(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-08
(45)【発行日】2022-01-13
(54)【発明の名称】紙又は板紙等の製造方法及び組成物の使用
(51)【国際特許分類】
D21H 17/37 20060101AFI20220104BHJP
C08F 8/00 20060101ALI20220104BHJP
C08F 220/34 20060101ALI20220104BHJP
C08F 220/56 20060101ALI20220104BHJP
D21H 21/10 20060101ALI20220104BHJP
D21H 21/18 20060101ALI20220104BHJP
【FI】
D21H17/37
C08F8/00
C08F220/34
C08F220/56
D21H21/10
D21H21/18
(21)【出願番号】P 2019512745
(86)(22)【出願日】2017-09-04
(86)【国際出願番号】 FI2017050621
(87)【国際公開番号】W WO2018046794
(87)【国際公開日】2018-03-15
【審査請求日】2020-08-17
(32)【優先日】2016-09-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FI
(73)【特許権者】
【識別番号】504186286
【氏名又は名称】ケミラ ユルキネン オサケイティエ
【氏名又は名称原語表記】KEMIRA OYJ
(74)【代理人】
【識別番号】110002435
【氏名又は名称】特許業務法人井上国際特許商標事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100077919
【氏名又は名称】井上 義雄
(74)【代理人】
【識別番号】100153899
【氏名又は名称】相原 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100172638
【氏名又は名称】伊藤 隆治
(74)【代理人】
【識別番号】100159363
【氏名又は名称】井上 淳子
(72)【発明者】
【氏名】ヒエタニエミ、マッティ
(72)【発明者】
【氏名】エクマン、ヤアッコ
(72)【発明者】
【氏名】カルッピ、アスコ
(72)【発明者】
【氏名】ストゥレンゲル、キンモ
【審査官】川口 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】特表2004-536157(JP,A)
【文献】特表2002-513104(JP,A)
【文献】特開2004-076253(JP,A)
【文献】米国特許第05393381(US,A)
【文献】米国特許第06592718(US,B1)
【文献】特表2009-508017(JP,A)
【文献】特許第4712116(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21H 17/37
C08F 8/00
C08F 220/34
C08F 220/56
D21H 21/10
D21H 21/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙又は板紙等の製造方法であって
、
- (i)アクリルアミドと少なくとも1種のカチオン性モノマーとのコポリマーであって、カチオン性モノマーを、モノマーの全量から計算して少なくとも15モル%含むコポリマー、及び
(ii)少なくとも2つのカルボキシル基を含むイオン性架橋剤であって、カルボキシル基:カチオン性モノマーの当量比が1:20~1:0.5である架橋剤
を含む組成物を水溶液に溶解して、水性処理溶液を得る工程、
- 得た処理溶液をパルプに添加する工程、
ここで、該パルプが、パルパー内でパルプ化されたリサイクル紙又はリサイクル板紙及び/又は未漂白クラフトパルプ及び/又は未漂白セミケミカルパルプを、乾燥繊維完成紙料の少なくとも50質量%含み、かつ、ヘッドボックスストック中で、1~15mS/cmの範囲の導電率を有するものであり、及び
-
該処理溶液を添加したパルプを繊維状ウェブに形成する工程
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記アクリルアミドのコポリマーが、カチオン性モノマーを少なくとも20モル%、好ましくは少なくとも30モル%、より好ましくは少なくとも40モル%、さらにより好ましくは少なくとも45モル%含むことを特徴とする、請求項
1に記載の方法。
【請求項3】
前記コポリマーのカチオン性モノマーが、2-(ジメチルアミノ)エチルアクリレート(ADAM)、[2-(アクリロイルオキシ)エチル]トリメチルアンモニウムクロリド(ADAM-Cl)、及びこれらの組合せから選択されることを特徴とする請求項1
又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記イオン性架橋剤中のカルボキシル基:カチオン性モノマーの当量比が、好ましくは1:15~0.8、より好ましくは1:10~1:1であることを特徴とする請求項1~
3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記アクリルアミドのコポリマーの正味電荷がpH7でカチオン性であることを条件として、該コポリマーがアニオン性モノマーをさらに含むことを特徴とする請求項1~
4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記組成物が乾燥粉末の形態であることを特徴とする請求項1~
5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記イオン性架橋剤の量が、クエン酸当量として表されるアクリルアミドのコポリマーの2~20質量%、好ましくは2.5~20質量%、より好ましくは3.5~20質量%、さらにより好ましくは5.5~20質量%の範囲であることを特徴とする請求項1~
6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記パルプがデンプンを、パルプ貯蔵所又は損紙貯蔵所で測定して、乾燥全固形分に基づいて、少なくとも0.5質量%、好ましくは少なくとも2質量%、より好ましくは少なくとも3質量%、さらにより好ましくは少なくとも4質量%の量で含むことを特徴とする請求項1~
7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記組成物を、50~1000乾燥g/t乾燥パルプ、好ましくは150~900乾燥g/t乾燥パルプ、より好ましくは300~800乾燥g/t乾燥パルプの量で使用することを特徴とする請求項1~
8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
最後の剪断段階の後で、かつ、抄紙機又は板紙抄紙機のヘッドボックスの前で、前記得た処理溶液を添加することを特徴とする請求項1~
9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
少なくとも1つのアミラーゼ阻害剤及び/又は殺生物剤をパルプ及び/又は損紙に添加することを特徴とする請求項1~
10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載の方法を、クラフト紙、ライナーボード、テストライナー、フルーティング、袋用紙、裏白チップボール、紙管用板紙、又は折り畳み箱用板紙の製造に使用す
る方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、添付の独立請求項の前文に記載した、紙又は板紙等の製造方法及び紙又は板紙等の製造用組成物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
紙や板紙の原料として、リサイクル繊維材料が一般的に使用されている。リサイクル繊維材料は、繊維に加えて、その他の数多くの物質を含んでいる。リサイクル繊維材料をパルプに形成するとき、パルプから、粒子状の異物はパルパー内で又はスクリーン処理(篩分け)を行う際に分離される。非粒子状の物質は、中には、繊維上に自然に保持されるものもあり、当該プロセスに大きな支障をきたすことはない。また、粘着物などその他の物質は、スクリーン処理を行う際にパルプから分離され、プロセスから取り除くことができる。
【0003】
通常、リサイクル繊維材料は、パルプ原材料として使用した紙又は板紙の表面サイズに由来するデンプンを含む。デンプンは、典型的には全く電荷を持たないか又はわずかにしかアニオン性電荷を有しないので、繊維上にほとんど保持(歩留まり)されない。しかも、デンプンは、比較的サイズが小さいために、スクリーン処理時にも効果的に分離することができない。したがって、デンプンは、パルプ化プロセスの水循環中に残留するか、又は廃水処理へ送られるスクリーン流出物と一緒に除去されることになる。また、デンプンは、循環水中の泡立ち、並びに、高レベルの生物学的酸素要求量(BOD)及び高レベルの化学的酸素要求量(COD)を引き起こす可能性がある。デンプンは様々な微生物に適する栄養物質でもあるため、プロセス中の微生物増殖のリスクも高まる。したがって、リサイクル原材料からのデンプンの歩留まりの問題は重要事項であって、困難だがやりがいのある課題である。
【0004】
現在のコンセプトの中には二種のカチオン性ポリマーを使用するものもあるが、このような二種ポリマー系はコスト高である。一般的には、定着、歩留まり、強度、及び脱水(drainage)などの効果を達成するためには、その目的用に、分子量、電荷などが異なる様々なポリマーが必要とされる。通常、強度ポリマーは、比較的低分子量であり、溶液としてしか製造されない。その製造方法が乾燥ポリマーの分子量を高い範囲に制限するからである。乾燥ポリマーは、その高分子量に起因して、通常、凝集剤として使用され、強度ポリマーは、その低分子量に起因して、通常は脱水性及び歩留まりを改善するものではない。
【0005】
さらに、リサイクル繊維材料に関連する困難な課題は、高導電率条件下で性能を発揮させることである。線状カチオン性ポリマーは、過凝集(overflocculation)及び過カチオン化(overcationization)が起こり、地合いが悪くなることから、増量して添加することができず、したがって、所望のレベルの歩留まり、濾水性及び強度が必ずしも達成されないという欠点を有する。また、過凝集及び過カチオン化のため、製造過程で過度の泡立ちが生じる可能性がある。特に導電率が高いときには、性能が低下するものである。塩濃度が高くなると、線状カチオン性ポリマーと繊維との間のイオン結合が解除されるからである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、従来技術に存在する欠点を最小限にするか、又は解消することである。
【0007】
本発明の一目的は、デンプン歩留まり及び脱水性(濾水性)を改善した、紙又は板紙等の製造方法を提供することである。
【0008】
特に、本発明の目的は、リサイクルされた又は未漂白の繊維材料を用いて、特に高導電性条件の下で、紙強度(紙力)特性及びデンプン歩留まりを改善するための方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
とりわけ上記に掲げた各目的を達成するために、本発明は、添付の独立請求項の特徴部分に提示した内容を特徴とする。
【0010】
本発明の幾つかの好適な実施形態を従属請求項に記載する。
【0011】
本書で言及する実施形態及び利点は、適用可能であれば、たとえ必ずしも具体的に言及していなくても、本発明に係る方法及び使用方法の両方に関する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
紙又は板紙等を製造する典型的な方法において、本方法は、原材料としてリサイクル繊維を使用するものであって、
- パルプを用意すること、
- (i)アクリルアミドと少なくとも1種のカチオン性モノマーとのコポリマーであって、カチオン性モノマーを、モノマーの全量から計算して少なくとも15モル%含むコポリマー、及び
(ii)少なくとも2つのカルボキシル基を含むイオン性架橋剤であって、カルボキシル基:カチオン性モノマーの当量比が1:20~1:0.5である架橋剤
を含む組成物を水のような水溶液に溶解して、水性処理溶液を得ること、
- 得た処理溶液をパルプに添加すること、及び
- パルプを繊維状ウェブに形成すること
を含む方法である。
【0013】
今や、驚くべきことに、アクリルアミドと少なくとも1種のカチオン性モノマーとのコポリマー及びイオン性架橋剤を含む組成物が、デンプン及びコロイドの歩留まり、濾水性、及び強度の点で、製紙プロセス及び得られる紙を改良することが見出された。これらの改良は、少なくとも2つのカルボキシル基を有するイオン性架橋剤と、アクリルアミドとカチオン性モノマーとのコポリマー中に存在するカチオン性モノマーとの間のイオン性相互作用から生じる可逆的3次元(3D)構造に起因すると考えられる。3D構造の形成は、例えば、線状の、すなわちイオン的に架橋されていないカチオン性ポリアクリルアミドの場合と比較して、イオン的に架橋されたカチオン性ポリアクリルアミドの粘度が低下するものとして理解することができる。3D構造は、水性環境にあるとき、過凝集及びそれによる地合いの劣化を引き起こすことなく、高い投与量を容易化する。すなわち、カチオン性ポリマーとイオン性架橋剤とによってポリイオン錯体が形成される。典型的には、イオン性相互作用によって得られる構造は、組成物を希釈すると開く。しかしながら、導電率、すなわち塩濃度が上昇した環境で使用する場合、提示したコポリマーは、圧縮構造のままであり、そのポリマーのカチオン性を高めること、及び、過凝集を生じることなく添加量を増加させることの両方を可能にする。言い換えれば、導電率が低い条件では、ポリマーをパルプへ添加後、そのポリマーの構造が開いて大きなフロックを生成する。このフロックは、繊維及び填料の歩留まりには良好であるが、紙強度(紙力)には有益でない。アクリルアミドと少なくとも1種のカチオン性モノマーとのコポリマー及びイオン性架橋剤を含む組成物は、強度、脱水性(濾水性)、デンプン及びコロイドの歩留まり、及び定着に有益であり、そのため製紙工場の水循環は汚れがなくきれいなままである。イオン架橋によって得られる三次元構造もまた脱水に有益である。特に、ヘッドボックスストックに、少なくとも1mS/cm、好ましくは少なくとも2.5mS/cm、より好ましくは少なくとも3mS/cm、さらにより好ましくは少なくとも3.5mS/cmの導電率を有するパルプを使用すると、強度、脱水性、デンプンとコロイドの歩留まり、定着を向上させることができる。
【0014】
本発明に係る方法に使用する組成物は、少なくとも2つのカルボキシル基を含むイオン性架橋剤を含む。ここで使用するように、カルボキシル基とは、プロトン化形態又は脱プロトン化形態のいずれであるかにかかわらず、-COOH基を意味する。カルボキシル基:カチオン性モノマーの当量比は、1:20~1:0.5、好ましくは1:15~0.8、さらに好ましくは1:10~1:1である。イオン性架橋剤は、その量が多いと、アクリルアミドと少なくとも1種のカチオン性モノマーとのコポリマーのカチオン電荷を過剰に消費し、強度助剤、デンプン及びコロイドの歩留まり助剤及び/又は脱水助剤としての性能が低下する。さらに、より多い量の場合は、さらなる性能上の利益をもたらすものではなく、ポリマーの量を希釈する。イオン性架橋剤の量が少ないと、ポリマーに対して3D構造を形成するにはイオン性架橋が少な過ぎて、強度助剤、デンプン及びコロイドの歩留まり助剤及び/又は脱水助剤としての性能が低下する。
【0015】
組成物のコポリマー及びイオン性架橋剤は、水溶液中でイオン架橋コポリマーを形成するものであり、そのイオン架橋コポリマーは、2.0~5.5mPasの範囲の標準粘度(standard viscosity)を有する。これは、ブルックフィールドDVI+粘度計により、25℃で5.5%(w/w)NaCl溶液中の1.0%(w/w)試料から測定したものである。標準粘度は、コポリマー中に存在するイオン架橋の量、そして他方ではコポリマーの分子量の大きさを反映する。イオン性架橋剤が存在しないと、同じコポリマーであっても標準粘度が高くなる。2.0~5.5mPasの標準粘度は、特に、強度助剤、デンプン及びコロイドの歩留まり助剤及び/又は脱水助剤として製紙を行うために必要とされる、3,000,000~20,000,000g/molの範囲の重量平均分子量MWにほぼ対応する。
【0016】
本発明の一実施形態によれば、アクリルアミドと少なくとも1種のカチオン性モノマーとのイオン架橋コポリマーの標準粘度は、ブルックフィールドDVI+粘度計により、25℃で5.5%(w/w)NaCl溶液中の1.0%(w/w)試料から測定するとき、2.2~5.0mPas、好ましくは2.4~4.0mPas、より好ましくは2.5~3.5mPasの範囲内にある。これらの標準粘度は、4,000,000~15,000,000g/molの範囲、又は5,000,000~9,000,000g/molの範囲のアクリルアミドコポリマーの重量平均分子量MWにほぼ対応する。この特定の標準粘度が、脱水性、及びデンプン及びコロイドの歩留まりに、並びに最終紙又は板紙製品の強度特性に、明らかな改善をもたらすことが分かった。
【0017】
本発明の一実施形態によれば、イオン性架橋剤は、クエン酸、アジピン酸、マロン酸、コハク酸、又はこれらの任意の混合物である。イオン性架橋剤はクエン酸及びアジピン酸を含むことが好ましい。イオン性架橋剤の大部分はクエン酸に由来する。クエン酸は、典型的なカチオン性ポリマー溶液に必要なpHで、かつ、クエン酸をアクリルアミドのコポリマーに対して高度に相溶性にするpH3.5~6で、少なくとも2つの機能的に活性な又は使用可能なカルボキシル基を提供するものである。このイオン性架橋剤は粉末形態で入手可能であり、これにより、本願において後述するように乾燥粒子形態での組成物の製造が可能となる。さらに、アジピン酸及びクエン酸は、食品又は飲料と接触することになる紙又は板紙等級に使用することが許容されている。さらにまた、三塩基性架橋剤としてのクエン酸は、二塩基性架橋剤であるアジピン酸と比較して、イオン架橋されたカチオン性ポリアクリルアミド溶液の粘度が低下するという点で、コポリマーに増大した構造を付与するものであることが実証された。イオン性架橋剤、特にクエン酸は、水溶液中での加水分解に対してポリマーのカチオン基を保護することも観察された。さらに、クエン酸は、組成物の水溶液中での微生物増殖を最小限に抑えるか、さらには阻止する。
【0018】
本発明の一実施形態によれば、イオン性架橋剤の量は、少なくとも2質量%、好ましくは少なくとも2.5質量%、又は少なくとも3質量%であることができ、幾つかの実施形態では少なくとも3.5質量%であることができる。本発明の一実施形態によれば、イオン性架橋剤の量は、クエン酸当量として表されるアクリルアミドのコポリマーの2~20質量%、好ましくは2.5~20質量%、より好ましくは3.5~20質量%、さらにより好ましくは5.5~20質量%の範囲であることができる。本発明の幾つかの実施形態では、イオン性架橋剤の量は、3.5~15質量%、より好ましくは5.5~10質量%の範囲であることができる。
【0019】
本発明によると、アクリルアミドのコポリマーは、カチオン性モノマーをモノマーの全量から計算して少なくとも15モル%含む。本発明の好ましい一実施形態によれば、アクリルアミドのコポリマーは、カチオン性モノマーを少なくとも20モル%、好ましくは少なくとも30モル%、より好ましくは少なくとも40モル%、さらにより好ましくは少なくとも45モル%含む。そのコポリマー中のカチオン性モノマーの量が、コポリマーとイオン性架橋剤との相互作用を可能にすることによって所望の三次元構造を実現する。さらに、このようなより高いカチオン性である場合には、例えば10モル%のカチオン性の場合と比較して、デンプン歩留まり、濾液の濁度、及び強度が改善されることが実証された。アクリルアミドのコポリマーは、カチオン性モノマーを20~99モル%、好ましくは30~99モル%、より好ましくは40~80モル%、さらにより好ましくは45~65モル%の範囲内で含むことができる。ただし、カチオン性モノマーの量が多すぎる場合には、得られるコポリマーのカチオン電荷密度も高くなり過ぎ、泡立ちを引き起こす可能性があり、繊維に対する他の添加剤の定着が低減される可能性もある。
【0020】
当該コポリマーは、アクリルアミドと少なくとも1種のカチオン性モノマーを重合させることによって得られる。そのカチオン性モノマーとしては、2-(ジメチルアミノ)エチルアクリレート(ADAM)、[2-(アクリロイルオキシ)エチル]トリメチルアンモニウムクロリド(ADAM-Cl)、2-ジメチルアミノエチルメタクリレート(MADAM)、[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]トリメチルアンモニウムクロリド(MADAM-Cl)、[3-(アクリロイルアミノ)プロピル]トリメチルアンモニウムクロリド(APTAC)、[3-(メタクリロイルアミノ)プロピル]トリメチルアンモニウムクロリド(MAPTAC)、又はこれらの任意の組合せが挙げられる。カチオン性モノマーとしては、2-(ジメチルアミノ)エチルアクリレート(ADAM)、[2-(アクリロイルオキシ)エチル]トリメチルアンモニウムクロリド(ADAM-Cl)、[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]トリメチルアンモニウムクロリド(MADAM-Cl)、[3-(アクリロイルアミノ)プロピル]トリメチルアンモニウムクロリド(APTAC)、及び[3-(メタクリロイルアミノ)プロピル]トリメチルアンモニウムクロリド(MAPTAC)、又はこれらの任意の組合せからなる群から選択することが好ましい。カチオン性モノマーとしては、2-(ジメチルアミノ)エチルアクリレート(ADAM)、[2-(アクリロイルオキシ)エチル]トリメチルアンモニウムクロリド(ADAM-Cl)、及びこれらの任意の組合せから選択することがより好ましい。これらのモノマーは、例えば高温で比較的容易に加水分解するので、例えば製造中の乾燥中に加水分解を受けてアニオン性基を形成し、それによって、更なるイオン相互作用によって三次元構造の形成を促進する。一方、水に溶解した場合、イオン性架橋剤、特にクエン酸は、更なる加水分解に対してポリマーのカチオン性基を保護する。
【0021】
アクリルアミドコポリマーは、また、その正味電荷がpH7でカチオン性であることを条件として、アニオン性モノマー(複数を含む)に由来する少なくとも1つの構造単位を含んでもよい。したがって、アクリルアミドコポリマーは、カチオン性官能基とアニオン性官能基の両方を含むことができる。本発明の一実施形態によれば、アクリルアミドのコポリマーは、アニオン性モノマーをモノマー全量から計算して0.05~15モル%、好ましくは0.1~10モル%含む。
【0022】
アニオン性モノマーとしては、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、アコニット酸、メサコン酸、シトラコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、アンゲリカ酸又はチグリン酸のような、不飽和モノ-又はジカルボン酸から選択することができる。アニオン性モノマーとしては、(メタ)アクリル酸、イタコン酸から選択することが好ましく、また、アニオン性モノマーはアクリル酸であることがより好ましい。
【0023】
本発明の一実施形態によれば、本組成物はゲル重合プロセスにより得られるアクリルアミドのコポリマーを含む。ゲル重合では、使用するモノマーを開始剤の存在下でフリーラジカル重合を用いることによって重合させる。重合プロセスの開始時の温度は40℃未満、時には30℃未満であってもよい。モノマーのフリーラジカル重合によりアクリルアミドのコポリマーが生成するが、これはゲル形態又は高粘性液体である。ゲル重合の後、得られるゲル形態のコポリマーを破砕(シュレッディング)又は細断(チョッピング)するなどして粉砕(comminuted)し、さらに乾燥させて、乾燥粒状コポリマーを得る。使用する反応装置に応じて、重合を行うのと同じ反応装置内で破砕又は細断を行ってもよい。例えば、重合をスクリューミキサーの第1の帯域(領域)で実施し、得られるポリマーの破砕を前記スクリューミキサーの第2の帯域で実施することができる。また、反応装置とは別の処理装置で、破砕、細断又はその他の粒子サイズ調整を行うことも可能である。例えば、得られる水溶性コポリマーは、ベルトコンベアである反応装置の第2の端部から回転式ホールスクリーンなどを通って移送することができ、そこでコポリマーは小さな粒子サイズまで破砕又は細断される。破砕又は細断した後、粉砕したコポリマーを乾燥させ、所望の粒子サイズまで粉砕し(milled)、貯蔵及び/又は輸送用に包装する。
【0024】
好ましい一実施形態によれば、アクリルアミドのコポリマーは、重合プロセスの終了時には線状コポリマーである。言い換えれば、アクリルアミドのコポリマーは分岐しておらず、永久架橋を含まない。一実施形態によれば、アクリルアミドと少なくとも1種のカチオン性モノマーとの重合は、永久架橋結合をもたらす架橋剤を全く含まない。
【0025】
組成物中のコポリマーをゲル重合によって得る場合には、イオン性架橋剤は、例えば重合前のモノマーに添加してもよく、粉砕(comminution)の前又は粉砕の間にゲル化する。あるいは、本発明に係る組成物は、粒子形態又は粉末形態のコポリマーと、粒子形態又は粉末形態のイオン性架橋剤の少なくとも一部とを混合することによって得ることができる。2種の粒状粉末を混合することは、工業的規模でも実施するのが容易であり、そうすることで、個々の成分の割合により多くの自由度をもたらすことができる。
【0026】
本発明の一実施形態によれば、組成物は、組成物の乾燥固形分に基づいて60~97質量%、好ましくは70~94質量%、より好ましくは78~90質量%のアクリルアミドのコポリマーを含む。組成物中のコポリマーの量は、特に組成物が粉末の形態にあるときに多い。ポリマーが高含有量であることは、組成物の貯蔵及び輸送特性の観点から有益である。
【0027】
組成物中の残留カチオン性モノマーの量は、最大で5000ppmであってもよい。組成物中の残留アクリルアミドモノマーの量は、最大1000ppm、好ましくは最大700ppm、より好ましくは最大500ppmであってもよい。特に、食品又は飲料と接触することとなる紙又は板紙等級の製造に本組成物を使用する場合、残留モノマーの量はできるだけ少ないことが好ましい。特に、自然食品又は飲料と接するようになる紙又は板紙等級の製造に組成物を使用する場合、残留モノマーの量を最小限に抑制することが好ましい。
【0028】
本発明の一実施形態によれば、本組成物は、水溶性の乾燥粉末の形態であることができる。「水溶性」という用語は、本出願との関連では、組成物及びその構成成分が水と完全に混和性であることと理解されたい。過剰の水と混合した場合、本組成物は好ましくは完全に溶解するものであり、得られる溶液はいかなる分離独立した粒子又は顆粒も本質的に含まないことが好ましい。過剰の水とは、得られる溶液が、存在するいかなる成分に関しても飽和溶液とならないことを意味する。
【0029】
本発明の一実施形態によれば、本組成物の乾燥粉末の含水量は最大15質量%であることができる。典型的には、含水量は3~15質量%であり、また、いくつかの実施形態では典型的に5~12質量%であることができる。
【0030】
本発明の一実施形態によれば、
(i)アクリルアミドと少なくとも1種のカチオン性モノマーとのコポリマーであって、カチオン性モノマーを、モノマーの全量から計算して少なくとも15モル%含むコポリマー、及び
(ii)少なくとも2つのカルボキシル基を含むイオン性架橋剤であって、カルボキシル基:カチオン性モノマーの当量比が1:20~1:0.5、好ましくは1:15~0.8、より好ましくは1:10~1:1である架橋剤
を含む組成物を
乾燥強度剤として紙又は板紙等の製造に使用する。
【0031】
本発明の別の実施形態によれば、
(i)アクリルアミドと少なくとも1種のカチオン性モノマーとのコポリマーであって、カチオン性モノマーを、モノマーの全量から計算して少なくとも15モル%含むコポリマー、及び
(ii)少なくとも2つのカルボキシル基を含むイオン性架橋剤であって、カルボキシル基:カチオン性モノマーの当量比が1:20~1:0.5、好ましくは1:15~0.8、より好ましくは1:10~1:1である架橋剤
を含む組成物を
脱水剤(drainage agent)及び/又はデンプン及びコロイド用歩留まり剤として紙又は板紙等の製造に使用する。その他の合成有機脱水助剤(drainage aids)は使用しないことが好ましい。すなわち、紙又は板紙製造方法はその他の有機脱水助剤を含まない。
【0032】
本発明に係る組成物は、クラフト紙、ライナーボード、テストライナー、フルーティング、袋用紙、裏白チップボール(WLC)、紙管用板紙、又は折り畳み箱用板紙(FBB)の製造に使用することができる。板紙は、120~500g/m2の坪量を有することができ、また、一次繊維を100%、リサイクル繊維を100%、又は一次繊維とリサイクル繊維との間の使用可能な混合物をベースとすることができる。
【0033】
紙又は板紙等の製造方法によれば、原料としてリサイクル繊維を使用するプロセスであって、本発明に係る組成物を水などの水溶液に溶解させ、これにより、水性処理溶液を得、この得た処理溶液をパルプに添加する。本方法の好適な一実施形態によれば、このパルプは、パルパー内でパルプ化されたリサイクル紙又はリサイクル板紙等(recycled paper , board or the like)及び/又は未漂白クラフトパルプ及び/又は未漂白セミケミカルパルプ、好ましくはパルパー内でパルプ化されたリサイクル紙又はリサイクル板紙等(recycled paper, board or the like)を、乾燥繊維完成紙料(dry fibre furnish)の少なくとも50質量%含む。
【0034】
本発明の好適な一実施形態によれば、パルプは、ヘッドボックスストック中で、少なくとも1mS/cm、好ましくは少なくとも2.5mS/cm、より好ましくは少なくとも3mS/cm、さらにより好ましくは少なくとも3.5mS/cmの導電率を有する。典型的には、パルプは、ヘッドボックスストック中で最大で15mS/cm、10mS/cm、8mS/cm、6mS/cm又は5.5mS/cmの導電率を有する。本発明の一実施形態によれば、パルプ導電率は、ヘッドボックスストック中で1~15mS/cm、好ましくは2.5~15mS/cm、より好ましくは3~15mS/cm、さらにより好ましくは3.5~15mS/cmの範囲で変動し得る。特に、ヘッドボックスストック中で1~10mS/cm、好ましくは2.5~10mS/cm、より好ましくは3~10mS/cm、さらにより好ましくは3.5~10mS/cmの範囲の導電率を有するパルプを使用する場合、強度、脱水(濾水)性、デンプン及びコロイドの歩留まり、及び定着性が向上する。本発明の幾つかの実施形態では、パルプ導電率は、ヘッドボックスストック中で1~10mS/cm、好ましくは2.5~8mS/cm、より好ましくは3~6mS/cm、さらにより好ましくは3.5~5.5mS/cmの範囲にある。
【0035】
本発明の一実施形態によれば、パルプはデンプンを、パルプ貯蔵所又は損紙(broke)貯蔵所で、好ましくはパルプ又は損紙貯蔵所の出口ポンプの地点で測定して、乾燥全固形分に基づいて、少なくとも0.5質量%、好ましくは少なくとも2質量%、より好ましくは少なくとも3質量%、さらにより好ましくは4質量%の量で含む。パルプのデンプン含有量は、パルプ貯蔵所又は損紙貯蔵所の後で測定して、乾燥全固形分に基づいて、例えば、1~20質量%、好ましくは2~10質量%、好ましくは4~8質量%の範囲とすることができる。
【0036】
本発明の一実施形態によれば、組成物を、50~1000乾燥g/t乾燥パルプ、好ましくは150~900乾燥g/t乾燥パルプ、より好ましくは300~800乾燥g/t乾燥パルプの量で使用する。
【0037】
本発明の一実施形態によれば、得られた処理溶液は、最後の剪断段階の後、かつ、抄紙機又は板紙抄紙機のヘッドボックスの前で繊維パルプに添加する。したがって、処理溶液は、3%未満(<)、好ましくは2.5%未満、より好ましくは2%未満のコンシステンシー(濃度)を有する希薄繊維ストックに添加する。希薄なストックへ添加することは、特に脱水(水切れ)にとって有利である。本発明の一実施形態によれば、得られた処理溶液はパルパーから出るパルプ画分に添加する。処理溶液中のコポリマーが容易にデンプン及び繊維に接触するようになるからである。このようにして、紙ウェブに対するデンプンの歩留まりを効果的に向上させることができる。
【0038】
プロセス中での微生物活性を制御する目的で、パルプ及び/又は損紙に対して少なくとも1種のアミラーゼ酵素阻害剤及び/又は殺生物剤を添加することも可能である。酵素阻害剤及び/又は殺生物剤は微生物活性に起因するデンプンの分解を削減する。このようにして、より多くのデンプンが本発明に係る組成物との相互作用に利用可能となる。
【0039】
殺生物剤及び/又はアミラーゼ酵素阻害剤を、パルパー内へ、又はプロセス内の流れ、例えば、パルプ流又はプロセス水流に添加することができる。この殺生物剤及び/又はアミラーゼ酵素阻害剤は、パルプ濃縮工程の後に位置する、パルプ貯蔵塔又はサイロの前に、プロセス中に添加することが好ましい。殺生物剤及び/又は酵素阻害剤をパルパー内のパルプに、又はスクリーン処理したパルプの濃縮前に添加することができる。本発明の好適な一実施形態によれば、パルプ流がパルパーを出る瞬間から2時間以内に、殺生物剤又はアミラーゼ酵素阻害剤をパルプ流に添加する。さらに、殺生物剤又はアミラーゼ酵素阻害剤は、パルパーの入口とスクリーン処理パルプの濃縮処理との間でパルプに添加することができる。殺生物剤又はアミラーゼ酵素阻害剤を早期に添加することは、デンプンの更なる分解を最小にし、低分子量デンプンのコアグレーション及びフロキュレーションを改善し、これによってデンプンのリサイクル繊維への歩留まりを改善することができるので好ましい。殺生物剤及び/又はアミラーゼ酵素阻害剤を殺生物剤供給位置の一箇所でのみ添加することが可能である。そのようにする代わりに、殺生物剤及び/又はアミラーゼ酵素阻害剤は、互いに間隔をあけて幾つかの別々の供給位置で添加することもできる。こうすることで、プロセス中の既知の問題点を標的として殺生物剤を添加することができる。また、殺生物剤を第1の供給位置で、アミラーゼ酵素阻害剤を別の第2の供給位置で添加することも可能である。
【0040】
殺生物剤は、プロセス中の生存細菌及び/又は微生物の数を少なくとも80%減少させる殺生物剤の任意の適切なものであればよい。同様に、アミラーゼ酵素阻害剤は、アミラーゼ酵素の形成を阻害するか又はアミラーゼ酵素を不活性化する物質の任意のものであることができ、例えば亜鉛阻害剤であってもよい。アミラーゼ酵素阻害剤としては、プロセス条件下でデンプン分解を少なくとも20%低減する阻害剤の適切なものであることが好ましい。
【0041】
本発明の一実施形態によれば、殺生物剤は酸化性殺生物剤又は非酸化性殺生物剤である。
【0042】
本発明の一実施形態によれば、殺生物剤としては、次亜塩素酸ナトリウム、次亜臭素酸、二酸化塩素などのような酸化性殺生物剤;ブロモクロロ-ジメチルヒダントインなどのようなハロゲン化ヒダントイン;モノクロロ-ジメチルヒダントインなどのような部分ハロゲン化ヒダントイン;クロラミン又はブロムアミンなどのようなハロアミン;又はそれらの混合物を含む群から選択することができる。本発明の一実施形態での使用に適したハロアミンは、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、臭化アンモニウム、リン酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、又は尿素を含む任意の他のアンモニウム塩などのアンモニウム源を次亜塩素酸ナトリウムなどの酸化剤と結合させることによって形成することができる。殺生物剤は、当該システム系の処理部分全体を通じて、合計活性塩素濃度が約0.1~5ppmとなるように、連続的に添加することができる。システム系の処理部分の活性塩素濃度は約0.75~2ppmであることがより好ましい。また、スラグ(slug)投与を使用することによって殺生物剤を添加することも可能である。スラグ投与は、連続投与とは対照的に、プロセスへの殺生剤の周期的又はバッチ投与を指す。典型的にはスラグ投与量は1~10ppm、好ましくは3~7ppmである。スラグ(slugs)は、1日に約6~24回各約3~30分間で供給されるのが好ましく、より好ましくは1日に約12~24回各約5~15分間で供給される。
【0043】
本発明の実施形態では、非酸化性殺生物剤としては、グルタルアルデヒド、2,2-ジブロモ-3-ニトリロプロピオンアミド(DBNPA)、2-ブロモ-2-ニトロプロパン-1,3-ジオール(Bronopol)、第四級アンモニウム化合物、カルバメート、5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン(CMIT)、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン(MIT)、1,2-ジブロモ-2,4-ジシアノブタン、ビス(トリクロロメチル)スルホン、2-ブロモ-2-ニトロスチレン、4,5-ジクロロ-1,2-ジチオール-3-オン、2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン、1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オン、オルトフタルアルデヒド(orthophthaldehyde)、第四級アンモニウム化合物(=「quats」)、例えば、n-アルキルジメチルベンジルアンモニウムクロリド、ジデシルジメチルアンモニウムクロリド(DDAC)又はアルケニルジメチルエチルアンモニウムクロリド、グアニジン、ビグアニジン、ピリチオン、3-ヨードプロピニル-N-ブチルカルバメート、ホスホニウム塩、例えば、テトラキスヒドロキシメチルホスホニウムサルフェート(THPS)、ダゾメット、2-(チオシアノメチルチオ)ベンゾチアゾール、メチレンビスチオシアネート(MBT)、及びそれらの組合せが挙げられる。好適な非酸化性殺生物剤としては、グルタルアルデヒド、2,2-ジブロモ-3-ニトリロプロピオンアミド(DBNPA)、2-ブロモ-2-ニトロプロパン-1,3-ジオール(Bronopol)、第四級アンモニウム化合物、カルバメート、5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン(CMIT)及び2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン(MIT)から選択される。
【実施例】
【0044】
実験例
特に明記しない限り、パーセントで示したデータは常に質量パーセントである。
【0045】
標準粘度は以下の方法で測定した。
最初に、塩溶液の調製を、磁気バー及び磁気撹拌機を備えたビーカー中で脱イオン水(3000g)に塩化ナトリウム(525g)を溶解させることにより行う。塩化ナトリウムが完全に溶解するまで、その混合物を最高速度の磁気撹拌機で撹拌する。
【0046】
脱イオン水(200.0g)をビーカーに投入する。磁気撹拌機バーをビーカーに入れ、最高速度の磁気撹拌機で撹拌する。カチオン性ポリアクリルアミドポリマー0.330gを撹拌しながら15秒間でビーカーに投入する。この混合物を最高速度で5分間磁気撹拌機を用いて撹拌し、次いで350rpmで25分間撹拌する。塩溶液(117.5g、15%(w/w)NaCl)をビーカーに加え、混合物を5分間撹拌する。形成した溶液を直径10cm、250ミクロンのステンレス鋼メッシュ篩を通して濾過する。次いで、濾過した溶液(5.5%(w/w)NaCl溶液中の1.0%(w/w)試料)の粘度を、25℃でULアダプターULA-35Z及びYULA-15Z ULAスピンドルを備えたブルックフィールドDVI+粘度計を用いて最高の回転速度で測定する。粘度測定で採用するサンプル量は16mlである。
【0047】
溶液粘度は以下の方法で測定した。
カチオン性ポリアクリルアミド(2.50g)を水(497.5g)に溶解させて0.5%CPAM溶液を調製した。粘度測定は、小型サンプルアダプターを備えたブルックフィールドDV1により、スピンドルS31を用いて最大回転速度で25℃で測定した。
【0048】
実施例1
アクリルアミドとカチオン性モノマーとのコポリマーの製造例のための一般手順
アクリルアミド溶液(50質量%)及びADAM-Cl溶液(80質量%)を各ポリマー生成物につき所定のモル比で反応器に装入する。アジピン酸をモノマー全量の1質量%添加することによってpHを約2.5~4.5に調整する。連鎖移動剤、キレート剤、及び熱開始剤などの他の化学物質をモノマー混合物に添加する。その後、その溶液を窒素ガスでパージする。重合反応器に酸化還元対開始剤系を注入して重合を開始する。重合反応の結果、カチオン性ポリアクリルアミドゲルを得る。そのゲルを乾燥し、最終的に粉末又は粒子を得る。ポリマー組成物は、約95~98質量%の乾燥含量(dry content)を有する。得た粉末を用いてポリマー物性を測定する。
【0049】
実施例2
アクリルアミドとカチオン性モノマーとのイオン架橋コポリマーの組成物
アクリルアミドとカチオン性モノマーとのコポリマー、及びイオン性架橋剤として、重合後に添加したクエン酸又はアジピン酸の組成物を、水にカチオン性ポリアクリルアミド粉末を添加し、60分間25℃でマグネチックスターラーを用いて攪拌し、次いでポリマー溶液に酸を添加し、マグネチックスターラーで15分間撹拌することによって調製する。ポリマー溶液の例を表1に示す。その溶液中のCPAMは、CPAM49モル%ADAM-Cl、乾燥含量95%である。CPAM49モル%の電荷密度は3.7meq/gポリマーであり、0.5%溶液中の全カチオン電荷は18.5meq/リットルである。クエン酸のMWは192.1g/molである。クエン酸は三塩基酸であり、クエン酸各モルは3当量の潜在的アニオンを含有する。したがって、例えば、0.22gのクエン酸は、3.4meqまでのアニオン電荷を含有することができる。各溶液の性質及びカルボキシル基:カチオン性モノマーの当量比を表2に示す。これらの溶液を適用例1で使用する。
【0050】
表1 CPAM(49モル%ADAM-Cl)非架橋参照例及びイオン架橋組成物試料(CS)溶液(500ml水中に95%の乾燥含量を有する2.6gCPAM、すなわち0.5質量%CPAM溶液)の調製及び性質。各試料のカチオン電荷は18.5meq/リットルであった。各試料について、CPAMを、等量比を考慮して、同量のアジピン酸、1%(w/w)のCPAMの存在下で重合させた。溶液粘度及び標準粘度は先に定義したようにして測定した。
【0051】
【0052】
表1から、イオン架橋CPAM試料は、非架橋の参照例と比較して、標準粘度と溶液粘度が低下していることが分かる。さらに、溶液粘度の低下は、架橋剤の相対量が多いほど顕著であり、また、同様の当量比であっても、三塩基性架橋剤を用いる場合には二価架橋剤の場合と比較してより大きい粘度の低下が得られることが分かる。
【0053】
適用例
パルプの調製
ヨーロッパのテストライナー板紙(ボード)を原料として使用した。このテストライナーは約5%の表面サイズのデンプンを含む。このデンプンは酵素的に分解された天然コーンスターチであった。水道水のCa2+濃度をCaCl2によって520mg/lに調整し、導電率をNaClによって4mS/cmに調整することにより希釈水を作った。テストライナー板紙を2×2cm四方に切断した。2.7リットルの希釈水を85℃に加熱した。テストライナー片を、離解する前に2%濃度の希釈水中で5分間湿らせた。スラリーをBrittジャー離解機中30000回転で離解した。希釈水を添加してパルプを0.5%に希釈した。
【0054】
DDAテスト
歩留りと脱水(水切り)を測定するために、DDA(ダイナミックドレネージアナライザー)(AB Akribi Kemikonsulter社製、スエーデン)を使用した。各試験点について500mlのパルプを使用した。脱水の30秒前にパルプをDDAに注ぎ、DDAスターラーを1000rpmに調整した。脱水の10秒前にポリマーを添加した。脱水の2秒前に攪拌を止めた。脱水を開始した後30秒間、真空度を300mBarとし、ワイヤ開口を0.25mmであった。
【0055】
濾水時間を記録し、直ちに濾液濁度及びPCDを測定した。DDAシートを、秤量し1分間4バールで両面に2枚のプロッタ紙を有するシートプレスでプレスした。ワイヤからのシートを、歩留まりの計算を行う目的で、Lorenzt&Wettre社製ホットプレートドライヤー中で絶乾状態(abs dry)まで乾燥させた。ISO9895に準拠するSCT測定を各DDAシートについて6回繰り返した。結果は、DDAシートの坪量(シート乾燥質量/面積)に基づいて指数化して示した。
【0056】
リサイクルパルプに由来するデンプン(この場合は、テストライナー板紙のコーティングに由来する非イオン性分解デンプン)の歩留まりの決定は、DDA濾液から行った。この決定法はパルプ中のデンプン量を測定するのにも適している。25mlの濾液(又はパルプ)を10mlの10質量%HCl中に加えた。混合物を10分間磁気スターラーで撹拌し、黒いリボン濾紙を用いて漏斗中で重力により濾過した。1mlの濾過混合物を8.5mlの水に加えた。7.5gKI/l+5g/lI2からなるヨウ素試薬0.5mlを添加し、ヨウ素溶液を添加してから1分後にHach Lange DR900分光光度計により610nmで吸光度値を測定した。分光光度計のゼロ調整は、ヨウ素添加前の試料を用いて行った。C*フィルム07311非イオン性分解デンプンを基準として使用してデンプン含有量の較正式を作成した。結果からベースライン吸光度を差し引くために、HCl-ヨウ素溶液吸光度についての空試験を行った。デンプン歩留まりは、(パルプデンプン-濾液デンプン)/パルプデンプン×100%のように計算した。また、デンプン減少は、(ゼロ試験の濾液デンプン-濾液デンプン)/濾液デンプン×100%のように計算した。
【0057】
適用例1
本実施例で使用した試験化学物質を表2に示す。化学物質の投与及び投与時間を表3に示す。溶解時にクエン酸をCPAMに添加した。CS1、CS2及びCS3と符号を付けたイオン架橋CPAM試料は表1と同じである。投与時間は脱水前の時間である。
【0058】
【0059】
【0060】
【0061】
表4から、CPAM凝集剤(flocculant)が脱水性能の改善を得るために必須であること、及びイオン架橋がCPAMの脱水性能を妨げないことを理解することができる。PACとシリカとCPAMとの3成分プログラム物を使用した場合、特に3成分プログラム物を本発明のイオン架橋CPAMと共に使用した場合には、CPAM単独の場合に比べてデンプン歩留まりに顕著な改善が見られる。CPAMの使用で全体の歩留まり及び凝集が増加するので、SCT強度が減少するのは当然である。本発明のイオン架橋CPAMは、両方のプログラムにおいて、全体の歩留まり及び脱水性(濾水性)について非架橋CPAMと同じ改善を達成するが、SCT強度が減少することはなく、試験番号7では、わずかではあるがSCTが増加したことさえ見ることができる。さらに、イオン性架橋剤の量が増加するにつれてデンプン歩留まりが増加することが分かる。より構造化された(structured)、イオン架橋CPAMは、テストライナーボードの表面サイズから生じる分解非イオン性デンプンを捕捉するための優れた選択肢になると考えられる。
【0062】
適用例2
この実施例で使用するイオン架橋コポリマーの組成物を、実施例2で記載したように製造した。その特性を表5に示す。脱水前の投与時間、用量及び試験結果を表6に示す。
【0063】
【0064】
【0065】
表6から、より高いカチオン性を有するイオン架橋CPAMが、10モル%のカチオン性を有するCPAMと比較して、より高いSCT強度及びデンプン削減をもたらしたことが分かる。
【0066】
適用例3
表5に示した、前の例と同じ試料を使用した。脱水前の投与時間及び用量を表7に提示し、試験結果は表8に示す。
【0067】
【0068】
【0069】
表8から、15モル%を超えるカチオン性を有するイオン架橋CPAM(試験番号27~32)が、わずか5モル%のカチオン性しか有しないCPAMに比べて、より高いデンプン削減及びより低い濁度を実現したことが分かる。さらに、より高いカチオン性を有するイオン架橋CPAMが、用量がより低いときでも、脱水性及び歩留まりの改善を実現した。さらに、カチオン性モノマーに対するカルボキシルの相対量が高い場合、濾水時間が短縮したこと、また、コロイド歩留まりの改善を示唆する濁度低下がもたらされたことが分かる。