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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-08
(45)【発行日】2022-01-12
(54)【発明の名称】ナット磨き装置
(51)【国際特許分類】
   B24B 29/00 20060101AFI20220104BHJP
   B24B 29/04 20060101ALI20220104BHJP
   B23G 9/00 20060101ALI20220104BHJP
   B24B 41/06 20120101ALI20220104BHJP
   B24B 41/04 20060101ALI20220104BHJP
【FI】
B24B29/00 F
B24B29/04
B23G9/00 A
B24B41/06 K
B24B41/06 A
B24B41/04
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019153558
(22)【出願日】2019-08-26
(65)【公開番号】P2021030372
(43)【公開日】2021-03-01
【審査請求日】2020-08-19
(73)【特許権者】
【識別番号】391019658
【氏名又は名称】株式会社中部プラントサービス
(74)【代理人】
【識別番号】110001036
【氏名又は名称】特許業務法人暁合同特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川島 伸一
【審査官】城野 祐希
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-071515(JP,A)
【文献】特公昭28-004597(JP,B1)
【文献】特開昭49-041996(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 29/00
B24B 29/04
B23G 9/00
B24B 41/06
B24B 41/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナット磨き装置であって、
ナットを供給位置から待機位置にスライドさせるスライド装置と、
前記待機位置と内周研磨位置との間で前記ナットを往復移動する移動装置と、
前記内周研磨位置にて、前記ナットの内周面に設けられたねじ部を研磨する内周研磨装置と、を備え、
前記内周研磨装置は、
研磨ブラシと、
前記研磨ブラシの外周面が前記ナットの内周面に接触するように前記研磨ブラシを前記ナットの中心から偏心させつつ、偏心した前記研磨ブラシを前記内周面に沿って円運動させる偏心回転装置と、を備え
前記偏心回転装置は、
回転板と、
前記回転板の回転中心からオフセットした位置に設けられた軸部と、
前記回転板に対して、前記軸部を介して角変位可能に取り付けられた可動板と、
前記軸部を中心として前記可動板を角変位させるアクチュエータと、
前記回転板を回転させる回転駆動部と、を備え、
前記可動板には、前記研磨ブラシが取り付けられており、
前記軸部を中心に前記可動板をニュートラルボジションから角変位させることで、前記研磨ブラシの位置を、前記回転板の回転中心から偏心させて、作業対象のナットの内周面に接触させ、
前記回転駆動部の駆動により、前記回転板を回転させることで、前記研磨ブラシを前記内周面に沿って円運動させ、
前記アクチュエータは、エアシリンダであり、
前記ニュートラルポジションでは、前記回転板の回転中心に、前記研磨ブラシが位置する、ナット磨き装置。
【請求項2】
請求項1に記載のナット磨き装置であって、
前記内周研磨位置において、前記回転板の回転中心に対して、前記ナットの中心が一致する、ナット磨き装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のナット磨き装置であって、
前記可動板は、当接片を有し、
前記回転板は、ストッパを有し、
前記ニュートラルポジションにおいて、前記当接片が前記ストッパに当接することにより、前記可動板を前記ニュートラルボジションに位置決めする、ナット磨き装置。
【請求項4】
請求項1~請求項3のいずれか一項に記載のナット磨き装置であって、
前記研磨ブラシを、ブラシ軸を中心として回転させるブラシモータを有し、
前記偏心回転装置は、回転する前記研磨ブラシを、前記ナットの内周面に沿って円運動させる、ナット磨き装置。
【請求項5】
請求項1~請求項4のいずれか一項に記載のナット磨き装置であって、
前記偏心回転装置を昇降させる昇降装置を有し、
前記昇降装置は、前記ナットの内周面に沿って円運動する前記研磨ブラシを昇降させる、ナット磨き装置。
【請求項6】
請求項1~請求項5のいずれか一項に記載のナット磨き装置であって、
前記スライド装置は、前記ナットを第1方向に沿ってスライドすることで、前記ナットを前記供給位置から前記待機位置に移動させ、
前記移動装置は、前記ナットを第1方向に直交する第2方向に沿って移動することで、前記ナットを前記待機位置と前記内周研磨位置との間で往復移動する、ナット磨き装置。
【請求項7】
請求項6に記載のナット磨き装置であって、
前記移動装置は、
前記ナットをチャックする一対のアームを有し、
前記移動装置は、研磨作業を終えた作業済みのナットを、前記アームを用いて前記内周研磨位置から前記待機位置に移動させた後、前記アームの先端で押し出すことにより、排出する、ナット磨き装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナット磨き装置に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、回転するブラシにより、ナットの内周面に設けられたねじ部を磨くナット磨き装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第3007487号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、ナットの内径(ねじ部)は、ナットのサイズ(外径)により異なっており、サイズが大きい程、内径も大きい。サイズの異なるナットのねじ部を磨く場合、内径の大きさに応じて、ブラシを交換することが考えられるが、そうした段取り替え作業は、作業効率の低下の原因となるため、廃止することが望ましい。
サイズが異なるナットの研磨作業を、特段の段取り替え作業を行うことなく、実施出来るように、改良することが求められていた。
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、ナットの研磨作業の作業効率を改善することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のナット磨き装置は、ナットを供給位置から待機位置にスライドさせるスライド装置と、前記待機位置と内周研磨位置との間で前記ナットを往復移動する移動装置と、前記内周研磨位置にて、前記ナットの内周面に設けられたねじ部を研磨する内周研磨装置と、を備え、前記内周研磨装置は、研磨ブラシと、前記研磨ブラシの外周面が前記ナットの内周面に接触するように前記研磨ブラシを前記ナットの中心から偏心させつつ、偏心した前記研磨ブラシを前記内周面に沿って円運動させる偏心回転装置と、を備える。この装置は、内径の異なるナットのねじ部を、研磨ブラシを変更することなく、研磨することが出来る。
【0006】
この発明の実施態様として、以下の構成が好ましい。
前記偏心回転装置は、回転板と、前記回転板の回転中心からオフセットした位置に設けられた軸部と、前記回転板に対して、前記軸部を介して角変位可能に取り付けられた可動板と、前記軸部を中心として前記可動板を角変位させるアクチュエータと、前記回転板を回転させる回転駆動部と、を備え、前記可動板には、前記研磨ブラシが取り付けられており、前記軸部を中心に前記可動板を角変位させることで、前記研磨ブラシの位置を、前記回転板の回転中心から偏心させて、作業対象のナットの内周面に接触させ、前記回転駆動部の駆動により、前記回転板を回転させることで、前記研磨ブラシを前記内周面に沿って円運動させてもよい。この構成では、可動板を角変位させることで、研磨ブラシの位置を偏心させてナットの内周面に接触させることが出来、回転板を回転することで、接触した研磨ブラシをナットの内周面に沿って円運動させることが出来る。
【0007】
前記研磨ブラシを、ブラシ軸を中心として回転させるブラシモータを有し、前記偏心回転装置は、回転する前記研磨ブラシを、前記ナットの内周面に沿って円運動させてもよい。研磨ブラシが回転しつつ、ナットの内周面に沿って円運動するから、円運動だけでナットを磨く場合に比べて、ブラシと内周面の摩擦が大きくなる。そのため、研磨性能に優れ、ナットのねじ部を綺麗に研磨することが出来る。
【0008】
前記偏心回転装置を昇降させる昇降装置を有し、前記昇降装置は、前記ナットの内周面に沿って円運動する前記研磨ブラシを昇降させてもよい。研磨ブラシをナットの内周面に沿って円運動させつつ、昇降させるため、円運動だけでナットを磨く場合に比べて、ブラシと内周面の摩擦が大きくなる。そのため、研磨性能に優れ、ナットのねじ部を綺麗に研磨することが出来る。また、昇降により、ナットの高さに関係なく、ねじ部全体を研磨することが出来る。例えば、ナットの高さが研磨ブラシの高さよりも高い場合に、昇降により高さの差を補い、ねじ部の全体を研磨することができる。
【0009】
前記スライド装置は、前記ナットを第1方向に沿ってスライドすることで、前記ナットを前記供給位置から前記待機位置に移動させ、前記移動装置は、前記ナットを第1方向に直交する第2方向に沿って移動することで、前記ナットを前記待機位置と前記内周研磨位置との間で往復移動とを有する。この構成では、スライド装置と移動装置の移動方向が異なるので、装置が一方句に大型化することを抑制できる。また、レイアウト上の自由度も高い。
【0010】
前記移動装置は、前記ナットをチャックする一対のアームを有し、前記移動装置は、研磨作業を終えた作業済みのナットを、前記アームを用いて、前記内周研磨位置から前記待機位置に移動させた後、前記アームの先端で押し出すことにより、研磨作業を終えた作業済みのナットを、前記待機位置から前記排出位置に排出してもよい。この構成では、移動装置が作業済みのナットを自動的に排出する。そのため、研磨作業中に、次のナットを供給位置にセットすることが出来ることから、作業性がよい。また、アームのストロークを必要量より伸ばさなくても、ナットの排出が可能である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ナットの研磨作業の作業効率を改善することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】ナット磨き装置の斜視図
図2】ナット磨き装置の平面図
図3】ナット磨き装置の平面図(カバーを外した状態)
図4】ナット磨き装置の主要部の斜視図
図5】その正面図
図6】スライド装置の斜視図
図7】移動装置の斜視図
図8】Xスライダの斜視図
図9】内周研磨装置の斜視図
図10】偏心回転装置の斜視図
図11】その平面図
図12】研磨ブラシの支持構造を示す斜視図
図13】研磨ブラシのニュートラルポジションを示す図
図14】研磨ブラシの偏心動作を示す図
図15】ナット磨き装置のブロック図
図16】ナットの研磨作業の説明図
図17】ナットの研磨作業の説明図
図18】ナットの研磨作業の説明図
図19】ナットの研磨作業の説明図
図20】ナットの研磨作業の説明図
図21】ナットの研磨作業の説明図
図22】ナットの研磨作業の説明図
図23】ナットの研磨作業の説明図
図24】ナットの研磨作業の説明図
【発明を実施するための形態】
【0013】
<実施形態1>
1.ナット磨き装置の構造説明
ナット磨き装置10を、図1図24を参照して説明する。ナット磨き装置10は、図1図2に示すように、金属製の筐体11を備える。筐体11の上面壁12には、カバー13が設置されている。
【0014】
カバー13は、左右に分割されており、一方のカバー13Aの上面には、操作パネルPが配置されている。他方のカバー13Bには、取っ手が設けられており、カバー13Bは開閉できるようになっている。
【0015】
以下、ナット磨き装置10の前後方向をY方向、ナット磨き装置10の幅方向をX方向として説明を行う。前方は、作業を行う時に、作業者の立ち位置に対して正面となる側である。また、Y方向は本発明の「第1方向」に相当し、X方向は本発明の「第2方向」に相当する。X方向とY方向は直交する関係である。
【0016】
図3は、ナット磨き装置10の平面図であり、カバー13を取り外した状態を示している。筐体11の上面には、供給位置P1と、待機位置P2と、内周研磨位置P3がある。
【0017】
供給位置P1は、作業対象のナットNをセットする位置である。セット作業は作業者が行う。この実施形態では、供給位置P1は、上面壁12の前部左側に位置している。
【0018】
待機位置P2は、供給位置P1の後方に位置する。供給位置P1と待機位置P2はY方向に沿った第1軸線L1上にあり、供給位置P1のナットNは、Y方向に移動して、待機位置P2に送られる。内周研磨位置P3は、待機位置P2の右方に位置する。
【0019】
待機位置P2と内周研磨位置P3は、X方向に沿った第2軸線L2上にあり、作業対象のナットNは、待機位置P2から内周研磨位置P3に移動する。内周研磨位置P3は、ナットNのねじ部の研磨作業を行う位置である。筐体の上面壁12の内周研磨位置P3には、貫通孔15が設けられている。貫通孔15は、磨き対象となるナットNの内径よりも大径であり、研磨ブラシ51は、貫通孔15を介して出没することが出来る。
【0020】
ナットNは、研磨位置P3で研磨作業を終えると、研磨位置P3から待機位置P2に戻る。図3に示すように、上面壁12の左側端部には、研磨作業済みのナットNが排出される排出部17が設けられている。待機位置P2に移動したナットは、X方向に移動して、排出部17に排出される。
【0021】
また、この実施形態では、待機位置P2から内周研磨位置P3への移動経路の途中に、座面研磨位置Paが設けられており、ナットNが座面研磨位置Paを通過する時に、ブラシ95により、ナットNの座面(下面)を研磨するようになっている。
【0022】
以下、ナット磨き装置10の構成を具体的に説明する。図4はナット磨き装置10の主要部の斜視図、図5はその正面図である。ナット磨き装置10は、スライド装置20と、移動装置30と、内周研磨装置50と、を備える。
【0023】
スライド装置20は、供給位置P1から待機位置P2に、ナットNを送る装置である。
【0024】
スライド装置20は、図6に示すように、Yレール21と、Yスライダ23と、軸ピン25と、エアシリンダ27を備える。Yレール21は、Y方向に並行に延びる一対のガイドレールからなる。Yスライダ23は、Yレール21にスライド可能に嵌合しており、Yレール21に沿ってY方向にスライドする。
【0025】
軸ピン25は、円柱型であり、スライダ23の上面に設けられている。軸ピン25は、エア駆動により、スライダ23の上面から出没する。エアシリンダ27は、Yレール21と並んで取り付けられており、スライダ23をY方向に移動させる。
【0026】
スライド装置20は、筐体11の上面壁12の下面に取り付けられている。上面壁12には、ガイド溝16Aを有するスライド板16が取り付けられている。軸ピン25は、ガイド溝16Aを通じて上面壁12から突出し、供給位置P1と待機位置P2との間を移動することが出来る。
【0027】
移動装置30は、待機位置P2と内周研磨位置P3との間で、ナットNを往復移動する装置である。
【0028】
移動装置30は、図7及び図8に示すように、フレーム35と、一対のXレール31と、一対のスライドブロック33と、Xスライダ41と、アーム駆動部43と、一対のアーム45と、エアシリンダ47とを備える。
【0029】
フレーム35は、4つの支柱36と、それらを橋渡す枠部材37と、を備える。フレーム35は、筐体11の上面壁12に取り付けられている。
【0030】
一対のXレール31は、X方向に並行に延びており、フレーム35に固定されている。Xスライダ41は、一対のスライドブロック33を介して、一対のXレール31にスライド可能に取り付けられている。エアシリンダ47は、Xスライダ41を、Xレール31に沿って移動させる駆動装置である。
【0031】
一対のアーム45は、X方向に長い形状である。一対のアーム45は、Xスライダ41に対して、アーム駆動部43を介して、Y方向に移動可能に取り付けられている。アーム駆動部43は、エア駆動により、一対のアーム45をY方向に離間又は接近させる。
【0032】
一対のアーム45を、Y方向に離間又は接近させることで、一対のアーム45を開閉することが出来る。一対のアーム45の内面には、V字型の保持溝46が形成されており、一対のアーム45を閉じることで、ナットNをチャック(保持)することが出来、一対のアーム45を開くことで、チャックしたナットNを離すことが出来る。
【0033】
一対のアーム45は、Xスライダ41に取り付けられているから、エアシリンダ47を駆動することで、Xスライダ41と共に、一対のアーム45をX方向にスライドすることが出来、待機位置P2と内周研磨位置P3との間でナットNを往復移動することが出来る。
【0034】
内周研磨装置50は、内周研磨位置P3にて、ナットNの内周面3に形成されたねじ部を研磨する装置である。
【0035】
内周研磨装置50は、図9図12に示すように、研磨ブラシ51と、取付板53と、ブラシモータ55と、偏心回転装置61と、昇降装置81と、を備える。研磨ブラシ51は、取付板53の上面に、取り付けられている。研磨ブラシ51は、ブラシ軸51Aの外周にブラシ毛を植設したものである。ブラシ毛は、例えば、ステンレスワイヤやスチールワイヤなどを用いることが出来る。ブラシモータ55は、取付板53の下面に位置している。図9に示す符号52は、ブラシ軸51Aを固定するための部材である。
【0036】
ブラシモータ55のモータ軸は、ギヤを介して、研磨ブラシ51のブラシ軸51Aに結合しており、ブラシモータ55の駆動により、研磨ブラシ51を、ブラシ軸51Aの軸線Mを中心に回転させることが出来る(自転)。
【0037】
偏心回転装置61は、研磨ブラシ51の外周面がナットNの内周面3に接触するように研磨ブラシ51をナットNの中心から偏心させつつ、研磨ブラシ51を、ナットNの内周面3に沿って円運動させる装置である。
【0038】
偏心回転装置61は、回転板63と、軸部64と、可動板65と、回転駆動部69と、アクチュエータ71と、備える。
【0039】
軸部64は、回転板63の回転中心O1からオフセットした位置に設けられている。可動板65は、回転板63に対して軸部64を介して角変位可能に取り付けられている。軸部64はベアリングでもよい。
【0040】
可動板65には、3本の支柱66を介して、研磨ブラシ51を支持する取付板53が固定されている。
【0041】
図13は、可動板65が回転板63に対してニュートラルポジションにある時の、回転板63と研磨ブラシ51との位置関係を示す図である。ニュートラルポジションでは、回転板63の回転中心O1に対して研磨ブラシ51は一致する。
【0042】
また、回転板63の回転中心O1と内周研磨位置P3は一致(O1=P3)しているから、ナットNが内周研磨位置P3に移動した時、回転板63の回転中心O1にナットNの中心も一致する関係である。
【0043】
図14に示すように、軸部64を中心に可動板65を回転し、ニュートラルポジションから角変位させることで、研磨ブラシ51の位置を、回転中心O1から偏心させて、ナットNの内周面3に接触させることが出来る。「R」は研磨ブラシ51の移動軌跡である。
【0044】
アクチュエータ71は、可動板65を回転板63に対して角変位させる装置である。この実施形態では、アクチュエータ71に、エアシリンダを用いている。アクチュエータ71は、回転板63と可動板65の間のスペースに配置されている。
【0045】
アクチュエータ71は、回転板63に軸止されており、ロッド73の先端を可動板65に固定している。ロッド73を伸張させることで、可動板65は軸部64を中心に回転し、図13のニュートラルポジション(θ=0)から、図14に示す偏心位置に角変位させることが出来る。θは、ニュートラルポジションからの可動板65の回転角である。
【0046】
この装置は、ナットNの内周面に研磨ブラシ51が接触するように、アクチュエータ71が研磨ブラシ51を偏心させるので、内径の異なるナットNのねじ部を、研磨ブラシ51を変更することなく、研磨することが出来る。アクチュエータ71は復帰用バネを内蔵していてもよい。
【0047】
アクチュエータ71の空気圧を抜くと、復帰用バネのばね力により、可動板65は、ニュートラルポジションに復帰する。図13に示す符号75は当接片、76はストッパであり、当接片75がストッパ76に突き当たることで、可動板65をニュートラルポジションに位置決めすることが出来る。
【0048】
回転駆動部69は、回転中心O1を中心に回転板63を回転させる装置である。回転駆動部69は、エアモータや電気モータを使用することができる。回転駆動部69は、後述する昇降板85の下面に固定されている。回転駆動部69により、回転板63を回転させることで、研磨ブラシ51を、ナットNの内周面3に沿って、円運動させることが可能である。
【0049】
昇降装置81は、研磨ブラシ51、取付板53及び偏心回転装置61を含む、装置全体を、上下方向に移動する装置である。
【0050】
昇降装置81は、図9に示すように、ベース板83と、昇降板85と、ガイドポスト87と、ガイドブシュ88と、昇降駆動部89と、を備えている。ガイドポスト87は、ベース板83の4角に設けられている。
【0051】
昇降板85は、ベース板83の上方に位置している。昇降板85の上面中央部には、回転板63が回転可能に取り付けられている。また、昇降板85の4角には、ガイドブシュ88が固定されている。
【0052】
4つのガイドブシュ88は、4本のガイドポスト87をそれぞれ貫通しており、昇降板85は、ガイドブシュ88とガイドポスト87の案内作用により、上下方向に移動する。
【0053】
昇降駆動部89は、昇降板85をガイドポスト87に沿って、上下方向に移動させる装置である。昇降駆動部89は、エアモータや電気モータを使用することができる。昇降駆動部89は、ベース板83の下面に固定されている。
【0054】
4本のガイドポスト87の上端部は、筐体11の上面壁12の下面に固定されている。つまり、4本のガイドポスト87が、ベース板83及びその上方に配置された装置を、上面壁12に対して、吊った状態で支えている。
【0055】
昇降駆動部89を駆動して、昇降板85を上昇させることで、研磨ブラシ51を貫通孔15から上面壁11の上方に突出させることが出来る。また、昇降板85を下降させることで、研磨ブラシ51を上面壁11の下方に後退させることが出来る。
【0056】
図15は、ナット磨き装置10のブロック図である。ナット磨き装置10は、制御部100、スライド装置20、移動装置30、内周研磨装置50、操作パネルP及びセンサ類Sなどを備える。
【0057】
制御部100は、スライド装置20、移動装置30及び内周研磨装置50を制御して、ナットNの研磨作業を自動的に行う。この実施形態では、センサ類として、供給位置P1においてナットNの有無を検出する第1センサS1と、供給位置P1において障害物を検出する第2センサS2を備えている(図1参照)。
【0058】
第2センサS2は、いわゆる安全センサであり、供給位置P1に人手が残っている場合には、装置の作動を停止するために設けられている。
【0059】
2.作業手順
以下、ナットNの研磨作業の手順を、図16図24を参照して説明する。尚、作業開始前の状態において、スライド装置20のYスライダ23は供給位置P1にあり、軸ピン25はガイド溝16Aから突出している。移動装置30のXスライダ41は、内周研磨位置P3にあり、また、研磨ブラシ51は上面壁12の下方に位置する。
【0060】
作業者が、操作パネルPの運転準備スイッチを押すことで、ナット磨き装置10は運転準備状態となる。その後、作業者が供給位置P1にナットNをセットすると、第1センサS1が供給位置P1にてナットNを検出する。また、第2センサS2が人手を検出する。そして、第2センサS2が検出状態から非検出状態、つまり、供給位置P1に人手などの障害物が無いことを検出し、安全性が確認されると、制御部100は、スライド装置20を制御して、作業対象のナットNを、供給位置P1から待機位置P2に移動する(図16、17参照)。このように、2つのセンサS1、S2の検出結果をトリガにすることで、作業者が供給位置P1にナットNをセットするだけで、研磨作業を開始することが出来る。そのため、作業に無駄な動きがなく、作業効率がよい。
【0061】
作業対象のナットNが待機位置P2に移動すると、制御部100は、軸ピン25を下降してナット外に後退させる。また、軸ピン25の下降と並行して、制御部100は、移動装置30を制御して、Xスライダ41を内周研磨位置P3から待機位置P2に向けて移動し、待機位置P2にある作業対象のナットNを、一対のアーム45でチャックする(図18参照)。
【0062】
アーム45が作業対象のナットNをチャックすると、制御部100は、移動装置30を制御して、作業対象のナットNを待機位置P2から内周研磨位置P3に向けて移動する。待機位置P2から内周研磨位置P3に向かう途中、座面研磨位置Paを通過する時に、ブラシ95により、ナットNの座面が研磨される。
【0063】
尚、作業対象のナットNが、待機位置P2から内周研磨位置P3に移動する時間を使って、Yスライダ23は、待機位置P2から供給位置P1に戻される。
【0064】
図19に示すように、作業対象のナットNが内周研磨位置P3に移動すると、制御部100は、偏心回転装置61と昇降装置81を制御して、作業対象のナットNのねじ部の研磨作業を行う。つまり、昇降装置81を駆動して、研磨ブラシ51をナットNの高さまで上昇させる。その後、ブラシモータ55を駆動して研磨ブラシ51を回転(図20の矢印Q2)させると共に、偏心回転装置61を駆動して、回転する研磨ブラシ51の外周面をナットNの内周面3に接触させつつ、研磨ブラシ51を内周面3に沿って円運動(図20の矢印Q1は研磨ブラシの移動軌跡を示す)させることで、ナットNの内周面3に設けられたねじ部を研磨する(図20参照)。尚、研磨作業中、ナットNは、一対のアーム45により、内周研磨位置P3に保持されている。
【0065】
ねじ部の研磨作業が終了に近くなると、制御部100は、昇降装置81を制御して、ねじ部の研磨作業を継続しながら、研磨ブラシ51を降下させる。そして、ねじ部の研磨作業が終了し、研磨ブラシ51が、ナットNの下方に後退し、下端位置に到達すると、センサがそれを検出する。すると、制御部100は、移動装置30を制御して、作業済みのナットNを、内周研磨位置P3から待機位置P2に移動する(図21参照)。
【0066】
作業済みナットが待機位置P2まで移動すると、制御部100は、移動装置30を制御して、アーム45によるナットNのチャックを解除すると共に、Xスライダ41を待機位置P2から内周研磨位置P3の方向に後退させる(図22参照)。
【0067】
そして、図23に示すように、一対のアーム45を突き合せるように閉じた状態にした後、待機位置P2にある作業済みのナットNを、アーム45の先端でX方向に押し出す。これにより、図24に示すように、作業済みのナットNを、上面壁11の排出部17に排出することが出来る。その後、Xスライダ41は、内周研磨位置P3に戻る。
【0068】
また、この装置は、ナットNを自動的に排出することに加えて、研磨作業中に、供給位置P1にスライド装置20の軸ピン25が戻ってくるため、研磨作業中でも、次に作業を行うナットNを、供給位置P1にセットすることが出来る。そのため、研磨作業の終了後、そのナットNを排出し、Xスライダ41が内面研磨位置P3に戻った時点で、次のナットNの研磨作業を自動的にスタートさせることができ、制御部100はそのような制御を実行する。
【0069】
つまり、ボルトに対して仮組されたナット2個のうち、作業者が1つ目を取り外して、供給位置P1にセットする。その後、1つ目のナットNの研磨作業がナット磨き装置10で行われている間に、作業者は2つ目のナットNを取り外す作業を行う。そして、スライド装置20の軸ピン25が供給位置P1に戻ってくると、作業者は、取り外した2つ目のナットNを供給位置P1にセットする。その後、1つ目のナットNの研磨作業が終了して排出が行われると、Xスライダ41が内面研磨位置P3に戻った時点で、次のナットNの研磨作業を自動的にスタートさせることが出来る。
【0070】
このように、1つ目のナットNの研磨作業中に、2つ目のナットを供給位置P1にセットすることが可能である。加えて、1つ目のナットNの研磨作業が完了して排出されると、2つ目のナットNの研磨作業が自動的に開始される。2つ目のナットNの研磨作業を開始する時に、スイッチを押す操作が不要であることから、作業者が他の作業を途中で止める必要がなく、作業効率がよい。この装置10は、ナットの研磨作業を行うにあたり、作業者は、「ナットを供給位置P1にセットする作業」と「排出されたナットNを排出部17から取り出す作業」の2作業を行うだけでよく、作業に無駄がない。
【0071】
3.効果説明
この装置は、図20に示すように、軸線Mを中心に回転する研磨ブラシ51の外周面がナットNの内周面3に接触するように研磨ブラシ51を回転板63の回転中心O1(ナットNの中心)から偏心させつつ、偏心した研磨ブラシ51をナットNの内周面3に沿って円運動させることで、ねじ部を研磨する。この装置は、ナットNの内周面に研磨ブラシ51が接触するように、アクチュエータ71が研磨ブラシ51を偏心させるので、内径の異なるナットNのねじ部を、研磨ブラシ51を変更することなく、研磨することが出来る。
【0072】
この構成では、軸部64を中心に可動板65を回転(角変位)させることで、研磨ブラシ51の位置を偏心させる構成としている。研磨ブラシ51の位置を偏心させる方法には、可動板65を回転板63に対して直線移動する方法も考えられる。回転を利用した偏心機構は、可動板65の回転支持にベアリングを用いることで、機械的な摩擦が小さくできるので、アクチュエータ71に内蔵されるバネだけを使用して復帰動作が可能などのメリットがある。
【0073】
この構成では、移動装置30が作業済みのナットNを自動的に排出する。そのため、作業者は、作業の終了を待たなくても、次に作業を行うナットNを、供給位置P1にセットすることが出来ることから作業性がよい。
【0074】
また、アーム45の先端で押し出してナットNを排出するから、ナットNをチャックして排出部17まで送る場合に比べて、アーム45のストロークを短くすることが出来、装置を小型化できる。
【0075】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
【0076】
(1)実施形態1では、軸部64を中心に可動板65を角変位させることで研磨ブラシ51の位置を、回転板63の回転中心O1から偏心させる構成としているが、可動板65を回転板63に対して直線移動することで、研磨ブラシ51の位置を偏心させる構成にしてもよい。
【0077】
(2)実施形態1では、回転する研磨ブラシ51を、ナットNの内周面3に沿って円運動させることで、ねじ部を研磨した。研磨ブラシ51を回転させずに、ナットNの内周面3に沿って円運動させることで、ねじ部を研磨してもよい。
【0078】
(3)実施形態1では、内周研磨位置P3、内周研磨装置50を昇降させる構成としたが、ナットNを昇降させるようにしてもよい。
【0079】
(4)実施形態1では、ねじ部の研磨作業が終了に近くなると、制御部100は、昇降装置81を制御して、ねじ部の研磨作業を継続(研磨ブラシ51をナットNの内周面に沿って回転)しながら、研磨ブラシ51を降下させた。これ以外にも、ねじ部の研磨作業中(研磨ブラシ51がナットNの内周面に沿って回転中)に、制御部100は、昇降装置81を制御して、研磨ブラシ51を上昇又下降させてもよい。研磨ブラシ51をナットNの内周面に沿って円運動させつつ、昇降させるため、円運動だけでナットNを磨く場合に比べて、ブラシと内周面の摩擦が大きくなる。そのため、研磨性能に優れ、ナットNのねじ部を綺麗に研磨することが出来る。また、昇降により、ナットNの高さ(上下方向の長さ)に関係なく、ねじ部全体を研磨することが出来る。例えば、ナットNの高さが研磨ブラシ51の高さよりも高い場合に、昇降により高さの差を補い、ねじ部の全体を研磨することができる。
【符号の説明】
【0080】
10 ナット磨き装置
20 スライド装置
30 移動装置
50 内周研磨装置
51 研磨ブラシ
61 偏心回転装置
63 回転板
64 軸部
65 可動板
81 昇降装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24