などを表示部15が表示画面上に表示する。
【0039】
この発明の実施形態に係るせん断波速度測定装置には、以下に記載するような効果がある。
(1) この実施形態では、地盤4を掘進するエレメント6内から切羽4aに刺さり込み部10が刺し込まれ、地盤4内を伝搬するせん断波を受信する受信圧電部R1~R14が刺さり込み部10に間隔Dをあけて複数配置されている。このため、エレメント6内から作業者が切羽4aに刺さり込み部10を差し込み、地盤4を加振させるだけで、短時間で簡単に地盤4の特性を把握することができる。
【0040】
(2) この実施形態では、地盤4内を掘進する鋼管の先端部から刺さり込み部10が切羽4aに刺し込まれる。このため、鋼管内で乱反射するせん断波を受信圧電部R1~R14によって高精度に測定することができる。
【0041】
(3) この実施形態では、非開削で線路下に地下構造物を構築する線路下横断工法の鋼製のエレメント6の先端部から刺さり込み部10が切羽4aに刺し込まれる。このため、実現場の線路下横断工法における切羽探査に利用することができる。また、線路下横断工法によって線路下構造物を構築するときに、エレメント6内から刺さり込み部10を作業員が差し込み、地盤4を加振させることによって、地盤4の緩み状態などを簡単に把握することができる。
【0042】
(4) この実施形態では、刺さり込み部10は平面形状が逆V字状の板状部材であり、刺さり込み部10の長さ方向に沿って間隔Dをあけて受信圧電部R1~R14が装着されている。このため、エレメント6内から刺さり込み部10を作業者が簡単に切羽4aに刺し込むことができる。
【0043】
(5) この実施形態では、受信圧電部R1~R14の出力信号に基づいて、地盤4内を一方向から伝搬するせん断波の速度をせん断波速度演算部12が演算する。このため、水平方向D2についても指向性を有する形状に受信圧電部R1~R14を刺さり込み部10に配置した状態で、刺さり込み部10を切羽4aから貫入し、一方向から伝搬するせん断波を受信圧電部R1~R14によって受信することができる。
【0044】
(6) この実施形態では、受信圧電部R1~R14の出力信号をこの受信圧電部R1~R14の直近で増幅部A1~A14が増幅する。このため、ノイズ影響下であってもせん断波を正確に測定することができる。その結果、実際の現場の地盤4内にせん断波を発生させたときに受信波の伝搬時間を正確に判別することができるとともに、詳細な走時解析を実施することができる。
【0045】
(7) この実施形態では、受信圧電部R1~R14の出力信号に基づいて、地盤4内の速度分布を速度分布演算部13が演算する。その結果、地盤4内や鋼製のエレメント6内で反射するせん断波を増幅させて検出することができるため、受信感度を向上させることができるとともに、地盤4の緩み状態や地盤4内の支障物の存在などを高精度に把握することができる。
【0046】
この発明は、以上説明した実施形態に限定するものではなく、以下に記載するように種々の変形又は変更が可能であり、これらもこの発明の範囲内である。
(1) この実施形態では、線路下横断工法によって非開削で軌道2下に線路下構造物を構築する場合を例に挙げて説明したが、道路下に構造物を構築する場合についても、この発明を適用することができる。また、この実施形態では、盛土に線路下構造物を構築する場合を例に挙げて説明したが、原地盤に線路下構造物を構築する場合についても、この発明を適用することができる。例えば、地上の軌道又は道路の下を横断する軌道、道路、地下通路、地下街、水路又は地下共同溝などの線路下構造物を構築する場合についても、この発明を適用することがきる。さらに、この実施形態では、鋼製エレメントを推進・けん引する線路下横断工法を例に挙げて説明したが、箱型(函体)のようなエレメントを推進する線路下横断工法についても、この発明を適用することができる。
【0047】
(2) この実施形態では、刺さり込み部10の平面形状が逆V字状である場合を例に挙げて説明したが、刺さり込み部10の平面形状が槍状又は矢状である場合についても、この発明を適用することができる。この場合には、受信圧電部R1~R14を所定の間隔Dをあけて直線状に配置することができる。また、この実施形態では、受信圧電部R1~R14を合計14個配置する場合を例に挙げて説明したが、任意の数で複数個を配置する場合についても、この発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0048】
1 車両
2 軌道(路線)
3 路盤
4 地盤
4a 切羽
5 土留工
6 エレメント(鋼管(鋼製エレメント))
7 地盤探査システム
8 加振装置
9 地盤探査装置
10 刺さり込み部
10a 先端部
10b,10c 後退部
11 波形生成部
12 せん断波速度演算部
13 速度分布演算部
14 情報記憶部
15 表示部
16 制御部
1~R14 受信圧電部
1~A14 増幅部
1~t7 伝搬時間
P 加振点
D 間隔
1 垂直方向
2 水平方向
Δt 伝搬時間差
0 せん断波送信信号
1~W7 せん断波受信信号
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7