(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-08
(45)【発行日】2022-01-13
(54)【発明の名称】シアン酸エステル系接着剤およびシアン酸エステル系接着剤を製造する方法
(51)【国際特許分類】
C09J 179/04 20060101AFI20220104BHJP
C09J 11/06 20060101ALI20220104BHJP
C09J 11/04 20060101ALI20220104BHJP
C08G 73/00 20060101ALI20220104BHJP
【FI】
C09J179/04 C
C09J11/06
C09J11/04
C08G73/00
(21)【出願番号】P 2019518409
(86)(22)【出願日】2017-10-03
(86)【国際出願番号】 EP2017075051
(87)【国際公開番号】W WO2018065399
(87)【国際公開日】2018-04-12
【審査請求日】2020-07-16
(32)【優先日】2016-10-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】509221054
【氏名又は名称】ノラックス・アクチェンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】NOLAX AG
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】リープル,マルクス
(72)【発明者】
【氏名】ツィンマーマン,エリカ
(72)【発明者】
【氏名】ブーザー,シュテファン
(72)【発明者】
【氏名】ミュラー,アルフレード
【審査官】澤村 茂実
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-129810(JP,A)
【文献】特開平11-251336(JP,A)
【文献】特開2013-100382(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2つのOCN基を有する少なくとも1つのシアン酸エステルを含む、成分Aと、
トリアジン環を形成するためのOCN基の三量化反応のための少なくとも1つの触媒を含む、成分Bと、を備え、
前記少なくとも1つの触媒は、スズオクトアートであり、物理吸着または化学吸着によって、キャリ
ア上に可逆的に保持される、シアン酸エステル系接着剤。
【請求項2】
前記キャリアは、焼成シリカである、請求項1に記載のシアン酸エステル系接着剤。
【請求項3】
前記少なくとも1つの触媒は、非錯化状態にある、請求項1
または請求項2に記載のシアン酸エステル系接着剤。
【請求項4】
a)溶液中で、少なくとも2つのOCN基を有する少なくとも1つのシアン酸エステルを含む成分Aと、トリアジン環を形成するためのOCN基の三量化反応のためのスズオクトアートを含む少なくとも1つの触媒を含む成分Bとを接触させ
るステップを備え、
前記触媒は、物理吸着または化学吸着によって、キャリ
ア上に可逆的に保持され、さらに、
b)任意に、減圧下で、a)からの組成物を脱気させるステップを備える、請求項1
から請求項
3のいずれか
一項に記載のシアン酸エステル系接着剤を製造する方法。
【請求項5】
前記接触させるステップは、混合させるステップである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
ステップa)における前記接
触は、20~100℃で
、1~10
分の間行われる、請求項
4または請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記接触は、30~70℃で行われる、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記接触は、60℃以上で行われる、請求項6または請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記接触は、2~8分の間行われる、請求項6から請求項8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記接触は、4~6分の間行われる、請求項6から請求項9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
成分Aおよび/または成分Bは、ステップa)において溶液として提供される、請求項
4から請求項
10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
成分Aおよび成分Bは、ステップa)において固体として提供される、請求項
4から請求項
10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記スズオクトアートは、物理吸着または化学吸着によって、キャリ
ア上に可逆的に保持される
、請求項1に記載のシアン酸エステル系接着剤におけるトリアジン環を形成するためのOCN基の三量化のための触媒としてのスズオクトアートの使用。
【請求項14】
基材をコーティングするための、請求項1
から請求項
3のいずれか
一項に記載のシアン酸エステル系接着剤の使用。
【請求項15】
請求項1
から請求項
3のいずれか
一項に記載のシアン酸エステル系接着剤のコーティングを有する、基材。
【請求項16】
自動車工学、住宅建設、造船、オーブン建設、溶鉱炉構築、化学反応器、航空工学/産業、航空宇宙、熱電併給所、セメント窯、ごみ/廃棄物焼却炉の分野における構成部品を絶縁するための、請求項1
から請求項
3のいずれか
一項に記載のシアン酸エステル系接着剤でコーティングされた基材の使用。
【請求項17】
a)シアン酸エステル系接着剤を基材に塗布するステップと、
b)構成部品を、前記基材に塗布された前記シアン酸エステル系接着剤に付着するステップと、
c)>100℃の温度で
、1~30
分の間、前記シアン酸エステル系接着剤を架橋するステップと、を備える、請求項1
から請求項
3のいずれか
一項に記載のシアン酸エステル系接着剤で構成部品をコーティングする方法。
【請求項18】
220℃で、前記シアン酸エステル系接着剤を架橋するステップを備える、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
5~10分の間、前記シアン酸エステル系接着剤を架橋するステップを備える、請求項17または請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記架橋は、大気中の水分の除去とともに行われる、請求項
17から請求項19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記基材および/または前記構成部品は
、前処理される、請求項
17から請求項
20のいずれか
一項に記載の方法。
【請求項22】
前記基材および/または前記構成部品は、化学洗浄および/または物理洗浄によって前処理される、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記化学洗浄および/または物理洗浄は、コロナ前処理またはプラズマ処理である、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
(i)少なくとも2つのOCN基を含む少なくとも1つのシアン酸エステルと、
(ii)物理吸着または化学吸着によって、キャリ
ア上に可逆的に保持される、トリアジン環を形成するためのOCN基の三量化反応のための少なくとも2つの異なる触媒と、
(iii)任意に
、請求項
17から請求項
23のいずれか
一項に記載の方法の使用のための取扱説明書と、を備え、ii)における前記触媒の1つがスズオクトアートであることを特徴とする、システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シアン酸エステル系接着剤、シアン酸エステル系接着剤を製造する方法、および、基材をコーティングするためのシアン酸エステル系接着剤の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
いずれも長期かつ高温(>300℃)耐性を有する、車両のエンジンコンパートメントまたは排気システムにおける、たとえばガラス繊維マット/アルミホイルアセンブリなどの高温断熱材の積層のために、今日では、市場において接着剤の限られた選択のみが存在する。主にケイ酸塩をベースとする無機システムのほか、ポリイミド系およびシアン酸エステル系接着剤システム、ならびにシリコーン接着剤も存在する。今日では、通常、加工の直前にシアン酸エステルの重合反応のために触媒中で混合し、その後、接着剤組成物を即時に塗布し、積層および続くたとえば150~250℃での熱架橋を実行することによって、シアン酸エステル接着剤は製造される。シアン酸エステルおよび触媒からなる接着剤システムは、一般的に、室温で貯蔵可能ではない。したがって、シアン酸エステルで予めコーティングされた中間製品は、たとえば-21℃の非常に低い温度で貯蔵されなければならない。
【0003】
原則として、多官能性シアン酸エステルの3つのシアン酸基は、好適な触媒の存在において架橋し、熱の導入によってトリアジン環を形成する。その結果、シアン酸エステル系接着剤は硬化して3次元ネットワークを形成する。
【0004】
触媒として、アミン系硬化剤を有するポリシアン酸およびポリシアン酸/エポキシド結合体からなる速硬性ポリマが、EP 1 265 947 B1から知られている。アミン触媒は、接着剤組成物においてカプセル化された形態で存在し、たとえば、硬化プロセスの開始を伴う上昇温度でのカプセルの融解によって放出される。この不利益は、カプセル形態の触媒の複雑な提供、および重合反応の間における局所的な過熱の例である。
【0005】
複合金属触媒を有するポリウレタン組成物が、WO2012/139940A1から知られている。誘導段階の間、触媒反応性はより低いが、この誘導期間の後は、架橋されることとなるシステムの迅速な架橋を生成するために高い反応性および触媒効果が達成される。抑制剤を用いることによって、錯化が行われる。この不利益は、記載されたポリウレタン組成物が、錯化されることができる触媒の類に限定されることである。
【0006】
トリアジン樹脂およびコーティング材料からなる有機-無機複合材料が、US2013/131248A1から知られている。トリアジン環は、シアン酸エステル成分から合成される。コーティング材料は、クレイと硬化触媒との混合物を備える。触媒は、同様に、複合体の形態であり、クレイの中に組み込まれる。
【0007】
シアン酸エステルから作製される組成物、架橋触媒、および焼成シリカは、「Composites:パートA 39 (2008), 761~768頁 (ゴーツェン(Goertzen) W.K.,ケスラー(Kessler) M.R.)」から知られている。架橋触媒は、液相の形態をとる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
シアン酸エステルコーティングに影響を及ぼすという一般に知られる課題は、触媒が局所的に過密に存在することであり、制御されない発熱反応プロファイルをもたらす可能性がある。さらに、従来の触媒の均一な組み込みには、多大な費用および複雑さが含まれる。
【0009】
本発明の目的は、従来技術の不利益を克服することである。本発明の特定の目的は、貯蔵安定性のあるシアン酸エステル系接着剤を提供すること、および貯蔵安定性のあるシアン酸エステル系接着剤を製造する方法を提供することである。さらなる意図は、触媒の局所的な過密の例を回避することである。これらの目的は、独立請求項1および5によって達成される。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、成分Aと成分Bとを含むシアン酸エステル系接着剤に関する。成分Aは、少なくとも2つのOCN基を有する少なくとも1つのシアン酸エステルを含む。成分Bは、トリアジン環を形成するためのOCN基の三量化反応のための少なくとも1つの触媒を有する。ここで、触媒は、キャリア、特に焼成シリカ上に可逆的に保持される。ここで、および以下、「可逆的に保持される」とは、触媒がキャリアの表面に付着すること、および/または、キャリアの表面と接触していることを意味すると理解される。これは、特に物理吸着または化学吸着によって達成され得る。この方法では、触媒は、組成物に均一に分配され、触媒が放出されるときの局所的な過密が回避される。この方法では、触媒は、はるかに効率的に取り込まれることができる。キャリア上に可逆的に保持される触媒に基づいて、さらに、組成物の貯蔵安定性が倍増する。
【0011】
有利には、シアン酸エステル系接着剤は潜在的な反応性を有しているため、基材は、シアン酸エステル系接着剤の硬化および/または経時的なその粘度の大幅な増加を経験することなく、シアン酸エステル系接着剤でコーティングされ得る。コーティングされた基材は、さらなる動作ステップにおいて、たとえば、シアン酸エステル系接着剤が硬化される、および/または、他の構成部品がコーティングされた基材上に配置される前に、一時的に保管されることができる。高度に発熱性である重合反応の状況において、触媒の異種の局所的な取入れに起因する局所的な過熱の不利な例は存在しない。さらに、従来技術から知られるような、たとえば、触媒を錯化し組成物の反応性を弱める難燃剤の必要がない。いずれの場合においても、進行することが観察される反応は、カプセル化されたまたは錯化された触媒を用いるよりも、大幅により調和している。特に有利には、本発明のシアン酸エステル系接着剤は、60℃での熱間貯蔵の数日の安定性、および、粘度の目立った上昇のないRTで>3ヶ月の安定性を示すということがわかっている。周知のシアン酸エステル系組成物によれば、重合反応の開始に起因して、室温(約20℃)での貯蔵の間の粘度の上昇が記録され、これは不利益である。
【0012】
少なくとも1つの触媒は、非錯化状態で存在し得る。したがって、シアン酸エステル系接着剤の中へ錯化成分を取り込む、または前もって触媒を錯化成分と接触させる必要はない。
【0013】
少なくとも1つの触媒は、好ましくは、スズオクトアートであり得る。キャリア、特に焼成シリカ上に可逆的に保持されるスズオクトアートは、トリアジン環を形成するためのOCN基の三量化反応のための、したがってシアン酸エステル系接着剤の硬化のための好ましい触媒であるとして挙げられている。Fe(III)およびCo触媒と比較して、低温で不活性であり、さらに低毒性および高い利用可能性の有利な特性を有するため、スズオクトアートは特に好適な触媒である。さらに、たとえばFe(III)アセチルアセトネートまたはMn(II)アセチルアセトナートなどの慣例の触媒よりも、スズオクトアートによる粘度の上昇は、はるかに低いことがわかっている。
【0014】
成分Bは、トリアジン環を形成するためのOCN基の三量化反応のための、したがってシアン酸エステル系接着剤の硬化のための1つ以上の触媒を含み得る。1つの触媒または複数の触媒は、シアン酸エステルに基づいて、相対的に、0.001~10重量%、より好ましくは0.01~5重量%、非常に好ましくは0.1~1重量%を占め得る。前述の重量%は、全体組成に基づく。
【0015】
シアン酸エステル系接着剤は、少なくとも5重量%、好ましくは少なくとも25重量%、より好ましくは30重量%の割合で、少なくとも1つの充填剤を含み得る。好適な充填剤は、たとえば、炭酸カルシウム(チョーク)、カオリン、モンモリロナイト(ベントナイト)、珪灰石、焼成シリカ、微粉砕ガラス、微粉砕再生ガラス、中空ガラスビーズ、顔料、ガラス繊維もしくは玄武岩繊維、タルク、または染料などの無機充填剤である。他の好適な充填剤は、シリコーン、ゴムまたは周知の衝撃改質剤などの有機充填剤である。単一のまたは複数の充填剤が用いられてもよい。充填剤の含有量は、25~30重量%であり得る。十分に反応される接着剤は著しく低い可燃性を有するため、軟化剤が添加される必要はない。しかしながら、原則として、軟化剤の添加への障害はない。
【0016】
本発明のさらなる局面は、特に上述されるようなシアン酸エステル系接着剤を製造する方法に関する。上記方法は、溶液中で成分Aと成分Bとを接触させる、特に混合するステップa)を備える。ここで、成分Aは、少なくとも2つのOCN基を有する少なくとも1つのシアン酸エステルを含む。成分Bは、トリアジン環を形成するためのOCN基の三量化反応のための、少なくとも1つの触媒、特にスズオクトアートを含む。ここで、触媒は、キャリア、特に焼成シリカ上に可逆的に保持される。上記方法は、a)からの組成物が減圧下で脱気されるステップb)を任意に含む。この方法では、シアン酸エステル系接着剤を製造する方法が提供され、簡単かつ再現可能に実行され得る。さらに、上記方法は、先述の利点を有するシアン酸エステル系接着剤を提供する。
【0017】
ステップa)において接着すること、特に混合することは、20~100℃で、好ましくは30~70℃で、より好ましくは60℃以上で、1~10分、好ましくは2~8分、より好ましくは4~6分の間、行われ得る。この方法では、組成物の個々の成分が特に良好に拡散され、個々の成分の局所的な過密の例は除外される。
【0018】
成分Aおよび/または成分Bは、上記方法のステップa)において溶液として提供され得る。これは、成分Aが溶液に導入され、成分Bが固体として成分Aの溶液に取り込まれること、または、成分Bが溶液に導入され、成分Aが固体として成分Bを有する溶液に取り込まれることのいずれかを意味する。この方法では、2つの成分の1つまたは両方の成分が既に溶液に存在するかどうかについて自由な選択が存在する。したがって、使用者は、状況に応じて選択することが可能である。
【0019】
成分Aおよび成分Bは、ステップa)において固体として提供されて溶媒に吸収されてもよい。好適な溶媒は、当業者に知られている。好ましい溶媒は、200℃未満の沸点を有する非プロトン性の溶媒である。したがって、溶媒は、有利には硬化ステップの間に除去され得る。好ましい溶媒の網羅されていないリストは、アセトン、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン、ジエチレングリコールジメチルもしくはジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセタート、エチルメチルケトン、N-メチルピロリドン、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、炭酸ジメチル、テトラヒドロフラン(TFH)、ジクロロメタン、塩化エチレン、酢酸エチルを含む。この方法では、成分AおよびBは、操作の容易の便益のために、固体として予め混合されて溶媒に吸収されてもよい。
【0020】
触媒、特にスズオクトアートを、キャリア、特に焼成シリカ上に適用するために、触媒は、溶媒、特にアセトンに溶解され得る。キャリア、特に焼成シリカは、触媒を含む溶媒に添加され、この方法では、触媒と接触され得る。触媒およびキャリアを含む組成物は、混合され得る、特に分散され得る。次に、溶媒は、特に蒸発によって除去され得る。任意の可能性は、粉砕されることとなるその上に可逆的に保持される触媒、次に続く溶媒の除去である。これは、触媒をキャリア、特に焼成シリカに適用することを特に容易にするため、触媒は、キャリア上に可逆的に保持され、シアン酸エステル系接着剤を製造するための本発明の方法において提供されることができる。
【0021】
本発明は、さらに、シアン酸エステル系接着剤のトリアジン環を形成するためのOCN基の三量化反応のための触媒としてのスズオクトアートの使用に関する。この場合、スズオクトアートは、キャリア、特に焼成シリカ上に可逆的に保持される。触媒としてのスズオクトアートについて上記に言及される利点は、言うまでもなく、シアン酸エステル系接着剤のトリアジン環を形成するためのOCN基の三量化反応のための触媒としてのスズオクトアートの使用に等しく有効である。
【0022】
本発明の別の局面は、基材をコーティングするための上述されたようなシアン酸エステル系接着剤の使用である。ここで、シアン酸エステル系接着剤は、先述の特徴および有利な特性を有する。
【0023】
本発明は、さらに、上述されたようなシアン酸エステル系接着剤でのコーティングを有する基材に関する。これによりコーティングされた基材は、多種多様な異なる要素、特に構成部品に付着、特に設置され得る。
【0024】
本発明は、さらに、自動車工学/産業(Automobilbau/-industrie(automotive engineering/industry))、住宅建設(Hausbau(housebuilding))、造船(Schiffsbau(shipbuilding))、オーブン建設(Ofenbau(oven building))、溶鉱炉構築(Hochofenbau(blast furnace construction))、化学反応器(Chemiereaktoren(chemical reactors))、航空工学/産業(Flugzeugbau/-industrie(aeronautical engineering/industry))、航空宇宙(Luft- und Raumfahrt(aerospace))、熱電併給所(Blockheizkraftwerke(combined heat and power stations))、セメント窯(Zementofen(cement kiln))、ごみ/廃棄物焼却炉(Kehrricht/Abfallverbrennungsofen(refuse/waste incinerator))の分野における構成部品を絶縁するための、上述されたようなシアン酸エステル系接着剤でコーティングされる基材の使用に関する。この目的のために、たとえば、基材はシアン酸エステル系接着剤でコーティングされ、構成部品はコーティングに付着され、コーティングは熱の導入によって重合または硬化される。これは、基材を備える絶縁システムを含む構成部品をもたらす。
【0025】
本発明のさらなる局面は、上述されたようなシアン酸エステル系接着剤で構成部品をコーティングする方法に関する。上記方法は、a)シアン酸エステル系接着剤を基材に塗布するステップと、b)基材に塗布されたシアン酸エステル系接着剤に構成部品を付着するステップと、c)>100℃、好ましくは220℃の温度で、1~30分、好ましくは5~10分の間、シアン酸エステル系接着剤を架橋するステップとを備える。構成部品は、特に簡単に、コーティング、特に高温のための断熱システムを有して適切に製造される。
【0026】
シアン酸エステル系接着剤の架橋または重合は、大気中の水分の除外において起こり得る。これは、たとえば、MEYERベルトプレスで行われる。ベルトプレスの利点は、制御された温度管理を可能にすることである。さらに、基材、特にシート形態の材料は、潜在的に反応性のあるシアン酸エステル系接着剤で幅全体にわたって効率的に予めコーティングされ得る。予めコーティングされた基材は、冷却されることなく、貯蔵され、移送され、および/または、位置を変えることができる。最終的な硬化をしてはじめて、反応は温度の上昇によって始動され得る。
【0027】
基材および/または構成部品は、前処理され得る。この文脈における可能な前処理は、特に、化学的および/または物理的洗浄、特にコロナ前処理、ならびにプラズマ処理による表面の不活性化を含む。布地は、特にフレーミングによって前処理され得る。ホイル、特にアルミホイルは、特に曇り止めスプレーコーティングで前処理され得る。この方法では、基材と構成部品との間の特に効果的な接着が達成される。
【0028】
本発明のさらなる局面は、部品のキットの意味のシステムに関する。システムは、(i)少なくとも2つのOCN基を含む少なくとも1つのシアン酸エステルと、(ii)キャリア、特に焼成シリカ上に可逆的に保持される、トリアジン環を形成するためのOCN基の三量化反応のための少なくとも2つの異なる触媒と、(iii)任意には、上述されたような構成部品をコーティングするための方法の使用のための取扱説明書とを備える。
【発明を実施するための形態】
【0029】
他官能性シアン酸エステル
少なくとも2つのOCN基を含む好ましいシアン酸エステルは、たとえば、商品名Huntsman Cyanatester AcoCy XY371またはLonzaからのPrimaset(商標登録)シアン酸エステルで知られるノボラックをベースとする。
【0030】
ノボラックは、酸性触媒で調製され、かつフェノール性樹脂の群に属する、ホルムアルデヒドとフェノールとの重縮合生成物である(Chemie Lexikon,Rompp(oの上にウムラウト)(Hrsg.)、9. Aufl. 1991, Bd.4, Eintrag zum Stichwort「Novolake」を参照)。
【0031】
金属触媒
これらは、有機ラジカルとともに金属原子を含む化合物である。例は、スズ、チタン、亜鉛、鉛、ビスマス、鉄、コバルト、ニッケル、カルシウム、バリウム、マンガン、バナジウム、ジルコニウム、および/またはアルミニウムなどの金属である。それらは、たとえば、水酸化物、アルコキシド、フェノキシド、または酸化物などの、カルボン酸塩、アセチルアセトナートなどのキレートの形態で存在し得る。金属触媒の混合群も周知である。これらの化合物は、特に、カルボン酸塩、酸化物、水酸化物またはアセチルアセトナートとしての、Sn、Fe、Ti、Al、BiまたはZrの化合物である。1つの好ましい金属触媒は、スズオクトアートである。スズオクトアートは、エチルヘキサン酸スズまたは2-エチルヘキサン酸スズ(II)としても知られている。量は、全体組成に基づいて、0.001~10重量%であり得る。好ましい量は、0.01~5重量%、特に0.1~1重量%である。
【0032】
非金属触媒
好ましい非金属触媒は、置換尿素、特にジフェニル尿素(シグマアルドリッチ(Sigma Aldrich)から)、イミダゾール、特にジメチルイミダゾールもしくは2,4-ジアミノ-6-[2’-メチルイミダゾール-1’-イル]エチル-s-トリアジン(エアプロダクツ(Air Products)からのクレゾール2MZアジン))、または、カルボン酸テトラアルキルアンモニウム、特に安息香酸テトラエチルアンモニウムである。
【0033】
キャリア物質
キャリア物質は、好ましくは、たとえばEvonikからのAerosil200としての焼成シリカ、または発熱性金属酸化物であり、例は、Aeroxideまたは酸化アルミニウムである。多孔質キャリアは、ゼオライト、および沈殿したシリカ、たとえばEvonikからのSipernatであり得る。
【0034】
キャリアは、好ましくは、5~400g/m2の範囲で、より好ましくは10~200g/m2の範囲で、BET表面領域を有する。
【0035】
実施例
以下、それぞれ、本発明のシアン酸エステル系接着剤の、およびシアン酸エステル系接着剤を製造する方法の局面が、作業サンプルを参照してより詳細に明らかにされる。
【0036】
使用された材料は、以下に記載される。
【0037】
【0038】
比較例
比較例は、シアン酸エステル系接着剤における焼成シリカ上への吸着ステップのないスズオクトアートの組込みに関する。この例のために、245gの100%固形分を有するノボラック系シアン酸エステル(Primaset PT-30、Lonza)が60℃で前処理され、0.245gのスズオクトアート(Borchi Kat 28)および9.8gの焼成シリカ(Aerosil 200、Evonik)が添加され、混合は750rpm(分当たりの回転(revolutions per minute))で実験室用ミキサで行われた。混合物は、60℃で貯蔵された。
【0039】
作業例
作業例は、シアン酸エステル系接着剤の中へ、焼成シリカ(WorleeAdd ST-70)上に可逆的に保持されるスズオクトアートの組込みに関する。この目的のために、第1の245gのPrimaset PT-30が60℃のオーブンで前処理される。その後、焼成シリカ(Worlee-Add ST-70)上に可逆的に保持される0.355gのスズオクトアートおよび9.7gの焼成シリカ(Aerosil 200、Evonik)が添加され、混合物は750rpmで実験室用ミキサで分散された。混合物は、60℃で貯蔵された。
【0040】
【0041】
DSC測定が、冷間圧接されたアルミニウム蓋を有する25μlアルミニウムるつぼで実行された。比較例および作業例に対応する9~11mgの接着剤サンプルが検量された。測定は、25℃~400℃で、10℃/minで、合成空気フラッシング(40ml/min)で、次いで、400℃で、5hの間、合成空気パージング(40ml/min)で行われた。
【0042】
【0043】
比較例および作業例の接着剤は、上記の表に示されるような期間の間、60℃で、粘度測定前に貯蔵された。
【0044】
室温(約20~23℃)での7ヶ月の貯蔵の後、比較例は、>100000mPasのブルックフィールド粘度を有し、作業例は、23800mPasのブルックフィールド粘度を有した。
【0045】
ブルックフィールド粘度測定は、「ASTM D1084-97(再承認された2005)」の方法B(接着剤の粘度についての標準テスト方法)に従って実行された。ここで、測定は、スピンドル#6を用いて、20rpm、60℃で行われた。
【0046】
比較例と比較して、本発明に係る作業例は、大幅に向上された貯蔵安定性を示す。比較例のシアン酸エステル系接着剤がたった3日の貯蔵後に大幅に高い粘度を示し、15日後にはもはや粘度を測定することができない一方、作業例のシアン酸エステル系接着剤は、少なくとも17日を超えて相対的に低い粘度外観を有する。したがって、作業例の接着剤は、製造後、はるかに長い間、加工されることができる。
【0047】
このように製造されたシアン酸エステル系接着剤は、布(好ましくはガラス)またはアルミホイル上へ、60~90℃で、標準の市販のホットメルトコーティングシステムを用いて塗布されることができる。この方法で、布は、非架橋シアン酸エステル系接着剤でコーティングされる。言い換えれば、布のコーティングの間において架橋はない。典型的な塗布速度は、30~70g/m2の間である。グラビアロール(Cavitec,Lacom)、彫刻ロール、ポジ、またはスクリーン(System Nordson,Cavitec,J.Zimmer)が用いられる。