IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ スガツネ工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-両方向クラッチ 図1
  • 特許-両方向クラッチ 図2
  • 特許-両方向クラッチ 図3
  • 特許-両方向クラッチ 図4
  • 特許-両方向クラッチ 図5
  • 特許-両方向クラッチ 図6
  • 特許-両方向クラッチ 図7
  • 特許-両方向クラッチ 図8
  • 特許-両方向クラッチ 図9
  • 特許-両方向クラッチ 図10
  • 特許-両方向クラッチ 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-08
(45)【発行日】2022-02-03
(54)【発明の名称】両方向クラッチ
(51)【国際特許分類】
   F16D 41/08 20060101AFI20220127BHJP
   F16D 41/06 20060101ALI20220127BHJP
   F16D 41/067 20060101ALI20220127BHJP
   F16D 65/16 20060101ALI20220127BHJP
   F16D 67/02 20060101ALI20220127BHJP
   F16D 121/14 20120101ALN20220127BHJP
   F16D 127/04 20120101ALN20220127BHJP
   F16D 127/10 20120101ALN20220127BHJP
【FI】
F16D41/08 Z
F16D41/06 C
F16D41/06 D
F16D41/067
F16D65/16
F16D67/02 K
F16D121:14
F16D127:04
F16D127:10
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020530712
(86)(22)【出願日】2020-02-10
(86)【国際出願番号】 JP2020005040
(87)【国際公開番号】W WO2020189090
(87)【国際公開日】2020-09-24
【審査請求日】2020-11-11
(31)【優先権主張番号】P 2019052271
(32)【優先日】2019-03-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000107572
【氏名又は名称】スガツネ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112140
【弁理士】
【氏名又は名称】塩島 利之
(72)【発明者】
【氏名】安齋 忠志
【審査官】日下部 由泰
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-224025(JP,A)
【文献】特開2008-57566(JP,A)
【文献】特開2003-83426(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 41/06-41/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内面に、内方部材との間で第1楔状空間と第2楔状空間を形成する第1カム面と第2カム面が形成される外方部材と、
前記第1楔状空間に配置される第1係合子と、
前記第2楔状空間に配置される第2係合子と、
前記第1係合子を保持し、前記第1係合子が前記第1カム面に係合又は係合解除するように前記外方部材に対して揺動可能な第1保持器と、
前記第2係合子を保持し、前記第2係合子が前記第2カム面に係合又は係合解除するように前記外方部材に対して揺動可能であり、前記第1保持器とは別体の第2保持器と、を備え、
前記第1係合子と前記第2係合子の軸方向と直交する側面視において、前記第1係合子の少なくとも一部と前記第2係合子の少なくとも一部が軸方向に重なり、
前記第1保持器は、前記第2係合子が前記第2保持器と共に揺動するのを許容するように構成され、
前記第2保持器は、前記第1係合子が前記第1保持器と共に揺動するのを許容するように構成され
前記第1保持器は、前記第2係合子の軸が前記第2保持器と共に揺動するのを許容する逃げ部を有し、
前記第2保持器は、前記第1係合子の軸が前記第1保持器と共に揺動するのを許容する逃げ部を有する両方向クラッチ。
【請求項2】
内面に、内方部材との間で第1楔状空間と第2楔状空間を形成する第1カム面と第2カム面が形成される外方部材と、
前記第1楔状空間に配置される第1係合子と、
前記第2楔状空間に配置される第2係合子と、
前記第1係合子を保持し、前記第1係合子が前記第1カム面に係合又は係合解除するように前記外方部材に対して揺動可能な第1保持器と、
前記第2係合子を保持し、前記第2係合子が前記第2カム面に係合又は係合解除するように前記外方部材に対して揺動可能であり、前記第1保持器とは別体の第2保持器と、を備え、
前記第1係合子と前記第2係合子の軸方向と直交する側面視において、前記第1係合子の少なくとも一部と前記第2係合子の少なくとも一部が軸方向に重なり、
前記第1保持器は、前記第2係合子が前記第2保持器と共に揺動するのを許容するように構成され、
前記第2保持器は、前記第1係合子が前記第1保持器と共に揺動するのを許容するように構成され、
前記第1保持器は、前記第1係合子の端部の軸が入る支持穴を有する一対の端部プレートを備え
前記第2保持器は、前記第2係合子の端部の軸が入る支持穴を有する一対の端部プレートを備える両方向クラッチ。
【請求項3】
内面に、内方部材との間で第1楔状空間と第2楔状空間を形成する第1カム面と第2カム面が形成される外方部材と、
前記第1楔状空間に配置される第1係合子と、
前記第2楔状空間に配置される第2係合子と、
前記第1係合子を保持し、前記第1係合子が前記第1カム面に係合又は係合解除するように前記外方部材に対して揺動可能な第1保持器と、
前記第2係合子を保持し、前記第2係合子が前記第2カム面に係合又は係合解除するように前記外方部材に対して揺動可能であり、前記第1保持器とは別体の第2保持器と、を備え、
前記第1係合子と前記第2係合子の軸方向と直交する側面視において、前記第1係合子の少なくとも一部と前記第2係合子の少なくとも一部が軸方向に重なり、
前記第1保持器は、前記第2係合子が前記第2保持器と共に揺動するのを許容するように構成され、
前記第2保持器は、前記第1係合子が前記第1保持器と共に揺動するのを許容するように構成され、
記第1保持器と前記第2保持器を互いに反対方向に揺動させるレバーが設けられ、
前記レバーは、前記外方部材に軸の回りを回転可能に取り付けられる両方向クラッチ。
【請求項4】
内面に、内方部材との間で第1楔状空間と第2楔状空間を形成する第1カム面と第2カム面が形成される外方部材と、
前記第1楔状空間に配置される第1係合子と、
前記第2楔状空間に配置される第2係合子と、
前記第1係合子を保持し、前記第1係合子が前記第1カム面に係合又は係合解除するように前記外方部材に対して揺動可能な第1保持器と、
前記第2係合子を保持し、前記第2係合子が前記第2カム面に係合又は係合解除するように前記外方部材に対して揺動可能であり、前記第1保持器とは別体の第2保持器と、を備え、
前記第1係合子と前記第2係合子の軸方向と直交する側面視において、前記第1係合子の少なくとも一部と前記第2係合子の少なくとも一部が軸方向に重なり、
前記第1保持器は、前記第2係合子が前記第2保持器と共に揺動するのを許容するように構成され、
前記第2保持器は、前記第1係合子が前記第1保持器と共に揺動するのを許容するように構成され、
前記第1係合子と前記第2係合子との間には、前記第1係合子を前記第1カム面に付勢し、前記第2係合子を前記第2カム面に付勢するばねが設けられ
前記ばねは、互いにスライド可能な一対のばねホルダに挟まれる両方向クラッチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、両方向(時計方向及び反時計方向)の回転をロックし、ロックを解除する両方向クラッチに関する。
【背景技術】
【0002】
この種の両方向クラッチとして、特開2008-057566号公報に記載されているものが知られている。この従来の両方向クラッチは、外方部材、外方部材の内側に配置される内方部材、外方部材と内方部材との間に配置される第1係合子と第2係合子を備える。外方部材の内面には、内方部材との間に複数の楔状空間を形成する複数のカム面が形成される。複数の楔状空間には、第1係合子と第2係合子が配置される。第1係合子は、第1保持器に保持される。第1保持器は、第1係合子がカム面に係合・係合解除するように外方部材に対して揺動する。第2係合子は、第2保持器に保持される。第2保持器は、第2係合子がカム面に係合・係合解除するように外方部材に対して揺動する。
【0003】
第1保持器によって第1係合子を第1カム面に係合させ、第2保持器によって第2係合子を第2カム面に係合させれば、外方部材に対する内方部材の両方向の回転をロックすることができる。そして、第1保持器によって第1係合子と第1カム面との係合を解除し、第2保持器によって第2係合子と第2カム面との係合を解除すれば、外方部材に対する内方部材のロックを解除、すなわち内方部材を両方向に空転させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-057566号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の両方向クラッチにおいては、第1係合子と第2係合子が軸方向に並べてられていて、第1係合子と第2係合子の軸方向と直交する側面視において、係合子が2列である。このため、両方向クラッチが軸方向に大きくなるという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の一態様は、内面に、内方部材との間で第1楔状空間と第2楔状空間を形成する第1カム面と第2カム面が形成される外方部材と、前記第1楔状空間に配置される第1係合子と、前記第2楔状空間に配置される第2係合子と、前記第1係合子を保持し、前記第1係合子が前記第1カム面に係合又は係合解除するように前記外方部材に対して揺動可能な第1保持器と、前記第2係合子を保持し、前記第2係合子が前記第2カム面に係合又は係合解除するように前記外方部材に対して揺動可能であり、前記第1保持器とは別体の第2保持器と、を備え、前記第1係合子と前記第2係合子の軸方向と直交する側面視において、前記第1係合子の少なくとも一部と前記第2係合子の少なくとも一部が軸方向に重なり、前記第1保持器は、前記第2係合子が前記第2保持器と共に揺動するのを許容するように構成され、前記第2保持器は、前記第1係合子が前記第1保持器と共に揺動するのを許容するように構成され、前記第1保持器は、前記第2係合子の軸が前記第2保持器と共に揺動するのを許容する逃げ部を有し、前記第2保持器は、前記第1係合子の軸が前記第1保持器と共に揺動するのを許容する逃げ部を有する両方向 クラッチである。
本発明の他の態様は、内面に、内方部材との間で第1楔状空間と第2楔状空間を形成する第1カム面と第2カム面が形成される外方部材と、前記第1楔状空間に配置される第1係合子と、前記第2楔状空間に配置される第2係合子と、前記第1係合子を保持し、前記第1係合子が前記第1カム面に係合又は係合解除するように前記外方部材に対して揺動可能な第1保持器と、前記第2係合子を保持し、前記第2係合子が前記第2カム面に係合又は係合解除するように前記外方部材に対して揺動可能であり、前記第1保持器とは別体の第2保持器と、を備え、前記第1係合子と前記第2係合子の軸方向と直交する側面視において、前記第1係合子の少なくとも一部と前記第2係合子の少なくとも一部が軸方向に重なり、前記第1保持器は、前記第2係合子が前記第2保持器と共に揺動するのを許容するように構成され、前記第2保持器は、前記第1係合子が前記第1保持器と共に揺動するのを許容するように構成され、前記第1保持器は、前記第1係合子の両端部の軸が入る支持穴を有する一対の端部プレートを備え、前記第2保持器は、前記第2係合子の両端部の軸が入る支持穴を有する一対の端部プレートを備える両方向クラッチである。
本発明のさらに他の態様は、内面に、内方部材との間で第1楔状空間と第2楔状空間を形成する第1カム面と第2カム面が形成される外方部材と、前記第1楔状空間に配置される第1係合子と、前記第2楔状空間に配置される第2係合子と、前記第1係合子を保持し、前記第1係合子が前記第1カム面に係合又は係合解除するように前記外方部材に対して揺動可能な第1保持器と、前記第2係合子を保持し、前記第2係合子が前記第2カム面に係合又は係合解除するように前記外方部材に対して揺動可能であり、前記第1保持器とは別体の第2保持器と、を備え、前記第1係合子と前記第2係合子の軸方向と直交する側面視において、前記第1係合子の少なくとも一部と前記第2係合子の少なくとも一部が軸方向に重なり、前記第1保持器は、前記第2係合子が前記第2保持器と共に揺動するのを許容するように構成され、前記第2保持器は、前記第1係合子が前記第1保持器と共に揺動するのを許容するように構成され、前記第1保持器と前記第2保持器を互いに反対方向に揺動させるレバーが設けられ、前記レバーは、前記外方部材に軸の回りを回転可能に取り付けられる両方向クラッチである。
本発明のさらに他の態様は、内面に、内方部材との間で第1楔状空間と第2楔状空間を形成する第1カム面と第2カム面が形成される外方部材と、前記第1楔状空間に配置される第1係合子と、前記第2楔状空間に配置される第2係合子と、前記第1係合子を保持し、前記第1係合子が前記第1カム面に係合又は係合解除するように前記外方部材に対して揺動可能な第1保持器と、前記第2係合子を保持し、前記第2係合子が前記第2カム面に係合又は係合解除するように前記外方部材に対して揺動可能であり、前記第1保持器とは別体の第2保持器と、を備え、前記第1係合子と前記第2係合子の軸方向と直交する側面視において、前記第1係合子の少なくとも一部と前記第2係合子の少なくとも一部が軸方向に重なり、前記第1保持器は、前記第2係合子が前記第2保持器と共に揺動するのを許容するように構成され、前記第2保持器は、前記第1係合子が前記第1保持器と共に揺動するのを許容するように構成され、前記第1係合子と前記第2係合子との間には、前記第1係合子を前記第1カム面に付勢し、前記第2係合子を前記第2カム面に付勢するばねが設けられ、前記ばねは、互いにスライド可能な一対のばねホルダに挟まれる両方向クラッチである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、第1係合子と第2係合子の軸方向と直交する側面視において、第1係合子の少なくとも一部と第2係合子の少なくとも一部とが軸方向に重なるので、両方向クラッチの軸方向の大きさをコンパクトにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施形態の両方向クラッチの外観斜視図である。
図2】本実施形態の両方向クラッチの分解斜視図である。
図3】本実施形態の両方向クラッチの分解斜視図である(第1保持器と第2保持器を組み立てた状態)。
図4図8(a)のIV-IV線断面図である。
図5図5(a)はばねホルダの斜視図であり、図5(b)はばねホルダの分解斜視図である。
図6】第1保持器と第2保持器を取り外した状態の両方向クラッチの正面図である。
図7】両方向クラッチの平面図である(図7(a)はレバーのロック位置を示し、図7(b)はレバーの解除位置を示す)。
図8】両方向クラッチの正面図である(図8(a)は第1保持器のロック位置を示し、図8(b)は第1保持器の解除位置を示す)。
図9】第1保持器を取り外した状態の両方向クラッチの正面図である(図9(a)は第2保持器のロック位置を示し、図9(b)は第2保持器の解除位置を示し、図9(c)は図9(a)のc部拡大図を示し、図9(d)は図9(b)のd部拡大図を示す)。
図10図10(a)は、外輪、内輪、第1ころ、第2ころのみを示す両方向クラッチの正面図である(図10(a)は第1ころと第2ころが第1カム面と第2カム面に係合した状態を示し、図10(b)は第1ころと第2ころが係合を解除した状態を示し、図10(c)は図10(a)のc部拡大図を示し、図10(d)は図10(b)のd部拡大図を示す)。
図11】本実施形態の両方向クラッチの用途の一例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面に基づいて、本発明の実施形態の両方向クラッチを詳細に説明する。ただし、本発明の両方向クラッチは種々の形態で具体化することができ、本明細書に記載される実施形態に限定されるものではない。本実施形態は、明細書の開示を十分にすることによって、当業者が発明の範囲を十分に理解できるようにする意図をもって提供されるものである。
【0010】
図1は、本発明の一実施形態の両方向クラッチ1の外観斜視図を示す。本実施形態の両方向クラッチ1は、外方部材としての外輪2、内方部材としての内輪3、第1係合子としての第1ころ5群(図1には第1ころ5群の軸5bを示す)、第2係合子としての第2ころ6群(図1には第2ころ6群の軸6bを示す)、第1保持器7、第2保持器8、レバー4を備える。
【0011】
レバー4は、外輪2にロック位置Aと解除位置Bとの間を揺動可能に設けられる。レバー4がロック位置Aにあるとき、外輪2に対する内輪3の両方向(時計方向及び反時計方向)の回転がロックされる。レバー4が解除位置Bにあるとき、外輪2に対して内輪3が両方向に空転する。
【0012】
図2は、両方向クラッチ1の分解斜視図を示し、図3は、第1保持器7と第2保持器8を組み立てた状態を示す。
【0013】
図2に示すように、外輪2の内面には、周方向に交互に第1カム面11と第2カム面12が形成される。複数の(この実施形態では6つの)第1カム面11は、外輪2の内面に等配される。複数の(この実施形態では6つの)第2カム面12は、外輪2の内面に等配される。隣接する第1カム面11と第2カム面12とは、互いに反対方向に傾斜する。第1カム面11と内輪3の円筒状の外面3aとの間には、周方向の一端部の幅が広く周方向の他端部の幅が狭くなる第1楔状空間S1が形成される(図10(c)参照)。同様に、第2カム面12と内輪3の外面3aとの間には、周方向の他端部の幅が広く周方向の一端部の幅が狭くなる第2楔状空間S2が形成される(図10(c)参照)。第1楔状空間S1と第2楔状空間S2は、左右対称である。第1楔状空間S1には、第1ころ5が配置される。第2楔状空間S2には、第2ころ6が配置される。
【0014】
図2に示すように、外輪2には、軸13の回りを回転可能にレバー4が取り付けられる。レバー4は、基端部4aと、外輪2の接線方向に延びる把持部4bと、を備える。基端部4aには、第1保持器7に係合する突起14が形成されると共に、第2保持器8に係合する突起(図示せず)が形成される。レバー4を軸13の回りに揺動させると、第1保持器7(図3参照)と第2保持器8(図3参照)が互いに反対方向に揺動する。
【0015】
図2に示すように、第1ころ5と第2ころ6は、円周方向に交互に並べられる。第1ころ5と第2ころ6は、同一形状である。第1ころ5は、中央の大径部5aと、両端の軸5b,5cと、を備える。軸5b,5cは、大径部5aよりも小径である。同様に、第2ころ6は、中央の大径部6aと、軸方向の両端の軸6b,6cと、を備える。第1ころ5の軸線と第2ころ6の軸線は、互いに平行であり、これらは、内輪3の軸線とも平行である。
【0016】
第1ころ5と第2ころ6は、内輪3の外面3aに円周方向に並べられる。第1ころ5と第2ころ6の軸方向と直交する方向から視た側面視において、隣接する第1ころ5と第2ころ6は互いに軸方向に重なる。ただし、図2の上下の第1ころ5と第2ころ6のように、第1ころ5と第2ころ6は、軸方向に重なっていればよく、上下方向にはずれていてもよい。また、第1ころ5の全体と第2ころ6の全体が軸方向に重なっていてもよいし、第1ころ5の少なくとも一部と第2ころ6の少なくとも一部が軸方向に重なっていてもよい。
【0017】
図3に示すように、第1ころ5は、第1保持器7に保持される。第1保持器7は、第1ころ5の両端部の軸5b,5cを支持する円環状の一対の端部プレート21a,21bと、端部プレート21a,21b間に介在するスタッド21cと、を備える。端部プレート21a,21bとスタッド21cとは、ねじ等の固定手段によって固定される。端部プレート21aには、U字状の嵌合片25が突出して形成される。
【0018】
第1保持器7は、外輪2の内側に外輪2の中心の回りを回転可能に嵌められる。嵌合片25は、外輪2の切欠き2bに嵌まると共に、外輪2から半径方向に突出する。嵌合片25には、レバー4の突起14が嵌まる。第1保持器7は、嵌合片25が外輪2の切欠き2bの両壁に当たるまで揺動可能である。
【0019】
端部プレート21aは、円環状である。端部プレート21aには、第1ころ5の一端部の軸5bが入る支持穴26が形成される。支持穴26は、端部プレート21aに等配される。図8(a)の正面図に示すように、支持穴26は、正面視において、略長方形状である。支持穴26の高さ(半径方向の高さ)は、軸5bの直径に略等しい。支持穴26の円周方向の長さは、軸5bの直径よりも大きい。
【0020】
図3に示すように、支持穴26間には、逃げ部としての逃げ穴27が形成される。逃げ穴27には、第2ころ6の一端部の軸6bが入る。逃げ穴27は、第2ころ6の軸6bが第2保持器8と共に揺動するのを許容する。図8(a)に示すように、逃げ穴27は、正面視において、支持穴26よりも円周方向の長さが長い略長方形状である。
【0021】
図3に示すように、端部プレート21bも円環状である。図2に示すように、端部プレート21bには、第1ころ5の他端部の軸5cが入る支持穴28が形成される。支持穴28は、支持穴26に対向する。支持穴28の形状は、支持穴26と同一である。
【0022】
端部プレート21bの支持穴28間には、第2ころ6の他端部の軸6cが入る逃げ部としての逃げ穴29又は逃げ切欠き30が形成される。第2ころ6の軸6cは、逃げ穴29内又は逃げ切欠き30内を揺動可能である。逃げ穴29は、逃げ穴27と対向する。逃げ穴29は、逃げ穴27と同一形状である。逃げ切欠き30は、第2保持器8のスタッド22cとの干渉を避けるために設けられる。
【0023】
図3に示すように、第2保持器8は、第1保持器7とは別体である。第2保持器8は、第2ころ6の両端部の軸6b,6cを支持する一対の端部プレート22a,22bと、端部プレート22a,22b間に介在するスタッド22cと、を備える。第2保持器8は、第1保持器7と同一の形状である。第1保持器7を垂直軸の回りに180°回転させれば、第2保持器8になる。第2保持器8の各部の構成は、第1保持器7の各部の構成と同一であるので、同一の符号を附してその詳しい説明を省略する。
【0024】
第2保持器8は、外輪2の内側に外輪2の中心の回りを回転可能に嵌められる。図4に示すように、外輪2に第1保持器7と第2保持器8を嵌めると、第1保持器7の端部プレート21aが第2保持器8の端部プレート22bに重なり、第1保持器7の端部プレート21bが第2保持器8の端部プレート22aに重なる。
【0025】
図5(b)に示すように、隣り合う第1ころ5と第2ころ6との間には、ばね31が介在する。図6に示すように、ばね31は、第1ころ5を第1カム面11に付勢し、第2ころ6を第2カム面12に付勢する。ばね31は、一対のばねホルダ32a,32bに挟まれる。一対のばねホルダ32a,32bは、第1ころ5と第2ころ6が接近・離間できるように、互いにスライド可能である。ばねホルダ32a,32bは、ばね31を一定の位置に保持するために設けられる。ばね31を一定の位置に保持できれば、ばねホルダ32a,32bを省略することもできる。
【0026】
以下に、本実施形態の両方向クラッチ1の動作を説明する。図7(a)はレバー4のロック位置を示し、図7(b)はレバー4の解除位置を示す。上述のように、レバー4は、ロック位置と解除位置との間を揺動可能である。レバー4がロック位置にあるとき、内輪3の両方向の回転がロックされる。レバー4が解除位置にあるとき、内輪3が両方向に空転する。
【0027】
図8(a)は第1保持器7のロック位置を示し、図8(b)は第1保持器7の解除位置を示す。図9(a)は第2保持器8のロック位置を示し、図9(b)は第2保持器8の解除位置を示す。図9(a)(b)の両方向クラッチ1の正面図において、第2保持器8を示すために、第1保持器7が取り外されている。
【0028】
図8(a)に示すように、第1保持器7がロック位置にあるとき、図10(a)(c)に示すように、第1ころ5は、外輪2の第1カム面11に係合する。内輪3の反時計方向の回転は、第1ころ5によってロックされる。図8(a)に示すように、第1保持器7がロック位置にあるとき、第1保持器7の支持穴26の壁26aと第1ころ5の軸5bとの間には、僅かな隙間が空く。第1ころ5は、ばね31によって第1カム面11に付勢される。
【0029】
同様に、図9(a)に示すように、第2保持器8がロック位置にあるとき、図10(a)(c)に示すように、第2ころ6は、外輪2の第2カム面12に係合する(図10(a)参照)。内輪3の時計方向の回転は、第2ころ6によってロックされる。図10(a)の一点鎖線L1,L2は、第1ころ5と第2ころ6の接触角線を示す。図9(c)に示すように、第2保持器8がロック位置にあるとき、第2保持器8の支持穴28の壁28aと第2ころ6の軸6bとの間には、僅かな隙間が空く。第2ころ6は、ばね31によって第2カム面12に付勢される。
【0030】
図7(b)に示すように、レバー4をロック位置から解除位置に揺動させると、第1保持器7と第2保持器8は、互いに反対方向に回転する。そして、図8(b)に示すように、第1保持器7はロック位置から解除位置に揺動する。第1保持器7が解除位置にあるとき、図10(b)(d)に示すように、第1ころ5と第1カム面11との係合が解除される。このため、内輪3は反時計方向に空転する。図8(b)に示すように、第1保持器7の支持穴26の壁26aが第1ころ5の軸5bを時計方向に押すと、第1ころ5が第1カム面11から離れる。このため、内輪3が反時計方向に空転できるようになる。
【0031】
同様に、図9(b)(d)に示すように、第2保持器8が解除位置にあるとき、図10(b)(d)に示すように、第2ころ6と第2カム面12との係合が解除される。このため、内輪3は時計方向に空転する。図9(b)(d)に示すように、第2保持器7の支持穴28の壁28aが第2ころ6の軸6bを時計方向に押すと、第2ころ6が第2カム面12から離れる。このため、内輪3が時計方向に空転できるようになる。
【0032】
以下に、本実施形態の両方向クラッチ1の効果を説明する。側面視において、第1ころ5の少なくとも一部と第2ころ6の少なくも一部とが重なるので、両方向クラッチ1の軸方向の大きさをコンパクトにすることができる。
【0033】
第1保持器7が第1ころ5の軸5b,5cが入る支持穴26,28を有するので、第1保持器7が第1ころ5を保持することができる。同様に、第2保持器8が第2ころ6の軸6b,6cが入る支持穴26,28を有するので、第2保持器8が第2ころ6を保持することができる。
【0034】
第1保持器7が逃げ穴27,29又は逃げ切欠き30を有するので、第2ころ6が第2保持器8と共に揺動するのを許容することができる。同様に、第2保持器8が逃げ穴27,29又は逃げ切欠き30を有するので、第1ころ5が第1保持器7と共に揺動するのを許容することができる。
【0035】
第1保持器7と第2保持器8を互いに反対方向に揺動させるレバー4を設けるので、レバー4によって両方向の回転をロックするロック状態とロック解除状態を切り替えることができる。
【0036】
第1ころ5と第2ころ6との間にばね31を介在させるので、第1保持器7、第2保持器8、及びこれらの支持穴26,28を高精度に加工しなくても、第1ころ5を第1カム面11に係合させ、第2ころ6を第2カム面12に係合させることができる。
【0037】
図11は、本実施形態の両方向クラッチ1を位置決め装置として用いた例を示す。レバー4を解除位置に揺動させれば、内輪3に連結されたアーム41の回転位置を調節することができる。調節後、レバー4をロック位置に揺動させれば、アーム41の回転位置をロックすることができる。
【0038】
なお、本発明は上記実施形態に具現化されるのに限られることはなく、本発明の要旨を変更しない範囲で他の実施形態に具現化できる。
【0039】
本実施形態の両方向クラッチの用途は、図11に示す位置決め装置に限定されるものではなく、各種機械の駆動系のクラッチ(トルクを伝達したり、解除するクラッチ)として使用してもよい。
【0040】
上記実施形態では、レバーによって第1保持器と第2保持器を揺動させているが、モータ、電磁ソレノイド等の駆動装置によって第1保持器と第2保持器を揺動させてもよいし、外輪若しくは内輪に働くトルクを利用して、第1保持器と第2保持器を揺動させてもよい。
【0041】
上記実施形態では、第1ころと第2ころとの間にばねを介在させているが、第1保持器と第2保持器との間にばねを介在させてもよい。また、ばねによって、第1ころと第2ころを中立位置に戻すようにしてもよい。
【0042】
上記実施形態では、内輪の両方向の回転をロックする状態と内輪の両方向のロックを解除する状態とに切り替えているが、内輪の両方向の回転をロックする状態、内輪の時計方向のみの回転をロックする状態、内輪の反時計方向のみの回転をロックする状態、内輪の両方向のロックを解除する状態のうちの少なくとも2つに切り替えてもよい。
【0043】
本明細書は、2019年3月20日出願の特願2019-052271に基づく。この内容はすべてここに含めておく。
【符号の説明】
【0044】
1…両方向クラッチ
2…外輪(外方部材)
3…内輪(内方部材)
4…レバー
5…第1ころ(第1係合子)
5b,5c…第1ころの軸(第1係合子の軸)
6…第2ころ(第2係合子)
6b,6c…第2ころの軸(第2係合子の軸)
7…第1保持器
8…第2保持器
11…第1カム面
12…第2カム面
26,28…支持穴
27,29…逃げ穴(逃げ部)
30…逃げ切欠き(逃げ部)
31…ばね
S1…第1楔状空間
S2…第2楔状空間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11