(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-08
(45)【発行日】2022-01-12
(54)【発明の名称】血管新生抑制用ペプチド及びその用途
(51)【国際特許分類】
C07K 7/06 20060101AFI20220104BHJP
A23L 33/18 20160101ALI20220104BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220104BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220104BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20220104BHJP
A61P 27/06 20060101ALI20220104BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20220104BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20220104BHJP
A61P 17/06 20060101ALI20220104BHJP
A61P 19/02 20060101ALI20220104BHJP
A61P 17/02 20060101ALI20220104BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20220104BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20220104BHJP
A61P 19/08 20060101ALI20220104BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20220104BHJP
A61P 1/04 20060101ALI20220104BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20220104BHJP
A61P 7/02 20060101ALI20220104BHJP
A61K 38/08 20190101ALI20220104BHJP
A61K 47/54 20170101ALI20220104BHJP
【FI】
C07K7/06 ZNA
A23L33/18
A61P43/00 105
A61P35/00
A61P9/10
A61P27/06
A61P17/00
A61P27/02
A61P17/06
A61P19/02
A61P17/02
A61P9/00
A61P29/00 101
A61P19/08
A61P37/06
A61P1/04
A61P9/10 101
A61P13/12
A61P7/02
A61P43/00 111
A61K38/08
A61K47/54
(21)【出願番号】P 2020516532
(86)(22)【出願日】2018-03-14
(86)【国際出願番号】 KR2018002978
(87)【国際公開番号】W WO2019059476
(87)【国際公開日】2019-03-28
【審査請求日】2020-03-27
(31)【優先権主張番号】10-2017-0122571
(32)【優先日】2017-09-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】510271129
【氏名又は名称】ケアジェン カンパニー,リミテッド
【氏名又は名称原語表記】CAREGEN CO.,LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】特許業務法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】チョン ヨンジ
(72)【発明者】
【氏名】キム ウンミ
(72)【発明者】
【氏名】リ ウンジ
【審査官】林 康子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2006/0189519(US,A1)
【文献】米国特許第06319687(US,B1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0316115(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 7/06
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1または配列番号2のアミノ酸配列
のみからなる血管新生(angiogenesis)抑制用ペプチド。
【請求項2】
前記ペプチドのN-またはC-末端は、アセチル基、フルオレニルメトキシカルボニル基、ホルミル基、パルミトイル基、ミリスチル基、ステアリル基、及びポリエチレングリコール(PEG)よりなる群から選択される保護基と結合されている、請求項1に記載の血管新生抑制用ペプチド。
【請求項3】
前記ペプチドは、血管内皮細胞増殖、分化及び移動を抑制する、請求項1に記載の血管新生抑制用ペプチド。
【請求項4】
前記ペプチドは、VEGF(vascular endothelial growth factor)受容体と結合する、請求項1に記載の血管新生抑制用ペプチド。
【請求項5】
前記VEGF受容体は、VEGFR2(Vascular endothelial growth factor receptor 2)である、請求項4に記載の血管新生抑制用ペプチド。
【請求項6】
前記ペプチドは、VEGF受容体に対してVEGFと競争的に結合する、請求項1に記載の血管新生抑制用ペプチド。
【請求項7】
請求項1に記載のペプチドを有効成分として含有する、血管新生関連疾患の予防または治療用薬学的組成物。
【請求項8】
前記組成物は、血管内皮細胞増殖、分化及び移動を抑制する、請求項7に記載の血管新生関連疾患の予防または治療用薬学的組成物。
【請求項9】
前記血管新生関連疾患は、癌、糖尿病性網膜症、未熟児網膜症、新生血管緑内障、紅皮症、増殖性網膜症、滲出型黄斑変性症、乾癬、血友病性関節、アテローム性動脈硬化プラーク内における毛細血管の増殖、ケロイド、肉芽創、血管接着、リウマチ関節炎、骨関節炎、自己免疫疾患、クローン病、再狭窄、アテローム性動脈硬化、ネコ引っかき病、潰瘍、糸球体腎炎、糖尿病性腎症、悪性腎硬化症、血栓性微小血管症及び糸球体腎症からなる群から選択される何れか一つ以上である、請求項7に記載の血管新生関連疾患の予防または治療用薬学的組成物。
【請求項10】
請求項1に記載のペプチドを有効成分として含有する血管新生関連疾患の予防または改善用健康機能食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血管新生(angiogenesis)抑制活性を有する新規ペプチド及び新生血管の過剰形成に係る疾患の治療、または予防に係る前記ペプチドの用途に関する。
【背景技術】
【0002】
血管新生(angiogenesis)は、組織や臓器に新たな血管を提供する生物学的過程であり、具体的には、既存の微細血管から新たな毛細血管が生成されることを意味し、成長後の体内で血管が生成される根本的な過程である。人体で正常に観察される生理的血管新生は、胚及び胎児の発達、子宮の成熟、胎盤の増殖、黄体の形成及び傷の治癒のような非常に制限された状況でのみ生じるが、この時期にも非常に厳しく調節されるので、必要な機能が達成されると血管新生は中断される。新たな血管の形成は、血管新生調節因子により厳しく調節され、血管新生の表現型は、血管新生刺激因子の上方調節(up-regulation)及び血管新生抑制因子の下方調節(down-regulation)の間の全体的なバランスにより変わることが報告されてきた(FolkmanJ.,Nat.Med.,1(1):27-31(1995))。
【0003】
血管が新たに生成される過程は、非常に複雑かつ精巧であるが、要約すると次のとおりである。第一、血管新生のための刺激が既存の血管に伝わると血管が膨張して膜透過度が増加する。第二、膨張した血管を介してフィブリン(fibrin)が血管の外に抜け出て血管周囲の細胞質基質に沈積される。第三、既存血管の基底膜を分解するための酵素が活性化され、基底膜が破壊され、その間に内皮細胞が血管を抜け出て周囲の細胞の基質において増殖して移動する。最後に、一列に配列した内皮細胞が脈管をなすことにより新たな血管を生成する(RisauW.,Nature,386(6626):671-674(1997))。
【0004】
病的な状態で現われる血管新生に係る疾患を分類してみると、大きく関節炎のような炎症性疾患、糖尿病性網膜症のような眼科疾患、乾癬(psoriasis)のような皮膚科疾患、及び最も代表的な疾患である癌に分けることができる(FolkmanJ.,Nat.Med.,1(1):27-31(1995))。血管新生による眼科疾患としては、老人性黄斑変性(macular degeneration)、糖尿病の合併症で網膜にある毛細血管が硝子体に侵入して結局目が見えなくなる糖尿病性網膜症(diabetic retinopathy)、未熟児網膜症、新生血管緑内障のような疾病などがあり、このような疾病により毎年世界中で数百万人が失明している。また、関節炎は、自己免疫異常が原因として作用するが、病気の進行過程で滑液腔に生じた慢性炎症が血管新生を誘導することが知られており、新たな毛細血管が関節に侵入して軟骨が破壊されて生じる疾病である。さらに、乾癬も皮膚に生じる慢性の増殖性疾患であるところ、急速な増殖のためには多くの血液の供給を要するので、血管新生が活発に生じざるを得ない。
【0005】
一方、血管新生の促進因子のうち血管内皮成長因子(vascular endothelial growth factor、VEGF)は、多様な信号伝達連鎖反応を活性化させ、内皮細胞の増殖、移動、分化を誘導する役割を担う。したがって、VEGFの中和抗体と信号抑制剤を用いて、VEGFの生物学的活性と信号伝達連鎖反応を妨害することにより、血管新生に係る多様な疾患を治療できる治療戦略となり得る。
【0006】
しかし、VEGFやVEGFの受容体を標的とする血管新生抑制薬物が非正常的な血管新生に係る多様な疾患を治療できるにもかかわらず、いまだにVEGFの受容体に対してVEGFと競争的に結合し、血管内皮細胞の増殖、移動及び分化を顕著に抑制するペプチドに対しては知られたところがない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、血管新生抑制用新規ペプチドを提供することを目的とする。
【0008】
また、本発明は、前記新規ペプチドの血管新生に係る疾患の予防または治療に係る用途を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために、本発明の一側面は、配列番号1または2で記載されるアミノ酸配列からなる血管新生抑制用ペプチドを提供する。
【0010】
また、本発明の他の側面は、前記ペプチドを有効成分として含有する血管新生関連疾患の予防または治療用薬学的組成物を提供する。
【0011】
同時に、本発明のまた他の側面は、前記ペプチドを有効成分として含有する血管新生関連疾患の予防または改善用健康機能食品を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明による新規ペプチドは、VEGF(vascular endothelial growth factor)と競争的にVEGF受容体に結合し、血管内皮細胞の増殖、移動及び分化を顕著に抑制するので、過度な血管新生による疾患を予防または治療する組成物の有効成分として有用に用いられ得るという長所がある。
【0013】
但し、本発明の効果は、前記で言及した効果に制限されず、言及されなかったまた他の効果は下記の記載から当業者に明確に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】配列番号1のアミノ酸配列を有するペプチドの血管内皮細胞の増殖抑制効果を確認した結果を示すグラフである。
【
図2】配列番号2のアミノ酸配列を有するペプチドの血管内皮細胞の増殖抑制効果を確認した結果を示すグラフである。
【
図3a】配列番号1のアミノ酸配列を有するペプチドの血管内皮細胞の分化抑制効果を確認した結果を示す図である。
【
図3b】配列番号1のアミノ酸配列を有するペプチドの血管内皮細胞の分化抑制効果を確認した結果を示すグラフである。
【
図4a】配列番号2のアミノ酸配列を有するペプチドの血管内皮細胞の分化抑制効果を確認した結果を示す図である。
【
図4b】配列番号2のアミノ酸配列を有するペプチドの血管内皮細胞の分化抑制効果を確認した結果を示すグラフである。
【
図5】配列番号1のアミノ酸配列を有するペプチドのVEGFにより誘導された細胞信号伝達経路の抑制効果を確認した結果を示す図である。
【
図6】配列番号2のアミノ酸配列を有するペプチドのVEGFにより誘導された細胞信号伝達経路の抑制効果を確認した結果を示す図である。
【
図7】配列番号1のアミノ酸配列を有するペプチドのeNOSタンパク質の発現量変化の効果を確認した結果を示す図である。
【
図8】配列番号2のアミノ酸配列を有するペプチドのeNOSタンパク質の発現量変化の効果を確認した結果を示す図である。
【
図9】配列番号1のアミノ酸配列を有するペプチドのBAXタンパク質の発現量変化の効果を確認した結果を示す図である。
【
図10】配列番号2のアミノ酸配列を有するペプチドのBAXタンパク質の発現量変化の効果を確認した結果を示す図である。
【
図11】配列番号1のアミノ酸配列を有するペプチドのVEGF受容体に対する結合可否を確認した結果を示すグラフである。
【
図12】配列番号2のアミノ酸配列を有するペプチドのVEGF受容体に対する結合可否を確認した結果を示すグラフである。
【
図13】配列番号1のアミノ酸配列を有するペプチドのアミノ酸配列を有するペプチドがVEGF受容体に対してVEGFと競争的に結合するかの可否を確認した結果を示すグラフである。
【
図14】配列番号2のアミノ酸配列を有するペプチドのアミノ酸配列を有するペプチドがVEGF受容体に対してVEGFと競争的に結合するかの可否を確認した結果を示すグラフである。
【0015】
前記
図1から
図14において、「VEGF+SEQID NO:1」は、VEGFと配列番号1のアミノ酸を有するペプチドを共に処理した処理群であり、「VEGF+SEQID NO:2」は、VEGFと配列番号2のアミノ酸配列を有するペプチドを共に処理した群であり、「VEGF+Sunitinib」または「VEGF+Suni」は、VEGFとスニチニブを共に処理した群である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を詳しく説明する。
【0017】
1.血管新生(angiogenesis)抑制用ペプチド
本発明の一側面は、血管新生抑制活性を有する新規ペプチドを提供する。
前記ペプチドは、ペプチド結合で連結された2個以上のアミノ酸からなるポリマーを意味するところ、ペプチド自体の大きさがあまりにも大きいため、標的組織または細胞に効果的に流入されることができないか、半減期が短くて短期間に体内で消滅するという短所があるため、本発明の前記ペプチドは、血管新生抑制活性を有する、20個以下、好ましくは15個以下、さらに好ましくは10個以下のアミノ酸からなる。
【0018】
本発明の前記新規ペプチドは、配列番号1または配列番号2のアミノ酸配列を含んでよく、前記ペプチドの血管新生抑制活性に影響を及ぼさない範囲内で、アミノ酸残基の欠失、挿入、置換またはこれらの組み合せにより異なる配列を有するアミノ酸の変異体または断片であってよい。前記ペプチドの血管新生抑制活性を全体的に変更させないペプチド水準でのアミノ酸交換は当該分野に公知されている。場合によっては、リン酸化(phosphorylation)、硫化(sulfation)、アクリル化(acrylation)、糖化(glycosylation)、メチル化(methylation)、ファルネシル化(farnesylation)などに変形されてよい。したがって、本発明は、配列番号1または配列番号2のアミノ酸配列を含むペプチドと実質的に同一のアミノ酸配列を有するペプチド及びこの変異体またはこの活性断片を含む。前記実質的に同一のタンパク質とは、前記配列番号1または配列番号2のアミノ酸配列とそれぞれ75%以上、好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の配列相同性を有するアミノ酸配列を意味する。また、前記ペプチドには、標的化配列、タグ(tag)、標識された残基、半減期またはペプチド安定性を増加させるための特定目的で製造されたアミノ酸配列が追加的に含まれてよい。
【0019】
また、本発明の前記ペプチドは、当該分野で広く公知された多様な方法で獲得することができる。一例として、ポリヌクレオチド組換えとタンパク質発現システムを用いて製造するか、ペプチド合成のような化学的合成を介して試験管内で合成する方法、及び無細胞タンパク質合成法などで製造されてよい。
【0020】
また、より良い化学的安定性、強化された薬理特性(半減期、吸水性、力価、効能など)、変更された特異性(例えば、広範囲な生物学的活性スペクトラム)及び減少された抗原性を獲得するために、ペプチドのN-末端またはC-末端に保護基が結合されてよい。好ましくは、前記保護基は、アセチル基、フルオレニルメトキシカルボニル基、ホルミル基、パルミトイル基、ミリスチル基、ステアリル基またはポリエチレングリコール(PEG)であってよいが、ペプチドの改質、特にペプチドの安定性を増進させることができる成分であれば、制限なく含んでよい。
【0021】
前記「ペプチドの安定性」は、生体内タンパク質切断酵素の攻撃から本発明のペプチドを保護するin vivo安定性だけではなく、貯蔵安定性(例えば、常温貯蔵安定性)も意味する。
【0022】
本発明の前記ペプチドが有する血管内皮細胞増殖及び分化抑制効果を確認するため、本発明の具体的な実施例では、血管内皮細胞に配列番号1または配列番号2のアミノ酸配列を有するペプチドをそれぞれ処理した後、血管内皮細胞の増殖及び分化の程度を確認した。その結果、本発明のペプチド処理可否に依存してVEGFにより誘導された血管内皮細胞増殖及び分化が減少することを確認した(
図1から
図4参照)。
【0023】
また、本発明の前記ペプチドが有するVEGFにより誘導された細胞信号伝達経路の抑制効果を確認するため、本発明の具体的な実施例では、血管内皮細胞に配列番号1または配列番号2のアミノ酸配列を有するペプチドをそれぞれ処理した後、VEGFにより誘導されたVEGF受容体(VEGFR2)、ERK、AKT及びp38のリン酸化の変化を確認した。その結果、本発明のペプチドは、VEGFにより誘導されたVEGFR2、ERK、AKT及びp38のリン酸化を有意的に抑制することを確認した(
図5及び
図6参照)。
【0024】
また、本発明の前記ペプチドが有する血管内皮細胞の移動抑制効果を確認するため、本発明の具体的な実施例では、血管内皮細胞に配列番号1または配列番号2のアミノ酸配列を有するペプチドの処理による血管内皮細胞移動マーカー「eNOS」の発現量の変化を確認した。その結果、本発明のペプチドは、VEGF処理により増加されたeNOS発現を濃度依存的に減少させることを確認した(
図7及び
図8参照)。
【0025】
また、VEGFにより発現が減少する前細胞死滅タンパク質(pro-apoptotic protein)に対する本発明の前記ペプチドの効果を確認するため、本発明の具体的な実施例では、血管内皮細胞に配列番号1または配列番号2のアミノ酸配列を有するペプチドの処理によるBAXタンパク質の発現量の変化を確認した結果、細胞死滅を誘導するタンパク質であるBAXタンパク質はVEGFにより発現が減少されるのに反し、本発明のペプチドを処理した群では濃度依存的にBAXタンパク質の発現が増加されることを確認した(
図9及び
図10参照)。
【0026】
併せて、本発明の前記ペプチドのVEGF受容体に対する競争的結合可否を確認するために、本発明の具体的な実施例では、配列番号1または配列番号2のアミノ酸配列を有するペプチドのVEGF受容体との結合可否、及びVEGF受容体に対するVEGFと競争的結合可否を確認した結果、本発明のペプチドがVEGFと互いに競争的にVEGFR2に結合することを確認した(
図13及び
図14参照)。
【0027】
したがって、本発明の前記ペプチドは、VEGF受容体に対してVEGFと競争的に結合し、血管内皮細胞の増殖、移動及び分化を顕著に抑制するので、血管新生を効果的に抑制する活性を有することが明らかであり、そのため、本発明の前記ペプチドは、血管の過剰新生を抑制するための組成物の有効成分として有用に用いられ得る。
【0028】
2.血管新生関連疾患の治療または予防用薬学的組成物
本発明のまた他の側面は、配列番号1または配列番号2のアミノ酸配列を含むペプチドを有効成分として含む血管新生関連疾患の予防または治療用薬学的組成物を提供する。
【0029】
前記配列番号1または配列番号2のアミノ酸配列を含むペプチドは、前記「1.血管新生抑制用ペプチド」項目で説明したペプチドと同一であるので、具体的な説明は、前記「1.血管新生抑制用ペプチド」項目を援用し、以下では、血管新生関連の疾患治療用薬学的組成物に独特な構成に対してのみ説明する。
【0030】
前記血管新生関連疾患は、新生血管の形成が非正常的に進められて引き起こされる疾患を意味するものであり、癌、糖尿病性網膜症、未熟児網膜症、新生血管緑内障、紅皮症、増殖性網膜症、滲出型黄斑変性症、乾癬、血友病性関節、アテローム性動脈硬化プラーク内における毛細血管増殖、ケロイド、肉芽創、血管接着、リウマチ関節炎、骨関節炎、自己免疫疾患、クローン病、再狭窄、アテローム性動脈硬化、ネコ引っかき病、潰瘍、糸球体腎炎、糖尿病性腎症、悪性腎硬化症、血栓性微小血管症または糸球体腎症を含む。
【0031】
したがって、新生血管形成による疾患は、血管新生の抑制を介して予防または治療が可能なものであるため、VEGF受容体に対してVEGFと競争的に結合し、血管内皮細胞の増殖、移動及び分化の抑制を介して血管新生を有意的に抑制する本発明のペプチドを有効成分として含む組成物は、血管新生関連の疾患の治療に有用に用いられ得る。
【0032】
一方、本発明の前記ペプチドは、コロイド懸濁液、粉末、食塩水、脂質、リポソーム、微小球体(microspheres)、またはナノ球形粒子のような薬学的に許容される担体で運搬されてよい。これらは運搬手段と複合体を形成するか係わってよく、脂質、リポソーム、微細粒子、金、ナノ粒子、ポリマー、縮合反応剤、多糖類、ポリアミノ酸、デンドリマー、サポニン、吸着増進物質または脂肪酸のような当業界に公知された運搬システムを用いて生体内に運搬されてよい。
【0033】
この他にも、薬学的に許容される担体は、製剤時に通常用いられるラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、澱粉、アカシアゴム、リン酸カルシウム、アルギネート、ゼラチン、ケイ酸カルシウム、微細結晶性セルロース、ポリビニルピロリドン、セルロース、水、シロップ、メチルセルロース、メチルヒドロキシベンゾエート、プロピルヒドロキシベンゾエート、滑石、ステアリン酸マグネシウム及びミネラルオイルなどを含んでよいが、これらに限定されるものではない。また、前記成分以外に、潤滑剤、湿潤剤、甘味剤、香味剤、乳化剤、懸濁剤、保存剤などをさらに含んでよい。
【0034】
本発明の薬学的組成物は、目的とする方法に応じて経口投与するか非経口投与(例えば、筋肉内、静脈内、腹腔内、皮下、皮内、または局所に適用)することができ、投与量は患者の状態及び体重、疾病の程度、薬物形態、投与経路及び時間により異なるが、当業者により適切に選択されてよい。
【0035】
本発明の薬学的組成物は、薬学的に有効な量で投与する。本発明において「薬学的に有効な量」は、医学的治療に適用可能な合理的なベネフィット/リスクの比率で疾患を治療するのに十分な量を意味し、有効容量の水準は、患者の疾患の種類、重症度、薬物の活性、薬物に対する敏感度、投与時間、投与経路及び排出の比率、治療期間、同時に使用される薬物を含んだ要素及びその他医学分野でよく知られている要素により決定されてよい。本発明に他の薬学的組成物は個別治療剤で投与するか他の血管新生抑制剤と併用して投与されてよく、従来の治療剤とは同時に、別途に、または順次投与されてよく、単一または多重投与されてよい。前記要素を全て考慮して副作用なく最小限の量で最大効果を得ることができる量を投与するのが重要であり、これは当業者により容易に決定され得る。
【0036】
具体的に、本発明の薬学的組成物の有効量は、患者の年齢、性別、状態、体重、体内に活性成分の吸収度、不活性率、排泄速度、疾病種類、併用される薬物により異なることがあり、投与経路、肥満の重症度、性別、体重、年齢などにより増減されてよく、一例として、本発明のペプチドを1日当り患者体重1kg当り約0.0001μgから500mg、好ましくは0.01μgから100mg投与してよい。
【0037】
3.血管新生関連の疾患改善用健康機能食品
本発明のまた他の側面は、配列番号1または配列番号2のアミノ酸配列を含むペプチドを有効成分として含有する血管新生関連疾患の予防または改善用健康機能食品を提供する。
【0038】
前記配列番号1または配列番号2のアミノ酸配列を含むペプチドは、前記「1.血管新生抑制用ペプチド」項目で説明したペプチドと同一であるので、具体的な説明は、前記「1.血管新生抑制用ペプチド」項目を援用し、以下では、健康機能食品に独特な構成に対してのみ説明する。
【0039】
前記薬学的組成物と同様、新生血管の形成による疾患は、血管新生の抑制を介して予防または改善し得るものなので、VEGF受容体に対してVEGFと競争的に結合し、血管内皮細胞の増殖、移動及び分化の抑制を介して血管新生を有意的に抑制する本発明のペプチドを有効成分として含む健康機能食品は、血管新生関連の疾患の予防または改善に有用に用いられ得る。
【0040】
前記健康機能食品は、疾患の予防または改善のために該当疾患の発病段階以前または発病後、治療のための薬剤と同時にまたは別途に用いられてよい。
【0041】
本発明の健康機能食品において、有効成分を食品にそのまま添加するか他の食品または食品成分とともに用いられてよく、通常の方法により適切に用いられてよい。有効成分の混合量は、その使用目的(予防または改善用)に応じて適切に決定されてよい。一般に、食品または飲料の製造時、本発明の組成物は原料に対して好ましくは15重量%以下、好ましくは10重量%以下の量で添加されてよい。しかし、健康及び衛生を目的とするか、または健康調節を目的とする長期間の摂取の場合には、前記量は前記範囲以下であってよい。
【0042】
本発明の健康機能食品は、前記有効成分を含有すること以外に、特に制限なく他の成分を必須成分として含有してよい。例えば、通常の飲料のように多様な香味剤または天然炭水化物などを追加成分として含有してよい。前述の天然炭水化物の例は、モノサカライド、例えば、ブドウ糖、果糖など;ジサカライド、例えばマルトース、スクロースなど;及びポリサカライド、例えばデキストリン、シクロデキストリンなどのような通常の糖、及びキシリトール、ソルビトール、エリスリトール糖などのアルコールであってよい。前述した以外の香味剤として、天然香味剤(タウマチン、ステビア抽出物(例えば、レバウジオシドA、グリシリジンなど))及び合成香味剤(サッカリン、アスパルテームなど)を有利に用いてよい。前記天然炭水化物の比率は、当業者の選択に応じて適切に決定されてよい。
【0043】
前記以外に、本発明の健康機能食品は、多様な栄養剤、ビタミン、鉱物(電解質)、合成風味剤及び天然風味剤などの風味剤、着色剤及び増進剤(チーズ、チョコレートなど)、ペクチン酸及びその塩、アルギン酸及びその塩、有機酸、保護性コロイド増粘剤、pH調節剤、安定化剤、防腐剤、グリセリン、アルコール、炭酸飲料に用いられる炭酸化剤などを含有してよい。このような成分は独立してまたは組み合せて用いられてよく、このような添加剤の比率も当業者により適切に選択されてよい。
【実施例】
【0044】
以下、本発明を実施例及び実験例により詳細に説明する。
但し、下記実施例及び実験例は本発明を具体的に例示するものであり、本発明の内容が下記実施例及び実験例により限定されない。
【0045】
[製造例1]ペプチドの製作
自動ペプチド合成基(Milligen 9050、Millipore、米国)を用いて、下記表1に記載された配列番号1のアミノ酸配列を有するペプチド及び配列番号2のアミノ酸配列を有するペプチドをそれぞれ合成し、C18逆相高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)(Waters Associates、米国)を用いて、これら合成されたペプチドをそれぞれ純粋分離した。カラムは、ACQUITY UPLC BEH300C18(2.1mm×100mm、1.7μm、Waters Co,米国)を用いた。
【0046】
【0047】
[実験例1]血管内皮細胞の増殖抑制効果の確認
*血管内皮細胞の増殖抑制効果を確認するために、血管内皮細胞に前記製造例1で製造されたペプチドをそれぞれ処理した後、それぞれMTT分析を行った。
【0048】
具体的に、ヒト臍帯静脈内皮細胞(human umbilical vein endothelial cell;HUVEC)を4×103細胞/ウェルの密度で96-ウェルプレートに接種した後、一晩(over night)培養した。その後、1%血清を添加した培地に変えた後、VEGF(20ng/ml)と本発明のペプチドをそれぞれ濃度別に処理し、3日間培養した。但し、陽性対照群としては2μmスニチニブ(Sunitinib)を用いた。
【0049】
また、増殖抑制効果確認のため、4mg/ml MTT(Thiazolyl Blue Tetrazolium Bromide)溶液を各ウェルに添加し、4時間反応させて生成されたホルマザンをDMSO処理を介して溶かした後、マイクロリーダー(microplate reader)560nm波長で吸光度を測定した。但し、前記測定された吸光度の値は、無処理対照群を基準に相対的な比率(Relativerate)を計算して示した。
【0050】
図1及び
図2に示したところのように、本発明のペプチドは、VEGFにより増加された血管内皮細胞の増殖を有意的に抑制した。
【0051】
血管新生のためには、血管内皮細胞が増殖された後、浸潤性成長と分化を介して血管を形成するので、前記のような結果から、本発明のペプチドは血管内皮細胞増殖を抑制して血管新生を有意的に抑制することが分かる。
【0052】
[実験例2]血管内皮細胞の分化抑制効果の確認
血管内皮細胞の分化抑制効果を確認するため、血管内皮細胞に前記製造例1で製造された2種のペプチドをそれぞれ処理した後、脈管形成分析(tube formationassay)を行った。
【0053】
具体的に、HUVEC細胞を1.5×105細胞/ウェルの密度で96-ウェルプレートに接種して一晩培養した後、無血清培地(serum free media)に交換した後、VEGF(20ng/ml)と本発明のペプチドを濃度別に処理して1日間培養した。但し、陽性対照群としては2μmスニチニブを用いた。脈管形成の測定は、培養完了後、光学顕微鏡を用いて目視で観察し、結節(nodule)の個数をともに測定した。
【0054】
図3及び
図4に示したところのように、VEGFは血管内皮細胞の脈管の形成及び結節の個数を顕著に増加させるが、本発明のペプチドは血管内皮細胞の脈管の形成を抑制し、結節の個数を有意的に減少させることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の配列番号1または2で記載されるアミノ酸配列からなる血管新生抑制用ペプチドと、これを有効成分として含有する組成物は、過度な血管新生による疾患に優れた予防または治療効果を奏することができるので、産業上に非常に有用に活用され得る。
【配列表】